関連審決 |
異議1997-74180 審判1998-35625 |
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関連ワード | 分割出願 / 考案 / 組合せ / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 新規性(3条1項) / きわめて容易 / 請求項 / 実施例 / 容易に想到 / 特段の事情 / 頒布 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
89号
審決取消請求事件
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原告 王子製紙株式会社 訴訟代理人弁護士 野上 邦五郎 同 杉本進介 同 冨永博之 同 弁理士 志賀正武 同 船山武 同 渡辺隆 同 青山正和 同 鈴木三義 被告B 訴訟代理人弁護士 大野幹憲 同 塩谷崇之 同 弁理士 松田忠秋 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/08/27 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年審判第35625号事件について平成12年1月5日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、名称を「葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント」とする実用新案登録第2528204号考案の実用新案権者である。 なお、本件実用新案登録は、昭和60年1月17日にされた先の実用新案登録出願に基づく優先権を主張して(平成5年法律第26号による改正前の実用新案法7条の2第1項)、昭和60年11月25日にされた実用新案登録出願(実願昭60-180888号、以下「原出願」という。)の一部を分割して平成3年1月9日にされた新たな実用新案登録出願(実願平3-271号)に係り、平成8年12月2日にパテントマニジン株式会社を実用新案権者として設定登録されたものであるところ、同社は、当該実用新案権を被告に譲渡し、後記(3)の無効審判請求事件係属中の平成11年11月15日、その旨の登録がされた。 (2) 本件実用新案登録につき申し立てられた実用新案登録異議事件(平成9年異議第74180号)の係属中である平成10年3月13日、パテントマニジン株式会社は、明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をし、特許庁は、同年6月19日、同異議事件につき「訂正を認める。実用新案登録第2528204号の実用新案登録を維持する。」との決定をし、この決定は同年7月23日に確定した。 (3) 原告は、平成10年12月10日、本件実用新案登録につき無効審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成10年審判第35625号事件として審理した上、平成12年1月5日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、 その謄本は同年2月16日原告に送達された。 2 平成10年3月13日付け訂正請求に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下「本件考案」という。)の要旨 透明フィルムと、該透明フィルムの上面に剥離可能に貼着し、葉書の文面文字が読取り不能な不透明な表葉紙と、前記透明フィルムの下面に塗布する葉書表面への接着用の透明粘着剤とからなり、前記透明フィルムに対する前記表葉紙の剥離強度は、葉書に対する前記透明フィルムの剥離強度より小さく、前記表葉紙の表面には、剥離用の案内表示を記入するとともに任意の通信文面が記載可能であり、前記表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成し、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにすることを特徴とする葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント。 (なお、請求項2は、昭和62年法律第27号による改正前の実用新案法5条4項ただし書所定の実施態様である。) 3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人(原告)の主張する無効理由、すなわち、@本件考案は原出願に係る明細書(以下「原出願明細書」という。)記載の考案(以下「原出願考案」という。)と実質的に同一であるから分割要件を満たさず、本件実用新案登録出願日は現実の出願日(平成3年1月9日)となるところ、本件考案は、原出願に係る実願昭60-180888号(実開昭62-9571号)のマイクロフィルム記載の考案と同一であるから、実用新案法3条1項3号の規定により実用新案登録を受けることができない、A本件実用新案登録出願が分割要件を満たしているとしても、本件考案は原出願考案と実質的に同一であるから、同法7条2項に該当し実用新案登録を受けることができない、B同じく分割要件を満たしているとしても、本件考案は原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭50-33019号公報(審判甲第6号証、本訴甲第7号証)、特開昭56-127446号公報(審判甲第7号証、本訴甲第8号証、以下「引用例2」ともいう。)、実願昭56-32505号(実開昭57-147069号)のマイクロフィルム(審判甲第8号証、本訴甲第9号証、以下「引用例1」ともいう。)、実願昭50-131289号(実開昭52-44829号)のマイクロフィルム(審判甲第9号証、本訴甲第10号証)、実開昭52-21530号公報(審判甲第10号証、本訴甲第11号証)、実開昭54-56526号公報(審判甲第11号証、本訴甲第12号証)、実開昭53-140533号公報(審判甲第12号証、本訴甲第13号証)及び実開昭51-88329号公報(審判甲第13号証、本訴甲第14号証)記載の各考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとの主張は、いずれも採用することができず、請求人(原告)の主張及び証拠方法によっては本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件考案の要旨の認定(審決書2頁3行目〜3頁6行目)及び原出願考案の要旨の認定(同8頁16行目〜9頁18行目)は認める。 審決は、本件考案と原出願考案との同一性の判断を誤った(取消事由1)結果、本件出願に係る分割の適法性ないし実用新案法7条2項の適用を誤ったものであり、また、本件考案の進歩性の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件考案と原出願考案との同一性の判断の誤り) (1) 審決は、本件考案と原出願考案とを対比して、「本件登録考案(注、本件考案)の・・・構成要件である『前記表葉紙の表面には、剥離用の案内表示を記入するとともに任意の通信文面が記載可能であり、前記表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成し、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにすることを特徴とする』点は、原出願考案の・・・構成要件である『前記表葉紙、透明フィルムは、前記透明粘着剤を介して葉書表面に貼着することにより葉書の文面文字を隠蔽することができ、名宛人において前記表葉紙を剥離することにより、前記透明フィルムを通して葉書の文面文字を読取り可能な大きさにすることを特徴とする』点とは、表葉紙の表面をどのように構成するか、及び表葉紙と透明フィルムの大きさを葉書との関係でどのように構成するかで相違するものであり、実質的に同一の構成要件とは認められないから、 本件登録考案と原出願考案とは実質的に同一であるとすることはできない」(審決書10頁2行目〜11頁1行目)と判断するが、以下のとおり、誤りである。 (2) 審決の認定する上記相違点のうち、「表葉紙の表面をどのように構成するか」の相違、すなわち、本件考案が表葉紙の表面に剥離用の案内表示を記入するように構成した点及び任意の通信文面が記載可能なように構成した点は、いずれも後記2で述べるとおり、単なる周知技術の付加にすぎない。 また、審決の認定する上記相違点のうち、「表葉紙と透明フィルムの大きさを葉書との関係でどのように構成するか」の相違とは、本件考案の「表葉紙、透明フィルムは・・・葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする」との構成の有無をいうものと解されるが、この構成要件は、表葉紙及び透明フィルムの葉書に対する相対的な大きさを規定したものではない。すなわち、本件考案に係るアタッチメントを葉書の一辺又は隣り合う二辺に一致させて貼着した場合には、葉書の全周に余裕を生じさせないのであるから、貼着形態によっては「葉書の全周に余裕を生じさせる」場合とそうでない場合が生じ得る。そうすると、上記の構成要件は、アタッチメントを葉書に貼着した場合の貼着形態を記述したものであって、考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものではないから、当該構成要件を除外して原出願考案との同一性を判断すべきである。しかも、アタッチメントの大きさは隠蔽したい部分の大きさに応じて適宜決定し得る設計事項にすぎない。 さらに、本件考案と同一構成からなるものは、原出願明細書に実施例として記載されているから(第6図〜第8図参照)、本件考案は原出願考案の下位概念であり、原出願考案に含まれるから、この点からも、本件考案と原出願考案は同一というべきである。 (3) 以上のとおり、本件考案と原出願考案は実質的に同一であるから、本件実用新案登録出願に係る分割出願は分割の要件を満たしておらず、そうでないとしても、実用新案法7条2項に該当することとなる。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、本件考案と審判甲第6〜第13号証(本訴甲第7〜第14号証)記載の各考案とを対比して、「上記甲各号証には、本件登録考案の構成要件である『表葉紙の表面には、剥離用の案内表示を記入するとともに任意の通信文面が記載可能』である点と『表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成し、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする』点を組み合わせる点について記載も示唆もない」(審決書18頁17行目〜19頁4行目)と認定判断するが、誤りである。 (2) すなわち、まず、「表葉紙の表面には、剥離用の案内表示を記入するとともに任意の通信文面が記載可能」との点については、引用例1(甲第9号証)の第2図に図示された剥離可能紙(3)に「ここからはがせばラッキーNo!!」との剥離用の案内表示及び「特報!! ステレオ・テープレコーダー歳末お買得セール」との任意の通信文面が記載されているから、上記の構成が示されている。この点について、審決は、「甲第8〜10号証(注、本訴甲第9〜第11号証)の各記載事項から、これら各号証には、『葉書に剥離用案内表示を設ける点』が記載されている」(審決書17頁5行目〜7行目)と認定するが、引用例1(甲第9号証)においては剥離可能紙(3)を本体紙(2)に貼り合わせたものを「はがき」と総称しているとはいえ、引用例1の上記剥離用の案内表示及び任意の通信文面は、本件考案の「葉書」ではなく、「表葉紙」に相当する剥離可能紙(3)に記載されていることが明らかであり、審決の上記認定は実質的には誤りというべきである。 そして、引用例1記載の考案の剥離可能紙(3)は、葉書と同一の大きさであるが、これを葉書より小さくすることは当業者にとって自明の事項にすぎない。例えば、実願昭57-41070号(実開昭58-145769号)のマイクロフィルム(甲第18号証)は、葉書の文面文字を本件考案のアタッチメントに相当する「隠紙」の貼着により隠蔽するものを図示するとともに、「上記実施例では葉書1の裏面略全域を隠紙2で封状する状態を図示しているが、封状する文面の量等に応じて隠紙2の大きさを自由に決定し・・・該大きさの隠紙2で葉書1裏面の所望範囲を適宜封状できることは言うまでもない」(4頁15行目〜末行)と記載している。また、本件考案の表葉紙及び透明フィルムが「縁を揃えて同形同大に形成」されている構成については、引用例2(甲第8号証)に記載されており、その他、甲第7、第10〜第14号証にも本件考案の各構成が記載又は示唆されているから、これらの各構成を組み合わせることは当業者がきわめて容易に想到し得るところというべきである。 (3) また、審決は、本件考案の効果として、「名宛人に対し、隠蔽されている葉書の文面文字を確実に読せることができる上、葉書に対する貼着位置が変動しても、表葉紙と案内表示との相対位置関係が一定に保たれ、アタッチメントとしての汎用性を一層大きくすることができる」(審決書19頁7行目〜12行目)ものと認定し、本件考案の進歩性を基礎付ける論拠の一つとするが、この判断も誤りである。 すなわち、上記の効果は、アタッチメントの貼着位置が大きくずれることを前提とするものであるが、葉書に剥離用の案内表示を記載したとしても、その表示を隠蔽してしまうほどアタッチメントの貼付位置がずれることはない。したがって、剥離用の案内表示を表葉紙に記載するか、葉書に記載するかで格別の相違が生ずることはなく、いずれに記載するかは単なる設計事項にすぎない。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(本件考案と原出願考案との同一性の判断の誤り)について 本件考案の「表葉紙、透明フィルムは・・・葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする」との構成要件は、原告が主張するようなアタッチメントの貼着方法や貼着形態をいうものでなく、葉書に対するアタッチメントの相対的な大きさを規定したものである。この構成に、「表葉紙の表面に剥離用の案内表示を記入する」構成とを組み合わせることにより顕著な効果を実現することができるのであるから、原出願考案と実質的に同一ではあり得ない。 また、原告は、原出願明細書の実施例の記載を根拠として、本件考案は原出願考案の下位概念であり、原出願考案に含まれる旨主張するが、分割出願に係る考案と原出願に係る考案との異同を判断するに際しては、特段の事情がない限り、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり、本件において考案の詳細な説明等を参酌する必要は全くない。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は、引用例1記載の考案の剥離可能紙(3)を葉書より小さくすることは当業者にとって自明の事項である旨主張するが、引用例1(甲第9号証)には、「本考案は・・・同じ郵便料金で情報・通信の利用面を従来の2倍以上にしたはがきを提供するものである」(2頁14行目〜16行目)、「本考案による郵便はがきは、複数枚の紙を剥離可能な状態で積層したので、従来の通常はがきに比して通信面を格段に増やすことができる。・・・本考案によれば、情報量を一挙に3倍とすることができ・・・しかも料金は通常はがきと同一であるから、経済性は略1/3になると云える」(7頁9行目〜8頁5行目)と記載されており、引用例1記載の考案において剥離可能紙(3)を設ける目的は、はがき(1)の通信面をできるだけ増やすことにある。そうすると、剥離可能紙(3)を小さくすることは、 通信面をできるだけ増やすという引用例1記載の考案の本来の目的に反する結果となるのであり、原告の上記主張は失当である。 (2) 仮に、原告主張のように引用例1記載の考案に甲第18号証記載の考案を適用した場合、葉書より小さくした剥離可能紙(3)上に剥離用の案内表示を残しておく必然性は全くないのであるから、剥離用の案内表示は本体紙(2)の側に記入することが想定されるのであって、「表葉紙の大きさを葉書より小さくし、かつ、その表面に剥離用の案内表示を記入」するという本件考案の構成が当然に実現されるものではない。 (3) 本件考案は次のような作用効果を奏するものである。 ア 葉書の文面文字の記載位置や葉書に対するアタッチメントの貼着位置にかかわらず、剥離用の案内表示との相対位置関係を乱すことなく、同一のアタッチメントを共通して使用することができる。 イ アタッチメントを自動貼着する場合、貼着位置のコントロールが粗くてよく、また、仮に葉書に対する貼着位置が変動しても、アタッチメントと案内表示との間に相対位置変動を生じたり、それによって剥離位置の指示が不明りょうになったりするおそれがない。 ウ 剥離葉の案内表示が全く記入されていない官製はがきなどに対しても、 何ら支障なく使用することができる。 上記イの作用効果は、葉書に対するアタッチメントの貼着位置が変動することを想定した場合にのみ奏されるものであるところ、引用例1記載の考案の剥離可能紙(3)は、本体紙(2)とともに葉書大に形成されており、本体紙(2)に対する貼着位置が変動する余地はないのであるから、上記イの作用効果を奏することはない。上記の各作用効果は、本件考案の「表葉紙には、剥離用の案内表示を記入する」構成と、「表葉紙、透明フィルムは・・・葉書より小さくして全周に余裕を生じさせる」構成との組合せによってもたらされる格別な作用効果というべきである。 原告は、剥離用の案内表示を表葉紙に記載するか、葉書に記載するかで格別の相違はない旨主張するが、剥離用の案内表示を葉書上に記入した場合、剥離用の案内表示が隠されてしまわないまでも、アタッチメントの正しい剥離位置と、葉書上の剥離用の案内表示との距離が遠く離れ、アタッチメントの正しい剥離位置を正確に表示し得なくなるといった不都合が生ずるから、本件考案には顕著な効果があるというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について 原告は、本件考案における「表葉紙の表面には、剥離用の案内表示を記入するとともに任意の通信文面が記載可能」との構成(以下「構成A」という。)と、 「表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成し、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする」との構成(以下「構成B」という。)とを組み合わせる点について、引用の甲号各証に記載も示唆もないとした審決の認定判断の誤りを主張するので、上記の各構成の開示の有無及びその組合せの容易性について、以下順次検討する。なお、構成Bに関しては、「表葉紙は、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする」との構成(以下「構成B1」という。)と、 「表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成」するとの構成(以下「構成B2」という。)とに分けて検討する。 (1) 構成Aについて 引用例1(甲第9号証)には、「本考案は・・・同じ郵便料金で情報・通信の利用面を従来の2倍以上にしたはがきを提供するものである」(2頁14行目〜16行目)、「本考案によるはがき(1)は、本体紙(2)と剥離可能紙(3)とからなり、剥離可能紙(3)は本体紙(2)と同一面積を有していて、本体紙(2)に剥離可能な状態で接着(又は粘着)されている。・・・このはがき(1)は、本体紙(2)の裏面を第1の通信面(4)とし・・・剥離可能紙(3)の裏面を第3の通信面(6)として使用される」(2頁末行〜3頁8行目)、「この通信面(6)の一部に、紙をはがせば中にラッキー番号がある旨を記載した文字、矢印(12)等が印刷される。・・・ラッキー番号を設けず、単にはがすことが可能なことを目立つように表示するのみでもよい」(3頁19行目〜4頁5行目)、「剥離可能紙(3)は、郵便はがき(ここでは本体紙(2))に添付することのできる規格に合ったものでなければならず」(5頁15行目〜18行目)との記載があり、これに第2図及び第5図の図示を総合すれば、引用例1においては、本体紙(2)に剥離可能紙(3)を接着又は粘着したものを「はがき(1)」と称しているが、剥離可能紙(3)は不透明で、第1の通信面(4)である本体紙(2)の裏面の文面文字を隠蔽するものであるから、葉書の文面隠蔽という機能面において、 引用例1記載の考案の「本体紙(2)」、「剥離可能紙(3)及び接着剤」が本件考案の「葉書」、「文面隠蔽用複層化アタッチメント」にそれぞれ相当することは明らかである。 そうすると、引用例1記載の考案は、本件考案の表葉紙に相当する剥離可能紙(3)に剥離用の案内表示が記入されているとともに任意の通信文面が記載可能とされているというべきであり、本件考案の構成Aを備えるものである。 (2) 構成B1について ア まず、構成B1の意義について、原告は、本件考案における構成B1は、アタッチメントを葉書に貼着した場合の貼着形態を記述したものである旨主張する(前記第3の1(2))が、本件考案が「葉書の文面隠蔽用複層化アタッチメント」に係る考案である以上、「表葉紙、透明フィルムは、葉書より小さくして全周に余裕を生じさせるとともに葉書の文面文字を隠蔽可能な大きさにする」との構成B1も、葉書への貼着形態いかんにかかわらず当該アタッチメント自体として備える構成として理解すべきであり、そうすると、構成B1は、アタッチメントの葉書との相対的な大きさ及び形状を規定した要件であるというべきである。 イ このような観点から、構成B1の具体的な意義について、進んで検討する。 本件明細書(甲第3号証添付)には、「葉書としての取扱いを受けるためには、葉書の表面を剥離可能に全面的に貼着した複層化葉書を使用すればよい」(段落【0002】)、「私信を含むあらゆる用途に好適に適用でき」(同【0005】)、「葉書Nを用意し(図3ないし図5)、その表面と、複層化アタッチメントMの上面に、それぞれ所要の文字や図案を印刷し、あるいは手書きで記載する」(同【0013】)、「文面文字を隠蔽するには、図3および図4に示すように、まず、複層化アタッチメントMから剥離紙Pを剥離し、葉書Nの表面に複層化アタッチメントMを押し当て、下面の透明粘着剤11を介して貼着する」(同【0014】)、「複層化葉書MNは、葉書N表面の広告が表葉紙Lによって隠蔽されているので、その文面文字は読取り不能であり、したがって、その内容が未開ないし秘密のままの状態で配達される」(同【0015】)との各記載があり、図6(甲第2号証)には、葉書よりわずかに小さく、全周に余裕を残すように葉書に貼付されたアタッチメントが図示されている。 これらの記載及び図示によれば、本件考案のアタッチメントは、葉書の文面文字を全面的に隠蔽可能なように貼着されるものであり、私信を含むあらゆる用途に好適なものである以上、その場合の葉書の文面文字は、上下左右にある程度の余白(マージン)を残しつつ、その全面にわたって記載されることも当然想定されるのであるから、構成B1によって規定される本件考案のアタッチメントの長辺及び短辺は、葉書の長辺及び短辺より短いものの、その差は、葉書の全面に記載される文面文字の上下左右の余白(マージン)として通常想定される範囲に収まる程度のものと解される。このことは、「余裕」という用語が観念させるところにも符合するとともに、図6に図示される実施例にも合致するものである。 ウ 次に、上記解釈を前提に、引用例1記載の考案に構成B1を適用することが当業者にきわめて容易に想到し得るかどうかについて検討する。 引用例1記載の考案においては、「剥離可能紙(3)は本体紙(2)と同一面積」とされていることは上記のとおりであるから、剥離可能紙(3)を本体紙(2)に接着する際、剥離可能紙(3)と本体紙(2)の四隅及び四辺が完全に重なるようにしない限り、剥離可能紙(3)の一部が本体紙(2)からはみ出すこととなり、接着時の困難性があることは自明である。そして、剥離可能紙(3)を本体紙(2)よりもわずかに小さくすること、すなわち、剥離可能紙(3)の長辺及び短辺を本体紙(2)の長辺及び短辺よりもわずかに小さくすることにより、この困難性を回避し得ることも明らかである。 そうすると、引用例1記載の考案に自明な上記の課題を踏まえて、剥離可能紙(3)を葉書の全周に余裕を生じさせる程度の大きさとすることは、当業者の適宜行い得る設計的事項であるというべきであり、このことは、実願昭57-41070号(実開昭58-145769号)のマイクロフィルム(甲第18号証)において、葉書の文面文字を剥離可能な隠紙の貼着により隠蔽(封状)するものを図示するとともに、「上記実施例では葉書1の裏面略全域を隠紙2で封状する状態を図示しているが、封状する文面の量等に応じて隠紙2の大きさを自由に決定し・・・該大きさの隠紙2で葉書1裏面の所望範囲を適宜封状できることは言うまでもない」(4頁15行目〜20行目)との記載からも裏付けられるものである。 もっとも、引用例1記載の考案は、前示のとおり、同じ郵便料金での通信利用面の拡大を目的とするものであって、この観点からは、表面及び裏面をそれぞれ第2及び第3の通信面として用いる剥離可能紙(3)は大きい方が望ましいということはいえるが、そうであるからといって、剥離可能紙(3)と本体紙(2)との四隅及び四辺を完全に重ねるようにすべきことまで必然的に要求されるものとは解されない。また、剥離可能紙(3)の本体紙への接着時の困難性を解決するためには、剥離可能紙(3)をわずかに小さくすれば足り、その記載可能な情報量をさほど制限する必要もないことからすれば、引用例1記載の考案が通信利用面の拡大を目的とするものであるからといって、上記の判断を左右するものとはいえない。 結局、本件考案の構成B1は、引用例1記載の考案の設計的事項として当業者がきわめて容易に想到し得るものというべきである。 (3) 構成B2について 引用例2(甲第8号証)には、「面材料シート(10)、該面材料の片側を被覆し該材料に付着性の重合物材料層(14)、及び該重合物材料層(14)に貼り合わされ基体(20)に粘着するようにされた接着剤層(16)を含む積層構成物」(特許請求の範囲の第1項)に関し、「本発明の一つは、面材料シート、該面材料シートの片側を被覆しそれに付着する重合物層及び該重合物に積層され基体に付着するようにした接着剤層を包含する自己非粘着化積層構成物を提供することであり、該面材料シートは、該重合物層と該接着剤層の分離或いは該接着剤層と該基体の分離に要する力より小さな力で該面材料シートを該重合物層から剥離する手段を含むものであり、そのため該面材料シートを該積層構成物から取除く際接着剤層により重合物層が基体に付着し非粘着性接着剤表面が提供されるのである。・・・重合物は面材料と接着剤とでは異なる剥離能を有するものである必要がある。・・・すなわち面材料を剥ぎ取る際重合物フィルムは面材料からはがれ、接着剤被覆に永久的に付着残存する。・・・予め印刷した積層構成物・・・が露出接着剤により基体に貼り付け、レッテル、荷札、ステッカー、業務カード、会員カード、クレジットカード或いはそれらの類似物として使用される。面材料を構成物の残りの部分から取除きたいとき、例えば予め印刷したカードを大型の基体から取除きたいときは、重合物が面材料からはがれて接着剤被覆上に永久的に留まる」(2頁右下欄1行目〜3頁左上欄17行目)、「本発明の利点は、面材料の片側又は両側を積層前に予かじめ印刷できること、或いは基体に積層後もその外面に印刷できることである。更に、基体も積層構成物で被覆される部分を含めて予じめ印刷可能であり、その部分は透明な重合物及び接着剤を使用する限り面材料を取除くと見えるようになり読取り可能である」(4頁右下欄3行目〜9行目)、「実施例・・・ロールの端を揃え切りし、小ロールに分割した。所望ならば別法として積層物をシート状に切出すこともできる」(5頁左上欄2行目〜右上欄12行目)との記載がある。以上の記載によれば、引用例2記載の考案の積層構成物が貼付される「基体」としては葉書も用い得ること、その場合、引用例2記載の考案の「面材料シート」及び「重合物材料層」が、本件考案の「表葉紙」及び「透明フイルム」に相当すること、「面材料シート」に印刷可能であること、「面材料シート」を取り除くまでは基体は隠蔽状態にあること及び面材料シートと重合物材料層は、縁をそろえて同形同大に形成されていることが認められる。 そうすると、引用例2記載の考案は、葉書の文面隠蔽用としても採用の可能な積層構成物であって、かつ、「表葉紙」に相当する「面材料シート」と「透明フィルム」に相当する「重合物材料層」を縁をそろえて同形同大に形成する構成を備えるものであるから、当該構成を、同じく葉書の文面隠蔽用として用いられている引用例1記載の考案に適用し、本件考案の「表葉紙、透明フィルムは、縁を揃えて同形同大に形成」との構成B2に至ることには、何ら困難性はないというべきである。 (4) 以上のとおり、構成Aを備える引用例1記載の考案に、構成Bを組み合わせることは、当業者がきわめて容易に想到し得ることというべきである。 (5) 本件考案の作用効果について 審決が本件考案の作用効果として掲げる点、すなわち、@「名宛人に対し、隠蔽されている葉書の文面文字を確実に読ませることができる」、A「葉書に対する貼着位置が変動しても、表葉紙と案内表示との相対位置関係が一定に保たれ」、B「アタッチメントとしての汎用性を一層大きくすることができる」との各点(審決書19頁4行目〜12行目参照)について、本件考案の進歩性を基礎付けるに足りるものかどうか、以下順次検討する。 ア まず、「名宛人に対し、隠蔽されている葉書の文面文字を確実に読ませることができる」との作用効果は、剥離用の案内表示によって隠蔽されている文面文字の存在を表示することによって奏される効果であると解されるところ、引用例1記載の考案にも剥離案内指示がある以上、当業者の予測が困難な本件考案の独自の効果ということはできない。 イ 次に、「葉書に対する貼着位置が変動しても、表葉紙と案内表示との相対位置関係が一定に保たれ」るとの作用効果については、本件考案のアタッチメントが葉書に対して大きく貼着位置が変動するものと解されないことは構成B1の意義に関する前示判断(前記(2)イ)から明らかであるから、そもそも本件考案の効果と認められない。仮に、そのような効果が奏されるとしても、当該効果は、剥離用の案内表示を表葉紙に記入するとの構成に由来するものと解されるところ、当該構成が引用例1記載の考案の備えるものである以上、当業者の予測が困難な本件考案の独自の効果ということもできない。 ウ 「アタッチメントとしての汎用性を一層大きくする」との作用効果は、 本件明細書(甲第3号証添付)の「私信を含むあらゆる用途に好適に適用でき・・・ラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する」(段落【0005】)との記載に対応するものと解されるところ、「私信を含むあらゆる用途に好適に適用でき」る点は引用例1記載の考案と異なるものではないし、「ラミネート加工に劣らぬ美粧性を有する」点は引用例2記載の考案と異なるものではないから、引用例1、2記載の各考案を組み合わせることにより、きわめて容易に予測することのできる効果にすぎない。 結局、審決の掲げる本件考案の作用効果は、本件考案の効果であるとは認められないか、引用例1、2記載の各考案から予測し得る程度のものであって、格別の作用効果ということはできない。また、被告の主張する作用効果も上記の各作用効果を詳述したものにすぎないから、本件考案の進歩性を基礎付けるものとはいえない。 (6) したがって、本件考案が引用例1、2を含む甲第7〜第14号証記載の各考案から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないとする審決の判断は誤りというべきである。 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |