関連審決 |
審判1997-862 審判1996-862 審判1997-8448 |
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関連ワード | 考案 / 図面 / 構造 / 補正 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 引用考案の認定 / 相違点の認定 / 新規性(3条1項) / きわめて容易 / 判決の拘束力 / 減縮 / 実施例 / 容易に想到 / 頒布 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
178号
審決取消請求事件
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原告 アイリスオーヤマ株式会社 訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同弁理士 三好千明 同 飯島紳行 被告 株式会社グリーンライフ 訴訟代理人弁理士 吉井剛 同 吉井雅栄 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/04/19 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成8年審判第862号事件について平成11年4月16日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実(1(5)は当裁判所に顕著な事実である。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は、考案の名称を「ホースリール」とする登録第1984515号の登録実用新案(昭和61年1月14日出願、平成2年7月16日公告、同5年9月24日設定登録。以下「本件登録実用新案」といい、その実用新案登録を「本件実用新案登録」という。その出願を「本件出願」という。)の実用新案権者である。 被告は、平成8年1月13日、本件登録実用新案が実用新案法3条1項3号又は同条2項に該当して登録を受けることができないものであるとして、これを無効とすることについて審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成8年審判第862号事件として審理し、同年8月13日に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした(以下「前審決」という。)。被告は、前審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起し、当庁では、これを平成8年(行ケ)第210号事件(以下「前件訴訟」ということがある。)として審理した。 (2) 被告及び訴外金沢樹脂工業株式会社は、平成9年、本件登録実用新案が実用新案法3条2項に該当して登録を受けることができないものであるとして、別途、本件実用新案登録を無効とすることについて審判の請求をし、特許庁は、これを平成9年審判第8448号事件として審理した。 (3) 当庁では、平成8年(行ケ)第210号事件について審理した結果、平成10年6月24日、前審決を取り消す旨の判決をし、これが上告期間の経過とともに確定した(以下「前判決」という。)。 (4) 原告は、平成9年審判第8448号事件係属中である平成10年7月10日、同事件における手続として、実用新案登録請求の範囲の減縮及び明細書の明りょうでない記載の釈明を目的として、本件登録実用新案に係る願書添付の明細書(願書添付の図面を含む。以下「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。特許庁は、平成8年審判第862号事件と平成9年審判第8448号事件とを併合して審理したうえ、平成11年4月16日付けで、事件番号を「平成8年審判第862号、平成9年審判第8448号」、及び、「平成9年審判第8448号、平成8年審判第862号」とする二つの審決を、いずれもその主文を「登録第1984515号実用新案の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」としてなし(以下、前者を「本件審決」、後者を「別件審決」という。)、本件審決については同年5月19日に、別件審決については、そのころ、それぞれ原告に謄本を送達した。 (5) 原告は、上記両審決の取消しを求めて当裁判所に二つの訴えを提起し、これらが平成11年(行ケ)第177号及び同年(行ケ)第178号(本件)各審決取消請求事件として係属した。被告及び訴外金沢樹脂工業株式会社は、平成12年2月22日付けで、上記平成9年審判第8448号の審判請求を取り下げ、その結果、 当裁判所は、平成11年(行ケ)第177号審決取消請求事件につき、別件審決に係る訴えは、取り消すべき対象を欠いて不適法であり、その不備は補正することができないことが明らかである、として原告の訴えを却下し、これが確定した。 2 実用新案登録請求の範囲(別紙図面(1)参照) (1) 本件訂正請求前の実用新案登録請求の範囲(以下、同実用新案登録請求の範囲に係る考案自体を「本件考案」という。) 「ホースを巻き取るリール1が互に結合された左右フレーム2、3の間に回転自在に支持されているホースリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる複数の中空の杆体7、8を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、 杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合したことを特徴とするホースリール。」 (2) 本件訂正請求に係る実用新案登録請求の範囲(以下、同実用新案登録請求の範囲に係る考案自体を「訂正考案」という。) 「ホースを巻き取るリール(1)が互に結合された左右フレーム(2、3)の間に回転自在に支持されているホースリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる複数の中空の杆体(7、8)を有しており、対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合するとともに、 ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体の先端部とを杆体の中心軸に沿ったタップねじ(15)で結合したことを特徴とするホースリール。」 3 本件審決の理由 別紙審決理由の抜粋(審決書の理由から平成9年審判第862号に係る部分を抜粋してまとめたものである。)のとおりである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
別紙審決理由の抜粋中、1頁3行ないし5頁3行、7頁24行ないし8頁2行を認め、その余を争う。 本件審決は、訂正考案に関し、訂正考案及び米国バイコー社の案内のための印刷物(甲第3号証(審判では甲第4号証)。以下「引用刊行物」という。)に記載された技術(以下「引用考案」という。)の認定を誤り(取消事由1)、また、 訂正考案の奏する顕著な作用効果を看過し(取消事由2)、その結果、訂正考案につき進歩性がなく、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない、と誤った結論を導いたものであり違法であるから、取り消されるべきである。 また、仮に本件訂正請求が認められないとしても、本件審決は、本件考案に関し、上記のとおり引用考案の認定を誤り(取消事由3)、その結果、本件考案につき進歩性が認められないと誤った結論を導いたものであり違法であるから、取り消されるべきである。 1 取消事由1(訂正考案の進歩性についての検討における訂正考案及び引用考案の認定の誤り) (1) 訂正考案の認定の誤り 本件審決は、訂正考案と引用考案とを対比するに当たり、訂正考案が、二つの杆体の結合に関し、引用考案にはない構成を具備している点を看過している。 訂正考案は、「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されて」いる点(特徴的事項1)、「ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合する」点(特徴的事項2)、「ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体の先端部とを杆体の中心軸に沿ったタップねじ(15)で結合した」点(特徴的事項3)に特徴を有する考案である。このように、訂正考案は、杆体の一方の先端にソケット(14)が形成されているのみならず、このソケット(14)は他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合することが可能なものであり、また、単にタップねじを用いるとしたことのみにとどまらず、このタップねじで「ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体の先端部とを結合した」点に特徴を有するものである。にもかかわらず、本件審決は、これらの点を看過したまま、訂正考案と引用考案とを対比しているのである。 (2) 引用考案の認定の誤り 本件審決は、引用刊行物の分解斜視図(別紙図面(2)参照)について、「左フレームの杆体の先端部の内側には、間隔を置いて円弧が描かれていることが認められるが、これのみによってはこの円弧がどのようなソケット構造であるかは特定できない」(別紙審決理由の抜粋5頁8行〜10行)としつつ、「しかし、右フレームの杆体の先端部には円錐台のように側面が円錐面ではなく、杆体の外径より径小の段部が認められ、分解斜視図の記載及び管状体同士のその当時の接合構造をも勘案すると、上記分解斜視図には、左右フレームの杆体の先端部の一方である左フレームの杆体の先端部の先端に、他方の杆体である右フレームの杆体の先端部を上記段部により差し込む構造のソケットが形成されているものが示されていると解するのが妥当であ」る(同頁10行〜15行)と認定し、この認定を前提に、引用考案には、「コードを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持されているコードリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる3個の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を段部によって差し込むソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込むとともに、ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体とを杆体の中心軸に沿ってボルト・ナットで結合するコードリール」(別紙審決理由の抜粋5頁16行〜22行)の技術が開示されている、と認定したが、この認定のうち「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を段部によって差し込むソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込む」の部分は、誤っている。 引用考案の接合構造は、左杆体の先端部が右杆体の先端部を差し込んで結合することが可能なソケット構造を備えているものではなく、単なる円錐面同士の突き合せであるとするのが素直な理解である。 すなわち、引用刊行物の分解斜視図によれば、そこに示されているのは、 左フレームの杆体の先端部がその内周縁を面取りして形成された内縁円錐面を有するのに対し、右フレームの杆体の先端部は、その外周縁を面取りして形成され、上記内縁円錐面との面接触が可能な外縁円錐面を有するものと解するのが相当であるから、引用刊行物には、左フレームの杆体の先端内周縁を面取りするとともに、右フレームの先端外周縁を面取りし、これら面取りにより形成された円錐面を突き合わせて、ボルト及びナットで締結する構成が示されているとすべきである。 このように、引用考案には、「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を段部によって差し込むソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込む」との構成は示されてはいないのである。 (3) 上述したところによれば、本件審決が、訂正考案と引用考案との対比において、両者は、「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込むソケットが形成されており、ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体の先端部とを結合した線条材料巻取りリール」(同頁末行〜6頁3行)との構成を有する点で一致している、と認定したことも、両考案の認定により上記相違点を看過したことから生じた誤りであることが明らかである。 以上のとおり、本件審決は、訂正考案の進歩性について検討するに当たり、訂正考案の認定及び引用考案の認定を誤り、その結果、訂正考案と引用考案との相違点を看過して、一致点でないものを一致点としており、これが本件審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから、取消しを免れない。 (4) 被告は、確定した前判決により、引用刊行物に、被告のいう「一方の杆体の先端のソケットに、他方の杆体の先端部を差し込んで結合する構造」が開示されていることが確定しているので、原告が、本訴において、これに反する主張をすることは紛争の蒸し返しとなり許されない旨主張するが、失当である。 前審決で審理判断の対象となったのは、引用刊行物が本件登録実用新案の出願前に頒布されたか否かをめぐる認定の当否であり、この点について、同審決は、引用刊行物は本件登録実用新案の出願前に頒布されたものではないと判断した。これに対し、前判決は、引用刊行物は本件登録実用新案の出願前に頒布されたものであると認定し、この点で同審決は誤っているものとして同審決を取り消したものであるから、同判決で確定された事項は、引用刊行物が本件登録実用新案の出願前に頒布されたものである、ということだけであり、行政事件訴訟法33条1項により特許庁長官が拘束されるのも、この点だけである。被告が指摘するとおり、 前判決は、引用刊行物に記載された内容に言及しているけれども、この点は、同審決の認定の誤りが結論に影響を及ぼすか否かという観点から判断されたものにすぎないから、当審において、特許庁も裁判所も原告も上記認定に何ら拘束されるものではない。 2 取消事由2(訂正考案の顕著な作用効果の看過) 本件審決は、「「タップねじ」も「ボルト・ナット」も部材同士を固着する固定手段としてどちらもよく慣用されて知られているものであり、刊行物に記載のものの連結手段としてのボルト・ナットに代えて、タップねじを採用して上記相違点2のように構成するようなことは、当業者が必要に応じてきわめて容易に想到し得たものであり、この点も格別なことではない」(別紙審決理由の抜粋7頁6行〜10行)としたうえ、「訂正請求に係る考案が奏する効果も刊行物に記載のもの及び前記従来周知・慣用の技術事項から予測し得る程度のものである。 」(同頁13行〜15行)と判断した。しかし、本件審決は、前述したとおり、訂正考案と引用考案との相違点を看過し、その結果、訂正考案の有する、杆体の一方を他方のソケットに差し込んで結合し(第1の結合手段)、更にタップねじで結合する(第2の結合手段)という新規な構成について何らの評価もしていない。 訂正考案は、上記第1及び第2の両結合手段によって、タップねじが水に濡れる機会を少なくすることができ、これによりタップねじの腐食を防止し、ホースリールの耐久性を向上させることができるという顕著な作用効果を奏するものである。 しかも、第1の結合手段であるソケットと他方の杆体の先端部との結合により、杆体同士をホースリール使用時に作用する応力に対して剛性の高い状態に結合することが可能となる。 その他、タップねじを用いることにより、中空の杆体内部でのねじ止め作業を一方の杆体内部から一方向的に行うことができ、これにより、杆体の内部のねじによる結合作業を容易に行うことができ、また、ソケットとそのソケットに差し込んだ他方の杆体の先端部とは密接した位置関係にあるので、結合に必要なねじの長さを短くすることができ、これにより、組立作業を容易化することができるという効果もある。 以上のような訂正考案の作用効果は、引用考案によっては決して奏することができない顕著かつ有益な作用効果である。このような顕著な作用効果を看過して訂正考案の進歩性を否定した審決は違法であり、取り消されるべきである。 3 取消事由3(本件考案の進歩性の検討における引用考案の認定の誤り) 本件審決は、本件考案の進歩性との関係においても、引用刊行物に「コードを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持されているコードリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる3個の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を段部によって差し込むソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込むとともに、ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体とを杆体の中心軸に沿ってボルト・ナットで結合するコードリール」(別紙審決理由の抜粋8頁4行〜10行)が示されていると認定した。しかし、引用考案は、前述したとおり、 左フレームの杆体の先端内周縁を面取りするとともに、右フレームの先端外周縁を面取りし、これら面取りにより形成された円錐面を突き合わせて、ボルト及びナットで締結するものであるから、上記認定は誤りである。 本件審決は、上記誤った認定に基づき、本件考案と引用刊行物記載の考案(引用考案)との一致点・相違点を認定し、誤った一致点・相違点の認定に基づき、「本件考案は、引用例に記載のもの及び従来周知・慣用の技術事項に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである」と判断したものであるから、その認定判断はすべて誤りであって、本件登録を無効とするとの審決は取り消されるべきである。 |
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被告の反論の要点
本件審決の認定判断は、すべて正当であり、同審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(訂正考案の進歩性についての検討における訂正考案及び引用考案の認定の誤り)について (1) 訂正考案は、「タップねじ(15)で結合」するという構成に特徴があるのみである。原告のいう特徴的事項1及び同2は、いずれも引用考案において開示されており、特徴的事項3について、引用考案と相違するのは、唯一、ボルト・ナットによる結合でなく、タップねじによる結合となっている点であり、そこに訂正考案の特徴があるにすぎないのである。 (2) 引用考案のフレームの先端形状については、確定した前判決によって、 「コードリールの分解斜視図が表示されているところ、該分解斜視図には、コードを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持され、かつ、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる3個の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合する構成が示されているものと認められる。被告は、該分解斜視図のコードリールは、対応する杆体の先端部が同一径であり、他方の杆体の先端部を差し込んで得るソケットは設けられていないし、ソケットに他方の杆体の先端部が差し込まれてもいないと主張するが、該分解斜視図上、対応する杆体の一方の先端にソケットが形成され、他方の杆体の先端部をこれに差し込む構造であることは明らかである。」(乙第5号証27頁18行〜28頁12行)と認定されたことにより、引用刊行物には、「一方の杆体の先端のソケットに、他方の杆体の先端部を差し込んで結合する構造」が開示されていることが確定しているから、本訴において、原告がこれに反する主張をすることは紛争の蒸し返しとなり許されない。 原告は、前判決で確定された事項は、引用刊行物が本件出願前に頒布されたものであったということだけであると主張するが、失当である。引用刊行物に開示された技術内容が訂正考案の権利性の障害になるのでなければ、そもそも、同刊行物の頒布の時期を問題にする意味がないのであり、それゆえにこそ、現に前件訴訟ではその点も攻撃防御の対象とされ、これにつき裁判所の判断が示されたのである。このようにして示された判断に反する主張を本訴ですることは、紛争の蒸し返し以外の何物でもなく、許されないものというべきである。 (3) 仮に上記主張が認められないとしても、本件審決の認定したとおり、引用刊行物の分解斜視図は、左フレームの杆体の先端部の先端に、右フレームの杆体の先端部を上記段部により差し込む構造のソケットが形成されている状態を示している。 2 取消事由2(訂正考案の顕著な作用効果の看過)について 原告は、訂正考案は、上記第1及び第2の両結合手段によって、タップねじが水に濡れる機会を少なくすることができ、これによりタップねじの腐食を防止し、ホースリールの耐久性を向上させることができるという顕著な作用効果を奏するものであるなどと主張している。 しかしながら、引用刊行物には、訂正考案の「タップねじによる結合」という構成以外はすべて開示されているのであり、引用考案と訂正考案との相違は、唯一「ボルト・ナットによる結合」か「タップねじによる結合」かのみである。そして、ボルト・ナットに代えてタップねじを採用することは、当業者が必要に応じてきわめて容易に想到し得た事柄である。 原告は、タップねじを用いることによる訂正発明の作用効果を種々主張する。しかし、これらは、「タップねじ」が有する自明の効果にすぎず、到底、訂正考案の進歩性を肯定するに値する作用効果とはいえない。 3 取消事由3(訂正考案の進歩性についての検討における引用考案の認定の誤り)について 取消事由1で述べたとおりであり、本件審決に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正考案の進歩性についての検討における訂正考案及び引用考案の認定の誤り)について (1) 本件審決は、訂正考案の「ソケット」について、「そのソケットが対応する杆体の一方の先端に他方の杆体が差し込まれる構造であるということは、程度の差こそあれ差し込まれることにより結合されうるものであり、」(別紙審決理由の抜粋6頁下から2行〜7頁1行)と認定している。 訂正考案の実用新案登録請求の範囲には、「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されており、 ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合する」との記載があることは、当事者間に争いがない(前記第2の2(2)参照)。 上記記載によれば、訂正考案の「ソケット」とは、一方の杆体の先端部が凹形状となっており、他方の杆体の先端部が凸形状となっていて、後者が前者に差し込まれ、その結果、対応する杆体が結合されるというものであることが認められる。 一般的な用語法に従えば、「差し込む」という語は一方が他方の中に入ることを意味するものであり、「結合する」という語は結び合せて一つにすることを意味するものということができる。また、「差し込んで両杆体を結合可能な」、 「差し込んで結合する」というとき、「差し込む」ことが「結合する」ことの手段となっていることは語句自体から明らかであるから、「差し込む」とは、「結合する」という結果を生むものでなければならず、少なくとも、一方の先端部と他方の先端部とを単に突き合わせるだけの構成を含んでいないことは、明らかというべきである。 さらに、考案の詳細な説明をみると、甲第5号証(訂正請求書)の効果の項中には、「対応する杆体の一方の先端にソケットを形成し、他方の杆体の先端部をソケットに差し込んでねじで結合したので、杆体と杆体を強固に結合することができる。」(訂正明細書3頁8行〜10行)との記載があり、同記載によれば、訂正考案における、ねじによる結合の行われる前の杆体と杆体の「結合」は、ねじによる結合とあいまって強固な結合を生み出す要因となっているというのであるから、単なる突き合わせでは得られないそれなりに強固な結合の状態を意味しているものというべきである。そして、上記の考案の詳細な説明の「図面の簡単な説明」欄の「第1図はこの考案の実施例としてのホースリールの斜視図、第2図は同じホースリールの縦断面図」(同3頁15行、16行)との記載及び本件出願の願書に添付された図面第2図(甲第2号証。別紙図面(1)参照)をみると、訂正発明においては、その実施例として、左右フレームの杆体の先端部が段部によりある程度深く差し込まれる構造のものが記載されていることが認められ、この実施例は、上記の強固な結合の一例を示しているものというべきである。 ところが、本件審決は、訂正考案と引用考案とを対比するに当たり、前者における二つの杆体の結合構造につき、ただ、「そのソケットが対応する杆体の一方の先端に他方の杆体が差し込まれる構造である」としてのみ認定し、それ以上に上記のようなそれなりの強固な結合を生み出すものとは認定していないことは、審決の説示全体に照らし明らかである。結局、本件審決は、訂正考案における「結合」の構成における強度の要求を看過しているのである。 (2) 本件審決が、引用刊行物に、「コードを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持されているコードリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向って一体に延びる3個の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を段部によって差し込むソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込むとともに、ソケットと該ソケットに差し込まれた他方の杆体とを杆体の中心軸に沿ってボルト・ナットで結合するコードリール」との技術(引用考案)が記載されていると認定したことは、審決書の記載自体から明らかである(別紙審決理由の抜粋5頁16行〜22行参照)。 甲第3号証によれば、引用刊行物にはコードリールの分解斜視図が表示されており、左右フレームに設けられた3個の杆体についてみると、左杆体の先端部は、その内周縁を面取りした凹構造となっており、他方、右杆体の先端部は、その外周縁を面取りした凸構造となっており、そして、左右の杆体の先端部の凹構造と凸構造とを突き合わせる構造になっていることが認められる。 しかし、上記面取りした凹構造及び凸構造が、更にどのような形状となっているかは、上記分解斜視図からは明らかでないので、これらを直ちに「段部」を有する構造であるとも、円錐面となった構造であるとも認定することができない。 いずれにせよ、上記分解斜視図によれば、上記凹構造が著しく浅く、凸構造が著しく低いものであることは明らかである。したがって、これによって得られるのは、「突き合わせ」を可能とする構成にすぎず、そこから「結合」の名に値する状態を可能とする構成は得られない。他方、訂正考案の、ねじによる結合の行われる前の杆体と杆体の「結合」がそれなりに強固なものであることは、前述のとおりである。そうである以上、引用考案における上記凹構造及び凸構造は、訂正考案の「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合する」という構成に該当するものということはできない。 本件審決が、引用考案の上記凹構造と凸構造を「段部によって差し込む」構造である、と認定したのは、「段部によって」との認定に誤りがあるのみならず、この認定により、「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合する」という構成を具備するか否かにつき、引用考案を訂正考案と同視しているものであって、この点についても誤っているものといわざるを得ない。 (3) 上記のとおり、本件審決の、訂正考案及び引用考案における二つの杆体の先端部の構成の認定は、いずれも誤っている。しかし、引用考案における凹構造及び凸構造は、訂正考案の「対応する杆体の一方の先端に、他方の杆体の先端部を差し込んで両杆体を結合可能なソケット(14)が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで結合する」という要件を具備しているものということができないとしても、凹構造の深さを増し、凸構造の高さを増せば、直ちに、訂正考案にいう「差し込んで両杆体を結合可能な」、「差し込んで結合する」という構成を具備するに至ることが明らかであり、このことは、当業者のみならず一般人であっても直ちに理解し得るものというべきである。そして、引用考案に接した当業者が、その凹構造及び凸構造では結合に不十分であるという問題意識を持つことは、 ごく自然なことであり、これを解決するために、凹構造の深さを増し、凸構造の高さを増すという発想を思いつくことに、格別の創作力を要求するものでないことも明らかというべきである。 以上のとおりであるから、本件審決には、訂正考案の認定にも引用考案のの認定にも誤りがあるものの、その誤りは、同審決の結論に影響を及ぼすものではないということができる。 (4) なお、被告は、前判決において、引用刊行物に、被告のいう「一方の杆体の先端のソケットに、他方の杆体の先端部を差し込んで結合する構造」が開示されていることが確定しているので、原告が、本訴において、これに反する主張をすることは紛争の蒸し返しとなり許されない旨主張する。 しかしながら、前判決は、「対応する杆体の一方の先端にソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合する構成が示されているものと認められる。」と認定しているにすぎないのに対し、本件審決は、前述したとおり、「左右フレームの杆体の先端部」を「段部により差し込む構造」と認定しているのであるから、明らかに前判決とは異なる事実認定をしており、原告は、本件審決の上記認定の誤りを非難しているのであるから、前判決の拘束力が問題となる余地はない。 2 取消事由2(訂正考案がタップねじによって奏する顕著な作用効果の看過)について 原告主張の作用効果は、訂正考案の構成を採用した場合のものとして当然に予想される作用効果である。 原告主張の取消事由2も採用できない。 3 取消事由3(訂正考案の進歩性についての検討における引用考案の認定の誤り)について 原告は、本件考案との関係でも、引用考案の認定が誤っていることを理由に、審決の取消しを主張する。 前述したとおり、本件審決が、引用考案について、「段部によって差し込む」構造のものであると認定したのは誤りであるとしても、本件考案は、訂正考案のように「差し込んで両杆体を結合可能な」、「差し込んで結合する」との構成を要件としていないのであるから、上記誤りが審決の結論に影響しないことは自明である。 原告の取消事由3の主張が理由のないことも明らかである。 4 結論 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、 その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 阿部正幸 |