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関連審決 異議1997-75933
無効2000-35133
関連ワード 分割出願 /  考案 /  図面 /  構造 /  補正 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  明細書の記載要件 /  新規事項の追加(新規事項を追加) /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 396号 審決取消請求事件
原告 株式会社シマノ
訴訟代理人弁護士 清永利亮
訴訟代理人弁理士 小林茂雄
同 平井 真以子
被告 ダイワ精工株式会社
訴訟代理人弁護士 勝田裕子
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 中村誠
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/12/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2000−35133号事件について平成12年8月28日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「中通し釣竿」とする登録第2538358号の登録実用新案(平成3年2月4日に出願された実願平3-3581号について平成8年1月19日になされた分割出願(以下「本件分割出願」という。)に基づき,平成9年3月7日に設定登録された。以下「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
特許庁は,本件登録実用新案の登録につき,異議の申立てを受け,これを平成9年異議第75933号事件として受理した。被告は,この審理の過程で,取消理由通知を受け,その指定期間内に,本件登録実用新案に係る願書に添付された明細書について訂正請求をし,次いで,この訂正請求に対し訂正拒絶理由の通知を受けて,その指定期間内に手続補正をした。特許庁は,上記事件につき,「訂正を認める。実用新案登録第2538358号の請求項1ないし2に係る実用新案登録を維持する。」との異議決定をした(以下,上記訂正を「本件訂正」という。)。
原告は,平成12年3月14日,本件登録実用新案の請求項1及び2に関し,その登録を無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2000-35133号事件として審理した結果,平成12年8月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年9月20日に原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの)(別紙図面参照) 【請求項1】繊維強化複合材料によって形成された竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に,釣糸を外部から内部に導入する,前記軸長方向に長い長孔を設け,該長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成すると共に,該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていることを特徴とする中通し釣竿。 【請求項2】前記長孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり,@本件訂正は,請求の範囲減縮,及び,不明りょうな記載の釈明に相当する,A本件分割出願は,適法であり,その出願日は,平成3年2月4日に遡及する,B本件考案は,実願昭63-74403号(実開平1-178373号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。),特開平2-20233号公報(以下「引用例2」という。),実願昭55-155704号(実開昭57-76474号)のマイクロフィルム(以下「甲第6号証刊行物」という。),実公昭63-34525号公報(以下「甲第7号証刊行物」という。),特開昭56-127032号公報(以下「甲第8号証刊行物」という。)のそれぞれに記載された発明ないし考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとはいえない,と認定判断して,原告主張の無効理由をすべて排斥した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由「【1】手続の経緯」,「【2】本件考案」,「【3】請求人の主張」は認める。同「【4】当審の判断」の「(1)無効理由1について」は,3頁27,28行の「(1-1)「長孔」は・・・記載されており,」,3頁末行ないし4頁1行の「登録明細書の・・・の記載があること」との部分を認め,その余は,争う。同「(2)無効理由2について」は,すべて争う。同「(3)無効理由3について」は,4頁26行ないし28行の「請求人が・・・記載されている。」のうち(すなわち・・・を除く。)との括弧書き部分を除いた部分,及び,4頁33行ないし5頁3行の「請求人は・・・主張している。」との部分は認め,その余はすべて争う。「(4)むすび」は,争う。
審決は,本件訂正が,新規事項の追加にも,実質上の実用新案登録請求の範囲の変更にも当たらない,と誤って判断し(取消事由1,2),本件考案が,実用新案法5条4項,5項の規定に違反し,出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるのに,できるものであると誤って判断し,また,本件分割出願は,出願に係る本件考案が,原出願の明細書又は図面に記載されていないものであることから,不適法となって,出願日の遡及が認められないのに,誤ってこれを認め,その結果,本件訂正に係る本件考案は,出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるのに,できるものであると誤って判断して,本件訂正を認め(取消事由3,4),仮に,本件訂正が適法であるとしても,本件考案は引用例1,2及び甲第6号証刊行物ないし甲第8号証刊行物からきわめて容易考案することができたものであるにもかかわらず,そうではないと誤って判断したものであって(取消事由5),これらの誤りが,それぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り) 審決は,「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」との記載を追加する訂正につき,訂正により記載されるに至った事項(以下「訂正事項1」という。)は,当業者において自明な事項であると認定した上で,「請求の範囲減縮,及び,不明瞭な記載の釈明に相当するものである。」(審決書3頁34行〜35行)と判断した。
しかし,訂正事項1は,願書に添付した明細書又は図面に記載されていない新規事項であり,平成6年法律第116号附則9条2項により準用され,特許法120条の4第3項により更に準用される特許法126条2項の要件を満たしていないものである。すなわち,本件訂正前の願書添付の明細書(以下「登録明細書」という。)又は願書添付の図面(以下「登録図面」という。登録明細書と登録図面をまとめて呼ぶときは,「登録明細書図面」という。甲第9号証参照)には,「該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成されており,・・・この孔35の存在は竿管13の強度を著しく低下させるため,・・・」(段落【0008】)と記載されており,長孔自体の記載は認められるものの,そのいずれにも,「・・・軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」ことについては何らの記載もなされていないばかりか,そこでは,むしろ逆に,上記のとおり,長孔35を形成することにより強度を著しく低下させることが強調されているのである。
審決は,訂正事項1に係る訂正の許否につき,上述のとおり,それは当業者において自明な事項にすぎないとは判断したものの,それ以上には判断しないままに訂正を認めている。しかし,平成5年改正法により,新規事項の追加,すなわち,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項以外の追加は禁止されたのであり,しかも,たとい,自明な事項であっても,新規事項に該当する場合もあるのである(東京高判平成12年3月29日・平成10年(行ケ)第407号参照)。審決は,この点についての判断を遺脱している。仮に,判断しているとすれば,その判断自体が誤りである。
2 取消事由2(実用新案登録請求の範囲の実質上の変更についての判断の誤り) 審決は,請求項1に「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていること」を追加する訂正(以下,この訂正に係る事項を「訂正事項2」という。),及び,その効果として「リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されているため,リールから引出された釣糸を環状ガイドリングに挿通させてから長孔の中を経由して竿管に導入させて釣りを行う場合,釣糸を介して作用する環状ガイドリングへの負荷はより低い位置の厚肉部領域に伝達されるが,ここが厚肉であるために釣糸導入部領域の強度が向上しており,強い。」を追加する訂正(以下,上記訂正に係る事項を「訂正事項3」という。)が,「請求の範囲減縮,及び,不明瞭な記載の釈明に相当するものである。」(審決書4頁14行〜15行)と判断した。しかし,訂正事項2及び同3は,いずれも実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであって,平成6年法律第116号附則9条2項により準用され,特許法120条の4第3項により更に準用される特許法126条3項の要件を満たしていないものである。
(1) 訂正事項2及び同3は,登録明細書図面における「孔周辺部を厚肉に一体に形成したこと」による「釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させる」構成との関連性がなく,単に登録明細書図面における「孔周辺部を厚肉に一体化形成した釣竿」に適用することが可能な,異質の効果を有する構成を追加するものであって,明らかに願書に添付した明細書又は図面における実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものである。
審決は,訂正事項2及び同3が自明な事項であるとして,それだけを根拠に,上記判断をした。しかし,訂正事項は,たとい,自明な事項であり,かつ,請求の範囲減縮又は不明瞭な記載の釈明に相当するものであったとしても,実質上特許請求の範囲を変更するものであってはならない,とするのが,特許法126条3項の規定の趣旨である。審決は,この点についての判断を遺脱している。仮に,判断しているとすれば,その判断自体が誤りである。
(2) 被告は,訂正事項2は,登録明細書請求項1に「釣糸を外部から内部に導入する穴」,「中通し釣竿」の記載があることから,中通し釣竿に設けられた釣糸の導入部を更に具現化し,導入部の構成の一部である環状ガイドリングの位置を限定し,中通し釣竿における釣糸の経路を具体化したものであり,登録明細書の段落【0012】〜【0014】及び【図1】に記載されている。」と主張する。しかし,被告が摘示した段落【0012】〜【0014】も訂正事項2を記載したものではない。そこにおいても,釣糸を導入するのは「ほぼ直線状の管状ガイド47」であるものとされているのであって,環状ガイドリングが釣糸を低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入するとの構成は記載されていないのである。
また,被告の提出した実公昭56-32045号公報(乙第1号証)には,固定環の取付脚を強化することが記載されているものの,それは登録明細書の記載とは無関係である。
3 取消事由3(明細書の記載要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り) 訂正事項2の「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリング」は,訂正明細書実施例には記載されておらず意味不明りょうであり,実用新案法5条4項及び5項の要件を満たさないものである。しかし,審決は,訂正事項2は,「登録明細書の【0012】〜【0014】及び図面1に記載されている」(審決書4頁17行〜20行)と認定した。審決は,具体的に訂正明細書のどの部分の記載が上記構成を記載したものであるか明らかにしていない。したがって,審決は,この点についての判断を遺脱するものである。
また,訂正明細書における考案の詳細な説明においては,「リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する」のは,外枠筒の後端部43から細巾長孔35に向けて傾斜して形成されるガイド孔45に,挿通固定させたほぼ直線状の管状ガイド47であって,環状ガイドリング57は釣糸の摺動抵抗を低減するために設けられているものにすぎないのであるから,環状ガイドリングが「釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する」との請求項1の記載は,考案の詳細な説明の記載と矛盾しており,実用新案法5条4項及び5項に規定する要件を満たしていないのである。審決の上記判断は,いずれにしても誤りである。
したがって,本件考案は,実用新案法5条4項及び5項に違反するものであり,その出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。
4 取消事由4(分割出願要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り) 審決は,訂正事項2の構成が「原出願の明細書の【0015】〜【0017】及び【図1】にも記載されている。」(審決書4頁21行〜22行)と認定し,「本件は適法に分割して出願したものであり」(審決書4頁23行)と判断した。しかし,上記(1)で述べたと同様の理由により,同構成は,実願平3-3581号の願書に最初に添付した明細書(以下「原出願明細書」という。)又は図面(以下,原出願明細書と添付の図面をあわせたものを「原出願明細書図面」という。)に記載されたものではなく,また,それらから自明の事項でもない。審決の上記認定判断は,具体的に原出願明細書のどの部分の記載が上記構成を記載したものであるか明らかにしていないので,審決の影響を及ぼすべき重要な事項について認定判断を遺脱するものであり,仮に遺脱するものではないとしても,そのときは,その認定判断が誤りである。
以上によれば,本件分割出願による出願日の遡及は認められないので,本件考案の法律上の出願日も,現実に本件分割出願がなされた平成8年1月19日ということになる。これを前提にすると,本件考案が,原出願の公開公報である実開平4-100377に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものであって,実用新案法3条2項によりその出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであることは,明らかである。
5 取消事由5(進歩性の判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り) (1) 審決は,原告が本件考案進歩性を否定する根拠として提示した証拠につき,「これら甲号各証には,本件考案の「(竿管に形成した)長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成する」こと,及び「環状ガイドリング」を支持する部材が「厚肉化された領域に取付けられた」ことについて何等記載されていないし,示唆もない。」(審決書4頁29行〜32行)と認定したが,この認定は誤りである。
すなわち,「(竿管に形成した)長孔の孔周辺部に厚肉部を一体に形成する」点については,釣竿に形成した長孔の孔周辺部を厚肉部とすることが引用例1に記載されており,釣竿の釣糸導入用孔の周辺部を肉厚に一体に形成する点は,引用例2及び甲第6号証刊行物に明確に記載されている。被告は,引用例1記載の考案では,孔周辺部の前後部領域が厚肉部に形成されていないと主張するが,同考案でも,長孔の両側部分を主として,長孔の前後部分以外はすべて肉厚となっており,技術的思想としては,長孔の周辺部を肉厚にして補強する技術が記載されているのである。
審決は,甲第5号証について,「このような熱硬化手段を採用すると,「補強用プリプレグシート10」を捲回した部分は,補強繊維の密度は他の部分より高くなるが,厚肉部とはならないのが一般的であり,本件考案の「厚肉部」が記載されているとはいえず,また,「厚肉部」を示唆するものでもない。」(審決書5頁3行〜7行)と認定している。しかし,プリプレグシートの積層数が異なれば,出来上がった釣竿の肉厚が異なることは特開昭60-212334号公報(甲第10号証),特公昭57-26087号公報(甲第11号証),特公昭62-27770号公報(甲第12号証)にみられるように周知であるから,審決の上記認定は誤りである。
(2) 「環状ガイドリング」を支持する部材が「厚肉化された領域に取付けられた」ことについては,引用例1における「ラインガイド59」が,本件考案の「環状ガイドリング」に対応しており,引用例1における「中通し部材41」が本件考案の「厚肉化された領域に取付けられた部材」に相当しているので,引用例1に記載されている,ということができるのである。
たとい,本件考案でいうところの「環状ガイドリング」を訂正明細書図面の図1に示されているようなものに限定したとしても,竿管のおおむね軸長方向に沿った竿管表面に釣糸を外部から内部に導入する導入孔を設け,その導入孔に,その種の「環状ガイドリング」を設けることも,甲第7号証刊行物,甲第8号証刊行物に記載されているように周知技術であり,その点は,当業者が適宜採用できる設計的事項にすぎない。
(3) したがって,審決の「本願考案は,上記各刊行物記載の技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとはいえない。」(審決書5頁10行〜11行)との判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について (1) 登録明細書請求項1の考案の技術課題は,釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させることにあり,同明細書の段落【0008】には「竿管13には,該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成され」と記載され,その他の多数個所に長孔35が記載されている。したがって,請求項1の「孔」を「長孔」と限定することは新規事項の追加ではない。
登録明細書には「竿管13には,該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成されており,この孔35には,外枠筒37に保持された管状ガイド47が傾斜状に挿入されている。この孔35の存在は竿管13の強度を著しく低下させる」(段落【0008】)との記載,及び,「このようにすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることができ,竿管13の強度低下を防止できる。」(段落【0013】)との記載があり,巾の狭い長孔は,巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること,すなわち,長孔は,本件考案の強度低下の防止という技術的課題を解決するに好適な構成であることは,当業者であれば,これらの記載から当然に理解できるところである。そもそも,長孔が巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること及び巾の寸法が強度に大きな影響を及ぼすことは,登録明細書の記載と離れて,それ自体技術常識でもあるのである。
(2) 原告は,審決は,訂正事項1は当業者において自明な事項にすぎないとしか判断していない,たとい,自明な事項であっても,新規事項である場合があることは,一般に知られていることである(東京高判平成12年3月29日)から,審決は判断遺脱の誤りを犯している,と主張する。しかし,訂正事項1は自明な事項であって,これに係る訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。審決は,訂正は明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないとする特許法126条2項の規定に対する正しい判断を,実質的に行なっているのである。なお,上記判決には,自明な事項であっても新規事項である場合があることを明確に述べた記載個所は見当たらない。
2 取消事由2(実用新案登録請求の範囲の実質上の変更についての判断の誤り)について (1) 訂正事項2の「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていること」は,審決認定のとおり,登録明細書請求項1に「釣糸を外部から内部に導入する穴」,「中通し釣竿」の記載があることから,中通し釣竿に設けられた釣糸の導入部を更に具現化し,導入部の構成の一部である環状ガイドリングの位置を限定し,中通し釣竿における釣糸の経路を具体化したものであり,もともと,登録明細書の段落【0012】〜【0014】及び【図1】に記載されているところである。したがって,この訂正は,実質上実用新案登録請求の範囲の変更に相当するものには該当しない。
原告は,釣糸を長孔を経由して竿管に導入するのは直線状の管状ガイド47である旨主張する。しかし,環状ガイドリング57が,リールから引き出された釣糸を案内挿通するものであり,低い位置にある長孔35を経由して釣糸を竿管に導入するものであることは明らかであるから,原告の主張は,恣意的であるといわざるを得ない。
(2) 訂正事項3は,本件考案の中通し釣竿構造(高い位置にある環状ガイドリング)が,本件考案の技術課題(釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させる)を解決する上で必要な構造であることを示したものである。すなわち,登録明細書請求項1の考案の技術課題は,「竿管の強度低下を補強すること」である。そして,訂正事項2の構成から,環状ガイドリングには釣糸を介して大きな負荷がかかることは自明であり,このことは,登録明細書の「凹部55には,例えば,炭化珪素,ジルコニア,アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイドリング57が挿入固定されている。」(段落【0012】)との,材料を耐摩耗性のものに特定した記載からも容易に理解できる。また,リールから繰り出された釣糸は,環状ガイドリングで案内されるため,釣糸の張力等による負荷がこの環状ガイドリングを介し,環状ガイドリングが取り付けられている部材に作用し,さらに,部材が取り付けられている竿管に伝達されることは,乙第1号証に記載されているように技術常識である。
したがって,訂正事項3は,新たな作用効果を追加したものではなく,「釣糸導入孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させる」という訂正前からの一貫した技術課題を解決することを述べたものである。
(3) 以上のように,「環状ガイドリング」に関する訂正は,登録時の請求項1に記載された考案の技術課題を解決するための構成の限定,具現化であり,実質上実用新案登録請求の範囲を変更するもの,には該当しない。
3 取消事由3(明細書の記載要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り)について 原告は,訂正明細書請求項1記載の訂正事項2に係る構成は,実施例には記載されておらず,意味不明瞭であり,実用新案法5条4項及び5項の要件を満たしておらず,その出願の際に独立して実用新案登録を受けることができないものである,と主張する。
しかし,訂正事項2に係る「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていること」との構成が,登録明細書実施例に示されていることは,2で述べたとおりであり,その意味も明りょうである。したがって,原告の主張は根拠がない。
4 取消事由4(分割出願要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り)について 原告は,訂正事項2は,原出願明細書等に記載されたものではなく,また,それらから自明の事項でもないから,本件の分割出願による出願日の遡及は認められず,したがって,本件考案の法律上の出願日は,平成8年1月19日となる旨主張する。しかし,訂正事項2は,原出願明細書の段落【0015】ないし【0017】及び【図1】に記載されているので,本件分割出願は分割要件を満たすものである。なお,原告は,釣糸を長孔を経由して竿管に導入するのは,環状ガイドリング57ではなくて管状ガイド47である旨主張するが,環状ガイドリング57が,リールから引き出された釣糸を案内挿通するものであり,低い位置にある長孔35を経由して釣糸を竿管に導入するものであることは明らかである。原告の主張は,恣意的であるといわざるを得ない。
5 取消事由5(進歩性の判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1記載の考案の「中通し部材41」が本件考案の「厚肉化された領域に取付けられた部材」に相当していると主張するが,引用例1記載の考案においては,孔周辺部の前後部領域(図1では符合51,53が付してある領域)が厚肉部に形成されていないから,引用例1記載の考案の「中通し部材41」は本件考案の「厚肉化された領域に取付けられた部材」に相当するものではない。
原告は,釣竿の釣糸導入用孔の周辺部を肉厚に一体に形成する点は引用例2及び甲第6号証刊行物に記載されていると主張する。しかし,引用例2では,釣糸挿通孔6の周辺部に相当する個所は,凸部形成型8と凸部当て型11とで挟圧された領域となり,凸部形成型8により形成された突出部に薄い補強用のプリプレグシート10を1プライ巻回し,熱硬化処理(加圧加熱成形)しても,プリプレグに含浸させている合成樹脂は所定の加熱により流動化する(樹脂フロー)とともに,流動化した合成樹脂はその位置に留まらず他の円筒部へ流れ出てしまうから,成形された竿管のこの部位が厚肉化されるということにはならない。引用例2についての原告の主張は失当である。
突出部がある場合,孔周辺部には樹脂フローが生じてここが厚肉にならないことは,実願昭60-122344号(実開昭62-30569)のマイクロフイルム(乙第3号証),実願昭63-156434号(実開平2-78066)のマイクロフィルム(乙第4号証),特開平2-303816号公報(乙第5号証)にみられるように,当業者の技術常識である。
甲第6号証刊行物には,周辺部を厚肉にすることが断面図面に示されているだけであり,長孔,環状ガイドリングなど本件考案の他の重要な構成要素については全く開示がなく,しかも,厚肉にする意義等については一切記載がない。
以上のように,引用例1記載の考案の中通し釣竿は,孔周辺部の前後部領域が厚肉部に形成されていない構成であり,また,引用例2には,厚肉化する技術は開示されていないから,これらを組合わせたとしても,本件考案には至らず,したがって,本件考案を,当業者がこれらを組み合わせることによりきわめて容易に想到することができたものとすることはできない。
(2) 引用例1記載の考案における「ラインガイド59」は,引用例1の図1からわかるように,管状又はチューブ状であり,「環状」ではない。すなわち,引用例1記載の考案には環状の部材はないので,そこに,本件考案の「環状ガイドリング」に対応している部材はない。
甲第7号証刊行物,甲第8号証刊行物のものは,いずれも単に孔周辺部に設けられており,本件考案におけるように高い位置にある環状ガイドリングではないので,高い位置にある環状ガイドリングへの負荷が低い位置の長孔周辺部に伝達されるというメカニズムを生じるものではない。
(3) 以上のとおりであるから,審決の認定に原告主張の誤りはなく,「本願考案は,上記各刊行物記載の技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとはいえない。」(審決書5頁10行〜11行)との審決の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件訂正の概要 証拠(甲2,甲9)によれば,本件訂正は,次の(1)の登録明細書の【実用新案登録請求の範囲】の請求項1,2を,(2)のとおりに訂正し,かつ,登録明細書の【考案の詳細な説明】を(3)のとおりに訂正したものであり,アンダーラインを付した部分がその訂正部分である。
(1) 登録時の実用新案登録請求の範囲請求項1】 繊維強化複合材料によって形成された竿管に釣糸を外部から内部に導入する孔を設け,該孔の孔周辺部を厚肉に一体化形成したことを特徴とする中通し釣竿。
請求項2】 前記孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。
(2) 本件訂正による実用新案登録請求の範囲請求項1】繊維強化複合材料によって形成された竿管の概ね軸長方向に沿った竿管表面に, 釣糸を外部から内部に導入する,前記軸長方向に長い長 孔を設け,該長孔の孔周辺部に 厚肉部を 一体に 形成すると共に ,該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていることを 特徴とする中通し釣竿。 【請求項2】前記長孔の縁部の強化繊維に織布を具備してなる請求項1記載の中通し釣竿。
(3) 本件訂正による考案の詳細な説明 【0001】【考案の属する技術分野】本考案は,釣糸を外部から内部に導入する孔を設けた中通し釣竿に関する 【0002】【従来の技術】例えば実開平1-178373号公報(判決注:引用例1)には,中通し部材から竿管内に釣糸を導入し,竿管内を挿通させて先端から導出して使用する中通し釣竿が開示されている。この中通し釣竿には前後の竿管を継ぎ合わせた部分に中通し部材が配置されており,これに釣糸を導入する貫通孔が形成されている。
【0003】【考案が解決しようとする課題】然しながら,この構造では前側の竿管にはこの貫通孔用の,即ち釣糸導入用の切欠部を形成しており,前後の竿管を継ぎ合わせた状態でも,この釣糸導入用の切欠部の周囲の竿管本体は各竿管単独の肉壁部でしかなく,切欠部の影響で釣竿強度が非常に弱くなる。
【0004】依って本考案は,釣糸導入用の孔を設けた中通し釣竿の強度を向上させることを目的とする。また,孔の加工の際や釣りにおいて,孔の縁がささくれたり,裂けや割れの発生を防止することを目的とする。
【0005】【課題を解決するための手段】(実質的に請求項1,2と同文) 【0006】竿管の釣糸導入用孔の孔周辺部を一体厚肉化しているため,孔を設けたことによる竿管の強度低下を補強できる。一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。また,リールからの釣糸を案内挿通させてからより低い位置の長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されているため,リールから引出された釣糸を環状ガイドリングに挿通させてから長孔の中を経由して竿管に導入させて釣りを行う場合,釣糸を介して作用する環状ガイドリングへの負荷はより低い位置の厚肉部領域に伝達されるが,ここが厚肉であるために釣糸導入部領域の強度が向上しており,強い。
また,この長孔 の縁部の強化繊維に織布を具備していれば,孔の加工時や釣りの際にささくれが発生し難く,裂けや割れも防止できる。
【0007】【考案の実施の形態】以下,本考案を添付図面に示す形態例に基づき,更に詳細に説明する。・・・ 【0008】・・・竿管13には,該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成されており,この孔35には,外枠筒37に保持された管状ガイド47が傾斜状に挿入されている。この孔35の存在は竿管13の強度を著しく低下させるため,図示の如く,孔35の縁部を含む周辺部を厚肉部25に形成し,竿管本体部に一体化形成している。
【0009】この形態例では,厚肉部25は図4に示すように,竿管13の本体部27とほぼ同一の肉厚を有し,本体部27より多少大径の中間層29と,この中間層29の内側に一体形成された内側層31と,中間層29の外側に一体形成された外側層33とから構成されている。
【0010】中間層29は,竿管13の本体部27を延設して形成され,本体部27と同様に,例えば,軸長方向繊維を主体としたカーボン繊維等の高強度繊維を強化材とした複合材料によって形成されている。内側層31は,例えば,ガラス繊維,有機繊維等からなる補強繊維の織布を強化材とした複合材料により形成されている。外側層33は,例えば,カーボン繊維,ガラス繊維等からなる高強度繊維の織布を強化材とした複合材料により形成されている。
【0011】・・・外枠筒37には,その後端部43から前記細巾長孔35に向けて傾斜するガイド孔45が形成されている。このガイド孔45にはほぼ直線状の上記管状ガイド47が挿通固定されている。そして,管状ガイドの後端部49が竿管13の外側に位置し,前端部51が竿管13の内側に位置している。
【0012】管状ガイド47の後端には顎部53が形成され,該顎部が外枠筒37の端部に形成されている凹部55に挿入され,該管状ガイド47は接着或いは圧入によって外枠筒37に固定されている。また,凹部55には,例えば,炭化珪素,ジルコニア,アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイドリング57が挿入固定されている。管状ガイド47の前端部51は,厚肉部25の細巾長孔35の先端に当接した後,竿管13の内側に突出している。また,管状ガイド47の前端の内面には,面取平面,或いは面取曲面が形成されている。
【0013】なお,管状ガイド47の中心軸線と竿管13の中心軸線とのなす角度は,20度以下がよく,好ましくは5度から15度に形成するのがよい。また,管状ガイド47の外径は厚肉部25の外径の30%以下が好ましく,このようにすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることができ,竿管13の強度低下を防止できる。
【0014】以上のように構成された中通し釣竿では,竿管13に一体形成された厚肉部25に,竿管13の軸長方向に長径部を有する細巾長孔35を形成すると共に,厚肉部25の外側に外枠筒37を装着し,この外枠筒の後端部43から細巾長孔35に向けて傾斜して形成されるガイド孔45に,ほぼ直線状の管状ガイド47を挿通固定させ,この管状ガイドの後端部49を竿管13の外側に位置させ,前端部51を竿管13の内側に位置させたので,竿管13の釣糸導入部の剛性を従来より大幅に向上させることができると共に,釣糸導入部における釣糸の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。
【0015】即ち,竿管13の先端部の継合部を除いた部分に細巾長孔35の形成される厚肉部25を形成し,この厚肉部に外枠筒37を装着し,この外枠筒37に管状ガイド47を挿通させるようにしたので,竿管13の釣糸導入部21の剛性を従来より大幅に向上することができる。特に管状ガイド47の外径を小さくすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることが可能となり,釣糸導入部21の剛性の大きな低下を防止することが可能となる。
【0016】また,以上のように構成される中通し釣竿では,管状ガイド47と竿管13とのなす角度を小さくすることが容易に可能であり,釣糸導入部21における釣糸19の摺動抵抗を従来より大幅に低減することができる。
【0018】更には,以上のように構成された中通し釣竿では,厚肉部25を織布を使用した多層構造にしたので,細巾長孔35の加工時や釣竿の使用時等にささくれが発生することが防止され,また,大きな応力が作用しても,裂け,割れ等が生じることが防止される。
【0019】【考案の効果】以上の説明から明らかなように本考案によれば,竿管の釣糸導入用孔の孔周辺部を一体厚肉化しているため,孔を設けたことによる竿管の強度低下を補強できる。(判決注:これに続けて,段落【0006】と同文の追加記載がある。)また,この長孔の縁部の強化繊維に織布を具備していれば,孔の加工時や釣りの際にささくれが発生し難く,裂けや割れも防止できる。
2 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について (1) 訂正事項1に係る訂正は,「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することが好ましいが,竿管に対して大きな円形の孔や竿管の幅方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」との記載を,考案の詳細な説明(段落【0006】及び【0019】)に追加するものである。
甲第9号証によれば,この文言自体も,これと同旨の文言も,登録明細書に記載されていないことが明らかである。
甲第9号証によれば,@登録明細書には,段落【0001】に【考案の属する技術分野】が,段落【0002】に【従来の技術】が,段落【0003】〜【0004】に【考案が解決しようとする課題】が,段落【0005】〜【0006】に【課題を解決するための手段】が,段落【0019】に【考案の効果】が,それぞれ記載されていること,Aこれらの段落【0001】〜【0006】及び段落【0019】並びに【実用新案登録請求の範囲】には,「長孔」との記載は存在しないこと,B「長孔」に係る構成が登録明細書に記載されているのは,【考案の実施の形態】を記載した段落【0007】〜【0018】に限定されていることが,認められる。
そして,同号証によれば,【考案の実施の形態】においては,「長孔」に関して,「該竿管の軸長方向に長い細巾長孔35が形成されており,この孔35には,外枠筒37に保持された管状ガイド47が傾斜状に挿入されている。この孔35の存在は竿管13の強度を著しく低下させる」(段落【0008】),「外枠筒37には,その後端部43から前記細巾長孔35に向けて傾斜するガイド孔45が形成されている。このガイド孔45にはほぼ直線状の上記管状ガイド47が挿通固定されている。そして,管状ガイドの後端部49が竿管13の外側に位置し,前端部51が竿管13の内側に位置している。」(段落【0011】),「管状ガイド47の前端部51は,厚肉部25の細巾長孔35の先端に当接した後,竿管13の内側に突出している。」(段落【0012】),「管状ガイド47の中心軸線と竿管13の中心軸線とのなす角度は,20度以下がよく,好ましくは5度から15度に形成するのがよい。また,管状ガイド47の外径は厚肉部25の外径の30%以下が好ましく,このようにすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることができ,竿管13の強度低下を防止できる。」(段落【0013】),及び「管状ガイド47の外径を小さくすることにより,細巾長孔35の巾を小さくすることが可能となり,釣糸導入部21の剛性の大きな低下を防止することが可能となる。」(段落【0015】)との各記載があり,【図1】には,竿管軸長方向に沿って,長孔に管状ガイド47が傾斜状に挿入されている様が図示されていることが認められる。これらの記載及び図示によると,管状ガイドの前端部は長孔の先端に当接し,長孔の後端部にも略当接(【図1】)しているものと認められる。そして,管状ガイドの傾斜角は「20度以下がよく,好ましくは5度から15度」とされており,これを実現する態様で,管状ガイドを挿入するためには,竿管に形成された孔は,管状ガイドの直径よりも十分に長いことが必要であることは自明であるから,管状ガイドを挿入するに必要な寸法として,長孔の長さが決定されていると解することが十分可能であり,このように解するのが最も自然な理解というべきである。
また,管状ガイドを経由して釣糸を竿管に導入する以上,その管状ガイドが竿管軸長方向に沿っている方が操作上好都合であることが自明であると同時に,仮に管状ガイドを竿管巾方向に沿わせた場合には,管状ガイドを挿入するに必要な長さを確保することが困難となることから,軸長方向に長い長孔が採用されていると理解できるものである。すなわち,登録明細書図面の上記認定の記載の下では,軸長方向に長い長孔であることの技術的意義は,その長孔に管状ガイドを傾斜させて挿通させることを可能ならしめることにあるのであって,管状ガイドの存在を抜きにしての技術的意義はなんら存在しないというべきである。
そして,【考案の実施の形態】においては,釣糸は管状ガイドを経由して竿管に導入され,その管状ガイドが竿管内に突出しているものとされていることからすれば,そこでは,釣糸は,長孔と管状ガイドが交差する位置を通過するだけで,それ以外の長孔位置を通過することはあり得ないということができる。
このような状況の下では,釣糸を自在に導入させるに必要な構成は,管状ガイドの径及び傾斜角,並びに管状ガイド後端部の形状に関連するのであって,竿管に形成された孔の面積と直接関連することはないことが,明らかである。
(2) 他方,訂正事項1の「一般に孔は釣糸を自在に導入させるべく大きな領域を確保することか好ましい」との記載は,管状ガイドを経由せずに,直接釣糸を竿管に導入させる場合にいえることである。それに続く「竿管に対して大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔を設ければ,その部位の強度が大きく低下することになるが,軸長方向に長い長孔を設けて大きさを確保すれば強度の低下が防止される。」は,直接釣糸を竿管に導入させることを前提として,同一面積の孔を設けるに当たり,竿管軸長方向の長孔が有利であることを述べたものである。しかし,上記説示のとおり,登録明細書図面には,管状ガイドを経由して釣糸を竿管に導入するための構成として,軸長方向に長い長孔が採用されていたのであるから,その長孔と同一面積の円形孔や巾方向に長い長孔は,そもそも採用の余地がないものであり,それらとの強度比較をすることも無意味なのである。
(3) したがって,訂正事項1記載の効果は,登録明細書図面に記載された事項ということのできないものである。しかも,同記載は,単に,登録明細書に記載されていた構成の効果を追加記載したというにとどまらず,管状ガイドを挿入せずに竿管に長孔を設けるという構成をも追加記載したものというべきであり,登録明細書図面に記載された事項ということができないことは,この点からも明らかである。
以上によれば,訂正事項1は,登録明細書図面に記載した事項の範囲を超えるものであり,「当業者において自明な事項にすぎない。」(審決書4頁12行〜13行)ので新規な事項ではない,とした審決の判断は誤りである。
(4) 被告は,登録明細書の段落【0008】及び段落【0013】の記載を基に,巾の狭い長孔は,巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること,すなわち,長孔は,本件考案の強度低下の防止という技術的課題を解決するに好適な構成であることは,当業者であれば,これらの記載から当然に理解できるところである,そもそも,長孔が巾が広い大きな円形の孔や竿管の巾方向に長い長孔に比べて強度低下の防止に有利であること及び巾の寸法が強度に大きな影響を及ぼすことは,登録明細書の記載と離れて,それ自体技術常識でもあるのである,と主張する。被告摘示の段落に加えて段落【0015】からも,竿管の強度低下が主として孔の竿管の巾方向の巾に依存し,軸長方向の長さにはさほど依存しないという事実自体が示唆されているということはできる。しかしながら,登録明細書図面において,長孔の技術的意義が管状ガイドを設けることにあることは上記説示のとおりであるから,これらの段落の記載は,管状ガイドを挿入するための長孔は,管状ガイドの外径を小さくすることにより,長孔の巾を小さくすることができ,竿管の強度低下を防止できるという事実を述べたにとどまるのであり,したがって,訂正事項1は登録明細書図面に記載された技術とは無関係というべきである。これを新規事項でないとする被告の主張は,到底採用できるものではない。
(5) 取消事由1における,訂正事項1についての原告主張には理由がある。
3 取消事由4(分割出願要件についての判断の誤りに基づく独立実用新案登録要件の判断の誤り)について (1) 証拠(甲3)によれば,原出願明細書図面には,「管状ガイド47の後端には,鍔部53が形成され,この鍔部53が外枠筒37の端面に形成される凹部55に挿入され,管状ガイド47は,接着あるいは圧入によって外枠筒37に固定されている。・・・また,凹部55には,例えば,炭化珪素,ジルコニア,アルミナ等の耐摩耗性材料からなる環状ガイド57が挿入固定されている。」(段落【0015】〜【0016】),及び「管状ガイド47の後端に環状ガイド57を配置し,さらに,管状ガイド47の前端に面取部等を設けたので,釣糸19の摺動抵抗をより低減することができる。」(段落【0020】)との記載があることが認められ,「環状ガイド57」及び「外枠筒37」が本件考案の「環状ガイドリング」及び「厚肉化された領域に取付けられた部材」に,それぞれ相当することは明らかである。
これらの記載によれば,原出願明細書図面においては,「外枠筒37」は管状ガイドを挿通固定するためのものであり,その凹部に管状ガイドの鍔部を挿入することにより,管状ガイドの後端部位置決めを行うものと認められ,鍔部を挿入してもなお外枠筒には凹部が残り,その残部に環状ガイドを挿入固定するものである。そして,環状ガイドに耐摩耗性材料を用いていることの技術的意義は,環状ガイドが最も高い位置にあることから,そこでの釣糸張力が大きいため,耐摩耗性材料を用いることにより耐久性を向上させることにあると理解するのが自然である。また,「釣糸19の摺動抵抗をより低減することができる。」との記載からすれば,環状ガイドは摺動抵抗を小さくする機能をも有すると認めることができる。
そして,環状ガイドが,その用語の意味するとおり,ガイド,すなわち,案内機能を有するかどうかについて検討してみても,釣糸を竿管に案内するのは管状ガイドであるから,環状ガイドは釣糸をせいぜい管状ガイド鍔部まで案内するにすぎないものというべきである。そして,仮に環状ガイドがないとすると,釣竿使用者自身の手により管状ガイド鍔部まで案内することとなるとはいえ,釣竿使用者自身の手により環状ガイドまで案内することと,同じく管状ガイド鍔部まで案内することに,案内の困難性において相違があるとすることもできない。そうすると,環状ガイドは,その用語が案内を意味するものであるとしても,耐摩耗性や摺動性を向上させるために設けられているものというべきであり,独立した1つの案内機能を有する部材と解することはできない。
また,「外枠筒37」は管状ガイドを挿通固定するためのものであり,管状ガイド前端部が長孔先端に当接する以上,外枠筒は長孔全域にわたって竿管に取り付けられていなければならないものである。
(2) これに対し,本件考案は「該長孔近傍の竿管表面よりも高い位置にあり,リールから引出された釣糸を案内挿通させてから低い位置の前記長孔の中を経由して竿管に導入する環状ガイドリングが,前記厚肉化された領域に取付けられた部材を介して支持されていること」を構成要件とするものであって(訂正事項2に係る本件考案の構成である。),管状ガイドを構成要件とするものではないため,釣糸を長孔を経由して竿管に導入するという独立した1つの案内機能を有する部材として環状ガイドリングが設けられている釣竿をも包含し,さらには,「厚肉化された領域に取付けられた部材」が長孔全域にわたらずに取り付けられている釣竿をも包含するものである。このような構成の中通し釣竿が,原出願明細書図面に記載されていないものであることは前示のとおり明らかであるから,「該構成は,原出願の明細書の【0015】〜【0017】及び【図1】にも記載されている。」(審決書4頁21行〜22行),及び「本件は適法に分割して出願したものであり」(審決書4頁23行)との審決の認定判断は,いずれも誤りであることが明らかである。
(3) 被告は,訂正事項(2)は,原出願明細書の段落【0015】ないし【0017】及び図1に記載されている旨主張する。しかし,環状ガイドリング及び外枠筒が,それだけを取り出してみれば,原出願明細書等の実施例に記載されている構成であるとしても,実施例に記載された個々の構成が無条件に考案の構成となりうるものではなく,個々の構成の技術的意義を踏まえ,当業者が一つの技術思想として把握できる構成のみが考案の構成たり得るのである。被告の主張は,結局のところ,原出願明細書に記載された環状ガイドリング及び外枠筒の技術的意義と離れて,別な技術内容を有する環状ガイドリング及び外枠筒が原出願明細書等に記載されていると主張するものであり,失当である。
4 結論 以上のとおり,取消事由1についての審決の認定判断,及び,取消事由4についての審決の認定判断は,いずれも誤りであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由があることが明らかである。
よって,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充
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