• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  考案の要旨認定 /  図面 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  きわめて容易 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  公知技術 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ワ) 3857号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 極東開発工業株式会社
訴訟代理人弁護士 赤木文生
補佐人弁理士 落合健
被告 株式会社花見台自動車
訴訟代理人弁護士 高橋隆二
補佐人弁理士 元井成幸
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/09/13
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の装置を備えた貨物自動車を製造し、販売し、貸し渡し、販売若しくは貸し渡しのための申出をしてはならない。
2 被告は、原告に対し、金5500万円及びこれに対する平成12年4月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 前提事実(末尾に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 本件実用新案権 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、本件実用新案権に係る考案を「本件考案」、その実用新案登録出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)を有している。
実用新案登録番号 第2515337号 考案の名称 貨物自動車 出願日 平成2年11月27日(実願平2-126044) 公開日 平成4年7月16日(実開平4-81834) 登録日 平成8年8月2日 実用新案登録請求の範囲 [請求項1]車体上にボデーを傾動可能に搭載した貨物自動車において、上記ボデーの前端に設けたウインチと、上記ボデー前端の側部に固定され、上記ウインチのワイヤーを案内する固定シーブと、上記ボデー前端の幅方向において固定位置を選択でき、上記固定シーブからのワイヤーをボデーの幅方向からボデーの前後方向に案内する移動シーブとを備えることを特徴とする貨物自動車 (2) 構成要件 本件考案は、次の構成要件に分説することができる。
a 車体上にボデーを傾動可能に搭載した貨物自動車において、
b 上記ボデーの前端に設けたウインチと、
c 上記ボデー前端の側部に固定され、上記ウインチのワイヤーを案内する固定シーブと、
d 上記ボデー前端の幅方向において固定位置を選択でき、上記固定シーブからのワイヤーをボデーの幅方向からボデーの前後方向に案内する移動シーブと を備えることを特徴とする貨物自動車 (3) イ号物件 被告は、平成8年8月ころから平成11年9月ころまでの間、別紙イ号物件目録記載の貨物自動車(以下「イ号物件」という。)を2038台製造、販売した。
(4) イ号物件の構成 イ号物件の構成は、次のとおりであり、本件考案の構成要件a〜cを充足する。
(a) 車体上にボデーを傾動可能に搭載した貨物自動車において、
(b) 前記ボデーの前端にウインチを設置し、
(c) ボデーの前端の側部(前進方向左側側部)に固定ロープ滑車Aが連結され、この固定ロープ滑車は前記ウインチから繰り出されるワイヤーCを案内し、
(d) ボデーの前端に幅方向の3つの固定位置に移動ロープ滑車の連結金具Bが固定され、これらの連結金具に1つの移動ロープ滑車Dを選択的に連結して、その固定位置を選択できるようになっており、その移動ロープ滑車は、前記固定ロープ滑車からのワイヤーを、ボデーの幅方向からボデーの前後方向に案内するようにした 貨物自動車である。
2 原告は、イ号物件が本件考案技術的範囲に属するとして、被告に対し、実用新案法27条1項に基づき、イ号物件の製造、販売の差止めを求めるとともに、
同法29条2項に基づき、原告の被った損害の内金5000万円及び弁護士費用500万円の損害賠償を請求した。
3 争点 (1) イ号物件は本件考案技術的範囲に属するか-構成要件d該当性 (2) 本件考案の実用新案登録には明らかな無効理由が存在するか (3) 原告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号物件は本件考案技術的範囲に属するか-構成要件d該当性)について 【原告の主張】 本件考案の構成は、移動シーブがボデー前端の幅方向において固定位置を選択できる点に特徴があり、イ号物件のように移動ロープ付滑車の固定位置が3か所であっても「固定位置の選択」という構成に該当するから、イ号物件は、本件考案の構成要件dを充足する。
【被告の主張】 被告は、本件考案の出願前から、@ウインチから出たワイヤーの方向を荷台の幅方向に変える三面ローラ、A荷台前端の左右に設けられた輪状の部材(以下「丸環」という。)のいずれかに選択して固定し、三面ローラから出たワイヤーを荷台の前後方向に案内するフック付滑車、を備えたスライドボディー型の貨物自動車を製造、販売しているところ、三面ローラ及びフック付滑車はそれぞれ本件考案の固定シーブ、移動シーブに相当する。
上記公然実施及び公知の考案によれば、本件考案の創作的特徴は移動シーブの具体的構成にあると解すべきであり、「移動シーブ」が「幅方向において固定位置を選択でき」るとは、単に移動シーブの固定位置を複数の箇所から選択できるという意味ではなく、移動シーブ自体が荷台の幅方向にその固定位置を任意に選択して調節可能に移動できる構造でなければならない。
イ号物件の移動ロープ滑車Dは、固定可能な位置が荷台前端の連結金具Bの位置3か所に限定されており、それ以外の位置に任意に選択することは不可能な構造であるから、イ号物件は本件考案の構成要件dを充足しない。
2 争点(2)(本件考案の実用新案登録には明らかな無効理由が存在するか)について 【被告の主張】 本件考案の実用新案登録には次のとおり明らかな無効理由が存在し、原告が本件実用新案権を行使することは権利の濫用に該当し許されない。
(1) 出願前公然実施 ア 被告は、本件考案の出願前から、「セイフティローダ」の名称で、次の構成を備えた貨物自動車を公然と製造、販売していた。
@ 車体上に荷台(ボディー)を傾動可能に搭載した貨物自動車であること(本件考案の構成要件a)、
A 荷台前端にウインチが設けられていること(同b)、
B 荷台前端の中央に固定されてウインチのワイヤーを案内する三面ローラ(固定シーブに該当する)を有すること(同c)、
C 荷台前端の幅方向において固定位置を複数選択でき、三面ローラからのワイヤーを荷台の幅方向から荷台の前後方向に案内するフック付滑車(移動シーブに該当する)を備えていること(同d) イ 上記公然実施に係る貨物自動車は、固定シーブに相当する三面ローラが設けられている位置がボディー前端の側部ではなく中央である点で本件考案と相違するが、その相違点はウインチと三面ローラとの取付位置をボディー前端の側部に変更することにすぎず、変更によっても同一の作用効果を奏するので、単なる設計上の相違にすぎない。なお、公然実施に係るフック付滑車は、本件考案につき減縮を目的とする訂正がない限り、文言上は本件考案の構成要件dに係る「幅方向において固定位置を選択できる」移動シーブに相当し(考案の要旨認定考案技術的範囲と同じではない。)、本件考案公然実施考案の設計的事項を変更したものにすぎない。したがって、本件考案は、実用新案法3条1項2号により、明らかな無効理由を有する。
(2) 進歩性欠如 本件考案は、その出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭54-120119号公開特許公報(乙9添付の甲8)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案することができた。
上記公報には、車体枠1上に荷台2を傾動可能に搭載したコンテナ等の運搬車において、荷台2の前端に設けたウインチ6と、荷台2前端の幅方向においてウインチの固定位置を選択できる上記ワイヤーをボディーの前後方向に延出させる前記ウインチの移動手段とを備えるコンテナ等の運搬車が記載されている。上記公報記載の発明は、ワイヤーをボディーの前後方向に案内する手段の構成が前記ウインチ自体及び該ウインチの移動・固定手段である点において本件考案の固定シーブ、移動シーブと相違するが、ウインチ技術分野における周知・慣用技術によれば、ウインチを固定位置とし、ワイヤーを案内する固定シーブをボディー前端の側部に備え、ボディー前端の幅方向において固定位置を選択でき、上記固定シーブからのワイヤーをボディー幅方向からボディー前後方向に案内する移動シーブを備える構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
【原告の主張】 (1) 出願前公然実施について 被告は、「セイフティローダ」の名称の下に、荷台が前後方向に移動し、
荷台の後端が地面に設置して荷物を荷台へ積載することを可能とする貨物自動車を製造、販売しており、その荷台には、@前端中央部にウインチ、Aウインチ前面(自動車の進行方向としては後方)に三面ローラ、B周辺部に丸環が取り付けられていたが、このセイフティローダは、平成12年5月ころにおいても、滑車をフックによって荷台上の丸環に取り外し可能に固定し、ウインチからのワイヤーが三面ローラによって方向を変え、さらに滑車によって方向を変えられるようにウインチ操作が可能な状態にはなっていなかった。三面ローラはウインチの乱巻き防止を、
滑車は本来の動滑車としての効果である牽引力の半減を目的とするものであり、被告主張のように、荷台前端の丸環に滑車を固定してワイヤーを案内する機能を有せず、かつ、そのように利用されてもいなかった。
技術的観点からしても、三面ローラは、ウインチから後方に延び出すワイヤーの乱巻きを防止してワイヤーをウインチのドラム幅内に的確に巻き取らせるためにウインチのドラムと略同じ幅でその直後に配設される機能部品であり、ワイヤーを大きな曲率で無理に屈曲させるような使用可能性を有していないし、滑車も、
被告主張のように丸環に固定するという技術的思想のもとに実施されたものではない。
以上によれば、セイフティローダは本件考案の構成要件dを充足していないから、本件考案公然実施に該当しない。
(2) 特開昭54-120119公開特許公報に記載の考案は、ウインチ自体をボデーの幅内で位置調節可能として、ウインチからその後方に略真直ぐに延出するワイヤを介してウインチ自体に積載物を直接引き込むことにより、ボデー内に積載物を乗り込ませるようにしたものであって、移動シーブや固定シーブの使用を前提としていない技術である。換言すれば、ウインチ自体が幅方向に位置調節されることにより、ワイヤをボデーの前後方向に案内するワイヤ案内手段を省略した技術、
すなわち、ワイヤ案内手段を不要とする技術であり、本件考案とは技術的思想が一致しない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(構成要件d該当性)について (1) 本件考案の構成要件dにおいては、「移動シーブ」に関する構成が記載されており、この「移動シーブ」は「ボデー前端の幅方向において固定位置を選択でき、固定シーブからのワイヤーをボデーの幅方向からボデーの前後方向に案内する」ものとされている。
上記「移動シーブ」について、本件明細書考案の詳細な説明をみると、
【作用】の項に「この移動シーブは、上記ボデー前端の幅方向において固定位置を選択できる。したがって、様々な形態の荷物に応じて、移動シーブのボデー幅方向の位置を調節することによって、ワイヤーをボデーの前後方向に平行に張り渡すことができる。」(別紙添付の実用新案登録公報3欄29〜33行)、【考案の効果】の項に「本件考案の貨物自動車は、移動シーブの定位置を、上記ボデー前端の幅方向に選択できるので、様々な形態に応じて、移動シーブの幅方向の位置を調節して、ワイヤーをボデーの前後方向に平行に張り渡すことができる。」(同6欄17〜21行)と記載されていることに加えて、【実施例】の項に「ボデー5の前端には、第4図に示すように……ボデーの幅方向に伸びるガイドレール56……を取り付けている。……このガイドレール56にスライド可能に、移動シーブ55を装着している。上記移動シーブ55は、固定ピン57によって、上記ガイドレール56の任意の位置に固定できるようになっている。」(同4欄26〜29行)、「この貨物自動車が第1図に示す状態にあるとして、上記自動車を積み込む際に、第4図に示す上記移動シーブ55が上記自動車のけん引用のフックの正面に位置するように、上記移動シーブ55を、ガイドレール56の適当な位置に調節して固定ピン57で固定する。」(同4欄45〜49行)と記載され、実施例のボデー前端に取り付けたウインチ周辺の詳細図を示した第4図に、荷台前端の幅方向(荷台の左端から幅全体の3分の2程度まで)に取り付けられたガイドレール56の中央付近に、移動シーブ55がその左側の固定ピン57によって固定された状態が図示されている(甲2)。
上記のとおり、本件明細書実施例では、移動シーブが、貨物自動車のボデー前端の幅方向に設けられたガイドレールをスライドして移動し、その固定位置をガイドレールの幅の範囲で任意に選択できる構成になっており、そのような構成により本件明細書に記載された前記のような作用効果を奏することが理解できる。
しかし、移動シーブのそのような具体的な構成は実施例に記載されたものであるから、ただちに本件考案の構成がそのようなものに限定されるものとすることはできない。
(2) そこで、本件考案の出願前の公知技術について検討する。
証拠(乙1の1ないし20、2、3、12、15、16、18、22、証人A、被告代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告は、昭和47年ころ、車体上にボディーを傾動可能に搭載した貨物自動車を開発し、これを「セイフティローダ」の名称で販売するようになった。被告は、顧客の意向に応じて、大手自動車メーカーが製造する貨物自動車又はその中古車を購入し、その荷台部分を改造してセイフティローダを製造し、これを顧客に販売し、又は、同社の保有する基本特許権を第三者に実施させることを主たる業務としている。
イ 株式会社エンゼルサービス(以下「エンゼルサービス」という。)は、
昭和59年8月、セイフティローダにより車両輸送を行う会社として創業され、車検整備車の納車引取り、事故車・故障車の引上げ、フォークリフトの輸送を主たる業務としている。エンゼルサービスは、昭和59年ころ、被告からセイフティローダ3台を購入してから継続的にこれを購入しているが、その際には、常時フック付滑車1個又は2個が付属品として付けられていた。エンゼルサービスは、このフック付滑車を通常の動滑車として使用するほか、故障車がボディー前端中央に設けられたウインチに対し真直ぐの方向になくワイヤーが斜めになる場合に、ウインチの左右や荷台後部に設けられた丸環に滑車のフックを係合してワイヤーを滑車に取り回し、これをボディーの幅方向から前後方向に案内する方法で使用していた。
ウ セイフティローダは、昭和59年ころは、ボディー前端中央にウインチが装備され、その左右や荷台後部に丸環が設置されているだけであったので、前記イのように、フック付滑車を丸環に係合してワイヤーの向きを変える場合には、ワイヤーが乱巻きになり危険であった。このため、エンゼルサービスは、昭和63年ころから、被告に対し、乱巻き防止の方法を考えるよう要望し、被告は、同要望に応えて平成元年ころウインチの正面(荷台後方寄り)の近接した箇所に三面ローラを溶接した。この三面ローラは、枠内面の上及び左右に設けられた3つのローラでワイヤーの方向を変化させることが可能であり、動力が掛かっても円滑に動くことから、丸環に係合したフック付滑車によりワイヤーの方向を変えた場合にワイヤーが乱巻きになる危険はなくなった。被告は、このようなセイフティローダを平成元年及び平成2年には年間約2500台を製造し、顧客に対し、故障車を引き上げる時のフック付滑車の使用方法及び滑車の位置を選択できることを説明した。
エ エンゼルサービスは、平成2年11月13日ころ、被告から「新規登録平成2年11月13日、登録番号水戸11い8472」のセイフティローダ(以下「公知例」という。)を購入した。公知例では、被告代表取締役が平成12年5月10日撮影した写真に示されているように、ボディー前端中央に設けられた油圧ウインチから真直ぐ後方に出たワイヤーを三面ローラによりいったん右方向に変化させ(乙2・写真番号4、5)、これを三面ローラの右側に設けられた丸環に連結したフック付滑車に取り回してワイヤーが荷台と平行になるように方向転換し、ワイヤーの先端を自動車のシャーシ右前方に係合して荷台に引き上げるというような使用方法がとられていた(乙15・写真番号6、7)。
(3) 上記認定事実によれば、被告は、昭和60年ころから、ボディー前端の中央にウインチを装備し、ウインチの左右に丸環を設けたセイフティローダを製造、
販売しており、フック付滑車を付属品としていたこと、セイフティローダの顧客は、昭和60年当時から、ワイヤーが斜めになる場合には、ウインチの左右に設けられた丸環に前記フック付滑車を係合し、同滑車にワイヤーを取り回してワイヤーの方向を変えていたが、平成元年ころ、被告がウインチの正面(荷台後方寄り)の近接した箇所に三面ローラを設けてからは、ウインチから出たワイヤーの方向をいったん三面ローラで荷台の横方向に変えた後、これを左右の丸環のいずれかに係合した滑車に掛け、荷台の長手方向に方向転換するようになったことが認められる。
上記事実によれば、被告は、遅くとも本件実用新案登録の出願日である平成2年11月27日までには、@車体上にボデーを傾動可能に搭載した貨物自動車(セイフティローダ)において(本件考案の構成要件a)、Aスライドボデー前端(中心部)にウインチを設け(構成要件b)、Bウインチから出たワイヤーの方向を変えるボデー前端中央部に設けた三面ローラ(構成要件c「固定シーブ」に相当)と、C三面ローラの後方直近及び左右に設けられた3か所の丸環に選択して固定し、三面ローラから出たワイヤーを荷台の幅方向から荷台の前後方向に案内するフック付滑車(構成要件d「移動シーブ」に相当)を備えた貨物自動車(公知例)を、公然知られた状態で製造、販売していたものというべきである。
(4) 公知例と本件考案とを対比すると、公知例の三面ローラが「固定シーブ」に該当し、フック付滑車が本件考案の「移動シーブ」に該当するとすると、公知例では三面ローラがボデー前端付近の中央部に固定されているのに対し、本件考案の固定シーブはボデー前端の側部に固定されている(構成要件b)点で異なるにすぎず、上記のような差異はウインチの設置位置(ボデー前端の中央部か側部か)に関連して(乙9添付の甲8によれば、本件考案の出願前に、公知例のようにウインチを荷台前端部の中央に設けたもののほか、左右に設置したウインチ付運搬車が公知であったことに加えて、同出願前に頒布された刊行物である特開昭54-120119号公開特許公報には、荷台前部の左右方向に延びる案内レールに沿ってウインチが移動し適宜位置で固定する構成のウインチ付運搬車の発明が記載されていることが認められる。)、当業者が適宜に選択して設計できる事項に関するものであると解される。
ところで、本件考案の出願当時の実用新案登録の要件を定めた平成5年法律第26号による改正前の実用新案法3条1項2号、2項によれば、実用新案登録出願前にその考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が、同出願前に日本国内において公然実施をされた考案に基づいてきわめて容易考案をすることができたときは、その考案は実用新案登録を受けることができないものである。しかるところ、本件考案の「移動シーブ」が公知例のフック付滑車のように、複数(3か所)の丸環を選択して固定するような構成のものまで含むとすれば、本件考案は、出願前に日本国内において公然実施をされた考案である公知例から当業者がきわめて容易考案できたものといわざるを得ないことになり、実用新案登録の無効理由を有することになる。したがって、本件考案の出願前の公知技術を参酌すれば、本件考案の「移動シーブ」は、本件明細書実施例にも示されているように、
ボデー前端の幅方向の任意の位置でその固定位置を選択できるようなものに限定して解釈するのが相当である。
(5) 前記第2、1、(4)の事実によれば、イ号物件においては、移動ロープ滑車の固定位置は、公知例と同じく、荷台の幅方向に設けられた3か所の連結金具から選択する構成となっており、移動ロープ滑車を荷台の幅方向の任意の位置に固定することはできないことが認められる。そうすると、イ号物件の移動ロープ滑車は本件考案の「移動シーブ」に該当せず、イ号物件は本件考案の構成要件dを充足しない。
したがって、イ号物件は本件考案技術的範囲に属さない。
2 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
追加
イ号物件目録別紙図面において、図1はイ号物件のボデー搭載時の側面図、図2はそのボデー傾動時の側面図、図3はボデーの部分拡大平面図、図4は図3のA-A線に沿う断面図である。
イ号物件は、これらの図に示すように、
(a)車体上にボデーを傾動可能に搭載した貨物自動車において、
(b)前記ボデーの前端にウインチを設置し、
(c)ボデーの前端の側部(前進方向左側側部)に固定ロープ滑車Aが連結され、この固定ロープ滑車は前記ウインチから繰り出されるワイヤーCを案内し、
(d)ボデーの前端に幅方向の3つの固定位置に移動ロープ滑車の連結金具Bが固定され、これらの連結金具に1つの移動ロープ滑車Dを選択的に連結して、その固定位置を選択できるようになっており、その移動ロープ滑車は、前記固定ロープ滑車からのワイヤーを、ボデーの幅方向からボデーの前後方向に案内するようにした貨物自動車である。
図1図2図3図4
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝
  • この表をプリントする