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事件 平成 12年 (ネ) 4209号 不当利得請求控訴事件
控訴人(原告) A
訴訟代理人弁護士 笹原桂輔
同 笹原信輔
同 森田哲治
同 石川勝利
控訴人(原告) B
訴訟代理人弁護士 岩本勝彦
同 武川襄
控訴人両名訴訟代理人弁護士 中川寛道
控訴人両名補助参加人 C
訴訟代理人弁護士 牛島信
同 佐藤直史
同 松島基之
被控訴人(被告) 日本電信電話株式会社
訴訟代理人弁護士 本間崇
訴訟復代理人弁護士 田中成志
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/17
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用中参加により生じた費用は控訴人ら補助参加人の負担とし、
その余の費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴人らの求めた判決
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らに対し、金12億5000万円及びこれに対する平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 次の2ないし4のとおり、当審における控訴人ら及び補助参加人並びに被控訴人の主張の要点を付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」のとおりである。
控訴人らは、被控訴人に対して、テレホンカードを製造、販売する被控訴人の行為が、控訴人Aが有していた実用新案登録第2058104号の本件実用新案権1(本件考案1。考案の名称「テレホンカード」、昭和59年9月5日出願(本件原出願)、平成7年4月20日登録)、及び控訴人らが有していた実用新案登録第2150603号の本件実用新案権2(本件考案2。考案の名称「テレホンカード」、平成6年5月24日に本件原出願から分割出願、平成12年3月17日登録)の技術的範囲に属する製品の製造、販売に当たると主張して、本件実用新案権1、及び本件実用新案権2(仮保護の権利を含む。)に基づき、出願日である昭和59年9月5日から10年間の実施料相当額合計570億円の1部125億円の不当利得の返還と本件訴状送達の日の翌日である平成11年11月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
これに対し、原判決は、被控訴人の製造、販売するテレホンカード(被告物件)の構成中の半月状の「切欠部」は、本件考案1の構成要件(3)の「該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成る」「該指示部」に該当せず、また、本件考案2の構成要件(3)の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」「該指示部」に該当せず、被告物件は、本件考案1及び本件考案2のいずれの技術的範囲にも属しないと判断して、控訴人らの本訴請求を棄却した(なお、原判決中、本件考案1の構成要件に関して、「カード枠体」と表記している箇所があるのは、特許庁の公報発行時に「カード本体」とすべきところを「カード枠体」と誤植したことによるものであり、当該箇所は「カード本体」が正しいことについては、当審において当事者間に争いがない。)。
2 当審における控訴人らの主張の要点 (1) 実用新案権の技術的範囲の解釈は、その実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて行われることとされており(実用新案法26条、特許法70条1項)、
場合によっては、考案の詳細な説明を参酌することができるが(特許法70条2項)、解釈の中心となるのは、実用新案登録請求の範囲の記載である。本件考案1及び本件考案2の実用新案登録請求の範囲の記載は十分に明確であり、あえて発明の詳細な説明を参酌するまでもなく解釈可能である。しかし、原判決は、実用新案登録請求の範囲の記載自体の検討を、本件考案1について、わずか10行しかしておらず、本件考案2については、全く検討をしていないのであって、実用新案登録請求の範囲の記載を軽視した権利解釈をしている。
(2) しかも、原判決が本件考案1についてした検討の内容をみると、構成要件(3)の「該指示部」の構成について、カード状に切り取った後に変形させるか(以下「順次形成」という。)、あるいは、カード状に切り取る際に同時に切り離すか(以下「同時形成」という。)という製造方法の相違に着眼し、本件考案1の「該指示部」は、順次形成のもので、同時形成のものは含まないと認定し、本来、
実用新案が予定していない製造方法に関する差異を構成要件の解釈に持ち込んでおり、誤りである。
すなわち、実用新案法にいうところの考案は、物品の形状構造又は組み合わせに係るものであって、「製造方法」の考案なるものは存在しない。本件考案も「テレホンカード」という「物品の形状又は構造」に関する考案であることは明白であり、原判決が認定するように、本件考案1につき、順次形成の構造に限定するとの構成要件は、本件考案1に係る明細書中に、「実用新案登録請求の範囲」欄を含め、どこにも記載されていない。原判決は、「実用新案登録請求の範囲」欄を含む明細書に記載されていない製造方法を構成要件に取り入れたのみならず、本来、要件となり得ない製造方法を構成要件に取り入れたという二重の誤りを犯している。
そして、原判決は、被告物件について、同時形成の製造方法によるものであるから、本件考案1の技術的範囲に含まれないものであると判断している。なるほど、
製造方法の限定が、完成物品の形状あるいは構造自体を限定していると解されるのであれば、構成要件となる余地もあろうが、本件考案の場合は、順次形成であろうと、同時形成であろうと、結果としては全く同じ形状あるいは構造物品が製造されるのであるから、製造方法による限定には、何らの意味もない。
したがって、仮に、原判決が判断するように、本件考案1の構成要件上、「順次形成」の製造方法に限定されるとしても、これと「同時形成」の製造方法との相違は、形式的な相違にすぎず、事実上の相違は何もないのであるから、均等の範囲内にあるというべきである。
また、仮に、被告物件の「切欠部」と本件考案1の「押形部」との間に、構成上のわずかな形式的な相違あるいは表現上の相違があったとしても、少なくとも機能上、及び作用効果上の相違が全くないことが明白であることからすれば、それは実質的な相違といえるものではなく、少なくとも均等の範囲内にあることに疑問の余地はない。
(3) 原判決は、このように実用新案登録請求の範囲の記載を軽視しており、
他方、出願人が、出願当初明細書の「切欠部、穴部或いは押形部などからなる・・・指示部」という記載から「切欠部」、「穴部」の記載を削除し、これに合わせて2つの図を削除し、「押形部」の記載のみを残した行為をとらえて、「切欠部」は削除したから、「切欠部」である被告物件には権利侵害はないと結論付けている。しかし、「押形部」の概念と「切欠部」あるいは「穴部」の概念との間には技術用語として重なりがあり得るから、被告物件の「切欠部」は、本件考案1及び本件考案2の「押形部」の概念に包含される可能性が十分にあり、実際に、包含されていると考えるべきである。
(4) また、原判決は、本件考案1の技術的範囲として、「指示部」について、「カード本体から、その辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを除外していると解すべきである」と判示している。
これは、出願人が出願当初明細書から削除した二つの実施例のことを根拠としていると思われるが、実施例削除したからといって、本件考案1の技術的範囲から除外したものと考えるのは不当であるばかりか、「カード本体からその一部を欠落させるもの」という上位概念の技術的範囲で除外していると解すべきであるとすると、明細書に残された「押形部」の実施例も、「厚さ」に対して、「へこみ」をつければ、当然に「欠落」を生ずることが明らかであることから、本件考案1の技術的範囲から除外されることになるから、原判決のような解釈が誤りであることは明白である。
(5) 原判決がこのような限定的な解釈をとる理由として述べる禁反言の法理は、本件のように、拒絶理由に対応し、その範囲を補正したような場合には、その補正の目的、回避しようとした先行(公知)技術の内容等から、出願人が真に意図した補正の範囲はどこにあったのかを慎重に検討して、禁反言を働かすべき範囲を定めるべきである。出願人が出願当初明細書における「切欠部、穴部或いは押形部などからなる・・・指示部」という記載から「切欠部」、「穴部」の記載とこれに合わせて2つの図を削除し、「押形部」の記載のみを残すという補正をした最大の目的は、特許庁より公知技術として、実開昭57-161131号(第一引用例)の存在を指摘されたからであり、これを回避するためであった。すなわち、第一引用例なる先行、公知技術を、自らの出願考案の中に含ませることはできないから、
これを除くために、補正をしたのである。原判決は、これに関して実用新案登録異議の申立てに対する異議答弁書等において出願人がした主張を、その真意を理解せずに断片的に取り出して、「カード本体から切り離してしまう」構成の全てを、本件考案1の技術的範囲から除外しているとするものであり、明らかに不当であるといわなければならない。
3 当審における控訴人ら補助参加人の主張の要点 (1) 原判決は、本件考案1の「指示部」の構成について、用語の通常の意味から、まず、材料をカード状に切り取り、その後、押圧を掛けて変形させるものと認定しているが、本件考案1に係る明細書のどこにも「まずカード状に切り取ってから押圧を掛ける」という記載はなく、そのように要件を解釈することははなはだ疑問であり、原判決は、実用新案登録請求の範囲はおろか明細書にも存在しない要件を補充して権利範囲を認定するという極めて基本的な誤りを犯している。
押圧を掛けるのは、カード状に切り取る際にも、カード状に切り取った後にも可能であり、本件考案1の構成要件は、その押圧を掛ける段階について何らの限定も付されていないと解すべきである。
また、本件考案1においては、どの段階で押圧を掛けるのかはもとより、どの方向からどの程度の力で「カード本体」を「押圧」するのかについても、何ら限定は付されていない。「カードをさすって指示部を確認することによって、カードの表裏の確認並びに差し込み方向を知ることができる」という本件考案1の作用効果を実現させるためには、本件考案1の実用新案登録請求の範囲記載の形状が作出されればよく、「押圧して」という製造方法に関する記載は、本件考案1にとって、その作用効果を実現させるために絶対不可欠な要件ではない。
(2) 本件考案1の「押形部」の社会通念上の意味を検討すると、これは、材料に圧力を加えて成型するに用いる器具(押し型)により成型された形状部を意味するものである。そして、一般的に、材料に圧力を加えて成型するために用いられる機械は、「プレス機械」、「プレス」と呼ばれ、「プレス機械」を用いて材料を塑性変形させて加工する方法の総称を「プレス加工」、「板金加工」という。そして、「プレス加工」には、「せん断加工」が含まれる。「せん断」とは、固体内の平行な面を互いにずらすような変形をいい、はさみで物を切るような場合も「せん断」の例とされる。この「プレス加工」の過程においては、金型に板状材料を密着させ、プレス機械によって金型に圧力を加え、それにより板状材料に所望の形状を施すということが行われるのである。この製造工程の観点から、本件考案1の「押圧して形成」というのは、「金型」及び「プレス機械」を使用して形成すること、
すなわち、「プレス加工」を意味することになる。
一方、本件考案1の「へこみ部」という記載をみると、「カード本体を」「押圧して形成され」るという以外に何らの限定も付されていない。したがって、「押圧して形成」という概念が「プレス加工」を意味することからすると、「プレス加工」に「せん断加工」が含まれている以上、「押圧して形成され」る「へこみ部」には、社会通念上の意味として、原判決が「切欠部」、「穴部」として「押形部」から除外されるとした「欠落」を伴う形状が含まれ得るはずであり、原判決の解釈は、この社会通念上の意味を全く考慮しないものであり、誤りである。
(3) 原判決が本件考案1の技術的範囲から除外されると認定した「欠落」とは、その用語自体の意味として、「(あるべき物が)抜け落ちること」(岩波国辞典第四版)と解するべきところ、カード本体からその一部を「抜け落ち」させる方法としては、原判決が例として挙げる「辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とす」方法の他にも、削る、彫る、貫通しない穴部を設けるなどの方法が存在する。そうすると、本件考案1がこれらの方法による「欠落」をも除外しているといえない限り、本件考案1から「欠落」が除かれるということはできないはずである。
(4) また、原判決は、「押形部」と「切欠部」は全く重なり合うことのない概念であるという前提によって立つが、「押形部」と「切欠部」とは、重なり合う可能性がある。すなわち、「切り欠き」とは、「材料力学において、材料の縁に局地的にできたへこみ部」とされている(「広辞苑」参照)。したがって、「切欠部」は、「へこみ部」という点で「押形部」と共通する要素を備えていることになり、「押形部」と「切欠部」は重なり合う概念ということになる。
(5) 本件において、出願人が出願当初明細書の全文を訂正したのは、拒絶理由通知を受けたからであるが、右通知で引用された実開昭57-161131号(第一引用例)をみると、「カードの特定された一部に切取線により区分して切離可能とした切除部を形成してなる磁気カード」が記載されている。このような経過に鑑みるならば、出願人が意識的に除外した「切欠部」は、「カード上の特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切除部」であり、「切取線により」カードから「切り離す」という構成要件を除外したのであって、当初から切り離して構成された形状について除外することは意図しておらず、出願人は、実用新案登録請求異議答弁書においてもその旨の意見を述べてはいない。このように、本件考案1の「押形部」には、「切取線」により切り離される「切除部」以外の「切欠部」を含むものであって、これは、原判決のいう「欠落」の全てを除外した概念ではないのである。
(6) 原判決は、本件考案1の「押形部」の要件として、「順次形成」であることを認定しており、本件考案2の「押形部」の要件としても、明言はしていないものの同じ要件を認定するものと思われる。このように、本件考案1及び本件考案2の構成要件として、実用新案登録請求の範囲等に記載のない「順次形成」の要件を附加することは誤りであるが、仮に、本件考案1及び本件考案2の「押形部」が「順次形成」によるものを意味するものと解釈され、「同時形成」による被告物件とは製造方法が異なると判断されるとしても、かかる製造方法の相違点については、最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決が示した均等論の要件を充足し、均等の範囲内にあると解される。
4 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 原判決がした本件考案1及び本件考案2の構成要件の解釈は、いずれも適切になされており、控訴人ら主張のような誤りはない。
(2) 本件考案1の手続補正書(甲第8号証)における実用新案登録請求の範囲には、「・・・該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部からなり、
該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部からなることを特徴とする、テレホンカード。」と記載されているから、本件考案1の実用新案登録請求の範囲には、カード本体が一旦形成された後で、これを押圧して右押形部(へこみ部)が形成されるという順次形成の製造方法が明示されていることが分かる。
このように、一旦、「押圧」の方法を含む実用新案登録請求の範囲が成立した以上、その製造方法に関する構成の記載は、実用新案に係る考案の必須の要件となるのであって、このような記載を物品の最終的な形態等を特定するための要件として考慮しなければならない。
原判決は、本件考案1の実用新案登録請求の範囲の記載に基づき、製造方法に関する構成要件を含めて解釈し、その結果得られる物品の最終的な形態が相違するのであるから、被告物件は本件考案1の技術的範囲に含まれないと判断したのであり、この判断に、控訴人ら及び補助参加人主張の誤りはない。
なお、控訴人ら補助参加人は、本件考案1において、どの方向からどの程度の力でどのような方法で「カード本体」を「押圧」するのかについて何ら限定は付されていない旨主張している。
しかし、本件考案1では、テレホンカードを対象としており、テレホンカードは表裏とも一様に平坦な薄いシート状の構造を有するものであるから、このテレホンカードの「本体を押圧して」「へこみ部」を形成するとは、カードを表裏方向に押圧してへこませることを指すと考えるのが極めて自然である。すなわち、仮に、カード本体に水平方向から押圧をかけることを想定すると、これによって水平方向にへこませるためには、極めて大きな押圧力を要し、カード本体の折れ曲がりやしわの発生によりテレホンカードとしての実用に供し難いという問題が発生することは明らかであるので、このような押圧方法は通常採り得ないものであるから、控訴人ら補助参加人の主張は失当である。そして、上記のとおり、カードを表裏方向に押圧してへこませるという方法のものであると考えることによって、本件考案1に係る明細書の「考案の効果」欄に、本件考案1の構成によって、「更には構成が簡単なので製造が容易である」という効果を奏することが記載されていることが理解されるのである。
(3) 控訴人ら及び補助参加人は、本件考案1及び本件考案2の補正後の「押形部」に、依然として被告物件の「切欠部」が包含されると主張し、その根拠として、技術用語である「押形部」の概念と、補正により削除された「切欠部」、「穴部」の概念との間には重なりがあり得る点を挙げている。
しかし、一般の概念としてはそのようなことがあり得ても、本件の場合には、本件考案1の出願当初明細書における実用新案登録請求の範囲に、「切欠部」、「穴部」、「押形部」という技術用語を3種類列挙していたのであるから、この3種の技術用語は、それぞれ異なる形状を示す技術用語として列挙されていると解するのが通常であり、このうち、前2者を削除したのであるから、残る「押形部」に「切欠部」が包含されないことは明白であって、控訴人ら及び補助参加人の主張は失当である。
(4) 控訴人らは、原判決が本件考案1の「押形部」についてした解釈について、出願人が出願当初明細書から2つの実施例削除したことを根拠とするものであり、また、その上位概念をとらえて本件考案1の技術的範囲から除外しようとする解釈は誤りであると主張しているが、本件考案1では、出願当初明細書には、前記のとおり、全く別の技術的概念として、「切欠部」、「穴部」、「押形部」が実施例とともに記載されていたところ、出願人は、拒絶理由通知に対応して引用された先行技術との抵触を回避するため、「切欠部」と「穴部」とに関する記載を実用新案登録請求の範囲実施例を含む明細書及び図面から全て削除し、「押形部」に関する記載及び図面だけを残すという補正を行ったものであり、2つの実施例のみを削除したのではないし、この補正内容からすれば、本件考案1の技術的範囲からは、「切欠部」と「穴部」に関する全ての概念が除外されたものと考えられ、このことは、「押形部」との概念との決定的な相違点である「切欠部」と「穴部」とに共通する概念である「カード本体からその一部を欠落させるもの」を除外したと解するのが極めて自然な解釈であり、原判決の判断に誤りはない。また、原判決が用いた「欠落」の意味は、「カード本体から平面的にみてその辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とす」という意味であり、控訴人ら及び補助参加人の「欠落」に関する主張は、原判決が用いた「欠落」の意味をねじ曲げて解釈したものといわざるを得ない。
さらに、控訴人ら及び補助参加人は、本件考案1につき、出願人が第一引用例との抵触を避けるためには、「切取線」により切り離す構成の「切欠部」を除外すれば十分であった旨の主張をしているが、被告物件の「切欠部」のような指示部が補正後も残されていたら、本件考案1について、第一引用例がその第2図として開示する「カードの一部が現実に切り離されている考案」から、当業者がきわめて容易考案をすることができたものとして、拒絶査定が確定したことは疑いないところであり、控訴人ら及び補助参加人の上記主張も失当である。
(5) 控訴人ら補助参加人は、本件考案1の「押形部」の社会通念上の意味として、「プレス加工」の概念を援用して、これに「せん断」も含まれる旨主張している。
しかし、社会通念上は、本件考案1の「カード本体の一部に形成された押形部」といえば、本件考案1に係る明細書の第1図に記載されるような薄いカードの表面の一部に形成されたエンボス状の凹凸部を指すものと解するのが通常であり、さらに、「該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成る」という「へこみ」とは、「物の表面がくぼむ。おちこむ。」(「広辞苑」、乙第14号証)とか、「(力が加わって)表面の一部が低くなる。」(「岩波国語辞典」、乙第15号証)というのがその語義であり、やはり、上記「エンボス状の凹凸部」を指すと解するのが素直な解釈というべきであろう。控訴人補助参加人の上記主張は、「プレス加工」の概念を追うあまりに、「へこみ」の本来の語義の検討を忘れたものであり、失当である。
(6) 控訴人らは、禁反言の法理の適用の範囲について主張しているが、本件のように、実用新案登出願に対する拒絶理由に対して、出願人がその実用新案登録請求の範囲補正した場合に禁反言を働かすべき範囲については、控訴人らが主張するように出願人が真に意図した補正の範囲の如何ではなく、その補正に関し、出願人が外形的に実用新案登録に係る考案技術的範囲に属しないことを承認したものと解されるような行動をとったか否かにより決すべきである。
(7) 控訴人及び補助参加人は、均等論の主張もするが、原判決は、本件考案1について、順次形成か同時形成かという製造方法の差異の有無のほかにも、「押形部」の形状の点で差異があると認定しており、また、本件考案2については、上記製造方法の差異を問題としていないのであって、その主張は失当である。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、被告物件は、本件考案1及び本件考案2の技術的範囲に属しないから、控訴人らの本訴請求は、いずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、下記の(1)ないし(10)のとおり訂正、付加するほかは、原判決が「第三争点に対する判断」として説示するとおりである。
(1) 原判決19頁2行目の「右「カード枠体」を押圧して形成され」る「へこみ部」の意義は」から20頁6行目の「より一層明らかである。」までを、次のとおり訂正する。
「したがって、本件考案1の「指示部」は、「カード本体の一部に形成された押形部」からなるものであり、「該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部」からなるという構成を備えるものとして特定されている。
ところで、登録実用新案の技術的範囲は、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めるべきであり、実用新案登録請求の範囲に記載された文言ないし用語が有する通常の意味から技術的範囲を認定することとなるが、
この場合において、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面をも考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するのが相当である(実用新案法26条、特許法70条1項、2項参照)。
そこで、右の「実用新案登録請求の範囲」欄に記載の用語の有する通常の意味についてまず検討する。
「押形部」について、甲第13号証(「広辞苑」)によれば、「押形(押型)」とは、「材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具」を意味することが認められるから、「カード本体の一部に形成された」「押形部」とは、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分」を意味することが認められる。そして、この「圧力を加える」ことは、上記実用新案登録の請求の範囲に記載の「押圧して」と同義であることは明らかであり、同記載の「へこみ部」について、乙第14号証(広辞苑)によれば、「へこみ」とは、「へこむこと。へこんだ箇所。くぼみ。」の意味であり、「へこむ」とは、「物の表面がくぼむ。おちこむ。」の意味であり、乙第15号証(「岩波国語辞典」)によれば、「(力が加わって)表面の一部が低くなる。」の意味であること、さらに、乙第14号証(広辞苑)によれば、
「くぼむ」とは、「一部分が落ちこんで低くなる。へこむ。」の意味であることがそれぞれ認められる。
したがって、本件考案1の実用新案登録請求の範囲に記載された用語の通常の意味からすると、本件考案1の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」とは、
「カード本体の材料の一部に圧力を加えて、その表面の一部分が落ちこんで低く成形された部分」としてその形状が特定されるものであると解釈することができる。
次に、本件考案1の願書に添附した明細書中の他の記載及び図面についてみると、乙第1号証によれば、本件考案1の出願当初明細書には、「実用新案登録請求の範囲」欄に、「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、
〔問題点を解決するための手段〕として、「その要旨とするところは、電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。」と記載され、〔作用〕として、「この考案によれば、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたから、切欠部、穴部或は押形部などからなる支持部(注、「指示部」の誤記)は・・・」と記載され、〔実施例〕として、「指示部2」について、「切欠部3」とする例が第1図として、「穴部4」とする例が第2図として、「押形部5」とする例が第3図として記載され、図示されており、また、〔考案の効果〕として、「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたから、切欠部、穴部或は押形部からなる指示部は・・・」と記載されていることが認められ、これらの他に、「押形部」や「指示部」の形状に関する記載は全くないことが認める。
そして、この願書による実用新案登録の出願に対して、後記認定のとおり、平成2年8月8日付けで、本件考案1の出願前の公知文献(実開昭57-161131号。第一引用例。)を引用した拒絶理由通知が発せられたため、出願人は、平成2年11月13日付けの「意見書に代える手続補正書」により、明細書を全文訂正し、出願当初明細書中の上記「切欠部、穴部或は押形部などからなる」との文言を全て「押形部からなる」と訂正し、図面中、第1図、第2図を削除し、第3図を第1図と訂正し、〔実施例〕として、「指示部2」について、「切欠部3」とする例及び「穴部4」とする例を削除し、右出願につき、平成5年6月24日、実用新案登録出願公告(実公平5-25007)がされた(甲第4号証、乙第3号証)。この全文訂正後の公告明細書には、「実用新案登録請求の範囲」欄に、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、〔問題点を解決するための手段〕として、「その要旨とするところは、電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。」と記載され、〔作用〕として、「この考案によれば、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は・・・」と記載され、〔実施例〕として、「指示部2」について、「押形部5」とする例が第1図として記載され、図示されており、また、〔考案の効果〕として、「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は・・・」と記載され、これらの他に、「押形部」や「指示部」の形状に関する記載は全くないことが認められる。
なお、右公告明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄の記載は、後に、出願人提出の平成6年5月24日付け手続補正書により、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とするテレホンカード」と補正されたが、出願人作成の同日付け「実用新案登録異議答弁書」には、その補正の理由として、「押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る」という補正は、
「押形部」という言葉の社会通念上の意味、すなわち、押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、「押形部」をさらに明確に限定したもの」であると記載されている(乙第7号証)。
このように、本件考案1の願書に添附した明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄の他の記載及び図面について、補正後の公告明細書、及び補正前の出願当初明細書のいずれをみても、本件考案1の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」とは、カード本体の一部を切除して、欠落させる「切除部(切欠部及び穴部)」を含むものではなく、前記の「実用新案登録請求の範囲」欄の記載の通常の文言解釈から導かれる「カード本体の材料の一部に圧力を加えて、その表面の一部分が落ちこんで低く成形された部分」として、その形状が特定されるものであることが明らかであるというべきである。
控訴人ら補助参加人は、本件考案1の「押形部」の構成において、「押圧」を加える方向についての限定はされていないと主張して、カード本体の表面からでなく、カード本体の側面(水平方向)から圧力を加えることも、その文言に含まれるという趣旨の主張をしているが、本件考案1がその対象とする「テレホンカード」の物品の形状は、カード本体の表面が平坦で、その側面が極く薄いシート状の構造を有するものであることは、技術常識に属することであり、したがって、当業者であれば、本件考案1の「カード本体の一部を押圧してへこみ部を形成する」との概念は、カード本体の材料の表面の一部に上下方向(表裏方向)から圧力を加えて、
該表面の一部分を上下方向に落ち込んで低く成形することを意味し、カード本体の材料の側面の一部に水平方向から圧力を加えて該側面の一部分を水平方向に落ちこんで低く成形させることを意味しない、と通常は理解するであろうことは明らかである。控訴人ら補助参加人の上記主張は、この通常の解釈に明らかに反するものであるし、また、本件考案1の補正後の公告明細書及び補正前の出願当初明細書の前記認定の記載内容に照らしても、控訴人ら補助参加人の上記主張は、裏付けを何ら持つものではないことが明らかであって、到底採用することはできない。
さらに、以上の判示に加えて、本件考案1の出願の経緯(本件考案1の出願当時の公知技術の状況、並びに、本件考案1の実用新案登録出願及び実用新案登録の状況、すなわち、本件考案1の出願当初明細書による実用新案登録出願に対する拒絶理由通知の内容、出願人がした出願当初明細書補正内容、出願人が求めた拒絶査定の不服の審判請求の理由の内容、その出願公告後にされた実用新案登録異議申立ての内容、出願人が提出した実用新案登録異議答弁書における陳述内容、特許庁がした右登録異議申立てに対する決定の内容等)を斟酌すれば、本件考案1の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」が、上記のとおり、カード本体の一部を切除して、欠落させる「切除部(切欠部及び穴部)」を含むものではないと解釈すべきことは、より一層明らかであるというべきである。」 (2) 原判決22頁5行目の「示された。」の次に改行して、次の説示を加える。
「右の引用例(後記の「第一引用例」に同じ。)には、以下の記載がある。すなわち、「表面に磁気記録欄を有するカードの特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切除部を形成してなる磁気カード」(乙第6号証の添付書類甲第1号証中の明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄参照)、「以下、本考案図面に示す実施例を参照して説明する。磁気カード1は、矩形状をなし、その一面側の特定された一部に磁気記録欄2が設けられ、この磁気記録欄2には公衆電話機用とした場合、金額が磁気記録される。上記磁気カード1の特定された一部には切除部3が切離可能に設けられている。第1図および第2図は、前記切除部3を磁気カード1の下端一隅に三角形状に設けた場合であり、第3図は同じく下端一隅に四角形状に設けた場合であり、さらに第4図は磁気カード1の下方部において一側方に片寄った位置に円形状に形成した場合である。」(同明細書3頁3行ないし16行)、「上記磁気カード1を使用するに当たっては、磁気カード1から切除部3をその切取線4に沿って切離させることにより、第2図示のように当該部分が欠落された形態の磁気カード1となり、その欠落部が電話機のカード受入れ装置に挿入された際の挿入事実確認、および磁気カード1の挿入方向(裏返しあるいは上下反転)の正誤検出に利用される。」(同明細書4頁10行ないし17行)、「使用する際に前記切除部3の欠落により磁気カード1の挿入方向が示されるので、カード受入れ装置への挿入方向の誤りが事前に分かり、装置の不要な動作をなくすることができ、装置に正しい作動をなさしめるうえにおいてきわめて有用に作用させることができる。」(同明細書5頁12行ないし17行)との記載があり、第2図として、「磁気カード1」から「切除部3」をその切取線4に沿って切り離したことによって、「当該部分が欠落された形態の磁気カード1」が図示されている。」 (3) 原判決28頁5行目の「全く異にすることになります。」の次に、改行して次の説示を加える。
「特許庁は、平成6年11月21日、右の実用新案登録異議の申立てにつき、
「本件登録異議の申立ては、理由がないものとする。」との決定をし、その理由として、第一引用例には、本件考案1の構成要件である「カード本体を押圧して形成されたへこみ部である押形部からなる指示部」を設けることが記載されておらず、
また、第二引用例には、表裏識別のための凹部をカセットテープ用ケースに設けることが記載されているが、本件考案1のようなテレホンカードとは技術分野が異なるものであり、テレホンカードに転用する示唆もなく、したがって、第二引用例に記載された凹部を第一引用例に記載されたものに適用することは当業者がきわめて容易になし得ることとはいえないと判断した(甲第2号証)。また、特許庁は、同日、本件考案1につき、拒絶査定を取り消し、実用新案登録をすべきものとする審決をした(乙第8号証)。」 (4) 原判決30頁1行目の「右「押形部」を削除された「穴部」と対比すると、」から4行目の「明らかである。」までを、次のとおり訂正する。
「右「押形部」を、削除された「切欠部」及び「穴部」と対比すると、前者は、
カード本体の表面から押圧を加えて、へこみを設けるものであるのに対し、後2者は、いずれもカード本体の平面の一部を切除し、欠落させるものである点で、相違することが明らかである。また、この出願人による明細書の訂正は、テレホンカードにつき、カード本体の一部を欠落させる「切除部」が記載され、「切欠部(実施例では、カード下端一隅に三角形状又は四角形状に設けられたもの)」と「穴部(実施例では、カードの下方部において一側方に片寄った位置に円形状に設けられたもの)」のいずれの構成も開示されていると認められる本件考案1の出願前の公知文献(実開昭57-161131号。第一引用例。)が引用されて、拒絶理由通知が発せられたためにされたものである。」 (5) 原判決31頁1行目の次に改行して、次の説示を加える。
「(3) そして、特許庁は、実用新案登録異議の申立てにつき、第一引用例には、本件考案1の構成要件である「カード本体を押圧して形成されたへこみ部である押形部からなる指示部」を設けることが記載されていないことを理由に挙げて、
「本件登録異議の申立ては、理由がないものとする。」との決定をし、また、本件考案1につき、拒絶査定を取り消し、実用新案登録をすべきものとする審決をしている。」 (6) 原判決31頁5行目から6行目にかけて「「切欠部」は、製造工程上、
カード状に切り離される際、同時に切り離されて形成されたものであると認められる(弁論の全趣旨)。」とあるのを、次のとおり訂正する。
「「切欠部」は、テレホンカードの本体の一部を切除して、欠落させた形状をなす部分であると認められる(弁論の全趣旨)。」 (7) 原判決32頁8行目の「本件考案2は、」から10行目の「本件原出願及び本件分割出願の経緯を検討することにする。」までを、次のとおり訂正する。
「そして、この構成要件(3)の「該指示部」とは、構成要件(2)の「カード本体の一部に、電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設け」との構成を受けて記載されているものであることから、本件考案2の「指示部」も、本件考案1の「指示部」と同様に、「実用新案登録請求の範囲」欄の記載上、「カード本体の一部に設けられた押形部」として表現されていることが認められる。したがって、この「押形部」の用語が通常有する意味から考察すれば、前判示のとおり、「押形部」からなる「指示部」とは、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分」であると認められる。ただし、本件考案2では、この「押形部」について、本件考案1のように「押圧して形成されたへこみ部」という文言ではなく、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」という文言で表現されて特定されている。
そこで、右の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」という文言の意義について検討すると、出願人が、後記認定の平成11年10月28日付け意見書(甲第6号証の3)において指摘するように、一般的には、右の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との文言中の「内方向にくぼんでいる」との意味を、前判示の「押形」の概念とは一応切り離して「形状」を表す概念として検討した場合には、「テレホンカードを平面的にみて、カードの中心方向にくぼんでいる形状にあること」を意味する場合と、「テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状にあること」を意味する場合とがあると認められる。
そして、次に認定するとおり、本件考案2は、本件考案1に係る出願当初明細書補正され、出願公告された後に、この本件考案1を原出願として分割出願されたものであり、この出願当初明細書、及び分割出願時の公告明細書にそれぞれ記載された事項及び図面の内容、並びに本件考案1が出願されてから本件考案2がその分割出願として実用新案登録されるまでの経緯によれば、本件考案2における「カード本体の内方向にくぼんでいる」との形状の意義も、「押形部」の形状を表現するものとして、本件考案1における「カード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部」との構成が前判示のとおり「カード本体の一部に圧力を加えて、その表面の一部の一部分が落ちこんで低く成形された部分」を意味するものであることと同様に、「テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状にあること」を意味するものであり、カード本体の一部を切除して、欠落させる「切除部(切欠部及び穴部)」を含まないものであることが明らかであるというべきである。すなわち、」 (8) 原判決34頁11行目の「例を追加し、」の次に、「考案の詳細な説明につき、段落【0007】の【問題点を解決するための手段】欄、段落【0008】の【作用】欄、段落【0014】の【考案の効果】欄に各記載の」を挿入する。
(9) 原判決36頁9行目の次に改行して、次の説示を加える。
「また、本件考案2につき実用新案登録すべきものとした審決は、平成11年10月14日付けの拒絶理由通知記載の拒絶理由に対する検討として、平成10年3月12日付けで補正され出願公告された明細書及び図面において、本件考案2の実用新案登録請求の範囲の「指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」に対応する記載は、明細書中の「実施例」の「この指示部は、図1に示す如くカード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんで形成されている」との記載及び図1だけであり、図1には、テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向の押形部を形成したものが記載されていることから、実用新案登録請求の範囲の「指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との記載は、図1に示すような上記の形状のものとして構成を特定することができるから、その記載が不明瞭であって構成を特定することができないものとはいえないし、また、本件考案2は、指示部を「カード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、且つ、
目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際、目の不自由な者の指がふれる位置」と限定した点で、原出願の考案(本件考案1)と相違し、この特定の位置に指示部を設けることが本件考案2の出願時に周知技術や慣用技術であったとはいえないから、両者が実質的に同一であるとすることはできず、したがって、本件考案2は、適法な分割出願であって、原出願の時に出願したものとみなすことができ、
本件考案2の出願日が現実の出願日であることを前提とした上記の拒絶理由は理由がないものと判断している(甲第7号証)。」 (10) 原判決37頁8行目の「出願公告(実願昭五九ー一三四六一一号)」を「出願公告(実公平5-25007)」と訂正する。
2 控訴人ら及び補助参加人は、当審における新たな主張として、原判決は、本件考案1ないし本件考案2の「押形部」の要件として、それが「順次形成」されるものであることを認定しているが、仮に、本件考案1ないし本件考案2の「押形部」が「順次形成」によるものを意味するものと解釈され、「同時形成」による被告物件とは製造方法が異なると判断されるとしても、かかる製造方法の相違点については均等の範囲内にあると解される旨主張している。
しかし、当裁判所は、本件考案1及び本件考案2の「押形部」の構成の解釈として、控訴人ら及び補助参加人が主張するような製造方法の差異による要件が附加されるものとの見解を採るものではないことは、前判示のとおりであるから、この見解を採ることを前提とする控訴人ら及び補助参加人の上記主張は、その均等の主張の当否を判断するまでもなく、失当であることは明らかである。
そのほか、控訴人ら及び補助参加人が当審において主張することを斟酌しても、
被告物件が本件考案1及び本件考案2の技術的範囲に属しないとする当裁判所の判断を覆すに足りるものとは認めることができない。
3 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史
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