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関連審決 審判1998-35092
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事件 平成 11年 (行ケ) 435号 審決取消請求事件

原告 株式会社金洋レポーツ代表者 A
訴訟代理人弁理士 伊藤晴之
同 星埜一彦
同 斎藤栄一
被告 ダイワ精工株式会社代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 中村誠
同 蔵田昌俊
訴訟復代理人弁護士 勝田裕子
訴訟復代理人弁理士 峰隆司
同 鷹取政信
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35092号事件について平成11年7月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、考案の名称を「魚釣用リール」とする実用新案登録第2041230号の登録実用新案(昭和62年8月29日実用新案登録出願、平成6年11月21日設定登録。以下「本件登録実用新案」といい、その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告は、平成10年3月6日に本件登録実用新案の登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第35092号事件として審理した結果、平成11年7月28日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年9月1日に原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。
2 実用新案登録請求の範囲 リールボディに支持されたハンドル操作による回転を、リールボディに組み込まれた回転伝達系を介して糸巻付回転体に伝達する魚釣用リールにおいて、上記ハンドル操作により回転される回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、この一方向ベアリングの外周に爪車を回り止め嵌着すると共に、上記爪車に係止爪を係合状態と離脱状態の夫々に切換え保持したことを特徴とする魚釣用リール。
3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり、本件考案は、@実公昭55-38380号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第4号証。以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)である、そうでないとしても、A引用考案及び実公昭52-26469号公報(審決の甲第2号証、本訴の甲第5号証。以下「甲第5号証刊行物」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものである、との原告主張の無効事由につき、いずれもそのように認めることはできない、と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由(1)(手続の経緯・本件登録実用新案の要旨)、(2)(請求人の主張)、(3)(証拠方法)は認める。同(4)(本件登録実用新案の対比・判断)は、8頁19行〜10頁5行、10頁20行〜13頁1行(ただし、11頁2行、3行、
7行及び8行の「本件の」は、「本件では」というべきである。)を認め、その余を争う。同(5)(むすび)は認める。
審決は、本件考案と引用考案との一致点を看過した結果新規性の判断を誤り(取消事由1)、仮にそうでないとしても、相違点についての判断を誤った結果進歩性の判断を誤ったものであって(取消事由2)、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の看過) 審決は、「前者(判決注・本件考案)は、回転体の外周に一方向ベアリングを嵌合し、この一方向ベアリングの外周に爪車を回り止め嵌着しているのに対し、
後者(判決注・引用考案)は回転体の外周に直接爪車を設けている点で相違している。」(10頁6行〜9行)と認定したが、誤りである。本件考案は、引用考案そのものである。
引用考案においては、一方向ベアリング(一方向クラッチ)の外周(クラッチケースの外側)に歯車7が設けられている。
歯車は、爪車の上位概念であり、引用考案の歯車7が本件出願前に公知であるからといって、本件考案の爪車12が公知であるということはできない。しかし、引用考案の歯車7の機能と本件考案の爪車12の機能が同一であることが確認されれば、本件考案の爪車12は、引用考案の歯車7の歯車の概念に含まれることになり、構成としても同一と判断されるべきである。
引用考案の歯車7は、ブレーキ機構を「強」に調整する事により、歯車8によって「係止」される点で、本件考案の爪車が係止爪によって係止される関係と同じである。しかも、ブレーキ機構を「強」にして係止する場合は、逆止め時及び逆止め以後の「ガタ」や「ガタツキ」が全くない。また、回転軸が糸を巻き取る方向の回転(以下「正回転」という。)に対しては、本件考案の一方向ベアリングの外周も引用考案の一方向クラッチのクラッチケースも、係合を解かれてフリーとなる点で同じである。
以上のとおり、本件考案の爪車12と引用考案の歯車7とは、機能が同一であるから、構成としても同一というべきである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 審決は、相違点に係る構成について、「当業者がきわめて容易に推考し得ることとはいえない。」(13頁7行〜8行)と判断したが、誤りである。相違点に係る構成は、当業者が、甲第5号証刊行物、実公昭59-32282号公報(以下「甲第6号証刊行物」という。)、実公昭55-32463号公報(以下「甲第7号証刊行物」という。)、実公昭55-38379号公報(以下「甲第8号証刊行物」という。)に示される技術水準の下では、引用考案からきわめて容易に推考することができたものというべきである。
(1) 構成について ア 引用考案及び甲第8号証刊行物記載の考案(以下、これらをまとめて「引用考案等」という。)においては、一方向クラッチがフライヤーの回転軸に一体回転状に嵌合され、回転軸が糸を繰り出す方向の回転(以下「逆回転」という。)に対してはクラッチが係合し、正回転に対してはクラッチの係合が外れて、
フリー、すなわち回転軸の回転とは無関係になるように取り付けられている。この係合、離脱の方向は、本件考案と全く同じである。
引用考案等の一方向クラッチの外周(クラッチケース5)には、強弱に調整可能なブレーキ機構と連係する歯車が付いており、まことにスムーズに「グレ釣り」等を楽しめるようになっている。
上記一方向クラッチの作動に興味を持った当業者は、ブレーキ機構があると、引用考案等と同じ考案になるので、ブレーキ機構を取り除き、一方向クラッチだけを残して、スムーズな魚釣りのできるリールとすることはできないかと考えるのは当然である。
しかし、ブレーキ機構を取り外しただけでは、魚が掛かって釣糸が繰り出されるときに暴走してしまうので、この暴走を止める必要がある。暴走を止める手段としては、引用考案等に備わっている「逆止め歯車」をクラッチケースの外周にある歯車の位置に持ってくるのが、引用考案等の中でのこの一方向クラッチを利用した逆転防止機構への変形のための唯一無二の選択であり、この逆止め歯車に逆止め爪を係合させて回転軸の回転を止めるのがごく自然の成行きである。
このように、引用考案等を出発点にして、本件考案の方向に向きさえすれば、本件考案の構成となることは、自然の成行きであるから、本件考案は、当業者がきわめて容易に推考し得たものというべきである。
イ 前記1で述べたとおり、引用考案の歯車7は、ブレーキ機構を「強」に調整することにより、回転軸を停止させて操作することができる。そして、この場合も、逆止め歯車18に逆止め爪19を係合させて回転軸の逆回転を強制的に停止させる場合も、本件考案において、爪車に対し係止爪を係合させて操作する場合に得られる機能と同じである。
このように、本件考案の機能は、引用考案からブレーキ機構を取り外した場合の機能と同じであるから、当業者が、引用考案の逆転防止機能だけに注目して、ブレーキ機構のうち「強」に調整して回転軸を強制的に停止させる機能以外を不要と考えた場合には、引用考案からブレーキ機構を取り外し、更に一方向クラッチのクラッチケース外側に係合嵌着している歯車7を取り外して、その代わりに逆止め歯車18を回り止め嵌着することは、当然である。
ウ ちなみに、引用例には、「歯車7はクラッチケース5の筒部外周面に同一体に刻設形成するか、又は別途に形成した歯車を一体的に嵌着係合して構成し、」(3欄18行〜20行)との記載があり、回り止め嵌着(嵌着係合)による歯車7と逆止め歯車の交換の可能性が示唆されている。
(2) 機能について 審決は、本件考案が、相違点の構成によって、「逆転止め動作時の空転角を小さくできてフッキング操作を確実に行えると共に、糸フケや釣糸放出時に誤ってベイルが振り落ちることがなく、実用時においてトラブルの発生を防止できる。」、及び「ユニット化した市販の一方向ベアリングをリールの逆転防止として容易に構成できる」という明細書記載の効果を奏すると判断したが、誤りである。
本件考案の爪車と、引用考案の逆止め歯車とにおける設置位置の相違は、両者の機能に影響を与えていない。
ア 空転角の大きさについて 本件明細書の「爪車の歯数は、6〜8歯で構成されるのが一般的であり、このため、例えば8歯の場合でも、歯と歯間の角度は45゜と大きく、従って、この爪車と爪部材とが係止して逆転止めするまでの角度、即ち空転角が大きくなり、」(2欄14行〜3欄3行)との記載からみれば、本件考案における「空転角」の定義は、「フライヤーの逆回転に対して、逆転止めを行うとき、その操作を開始してから爪車に爪部材が係合して逆転止めの状態が出来上がるまでに回転軸が回転する角度」である。「空転角」について、爪車に係止爪を係合する時に最大45゜の範囲内で生ずる可能性があることは理解できるが、フライヤーを逆転防止状態にした後も最大45゜の範囲内で生ずる可能性があるというのは、どのような作用によるものか理解できない。
引用考案の逆止め歯車への逆止め爪の係合は、必ず一方向クラッチとクラッチケースが係合状態のときに行われ、本件考案の爪車への係止爪の係合も、全く同様に一方向ベアリングがその外周(爪車)と係合状態のときに行われる。したがって、本件考案と引用考案における逆転防止機構の係合時の条件は、実質的に同一であり、本件考案の空転角が小さいのであれば、同様の理由で引用考案の空転角も小さいものであるということになる。
イ 空転角が大きいことに起因する問題点と作用効果について 本件明細書記載の、空転角が大きいことによる問題点は、
a.釣り糸を投擲中にベイルが反転してしまうことにより放出中の釣糸が急激に停止させられ、糸切断が起こる。
b.根掛かり等に際し、釣竿を大きくあおったとき、逆転止めの大きな衝撃力によって、爪部材等が損傷する。
c.逆転止め時の空転角が大きく、糸フケが発生しやすい。
というものである。
しかし、これらの問題点は空転角とは関係がない。
a.の問題は、空転角とは関わりのない、釣糸投擲の技術上の問題であり、適切な釣り糸投擲の作業を行っていれば、このような糸切れの問題は生じない。しかも、フライヤーのガタツキによって、ハンドルにガタを生じ、仕掛け投擲時にベイルが復帰するような魚釣用リールは、市場で探そうとしても、なかなか探せるようなものではなく、甲第5号証刊行物記載の考案のように投擲時のベイルアームの糸巻き位置への反転を起こさない技術もある。
b.の問題は、本来、空転角の問題ではなく、魚釣りの技術上の問題であり、あおっている最中に逆転止めを係合させるのではなく、あおる前に逆転止めを掛けて力を加減しながら操作すればよい。このことにより、リールを壊すのではなく、むしろ糸切れを起こすように操作することによって、リール破損というような大きな問題を回避できるのである。
c.の問題は、空転角の問題というよりも、むしろ、フライヤーのブレーキ機構が有るか無いかの問題である。例えばスプールの直径が2.5cmの場合、フライヤーが45゜回転して繰り出される釣糸の長さは、約1cmとなり、釣糸の繰り出し長さは、決して大きなものではなく、糸フケ、すなわち、魚の逸走によりロータが慣性でみだりに回転して糸絡みが生じる等のトラブルの原因となることはない。
したがって、本件考案の構成と目的、作用及び効果の間に因果関係はない。
ウ その他の作用効果について 被告は、特開平5-304864(甲第11号証)において、従来技術の一つとして、本件出願の公開公報を引用し、「前記転がり式一方向クラッチは、
ユニットとして組立一体化されているため、設置する回転部材の軸径の大小や設置場所等により制約され、リール形態やリールの大きさ等に容易に対応できないと共にコストも大きい等の欠陥がある。」(【0003】)と、むしろユニット化を欠陥として捉え、被告自身がその効果を否認しているから、審決の認定した本件考案の一方向ベアリングのユニット化の効果は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の看過)について 引用考案において、回転軸4(フライヤー3)を逆転防止状態に切り換える機構(逆転防止機構)は、逆止め歯車18と逆止め爪19であって、これらは、一方向クラッチ6に隣接して、その動作とのつながりを持たない別系統の機構として、回転軸4に設けられている(引用例の第1図、第2図参照)。この逆転防止機構は、本件考案の従来技術に相当するものである。
引用考案のブレーキ調節機構は、フライヤーの逆回転時における、ブレーキの一定範囲内の強弱の調整を目的とするものであることは明白である。その調整範囲を超えて、フライヤーの回転を停止させるようなブレーキ力を作用させる使用法の記載は、引用例には全くない。万一、この目的に反して、フライヤーの回転を停止する機能が存在すると仮定すると、釣糸が切断してしまう可能性すらある。したがって、ブレーキ調節機構は、前記釣糸の切断事故が生じないように、安全設計上も、強弱の回転制動の範囲内となるように設計されているのであって、フライヤーの回転を停止させるようにはなっていないのである。
このように、引用考案においては、「ブレーキ機構」以外にも、これとは系統の異なる「逆転防止機構」が設けられており、フライヤーの逆回転を防止するのは後者(逆転防止機構)であって、前者(ブレーキ機構)は、後者(逆転防止機構)を作用させないとき、すなわち、フライヤーを逆転可能状態にしたときにのみ、その機能が発揮されるものであって、それ自体には、フライヤーの逆転を防止する機能はない。
したがって、引用考案の歯車と、本件考案の爪車は、構成が異なるのはもちろん、機能も異なるのである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 構成について ア 引用考案は、フライヤーに対して逆転防止機構を使用せず、フライヤーを正逆回転可能な状態で魚釣りを行う際に、フライヤーの逆回転時における糸フケ現象を防止するために、フライヤーの逆回転時(魚の逸走時)に、フライヤーに対してブレーキを作用して制動力を加えるように構成したものである。そして、一方向クラッチ6の外周に連係するブレーキ機構を設けることは、引用考案の目的を達成するためには必須の構成であるから、当業者が、これを除去し、しかも、その位置にブレーキ機構と全く関係のない「逆転防止機構の逆止め爪」を設けるという構成に想到することはできない。
さらに、引用考案の技術思想は、フライヤーの逆回転時にフライヤーの回転にブレーキ力を与えるブレーキ機構を主題としたものである。このことは、引用考案からブレーキ機構を除去するということに想到することを阻害する要因である。
イ 引用考案のブレーキ機構は、もともとフライヤーをロックするための逆転防止機構を使用しない場合に、フライヤーの逆回転ができるようにした状態で、
それに作用するブレーキ力を釣魚の状況に合わせて釣り人の手指により強弱調節できるようにしたものであるから、回転を強制的に停止させて操作することは全く想定されていない。したがって、引用考案の下では、ブレーキ機構を除去して逆転防止機構の爪車を設ける着想はあり得ない。
(2) 機能について ア 本件明細書(甲第3号証)の第2図に示すように、爪車12と係止爪13による逆転防止機構では、係止爪13が係合する爪車12の歯と歯の間の間隔によって、必ず「空転角」が生じ、その間隔分だけフライヤーが逆転方向にガタついてしまう。この「ガタツキ」は、フッキングする際に顕著に現われ、また、仕掛けを投擲する場合にフライヤーに回動可能に支持されたベールを反転させて釣糸放出状態にして釣竿を振り下ろした際、反転状態にあるベールを釣糸巻取状態に復帰させる原因にもなる。原告は、仕掛け投擲時にベイルを安定して保持していればよいと主張をするが、このような操作を行なう釣人は皆無であると断言でき、非常識な主張でしかない。ベイルが釣糸投擲時の慣性力によって復帰してしまうことは、例えば実公平6-33829号公報(乙第3号証)にあるように周知である。
イ また、爪車と爪による逆転防止機構の場合、仕掛け投擲後、釣糸は、釣糸案内用のローラを介して、ある程度の張力をもって放出された状態にあるが、フライヤーが逆転方向にガタつくと、張力が緩んでラインローラから離間してしまい、これが糸フケ(釣糸が緩んでしまう現象、すなわちフワッとした糸緩み)の生じる原因となるのである。この糸フケは、原告主張に係る「糸フケ」、すなわち、
フライヤーを逆転可能状態にしたときに魚の逸走によって生じるものとは全く異なる概念であり、これらを混同すべきではない。
ウ 本件考案は、爪車式の「逆転防止機構」にさらに「一方向ベアリング」を複合的に組み合せた装置とすることによって、フライヤーの逆転防止切換え状態後の「空転角」が小さくなるという作用効果を奏する。なお、本件考案の場合、係止爪の係合位置によっては、最初の逆回転時においてのみガタツキが生じる場合もあり得るが、その後は一方向クラッチによって逆転防止状態となり、空転角は小さくなるのである。
そして、これにより、フッキング操作を確実に行うことができ、仕掛け投擲時に、ベールが釣糸巻取状態に誤復帰することがなくなり、上記のような原因で生じる「糸フケ」が防止され、さらには、爪車と一方向ベアリングとの両方により釣糸からの負荷を分担することができて強度上のトラブルも発生しにくい、との作用効果を奏する。
このような作用効果は、引用考案に用いられている逆止め歯車18と逆止め爪19で構成される逆転防止機構では、得られない。
エ 一方向ベアリングは、様々な分野のクラッチ機構に適用されている製品であり、ユニット化されて市販されているものである。本件考案は、このようなユニット化されている一方向ベアリングを組み込むことで、逆転防止装置を容易に構築することができるのである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の看過)について (1) 甲第4号証によれば、引用考案においては、一方向ベアリングの外周であるクラッチケースの外側に歯車7が設けられていることが認められる。
しかし、本件考案は、一方向ベアリングの外周に嵌着した爪車について、
「上記爪車に係止爪を係合状態と離脱状態の夫々に切替え保持した」ものであるから、仮に、上記歯車7が本件考案の「爪車」であるとするならば、引用考案には、
「上記歯車に係止爪を係合状態と離脱状態の夫々に切替え保持した」との構成がなければならない。ところが、甲第4号証によれば、引用考案の上記歯車7には、歯車8が噛み合っているのみであって、「係止爪」を「係合状態」と「離脱状態」に切替え保持される構成は存在しないことが認められる。
(2) 原告は、引用考案の歯車7は、ブレーキ機構を「強」に調整する事により、歯車8によって「係止」される点で、本件考案の爪車が係止爪によって係止される関係と同じであるなどとして、本件考案の爪車12と引用考案の歯車7とは、
機能が同一であるから、構成としても同一というべきであると主張する。しかし、
引用考案の「歯車7」に「係止爪」を「係合状態」と「離脱状態」に切替え保持したという構成がない以上、原告主張に係る機能のいかんにかかわらず、この点の構成を同一ということはできない。原告の主張は採用することができない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 甲第4号証によれば、引用例には、「フライヤーを一体回転状に固着した回転軸にクラッチケースを遊転可能に嵌着し、そのクラッチケース内にフライヤーの逆回転時のみ前記クラッチケースを連係回転させるクラッチを取付けると共に、
クラッチケースの外側には歯車を設け、且前面板上には前記歯車と噛合する歯車を回転自在に軸支すると共に、該歯車に強弱調節自在な摩擦手段を設けた」(実用新案登録請求の範囲)、「回転軸4が正回転した場合、・・・クラッチケース5は回転せず、そのままの状態を維持する。逆に、回転軸4が逆回転した場合、・・・クラッチケース5も回転軸4の回転方向に連係回路することになる。」(3欄6行〜17行)、及び「クラッチ6は図面の形態に限定されるものではなく、要はフライヤーの逆回転時にのみ歯車7を逆回転させる一方向クラッチであればよい。」(4欄7行〜10行)という審決摘記の記載があることが認められ、これらの記載によれば、引用考案においては、クラッチケースの外側に設けられた歯車が回転することにより摩擦力が与えられブレーキ作用をなすこと、このブレーキ作用は回転軸が正回転するときには生じず、逆回転時にのみ生じること、このように逆回転時にのみ生じるというブレーキ作用の一方向性は、一方向クラッチ(一方向ベアリング)によりもたらされていることが認められる。また、甲第4号証によれば、引用例には、「図中、18は逆止め歯車、19は逆止め爪、20は摺動杆、21は逆止め爪19を逆止め歯車18に対して強制的に係脱するカム」(4欄3行〜5行)として図面が記載されていることが認められ、この記載によれば、引用考案における逆止め歯車18は、一方向クラッチに隣接して回転軸に一体回転状に嵌着しており、クラッチケースの回転とは無関係に、回転軸とともに回転し、逆止め爪19によって、回転軸の正回転を許容し、逆回転を阻止するものであることが認められる。
以上のとおり、引用考案において、一方向クラッチは、ブレーキ作用に一方向性をもたらすことに技術的意義があり、逆止め歯車18に一方向クラッチによる一方向性の回転が伝えられることはないから、一方向クラッチによる一方向性の回転と逆止め歯車18は、技術的に関連していない。
そうである以上、当業者が、引用考案において、逆止め歯車18を、一方向クラッチによる一方向性の回転とは無関係の位置から、上記回転が伝わる位置であるクラッチケースの外周に移動させたうえで回り止め嵌着することに、きわめて容易に想到することができたということはできない。
(2) 原告は、引用考案のブレーキ機構を取り除くとともに、それだけでは魚が掛かって釣糸が繰り出されるときに暴走してしまうので、この暴走を止める手段としては、引用考案等に備わっている「逆止め歯車」をクラッチケースの外周にある歯車の位置に持ってくるのが、引用考案等の中でのこの一方向クラッチを利用した逆転防止機構への変形のための唯一無二の選択であると主張する。
しかし、引用考案においては、前示のとおり一方向クラッチはブレーキ作用に一方向性をもたらすことに技術的意義があるのであるから、ブレーキ機構を取り除いた際には、一方向クラッチの技術的意義も失われるのであって、そもそも一方向クラッチを残しておく理由はないというべきである。
のみならず、引用発明の逆止め歯車18と逆止め爪19には、回転軸の正回転を許容し、逆回転を阻止するという一方向性の作用がもともと備わっているのであるから、これに同じく一方向性を有する一方向クラッチを組み合わせなければならない理由を、引用例から見出すことはできない。すなわち、引用考案からブレーキ機構を取り除いても、逆止め歯車18と逆止め爪19により逆回転を防止することができるのであるから、これをわざわざ別の場所に移設する動機はない。
(3) また、原告は、当業者が、引用考案の逆転防止機能だけに注目して、ブレーキ機構のうち「強」に調整して回転軸を強制的に停止させる機能以外を不要と考えた場合には、引用考案からブレーキ機構を取り外し、更に一方向クラッチのクラッチケース外側に係合嵌着している歯車7を取り外して、その代わりに逆止め歯車18を回り止め嵌着することは、当然であると主張する。
甲第4号証によれば、引用例には、「この考案はフライヤーのブレーキ機構に関し、その目的とする処はフライヤーの逆回転時に於ける回転に弱から強までの範囲内でブレーキ力を調整することが出来るようにしたもので、それにより釣糸がフケるのを防止したものである。」(1欄30行〜34行)、「グレ釣りの如き魚とのやり取り操作が多い釣りでは、逆止め機構を使用せず、フライヤーが正・逆回転可能な状態で釣魚を行なうもので、掛った魚の逸走等によって釣糸が繰り出されるフライヤーの逆回転時、その回転にブレーキが作用しないと、・・・釣魚に支障をきたすといった不具合を生じている。」(1欄下から3行〜2欄6行)との記載があることが認められ、これらの記載によれば、ブレーキ機構が作用している場合、逆止め歯車18と逆止め爪19とは使用されておらず、フライヤーは正・逆回転可能であって、ブレーキ機構は、正・逆回転ができる限度で弱から強までブレーキ力を調整することができるものであることが認められる。
そうである以上、原告の主張するように「回転軸を強制的に停止させる機能」だけにしてしまっては、逆回転が全く不可能になるから、「正・逆回転ができる限度で弱から強までブレーキ力を調整する」というブレーキ機構の機能が全く失われてしまい、ブレーキ機構の意味をなさないから、当業者が、そのようなを「回転軸を強制的に停止させる機能」以外を不要と考えるものとは認められない。そもそも、前示のとおり、「回転軸を強制的に停止させる機能」は、引用発明の逆止め歯車18と逆止め爪19に、もともと備わっているのであるから、ブレーキ機構に、同じ機能を求めることは重複であって、そのような動機が存在するものとは認められないのである。
(4) 原告は、引用例には、「歯車7はクラッチケース5の筒部外周面に同一体に刻設形成するか、又は別途に形成した歯車を一体的に嵌着係合して構成し、」(3欄18行〜20行)との記載があり、歯車7と逆止め歯車の交換の可能性が示唆されていると主張する。しかし、上記記載は、歯車7の製造方法についてのものであり、「別途に形成された歯車」が逆止め歯車18を意味するものではないことは、記載自体から明らかである。原告の主張は、失当である。
(5) 原告は、本件考案の爪車と、引用考案の逆止め歯車との設置位置の相違は、両者の機能に影響を与えていないと主張する。
しかし、甲第3、第4号証によれば、引用考案においては、逆止め歯車18が逆止め爪19により係止された後にも、回転軸が正回転した際に逆止め歯車18も回転してしまい、逆止め歯車18と逆止め爪19の係止状態が維持できなくなって空転角が発生するのに対し、本件考案では一方向ベアリングの作用により、回転軸が正回転した際にも爪車が回転しないため、爪車と係止爪の係止状態が維持され、空転角が小さくなることが明らかである。
そうである以上、本件考案は、相違点に係る構成によって、「逆転止め動作時の空転角を小さくできてフッキング操作を確実に行えると共に、糸フケや釣糸放出時に誤ってベイルが振り落ちることがなく、実用時においてトラブルの発生を防止できる。」(審決書13頁10行〜13行)との特有の効果を奏することもまた、明らかである。
この点に関して、原告は、a.釣糸放出時にベイルが反転して糸切断が起こるとの点は、適切な釣り糸投擲の作業を行っていれば、このような糸切れの問題は生じないし、糸切れの問題を起こさない技術もある、b.根掛かり等に際し、釣竿を大きくあおったとき、逆転止めの大きな衝撃力によって、爪部材等が損傷するとの問題は、魚釣りの技術上の問題であり、あおる前に逆転止めを掛けて力を加減しながら操作すれば解決できる、c.逆転止め時の空転角による釣糸の繰り出し長さは、決して大きなものではない、と主張する。しかし、魚釣りをする者の中には、未熟、不注意等の理由により、原告の主張するような適切な釣り糸投擲、魚釣りの技術上の操作を行わない者が存在し得ること、及び、空転角による釣糸の繰り出し長さが短ければ一層良いことは自明であり、また、仮に、問題を回避できる技術が他にもあるとしても、そのことにより本件考案の作用効果がなくなる筋合いのものではないから、仮に、原告の上記主張が正しいとしても、そのことにより、本件考案の前記作用効果を否定することはできない。
前記作用効果が認められる以上、その他の作用効果の有無にかかわらず、
本件考案の爪車と、引用考案の逆止め歯車との設置位置の相違が両者の機能に影響を与えていないという原告の主張は、採用することができない。
(6) 甲第5ないし第8号証(甲第5ないし第8号証刊行物)によっても、これらの刊行物に相違点に係る構成をとることが記載ないし示唆されていると認めることはできないから、これらの刊行物の記載は以上の認定判断を左右するに足りるものではない。
3 以上のとおりであるから、 原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告及び上告受
理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 阿部正幸
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