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関連ワード 技術的範囲 /  禁反言 /  損害額 /  考案 /  構造 /  補正 /  設定登録 /  拒絶理由 /  先行技術 /  評価書 /  技術評価 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 3019号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 株式会社ヤマトキ製作所
訴訟代理人弁護士渡辺隆夫
補佐人弁理士 近藤彰
被控訴人 株式会社白幡商会
訴訟代理人弁護士山崎隆夫
補佐人弁理士庄司建治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を次のとおりに変更する。
(1) 被控訴人は,別紙物件目録(二)記載の屋根雪止め金具を製造販売してはならない。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,金344万3099円,及び,内金107万2390円について平成9年4月23日から,内金237万0709円について平成13年1月31日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを3分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決の1(1),(2)は、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人は,別紙物件目録(二)記載の屋根雪止め金具を製造販売してはならない。
被控訴人は,控訴人に対し,974万2984円及び内金107万2390円については平成9年4月23日から,内金867万0594円については平成13年1月31日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
当事者の主張
本件は,登録第2503285号の登録実用新案(平成5年5月19日出願,平成6年12月2日出願公開,平成8年4月9日設定登録)の実用新案権を有する控訴人が,被控訴人の製造販売する別紙物件目録(一)及び(二)記載の屋根雪止め金具(以下,順に「被控訴人製品(一)」,「被控訴人製品(二)」という。)は,上記実用新案権の請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)の技術的範囲に属する,として,被控訴人に対し,被控訴人製品(一)及び同(二)の製造販売の中止並びに金銭(被控訴人製品(一)に係る補償金,損害賠償金合計33万5130円と,被控訴人製品(二)に係る補償金,損害賠償金合計243万3740円との合計276万8870円のうちの135万円及びこれに対する遅延損害金)の支払を求めた。原審は,被控訴人製品(一)については,本件考案技術的範囲に属すると認めて,請求を認容したが(ただし,金銭支払請求の一部は棄却),同(二)については,本件考案技術的範囲に属するとは認められないとして,請求を全部棄却した。控訴人は,これに対し,被控訴人製品(二)についても請求を認容すべきであるとして控訴し,当審において,被控訴人製品(二)に係る補償金及び損害賠償金の額につき974万2984円に請求を拡張した。
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 被控訴人製品(二)が本件考案技術的範囲に属するか否かについて (イ) 被控訴人製品(二)は,本件考案の「嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなる」との構成(以下「構成要件C」という。)に対応する,「嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設ける。」という構成を有するのであるから,そのほかに,バネ板の他端が受板部に添って上方に突出し,使用時には,バネ板の右突出部分を打撃折曲して,アングル直立板部の裏に折り曲げるという構成を有するとしても,本件考案の構成要件Cを備えていることに変わりはなく,したがって,本件考案技術的範囲に属するものである。
本件考案技術的範囲は,実用新案登録請求の範囲に記載された事項に基づいて決せられるものであるから,実用新案登録請求の範囲に記載されていない事項,すなわち,構成要件とされていない事項を取り上げて,これを根拠に,技術的範囲に属さないとすることが許されないことは,当然である。
本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載において,本件考案の特徴とされているのは,構成要件Cを備えることのみであり,この特徴に加えて,他のアングル保持手段を備えてはならないことを示唆する記載は,そこに全く存在しない。
また,本件考案に係る実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。別紙登録実用新案公報参照)の考案の詳細な説明の欄をみても,本件考案の特徴点である,アングルのバネ押圧保持手段について,他の従来手段より優れていることを説明しているのみであり,本件考案に,他のアングル保持手段を付加することを排除する記載は全く存在しない。たとい実施例として他のアングル保持手段を備えた例が示されていないとしても,実施例とは,技術的思想を実際にどのように具体化するかを示すための例示的な説明にすぎないのであるから,実施例に記載がないことを根拠に,他のアングル保持手段を排除していると解釈することはできない。
結局,原判決は,実用新案登録請求の範囲の記載から一義的に解釈することができる本件考案技術的範囲を,実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明にも記載されていない事項に基づいて解釈したものであって,誤っているというほかない。
(ロ) 被控訴人は,本件考案におけるアングルのバネ押圧保持手段は,従来から公知であった針金,帯金,金属板等による保持手段に代えて,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することにより,従来技術では避けられない結着作業,連結作業,折曲作業を不要とするという技術的思想を有するものであるから,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することを構成要件とするものと解すべきである旨主張するが,失当である。先行する考案を利用した考案が,先行する考案にない着想を有するゆえに実用新案権を取得したとしても,先行する考案技術的範囲に属することは,自明のことである。
被控訴人は,また,本件出願の経緯をみると,出願当初の明細書においては,単に,「屋根への装着部と,アングルの水平板部の嵌入部を有するアングル止着部とを備えてなる屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入アングルを押圧するバネ板を設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」と記載され,バネ板は単にアングルを押圧するものとされていたのに,「アングルを載置部側に押圧する」と減縮されて,ようやく設定登録されたものである旨主張するが,この主張も失当である。本件考案の出願審査の段階でなされた拒絶理由は,単に明細書の記載に関することであり,補正においては,不明瞭な記載を解消したにすぎない。
(2) 損害額について 被控訴人は,被控訴人製品(二)を,@平成7年1月7日(本件考案の内容を記載した書面を被控訴人に提示して警告した日)から平成8年4月8日(本件実用新案登録日の前日)までの間に1万1816個,A平成8年4月9日から同年4月末までの間に4320個,B平成8年5月1日から平成11年12月末までの間に13万2750個,C平成12年1月1日から同年12月末までの間に8万1676個,販売した。
@の期間の販売については,控訴人は,平成7年1月7日,被控訴人に対し,本件考案の内容を記載した書面を提示して警告しているから,被控訴人は,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法13条の3(旧実用新案法13条の3)に基づいて控訴人に補償金を支払うべき義務がある。控訴人が被控訴人の実施に対し通常受けるべき金額は,被控訴人製品1個当たり10円とするのが相当であるから,補償金の額は11万8160円となる。
A,B及びCについては,被控訴人は,不法行為に基づいて,控訴人に対し,控訴人の被った損害を賠償すべき義務がある。そして,損害の額は,実用新案法29条2項により,被控訴人が得た利益の額をもって控訴人の損害額と推定され,被控訴人製品1個の販売価格を220円,利益率を20%とすれば,A,B及びCの販売により被控訴人が得た利益の額は962万4824円となり,これが控訴人の被った損害額となる。
よって,控訴人は,合計額1002万0594円(被控訴人製品(一)につき原審で認容された27万7610円,被控訴人製品(二)に係る補償金11万8160円及び損害金962万4824円)及び訴状によって支払を求めていた135万円(内27万7610円は原審で認容されたもの)については,訴状送達の日の翌日である平成9年4月23日から,その余の867万594円(請求拡張分)については,平成13年1月30日付け控訴人の第3準備書面が被控訴人に送達された日の翌日である平成13年1月31日から,それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 被控訴人製品(二)が本件考案技術的範囲に属するか否かについて (イ) 本件明細書に記載されているとおり,本件考案におけるアングルのバネ押圧保持手段は,従来から公知であった針金,帯金,金属板等による保持手段に代えて,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することにより,従来技術では避けられない結着作業,連結作業,折曲作業を不要とするという技術的思想を有するものであるから,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することを構成要件とするものと解すべきである。被控訴人製品(二)のような,アングルの一辺と他辺とを同時に押圧支持し,しかも,他辺については折曲して押圧支持するという構成は,本件考案の技術的思想の外にあるものであるから,実用新案登録請求の範囲において,上記構成についての記載がないとしても,本件考案技術的範囲に包含させることは許されない。
また,雪止め金具の分野においては,先行技術(例えば乙第27〜30号証)が多数存在しているため,必然的に,その技術的範囲は極めて狭いものとならざるを得ないのが実情であり,本件考案においても,上記のような改良を加えたにすぎないものであるから,実用新案登録請求の範囲の記載を超えて拡大解釈されるべきものではない。
さらに,本件出願の経緯をみると,本件考案の出願当初の明細書においては,単に,「屋根への装着部と,アングルの水平板部の嵌入部を有するアングル止着部とを備えてなる屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入アングルを押圧するバネ板を設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」と記載され,バネ板は単にアングルを押圧するものとされていたのに,「アングルを載置部側に押圧する」と減縮して,ようやく設定登録されたものである。
一方,被控訴人製品(二)は,被控訴人出願に係る実用新案登録第3018721号の登録実用新案(平成7年5月29日出願,同年9月13日設定登録。以下「別件登録実用新案」という。)の実施品であり,この別件登録実用新案は,特許庁による実用新案技術評価書において「6」の技術評価を受け,「特に関連する先行技術文献を発見できない。」とされているのである。
以上によれば,本件考案の構成要件Cは,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持するという限定的な技術的意味を有するものであることが明らかである。
一方,被控訴人製品(二)は,アングルの一辺と他辺とを同時に押圧支持し,しかも,他辺においては折曲して押圧支持するという構成を有するものであるから,本件考案の構成要件Cを充足せず,結局,本件考案技術的範囲に属さないのである。
(ロ) 控訴人は,上記のとおり,出願審査の段階において,実用新案登録請求の範囲の構成要件Cに係る部分を減縮しているのであるから,被控訴人製品(二)の,アングルの一辺と他辺とを同時に押圧支持し,しかも,他辺においては折曲して押圧支持するという構成が,本件考案の構成要件Cを充足すると主張することは,禁反言の原則に反し,許されない。
(2) 損害額について 控訴人の損害額についての主張は争う。
ただし,被控訴人が控訴人主張のとおりの期間に,控訴人主張のとおりの数量の被控訴人製品(二)を販売したことは,認める。
当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人製品(二)についても,それは本件考案技術的範囲に属すると認められ,控訴人が,被控訴人に対して,同製品の製造販売の中止並びにこれに係る補償金11万8160円,損害賠償金332万4939円,合計額344万3099円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度では理由があり,その余は理由がないものと判断する。
1 被控訴人製品(二)が本件考案技術的範囲に属するか否かについて (1) 甲第2号証(別紙登録実用新案公報)によれば,本件明細書には,実用新案登録請求の範囲請求項1に,次の記載があることが認められる。
「屋根への装着部と,アングル止着部とを備え,アングル止着部を,雪止め用のアングルの水平板部を載置する載置部と,載置部上方の頂板部と,載置部と頂板部とので形成された空間の嵌入部で構成した屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」 これを,便宜上,構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
A 「屋根への装着部と,アングル止着部とを備え,」 B 「アングル止着部を,雪止め用のアングルの水平板部を載置する載置部と,載置部上方の頂板部と,載置部と頂板部とので形成された空間の嵌入部で構成した屋根用雪止め金具に於いて,」 C 「嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなる」 D 「ことを特徴とする屋根用雪止め金具」 (2) 甲第6号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人製品(二)は,別紙物件目録(二)に記載された構造を有する屋根用雪止め金具であり,これを本件考案の構成要件に相応させて分節すると,次のとおりとなることが認められる。
a 屋根への装着部1と,アングル装着部2とを備えている。
b アングル装着部2を,雪止め用のアングルの水平板部を載置する載置部21Aと,載置部21A上方の頂板部22Aと,載置部21Aと頂板部22Aとで形成された空間の嵌入部23Aで構成した屋根用雪止め金具である。
c 嵌入部23Aに嵌入したアングルを載置部23A側に押圧するバネ板25Aを,嵌入部23A内に設けている。なお,上記バネ板23Aの他端は,受板部26に添って上方に突出する突出部分29を形成している。
d 屋根用雪止め金具。
(3) 本件考案の構成要件AないしDと被控訴人製品(二)のaないしdの構成とをそれぞれ対比すると,被控訴人製品(二)が本件考案の構成要件をすべて充足することが,明らかである。
作用,効果の面からみても,被控訴人製品(二)は,本件考案と比べ,バネ板23Aの他端に突出部分29が形成されている以外に変わるところはなく,本件考案の構成に基づいて奏する効果を完全に享受しており,ただ,上記突出部分29によって,アングルの他辺をも保持し得るという作用,効果が追加されているのみである。
(4) 被控訴人は,本件明細書に記載されているとおり,本件考案におけるアングルのバネ押圧保持手段は,従来から公知であった針金,帯金,金属板等による保持手段に代えて,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することにより,従来技術では避けられない結着作業,連結作業,折曲作業を不要とするという技術的思想を有するものであるから,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持することを構成要件としている旨主張するが,失当である。
本件考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載は,前認定のとおり,「屋根への装着部と,アングル止着部とを備え,アングル止着部を,雪止め用のアングルの水平板部を載置する載置部と,載置部上方の頂板部と,載置部と頂板部とので形成された空間の嵌入部で構成した屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」というものであり,ここでは,本件考案は,バネ板によってアングルを載置部側に押圧する構成を,本件考案の特徴となる構成として具備していることが述べられているだけで,バネ板の構成・機能につきそれ以外には何も述べられていないことが明らかである。
本件明細書考案の詳細な説明を検討する。甲第2号証によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の欄の【従来の技術】の項には,「雪止め金具は種々のものが知られているが、雪止めアングルを使用するものは基本的に屋根装着部と、アングルの嵌入部を有するアングル止着部から構成されている。またアングル止着部には、
雪止めアングルが離脱しないような適宜な処置が施されている。例えば実開昭58-67022号公報には針金での離脱防止手段が開示されており、特開昭58-168447号公報には二個の帯金を連結することでの離脱防止手段が開示されており、実開昭63-51033号公報には折曲可能な簿金属板での離脱防止手段が開示されている。」との記載が,【考案が解決しようとする課題】の項には,「前記の雪止めアングルの離脱防止手段は必ずしも最適のものとはいえない。即ち針金を使用したものは針金の結着作業が必要で,帯金のものは帯金連結作業が必要で,また薄金属板のものは薄金属板の折曲作業が必要となる。そこで本考案は,作業性に優れたアングル離脱防止手段を備えた雪止め金具を提案したものである。」との記載が,【作用】の項には,「雪止めアングルの水平板部を嵌入部に圧入すると、アングル水平板部は嵌入部内でバネ板の作用で、戴置部に押圧されて強く挟持されることになり、雪止めアングルの抜けを防止する。」との記載が,【考案の効果】の項には,「以上のように本考案は、雪止めアングルを使用する屋根用雪止め金具に於いて、アングルの水平板部の嵌入部に嵌入したアングルを強く挟持してアングルを金具に装着するようにしたもので、アングルの装着が非常に容易で、その作業性が優れているものである。」との記載が,それぞれあることが認められる。
上記認定の記載によれば,本件考案は,従来技術である針金,帯金,金属板等による保持手段に欠点があったことに鑑み,これを克服すべく考案されたものであることは,明らかである。しかし,本件考案は,その実用新案登録請求の範囲に記載されているとおり,バネ板によってアングルを載置部側に押圧する構成を,本件考案の特徴としているとしているのであって,この特徴となる構成は,従来技術である針金,帯金,金属板等による保持手段と相容れないというわけではないから,上記針金,帯金,金属板等による保持手段を排斥して上記構成としたものであるということはできない。
そうである以上,本件考案が,被控訴人製品(二)のように,そのバネ板の他端部に突出部分を設ける構成としたり,バネ板でアングルの一辺を押圧支持するという機能に加えて,バネ板の他端部の突出部分で,アングルの他辺を押圧支持するという機能を持たせたりすることを排除しているとはいえないものというべきである。
被控訴人のいわんとするところは,要するに,本件考案は,従来から公知であった針金,帯金,金属板等による保持手段に代えて,そのいずれでもないアングルの一辺だけをバネ板で押圧支持するという構成を採用したのに対して,被控訴人製品(二)は,本件考案の,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持する構成のほか,従来から公知であった針金,帯金,金属板等による保持手段をもその構成としているから,本件考案とは技術的思想が異なるというものと思われる。
確かに,被控訴人製品(二)は,本件考案の,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持する構成に加えて,従来技術である金属板による保持手段をもその構成とし,これを一体のものとして形成しているから,その点をみれば,本件考案と技術的思想が異なるといえよう。しかし,被控訴人製品(二)が,本件考案の,アングルの一辺だけをバネ板で押圧支持する構成を利用していることは,明白な事実であり,結局,被控訴人製品(二)は,本件考案の作用,効果を享受しつつ,新たな構成を加えたものであり,新たな構成を加えたことで,本件考案の作用,効果を奏さなくしたものではないということができるから,本件考案と技術的思想が異なるものとすることはできない。
(5) 被控訴人は,本件雪止め金具の分野においては,先行技術(例えば乙第27〜第30号証)が多数存在しているため,必然的に,その技術的範囲は極めて狭いものとならざるを得ないのが実情であり,本件考案においても,上記のような改良を加えたにすぎないものであるから,実用新案登録請求の範囲の記載を超えて拡大解釈されるべきものではない旨主張するが,この主張も失当である。仮に,被控訴人主張のとおり,本件考案が,本件雪止め金具の分野において,先行技術に規制され,その技術的範囲が狭いものであるとしても,被控訴人製品(二)は,そのような狭い技術的範囲考案を利用しているものであるからである。
(6) 被控訴人は,本件出願の経緯をみると,本件考案の出願当初の明細書においては,単に,「屋根への装着部と,アングルの水平板部の嵌入部を有するアングル止着部とを備えてなる屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入アングルを押圧するバネ板を設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」と記載され,バネ板は単にアングルを押圧するものとされていたのに,「アングルを載置部側に押圧する」と減縮して,ようやく設定登録されたものである旨主張する。
証拠(乙第23号証〜第26号証)によれば,本件考案の出願当初の明細書に記載されていた実用新案登録請求の範囲(請求項1)は,「屋根への装着部と,アングルの水平板部の嵌入部を有するアングル止着部とを備えてなる屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入アングルを押圧するバネ板を設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」というものであり,同明細書考案の詳細な説明の欄の【作用】の項には,「雪止めアングルの水平板部を嵌入部に圧入すると,アングル水平板部は嵌入部内でバネ板の作用で強く挟持され,雪止めアングルの抜けを防止する。」,【考案の効果】の項には,「以上のように本考案は,雪止めアングルを使用する屋根用雪止め金具に於いて,アングルの水平板部の嵌入部に嵌入したアングルを強く狭持してアングルを金具に装着するようにしたもので,アングルの装着が非常に容易で,その作業性が優れているものである。」と記載されていたこと,控訴人は,平成7年9月7日付けで,「実用新案登録請求の範囲請求項1に記載の構成では,バネ板とアングルの載置部によってアングルの水平板部を挟持することによって奏する,明細書記載の作用効果を奏するものとは認められず不明瞭である。」などという内容の拒絶理由通知を受けたこと,そこで,控訴人は,請求項1について,「屋根への装着部と,アングル止着部とを備え,アングル止着部を,雪止め用のアングルの水平板部を載置する載置部と,載置部上方の頂板部と,載置部と頂板部とので形成された空間の嵌入部で構成した屋根用雪止め金具に於いて,嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなることを特徴とする屋根用雪止め金具。」と補正したこと,その後,登録の査定を受けたことが認められる。
上記認定の事実によれば,控訴人が,当初の「嵌入部に嵌入アングルを押圧するバネ板を設けてなること」という構成を,「嵌入部に嵌入したアングルを載置部側に押圧するバネ板を,嵌入部内に設けてなること」という構成に補正したのは,作用,効果との関係で,本件考案の構成が不明瞭であったとされたため,これを明瞭にしたものであって,バネ板の構成・機能をアングルを載置部側に押圧することに限定したというものでないことは,明らかである。
被控訴人の上記主張は,採用できない。
(7) 被控訴人は,被控訴人製品(二)は,別件登録実用新案の実施品であり,別件登録実用新案は,特許庁による実用新案技術評価書において「6」の技術評価を受け,「特に関連する先行技術文献を発見できない。」とされた旨主張する。
しかしながら,乙第1号証と弁論の全趣旨とによれば,被控訴人製品(二)は,別件登録実用新案の実施品であることが認められるものの,同号証によれば,同実用新案は,本件考案が公開された平成6年12月2日の後の平成7年5月29日に出願されたものであることが認められる。先の考案技術的範囲の解釈が,後の考案の存在やこれについての特許庁の評価によって左右されるものでないことは,論ずるまでもないことである。
被控訴人の主張は,失当である。
被控訴人のその余の主張も,上述したところに照らすと,いずれも採用できない。
2 損害額について (1) 被控訴人が,被控訴人製品(二)を,@平成7年1月7日(本件考案の内容を記載した書面を被控訴人に提示して警告した日)から平成8年4月8日(本件実用新案登録日の前日)までの間に1万1816個,A平成8年4月9日から同年4月末までの間に4320個,B平成8年5月1日から平成11年12月末までの間に13万2750個,C平成12年1月1日から同年12月末までの間に8万1676個販売したことは,当事者間に争いがない。
(2) 証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(イ) 控訴人は,本件考案の実施品として,S型アングルタイプ及び高山式タイプと称する2種類の屋根雪止め金具を製造販売していた。S型アングルタイプについては,株式会社ノミズヤ産業の登録実用新案を利用していることから,控訴人は,その会社に,製品1個当たり10円の実施料を支払い,単価113円で販売していた。高山式タイプについては,単価122円で販売していた。
(甲第3号証,第4号証,第16号証,乙第7号証,弁論の全趣旨) (ロ) 被控訴人は,上記S型アングルタイプを模倣した屋根雪止め金具(被控訴人製品(一))を製造販売し始め,控訴人は,平成7年1月7日送達の内容証明郵便で,被控訴人に対し,同製品が本件考案に係る登録実用新案権を侵害している旨警告した。
(甲第5号証,第23号証の1,2) (ハ) その後,被控訴人は,平成8年ころから,控訴人の高山式タイプに突出部分29を加えた被控訴人製品(二)(「高山型アングル止ST足付」,「高山型アングル止ワンタッチ式」)を製造し始め,これを控訴人の取引先などに売り込み,単価152円ないし175円で販売するようになった。控訴人は,株式会社ノミズヤ産業と連名で,平成8年3月16日送達の内容証明郵便により,被控訴人に対し,上記製品が本件考案に係る実用新案権及び株式会社ノミズヤ産業の有する実用新案権を侵害している旨警告した。
(甲第6号証,第8号証の1,2,乙第14号証〜第22号証) (3) 上記認定の事実によれば,控訴人のS型アングルタイプの屋根雪止め金具と高山式タイプのそれとは,製造原価にさほどの差はないものと認められ,S型アングルタイプについては,製造原価が,単価当たりの価格113円から実施料10円を差し引いた103円より上回ることはないものと認められるので,高山式タイプも,製造原価が103円より上回ることはないものということができる。被控訴人は,これに突出部分29を加えた被控訴人製品を少なくとも152円で販売していたのであるから,製造原価が103円より若干上回ることがあったとしても,控訴人主張の利益率20%(152円×20%=30.4円)を下回ることは考え難い。そして,本件全証拠によっても,これを左右するに足りる証拠は見いだせない。
また,本件考案の実施料については,被控訴人製品(二)1個当たり10円とするのが相当である。
被控訴人製品(二)は,別件登録実用新案の実施品であるとはいうものの,本件考案を利用し,これにバネ板の他端部に突出部分29の構成を加えて雪止め金具の作用,機能を向上させており,これが同製品による被控訴人の利益に反映されていることは明らかである。そして,バネ板を上記突出部分のある構成とすることが従来技術(本件明細書の発明の詳細な説明の欄の【従来の技術】の項参照)の利用であることなどの諸事情を総合考慮すると,本件考案の被控訴人製品(二)についての寄与率は,50パーセントを下回るものではないものと認められる。
控訴人は,平成7年1月7日,被控訴人に対し,本件考案の内容を記載した書面を提示して警告しており,その直接の対象が被控訴人製品(二)でないとしても,この警告によって,被控訴人は,本件考案の内容を示されているから,その後の被控訴人製品(二)の販売行為について故意又は過失を優に認めることができる。そうすると,平成7年1月7日から平成8年4月8日までの被控訴人の被控訴人製品(二)の販売については,控訴人は,被控訴人に対し,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法13条の3に基づいて補償金の支払を求めることができる。控訴人が被控訴人の実施に対し通常受けるべき金額は,被控訴人製品(二)1個当たり10円とするのが相当である。したがって,補償金の額は,11万8160円(1万1816個×10円)をもって相当と認める。
平成8年4月9日以降の被控訴人の被控訴人製品(二)の販売については,実用新案法29条2項に基き,被控訴人が得た利益の額をもって控訴人の損害額と推定することにし,合計数量21万8746個に1個の販売価格を152円,利益率を20パーセント,寄与率を50%とすれば,332万4939円となる。
3 結論 以上によれば,控訴人の被控訴人製品(二)に係る請求は,控訴人が,被控訴人に対して,同製品の製造販売の中止並びに補償金11万8160円,損害賠償金332万4939円,合計額344万3099円,及び,内金107万2390円(訴状で支払を求めた135万円のうち,27万7610円は,被控訴人製品(一)に関するものとして原審で既に認容されている。)について訴状送達の日の翌日である平成9年4月23日から,内金237万0709円について,控訴人の平成13年1月30日付け第3準備書面の送達の日の翌日である平成13年1月31日から,それぞれ支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。そこで,これと異なる原判決を上記のとおりに変更することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法67条2項,61条,64条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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