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事件 平成 10年 (ワ) 24213号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ユウキケミカル
訴訟代理人弁護士 窪田英一郎
補佐人弁理士 島添芳彦
被告 株式会社サーモテック
訴訟代理人弁護士 野村尚
被告 株式会社ニュースト
訴訟代理人弁護士 高橋聖明
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/26
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,別紙物件目録(原告主張)記載の床暖房装置を販売し,施行し,又は他者にその施行を下請けさせてはならない。
2 被告らは,原告に対して,連帯して,2074万円及びこれに対する平成10年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社サーモテックは,原告に対し,4426万円及びこれに対する平成10年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,被告らに対して,被告らの施工する温水床暖房装置及びその施工方法が原告の有する実用新案権及び特許権を,それぞれ侵害するとして,温水床暖房装置の施工等の差止め並びに損害賠償及び補償金を請求した。
1 争いのない事実 (1) 実用新案権 ア 原告は,以下のとおりの実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)を有している。
登録番号 第2523716号 考案の名称 床暖房装置 出願日 昭和62年5月18日 登録日 平成8年10月22日 実用新案登録請求の範囲 別紙実用新案登録公報写しの該当欄の請求項1欄記載のとおり イ 本件考案の構成要件は,以下のとおり分説することができる。
A 床下地の上面に配置された弾力ある複数の温水パイプと, B 該温水パイプの上から流し延べられたセルフレベリング材とからなり, C 防水紙が前記セルフレベリング材と前記床下地との間に設けられ, D 前記温水パイプをセルフレベリング材内に埋設し,該セルフレベリング材で固めたこと を特徴とする床暖房装置 (2) 特許権 ア 原告は,以下のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。
登録番号 第2874046号 発明の名称 温水床暖房装置の施工方法 出願日 昭和62年5月18日 登録日 平成11年1月14日 特許請求の範囲 別紙特許公報写しの該当欄の1項記載のとおり イ 本件発明の構成要件は,以下のとおり分説することができる。
A 弾力ある複数の温水配管を平坦な床下地の上面に敷設し, B セルフレベリング材を前記温水配管の上から流し延べ, C 前記温水配管をセルフレベリング材内に埋設すること を特徴とする温水床暖房装置の施工方法 (3) 被告らの行為 被告らは,業として,別紙物件目録(原告主張)記載の床暖房装置(以下「被告装置」という。なお,被告らは,別紙物件目録(原告主張)の記載のうち,床暖房装置の縦断面図については,別紙物件目録(被告主張)記載のとおりである旨主張する。)の施工を受注し,これを施工している(同施工方法を「被告方法」という。)。
(4) 被告装置及び被告方法の各構成 ア 被告装置の構成は,以下のとおりである。
A′ 床下地の上面に配置された複数のポリブテン製の温水パイプと, B′ 該温水パイプの上から流し延べられたセルフレベリング材とからなり, C′ プライマーが前記セルフレベリング材と前記床下地との間に設けられ, D′ 前記温水パイプをセルフレベリング材内に埋設し,該セルフレベリング材で固めたこと を特徴とする床暖房装置 イ 被告方法の構成は,以下のとおりである。
A′ 複数のポリブテン製の温水パイプを平坦な床下地の上面に敷設し, B′ セルフレベリング材を前記温水パイプの上から流し延べ, C′ 前記温水パイプをセルフレベリング材内に埋設すること を特徴とする温水床暖房装置の施工方法 (5) 被告装置の構成B′は考案構成要件Bを,被告装置の構成D′は本件考案の構成要件Dをそれぞれ充足する。
また,被告方法の構成B′は発明構成要件Bを,被告方法の構成C′は本件発明の構成要件Cをそれぞれ充足する。
2 争点及び当事者の主張 〔実用新案権に基づく請求〕 (1) 被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,考案構成要件Aの「弾力ある温水パイプ」に当たるか。
(原告の主張) ア 本件実用新案明細書の「実用新案登録請求の範囲」中の本件考案の構成要件Aに係る部分(以下「考案構成要件A」と略称する場合がある。以下同じ)の「弾力ある」は,以下のとおりの理由から,「柔軟性がある」又は「可撓性がある」と理解すべきである。
すなわち,本件考案の課題の1つは,薄いセルフレベリング材の中に配管を十分な被覆厚を確保して埋設することであることに照らすならば,「弾力ある」パイプとは,薄いセルフレベリング材の層に十分な被覆厚を確保して納めることができるよう,床地下の不陸(凸凹)に合わせて設置し得る,柔軟性又は可撓性のあるパイプを意味すると解するのが合理的である。
また,本件考案のもう1つの課題は,薄いセルフレベリング材の層とパイプの組合せにおいて,熱伸縮に伴うクラックを防止することである。セルフレベリング材の中に金属管を配置すると,セルフレベリング材の熱収縮に伴う応力を金属管は吸収し得ないため,セルフレベリング材内部の応力によってセルフレベリング材のクラックが発生する可能性があるが,セルフレベリング材内に熱伸縮に伴う応力を吸収することのできるパイプを埋設すれば,セルフレベリング材のクラックを防止することができる。そうすると,「弾力ある」パイプとは,セルフレベリング材に埋設し温水を流してもセルフレベリング材にクラックを生じさせない性質を有すること,熱伸縮に伴う応力を吸収し得るだけの柔軟性又は可撓性を有することと理解するのが合理的である。
イ 被告装置の構成A′の「ポリブテンパイプ」は,柔軟性及び可撓性があり,折り返しや敷設のために曲げ加工は不要であり,薄いセルフレベリング材の層に十分な被覆厚を確保して納めることができる。また,ポリブテンは,セルフレベリング材に比較して,弾性率が低いためこれをセルフレベリング材内に埋設し温水を流しても,セルフレベリング材にクラックは生じない。
なお,ポリブテンは合成ゴムに含める考え方もあり,また,「高分子データハンドブック基礎編」,「合成ゴムハンドブック」等の資料によれば,ポリブテンはゴムの一種とされている。ポリブテンパイプは,被告が主張するような硬質なプラスチックパイプではない。
ウ したがって,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,考案構成要件Aの「弾力ある温水パイプ」に当たり,被告装置の構成A′は,考案構成要件Aを充足する。
(被告らの主張) ア 考案構成要件Aの「弾力あるパイプ」とは,以下の理由から,パイプの断面上下から外力を加えたときに容易に変形し且つ外力を加えるのを止めるのと同時に元の形に戻る材質のパイプを意味すると解すべきである。
「弾力」の語義は,「弾む力,物体が変形に抗して原形に復しようとする力」である(広辞苑)。
また,原告が昭和62年5月18日にした本件考案についての実用新案登録出願(以下「原出願」という。)における「考案の詳細な説明」欄には,温水ヒーターの素材はゴムロール等であり,弾力ある温水ヒーターの内面に圧力をかけながらセルフレベリング材を上から流して固める旨が記載されていたことからすると,弾力あるパイプとは,外圧すなわちセルフレベリング材からの圧力によって容易に変形されるゴム様のものを考案の技術内容としていたと解される。
イ 一方,被告装置の構成A′の「ポリブテンパイプ」は,塩ビパイプ,架橋ポリエチレンパイプ,ポリプロピレンパイプ等の硬質プラスチックパイプと同様の物性を備えており,断面上下から外力を加えられ変形すると元の形状に戻らず,弾力性はない。
なお,原告作成の「ユーキ式温水床暖房に関する技術資料」には,ユーキ・ロールと呼ばれる温水パイプは,弾力性があるので,熱膨張によりひび割れが生じないのに対し,架橋ポリエチレンパイプはパイプに弾力性がないために,熱膨張によるひび割れが生じる旨記載されているが架橋ポリエチレンパイプは,被告装置に使用されているポリブテン製のパイプと同様の性質を有するプラスチックパイプである。
ウ したがって,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,考案構成要件Aの「弾力ある温水パイプ」に当たらず,被告装置の構成A′は,考案構成要件Aを充足しない。
(2) 被告装置の構成C′の「プライマー」は,考案構成要件Cの「防水紙」の均等物か。
(原告の主張) 被告装置の構成C′の「プライマー」は,以下のとおり,考案構成要件Cの「防水紙」の均等物である。
置換可能性 防水紙とプライマーとは防水機能を有するという点で置換可能性がある。
被告は,被告装置のプライマー層において塗布されるプライマーの量が塗膜防水の場合と比較して少ないことを理由に被告装置におけるプライマー層が防水機能を果たさない旨主張する。しかし,被告は,防水機能として,屋根等の厳しい環境下で10年以上にわたって風雨に耐え得るものを想定しているが,本件では,セルフレベリング材に含まれる水分を防水できれば足りるのであり,セルフレベリング材の場合は硬化してしまえばその後の水分を考慮する必要はないから,1日程度の防水が可能であれば足りる。この観点からすれば,被告装置のプライマー層もその程度の防水機能は有する。被告の上記主張は理由がない。
イ 侵害時置換容易性 防水紙をプライマーに置き換えることは当業者にとって容易である。防水紙は,建築の防水用に使用される防水シートの一種であり,このようなシートを用いた防水法を建築用語ではシート防水という。一方で,コンクリート等からなる防水下地に,合成ゴムや合成樹脂のエマルジョンを塗布して,所定の厚さの防水層を形成する方法を塗膜防水という。そして,シート防水と塗膜防水とは,遅くとも平成3年11月には,代替され得るものとして当業者に認識されている。ところで,プライマーは,塗膜防水で使用されるアクリル-スチレン共重合体樹脂のエマルジョンであるから,防水性を有することは明らかである。また,平成3年11月の時点においては,アクリル-スチレン共重合体樹脂のエマルジョンが塗膜防水材として使用されることは公知であり,前記のとおり,シート防水に換えて塗膜防水によることも当業者にとっては極めて容易であった。
(被告らの主張) 被告装置の構成C′の「プライマー」は,以下のとおり,考案構成要件Cの「防水紙」の均等物ではない。
置換可能性 プライマーは,防水紙という紙が有するところの床下地とセルフレベリング材とを仕切るという機能を有していない。
防水とは,水湿分の侵入透過を防ぐことを意味し,塗膜防水とは,合成ゴムや合成樹脂で塗膜を形成して防水層とする防水方法である。そして,塗膜防水が防水層として機能するには,1平方メートル当たり,数キログラムの防水材料液を塗布して数ミリメートル単位の厚さの塗膜を形成する必要がある。一方,被告装置で使用しているプライマーは,宇部興産株式会社(以下「宇部興産」という。)製造の「UプライマーQ」であるところ,UプライマーQの1平方メートル当たりの塗布量は150ないし250グラムである。被告装置におけるプライマー薄層は,塗膜防水における防水膜とは全く異なるものであり,上記プライマー薄層には防水機能はない。
したがって,被告装置におけるプライマーは防水紙とその有する機能が異なるから,両者に置換可能性はない。
公知技術からの容易推考性 特開昭55-123994号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開昭59-21556号公報(以下「刊行物3」という。)からすると,考案構成要件A,B及びDの構成を備えた床暖房装置は,本件実用新案の出願前に公知となっていたか,又は少なくとも公知技術から容易に推考できた。また,プライマーは,床暖房装置に限らず,セルフレベリング材を使用するときに不可欠なものであって,プライマーによる下地処理を施すことは本件実用新案の出願前から広く行われていた。
したがって,被告装置は公知技術から容易に推考できたのであり,本件において均等論を適用する余地はない。
(3) 原告の損害 (原告の主張) ア 補償金請求(被告サーモテック) 本件実用新案は,昭和63年11月28日に公開されているが,被告サーモテックは平成3年11月1日に本件考案に係る出願について刊行物等提出書を特許庁に提出している。したがって,被告サーモテックは,遅くとも平成3年11月1日以降は,出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知って被告装置を施工していたことになる。
被告サーモテックが,平成3年11月1日から本件実用新案が登録された平成8年10月22日までの間に,施工した被告装置は145件を下らず,その総施工面積は3万4800平方メートルを下らない。被告装置の施工金額は,1平方メートル当たり1万2000円であるから,上記期間の被告サーモテックの総受注金額は4億1760万円を下らない。
そして,原告が本件考案に関して受けるべき実施料率は10パーセントを下るものではないから,原告は上記期間における被告サーモテックによる本件考案の実施により,少なくとも4176万円の補償金を受ける権利を有している。
イ 損害賠償請求(被告ら) 被告らは,平成8年10月22日以降現在に至るまで,少なくとも65件の被告装置を共同で受注し,その総施工面積は1万5200平方メートルを下らず,総受注金額は1億8240万円を下らない。
そして,原告が本件考案に関して受けるべき実施料率は10パーセントを下るものではないから,被告らが共同で本件実用新案権を侵害することにより,原告は平成8年10月22日以降,少なくとも1824万円の損害を被った。
ウ 弁護士費用(被告ら) 被告らが本件実用新案権を侵害していることにより,原告は本件訴訟の提起を余儀なくされ,その遂行のために弁護士費用及び弁理士費用として少なくとも500万円の費用の出損が見込まれる。
このうち,被告サーモテックが単独で負担すべき費用は250万円であり,残額は被告らが連帯して負担すべきである。
エ したがって,原告は,被告サーモテックに対しては合計6500万円,被告ニューストに対しては合計2074万円の損害賠償請求権を有する。
(被告らの主張) 争う。
〔特許権に基づく請求〕 (1) 被告方法の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,発明構成要件Aの「弾力ある配管」に当たるか。
原,被告らの主張は,上記〔実用新案権に基づく請求〕(1)における各主張と同じである。
(2) 本件特許には,進歩性欠如による明白な無効理由が存在するか。
(被告らの主張) ア 刊行物1には,弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを有するチューブマットを埋封する温水床暖房装置の施工方法の発明が記載されている。
実願昭58-65817号(実開昭59-170110)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には,床暖房装置に用いる温水流通管用銅管を埋設する材料として,セルフレベリング材を使用する発明が記載されている。
イ 本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,弾力ある複数の温水配管を平坦な床下地の上面に敷設し,床材を温水配管の上から流し延べ,温水配管を床内に埋設する温水配管暖房装置の施工方法である点で一致しているが,本件発明は,温水配管の上から流し延べ,当該配管を埋設する床材として,セルフレベリング材を使用しているのに対し,刊行物1記載の発明ではコンクリートを使用している点で相違する。
ウ しかし,温水床暖房用配管を埋設する材料として,セルフレベリング材を使用することは刊行物2に記載されているように公知技術であるところ,刊行物1及び刊行物2に記載された発明の技術分野の同一性からすると,刊行物1に記載された発明のコンクリートに換えて刊行物2に記載された発明のセルフレベリング材を採用することは当業者にとって容易になし得たといえる。
また,本件発明に記載された効果も,刊行物1に記載された発明の効果である温水配管として弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを採用したことの効果及び刊行物2に記載された発明の効果である温水配管を埋設する材料としてセルフレベリング材を採用したことの効果に比べ,格別のものとは認められない。
エ したがって,本件発明は刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたのであるから,進歩性欠如の無効理由が存することは明らかである。
(原告の反論) ア(ア) 刊行物2には,セルフレベリング材を利用した温水床暖房の施工方法についての発明が記載されているが,同発明は,温水管はALC板の溝に嵌り込み,温水管の周囲がALC板によって固められているという構造であるから,温水管がセルフレベリング材に埋設されているとはいえない。上記発明においては,セルフレベリング材は床下地の仕上材又は不陸調整材というセルフレベリング材本来の用途に使用されているにすぎない。
このように,刊行物2には,温水管を埋設する材料としてセルフレベリング材が開示されている訳ではない。
また,刊行物2では,埋込式温水床暖房装置の大きな課題であるクラック防止方法について,何ら示唆されていない。
(イ) また,床暖房装置の施工方法には,平坦なコンクリートスラブの上面に温水循環パイプを配管し,コンクリートを打設して床仕上材を施す埋込方式と,パネルを工場生産して根太の上に設置する根太上設置方式とが存在するが,埋込方式においては,クラック防止のためにコンクリートであっても50ミリメートルの被り厚を確保することが必要であるというのが,当時の当業者の常識であった。
したがって,コンクリートに換えて20ミリメートルのセルフレベリング材を床材とすれば,クラックが生じてしまうというのが当業者の認識であった。
(ウ) また,セルフレベリング材はあくまで不陸調整のための床下地の仕上材として使用されていたのであるから,セルフレベリング材が床材であるコンクリートに代替され得るということは当業者が容易に想到することではない。
イ 以上より,刊行物1に記載された構成に刊行物2に記載された構成を適用し,刊行物1記載の発明におけるコンクリートに換えて刊行物2記載の発明におけるセルフレベリング材を使用することは本件特許出願時において,当業者に到底想到し得ないものであった。
また,本件発明の効果は,刊行物1及び同2に記載された発明からは想起し得ない格別なものである。
したがって,本件特許には明らかな無効理由はない。
当裁判所の判断
〔実用新案権に基づく請求〕 1 被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,考案構成要件Aの「弾力ある温水パイプ」に当たるか。
(1) 考案構成要件Aの「弾力ある」の意義 ア 考案構成要件Aの「弾力ある」の意義について,一般的な語義に即して理解すべきであり,そうすると,同文言は,「外圧に抗して原形に復する力を有する」と解すべきであって,語義から離れて「柔軟性又は可撓性を有する」,すなわち「外圧,外力に応じて変形する」と拡大して解釈すべきでない。
イ この点について,原告は,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の記載を参酌して理解すべきであると主張するが,以下のとおり失当である。
(ア) まず,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄においては,「一般に床下地(5)の上面,例えば,コンクリートスラブ上面には,広範囲に亘って多くの不陸が生じるが,弾力あるパイプ(2)は,曲げ加工及び配管結束作業を要する従来の金属配管と異なり,自己変位又は自己変形により薄いセルフレベリング材(3)の断面に納まるように敷設し得る。従って,薄い厚さに流し延べるセルフレベリング材(3)の中に温水パイプ(2)を埋設することができる。」と記載されており,同記載によれば,セルフレベリング材内に埋設するパイプを弾力あるものにした作用効果の一つは,パイプを曲げ加工等を要せずに下地の不陸に対応して変形させることができるというものであることが認められる。
確かに,特別な意味に理解した場合の「柔軟性又は可撓性を有する」パイプであっても,このような作用効果を実現することはできるけれども,一般的な意味に理解した場合の「外圧に抗して原形に復する力を有する」パイプであっても,当然にこのような作用効果を実現することができるのであるから,「弾力あるパイプ」を特別の意味で理解しなければならないことの根拠にはなり得ない。原告のこの点の主張は理由がない。
(イ) 次に,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄において,セルフレベリング材のクラック防止効果について,「このようにセルフレベリング材(3)の中に床暖房用の温水パイプ(2)を埋設したときに,セルフレベリング材(3)にクラック(ひび割れ)が生じず,(中略)ことが,本考案者に確認された。」,「上記床暖房装置の厚さが極めて薄く,しかも,比較的急激な温度変化が暖房立ち上り時等に短時間に生じることから,セルフレベリング材(3)の表面に多くのクラックが発生し,(中略)ことが当然に予期又は予測されたが,実際にはクラックが生じ難く,(中略)ことが判明した。」,「本考案の床暖房装置によれば,床は,暖房立ち上り時等に短時間に温度変化し,従って,急激なセルフレベリング材の繰り返し熱膨張・収縮が生じるにもかかわらず,(中略)セルフレベリング材のクラックなどが生じないことが判明した。」との記載がある。
しかし,クラック防止効果に関しては,本件考案明細書のその他の部分に一切記載がされていないことに照らすと,そもそも,本件考案においては,セルフレベリング材のクラック発生のメカニズムを解明した上で,これを防止するための材料を選定したものではないというべきであるから,「弾力ある」の文言を,一般的な語義から離れて「柔軟性又は可撓性を有する」と理解する根拠になり得ない。原告のこの点の主張も理由がない。
(2) そこで,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」の性質について検討する。
証拠(甲20の1ないし4,乙6)によれば,ポリブテンは,ポリエチレンやポリプロピレンと同様にポリオレフィン系の樹脂であること,高温時での強度の低下が少ないため,金属管に換えて,給湯配管等に用いられることが多いこと,柔軟性,可撓性を有する素材であることが認められる。しかし,本件全証拠によるも,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」が,「外圧に抗して原形に復する力を有する」性質を有すると認定することはできない。
この点について,原告の指摘するとおり,証拠(甲24の1ないし3)には,ポリブテンはゴムの一種に分類されている旨の記載がある。しかし,同証拠の記載は,アタクチックポリ-1-ブテン及び部分的に結晶化したステレオブロックポリ-1-ブテン等のポリブテンのうちの一部のものはゴム状弾性を有するにすぎず,すべてのポリブテンがゴムの性質を有するとの趣旨ではないから,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」が「外圧に抗して原形に復する力を有する」性質を有すると認められないとの認定を左右するものではない。
(3) 以上のとおり,被告装置の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,考案構成要件Aの「弾力ある温水パイプ」に当たらず,被告装置の構成A′は,考案構成要件Aを充足しない。
2 被告装置の構成C′の「プライマー」は,考案構成要件Cの「防水紙」の均等物といえるか。
(1) 考案の構成要件Cの「防水紙」を設けたことの作用効果 本件明細書には,防水紙を設けたことの作用効果についての特別の説明はされていない。したがって,防水紙を設けたことの作用効果については,防水紙の一般的な語義を基礎として解すべきであり,そうすると,防水紙の意義は,一般的には,「水湿分の浸入透過を防ぐ機能を有する紙」であるから,「防水紙をセルフレベリング材と床下地との間に設け」た趣旨は,防水紙によって,セルフレベリング材と床下地との相互間において水湿分の浸入透過を防ぐためであると理解すべきことになる。
(2) 被告装置の構成C′のプライマーの防水機能の有無 ア 証拠によれば,プライマーを塗布することの効果について,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
(ア) プライマーとは,良好な接着性を確保するためにあらかじめ被着材表面に塗布しておく材料であり(株式会社岩波書店発行,社団法人日本建築学会編「建築学用語辞典第2版」),塗膜防水施工においては,その第一工程で下地処理材として用いられ,セルフレベリング材の施工において,その施工の前に,床面に塗布するという方法で使用されている。プライマーが接着性を確保する効果を有するのは,セルフレベリング材に含まれている水分が下地に過度に吸い取られると,セルフレベリング材の接着界面が乾燥してしまい,接着力が低下するが,プライマーには,吸水調整機能があるので,下地とセルフレベリング材との間にプライマーを塗布すれば,セルフレベリング材からの吸水量が調整され,接着界面の乾燥を防止することができるからである(乙1,2,42,44,49の1及び2)。
(イ) 下地の表面空隙に水分が入り込むことによりセルフレベリング材に移行した気泡が,セルフレベリング材の中を上昇してその表面にとどまった場合,セルフレベリング材の表面に気泡跡が残る。この点,セルフレベリング材を打設する前に,プライマーを下地に塗布すると,下地表面の空隙にプライマー(希釈液)が入り込むことにより,セルフレベリング材に移行する気泡の量を減少させることができる(乙37及び38の各1ないし5,46の1ないし3,47の1ないし5)。
(ウ) そうすると,セルフレベリング材の施工の前にプライマーを下地に塗布する主な目的ないし作用効果は,セルフレベリング材と下地との接着性を高めること,セルフレベリング材の表面に気泡跡が残ることを抑制することにあると解される(乙35の3,36の1ないし4,37及び38の各1ないし5,43,44,46の1ないし3,47の1ないし5)。
イ 次に,証拠によれば,被告装置におけるプライマー層の防水機能の有無に関して,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
(ア) プライマーを下地処理剤として下地に塗布した場合,プライマー層には,ところどころに極めて微細な穴が多数存在しており,その表裏の材料を完全に遮断するものではない。したがって,通常形成される厚さのプライマー層には防水機能はない(乙46の1ないし3,47の1ないし5)。ところで,プライマー層の防水機能は,形成された層の厚さに左右されるとも考えられるので,被告装置におけるプライマーの防水性について検討する。
(イ) 被告が被告装置において用いているセルフレベリング材及びプライマーは宇部興産が製造したものである(弁論の全趣旨)。宇部興産製造のセルフレベリング材の施工における下地処理材として使用される同社製造のプライマーがセルフレベリング材施工の下地処理に際して塗布される量は,およそ1平方メートルあたり150ないし250グラムである(乙2)。
(ウ) 被告装置においてセルフレベリング材と下地との間にプライマーが使用される目的の1つは,両者の接着性を高めることであるが,同目的のためには,セルフレベリング材から下地への適度の吸水が必要であり,完全に防水をしてしまうことは,かえって逆効果となる(乙38の1ないし5,46の1ないし3,47の1ないし5)。
(エ) 一方,建築防水システムハンドブックには,塗膜防水とは,防水下地に主として合成ゴムや合成樹脂の溶液又はエマルジョンを塗布して,所定の厚さの防水層を形成せしめるメンブレン防水工法であること,塗膜防水材は,ウレタンゴム系,アクリルゴム系,クロロプレン系,アクリル樹脂系及びゴムアスファルト系の5種類に区分されること,塗膜防水層の構成として,L-UF(屋根・開放廊下・ベランダ・室内)は,プライマーを1平方メートル当たり0.2キログラム塗布した上に,防水材としてウレタン防水材を3層,1平方メートル当たり合計3.5キログラム塗布し,L-US(屋根・開放廊下・ベランダ)は,プライマーを1平方メートル当たり0.2キログラム塗布した上に,防水材としてウレタン防水材を2又は3層,1平方メートル当たり合計3.5ないし3.8キログラム塗布し,L-AF(屋根)は,プライマーを1平方メートル当たり0.3キログラム塗布した上に,防水材としてアクリルゴム防水材を4層,1平方メートル当たり合計5キログラム塗布し,L-AW(外壁)は,プライマーを1平方メートル当たり0.2キログラム塗布した上に,防水材として外壁用アクリルゴム防水材を1層,1平方メートル当たり1.7キログラム塗布し,L-GF(屋根・開放廊下・ベランダ・室内)及びL-GS(屋根)は,ゴムアスファルト防水材を4層,1平方メートル当たり合計7キログラム塗布することが記載されている(乙49の1及び2)。
(3) 被告装置の施工において下地に塗布されるプライマーの前記の量から判断すると,被告装置におけるプライマーには防水機能はないことが明らかである。したがって,考案構成要件Cの防水紙と被告装置の構成C′のプライマーとでは,作用効果が全く異なることから,両者の間に置換可能性はない。
(4) そうすると,その余の点を判断するまでもなく,被告装置におけるプライマーは,本件考案における防水紙の均等物であると認めることはできない。
3 実用新案権に基づく請求の結論 したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の本件実用新案権に基づく請求は理由がない。
〔特許権に基づく請求〕 1 本件特許には進歩性欠如による明白な無効理由が存在するか。
(1) 刊行物1記載の発明 本件原出願前に刊行された刊行物1(乙13の1)には,チューブマット状熱交換器に関する発明が記載され,同刊行物の特許請求の範囲の欄において,「弾性材料の多数の平行な流体伝導チューブが,可撓性ウエーブで隣接する対チューブを接続して伸長マット状に形成されている熱交換器において,(中略)上記マットが,建造物を輻射熱で加熱するため,該建造物の内部に埋封されている特許請求の範囲第1項記載の熱交換器」と,同刊行物の発明の詳細な説明の欄において,「チューブマットは,薄いコンクリートスラブで容易に被覆される連続状多チューブ形態を有する。」(4頁左下欄12ないし14行),「本発明はチューブマット状熱交換器,更に詳しくは,特に埋封輻射加熱システムへの使用に適合し(中略)先行技術の輻射加熱システムは,典型的には,コンクリートスラブ中に,または添加熱素材としての砂の中のスラブ下に埋封される銅パイプを用いている。加熱水はパイプを通じて循環されて,コンクリートまたは砂に熱エネルギーを伝達し,そして輻射によってスラブ上の空間を加熱する。」(3頁左下欄2ないし16行),「本発明に従って,チューブマット状熱交換器17は横たわるコンクリートスラブ14の上に配置され,(中略)チューブマット状熱交換器17の上に,マトリックスとして注入コンクリート床スラブ20を使用し,交換器を埋封せしめる。」(4頁右下欄16行ないし5頁左上欄5行)と,それぞれ記載されており,上記各記載からすると,上記刊行物には,弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを有するチューブマットをコンクリートスラブ上に配置した後,コンクリートを注入してチューブマットを埋封する温水床暖房装置の施工方法の発明が示されている。
(2) 刊行物2及び3記載の各発明 ア 刊行物2記載の発明 本件原出願前に刊行された刊行物2(乙13の2)には,温水床暖房構造に関する考案が記載されており,同刊行物の考案の詳細な説明の欄において,「ALC板2には,(中略)上開きの溝12を所望間隔で予め設けてあり,この溝12に銅管3を敷設する。銅管3はその上面が溝12から僅かに突出するように溝12の大きさを定めるのが好ましい。」(3頁16行ないし20行),「ALC板2の溝12内に温水流通用銅管3を敷設した後,セメント系セルフレベリング材に水を加えてスラリー状とし,これをALC板2の表面に厚さが5〜30o程度となるように打設固化せしめると,自然流動により水平面を形成し,平滑で優れた面精度を持った床面が得られる。」(4頁3行ないし9行),「本考案による床暖房構造は,その表面にセメント系セルフレベリング床材を銅管が僅かにかくれるように打設してあるので,一般的な床暖房の効果として必要とする熱量が少なくて済むことは勿論,施工工事が湿式工法となるところはセルフレベリング材の打設のみであり,工期がモルタル打設に比して大幅に短縮でき,かつセメント系セルフレベリング材を使用しているので,床面が平滑で耐久性にすぐれている他,床表面への伝熱が速やかで暖房開始初期の昇温が速く,また,床の裏面への熱伝導も少なく,その効果は大なるものがある。」(4頁15行ないし5頁6行)と,それぞれ記載されており,同各記載からすると,上記刊行物には,温水床暖房装置の施工方法について,温水流通用の銅管を床下地に設けた溝に敷設し,床下地及び上記銅管の上面からセルフレベリング材を打設して,上記銅管を埋設するという構成が示されている(なお,同構成は,銅管を床下地の溝に敷設し,その上からセルフレベリング材を打設するというものであるため,銅管をセルフレベリング材内に埋設するという構成とは異なる。)。
イ 特開昭59-21556号公報(乙12の3。以下「刊行物3」という。)記載の発明 本件原出願前に刊行された刊行物3(乙12の3)は,セルフレベリング性を有するセメント系床材の改良に関する発明を記載しているが,同刊行物の発明の詳細な説明の欄において,「床面下にパイプを埋設し,埋設したパイプに温水あるいは温風を通しオンドル式の床暖房をする場合の床形成材は一般にセメントモルタルが使用される。従来のセメントモルタルによる床は熱の伝導性が悪く,床暖房の熱効率がよくないものであった。」(1頁左欄16行ないし同右欄1行),「本発明の目的は上述した従来欠点を解決しようとしたものであり,埋設したパイプの熱が床面に伝導しやすいセメント系床材を提供することである。また,セメントモルタルなどの床材は水平面が形成しやすいことも必要とされるが,本発明の他の目的は施工により硬質の水平面が簡単に形成され施工の際のこて跡が残らない,セメント系床材を提供することにある。」(1頁右欄5行ないし12行),「コテ塗り作業が容易であり,かつセルフレベリング性が高いため混合物を施工した上面は自然に水平面となり」(2頁右下欄1行ないし3行),「本発明の床材は(中略)暖房用パイプを埋設床用の床材として好ましいものである。」(2頁右下欄5行ないし10行)と,それぞれ記載されており,同各記載からすると,刊行物3には,温水床暖房装置の施工方法について,セルフレベリング性を有するセメント系床材料内に温水を通すパイプを埋設するという構成が示されている。
(3) 進歩性の有無 ア 本件発明と刊行物1記載の発明との対比 本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,チューブマットは,チューブが接続されて形成されたものであるから,同チューブマットはチューブを包摂したものと解されること,加熱水を通すチューブは弾力ある温水配管と同義と解されること,一般にコンクリートスラブの上面は平坦であることを考慮すると,両者は,弾力ある複数の温水配管を平坦な床地下の上面に敷設し,床材を温水配管の上から流し延べ,温水配管を床材内に埋設する温水暖房装置の施工方法である点で一致している。
これに対し,本件発明がセルフレベリング材を温水配管の上から流し延べているのに対して,刊行物1記載の発明はコンクリートを加熱水を通すチューブの上から注入している点で相違する。
イ 検討 そこで,上記相違点について検討する。
刊行物1及び2は,いずれも同一の技術分野に属する温水床暖房装置の施工方法について記載がされているので,刊行物1に記載された加熱水を通すチューブ上に注入する床材として,コンクリートに換えて,刊行物2の発明にあるセルフレベリング材を用いることは,当業者であれば容易に想到できたといえる。
もっとも,刊行物2は,床下地に設けた溝に銅管を敷設し,その上からセルフレベリング材を打設して上記銅管を埋設するという構成が示され,必ずしも,銅管をセルフレベリング材内に埋設する構成が示されているわけではない。
しかし,刊行物2には,銅管を床材内に埋設する構成ではないとはいえ,銅管の上面に打設する材料としてセルフレベリング材を使用するという点が示されていること,刊行物3記載の「セルフレベリング性を有するセメント系床材」は,フロー値の点及びコテ塗りが必要な点においてJASS15M-103の品質基準を充たしていない余地があったとしても,セルフレベリング性を有していることは明らかであるところ,同刊行物にはその床材内にパイプを埋設する構成が記載されており,同記載から,セルフレベリング材内にもパイプを埋設することが可能であるとの考えに至ることは容易であること,刊行物1ないし3は,いずれも温水床暖房装置の施工方法という同一の技術分野に属していること等の点に照らすならば,前記の点は,刊行物1に記載された加熱水を通すチューブをコンクリートで埋封するという構成に刊行物2及び3に記載された前記各構成を適用して,加熱水を通すチューブをセルフレベリング材内に埋設することが容易想到であったとする判断を左右するものではない。
(4) 以上のとおり,本件発明は,刊行物1ないし3に記載された各発明により当業者が容易に発明することができたものということができ,特許法29条2項の無効理由を有することは明らかである。
2 被告方法の構成A′の「ポリブテン製温水パイプ」は,発明構成要件Aの「弾力ある配管」に当たるか。
当裁判所の判断は,前記〔実用新案権に基づく請求〕(1)において述べたのと同じ理由により,被告方法の構成A′の「ポリブテン製の温水パイプ」は,発明構成要件Aを充足しない。
3 特許権に基づく請求の結論 したがって,本件特許は無効理由を有することが明らかであり,また,被告方法は,本件発明の技術的範囲に含まれないから,本件特許権に基づく本件請求は理由がない。
〔結語〕 以上のとおりであって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
追加
物件目録(原告主張)別紙イ号物件説明書に説明された床暖房装置イ号物件説明書1図面及び写真の説明(1)図は,床暖房装置の構造を示す縦断面図である。
(2)写真1ないし4は,床暖房装置の配管工程を示す施工工程写真である。
(3)写真5ないし8は,床暖房装置のプライマー塗布工程を示す施工工程写真である。
2床暖房装置の構成(1)床暖房装置1は,床下地5上に配置された複数の温水パイプ2,床下地5及び温水パイプ2上の薄膜層4並びに温水パイプ2を被覆するセルフレベリング材3を備えた温水配管方式の床暖房装置である。温水パイプ2は,床下地5上に敷設されたポリブテンパイプからなり,薄膜層4は,床下地5及び温水パイプ2の上面に塗布されたプライマーからなる。
(2)温水パイプ2の上から流し延べられたセルフレベリング材3の流動体は,温水パイプ2を被覆するとともに,床仕上材8を敷設可能な平滑且つ水平な床材施工面9を床面全域に形成する。室内床面の内装仕上材料として,床仕上材8が,接着剤等によってセルフレベリング材3の上面に貼着される。
3床暖房装置の施工工程(1)床暖房装置1の施工工程は,写真1ないし4に示す配管工程と,写真5ないし8に示すプライマー塗布工程と,セルフレベリング材3の流動体を床に流し延べるセルフレベリング材打設工程とを含む。
(2)写真1ないし4の配管施工工程において,多数のパイプが,平坦な床下地の上面に敷設される。
(3)写真5ないし8に示すプライマー塗布工程が,配管工程の完了後に実施される。プライマー塗布工程において,プライマーが配管工程が完了した床下地面及び敷設されたパイプ上に塗布される。各写真に見られるように,プライマーは,薄い被膜を床下地の上面及び敷設されたパイプ上に形成する。なお,写真5ないし8は,プライマー塗布工程の進行過程を示すものであり,プライマーを塗布した状態を撮影したものであるが,プライマーは敷設されたパイプの上面の床下地面に塗布され,パイプの上面及び床下地面に薄膜層を形成する。
(4)配管工程及びプライマー塗布工程が完了した後,セルフレベリング材の流動体が床面全域に流し延べられる。硬化後のセルフレベリング材3の厚さt(第1図)は,約20ないし30ミリメートル程度に設定される。未硬化のセルフレベリング材3が奏する自己水準作用又は自己平滑化作用により,第1図に示す平滑且つ水平な床材施工面9が床面全域に形成され,床仕上材8が床材施工面9に敷設される。
第1図写真1,2写真3,4写真5,6写真7,8物件目録(被告主張)別紙イ号物件説明書に説明された床暖房装置イ号物件説明書床暖房装置の構造を示す縦断面図を除いて,物件目録(原告主張)添付のイ号物件説明書と同じ。
床暖房装置の構造を示す縦断面図は次頁の図のとおりである。
1図面及び写真の説明(1)第1図は,床暖房装置の構造を示す縦断面図である。
(2)写真1ないし4は,床暖房装置の配管工程を示す施工工程写真である。
(3)写真5ないし8は,床暖房装置のプライマー塗布工程を示す施工工程写真である。
2床暖房装置の構成(1)床暖房装置1は,床下地5上に配置された複数の温水パイプ2,床下地5及び温水パイプ2上の薄膜層4並びに温水パイプ2を被覆するセルフレベリング材3を備えた温水配管方式の床暖房装置である。温水パイプ2は,床下地5上に敷設されたポリブテンパイプからなり,薄膜層4は,床下地5及び温水パイプ2の上面に塗布されたプライマーからなる。
(2)温水パイプ2の上から流し延べられたセルフレベリング材3の流動体は,温水パイプ2を被覆するとともに,床仕上材8を敷設可能な平滑且つ水平な床材施工面9を床面全域に形成する。室内床面の内装仕上材料として,床仕上材8が,接着剤等によってセルフレベリング材3の上面に貼着される。
3床暖房装置の施工工程(1)床暖房装置1の施工工程は,写真1ないし4に示す配管工程と,写真5ないし8に示すプライマー塗布工程と,セルフレベリング材3の流動体を床に流し延べるセルフレベリング材打設工程とを含む。
(2)写真1ないし4の配管施工工程において,多数のパイプが,平坦な床下地の上面に敷設される。
(3)写真5ないし8に示すプライマー塗布工程が,配管工程の完了後に実施される。プライマー塗布工程において,プライマーが配管工程が完了した床下地面及び敷設されたパイプ上に塗布される。各写真に見られるように,プライマーは,薄い被膜を床下地の上面及び敷設されたパイプ上に形成する。なお,写真5ないし8は,プライマー塗布工程の進行過程を示すものであり,プライマーを塗布した状態を撮影したものであるが,プライマーは敷設されたパイプの上面の床下地面に塗布され,パイプの上面及び床下地面に薄膜層を形成する。
(4)配管工程及びプライマー塗布工程が完了した後,セルフレベリング材の流動体が床面全域に流し延べられる。硬化後のセルフレベリング材3の厚さt(第1図)は,約20ないし30ミリメートル程度に設定される。未硬化のセルフレベリング材3が奏する自己水準作用又は自己平滑化作用により,第1図に示す平滑且つ水平な床材施工面9が床面全域に形成され,床仕上材8が床材施工面9に敷設される。
第1図写真1,2写真3,4写真5,6写真7,8
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 谷有恒
裁判官 佐野信