関連審決 |
審判1998-35091 |
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関連ワード | 技術的範囲 / 分割出願 / 考案 / 図面 / 設定登録 / きわめて容易 / 実施例 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
432号
審決取消請求事件
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原告 株式会社金洋レポーツ代表者 A 訴訟代理人弁理士 伊藤晴之 同 星埜一彦 同 斎藤栄一 被告 ダイワ精工株式会社代表者代表取締役 B 訴訟代理人弁理士 鈴江武彦 同 中村誠 同 蔵田昌俊 訴訟復代理人弁護士 勝田裕子 訴訟復代理人弁理士 峰隆司 同 鷹取政信 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/02/27 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年審判第35091号事件について平成11年7月28日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、考案の名称を「魚釣用リール」とする実用新案登録第2112134号の登録実用新案(昭和62年8月29日に実用新案登録出願された実願昭62-131739号(以下「原出願」という。)の一部を平成5年7月9日に新たな実用新案登録出願としたもので、平成8年3月22日に設定登録。以下「本件登録実用新案」といい、その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。 原告は、平成10年3月6日に本件登録実用新案の登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第35091号事件として審理した結果、平成11年7月28日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年9月1日に原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。 2 実用新案登録請求の範囲 リールボディに支持されたハンドル操作による回転を、リールボディに組み込まれた回転伝達系を介して糸巻付回転体に伝達する魚釣用リールにおいて、上記ハンドル操作により回転される回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成し、該逆転防止部の外方にリールボディに設けた係止部材を係合又は離脱状態にそれぞれ切換え保持可能とするとともに糸巻取り回転操作時の上記一方向ベアリングがフリー状態の時に上記逆転防止部に上記係止部材を係合状態に保持したことを特徴とする魚釣用リール。 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり、@本件考案に係る出願(以下「本件出願」という。)が分割出願の要件に違反しているということはできない、A本件考案は、実公昭55-38380号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第9号証。以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)であるとすることも、引用例及び実公昭52-26469号公報(審決の甲第2号証、本訴の甲第10号証。以下「甲第10号証刊行物」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることもできない、と認定判断して、原告の主張する無効事由をすべて排斥した。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由(1)(手続の経緯・本件登録実用新案の要旨)、(2)(請求人の主張)、(3)(証拠方法)は認める。同(4)(主張アについての検討)は、10頁14行〜11頁5行を認め、その余を争う。(5)(主張イについての検討)は、12頁13行〜14頁3行、15頁8行〜17頁1行を認め、その余を争う。 審決は、本件出願が分割出願の要件に違反していることを看過し(取消事由1)、本件考案と引用考案の相違点でないものを相違点と認めて一致点を看過し(取消事由2)、相違点についての判断を誤った(取消事由3)ものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(分割出願要件違反の看過) 審決は、本件考案の「該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に、」(以下「構成@という。)、「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成し、」(以下「構成A」という。)、「該逆転防止部の外方にリールボディに設けた係止部材を係合又は離脱状態にそれぞれ切換え保持可能とするとともに、」(以下「構成B」という。)について、「構成@ABは、各構成要素を上位概念で表現しているが、当該上位概念に含まれる上記実施例以外の部分について、本件明細書の考案の詳細な説明に当業者が容易に実施をすることができる程度に記載される範囲を含むものであり、本件考案は、この記載をもって、拡張的に変更しているとはいえない。」(審決書11頁10行〜16行)と認定判断したが、誤りである。 (1) 構成@ABに対応するものとして、原出願に係る出願時の明細書及び図面(以下、これらをまとめて「原明細書」という。)に記載されているのは、「一方向ベアリングの外周」、「爪車」、「回り止め嵌着する」、及び「係止爪」である。 (2) 「一方向ベアリングの外周」は、あくまでも円周の外周りである。一方、 構成@の「該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に、」は、「外方」であれば、 何処までも及ぶ広い範囲で、原出願に包含されていなかった部分を包含することは、明らかである。 (3) 「爪車」は、原明細書の第2図に示されるような歯の一面がほぼ軸心に対して垂直で他の面がなだらかな傾斜をしている歯車で、通常の左右同型の歯車とは、異なっている。一方、構成Aの「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成し、」にいう「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」は形状に制限がないから、通常の歯車状のものも、その他の形状のものも、「係止」及び/又は「逆転防止」という機能がある限り、この定義の用語に含まれるものである。したがって、これには、「爪車」以外のものも含まれることが、明らかである。 (4) 「回り止め嵌着する」は、「爪車」の一方向ベアリングの外周への嵌着方法を規定している。一方、構成Aの「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成し、」にいう「形成」は、「嵌着」という思想とは異なり、すべての形成方法を無制限に包含する思想であるから、これが、原明細書に記載されていない形成方法、例えば鋳造等を包含していることは、明らかである。 (5) 「係止爪」は、あくまでも「爪」である。一方、構成Bの「該逆転防止部の外方にリールボディに設けた係止部材を係合又は離脱状態にそれぞれ切換え保持可能とするとともに、」にいう「係止部材」は、「部材」であって、その形状によって制限を受けないから、爪状以外のもの、例えば先端部が丸い、爪とはいえないようなものも含み、明らかに原明細書に記載されていないものを含んでいる。 (6) 原明細書の「爪車」と「係止爪」との係合による係止が、あくまでも爪と爪との係合による係止であるのに対し、本件考案の「逆転防止部」と「係止部材」との係合は、爪以外のものによる機械的係合、例えば凹部と凸部の機械的係合の外に、正負磁極による電磁的係合も含まれる可能性があり、技術的範囲の及ぶ範囲は計り知れないものとなっている。 (7) 以上のとおり、本件考案の構成@ないしBは、原出願の技術用語を上位概念化して、そこに含まれる技術内容を拡大しているから、本件出願を、原出願の一部を分割したものとすることはできない。 2 取消事由2(一致点の看過) 審決は、相違点として、「前者(判決注・本件考案)は、回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、該一方向ベアリングの外輪の径方向外方に複数の係止部を周方向に有する逆転防止部を形成したのに対し、後者(判決注・引用考案)は回転体の外周に直接逆止め歯車を設けている点」(相違点ア)、及び「前者は、糸巻取り回転操作時の上記一方向ベアリングがフリー状態の時に上記逆転防止部に上記係止部材を係合状態に保持したのに対し、後者はそのような構成がない点」(相違点イ)を認定したが、誤りである。 (1) 引用考案の歯車7は、ブレーキ機構を限りなく「強」に調節することにより、歯車8によって「係止」され、限りなく「弱」とすれば、歯車8は歯車7との係合を解いて、両歯車はフリーの状態となる。 したがって、引用考案の、一方向クラッチの外側に設けられたクラッチケースの歯車7は、本件考案の一方向ベアリングの外輪の径方向外方に形成した「複数の係止部を有する逆転防止部」と同様のものであるから、相違点アは存在しない。 (2) 引用考案において、フライヤー軸が、回転軸が糸を繰り出す方向の回転(以下「逆回転」という。)をするときは、歯車7(逆転防止部)は、一方向クラッチが係合して回転軸の回転とともに回転するが、歯車8(係止部材)を「強」に調整して、釣糸が繰り出されないようにすると、係止部材を逆転防止部に係合した状態となる。ついで、回転軸を、回転軸が糸を巻き取る方向の回転(以下「正回転」という。)にして釣糸の巻き取りを始めると、一方向クラッチはフリーとなり、糸の巻き取りは自由になる。このように、「一方向ベアリングがフリー状態の時に逆転防止部に係止部材を係合状態に保持した」の条件は満足されているから、 相違点イも存在しない。 また、引用考案の逆止め爪も、逆止め歯車が一方向クラッチと一体回転状に回転軸に取り付けられているので、逆止め歯車に逆止め爪を係合すると、糸を巻き取る正回転の方向の回転に際し一方向クラッチとクラッチケース(歯車7)との係合は解放され、回転軸の糸巻き取り回転は、無抵抗に自由に行われる。従って、 ここでも、「一方向ベアリングがフリー状態の時に逆転防止部(逆止め歯車)に係止部材(逆止め爪)を係合状態に保持した」の条件は、満足されている。 3 取消事由3(相違点についての判断の誤り) 相違点ア、イに係る構成は、当業者が、引用考案及び実公昭55-38379号公報(以下「甲第13号証刊行物」という。)記載の考案(以下、これらをまとめて「引用考案等」という。)に基づいて、きわめて容易に考案することができたものである。 (1) 構成について 当業者が、引用考案等における一方向クラッチの作動に興味を持ったとき、ブレーキ機構を取り除き、一方向クラッチだけを残して、スムーズな魚釣りのできるリールとすることはできないかと考えるのは、当然である。 しかし、ブレーキ機構を取り外しただけでは、魚が掛かって釣糸が繰り出されるときに暴走してしまうので、この暴走を止める必要がある。暴走を止める手段としては、引用考案等に備わっている「逆止め歯車」をクラッチケースの外周にある歯車の位置に持ってくるのが、引用考案等の中でのこの一方向クラッチを利用した逆転防止機構への変形のための唯一無二の選択であり、この逆止め歯車に逆止め爪を係合させて回転軸の回転を止めるのがごく自然の成行きである。 (2) 機能について 本件考案の爪車と、引用考案の逆止め歯車とにおける設置位置の相違は、 両者の機能に影響を与えていない。 ア 引用考案の逆止め歯車への逆止め爪の係合は、必ず一方向クラッチとクラッチケースが係合状態のときに行われ、本件考案の爪車への係止爪の係合も、全く同様に一方向ベアリングがその外周(爪車)と係合状態のときに行われる。したがって、本件考案と引用考案における逆転防止機構の係合時の条件は、実質的に同一であり、本件考案の空転角が小さいのであれば、同様の理由で引用考案の空転角も小さいものであるということになる。 イ 本件明細書に記載された、空転角が大きいことによる問題点は、釣糸投擲の技術上の問題、魚釣りの技術上の問題、フライヤーのブレーキ機構があるかないかの問題等であり、空転角とは関係がない。本件考案の構成と目的、作用及び効果の間に因果関係はない。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(分割出願要件違反の看過)について 本件出願は、原出願の用語の一部が上位概念に置き換えられた形で分割されたにすぎないものであって、本来的に原出願に包含されていたものである。 出願の分割に当たっては、分割後の出願の明細書の記載事項が、原明細書または図面に記載した事項の範囲内であればよく、一字一句同じことが記載されている必要はない。出願時において、当業者が原出願に係る明細書等の記載からみて自明な事項についても認められる。 原告が、原出願の用語から本件出願の用語への変更として指摘する、「一方向ベアリングの外周」から「一方向ベアリングの外輪の径方向外方」、「爪車」から「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」、「回り止め嵌着」から「形成」、「係止爪」から「係止部材」については、これらの用語で示される構成要素のいずれに関しても、図面とともにその機能が原明細書に開示説明されている。 これらの原明細書記載の用語を、本件考案のとおりに置き換えることは、出願当時、それぞれ原明細書の記載から明確に読み取れるものであり、当業者において自明な事項である。したがって、当業者が客観的に判断すれば、それらの用語自体が記載されてあったことに相当するものであるから、本件分割は当然に許されるというべきである。 それゆえ、本件出願は、原明細書に記載した範囲内のものであり、適法である。 2 取消事由2(一致点の看過)について (1) 引用考案の「ブレーキ機構」は、これとは別の機構である「逆止め機構」を作用させないとき、すなわちフライヤーを逆転可能状態にしたときにのみ、その機能が発揮されるものであり、それ自体にフライヤーの逆転を防止する機能はない。したがって、引用考案の「ブレーキ機構」は、逆転防止部ではない。 (2) 相違点イについても審決の認定に誤りはない。 3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について (1) 構成について 引用考案は、フライヤーに対して逆転防止機構を使用せず、フライヤーを正回転・逆回転可能な状態で魚釣りを行う際に、フライヤーの逆回転時における糸フケ現象を防止するために、フライヤーの逆回転時(魚の逸走時)に、フライヤーに対してブレーキを作用して制動力を加えるように構成したものであって、一方向クラッチ6の外周に連係するブレーキ機構を設けることは、引用考案の目的を達成するためには必須の構成である。したがって、当業者が、これを除去し、しかも、 その位置にブレーキ機構と全く関係のない「逆転防止機構の逆止め爪」を設けるという構成に想到することはできない。 (2) 機能について ア 本件考案に係る願書添付図面の第2図に示すように、爪車12と係止爪13による逆転防止機構では、係止爪13が係合する爪車12の歯と歯の間の間隔によって、必ず「空転角」が生じ、その間隔分だけフライヤーが逆転方向にガタついてしまう。本件考案は、逆転防止部と係止部による逆転防止機構に「一方向ベアリング」を複合的に組み合せた装置とすることによって、フライヤーの逆転防止切換え状態後の「空転角」が小さくなるという作用効果を奏する。なお、本件考案の実施例の場合、係止部材の係合位置によっては、最初の逆回転時においてのみガタツキが生じる場合もあり得るが、その後は一方向クラッチによって逆転防止状態となり、空転角は小さくなるのである。 イ この「ガタツキ」は、フッキングする際に顕著に現われ、釣糸放出状態にして釣竿を振り下ろした際、反転状態にあるベールを釣糸巻取状態に復帰させる原因にもなり、糸フケ(釣糸が緩んでしまう現象)の生じる原因ともなる。本件考案は、これを防止するという作用効果を奏する。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願要件違反の看過)について (1) 原出願について ア 甲第7号証中の原明細書によれば、原明細書には、 (ア) 「〔従来の技術〕・・・この種の逆転止め機構は、・・・回転軸に爪車を固定し、この爪車に係脱する爪部材をリールフレームに回動可能に取り付け、爪部材をばねにより爪車に係合状態に保持することで、糸繰出方向の回転に対しては回転軸を回転できないようにし、そしてハンドルの糸巻取方向の回転操作に対しては回転軸を回転可能にしたものである。」(1頁下から2行〜2頁10行)、「従来の魚釣用リールの逆転防止機構では、爪車の歯数は、6〜8歯で構成されるのが一般的であり、このため、例えば8歯の場合でも、歯と歯間の角度は45°と大きく、従って、この爪車と爪部材とが係止して逆転止めするまでの角度、 即ち空転角が大きくなり、次に述べる如き問題があった。」(2頁12行〜18行)、「本考案は上記のような問題を解決するためになされたもので、逆転止め時の空転角を小さくして、」(3頁14〜15行)、「〔問題点を解決するための手段〕本考案は、・・・魚釣用リールにおいて、・・・回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、この一方向ベアリングの外周に爪車を回り止め嵌着すると共に、上記爪車に係止爪を係脱可能に係合したものである。」(3頁19行〜4頁7行)、 「〔考案の作用〕本考案においては、一方向ベアリング及びこれを爪車と係止爪を介してリールボディに連結する方式により逆転止め機構を構成するから、確実な逆転止めが可能になり、逆転止め時の空転角及び衝撃力を小さくすることができる。」(4頁8行〜13行) (イ) 「〔考案の実施例〕・・・一方向ベアリング11の外周に爪車12が同心に回り止め嵌着されている。・・・係止爪13は、その一端が爪車12と係合する方向にばね15によって付勢されている」(4頁14行〜5頁19行)、 「一方向ベアリング25の外周に爪車26を回り止め嵌着し、さらに爪車26に係脱される、・・・係止爪27をリールボディ1に回動可能に取り付けた」(9頁18行〜10頁2行)、「一方向ベアリング36の外周には爪車37が回転できないよう嵌着されている。・・・係止爪38は板ばね40によって爪車37と係合する方向に付勢されている」(10頁16行〜11頁2行) との記載があるものの、爪車と爪部材ないし係止爪以外の逆転防止機構は記載されていないことが認められる。 イ 上記(ア)の記載によれば、原明細書においては、@爪車とそれに係脱する爪部材を用い、爪部材をばねにより爪車に係合状態に保持することで、糸巻取方向の回転(正回転)操作に対してのみ回転軸を回転可能にしたものが、従来の逆転防止機構とされ、A上記従来の逆転防止機構には、爪車の歯と歯の間の角度が大きいため、逆転止め時の空転角が大きいという技術的課題があったとされていること、B本件考案は、この技術的課題を解決するため、従来の逆転防止機構と回転体の間に一方向ベアリングを介在させるという技術を採用したとされていることが認められる。そして、この認定を前提にした場合、本件考案が、爪車と爪部材を使用する従来の逆転防止機構を出発点として、その改良のためこれと回転体の間に一方向ベアリングを介在させたものであるからこそ、上記(イ)のとおり、実施例としても、一貫して爪車と係止爪を用いることが記載され、爪車と爪部材ないし係止爪以外の逆転防止機構は記載されていないものと認めることができる。 そうである以上、原出願においては、一方向ベアリング外側に設けられる機構は、爪車と爪部材ないし係止爪を使用する従来の逆転防止機構、ないし、これと同様に、正回転を許容し逆回転を阻止するものであって、逆転防止時の空転角が大きい逆転防止機構に限られていたものであって、それ以外のものは、原明細書に記載されておらず、自明ということもできないというべきである。 (2) 本件考案について ア 構成Aの「複数の係止部を周方向に有する逆転防止部」は、複数の係止部を周方向に有し、逆転防止機能があるものであれば、その形状を問わないものであると解するほかはない。そうである以上、構成Aには、爪車、ないし、これと同様に、正回転を許容し逆回転を阻止するものであって、逆転防止時の空転角が大きい逆転防止機構のものに限らず、正回転・逆回転の両方を阻止する機能を有するもの、逆転防止時の空転角が小さいものも本件考案の「逆転防止部」に含まれることが明らかである。 イ また、構成Bの「係止部材」は、逆転防止部を係止し得るものであれば、その形状を問わないことは、特許請求の範囲から明らかである。そして、逆転防止部が、正回転・逆回転の両方を阻止する機能を有するもの、逆転防止時の空転角が小さいものも含まれることに対応して、係止部材を係止爪以外の形状の部材としても、本件考案を実施することは可能であるものと認められる。 (3) 以上のとおり、原出願の逆転防止機構には、正回転・逆回転の両方を阻止する機能を有するもの、及び逆転防止時の空転角が小さいものは含まれていなかったのであるから、本件考案の逆転防止部及び係止部材が、原出願に包含されていなかったものを含んでいることは明らかである。 したがって、本件考案を、原出願の一部を新たな出願としたものとすることはできないから、本件出願を分割出願の要件に違反しているということができないとした審決の認定判断は、誤りである。 2 以上のとおり、取消事由1について、審決の認定判断には誤りがあり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき論ずるまでもなく、審決は、違法であって取消しを免れないことが明らかである。 |
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よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 山田知司 |
裁判官 | 阿部正幸 |