関連ワード | 技術的範囲 / 禁反言 / 損害額 / 権利濫用(権利の濫用) / 考案 / 図面 / 構造 / 新規性(3条1項) / 公然実施 / 通常実施権 / 実施例 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
6125号
実用新案権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社多賀製作所 訴訟代理人弁護士 高橋 敬一郎 補佐人弁理士 吉田芳春 被告 日特エンジニアリング株式会社 訴訟代理人弁護士 田倉整 補佐人弁理士 後藤政喜 同 松田嘉夫 同 藤井正弘 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/09/06 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
1 被告は,別紙第1物件目録記載の自動巻線処理装置の製造,販売,貸与,使用及び販売・貸与の申し出を行ってはならない。 2 被告は,自ら占有する前項記載の自動巻線処理装置を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,金7345万円及びこれに対する平成12年4月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 |
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事案の概要
本件は,自動巻線処理装置の実用新案権を有する原告が,被告に対し,別紙第1物件目録記載の装置(以下「被告装置」という。)は原告の上記実用新案権の技術的範囲に属しており,被告装置の製造・販売等は同実用新案権を侵害すると主張して,同実用新案権に基づき,前記第1記載のとおりの裁判を求めている事案である。 1 争いのない事実等 (1) 原告は,各種巻線機及び電気器具の製造・販売等を目的とする株式会社であり,被告は,自動機及び同部品の製造・販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告は,下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。 記 登録番号 第1985611号 考案の名称 自動巻線処理装置 出願日 昭和62年8月31日 広告日 平成4年12月14日 登録日 平成5年9月24日 (3) 本件実用新案権の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)を参照)の実用新案登録請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,この考案を「本件考案」という。)。 「キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニットと,ボビンに巻線を施す自動巻線ユニットと,ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや絶縁チェック,更にコイル搬出等を行う複数の処理ユニットと,キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え,前記各ユニットは着脱自在に配設され,各コンベアはキャリアを授受できるように各ユニット間に於いてその高さを揃えたことを特徴とする自動巻線処理装置。」 (4) 本件考案の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A@」のように表記する。)。 A@ キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニットと, A ボビンに巻線を施す自動巻線ユニットと, B ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや絶縁チェック,更にコイル搬出等を行う複数の処理ユニットと, C キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え, B@ 前記各ユニットは着脱自在に配設され, A 各コンベアはキャリアを授受できるように各ユニット間においてその高さを揃えたこと C を特徴とする自動巻線処理装置。 (5) 本件考案においては,キャリアを授受できるように各コンベアの高さを揃えた上で,複数の処理ユニットを着脱自在に配設し,まず,キャリアにボビンを自動装填してコンベアで送り出し,ボビンに巻線を施した後,さらに,コンベアで処理ユニットに送り出す。複数のうちの1つの処理ユニットで,巻線が巻かれたボビンに必要な処理を施した上,コンベアがキャリアを他の処理ユニットに送り出し,そこでまた別の処理が施される。 以上のような作用の結果,製作すべきコイルの種類に応じて,必要とする処理ユニットのみを入れ替え,あるいは補充し,かつ,キャリアの移動範囲に制限されることなく自由に処理ユニットを連結しうる自動巻線処理装置を提供することができる。 (6) 被告は,被告装置を製造・販売しているところ,同装置は,本件考案の技術的範囲に属する。 (7) 被告は,本件考案の実用新案登録出願(昭和62年8月31日)に先だって,遅くとも昭和62年4月ころまでに,別紙第2物件目録記載の自動巻線処理装置(以下「被告先行装置」という。)を製造し,訴外松下電工株式会社瀬戸工場に納入した。 2 争点 (1) 先使用の抗弁の成否 被告先行装置が本件考案の技術的範囲に属しており,同装置を実施したことにより,被告が本件考案につき通常実施権(実用新案法26条,特許法79条)を有するか。 (2) 実用新案登録無効の抗弁の成否 被告が被告先行装置を製造し,松下電工に販売したことにより,本件考案に,公知(実用新案法3条1項1号)又は公然実施(同項2号)による明白な無効理由が存することになり,同考案に基づく権利行使は,権利の濫用に当たり許されないこととなるか。 (3) 原告の損害額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(先使用の抗弁の成否)について (原告の主張) ア 別紙第2物件目録第1図においては,キャリアにボビンを装填する2機のパーツフィーダー1,2が図示されているところ,これらは,巻線機6から延長されたコンベア9に一体に組み付けされており,単独で入れ替え又は補充できるようなユニットとして構成されていない。したがって,被告先行装置には,「キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニット」が存在しておらず,構成要件A@を充足しない。 イ 前記アで述べたとおり,被告先行装置においては,前工程となるべきパーツフィーダー1,2を一体に組み込んで巻線機部分が構成されているため,本件考案にいう「自動巻線ユニット」も,それ自体が独立した形で存在していない。したがって,被告先行装置は,構成要件AAを充足しない。 ウ 被告先行装置においては,フラックス装置14,半田装置15,レアショート検査装置16,排出装置18及び排出コンベア19が1つのコンベア9に沿って一体に組み付けされており,半田装置が独立したユニットとして構成されていない。したがって,被告先行装置が,「テーピングや絶縁チェック,更にコイル搬出等を行う複数の処理ユニット」(構成要件AB)を備えているとはいえない。 エ 被告先行装置においては,前記アのとおり,パーツフィーダーと巻線機が同じコンベアを共有して一体化しており,また,前記ウのとおり,フラックス装置,半田装置,レアーショート装置,排出装置及び排出コンベアが同じコンベアを共有して一体化している。 したがって,被告先行装置は,各ユニット毎にコンベアを備えておらず,「各ユニットに設けたコンベア」(構成要件AC)があるとはいえないし,また,各ユニットがそれぞれ独立して構成されていないから,「各ユニットは着脱自在に配設され」(同BA)ているともいえない。 オ 以上のとおり,被告先行装置は,本件考案の構成要件を充足しておらず,その技術的範囲に属するものではない。したがって,被告の先使用の抗弁には理由がない。 (被告の主張) ア 原告は,「キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え」(構成要件AC)との文言を根拠に,本件考案の実用新案登録請求の範囲の解釈として,各ユニットにはそれぞれ別個のコンベアが備わっていなければならないと主張し,これを前提に前記ア〜エの主張をする。 しかしながら,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には,「プラテン3は,送りコンベア6に載置されて搬送されるようになっている。送りコンベア6は,第2図に示す如く,自動装填ユニット1の機体7の上部に有し,機体7の両端にそれぞれ配設したローラに無端ベルト8を掛回させたもので‥‥‥」(本件公報3欄36行以下),あるいは,「自動装填ユニット1の上記送り出しコンベア6の搬出端側に近い個所には,自動巻線ユニット28を配設する。」(同公報4欄33行以下)との各記載があり,本件実用新案権の願書に添付した図面(同公報の第1図及び第2図)に照らすと,これら記載にかかる実施例(以下「実施例1」という。)においては,自動装填ユニット1と自動巻線ユニット28に共通の送りコンベア6が備えられていることが認められる。 すなわち,原告自身が記載した実施例に,被告先行装置と同じく,自動装填ユニットと自動巻線ユニットが同一のコンベアを共有する例が掲げられているのである。 もとより,実施例とは,考案の構成が実際上どのように具体化されるかを示すものであり,当然に考案の技術的範囲に含まれるべきものであるから,被告先行装置が本件考案の技術的範囲に含まれることは明らかであって,原告の前記主張は,権利の範囲の解釈を誤ったものというほかない。 イ 原告は,本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載の文理解釈として,構成要件ACの「各ユニット」には,同@の「自動装填ユニット」及び同Aの「自動巻線ユニット」も,当然に含まれるものである旨主張する。 しかしながら,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には,「そこで,本考案は,‥‥‥製作すべきコイルの種類に応じて装置の必要とする処理ユニットのみを入れ変え,又補充し,しかもボビンが装着されたキャリアの移動範囲に制限されることなく自由自在に処理ユニットを連結し得る自動巻線処理装置を提供せんとするものである。」(本件公報2欄25行以下)との記載,及び,「本考案によれば,前記したように生産するコイルの機種の変更に応じて個別の処理ユニットを任意に入れ換えることができる。従って,機種の相違によって各部の形状や寸法の異なるコイルを,生産機種の切換時に他のラインを用いることなく,共通ユニットを残し,変更を要するユニットだけを交換すれば直ちに生産ラインが切り換えられ,このため装置やスペース或は労力を大幅に節減でき,コスト低減に顕著である経済的効果がある。」(同12欄30行以下)との記載がある。そこには,本件考案の作用効果を生じる必須の構成要素として,「処理ユニット」のみを自由に入れ換え,あるいは補充し,自由自在に連結できるようにしたことが明記されている。 そうすると,構成要件ACの「各ユニット」は,その直前の同Bにおける「複数の処理ユニット」のことを指しており,同@の「自動装填ユニット」及び同Aの「自動巻線ユニット」は「各ユニット」の中に含まれないものと解釈することができる。また,このように解することにより,前記実施例1の構成を,本件考案の技術的内容に含まれるものとして自然に理解できる。 ウ 原告は,本件考案における「ユニット」とは,それぞれ独立した構成を有するユニットであるとの理解を前提に,被告先行装置においては,フラックス装置14,半田装置15,レアショート検査装置16と排出装置18及び排出コンベア19とが1つのコンベア9に沿って一体に組み付けされており,それぞれが独立したユニットとして構成されていない旨主張する。 しかしながら,コンベアを備えたユニットがどのような装置を備えてユニットとして構成されるべきかは,本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によって明示されているわけではなく,原告のように,例えば,半田ユニットがそれ自体他の装置から独立して存在しなければならないと解釈すべき必然性はない。 本件考案は,前記イのとおり,それぞれコンベアを備えた複数の処理ユニットを自由に入れ換え,連結することにより所期の効果を達成できるところ,これを被告先行装置についてみれば,テーピング機12との関係において,半田装置15等を備えたユニットが自由に入れ換わり,連結できる構成を採っている。上記のとおり,被告先行装置は,本件考案と同様の効果を奏することができるものであって,同考案の技術的範囲に属するということができる。 したがって,被告は,先使用による通常実施権(実用新案法26条において準用する特許法79条)を有する。 (2) 争点(2)(実用新案登録無効の抗弁)について (原告の主張) 前記第2の3(1)で述べたとおり,被告先行装置は本件考案の構成要件を充足しておらず,同考案とは別個の技術に基づくものというほかないから,被告が被告先行装置を実施したことにより,本件考案がその出願前に公然知られた,あるいは,公然実施されたということにはならない。したがって,本件考案の実用新案登録の無効を理由とする権利濫用の抗弁は,失当である。 (被告の主張) 前記第2の3(1)で述べたとおり,被告先行装置は,本件考案の技術的範囲に属するものであり,被告が同装置を実施した(前記第2の1(7))ことにより,本件考案には公知(実用新案法3条1項1号)又は公然実施(同項2号)による明白な無効理由が存する。したがって,同考案に基づく原告の権利行使は,権利の濫用に当たり,許されない。 (3) 争点(3)(原告の損害額)について (原告の主張) 被告は,平成元年12月ころから平成12年2月29日までの間に,国内において,被告装置を少なくとも510台製造販売しており,その販売高は金186億5400万円を下らない。被告は,この販売により販売高の20%に相当する金37億3080万円の利益を得たから,実用新案法29条2項により,原告の損害は同額と推定されるところ,本件訴訟においては,その一部である金7345万円を請求する。 (被告の主張) 原告主張の損害額については,これを争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(先使用の抗弁の成否)について (1) 本件において,被告は,被告先行装置が本件考案の技術的範囲に属するとして,先使用による通常実施権を主張しているところ,原告は,被告先行装置においては,ボビン供給装置と巻線装置に共用で1つのコンベアが備えられており,また,半田処理等を行う装置と排出装置に共用で1つのコンベアが備えられているから,被告先行装置は本件考案の技術的範囲に属しないと主張して,これを争っている。そこで,以下,この点につき検討する。 (2) 本件明細書における実用新案登録請求の範囲の記載は,前記のとおり,「キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニットと,ボビンに巻線を施す自動巻線ユニットと,ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや絶縁チェック,更にコイル搬出等を行う複数の処理ユニットと,キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え,前記各ユニットは着脱自在に配設され,各コンベアはキャリアを授受できるように各ユニット間に於いてその高さを揃えたことを特徴とする自動巻線処理装置。」というものである。この記載によれば,本件考案における自動巻線装置が,@コンベアを備えた複数のユニットを備えること,Aユニットが着脱自在に配設されていること,B各コンベアは高さを揃えたものであること,が明らかであるが,コイルに施す複数の加工等の作業について,個別の一つ一つの作業ごとにこれを行う装置をそれぞれ独立した着脱自在の別個の単体として構成した上で,そのそれぞれに独自のコンベアを備えるものに限られるのか(なかでも,ボビンを自動装填する装置とボビンに巻線を施す自動巻線装置とを,それぞれ独立して着脱自在の別個の単体として構成し,それぞれに独自のコンベアを備えるものに限られるのか)という点は,文言上は必ずしも明らかでない。 そこで,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の記載を見ると,「考案が解決しようとする問題点」として,「この種のコイルは,使用目的や使用条件などにより数多くの種類があり,種類に応じて製作工程が異なり,このため製作すべきコイルの種類によって処理装置も異なる場合が多く,製作すべきコイルの種類を変える度毎に,全装置を入れ変えるのでは大変な労力が強いられるばかりか,入れ変え作業に多くの時間を必要とし,又利用できる部分も交換するので装置の使用率も悪いといった問題があった。そこで,本考案は,上記事情に鑑み,製作すべきコイルの種類に応じて装置の必要とする処理ユニットのみを入れ変え,又補充し,しかもボビンが装着されたキャリアの移動範囲に制限されることなく自由自在に処理ユニットを連結し得る自動巻線処理装置を提供せんとするものである。」(本件公報2欄16行〜3欄3行)との記載があり,「考案の効果」として,「本考案に係る自動巻線処理装置によれば,製作すべきコイルの種類に応じて装置の必要とする処理ユニットのみを自由に入れ換え,又補充でき,しかもボビンが装着されたキャリアの移動範囲に制限されることなく,自由自在に処理ユニットを連結し得て,使用上頗る便利である。本考案によれば,前記したように生産するコイルの機種の変更に応じて個別のユニットを任意に入れ換えることができる。従って,機種の相違によって各部の形状や寸法の異なるコイルを,生産機種の切換時に他のラインを用いることなく,共通ユニットを残し,変更を要するユニットだけを交換すれば直ちに生産ラインが切り換えられ,このため装置やスペース或は労力を大幅に節減でき,コスト低減に顕著である経済的効果がある。」(本件公報12欄23行〜39行)との記載がある。 これらの記載によれば,本件考案は,コイルに加工等の作業を施す装置に同一の高さのコンベアを備えさせ,これらを着脱自在とすることによって,一部の装置を入れ換えるだけで生産ラインの変更ができるようにしたものであるが,本件考案の効果を達成するためには,コイルに対して異なる種類の作業を施す装置のそれぞれが必ず個別に独立した着脱自在の単位体として構成されなければならないというわけではなく,製作すべきコイルの種類が変更されても必ず生産ライン上で隣り合う場所に位置することが予定されている複数の装置については,個別に着脱することが想定されないから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することが当然に予定されているものと解するのが相当である(コイルに施す異なる種類の操作と処理ユニットの関係については,実用新案登録請求の範囲に何ら記載されていないのであるから,この点は,明細書の他の部分の記載に照らして判断するのが相当であり,前記のように解すべきである。)。 そうであれば,通常は生産ラインの冒頭部分に配置されることが予定されている自動装填装置と自動巻線装置についても,一般にその間に何らかの作業を行うことは予定されていないものであるから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することも,本件考案において,想定されているものというべきである。 そして,現に,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄においては,本件考案の実施例として,「自動装填ユニット1の送り出しコンベア6の搬出端側に近い個所には,自動巻線ユニット28を配設」した(本件考案4欄33行〜35行)自動巻線装置,すなわち,自動装填ユニットと自動巻線ユニットが連結され1個の共通のコンベアを備えた自動巻線装置が記載されているものである。この装置が上記のような構造であることは,本件実用新案権の願書に添付された上記実施例の図面(本件公報第1図)を見れば,更に明らかである。すなわち,この図では,パーツフィーダ2と自動挿入機4から成る自動装填ユニット1と,自動巻線ユニット28は,個別に独立して着脱自在ではなく,両者が一体として連結されており,1個の共通のコンベア6を備えている。 上記のような,本件考案の解決すべき課題及び本件考案の効果についての本件明細書の各記載並びに本件考案の実施例についての本件明細書及び願書に添付された図面の各記載を総合すれば,本件考案については,コイルに施す複数の操作について,個別の一つ一つの操作ごとにこれを行う装置をそれぞれ独立した着脱自在の別個のユニットとしてそれぞれに独自のコンベアを備える構成としたものはもちろん,全体を構成する複数の装置のうち一部の,異なる操作を行う複数の装置を連結して一体のものとし,これを着脱自在のユニットとして1個の共通のコンベアを備える構成としたものも,その技術的範囲に含まれるものと解するのが相当である。したがって,ボビンを自動装填する装置とボビンに巻線を施す自動巻線装置について,両者を連結して一体の着脱自在のユニットとし,1個の共通のコンベアを備える構成としたものであっても,本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。 これを本件考案の構成要件に即していうと,A@〜Bの「ユニット」はいずれもコイルに対する1種類の作業に対応する装置をいうが,AC及びB@における「各ユニット」については,いずれも,「各ユニットが必ず単独で」ということまでを意味するものではなく,「各ユニットが,それぞれ単独で,あるいは隣接するユニットと共に(共通のコンベアを備えるか,あるいは一体として着脱自在となっている)」ということを意味しているものと解するのが相当である。 (3) 本件考案の構成要件についての前記のような解釈を前提に,被告先行装置の構成と本件考案の内容を対比すると,被告先行装置は,ボビンを供給するパーツフィーダー及び挿入装置を備えたボビン供給ユニットを有するから,「キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニット」(構成要件A@)を備えている。また,巻線装置,挿入排出装置及びインデックス装置等を備えた巻線ユニットを備えているから,「ボビンに巻線を施す自動巻線ユニット」を備えている(同AA)。さらに,テーピング装置及びテーピングピッカー装置をそれぞれ複数備えたテーピングユニット,並びに,フラックス装置,半田装置,レアショート装置,不良排出装置,排出ピッカー装置及び排出コンベアを備えた半田ユニットを設けているから,「ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや半田付け等を行う複数の処理ユニット」(同AB)を有している。そして,前記の自動装填ユニットとこれに隣接する自動巻線ユニットは,共通のコンベアを備え,テーピングユニット及び半田ユニットは,それぞれ独自のコンベアを有しているから,「キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアを備え」(同AC)ており,自動装填ユニットとこれに隣接する自動巻線ユニットは一体として,テーピングユニット及び半田ユニットは独立して,それぞれ必要に応じて着脱可能と認められるから,「前記各ユニットは着脱自在に配設され」(同B@)ている。また,「各コンベアはキャリアを授受できるように各ユニット間に於いてその高さを揃えたこと」(同BA),及び,「自動巻線処理装置」(同C)であることについても,これを充足する。 (4) そうすると,被告先行装置は,本件考案の技術的範囲に属するというべきであるところ,本件考案の実用新案登録出願前に被告が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがないので,被告は,先使用による通常実施権を有するものというべきである(なお,付言するに,本件考案の技術的範囲の認定をさておくとしても,原告は,本件考案の出願に当たって願書に添付した明細書及び図面において,前記の実施例(本件公報第1図)を本件考案の実施例として記載したものである以上,その後の侵害訴訟において,これを翻し,自ら実施例として記載したものを考案の技術的範囲外のものと主張することは,禁反言の原則に照らし,許されないものというべきである(そのような行為は,実用新案登録公報に記載された実施例と同一の物を実用新案登録出願前から製造等している第三者が,公報の記載を信頼してその製造等を継続する利益を,不当に覆すものであって,信義則上許されない。)。したがって,本件において原告が被告の先使用の抗弁を争うことは許されないというべきであり,被告の先使用の抗弁は,この点からも理由があるということができる。)。 2 争点(2)(実用新案登録無効の抗弁の成否)について 前記のとおり,被告先行装置は,本件考案の技術的範囲に属するというべきであるところ,本件考案の実用新案登録出願前に,被告が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがないから,本件考案は,その実用新案登録前に公然実施されていたものであり,本件考案には,明白な無効事由(実用新案法37条1項2号,3条1項2号)が存するから,これに基づく請求は,権利の濫用として許されないというべきである。 3 結論 以上によれば,原告の請求は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
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別紙第1物件目録第一図第二図第三図第四図第五図第六図第七図第八図別紙第2物件目録一図面の説明ア第1図:被告先行装置を真上から見下ろした図。 イ第2図:被告先行装置を真横から見た図。 ウ部品等の説明1,2パーツフィーダー23余張用線クラップ装置3,4キャリア挿入24制御ボックス5スプール台25テーピング制御ボックス6巻線機7排線コンベア8インデックス9フリースローコンベア10挿入排出装置11巻線機制御ボックス12テーピング13テーピングピッカー14フラックス装置15半田装置16レアーショート装置17不良排出シュート18排出ピッカー19排出コンベアー20下降リフター21上昇リフター22再挿入装置二被告先行装置の構成の概要1パーツフィーダーに投入されたボビンを,コンベア上のキャリアに自動装填するボビン供給装置と,2ボビンに巻線を施す巻線装置と,3巻線されたボビン(すなわちコイル)にテーピング処理を行うテーピング装置と,4テーピングされたコイルにフラックス処理を行うフラックス装置と,半田付け等の処理を行う半田装置と,レアショート検査を行う装置とを含んだ装置と,5半田付け処理された後のコイルが装填されたキャリアを,送り出す排出装置を備え,6ボビン供給装置と巻線装置には,共用で1つのコンベアが備えられており,7テーピング装置には,単独で1つのコンベアが備えられており,8半田処理等を行う装置と排出装置には,共用で1つのコンベアが備えられているものであって,9前記各コンベアは,キャリアが授受できるようにコンベア間で高さが揃えられている自動巻線処理装置。 第1図,第2図 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 村越啓悦 |
裁判官 | 青木孝之 |