運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  損害額 /  逸失利益 /  考案 /  図面 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  公知技術 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (ワ) 12837号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社キャットアイ
訴訟代理人弁護士 飯村佳夫
同 宮下尚幸
同 坂川雄一
補佐人弁理士 伊藤英彦
被告 セフテック株式会社
被告補助参加人 株式会社スザック
被告及び被告補助参加人訴訟代理人弁護士 内藤義三
補佐人弁理士 田村公總
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/11/08
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙ロ号物件目録記載の工事灯を製造し、輸入し、又は、譲渡してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項の工事灯の完成品並びに半製品(前項記載の工事灯の構造を具備しているが、未だ製品として完成に至らないもの)を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金850万円及び平成12年12月2日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「工事灯」の登録実用新案の実用新案権者である原告が、工事灯を製造、販売する被告に対し、実用新案権に基づきその差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実(文末に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、本件実用新案権第1項に係る考案を「本件考案1」、第2項に係る考案を「本件考案2」、両者を併せて「本件考案」といい、その実用新案登録出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書」という。本件明細書の内容は、別紙実用新案公報(以下「本件公報」という。)及び訂正明細書を参照のこと。)を有している。
実用新案登録番号 第2579221号 考案の名称 工事灯 出願日 平成5年10月13日(実願平5-55372) 公開日 平成7年5月12日(実開平7-25016) 登録日 平成10年6月5日 実用新案登録請求の範囲 (請求項1)少なくとも2方向に光を発して警告を与える工事灯であって、発光する光が指向性を有し、放射状に配置された複数個の光源と、透明性材料よりなり、放射状に配置された前記複数個の光源を覆うハウジングと、放射状に配置された前記複数個の光源をリング状に取囲むように前記ハウジングの外周部に設けられ、前記複数個の光源から放射状に発光された光の進行方向を変化させ、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる反射面とを備えた、工事灯。
(請求項2)点滅を繰り返すことができる光源と、前記ハウジングの一部に取付けられ、外方から入射した光を反射するリフレクタとをさらに備えた、請求項1に記載の工事灯。
(2) 構成要件 ア 本件考案1は、次の構成要件に分説することができる。
A 少なくとも2方向に光を発して警告を与える工事灯であって、
B 発光する光が指向性を有し、放射状に配置された複数個の光源と、
C 透明性材料よりなり、放射状に配置された前記複数個の光源を覆うハウジングと、
D 放射状に配置された前記複数個の光源をリング状に取囲むように前記ハウジングの外周部に設けられ、前記複数個の光源から放射状に発光された光の進行方向を変化させ、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる反射面とを備えた、
E 工事灯。
イ 本件考案2は、次の構成要件に分説することができる。
F 点滅を繰り返すことができる光源と、
G 前記ハウジングの一部に取付けられ、外方から入射した光を反射するリフレクタとをさらに備えた、
H 請求項1に記載の工事灯。
(3) ロ号物件 ア 被告は、遅くとも平成11年9月ころから、別紙ロ号物件目録記載の工事灯(商品名・「赤とんぼnEOU」、以下「ロ号物件」という)を製造、販売している(同じ商品を原告は別紙原告ロ号物件目録のとおり特定しており、原・被告間に構成の記述及び図面の一部に争いがあるが、乙24、26、検甲3によれば、
別紙ロ号物件目録の記載の方がより正確、適切であると認められる。)。
イ ロ号物件は、本件考案1の構成要件A、B、C、E及び本件考案2の構成要件F、Gを充足する。
2 争点 (1) ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか(構成要件D充足性)。
(2) 本件実用新案登録には明白な無効理由があるか。
(3) 原告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか〔構成要件D充足性〕)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Bにいう「指向性を有する光源」とは、ある方向にめざし向かう性質・傾向を有する光を発する光源をいい、発光ダイオード(LED)はその典型である。LEDから放たれる光には、いろいろなパターンの指向性(ビームの形状)があるが、いずれのパターンにおいても、光は直進方向に対して横方向に一定の広がりをもって進む。本件考案は、複数個の光源を放射状に配置し、各光源から指向性をもって放たれた光の広がりの領域の中に、相反する二方向に光を反射する反射面を配置したことを特徴とし、その結果、光源の数を全体的に減少できる効果を奏する。したがって、構成要件Dの「反射面」は、光源から指向性をもって放たれた光の広がり(直進方向に対して横方向に一定の広がり)の領域内に設けられていれば足り、指向性の強い方向に設けられている必要はない。
(2) ロ号物件においては、原告ロ号物件目録添付図面第5図のとおり、光源(LED)2(原告ロ号物件目録記載の番号、以下同じ。)から放射状に指向性をもって放たれた光のうち横方向に一定の広がりを持った成分が、三角柱状突起10a,10b,11a,11b内に入射した後に、三角柱状突起の傾斜面13a,13b,14a,14bによって反射され、相反する二方向A及びB(同第6図参照)に向かう。ロ号物件においては、横方向に広がりながら放射状に進む光の成分をできるだけ多く傾斜面13a,13b,14a,14bによって反射するために、三角柱状突起10a,10b,11a,11bを光源2よりも半径方向外方に突出させており、この三角柱状突起10a,10b,11a,11bの傾斜面13a,13b,14a,14bが、構成要件Dにいう「反射面」となる。
また、「複数個の光源をリング状に取囲む」とは、光源を取囲む完全円形のリングを設置することではなく、あくまで光源をリング状に取り囲むことである。ロ号物件では、反射領域が別紙「参考図A」記載の仮想円C上に位置する複数個の光源2を同別紙記載の仮想円Dに沿ってリング状に取囲んでおり、この要件を充足している。
(3) 被告は、本件考案にいう「反射面」は鏡のように光を正反射するものに限定されると主張する。しかし、本件考案にいう「反射面」は、反射面に到達した入射光から相反する方向に向かう2つの反射光を発生させることができればよく、あえて屈折光又は透過光の発生を阻止しようとするものではないから、「反射面」を鏡のように光を正反射するものに限定する必要はない。
【被告の主張】 (1) 実用新案登録請求の範囲の記載は、「複数個の光源から放射状に発光された光の進行方向を変化させ」、かつ、「相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる」ことを「反射面」に要求している。「光束」とは、光を光線の集まりとして見た場合に、「同一方向を向いている多数の光線の束」を意味し、「複数個の光源から放射状に発光された光」は、「光源」が構成要件Bで「発光する光が指向性を有し」と限定されていることによれば、平行に近い光束を想定している。このように、本件考案の「反射面」は、一定方向から来る光束を両側の一定方向に反射させるもので、鏡のように光を正反射(面全体に対する入射角と出射角が等しい)するものをいい、入射する光の多くを透過させるものや、光を乱反射させるものは含まれない。
ロ号物件は、全体の素材である赤色透明プラスチックがLED周囲のLEDホルダにも用いられ、外側のハウジング(Va,Vb)同様、光の多くをそのまま進行方向に透過させるから、材質自体の点で「反射面」の要件を備えていない。
(2) 本件考案の「反射面」は、光源から放射状に発する光束を工事灯の面の両側(A、B両方向)に光束として反射できる角度に設置、方向付けされていることを要する。本件考案が「指向性を有する光源」としたのは、指向性の強い光源から出る強い方向の光を正反射させて、相反する二方向に反射させようとしたものであり、弱い方向の光に反射面を置いたのでは指向性を有する光源を選んだ意味がない。
ロ号物件のLEDホルダXa,Xbは、LEDUの指向性から外れる位置に設置されており、この点からも本件考案にいう「反射面」の要件を備えていない。
2 争点(2)(本件実用新案登録には明白な無効理由があるか)について 【被告の主張】 LEDを「リング状に取囲むようハウジングの外周部に設け」ることは、実開平1-93209号公開実用新案公報(乙9)により公知であり、「発光された光の進行方向を変化させ、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる反射面」を備えることも、実開平5-25751号公開実用新案公報(乙20)により公知である。本件考案はこれらの公知技術を組み合わせただけであり、進歩性がないことが明らかである。
【原告の主張】 実開平5-25751号公報及び実開平1-93209号公報のいずれにも、本件考案の特徴である「反射面が放射状に配置された複数個の光源をリング状に取囲むようにハウジングの外周部に設けられている」という構成は記載されていない。本件考案は、この構成により、明細書記載の作用効果を奏するものであるから、実開平5-25751号公報及び実開平1-93209号公報に記載された考案に基づいて、原告がきわめて容易考案をすることができたものとはいえない。
3 争点(3)(原告の損害額)について 【原告の主張】 (1) 逸失利益 350万円 被告は、平成11年9月から現在までにロ号物件を販売単価800円で少なくとも5万個以上販売した。被告は、原告が製造販売している本件考案の実施品の純利益率から推測すると、ロ号物件の販売により8.75%の純利益を得ていると考えられるから、ロ号物件の販売により被告が得た利益の額は350万円となり、これが原告の損害額と推定される。
(2) 弁護士及び補佐人の費用 500万円 (3) 合計 850万円【被告の主張】 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか〔構成要件D充足性〕)について (1) 「反射面」の意義について ア 本件考案の「工事灯」は、「少なくとも2方向に光を発」する(構成要件A)ものであるところ、構成要件Bは、「発光する光が指向性を有し、放射状に配置された複数個の光源」との構成からなり、構成要件Dは、「前記複数個の光源から放射状に発光された光の進行方向を変化させ、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる反射面」との構成を含むものである。本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、光源の配置方向と、光源から放射された後反射面に入射するまでの光の進行方向は、いずれも「放射状」という同一の文言で表されていることと、発光する光が指向性を有するものとされているところからみて、本件考案においては、「光源から放射状に放出された光」は、光源の向きと同一方向(直進方向)に放射状(ハウジングの中心からハウジングの側方に向かう方向)に進むことが想定されていると解される。
イ 上記「指向性」及び「反射面」に関連して、本件明細書考案の詳細な説明及び図面には、次の記載がある(甲2、3)。
(ア) 産業上の利用分野の項に、「この考案は工事灯に関し、特にLEDのような指向性の高い光源を有する工事灯に関するものである。」(【0001】)との記載がある。
(イ) 従来の技術の項に、「従来、工事灯は光源として、電球式のものが多く使われていたが、電球切れの多発や電流の使用量が大きい等の問題で、最近は、光源として発光ダイオード(LED)が多く使用されてきている。」(【0002】)、「LEDは、球切れが生じにくいことや、消費電流が少ない等の特徴がある反面、発光量が弱いため暗く、また光の指向性が強い等の短所を有している。」(【0003】)との記載がある。
(ウ) 考案が解決しようとする課題の項に、「従来の工事灯では、LEDの指向性のため、工事灯の両方向に光を照射するには基板の両側にLEDを設ける必要がある。そのため、LEDを多く必要とし、コスト的に有利ではない。」(【0006】)、「この考案は……コスト的に有利でかつ視認性の高い工事灯を提供することを目的とする。」(【0008】)との記載がある。
(エ) 作用の項に、「請求項1の考案においては、放射状に配置された複数個の光源から放射状に放たれた光を、ハウジングの外周部にリング状に設けられた反射面によってその進行方向を変化させ、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させる。」(【0011】)との記載がある。
(オ) 実施例の項に、「LED13bから発せられた指向性を有する光22は、透明材料よりなるハウジング3aおよび3bに入射し、各々反射面19aおよび19bに到達する。反射面19aおよび19bはx軸に対して各々45°の傾斜で形成されているため、入射した光束は、各々そこで反射され、光束23aおよび23bとなって、x軸に対して左右方向に分かれて外方へ向かう。したがって、
LED13bから発せられた光束は、ハウジング3aおよび3bの両側から認識されることとなる。なお、LED13bからX軸に対して平行に発せられた光束は、
反射面19a及び19bにおいて反射されることなく、円周壁25を通って、光束23cとして外方へ向かう。」(【0019】)との記載がある。
(カ) 考案の効果の項に、「請求項1の考案によれば、複数個の光源から放射状に発せられた光をリング状の反射面によって反射し、相反する方向に向かう少なくとも2つの光束を発生させるので、光源の数を全体的に減少でき、製造コストが低減する。」(【0023】)との記載がある。
(キ) 本件公報第5図には、X軸方向から両側に約15°ずつ広がった光束22が、X軸方向に対して各々45°の傾斜角度がある反射面19a、19bによって、上下方向(Y軸方向)に分かれて反射されている図が示されている。
ウ これらの記載を参酌すると、本件考案は、工事灯の前後方向に光を照射するには、LEDの指向性のため、基板の前面側及び後面側に各々複数のLEDを必要とし、コスト高であったという課題を解決するため、LEDから発せられた光束を反射面により相反する(少なくとも)二方向に分散し、光源の数を減少させるものであり、本件考案にいう「指向性」とは、LEDの前方への指向性、すなわち光がLEDの横方向ではなく、前方に向かって強力に放射されることを意味し、
「反射面」は、被告が主張するように、鏡のようなものであることまでは必要ないにしても、光源から指向性の強い方向である前方に進む光を(少なくとも)両側二方向に反射させる機能を有するものであることを要すると解するのが相当である。
エ この点について、原告は、「指向性」ある光は、常に横方向への一定の広がりを持っているから、「反射面」は、光源から指向性をもって放たれた光の広がり(直進方向に対して横方向に一定の広がり)の領域内に設けられていれば足り、指向性の強い方向に設けられている必要はないと主張する。証拠(甲11〜14)によれば、LEDは、レンズの形や大きさにより、前方への光が強力に必要なものから広い指向性のものまで、いろいろな指向性(ビームの形状)のものがあり、光が横方向に一定の広がりをもって進むことが認められる。しかし、指向性の強い前方の光ではなく、横方向に放出された光を反射板で工事灯の前後方向に照射したとしても、弱い光しか照射できないから、指向性のあるLEDの光源としての能力を有効に用いて、工事灯の前後方向に光を照射するという本件考案の前記課題を解決することにはならない。しかも、本件明細書中には、「指向性」の強いLEDの前方への光ではなく、一定の広がりをもって横方向へ放出される光を反射板によって反射させる趣旨の記載は存在せず、「反射面」が横方向への光の広がりの領域内に設けられていれば足りるという原告の主張は採用できない。
(2) ロ号物件の構成を記述した別紙ロ号物件目録の記載によれば、ロ号物件においては、LEDUから前方への指向性をもって放たれた光は、そのまま透明なプラスチック(光の多くを透過する)からなるハウジングVa,Vbを透過して放射状に工事灯の側面方向へ発せられており、ロ号物件には、LEDUから前方への指向性をもって放射される光を相反する二方向に反射させるものは存在しない。
原告は、LEDホルダXa、Xb(原告ロ号物件目録では三角柱状突起10a,10b,11a,11b)の傾斜面13a,13b,14a,14bが「反射面」に該当すると主張するが、LEDホルダXa、Xbは、LEDUの指向性の弱い方向(横側)に設けられており、光の多くを透過する透明プラスチック材料からなるもので、LEDから放出された光のうち指向性の強い方向である前方への光を反射することはないから、本件考案にいう「反射面」に当たらない。
以上によれば、ロ号物件は、本件考案の「反射面」を具備しておらず、構成要件Dを充足しないから、本件考案技術的範囲に属しない。
2 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝