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関連審決 審判1997-486
関連ワード 分割出願 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  補正 /  相違点の判断 /  実施例 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 225号 審決取消請求事件
原告 株式会社淀川製鋼所
訴訟代理人弁理士 鈴木秀雄
被告 元旦ビューティ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 増岡章三、増岡研介、片山哲章、弁理士 早川政名、長南満 輝男、細井貞行、石渡英房
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/14
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第486号事件について平成12年5月8日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 名称を「横葺き用屋根板」とする登録第1995858号考案(本件考案)は、
昭和57年5月7日出願に係る実願昭57-65713号を原出願として、昭和63年6月10日に新たな実用新案登録出願(実願昭63-76380号)として分割出願され、平成2年9月14日に出願公告、平成5年12月15日に設定の登録があったものであり、被告が本件考案の実用新案権者である。
原告は、平成9年1月9日、本件実用新案登録について無効審判請求をし(平成9年審判第486号)、平成9年12月26日、本件実用新案登録を無効とする旨の審決(第1次審決)があった。本件考案は実願昭53-74652号(後記審判甲第4号証)及び実願昭55-108287号(実開昭57-32430号)のマイクロフイルム(後記審判甲第2号証)の記載に基づいて極めて容易に考案をすることができたというのが、第1次審決の理由であった。
被告は、第1次審決の取消しを求める訴訟を東京高等裁判所に提起し(東京高裁平成10年(行ケ)第69号)、平成11年6月8日、第1次審決を取り消す旨の判決があり、同判決は確定した。
そこで平成9年審判第486号事件について再度審理された結果、平成12年5月8日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(本件審決)があり、本件審決の謄本は、平成12年5月29日原告に送達された。
2 本件考案の要旨 水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる横葺き用屋根板。
(本判決別紙1本件考案図面参照) 3 本件審決の理由の要点 (1) 請求人(原告)の主張 (1)-1 請求理由1 原告は、
審判甲第1号証の1 実公平2-34327号公報、
審判甲第1号証の2 平成3年7月19日付け手続補正書、
審判甲第1号証の3 平成4年8月7日付け手続補正書、
審判甲第2号証 実願昭55-108287号(実開昭57-32430号)のマイクロフイルム(本判決別紙3審判甲第2号証図面参照)、
審判甲第3号証 実公昭56-48812号公報、
審判甲第4号証 実願昭53-74652号(実開昭54-177030号)のマイクロフイルム、
審判甲第5号証 「意見書」(本件実用新案の原出願の出願中に提出された昭和63年6月10日付の意見書)、
審判甲第6号証 実公昭63-46577号公報(本件実用新案の原出願の公告公報) を提出し、
本件考案は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができた考案であるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案に該当する。したがって、本件実用新案登録は無効とすべきものであると主張している。
(1)-2 請求理由2 原告は更に、
審判甲第7号証 意匠登録第325017号の類似1の意匠公報(本判決別紙2審判甲第7号証図面参照)、
審判甲第8号証 実願昭53-134376号(実開昭55-50229号)のマイクロフイルム、
審判甲第9号証 実願昭55-108288号(実開昭57-32427号)のマイクロフイルム、
審判甲第10号証 実開昭56-74114号公報、
審判甲第11号証 実開昭57-68830号公報、
を提出し、
本件考案は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である審判甲第7号証と、審判甲第2号証及び審判甲第8〜11号証に記載された各考案に基づいて、
当業者が極めて容易に考案をすることができた考案であるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案に該当する。したがって、本件実用新案登録は無効とすべきものであると主張している。
(2) 被請求人(被告)の主張 (2)-1 請求理由1に対して 審判甲第3号証には、本件考案との関係において、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板」が記載されており、屋根板の基本構成において両者共通している。しかし、本件考案は上記の基本構成を備える屋根板において、その前端の係止部と後端の係合部の構成について、「上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる」ものとしたのに対し、審判甲第3号証には、その屋根板前端の係止部と後端の係合部とを上記のごとく構成していることの記載はない。
原告は、審判甲第3号証に記載の屋根板は、係合部先端に「折返部分」が設けられていない点、並びに係止部の下面部に「山状に屈曲する部分」が設けられていない点以外、本件考案と同じである旨主張しているが、およそ横葺き用屋根板というものは、屋根面の下位にある屋根板後端の係合部に屋根面の上位にある屋根板前端の係止部を嵌合させることによって順次葺成されるものであるがゆえに、一枚の屋根板前端の係止部と後端の係合部とは相互に嵌合されるべき対応関係を有しているのである。すなわち、係止部は特定構造の係合部と、係合部は特定構造の係止部と相互に嵌合され、おのおのの構造が有機的に関係し合うことによって初めて所期の目的を達成するべく構成されているのであって、このような係止部と係合部との一対一の有機的な対応関係を無視し、その構成を細かに分離分断し、その分断された一部の構成部分のみを比較するのは無意味なことである。
審判甲第3号証における係止部3Aは「折返部分」を持たない係合部3Bとの対応関係で嵌合されることを前提として構成されているにすぎず、一方の係合部3Bは「山状に屈曲する部分」を持たない係止部3Aとの対応関係で嵌合されることを前提として構成されているにすぎないことは明白であるから、本来、審判甲第3号証は本件考案における「係止部」の構成を満足していないのみならず、「係合部」の構成をも満足していないものといわざるを得ず、結局、本件考案と審判甲第3号証に記載の屋根板とは、その前提となる屋根板の基本構成以外、何ら共通するところはないものというべきである。よって、本件考案と審判甲第3号証に記載の屋根板とは、係合部先端に「折返部分」が設けられていない点、並びに係止部の下面部に「山状に屈曲する部分」が設けられていない点以外、本件考案と同じである旨の原告の主張は誤りである。
また、本件考案における係合部の「折返部分」は、「水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ」た「下り傾斜部分の下端部分」に設けられるものであり、しかも、それは「係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端綾が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない」ものである。ところが、審判甲第2号証の第5図記載の屋根板における折返部分10a は、審判甲第2号証中にはその構成に関する具体的記述はなく、単に図面から見て取れる程度のものであるが、第5図を見る限りにおいて、明らかに「水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し」ているものではない。そして、本件考案は、これにより、強風時や荷重が加わった場合でも先端の切断端縁が係止部の内面に接触することなく、塗装被膜が剥離して金属素面が露出することのない効果を意図するものであるが、審判甲第2号証記載の折返部分10a は、このような効果をねらって折返し形成されたものであることをうかがわせる程度の記載もない。なお、原告は、係合部の先端を水平に折り返すこと自体は、審判甲第4号証にも見られるとおり、本件実用新案出願前に既に知られていたことである旨主張するが、審判甲第4号証記載の屋根板は、その第1図及び第2図の記載から明らかなように、平板状の金属板の前後両端部にそれぞれ係止部と係合部を形成したものであって、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板」ではない。したがって、審判甲第4号証記載の屋根板は、上記「水平部」と「傾斜部」のうちの「水平部に対しほぼ平行に屈曲して」なる本件考案の「折返部分」の構成を有していない。
以上要するに、原告の提示する審判甲第2、3、4号証のいずれにも、本件考案の「上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる」との構成についての記載がないから、本件考案は、審判甲第2、3、4号証の記載に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものではない。
(2)-2 請求理由2に対して 本件考案は、特に、係止部の下面部が山状に屈曲する部分と水平部に対しほぼ平行に屈曲した折返部分との関連上より、風や雨、雪等により屋根板に正圧及び負圧が作用した場合でも、折返部材のその先端の切断端縁が係止部の内面に接触しないようにする点が特徴である。ここで、本件考案と審判甲第7号証記載の建築用板材との対比において検討すると、本件考案の主要旨の一つである下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなる点が、審判甲第7号証記載の建築用板材には記載されていない。
そして、審判甲第9号証及び審判甲第2号証においても、係止部の下面部が山状に屈曲する部分を設け、それとの関連の下に無風状態で屋根板に正圧,負圧が作用しない場合には接触しないが、風や雨,雪等により屋根板に正圧及び負圧が作用した場合には、係止部の山状部分が折返部分に当接して結合強度を高め、特に下面部の山状部分が弾性的に作用するので係止部と係合部との結合を強固に維持することができるようにした、また、強風で屋根板が浮き上がったり、作業員が屋根面を歩いて荷重が加わった場合、下り傾斜部分の下端部分がその係止部内面に接触するだけで先端の切断端縁がその係止部内面に接触せず、よって塗装被膜が剥離して金属素面が露出して電触作用を生ずることがないようにした、水平部に対しほぼ平行に屈曲する折返部分についてが記載されていないばかりでなく、示唆もされていない。
また、審判甲第8号証、審判甲第10号証、及び審判甲第11号証においても、
本件考案のように強風で屋根板が浮き上がったり、作業員が屋根面を歩いて荷重が加わった場合、下り傾斜部分の下端部分が係止部内面に接触するだけで、先端の切断端縁がその係止部内面に接触しないように折返部分を構成し、塗装被膜の剥離をさせず電触作用を起さないようにしたものが記載されていないばかりでなく、示唆さえもされておらず、この点が公知又は周知の事項でも全くない。
以上の次第であるから、本件考案は、審判甲第7号証、審判甲第9号証、及び審判甲第2号証記載のものに基づいて、並びに審判甲第8号証、審判甲第10号証、
及び審判甲第11号証記載のものに基づいて、当業者が極めて容易に考案できたものでない。
(3) 本件審決が認定した審判甲各号証の記載事項 @ 審判甲第2号証 (実願昭55-108287号(実開昭57-32430号)のマイクロフイルム) 審判甲第2号証には、「屋根等の面材」(第2頁第3行)、「上縁に・・・係合部3を、下縁に・・・係止部4を設けた面材5」(第2頁第8行〜第11行)、
「面材8」(第4頁第15行)、「その上の段に敷設される他の面材8の下縁係止部9の下側湾曲部9aを弾性的に挿し込み係止させ、」(第6頁第5行〜第7行)が記載され、図面の第1図には面材5が、第2図には係止部4と面材5及びこれらの係止状態を示す断面図が、第3図には面材8が、第5図には下側湾曲部9aが記載されている。
A 審判甲第3号証 (実公昭56-48812号公報) 審判甲第3号証には、「この建造物の面施工法は一端から盛上つて他端が開放する爪部材1を一定間隔に設けた支持材2を、爪部材1が横方向に一致するように平行に設置し、一側縁に係止部3Aを、他側縁に係合部3Bを各々設けた面板3を上記支持材2に直交させ、係止部を隣り合う面板3の係合部3Bに係止すると共に係合部3Bを支持材2の爪部材1に嵌合させ、爪部材1を叩くことによって係合部3Bを止着し乍ら施工する」(第1頁左欄第35行〜右欄第6行)、「第3図及び第4図は本案の第1実施例に係る面板の断面形状を示す全体断面図及び面板の組合せ部分を示す要部断面図である。」(第2頁左欄第3行〜第5行)、「面板3の他端に形成された係合部3Bは、その断面がゆるやかな丸みを持たされて大小2個の連続した山形状になるように受部3Eを屈曲形成し、該受部3Eの先端縁に間隙3Gを持たされて成る。」(第2頁左欄第13行〜第17行)、「次に、第5図は本考案の他の実施例に係る面板の組合せ部分を示す要部断面図である。この実施例では面板3の係合部3Bは丸みを持たせずに断面が大小2個の山形状となるように屈曲形成したものであり、受部3Eの抑え力を増大できると共に第4図で示した実施例の場合と同様に毛細管遮断を二重に図ることが出来る。」(第2頁左欄第34行〜右欄第2行)が記載されている。
B 審判甲第4号証 (実願昭53-74652号(実開昭54-177030号)のマイクロフイルム) 審判甲第4号証には、「本考案の金属屋根板は・・・金属板(3)の前後両端部を夫々長手方向全長に亘って折り返して形成され・・・金属板(3)前端を全長に亘って下方へ略U字状に折り返してできる嵌合部(1)を第2図に示すように下段に位置する金属板(3)後端を全長に亘って上方へ折り返してできる被嵌合部(2)に被嵌して連結される・・・被嵌合部(2)を形成する上横片(4)の略中央は長手方向に亘って上方に突曲して下面に凹所(5)を形成してあり、更に上横片(4)の先端には下方へ略U字状に折り返してできる係止片(9)が長手方向の全長に亘って設けてある。」(第2頁第13行〜第3頁第8行)が記載され、第1図及び第2図にはその横葺き用屋根板が記載されている。
C 審判甲第7号証 (意匠登録第325017号の類似1の意匠公報) 審判甲第7号証には、「建築用板材、本物品は屋根葺に使用するものであって、
縦葺、横葺いずれにも使用できる。」、及び板材の図面が記載されている。
D 審判甲第8号証 (実願昭53-134376号(実開昭55-50229号)のマイクロフイルム) 審判甲第8号証には、「金属屋根板(1)の棟側端部を軒側へ折り返して折り返し片(2)が延出してあり、この折り返し片(2)は断面山形状に中央部を上方へ突曲してある。また折り返し片(2)の先端には先端片(3)が斜下方へ延出してある。金属屋根板(1)の軒側端部には鉛直方向に垂下片(4)が垂下してあり、
垂下片(4)の下端より挿入片(5)が棟方向へ延出してある。垂下片(4)の先端には上方へ突曲する突曲部(7)が設けてある。」(第2頁第17行〜第3頁第6行)、「雨水の吹き込みは折り返し片(2)の先端の先端片(3)にても2重にせき止めることができるものである。尚、上記実施例では挿入片(5)先部の突曲部(7)にて水切り凹部(10)を形成してこの部分においても毛細管現象が遮断されるようにしてある。第4図は水切り凹部(10)を挿入片(5)を山形に折曲して形成したものである。」(第4頁第15行〜第5頁第1行)、「(1)は金属屋根板、(2)は折り返し片、(3)は先端片、(4)は垂下片、(5)は挿入片、(6)は水切り空所である。」(第5頁第11行〜第13行)が記載されている。
E 審判甲第9号証 (実願昭55-108288号(実開昭57-32427号)のマイクロフイルム) 審判甲第9号証には、「6は屋根等の支持材1に固着される吊子で、金属製の板材を加工してなり、その一端には、上記支持材1上面に略直交して敷設される面材5の上縁係合部3に嵌合する形状の爪部7が設けてある。この爪部7は施工時、面材5の上縁係合部3に上側から嵌合される部分であるが、その際引っ掛りがよいように好ましくは先端をさらに内側に曲げる等して止着部7aとし、上縁係合部3の側端縁3aに引っ掛かるようにするとよい。」(第3頁第20行〜第4頁第9行)が記載されている。
F 審判甲第10号証 (実開昭56-74114号公報) 審判甲第10号証には、「1・・・係止部、2・・・係合部、3・・・平面部、
4・・・傾斜面部、5・・・屈曲部、7・・・立上り面部、8・・・山部、
9・・・挟持片部、10・・・吊子差込み用溝、14・・・立下り面部、15・・・差込み片部。」(第1頁右欄第9行〜第12行)が、図面には面構造材が記載されている。
G 審判甲第11号証 (実開昭57-68830号公報) 審判甲第11号証には、「金属屋根材の接続構造」が記載されている。
(4) 請求理由1についての本件審決の判断 (4)-1 本件考案と審判甲第4号証に記載された考案との対比 そこで、まず、本件考案と審判甲第4号証に記載された考案とを対比すると、審判甲第4号証に記載された考案では、屋根板の嵌合状態において、係止片(9)の端縁と棟側の嵌合部(1)及び上記嵌合部(1)とその下方の金属板(3)との間にそれぞれ隙間があるかのように図示されていることが認められるが、これは、実際には、この嵌合状態においては、係止片(9)の端縁と棟側の屋根板の嵌合部(1)及び嵌合部(1)とその下方の金属板(3)は、積雪や強風に耐えられるようにそれぞれ面接触し合っているものと認められ、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、折返部分である係止片(9)の後端の切断端縁は棟側の屋根板の嵌合部の内面に接触しているものと認められる。また、上横片(4)、凹所(5)、係止片(9)の各内面と、金属板(3)の上面とでほぼ囲まれた箇所に空部があるとしても、嵌合状態においては、金属板(3)は嵌合部(1)と、嵌合部(1)は係止片(9)とそれぞれ接触して上記空部の中にあるから、上記空部は、非常に狭くなっており、毛細管現象により雨水が浸入するのを防げるほどの大きさがあるものとは認められない。
したがって、本件考案と審判甲第4号証に記載された考案とでは「前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係合部には、上端部分から前端側の下方に延びる部分を形成し、該下方に延びる部分の下端部分を水平部の上面と上端部分とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、上端部分及び下方に延びる部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する空部を形成すると共に、前記下方に延びる部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記空部の高さのほぼ中程に位置し、折返部分を設けてなる横葺き用屋根板。」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1 本件考案では、屋根板の水平部の前端に緩い傾斜部を連続させたのに対し、審判甲第4号証に記載された考案においては、傾斜部がない点。
相違点2 本件考案では、係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設けているのに対し、
審判甲第4号証に記載された考案においては、水平な板である点。
相違点3 本件考案では、その係合部において、上り傾斜部分、下り傾斜部分を形成し、下り傾斜部分は上り傾斜部分の上端部分から斜め下方に延びるように構成しているのに対し、審判甲第4号証に記載された考案においては、その上横片の略中央に長手方向にわたって上方に突曲して下面に凹所を形成している点。
相違点4 本件考案では、空部が水切用空部であるのに対し、審判甲第4号証に記載された考案においては、その空部が水切用であるかどうか明確でない点。
相違点5 本件考案では、その折返部分が、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないのに対し、審判甲第4号証に記載された考案においては、その係止片(本件考案の「折返部分」)は棟側の嵌合部(同「係止部」)と、そして棟側の嵌合部(同「係止部ー)は金属板(同「屋根板」)とそれぞれ面接触している点。
(4)-2 相違点に対する本件審決の判断 相違点1について 審判甲第2号証の面材5、8、審判甲第3号証の面板3に、それぞれ「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させた」点が記載されており、この点を審判甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、極めて容易になし得た程度のことである。
相違点2について 審判甲第2号証の係止部4、9に、それぞれ「下面部には山状に屈曲する部分を設け」る点が記載されており、この点を審判甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、
極めて容易になし得た程度のことである。
相違点3について 審判甲第3号証の第2図において、係止部3Bは、屈曲形成した折返し片3Dと、該折返し片3Dの先端に形成した1個の山形状に屈曲形成した受部3Eとから成る構成が記載されており、その係合部において、上り傾斜部分、下り傾斜部分を形成し、下り傾斜部分は上り傾斜部分の上端部分から斜め下方に延びるようにして構成している点が記載されている。この構成を審判甲第4号証に記載されたものに適用して本件考案におけるように構成するようなことは、格別の困難性を伴うことなく、極めて容易になし得た程度のことである。
相違点4、5について 審判甲第2号証には、上縁係合部10の端に、側端縁10aが記載されているものの、この側端縁10aは吊子14の止着部15aが引っ掛かるための縁で、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは相違している。また、「より多くの空間部が形成されるため、
雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを有効に防止することができる。」(同明細書7頁6〜9行)との記載があり、その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、その側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切りの作用効果を積極的に奏する構成と認めることはできない。
審判甲第3号証においては、「受部3Eによる毛細管の遮断は一段階にしか行われず」(同公報第2欄第18、19行)、及び「2個の山形空間部による毛細管遮断を二重に図り、」(同公報第2欄第32、33行)との記載があり、同様に、その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に対応するものについて、何ら記載がない。
以上によると、相違点4における水切用空部について、審判甲第2及び第3号証において、断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、その折返部分と相まって、空部が水切用空部として効果的に機能することを考慮すると、審判甲第2、第3号証によっても、上記相違点4、5が備えられていないばかりか、上記構成についての示唆すらもされていない。
そして、本件考案は、上記相違点4、5を備えていることにより、明細書に記載された「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という、審判甲第2、3、4号証にはみられない、顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件考案は、審判甲第2、3、4号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められない。
(5) 請求理由2についての本件審決の判断 (5)-1 本件考案と審判甲第7号証に記載された考案との対比 本件考案と審判甲第7号証に記載された考案とを対比すると、審判甲第7号証には、図面からみて、本件考案でいう屋根板1、水平部2、傾斜部3、係止部4、係合部5、前面部7、下面部8、上り傾斜部部分11、上端部分12、下り傾斜部分13に相当する構成を備えた屋根葺に使用する建築用板材が記載されているものと認められる。
本件考案と審判甲第7号証に記載された考案を対比すると、両者は、「水平部の前端に緩い傾斜部を連続させ、傾斜部の前端に係止部を、水平部の後端に係合部を形成した屋根板において、上記係止部の下面部には山状に屈曲する部分を設け、上記係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する空部を形成する横葺き用屋根板」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1 本件考案では、空部が水切用空部であるのに対し、審判甲第7号証に記載された考案においては、その空部が水切用であるかどうか明確でない点。
相違点2 本件考案では、下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、水平部に対しほぼ平行に屈曲して水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分を設けてなるのに対し、審判甲第7号証に記載された考案においては、折返部分を備えていない点。
(5)-2 相違点に対する判断 そこで、上記相違点1、2について検討する。
審判甲第2号証には、上縁係合部10の端に、側端縁10aが記載されているものの、この側端縁10aは吊子14の止着部15aが引っ掛かるための縁で、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。また、「より多くの空間部が形成されるため、雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを有効に防止することができる。」(同明細書第7頁第6〜第9行)との記載があり、
その空間部(空部)が水切用として機能する点が開示されているものの、その側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。
審判甲第8号証には、垂下片(4)、挿入片(5)、水切り空所(6)、折り返し片(2)、先端片(3)を備えた、金属屋根板接続装置が記載されており、その空所(空部)が水切り用として機能するとの記載があるものの、審判甲第8号証の先端片(3)は、折り返し片(2)の先端から斜下方へ延出してあり、さらに、図面の記載からは、先端片(3)の先端は、挿入片(5)と接触していると認められるので、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。
審判甲第9号証には、上縁係合部3、係止部4を備えた、建築用面材の固定構造が記載されているものの、審判甲第9号証の図面では、上縁係合部3の側端縁3aは係止部4に接触していると認められ、本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。
審判甲第10号証には、立上り面部7、山部8及び挟持片部9を有する係止部1、そして係合部2を備えた建築物の面構造材が記載されているが、その挟持片部の端部の折返部分が、棟側の面構造材の端部の内面とどのように配置構成されているのか、例えば、接触しないように構成されているのかどうか、不明である。原告は、審判甲第10号証として公開実用新案公報を提出しているが、公開公報の記載(第1から3図等)だけでもってはこの点明確でない。そこで、審判甲第10号証に係る実用新案登録出願の全文明細書の記載を参照して検討するに、その明細書の記載によっても、果たして、その係止部1の挟持片部の端部の折返部分が、本件考案におけるような、「雨水が水切用空部に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という水切りの作用効果を奏するものであるとの明示の記載もされてなく、示唆もされていない。また、この種の技術分野における技術常識等を考慮しても、この軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案における、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、上記の水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは、認めることはできない。
審判甲第11号証の第1図には、その軒側の屋根材の端部の折返部分が、棟側の屋根材の端部の内面に接触しないように構成した点が記載されているかのように見受けられる。原告は、審判甲第11号証として公開実用新案公報を提出しているが、公開公報の記載(第1図等)だけをもってはこの点明確でない。そこで、審判甲第11号証に係る実用新案登録出願の全文明細書の記載を参照して検討するに、
さきの審判甲第10号証においての検討と同様に、その明細書の記載によっても、
果たして、その軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案におけるような、「雨水が水切用空部に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という水切りの作用効果を奏するものであるとの明示の記載もされてなく、
示唆もされていない。また、この種の技術分野における技術常識等を考慮しても、
この軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案における、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、上記の水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。
以上からみて、審判甲第2及び8号証においては、その空所なり空間部(空部)が水切用として機能するとの記載があり、相違点1について断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根材の係止部内面に接触しないその折返部分と相まって、空部が水切用空部として、効果的に機能するものと認められることを考慮すると、審判甲第2、8〜11号証のいずれにも、上記相違点1、2が記載されていないばかりか、上記相違点1、2についての示唆もされていない。
本件考案は、上記相違点1、2を備えていることにより、明細書に記載された「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という、審判甲第7号証と、第2号証及び第8〜11号証にはみられない、顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件考案は、審判甲第7号証と、審判甲第2号証及び審判甲第8〜11号証に記載された各考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められない。
(6) 本件審決のむすび 以上のとおりであるから、原告が主張する請求理由1及び2、そして提出した証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
原告主張の審決取消事由
1 請求理由2に対する判断における一致点の誤認(相違点1は存在しない) 本件審決は、本件考案と審判甲第7号証記載の屋根板との間には、相違点1が存在すると認定したが、誤りである。
審決認定の相違点1において、「その空部」とは、審判甲第7号証第2頁の屋根板「正面図」における右端の「係合部」内に形成されている空部を指していることが明らかであるが、正面図に示されているような形状の係合部が水切用に形成されたものであって、その内側に形成されている空部が水切り作用を営むものであることは技術常識上明らかである。
被告は本件実用新案権に基づく侵害訴訟(横浜地裁平成6年(ワ)第3960号)において、「・・・原告によって考案されたのが、概略左図のような態様などを実施例とする屋根板である(登録第1282153号、同第1443101号)。・・・この構成によれば、水切り用空部の存在により、毛細管現象が断ち切られ、雨水が回り込みにくい。」と述べている。
被告がそこで陳述した準備書面の各図に示されている係合部及び係止部の形状は、審判甲第7号証と同種のものであり、被告は、このような形状の係合部と係止部によって形成される空部は水切り効果を有すると述べているのである。ちなみに、登録第1443101号の実用新案公報(甲第9号証)の第2図及び第3図に示されている係合部の形状は、審判甲第7号証記載の屋根板の係合部と酷似している。また、登録第1282153号実用新案の公告公報(甲第16号証)の図面に示されている係合部の形状も、審判甲第7号証記載の屋根板と同種のものである。
2 請求理由2に対する判断における相違点2の判断の誤り (1) 審判甲第2号証について 審判甲第2号証の第3図及び第5図から明らかなとおり、側端縁10aの後端の切断端縁は、屋根板の嵌合状態において、棟側の屋根板の係止部9の内面には全く接触していないから、審決の認定中「審判甲第2号証には、上縁係合部10の端に、側端縁10aが記載されているものの、この側端縁10aは吊子14の上着部15aが引っ掛かるための縁で、本件考案でいう・・・とは構成において明らかに相違している。」は誤りである。
本件審決は、あたかも、吊子係着用であるがゆえに後端が係止部内面に接触するものであるかのように認定しているが、吊子係着用であることと、後端の切断端縁が係止部内面に接触するか否かという「構成」との間に必然的な関係はない。
本件審決は、「側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。」と認定したが、側端縁10aが、山形部13(すなわち係合部10の前端の山形部分)の下り傾斜部分の下端を、山形部内側へ(すなわち係合部内側へ)斜め上方に向かって折り曲げて形成されているものであることは、第3図及び第5図によっても明らかである。
その折り曲げ部分が若干の幅、すなわち係合部内側に向かって、若干の長さを有しているのは自然の理であるし、そもそも水切りのために形成されている係合部内側に向かって若干の幅を有して形成されている折り曲げ部分が、係合部内に浸入した水に対して水切り作用を全く営まないなどということは技術常識上考えられない。「積極的」な水切り効果があるかないかを判断の基準とするのは、そもそも不適切である。積極的であるか結果的であるかにかかわりなく、水切りの作用効果そのものを有しているか否かを問題とすべきである。
本件審決は、本件考案における折返部分と「側端縁10a」との作用効果上の異同の判断に際して、「水切り効果」の有無のみを取り上げているが、本件明細書には水切り効果以外にも吊子係着効果と電蝕防止効果について記載されており(本件公報第5欄第31行ないし第6欄第3行、第5欄第8〜第11行)、審判甲第2号証の屋根板の側端縁10aが吊子係着用のものであることは本件審決も認定していることであり、本件考案の折返部分と作用効果が同じである。
また、側端縁10aの後端切断端縁が係止部内面に接触していないことは、図面上明らかなので、側端縁10aが電蝕防止効果を有することも明らかである。
これらの点を看過し、しかも、側端緑10aが水切り効果を奏し得ることも明らかなのに、本件審決が「水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることができない」などとしてその作用効果を否定し、あたかも、側端縁10aの作用効果が本件考案の折返部分の作用効果とは全く相違するかのように認定したのは誤りである。
(2) 審判甲第8号証について 審判甲第8号証記載の屋根板における「先端片(3)」が、第1図及び第2図において、「挿入片(5)」(本件考案の「係止部下面部」に相当)に接触する状態で描かれていることは争わないが(ただし、第4図では、両者の間に多少の隙間が存在している。)、審判甲第8号証には、「またこの雨水の吹き込みは折り返し片(2)の先端の先端片(3)にても2重にせき止めることができるものである。」(第4頁第15ないし第17行)として、「先端片(3)」が水切りの作用効果を奏するものであることが明記されている。
審判甲第8号証記載の「先端片(3)」を、「相違点2」との関係において考察するのであれば、上記の点は重要な意義を有する事項であるし、他の審判甲号各証の記載との対比については、本件審決も、その折返部分対応個所が水切り効果を有するものであるか否かの点を重視した認定を行っているにもかかわらず、審判甲第8号証については、上記事項を殊更に無視ないし看過し、しかも、「その空所(空部)が水切り用として機能するとの記載があるものの」として、あたかも、水切りは空所の作用効果であって先端片(3)の作用効果ではないかのように認定したのは不適切である。
(3) 審判甲第9号証について 審判甲第9号証の図面(第2図)を見れば、側端線3aは、その後端の切断端緑が、係止部4の内面とは接触しない位置に設けられていることが明らかである。
また、側端縁3aは、「係合部内に向かって延び、水平部に対してほぼ平行に屈折して水切用空部の高さのほぼ中程に位置する折返部分」である点において本件考案の折返部分と一致することが明らかであり、さらに、審判甲第2号証の屋根板と同じく、吊子係着、電蝕防止、水切り等の作用効果を奏し得ることも明らかである。
審判甲第9号証記載の屋根板は、「係止部下面部の山状屈曲部分」がない点を除き、本件考案の屋根板と酷似した屋根板であり、このような点が、相違点1及び相違点2との関係における審判甲第9号証の存在意義である。
(4) 審判甲第10号証について 審判甲第10号証の第1図、第2図及び第3図を見れば、挟持片部9先端の折返部分は、平面部3よりかなり離れた位置に、水平方向に延びるように形成されていて、係合部2(本件考案における係止部4)の下端水平部14をその下に配置した状態においても、その切断端緑が、水平部14の上面(すなわち係合部2の内面。
本件考案の係止部4の内面に相当)と接触しないものとして描かれていることは明らかである。
本件審決は、上記の点を公開公報である同号証の記載では不明であるとして、職権をもって審判甲第10号証に係る全文明細書を検討し、上記折返部分が本件考案の折返部分のような水切りの作用効果を有するものであることは全文明細書に記載も示唆もされていないとして、「接触」の問題とは関係のない認定をしている。
しかも、同号証では不明確であるとした「接触」の問題とは無関係な水切りの作用効果の事項を認定した上で、「技術常識等を考慮しても」として、同号証の屋根板の折返部分の切断端縁が、本件考案における「棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることができない。」と結論づけている。
しかし、審判甲第10号証の折返部分が、水平方向に延びていて、かつ、係合部内面と接触しないものであることは図面の記載によって明らかであるし、また、折返部分が係合部の前端を内側に折り返して設けられているものである以上、係合部内に浸入した水に対して水切り作用を営むものであることは技術常識上明らかである。
(5) 審判甲第11号証について 本件審決は、軒側の屋根材の端部の折返部分が棟側の屋根材の端部の内面に接触しないように構成した点が公開公報の記載(第1図)だけでは不明確であるとして、職権をもって審判甲第11号証に係る全文明細書を検討し、その折返部分が本件考案の折返部分と同じ水切りの作用効果を奏する旨の明示の記載も示唆もないとして、「接触」の有無とは別個の問題についての認定を行い、さらに、「技術常識」に基づき、「この軒側の屋根材の端部の折返部分が、本件考案における、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分に相当し、上記の水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは、認めることはできない。」と結論づけている。
しかし、審判甲第11号証記載の屋根板の折返部分の切断端縁が係止部内面に接触していないことは、本件審決も認めざるを得ないように明らかであるし、また、
その折返部分が、係合部の先端を折り返して設けられているものである以上、空部内に浸入した水に対して水切り作用を営むものであることも明らかである。
(6) 審判甲号各証の記載に関する本件審決の総合的判断について 本件審決は、審判甲第2号証及び審判甲第8号証について、「その空所なり空間部(空部)が水切用として機能するとの記載があり、相違点1について・・・」として、これらの証拠に相違点1についての記載又は示唆の開示があることを実質的に認めながら、本件考案における、空部と折返部分との関連による効果的な機能なるものを考慮し、卒然として、「審判甲第2、8〜11号証のいずれにも、上記相違点1、2が記載されていないばかりか、上記相違点1、2についての示唆もされていない。」と認定した。
そもそも相違点1は、「水切用空部」が存在するか否かという問題なので、甲第4号証及び甲第5号証に「相違点1」についての開示があると認められるのであれば、「折返部分」の存否とは関係なく、「相違点1」の問題は解消されているはずである。
相違点2についても総合的に判断を行っているが、審判甲号各証に示されている折返部分が、総合的にみて、本件考案の折返部分のどの点を開示し又は示唆していないというのかを、明確に示すべきであろう。
(7) 本件考案の作用効果に関する本件審決の認定について 本件審決が認定した本件考案の作用効果は、山形状に形成された係合部の前端を折り曲げて、係合部の空間内に向かって延びるように形成された折返部分であれば当然に奏し得る作用効果であって、審判甲第2号証、第8ないし第11号証に記載されている折返部分が、そのような作用効果を奏し得ることは極めて明らかである。また前述のことからして、本件考案の作用効果は、すべて公知の折返部分によって奏されることが明らかである。
したがって、本件考案と、審判甲号各証記載の屋根板との間の作用効果の相違についてした本件審決の認定は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 請求理由2に関し原告主張の一致点の誤認はない。
審判甲第7号証は意匠にすぎないから、技術的な目的や作用効果等について明確でないのは当然である。審判甲第7号証の意匠の出願者において、水切用空部が念頭にあったとしても、このことは、本件考案の出願当時水切用空部が技術常識であったということを意味しない。
2 請求理由2に関する相違点2は、審判甲第2、審判甲第8ないし第11号証に記載ないし示唆されていない。
本件審決が相違点2を認定した趣旨は、審判甲第7号証に記載された考案は「本件考案のような」折返部分を備えていないということであって、単に折り返された部分の有無を比較しても無意味である。本件審決が「折返部分を設けているのに対し」とせず、「下り傾斜部分の下端部には・・・」と、実用新案登録請求の範囲の記載を引用しているのも、そのような折返部分の有無を比較する趣旨にほかならない。
審判甲第2、審判甲第8ないし11号証に記載ないし示唆があるかどうかが問題となるのは、相違点2の全体である。原告は、相違点2の一部について各引用例に記載があるかのような主張を行っているにすぎない。
審判甲2号証には、係合部10の側端縁を折り返すとの記載はなく、たまたま実施例図面上側端縁10aが折り返されているにすぎず、これは一般に「アザ折り」、「アダ折り」、「ムダ折り」などと呼ばれているものにほかならない。すなわち、切断端縁によって作業者が負傷することを防止し、また、この折り返された一見無駄な部分が長さの「調整しろ」となることから成形精度が上がるため、一般的に行われている折返しである。このような「アザ折り」が本件考案における折返部分と全く異なることは明らかである。仮に側端縁10aがアザ折りでなく、本件考案における折返部分のような形状をしていると仮定すれば、その切断端縁が下縁係止部9の下側彎曲部9aに容易に接触してしまうであろうことは明らかである。
3 本件考案の作用効果について 審判甲第2号証及び審判甲第10号証の原告主張部分は単なるアザ折りである。
審判甲第8号証の原告主張部分についていえば、「水平部に対してほぼ平行する折返部分」そのものが存在しないので、本件審決の指摘した作用効果を奏すべくもない。審判甲第9号証についても、上縁係合部3の側端縁3aは係止部4と接触し、
しかもこれは爪部7を引っ掛けるために曲げられた部分にすぎないのであって、本件考案の上記作用効果を奏するはずもない。
当裁判所の判断
1 本件明細書の記載 甲第2号証の1(本件実用新案公報)、同号証の2(平成3年7月19日付け手続補正書)及び同号証の3(平成4年8月7日付け手続補正書)によれば、本件明細書に次の記載のあることが認められる(本判決別紙1本件考案図面参照)。
(1) 「周知のように屋根板は多種多様な人工的な、若しくは自然状態の現象に耐えなければならない。・・・雨水が流下する場合に屋根板の接続部から毛細管現象により屋根裏に染み出すのを防ぐため毛細管現象の発生防止用空部が必要である。
また、暴風雨時等においては屋根板の接続部から雨水が吹き込むので、吹き込み防止用の水返し片が必要となる。・・・金属部分が擦れ合っても電蝕作用により穿孔しないようにしなければならない。」(公報第1欄第25行〜第2欄第11行) (2) 「また水切用空部15がそのまま残存するので、屋根板相互の連結強度が著しく高くなって強風時でも外れることがなく、しかも雨水が毛細管現象により屋根裏に浸入することがない。そして、本考案における折返部分17は、暴風雨時に棟と軒先との間で隣り合う屋根板1,1の連結部分から水切用空部15内に吹き込む雨水を受けとめると共に、受けとめた雨水を下面部8に案内して屋根裏に流れ込むのを防ぐことになる。このとき、本考案における折返部分17は水切用空部15の高さのほぼ中程に位置し、適度な幅を有しているので、雨水の受けとめ機能と案内機能とを両立することができる。」(公報第4欄第24〜第36行) (3) 「本考案によれば、係合部には、上り傾斜部分の上端部分から前端側の斜下方に延びる下り傾斜部分を形成し、該下り傾斜部分の下端部分を前記水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させ、前記水平部の上面と係合部の下面との間に、両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部を形成すると共に、前記下り傾斜部分の下端部分には、係合部内に向かって延び、前記水平部に対しほぼ平行に屈曲して前記水切用空部の高さのほぼ中程に位置する折返部分を設け、棟側に葺く屋根板の係止部と軒側に葺く屋根板の係合部との嵌合状態において、前記折返部分の後端の切断端縁を棟側の屋根板の係止部内面に接触しないようにしたので、暴風時に屋根板の連結部分に吹き付ける雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、下面表面を横方向に流れて例えば側端に設けた捨板の表面から排出する。」(平成3年7月19日付け手続補正書第3頁第2行〜第4頁第2行) (4) 「本考案によれば、係止部の下面部には山状に屈曲させた部分を設けてあるので、屋根板により屋根を葺き上げた状態において、無風状態で屋根板に正圧、負圧が作用しない場合には棟側の屋根板の係止部の下面部と軒先側の屋根板の水平部の後端上面との間に水切用空部を形成するので、毛細管現象による雨水の浸入が防止できて雨仕舞が確実である。また、風や雨、雪等により屋根板に正圧及び負圧が作用した場合、棟側の屋根板の係止部の下面部の山状部分が軒先側の屋根板の係合部の折返部分に当接して結合強度を高めることになるが、特に下面部の山状部分は弾性的に作用するので変形を生じることがなく、係止部と係合部との結合を強固に維持することができる。」(平成4年8月7日付け手続補正書第2頁第11行〜第3頁第5行) 2 本件考案の理解 本件実用新案登録請求の範囲の記載によれば、「水切用空部」を形成するための部材である下り傾斜部分の下端部分から「折返部分」が始まっており、その下端部分が水平部の上面と上り傾斜部部分の上端とのほぼ中程の高さに位置させて水平部に対しほぼ平行に屈曲しているから、「折返部分」は水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、さらに、嵌合状態において折返部分後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないから、「両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部」であることが認められる。
そして、一般に屋根板の接続構造には、毛細管現象の発生を防止するための空部、及び、暴風雨時等において雨水が吹き込むのを防止するための水返し片が必要であること、本件考案においては毛細管現象により雨水が浸入することを防止するのは水切用空部15であること(下面部8が形成する空部もその役割を果たしていると解される。)、暴風雨時に水切用空部内15に吹き込む雨水を受けとめるとともに、受けとめた雨水を下面部8に案内して屋根裏に流れ込むのを防止するのは折返部分17であること、が認められるところ、上記の「水切用空部」と「折返部分」の関係からみて、毛細管現象の発生を防止するための空部の中ほどに暴風雨時等において雨水が吹き込むのを防止するために折り返された水返し片(折返部分)を有しているものと理解することができる。
3 請求理由2に関する一致点の誤認の主張について 甲第3号証によれば、審判甲第7号証には、意匠に係る物品として「建築用板材」と、説明として「本物品は屋根葺に使用するものであって、縦葺、横葺いずれにも使用できる。」と記載されており、正面図及び使用状態を示す斜面図(本判決別紙2審判甲第7号証図面参照)には、建築用板材を嵌合連結する構造に上方の空部と下方の空部が描かれていることが認められる。
前記2で説示した屋根板の接続構造に一般に必要な役割からみると、上方及び下方の空部は雨水の浸入を防止するためのものであると解されるものの、審判甲第7号証は意匠公報であるため、そこに図示される空部の技術的な目的や作用効果等について明らかではない。そして、その上方の空部に折り返された構造の折返部分の記載があるものとは認められないから、本件考案の空部と構造が同一のものと認めることはできないし、作用効果も同一のものとは認められない。
したがって、審判甲第7号証に図示される上方の空部が、本件考案でいう「水切用」であるか否かは明確でないとした本件審決の認定に誤りはない。
4 請求理由2に関する相違点の判断の誤りの主張について (1) 審判甲第2号証に関する主張について (1)-1 原告は、審判甲第2号証における側端縁10aの後端の切断端縁は、屋根板の嵌合状態において、棟側の屋根板の係止部9の内面には全く接触していない。と主張する。
しかしながら、甲第4号証によって認められる審判甲第2号証の記載、「この係止状態において、面材8の上縁係合部10は大小三つの山形部11,12,13を連続させた三つの山形であるため強度及び弾性のいずれも極めて強い。したがってこれに係止された上側からの面材8の下縁係止部9も強固に係止され、強い風圧等によっても捲れ上がったりすることがなくなる。また屋根等の屋内側まではより多くの空間部が形成されるため、雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを有効に防止することができる。」(第6頁第19行〜第7頁第9行)と、第3、第5図の図示(本判決別紙3審判甲第2号証図面参照)によれば、三つの山形を形成する裾の部分の一つである側端縁10aは下側彎曲部9aに接触して下縁係止部9を強固に係止し、強い風圧等によっても捲れ上がったりすることがなくなることが認められる。
そうすると、側端縁10aが存在する空部は、本件考案でいう「下方前方が前端側に開放する空部」でないことは明らかであり、また、第3図の左部分で側端縁10aが下側彎曲部9aとそれからほぼ直角に立ち上がる面とに接触しているように図示されているから、その切断端縁が下側彎曲面9aに容易に接触し、相手の保護被膜を傷つけ、金属素面の露出部分で電蝕による穿孔が起こり得るものと認めることができる。
なお、審判甲第2号証の前記記載は吊子の係着箇所に限られるものではなく、第3図の左部分の図示するところも吊子係着箇所ではないから、側端縁10aが吊子係着のための部分であることと関わりなく、側端縁10aの切断端縁が下側彎曲面9aに容易に接触する可能性があるものと解される。
(1)-2 原告は、側端縁10aが山形部13の内側へ(係合部内部へ)斜め上方に向かって折り曲げて形成されており、この折り曲げ部分が、水切り作用を全く営まないなどということは技術常識上考えられないのであり、それが積極的であるか結果的であるかにかかわりなく、水切りの作用効果そのものを有しているか否かを問題とすべきである旨主張する。
しかしながら、審判甲第2号証の前記記載によれば、側端縁10aは吊子係着のための部分であるとともに、三つの山形空間部を形成するための裾の部分の一つであることが認められるにとどまる。そして、三つの山形空間部が形成されるから雨水等が毛細管現象等により屋内側に浸透してくるのを防止することができ、前段の二つの山形空間部を形成する左側傾斜面で暴風時の雨水の吹き込みを既に防止しているものと解される。そして、審判甲第2号証の第3、第5図には、最後段の側端縁10aは山形部13内側へ水平ではなく斜め上方に向かって折り曲げているように描かれているし、係止部9の角に接触するように描かれているから、係止部の角を押さえつけるための構造と解され、その折り曲がりは、切断端縁によって押さえつける相手の板面が傷つくのを防止するとともに一般的に行われている折返しであるところの、むだ折り、あだ折り、アザ折り(乙第2〜第7号証)に相当するものと認めることができ、水切り(水返し)のための構成であるとみるのは困難である。
他方、本件考案においては、毛細管現象の発生の防止は水切用空部で行われており、さらに暴風雨時等において雨水がその空部内に飛散しても、係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められるという水切り(水返し)の作用を有するのであって、本件審決は、その二つの役割に関する説示を合わせて、審判甲第2号証のものにつき「その側端縁10aが、本件考案の折返部分におけるように、水切りの作用効果を積極的に奏する構成とは認めることはできない。」と認定したものと理解すべきであり、そこに誤りはない。
(2) 審判甲第8号証に関する主張について 甲第5号証によれば、審判甲第8号証には、
「また金属屋根板(1)(1)の連結部分には第2図のように折り返し片(2)と挿入片(5)との間に水切り空所(6)が形成されており、金属屋根板(1)上面と挿入片(5)下面の間より毛細管現象で浸入してきた雨水は水切り空所(6)にて毛細管現象を絶たれ、雨水が金属屋根板(1)の下面に至ることを防止できるものである。」(第3頁第19行〜第4頁第5行) 「さらに加えて折り返し片(2)が金属屋根板(1)の棟側端部に軒側へ向け上面側で折り返してあるので、強風などで雨水が金属屋根板(1)と挿入片(5)との間より吹き込んでも折り返し片(2)にて雨水はせき止められ、雨水の浸入を防止できるものであり、またこの雨水の吹き込みは折り返し片(2)の先端の先端片(3)にても2重にせき止めることができるものである。」(第4頁第10〜第17行) との記載があることが認められるから、毛細管現象で浸入してきた雨水の防止は水切り空所(6)で行われ、折り返し片(2)の先端の先端片(3)は雨水の吹き込みをせき止めるものであるものと認めることができる。
しかしながら、先端片(3)は挿入片(5)に接触する状態で描かれているのであるから、接触する相手の保護被膜を傷つけ、金属素面の露出部分で電蝕による穿孔が起こり得ると解されるのであり、本件審決が、「本件考案でいう、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しない折返部分とは、構成において明らかに相違している。」と認定判断した点に誤りがあるということはできない。
(3) 審判甲第9号証に関する主張について 甲第6号証によれば、審判甲第9号証の第2図に示されているところからは、上縁係合部3の側端縁3aは、「水切用空部の高さのほぼ中程に位置する」ものとは認められない。第2図の左部分の連結構造の図示において側端縁3aが水切用空部の高さのほぼ中程に位置するとすれば、係止部4の内面が押さえられず風により係止部4がガタつくことは明らかである。
そして、甲第6号証によれば、審判甲第9号証の明細書の記載、「6は屋根等の支持材1に固着される吊子で、金属製の板材を加工してなり、その一端には、上記支持材1上面に略直交して敷設される面材5の上縁係合部3に嵌合する形状の爪部7が設けてある。この爪部7は施工時、面材5の上縁係合部3に上側から嵌合される部分であるが、その際引っ掛りがよいように好ましくは先端をさらに内側に曲げる等して止着部7aとし、上縁係合部3の側端縁3aに引っ掛かるようにするとよい」(第3頁最下行〜第4頁第9行)との記載があることが認められる。これによれば、側端縁3aは爪部7を引っ掛けるためのものであり、爪部7の止着部7aと側端縁3aは係止部の内面を押さえていると解されるから、接触する相手の保護被膜を傷つけ、金属素面の露出部分で電蝕による穿孔が起こり得るものであるとともに、「下方前方が前端側に開放する空部」でないことは明らかである。
以上のとおりであり、審判甲第9号証に関する原告の主張は理由がない。
(4) 審判甲第10号証に関する主張について 甲第7号証によれば、審判甲第10号証の第1図、第2図及び第3図においては、挟持片部9先端の折返部が平面部3よりかなり離れた位置にあるとも認められないし、水平方向に延びるように形成されていると認めることもできない。
その第3図が示すところによれば、立上り面部7、山部8、挟持片部9などからなる空部が水返しの役割を果たしていると解され、また、折返部分に相当する挟持片部9の先端折返部が短いことからみて、その部分が水返しを行っていると認めるのは困難である。また、その折返部が係合部2の水平面を押さえてなければ風によりガタつくことは明らかであり、挟持片部9の折返部は、対応する屋根板と接触しているものと推認される。審判甲第10号証の折返部分9は、審判甲第2号証の側端縁10aと同様、相手の板面を押さえ付ける部分の端に設けられた、むだ折り、
あだ折り、アザ折りと解すべきである。
本件審決は、職権をもって審判甲第10号証に係る全文明細書を検討しているが、審判甲第10号証の記載による認定が、上記のとおりである以上、全文明細書を検討した点は、審判請求人である原告に有利になることはあっても不利になることはないので、これをもって本件審決に手続上の誤りがあるということはできない。
(5) 審判甲第11号証に関する主張について 甲第8号証によれば、審判甲第11号証の第1図が従来例の断面図であること以上に、原告主張に係る「折返部分」が技術的にいかなる意味を持っているのかについての記載は、審判甲第11号証にはないことが認められ、その部分が空部内に浸入した水に対してどのような役割を果たすのか明らかではない。
本件審決は、職権をもって審判甲第11号証に係る全文明細書を検討しているが、審判甲第10号証について判断したのと同様に、そこに本件審決の手続上の誤りがあるということはできない。
(6) 審判甲号各証の総合的判断、本件考案の作用効果に関する本件審決の認定について (6)-1 本件考案の水切用空部と折返部分とは密接な関係を有するものであり、
それらの構造が相まって、「両傾斜部分の内面及び水平部の上面でほぼ囲まれて下方前方が前端側に開放する水切用空部」を形成し、毛細管現象の発生を防止するための空部の役割、暴風雨時等において雨水が空部内に飛散しても、係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ちるという役割を果たすものと認められる。また、「折返部分」は水切用空部の高さのほぼ中程に位置し、嵌合状態において折返部分後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないものである。
前記判示したところによれば、審判甲第2号証及び審判甲第8号証には、上記本件考案の水切用空部と折返部分との密接な関係の開示があるものとは認められず、
そこに記載されている折返しの端縁は、接触しているものであったり、本件考案の折返部分の水切り(水返し)の役割を果たしているものではないことは明らかである。
(6)-2 前示のとおり、本件考案の空部は毛細管現象の発生を防止するための空部の中程に暴風雨時等において雨水が吹き込むのを防止するために折り返された水返し片(折返部分)を有しているものであるから、「水切用空部」と「折返部分」は密接な関係を有している。
このような点から、本件審決は、請求理由2について判断するに当たり、相違点1と相違点2を認定しつつ、相違点に対する判断として、「上記相違点1、2について検討する。・・・」とし、相違点1と相違点2を合わせて他の刊行物記載の考案と対比し判断している。
そして、審判甲第10号証と甲第11号証に係る全文明細書の記載について、
「本件考案におけるような、「雨水が水切用空部内に飛散しても、この雨水は係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ち、」という水切りの作用効果・・・」と説示し、「甲第2及び8号証においては、その空所なり空間部(空部)が水切用として機能するとの記載があり、相違点1について断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないその折返部分と相まって、空部が水切用空部として、
効果的に機能するものと認められることを考慮すると、・・・」と説示している。
本件審決は、このように、毛細管現象の発生を防止するための空部の役割ばかりでなく、暴風雨時等において雨水が空部内に飛散しても、係合部の内面を伝わって水平部に対してほぼ平行する折返部分で止められ、水切用空部内を流下して係止部の下面表面に落ちるという役割を合わせて総合的に検討した上で、「水切りの作用効果を積極的に奏する」あるいは「水切用空部として効果的に機能(水切りの作用効果)している」と認定判断しているのである。
前記のように、本件考案においては「水切用空部」と「折返部分」が密接な関係を有しているのであるから、それらに関して、「水切用」、「水切りの作用効果」、「水切りの作用効果を積極的に奏する」、「水切用空部として効果的に機能(水切りの作用効果)している」と、本件考案の作用効果を総合的に認定判断した点に誤りがあるということはできない。
(6)-3 したがって、本件審決が、「以上からみて、甲第2及び甲第8号証においては、その空所なり空間部(空部)が水切用として機能するとの記載があり、相違点1について断片的に開示されていると認められなくはないが、本件考案においては、嵌合状態において後端の切断端縁が棟側の屋根板の係止部内面に接触しないその折り返し部分と相まって、空部が水切用空部として、効果的に機能するものと認められることを考慮すると、甲第2,8〜11号証のいずれにも、上記相違点1,2が記載されていないばかりか、上記相違点1,2についての示唆もされていない。」と認定した点に、原告主張の誤りはないというべきである。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年5月31日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実
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