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関連審決 審判1998-35161
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  新規事項の追加(新規事項を追加) /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  公知技術 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 388号 審決取消請求事件
原告 株式会社荏原製作所代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 福田親男
同 近藤惠嗣
被告 株式会社鶴見製作所代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁理士 本田紘一
同 豊田正雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/06
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35161号事件について平成11年9月17日にした審決のうち「登録第2148998号実用新案の明細書請求項第1項に記載された考案についての登録を無効とする。」とした部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、考案の名称を「水中モーターポンプ」とする実用新案登録第2148998号の登録実用新案(平成元年12月26日出願、平成7年6月21日出願公告、平成9年10月3日設定登録。以下「本件登録実用新案」といい、その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
被告は、平成10年4月15日、本件登録実用新案の請求項1及び同2の登録を無効にすることにつき審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第35161号事件として審理した。原告は、この審理の過程で、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、訂正を認めず、平成11年9月17日、「登録第2148998号実用新案の明細書請求項第1項に記載された考案についての登録を無効とする。
登録第2148998号実用新案の明細書請求項第2項に記載された考案についての審判請求は、成り立たない。」との審決をし、同年10月29日にその謄本を原告に送達した。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1 (1) 本件訂正前(以下、この考案を「訂正前考案」という。) 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モーターポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする水中モータポンプ。
(2) 本件訂正後(下線部が訂正に係る部分である。以下、この考案を「訂正考案」という。) 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する半側流型水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を羽根車から 吐出される 水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする半側流型水中モータポンプ。
3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、@訂正考案は、本件実用新案登録の出願前に日本国内において刊行された刊行物である実願昭58-77973号(実開昭59-182694号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)記載の考案(以下「引用考案1」という。)及び特開昭59-110896号公報(以下「引用例2」という。)記載の事項(以下「引用考案2」という。)に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定に該当し、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないから、本件訂正請求は、平成5年法律第26号附則第4条1項の規定によりなおその効力を有するとされ、同条2項の規定により読み替えられる実用新案法40条5項において準用する同法39条3項に違反するので、認められない、A訂正前考案は、引用考案1及び2に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない、としたものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、第1(手続の経緯)は認める。第2(訂正の適否についての判断)のうち、1(訂正の内容)、2(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否)は認める。第2の3(独立実用新案登録要件の判断)のうち、(1)(訂正明細書請求項に係る考案)は認める。同(2)(引用例の記載内容)のうち、「該中間ケーシング3をモータフレーム6に取付けるボルト8のボルト頭を取扱液体から遮断するように」(11頁14行目〜17行目)との部分を否認し、その余は認める。同(3)(対比)のうち、「該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように」(13頁8行目〜10行目)との部分を否認し、その余は認める。第2の4(判断)のうち、14頁7行目から15頁1行目まで、及び15頁18行目から16頁12行目までは争い、
その余は認める。第3(実用新案登録無効請求についての判断)のうち、1(実用新案登録無効請求の理由の概要)は認める。第3の2(請求人の主張の検討)のうち、(1)(本件考案)は争い、(2)は認め、(3)のうち22頁末行までは争う。第3の3(むすび)のうち25頁11行目から15行目の「ある。」までは争う。
審決は、訂正考案と引用考案1との相違点を看過し(取消事由1)、訂正考案と引用考案1との相違点についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、訂正請求の適否についての判断を誤ったものであり、違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正考案と引用考案1との相違点の看過) (1) 審決は、訂正考案と引用考案1との相違点を看過し、訂正考案における「遮蔽」と引用考案1のリング状保護材による「遮断」とを、同意義のものであると誤認している。
訂正考案における「遮蔽」は、弾性体からなる交換可能なリング自体がボルト部を覆うことを意味する。このため、下部側ケーシング(以下「ポンプケーシング」ともいう。)が製造上の中子を不要とする形状をしているにもかかわらず、
上記リングによってボルトの頭部が水流から遮断されている。
これに対し、引用考案1においては、保護材にボルト頭部を挿通させる穴7が開けられているため、ボルト頭部は、保護材によって遮断されていない。引用考案1は、ポンプケーシングの上面と保護材が協動してボルト頭部を保護するものであって、訂正考案が解決した課題を示している従来例にすぎない。すなわち、引用例1の第1図の左側のボルトの頭部は、ポンプケーシングの膨らみ部分(最大径部分)の真上に位置しているにもかかわらず、ポンプケーシングが製造上の中子を必要とする形状(上部の開口部よりも内部の空間の方が大きい形状)をしているために、ポンプケーシングの上面が保護材2の穴7を塞いでいる。したがって、ボルトを水流から遮断しているのは、保護材2そのものではなく、実際にはポンプケーシングの上面である。
被告は、引用考案1において、ボルト頭部が弾性材(保護材)によって遮断されていないことを認めながら、訂正考案における遮蔽の対象は「ボルト部」であって「ボルト頭部」ではないから、引用考案1においても「ボルト部」は弾性材によって遮断されている、「ボルト頭部」は「ボルト部」の下位概念であって同義ではない旨主張する。
しかしながら、「ボルト頭部」は、文字どおりボルトの頭の部分を意味するのに対し、「ボルト部」とは、ボルトの位置する場所を意味する。ボルトのねじを切ってある部分はモータフレームにねじ込まれているから、「ボルト部」とは、
結局、中間ケーシングを下から平面的に見た場合に、「ボルト頭部」が存在する位置を意味する。「ボルト頭部」は、「ボルト部」の下位概念ではなく、これらを別の場所として理解する理由はない。「ボルト頭部」は弾性材によって遮蔽されていないが、「ボルト部」は弾性材によって遮蔽されているということはあり得ない。
したがって、審決は引用考案1を誤認している。
(2) 審決は、ボルトの位置が下部側ケーシングの開口部の周囲よりも外側にある場合であっても、中間ケーシングの形状が引用例1に示される形状のものであるときには、訂正考案におけると同じく、リングによってボルトが水流から遮蔽されることになると認定し、その理由として、訂正考案請求項1が、同考案の中間ケーシングの形状について格別言及していないことを挙げる(審決書15頁18行目〜16頁12行目)。
しかしながら、訂正考案請求項1に明記されているとおり、同考案の下部側ケーシングは、製造上の中子を不要とする形状をしている。もし、その開口部の周囲よりも外側の位置にボルトがあった場合には、引用考案1のように弾性体のリングにボルト頭部を挿通する穴があろうがなかろうが、ボルトの頭部は、下部側ケーシング上面によって、水流から遮断される。そのような場合には、弾性体のリングによって、ボルト頭部が遮蔽されているとはいえない。したがって、審決は訂正考案を誤認している。
(3) 以上のとおり、訂正考案と引用考案1とは、訂正考案が弾性体リングによってボルトを水流から「遮蔽」しているのに対し、引用考案1では保護材2と下部側ケーシング上面との協動によってボルトを水流から「遮断」しているという点で相違しているにもかかわらず、審決は、引用考案1及び訂正考案について誤認した結果、この相違点を看過したものであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(訂正考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り) (1) 出願前の当業者の技術水準 引用例1から明らかなように、本件出願前から、中間ケーシングをモータに取り付けるボルトを水流から保護するという技術課題は知られていた。しかし、
この課題を解決するための方策においては、ポンプケーシング(下部側ケーシング)の上面がボルト頭部を覆うことが当然の前提となっていた。このことは、引用考案1が、保護材を用いながら、わざわざ、保護材2に穴7を設け、これを塞ぐようにポンプケーシングの上面に配置していることからも明らかである。
一方、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を不要とするものとすれば、材料が鋳物に限られなくなるなど、大きな利点があることも知られていた。しかしながら、ポンプケーシングの上面が取付けボルトの頭部を覆うという前提にとらわれていたために、このような場合には、取付けボルトの位置をポンプケーシングの上面の開口部の周囲よりも外側にすることが必須であると考えられていた。そして、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を不要とするものとすることは、開口部の大きさがケーシング内部の渦半径と同じになることを意味したから、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を不要とするものにできるのは、取付けボルトを渦半径よりも外側に配置できる場合に限ってのことであると考えられていた。
引用例2のような全周流型のポンプにおいては、取付けボルトを渦半径の外側に配置することは容易であった。しかし、取付けボルトを渦半径の外側に配置すると、無駄なスペース(空間)ができてしまい、小型化の要請に反するため、この考え方は、半側流型の水中ポンプに適用することができなかった。このため、引用考案1のような半側流型の水中ポンプでは、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を必要とするものとすることが当業者の常識であった。
(2) 引用考案1では、保護材2を用いているにもかかわらず、わざわざ取付けボルトを挿通する穴を設けて、そのうえで、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を必要とするものにしている。これに対し、訂正考案においては、引用考案1と同じ半側流型水中ポンプにおいて、弾性体リングが取付けボルトを水流から遮蔽することにより、ポンプケーシングの形状を製造上の中子を不要とするものにしている。
審決は、引用考案2のポンプケーシングの形状を引用考案1に適用することを妨げる特段の事由も見当たらないとする。しかしながら、引用考案1の弾性体のリングには穴7があり、この穴がある限り、引用考案1に引用考案2のポンプケーシングの形状を適用することはできない。
訂正考案では、弾性体のリングがボルトを水流から遮蔽しており、ボルトの頭部を挿通する穴は存在しない。この穴をなくすということは、答えを知ってしまってから考えると簡単なことのように見える。しかし、穴をなくすという発想は、コロンブスの卵であり、これを容易と考えるのは、いわゆる後知恵である。このことは、引用例1が証明している。
(3) 被告が引用する乙第1号証は、審判段階で被告が第一引用例として主張したにもかかわらず、特許庁により排斥され、無効理由とはされなかったものである。
乙第1号証のポンプは、@上下分割型のケーシングを使用するものではないこと、Aねじ46は中間ケーシングをモータに取り付けるボルトではなく、ポンプケーシングカバー26とポンプハウジング10を結合して上部側ケーシングを形成するためのものであること、Bねじ46は、羽根車の外径よりはるかに内側に存在するから、ねじ46を羽根車から吐出される水流から遮蔽するという課題がないこと、の点において、訂正考案と相違するものであり、同号証には、「取付けのためのボルト頭部をポンプケーシング上面の開口部より内側に設け、羽根車から吐出される水流から遮断する技術」は、開示されていない。
(4) 以上のとおり、引用考案1の製造上の中子を必要とするポンプケーシングの形状を引用考案2の中子を不要とするポンプケーシングの形状に置き換えることが容易であるとした審決は、相違点についての判断を誤っている。
被告の反論の要点
審決の認定判断は、正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(訂正考案と引用考案1との相違点の看過)について (1) 訂正考案に係る実用新案登録請求の範囲すなわち本件訂正後の請求項1は、ボルト部は中間ケーシングの下面において羽根車から吐出される水流から遮蔽されると定めるにとどまり、それを超えて、ボルト部が中間ケーシングのどこに設けられるかということや、ボルト部と製造上の中子を不要とする下部側ケーシングの開口部との位置関係については、何の限定もしていない。
請求項1の上記記載は、訂正考案の中間ケーシングに設けられるボルト部が、羽根車から吐出される水流により摩耗することを防ぐために、羽根車から吐出される水流にさらされないようにするとの意味であり、この意味において、訂正考案と引用考案1との間に格別の差異はない。訂正考案においても、ボルト部が羽根車から吐出される水流から遮断されるといい得る。
確かに、引用考案1の「ボルト頭部」が、弾性材(保護材)によって遮蔽されていないことは、原告主張のとおりである。しかしながら、訂正考案に係る実用新案登録請求の範囲(以下「訂正請求項1」という。)に記載されているのは「ボルト部」を遮蔽することであって、「ボルト頭部」を遮蔽することではない。
「ボルト頭部」は、「ボルト部」よりも下位の狭義の概念であって同義ではない。
引用考案1においても、「ボルト部」自体は、羽根車から吐出される水流から弾性体によって遮蔽されている。
原告の主張は、訂正請求項1に記載された「ボルト部」とではなく、訂正考案実施例の「ボルト頭部」と引用考案1の「ボルト頭部」とを比較したものにすぎず、失当である。
原告は、引用考案1は、ポンプケーシングが製造上の中子を必要とする形状をしているために、実際にボルトを水流から遮断しているのは、保護材そのものではなく、ポンプケーシングの上面である点において、訂正考案と異なると主張する。しかし、引用例1の第4図に示されているように、引用考案1においても、もし保護材がなければ、羽根車から吐出される水流によってボルト部は遮蔽されず羽根車から吐出される流れにさらされる。原告の主張は失当である。
(2) 審決が述べるように、訂正請求項1は、中間ケーシングの形状や、ボルト部を中間ケーシングのどこに設けるかについて限定していない。したがって、ボルトが下部側ケーシングの開口部の周囲よりも外側にある場合も、引用例1に記載の中間ケーシングの形状をとったときは、保護材によってボルトが水流から遮蔽されることになるから、訂正請求項1に含まれる。原告の主張は、訂正請求項1の記載に基づかないものであって失当である。
2 取消事由2(訂正考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告の技術水準についての主張は、いずれも訂正請求項1に記載されていない主張であって失当である。
訂正請求項1においては、ボルト部と中間ケーシング又は下部側ケーシングとの関係が限定されていないため、引用考案1も訂正請求項1に含まれる。原告は、訂正考案実施例と引用考案1とを比較した議論をしているものであり、ボルト部を遮蔽するという点に関し、後知恵うんぬんの問題は生じない。訂正考案の遮蔽構成は、引用考案1に示されており、その遮蔽構成に引用例2における中子不要の下部側ケーシングを設けることに、格別の困難性はない。
(2) なお、仮に、ボルトの位置が限定されているとしても、取付けのためのボルト頭部をポンプケーシング上面の開口部より内側に設け、羽根車から吐出される水流から、弾性材により遮蔽する技術は、既に、乙第1号証により、本件出願前に公知の構成である。この構成は、半側流型、全周流型の区別なく、また、中子必要のポンプケーシングであるか否かにかかわらず設けられるものである。
当裁判所の判断
1 本件考案の概要 甲第2号証(実用新案公報。以下「本件公報」という。)によれば、本件公報に記載された本件考案の概要は、次のとおりであると認められる。そして、本件訂正の内容(審決書3頁2行〜5頁13行)に照らすと、以下の事項は、そのまま本件考案にも当てはまるものということができる。
(1) 技術的課題(目的) 本件考案は、「下部側ケーシングが上方に開放されていて製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプに関」するものである(本件公報2頁左欄4行目〜6行目)。
「従来、上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプには、・・・外装型水中モータポンプと、ポンプケーシングから吐出された水が水中モータの外側の半側を流れるように、該水中モータの外側に設けられたモータフレームとの間に、半環状の吐出路を形成した半側流形水中モータポンプと、更にポンプケーシングから吐出された水が水中モータの外側全周を流れるように、該水中モータとその外周を取り囲むように設けられた外胴との間に、環状の吐出流路を形成するようにした全周流形モータポンプとがある。」(本件公報2頁左欄9行目〜21行目)。
従来の半側流型水中モータポンプ(本件公報の第5図)では、「下部ケーシング3Bは、上部開口がボリュート渦型Rより小径に形成されているため、製作時、中子を必要とする形状が多かった。そのため、この構造は、生産性が悪く、コスト高になるという問題点があった。」(本件公報2頁左欄42行目〜46行目)。「また、中間ケーシング3Aをモータ1に取付けるボルト6部は、水流にて長時間さらされるとボルト頭部等が摩耗(腐食)して、保守(メンテナンス)時に分解が不可能となる。ところが、下部ケーシング3Bが、第5図に示すように中子を必要とする場合は、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト6部を、下部ケーシングボリュート渦径Rとは無関係に、水流から遮閉することができる。一方、下部ケーシング3Bが上方に開放されていて製造上の中子を必要としない場合には、第6図に示すように、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト6部を遮蔽しようとすると、常にボリュート渦型Rの制約を受ける。即ち、渦径Rが決まると、ボルト6の平面方向の位置設定場所が制約される。その結果、ボルト座は、必要以上に外周側に寄ってしまい、ポンプ部の最大外径が大きくなってしまうという問題点があった。」(本件公報2頁左欄47行目〜右欄12行目。)。
本件考案は、以上の課題を解決するため、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシングをモータに取付けるボルト座のためにポンプ最大外径を大きくすることなく、ボルト部を保護し、且つ下部ケーシングの生産性を向上できるようにした水中モータポンプを提供すること」を目的とする(本件公報2頁右欄13行目〜17行目)。
(2) 構成 上記の目的を達成するため、本件考案は、「下部ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とし」た(本件公報2頁右欄20行目〜25行目)構成を採用した。
(3) 作用効果 「中間ケーシングにモータを取付けるボルトは、中間ケーシングの下面に交換可能に嵌め込まれた耐摩耗性の弾性体リングによって水流から遮蔽されており、ポンプ運転時、羽根車から吐出された水流の中に、たとえ土砂などの異物が含まれていても、該ボルト部が摩耗することはない。また、上記ボルトを該リングによって水流から遮蔽することによって、該ボルトの位置を、ポンプ最大外径を大きくすることなく、ボリュート渦径Rとは無関係に設定することができる。また、上記弾性体リングの材質を耐摩耗性に優れるゴム・・・で製作すれば、ポンプ運転時、第9図に示すように、羽根車から吐出される水流によって構造上摩耗し易い羽根車裏面に対向する中間ケーシング壁面(下面)部wの摩耗を防止することができる。更に、上記リングが摩耗した場合でも、該リングのみを交換すれば、他の部品(中間ケーシング)を交換する必要がなく、保守(メンテナンス)作業が容易なばかりでなく、高価な中間ケーシングの消耗度が低下するため、ランニングコストが低減する。」(本件公報3頁左欄4行目〜24行目)。
2 取消事由1(訂正考案と引用考案1との相違点の看過)について (1) 引用考案1 甲第3号証によれば、引用例1の明細書には、次の記載があることが認められる。
@ 技術的課題(目的) 引用考案1は、「水中ポンプ、就中土木用ポンプに関する。土木用ポンプにおいて、取扱液は砂等を多く含むので摩耗に強いポンプが要求される。」(明細書2頁6行目〜9行目)。「この考案は羽根車前面の開放されたセミオープンの羽根車を用いた水中ポンプにおいて羽根車主板背面と対向する中間ケーシング部分及び該ケーシング部分に現われているボルトの摩耗を防止したものを提供することを目的とする。」(明細書3頁11行目〜15行目)。
A 構成 上記の目的を達するため、引用考案1は、「1.羽根車前面が開放されたセミオープンの羽根車を備えた水中ポンプにおいて、ポンプケーシングに接合固定され且つポンプケーシングとモータフレームを中継してモータフレームとボルトにて締結した中間ケーシングの羽根車の主板背面と対向する側に耐摩性部材からなる保護材を設けた水中ポンプ。2.モータフレームと中間ケーシングを締結するボルト部分を耐摩性部材からなる保護材で囲うようにした実用新案登録請求の範囲第1項記載の水中ポンプ。(以下省略)」という構成を採用した(明細書1頁5行目〜15行目)。
そして、実施例として、「この考案は羽根車前面の開放されたセミオープンの羽根車を備えた水中ポンプの該羽根車主板背部にあり、ポンプケーシングとモータフレームを中継して締結する中間ケーシングのポンプ側の面を耐摩性部材の保護材で蔽ったものであり、実施の態様として、ポンプケーシングと中間ケーシングにより挟持されるように前記保護材被覆を設けたもので・・・ある。そして保護材としては例えば硬質ゴムを用いたものである。」(明細書3頁16行目〜4頁7行目)。「以下、この考案実施例図面に従って説明する。・・・ポンプケーシング1は保護材2を介して中間ケーシング3に接合しており、中間ケーシング3とポンプケーシング1の周縁部複数個所において中間ケーシング3、保護材2のボルト穴を挿通するボルト4をポンプケーシング1のめねじにねじ込み固定してある。
中間ケーシング3には密封輪5を介してモータフレーム6が嵌入して保護材2の穴7を頭部まで挿通するボルト8によりモータフレーム6と中間ケーシング3が固定されている。」(明細書4頁8行目〜19行目)。「保護材2は中間ケーシング3の羽根車26の主板26aの背面に対向する側に設けられる。・・・保護材2の上面は中間ケーシング3に接している。ここで保護材2は砂等の研削作用に抗して耐摩耗性のある材料、例えば硬質ゴムが好適であるが硬質合成樹脂でもよい。・・・ポンプケーシング1に接する平面2cは二点鎖線Bで示される外側がポンプケーシング1と中間ケーシング3の水密を計るパッキン部31であり、内側はボルト8の頭部の頭の嵌入する前述した穴7を備え穴7の周囲を形成するようにポンプケーシング1面と接するボルト頭保護部32を形成している。」(明細書6頁16行目〜7頁16行目)。
引用考案1の水中モータポンプは、いわゆる半側流型のものであり、下部側ケーシングに相当するポンプケーシングは、製造上の中子を必要とする形状をしている(引用例2の第1図参照)。
B 作用効果 「取扱液中に砂、砂利のようなものが多いとか、水溜の残水が少なくなると大量の砂、砂利等が羽根車26の主板26aの背面にて流動する。そして保護材2の面に作用するが保護材2が耐摩性材料を用いているために摩耗が少ない。中間ケーシング3をモータフレーム6に固定するボルト8のボルト頭は穴7中に納められているので取扱液体中の砂等が流れ乍ら衝突するというようなことがないので該ボルト頭は摩耗しない。」(明細書9頁12行目〜20行目)。「(1)羽根車主板と対向する面に保護材を設けたから、中間ケーシングの摩耗が防止できる。(2)中間ケーシングとモータフレームを締結するボルトのボルト頭を保護材で取扱液体から遮断するようにしたから、該ボルト頭の摩耗は生ぜず、中間ケーシングとモータフレームの分解は容易である。」(明細書11頁7行目〜13行目)。
(2) 上記1及び2(1)の認定事実によれば、訂正考案と引用考案1とは、@ともに、上下分割型の半側流型水中モータポンプにおいて、中間ケーシングをモータフレームに固定するボルトのボルト頭が、羽根車から吐出された土砂を含む水流によって摩耗することを防止するという技術的課題を有し、この課題を解決するため、水流を遮断する手段として、耐摩耗性を有する硬質のゴム等によってできた弾性体リングないし保護材を用いている点において一致すること、A訂正考案においては、弾性体からなるリング自体がボルト部を覆うことによって、すなわち、弾性体からなるリングのみによって、ボルト頭を水流から遮蔽しているのに対し、引用考案1においては、保護材にボルトを挿通する穴が開けられているため、保護材2と下部側ケーシング上面との協動によってボルト頭を水流から遮蔽している点で相違していることが認められる。
原告は、審決が上記Aの相違点を看過したと主張する。
しかし、審決は、訂正考案と引用考案1との相違点として「下部側ケーシングが、訂正明細書請求項1に係る考案では、製造上の中子を不要とするものであるのに対して、引用例1記載の考案では、製造上の中子を必要とするものである点。」(審決書13頁15行目〜19行目)を記載しており、この記載は、審決が看過したと原告の主張する相違点があることを前提とした記載であると解することができる。すなわち、訂正考案では、弾性体からなるリングのみによってボルト頭を水流から遮蔽しており、下部側ケーシングの形状が製造上の中子を不要とするものにできるのに対し、引用考案1においては、保護材にボルトを挿通する穴が開けられているため、保護材のみではボルト頭を水流から遮蔽することができず、下部側ケーシング上面もボルト頭を水流から遮蔽する役割を担わなければならないため、下部側ケーシングの形状が製造上の中子を必要とするものになっているのであるから、審決のいう下部側ケーシングの形状の相違は、原告主張の相違点を当然の前提としているものというべきである。審決がこれを看過したとする原告の主張は、採用することができない。
3 取消事由2(訂正考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り)について (1) 甲第4号証によれば、引用例2には、上下分割型の水中モーターポンプにおいて、下部側ケーシングの形状が製造上の中子を不要とする形状をした引用考案2が記載されていることが認められる。
審決は、引用考案2の製造上の中子を不要とする下部側ケーシングの形状を引用考案1に適用することを妨げる特段の事由は見当たらないとする。
しかしながら、上記1で認定したとおり、訂正考案は、@下部側ケーシングの生産性を向上させるために、下部側ケーシングを製造上の中子を不要とする形状とすること、及びAポンプの最大外径を大きくすることなく、ボルト頭を保護することという二つの課題を、同時に解決することを目的とした考案である。ところが、甲第4号証によれば、引用考案2は、中間ケーシングと下部プラケット(本件考案のモータフレームに相当する)とを締結するボルトの位置が下部側ケーシングの開口部よりも外側に設けられているものであること(引用例2の図3参照)、同引用例には、ボルトの位置を下部側ケーシングの開口部よりも内側に設けることについては、何らこれを示唆する記載がないことが認められる。前記のとおり、引用考案1は、保護材にボルトを挿通する穴が開いていることから、ボルト頭を水流から遮蔽するために、下部側ケーシングの形状が製造上の中子を必要とする形状をしているのであり、これに引用考案2の製造上の中子を不要とする下部側ケーシングの形状をそのまま適用しても、下部側ケーシングから、これまでボルト頭を水流から遮蔽してきた部分を取り除くだけであり、保護材に開けられた穴が露出してボルト頭が水流にさらされる結果を招くだけであって、訂正考案の目的を達成することはできないことが明らかである。
(2) 被告は、訂正請求項1においては、ボルト部と中間ケーシングの位置関係について何ら限定がされておらず、ボルト部が下部側ケーシングの開口部よりも外側に配置された場合も訂正考案に含まれる旨主張する。そして、この主張が正しいとの前提の下では、引用考案1に引用考案2を適用して、ボルト部の位置を下部側ケーシングの外側に配置すれば、訂正請求項1の構成を充足するものが得られることになることは、明らかである。
しかしながら、上記前提を認めることはできない。まず、訂正請求項1をみると、それは、「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する半側流型水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を羽根車から吐出される水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする半側流型水中モータポンプ。」というものであり、その中の「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する半側流型水中モータポンプにおいて」との、下部側ケーシングの形状についての記載部分が、ボルト部を水流から遮蔽する構成との関係で記載されていること自体は、訂正請求項1の記載自体から明らかである。もっとも、上記記載部分の技術的意義は、訂正請求項1の記載のみからは、一義的には明確に理解することができないというべきであるから、単に訂正請求項1の記載のみから判断するのではなく、考案の詳細な説明の記載をも参酌して解釈すべきである。そして、前記認定のとおりの考案の詳細な説明の記載を参酌するならば、訂正考案の技術的意義は、次のようなものとして一義的に理解することができる。
従来例においては、下部側ケーシングの形状を製造上の中子を不要とする形状とした場合には、ボルト部の位置を下部側ケーシングの開口部よりも外周側に寄せることによってボルト頭を水流から遮断しており、この場合にはポンプ部の最大外径が大きくなってしまうという問題点があった。訂正考案は、中間ケーシングの下面にゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んでボルト部を塞いでしまい、下部側ケーシングの上部にボルト部を塞ぐという役割を負わせないようにすることによって、その形状にかかわりなく、ボルト頭が水流にさらされないようにし、このような構成をとることによって下部側ケーシングの製造上の中子を不要とする形状としながら、ポンプの最大外径を大きくすることなく、ボルト頭を水流から遮蔽するという課題を解決したものである。
このような、訂正考案の技術的意義に照らすと、ボルト部の位置が下部側ケーシングの開口部よりも外側にある場合というのは、訂正考案が克服した従来例にすぎず、このような場合は訂正考案には含まれないと解するのが相当である。
被告の主張は採用することができない。
(3) なお、被告は、仮に、ボルト部の位置が下部側ケーシングの開口部よりも内側であっても、ボルト部を弾性材で遮蔽することは、乙第1号証によって公知であって、格別の困難性は認められない旨主張する。しかしながら、乙第1号証は、
審決において判断の対象とされなかった証拠であるから、本件訴訟において、これを根拠に公知技術による容易遂行性を主張することは、本件訴訟の審理の範囲外であって許されないものというべきである。
被告の主張は採用することができない。
(4) 以上に述べてきたところによれば、審決は、引用考案1に引用考案2の製造上の中子を不要とする下部側ケーシングの形状を適用することによって生じる、
ボルト頭が水流にさらされることになるという問題点について、なすべき検討をしないまま結論を導いたものといわざるを得ない。
4 そうすると、訂正考案は、引用考案1及び2に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるとして、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができず、本件訂正請求が認められないとした審決の判断は誤っているというべきであり、この誤りが、審決のうち「登録第2148998号実用新案の明細書請求項第1項に記載された考案についての登録を無効とする。」とした部分の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
よって、原告の本訴請求は理由があるので、審決のうち「登録第21489
98号実用新案の明細書請求項第1項に記載された考案についての登録を無効とする。」とした部分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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