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事件 平成 12年 (ワ) 8841号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 長谷川電機工業株式会社
訴訟代理人弁護士 北方貞男
補佐人弁理士 田中秀佳
被告 マルチ計測器株式会社
被告 株式会社ムサシインテック
上記2名訴訟代理人弁護士 高橋譲二
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/06/21
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告マルチ計測器株式会社は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、譲渡し、譲渡目的の展示をしてはならない。
2 同被告は、その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
3 同被告は、原告に対し、金500万円及びこれに対する平成12年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告株式会社ムサシインテックは、別紙イ号物件目録記載の物件を譲渡し、
譲渡目的の展示をしてはならない。
5 同被告は、その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
6 同被告は、原告に対し、金350万円及びこれに対する平成12年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実については、当事者間に争いがない。) (1) 本件実用新案権 原告は、次の実用新案権を有している(以下「本件実用新案権」といい、
その考案を「本件考案」、その実用新案登録出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
登録番号 第2535841号 考案の名称 検電器 出願日 昭和63年3月9日(実願昭63-31761) 登録日 平成9年2月21日 実用新案登録請求の範囲 別紙実用新案登録公報(甲1)該当欄記載のとおり (2) 本件考案は、次の構成要件に分説することができる。
A 被検知電路と電気的に結合される検知先端部を有し、
B この検知先端部からの入力電圧に基づいて被検知電路が充電されているか否か、及び、低圧又は高圧のいずれで充電されているかを低圧及び高圧検出回路により検出し、
C 上記検知先端部を、抵抗値が数十KΩ〜1MΩを有し、被検知電路の短絡を防止する抵抗体物質で構成したことを特徴とする D 検電器 (3) 被告マルチ計測器株式会社(以下「被告マルチ計測器」という。)及び被告株式会社ムサシインテック(以下「被告ムサシインテック」という。)は、別紙イ号物件目録の〔製品名〕欄記載の検電器(以下「イ号物件」という。)を製造、
販売している。
(4) イ号物件は、「被覆電線や裸端子などの被検知電路に接触させたときに、
これと電気的に結合される検知先端部を有する」「検電器」であり、本件考案の構成要件A及びDを充足する。
2 原告は、イ号物件が本件考案技術的範囲に属するとして、被告らに対し、
本件実用新案権に基づき、イ号物件の製造、販売、販売のための展示の差止め及びイ号物件の廃棄を求めるとともに、被告マルチ計測器に対し金500万円、被告ムサシインテックに対し金350万円の損害賠償の支払を求めた。
3 争点 (1) イ号物件は本件考案技術的範囲に属するか。
ア イ号物件の構成 イ 構成要件B該当性 (ア) 構成要件Bにいう「高圧」「低圧」の意義 (イ) イ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか。
ウ 構成要件C該当性 イ号物件の検知先端部の抵抗値は数十KΩ〜1MΩの範囲にあるか。
(2) 本件実用新案権には明らかな無効原因が存在するか。
(3) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号物件は本件考案技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(イ号物件の構成)について 【原告の主張】 イ号物件の構成は、別紙イ号物件目録記載のとおりであり、これを本件考案の構成要件と対比できるように分説すると、次のとおりである。
a 被覆電線や裸端子などの被検知電路に接触させたときに、これと電気的に結合される検知先端部を有し、
b この検知先端部からの入力電圧に基づいて100V以下の低圧交流の場合は検電ランプのみが点滅し、200V以上の高圧交流の場合は検電ランプと検漏電ランプの双方が点滅する回路を有しており、これにより被検知電路が充電されているかどうか、及び、低圧又は高圧のいずれで充電されているかを検知できる、
c この検知先端部は抵抗値が、市販マルチテスタによる測定値で20KΩ以上の導電性ゴムでできている、
d 検電器である。
【被告らの主張】 イ号物件の構成は、次のとおりである(下線部が原告の主張と相違する箇所である。)。なお、別紙イ号物件目録の図1、図2は認める。
イ号物件は、図1の本体部分を手で持ち、導電性剛性ゴムからなり抵抗値が5〜10KΩの検知部先端を 、被覆電線や裸端子を被う、フレーム(カバー部分)に接触させ、微弱な電流(10μA以上)が流れていればLランプ(検漏電ランプ)の発光により電気機器の内部絶縁劣化及び感電の危険性を検知するほか、右検知部先端を被覆電線や裸端子に接触させて検電ランプの発光により低圧交流(600V以下)が充電されていることを検出する、 使用電圧範囲がAC0V〜600Vの検電器である。
(2) 同イ(構成要件B該当性)について ア 同(ア)(構成要件Bにいう「高圧」「低圧」の意義)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件Bにいう「低圧」と「高圧」は、本件明細書に「例えば30V以上の電圧が入力されたときに出力する低圧検出回路及び、上記検知先端部に、例えば400V以上の電圧が入力されたときに出力する高圧検出回路」(本件明細書4欄39行〜43行)という記述があることからみて、相対的な低圧、高圧をいうものであることが明らかである。
(イ)a 被告らは、通商産業省令の電気設備に関する技術基準を根拠に「定圧交流とは600Vまでを指し、高圧交流とは600Vを超え7000Vまでをいう」と主張するが、これは通商産業省令上の定義にすぎず、あらゆる場合に通用する定義ではない。同基準にいう「低圧」「高圧」の定義は、電気事業法の規定に基づき、電気工作物について人体又は他の物件に対する損害(又は障害)や電気工作物自体の損壊を防止するための技術基準を電圧の高低ごとに定めるという行政上の目的から定められたものであり、同基準は電気設備の保安に関するものであって、検電器に関する規定はない。
b IEC(International Electrotechnical Commission、国際電気技術委員会)は、現在、「高圧」「低圧」の区分を1000Vでしている。1985年にIECが発行した国際技術用語集では、低圧(low voltage)は「低圧とは配電について使用される電圧レベル分類であって、その上限を交流1000Vとすることが一般に受け入れられている」、高圧(high voltage)は「低圧を超える電圧」と説明されている。日本JIS規格も、上記国際的定義に合わせ、従来600Vを「高圧」「低圧」区分の基準としていたのを、1995年版では1000Vとするよう改定した。したがって、国際的にも国内的にも、電気設備技術基準の定義が低圧、高圧の一般的定義ではない。
c 被告らが引用する文献やカタログ等(乙2〜7)は、いずれもその検電器を充電部に直接接触して使用できる最高電圧(検電器が耐えられる電圧の最高値)を基準に「低圧用」「高圧用」と称して分類するものであり、検電器の内部回路によって検知部からの電圧が低い電圧、高い電圧を判別検出する本件考案とは観点が異なる。
d 前記a、bの低圧、高圧の定義は、主として人体、人体以外の他の物件及び電気機器の安全性の観点からの電圧区分に関するものであるが、これ以外に、単に相対的に高い電圧、低い電圧という意味で、高圧もしくは低圧という語が電気技術分野の技術用語として一般的に使用されていることは当業者にとって自明であり、相対的に高い電圧、低い電圧という意味で「高圧」「低圧」が使用されている技術文献(甲7〜11)も存在する。
(ウ) 被告らは、前記の本件明細書の「高圧」「低圧」の記載に関し、対地電圧が理論値としては電線間の電圧差の√3分の1となるので、「400V以上の電圧が入力された時に出力する高圧検出」とは600V以上の高圧を検出することを意味すると主張する。しかし、それは電力会社が3相電気回路で送電し、かつ、その中心点が接地されている場合にのみ妥当することであり、3相電気回路でも中心点が接地されていない場合や、3相回路または単相回路で一線接地の場合には同じことはいえないし、非接地の回路も多々ある。また、検電器が使用される他の場合、例えば、耐電圧試験、一般弱電機器、集じん機、医療用機器など電気を使用するすべての機器の電圧発生(電気のあるなし)確認に使用される場合はこのようなことはいえない。したがって、明細書の「400V」という記載を、3相電気回路であって、かつ、その中心点が接地されている場合の400Vと解釈することが論理的必然性をもって成り立つものではなく、かつ、このように限定して解釈しなければならないとする根拠もない。
【被告らの主張】 (ア) 本件考案は、「低圧又は高圧のいずれで充電されているかを検出する低圧と高圧の検出回路」の存在を必須の要件としているところ、本件考案の「低圧」「高圧」は交流(AC)に関するものである(本件公報1欄11〜12行参照)。
そして、交流における「低圧」とは600V以下を、「高圧」とは600Vから7000V以下をいうことは、以下に示すとおり疑問の余地がなく、検電器の技術分野においてこの区分は絶対的である。イ号物件の使用電圧範囲はAC0V〜600Vであるから、イ号物件は低圧で充電されているか否かのみを検出するために用いられるものであり、構成要件Bを充足しない。
a 電気事業法に基づき通商産業省令は「電気設備に関する技術基準」を定めており、同基準は、電気事業に携わるすべての者がこれを遵守する義務を負うという重要な意義を持つところ、交流の低圧の意義を「600V以下」、高圧の意義を「600Vを超え7000V以下」と明確に定めている。
検電器は、被検知電路に接触させて入力電圧を検知する機器であり、作業者等の安全を確保し、電気工作物自体の損壊を防止する必要があるが、この必要性は、電気設備技術基準の目的そのものであるから、検電器が同基準に服すべきことは当然である。
b 次のとおり、各種文献、カタログ、特許公報等も、「低圧」「高圧」の範囲につき「600V以下」「600Vを超え7000Vまで」という電気設備技術基準と同一の理解に立つことを前提としている (a) 文献 「電気と工事」昭和62年8月号(乙2) 「電気工事」1997年8月号(乙3)、同誌1994年9月号(乙4) (b) 原告製品カタログ 原告会社1997年版カタログ(乙5) (c) 原告の別出願の特許公報 原告が昭和50年に出願した検電器に関する発明を記載した特開昭51-117670公開特許公報(乙6) (d) 被告ら製品パンフレット等 被告らの製品のパンフレット(乙7)、仕様書(乙8)、取扱説明書(乙12、13の1・2) (イ)a 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載以外の部分には、
「低圧」「高圧」の技術的意義を示す決定的な記載がある。すなわち、本件明細書4欄39〜42行には、「例えば30V以上の電圧 が入力された時に出力する低圧検出回路及び…400V以上の電圧が入力された時に出力する高圧検出回路」という記載があるが、ここでいう電圧とは、「検電器の動作開始電圧」を指し、この「動作開始電圧」は「低圧」「高圧」の電圧より低くなる。「低圧の電圧」とは、低圧が生じている複数の電線(1本〜4本)間の電圧差をいうが(乙3・28頁)、「動作開始電圧」とは、ある電線と地面との電圧差(対地電圧)をいい、理論値としては電線間の電圧差の1/√3となる。したがって、高圧の場合の動作開始電圧は600V÷√3=約350V以上であり、本件明細書にいう「400V以上の電圧が入力された時に出力する高圧検出回路」とは「600V以上の高圧を検出する」との意味に他ならない。
b 原告は、明細書の「400V以上…」との記載を、3相電気回路でかつその中心点が接地されている場合における400Vとする解釈が論理的必然性をもって成り立つものではなく、かつ、このように限定して解釈しなければならないとする根拠もないと主張するが、これは技術常識を完全に無視した主張である。
低圧(100V、200V、440V)の配電方式には単相2線式、単相3線式、3相3線式、3相4線式があるが、各電圧に応じた配電方式は決まっており、低圧の場合の動作開始電圧は最大でも254Vである。してみると、
400V以上の動作開始電圧が入力するとは、高圧の電圧を検出することに他ならず、被告の主張は論理必然的に成り立つものである。なお、一部メーカーの高圧用検電器には動作開始電圧を250Vに設定しているものもあるが(乙5・20頁第1表)、同製品は、検出感度を高めるため高圧用検電器の検出可能最低電圧をかなり低めに設定したものであり、高圧電路(3300V、6600V)の検出対象電圧である1900V、3800Vを検電するには問題がないという意味にすぎないのであり、低圧・高圧の区分を変更するものではない。
イ 同(イ)(イ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか)について 【原告の主張】 (ア) イ号物件の内部には別紙イ号物件目録図2に示す回路が含まれており、このうちコンデンサC1から抵抗R1に至る回路が低圧検出回路を構成し、コンデンサC1から抵抗R17に至る回路が高圧検出回路を構成する。イ号物件は、同図3に示されるように、2Vと100Vを印加した時には検電ランプのみが点滅し、200V以上で検電ランプと検漏電ランプが共に点滅する。検漏電ランプ(Lランプ)の10μA以上の電流が流れるときの電流検出は、検電器の内部抵抗との関係で先端検知部の対地間電圧に換算して検出動作するから、イ号物件は、検電ランプの動作電圧(100V以下)と検漏電ランプも作動する電圧(200V以上)の二重レベルの検出動作をするものであり、低圧及び高圧検出回路を備えている。
(イ) 被告らは、イ号物件内部の高圧用回路を漏電検出用と称し、同回路が動作した時に点滅するランプを検漏電ランプ(Lランプ)と称しているが、この回路は検漏電目的でなく、しかも、これを「検漏電」ということには重大な疑問がある。そもそも、人体が電流を感じるのは、個人差はあるが大体1mAであるから、10μA以上の電流を検出することは検漏電のためには不必要に少ない電流量から検出していることになり、「検漏電」は口実にすぎない。
また、被告らは、「コンデンサC1から抵抗R17に至る回路」を「電流検出回路」であると主張するが、これは電気工学の常識に反する。検電器はその内部抵抗(インピーダンス)を1MΩ程度として、人が手に持って充電部に接触させたとき安全な電流とし(電圧を100Vとすると、100V/1MΩ=0.1mA)、その電流を検出して検電圧動作するものであり、イ号物件の「コンデンサC1から抵抗R17に至る回路」も、この一般原理に従って検知先端部とクリップ(アース部)間の電圧を検出しているのである。
【被告らの主張】 イ号物件の「コンデンサC1から抵抗R17に至る回路」は、「高圧検出回路」を構成するものではなく、「電流検出回路」を構成している。イ号物件では、
電圧(低圧)検出回路のC1を通る入力インピーダンスに対し電流検出回路のインピーダンスは約100分の1であり、電流検出回路に約10μA(人体に有害な電流より低めに設定して安全を図っている)の電流が流れた時、検漏電ランプが作動するようになっている。同回路は「電圧」を検出するものではなく一定以上の「電流」を検知するものである。換言すると、電流値はたとえ電圧が一定でも抵抗値の大小(検知者がどのような衣類、手袋、靴を身に付けているか等によって変わる)によって変化するから(電圧をE、電流をI、抵抗をRとすると、E=IRの式が成り立つ)、電流検出回路には一定の電圧が入力されているか否かを検出する機能はないのである。
したがって、イ号物件には2種類の異なる電圧を検出する回路がなく、
イ号物件が本件考案の構成要件Bを充足しないことは明らかである。
なお、原告は「200V以上で検漏電ランプが動作する」と主張するが、検漏電ランプは人体抵抗値の違いによって動作したりしなかったりするので、
「200V以上で動作する」とはいえない。例えば、抵抗値が30〜100MΩに達する靴や土台が検知者の足元にあると、200Vであっても流れる電流は10μA未満なので動作しない。
(2) 同イ(構成要件C該当性)について 【原告の主張】 原告が入手したイ号物件5個についての測定データ(甲3)によれば、イ号物件の検知先端部は抵抗値が20KΩ以上であり、構成要件Cを充足する。原告の測定結果は、市販のイ号物件をランダムに購入し、普通の測定器(一般デジタル抵抗計及び一般絶縁抵抗計)で、通常の使用状況を考慮して、検知先端を被検知電路表面2点間に軽く触れた状態(100g加圧)で表面抵抗値を測定した結果である。
【被告らの主張】 イ号物件の検知先端部の抵抗値は5〜10KΩであるから(乙9)、イ号物件は構成要件Cを充足しない。なお、抵抗値変更前のイ号物件の抵抗値は約10KΩである。
2 争点2(本件実用新案権には明らかな無効原因が存在するか)について 【被告らの主張】 本件考案は、その出願時に、その考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が公知・公用の発明に基づいてきわめて容易考案をすることができたものであるから、本件実用新案権には実用新案登録の無効原因(実用新案法3条2項37条1項)が存することが明らかであり、原告の本件請求は権利の濫用である。
すなわち、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、構成要件AないしCの構成からなることを特徴とする検電器というものであるが、上記A〜Cの構成からなる検電器に関する技術は、その出願日である昭和63年3月9日以前に、次の公開実用新案公報(乙14ないし18)及び公開特許公報(乙19ないし21)により公知となっていた。A及びCの公知資料としては乙14があり、Bの公知資料としては低圧検出回路につき乙15、16、高圧検出回路につき乙17、18、低圧・高圧共用検出回路につき乙19ないし21がある。本件考案は、その出願前に、これらの公報に記載された技術に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたことが明らかである。
【原告の主張】 被告らの主張は争う。本件考案は短絡防止のために検知先端部を抵抗体物質とし、かつその抵抗体物質の抵抗値を数値限定した考案であるが、被告引用の文献には、抵抗体物質を短絡防止のために使用することに言及したものや抵抗値を数値限定した文献はなく、本件考案公知技術の単なる寄せ集めであるとはいえない。
3 争点(3)(損害額)について 【原告の主張】 被告らは、平成11年1月から平成12年3月までの間に、イ号物件の製造、販売により次の利益を上げ、原告にそれぞれ同額の損害を与えた。
(1) 被告マルチ計測器は、同期間にイ号物件を少なくとも1万個製造、販売し、1個当たり500円、合計500万円の利益を上げた。
(2) 被告ムサシインテックは、同期間にイ号物件を少なくとも5000個販売し、1個当たり700円、合計350万円の利益を上げた。
【被告らの主張】 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号物件は本件考案技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(イ号物件の構成)について 前記争いのない事実等と証拠(甲4の1・2、検甲1〜4、乙12、13の1・2、乙25)を総合すれば、イ号物件は、別紙イ号物件目録図1の本体部分を手で持ち、導電性ゴムからなる検知部先端を被覆電線や裸端子を被うフレーム部分に接触させたときに、人体に流れる電流を検出して、被検知電路がAC600V以下の交流電圧で充電されていることを検出する使用電圧範囲がAC0V〜600Vの検電器であること、イ号物件を構成する回路は同図2のとおりであり、コンデンサC1から抵抗R1に至る回路(以下「検電回路」という。)と、コンデンサC1から抵抗R17に至る回路(原告が「高圧検出回路」、被告が「電流検出回路」と主張するもの、以下「検漏電回路」という。)という2種類の回路を有していることが認められる。
(2) 同イ(構成要件B該当性)について ア 同(ア)(構成要件Bにいう「低圧」「高圧」の意義)について (ア) 登録実用新案の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義は、明細書考案の詳細な説明の部分の記載及び図面を考慮して解釈すべきである(実用新案法26条、特許法70条1項、2項)。
本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「低圧又は高圧のいずれで充電されているかを低圧及び高圧検出回路により検出し」と記載されており、考案の詳細な説明の「産業上の利用分野」の項には「本件考案は検電器に関し、詳しくは交流電路の充電の有無を検出する高・低圧共用の検電器に関する。」(1欄11〜12行)と記載されている(甲1)から、本件考案の検電器は、交流電路の「高圧」と「低圧」の両方の充電の有無を検出するものであるが、ここにいう「低圧」及び「高圧」の意義について説明したり、それぞれの電圧の範囲を具体的な数値により規定した部分は本件明細書中に存在しない。
また、本件明細書考案の詳細な説明において、「低圧」又は「高圧」について具体的な電圧値が記載されているのは、実施例の説明の欄における「検知先端部(13)に、例えば30V以上の電圧が入力された時に出力する低圧検出回路(24)及び、上記検知先端部(13)に、例えば400V以上の電圧が入力された時に出力する高圧検出回路(25)」(4欄39〜42行)という部分のみであり、その余の部分では、実用新案登録請求の範囲と同じく、単に「低圧」又は「高圧」と記載されるに止まっている。しかも、本件明細書には、「低圧」又は「高圧」が特定の電圧値に属することが、低圧検出回路及び高圧検出回路の機能と何らかの関係があることを示す記載はないし、考案が解決しようとする課題、考案の目的、効果において、「低圧」「高圧」を構成する電圧値の範囲が何らかの意味を持つことを窺わせる記載もない。
以上によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載又は図面を参酌しても、本件考案における「低圧」「高圧」が特定の電圧値の範囲を意味するものと解することはできず、本件考案における「低圧」「高圧」の意義は、2種類の電圧のうち相対的に低い電圧、高い電圧という程度の意味と解せざるを得ず、
「低圧検出回路」及び「高圧検出回路」も、相互に異なる2つの電圧を測定する機能を有するものと解するのが相当である。
(イ) 被告らは、検電器の技術分野において、「低圧」は600V以下のもの、「高圧」は600Vを超えて7000V以下のものを当然に意味しており、
この区分は絶対的であると主張する。
証拠(乙1)によれば、電気事業法の規定に基づき制定されている「電気設備に関する技術基準を定める省令」(昭和40年6月15日通商産業省令第61号)2条は、電圧を低圧、高圧及び特別高圧の3種に分類し、低圧を「直流にあっては750V以下、交流にあっては600V以下のもの」、高圧を「直流にあっては750Vを、交流にあっては600Vを超え、7000V以下のもの」、
特別高圧を「7000Vを超えるもの」と定義していることが認められる。
他方、証拠(甲12、14の1・2)によれば、IEC(国際電気技術委員会)が1985年(昭和60年)に発行した国際技術用語例集は、「低圧」を「配電線に使用される電圧をいい、その最高電圧は一般に1000V(交流)である」と定義し、「高圧」を「1)一般に、低圧を超える電圧水準をいう、2)狭義では、大送電線システムで使用される電圧を指す」と定義していること、JIS規格「制御機器の絶縁距離・絶縁抵抗及び耐電圧(C0704)」も、前記IECの国際技術用語例集を受けて、1981年版では適用範囲を交流600V以下としていたものを、1995年版では交流1000Vに変更していることが認められる。
これらの事実に加えて、昭和40年に電気設備技術基準が制定されるまでは、同基準の前身である電気工作物規定において、300Vを超えるものが「高圧」と定義されていたこと(乙27、弁論の全趣旨)を考慮すると、検電器の技術分野において、600V超を高圧、600V以下を低圧と定義する電気設備技術基準が、「高圧」「低圧」の意義を定める絶対的な基準であるということはできない。
この点につき、被告らは、IEC規格及びJIS規格は、低圧を600V以下、高圧を600V超とすることを前提として、メーカーが機器を設計する際に決定する最大使用電圧を決める倍率係数の数値が変わる部分を便宜的に1000Vに求めているにすぎず、「低圧」「高圧」の区分を変更するものではないと主張する。しかしながら、IEC規格は、前記のとおり、その文言からみて「高圧」「低圧」そのものの定義を規定したものであり、被告らが主張する「倍率変更区分」について国際技術用語例集には一切触れるところはないのであるから、被告らの主張は採用することはできない。
なお、検電器に関しては、被告らが挙げるように、電気設備技術基準の定義に従って「高圧」「低圧」の語を使用している技術文献、カタログ、公開特許公報(乙2〜6)も存在するが、これらの文献等は、いずれも使用電圧範囲を交流50V(又は80V)ないし7000Vとする検電器を「高・低圧用検電器」、
使用電圧範囲を600V以下とする検電器を「低圧用検電器」とするなど、「高・低圧用検電器」の使用電圧範囲を具体的な電圧値で特定するものであり、検電器の内部回路によって被検知電路が高圧・低圧のいずれで充電されているかを検出するという本件考案とは「低圧」「高圧」に関する技術的意義が異なっており、これらの文献等にいう「低圧」「高圧」の文言自体が当然に600V以下、600V超7000V以下を表すことを示すものとはいえない。したがって、これらの文献等を根拠とする被告らの主張も失当である。
(ウ) また、被告らは、本件明細書の「例えば30V以上の電圧が入力された時に出力する低圧検出回路(24)及び…例えば400V以上の電圧が入力された時に出力する高圧検出回路(25)」(4欄39〜42行)にいう「電圧」とは、「低圧」を600V以下、「高圧」は600Vを超えて7000V以下とする場合の検電器の動作開始電圧をいい、動作開始電圧は公称電圧の1/√3であるから、「400V以上の電圧が入力される」とは、600V以上の高圧を検出することに他ならないとも主張する。
しかしながら、明細書に「高圧」「低圧」を構成する電圧値の範囲が記載されていなくても、検電器の技術分野において「低圧」といえば当然に600V以下、「高圧」といえば当然に600Vを超えて7000V以下を意味すると解することはできないのは、前記(イ)で詳述したとおりであるし、本件明細書中の被告ら指摘の箇所にいう電圧が被告らの主張するような趣旨で記載されていると認めるに足りる証拠もない。
イ 同(イ)(イ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか)について (ア) 原告は、イ号物件は100V以下の電圧を印加した時には検電ランプのみが点滅し、200V以上の電圧を印加した時には検電ランプと漏電ランプ(Lランプ)が共に点滅するから、イ号物件は2種類の異なる電圧を検出する回路を備えていると主張するところ、イ号物件は、当事者間に争いのない別紙イ号物件目録図1のとおり、本体部に「Lランプ(検漏電ランプ)」と「検電ランプ」の2つのランプを備えている。
しかしながら、電圧E、電流I、抵抗Rの間には、E=IRの式が成立し(オームの法則)、電流値は、電圧が一定の場合でも抵抗値の大小によって変化するところ、イ号物件については、絶縁靴や土台などにより通常の人体と比較して抵抗値が増加された場合であっても、200V以上の電圧を印加することにより検漏電ランプ(Lランプ)が作動することを示す実験結果等は提出されていない。
かえって、イ号物件の取扱説明書(乙12、13の2)には、「履いている靴が絶縁靴のとき、Lランプが点灯しない場合があります」「AC200V電路又はAC400V(440V)電路の裸端子を検電した時にLランプが点灯する場合がありますが、異常ではありません」との記載があり、イ号物件においては、200V又は400Vの電圧が印加された場合にも、Lランプが点灯したりしなかったりする場合があることが推認される。
しかも、イ号物件の回路図(乙25)によれば、コンデンサC1から抵抗R17に至る検漏電回路のインピーダンスは、抵抗R13、R14の抵抗値を合計した約21MΩであり、コンデンサC1から抵抗R1に至る検電回路のインピーダンスが、同回路を構成するコンデンサの合計値を基に算出した約176MΩ(60Hz)であるのと比較して約1/8であることが認められ、検漏電回路のインピーダンスは検電回路のインピーダンスと比較して十分小さいものと判断される。この事実は、イ号物件の検漏電回路が、電路電圧に変化がなくとも人体に流れる電流の大小を検出する構造であり、電圧を検出するものではないという、被告らの主張に沿うものであるといえる。
以上によれば、イ号物件のLランプが実際に200Vで作動する場合があることをもって、イ号物件が2つの異なる電圧を検出する回路を有しているとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(イ) なお、証拠(甲4の1・2、乙12、13)によれば、イ号物件の商品ケースの台紙には、「感電チェック付検電器」(被告マルチ計測器)、「感電チェック機能付音響発光式低圧検電器」(被告ムサシインテック)と表示され、
「絶縁劣化判定値」「人体に流れる電流が10μA以上の時、Lランプが点灯」の記載があること、イ号物件の取扱説明書には、定格及び仕様の表の絶縁劣化判定の項に「人体に流れる電流が10μA以上の時、Lランプが点灯」(乙12)、「接地されていない金属管や機器ケースなどは、誘導電圧が印加されている場合があります。この場合は人間が触れても感電はしませんが、機器の絶縁劣化により、電圧が印加されている所を人間が触った場合、感電に至ります。本器の検漏電ランプ(Lランプ)は、検知部をフレームに接触させ、人体を流れる電流が10μA以上の場合ランプを点灯させることにより危険をお知らせする漏電検出機能を装えています。」(乙13の2)と記載されていることが認められる。これらの記載からみても、イ号物件は、漏電を検出できる機能を有する検電器であって、被検知電路が高圧、低圧の2種類の電圧のいずれで充電されているかを検出する機能を有する検電器として使用されることが予定された商品ではなく、実際上もそのような検電器として使用されることは考えられないというべきである。 ウ 以上によれば、イ号物件は構成要件Bを充足しない。
(3) 同ウ(構成要件C該当性-イ号物件の検知先端部の抵抗値は数十KΩ〜1MΩの範囲にあるか)について ア 証拠(乙9)によれば、被告マルチ計測器の「抵抗値変更99/6/24」の記載のある「感電チェック機能付検電器LV-1検知ゴム」設計図(乙9)には、「抵抗値:10KΩ〜5KΩ(AC200Vで10mA〜30mAに変更)」との記載があることが認められ、証拠(乙26)によれば、被告マルチ計測器が中部精機株式会社に依頼して日本ゴム協会標準規格SRIS2301の電流-電圧法に従ってイ号物件の検知先端部に使用されている導電性ゴムの抵抗値を測ったところ、イ号物件の導電性ゴムの抵抗値はいずれも10KΩ未満という結果が出たことが認められる。
イ これに対し、証拠(甲3)によれば、原告が、イ号物件の検知先端部に付いている導電性ゴムの表面に市販の測定器を5o間隔で直径2.2oの金メッキ端子により2点接触し、接触圧100g又は200gで測定したところ、デジタルマルチメーターでは100g加圧で172〜507KΩ、200g加圧で65〜321KΩ、500V印加状態でデジタル絶縁抵抗計で測定すると100g加圧で21〜52KΩ、200g加圧で19〜62KΩであったという実験結果が出たことが認められるが、同実験は、抵抗値を測定するためになぜこれらの測定条件を採用するのか不明であり、加圧時間、加圧方法等の条件も明らかでなく、にわかに採用することができない。
また、証拠(甲16)によれば、原告が兵庫県立工業技術センターに依頼して、ロットの異なる4個のイ号物件の先端部に付いている導電性ゴムに100g、200gの分銅を用いて圧力をかけながら直径2.2o、端子間5oの金メッキ端子を接触させ、接触開始1秒後と5秒後における2端子間の抵抗値を測定したところ、加重100gでの抵抗値が1MΩを超える製品が1つ存在したが、他は数十KΩないし1MΩの範囲にあったことが認められる。このように抵抗値の測定結果が乙9と甲16とで著しく異なるのは、測定条件の違いによると推認されるところ、本件考案にいう検知先端部の抵抗値について、本件明細書にはその測定条件が示されていないから、乙9の測定条件が誤りであるともいえず、甲16によってイ号物件の検知先端部を構成する導電性ゴムの抵抗値が、構成要件Cにいう数十KΩ〜1MΩの範囲にあると断定することはできない。
他に、イ号物件の検知先端部の抵抗値が構成要件Cの範囲内であることを認めるに足りる証拠もない。
ウ 以上によれば、イ号物件は、構成要件Cも充足するとは認められない。
2 以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
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