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関連審決 審判1999-35011
関連ワード 構成要件充足性 /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 平成 10年 (ワ) 19115号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ユタカ
訴訟代理人弁護士 佐藤泰正
同 阿部泰典
同 飯田丘
同 鈴木正勇
補佐人弁理士 志村正和
同 阪本清孝
被告 イノテック株式会社
訴訟代理人弁護士 阿部佳基
同 松留克明
同 和田信博
同 渡辺広己
同 千種道夫
同 中島麻理
補佐人弁理士 大塚康徳
同 松本研一
同 丸山幸雄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/05/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録1及び2記載の物件を輸入し,販売してはならない。
2 被告は原告に対し,金6億5400万円及びこれに対する平成10年8月29日から支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,後記の実用新案権を有している原告が,別紙物件目録1及び2記載の物件(同目録1及び2記載の物件を,順に「被告物件1」,「被告物件2」といい,両者をあわせて「被告各物件」という。)を輸入,販売している被告の行為が右実用新案権を侵害するとして,被告に対し,右輸入等の差止めと損害賠償の支払を求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いはない。) (1) 原告の有する実用新案権 原告は,以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,実用新案登録請求の範囲第1項の考案を「本件考案」という。)を有している。
考案の名称 ガス圧力調整器 イ 出願日 平成元年12月29日 ウ 登録日 平成8年9月10日 エ 登録番号 実用新案登録第2134718号 オ 平成元年3月28日実願平1-34247号に基づく優先権を主張 カ 実用新案登録請求の範囲 別紙「実用新案公報」写しの該当欄に記載のとおりである。以下,同明細書を「本件明細書」という。)。なお,原告は訂正審判請求したが,訂正は認められなかった(弁論の全趣旨)。
(2) 本件考案の構成要件 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
ア ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと, イ 上記ハウジングに被冠されたカバーと, ウ 上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラム, エ 該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と, オ 該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口側とガス流出口側とを連通する仕切体と, カ 上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と, キ 上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された箱体と, ク 上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと, ケ 上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと, コ 上記カバー内に配置され箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと, サ を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。
(3) 被告の行為 被告は,被告各物件を輸入,販売している(弁論の全趣旨)。
2 争点 (1) 被告各物件の構成は本件考案の構成要件を充足するか。
(原告の主張) 以下に述べるとおり,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件をすべて充足する。
ア 構成要件ア(弁シートを備えたハウジング)の充足性 被告各物件のベース(1X,1Y),流体流入通路(3X,3Y),流体流出通路(5X,5Y),縦穴(3aX,3aY)は,それぞれ,本件考案の「ハウジング」,「ガス流入口」,「ガス流出口」,「弁室」に該当する。被告各物件のシート部材(15X,15Y)は,本件考案の「弁シート」に該当する。同部材は,ベース上面のコンプレッションメンバー(13X,13Y)によって固定配置されており,ベースはシート部材を備えているといえる。
よって,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件アを充足する。
イ 構成要件オ(仕切体)の充足性 本件考案に係る「実用新案登録請求の範囲」欄記載(以下「本件考案」と略記する。)の「仕切体」は,「弁シート」をハウジングに押さえつけることによって固着させ,両者を一体化させるものである。「弁シート」は,「弁体」と共に弁を構成し,ガスの流入口と流出口を隔てて仕切ることになるので,一体化した「仕切体」が仕切機能を有することになる。また,「仕切体」は,その中央部及びその周囲に孔を備え,弁が開いた状態では,ガス流入口から入ってきたガスが,弁シートの中央部の孔及び仕切体中央部の孔を通って,ダイヤフラム室に入り,仕切体の中央孔の周囲に形成された孔を経て,ガス流出口に流れていくものであり,ガス流入口とガス流出口を連通している。本件考案の「仕切体」は,以上の構成を備えているものであれば足りると解すべきである。
一方,被告各物件における「コンプレッションメンバー(13X,13Y)」は,被告物件目録1及び2の3項で「コンプレッションメンバー(13X,13Y)がシート部材(15X,15Y)をベース(1X,1Y)のうち流体流入通路3Xの先端開口を形成する部分に押しつけ固定し,」と表記されているように,シート部材をベースの部分に押し付け固定するので,弁シート押さえ部材である。さらに,「コンプレッションメンバー」は,被告物件目録1及び2の2項(5)で「ダイヤフラム(17X,17Y)を介してリング部材35Xに接した周縁部から中央部にかけて上開きの傘状(碗状)で,中央部及びその周囲に4つの孔を有するコンプレッションメンバー(13X,13Y)」と表記されているように,ガスは,中央部に設けられた孔からダイヤフラム室に入り,また,中央部の孔の周囲に4つ設けられた別の孔からガス流出口に流れるものであり,「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する」ものである。したがって,「コンプレッションメンバー」は,本件考案の仕切体に該当する。
よって,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件オを充足する。
ウ その他の構成要件充足性 @被告各物件のキャップ(11X,11Y)は,本件考案の「カバー」に該当すること,A被告各物件のダイヤフラム(17X,17Y)は,ベース(ハウジング)とキャップ(カバー)の間に配置されていること,B被告各物件の「ダイヤフラム室」は,ダイヤフラムとハウジングとの間に形成されていること,C被告各物件のポペット(9X,9Y)は,本件考案の「弁体」に該当すること,D被告各物件の「バネ受け部材(19X,19Y)」は,本件考案の「箱体」に該当すること,E被告各物件の「第1スプリング(29X,29Y)」は,本件考案の「第1調整スプリング」に該当すること,F被告各物件の「ハンドル(37X,37Y)」は,本件考案の「ハンドル」に該当すること,G被告各物件の「第2スプリング(31X,31Y)」は,本件考案の「第2調整スプリング」に該当することから,被告各物件のその他の構成は,いずれも本件考案の各構成要件を充足する。
(被告の反論) 以下に述べるとおり,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件を充足しない。
ア 構成要件アの充足性について 被告各物件における「シート部材(15X,15Y)」は,下からシート部材(15X,15Y),コンプレッションメンバー(13X,13Y),ダイヤフラム(17X,17Y)及びダイヤフラムバックアッププレート(21X,21Y)を重ね,これらの中央部の穴に,先端にポペットを有するシャフトを挿通させて一体化した「ダイヤフラムアッセンブリ」という組立部品である。
ガス圧力調整器において,弁の開閉に伴ってダイヤフラムアッセンブリが動くと,ポペットの作動性が損なわれてガス流路内に微粒子が発生し,高純度のガスの供給が困難となるため,ダイヤフラムアッセンブリをベースの凹部とキャップの内側の間に正確に固定する必要がある。
そこで,被告物件1のダイヤフラムアッセンブリは,ダイヤフラムの周縁部をリング部材(35X)とベース(1X)に挟み込み,かつ,最下部に位置するシート部材をベースに嵌合することにより,2箇所において,ベースに固定されている。被告物件1では,このように,シート部材はダイヤフラムアッセンブリを構成する一部材であり,ベースに組み込まれているわけではないし,コンプレッションメンバーがシート部材の上方から押さえつけ固定するものでもない。
また,被告物件2のダイヤフラムアッセンブリは,コンプレッションメンバーの周縁部をダイヤフラムとリング部材(35Y)を介してキャップ(11Y)とベース(1Y)の間に挟み込み,かつ,最下部に位置するシート部材をベース上に嵌合することにより,2箇所において,ベースに固定されている。被告物件2では,このように,シート部材はダイヤフラムアッセンブリを構成する一部材であり,ベースに組み込まれているわけではないし,コンプレッションメンバーがシート部材の上方から押さえつけ固定するものでもない。
よって,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件ア(「弁シートを備えたハウジング」)を充足しない。
イ 構成要件オの充足性について 本件明細書において,「仕切体」に関する記述は,@カバー,ダイヤフラム,ダイヤフラム室,仕切体,ハウジングの順に各部材が配置されていること,A仕切体はハウジングに固着され,その下面側の中央には弁シートが設置されていること,B仕切体はダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通しながら仕切ることのみであり,「仕切体」の作用効果,仕切る対象,仕切る方法についての記述はないから,「仕切体」が何を仕切るかついては明らかでない。この点,原告は,本件考案の「仕切体」は,「弁シート」と一体化して仕切りを行う部材である旨主張するが,本件明細書の記載からそのような解釈は導き出せない。本件考案において,ガス流入口とガス流出口を仕切るのは,「弁体」である。ガス流入口側とガス流出口側を一方では「仕切り」ながら,他方では「連通する」というのは,用語の自然な使い方としても失当である。
以上のとおり,本件考案の「仕切体」は,不明瞭な記載であるので,実施例を参酌して,「ハウジングの凹部の内径を直径とする円盤状でハウジングに固着された部材」と限定して解釈されるべきである。
一方,被告各物件における「コンプレッションメンバー(13X,13Y)」は,@圧縮機能,A保持機能及びBアッシー機能を有するが,仕切機能は有しないし,傘状又は碗状であり弾性変形し,ベースとの隙間にシート部材を挟んで保持するが,ベースに固着されていないのであって,「ハウジングの凹部の内径を直径とする円盤状でハウジングに固着された部材」に該当しない。
よって,被告各物件の構成は,本件考案の構成要件オ(「仕切体」)を充足しない。
(2) 本件実用新案登録(請求項1項)には明らかな無効事由が存在し,本件実用新案権に基づく請求は権利濫用に当たるか。
(被告の主張) 本件実用新案登録(請求項1項)には,以下のとおり明らかな無効事由が存在する。
本件考案については,これに対する出願前公知の文献として,以下のものがある。
a 乙17(USP4744387号明細書,なお枝番号の表記は省略する。以下同じ) b 乙1号証(USP4807849号明細書) c 乙6号証(実願昭59-152387号のマイクロフィルム) 本件考案と,乙17号証の発明とは,@本件考案が,弁シートをハウジングに別体に形成して備え,ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体を設けたのに対し,上記発明がリング形弁座(弁シート)を部品11(ハウジング)に一体的に形成し,仕切体を備えていない点,A本件考案の第1調整スプリング,第2調整スプリングが箱体を介してそれぞれ設けられているのに対し,上記発明が距離ばね(第1調整スプリング)を底部ばね案内と上方ばね案内との間に,ポペットばね(第2調整スプリング)を距離ばね(第1調整スプリング)内方に位置する上下の固定物の間に配置した点,において相違するが,それ以外の点においては同一である。しかし,同相違点@については,上記乙1号証(USP4807849号明細書)には,本件考案が属する技術分野であるガス圧力調整器において,シール(弁シート)をハウジングとは別体のものとして備え,このシールを流体通路を有するコンプレッションメンバーで保持する構成が示され,また,相違点Aについては,上記乙6号証(実開昭61-70211号)には,ダイヤフラムの反弁体側のボデー(カバー)内に配置された係合部を有するばね受け具(箱体)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(第1調整スプリング)と反弁体方向に付勢する感温ばね(第2調整スプリング)を配置するとの本件考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されており,これらの技術を乙17号証記載の発明に適用することは,当業者であれば極めて容易に想到できる。したがって,本件考案は,実用新案法3条2項の無効事由を有することが明らかである。
なお,本件実用新案権に係る無効審判請求事件(平成11年審判第35011号)について,実用新案登録を無効とするとの審決がされている。
本件実用新案権に基づく請求は権利濫用に当たる。
(原告の反論) 被告の主張は争う。
(3) 損害額 (原告の主張) 被告は,平成8年1月29日以降,現在に至るまでの間に,被告物件1を少なくとも合計約2万個,同年3月ころから現在に至るまでの間に被告物件2を少なくとも合計約2000個,それぞれ輸入販売した。
被告物件1の販売額は1個につき約10万円,被告物件2の販売額は1個につき約9万円であるので,その総売上金額は被告物件1につき金20億円,被告物件2につき金1億8000万円となる。そして,これによって被告が得た利益は,売上金額の約30パーセントを下らないので,その利益額は,被告物件1につき6億円,被告物件2につき5400万円を下らない。
よって,原告は,被告が被告各物件の輸入販売により得た利益である6億5400万円と同額の損害を被った。
20,000×100,000×0.3=600,000,000(被告物件1) 2,000×90,000×0.3=54,000,000(被告物件2) (被告の反論) 原告の主張は争う。
争点に対する判断
1 争点(2)(明らかな無効事由の有無)について 先ず,本件実用新案登録(請求項1項)には明らかな無効事由が存在し,本件実用新案権に基づく請求は権利濫用に当たるか否かについて検討する。
(1) 証拠(乙1,6,17)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 本件明細書には,本件発明が解決しようとする課題について,従来のガス圧力調整器の構成では,「弁の開閉,すなわち弁体109の摺動に伴い,スプリング111が伸縮するが,このスプリング111の伸縮により,スプリング111とハウジング101とが摺接して,金属粉等が発生する。スプリング111はガス流路途中に配置されているので,上記発生した金属粉が流通するガス中に混入して,ガスの品質を低下させてしまうという問題があった。特に,IC の製造等の半導体産業等において使用するガスは,高純度であることが望ましく,そのため,従来はスプリング111として耐蝕性に優れた特殊な材質のものを使用する等,コスト的にも好ましくない方策を余儀なくされていた。」と記載され(「考案の詳細な説明」の「考案が解決しようとする課題」の欄,3欄48行ないし4欄9行),本件考案の作用効果について,「調整スプリングとハウジング等との間の摺接により生じる金属粉等のガス中への混入を防止することができ,ガスの品質低下を防止することができる。また調整スプリングとして特殊な材料のものを使用する必要もない。」と記載されている(「考案の詳細な説明」の「考案の効果」の欄,7欄9行ないし13行)。
イ ところで,乙17(USP4744387号明細書)には,流体(液体又はガス)圧力レギュレータに関し,部品であるバネの摩擦接触等から発生する微粒子が流体(ガス)に混入し,半導体などの製品機能を破壊してしまうことを防止するために,流体の流れ経路からすべてのバネを取り除くこととした構造の発明が開示されている。
すなわち,「例えば,多くの工程が最高の純度で提供される流体を必要としている。実施例の一つが半導体工業の場合,この工業では,レギュレータそれ自身から流体の流れの中に導入された迷い子の微粒子は,これらが製品機能を破壊する場所にある製品に付着した時に極めて高価な製品をスクラップ化してしまう。
一つの実施例は導電性粒子であって,チップ上の二つの電子素子を架橋してしまう。レギュレータ内部でこの種の微粒子の発生源は,隔膜,バルブそして特に流体経路中のバネ類である。事例としてバネの屈曲作用,部品間の擦り合いまたはぶつかり合いが,相対する部品間のバネの摩擦を含めている。」(明細書1欄22行ないし35行)として,「自由作動するあらゆる部品及び流れ経路中の摩擦接触を取り除き,空隙部容積を最小化するために流れ経路から全てのバネを取り除くことが本発明の目的である。」(1欄51行ないし54行)とされ,その発明の構造として,「本発明のレギュレータ10は,ネジ山13で螺合接合される二つの部品11,12で構成される本体を有する。バルブは作動軸線14を有する。入口15は伸びて本体に入り,入口空隙部16に入る。(中略)出口20は伸びて本体に入り,感知空隙部21に入る。軸線14上のポペット通路22は入口空隙部及び出口空隙部と相互に連結する。隆起したリング形弁座25がポペット通路を取り囲み,ここで弁座が入口空隙部に入る。感知空隙部は部分的に本体で拘束され,また部分的に可撓性隔膜26で覆われる。該隔膜は円形(空隙部やポペット通路と同様に)であり,しかも中心部分は軸線方向に動き,この時隔膜を横切る差動力が変化する。ポペットステム27がポペット口を通るが周囲に間隙があるので摩擦は起きない。ポペットヘッド28がステムに取り付けられるか,またはステムと一体構成される。ポペットヘッド上のシール29は座に接した時にボペット通路を閉じるように座に面している。」(2欄39行ないし61行),「固定物32は隔膜に取付けられて封止されるフランジ32aをもつ。底部バネ案内33は隔膜に担持され,固定物32が通っている。上方バネ案内34は底部バネ案内に対面し,距離バネ35がこれら両方の案内間に置かれ,圧縮状態にある。」(3欄1行ないし6行),「ポペットバネ60は固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである。このバネ60の性向は隔膜を上方に引き寄せる傾向をもつ。距離バネの性向は隔膜を下方に押し込む傾向をもつ。距離バネが印加する圧縮力は距離バネ調節ネジを旋回して調節できる。ポペットバネに加わる張力はポペットバネ調節ネジを旋回して調節できる。」(3欄25行ないし32行),「流体の流れ中には,自由作動部品,またはバネ,または摩擦部品が存在しないことが観察されよう。唯一の物理的接触はポペットとその座の間のみである。」(3欄39行ないし42行)とそれぞれ記載されている。上記の「入口空隙部」,「リング形弁座」,「部品11」,「部品12」,「可撓性隔膜」,「感知空隙部」,「ポペットヘッド」,「距離ばね」,「ポペットばね」はそれぞれ本件考案の「弁室」,「弁シート」,「ハウジング」,「カバー」,「ダイヤフラム」,「ダイヤフラム室」,「弁体」,「第1調整スプリング」,「第2調整スプリング」に相当する。
そうすると,上記文献記載の発明は,@本件考案が,弁シートをハウジングに別体に形成して備え,ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体を設けたのに対し,上記発明がリング形弁座(弁シート)を部品11(ハウジング)に一体的に形成し,仕切体を備えていない点,A本件考案の第1調整スプリング,第2調整スプリングが箱体を介してそれぞれ設けられているのに対し,上記発明が距離ばね(第1調整スプリング)を底部ばね案内と上方ばね案内との間に,ポペットばね(第2調整スプリング)を距離ばね(第1調整スプリング)内方に位置する上下の固定物の間に配置した点において相違するが,それ以外の点においては同一である。
ウ ところで,乙1号証(USP4807849号明細書)には,流体流れ制御装置及び該装置のためのコンプレッションメンバーに関し,螺合手段の存在に起因するバーチャルリーク(仮想漏洩)の発生の問題を回避し,改良した流体流れ制御装置を提供するということを解決課題とした発明が開示され,同明細書には,上記相違点@の「ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」を有する構成が開示されている。すなわち,同明細書には,その実施態様として,「直径方向のより大きな力から,装置2のシール3上に,中央に集中する力を発生させるために力を伝達する,本発明のコンプレッションメンバー1が,本発明の流体流れ制御装置2において使用された状態が示されている。コンプレッションメンバー1は,中央に集中する力をシール3に付加するためにコンプレッションメンバーの一面の中心に位置する第1表面4と,第1面と反対側の部材1の第2面上の直径方向により大きな第2表面5とを有する。第2表面5の半径方向外側部分6は,その半径方向内側部分よりも高くなっていて,直径方向のより大きな力が付加される接触表面が設けられている。コンプレッションメンバー1は,第1表面4から第2表面5に向けコンプレッションメンバーの中心軸線8に沿ってコンプレッションメンバーを貫通する流体通路7が形成されている。」(3欄58行ないし4欄7行)とそれぞれ記載され,同明細書図面(第1図)として,コンプレッションメンバー1が,凹みまたは空隙部19内において,流体通路の入口側と出口側とを区切る(仕切る)構造の装置が記載されている。「コンプレッションメンバー」,「凹みまたは空隙部」は,それぞれ,本件考案にいう「仕切体」,「ダイヤフラム室」に相当する。
エ さらに,乙6号証(実願昭59-152387号のマイクロフィルム)には,インクジェットプリンタのプリント用インクの加圧力を自動的に調整するための圧力制御装置に関し,温度変化に対応してインクの制御圧力を自動的に調整することを解決課題とした考案が開示され,上記マイクロフィルムには,上記相違点Aの2つのスプリングの支持構造について本件考案と同一のものが開示されている。すなわち,上記マイクロフィルムには,「大気室10の内部には弁ばね16がボデー2に反力をとって弁体7を弁座6から離反させる方向に常時付勢するように配設されている。すなわち,大気室10における弁体7の延長線上には,ばね受け18を保持している調整ねじ部材17が進退調整可能に螺合されており,ばね受け18とダイヤフラム11の受け具12との間には,圧縮コイルばねからなる弁ばね16が蓄力状態で介設されている。また,大気室10の内部には感温ばね19がボデー2に反力をとって弁体7を弁ばね16の付勢方向とは反対方向に付勢するように配設されている,すなわち,ダイヤフラム11の受け具12には略筒形状に形成されているばね受け具20が,弁ばね16の外側を包囲するように同心的に配されて保持されており,ばね受け具20におけるダイヤフラム11とは反対側の端部に突設された係合部21と,大気室10の内周面におけるダイヤフラム11に寄った位置に突設されている係合部22との間には,昇温時に伸張する特性をもつ形状記憶合金により圧縮コイルばね形状に形成されている感温ばね19が弁ばね16と同心的に配されて介設されている。そして,この感温ばね19は大気室10の温度が上昇した時に,伸張変形することにより,弁ばね16に抗する付勢力を増加するように設定されている。」(5頁15行ないし7頁1行)と記載され,上記マイクロフィルムの第1図として,ばね受け具の内外にばねを配置する構造の装置が記載されている。「ばね受け具」,「弁ばね」,「感温ばね」は,それぞれ,本件考案にいう「箱体」,「第1調整スプリング」,「第2調整スプリング」に相当する。
(2) 以上認定した事実を基礎として,上記相違点@,Aについて検討する。
相違点@については,上記乙1号証(USP4807849号明細書)には,本件考案が属する技術分野であるガス圧力調整器において,シール(弁シート)をハウジングとは別体のものとして備え,このシールを流体通路を有するコンプレッションメンバーで保持する構成が示されているところ,この構成を,同一の技術分野に属する乙17号証(USP4744387号明細書)記載の発明に適用することは,当業者であれば極めて容易に想到できるといえる。
相違点Aについては,上記乙6号証(実願昭59-152387号のマイクロフィルム)には,ダイヤフラムの反弁体側のボデー(カバー)内に配置された係合部を有するばね受け具(箱体)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(第1調整スプリング)と反弁体方向に付勢する感温ばね(第2調整スプリング)を配置するとの本件考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されている。この構成を,乙17号証(USP4744387号明細書)記載の発明に適用することは,当業者であれば極めて容易に想到できるといえる(なお,同考案は,インクジェットプリンタのプリント用インクの加圧力を自動的に調整するための圧力制御装置ではあるが,「流体」の圧力制御装置に関するものであり,同一の技術分野に属するものということができる。)。
(3) 以上によれば,本件考案は,上記各証拠に記載されたものに基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものということができるから,実用新案法3条2項の無効事由を有することが明らかである。なお,本件実用新案権に係る無効審判請求事件(平成11年審判第35011号)について,実用新案登録を無効とするとの審決がされている(弁論の全趣旨)。
したがって,請求項1項に係る本件実用新案権に基づく本件請求は権利濫用に当たるので,棄却されるべきである。
2 争点(1)(構成要件オの充足性)について 以上のとおり,本件実用新案登録には,無効事由が存在するので,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく棄却されるべきであるが,念のため進んで,構成要件の対比について判断する。
(1) 「仕切体」の意義について 本件考案の構成要件オに係る「仕切体」の意義については,明瞭とはいえない。すなわち,本件明細書中には,@カバー,ダイヤフラム,ダイヤフラム室,仕切体,ハウジングの順に各部材が配置されていること,A仕切体はハウジングに固着され,その下面側の中央には弁シートが設置されていること,B仕切体はダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通しながら仕切ることが説明されているが,その作用,仕切る対象,仕切る方法についての技術的な説明はなく,明瞭性を欠く。
そこで,本件明細書の「考案の詳細な説明」の「実施例」及び図面(第1図及び第2図)の欄の記載部分,すなわち,「カバー11とハウジング1との間には仕切体13が介在している。仕切体13はハウジング1側に固着されており」(5欄10行ないし12行)と,「ダイヤフラム17と仕切体13との間には,ダイヤフラム室が形成され,このダイヤフラム室を介して上記ガス流入口3側とガス流出口5側とが連通する構造となっている。」(5欄16ないし19行)との記載部分及び図面を参酌することにより,「仕切体」の意義を確定すると,「仕切体」を「ハウジングに固着されたものであり,それにより,ガス流入口側とガス流出口側とを仕切るとともに,ダイヤフラム室を介してガス流入口側とガス流出口側とを連通する機能を有するもの」と限定して解釈するのが相当である。
(2) 被告各物件の構成の本件考案の構成要件オの充足性 被告各物件において,「コンプレッションメンバー(13X,13Y)」は,「シート部材(15X,15Y)をべース(1X,1Y)のうち流体流入通路(3X,3Y)の先端開口を形成する部分に押しつけ固定」するものであり,「ベース(1X,1Y)」に固着されたものではないので,本件考案の「仕切体」には該当しない。
よって,被告各物件の構成3は,本件考案の構成要件オを充足しない。
2 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。
追加
物件目録1別紙添付の縦断面図である図面1に示される,1外部からガス等の流体が流入し,中央付近で垂直方向に曲折しポペット9Xが上下方向に移動する縦穴3aXを形成している流体流入通路3Xと,外部に流体を流出させる流体流出通路5Xが形成されたべース1Xと,頭部にハンドル37Xが取り付けられ,このベース1Xの上面に端部が環状のリング部材35Xの周縁に接するように装着するキャップ11Xとを具備し,2ベース1Xの凹部とキャップ11Xの内側の間に(1)ダイヤフラムバックアッププレート21Xに底面が嵌挿され,その端部に外開きのフランジ部19cXが形成された円筒状のバネ受け部材19Xと,(2)ダイヤフラムバックアッププレート21Xの中央部にバネ圧をかけるためにバネ受け部材19Xに配設され,ハンドル37Xにより該バネ圧が調整される第1スプリング29Xと,(3)リング部材35Xとバネ受け部材19Xのフランジ部19cXとの間に配設され,第1スプリング29Xのバネ力とは逆方向にバネ力を作用させる第2スプリング31Xと,(4)リング部材35Xとコンプレッションメンバー13Xとの間に配置され,周縁部がべース1Xとリング部材35Xに挟み込まれ,かつ中央部がダイヤフラムバックアッププレート21Xに溶接されているダイヤフラム17Xと,(5)ダイヤフラム17Xを介してリング部材35Xに接した周縁部から中央部にかけて上開きの傘状で,中央部及びその周囲に4つの孔を有するコンプレッションメンバー13Xと,(6)コンプレッションメンバー13X及びシート部材15Xの各中央孔を貫通し,一端がダイヤフラムバックアッププレート21Xに螺子止めされ,他端が流体流入通路3Xの縦穴3aXに収まるポペット9Xを持つ,シャフト23Xと,(7)コンプレッションメンバー13Xのポペット9X側とポペット9Xに挟まれたシート部材15Xと,を配置し,3シート部材15X裏面の嵌合凸部がべース1Xの流体流入通路3Xの先端開口周囲の嵌合凹部に嵌合するように,コンプレッションメンバー13Xがシート部材15Xをべース1Xのうち流体流入通路3Xの先端開口を形成する部分に押しつけ固定し,かつポペット9Xがべース1Xの流体流入通路3Xの縦穴3aXに収まるようにべース1Xとキャップ11Xを外部からクランプナット36Xにより一体に結合し,この状態でダイヤフラム17X及びダイヤフラムバックアッププレート21Xとベース1Xにより形成されるダイヤフラム室14X内の圧力に応答するダイヤフラム17Xの変形により弁の開度を調整する流体圧力調整用バルブ図面1物件目録2別紙添付の縦断面図である図面2に示される,1外部からガス等の流体が流入し,中央付近で垂直方向に曲折しポペット9Yが上下方向に移動する縦穴3aYを形成している流体流入通路3Yと,外部に流体を流出させる流体流出通路5Yが形成されたべース1Yと,頭部にハンドル37Yが取り付けられ,このベース1Yの上面に端部が環状のリング部材35Yの周縁に接するように装着するキャップ11Yとを具備し,2ベース1Yの凹部とキャップ11Yの内側の間に(1)ダイヤフラムバックアッププレート21Yに底面が嵌挿され,その端部に外開きのフランジ部19cYが形成された円筒状のバネ受け部材19Yと,(2)ダイヤフラムバックアッププレート21Yの中央部にバネ圧をかけるためにバネ受け部材19Yに配設され,ハンドル37Yにより該バネ圧が調整される第1スプリング29Yと,(3)リング部材35Yとバネ受け部材19Yのフランジ部19cYとの間に配設され,第1スプリング29Yのバネ力とは逆方向にバネ力を作用させる第2スプリング31Yと,(4)周縁部がリング部材35Yとコンプレッションメンバー13Yとの間に挟み込まれ,かつ中央部がダイヤフラムバックアッププレート21Yに溶接されているダイヤフラム17Yと,(5)ダイヤフラム17Yを介してリング部材35Yに接した周縁部から中央部にかけて上開きの碗状で,中央部及びその周囲に4つの孔を有するコンプレッションメンバー13Yと,(6)コンプレッションメンバー13Y及びシート部材15Yの各中央孔を貫通し,一端がダイヤフラムバックアッププレート21Yに螺子止めされ,他端が流体流入通路3Yの縦穴3aYに収まるポペット9Yを持つ,シャフト23Yと,(7)コンプレッションメンバー13Yのポペット9Y側とポペット9Yに挟まれたシート部材15Yと,を配置し,3シート部材15Y裏面の嵌合凸部がべース1Yの流体流入通路3Yの先端開口周囲の嵌合凹部に嵌合するように,コンプレッションメンバー13Yがシート部材15Yをべース1Yのうち流体流入通路3Yの先端開口を形成する部分に押しつけ固定し,かつポペット9Yがべース1Yの流体流入通路3Yの縦穴3aYに収まるようにべース1Yとキャップ11Yを外部からクランプナット36Yにより一体に結合し,この状態でダイヤフラム17Y及びダイヤフラムバックアッププレート21Yとベース1Yにより形成されるダイヤフラム室14Y内の圧力に応答するダイヤフラム17Yの変形により弁の開度を調整する流体圧力調整用バルブ図面2
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 石村智
裁判官 沖中康人
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