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事件 平成 13年 (ネ) 1001号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 影山 光太郎
同 笹倉興基
同 藤田充宏
同 田中亨子
補佐人弁理士 植田茂樹
被控訴人 ホリー株式会社
訴訟代理人弁護士 猪原英彦
補佐人弁理士 安藤武
同 中野寛也
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、原判決別紙原告物件目録記載の揺動クランプを製造、販売又は使用してはならない。
(3) 被控訴人は、控訴人に対し、金3912万5000円及びこれに対する平成11年8月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行の宣言 2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、揺動クランプの考案に係る実用新案権者である控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が製造、販売及び使用する揺動クランプ(以下「被控訴人揺動クランプ」という。)が上記考案技術的範囲に属するので、上記製造、販売及び使用は上記実用新案権の侵害に当たるとして、上記製造、販売及び使用の差止め並びに上記侵害による損害の賠償を請求する事案である。
原判決は、被控訴人揺動クランプが上記考案の構成要件を充足せず、また、
上記考案均等でもないから、上記考案技術的範囲に属さないとして、控訴人の請求を棄却した。
当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認めることのできる事実は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のうち、「一 争いのない事実等」の欄(原判決3頁5行目〜7頁8行目)に記載のとおりであり、争点及び争点に関する当事者の主張は、同「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」の欄(原判決8頁2行目〜25頁10行目)に記載のとおりである(引用に係る原判決別紙原告物件目録を含む。)から、それぞれ、これを引用する。ただし、下記1のとおり訂正付加し、下記2及び3のとおり当審における当事者双方の主張を付加する。
1 原判決の訂正付加 (1) 原判決7頁7行目〜8行目を「4 被控訴人は、被控訴人揺動クランプを製造、販売及び使用しているところ、被控訴人揺動クランプは、構成要件(一)、
(二)及び(六)を充足する。」と改める。
(2) 同8頁4行目、5行目、7行目、8行目、9行目、9頁5行目、10頁5行目、14頁8行目、10行目、17頁4行目、18頁6行目、19頁6行目、10行目、21頁3行目、10行目及び23頁3行目〜4行目に、それぞれ「被告の製造販売している揺動クランプ」とあるのを「被控訴人揺動クランプ」と改める。
(3) 同12頁9行目〜10行目に「被告が製造販売している揺動クランプ」とあるのを「被控訴人揺動クランプ」と改める。
(4) 同7頁5行目〜6行目括弧内の「別紙実開昭六一-三九七四七号公報の図面」に当たる図面を本判決に添付する。
2 控訴人の主張 (1) 争点2(被控訴人揺動クランプが構成要件(三)の「支持体」を充足するか)について ア 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載により明らかであるとおり、本件考案の本質的な技術思想は、連結体を構成する両側板に略T字形状の当接片を設け、この当接片と連結体を構成する取付板の下面に設けられた支持体とで連結体を支持する構造とし、荷重を分散支持することにより強度を高めるとともに、
当接片のT字形状により角度位置決めを容易にした点にあり、この技術思想が権利保護の対象となるものである。
そして、考案の詳細な説明の記載は、このような実用新案登録請求の範囲の記載に凝縮された技術思想に沿って解釈されるべきであり、考案の詳細な説明の記載が実用新案登録請求の範囲から独立して解釈されてはならない。
このような観点から見ると、原判決のように、本件明細書考案の詳細な説明の記載を根拠として、構成要件(三)の「支持体」に従来の揺動クランプの「固定片」が含まれないと解することは、以下のとおり、誤りである。
イ 本件明細書(甲第2号証)には、本件考案の目的が、@「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり」(4欄6行目〜8行目、以下「記載@」という。)、A「揺動する連結体の固定体への支持強度が強く」(同欄8行目〜9行目、以下「記載A」という。)、B「固定体が固定される板材に対する連結体の垂直あるいは水平となる角度位置決めが極めて容易で取扱いが簡単な」(同欄9行目〜11行目、以下「記載B」という。)揺動クランプを提供することであることが記載されており、また、「考案の効果」として、T「把持体20が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体20からの全荷重を分散して支持することが可能になった」(7欄25行目〜27行目、以下「記載T」という。)、U「把持体20が把持する管材Pによる荷重が、支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」(同欄30行目〜34行目、以下「記載U」という。)、V「把持体20が取付けられた連結体10が、板材Sに対して垂直あるいは水平に位置するように簡単に位置決めできて取扱いが極めて容易となる」(8欄5行目〜8行目、以下「記載V」という。)との各記載があるほか、「考案の効果」のまとめとして、@「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり」(同欄21行目〜24行目、以下「記載@」という。)、A「従来のものと比較してその支持強度が格段に向上し」(同欄24行目〜25行目、以下「記載A」という。)、B「取扱いが極めて容易となる」(同欄25行目、以下「記載B」という。)との各記載がある。
ウ そして、原判決は、記載T〜Vが記載@〜Bに対応しているとした上、
記載Uの「連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」との記載は、取付板と固定体の間に用いる部材又は構成部分が、従来の固定片よりも支持強度が向上していなければならないことを記載したものとする(原判決28頁11行目〜29頁3行目、なお、「取付板と固定体の間に用いる部材又は構成部分」とは、すなわち支持体あるいは固定片である。)が、以下のとおり、誤りである。
まず、原判決は、記載Tと記載Uとが並列的な効果の記載であると解するものであるが、記載@と記載Aとを並置することは誤りであり、したがって、記載Tと記載Uとを並列的な記載と解することも誤りである。すなわち、記載@は荷重が分散して支持されるという本件考案の物理的原理(機構)について述べ、記載Aはその結果として連結体の支持強度が強くなるという機能について述べたものであって、この両者は、一体として「荷重を分散することにより支持強度を強くすることができる」旨の記載としてとらえなければならない。このように解することが、上記アの本件考案の本質に合致するものであり、また、このことは、本件明細書(甲第2号証)上、記載Bは「しかも」との接続詞を伴って記載されているのに対し、記載@、Aは、原理と結果の関係としてひとまとまりに記載されている(4欄6行目〜12行目)ことによっても明らかである。
上記のとおり、記載Aは連結体の支持強度を問題とするものであって、
その記載から、「従来の固定片よりも支持強度の強い部材又は構成部分を取付板と固定体の間に取り付けなければならない」(原判決28頁6行目〜7行目)というような結論を導くことはできない。本件考案の連結体には支持体と当接片とが設けられており、そのうちの支持体のみ取り出してその強度を高めなければならないということはいえないし、また、連結体の支持強度を高めるためには、部材自体の強度を高める方法と荷重を分散して弱い部材にかかる荷重を減ずるような構造とする方法が考えられるところ、本件考案では、当接片を導入して荷重を分散する方法を採用したものであって、支持体の強度を高めるようなことは全く問題としていない。
次に、「考案の効果」欄(7欄9行目〜8欄26行目)の記載中、厳密な意味での本件考案の効果の記載は記載@〜Bであって、記載T〜Vは、記載@〜Bと対応するものとして、記載@〜Bをより詳しく述べたものと解すべきである。
そして、本件明細書上、記載Bは「更に」との接続詞を伴って記載されているのに対し、記載@、Aは、原理と結果の関係としてひとまとまりに記載されており(8欄21行目〜26行目)、また、記載Aには、「従来のもの」すなわち従来の揺動クランプと比較して支持強度が向上したことが記載されているが、それが支持体の強度を従来の揺動クランプの固定片より高めたからとの限定はない。
以上を前提とすれば、記載Uは支持体について述べたものということはできない。上記のとおり、記載Uが対応する記載Aは連結体について述べたものであり、同様に記載Uが対応する記載Aは揺動クランプについて述べたものであって、いずれも支持体について述べたものでないし、仮に、記載Uが支持体について述べたものであるとすれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に支持体の形状、構造等についての記載があるはずであるが、そのような記載はない。したがって、記載Uの「連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」との記載は、支持体が従来の固定片よりも支持強度が向上していなければならないことを記載したものとすることはできず、当接片の板材への係止によって援護された本件考案の支持体が、そうした他部材による係止協働関係を伴わない従来の固定片による支持構造と比べて支持強度が格段に向上したことを記載したものであり、この効果は、支持体自体の強度を増す構成を採用したことによって奏するものではなく、支持体が当接片との協働関係の下で荷重を支持する部材であることから生ずる効果である。
なお、本件明細書(甲第2号証)において、支持体の強度について言及した記載は、実用新案登録請求の範囲請求項2記載の考案に関する「支持体14を固定体1と一体にけいせいすれば、支持体14そのものの強度も増し」(6欄8行目〜9行目)との部分しかないが、このことは、本件考案が支持体自体の強度を問題とするものでないことを示唆するものである。
エ 原判決は、記載Uが、取付板と固定体の間に用いる部材又は構成部分(支持体)の支持強度による効果ではなく、把持体の荷重を支持体と当接片で分散支持したことによる効果を記載したものとすれば、本件明細書上、記載Tと別個に記載Uをする必要や、記載Uを「また」と段落を分けて記載する必要はない旨説示する(原判決29頁4行目〜8行目)。
しかしながら、記載Tと別個に記載Uをする必要ないとするのは、記載Tが原理(機構)について述べ、記載Uがその結果(機能)について述べていることを理解しないものである。
また、記載Uが(正確には、記載Uに先立つ「また、固定体1に軸着された連結体10は約90度の範囲で揺動し、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で」との記載及び記載Uが)、「また」との接続詞を伴い、記載Tと段落を分けて記載されているのは、本件明細書(甲第2号証)において、本件考案の目的に関連して、従来の揺動クランプにつき、「支持強度が弱く不安定であった」(3欄31行目)、「取付けが面倒であった」(同欄34行目〜35行目)との問題点が指摘され、さらに、支持強度が弱いことの一つの結果(態様)として、「また・・・固定片にかかる荷重により固定片が変形する等強度上に問題があった」(同欄36行目〜40行目)ことが記載されているために、これに対応して、考案の効果としても結果を示すべく、注意的に「また、固定体1に軸着された連結体10は約90度の範囲で揺動し、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で把持体20が把持する管材Pによる荷重が、支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」(記載Uを含む7欄28行目〜34行目)との記載がされたことによるものである。「また」との接続詞は必ずしもその前の部分の記載と分断した並列関係を表すだけでなく、前の部分の内容を前提として「その上」という意味でも用いられるものであるから、上記記載Uに伴う「また」の語の意味は、本件明細書全体から判断すべきであり、そうであれば、上記のとおり、記載Tと記載Uの関係は、原理と結果との関係である記載@と記載A及び記載@と記載Aの関係に対応して理解すべきである。さらに、上記のとおり、「考案の効果」欄(7欄9行目〜8欄26行目)の記載中、厳密な意味での本件考案の効果の記載は記載@〜Bであって、それ以外の部分には、本件考案の構成、実施例に即し、さらに請求項2記載の考案を含め、具体的に考案の効果について記載されているために、適宜段落分けが必要となったものである。
オ 原判決は、記載Uが「連結具を垂設して形成した固定片」と、従来技術における取付板と固定体の間に用いる部材又は構成部分について具体的に記載しているから、これを、右部材又は構成部分そのもの以外に関する記載と解するのは不自然であるとも説示する(原判決29頁8行目〜30頁1行目)。しかし、記載Uには、上記部分に続けて「により支持する構造に比べて」と記載されているのであり、部材又は構成部分ではなく構造が記載されていることが明示されているのであるから、上記説示も誤りである。
(2) 争点5(被控訴人揺動クランプが本件考案均等か)について 原判決は、「本件考案は、ア『略T字形状の当接片』を連結体に設けることで荷重を分散支持する、イ固定片に替えて『支持体』を用いることで、連結体の固定体に対する支持強度を向上させるという二つの作用によって、支持強度が弱いという従来の揺動クランプの問題点を解決したものと認められ、右の点が本件考案の技術的思想の中核をなす特徴的部分、すなわち本質的部分というべきである」(原判決32頁10行目〜33頁4行目)とし、これを前提として、「従来技術の固定片に相当する構成部分14a及び14bを用いることは・・・本件考案とは本質的部分について相違するというべきである。したがって・・・均等の成立を認めることはできない」(同33頁5行目〜9行目)としたが、本件考案が「固定片に替えて『支持体』を用いることで、連結体の固定体に対する支持強度を向上させる」という理解が全く誤りであることは、争点2について述べたとおりであり、これを前提とする原判決の上記判断も誤りである。
3 被控訴人の主張 (1) 争点2(被控訴人揺動クランプが構成要件(三)の「支持体」を充足するか)について ア 控訴人は、考案の詳細な説明の記載は、実用新案登録請求の範囲の記載に凝縮された技術思想に沿って解釈されるべきであると主張するが、明細書考案の詳細な説明等の記載を考慮して実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきことは、実用新案法26条において準用する特許法70条2項の定めるところである。本件においては、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の規定する「支持体」がどのようなものであるかを実用新案登録請求の範囲の記載のみから正確に判断することは不可能であるから、上記準用に係る特許法70条2項に則り、考案の詳細な説明の記載に基づいて「支持体」の意義を解釈すべきである。
そうとすれば、構成要件(三)の「支持体」には従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」が含まれないと解されることは、以下のとおりである。
イ 控訴人は、本件明細書の記載@は荷重が分散して支持されるという本件考案の物理的原理(機構)について述べ、記載Aはその結果として「連結体」の支持強度が強くなるという機能について述べたものであるから、記載@と記載Aとを並置することは誤りであり、したがって、記載Tと記載Uとを並列的な記載と解することも誤りである旨主張する。
しかしながら、記載@に示された技術内容は、把持体20が板材Sに対し垂直、水平のいずれであっても、把持体20からの荷重は、連結体10の両側板12に形成された当接片16から板材Sに作用する第1の荷重伝達経路と、連結体10の取付板11に設けられた支持体14から固定体1に作用する第2の荷重伝達経路とによって分散支持されるということであるのに対し、記載Aに示された技術内容は、連結体10の固定体1への支持強度が強いこと、すなわち、連結体10から固定体1に作用させる荷重を大きくすることができるということである。このように、記載@には当接片16から板材Sへの荷重伝達経路についても記載されているのに対し、記載Aには連結体10から固定体1への荷重の伝達についての説明しかなく、当接片16から板材Sへの荷重伝達については一切触れていない。したがって、記載Aからは、荷重が分散して支持される結果として連結体の支持強度が強くなるという機能を示すというような技術事項を読み取ることはできず、記載@と記載Aには、互いに独立した関係にある技術内容が示されていると解するほかはない。
また、控訴人は、本件明細書(甲第2号証)の「考案の効果」欄(7欄9行目〜8欄26行目)の記載中、厳密な意味での本件考案の効果の記載は記載@〜Bであり、記載T〜Vは記載@〜Bをより詳しく述べたものであるとした上、記載Aに、従来の揺動クランプと比較して支持強度が向上したことが支持体の強度を高めたからとの限定はないから、記載Uも支持体について述べたものではない旨主張する。
しかしながら、本件明細書においては、記載T〜Vを含む「考案の効果」欄全体が本件考案の効果について記載したものと解するのが自然である。そして、記載Tは、その記載の前の「支持体14と当接片16とが同時に固定体1と板材Sとに夫々係止するように構成したことで」(7欄23行目〜25行目)との記載を併せ考えれば、支持体14と当接片16との協働によって荷重を分散支持することの効果を記載しているといえる。これに対し、「また」との接続詞で記載Tと区分される記載Uには、支持体14単独の効果が記載されているところ、支持体14は連結体10に設けられ、支持体14が固定体1に衝接することにより荷重が支持されるのであるから、結局、記載Uには、連結体10の固定体1への支持強度が強くなったことと同じ技術内容について記載されている。したがって、記載Tは記載@に、記載Uは記載Aに対応するものであり、原判決が、記載T〜Vが記載@〜Bに対応しているとしたことにも誤りはない。
そして、上記のとおり、本件考案の目的に係る記載Aが、その記載自体によっても、記載Uとの対応関係からしても、記載@とは独立に、もっぱら連結体10の固定体1への支持強度を強くすることについて記載されていると解されるのであるから、「従来の固定片よりも支持強度の強い部材又は構成部分を取付板と固定体の間に取り付けなければならない」(原判決28頁6行目〜7行目)ことは至極当然であり、このことに、本件考案の効果に係る記載Uに「従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」旨の記載があることを併せ考えれば、構成要件(三)の「支持体」からは、従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」が意識的に排除されていることが明らかである。
なお、本件明細書の記載@には「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ」る旨が記載されており、記載T、記載@にも同旨の記載があるところ、仮に、構成要件(三)の「支持体」に従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」が含まれるとすると、当該固定片は連結体10における取付板11の両側にあって、把持体が板材Sに対し水平となった場合と垂直となった場合とで、固定体1に当接する固定片が異なることになるが、異別の固定片であれば、その支持強度に相違があると考えるのが自然であるから、その場合には、「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定する」との目的を達成することができなくなる。このことに照らしても、構成要件(三)の「支持体」に、従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」が含まれないと解するのが合理的である。
(2) 争点5(被控訴人揺動クランプが本件考案均等か)について 記載A及び記載Uに照らして、本件考案の特徴の一つが、従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」により支持する構造よりも支持強度を向上させた点にあり、この特徴が「支持体」により達成されていることは明らかであるから、
原判決の「従来技術の固定片に相当する構成部分14a及び14bを用いることは・・・本件考案とは本質的部分について相違するというべきである」(同33頁5行目〜8行目)との判断に何らの誤りもない。
また、本件考案の「支持体」から、従来技術の「連結具を垂設して形成した固定片」が意識的に排除されていることは上記(1)のとおりであり、この点からも、被控訴人揺動クランプが本件考案均等とはいえない。
当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人揺動クランプの特定)について 甲第14号証(ホリー叶サ揺動クランプの写真及び測定報告書)中の写真2〜5、9、10及び検甲第1号証(被控訴人揺動クランプ)並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人揺動クランプは、原判決別紙物件目録記載のとおり特定されるものと認められる。
2 争点2(被控訴人揺動クランプが構成要件(三)の「支持体」を充足するか)について (1) 本件明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明には、
ア 「考案が解決しようとする問題点」の欄に、「この揺動クランプ(注、
前示(原判決6頁8行目〜7頁6行目)記載の実開昭61-39747号公報記載の考案、乙第4号証)の連結具の他端部に形成された角度調節片は、連結板が延長されて形成され、平行に対向された垂直側縁の両下端を直角に結ぶ水平側縁により矩形状に形成されて成るから、咬持具に咬持された板体の板面に対して連結具の角度を直角に固定するには、一方の垂直側縁を板体の端面に当接させて行い、また、
連結具の角度を水平に固定するには、他方の垂直側縁を板体の板面に当接させて行うものであった。したがって、この連結具の角度の直角または水平の保持は、角度調節片の片側の垂直側縁のみが当接するものであったから、その支持強度が弱く不安定であった。しかも、板体端面または板面が角度調節片の垂直側縁に当接することが必要であるから、咬持具の開口部奥面に板体が当接するようしっかりと咬持させなければならず、取付けが面倒であった。また、連結具の角度調節片が設けられていない側縁を回動軸方向に若干延長して垂設された固定片が、咬持具の上面と側面とに当接することで連結具の揺動範囲が90度に規制されているため、この固定片にかかる荷重により固定片が変形する等強度上に問題があった。すなわち、把持具を左右に揺動したときに、角度調節片が板体に係止して把持具を支持できる方向は、いずれか一方に限定されるものであった。したがって、この角度調節片が板体に係止できない方向に把持具を揺動した際には、連結板の上部に設けた固定片が咬持具の上面や側面に係止することで、把持具を支持するものである。そこで、これら固定片や角度調節片は、把持具の揺動方向によって選択使用され、しかも、これらのいずれかが使用される場合であっても、把持具から加わる荷重を固定片か角度調節片のどちらか一方が支持しなければならない構成であった。この結果、咬持具の揺動方向によって支持強度のばらつきが生じるばかりでなく、把持具の全荷重が一点に集中する固定片や角度調節片に変形が生じ易いといった強度上の問題を残していた。そこで、この考案が、叙上の問題点に鑑み案出されたもので、把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり(注、記載@)、揺動する連結体の固定体への支持強度が強く(注、記載A)、しかも固定体が固定される板材に対する連結体の垂直あるいは水平となる角度位置決めが極めて容易で取扱いが簡単な(注、記載B)揺動クランプを提供することを目的とする。」(3欄21行目〜4欄12行目)との、
イ 「考案の効果」の欄に、「この考案は・・・把持体20が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体20からの全荷重を分散して支持することが可能になった(注、記載T)。また、固定体1に軸着された連結体10は約90度の範囲で揺動し、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で把持体20が把持する管材Pによる荷重が、支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった(注、記載U)・・・しかも、固定体1が固定された板材Sに対して連結体10が垂直あるいは水平に位置した際に、固定体1開口部2の略直角を構成する上縁部2a及び側縁部2bと略一致する当接側縁部15を有する略T字状の当接片16を連結体10の両側板12に夫々設けたから、この当接片16の略直角を構成する当接側縁部15を固定体1開口部2の上縁部2a及び側縁部2bと略一致させるよう合わせるだけで、把持体20が取付けられた連結体10が、板材Sに対して垂直あるいは水平に位置するように簡単に位置決めできて取扱いが極めて容易となる(注、記載V)。しかも、これを板材Sに固定するに際して、板材S端面を固定体1開口部2の側縁部2bに当接させなくても、板材S上面は、連結体10の垂直、水平の角度位置に拘らず常に開口部2の上縁部2aと当接片16の当接側縁部15との両方に当接して充分な支持力を得ることができる。更に板材Sの上面及び端面を固定体1開口部2の上縁部2a及び側縁部2bに当接させて固定する場合は、連結体10の両側板12に設けられた当接片16の当接側縁部15が、常に板材Sの上面と端面との両面を同時に当接支持するから、管材Pによる把持体20、連結体10に加わる荷重を、前記支持体14と共に一層強固に支持して連結体10角度を垂直あるいは水平に確実に保持できる。以上説明したように、この考案によると、把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり(注、記載@)、従来のものと比較してその支持強度が格段に向上し(注、記載A)、更に取扱いが極めて容易となる(注、記載B)等実用上有益な種々の効果を奏する」(7欄9行目〜8欄26行目)との、
各記載がある。
(2) 上記各記載及び前示(原判決6頁8行目〜9頁6行目)認定に係る従来の揺動クランプの構成並びに本判決添付の「別紙実開昭六一-三九七四七号公報の図面」の記載に徴すれば、本件考案は、従来の揺動クランプ(前示実開昭61-39747号公報記載の考案)において、連結具を板体に対し垂直に固定する場合には、連結板が延長されて形成された角度調節片の平行に対向する垂直側縁の一方を板体端面に、連結具の角度調節片が設けられていない両側縁を回動軸方向に若干延長して垂設された固定片の一方を咬持具の上面にそれぞれ係止させて、把持具を左右方向の揺動に対して保持し、連結具を板体に対し水平に固定する場合には、上記角度調節片の垂直側縁の他一方を板体の板面に、上記固定片の他一方を咬持具の側面にそれぞれ係止させて、把持具を上下方向の揺動に対して保持する構成であったため、把持具の揺動の方向により、角度調節片と固定片のいずれか一方のみがこれを支持して、荷重を受けることになり、把持具の揺動の方向によって支持強度が異なるのみならず、揺動の荷重が集中する固定片や角度調節片に変形が生じやすい(すなわち、支持強度が弱い)こと、さらに、上記のように連結具を垂直又は水平に保持するためには、板体の端面又は板面を角度調節片の垂直側縁に係止させる必要があるから、咬持具の開口部奥面に板体が当接するようしっかりと咬持させなければならず、取付けが面倒であることを解決すべき課題とするものであること、本件考案は、この解決すべき課題に対し、「把持体が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体からの全荷重を分散して支持することが可能になり」(記載@)、「揺動する連結体の固定体への支持強度が強く」(記載A)、「固定体が固定される板材に対する連結体の垂直あるいは水平となる角度位置決めが極めて容易で取扱いが簡単な」(記載B)揺動クランプを提供することを目的として、実用新案登録請求の範囲請求項1記載の考案を採用するものであること、それにより、「把持体20が揺動する方向のいずれにあっても同じ支持強度で支持固定することができ、把持体20からの全荷重を分散して支持することが可能になった」(記載T)、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で「把持体20が把持する管材Pによる荷重が、支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」(記載U)、
「把持体20が取付けられた連結体10が、板材Sに対して垂直あるいは水平に位置するように簡単に位置決めできて取扱いが極めて容易となる」(記載V)こと、及び板材Sに固定するに際して、板材Sの端面を固定体1開口部2の側縁部2bに当接させなくても、連結体が板材に対し垂直又は水平のいずれの場合にも、充分な支持力を得ることができること等の各効果を奏するものであることが認められる。
そして、これらの解決すべき課題、本件考案の目的及び本件考案の効果に関する記載その他本件明細書の上記各記載を総合すれば、以下のとおり、本件考案の構成要件(三)に係る「支持体」は従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」を含まないと解されるものである。
(3) 荷重に対する支持強度を向上させるためには、一般に、同一方向の荷重に対して支持する部材を増やし、荷重を分散させる方法と支持部材自体の強度を高める方法とがあり、さらにこれらを併用する方法もあること、また、異なる方向の荷重に対する支持強度を同じくするためには、各方向の荷重に対し、これを支持する部材(支持する部材が複数である場合を含む。)を共通にし、又は同種のものとする方法があることは、揺動クランプに係る技術分野のみならず、極めて多くの技術分野において基本的な技術常識であり、このことは当裁判所に顕著である。
そして、本件考案の各構成要件並びに本件明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明の記載及び図面第2、第3図の記載に照らすと、本件考案が、「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片」を両側板にそれぞれ設ける構成(構成要件(四))を採用することにより、把持体を板材に対し垂直に固定する場合及び水平に固定する場合の双方において、把持体のいずれの方向への揺動に対しても、板材に係止した当接片と固定体に係止した支持体の双方で支持するものであること、すなわち、把持体の揺動に対し、支持する部材を増やし、荷重を分散させる方法により、把持体の支持強度を向上させ、また、いずれの方向への揺動に対しても支持する部材(当接片及び支持体)を共通又は同種のものとすることにより、把持体の異なる揺動の方向に対する支持強度を同じくしていることが認められ、このことにより、記載Tに係る効果を奏し、記載@に係る目的を達しているものということができる。
ところで、本件考案は、上記のとおり、記載Aに係る「揺動する連結体の固定体への支持強度が強く」なることを目的とし、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で、記載Uに係る「把持体20が把持する管材Pによる荷重が、支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」との効果を奏するものである(記載Aと記載Uが対応することは控訴人においても争わない。)。そして、記載Aに係る「揺動する連結体」は、下面に支持体が設けられた取付板と、当接片が設けられた一対の両側板とで形成されるものである(構成要件(二)〜(四)、なお、構成要件(一)、(二)によれば、把持体は連結体(取付板)に取り付けられるものであるから、連結体が揺動することは把持体が揺動することでもある。)が、本件考案において、固定体に衝接して連結体を係合支持する部材は支持体であり(構成要件(三)、(五))、当接片は板材に係止して(構成要件(五))連結体を支持するものである。したがって、「揺動する連結体の固定体への支持強度が強く」なるとの目的を達成するためには、支持体の支持強度を強くする必要があることは明らかである。このことに加えて、本件考案の構成を採用したことによる効果のうち、上記のとおり、記載Aに係る目的に対応した記載Uを含む効果の記載に、板材Sに対して垂直あるいは水平となる位置で把持体20からの荷重が「支持体14により強固に係合支持されることとなり、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂設して形成した固定片により支持する構造に比べて支持強度が格段に向上することとなった」ことが記載されていることにかんがみると、本件考案の構成に係る「支持体」が、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」よりも支持強度が向上したものであること、すなわち、本件考案は、把持体を板材に対し垂直に固定する場合及び水平に固定する場合の双方において、連結体(把持体)の揺動に対し、固定体に係止してこれを支持する部材(固定片又は支持体)自体の強度を高める方法によっても、支持強度を強くするものであると解さざるを得ない。そうとすれば、本件考案の構成要件(三)の「支持体」は、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」に替えて採用されたものであって、これを含まないことが明らかである。
本件考案の「支持体」が、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」を含まないことは、次の点からも認めることができる。
すなわち、上記のとおり、本件考案は、従来の揺動クランプにおいて、連結具を垂直又は水平に保持するために、板体の端面又は板面を角度調節片の垂直側縁に係止させる必要があるから、咬持具の開口部奥面に板体が当接するようしっかりと咬持させなければならず、取付けが面倒であることを解決すべき課題の一つとするものであり、本件考案の構成を採用したことにより、板材Sに固定するに際して、板材Sの端面を固定体1開口部2の側縁部2bに当接させなくても、連結体が板材に対し垂直又は水平のいずれの場合にも、充分な支持力を得ることができるという効果を奏するものである。しかしながら、本件明細書(甲第2号証)の図面第3図記載のように、連結体(把持体)を板材に対し水平に保持させる場合において、板材Sの端面を固定体開口部の側縁部に当接させなかったとすれば、連結体が板材に対し水平となる位置で、当接片は板材の端面に当接係止しないことになるので、連結体(把持体)の一方の方向への揺動(上記第3図における下方向への揺動)に対し、連結体を支持し水平に保持するものは、固定体に係止する支持体のみとなるから、仮に、支持体が従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」であるとすれば、この場合の支持強度は従来の揺動クランプと等しくなって(前示(原判決6頁8行目〜9頁6行目)認定に係る従来の揺動クランプの構成及び本判決添付の「実開昭六一-三九七四七号公報の図面」の第4図の記載に徴すれば、従来の揺動クランプが、連結具を板体に対し水平に固定する場合に、固定片の一方を咬持具の側面に係止させて、把持具を下方向の揺動に対して保持するものであることは明らかである。)、揺動の荷重が集中する固定片に変形が生じやすいという従来の揺動クランプの強度上の問題は何ら解消されていないことが明らかである。したがって、連結体(把持体)が「充分な支持力を得ることができる」ためには、支持体の強度が従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」よりも強くなければならず、上記固定片を含まないことは明らかである。
(4) 控訴人は、本件考案の目的に係る記載@は荷重が分散して支持されるという本件考案の物理的原理(機構)について述べ、記載Aはその結果として連結体の支持強度が強くなるという機能について述べたものであって、支持体の強度を従来の揺動クランプより高めることを述べたものではないと主張し、また、本件考案の効果に係る記載Tと記載Uとの関係についても、記載Uに「により支持する構造に比べて」と記載されていること等を挙げて、記載Uは、支持体が従来の固定片よりも支持強度が向上していなければならないことを記載したものではなく、当接片の板材への係止によって援護された支持体が、そうした他部材による係止協働関係を伴わない従来の固定片による支持構造と比べて支持強度が格段に向上したことを記載したものである旨、すなわち、記載Tに係る荷重の分散の結果を述べたものである旨主張する。
しかしながら、仮に、記載Aが記載@に係る荷重の分散、すなわち、連結体(把持体)の揺動を板材に係止して支持する当接片と、固定体に係止して支持する支持体との双方の支持の結果を記載したものとすれば、何故に、記載Aに後者の支持態様のみ取り上げて記載しているのかが明らかでない。
さらに、記載Uについても、仮に、記載Tに係る荷重の分散の結果を述べたものであるとすれば、何故に荷重が支持体によって支持されることのみ取り上げて記載しているのかが明らかでないのみならず、上記のとおり、従来の揺動クランプの支持強度に関する問題点は、把持具の揺動に対し、その揺動の方向によって、
角度調節片と固定片のいずれか一方のみがこれを支持し、荷重を受けることになるために、把持具の揺動の方向により支持強度が異なるのみならず、揺動の荷重が集中する固定片や角度調節片に変形が生じやすいということである反面、控訴人の主張に従えば、固定片が「連結具を垂設して形成」されたことは格別問題ではないということになるが、そうであるとすれば、効果に関し本件考案を従来の揺動クランプの「構造」と対比するに際して、何故に、従来の揺動クランプにつき、「把持具の揺動の方向によって角度調節片と固定片のいずれか一方のみがこれを支持する構造」とするのではなく、単に「固定片により支持する構造」とし、また、格別問題ではない固定片が「連結具を垂設して形成」されたものであることをわざわざ記載したのかが明らかでない。
そうすると、記載A、記載Uとも、記載@及び記載Tの荷重が分散して支持されることの結果を記載したのではなく、支持体に着目し、その強度を高めることを記載したものであることは明白というべきである。なお、記載@〜Bは、これに先立つ「以上説明したように」との記載から明らかであるように、それ以前の本件考案の効果の記載を要約したものであり、記載Aが記載Uに対応するとすれば、
記載Aの「従来のものと比較してその支持強度が格段に向上し」との記載は、把持体による荷重が、支持体により強固に係合支持される結果として、従来の揺動クランプと比較して把持体(連結体)に対する支持強度が向上したことを意味すると解すべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
また、控訴人は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載により、本件考案の本質的な技術思想は、連結体を構成する両側板に略T字形状の当接片を設け、この当接片と連結体を構成する取付板の下面に設けられた支持体とで連結体を支持する構造とし、荷重を分散支持することにより強度を高めるとともに、当接片のT字形状により角度位置決めを容易にした点にあるところ、考案の詳細な説明の記載は、このような実用新案登録請求の範囲の記載に凝縮された技術思想に沿って解釈されるべきであり、考案の詳細な説明の記載が実用新案登録請求の範囲から独立して解釈されてはならない旨主張する。
確かに、本件明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載上、「支持体」については、「取付板下面に設ける」ものとされているだけで、その個数、
形状等の限定はないが、実用新案登録に係る考案技術的範囲は、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとともに、明細書考案の詳細な説明等の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、
実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものとされている(実用新案法26条において準用する特許法70条1項、2項)のであるから、上記のとおり、考案の詳細な説明及び図面の記載によって、「支持体」が、明らかに従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」を含まないものとされている以上、実用新案登録請求の範囲に記載された「支持体」をそのように限定して解釈すべきことは当然のことというべきである。
控訴人は、さらに、本件明細書において、支持体の強度について言及した記載は、実用新案登録請求の範囲請求項2記載の考案に関する6欄8行目〜9行目の部分の記載しかないとした上で、このことは、本件考案が支持体自体の強度を問題とするものでないことを示唆する旨主張するが、上記のとおり、本件明細書において、記載A、記載Uが支持体の強度について記載したものと認められるから、
控訴人の上記主張は、その前提において誤りである。
なお、控訴人は、記載Uが支持体について述べたものであるとすれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に支持体の形状、構造等についての記載があるはずであるが、そのような記載はない旨主張するところ、確かに、本件明細書(甲第2号証)上、実施例に係る記載(5欄36行目〜49行目)を除いては、支持体の形状、構造等に係る明示の記載は見当たらないが、そうであるからといって、上記文言による記載Uが支持体について述べたものでないとすることはできない。
(5) 控訴人は、被控訴人揺動クランプにおいて、固定体に衝接して連結体を係合支持する構成部分14a、14b(控訴人主張の「固定片対応部材14」)が本件考案の構成要件(三)の「支持体」を充足する旨主張するところ、被控訴人揺動クランプの構成部分14a、14bが、取付板11の両端部を折り曲げて形成したものであることは、
前示原判決別紙物件目録記載のとおりであり、したがって、これは、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」と同一の構成より成るものであることが明らかである。そして、上記のとおり、本件考案の構成要件(三)の「支持体」は、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」を含まないと解すべきであるから、被控訴人揺動クランプの構成部分14a、14bは、本件考案の構成要件(三)の「支持体」を充足するものではなく、また、他に、被控訴人揺動クランプに本件考案の「支持体」を充足する部材又は構成部分があるとする主張立証は存在しない。
(6) なお、控訴人は、本件明細書の記載は、実用新案登録請求の範囲請求項2記載の考案と本件考案に共通して適用されるところ、被控訴人揺動クランプは、
上記請求項2記載の考案と取付板、支持体、固定体の位置関係が類似し、これらの係合の機構が同一であるとも主張する(前示訂正後の原判決12頁7行目〜11行目)が、本件明細書(甲第2号証)の請求項2記載の考案は、被控訴人揺動クランプと異なり、取付板に形成され、固定体上面又は側面に衝接する構成部分を用いていないから、上記請求項2記載の考案と被控訴人揺動クランプとが構造的に共通しているとはいえず、したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(7) 以上によれば、被控訴人揺動クランプは、本件考案の構成要件(三)の「支持体」を充足するものということができない。
3 争点5(被控訴人揺動クランプが本件考案均等か)について 控訴人は、被控訴人揺動クランプが、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、本件考案技術的範囲に属するとし、その要件の一つに関し、本件考案の「支持体」は、従来技術にもある部材であり、当接片に比し、本件考案本質的部分ではない旨主張する。
しかしながら、上記2のとおり、本件考案は、従来の揺動クランプにおける、把持具の揺動の方向により角度調節片と固定片のいずれか一方のみがこれを支持して、荷重を受けることになり、把持具の揺動の方向によって支持強度が異なるのみならず、揺動の荷重が集中する固定片や角度調節片に変形が生じやすい(すなわち、支持強度が弱い)こと等を解決すべき課題とし、この課題に対し、「固定体開口部の略直角を構成する上縁部及び側縁部と略一致する当接側縁部を有する略T字形状の当接片」を両側板にそれぞれ設ける構成を採用することにより、荷重を分散させて把持体(連結体)の支持強度を向上させ、また、その異なる揺動の方向に対する支持強度を同じくさせたと同時に、従来の揺動クランプにおける「連結具を垂設して形成した固定片」に替え、固定体に衝接して把持体(連結体)を支持する部材として、より強度を高めた「支持体」の構成を採用し、これによっても把持体(連結体)の支持強度を向上させて、従来の揺動クランプにおける上記の課題を解決したものである。
そうとすれば、本件考案の「支持体」の構成がその本質的部分を成すことは明らかであり、したがって、本件考案の「支持体」の構成を充足せず、上記2のとおり、従来の揺動クランプの「連結具を垂設して形成した固定片」と同一の構成より成る構成部分14a、14bを用いる被控訴人揺動クランプが、本件考案均等であるとすることはできない。
4 以上によれば、控訴人の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法61条67条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利
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