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関連審決 異議1999-71617
関連ワード 分割出願 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  物品の形状 /  補正 /  要約書 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 333号 実用新案取消決定取消請求事件
原告 エスエムシー株式会社
訴訟代理人弁理士 林宏
同 後藤正彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 神崎潔
同 鈴木久雄
同 大野覚美
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/12
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第71617号事件について平成12年7月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、考案の名称を「パイロット形電磁弁」とする登録第2583766号の登録実用新案(平成4年5月29日に出願した実願平4-43243号(以下「原出願」という。)の一部を新たな出願とした分割出願に係るものであって、平成8年5月28日に実用新案登録出願、平成10年8月14日設定登録、以下「本件登録実用新案」といい、その考案自体を「本件考案」という。)の実用新案権者である。
本件登録実用新案について、株式会社コガネイから登録異議の申立てがあり、特許庁は、この申立てを平成11年異議第71617号事件として審理した結果、平成12年7月25日に「登録第2583766号の実用新案登録を取り消す。」との決定をし、同年8月14日にその謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(別紙図面1参照) 供給ポート、出力ポート、排出ポート及びこれらのポートが開口する弁孔が開設された弁ボディと、上記弁孔内に摺動自在に配設されたメイン流体切換用の主弁体と、該主弁体の軸方向両側に配設された第1、第2ピストンとを有し、第1ピストンが第2ピストンよりも大径をなしていて、それらのピストンに対するパイロット流体圧の作用により主弁体を切り換える主弁; 第1及び第2のソレノイド機構を備え、これらのソレノイド機構の作用によりパイロット流体圧をそれぞれ上記第1ピストンと第2ピストンとに個別に作用させる第1及び第2のパイロット弁からなるパイロット弁部; 第1及び第2のパイロット弁に対応させて設けられた、手動操作でパイロット流体圧を第1ピストンまたは第2ピストンに作用させるための手動切換装置; を有することを特徴とするパイロット形電磁弁。
3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおり、@本件考案の「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」をなすという構成は、単に二つのピストンに大小の差があるという構成を意味するにとどまらず、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できるように、「第1ピストン18と第2ピストン19の両方にパイロット流体圧が作用している状態」では、「主弁体12が第1ピストン18に押されて右方向に移動」する程度の径の差がある構成(以下「本件考案のピストンの径差の構成」という。)を意味するものであるのに、この構成の裏付けをなす、本件考案の課題や作用効果は、原出願の手続過程における平成8年5月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)によって初めて加入された事項であるから、本件考案の出願日は、平成8年5月28日とみなされる、と認定し、これを前提に、A本件考案は、上記出願日とみなされる平成8年5月28日よりも前に頒布された、実開平5-96660号公報及び特開平7-198054号公報記載の考案に基づいて、当業者がきわめて容易考案をすることができたから、本件登録は、実用新案法3条2項に違反して受けたものということになる、と認定判断した。
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由1(手続の経緯)、2(本件登録考案)は認める。同3(出願日の認定)は争う。同4(引用刊行物とその記載)、5(考案の対比)は認める。同6(相違点についての判断)は、「したがって・・・できないものである。」(6頁22行〜24行)を争い、その余を認める。同7(むすび)は争う。
決定は、原出願における出願当初(本件補正前)の明細書(以下「当初明細書」という。)及び図面(以下「当初図面」といい、これと当初明細書をまとめて「当初明細書等」という。)の記載及びこれらから自明な事項の認定を誤った結果、本件考案の出願日を誤認したものであって、この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 本件考案のピストンの径差の構成について (1) 当初図面には、第1ピストン6aの径が第2ピストン6bの径より大きいことが明確に示されている。このようなピストンの明確な径差は、技術的に無意味に付されているものではない。
(2) 実願昭62-80419号(実開昭63-188381号)のマイクロフィルム(以下「甲第7号証刊行物」という。)、実願昭63-162900号(実開平2-84079号)のマイクロフィルム(以下「甲第8号証刊行物」という。)、実願昭63-162901号(実開平2-84080号)のマイクロフィルム(以下「甲第9号証刊行物」という。)、特開平3-20185号公報(以下「甲第10号証刊行物」という。)、及び特開平4-60287号公報(以下「甲第11号証刊行物」という。)には、当初図面と同程度のピストンの径差を有し、
シングルソレノイド形電磁弁として使用する電磁弁が記載されている。このように、「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」であって、シングルソレノイド形電磁弁として使用する電磁弁は、原出願の出願日である平成4年5月29日以前に極めて一般的に知られていたものである。
(3) したがって、当初図面に示されているパイロット形電磁弁が、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できる程度に「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」であることは、当業者にとって自明な事項にすぎない。
(4) 決定が引用する、原出願に係る登録取消決定の取消訴訟(東京高等裁判所平成11年(行ケ)第302号)について平成12年6月29日にされた判決は、
ダブルソレノイド弁とシングルソレノイド弁の通電に関して、「通電及び解除のための電気的回路をも動作上必須の要件とするものであ」ると判示している。
しかし、パイロット形電磁弁においては、「通電及び解除のための電気的回路」は動作上必須の要件となるが、極めて常識的に適宜設計されるものであり、
明細書において電気的回路等の説明をしなくても、当業者にとっては自明の事項である。
ダブルソレノイド弁として使用する場合の電気的回路(以下「電気的回路1」という。)とシングルソレノイド弁として使用する場合の電気的回路(以下「電気的回路2」という。)は、同一のものでよく、これらを切り替えるようにする必要は全く存在しない。当初明細書等記載のダブルソレノイド形電磁弁は、1つのパイロット弁によりシングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用できるのであるから、「通電及び解除のための電気的回路」も、当初明細書等から自明である。
2 特許と実用新案登録における、図面の解釈の相違について 平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)5条2項は、「願書には、明細書図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定しており、同改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条2項が、「願書には、明細書、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定しているのとは明白な差異がある。すなわち、旧実用新案法5条2項においては、その出願に図面の添付を必須の要件としているのに対し、旧特許法36条2項においては、図面の添付を必須の要件とはしていない。
これは、実用新案法は、特許法と異なり、図面によって表わされる程度の物品の形状構造または組合せを保護の対象としているためである。このように、図面の提出が必須である実用新案登録においては、明細書に記載がなく、図面のみから読みとれる事項についても、技術的な意味を持つものとして読みとられるべきである。
本件において争点となっている二つのピストンの大小という関係及びその大小の差がどの程度のものであるかは、図面をみれば一目瞭然である。決定のように、二つのピストンの大小さえも技術的な意味を持つものとして図面から読みとれないとするのであれば、実質的に、図面には技術的な意味をもつ事項が記載されない、とすることになる。
3 審査基準との関係について 特許庁の特許・実用新案審査基準の[例22]には、出願当初の明細書に「真珠光沢成層体」及び「一般服飾品の真珠光沢成層体」という記載があるのみで、これが「ぼたん」であることを示す記載がないにもかかわらず、図面の記述に基づいて「ボタン」と補正するのを「明細書又は図面に記載された事項の範囲内」と認定すること、つまり、技術的な意義を読み取ることが示されている。この例によれば、「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」であることを当初図面から読み取ることができると認定されるべきである。
また、同審査基準の[例25]には、出願当初の明細書の発明の詳細な説明中に、現像定着剤にCMC(糊剤)が含まれているという記載があることを理由として、「糊剤を含む現像定着剤はペースト状であるから層を厚くできる。したがって画像の濃度を充分にすることができる。」という、出願当初の明細書には全く記載されていない効果を挿入する補正が、明細書の要旨を変更するものではない例として示されている。この例によれば、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できることを当初明細書等から読み取ることができると認定されるべきである。
被告の反論の要点
1 本件考案のピストンの径差の構成について (1) 甲第7ないし第11号証刊行物は、単に図面のみが「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」に表示されているにとどまらず、シングルソレノイド形電磁弁として使用することが、文言上においても明記されている。上記各刊行物のように文言上明確な記載があるものと、シングルソレノイド形電磁弁として使用することについて文言上全く言及がなく、しかも、構成各部の寸法関係の指標さえも示されていない当初明細書等とを同一に論ずることはできない。
本件考案に係るパイロット形電磁弁を、シングルソレノイド形電磁弁として使用するには、「上記第2手動切換装置の操作軸75をばね76の付勢力に抗して上方より押圧して、パイロット流体圧を常に小径の第2ピストン19側に作用させる図2の切換位置に維持した状態において、第1パイロット弁2aに対応する第1ソレノイド機構30aをオン・オフさせて大径の第1ピストン18に対しパイロット流体を供給及び排出させる」(段落【0022】)という特段の操作を必要とする。このような特段の操作を必要とする使用態様は、当初図面から自明とはいえない。
(2) 原告は、「通電及び解除のための電気的回路」が「当業者にとっては自明の事項」である旨の主張をするが、当該電気的回路が自明のものであったとしても、ダブルソレノイド形電磁弁でありながら「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できることが当初明細書等から自明のものといえない以上、この主張の当否は結論に何ら影響を及ぼすものではない。
2 特許と実用新案登録における、図面の解釈の相違について 原告は、実用新案出願では図面が必須のものであるのに対し、特許出願では図面が必須のものとされていないところから、実用新案出願と特許出願とでは、図面から読みとるべき事項を変えるべき旨の主張をする。しかし、このような考え方をすると、特許出願と実用新案出願との間で、互いに他に出願変更されたときに、
同一の図面から読みとるべき事項が変化する事態も想定され、不合理な結果を招くことは明らかである。また、図面の断片的な記載のみに基づいて、いたずらに過剰な技術解釈をすることは、過去の多数の判例等に基づいて既に確立している実務慣行に明らかに反することにもなる。
3 審査基準との関係について 特許庁の特許・実用新案審査基準の[例22]においては「一般服飾品」、
[例25]においては「糊剤」という、それぞれ補正事項を自明の事項として読みとる根拠となるだけの記載が、出願当初の明細書に明確に存在することが指摘されているのである。本件では、そのような記載が当初明細書等に全く存在していないから、それらの例にならうことは不適切である。
当裁判所の判断
1 甲第2号証(本件登録実用新案登録公報)によれば、本件考案の「第1ピストンが第2ピストンよりも大径をなしていて」とは、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できるように、「第1ピストン18と第2ピストン19の両方にパイロット流体圧が作用している状態」では、「主弁体12が第1ピストン18に押されて右方向に移動」する程度の径の差がある構成(本件考案のピストンの径差の構成)を意味する記載であることが認められる。
2 甲第5号証(当初明細書等)によれば、当初明細書には、「第1ピストン18と第2ピストン19の両方にパイロット流体圧が作用している状態」では、「主弁体12が第1ピストン18に押されて右方向に移動」する程度に、第1ピストンが第2ピストンよりも大径であるということに関する記載はなく、これに関係するかもしれないものとしては、当初図面に第1ピストン6aの径が第2ピストン6bの径よりも大であるかにみえる図が描かれているにすぎないことが認められる。
3 実用新案登録出願に係る図面は、技術的思想である考案の理解を容易とするため明細書記載の技術的事項を理解するための補助手段として使用されるものであるから、図面のみから、明細書に記載がなくかつ図面上にも明確な記載のない事項を技術的な意味を持つものとして読み取ることは、原則としてできないというべきである。
本件においても、前記のとおり、当初明細書に第1ピストンと第2ピストンの径の大小関係及びその程度などに関する記載はなく、また、当初図面にも、これらを認識させるような寸法や目盛りなどの記載はない。
そうである以上、当初図面に第1ピストン6aの径が第2ピストン6bの径よりも大であるかにみえる図が描かれているとしても、具体的にどの程度第1ピストンの径の方が大きいのかを認めることはできないから、第1ピストンと第2ピストンの両方にパイロット流体圧が作用している状態では、主弁体が第1ピストンに押されて右方向に移動する程度に、第1ピストンが第2ピストンよりも大径であることがこれによって示されていると認めることはできない。
4 のみならず、甲第2号証によれば、本件考案をシングルソレノイド形電磁弁として使用する場合には、第2手動切換装置の操作軸75を押圧した状態に維持することが必要であり、この状態を実現するためには、操作軸75を操作者が押圧し続けるか、又は操作軸75を押圧状態に維持できるような機構を備えなければならないことが認められる。そして、甲第2号証によれば、本件明細書には、「従来のパイロット形電磁弁は、主弁体の両側にある2つの同径のピストンに圧力流体を作用させるため、一方のパイロット弁が故障した場合などには、1つのパイロット弁だけで応急的に該主弁体を切り換えることができず、使用不能となってしまうという問題があった。・・・シングルソレノイド形電磁弁のように、1つのパイロット弁をオン・オフするだけで主弁体を切り換え可能にすることが望まれている。」(【0002】〜【0003】)との記載があることが認められ、上記記載によれば、本件考案をシングルソレノイド形電磁弁として使用するのは、一方のパイロット弁が故障した場合などであることが認められる。そうだとすると、故障が回復するまでの間は、短時間ではないことが予想されるから、操作軸75を押圧状態に維持できるような機構を備えることが有利であって、そのような機構を設けずに、操作者が操作軸75をずっと押圧し続けることは容易ではないことは明らかである。
甲第5号証によれば、当初明細書等には、「第2手動操作装置34bは、第2操作釦35b・・・を備え、第2操作釦35bは、非操作時にはパイロット供給流路30とパイロット共通入力路21を連通させるとともに・・・、第2パイロット弁部10bと第2ピストン収容箱5b間の上記第2パイロット出力流路32bを連通させ・・・、押圧により・・・パイロット供給流路30とパイロット共通入力路21の連通を維持するとともに・・・、パイロット供給流路30を第2パイロット出力流路32bに連通させ・・・、押圧を解除すると元の状態に復帰するものとして構成されている。」(【0009】)との記載があることが認められ、上記記載によれば、当初明細書等記載のパイロット形電磁弁においては、第2操作釦の押圧により、供給ポートPと第2ピストン室(第2ピストン収容箱)とが連通し、また押圧解除によりその連通が遮断されるものであって、押圧を解除しても押圧状態が維持されるものではないことが認められる。そうだとすると、当初明細書等には、第2操作釦を押圧状態に維持できるような機構について、記載も示唆もなく、
もしも、当初明細書等記載のパイロット形電磁弁において、「第2手動切換装置を操作して、パイロット流体圧を常に小径の第2ピストン側に作用させる切換位置に維持した状態」を実現するためには、操作者が第2操作釦を押圧し続けなければならない、というほかはない。
そうである以上、当初明細書等に接した当業者が、操作者が操作軸75をずっと押圧し続けるという容易ではない操作を自明のことと認識するとは認められないから、当初明細書等には、これに記載されたパイロット形電磁弁をシングルソレノイド形電磁弁として使用することについても、記載も示唆もされていないというべきである。
したがって、当初明細書等に、本件考案のピストンの径差の構成が記載されていると認めることは、この点においてもできないのである。
5 原告は、甲第7ないし第11号証刊行物に、当初図面と同程度のピストンの径差を有し、シングルソレノイド形電磁弁として使用する電磁弁が記載されているから、「第1ピストンが第2ピストンよりも大径」であって、シングルソレノイド形電磁弁として使用する電磁弁は、原出願日以前に極めて一般的に知られていたと主張する。
甲第7ないし第11号証によれば、甲第7ないし第11号証刊行物においては、各刊行物中の明細書に、シングルソレノイド形電磁弁として使用することが記載されていることが認められる。ところが、甲第5号証によれば、当初明細書等に記載されていたのは、二つのソレノイドを有する電磁弁であったことが認められる。
そして、特許や実用新案に係る願書に添付された明細書にシングルソレノイド形電磁弁として使用することが記載されているものについて、それに対応する図面上、二つのピストンに径差があるようにみえるように記載されているものがあったとしても、そのことから直ちに、二つのピストンに径差があるようにみえる図面の記載がありさえすれば、ダブルソレノイド形電磁弁であってもシングルソレノイド形電磁弁として使用し得るものであることを当業者がそれによって理解できるわけではないことは、むしろ自明というべきである。原告の主張は、主張自体失当というべきである。
6 原告は、電気的回路1と電気的回路2は同一のものでよく、これらを切り替えるようにする必要は全く存在しないから、当初明細書等に記載のダブルソレノイド形電磁弁は、1つのパイロット弁によりシングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用できると主張する。
しかし、仮に、電気的回路1と電気的回路2は同一のものでよいとしても、
そのことから、当初明細書等に、第1ピストンと第2ピストンの両方にパイロット流体圧が作用している状態では、主弁体が第1ピストンに押されて右方向に移動する程度に、第1ピストンが第2ピストンよりも大径である、というピストンの径に関する技術事項が記載されているとすることはできない。そして、上記技術事項が当初明細書等に記載されていない以上、電気的回路1と電気的回路2は同一のものでよいとしても、本件考案に係る出願が、適法な分割出願となるものではない。
7 原告は、特許と異なり、出願に図面の提出が必須である実用新案登録においては、明細書に記載がなく、図面のみから読みとれる事項についても、技術的な意味を持つものとして読みとられるべきであると主張する。
しかし、特許と実用新案は、相互に出願変更が可能であり、その際、図面が変更を要しないものであるときは、その提出を省略することができる(旧特許法46条1項、同法施行規則31条4項、旧実用新案法8条1項、同法施行規則6条4項)。そうだとすると、もしも、特許であるか実用新案登録であるかによって、願書に添付された図面の解釈が異なるとすれば、出願変更がなされた場合に、同一図面の解釈が異なることになり、不合理を招来することは明らかというべきある。したがって、図面が提出された場合、その図面の解釈が、特許であるか実用新案登録であるかによって異なると解することはできない。
実用新案法は「産業上利用することができる考案であって物品の形状構造又は組合わせに係るもの」(3条1項)を登録対象としているから、図面によって表現することが適切であるのに対し、特許法は「産業上利用することができる発明」(29条1項)を特許の対象としており、図面によって表現することが適切でない化合物等をも対象としている。実用新案登録出願においては図面の提出が必須であり、特許出願においてはそうではない理由は、化合物等、図面によって表現することが適切でないものをも対象としているからにすぎない。
原告の主張は、採用することができない。
8 原告は、特許庁の特許・実用新案審査基準の例によれば、当初明細書等から、「シングルソレノイド形電磁弁と同様の操作で使用」できることが読み取ることができると認定されるべきであると主張する。
しかし、裁判所は、分割出願が適法であるか否かの判断に当たり、特許庁の特許・実用新案審査基準に拘束されるものではないから、原告の主張は失当である。
なお、原告があげる上記審査基準の[例22]及び[例25]は、本件とは事案を異にするから、決定の判断が上記審査基準に違背しているということもできない。
9 以上のとおりであるから、 原告主張の決定取消事由は理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充