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関連審決 審判1998-35211
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  特定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 190号 審決取消請求事件
原告 株式会社飯田鉄工
原告A
原告ら訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 室谷和彦
同 弁理士 西川惠清
同 森厚夫
被告 株式会社松本製作所
訴訟代理人弁護士 加藤幸江
同 宮塚久
同 弁理士 中前富士男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/07/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35211号事件について平成11年5月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は,原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,考案の名称を「掴み機」とする実用新案登録第1964864号(昭和59年7月20日登録出願,平成5年5月13日設定登録。以下「本件登録実用新案」といい,その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者である。
被告は,平成10年5月19日,本件登録実用新案の登録を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,これを平成10年審判第35211号事件として審理した結果,平成11年5月18日,「登録第1964864号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし,同年6月2日原告らにその謄本を送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり,本件考案は,その実用新案登録出願前に日本国内において公然実施された考案であるから,実用新案法3条1項2号に違反してなされたものであり,平成5年法律第26号による改正前の同法37条1項1号に該当し,無効とすべきものであると認定・判断した。
3 本件登録実用新案の実用新案登録請求の範囲 「ショベル型掘削機の作業アーム先端に装着されるホルダーと,このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと,一端がホルダーに枢着され且つ他端が一方のクランプに連結された油圧シリンダーと,両クランプを連動させる連動部材とからなる掴み機において,油圧シリンダーはその上端側がホルダーに枢着され,下端側が下方側のクランプに連結されているとともに,上端が下端よりも後方側に位置する斜め状態で配設されており,下方側のクランプはそのホルダーへの枢着部より後方で且つ斜め下方に突出する片を備えて,この片に油圧シリンダーが連結されていることを特徴とする掴み機。」
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,本件考案がその出願前に日本国内において公然実施をされた考案であるとの誤った認定判断をしたものであって,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 試作1号機が公然実施されたとの認定判断の誤り (1) 審決は,被告が,甲第7,第8,第11,第12,第15号証に記載されているものと同一の構造の油圧フォーククローを製造し(以下,このフォーククローを「試作1号機」といい,フォーククローを,単に「フォーク」という。),これを本件登録実用新案の出願(以下「本件出願」という。)の出願日である昭和59年7月20日より前である昭和58年に,中古品として新生解体ことC(以下「C」という。)に販売し,Cは,同年中に,これを福岡県遠賀郡芦屋町(以下「芦屋町」という。)が発注した同町<以下略>の倉庫解体工事で解体作業に使用したと認定した。
しかし,昭和58年当時,芦屋町がCに発注した工事はなく,上記解体工事は,平成元年5月ごろに行われたものであるから,上記認定は明らかに誤っている。
被告は,本件訴訟において,試作1号機を用いたとするCによる工事の時期及び場所について,「昭和58年8月から9月ごろ行われた芦屋緑ヶ丘保育所の解体工事である」旨,主張を変更した。
しかし,上記の主張変更は許されない。審決取消訴訟においては,審判手続において現実に審理判断された特定の無効原因に関する事項のみが,審理の対象となるのであって,審判手続において審理判断されていない新たな主張を,審決取消訴訟ですることは許されないというべきであるからである。
(2) 仮に,被告の上記主張変更が許されるとしても,「被告が,本件考案のすべての構成を備えたフォークを製造して,昭和58年8月ころCに売却し,Cは,同月から9月ごろまでの間,芦屋緑ヶ丘保育所の解体工事において公然これを使用した。」との事実を認めることはできない。
原告らは,被告が本件考案のすべての構成を備えたフォークである試作1号機(甲第15号証の構造を有するフォーク)を製造したことは,その製造時期を除き争わない。しかし,@被告が試作1号機を製造した時期,A被告がCに販売したと主張するフォークと試作1号機との同一性,B仮にCが被告から試作1号機を購入したとして,その時期,CCが試作1号機を公然使用した事実とその時期については,いずれも争う。これらの事実を認めるに足りる証拠はない。
2 試作2号機について (1) 被告は,甲第16,第20号証の1に記載された油圧式フォーク(以下「試作2号機」という。)を山本産業ことE(以下「山本産業」という。)に販売し,これを被告が山本産業からいったん引き取った後,玄洋開発工業に転売し,さらに玄洋開発工業が,これを宮崎組に引き渡した旨主張する。
しかしながら,審決は,試作2号機についての公然実施の判断をしていないから,試作2号機による公然実施の事実の有無は,独立の登録無効事由として,本件訴訟での審理,判断の対象とすることは許されないというべきである。
(2) 仮に,試作2号機による公然実施を,独立の登録無効事由として,審理,判断の対象とすることが許されるとしても,これを基礎付ける事実を認めることはできない。
原告らは,被告が本件考案のすべての構成を備えているフォークである試作2号機(甲第16号証,第20号証の1に記載されたフォーク)を製造したことは,その製造時期を除き争わない。しかし,@試作2号機の製造の時期,A被告が山本産業に販売したと主張するフォークと試作2号機との同一性,B仮に山本産業が被告から試作2号機を購入したとして,その時期については,いずれも争う。これらの事実を認めるに足りる証拠はない。
山本産業の証明書(甲第14号証)は信用できず,被告の山本産業に対する売買代金請求書(甲第13号証)に記載された「油圧シリンダー付フォーククロー」が試作2号機のフォークと同一であることを裏付ける客観的な証拠はなく,試作2号機が,被告が山本産業に販売したフォークであることを裏付ける証拠もない。
3 上爪と下爪の接続部(リンク部)の構造及び下爪同士又は上爪同士の連結部の形状について 試作1号機,2号機が,本件出願の前に製造されたものでないことは,被告製作の同種製品の上爪と下爪の接続部(リンク部)の構造や下爪同士又は上爪同士の連結部の形状の変遷の経緯からも明らかである。機械式のMD型(昭和55年から製造)の上爪と下爪のリンク部の形状は,下爪に接続された突出部が,上爪に接続された突出部よりも後ろ(爪先端方向を前として。以下も同じ。)に位置している(甲第28号証)。機械式のMX型の上爪と下爪のリンク部の形状は,下爪に接続された突出部が,上爪に接続された突出部よりも前に位置している(甲第30号証4枚目右上写真)。機械式のMXU型においても,MX型と同様,上爪と下爪のリンク部の形状は,下爪に接続された突出部が,上爪に接続された突出部よりも前に位置している(乙第23号証5頁右上写真)。MXシリーズが製造されたのは,昭和62年ころ以降であり,MXUシリーズが製造されたのは,さらにその後である。試作1号機,2号機の上爪と下爪のリンク部の形状は,下爪に接続された突出部が,上爪に接続された突出部よりも前に位置しており,機械式のMX型及びMXU型とリンク部の形状が同じである。したがって,リンク部の形状からすると,試作1号機,2号機は,MX型の型紙を使用している可能性が高く,昭和62年以降に製造された可能性が高い。
下爪同士又は上爪同士の連結部の形状は,昭和59年7月まではI型であったのが,その後コストを下げるために○型に変更されたものである。試作1号機,2号機は,いずれも,爪と爪との間の連結部が○型であるから,昭和59年以降に製造されたものである可能性が高い。
被告の反論の要点
新生解体ことCが昭和58年に試作1号機を使用して行った工事が,審決認定の「芦屋町発注の工事」でないことは認める。これはCの記憶違いに基づくものであった。しかし,被告が,本件考案のすべての構成を備える試作1号機を製造して,Cに販売し,Cが,本件出願前に,別の工事で試作1号機を公然使用したことは認められるから,本件考案につき試作1号機による公然実施を認めた審決の結論は結局正当である。
仮に,上記事実が認められないとしても,被告は,試作2号機を本件出願前に製造販売したのであるから,本件考案につき公然実施を認めた審決の結論は結局正当である。
1 試作1号機について Cは,被告の製造に係る,本件考案のすべての構成を備えた試作1号機を購入し,これを本件出願前に「芦屋緑ヶ丘保育所解体工事」に使用したものであるから,本件考案については,試作1号機による,登録出願前の公然実施の事実を認めることができる。
審決は「試作機の第1号機は,本件考案に係る出願の出願日前に,新生解体に販売されるとともに,同新生解体によって芦屋町発注の工事で解体作業に使用された」(甲第1号証30頁7行〜10行)として,試作1号機の「販売」と「使用」の各事実を認定したものである。使用の場所が「芦屋町発注の工事」か「芦屋緑ヶ丘保育所解体工事」かという事実は,「使用」の事実を基礎付ける事実にすぎないから,「芦屋町発注の工事」における試作1号機の使用の事実に代えて「芦屋緑ケ丘保育所解体工事」における試作1号機の使用の事実を審理対象とすることは,許されるというべきである。
2 試作2号機について 被告は,昭和59年5月,本件考案のすべての構成を備えたフォークを製造し,同年6月に,何ら秘密にすることなく山本産業に販売し,これをいったん,山本産業から引き取った後,玄洋開発工業に再販売した。同機は,その後,玄洋開発工業から宮崎組に引き取られた。これが審判段階で検証の対象とされ,甲第20号証の1(検証調書)に示されているフォーク,すなわち,試作2号機である。
試作2号機が製造されたのが昭和59年5月であることは,審判手続において審判官が同機の検証を実施し,同機の古びている様子,同機に打たれた「1984.5」の刻印の形状などを五感の作用を用いて詳細に観察した結果,同機が製造されたのは本件出願の日より前であると認定していることから,疑う余地がないことというべきである。したがって,本件考案については,試作2号機による,本件出願前の公然実施の事実を認めることができる。
原告らは,試作2号機の製造,販売の事実を,独立の登録無効事由として,本件訴訟における審理、判断の対象とすることは許されないと主張する。しかし,審決は「上記第2号機においても本件考案に係る出願の出願日前に製造販売された蓋然性が高い」(甲第1号証30頁4行〜6行)と明確に認定しているから,試作2号機の製造販売を,独立の登録無効事由として,本件訴訟における審理,判断の対象することは,当然に許される。
3 上爪と下爪の接続部(リンク部)の構造及び下爪同士又は上爪同士の連結部の形状について 被告製作の製品の上爪と下爪の接続部(リンク部)の構造も下爪同士又は上爪同士の連結部の形状も,試作1号機,2号機の製造時期が本件出願の前であることを認定する妨げとはならない。
下爪同士又は上爪同士の連結部の形状がI型であるか○型であるかは,製造時期とは関係がない。
フォークの上爪と下爪の接続部の形状は,昭和55年ころから昭和62年ころまでは,主動爪(機械式の場合には上爪,油圧式の場合は下爪)の側の接続部が前方にある型であり,その後,主動爪の側の接続部が後方にある型に変更したものであること,試作1号機及び試作2号機は、主動爪接続部前方型であるから,上爪と下爪の接続部の形状は,試作1号機及び試作2号機が昭和62年より前に製作されたことを示すものである。したがって,上爪と下爪の接続部(リンク部)の構造は,むしろ,被告主張の時期に試作1号機,2号機が被告主張の時期に製作されたものである証拠の一つとなるものである。
当裁判所の判断
1 本件考案の概要及び本件考案と試作1号機,2号機との関係について (1) 証拠(甲第26号証)によれば,本件考案の概要は,次のとおりであることが認められる。
(ア) 「本考案はショベル型掘削機,たとえばパワーショベルのアタッチメントとして作業アームの先端に装着されて,岩石,コンクリート,木材等の固形物を掴んで移動・運搬・破壊を行う作業や,構築物の解体作業等に使用される掴み機,殊に共に回動自在とされた対のクランプで構成されている掴み機に関するものである。」(公報1欄17行〜23行) (イ) 「この種の掴み機は,ショベル型掘削機の作業アームの先端に回動自在に装着されるホルダーと,このホルダーに夫々の基端が回動自在に支持された上下に対となっているクランプと,両クランプを開閉するための油圧シリンダーとから構成され,油圧シリンダーが一方のクランプを駆動する時,他方のクランプが連動するようにされている。たとえば実開昭58-27279号公報には,互いにギアで接続されている対のクランプのうちの下方側のクランプに,直立配置された油圧シリンダーが連結されたものが示されており,実開昭59-80551号公報にはリンクを介して連動するようにされた対のクランプのうち,上方側のクランプに油圧シリンダーが連結されているものが示されている。」(公報1欄25行〜2欄13行) (ウ) 「しかし,上記両公報に示されたものでは,次のような問題点を有している。すなわち,両公報に示されたもののうち,前者にあっては,・・・油圧シリンダーの上部が上方に大きく突出したものとなっており,このために作業者は油圧シリンダーが邪魔になって,両クランプによる作業対象となる部分が良く見えないものとなっている。また後者においては,油圧シリンダーを水平近くまで倒した状態で配置していることから,・・・油圧シリンダーの力がクランプの開閉に有効に作用せず,所要の開閉力を得るには油圧シリンダーに大型のものを使用しなくてはならなくなっており,重量の増加が作業性を低くしてしまう。」(公報2欄15行〜3欄9行) (エ) 上記課題を解決するため,本件考案は,前記実用新案登録請求の範囲の構成を採用した。
(オ) 「本考案によれば,油圧シリンダーが斜めに傾いた状態となっており,しかも油圧シリンダーが連結されるのが下方側のクランプである上にこの連結点が下方側のクランプの枢着部より下方に位置するために,両クランプに対して油圧シリンダーを低い位置に配置することができるものであり,また油圧シリンダーのクランプへの力の作用方向を,クランプの回動方向とほぼ一致させることができる。」(公報3欄31行〜39行) 上記認定事実によれば,本件考案は,従来の油圧シリンダー付きの掴み機では,油圧シリンダーが垂直または水平に配置されていたことから,視界または作業力の点で不都合があったため,油圧シリンダーを斜めとするとともに,下方側のクランプの斜め下方に突出する片に油圧シリンダーを連結するという構成を採用することによって,これらの問題を解決したものであるということができる。
(2) 被告主張の試作1号機(甲第15号証のカタログの写真のフォーク)及び試作2号機(甲第20号証の1の写真のフォーク)が,本件考案のすべての構成を備えていることは,当事者間に争いがない。
被告が試作1号機及び試作2号機を製造したことは,その製造時期の点を除き,当事者間に争いがない。
2 審決取消事由について (1) 原告らの主張1(試作1号機が本件出願前公然実施されたとの認定判断の誤り)について (ア) 審決は,試作1号機は,本件出願の日である昭和59年7月20日よりも前の昭和58年に被告によって製造され,これを購入したCにより,同年中に,芦屋町発注の工事で解体作業に使用されたものである,と認定した。
被告は,本件訴訟において,工事の特定につき従前の主張は,Cに記憶違いがあったことによるものであるとして,上記工事が「芦屋町発注の工事」ではなく,「芦屋緑ケ丘保育所解体工事」であると,主張を変更した。これに対し,原告らは,審決取消訴訟においては,審判手続において現実に争われ,かつ,審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象となるのであって,審判手続において審理判断されていない新たな主張を,審決取消訴訟ですることは許されないというべきであるから,上記の主張変更は許されないと主張する。
しかしながら,被告が新しく主張するに至った事実は,昭和58年にCが芦屋町で行った特定の一つの工事において試作1号機が使用されたという抽象度においては,当初主張のものと同一であり,その意味で,被告は,上記主張変更の前後を通じて,同一の事実を主張しているのであって,別の機会に行われた別個の工事における使用の事実を主張するものではないということができる。上記主張変更により,審判において審理判断された事実と訴訟における主張との間に齟齬が生じる面があるのは事実であるが,齟齬が上記同一性の範囲内にとどまるものであることに照らすと,変更後の主張変更が,審判手続において審理判断されていない事実として,審決取消訴訟の審理の対象としての資格を失うことになるわけではないと解するのが相当である。原告らの主張は,採用することができない。
以下,上記変更後の被告の主張につき検討する。
(イ) 試作1号機の製造,販売及び使用の時期について @ 野坂建設作成の平成10年5月14日付け証明書(甲第8号証)及び審判手続における証人F証人調書(同年12月11日実施。甲第20号証の4)中には,昭和58年2月から5月ころまでの間に,被告工場において,試作1号機を,野坂建設所有の油圧ショベルのアームに取り付けて,試験をした旨の記載がある。しかし,上記実験の時期については客観的な資料はなく,上記証人調書(甲第20号証の4)によれば,上記実験の時期は,Fが昭和60年にしたと記憶している実用新案登録申請の事実を基準にして導き出されたものであることが認められ,上記各証拠における時期の記載のみでは,同実験が,本件出願の日である昭和59年7月20日よりも前の時期に行われたと認定するには足りないというべきである。
証拠(甲第8,第15号証,乙第24号証)によれば,甲第8号証に添付された被告のフォーク(MX-Tシリーズ)の商品パンフレットの原本である甲第15号証の写真は,野坂建設株式会社の油圧ショベルのアームに取り付けられた試作1号機の写真であることが認められる。しかしながら,甲第15号証のパンフレットの作成時期は平成元年ころであることが認められる(被告代表者の供述)から,同号証からは,これに掲載された試作1号機の写真が,本件出願の日である昭和59年7月20日より前の時期に撮影されたものであると認めることはできない。
証拠(甲第7,第8号証)によれば,甲第8号証に添付された図面は,甲第7号証と同一の図面であること,同図面のフォークは,本件考案と同一の構成を有していること,同図面の右下には,製図年月日として「S・58・10」,品名として「MX-T100」の記載があることが認められる。被告代表者は,同図面の作成時期は,図面に記載されたとおり昭和58年10月であり,試作1号機についての図面である旨供述する。しかし,乙第21号証によれば,同図面に記載された品番であるMX-Tは,平成元年以降に製造された製品の品番であることが認められるから,甲第7号証の図面が昭和58年に製図された図面であるとすると,そこに平成元年以降に製造された,異なる製品の品番が書き込まれるのは不自然であり,このような品番を記載したことにつき,被告から合理的な説明がないことに照らすと,甲第7号証が昭和58年に作成されたとの被告代表者の供述を,採用することはできない。
A 新生解体ことC作成の平成10年5月14日付け証明書(甲第12号証)中には,甲第7号証と同一内容の図面及び甲第15号証のパンフレットに記載されている油圧式フォークを中古の状態で昭和58年8月に14万円で購入したこと,甲第12号証添付の請求書(甲第9号証)及び領収証(甲第10号証)のコピー及び写真は,上記油圧式フォークを購入した際に,被告から送付された請求書及び領収証の控のコピーであって,内容に相違ないこと,Cは,被告から購入した油圧式フォークを,昭和58年に,福岡県遠賀郡芦屋町<以下略>の倉庫解体現場に搬入し,同場所で油圧ショベルに取り付け,木材倉庫の解体作業に使用したこと,上記油圧式フォークの特徴は,油圧シリンダ付きで,従来形の既存のフォークと比較すると,上下の爪の角度が変えられる構造となっていること,添付図面のように,油圧シリンダが斜めに取り付けられていること,の記載がある。
しかしながら,甲第12号証は,被告が記載した上記内容の証明願の本文の下に,「証明書」と題して「上記1〜5の事項が事実と相違ないことを証明する。」との文章と証明者の住所及び氏名が印刷され,証明者が捺印する形式がとられているものである。甲第20号証の3(審判手続における証人Cの証人調書)によれば,Cは,上記証明書作成の約7か月後に審判手続において行われた証人尋問において,上記油圧式フォークの構造について,取付けが簡単なことと,爪全体が動くこと以外の特徴はわからない旨述べ,本件訴訟においても,上記証明書添付の図面を示されて,同図面どおりの形状であると述べるものの,油圧式フォークの構造,特に本件考案の特徴である油圧シリンダーを斜めとするとともに,下方側のクランプの斜め下方に突出する片に油圧シリンダーを連結するという構成をとっていたかどうかについては,明確な証言をしていない。これらのCの供述内容や,油圧シリンダが斜めについているか否かという構成上の相違点は,特別の事情がない限り,通常,購入者が購入,使用に際して明確に意識するとは考えにくく,本件においてこのような特別の事情は認められないことに照らすと,Cは,甲第12号証の証明書作成当時,上記購入にかかる油圧式フォークが本件考案と同一の構成をとっていたか否かについて,明確な記憶を有していなかったというべきであり,上記証明書の記載のうち,油圧式フォークの構造に関する部分については,記載内容を十分に確認しないまま,証明書に捺印したものであると認めるのが相当である。Cの上記証明書作成当時の記憶があいまいであることは,審判手続において,フォークを使用した工事につき,昭和58年に行われた芦屋町発注の倉庫解体工事であるとし,その記憶の根拠として,「芦屋町発注の工事で,大きな金額になったのを覚えております。」(甲第20号証の3),「時期的に見ても,昭和58年8月に間違いありません。というのも,そのころ,私は芦屋町からの受注で芦屋町<以下略>所在の芦屋東小学校の前の廃工場の解体工事を行いましたが,そのときに松本製作所から買った油圧式のフォーククローを使って大いに成果を上げたことをはっきり覚えており,しかもその芦屋町の仕事の前に一乃至二カ所の小さな工事の時にも油圧式のフォーククローを使った記憶があるからです。このときの芦屋町の工事は,私が独立して初めて1000万円以上の仕事を請け負った工事だったので,うれしくてよく覚えているのです。」(本件考案に関する大阪地方裁判所での侵害訴訟において提出された陳述書である乙第22号証)等と記憶の根拠を挙げながら明確に述べていたにもかかわらず,本件訴訟において,これが真実でないこと,すなわち,昭和58年当時に当該工事がなかったことが判明したことからも,明らかである。
昭和58年8月の被告の新生解体(C)に対する請求書の控え(甲第9号証。請求金額14万0260円。その備考欄には「尚中古油圧式フォーク代金は10月御支払い予定」との記載がある。)及び昭和58年10月5日付けの被告の新生解体宛の14万円の領収証の控え(甲第10号証)によれば,昭和58年にCが被告から中古油圧式フォークを購入したことは認められるものの(原告らは,請求書の備考欄のインクの色が,他の部分のインクの色と異なることから,備考欄が後日書き加えられたものであるとして,甲第9号証は信用性がないと主張する。
しかし,インクの色の違いのみでは原告ら主張事実を認めるに足りず,同主張を採用することはできない。),このフォークが本件考案のすべての構成を備えたものであることについては,これを認めるに足りる証拠はない。
B 昭和58年当時に被告の従業員であったD作成の平成10年5月14日付け証明書(甲第11号証)には,甲第7号証の図面及び第15号証のパンフレットに記載された油圧式フォークと同一構造の油圧式フォークを,昭和58年2月から5月ころまでの間に,被告工場で製作したこと,上記製作に当たっては,製作図面はなく,型紙を用いて,被告代表者の指示のもとに製作したこと,製作にかかる油圧式フォークのテストを昭和58年2月から5月ころまでの間に,被告の工場で野坂建設から借りた油圧ショベルに取り付けて試験を行ったこと,上記油圧式フォークを昭和58年8月に新生解体に売却したこと,との記載があることが認められる。
しかしながら,証人Dの証言によれば,Dは,上記証明の対象となる油圧式フォークの構造,特に本件で問題となる油圧式フォークの前記特徴については,十分に認識しておらず,この点についての記憶はあいまいであることが認められ,このことに,上記証明書は,被告が記載した上記内容の証明願の本文の下に,「証明書」と題して「上記1〜4の事項が事実と相違ないことを証明する。」との文章と証明者の住所及び氏名が印刷され,証明者が捺印する形式がとられていることを併せ考慮すると,Dは,被告に言われるままに内容について良く吟味しないまま上記証明書に捺印したものであると認めるのが相当である。そうである以上,同証明書の記載内容を,真実であると簡単に採用することはできない。
C 審決は,本件考案のすべての構成を備えた試作2号機(甲第16号証,第20号証の1)が,被告により,本件出願前に製造,販売された蓋然性が高いとして,このことを,試作1号機が被告により本件出願前に製造,販売されたことの根拠の一つとしている。そしてまた,この点につき,被告は,昭和59年5月試作2号機を製造し,同年6月に,何ら秘密にすることなく山本産業に販売し,これをいったん,山本産業から引き取った後,玄洋開発工業に再販売し,同機は,その後,玄洋開発工業から宮崎組に引き取られた,と主張する。
しかしながら,試作2号機の製造,販売の時期が本件出願前であることについては,これを認めるに足りる証拠はない。
山本産業作成の平成10年5月14日付け証明書(甲第14号証)には,甲第7号証の図面及び第15号証のパンフレットに記載された油圧式フォークと同一構造の油圧式フォークを,昭和59年6月に,代金60万円で購入し,使用したこと,この油圧式フォークの特徴は,油圧シリンダ付きであって,フォークが上下にその傾きを変えられる点が異なっており,油圧シリンダは上記図面及びパンフレットに記載されたように斜めに取り付けられている構造であったこと,甲第13号証の被告の山本産業に対する油圧シリンダー付フォーククローの代金(60万円)の請求書は,上記油圧式フォークの売買についてのものであること,この油圧式フォークを昭和59年6月から昭和60年3月ころまで使用し,被告に返還した旨の記載がある。しかし,甲第14号証は,被告が記載した上記内容の証明願の本文の下に,「証明書」と題して「上記1〜6の事項が事実と相違ないことを証明する。」との文章と証明者の住所及び氏名が印刷され,証明者が捺印する形式のものであること,前記のとおり,油圧シリンダが斜めについているか否かという構造上の相違点は,特別の事情がない限り,通常購入者が購入,使用に際して明確に意識するとは考えにくく,本件においてそのような特別の事情があるとは認められないことに照らすと,山本産業が被告から油圧式フォークを購入したことが認められるとしても,その構造について,山本産業が正確に認識,記憶したうえで,その記憶に従い上記証明書に捺印したと認めることはできず,むしろ同人はフォークの構造について良く吟味しないまま,上記証明書に捺印した可能性が大きいというべきである。仮に甲第13号証により,山本産業が昭和59年6月に被告から油圧式フォークを購入したことが認められるとしても,その油圧式フォークが試作2号機と同一のものであることを裏付ける客観的な証拠はない。被告は,試作2号機が山本産業から被告に返還された後,玄洋開発工業,宮崎組と譲渡され,宮崎組において保管されていた旨主張するが,その移転の過程を裏付ける資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことはできない。
甲第20号証の1によれば,平成10年12月10日,大阪府吹田市<以下略> 株式会社エムエーシー大阪営業所において,審判官により試作2号機の検証が行われたこと,同機に「1984.5」の刻印が存在したことが認められる。「1984.5」の刻印の意味するところを素直に理解すれば,同機について何かが行われた日,多くはそれが製造された日ということになるであろうから,これが正常な経緯で打刻されたものであるとすれば,同機が製造されたのが本件出願の日よりも前である蓋然性は非常に高いものとなり,これを基本として,これに他の関係証拠をも併せ考慮することにより,同機の製造販売が本件出願の日より前であることを認定することも可能となろう。
しかしながら,本件においては,「1984・5」の打刻が正常な経緯でなされたものであることを前提にしては,考えることができない。
まず,試作2号機の検証が行われたのは,株式会社エムエーシー大阪営業所であり,証拠(甲第23,第24号証)によれば,同社は,事実上,被告と同一視できる会社である。
次に,被告には,自己の立場を有利にするための対策として,証拠となるべき既存のものに作為的に加工した例が認められる。すなわち,次のとおりである。
被告は,原告側からの平成9年7月24日付け催告書に対し,同年8月19日付けの書面で返答し,その中で,「弊社は,昭和58年10月頃に別紙図面に示すような,油圧式のフォークを設計製作してその製品を貸出し,客先にて実際の解体作業に使用しており,その後,多少の改良を加えて現在のものになりましたが,基本的構造は昔のままです。」と述べた後,「このことは,弊社の少し古いカタログに昭和58年頃より,油圧式フォークの製造を開始したことを記載していることからも裏付けられます。」として,平成3年までの沿革などを記載したカタログの関係部分を同封しており,同封されたカタログ中,昭和58年の部分には,「資本金1,200万円に増資」と並んで「「油圧式フォーク」開発」の記載が見られる(甲第21号証の1,2)。しかし,証拠(甲第22,第32号証)と弁論の全趣旨によれば,平成3年ころ原告側が被告からパンフレットを受け取ったこと,同パンフレットには「「油圧式フォーク」開発」の記載はないこと,同パンフレットの記載は,「「油圧式フォーク」開発」の有無を除き,上記書面に添付されたパンフレットのものと同一であることが認められる。そうだとすれば,これら二つのパンフレットの記載内容の関係につき,納得のいく説明がなされない限り,上記「「油圧フォーク」開発」の記載は,本来そのような記載のなかった平成3年当時のパンフレットに,原告側からの催告への対策として新たに加入し,かつそれが当初から記載されていたかのように装ったものと考えるのが合理的というべきである。ところが,被告は,上記二つのパンフレットの関係につき納得のいく説明をしていないのである。
さらに,試作2号機につき,特に,打刻の時期につき,鑑定などにより,より深く検討しようとしても,同機は,福岡の被告工場に移された後に,「スクラップ屋さんが間違って持っていってしまった」(被告代表者の尋問の結果)ということで,今や不可能である。
D 被告は、フォークの上爪と下爪の接続部の形状は,昭和55年ころから昭和62年ころまでは,主動爪(機械式の場合には上爪,油圧式の場合は下爪)の側の接続部が前方にある型であり,その後,主動爪の側の接続部が後方にある型に変更したものであること,試作1号機及び試作2号機は、主動爪接続部前方型であるから,上爪と下爪の接続部の形状は,試作1号機及び試作2号機が昭和62年より前に製作されたことを示すものであり,このことは被告主張の時期に試作1号機及び試作2号機が製作されたものである証拠の一つとなる旨主張する。
しかし,被告が平成5年4月以降に製作したとして提出したパンフレット(乙第27号証)1頁写真及び2頁図面には「主動爪接続部前方型」のものが掲載されていることから,主動爪接続部前方型であることが昭和62年以前に製作されたことを示すものである被告の上記主張はその前提を欠くのみならず,仮に被告の主張が認められるとしても,そのことは,試作1号機及び試作2号機の製造時期が昭和62年以前であることを示すにとどまり、本件出願の前であることまで示すものではないから,被告の主張は,失当である。
E 以上のとおり,上記検討の証拠は,いずれも試作1号機及び2号機が,本件出願の前に製造,販売及び使用されたことを裏付けるに足りるものではなく,他に,上記事実を認めるに足りる証拠はない。
甲第20号証の5(被告代表者の審判手続における本人尋問調書)及び被告代表者本人尋問の結果中には,被告主張に沿う供述がある。しかしながら,これらの供述は,上記のとおり,これを裏付けるに足りる客観的な証拠を欠くものというべきであるから,採用することができない。
被告の意図は,上記の各証拠を個々的に見るのではなく,これらを総合することによって,公然実施の事実を認めることができると主張することにある,と理解することができる。しかしながら,本件は,本件考案のすべての構成を備えた機械が本件出願の日より前に製作されたのか否か,本件出願前に製造,販売されたとされる機械が,本件考案と同じ構成を有していたか否か,特に油圧シリンダーが斜めに配置されていたか否かという微妙な事実関係が争われている事件であり,しかも,立証の対象となる具体的な事実は,製造記録もない量産前のわずか2台の試作機の製造,販売等の事実であるから,その事実の存在は相当程度確実な資料をもって立証されなければならないというべきである。上記各証拠は,上記事実を立証するには,いずれも不十分であるといわざるを得ず,これらを総合しても,本件登録実用新案の登録を無効とする根拠となる事実を証明するには足りないというべきである。
(2) 原告らの主張2(試作2号機について)について 試作2号機が,本件出願の日より前に製造,販売されたことについては,これを認めるに足りる証拠がないことは,前記のとおりである。(なお,原告らは,試作2号機の製造,販売の事実は,審決において,独立の無効事由として判断されていないから,審決取消訴訟での審理,判断の対象とならない旨主張する。しかしながら,審決は,試作2号機の製造,販売の事実を,独立の無効事由として判断することまではしていないものの,試作1号機による公然実施の間接事実としては審理,判断の対象としていることが明らかであり,審決が試作2号機の製造,販売の事実を独立の無効事由として挙げていないのは,試作1号機による公然実施を肯定したため,その必要を感じなかっただけのことであるとも解し得ること,本件においては,試作2号機の構成自体は争われておらず,製造,販売の時期という事実認定のみが問題となっており,特許庁の専門,技術的知識に基づく判断を改めて経る必要性が認められないこと,に照らすと,審決において独立の取消事由としての判断がされていないとしても,その事実を訴訟において独立の審決取消事由として審理,判断することは,許されると解するのが相当である。)。
3 以上によれば,審決は公然実施の認定を誤ったものであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
よって,審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法
7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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