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事件 |
平成
12年
(ネ)
3244号
実用新案権に基づく差止等請求控訴事件
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控訴人(1審原告) ヤヨイ化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 島田康男 同補佐人弁理士 佐藤正年 同 佐藤年哉 被控訴人(1審被告) 極東産機株式会社 同訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子 同 美勢克彦 同補佐人弁理士 岡崎謙e |
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裁判所 | 大阪高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/05/24 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,原判決別紙物件目録(「原告の主張」欄)記載の自動壁紙糊付機を製造,販売してはなならない。 (3) 被控訴人は,その本店,工場,倉庫及び営業所に存するその所有する前項記載の物件を廃棄せよ。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
本件は,控訴人が,自己の有する自動壁紙糊付機に関する本件実用新案権(登録番号第2534770号)について,被控訴人の製造,販売する被告製品が本件実用新案権の考案(本件考案)の技術的範囲に属するとして,原判決別紙物件目録(「原告の主張」欄)記載の自動壁紙糊付機の製造,販売の差止め及び製品の廃棄を請求した事案である。 原判決は,被告製品は,本件考案の技術的範囲に属さないとして,控訴人の請求を棄却し,控訴人が本件控訴を提起した。 その事案の概要及び争点に関する当事者の主張は,次の1ないし3のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正等 (1) 原判決10頁1行目の「ロール側」の前に「本判決別紙実施例図面Cの@,A部分と一体となって」を加える。 (2) 同10頁2行目の「同B中」を「本判決別紙実施例図面C中」と改める(控訴人が当審で提出,陳述した平成13年3月15日付け第5準備書面において訂正された。本判決別紙実施例図面Cは,同準備書面に添付された実施例図面の写しである。)。 (3) 同15頁4行目の「本件第二回口頭弁論期日」を「原審第二回口頭弁論期日」と改める。 2 当審における控訴人の主張の要点 (1) 原判決が認定した本件考案の「保持枠」の範囲は間違っている。 本件考案における「保持枠」は,本判決別紙実施例図面Cの斜線部である。 保持枠の正面部には左,右と下辺の3辺に凸状の縁部分(原判決実施例図面Aの斜線部分)が設けられているが,同部分は,(ロールの軸受板である)フレーム側板に直接取り付けられておらず,同側板に直接取り付けられているのは,控訴人の主張する保持枠である。上記凸状の縁部分は,保持枠に付加するものではあっても,保持枠の必須の構成要素ではなく,本件考案の構成要件ではない。上記凸状の縁部分は,駆動ユニットのガイドとして,あるいは,安全性の観点からロック機構とともに取付固定の補助手段として付加されたものにすぎない。 なお,「保持枠の上方が開放されている」とは,ギア部の上方が開放されている場合をいい,そのことによって,ギアに駆動ユニット(コントロールボックス)のモーターギアを噛み合わせる場合に,操作のしやすさに影響を与える。 (2) 本件考案においては,「掛止ピン」と掛止ピンを保持する「掛止溝」を設け,「掛止ピン」と「掛止溝」とを係合させて,駆動部(駆動ユニット)を自重で移動する方向に移動させることにより互いに掛止させる。このため,駆動部(駆動ユニット)と糊付機本体部との連係が強固かつ安定した状態となる。しかも,その状態で,モーターギアとロールギアとが噛み合うように構成されているので,駆動部(駆動ユニット)の取付動作で同時にギアの噛み合わせ動作が完了し,その掛止状態が自重で下がりきった状態で掛止されているのであるから,ギア同士の噛み合いも互いに確実かつ強固に連結される。 したがって,上記3辺に設けられた凸状の縁部分は,本件考案における作用効果に関係なく,本件考案の構成要件ではない。 3 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 控訴人は,ロールの軸受板をフレーム側板と主張しているが,本件明細書におけるフレーム側板37は,控訴人が主張する本判決別紙実施例図面Cの@,A部分のことであり,ロールの軸受板ではない。控訴人の主張によると,本件保持枠は上記図面の@,A部分を含むというから,本件明細書の図1のフレーム側板37は,保持枠の一部ということになるが,本件明細書には,「フレーム側板37には更に上部が開放となった保持枠40が取りつけられ」と記載されており(【0019】),フレーム側板37が保持枠の一部となることはない。 また,控訴人の主張によると,保持枠の内部にはロールギアが存することになるが,本件明細書には,「保持枠40が取りつけられ,その内部には掛止ピン41が突設されている。」と記載されており(【0019】),掛止ピン41の突設された箇所にロールギアが存することはない。 さらに,本件明細書には,「保持枠40の内形に合致する嵌合面42を有したコントロールボックス43が本体部21の一端部に取り付けられる」,「コントロールボックス43の取付けは,図3の矢印Aに示す通り,嵌合面42を保持枠40内に当設(当接)させる」と記載されており(【0019】【0020】),控訴人の主張する上記保持枠の内部(ロールギアが存する)にコントロールボックス43の嵌合面42を当接させることは不可能である。 (2) 控訴人が,駆動部の自重で下がりきって係合するから確実に連結されると主張する箇所は,本件明細書では「ロック手段」による効果として記載されており(【0011】),保持枠の作用効果として記載されたものではなく,保持枠の作用効果は「確実に保持する」ということに尽きる。 なお,控訴人が提出した甲8,9の写真に撮影されている原告製品は,「枠で保持」しておらず,本件考案の保持枠ではない(本件考案の実施品とはいえない。)。 |
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争点に対する判断
当裁判所も,被告製品は,本件考案の技術的範囲に属するとは認められないと判断する。その理由は,次の1ないし3のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正等 (1) 原判決36頁5行目の「確かに」から同頁10行目の「できない。」までを削る。 (2) 同42頁6行目及び43頁1行目の各「本件発明」をいずれも「本件考案」と改める。 (3) 同42頁9行目から末行までを「甲6,乙6及び弁論の全趣旨によると,被告製品の構成のうち3については,『糊付機の本体の側面に設置され,前記駆動ユニットと当接する当接板を備えた,糊付機本体の側面に設置されるフレーム(原判決別紙被告製品図面4に斜線で示す部分)を具備し』と認めることができるものの,上記フレームには駆動ユニットの本体側部が前後及び底面の三面中に内嵌するような凸状の縁が設けられていないことは明らかである。」と改める。 2 フレーム側板の範囲について(当審における当事者の主張についての補足説明その1) 控訴人は,本件明細書において,フレーム側板37は糊付機の本体の一部で,ロールの軸受板であり,本判決別紙実施例図面Cの@,Aの部分は,フレーム側板ではないことを前提とした主張をする。 しかし,本件明細書の図1によると,フレーム側板37として,前記図面Cの@,Aの部分が指示されていることが認められ,少なくとも上記部分はフレーム側板37の一部であることが認められる。 また,本件明細書には,「保持枠40が取りつけられ,その内部には掛止ピン41が突設されている。」と記載されており(甲5【0019】),掛止ピン41の突設された箇所にロールギアが存することはないこと,「保持枠40の内形に合致する嵌合面42を有したコントロールボックス43が本体部21の一端部に取り付けられる」,「コントロールボックス43の取付けは,図3の矢印Aに示す通り,嵌合面42を保持枠40内に当設(当接)させる」と記載されており(甲5【0019】【0020】),控訴人の主張する上記保持枠の内部(ロールギアが存する)にコントロールボックス43の嵌合面42を当接させることは不可能である。 一方,控訴人の主張のとおりであると解すると,訂正前の請求項2において,開放された保持枠の上方から駆動ユニットを保持枠内に下方に移動させることが予定されていることが,全く意味をなさなくなる。控訴人は,保持枠の上方が開放されているとは,ギア部の上方が開放されている場合をいい,そのことによって,ギアに駆動ユニット(コントロールボックス)のモーターギアを噛み合わせる場合に,操作のしやすさに影響を与えると主張するが,本件明細書にそのような記載は見当たらない。確かに,控訴人が主張するように,訂正前の請求項2,3は,訂正によって削除されたが,訂正前と訂正後で保持枠の意味が変わったことを窺わせる事情は存しない。 以上によると,本判決別紙実施例図面Cの@,Aの部分は,フレーム側板37の一部であり,本件考案における「保持枠」が,サイドフレームによって囲まれた部分(本判決別紙実施例図面Cの斜線部)と考えることはできない(このことは,フレーム側板37がロールの軸受板を含むことを排斥するとは限らない。)。 3 凸状の縁部分と本件考案における作用効果について(当審における当事者の主張についての補足説明その2) 控訴人は,本件考案においては,駆動ユニットが自重で下がりきった状態で,「掛止ピン」と掛止ピンを保持する「掛止溝」との係合により,駆動ユニットと糊付機本体部とが確実かつ強固に連結されるから,保持枠は本件考案における作用効果に関係がないと主張し,本件考案の実施品が,保持枠によって保持されていない状態を撮影したという内容の甲8ないし10を提出する。確かに,甲8,9によると,原告製品(ハイスピードオートフレッシュマンSと同SーU)は,いずれも駆動ユニットを掛止した状態で,駆動ユニットと凸状の縁部分との間に隙間があることが認められる(甲10は,凸状の縁部分が全く存しないものであるが,試作品にすぎない。)。しかし,このことから,本件明細書の記載についての解釈が左右されるわけではなく,単に,これらの製品の駆動ユニットが,枠により保持されているとはいえないことを意味するにすぎない(それだけでなく,これらの製品にはいずれもロック手段が備わっていることからすると,掛止ピンと掛止溝との係合によっては必ずしも確実かつ強固に連結される保障がないことが窺われる。)。 |
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結論
以上のとおり,控訴人の本件請求は理由がないから,これを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は正当である。よって,本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。 (当審口頭弁論終結日 平成13年3月19日) |
裁判長裁判官 | 竹原俊一 |
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裁判官 | 若林諒 |
裁判官 | 山田陽三 |