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事件 平成 13年 (ワ) 2390号 損害賠償請求事件
平成 13年 (ワ) 7358号 損害賠償請求事件
本訴原告(反訴被告) アルスコーポレーション株式会社
訴訟代理人弁護士 松田敏明
本訴被告(反訴原告) 久保田工業株式会社
訴訟代理人弁護士 小原望
同 高橋建嗣
同 中村豪
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/12/11
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本訴被告は、本訴原告に対し、金179万9583円及びこれに対する平成11年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴被告は、反訴原告に対し、金65万円及び内金10万円に対する平成12年3月14日から、内金55万円に対する平成12年5月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 本訴原告及び反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じて5分し、その1を本訴原告(反訴被告)の、
その余を本訴被告(反訴原告)の各負担とする。
事実及び理由
請求
(本訴) 本訴被告は、本訴原告に対し、金197万0284円及びこれに対する平成11年4月1日(最終不法行為日の後)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(反訴) 反訴被告は、反訴原告に対し、金250万円及び内金25万円に対する平成12年3月14日(不法行為日)から、内金225万円に対する平成12年5月31日(最終不法行為日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(附帯請求の起算日を平成12年3月14日とするものは、後記争点5の(被告の主張)(2)の仮処分事件についての弁護士費用である。)。
事案の概要
本件は、本訴において、後記実用新案権を有していた本訴原告が、本訴被告による別紙物件目録各記載ののこぎりの製造販売が同実用新案権を侵害したことにより損害を被ったとして、本訴被告に対し、民法709条、実用新案法29条1項に基づく損害賠償を請求したのに対し、反訴において、前記実用新案権が既に消滅していたにもかかわらず、反訴被告が、@反訴原告に対し同目録各記載ののこぎりの製造販売禁止等を求める仮処分命令を申し立てた、A反訴原告による別紙物件目録各記載ののこぎりの製造販売が前記実用新案権を侵害している旨の書面をその取引先に送付したことにより損害を被ったとして、反訴原告が、反訴被告に対し、民法709条に基づく損害賠償を請求した事案である。
(略称) 本訴原告(反訴被告) ―「原告」 本訴被告(反訴原告) ―「被告」 後記争いのない事実等1記載の実用新案権 ―「本件実用新案権」 本件実用新案権に係る考案 ―「本件考案」 別紙物件目録1ないし3記載ののこぎり ― 個別では「被告製品1ないし3」、一括して「被告製品」 後記争いのない事実等3(1)記載の仮処分命令申立事件―「本件仮処分事件」 後記争いのない事実等3(2)記載の各書面 ―「本件書面」 (争いのない事実等) 1 原告(変更前の商号「アルス刃物製造株式会社」、甲4)は、次の実用新案権(本件実用新案権)を有していた(甲1、10)。
登録番号 第1876257号 考案の名称 折畳み式のこぎり 出願日 昭和60年9月28日(実願昭60-148293号) 公告日 平成2年11月13日(実公平02-042402号) 登録日 平成3年12月11日 実用新案登録請求の範囲 鞘体先端から、引出された鋸刃の基部側面にガイド舌片を突設すると共に、鋸刃の基部には該鋸刃引出し時に上記ガイド舌片上へ突出し、かつ鋸刃折畳み時にガイド舌片内へ没入する係合部を形成し、また上記鞘体に支点ピンを中心に起倒可能な操作片を取付け、かつ該操作片に上記突出した係合部に掛合させうる略U曲状の係止環を、該係止環の両脚端を上記支点ピンに対し前後に位置を違えて操作片に係着することにより、この係止環(「係止還」とあるは誤記と認める。)に鞘体押当方向の弾性力を附与せしめてなる折畳み式のこぎり。
2(1) 被告は、平成10年5月から平成11年3月までの間、被告製品1ないし3をそれぞれ2718本、196本、32本(合計2946本)、業として製造販売した。
(2) 被告製品は、本件考案の実用新案登録請求の範囲記載の構成のストッパー部分を備えた折畳み式のこぎりである。
3(1) 原告は、平成12年3月14日、被告ほか3社に対し、被告製品1ないし3を含むのこぎりの製造販売禁止等を求める仮処分命令を申し立てた(本件仮処分事件。当庁平成12年(ヨ)第20016号、乙3、4)。
(2) 原告は、平成12年5月30日及び同月31日付けで、被告の取引先である株式会社東急ハンズに対し、被告製品の販売は本件実用新案権を侵害するものであるから、これを販売しないこと等を申し入れた書面(本件書面。乙14、15)を送付した。
4 ところが、本件実用新案権は、平成11年11月13日に、第10年分登録料不納により消滅していた。
(争点) 1 被告製品全体が本件考案技術的範囲に属するか。
(原告の主張) 本件考案技術的範囲が「折畳み式のこぎり」であることは、本件実用新案権に係る明細書に明記されており、被告製品は全体として本件考案技術的範囲に属する。
(被告の主張) 否認する。本件考案におけるのこぎり部分に従来ののこぎりの技術や機能と異なる点はないから、本件考案技術的範囲は、のこぎり全体ではなく、のこぎりに付けられたストッパー部分に限られる。
2 権利の濫用 (被告の主張) (1) 原告は、昭和40年代から、本件実用新案権の実施品を製造販売しており、被告に対して送付した警告書でも、この事実を認めていたから、本件考案には、その実用新案登録出願前に公然知られた考案又は公然実施をされた考案として明らかな無効理由がある。
(2) 仮にそうでないとしても、次の事実に照らすと、原告の本訴請求は権利の濫用に該当する。
ア 被告において、原告からの警告書を踏まえ、原告を相手方とする調停(大阪簡易裁判所平成11年(メ)第33号実用新案権実施料確定調停申立事件)を申し立て、被告製品の販売停止の事実を再三説明した上、被告製品の過去の販売数等を原告に開示して、本件紛争の円満な解決を図ろうとしたにもかかわらず、原告側が何ら譲歩しなかったため、同調停は不調に終わった。
イ その後、原告は、被告製品の販売停止の事実を知りながら、被告に事前に通知することもなく、本件仮処分事件を申し立て、同手続中においても、申立ての趣旨や理由を追加したり変更したりしたほか、その申立てが却下されそうになると、これを取り下げるという被告側からみて嫌がらせとしか解釈できない対応に終始した。原告主張の調査も、本件仮処分事件申立てから2か月半も経過した後に初めて行われたにすぎない。
ウ 原告が本件書面を被告の取引先に送付したのも、被告製品の販売停止の事実を知りながら、被告の営業を妨害するためである。原告主張のように調査目的というのであれば、同一取引先に対しては1通の書面送付で足りるはずなのに、原告は、被告による本件実用新案権の侵害をことさら記載した書面を1日違いで2通も送付している。
(原告の主張) (1) 否認する。原告は、本件実用新案権の実施品である折畳み式のこぎりを製造販売する以前は、別の実用新案権(実公昭49-1916号)に基づく折畳み式のこぎりを製造販売しており、本件考案の実用新案登録出願後に、これと交代する形で、本件考案の実施品が製造販売されるようになったにすぎない。
(2) 否認する。
ア 原告の警告書に対し、被告は、顧問弁理士と相談の上、本件実用新案権が有効であると認め、被告製品の販売を停止する旨を約束し、原告に謝罪していたにもかかわらず、その後、前言を撤回して、本件実用新案権の無効主張と恩恵的にロイヤリティを単価の3%とする内容のライセンス契約の締結を一方的に提案し、
被告主張の調停においても同様の提案にとどまったため、原告がこれを拒否したにすぎない。
イ 原告としては、被告による本件実用新案権の侵害行為が継続している可能性があることから、本件仮処分事件を申し立てたのであって、実際上も、原告の調査によれば、平成12年4月1日にベターライフ宗像店において、同年6月12日にはホームセンター「Bマート岸和田店」において、いずれも被告製品2が販売されていた。また、原告が本件仮処分事件の申立てを取り下げたのも、被告が前記調停時と同様の一方的主張を繰り返すのみで、和解の余地がなかったことから、損害賠償請求訴訟を提起することとしたにすぎない。
ウ 被告から被告製品販売停止の連絡はあったものの、前記イのとおり、被告製品2の販売が継続されていたことから、原告としては、他の被告製品についても販売継続の可能性があるとして、その事実を確認する趣旨で、本件書面を被告の取引先に一括して送付したのであって、被告の営業を妨害するためではない。
3 原告の損害 (原告の主張) 合計197万0284円(608×2946+179116) (1) 被告製品と競合する原告製品(折込剪定のこぎり150o(210DX))の平均販売価格は、1190.50円((1242+1139)÷2)である。同原告製品の製造原価は1本当たり483.51円であり、その販売に要する経費は、1本当たり99円(平均販売価格1190.50×販売経費率8.36%)である。したがって、同原告製品の純利益は、1本当たり608円(1190.50-483.51-99)である。弁護士費用は17万9116円である。
被告製品全体が本件考案技術的範囲に属する以上、ストッパー部分に限られるとする被告の主張は根拠がない。
(2) 本件考案に基づく折畳み式のこぎりは、のこぎりを開いた状態で固定する際、少ない手数で固定できるとともに、ロックのし忘れによる不測の事故発生を未然に防止できる機能を有する点で、従来型に比し、多大な付加価値を持つものであり、従来型のものは市場における販売競争力を失い、本件考案なしに折畳み式のこぎりを販売することは事実上不可能となったから、因果関係を有することは明らかであり、その寄与度も100%に近い。
(被告の主張) (1) 原告主張の損害は否認する。原告主張の経費は人件費が全く考慮されていない。原告の第36期確定決算報告書によれば、その営業利益は売上高の2.8%にすぎないから、前記原告製品の純利益は、1本当たり33.474円にとどまる。また、@本件実用新案権の及ぶ範囲が、物を切断するという本質的機能を有する刃の部分とは別個の、補助的機能を有するにすぎないストッパー部分に限られること、A原告自身が、本件実用新案権の無効理由を自認し、これを登録料不納により消滅させた点で、侵害者利益や実施料相当額(1本当たり0.05円)の範囲を逸脱すべきではないこと等を考慮すると、その損害額は僅少なものである。
(2)ア 因果関係は否認する。@被告は、平成11年3月ころから、被告製品の販売を中止し、本件考案に基づくストッパー部分をすべて取り替えたのこぎりを販売するようになったが、のこぎり自体の性能とは全く無関係であり、同取替の前後でのこぎりの販売状況に変化はなかった、A被告製品の大半を占める被告製品1の1本当たりの販売価格は500円であり、原告製品(1本当たり1190.50円)よりも極めて低廉である、Bのこぎりの需要者は、通常、物を切断するというのこぎりの本質的機能に着目してこれを購入するのであって、被告製品の購入者全員が、本件考案のストッパー部分に着目して購入したわけではないから、被告製品が販売されていなければ、同数の原告製品を販売できたとはいえない。
イ 本件考案の寄与も皆無である。被告製品の販売停止の前後では、むしろ停止後の販売数が多く、販売時における被告製品や原告製品の展示状況に照らしても、需要者が本件考案に関するストッパー部分に着目するとは考えられず、他店における販売実績も低い。登録料不納により本件実用新案権を消滅させた原告自身の態度からも明らかである。
4 原告の故意過失、違法性 (被告の主張) (1) 原告は、本件実用新案権の登録料の既払分が9年分までであることを知っており、本件仮処分事件申立前には、被告に対し、本件実用新案権に基づく警告書を送付し、これについての民事調停の席において被告と交渉していたのであるから、本件仮処分事件申立時には、被保全権利が存しないことを知っていた。仮にそうでないとしても、本件仮処分事件を申し立てる際には、原告としては、本件実用新案権の登録原簿を調査するなどして登録料納付の事実を調査すべき義務があるのにこれを怠り、本件実用新案権が消滅していたにもかかわらず、本件仮処分事件を申し立てたのであるから、原告には故意又は重大な過失があり、その行為は違法である。また、争点2(2)記載の被告主張の事実によれば、本件仮処分事件は、被告製品の販売継続についての疎明資料が不十分なまま、濫用的に申し立てられたものであり、その後の保全手続における原告の遂行状況に照らし、本件仮処分事件には保全の必要性がなかった点でも、違法である。
(2) 原告は、@本件実用新案権が消滅したのに存在する、A被告製品が本件実用新案権を侵害しないにもかかわらず、侵害する旨を記載した本件書面を、株式会社東急ハンズ(特に同社に対しては、2度にわたる。)のみならず、被告の他の取引先に送付した(原告による本件書面の送付目的が被告製品の販売調査にあるなら、本件書面を一社だけに送付したとは考えがたく、本件書面の記載上も、その宛先部分のみが書き込み式とされたことに比し、担当者の宛名が記載されておらず、
本文の記載も取引関係のないことを前提としている。)。
(原告の主張) (1) 原告の故意過失及び違法性はいずれも否認する。原告は、鋏、のこぎりのメーカーとして多数の特許権や実用新案権等を保有し、特許権や実用新案権については3年毎に社内で権利維持要否の判断書を作成した上で、その要否を判断しており、登録料も、初回は3年分までを一括納付し、その後は、失効する3ないし6か月前に台帳(現在はパソコン)を確認して、権利維持を要すると判断したものについて納付していた。本件実用新案権についても、既払登録料の期間(平成11年11月13日)の3ないし6か月前に、同台帳の確認を行い、係争中であることから、当然に納付継続を行うものとして、本来作成すべき権利維持要否の判断書を作成することなく、次年度の納付処理に回していた(係争中の権利として特別扱いをした)ところ、なぜか納付処理が行われなかったものである。原告としては、通常の業務の一環として登録料納付が行われてきており、本件実用新案権が消滅しているとは思いもよらないことであったから、原告がこれを見落としたとしても、やむを得ない事情があるといえる。本件仮処分事件における保全の必要性がないことも否認する。被告の前記調停申立後のみならず、本件仮処分事件申立後においても、
被告製品は市場に出回っていた。
(2) 被告が本件書面を株式会社株式会社東急ハンズに送付したことは認めるが、その余は否認する。
5 被告の損害 (被告の主張) (1) 被告は、原告による本件書面の送付(虚偽の事実の告知)により、営業上の信用が大きく毀損された。この損害は200万円を下らない。
(2) 被告は、原告の本件仮処分事件の申立てにより、同事件において争わざるを得なくなり、また、本件反訴の提起も余儀なくされた。これらの弁護士費用は50万円(本件仮処分事件、本件反訴につき各25万円)を下らない。
(原告の主張) (1) 否認する。被告が過去に本件実用新案権を侵害する被告製品を製造販売していたことは事実であるから、これが被告の取引先に知れたとしても、その信用を毀損することにはならない。
(2) 否認する。
判断
1 争点1(被告製品全体が本件考案技術的範囲に属するか。)について 被告は、本件考案技術的範囲がのこぎりに付けられたストッパー部分に限られる旨を主張するが、本件実用新案権に係る明細書の実用新案登録請求の範囲の末尾には「……せしめてなる折畳み式のこぎり。」と記載され、本件考案が「折畳み式のこぎり」に関する考案であることが明記されており、考案の詳細な説明欄や添付図面上にもこれを否定する記載は窺われない(甲1)。したがって、本件考案の特徴がストッパー部分に存するとしても、実用新案登録請求の範囲記載の構成を具備した「折畳み式のこぎり」である被告製品の全体がその技術的範囲に属することは明らかである。被告の前記主張は、実用新案法26条(特許法70条1項の準用)に反するものであって、採用することができない。
2 争点2(権利の濫用)について (1) 被告は、原告が作成して被告に送付した警告書(乙1)上の記載を根拠に、本件考案には明らかな登録無効理由(実用新案登録出願前に公然知られた考案又は公然実施をされた考案)がある旨を主張する。確かに、前記警告書には「(被告製品1が原告の有する本件実用新案権を侵害することを指摘した上で)当社の右商品(折畳み式のこぎりを指すと解される。)は昭和40年台(代の誤記)から右形態・機能のもと製造・販売しており」との記載があり、文面上趣旨が明確とはいえないが、原告が本件考案の実施品である折畳み式のこぎりの製品を昭和40年代から製造販売していたことを述べているように取れなくもない。しかし、同書面は原告代表者又は担当者が直接作成したものではなく、同代理人弁護士(本件仮処分事件を担当した申立人代理人弁護士の1人である。)の作成に係るものである上、
警告書の前記記載も、不正競争防止法上の保護を受けることを主張する文脈で記載されているのであって、警告書の作成に当たっても、この趣旨を強調したい余り、
争点4で判示した本件仮処分事件の場合と同様に、事前に履践すべき基本的な事実調査を怠ったまま、例えば当事者本人の漠然とした陳述を自己に有利な事情と考えて記載した等の可能性があるから、その記載の真実性については慎重な判断を要すると考えられる。しかるところ、前記警告書引用に係る原告製品が依拠するという本件とは別の実用新案権が実在し(甲23。その出願人の住所氏名に照らし、原告関係者のものと認める。)、本件実用新案権の実施品という折畳み式のこぎりの設計図の作成も昭和61年のことであり(甲24の1、2)、それ以前の原告製品の雑誌広告やパンフレット上、本件実用新案権の実施品といえるものが見当たらない(甲26、27)。このように、事後的にせよ、原告において自己の主張を裏付ける一応の証拠を提出したのに対し、本来立証責任を負担する被告において、遅くとも平成11年4月10日の時点で本件訴訟代理人弁護士の1人が関与し、この点を主たる攻撃防御方法として既に主張しておきながら(甲13)、約2年半が経過した現時点においても、該当製品等に関する具体的立証はなされていない。これらの事情を総合すると、本件考案がその実用新案登録出願前に公然知られた考案又は公然実施をされた考案であるとはいえない。被告の前記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
(2) 被告は、本件訴訟前の原告被告間の交渉経過上、本訴請求は権利の濫用に該当すると主張するが、証拠(後掲各書証)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告は、原告から送付された平成11年3月15日付け警告書(乙1)に対し、企画営業部部長の名義で、同月24日付け回答書(甲11)において、顧問の弁理士と協議の上、被告製品1が本件考案技術的範囲に属するものと判断し、その製造販売を停止し、被告の代理店や販売店にも該当製品の販売停止を通知することとしたとの趣旨を回答した上、迷惑をかけたことについて謝罪までしていた。
イ そこで、原告が、平成11年4月1日付け通知書(甲12の1、2)において、被告に対し、被告製品1の製造販売期間、総売上、利益の回答や謝罪広告の要求等をしたところ、被告は、代理人弁護士作成の同月10日付け書面(甲13)において、本件実用新案権はその実用新案登録出願前に公然知られた考案又は公然実施をされた考案であるから無効であるなどと主張して前記回答(甲11)を撤回してきた。同書面では、契約期間を本件実用新案権の有効期間、ロイヤリティを単価の3%とする旨のライセンス契約の締結を申し入れる旨の記載もあったが、これは、被告の責任がないことを前提としつつ、紛争の円満な解決のためという留保を付した上でのものであった。
ウ 被告は、平成11年6月9日、原告を相手方として、本件実用新案権について適正な実施料の支払を条件とした実施許諾を求める旨の調停(大阪簡易裁判所平成11年(メ)第33号実用新案権実施料確定調停申立事件、乙2)を申し立てたが、前記書面(甲13)と同様に、本件実用新案権の有効性を否定する態度を維持しており、原告側のさしたる譲歩もなかったため、同調停は不成立に終わった(乙3)。
エ 本件仮処分事件の申立て(乙3)に対し、被告が、過去に被告製品を製造販売していたことはあるが、原告送付の警告書(乙1)受領後は中止したから、
保全の必要性はないなどと認否反論した(乙4)ところ、原告は、被告製品2が平成12年4月11日時点においても小売店で販売されていたと反論し(乙6)、これに沿うかのような疎明資料(甲18)を提出した。被告による、@被告代理店(販売店)は本件実用新案権と抵触しないように変更された新製品を被告製品2と同一の商品名で販売している、A仮に小売店において被告製品2が販売されているとしても、被告の製造販売中止前に出荷されたものが売れ残っていたにすぎない旨の再反論(乙8)に対しても、原告は、平成12年6月21日時点における別の小売店での被告製品2販売の事実を更に主張し(乙10。「12日」とあるは、その引用に係る疎明資料に照らし、誤記と認める。)、一応の疎明資料(甲21、22)を提出した。この間、原告が被告に対する本件仮処分事件の申立てを一部取り下げた(乙5)ことはあったが、被告の主張事実(乙4)を前提とするものであったし、他の債務者に対する関係で申立ての追加をしたことはあったが、被告に対して申立てを追加するものではなかった(乙6、7)。本件仮処分事件(被告関係)は、最終的には、平成12年8月17日に原告がこれを全部取り下げることにより終了した(乙13)。
オ 原告による本件書面の送付は、その2通を一体のものとして行い(乙14、15の各表題部参照)、原告の主たる意図は、被告製品を今後販売することへの警告という点のほか、被告製品の販売調査という点にもあり、特に後者の点は、
過去の販売事実を広く回答対象とするものであった(乙14、15)。
前記認定事実によれば、本件仮処分事件の申立てにおける原告側の事前準備が杜撰であったため、申立ての趣旨や理由が変遷するなど、被告側の応訴の負担を加重させたことは否定しがたいものの、被告においても、いったんは自己の非を認める態度を示しておきながら、突然従前の回答(製造販売の停止を含む。)を撤回し、被告製品の製造販売の継続を前提とする調停を申し立て、本件仮処分事件においても的確な攻撃防御方法(本件実用新案権の消滅)を提出しなかったがために同事件の審理が長期化した面を否定できず、かつ、この間、被告がその主張を基礎づける的確な根拠資料を提示したとも認めるに足りないのであるから、原告において、被告の主張事実を真実として直ちに受け入れるべきであったとまではいえない。また、原告において、本件仮処分事件申立後の調査とはいえ、被告製品の販売継続に関する疎明の努力がなかったわけではない。本件書面の送付の点も、本件全証拠によっても本件実用新案権消滅についての原告の悪意を認めるに足りず、原告の被告に対する害意を推認するにも足りない。後記のとおり、本件仮処分事件の申立てが被告に対する不法行為を構成するとしても、原告にはその損害賠償を別途させれば足り、有効に存在していた本件実用新案権を被告が侵害したことについて原告が損害賠償請求権を行使することまでもが権利の濫用に該当するとしなければならない事情も窺われない。これらの事情を総合的に考慮すると、本訴請求が権利の濫用に該当するとまではいえないから、被告の前記主張は、採用することができない。
3 争点3(原告の損害)について (1) 平成10年5月から平成11年3月までの間に被告が被告製品を製造販売した数量が2946本であることは前記第2の(争いのない事実)2(1)のとおりであるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は本件考案の実施品たる折畳み式のこぎりをこの程度の数量製造販売する能力があったものと認められる。
そして、後掲各書証のほか、特段の反証のない本件においては、被告の侵害行為がなければ原告が販売することができた物の単位数量当たりの利益額は、次のとおりであると認められる。
@被告製品と競合する原告製品(210DX)の平均販売価格は1172.80円((1139+1150+1161+1172+1242)÷5。甲8)。
(平均販売価格という以上、該当製品すべての平均値を観念するのが通常であり、最高価格と最低価格のみの平均値をいう原告の主張をより合理的とする根拠も見当たらないから、原告の前記主張は採用することができない。) A同原告製品の製造原価(製造直接費と同間接費の合計)は1本当たり483.51円(甲7)。
Bその販売に要する経費は1本当たり129.35円。
(平均販売価格1172.80×販売経費率11.03%(235142351÷2131182723。甲6、28及び弁論の全趣旨)(原告の第36期(平成10年8月21日〜平成11年8月20日)確定決算報告書の損益計算書によれば、純売上高(国内分)は2131182723円、販売費及び一般管理費は783807838円。原告は、販売経費率は8.36%(178226064÷2131182723)であると主張するが、前記損益計算書「販売費及び一般管理費」のうち、発送運賃、荷造包装費、広告宣伝費及び販売促進費は、原告が本件考案の実施品を製造販売するに当たっても追加的に必要になる費用であると認められる(これらの費目の合計が原告主張の178226064円)。しかし、販売費及び一般管理費のうちには、これらの費目以外についても原告の上記製品の製造販売のために必要になるものもいくらかは含まれているとみるのが相当であるから、
「販売費及び一般管理費」合計額の3割(783807838×0.3=235142351)をもって販売経費と認める。) したがって、同原告製品の1本当たりの利益は、次式のとおりとなる。
1172.80-483.51-129.35=559.94 (2) これに対し、被告は、前記確定決算報告書(甲6)上の営業利益(2.8%)を基準とすべき旨を主張するが、同営業利益は、該当製品の販売に要する費用以外のものを考慮したことが明らかであり、原告の損害はストッパー部分に限られるとする被告の主張も、争点1で判示したとおり、被告製品全体が本件考案技術的範囲に属する以上、採用することができない。因果関係を否定する被告の主張も、その根拠とする主張事実を前提としても、実用新案法29条1項の適用を排斥するには足りない。寄与度に関する被告の主張も、本件考案技術的範囲が折畳み式のこぎりとされており、その一部に限定されたものではない以上、失当であるといわざるを得ない。
(3) 弁護士費用は、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、15万円をもって相当と認める。
(4) 原告の損害の合計額は、次式のとおりとなる。
559.94×2946+150000=1799583(一円未満切り捨て) 4 争点4(原告の故意過失、違法性)について (1) 本件仮処分事件の申立てについて、被保全権利を実用新案権とするのであれば、その登録原簿により同権利の存否等を容易に把握しえたのに比し、同申立てが被告製品の製造販売禁止等を求めるという内容であって、相手方(被告)に事実上の応訴の負担を強いることになる(民事保全法23条4項参照)ほか、これが容れられた場合には、相手方の経済活動に回復しがたい打撃を与えるものであるから、権利消滅事由としての主張立証責任が相手方にあることや民事保全事件における緊急性の点を考慮しても、原告としては、本件実用新案権の登録原簿を事前に調査するなどして登録料納付の事実を調査すべき義務があるのにこれを怠り、登録原簿を事前に調査することはもとより、原告内部の登録料納付担当者等に対する事実確認すら行わなかったというのであるから、本件実用新案権の消滅(被保全権利が消滅した以上、保全の必要性もないに帰する。)にもかかわらず、これを看過して本件仮処分事件を申し立てた原告には重大な過失があり、その行為は違法であるといわざるを得ない(このように解したからといって、民事保全手続の利用を不当に制限する結果となるようなものでないことは、いうまでもない。)。この点に関する原告の主張は、原告内部の事務処理上の過誤をいうにすぎず、被告との関係において当該行為を正当化しうるものではないから、採用することができない(これに対し、本件全証拠によっても、原告の故意を認めるには足りない。)。
(2) 次に、被告取引先(株式会社東急ハンズ)に対する本件書面の送付について検討するに、同書面には、@(同時点における本件実用新案権の存続を前提として)被告製品が本件実用新案権を侵害していること、A当該取引先における過去の被告製品の販売状況の回答を求めること、B今後は被告製品を販売しないように申し入れることを骨子とする記載が存し(乙14、15)、このうち、@が虚偽の事実であることは既に判示したとおりであり、Bも@を論理的前提とするものであるから、虚偽の事実を前提とした申し入れと評価せざるを得ない。もっとも、Aについては、本件実用新案権消滅前において被告製品がこれを侵害していたこと自体は客観的事実と合致するものの、その基準時を本件書面送付時としており、本件実用新案権消滅時(平成11年11月13日)から本件書面送付時(平成12年5月30日又は31日)までの回答を求める部分は、やはり虚偽事実を前提とした回答要求と評価せざるを得ない。したがって、本件書面の送付により虚偽の事実を被告取引先に告知した部分については、被告が本件実用新案権を侵害する製品の販売を現在も継続している旨の印象を第三者に与える等の点で被告の信用を毀損し、場合によっては、同取引先において、紛争に巻き込まれることを回避すべく、被告との今後の取引関係を少なくとも一部中止する事態を惹起せしめる可能性すらあったのであるから、前記(1)で判示したのと同様の理由により、原告には過失があり、また、
その行為は違法であるといわざるを得ない(これに対し、原告の故意を認めるに足りない点は前記(1)と同じである。)。なお、被告は、原告が株式会社東急ハンズ以外の被告取引先に対しても本件書面と同様のものを送付した旨を主張し、確かに、
本件書面は他の取引先への送付にも流用できる体裁であり、これを実行する動機も原告にないとはいえないものの、自己の取引先に関するものとして被告自身による調査も可能かつ容易でありながら、原告の否認にもかかわらず、模索的な証明以上に特段の立証のない本件においては、これを認めるに足りない。また、被告は、株式会社東急ハンズに対する送付が2度にわたり行われた点も主張し、確かに、その作成日及び作成者が異なる点で社会的事実としての時間的同一性を直ちに認めるには足りないものの、同社への具体的な到達時期は立証されておらず、作成日付もわずか1日の相違であり、作成者も代理人弁護士と原告担当者というにすぎないのであるから、法的には一体的に行われたものとして評価するにとどめるのが相当である。
5 争点5(被告の損害)について (1) 原告の本件書面の送付(虚偽の事実の告知)により、被告の信用が害されたことは容易に推認できるものの、同送付時と比較的近接した時点まで被告が本件実用新案権を侵害していたという限度では客観的事実に合致することは否定しがたく、また、証拠上認定しうる送付先もわずか1社にとどまること等に照らすと、この点に関する被告の損害額としては50万円をもって相当と認める。
(2) 弁護士費用について、本件仮処分事件の申立てにより被告が同事件において争わざるを得なくなり、これを弁護士に委任したことは認められるものの、権利消滅事由については、本来、被告がその主張立証責任を負担するほか、登録原簿等の調査によりその被保全権利の存否を容易に把握することができたことは被告側においても同様であり(ただし、この点が原告の過失を否定する事情とならないことは既に判示したとおりである。)、同事件において、登録料不納の事実を防御方法として速やかに提出していれば、直ちにこれを終局させることができたにもかかわらず、被告は、本件仮処分事件において、本件実用新案権の消滅を全く主張立証することなく、その余の点を争点とする攻撃防御に終始していたのであり、本件仮処分事件の長期化を自ら招いた側面があることも否定できないから、本件仮処分事件の申立てに関する弁護士費用としては、10万円にとどめるのが相当である。次に、本件反訴に関する弁護士費用としては、本件事案の難易、請求額、認容額、その他諸般の事情を考慮し、5万円をもって相当と認める。
結論
以上によれば、原告及び被告の各請求はいずれも上記の限度で理由がある(仮執行宣言は、一方のみの権利の早期実現を認める必要性のない本件においては、いずれも相当でないから、付さない。)。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸
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