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関連審決 異議1998-72404
関連ワード 考案 /  図面 /  補正 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  拒絶理由 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  置換 /  数値限定 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 87号 実用新案取消決定取消請求事件
原告 シチズン時計株式会社
訴訟代理人弁理士高宗寛暁
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 豊岡静男
同 小林信雄
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第72404号事件について平成11年1月18日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,考案の名称を「液晶表示装置」とする実用新案登録第2553940号の登録実用新案(平成1年4月11日出願,平成9年7月18日設定登録。以下,「本件登録実用新案」という。)の実用新案権者である。
本件登録実用新案につき,平成10年5月12日,実用新案登録異議の申立てがなされ,特許庁は,これを平成10年異議第72404号事件として審理した。原告は,平成10年7月13日付けの取消理由通知を受けて,同年9月29日,訂正請求書(以下,この訂正を「本件訂正」という。)を提出し,その後,訂正拒絶理由通知を受けて,さらに,同年12月21日に手続補正書を提出した。特許庁は,上記事件について審理をした結果,平成11年1月18日,「実用新案登録第2553940号の実用新案登録を取り消す。」との決定をし,同年2月24日にその謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲 (1) 設定登録時の特許請求の範囲(以下「登録時考案」という。) 「透明電極の配設された第一の基板と透明電極および引出し配線の配設された第二の基板とを透明電極の配設された面を対向させて所定距離を隔て配置し周辺を異方性導電シール材で封止し前記封止内に液晶を注入すると共に前記第一の基板の透明電極を前記第二の基板の引出し配線の一部とを前記異方性導電シール材内の導電粒により接続した液晶表示装置に於いて,前記異方性導電シール材は弾性を有する前記導電粒と前記導電粒の分散性を高めるための前記導電粒の粒径よりわずかに小さい非導電性物質とシール材とよりなりさらに前記シール材に対する前記導電粒の割合を1から5重量%または/および前記シール材に対する前記非導電性物質の割合を5から30重量%の割合で前記シール材に混合した構成を特徴とする異方性導電シール材を用いた液晶表示装置。」 (2) 訂正請求に係る特許請求の範囲(以下「訂正考案」という。) 「近接する複数の透明電極が配設された第一の基板と透明電極および引出し配線の配設された第二の基板とを透明電極の配設された面を対向させて所定距離を隔てて配置し,前記第一と第二の基板で周辺を囲む所定幅寸法の異方性導電シール材よりなるシール材で封止し前記封止内に液晶を注入すると共に前記第一の基板の透明電極と前記第二の基板の引出し配線の一部とを前記異方性導電シール材の前記所定幅の内部で導電粒により接続した液晶表示装置に於いて, 前記異方性導電シール材は弾性を有する前記導電粒と前記導電粒の分散性を高めるための前記導電粒の粒径よりわずかに小さい非導電性物質とシール材よりなりさらに前記シール材に対する前記導電粒の割合を1から5重量%および前記シール材に対する前記非導電性物質の割合を5から30重量%の割合で前記シール材に混合した構成とし, 前記第一の基板上の前記透明電極と第二の基板の前記引出し配線との対向部に配置された前記異方性導電シール材の前記所定幅内で,異方性導電シール材内に分散する前記導電粒により,近接する前記透明電極間または引出し配線間でショートさせることなく,前記透明電極と前記引出し配線とを導通させたことを特徴とする異方性導電シール材を用いた液晶表示装置。」(別紙図面(1)参照) 3 本件決定の理由 本件決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。要するに,@本件訂正については,訂正考案は,特開昭62-218937号公報(甲第6号証。以下「引用刊行物1」という。)に記載された技術(以下「引用考案1」という。),特開昭59-17534号公報(甲第7号証。以下「引用刊行物2」という。)に記載された技術(以下「引用考案2」という。)及び実願昭60-149262号(実開昭62-57387号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲第8号証。以下「引用刊行物3」という。)に記載された技術(以下「引用考案3」という。)に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたから,実用新案法3条2項に該当し,実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるとし,A実用新案登録異議申立てについては,登録時考案は,引用考案1ないし同3に基づいて当業者が容易に考案することができたものであるから,本件登録実用新案の登録は実用新案法3条2項に違反してなされたものである,としたものである。
原告主張の取消事由の要点
本件決定の理由中,T(手続きの経緯),U(訂正請求の補正の適否),V(訂正の適否)のA(独立登録要件について)の(1)(訂正明細書請求項1に係る考案),(2)(引用文献)を認める。ただし,引用刊行物1ないし同3には,本件決定が摘示した以外の事項も記載されている。(3)(対比)のうち一致点の認定を争い,その余を認める。(4)(判断)を争う。ただし,一部認めるところがある。W(異議申立についての判断)を争う。
本件決定は,訂正考案と引用考案1との対比を検討する前提としての引用考案1の認定を誤り(取消事由1),相違点2についての判断を誤り(取消事由2),その結果,訂正考案進歩性を否定したものであって,上記認定判断の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,本件決定は取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正考案と引用考案1との対比を検討する前提としての引用考案1の認定の誤り) (1) 「近接する」との構成について 本件決定は,訂正考案と引用考案1との対比を検討するに当たって,引用刊行物1に「近接する複数の透明電極の配設された第一の基板」との構成が記載されていると認定したが,誤っている。
引用考案1における一方の基板に複数の電極が隣接して配設されていることは争わないけれども,引用考案1の「隣接」を,訂正考案の「近接」と同視することはできない。
一般的な用語法に従うと,「隣接」とは,「となりあってつづくこと」という意味を有するのに対し,「近接」とは,「近くにあること」,「近づくこと」,「接近」という意味を有するものであるから(甲第13号証・広辞苑第三版参照),「近接する」と「隣接する」とは,明らかに意味を異にしている。
また,訂正考案は,微細化した電極あるいは高密度表示の電極を具備する液晶表示装置を対象にしているから,訂正考案の「近接する」の技術的意味は,引用考案1の「隣接する(電極)」のそれと相違しているものである。
被告は,訂正考案における「近接する」という構成が,具体的にどの程度の間隔を指すのかについては,本件訂正に係る明細書及び願書に添付された図面(以下「訂正明細書等」という。)には一切記載がないという。
しかしながら,訂正明細書等の第1図(d)に,訂正考案における「近接する」という構成がどの程度の間隔を指すのか示されており(別紙図面(1)参照),同図によると,透明電極間の間隔は,導電粒が約3個分並ぶ間隔であることが容易に読みとれ,そうすると,導電粒の粒径は2〜10μmであるから,透明電極間の間隔は導電粒の粒径(2〜10μm)の3倍で,約6〜30μmとなる。
この点について,被告は,第1図(d)は単なる説明図であり,正しい寸法を記載した設計図ではないという。
しかしながら,本件考案のように,導電粒による連鎖状ショートを問題とするような考案を説明する図面の場合には,少なくとも,導電粒の周辺の状態を示す図面に関する限り,導電粒の粒径との関係ではその相対的大きさが正しく記載されるものである。なぜならば,そのように相対的に正しい大きさに記載されなければ説明図としても正しい説明ができないからである。
(2) 「所定幅の内部」との構成について 本件決定は,訂正考案と引用考案1との対比を検討するに当たって,引用考案1に「異方性導電シール材の前記所定幅の内部で導電粒により接続した液晶表示装置」との構成が記載されていると認定したが,誤っている。
(イ) 訂正考案は,異方性導電シール材の「所定幅の内部」で導電粒により接続する構成を採用し,第一の基板と第二の基板の電極同士を「所定幅の内部」の適宜の箇所でシール材内の導電粒により電気的接続することにして,近接する電極(導電粒)間に生ずるショートの防止を図っているものである。
一方,引用刊行物1(甲第6号証)の発明の詳細な説明の欄には,実施例1について,「シール材7で囲まれた電極基板6,6a間の空間に液晶11を注入し,」(3頁左上欄14行〜15行),「上記シール材7は上下の電極基板6,6aに設けられた電極13,13aの所定部間の電気的接続を得るべく所定の箇所に印刷されており,これを図ではシール部と導通部が連結されたパターンとして示している。」(3頁右上欄5行〜9行)との記載があり,また,同実施例を図示する第1図ないし第3図があり(別紙図面(2)第1図〜第3図参照),これらによれば,引用考案1においては,同一のシール材料を用いて液晶の封止と第一,第二の電極基板間の電気的接続を行っているものの,部位が液晶の封止をするシール部と第一,第二の電極基板間の電気的接続を行う導通部に区分され,第一,第二の電極基板間の電気的接続を行う導通部は,シール部の外側に存在しているものである。
したがって,引用考案1は,このように,シール材7の特定の箇所に導通部を設けるものであるから,異方性導電シール材の「所定幅の内部」の適宜の箇所でシール材内の導電粒により電気的接続する構成の訂正考案とは,全く構成が異なっているものである。
(ロ) 被告主張のとおり,引用刊行物1に「このシール材7はもちろん液晶11を密封する目的で設けられた部分の一部でもって上記電極基板6,6a間の適宜の箇所の電気的接続を得るようにしてもよい。」(3頁右上欄9行〜12行)という記載があることは事実である。しかし,上記記載は,訂正考案に係る権利の範囲が実施例に限定されないように,少しでも権利の範囲を拡げるために,明細書の作成において通常行なわれる拡張的記載にすぎず,具体的実施例の裏付けを有しないものである。
(3) 本件決定は,上記のとおり引用刊行物1に開示された技術(すなわち引用考案1)の認定を誤り,その結果,両考案の上記相違点を看過し,したがって,当然のことながら,同相違点についての判断もしていない。上記誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (1) 本件決定は,訂正考案の「前記シール材に対する前記導電粒の割合を1から5重量%および前記シール材に対する前記非導電性物質の割合を5から30重量%の割合で前記シール材に混合した」構成について,このような数値限定には格別の臨界的意義を認めることができない旨判断しているが,この判断は誤っている。
訂正考案の上記数値条件は,シール材に対する導電粒と非導電性物質との割合を種々に変えて,近接電極間での短絡との関係を種々実験を繰り返して得たものであり,この数値条件を外れると,近接電極間で短絡する確率が高くなり,液晶表示装置として使用できないことを示して,数値限定の持つ臨界的意義を明確にしているのである。したがって,上記数値限定には臨界的意義が存在することが明らかである。
(2) 被告は,非導電性物質のシール材中に,導電粒及び非導電性物質を混合して分散させれば,異方性導電シール材の横方向の導電性を絶ち,分散性を向上させる(短絡を防止する)ことが明らかである旨主張するが,これは,被告の単なる推測にすぎない。
また,被告は,引用刊行物1に,導電粒のシール材中への重量%による混合割合が,粒子の粒度分布,樹脂への分散性,上下電極面積及びその部分への塗布面積等の複数の条件により設定されることが記載されている旨主張する。
しかしながら,引用刊行物1に記載があるのは,樹脂中への導電性粒子の混合量についての数値のみであり,シール材中への導電粒及び非導電性物質の混合割合についての記載は一切ない。
さらに,被告は,異方性導電シール材中の導電粒及び非導電性物質における最適な混合割合を得ようとするならば,少なくとも,異方性導電シール材の幅,近接する透明電極間の間隔,引出し配線間の間隔,導電粒の粒径,非導電性物質の粒径に関する数値条件が必要であるのに,訂正考案においては,そのような数値条件に関する記載が一切ない旨主張する。
しかしながら,訂正明細書等の実施例及び第1図(d)によると,導電粒の粒径は2〜10μm(甲第5号証3頁20行)で,非導電粒の粒径は導電粒の粒径の95〜75%(同4頁1行)であり,したがって,非導電粒の粒径は1.5〜9.5μm((2〜10μm)×95〜75%)である。また,透明電極間の間隔は,第1図(d)より導電粒の粒径の約3個分であるから,約6〜30μm((2〜10μm)×3)である。引出し配線は,シール部においては一般に透明電極と対応して設けられているので,引出し配線間の間隔は透明電極間の間隔とほぼ同じである。
なお,訂正考案の課題は,異方性導電シール材によって,短絡(近接する透明電極間あるいは引出し配線間で導電粒が複数個鎖状に連なって生ずるもの)の防止をすることにあるから,被告指摘の数値のうち短絡防止に影響ある数値は,導電粒の粒径,非導電性物質の粒径,透明電極間および引出し配線間の間隔であって,その他の数値条件は,ほとんど影響がないものである。
このように,訂正明細書等には,被告が指摘する必要な数値条件が開示されているのである。
被告の反論の要点
本件決定の認定判断は,いずれも正当であって,本件決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(訂正考案と引用考案1との対比を検討する前提としての引用考案1の認定の誤り)について (1) 訂正考案における「近接する」という構成が具体的にどの程度の間隔を指すのか,については,訂正明細書等には一切記載がない。一般に,液晶表示装置において,一方の基板に配設される複数の表示電極の間隔は,十分に近接しているのであるから,引用考案1の「隣接する」という構成と,訂正考案における具体的数値の限定のない「近接する」という構成との間に,実質的な差違があるということはできない。
原告は,訂正明細書等の導電粒の粒径2〜10μmという記載と,第1図(d)の記載事項から,近接する透明電極間の間隔を6〜30μmであると主張しているが,失当である。訂正明細書等の第1図(d)は,単なる説明図であって,正しい寸法を記載した設計図ではなく,このような図面の記載から,近接する透明電極間の間隔が6〜30μmであるとすることはできないからである。
(2) 引用刊行物1の発明の詳細な説明の欄には,「このシール材7はもちろん液晶11を密封する目的で設けられた部分の一部でもって上記電極基板6,6a間の適宜の箇所の電気的接続を得るようにしてもよい。」(3頁右上欄9行〜12行),「本発明による導電性粒子混入樹脂は,電極基板間の電気接続をするが同一基板上の隣接する電極間には電気を通さないために,電極間ショートの不良が生じることがなく,しかもシール材および電極基板間の導電性材料として兼用することができる。」(4頁右上欄19行〜左下欄4行),との記載があり,これらの記載によれば,引用考案1においても,電極基板6,6a間の適宜の箇所で電気的接続を得ているというのであるから,同考案の構成は,この点において訂正考案の構成と相違するものではない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について 訂正考案の「前記シール材に対する前記導電粒の割合を1から5重量%および前記シール材に対する前記非導電性物質の割合を5から30重量%の割合で前記シール材に混合した」という数値限定に,格別の臨界的意義を認めることはできない。
非導電性物質のシール材中に,導電粒及び非導電性物質を混合して分散させれば,異方性導電シール材の横方向の導電性を絶ち,分散性を向上させる(短絡を防止する)ことが明らかである。引用刊行物1にも,導電粒のシール材中への重量%による混合割合が,粒子の粒度分布,樹脂への分散性,上下電極面積及びその部分への塗布面積等の複数の条件により設定されることが記載されており(甲第6号証3頁左下欄7行〜11行,同19行〜右下欄3行参照),例えば,導電粒の分散性の向上のために,上下電極面積等の変化に応じてシール材中の非導電性物質の混合割合を変えることが示唆されているのである。したがって,訂正考案の上記数値限定に格別の意味を見いだすことはできない。
また,異方性導電シール材中の導電粒及び非導電性物質における最適な混合割合を得ようとするならば,少なくとも,異方性導電シール材の幅,近接する透明電極間の間隔,引出し配線間の間隔,導電粒の粒径,非導電性物質の粒径に関する数値条件が必要であるにもかかわらず,訂正考案においては,そのような数値条件に関する一切の記載はなく,単に,異方性導電シール材中の導電粒と非導電性物質の重量%による混合割合が示されているにすぎない。前記数値限定に格別の臨界的意義を認めることができないことは,この点からも明らかというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正考案と引用考案1との対比を検討する前提としての引用考案1の認定の誤り)について (1) 「近接する」との構成について (イ) 甲第6号証によれば,引用刊行物1には,「昨今は液晶表示パネルの上下電極基板間の電気接続数が増加し,その平面方向の間隔が狭くなってきたことにより,導電性材料の少しの印刷位置のズレによって,同一基板上の隣り合う電極同志がショートするという不良が増加しているのが実情である。」(2頁右上欄3行〜8行),「まず,導電性粒子として径が電極基板間隙以上の大きさのものを使用し,樹脂中への混入量が少なく,本発明による導電性粒子混入樹脂は,電極基板間の電気接続をするが同一基板上の隣接する電極間には電気を通さないために,電極間ショートの不良が生じることがなく,しかもシール材および電極基板間の導電性材料として兼用することができる。」(4頁右上欄17行〜4頁左下欄4行)との記載があることが認められ,上記認定の記載によれば,引用考案1に係る液晶表示装置において,一方の基板に配設される複数の表示電極の間隔は,導電性材料の少しの印刷位置のずれによって同一基板上の隣り合う電極同士が短絡するほどのわずかの間隙しかないような構成となっているものであり,このように隣り合い,接近した状態が,通常の用語法にいう「近接」に該当することは明らかである。
(ロ) 原告は,「近接する」と「隣接する」とが意味を異にしている旨主張する。
しかしながら,甲第13号証(広辞苑第三版)によれば,一般的な用語法に従うと,「隣接」とは,「となりあってつづくこと」,「近隣関係にあること」との意味であること,一方,「近接」とは,「近くにあること」,「近づくこと」,「接近」との意味であることが認められる。同事実によれば,「近接」とは,「隣接」を含み,これより広い範囲を意味する語であることが明らかである。
したがって,「近接する」というとき,何か特殊な事情でもない限り,「隣接する」という意味をも含んでいるものというべきである。原告の主張は,失当である。
原告は,訂正考案が微細化した電極あるいは高密度表示の電極を具備する液晶表示装置を対象にしているから,訂正考案の「近接する」の技術的意味は,引用考案1の「隣接する(電極)」のそれと相違している旨主張する。
しかしながら,仮に,原告主張のとおり,訂正考案が微細化した電極あるいは高密度表示の電極を具備する液晶表示装置を対象にしているとしても,なにゆえに,訂正考案にいう「近接する」の技術的意義が引用考案1の「隣接する」を含まないほどまでに減縮されることになるのか,訂正考案の実用新案登録請求の範囲の記載,訂正明細書等の記載等,本件全証拠を検討しても理解することができない。
原告の上記主張は,採用できない。
(2) 「所定幅の内部」との構成について (イ) 甲第6号証によれば,引用刊行物1に,電極13が設けられた電極基板6と電極13aおよび取出し電極が設けられた電極基板6aとを電極13,13aが設けられた側を対向させて所定距離を隔てて配置し,周囲を異方性導電シール材7で封止し前記封止内に液晶11を注入するとともに,前記電極基板6の電極13と前記電極基板6aの電極13aとを前記異方性導電シール材7内の導電性粒子10により電気的接続した液晶表示パネルに係る技術が記載されていることが明らかであり,この点については原告も認めているところである。
(ロ) 甲第6号証によれば,引用刊行物1の発明の詳細な説明の欄には,「本発明の液晶表示パネルは,対向配置された電極基板と,その電極基板間にシール材を用いて密封された液晶とを具備し,上記シール材として上記電極基板間隙以上の粒径をもつ弾力性のある導電性粒子を樹脂中に混入したものを用い,かつこのシール材を構成する導電性粒子でもって上記電極基板間の適宜の箇所の電気的接続を得るようにしたものである。」(2頁左下欄5行〜12行),「このシール材7はもちろん液晶11を密封する目的で設けられた部分の一部でもって上記電極基板6,6a間の適宜の箇所の電気的接続を得るようにしてもよい。」(3頁右上欄9行〜12行)との記載があることが認められる。
上記認定の記載によれば,上記異方性導電シール材7内の導電性粒子10による電気的接続は,電極基板6,6a間の適宜の箇所で行われていることが明らかである。
(ハ) 原告は,引用刊行物1の発明の詳細な説明の欄の実施例1に関する記載の一部を引いて,引用考案1においては,同一のシール材料を用いて液晶の封止と第一,第二の電極基板間の電気的接続を行っているものの,シール材料の部位が,液晶の封止をするシール部と第一,第二の電極基板間の電気的接続を行う導通部に区分され,第一,第二の電極基板間の電気的接続を行う導通部は,シール部の外側に存在しているから,訂正考案にいう,異方性導電シール材の「前記所定幅の内部」に該当するとはいえない旨主張する。
しかしながら,引用刊行物1の記載全体をみれば,原告の引用する記載の前後には,上記(ロ)で認定した記載が存在するのであり,原告の主張は,これらの記載をあえて無視するものであって,失当というほかない。
この点について,原告は,上記(ロ)で認定した記載は,訂正考案に係る権利の範囲が実施例に限定されないように,少しでも権利の範囲を拡げるために,明細書の作成において通常行なわれる拡張的記載にすぎず,具体的実施例の裏付けを有しない旨主張する。
しかしながら,訂正考案進歩性を検討するに際して,引用刊行物1が有する意味を決めるうえで最も重要なのは,その中に,訂正考案に対応する技術思想が開示されているか否かということであって,その技術思想が具体的実施例により裏付けられていることを要するものでないことは,論ずるまでもないところである。重要なのは,引用刊行物1の記載から,当業者がいかなる技術を認識し,把握し得るかということなのである。
この観点からみると,引用刊行物1には,実施例としては,部位が液晶の封止をするシール部と第一,第二の電極基板間の電気的接続を行う導通部に区分されたもののみが記載されているとしても,上記のとおり,「このシール材7はもちろん液晶11を密封する目的で設けられた部分の一部でもって上記電極基板6,6a間の適宜の箇所の電気的接続を得るようにしてもよい。」(3頁右上欄9行〜12行)などといった記載があるのであるから,特別の事情のない限り,当業者であれば,電極基板6,6a間の適宜の箇所の電気的接続を得る技術を認識し,把握することは明らかである。そして,本件全証拠によっても上記特別の事情を見いだすことはできない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 訂正考案が,シール材に対する導電粒の割合を1から5重量%及びシール材に対する非導電性物質の割合を5から30重量%としたのに対して,引用考案1が,シール材に対する導電粒の割合を1重量%及びシール材に対する非導電性物質の割合を1.5重量%とした点(相違点2)で相違することは,当事者間に争いがない。
(2) 原告は,実用新案登録請求の範囲に記載された数値条件には明確な臨界的意義がある旨主張する。
(イ) 甲第7号証によれば,引用刊行物2(特開昭59-17534号公報)の発明の詳細な説明の欄には,「本発明は液晶パネルの上下導通方法に関するものである。」(1頁左欄11行〜12行),「本発明に用いられるギャップ剤兼上下導通剤はグラスファイバー,アルミナ,シリカ,チタニア等の無機酸化物又はスチレン,ナイロン等のプラスチックボール等絶縁材であり,これらは無電解メッキによりメタライズされる。」(1頁右欄7行〜11行),「このようにメタライズされたギャップ剤(通常3μ〜15μ位が液晶パネルの場合用いられる)の0.5wt%〜10wt%を有機又は無機のシール剤中に混入させた上,下どちらかの基板のみにスクリーン印刷で所定のパターンに印刷し,圧着してセルを組み立てる。この場合ギャップ剤の全てが必ずしもメタライズされている必要はなく,メタライズされたものとメタライズされていないものを適当に混合して用いても良い。
この場合でも全体のギャップ剤の重量が,シール材の重さに対して10wt%以上になると圧着できず目的とするギャップよりも大きなギャップとなってしまう。」(2頁左上欄1行〜12行),「実施例1 基板材料としてパシベイションを施したソーダガラスを用い,CVD法で酸化スズ透明導電膜を300Å形成し,フォト法を用いて上,下両基板の電極をそれぞれ第1図及び第2図の様にエッチングした。所定の配向処理後9μの径でアスペクト比10のグラスファイバーにNi-Pメッキを5000Å施し,次に置換型金メッキを2000Å施したメタライズされたギャップ剤を,シール材であるエポキシ系接着剤に5wt%混入させ,スクリーン印刷法を用いてシール形状に印刷した。上下基板を圧着し熱硬化して液晶空セルを組立てた。」(2頁右上欄7行〜18行),「実施例4 実施例1でメタライズされたグラスファイバーの重量を3wt%,メタライズされないグラスファイバーを3wt%用いた。効果は同様であった。」(2左下欄19行〜右下欄2行),「実施例6 実施例1で30μのメタライズ(Ni-P 5000Å Au 2000Å)したスチレンボール0.5wt%,メタライズしない10μグラスファイバー3wt%を用いた。効果は同様であった。」(2頁右下欄8行〜12行)との記載があることが認められる。
上記認定の記載によれば,引用考案2において,ギャップ剤のうちメタライズされたものとは,プラスチック等の絶縁材に無電解メッキを施したものであり,メタライズされていないものとは,プラスチック等の絶縁材に無電解メッキを施していないものであるから,前者は,訂正考案の「導電粒」に相当し,後者は,訂正考案の「非導電性物質」に相当することは明らかである。そして,メタライズされたギャップ材とメタライズされないギャップ材との総重量はシール材の重さに対して10wt%以内であればよいとされ,メタライズされたギャップ材が各々0.5wt%,3wt%,5wt%との実施例が示されていることからすると,同刊行物においては,メタライズされないギャップ材を5wt%から9.5wt%の範囲で混入したものが開示されていることになる。
(ロ) 甲第8号証によれば,引用刊行物3(実願昭60-149262号(実開昭62-57387号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム)には,実用新案登録請求の範囲の欄に,「複数の電極を有する第1,第2の基板と,第1,第2の基板の間に介在し前記電極の間隔より小さい直径を有する導電性微粒子と,前記導電性微粒子と略等しい直径を有する絶縁性微粒子とを混入した接着剤層とを有した事を特徴とする電子装置。」(明細書1頁4行〜9行)との記載が,発明の詳細な説明の欄には,「本考案は液晶表示器等微細な端子電極を有する基板の端子導出に係る電子装置に関する。」(同1頁19行〜末行),「従来より端子電極の導出として導電性微粒子を用いることが・・・提案されている。これらは通称異方性導電シートと呼ばれ,接着剤中に導電性微粒子を混入したもので導電粒子の分散濃度に応じて接触抵抗が制御でき,他のコネクタ等より微細なピッチの端子電極も接続できるので好ましい。」(同2頁2行〜9行),「第2図の実線(イ)と破線(ロ)はこの様子を示すもので,熱可塑性樹脂中に直径5μmのニッケル球を分散した時のニッケル球濃度と接触抵抗値あるいはニッケル球濃度と端子電極のピッチ(短絡事故を生じないための隣接電極距離)との関係を示したもので,導電粒子(ニッケル球)の濃度が高くなると接触抵抗は下がるが短絡事故も生じやすいことを示している。」(同2頁10行〜17行),「ニ)問題点を解決するための手段 本考案は前述した異方性導電シートとして,導電性微粒子と絶縁性微粒子とを混入した接着剤層としたものである。ホ)作用 これにより微粒子の分散状態が均一化し,微粒子濃度が高くなっても短絡事故は生じない。」(同3頁16行〜4頁2行),「第2図はこのような異方性導電シートの特性図で,ナイロン系熱可塑性樹脂中にコールカウンタによる測定で粒径5μm(平均粒径±10%未満,標準偏差±10%以下)のニッケル粒子(導電性微粒子)と,同粒径のアルミナ粒子(絶縁性微粒子)とを等量分散させたものの,接触抵抗値の変化(実線(ハ))と許容される隣接電極距離(点線(ニ))の関係を示したものである。接触抵抗値は絶縁性微粒子の存在にあまり影響されないが,短絡のしやすさには直接影響し,」(同4頁19行〜5頁8行)との記載があることが認められ,上記認定の記載によれば,引用刊行物3には,異方性導電シールの導電粒子が近接する電極間で短絡しないようにするために,導電粒子と絶縁性粒子とを混入し,微粒子を均一に分散する技術が記載されていることが認められる。
(ハ) 上記認定の事実によれば,遅くとも訂正考案の出願時には,液晶パネルの上下導通に係る技術において,導電物質と非導電性物質とを均一に混合して近接する電極間の短絡を防止する技術,その際に,導電物質,非導電性物質のシール材に対する混合割合によって絶縁性能を変えることができることが,液晶に関する技術分野における当業者の間において周知となっていたものと認められる。
そして,前記のとおり,引用考案1において,シール材に対する導電物質の割合を1重量%,シール材に対する非導電性物質の割合を1.5重量%としており,引用考案2においては,前記認定のとおり,シール材に対する導電物質の割合については0.5wt%,3wt%,5wt%,シール材に対する非導電性物質の割合を5wt%ないし9.5wt%(両者の合計が10%以下)とした例が示されているのである。
このように,引用考案2,3において,導電物質,非導電性物質のシール材に対する混合割合によって絶縁性能(近接する電極間での短絡との関係での絶縁性能)を変えることができるという技術思想が呈示され,しかも,そこには,訂正考案の数値条件の範囲に含まれる数値が示されている以上,訂正考案の,シール材に対する導電粒の割合を1から5重量%及びシール材に対する非導電性物質の割合を5から30重量%とする構成に臨界的意義があるといえないことは明らかである。
その余の原告の主張も,上述したところに照らし,採用できないことが明らかである。
3 結論 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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