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事件 平成 12年 (ネ) 4696号 不当利得請求控訴事件
控訴人(原告) 徳栄興産株式会社
訴訟代理人弁護士 馬場恒雄
同 田中史郎
同 吉能平
被控訴人(被告) 日本電信電話株式会社(以下「被控訴人日本 電信電話」という。)
訴訟代理人弁護士 本間崇
訴訟復代理人弁護士 田中成志
被控訴人(被告) 株式会社トーキン(以下「被控訴人トーキ ン」という。)
訴訟代理人弁護士 松本重敏
同 美勢克彦
同 秋山佳胤
補佐人弁理士 後藤洋介
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/17
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた判決
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自金5億円及びこれに対する被控訴人日本電信電話は平成11年12月16日から、被控訴人トーキンは同月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 次の2ないし4のとおり、当審における控訴人並びに被控訴人日本電信電話及び被控訴人トーキンの主張の要点を付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」のとおりである。
控訴人は、被控訴人ら各自に対して、テレホンカードを製造、販売する被控訴人日本電信電話の行為、及び同被控訴人の仕様に基づく磁気カードを製造し、同被控訴人に販売する被控訴人トーキンの行為が、控訴人が有していた実用新案登録第2058104号の本件実用新案権(共有持分権。考案の名称「テレホンカード」、
昭和59年9月5日出願、平成7年4月20日登録。本件考案)の技術的範囲に属する製品の製造、販売に当たると主張して、本件実用新案権に基づき、公告日である平成5年6月24日から本件実用新案権の存続期間が満了した平成11年9月5日までの6年間の実施料相当額126億円の1部63億円の不当利得の返還と本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
これに対し、原判決は、被控訴人日本電信電話の製造、販売するテレホンカード(被告物件)の構成中の半月状の「切欠部」は、本件考案の構成要件(三)の「該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成る」「該指示部」に該当せず、被告物件は、本件考案技術的範囲に属しないと判断して、控訴人の本訴請求を棄却した(なお、原判決中、本件考案の構成要件に関して、「カード枠体」と表記している箇所があるのは、特許庁の公報発行時に「カード本体」とすべきところを「カード枠体」と誤植したことによるものであり、当該箇所は「カード本体」が正しいことについては、
当審において当事者間に争いがない。)。
2 当審における控訴人の主張の要点 (1) 原判決は、本件考案の構成要件(三)の解釈として、「カード状に切り取られたものを素材として」押圧するものに限られ、カード状に切り取られる前のシート状材料からカードを製造する際に、同時に辺の一部をも切り離すことによって、切欠部を備えたカードを製造することは含まないと解されると判示して、被告物件の切欠部は、製造工程上、カード状に切り離される際、同時に切り離されたものであるとして、構成要件(三)を充足しないという判断をしている。
しかし、原判決が説示するこの製造工程上の差異は、本件考案の顕著な効果である「カードの表裏及び差込方向の確認を当初からすることができる」という点に関して何ら関係のないことである。また、そもそも、実用新案制度において保護されるのは、「物品の形状構造又は組み合わせに係る考案」であって、その製造方法ないし製造工程は保護の対象とはならない。したがって、本件考案の範囲を確定する上で、原判決のように製造方法による限定を加えることは、その保護の対象を不当に狭めるものであり、誤りである。 (2) 原判決は、本件考案の出願の経緯等から、本件考案の構成要件(三)の「押形部」は、「カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを除外していると解すべきである」と判示している。
原判決が右のように限定して解釈したのは、出願人が平成2年11月13日付けの「意見書に代える手続補正書」において、本件考案の出願当初明細書に記載していた第1図及び第2図の実施例削除したことを根拠とするようである。
しかし、出願人が右補正書で削除した第1図の実施例は、「二辺に跨る」ものであり、「辺の一部を切り離す」というようなすべての辺の「切り離しによる方法」を放棄したものではない。
しかも、出願人が削除したものは、特許庁が本件考案の実用新案登録出願に対する拒絶理由通知で引用した実開昭57-161131号(第一引用例)の「磁気カードに切除部を設け、この切除部が「切取線」によりカードから切り離しやすくするように構成されたもの」に対応する本件考案の出願当初明細書記載の第1図の実施例であって、全ての「切欠形状」を削除して、本件考案技術的範囲から放棄したものではない。右の先行、公知技術である第一引用例の考案は、「切取線」が設けられているものであり、製品としては切り離されておらず、製品として当初から切取部が設けられている訳ではない。
また、原判決が右のとおり本件考案技術的範囲から「カード本体からその一部を欠落させるもの」を除外して解釈した理由は明らかにされていないが、もし、そのような解釈を採るとすれば、押圧によって「へこみ部」が形成された場合でも、
右の「へこみ部」は、視覚的にも、物理的にも「欠落」というべきであり、結局「押圧によるへこみ部」も除外されてしまうことになるのであって、原判決の判断が誤りであることは明らかである。
(3) 控訴人が原審で主張したように、機械工学的には、「押圧による形成」とは、「プレス加工」のことである。そして、被告物件の指示部は、シート状の材料にプレス加工の方法によって形成されるものであり、被告物件は、「押圧による形成」によるものであるから、被告物件が本件考案技術的範囲に属しないとの原判決の判断は明らかに誤りである。
(4) 原判決は、本件考案の「押形部」について、「カード表面から押圧をかけて、へこみを有するように変形させて、「へこみ部」を形成するものに限定されると判断している。
しかし、控訴人が原審で主張したように、本件考案においては、「押圧」を加える方向、したがって、「へこみ」の方向については、何らの限定もしていない。つまり、カード本体のいかなる方向にへこみ部が存在するのかについては、何ら限定はないのであって、カード本体からみた場合に、そのへこみ部が垂直方向(上下方向)になるのか、あるいは水平方向になるのかは全く問題とならない。また、本件考案出願経過における出願人の陳述内容をみても、へこみ部を垂直方向に限定して解釈すべき理由を見いだすことはできないのであって、この点でも、原判決の認定は誤りである。
3 当審における被控訴人日本電信電話の主張の要点 (1) 本件考案補正後の実用新案登録請求の範囲には、「・・・該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部からなり、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部からなることを特徴とする、テレホンカード。」と記載されているから、このように実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件のすべてを有機的に結合された一体のものととらえれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、原判決のとおり、一旦できあがったカード本体を押圧してへこみ部を形成することが導かれる。
このように、「押圧」の方法を含む実用新案登録請求の範囲が成立した以上、その製造方法に関する構成の記載は、実用新案に係る考案の必須の要件となるのであって、このような記載を物品の最終的な形態等を特定するための要件として考慮しなければならない。
(2) 本件考案では、出願当初明細書には、指示部を表すため形状に関する技術的概念として、「切欠部」、「穴部」、「押形部」という3種類を実施例とともに記載されており、この3種の技術用語は、それぞれ異なる形状を示す技術的概念として列挙されていると解するのが通常であるところ、出願人は、拒絶理由通知に対応して引用された先行技術(第一引用例)との抵触を回避するため、出願当初明細書及び図面から、「切欠部」及び「穴部」に係る一切の記載を削除したのであるから、実施例の「二辺に跨る切欠部」だけでなく「辺の一部を切り離したもの」も含まないように削除したものと解されるのであり、このように解さないと拒絶理由を回避するという補正の目的を達成することができなかったことは、第一引用例の開示された技術内容から明らかであって、控訴人の「二辺に跨る切欠部」のみを削除したという主張は失当である。
また、この補正内容からすれば、本件考案技術的範囲からは、「切欠部」と「穴部」に関する全ての概念が除外されたものと考えられ、したがって、「押形部」との概念との決定的な相違点である「切欠部」と「穴部」とに共通する概念である「カード本体からその一部を欠落させるもの」を除外したと解するのが素直な解釈であり、原判決の判断に誤りはない。
(3) 控訴人は、本件考案の「押圧による形成」は「プレス加工」の意味であり、被告物件がこれに当たる旨主張しているが、被告物件がプレス加工により形成されているからといって、そこにおける指示部が本件考案の「押圧によって形成された」「へこみ部」に該当するか否かは全く別の問題であり、被告物件のように「切除されて形成されたへこみ部」が、本件考案の「へこみを有するように変形させた押形部」とは全く異なることは明らかである。。
(4) 控訴人は、本件考案の「押形部」について、どの方向から「押圧」し、
「へこみ部」を形成するかについて何ら限定は付されていない旨主張している。
しかし、本件考案では、テレホンカードを対象としており、テレホンカードは表裏とも一様に平坦な薄いシート状の構造を有するものであるから、このテレホンカードの「本体を押圧して」「へこみ部」を形成するとは、カードを上下(表裏)方向に押圧してへこませることを指すと考えるのが極めて自然である。すなわち、仮に控訴人主張のように、カード本体に水平方向から押圧をかけることを想定すると、これによって水平方向にへこませるためには、極めて大きな押圧力を要し、カード本体の折れ曲がりやしわの発生によりテレホンカードとしての実用に供し難いという問題が発生することは明らかであるので、このような押圧方法は通常採り得ないものである。
また、社会通念上、本件考案の「カード本体の一部に形成された押形部」といえば、本件考案に係る明細書の第1図に記載されるような薄いカードの表面の一部に形成されたエンボス状の凹凸部を指すものと解するのが通常であり、さらに、本件考案の「へこみ部」という「へこみ」とは、「物の表面がくぼむ。おちこむ。」(「広辞苑」、乙第10号証)とか、「(力が加わって)表面の一部が低くなる。」(「岩波国語辞典」、乙第11号証)というのがその語義であり、やはり、
上記「エンボス状の凹凸部」を指すと解するのが素直な解釈というべきであり、被告物件の切欠形状がこれに当たらないことは明らかである。
4 当審における被控訴人トーキンの主張の要点 (1) 控訴人の主張は、いずれも原審における主張を繰り返すものであって、
被控訴人トーキンが原審で反論したとおり、すべて失当である。
(2) 実用新案登録請求の範囲に製造方法の記載がされることは実務上しばしばあり、その場合、かかる方法は「物品の形状構造」を特定、明示するものとして理解すべきである。
原判決は、かような理解に立って、構成要件(三)の解釈を行っているのであり、その判断過程に誤りはなく、正当である。
(3) 控訴人は、本件考案の実用新案登録出願に対する拒絶理由で示された公知例(第一引用例)が開示しているのは、「二辺に跨る箇所」において、カードを使用する際に「切取線」によって切り取る方式のものに限定されており、出願人は、それ以外の方式は放棄していない旨主張している。
しかし、第一引用例の第1図には、使用前のカードの形態が開示されているが、
第2図には、「切取線」により切り欠いている形態のカードが開示されているのであり、出願人も、右公知例をみて、公知例には、出願当初明細書記載の「切欠部」、「穴部」の技術思想が開示されていると考えたからこそ、それらを実施例の記載とともに、本件考案の実用新案登録請求の範囲から削除したのである。その上で、出願人は、唯一残った「押形部」についても、その意味内容を「社会通念上の意味、即ち押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、「押形部」をさらに明確に限定した」と称して、さらに実用新案登録請求の範囲に「押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る」という補正をして、カードを表裏方向に押圧することにより形成するものが「へこみ部」であることを明らかにしたものである。
被告物件の「切欠部」は、このようにして出願人の補正によって削除された出願当初明細書に開示されていた第1図の「切欠部」と同一の技術思想のものであることは明白であって、これが本件考案技術的範囲に属するとの控訴人の主張は、まさに包袋禁反言の法理から許されるものではない。
(4) また、控訴人は、カードの水平方向への押圧による場合も本件考案の「へこみ部」に当たる旨の主張をしているが、日本語の意味、解釈として、「カード本体を押圧して形成されたへこみ部」というときに、カード本体の表裏面を押圧する以外に考えようがないし、出願人自身、前記のとおり、本件考案における「押形部」の意味について、「社会通念上の意味」を明確にするとして、「押形部」がカードを表裏方向に押圧することにより形成する「へこみ部」からなるものであることを明らかにしたのである。仮に、テレホンカードを水平方向に押圧などすれば、カードにしわができるし、押し込まれた部分が上下にはみ出してしまい、およそ実用性がない。また、「押圧して形成するへこみ部」というときに、切り離して得られる形状が含まれるはずがないことは明白であり、被告物件のように、カードの一部を打ち抜き、切り欠いたときの形状は、まさに「切欠部」としかいいようがないのであり、本件考案における「カード本体を押圧して形成されたへこみ部」の形状とは全く異なるものである。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、被告物件は、本件考案技術的範囲に属しないから、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、下記の(1)ないし(6)のとおり訂正、付加するほかは、
原判決が「第三争点に対する判断」として説示するとおりである。
(1) 原判決17頁6行目の「右「カード枠体」を押圧して形成され」る「へこみ部」の意義は」から18頁9行目から10行目にかけて「より一層明らかである。」までを、次のとおり訂正する。
「したがって、本件考案の「指示部」は、「カード本体の一部に形成された押形部」からなるものであり、「該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部」からなるという構成を備えるものとして特定されている。
ところで、登録実用新案の技術的範囲は、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めるべきであり、実用新案登録請求の範囲に記載された文言ないし用語が有する通常の意味から技術的範囲を認定することとなるが、
この場合において、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面をも考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するのが相当である(実用新案法26条、特許法70条1項、2項参照)。
そこで、右の「実用新案登録請求の範囲」欄に記載の用語の有する通常の意味についてまず検討する。
「押形部」について、「広辞苑(第5版)」によれば、「押形(押型)」とは、
「材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具」を意味することが認められるから(当裁判所に顕著)、「カード本体の一部に形成された」「押形部」とは、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分」を意味することが認められる。そして、この「圧力を加える」ことは、上記実用新案登録の請求の範囲に記載の「押圧して」と同義であることは明らかであり、同記載の「へこみ部」について、乙第10号証(広辞苑)によれば、「へこみ」とは、「へこむこと。へこんだ箇所。くぼみ。」の意味であり、「へこむ」とは、「物の表面がくぼむ。おちこむ。」の意味であり、乙第11号証(「岩波国語辞典」)によれば、「(力が加わって)表面の一部が低くなる。」の意味であること、さらに、乙第10号証(広辞苑)によれば、「くぼむ」とは、「一部分が落ちこんで低くなる。へこむ。」の意味であることがそれぞれ認められる。
したがって、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された用語の通常の意味からすると、本件考案の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」とは、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて、その表面の一部分が落ちこんで低く成形された部分」としてその形状が特定されるものであると解釈することができる。
次に、本件考案の願書に添附した明細書中の他の記載及び図面についてみると、
乙第1号証及び丙第1号証によれば、本件考案の出願当初明細書には、「実用新案登録請求の範囲」欄に、「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、〔問題点を解決するための手段〕として、「その要旨とするところは、電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。」と記載され、〔作用〕として、「この考案によれば、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたから、切欠部、穴部或は押形部などからなる支持部(注、「指示部」の誤記)は・・・」と記載され、〔実施例〕として、「指示部2」について、「切欠部3」とする例が第1図として、「穴部4」とする例が第2図として、「押形部5」とする例が第3図として記載され、図示されており、また、〔考案の効果〕として、
「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けたから、切欠部、穴部或は押形部からなる指示部は・・・」と記載されていることが認められ、これらの他に、「押形部」や「指示部」の形状に関する記載は全くないことが認める。
そして、この願書による実用新案登録の出願に対して、後記認定のとおり、平成2年8月8日付けで、本件考案の出願前の公知文献(実開昭57-161131号。第一引用例。)を引用した拒絶理由通知が発せられたため、出願人は、平成2年11月13日付けの「意見書に代える手続補正書」により、明細書を全文訂正し、出願当初明細書中の上記「切欠部、穴部或は押形部などからなる」との文言を全て「押形部からなる」と訂正し、図面中、第1図、第2図を削除し、第3図を第1図と訂正し、〔実施例〕として、「指示部2」について、「切欠部3」とする例及び「穴部4」とする例を削除し、右出願につき、平成5年6月24日、実用新案登録出願公告(実公平5-25007)がされた(甲第2号証、乙第3号証及び丙第3号証)。この全文訂正後の公告明細書には、「実用新案登録請求の範囲」欄に、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、〔問題点を解決するための手段〕として、
「その要旨とするところは、電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。」と記載され、〔作用〕として、「この考案によれば、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は・・・」と記載され、〔実施例〕として、「指示部2」について、「押形部5」とする例が第1図として記載され、図示されており、また、〔考案の効果〕として、「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は・・・」と記載され、これらの他に、「押形部」や「指示部」の形状に関する記載は全くないことが認められる。
なお、右公告明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄の記載は、後に、出願人提出の平成6年5月24日付け手続補正書により、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とするテレホンカード」と補正されたが、出願人作成の同日付け「実用新案登録異議答弁書」には、その補正の理由として、「押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る」という補正は、
「押形部」という言葉の社会通念上の意味、すなわち、押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、「押形部」をさらに明確に限定したもの」であると記載されている(乙第7号証の1及び丙第7号証)。
このように、本件考案の願書に添附した明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄の他の記載及び図面について、補正後の公告明細書、及び補正前の出願当初明細書のいずれをみても、本件考案の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」とは、カード本体の一部を切除して、欠落させる「切除部(切欠部及び穴部)」を含むものではなく、前記の「実用新案登録請求の範囲」欄の記載の通常の文言解釈から導かれる「カード本体の材料の一部に圧力を加えて、その表面の一部分が落ちこんで低く成形された部分」として、その形状が特定されるものであることが明らかであるというべきである。
控訴人は、本件考案の「押形部」の構成において、「押圧」を加える方向、したがって、「へこみ」の方向についての限定はされていないと主張して、カード本体の側面(水平方向)から押圧することも、その文言に含まれるという趣旨の主張をしているが、本件考案がその対象とする「テレホンカード」の物品の形状は、カード本体の表面が平坦で、その側面が極く薄いシート状の構造を有するものであることは、技術常識に属することであり、したがって、当業者であれば、本件考案の「カード本体の一部を押圧してへこみ部を形成する」との概念は、カード本体の材料の表面の一部に上下方向(表裏方向)から圧力を加えて、該表面の一部分を上下方向に落ち込んで低く成形することを意味し、カード本体の材料の側面の一部に水平方向から圧力を加えて該側面の一部分を水平方向に落ちこんで低く成形させることを意味しない、と通常は理解するであろうことは明らかである。控訴人の上記主張は、この通常の解釈に明らかに反するものであるし、また、本件考案補正後の公告明細書及び補正前の出願当初明細書の前記認定の記載内容に照らしても、控訴人の上記主張は、裏付けを何ら持つものではないことが明らかであって、到底採用することはできない。
さらに、以上の判示に加えて、本件考案の出願の経緯(本件考案の出願当時の公知技術の状況、並びに、本件考案の実用新案登録出願及び実用新案登録の状況、すなわち、本件考案の出願当初明細書による実用新案登録出願に対する拒絶理由通知の内容、出願人がした出願当初明細書補正内容、出願人が求めた拒絶査定の不服の審判請求の理由の内容、その出願公告後にされた実用新案登録異議申立ての内容、出願人が提出した実用新案登録異議答弁書における陳述内容、特許庁がした右登録異議申立てに対する決定の内容等)を斟酌すれば、本件考案の構成要件中の「指示部」を構成する「押形部」が、上記のとおり、カード本体の一部を切除して、欠落させる「切除部(切欠部及び穴部)」を含むものではないと解釈すべきことは、より一層明らかであるというべきである。」 (2) 原判決20頁9行目の「示された。」の次に改行して、次の説示を加える。
「右の引用例(後記の「第一引用例」に同じ。)には、以下の記載がある。すなわち、「表面に磁気記録欄を有するカードの特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切除部を形成してなる磁気カード」(乙第6号証の添付書類甲第1号証中の明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄参照)、「以下、本考案図面に示す実施例を参照して説明する。磁気カード1は、矩形状をなし、その一面側の特定された一部に磁気記録欄2が設けられ、この磁気記録欄2には公衆電話機用とした場合、金額が磁気記録される。上記磁気カード1の特定された一部には切除部3が切離可能に設けられている。第1図および第2図は、前記切除部3を磁気カード1の下端一隅に三角形状に設けた場合であり、第3図は同じく下端一隅に四角形状に設けた場合であり、さらに第4図は磁気カード1の下方部において一側方に片寄った位置に円形状に形成した場合である。」(同明細書3頁3行ないし16行)、「上記磁気カード1を使用するに当たっては、磁気カード1から切除部3をその切取線4に沿って切離させることにより、第2図示のように当該部分が欠落された形態の磁気カード1となり、その欠落部が電話機のカード受入れ装置に挿入された際の挿入事実確認、および磁気カード1の挿入方向(裏返しあるいは上下反転)の正誤検出に利用される。」(同明細書4頁10行ないし17行)、「使用する際に前記切除部3の欠落により磁気カード1の挿入方向が示されるので、カード受入れ装置への挿入方向の誤りが事前に分かり、装置の不要な動作をなくすることができ、装置に正しい作動をなさしめるうえにおいてきわめて有用に作用させることができる。」(同明細書5頁12行ないし17行)との記載があり、第2図として、「磁気カード1」から「切除部3」をその切取線4に沿って切り離したことによって、「当該部分が欠落された形態の磁気カード1」が図示されている。」 (3) 原判決26頁9行目の「全く異にすることになります。」の次に、改行して次の説示を加える。
「特許庁は、平成6年11月21日、右の実用新案登録異議の申立てにつき、
「本件登録異議の申立ては、理由がないものとする。」との決定をし、その理由として、第一引用例には、本件考案の構成要件である「カード本体を押圧して形成されたへこみ部である押形部からなる指示部」を設けることが記載されておらず、また、第二引用例には、表裏識別のための凹部をカセットテープ用ケースに設けることが記載されているが、本件考案のようなテレホンカードとは技術分野が異なるものであり、テレホンカードに転用する示唆もなく、したがって、第二引用例に記載された凹部を第一引用例に記載されたものに適用することは当業者がきわめて容易になし得ることとはいえないと判断した(甲第4号証)。また、特許庁は、同日、
本件考案につき、拒絶査定を取り消し、実用新案登録をすべきものとする審決をした(甲第1号証、弁論の全趣旨)。」 (4) 原判決28頁5行目から6行目の「右「押形部」を削除された「穴部」と対比すると、」から8行目の「明らかである。」までを、次のとおり訂正する。
「右「押形部」を、削除された「切欠部」及び「穴部」と対比すると、前者は、
カード本体の表面から押圧を加えて、へこみを設けるものであるのに対し、後2者は、いずれもカード本体の平面の一部を切除し、欠落させるものである点で、相違することが明らかである。また、この出願人による明細書の訂正は、テレホンカードにつき、カード本体の一部を欠落させる「切除部」が記載され、「切欠部(実施例では、カード下端一隅に三角形状又は四角形状に設けられたもの)」と「穴部(実施例では、カードの下方部において一側方に片寄った位置に円形状に設けられたもの)」のいずれの構成も開示されていると認められる本件考案の出願前の公知文献(実開昭57-161131号。第一引用例。)が引用されて、拒絶理由通知が発せられたためにされたものである。」 (5) 原判決29頁5行目の次に改行して、次の説示を加える。
「(3) そして、特許庁は、実用新案登録異議の申立てにつき、第一引用例には、本件考案の構成要件である「カード本体を押圧して形成されたへこみ部である押形部からなる指示部」を設けることが記載されていないことを理由に挙げて、
「本件登録異議の申立ては、理由がないものとする。」との決定をし、また、本件考案につき、拒絶査定を取り消し、実用新案登録をすべきものとする審決をしている。」 (6) 原判決29頁9行目から末行にかけて「「切欠部」は、製造工程上、カード状に切り離される際、同時に切り離されて形成されたものであると認められる(検乙一、弁論の全趣旨)。」とあるのを、次のとおり訂正する。
「「切欠部」は、テレホンカードの本体の一部を切除して、欠落させた形状をなす部分であると認められる(検乙第1号証、弁論の全趣旨)。」 2 以上のほか、控訴人が当審において主張することを斟酌しても、被告物件が本件考案技術的範囲に属しないとする当裁判所の判断を覆すに足りるものとは認めることができない。
したがって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史
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