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事件 平成 12年 (ワ) 15805号 実用新案移転登録手続請求事件
平成 12年 (ワ) 21375号 実用新案移転登録抹消登録請求事件
甲事件原告・乙事件原告 株式会社ヴァンガード
訴訟代理人弁護士 佐瀬正俊
同 米川勇
同 島由幸甲事件被告 株式会社サテライトインテリジェン ス乙事件被告 A
被告ら訴訟代理人弁護士 中野正人
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/08/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 甲事件 (1) 被告は,原告に対し,別紙目録1記載の実用新案権について,移転登録手続をせよ。
(2) 被告は,原告に対し,別紙目録2記載の実用新案権について,移転登録手続をせよ。 2 乙事件 (1) 被告は,別紙目録1記載の実用新案権について,平成12年7月11日受付,受付番号000871の移転登録の抹消登録手続をせよ。
(2) 被告は,別紙目録2記載の実用新案権について,平成12年7月11日受付,受付番号000871の移転登録の抹消登録手続をせよ。
事案の概要及び本件の争点
1 争いのない事実 (1) 当事者 ア 原告は,次のとおり商号等を変更した会社である。
平成8年4月26日 有限会社八光建物から有限会社サテライトインテリジェンスに商号変更 平成8年6月5日 有限会社サテライトインテリジェンスから株式会社サテライトインテリジェンスに組織変更 平成9年1月14日 株式会社サテライトインテリジェンスから株式会社ヴァンガードに商号変更 イ Bは,平成8年4月26日から平成11年9月16日まで,原告の取締役又は代表取締役として原告の唯一の代表者であった。
ウ 被告株式会社サテライトインテリジェンス(以下「被告会社」という。)は,平成元年5月2日に設立された会社で,設立以来Bのみが代表取締役を務めており,商号は変更されていない。
エ 被告A(以下「被告A」という。)は,Bの妻である。
(2) 本件各実用新案権の存在 ア 被告会社は,別紙目録1記載の実用新案登録及び別紙目録2記載の実用新案登録の各出願を行い,これらの出願について,設定の登録がされた(以下,これらの実用新案権を「本件各実用新案権」といい,その考案を「本件各考案」という。)。
イ 本件各実用新案権については,登録名義人である被告会社から,平成12年7月11日受付,受付番号000871によって,被告Aへ移転登録がされた。
2 事案の概要 本件は,原告が被告らに対し,(1)原告は,被告会社から,平成9年6月28日に,本件各実用新案登録を受ける権利を譲り受けた,(2)被告会社代表者Bは,被告会社の資産全体が原告の資産であるような外観と原告が本件各実用新案権の権利者であるような外観を作出したから,本件各実用新案権は,原告が有すると評価すべきである,(3)被告会社から被告Aへの本件各実用新案権の移転は,虚偽表示であるか,そうでないとしても,被告Aは,背信的悪意者である,と主張して,本件各実用新案権について,被告会社に対しては,移転登録手続をすることを,被告Aに対しては,平成12年7月11日受付,受付番号000871の移転登録の抹消登録手続をすることを求める事案である。
3 本件の争点 (1) 原告は,被告会社から,平成9年6月28日に,本件各実用新案登録を受ける権利を譲り受けたかどうか (2) 上記(1)の譲渡は,商法265条1項が定める取締役会の承認がされていないから,無効であるかどうか (3) 被告会社代表者Bは,被告会社の資産全体が原告の資産であるような外観と原告が本件各実用新案権の権利者であるような外観を作出したから,本件各実用新案権は,原告が有すると評価することができるかどうか (4) 被告会社から被告Aへの本件各実用新案権の移転は,虚偽表示であるか,そうでないとしても,被告Aは,背信的悪意者であるかどうか
争点に関する当事者の主張
1 争点1について 【原告の主張】 被告会社代表者Bは,平成9年6月28日に,C弁理士(以下「C弁理士」という。)に対し,本件各実用新案登録を受ける権利の名義人を被告会社から原告に変更する旨の委任状を渡して,名義の変更を依頼した。その結果,名義の変更がされ,本件各実用新案権は,原告名義で登録された。
したがって,原告は,被告会社から,平成9年6月28日に,本件各実用新案登録を受ける権利を譲り受けたものである。
なお,その後,被告会社が行った表示更正手続によって,本件各実用新案権の登録名義人は,原告から被告会社に変更されている。
【被告らの主張】 C弁理士は,平成9年7月1日付けで,特許庁が被告会社に付与していた識別番号591137743の帰属者を原告に変更する手続をし,本件各実用新案権は,原告名義で登録されたが,これは,C弁理士が,原告と被告会社は同一会社であるとの誤った認識に基づいてしたものである。
その際に使用された委任状は,C弁理士が被告会社代表者Bから別の手続のために預かっていたものを使用したのであって,被告会社代表者Bは,その委任状について了承していない。
そのため,被告会社が行った表示更正手続によって,本件各実用新案権の登録名義人は,被告会社とされた。
したがって,原告は,被告会社から,平成9年6月28日に,本件各実用新案登録を受ける権利を譲り受けていない。
2 争点2について 【被告らの主張】 平成9年6月28日当時,Bは,原告被告会社双方の代表者であったから,原告が争点1で主張する譲渡がされたとしても,この譲渡契約は,商法265条1項が定める取締役会の承認がされておらず,無効である。
【原告の主張】 被告らの主張は争う。
3 争点3について 【原告の主張】 被告会社代表者Bは,次のとおり被告会社の資産全体が原告の資産であるような外観と本件各実用新案権が原告に帰属するような外観を作出しているから,外観を保護する法理によって,本件各実用新案権は,その登録日をもって原告が有すると評価すべきである。なお,この場合,商法265条1項が定める取締役会の承認というような内部の手続は問題にならないというべきである。
(1) 被告会社の資産全体が原告の資産であるような外観 ア 原告の商号を被告会社と同一にしたこと イ 被告会社は,平成5年5月28日に東京都渋谷区神宮前のローザビアンカビル205号室を賃借したが,その賃貸人をして,原告が賃借人であると誤信させて,原告が賃借し続けたこと ウ その他,被告会社の資産を原告に事実上移転してきたこと エ 以上の事実を,Bを除く原告の役員は知らず,以上の事実に基づいて第三者との取引行為がされてきたこと (2) 本件各実用新案権が原告に帰属するような外観 ア 原告は,平成8年5月23日に,本件各考案を用いた商品である「シンクロエナジャイザー」(以下「本件商品」という。)の新型の開発を株式会社OA研究所に発注したこと イ 本件各実用新案登録に関する登録料や弁理士費用は原告が支出したこと ウ 本件各実用新案登録手続を取り扱っていた弁理士は,本件各実用新案権は原告に帰属するものと判断していたこと エ 本件各実用新案に関する権利が原告に帰属する旨記載された契約書が作成されていること オ Bは,現在の原告代表者D(以下「D」という。)らに対して原告の株式を譲渡するに当たり,本件各実用新案権が原告に帰属し,原告が本件各考案を用いた商品を製造販売することができることを前提としていたこと カ 現在の原告代表者Dは,本件各実用新案権が原告に帰属し,本件商品は原告が開発したものであると信じていたこと キ Bが作成した平成9年の原告会社経歴書には,本件各考案を使用した製品が記載され,本件各実用新案権が原告に帰属することについては,何ら疑問がないように公表していること ク 本件各実用新案権が原告名義で登録されたこと 【被告らの主張】 原告が主張するような外観が存するからといって,本件各実用新案権は,原告が有すると評価することはできない。外観を保護する法理は,作出された外観を信頼して利害関係を有するに至った第三者を保護する法理であって,当事者間では適用されない。
4 争点4について 【原告の主張】 被告会社から被告Aへの本件各実用新案権の移転は,虚偽表示であるか,そうでないとしても,被告Aは,背信的悪意者である。
【被告Aの主張】 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点1,2について (1) 前記争いのない事実及び証拠(甲7,甲8の1,2,甲9ないし14,甲15の1,2,甲24,25,乙6)と弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
ア C弁理士は,平成3年に,被告会社の代理人として,本件各実用新案登録の出願をした。C弁理士は,他にも,被告会社の代理人として,特許の出願をしている。
イ Dは,平成8年12月に,原告に入社したが,原告と被告会社という同一の商号の会社が存することを知らなかった。
ウ Dは,平成9年6月18日,C弁理士に対して,会社の商号を「株式会社ヴァンガード」に変更したことを告げた。C弁理士は,原告と被告会社という同一の商号の会社が存することを知らなかったので,被告会社の商号が「株式会社ヴァンガード」に変更されたものと考え,特許庁が被告会社に付与していた識別番号591137743の帰属者の名称を「株式会社ヴァンガード」に,住所を当時原告の本店所在地であった「東京都渋谷区神宮前三丁目(以下略)」にそれぞれ変更する手続をすることとした。そして,C弁理士は,Dに対して,包括委任状と登記簿謄本の送付を依頼し,同月28日,DからC弁理士に対して,原告名義の包括委任状と原告の登記簿謄本が送付された。
エ ところが,上記名称変更及び住所変更の手続をする直前になって,包括委任状では,これらの手続をすることができないことが判明したため,C弁理士は,別の特許の出願のために,原告から受け取っていた委任状を転用することとし,Dに電話で了解を得た。そして,C弁理士は,同年7月1日,特許庁長官に対して,上記委任状(同年6月28日付けのもの)を添付して,被告会社に付与されていた識別番号591137743の帰属者を名称を「株式会社ヴァンガード」に,住所を「東京都渋谷区神宮前三丁目(以下略)」にそれぞれ変更する手続をした。登記簿謄本は,添付する必要がないので,添付しなかった。
オ 上記手続によって,被告会社に付与されていた識別番号591137743の帰属者は,名称が「株式会社ヴァンガード」に,住所が「東京都渋谷区神宮前三丁目(以下略)」にそれぞれ変更されたので,本件各実用新案登録は,それらの住所,名称によってされた。
カ 被告会社は,平成12年6月9日,特許庁長官に対して,本件各実用新案登録の登録名義人の表示更正手続を行い,本件各実用新案登録の登録名義人の名称は「株式会社サテライトインテリジェンス」に,住所は被告会社の本店所在地にそれぞれ更正された。 (2) 上記(1)で認定した事実によると,本件各実用新案登録を受ける権利が被告会社から原告に譲渡された事実は認められない。
被告会社に付与されていた識別番号591137743の帰属者の名称が「株式会社ヴァンガード」に,住所が「東京都渋谷区神宮前三丁目(以下略)」にそれぞれ変更され,本件各実用新案登録は,そのような名称,住所で登録されたが,これは,C弁理士が原告と被告会社の違いを認識していなかったために,誤った手続をとったことによるものであって,この事実によって被告会社から原告に対する譲渡の事実を認めることはできない。
上記手続に用いられた委任状は,C弁理士が別の手続で預かっていたものを転用したものであって,原告が主張するように被告会社から原告に対して本件各実用新案登録を受ける権利を譲渡する趣旨で作成されたとは認められない。また,上記手続に先立ってC弁理士に交付された原告名義の包括委任状も,名称等の変更を行うこととなったために交付されたものであって,被告会社から原告に対して本件各実用新案登録を受ける権利を譲渡する趣旨で作成されたとは認められない。
その他,本件各実用新案登録を受ける権利について,被告会社から原告に譲渡された事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 仮に,原告が主張するように,平成9年6月28日付けの委任状による譲渡がされたとしても,前記争いのない事実によると,その当時,Bは,原告被告会社双方の唯一の代表者であったものと認められるから,上記譲渡契約は,商法265条1項が定める取締役会の承認が必要であり,それがされない限り無効であるところ,弁論の全趣旨によると,取締役会の承認手続はされていないものと認められる。
2 争点3について (1) 原告は,被告会社代表者Bは,次のとおり被告会社の資産全体が原告の資産であるような外観と本件各実用新案権が原告に帰属するような外観を作出しているから,外観を保護する法理によって,本件各実用新案権は,原告が有すると評価すべきであると主張するが,外観を保護する法理によって当事者間の実用新案権の帰属が決定されるとは認め難いから,原告の主張は法的な根拠が認められず,主張自体失当である。
(2) 原告の主張は,被告会社は原告に対して本件各実用新案登録を受ける権利を,その登録日までに黙示的に譲渡した旨の主張と解する余地があるので,念のため判断する。
ア 証拠(甲22,23,27,28,乙6)と弁論の全趣旨によると,原告と被告会社という同一の商号の会社が存在することを,Bを除くDを含む原告の役員は知らず,Bは,取引先に対しても,原告と被告会社を必ずしも区別していなかったこと,そのため,取引先も,原告と被告会社を必ずしも区別していなかったこと,以上の事実が認められるが,このように原告と被告会社が区別されていなかった事実があるからといって,直ちに被告会社は原告に対して本件各実用新案権を黙示的に譲渡したと認めることはできない。
イ 被告会社が原告に対して本件各実用新案の実施を許諾していれば,原告は,本件各考案を用いた商品を製造販売することができるのであるから,本件商品が本件各考案を用いたものであって,原告がそれを製造販売しており,その製造販売の事実を公表しているからといって,直ちに原告が本件各実用新案権の権利者であるということにはならない。
証拠(甲21,28,乙6)によると,「東京都渋谷区神宮前三丁目(以下略)」に住所を有する「株式会社サテライトインテリジェンス」が,平成8年5月23日に,株式会社OA研究所に対して,本件商品の新型の開発を発注したことが認められる。当時,原告は,株式会社に組織変更する前であり,証拠(甲4ないし6)によると,原告の本店所在地は,上記住所地ではなかったことが認められるから,直ちに上記「株式会社サテライトインテリジェンス」が原告であるとは認められないが,仮に,そうであるとしても,上で述べたところからすると,原告が本件商品の開発を委託したからといって,直ちに原告が本件各実用新案権の権利者であるということにはならない。
証拠(甲16,27)と弁論の全趣旨によると,原告が株式会社エスイーシーとの間で締結した本件商品の販売に関する契約においては,株式会社エスイーシーは,原告が有する「権利技術」を使用料を支払うことによって使用できる旨の条項があることが認められる。この「権利技術」に,本件各実用新案が含まれているとしても,被告会社が原告に対して本件各実用新案の実施を許諾していれば,原告が更に本件各実用新案の実施を許諾して使用料を取得することも可能であるから,直ちに原告が本件各実用新案権の権利者であるということにはならない。
原告は,Bが,Dらに対して原告の株式を譲渡するに当たり本件各実用新案権が原告に帰属していることを前提としていた旨主張するが,BがDらに対して原告の株式を譲渡するに当たり,本件各実用新案権の帰属について,何らかの合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
原告は,本件各実用新案登録手続を取り扱っていた弁理士は,本件各実用新案権は原告に帰属するものと判断していたと主張するが,前記認定のとおり,C弁理士は,原告と被告会社を同一のものと認識していたのであって,原告と被告会社が別の会社として存することを認識しつつ,本件各実用新案権が原告に帰属するものと判断していたとは認められない。
証拠(甲28)によると,Dは本件各実用新案権が原告に帰属すると信じていたことが認められるが,前記認定のとおり,Dは,原告と被告会社が別の会社として存することを知らなかったのであるから,原告と被告会社が別の会社として存することを認識しつつ,本件各実用新案権が原告に帰属するものと信じていたものではない。
ウ 以上述べたところからすると,本件各実用新案登録に関する登録料やC弁理士に対する成功報酬は原告が支出したこと(甲17ないし20)を考慮しても,被告会社は原告に対して本件各実用新案権を黙示的に譲渡したとまで認めることはできない。
(3) 仮に,被告会社は原告に対して本件各実用新案登録を受ける権利を登録日までに黙示的に譲渡したと認められるとしても,前記争いのない事実によると,Bは,平成8年4月26日から平成11年9月16日まで原告被告会社双方の唯一の代表者であったものと認められるから,上記譲渡契約は,商法265条1項が定める取締役会の承認が必要であり,それがされない限り無効であるところ,弁論の全趣旨によると,取締役会の承認手続はされていないものと認められる。
3 以上の次第で,原告が本件各実用新案権を有するとは認められないから,本訴請求は,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
なお,原告は,本件口頭弁論終結後,「被告会社は,平成9年6月ころ,原告に対して,本件各実用新案登録を受ける権利を,対価1480万7966円で譲渡し,原告は,平成9年8月から平成10年5月までの間に,被告会社に対して,1480万7966円を支払った」との請求原因事実を追加することを理由として,弁論再開の申立てを行っているが,仮に,この事実が認められるとしても,前記争いのない事実によると,Bは,平成8年4月26日から平成11年9月16日まで原告被告会社双方の唯一の代表者であったものと認められるから,上記譲渡契約は,商法265条1項が定める取締役会の承認が必要であり,それがされない限り無効であるところ,弁論の全趣旨によると,取締役会の承認手続はされていないものと認められるから,原告が本件各実用新案権を有するとは認められない。よって,口頭弁論を再開しないこととする。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 男澤聡子