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事件 平成 13年 (行ウ) 87号 行政不服審査法による異議申立却下決定取消請求事件
平成 13年 (行ウ) 88号 行政不服審査法による異議申立却下決定取消請求事件
原告X
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 松本真
同 菊地原 正彦
同 小林進
同 宮島義直
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/12/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
(第87号事件) 1 被告が,平成13年3月30日付けでした,実用新案登録第2000545号の第7年分及び第8年分の登録料納付に係る各却下処分に対する異議申立事件について,原告の異議申立てをいずれも却下した決定を取り消す。
(第88号事件) 2 被告が,平成13年3月30日付けでした,特許登録第1761708号の第8年分及び第9年分の特許料納付に係る各却下処分に対する異議申立事件について,原告の異議申立てをいずれも却下した決定を取り消す。
事案の概要
被告は,原告に対して,実用新案権に係る登録料納付(第87号事件)及び特許権に係る特許料納付(第88号事件)について,不納付を理由として各却下処分(原処分)をし,さらに,原告のした異議申立事件について,異議申立期間の徒過等を理由として各却下決定(裁決)をした。本件は,原告が被告に対して,裁決固有の瑕疵があることを理由として,各却下決定(裁決)の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を示した事実を除き,当事者間に争いがない) (1) 原告は,平成11年3月3日,実用新案登録第2000545号(以下「実用新案権」という。)についての第7年分の登録料の納付手続,及び特許登録第1761708号(以下「特許権」という。)についての第8年分の特許料の納付手続を,それぞれ行った。
被告は,原告の予納台帳残高に不足があったため納付書補充指令書(実用新案権について平成11年4月14日,特許権について同年4月9日)を発した。
同手続は,工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(以下「特例法」という。)所定の電子情報処理組織を使用して行われた(なお,以降の手続はすべて電子情報処理組織を使用して行われた。)。同各補充指令は,原告が当時使用していたオンラインによる入出力装置(以下「OSI端末」という場合がある。)のファイルに記録されたが,同OSI端末上では表示がされず,原告はその内容を端末上で直接認識できなかった。そのため,原告は納付書(補充)の提出をしなかった。
そこで,被告は,同年7月29日付けで,実用新案権に対する第7年分の実用新案登録料納付手続について,手続却下の処分を行った(以下「原処分1」という。乙A1,乙3の1)。被告は,同年6月21日付けで,特許権に対する第8年分の特許料納付手続について,手続却下の処分を行った(以下「原処分2」という。乙B1,乙3の2)。各原処分についても,原告のOSI端末のファイルに記録されたが,同OSI端末上では表示されず,原告はその内容を,端末上で直接認識できなかった。
(2) 原告は,平成12年3月23日,実用新案権の第8年分の登録料の納付手続,平成12年4月20日,特許権の第9年分の特許料の納付手続を,それぞれ行った。
被告は,同年7月17日付けで,実用新案権の第8年分の登録料の納付手続について,手続却下の処分を行い(以下「原処分3」という。甲A9),同月26日,原告が新たに使用を開始したパソコンによる入出力装置(以下「パソコン端末」という。)のファイルに記録された。原告のパソコン端末では,OSI端末の様な不具合がなかったため,同原処分は,パソコン端末上に表示され,原告は同日その内容を,パソコン端末上で直接認識している。
また,被告は,同月31日付けで,特許権の第9年分の特許料納付の手続について,手続却下の処分を行い(以下「原処分4」という。甲B9),同年8月9日,原告のパソコン端末のファイルに記録された。同日原告はその内容を,パソコン端末上で直接認識している。
(3) 原告は,同月23日,被告に対し,原処分1及び2が適法に送達されていないことなどを理由として,原処分1ないし4の取消しを求めて異議申立てを行った。
被告は,実用新案権に係る原処分1及び3,特許権に係る原処分2及び4をそれぞれ併合して審理した上,平成13年3月30日付けで,原告の各異議申立てをいずれも却下した(原処分1及び3,原処分2及び4に対する各決定をあわせて,以下「本件各決定」という場合がある。)。
ア 本件各決定中,原処分1及び2に係る部分の理由は,要旨以下のとおりである。
(ア) 原処分1については,平成11年8月11日に原告端末のファイルに記録されているから,同日に原告に到達されたものとみなされる。原告のした異議申立ては,行政不服審査法(以下「行服法」という。)45条に定める異議申立期間(処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内)を徒過した後のものである。
(イ) 原処分2については,平成11年6月30日に原告端末のファイルに記録されているから,同日に原告に到達されたものとみなされる。原告のした異議申立ては,異議申立期間を徒過した後のものである。
イ 本件各決定中,原処分3及び4に係る部分の理由は,要旨以下のとおりである。
(ア) 原処分3については,原処分1が上記異議申立期間の経過により確定し,第7年分についての登録料納付がないことから実用新案権が既に消滅しており,原処分3を取り消しても,実用新案権の回復に影響がなく,原処分の取消しを求める利益を欠く。
(イ) 原処分4については,原処分2が異議申立期間の経過により確定し,第8年分の特許料納付がないことから特許権が既に消滅しており,原処分の取消しを求める利益を欠く。
3 争点 (1) 行服法45条所定の原告が原処分1及び2を知った日は,それぞれ,原告の使用するOSI端末のファイルに記録された日である平成11年8月11日及び同年6月30日といえるか。
(被告の主張) 原処分1は平成11年8月11日に,原処分2は同年6月30日に,それぞれ,原告が当時使用していたOSI端末のファイルに記録された。
行服法45条は,「異議申立ては,処分があったことを知った日の翌日から起算して六十日以内にしなければならない」と規定する。この「処分があったことを知った日」の意義については,判例によれば,当該異議申立ての対象となる処分又は決定のあったことを現実に知った日を意味し,抽象的な知り得べかりし日を意味するものではない(最高裁昭和27年11月20日判決・民集6巻10号1038頁参照)。しかし,処分が文書でされ,その送達方法が定められている場合には,これによって相手方に処分書を送達した事実があれば,特段の事情のない限り,当該文書の送達を受けた日に処分があったことを知ったものと認定されるべきである(最高裁昭和27年4月25日判決・民集6巻4号462頁参照)。
本件では,原処分は,特段の事情のない限り,当該文書の送達を受けた日に処分があったことを知ったものと推認されるべきである。本件では,この特段の事情は認められない。(なお,特例法5条3項は,電子情報処理組織を使用して行われた特定通知等は,手続をする者又はその代理人の使用する入出力装置に備えられたファイルへの記録がされたときに特定通知等の相手方に到達したものとみなされると規定する。) (原告の反論) 原告の反論の詳細は,別紙「原告準備書面-被告主張(1)に対する反論(抜粋)」のとおりである。これを要約する。
以下のとおり,原告が原処分1及び2を知った日は,それぞれ,原告の使用する端末のファイルに記録された日である平成11年8月11日及び同年6月30日といえない。
原処分がされた平成11年6月ないし8月において,原告のOSI端末では,原処分1及び2の内容が,画面上のみならず発送書類一覧にも表示がされなかった。原告のOSI端末の画面表示がされなかったのは,特許庁とのオンライン送受信を行うためのソフトウエアを供給している日本特許情報機構らが,法改正に伴うバージョンアップを怠ったことに起因するものである。しかし,原告は,原告のOSI端末にそのような問題が存することについては,平成12年5月10日に原告のOSI端末を調査したハードウエア管理会社から指摘を受けるまで知らなかった。
また,仮に,原告が原処分1及び2をそれぞれ平成11年8月11日及び同年6月30日に知っていたとすれば,原告は,直ちに倍額納付の手続を行うことによって権利の失効を免れる措置を講じたはずであるが,原告は,そのような措置を講じなかったこと,原告は,翌年にも同様の各納付手続を行うことはなかったはずであるが,原告は翌年も各納付手続を行っていることなどの事実経緯に照らすならば,原告が原処分1及び2を知らなかったことは明らかである。
以上によれば,平成11年8月11日及び同年6月30日に原告が原処分1及び2を知ったとはいえない。仮に,原処分1及び2が上記日時に原告端末のファイルに記録されていたとしても,原告が各処分を知ることができなかったことについて,特段の事情があるというべきである(なお,特例法5条3項により,原告のOSI端末に記録された日に,処分が原告に到達したものとみなされると規定するが,その規定と原告が処分を現実に知ったこととは直接関連性がない。)。
(2) 原告は原処分1及び2を遅くとも平成12年5月15日までに知ったといえるか。本件訴訟において,本件各決定と異なる裁決の適法理由の主張をすることが許されるか。
(被告の主張) 以下のとおり,原告は,原処分1及び2を,遅くとも平成12年5月15日までに知っていた。
被告は,平成12年4月19日,原告の実用新案権の第8年分の登録料の納付手続に対して,却下理由通知書を発し,同月26日,原告のパソコン端末のファイルに記録された。原告のパソコン端末には,OSI端末の様な不具合がなかったため,同通知書は,パソコン端末上に表示され,原告は同日その内容を,端末上で直接認識した。
原告は,その直後に,原告のOSI端末の調査を日本特許情報機構及び株式会社日立製作所(以下「日立」という。)に依頼した。同年5月10日,株式会社日立情報システム(以下「日立情報システム」という。)のシステムエンジニアのMが原告事務所を訪れ,次いで,同月11日,Mと日立のNらがそれぞれ訪れ,原告のOSI端末を調査するとともに,同端末のファイルに記録されたデータを日立に持ち帰るなどした。
同月15日,Nらは,上記調査の結果に基づき,原告事務所を訪れ,日立の端末で打ち出した書面を提示し,調査結果を原告に伝えた。同書面には,原処分1及び2の通知書の内容が印刷表記されている。さらに,Nらは,平成11年4月に,特許権に関する第8年分の登録料納付についても納付書補充指令書が発せられ,同年6月に原処分2の通知がされたことを原告に伝えた。
以上によれば,同日までに,原告は原処分1及び2の存在及び内容を知ったものであるから,原告は遅くとも平成12年5月15日までに原処分1及び2を知ったといえる。そうすると,原告のした異議申立ては,異議申立期間である60日を経過した後の平成12年8月23日にされたものであるから不適法である。
原告が遅くとも平成12年5月15日までに原処分1及び2を知ったとの主張は,被告が本件各決定書において,理由附記した内容と異なる。しかし,本件訴訟において,各決定に記載のない適法理由を追加主張することは,許されると解すべきである。
(原告の反論) 原告の反論の詳細は,別紙「原告準備書面-被告主張(2)に対する反論(抜粋)」のとおりである。これを要約する。
原告が,原処分1を知ったのは,平成12年7月26日であり,原処分2を知ったのは,平成12年8月9日である。これらは,それぞれ甲A9,甲B9各号証の発送日に記載された日付けのとおりである。
被告は,実用新案権の第8年分の登録料納付の手続に対する,平成12年4月19日付けの却下理由通知書によつて,原処分1の内容を知ったと主張するが,同書面によっても,実用新案権についてどのような処分が行われたかを知ることはできないから,原告が原処分1を知ったことにはならない。平成12年5月11日付けの特許権の第9年分の特許料納付の手続に対する却下理由通知書についても,同様である。また,被告は,原告が日立の職員らから,遅くとも,平成12年5月15日までに原処分1及び2を知らされたと主張する。しかし,原告は,実用新案権及び特許権の消滅について何ら知らされていない。
被告が,本件訴訟において,原告が遅くとも平成12年5月15日までに原処分1及び2を知ったと主張することについては,本件各決定に記載のない適法性の根拠事実を本件取消訴訟において追加主張するものであって,理由の差し替えに当たり許されない。
(3) 原処分1及び2に関する各異議申立ては,処分があった日から1年を経過した後にされた不適法な申立てか。本件訴訟において,本件各決定と異なる適法理由を主張することが許されるか。
(被告の主張) ア 行服法48条は,処分についての異議申立てに同法14条3項本文を準用するが,同法14条3項本文は,「審査請求(異議申立て)は,処分・・・があった日の翌日から起算して一年を経過したときは,することができない。」と規定し,行政上の法律関係の安定を図る趣旨から,処分があったことを知ったか否かにかかわらず,処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときには,異議申立てができないとしている。そして,この不服申立期間を徒過して申し立てられた異議申立ては,同項ただし書の「正当な理由がある」と認められる例外的な場合を除き,不適法な申立てとして却下されることとなる。
原処分1は平成11年8月11日に,原処分2は同年6月30日に,それぞれされているから,平成12年8月23日にされた各異議申立ては,原処分1及び2がされた日の翌日から起算して1年が経過した後にされたものである。
イ 前記のとおり,行服法48条,14条3項の客観的な不服申立期間は,行政上の法律関係の安定を図る趣旨から,不服申立てをする者が当該処分を知ったか否かにかかわらず,その不服申立期間を限定するものであるから,同法14条3項の「正当な理由」とは,当該不服申立てをする者が,当該処分を知ることができなかったという事情と区別して考えられなければならない。
原告は上記「正当な理由」があると主張する。しかし,@原告のOSI端末においても,発送目録上は原処分1及び2があったことを知ることができること,A毎月原告に郵送される予納残高通知書によって原処分1及び2を知り得ること,B年金領収書が郵送されないことから原処分1及び2を知り得ること,C前記のとおり,原告は,遅くとも平成12年5月15日までに原処分1及び2を知っていたとみられることに照らすならば,原告において,原処分1及び2がされた日の翌日から起算して1年を経過するまで(原処分1について同年8月11日,原処分2について同年6月30日)にこれらに対する異議申立てをすることができなかったことについて,「正当な理由」があるとはいえない。
被告が,本件訴訟において,行服法48条,14条3項の不服申立期間を経過した後にされた不適法なものであるとの主張を新たに追加したとしても,原告に不利益を与えるとはいえないので,許されると解すべきである。
(原告の反論) 原告の反論の詳細は,別紙「原告準備書面-被告主張(3)に対する反論(抜粋)」のとおりである。これを要約する。
原告は,前記争点(1),(2)の原告の反論に記載のとおり,原処分1及び2をそれぞれ平成11年8月11日,同年6月30日に受け取っていない。仮に原告のOSI端末のファイルに記録されている事実があったとしても,画面上に表示されず,発送書類一覧にも表示されない状態にあった。これらの事実によれば,原告には,行服法48条,14条3項の「正当な理由」があるというべきである。
被告が,本件訴訟において,新たな主張をすることは,理由の差し替えであり,許されない。
(4) 本件異議申立て中の原処分3及び4の取消しを求める部分は,不服申立ての利益を欠く不適法なものであるか。
(被告の主張) ア 登録料及び特許料の不納付の効果 (ア) 平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「改正前実用新案法」という。)15条1項は,実用新案権の存続期間について,原則として,出願公告の日から10年とし,同法31条1項は,その存続期間の満了までの各年について,実用新案権者が登録料を納付しなければならないと規定する。
そして,改正前実用新案法32条2項本文は,この登録料の納付のうち第4年以後の各年分の登録料の納付期限について,前年以前にこれを納付しなければならないとし,さらに,同法33条1及び2項は,上記期限までに登録料を納付することができない場合であっても,その期限の経過後6か月以内(以下「登録料追納期間」という。)であれば,納付すべき登録料にこれと同額の割増登録料を併せて追納することができる旨を規定する。
この登録料追納期間内にその登録料及び割増登録料を納付しない場合には,当該実用新案権は,改正前実用新案法32条2項本文が規定する登録料の納付期限を経過した時にさかのぼって消滅したものとみなされることとなる(同法33条4項)。さらに,実用新案法33条の2は,同法33条4項の規定によって消滅したものとみなされた実用新案権についても,登録料追納期間の経過後6か月以内の期間(以下「実用新案権回復期間」という。)に限り,一定の事由を充たす場合に登録料及び割増登録料の追納を認めることにより,当該実用新案権が回復される場合があることを規定している。
そうすると,第4年以後の登録料については,その納付期間にこれを納付せず,さらに,登録料追納期間までにこれと割増登録料とを納付しない場合には,当該実用新案権は,その納付期間の期限が経過した時にさかのぼって消滅することになり,例外的にその回復の余地があるというにすぎないこととなる。
(イ) 特許権に関する特許料の不納付の効果についても,実用新案権の場合と全く同様である(平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)67条1項,107条1項,108条2項本文,112条1及び2項,4項,特許法112条の2)。
イ 実用新案権及び特許権は,以下のとおり既に消滅している。
(ア) 実用新案権については,第7年分の納付期限である平成11年4月23日までにその登録料が,その登録料追納期間である同年10月23日までに登録料及び割増登録料が,実用新案権回復期間である平成12年4月23日までに登録料及び割増登録料が,いずれも納付されていない。したがって,実用新案権は,平成11年10月23日が経過したことにより,同年4月23日が経過した時にさかのぼって消滅した。
(イ) 特許権については,第8年分の納付期限である平成11年6月4日までにその特許料が,その特許料追納期間である同年12月4日までに特許料及び割増特許料が,特許権回復期間である平成12年6月4日までに特許料及び割増特許料が,いずれも納付されてない。したがって,特許権は,平成11年12月4日が経過したことにより,同年6月4日が経過した時にさかのぼって消滅した。
ウ 実用新案権及び特許権は,既に消滅しているのであるから,原処分3及び4が取り消されたとしても,実用新案権及び特許権の帰趨に何らの影響を及ぼさない。そうすると,原処分3及び4の取消しを求める不服申立ては,不服申立ての利益を欠くから,不適法である。したがって,不適法を理由に却下した本件各決定に違法はない。
(原告の反論) 原処分3及び4の取消しを求める部分は,原処分1及び2の取消しを求める部分と同時に異議申立てをしている。原処分1及び2が取り消されれば必然的に実用新案権及び特許権の回復が図られる関係にある。
したがって,原処分3及び4についても不服申立ての利益がある。
争点に対する判断
1 訴えの利益について 被告は,原告に対して,実用新案権の登録料納付(第87号事件)及び特許権の特許料納付(第88号事件)について不納付を理由として各原処分をし,さらに,原告のした異議申立事件について,異議申立期間の徒過等を理由として各却下決定(裁決)をした。本件は,原告が被告に対して,裁決固有の瑕疵があることを理由として,各却下決定の取消しを求めた事案である。
まず,本件各決定の取消しを求める本件訴えについて,法律上の利益を有しているか否かについて判断する。
(1) 改正前実用新案法32条2項本文は,この登録料の納付のうち第4年以後の各年分の登録料の納付期限について,前年以前にこれを納付しなければならないとし,さらに,同法33条1及び2項は,上記期限までに登録料を納付することができない場合であっても,その期限の経過後6か月以内であれば,納付すべき登録料にこれと同額の割増登録料を併せて追納することができる旨を規定する。登録料追納期間内にその登録料及び割増登録料を納付しない場合には,当該実用新案権は,改正前実用新案法32条2項本文が規定する登録料の納付期限を経過した時にさかのぼって消滅したものとみなされる(同法33条4項)。さらに,実用新案法33条の2は,同法33条4項の規定によって消滅したものとみなされた実用新案権についても,登録料追納期間の経過後6か月以内の期間に限り,一定の事由を充たす場合に登録料及び割増登録料の追納を認めることにより,当該実用新案権が回復される場合があることを規定している。また,特許権に関する特許料の不納付の効果についても,実用新案権の場合と全く同様である(改正前特許法67条1項,107条1項,108条2項本文,112条1及び2項,4項,特許法112条の2)。
(2) 前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 実用新案権については,第7年分の納付期限である平成11年4月23日までにその登録料が,その登録料追納期間である同年10月23日までに登録料及び割増登録料が,実用新案権回復期間である平成12年4月23日までに登録料及び割増登録料が,いずれも納付されていない。したがって,実用新案権は,平成11年10月23日の経過とともに,同年4月23日にさかのぼって消滅した。
イ 特許権については,第8年分の納付期限である平成11年6月4日までにその特許料が,その特許料追納期間である同年12月4日までに特許料及び割増特許料が,特許権回復期間である平成12年6月4日までに特許料及び割増特許料が,いずれも納付されていない。したがって,特許権は,平成11年12月4日の経過とともに,同年6月4日にさかのぼって消滅した。
(3) してみると,実用新案権及び特許権については既に各権利が確定的に消滅している以上,本件各決定を取り消してみても,異議申立ての目的たる実用新案権,特許権の回復を図る余地はない。したがって,本件各決定の取消しを求める法律上の利益は,各権利の消滅によって確定的に喪失した。以上のとおり,本件訴えはいずれも不適法として却下すべきである。
(なお,原処分1及び2は,実用新案権に対する第7年分の登録料及び特許権に関する第8年分の特許料の各納付手続に際し,原告の予納台帳の残高が不足していたため料金を引き落とすことができず,結果として登録料納付が行われなかったことを原因とする。
被告は,原処分1及び2を発するに先立ち,上記理由を付した各納付書補充指令書を発し,原告に追納の機会を与えており,これらの各納付書補充指令書,原処分1及び2は,いずれも,原告のOSI端末において,ファイルに記録されている。確かに,これらの内容は,画面上表示できなかったが,予納残高通知書が毎月被告から送付されること,登録料納付が正しく行われた場合に登録料納付済領収書が被告から郵送されること(争いがない。)等の事実に照らすならば,毎月被告から送付される予納残高通知書,登録料納付済領収書等により,原告において不納付の状況を確認することが不可能ではない。以上のとおり,実用新案権及び特許権が消滅した原因は,実用新案権第7年分の登録料及び特許権第8年分の特許料納付につき十分な予納残高をもって各納付手続を行わなかった点にあるのであって,原処分1及び2にはおよそ違法とすべき理由は存在しないと解される。) 2 付加判断 前記のとおり,本件各訴えは,本件各決定の取消しを求める法律上の利益はないが,本件の重要性に鑑み,本件各決定の適法性に関する被告の主張の当否について付言する。
(1) 前提となる事実及び証拠(各認定部分に表記した。)によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 原告は,平成11年3月3日,実用新案権についての第7年分の登録料の納付手続及び特許権についての第8年分の特許料の納付手続を,それぞれ行った。被告は,原告の予納台帳残高に不足があったため料金を引き落とすことができないとして,納付書補充指令書を発し(実用新案権について同年4月14日,特許権について4月9日,乙3の1,2),同指令書は原告のOSI端末のファイルに記録された(実用新案権について同年4月27日,特許権について4月14日,乙4の1,2)。被告は,上記各補充指令書に対し,指令書記載の期間内に,それぞれ補充の納付書の提出がないとして,原処分1及び2をそれぞれ行った。原処分2は同年6月30日に(乙B2),原処分1は,同年8月11日に(乙A2),それぞれ原告のOSI端末のファイルに記録された。
イ 原告は,平成12年3月23日に実用新案権の第8年分の登録料の納付手続を,平成12年4月20日に特許権の第9年分の特許料の納付手続を,それぞれ行った。被告は,平成12年4月19日,原告からの実用新案権の第8年分の登録料納付手続について,第7年分の実用新案登録料を納付することができる期間(追納期間を含む)内に登録料の納付がされなかったため既に実用新案権が消滅しているとして,却下理由通知書を発し(乙5の1),これは同月26日,原告が新たに使用を開始したパソコン端末のファイルに記録された。原告のパソコン端末では,OSI端末の様な不具合がなかったため,同通知書は,パソコン端末上に表示され,原告はその内容を,パソコン端末上で直接認識している(争いがない)。
ウ 原告は,同年5月9日,原告とOSI端末などについて,保守契約を締結している日立情報システムに対し,実用新案権についての原処分1の通知がOSI端末で確認できないことに関して調査を依頼した(乙9の2)。
同月10日,日立情報システムのシステムエンジニアのBが原告の事務所を訪れて調査した。その結果,実用新案権の第7年分の登録料納付の手続に関し,納付書補充指令書及び原処分1が被告より発せられ,これらは原告のOSI端末で受信されファイルに記録されていることが端末の受信履歴及び発送目録から確認できるが,原処分1の内容は,端末上で表示,印刷できないことが判明し,その旨を原告に説明した(乙9の2)。
同月11日,Mと日立のNが原告の事務所を訪れ,原処分1について,原告のOSI端末に受信されているが,表示,印刷ができないことを再度確認し,同種の不具合が生じていないかを確認するため,原告のOSI端末から発送目録データ及び特許庁から発送の通知データを記録して,日立に持ち帰って調査した(乙9の2)。
同月12日,Nらは,原告事務所から持ち帰ったデータを日立の端末に読み込ませ,確認作業を実施した。その結果,日立の端末では実用新案権に関するデータが確認できたため,上記データについては原告のOSI端末に受信され,ファイルに記録されているものの,表示,印刷ができないものがあることを確認した(乙9の2)。また,特許権についての年金納付手続に関する補充指令書と手続却下の処分が被告から発送され,原告のOSI端末に受信されてファイルに記録されていることも確認した(乙9の2)。
同月15日,Nらが原告の事務所を訪れ,日立の端末で打ち出した書面を提示し,調査結果を原告に伝えた。その際,特許権に関しても同様の通知書が発せられていることを伝えた(乙9の2)。
エ 上記の一連の調査により,原告のOSI端末に関して,平成11年1月の法改正に対応したソフトウエアにつき,発送及び閲覧に特有の機能に関する部分のみバージョンアップが行われていなかったことが判明した。その結果,平成11年1月1日以降のオンラインによる入出力が可能になった発送書類については,表示,印刷ができず,また発送書類一覧も,OSI端末に固有の機能であることから,表示されないことが分かった。原処分1及び2及び各納付書補充指令書はこのような原因で,表示,印刷ができなかった(乙7,8の2)。
オ 他方,発送目録については,OSI端末で一切編集は行わないことから,特許庁から発せられた内容がそのまま表示され,ファイルに記録される。そこには出願番号,起案種別,発送番号,到達時刻,入出力装置番号が表示され,発送書類とあわせて必ず受け取ることができる(乙7,8の2)。平成12年5月12日にMらが原告のOSI端末を調査した結果,原告のOSI端末上でも発送目録による原処分1の表示は確認できた(乙8の2,9の2)。また,同月15日,Nらは,原告のOSI端末においても,発送目録に関しては特許庁から送られたデータが表示,印刷できる旨を原告に伝えている(乙9の2)。
カ OSI端末と特許庁の使用に係る電子計算機(以下「特許庁ホスト」という。)との間のオンラインによるデータの送受信については,OSI端末から特許庁ホストに対して発送書類要求(アクセス)を行い,特許庁で所定の条件を確認した後,OSI端末に書類を発送するが,端末のファイルに記録された後,特許庁ホストへ受領確認コマンドを発送し,特許庁側は端末からの受領確認コマンドの受信により,発送書類の到達を確認する(乙7)。いったん端末のファイルに記録されると,書類の表示,紙出力はいつでも可能となるものである(乙8の2)。
キ 原処分1及び2及びそれに先立つ平成11年4月9日付け及び同月14日付け各納付書補充指令書については,いずれも原告からのアクセスに基づいて原告のOSI端末に送信され,原告のOSI端末のファイルに記録されたことが特許庁ホストにおいて確認されている(乙4の1及び2,乙A2,乙B2)。
(2) 上記認定した事実を基礎にして判断する。
ア 本件各決定書には,決定の理由として,@特例法5条3項に,手続をする者等の使用する入出力装置に備えられたファイルへの記録がされた時に到達したものとみなす旨の規定があること,A原処分1及び2は,原告のOSI端末のファイルに記録されているから,同日に原告に到達されたものとみなされること,B原告のした異議申立ては,原告のOSI端末のファイルに記録された日の翌日から起算して60日以内にされていないので,異議申立期間を徒過した後のものであることが付記されている。
イ しかし,同決定の理由には,以下のとおり誤りがある。
第1に,同決定の理由は,異議申立期間を処分が到達した日の翌日から起算すべきであるとしている点において,行服法45条の解釈を誤った違法がある。すなわち,行服法45条所定の「処分があったことを知った日」とは,当該処分のあったことを現実に知った日を指すと解すべきであり,単に,処分があったことを知り得べかりし状態に置かれた日を指すものと解すべきではない(最高裁昭和27年11月20日判決・民集6巻10号1038頁参照)。
第2に,原告が原処分を現実に知った日は,平成11年8月11日(実用新案権)及び同年6月30日(特許権)と認定することはできない。すなわち,前記認定のとおり,@原処分1及び2は,それぞれ,平成11年8月11日及び同年6月30日に,データとして,原告のOSI端末のファイルに記録されているものの,画面上に表示することも,印刷することもできず,発送書類一覧の上にも表示することもできない状態であったこと,Aその原因は,原告のOSI端末のソフトウエアに関して,法改正に伴う部分についてのバージョンアップがされていなかったためであること,Bその他,原告が,上記の日に,原処分1及び2があったことを知ったと推認させるに足りる事情は存在しなかったこと等に照らすならば,原告は,原告のOSI端末のファイルに記録された日である同年8月11日(実用新案権)及び同年6月30日(特許権)に,原処分1及び2があったことを現実に知ったものと認定することはできない。
以上のとおり,原処分1及び2は,原告のOSI端末のファイルに記録されているから,行服法45条に定める異議申立期間は,記録された日から進行するものとして,原告のした異議申立てが,行服法45条の異議申立期間を徒過した後のものであるとした本件各決定の理由には,法律の解釈又は事実認定を誤った違法があるというべきである。
ウ 被告は,本訴において,原告が原処分1及び2を遅くとも平成12年5月15日までに現実に知り,原告のした異議申立ては,その翌日から起算すると異議申立期間(行服法45条,48条,14条3項)を徒過した後のものであるから不適法であり,これを却下した本件各決定に違法はない旨主張する。
この点について判断する。
行服法は,異議申立てに対する決定に理由を付さなければならない旨を規定する(行服法48条,41条1項)。同法が,理由付記を要するとした所以は,異議申立に対する決定の慎重と公正妥当を担保して,その恣意を抑制するとともに,決定の理由を明らかにすることによって,申立人の不服申立てに便宜を与えることにあるというべきである。このような趣旨に鑑みると,異議申立てに対する決定の取消訴訟において,決定の理由に付さなかった適法性の根拠を新たに主張することは,その適法性の根拠となる事実が,決定が付した理由における根拠事実と社会通念上実質的に同一の事実又は密接に関連した事実でない限り,許されないと解するのが相当である。
ところで,被告の主張によれば,被告が新たに主張する決定の適法性の根拠となる事実は,原処分から1年以上も経過した後の平成12年5月ころ,原告がOSI端末で確認できないことに不審を抱いて,端末の保守契約を締結している会社に調査を依頼したところ,原告は,依頼を受けた会社の職員から,同社が調査した結果によって,原処分があったことを現実に知ったとするものである。そうとすると,本件において被告が新たに主張した決定の適法性に係る事実は,決定が付した理由における根拠事実と社会通念上実質的に同一の事実又は密接に関連した事実に当たらないことは明らかである(原告のした異議申立てが行服法45条,48条,14条3項の期間を徒過しているとの被告の主張も同様である。)。結局,本訴において,被告が同主張を根拠に本件各決定の適法性を主張することはできない。この点の被告の主張は失当である。
結論
よって,主文のとおり判断する。
追加
原告準備書面-被告主張(1)に対する反論(抜粋)第1実用新案権に関する原告の主張(ただし,以下の甲各号証の番号は,甲A各号証の番号である)異議却下決定の理由に対する反論1甲第1号証に示す異議申立却下決定の理由は,工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(以下「特例法」と言う。)5条3項が,手続をする者またはその代理人の所有する入出力装置に備えられたファイルへの記録がなされたときに特定通知等の相手方に到達したものとみなすとの規定があるところ,被告特許庁電子計算機のファイルの記録から,本件実用新案登録の第7年分の納付書に対する却下処分書が平成11年8月11日付で原告の入出力装置に記録されたことが確認できるために,行政不服審査法による異議申立期間を徒過し,これによって本件異議申立が不適法なものとして却下を免れない,とするものである。
2しかるに上記の理由は特例法5条3項の解釈を誤り,行政不服審査法第45条の適用を誤ったものであって,原告はその認定に承服できない。
特例法5条3項は,特定通知等は入出力装置に備えられたファイルへの記録がなされたときに当該特定通知等の相手方に到達されたものとみなす,との規定である。すなわちこの規定は法の擬制によって「到達」したものとするものである。被告は特例法5条を援用して第7年分の納付書に対する却下処分が原告に到達したと主張しているが,これは法の擬制によって到達の法律効果が生ずることを主張しているのである。すなわち特例法5条は事実として到達したかどうかではなく,ファイルに記録された場合に,そのときに到達したものとして法律効果を発生させる趣旨である。よって5条3項を援用する以上,平成11年8月11日に第7年分の納付書に対する補充指令の通知が到達したという法律効果が生ずることを意味する。
これに対して行政不服審査法第45条は,異議申立に係る処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない旨定める。すなわちこの条項の適用は,処分があったことを原告が事実として知っていることを要件とする。原告が五感,とくに視覚によって却下処分の内容を認識できたことが要件になる。ところが特例法5条3項の法律効果は,原告が処分があったことを知るという法律効果を生ぜしめるものではない。
(中略)このように甲第1号証に示す決定は特例法5条3項の解釈を誤り,行政不服審査法45条の適用を誤ったものであることが明白である。
3原告は甲第10号証として示す異議申立書に,甲第11号証(異議甲第6号証)の発送一覧を添付して平成11年4月27日に補充指令を受領していないことを立証した。また原告は甲第12号証(異議甲第7号証)によって,平成11年8月11日に手続却下の処分書を受領していないことを立証した。さらに原告は甲第13号証(異議甲第8号証)によって,この手続を行なった旧電子出願端末上での発送書類の全部の一覧表を提出し,平成11年4月27日付補充指令書および平成11年8月11日付却下処分がその中に存在しないことを立証した。
このような証拠による立証に対して,被告は何等の検証を行なうことなく,また甲第1号証の決定の理由中で何等それについて言及することなく却下決定を下した。よって被告の却下決定は明らかに十分な審理がなされたものとは言い難い。
すなわち本件異議申立却下決定は十分な詮議を経てなされたものではなく,原告としては到底承服できないものである。
第2特許権に関する原告の主張(ただし,以下の甲各号証の番号は,甲B各号証の番号である)異議却下決定の理由に対する反論1甲第1号証に示す異議申立却下決定の理由は,工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(以下「特例法」と言う。)5条3項が,手続をする者またはその代理人の所有する入出力装置に備えられたファイルへの記録がなされたときに特定通知等の相手方に到達したものとみなすとの規定があるところ,被告特許庁電子計算機のファイルの記録から,本件特許の第8年分の納付書に対する却下処分書が平成11年6月30日付で原告の入出力装置に記録されたことが確認できるために,行政不服審査法による異議申立期間を徒過し,これによって本件異議申立が不適法なものとして却下を免れない,とするものである。
2しかるに上記の理由は特例法5条3項の解釈を誤り,行政不服審査法第45条の適用を誤ったものであって,原告はその認定に承服できない。
特例法5条3項は,特定通知等は入出力装置に備えられたファイルへの記録がなされたときに当該特定通知等の相手方に到達されたものとみなす,との規定である。すなわちこの規定は法の擬制によって「到達」したものとするものである。被告は特例法5条を援用して第8年分の納付書に対する却下処分が原告に到達したと主張しているが,これは法の擬制によって到達の法律効果が生ずることを主張しているのである。すなわち特例法5条は事実として到達したかどうかではなく,ファイルに記録された場合に,そのときに到達したものとして法律効果を発生させる趣旨である。よって5条3項を援用する以上,平成11年6月30日に第8年分の納付書に対する補充指令の通知が到達したという法律効果が生ずることを意味する。
これに対して行政不服審査法第45条は,異議申立に係る処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならない旨定める。すなわちこの条項の適用は,処分があったことを原告が事実として知っていることを要件とする。原告が五感,とくに視覚によって却下処分の内容を認識できたことが要件になる。ところが特例法5条3項の法律効果は,原告が処分があったことを知るという法律効果を生ぜしめるものではない。
(中略)このように甲第1号証に示す決定は特例法5条3項の解釈を誤り,行政不服審査法45条の適用を誤ったものであることが明白である。
3原告は甲第10号証として示す異議申立書に,甲第11号証(異議甲第6号証)の発送一覧を添付して平成11年4月14日に補充指令を受領していないことを立証した。また原告は甲第12号証(異議甲第7号証)によって,平成11年6月30日に手続却下の処分書を受領していないことを立証した。さらに原告は甲第13号証(異議甲第8号証)によって,この手続を行なった旧電子出願端末上での発送書類の全部の一覧表を提出し,平成11年4月14日付補充指令書および平成11年6月30日付却下処分がその中に存在しないことを立証した。
このような証拠による立証に対して,被告は何等の検証を行なうことなく,また甲第1号証の決定の理由中で何等それについて言及することなく却下決定を下した。よって被告の却下決定は明らかに十分な審理がなされたものとは言い難い。
すなわち本件異議申立却下決定は十分な詮議を経てなされたものではなく,原告としては到底承服できないものである。
原告準備書面-被告主張(2)に対する反論(抜粋)1原告は平成10年11月より旧電子出願端末によって発送書類のオンラインによる受領を開始した。そして旧電子出願端末を平成11年10月末まで使用している。従って平成11年10月末までは旧電子出願端末によってオンラインで被告から発送書類を受領している。
また原告は平成11年7月からパソコンによって1部の出願をオンラインで行なっている。そして平成11年11月1日以降は旧電子出願端末の使用を停止し,パソコンのみによって被告との間で書類の授受を行なっている。従って平成11年7月〜平成11年10月までの間の期間については,原告は旧電子出願端末とパソコンの両方を使用していたものの,発送書類の受領についてはもっぱら旧電子出願端末によって行なっている。これは旧電子出願端末がオペレーティングシステムとしてUNIXを用い,高い信頼性を有するとの判断によるものである。
一方で日本特許情報機構がバージョンアップ媒体の供給ミスを生じた法改正は平成11年1月1日以降に施行されている。従って平成11年1月1日〜平成11年10月30日までの間に原告が使用した旧電子出願端末において障害が発生したことになる。
2原告は平成12年4月26日に,パソコンによって本件実用新案についての第8年分の納付書に対する却下理由通知(乙第5号証の1)を受領している。また原告は平成12年5月24日にパソコンによって本件特許についての第9年分の納付書に対する却下理由通知書(乙第5号証の2)を受領している。
とくに先の本件実用新案に対する却下理由通知書(乙第5号証の1)によって,本件実用新案が平成11年4月23日までを以て消滅した事実を知らされた。
この事実によって,本件実用新案の失効を認識し,事故が発生したとの認識を持つに至った。
とくに本件実用新案の第7年分の実用新案登録料の納付がなされないことが権利失効の原因になっていると同却下理由通知書(乙第5号証の1)に記載されているために,第7年分の登録料の納付手続を行った旧電子出願端末に何等かの異常があったものと推定し,同旧電子出願端末のサポート契約をしていた日立製作所に対して平成12年5月9日に問合わせを行なった。
この問合わせに対して,翌平成12年5月10日に株式会社日立情報システムズ官公第2システム部のMシステムエンジニアが原告事務所を訪れ,特殊な吸出しツールと称されるソフトウエアを用いて旧電子出願端末の検証を行なった。そしてMシステムエンジニアは,本件実用新案について甲第19号証に示す書類と甲第20号証に示す2つの書類とがハードディスク上にクラッシュした状態で記録されている述べるとともに,原告が使用していたこの旧電子出願端末には平成11年1月法改正に伴うバージョンアップ媒体のインストールがなされていないことを告げた。Mシステムエンジニアによれば,バージョンアップ媒体がインストールされていないために,登録系の書類の受領に障害を生じたとのことである。
ここで甲第19号証に示す書類と甲第20号証に示す書類の内の1方が平成11年4月27日付で発送された補充指令書(乙第3号証)に対応し,甲第19号証に示す書類と甲第20号証に示す書類の内の他方が平成11年8月11日に送達された手続却下の処分(乙A1号証)に対応するものと推定される。しかるにこれらの書類は,甲第19号証および甲第20号証に示すように,まともな状態で読めるものではなく,その内容を理解することは全く不可能であった。
3原告が平成12年4月26日に受領した本件実用新案に関する却下理由通知書(乙第5号証の1)の受領は,本件訴訟の対象である12特総3065号,3066号(併合)に係る異議申立の却下決定の違法性を何等治癒するものではない。何故ならば同決定は,平成11年8月11日付の却下処分(乙A1号証)に対してなされたものであるからである。
同様に原告が本件特許について平成12年5月24日付で受領している却下理由通知書(乙第5号証の2)が本件訴訟の対象である12特総3063号,3064号(併合)に係る異議申立却下決定の違法性を何等治癒するものではない。何故ならば同決定は,平成11年6月30日付の却下処分(乙B1号証)に対してなされたものだからである。
また乙第5号証の1の却下理由通知書および乙第5号証の2の却下理由通知書は何れも被告の原告に対する処分には当らない。従ってこれらの通知書が行政不服審査法による異議申立の対象となる処分としての地位を有していない。しかも乙第5号証の1の却下理由通知書および乙第5号証の2の却下理由通知書は乙A1号証または乙B1号証の却下処分とは直接の関係を有していない。すなわちこれらの却下理由通知書(乙第5号証の1,乙第5号証の2)はその翌平成12年に原告が行なった甲A7号証または甲B7号証の納付手続に対してなされたものである。従って乙第5号証の1の却下理由通知書および乙第5号証の2の却下理由通知書が,乙A1号証の処分あるいは乙B1号証の処分に対する異議申立手続について法律的な因果関係が存在しない。
4原告は乙第5号証の1および乙第5号証の2に示される却下理由通知書を以て,とくに乙第5号証の1に示される本件実用新案についての第8年分の納付書に対する却下理由通知書の内容によって本件実用新案登録の消滅を知り,日立製作所に対して旧電子出願端末上のトラブルに関して問合わせを行なっている。この問合わせに対して同社のMシステムエンジニアから上述の報告を受けたことを以て,被告は原告が平成12年5月10日に本件処分1を知った旨主張する。
しかるにこの主張は明らかに失当である。何故ならば乙第5号証の1に示される却下理由通知書は乙A1号証として示される本件実用新案についての却下処分とは独立別異の書類だからである。同様に乙第5号証の2として示される本件特許についての却下理由通知書は,乙B1号証に示される却下処分とは明らかに相違し,独立別異の書類である。しかも乙第5号証の1および乙第5号証の2の却下理由通知書には,乙A1号証あるいは乙B1号証に示す処分がそれぞれ添付されていない。従って原告が乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の却下理由通知書を受取ったとしても,このことによって原告が乙A1号証あるいは乙B1号証の手続却下の処分を知ったことにはならない。
乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の却下理由通知書と乙A1号証あるいは乙B1号証の処分とは明らかに互いに別の内容をもち,互いに別の機能を有するものである。また記載されている内容も相違する。従ってたとえ本件実用新案あるいは本件特許に関するからといって,そのことを以て原告が乙第5号証の1の内容を知った場合に,あるいはまた乙第5号証の2の内容を知った場合に,このことによって乙A1号証の手続却下の処分の内容を知ったことにはならず,あるいはまた乙B1号証に示す手続却下の処分になったことにはならない。乙A1号証あるいは乙B1号証に示す手続却下の処分を知ったというためには,この手続却下の処分を原告が提示されるか,あるいはまた入手可能な状態におかれなければならない。単に平成11年5月10日に乙A1号証または乙B1号証に示す手続却下の処分をなしたことを示唆する告知があっても,その告知によって同処分の内容を知ったということはできない。何故ならばいやしくも書面による処分である以上,同書面の内容が読み得る状態あるいは了知し得る状態で入手あるいは提示されなければならないからである。
5行政不服審査法45条は処分があったことを知った日から60日以内に異議申立てをしなければならない旨定める。ここで原告が乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2に示す却下理由通知書を受領した場合に,この却下理由通知書が乙A1号証あるいは乙B1号証に示す手続却下の処分に対する異議申立についての行政不服審査法45条の起算日になるとの認識をもつためには,乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の内容を知ったときに,このことが乙A1号証あるいは乙B1号証の手続却下の処分の内容を知ったことになるとの認識を原告が持たなければならない。
ところが乙第5号証の1の通知書を受領した平成12年4月26日あるいは乙第5号証の2の通知書を受領した平成12年5月24日おいて,原告は乙A1号証の処分あるいは乙B1号証の処分を見ていない。従って乙第5号証の1の却下理由通知書の内容を知ったときに,これによって乙A1号証に係る処分の内容を知ったかどうかの判断がつかない。同様に乙第5号証の2の却下理由通知書の内容を知ったときに,乙B1号証の処分の内容を知ったかどうかの判断がつかない。従って乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の却下理由通知書を受領したときに,その受領の日が乙A1号証あるいは乙B1号証の手続却下の処分に対する行政不服審査法による異議申立の起算日となるとの認識を持つことは不可能である。
被告は乙第5号証の1の通知書あるいは乙第5号証の2の通知書によって本件実用新案あるいはい本件特許が事故によって消滅したことを知ったことを以て,甲A1号証あるはい甲B1号証の却下処分を知ったと主張するが,その主張は失当である。いやしくも書面による処分である以上,その書面の内容を正しく理解し得る状態で提示されなければその内容を知ることができないからである。
被告の上述の主張は結果論に基くものであって,原告が乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の却下理由通知書を受領したとき,あるいはまた旧電子出願端末上において障害が存在したことを知った5月10日の段階の状況に基くものではない。被告は乙第1号証の1の通知書あるいは乙第1号証の2の通知書と甲A1号証あるいは甲B1号証の却下処分とを同時に比較対照し,その上で甲第5号証の1あるは甲第5号証の2を知ったならば,乙A1号証あるいは乙B1号証の処分を知ることができた筈だと論拠のもとに上記の主張を行なっているものと推察される。ところが原告が上記の時点で乙A1号証あるいは乙B1号証の内容を全く見ておらず,その内容を全く了知していない。従って原告の上記の主張は極めて乱暴でかつ大雑把でしかもアバウトであって,精緻な理論的な論証に基くものではない。
原告は平成12年7月26日付で甲A9号証に示す却下処分を受領し,平成12年8月9日に甲B9号証に示す却下処分を受領している。そしてこれらの却下処分の内容と,乙第5号証の1あるいは乙第5号証の2の却下理由通知書との組合わせによって,乙A1号証あるいは乙B1号証に示す手続却下の処分があったとの認識を持った。従って原告が本件実用新案について平成11年8月11日付処分を知ったのは平成12年7月26日である。また原告が本件特許について平成11年6月30日付の却下処分を知ったのは,平成12年8月9日である。従って本件実用新案および本件特許についての異議申立に係る処分を知った日に関する原告の主張に齟齬はない。
原告準備書面-被告主張(3)に対する反論(抜粋)「正当な理由」の主張1被告は同被告準備書面(4)14頁18行目〜15頁4行目において,原告が「正当な理由」を明らかにしていないと主張する。しかるに正当な理由は客観的に存在する。すなわち本件実用新案および本件特許の失効の直接な原因は,日本特許情報機構が平成10年1月1日施行の法改正に伴うソフトウエアを貸借契約契約者に対して配布していないことによって起ったものである。被告は日本特許情報機構に対して,旧電子出願端末上で使用するソフトウエアの供給の業務委託を行なっているものの,旧電子出願端末を用いたオンラインシステムの管理の最終的な責任は被告に存在する。すなわちオンラインシステムによって書類の送達をする場合には,その設備面およびソフトウエアについて十分な管理責任が要求されることは既に原告が主張した通りである。しかるに日本特許情報機構は平成10年1月1日施行の法改正に伴うソフトウエアの供給を怠ったばかりでなく,被告はこのソフトウエアの供給ミスを看過し,オンラインシステムを機能不全の状態に放置した。この管理責任は被告に存在する。
2ソフトウエアの業務委託を受けた日本特許情報機構は政府系特殊法人であって被告配下の特殊法人である。従って被告は管理責任の他に,日本特許情報機構に対する監督責任をも有している。従って被告は日本特許情報機構の監督責任をも怠ったことになる。よって被告は今回のオンラインシステムの機能不全に対して二重に責任を怠ったことになる。
3原告が使用するオンラインシステムは日立製作所が製作するハードウエア上において,日本特許情報機構が供給するソフトウエアを作動させ,これによって被告との間で書類の授受を行なうシステムである。日立製作所は日本有数の電子機器メーカーであり,日本特許情報機構は被告直轄の政府系特殊法人である。従って日立製作所および日本特許情報機構が関与するオンラインシステムに原告が全幅の信頼をおいたとしても,何の不思議もない。少なくともオンラインシステムの機能不全に関し,原告に帰責性はない。ましてやオンラインシステムの機能不全によって生ずる危険を原告が負担する義務もいわれもない。これが原告が主張する正当な理由そのものである。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智
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