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関連審決 審判1999-35239
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 327号 審決取消請求事件
原告 リョービ株式会社
訴訟代理人弁理士 石川泰男
同 山本晃司
同 塩島利之
同 星野哲郎
被告 株式会社シマノ
訴訟代理人弁護士 清永利亮
訴訟代理人弁理士 小林茂雄
同 平井 真以子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/07
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35239号事件について平成12年7月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、考案の名称を「釣竿」とする実用新案登録第2548502号(昭和62年9月19日にした実願昭62-143192号出願の一部を分割して平成3年4月11日にした出願(実願平3-2400号)に基づき平成9年5月30日設定登録。以下「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。
原告は、平成11年5月24日に本件実用新案登録につき無効審判を請求し、平成11年審判第35239号事件として係属したところ、被告は、同年8月30日に訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、その訂正請求書に添付した全文訂正明細書を「本件訂正明細書」という。)をした。特許庁は、同審判事件につき、平成12年7月7日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成12年8月3日、原告に送達された。
2 本件実用新案登録請求の範囲の記載(本件訂正明細書に記載のもの。下線部は訂正箇所)【請求項1】魚釣りを行っている使用状態で進出操作及び後退操作が行われる緩円錐形手元側竿体(1)と緩円錐形の補助竿体(2)とからなり竿体の長さと釣り糸の相対的長さを前記使用状態時に調整するための釣竿であり、 前記緩円錐形手元側竿体(1)の外周に、前記緩円錐形の補助竿体(2)を前記手元側竿体(1)に対して後方に向かって進出可能に套嵌し、
前記手元側竿体(1)の外周と前記補助竿体(2)の先端部内周とに、該補助竿体(2)の進出時に嵌合する第1嵌合部(7)を設けると共に、
前記補助竿体(2)の前記先端部内周と前記手元側竿体(1)の中間位置の外周とに、
前記補助竿体(2)の後退時、互いに嵌合する第2嵌合部(8)を設ける一方、前記補助竿体(2)を前記手元側竿体(1)よりも短く形成して、前記手元側竿体(1)の先側部分に、前記補助竿体(2)の前記後退時に、前記手元側竿体(1)が前記補助竿体(2)に対して前記第2嵌合部(8)の前方に露出させ、握って前記補助竿体(2)を手元側竿体(1)に対して進出させるための非套嵌部(13)を形成すると共に、
前記手元側竿体(1)の手元側端部の外径を前記補助竿体(2)の後端部の内径よりも小径とし、
前記補助竿体(2)の後端部に、前記補助竿体(2)の前記先端部内周と手元側竿体(1)の外周とが前記第2嵌合部(8)により嵌合する前記後退時に、前記手元側竿体(1)の竿尻内周面(14)に外周面が嵌合する第3嵌合部(5)を設け、
かつ 、第3嵌合部 (5)の嵌合長 さを 、第2嵌合部 (8)の嵌合長 さより 長くし たことを特徴とする釣竿。
3 審決の理由の要旨 審決は、別紙1審決書の理由写しのとおり、本件訂正明細書請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)は、実願昭59-108218号(実開昭61-25772号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)、又は実願昭52-39196号(実開昭53-135392号)のマイクロフィルムに記載された考案ではなく、また、これらの考案及び特開昭58-146224号公報に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものでもないから、独立実用新案登録要件を満たすものであるとして、本件訂正請求を認容し、本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由の1(手続の経緯)は認める。同2(訂正について)のうち、本件考案が独立実用新案登録要件を満たすとの判断は争い、その余は認める。同3(請求人の主張)は認める。同4(当審の判断)中の審判甲第1号証(本訴甲第4号証、
引用例)の記載事項及び一致点の認定は認めるが、相違点についての認定判断は争う。
1 取消事由1(本件考案新規性についての判断の誤り) 審決は、本件考案と引用例記載の考案との相違点(a)として、「本件考案が、
『第3嵌合部(5)の嵌合長さを、第2嵌合部(8)の嵌合長さより長くし』ているのに対し、審判甲第1号証(本訴甲第4号証、引用例)の考案は前記構成を備えていない点で構成が相違している。」(相違点(a)、審決書8頁2〜4行)と認定し、
「上記相違点の構成は周知・慣用技術とはいえないから、本件考案が甲第1号証(引用例)・・・に記載された考案とは認められない。」(同頁33〜34行)と判断したが、相違点(a)は下記のとおり技術的には意味のない構成であって、本件考案と引用例記載の考案とは実質的に相違点がないから、審決の判断は誤りである。
(1) まず、相違点(a)に係る構成の技術的意味を検討する前提として、本件考案における構造上の前提条件を明らかにしておくと、本件訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から、手元側竿体1と補助竿体2は円錐形状であること、手元側竿体1の後端外周の径が補助竿体2の後端内周の径より小であることが明らかである。また、図面(別紙2本件考案図面参照)の記載から、手元側竿体1の外周面の竿尻部に第1嵌合部7を形成すべき肉盛部(以下「肉盛部2」という。)と、
同じく中間位置に第2嵌合部8を形成する肉盛部(以下「肉盛部1」という。)とがあることが認められる。さらに、補助竿体2先端部内周面の形状と手元側竿体1の竿尻部内周面の形状は、明細書の記載の全趣旨から、緩円錐形であると解される。
以上のような構造において、手元側竿体1を前方に進出させた場合を考えると、
肉盛部1の外周面と補助竿体2の内周面との接触は、補助竿体2が後退した状態から手元側竿体1を前方に進出させる際に、第2嵌合部8の長さだけ継続し、さらにそれ以上進出させると両者間に大きな間隙が生じる。この間、第3嵌合部5では、
手元側竿体1の内周面と嵌合部材の外周面が円錐面状に接触しているから、手元側竿体1を僅かに前方に進出させると、両者間に隙間が生じ、嵌合が解かれてしまう。
この隙間は、釣竿がFRPのような弾性体材料を使用して製造されることから、
材料の弾性や曲げにより補償されるとしても、「第3嵌合部5の嵌合長さを、第2嵌合部8の嵌合長さより長くし」たことにより、第2嵌合部の嵌合が第3嵌合部のそれよりも先に解かれ、第3嵌合部のみで両竿の保持を図らなければならないという不安定な状態が生じる。
したがって、上記のような状況にある第3嵌合部5と第2嵌合部8との相対的な長さを論じて、そこから明細書記載の考案の効果を導き出そうとすることは、基本的に無意味であり、相違点(a)は技術的に意味のない構成であるといわざるを得ない。
(2) 審決は、「第3嵌合部5の嵌合長さを、第2嵌合部8の嵌合長さよりも長くした」構成により、「掛かった鮎の負荷によって補助竿体2の先端部の方に曲げ負荷が作用している状態でも補助竿体2を容易に進出できる」という効果を奏すると認定しているが、上記構成により、そのような効果が奏せられるとは考えられない。すなわち、本件訂正明細書に、「手元側竿体1の非套嵌部13を握って補助竿体2を手元側竿体1に対し進出させ」(段落【0015】)と記載されているように、手元側竿体1に対して補助竿体2を進出させるときには、手元側竿体1の例えば非套嵌部13を握るのであって、握った時点で、掛かった鮎による曲げ負荷は、補助竿体2の先端部よりも前方の手元側竿体1の非套嵌部13で受けられることになり、曲げ負荷は第2套嵌部8に作用し難くなる。しかも、鮎釣りに使用される竿は、通常数メートルと全長が長く、先端が細く、根本が太いから、根本側の手元側竿体1に撓みの影響は極めて生じ難い。したがって、補助竿体2を進出させる際の容易性に影響を与える程度の曲げ負荷が補助竿体2の先端部の方に作用しているとはいえないから、第2嵌合部8の嵌合長さを第3嵌合部の嵌合長さよりも短くすることによって容易に補助竿体2を進出させることが可能となるとはいえないのである。
補助竿体2を進出させる際の容易性は、むしろ、第3嵌合部5の嵌めあいの隙間及び嵌合長さに依存する。すなわち、本件訂正明細書の段落【0017】に記載された「補助竿体2の後端部に寸法精度の出し易い手元側竿体1の内周面を利用し、
この内周面に嵌合する第3嵌合部5を設けたから、この第3嵌合部5により、後退した補助竿体2を有効に保持できるのである。」との記載及び「寸法精度の出ない手元側竿体1の外周面が嵌合する第2嵌合部8」との記載に示されているように、
第3嵌合部は寸法精度が出るが、第2嵌合部は寸法精度が出ないのであるから、寸法精度の出る第3嵌合部はガタが少なく、寸法精度の出ない第2嵌合部はガタの多い嵌め合いに設定するのが当業者の常識である。そうすると、補助竿体を進出させることの容易性は、第3嵌合部における内・外径の大小、周方向の剛性の大小、材料間の摩擦力の大小、嵌合長さの長短等の複合的要因により定まる嵌合力によって左右されるのである。補助竿体を進出させることが容易になるという被告の主張する効果は、第3嵌合部の嵌合長さと第2嵌合部の嵌合長さとを相対的に限定することによって奏せられるものではない。
(3) 以上のとおり、「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さよりも長くし」た構成によっては明細書記載のような効果を生じるものではないから、上記相違点(a)に係る構成は、技術的に意味のない単なる嵌合長さの限定にすぎず、
当業者が普通に採用すると認められる程度の事項である。
したがって、本件考案は、引用例に記載された考案と実質的に同一である。
2 取消事由2(本件考案進歩性についての判断の誤り) 審決は「本件考案は、上記相違点(a)の構成を備えることにより、掛かった鮎の負荷によって補助竿体2の先端部の方に曲げ負荷が作用している状態でも補助竿体2を容易に進出できる等、明細書記載の効果を奏するものであるから、本件考案が、甲第1号証(本訴甲第4号証、引用例)ないし甲第3号証に記載された考案に基いて極めて容易に考案をすることができたものとすることはできない。」(審決書9頁9〜13行)と判断したが、下記のとおり相違点(a)に基づく効果を誤認して、本件考案進歩性を肯定したものであるから、上記審決の判断は誤りである。
(1) 前記1の(2)で述べたとおり、「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さよりも長くし」た構成により、掛かった鮎の負荷によって補助竿体の先端部の方に曲げ負荷が作用している状態でも補助竿体を容易に進出させることができるという効果を奏するとはいえない。そうである以上、第2嵌合部の嵌合長さと第3嵌合部の嵌合長さのどちらを長くするかは、当業者が適宜決定し得る事項にすぎない。
(2) 被告は、「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さよりも長くし」た構成の作用効果について、@寸法精度の良い第3嵌合部の嵌合長さを長くすることにより、手元側竿体1の竿尻内周面14と尻栓3との結合を強くして、後退した補助竿体を有効に保持することができ、また、A第2嵌合部の嵌合長さを短くすることにより、鮎が掛かって第2嵌合部に負荷が加わってその部分が変形しても補助竿体2を手元側竿体1から容易に進出させる(引き伸ばす)ことが可能となると主張する。この主張は、寸法精度の良い第3嵌合部の嵌合長さを長くすることにより手元側竿体の竿尻内周面14と尻栓3との結合を強くするということ、及び、第2嵌合部の嵌合長さを短くすることにより第2嵌合部に負荷が加わっても補助竿体を容易に引き伸ばせるようにするということをいっているものと理解される。かかる被告の主張を前提とするなら、本件考案の特徴は、結局、第3嵌合部の嵌合力を大きく、第2嵌合部の嵌合力をそれより小さく設定したことにあると解さざるを得ない。
ところで、引用例には、第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力よりも大きくすることが記載されている。
すなわち、引用例には「第3図は第2図に於ける並継合せ部の別の例を示す。この場合並継合せ部を合せ部と考えないで、一種のがた防止と考え、握り部1cの基部に並継用の部品8を固着し、該部品8に対し元竿1bの端を並継ぎ合せするようにしてもよい。」(甲第4号証6頁1〜5行)と記載され、この記載及び第2、第3図(別紙3引用例図面参照)が図示するところによれば、第3図が図示する実施例には、握り部1cの基部の部品8と元竿1bの振出合せ部6とが圧入状態で嵌合されて保持され、引用例第2図の符号7の位置に設けられた肉盛部と握り部1cの先端部の内側(筒状部7′)とは、がたを防止する程度に嵌合することが開示されている。そして、部品8と振出合せ部6との嵌合部が本件考案の「第3嵌合部」に、符号7の位置に設けられた肉盛部と筒状部7′との嵌合部が本件考案の「第2嵌合部」にそれぞれ相当し、がたを防止する程度の嵌合部の嵌合力が弱いことは当業者には明白であるから、引用例には、部品8と振出合せ部6との嵌合部〔本件発明の第3嵌合部〕の嵌合力を大きくし、符合7の位置に設けられた肉盛部と筒状部7′との嵌合部〔本件発明の第2嵌合部〕の嵌合力を小さく設定し、これにより、
手元側竿体を補助竿体内に収納したときに補助竿体が有効に保持され、鮎が掛かった負荷で第2嵌合部が変形しても、補助竿体を手元側竿体から引き伸ばしやすくしたという技術思想が開示されている。
なお、引用例には、本件考案の「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くし」た構成については明確に開示されていないが、嵌合力に大小をつけるために嵌合長さを変えることは、当業者であれば適宜選択する単なる設計的事項にすぎない。
(3) 被告は、釣人が両方の手で補助竿体上のA点とC点(別紙2本件考案図面参照)を支持するので、釣竿に掛かる曲げモーメントMの最大値の位置は、ほぼ第2嵌合部8の位置に相当するC点となり、魚が掛かった状態で補助竿体を進出させる際には、片方の手をC点から非套嵌部13の位置D点に移動させて握るから、釣竿に掛かる曲げモーメントMの最大値の位置がD点となるが、この時第2嵌合部近くのC点に掛かる曲げモーメントMは、多少低下するが依然として大きな曲げモーメントが作用すると主張し、このような大きな曲げモーメントが作用しても本件発明の「第3嵌合部の嵌合長さを第2嵌合部の嵌合長さより長くした構成」により、補助竿体を容易に進出させることができるという効果が奏されると主張する。
しかし、釣人がA点とC点を握る時、C点で曲げモーメントのほとんどを支えるから、鮎が掛かった時に片方の手をC点からD点に移動させると、D点を握る手は、手の幅を使ってしっかりと握ることになり、D点で固定端のように曲げモーメントの殆どを支持し、A点ではやや軽く押さえる程度で竿を保持するのである。この結果、C点には被告主張のような大きな曲げモーメントが加わることがなく、そこでの手元側竿の変形は、被告主張のように大きくなることはなく、もっと小さな変形しかしないのである。実際の釣りにおいて、釣れた鮎を囮鮎と共に釣り上げながら補助竿体を進出させることはできず、鮎が疲れて静かになった時に補助竿体をさっと進出させるのであり、この時はD点で竿全体を支えているのである。したがって、A点を握って引き伸ばす際の抵抗力たる嵌合力は、第2嵌合部の嵌合力と第3嵌合部の和であって、第2嵌合部の嵌合長さを短くすることによって被告が主張するような顕著な効果が出るものではない。
被告の反論の要点
審決の認定、判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件考案新規性についての判断の誤り)に対して 原告は、「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くし」たことは、単なる嵌合長さの限定にすぎず、当業者が普通に採用すると認められる程度の変更であるから、本件考案は、引用例に記載された考案と実質的に同一であると主張する。
しかし、本件考案の「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くし」た構成は、引用例に記載されていないし、釣竿において、かかる構成が周知技術でもない以上、本件考案が引用例記載の考案と同一でないことは明らかである。
2 取消事由2(本件考案進歩性についての判断の誤り)に対して (1) 原告は、本件考案の特徴である「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くした」ことの技術的意味は、要するに、第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力より大きく設定したことにあり、これによって手元側竿体1を補助竿体2内に収納したときに補助竿体が有効に保持され、鮎が掛かった負荷で第2嵌合部が変形しても、補助竿体を手元側竿体から引き伸ばしやすくしたものであると解さざるを得ないと主張する。
しかし、本件訂正明細書には、「更に、以上のごとく後退した補助竿体2は、第2嵌合部8と第3嵌合部5とにより有効に保持できるのである。即ち、一般に、前記手元側竿体1を成形用芯金により成形する場合、その内周面は成形用芯金に接して成形されるから、前記芯金により内周面に寸法精度は容易に、また正確に出すことができるのに対し、外周面の寸法精度は出しにくいのである。然るに本件考案では、以上の如く前記補助竿体2の後端部に寸法精度の出し易い手元側竿体1の内周面を利用し、この内周面に嵌合する第3嵌合部5を設けたから、この第3嵌合部5により、後退した補助竿体2を有効に保持できるのである。」(甲第3号証7頁12〜20行)と記載されており、本件考案では、釣竿に曲げモーメントが作用している状態での補助竿体の進退と有効な保持を可能とするために、「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くし」との構成に限定することで合理的に規定したものであって、単に嵌合力を限定したものでないことは明らかである。
釣竿の嵌合部の嵌合力が大きすぎれば、曲げモーメントが作用していなくとも固着現象を起こして摺動できなくなることは周知であって、本件考案においても各嵌合部の寸法(嵌合度合)は製造段階でそれぞれ調整するものである。
(2) 本件考案は、第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くした構成により、下記の作用効果を有する。
第1に、補助竿体の後端部に寸法精度の出しやすい手元側竿体の内周面を利用し、この内周面に嵌合する第3嵌合部の嵌合長さを長くし、寸法精度の出ない手元側竿体の外周面が勘合する第2嵌合部の嵌合長さを短くすることにより、後退した補助竿体は、第2嵌合部と第3嵌合部により有効に保持される。
第2に、第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くしたことにより、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態で補助竿体を手元側竿体に対して進出させる場合でも、手元側竿体の非套嵌部13を握って補助竿体をとっさに進出させることができ、釣竿の全体長さをいち速く長く調節することができるから、掛かり鮎を取り逃がすことなしに容易に取り込むことができる。
通常の釣りの際、釣人は両方の手で補助竿体2上のA点とC点を支持するので、
釣竿に掛かる曲げモーメントMの最大値の位置は、ほぼ第2嵌合部8の位置に相当するC点となる。魚が掛かった状態で補助竿体を進出させる際には、片方の手をC点から非套嵌部13の位置D点に移動させて握る。その結果、釣竿に掛かる曲げモーメントMの最大値の位置がD点となるが、このとき第2嵌合部近くのC点に掛かる曲げモーメントMは、多少低下するが依然として大きな曲げモーメントが作用するから、第2嵌合部は摺動困難な状態であることに変わりはない。C点から竿の先端までは通常8m以上あり、C点とD点との距離は約0.3m、A点とC点との距離は約0.5m程度にすぎないので、支持点がC点からD点に移動してもその影響はそれ程大きくない。第2嵌合部においては、手元側竿体1が釣竿に掛かる曲げモーメントMにより曲げられるので、嵌合部を摺動する手元側竿体1の直径がその曲がり方向で見かけ上、増大すること、また、鮎竿のような薄肉パイプ状の釣竿では、
曲げモーメントMの作用により、竿体の断面が偏平化することにより、嵌合部の摺動が困難になる。そこで、本件考案では、相違点(a)の構成により、第2嵌合部の嵌合長さを短くして、その摺動抵抗を減らすことにより、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態でも、補助竿体を手元側竿体に対してとっさに進出させることができることにより、掛かり鮎を取り逃がすことなく容易に取り込むことができるようにしている。
(3) 原告は、引用例には、第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力より大きく設定したことにより、手元側竿体を補助竿体内に収納したときに補助竿体が有効に保持され、鮎が掛かった負荷で第2嵌合部が変形しても、補助竿体を手元側竿体から引き伸ばしやすくしたという技術思想が開示されていると主張し、引用例の「第3図は第2図に於ける並継合せ部の別の例を示す。この場合並継合せ部を合せ部と考えないで、一種のがた防止と考え、握り部1cの基部に並継用の部品8を固着し、該部品8に対し元竿1bの端を並継ぎ合せするようにしてもよい。」(甲第4号証6頁1〜5行)との記載を引用する。しかし、この記載の意味は必ずしも明瞭ではないし、引用例には、本件考案の第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力より大きく設定したことについての記載はない。いずれにしろ、引用例記載の考案は、本件考案の相違点(a)に係る構成を備えたものではないから、原告の主張は誤りである。
(4) また、原告は、引用例に本件考案の相違点(a)に係る構成について明確に開示されていなくても、上記の技術思想を達成する解決手段として、嵌合長さを変えることにより嵌合力を変えることは、当業者であれば適宜選択する単なる設計的事項にすぎないと主張する。
しかし、仮に、引用例記載の考案において第3嵌合部に相当する部品8と元竿1bの振出し合せ部6との嵌合部の嵌合力が、がた防止の嵌合力よりも強い合わせ部としての嵌合力を備えているとしても、本件考案では、嵌合力の調整のために嵌合長さを規定しているのではなく、釣竿に曲げモーメントが作用した際、嵌合部が固着状態となって竿を摺動し得なくなることをできる限り避けるためのものであるから、引用例記載の考案とは目的、課題を異にしている。したがって、本件考案の相違点(a)に係る構成を、当業者といえども引用例記載の考案から、極めて容易に想到することはできない。
仮に、引用例に嵌合力を調節することが記載されているとしても、釣竿の嵌合力の調整は、嵌合部の各竿の内径と外径の寸法差を調整するのが一般的であり、嵌合長さを調整すること、特に、釣竿の曲げ変形を考慮して嵌合長さを規定することは、一般的に知られていたものではないし、このことが周知技術であったとする証拠もない。
(5) 原告は、A点を握って引き伸ばす際の抵抗力たる嵌合力が、第2嵌合部の嵌合力と第3嵌合部の和であって、第2嵌合部の嵌合長さを短くしても、被告が主張するような顕著な効果がでるものではないと主張する。しかし、一方の手でA点を握って釣り上げ作業の最中に、他方の手でD点を握り釣竿の長さ方向に両竿体を引き伸ばす際、支えの主体は依然としてA点にあり第2嵌合部に大きな曲げモーメントが作用している。また、仮に両手でA点とC点を支えているとしても、鮎竿は10メートル近い長さの竿であるから、原告主張のようにC点のみで曲げモーメントのほとんどを支えるというのは不自然であるし、仮にそうであれば、C点でほとんどの荷重を支える手を、D点に移動することは不可能である。
(6) したがって、本件考案の効果についての審決の認定、及び本件考案進歩性についての審決の判断に、誤りはない。
当裁判所の判断
本件考案と引用例に記載された考案とが「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くした」構成(審決認定の相違点(a))を除くその余の構成において一致していること、及び引用例に上記相違点(a)の構成に関する明示の記載がないことについては、当事者間に争いがない。
原告は、取消事由1として、相違点(a)に係る構成は技術的に無意味な構成であるから、本件考案と引用例に記載された考案とは同一であると主張するが、嵌合部の嵌合長さをどのようにするかが技術的に全く無意味であるとまで認めることはできないから、この点に関する原告の主張を採用することはできない。
そこで、取消事由2(本件考案進歩性についての判断の誤り)について検討する。
1 本件考案と引用例記載の考案との対比 (1) 甲第4号証によれば、引用例は、「釣竿」の考案に関する実用新案登録出願に係る明細書のマイクロフィルムであって、その明細書中の「考案の詳細な説明」の欄(なお、別紙3引用例図面参照)には、
@「本考案は、第5図に示すような継ぎ部品4によって竿の長さを伸ばし得るようにした釣竿に於て、この伸縮機構を竿と一体化しようとするものである。しかも伸張操作がし易いように握り部分に続いて直ちに設けて伸長操作をスムーズに行いうるようにしようとするものである。」(4頁6〜11行)と、考案の目的が記載され、
A考案実施例の説明として、「第2図は元竿1bと握り部1cとの連結構造を示す。第2図(a)の如く元竿1bはその基部に振出し合せ部・・6を有し、
この振出し合せ部6と一定寸法離れたところに並継合せ部・・7を有している。元竿1bの上述した構造に対応して握り部1cはその先端部に振出し合せ用のテーパー部6′とこのテーパー部6′の先に隣接して並継ぎ合せ用の筒状部7′を備えている。第2図(b)は元竿1bの振出し合せ部6と握り部1cのテーパー部6′とが係合した状態、即ち、竿が伸長した状態を示している。第2図(c)は第2図(b)の状態から竿を縮めた状態で、元竿1bの並継合せ部7が握り部1cの筒状部7′と係合している。」(5頁1〜15行)、「第3図は第2図に於ける並継合せ部の別の例を示す。この場合並継合せ部を合せ部と考えないで、一種のがた防止と考え、握り部1cの基部に並継用の部品8を固着し、該部品8に対し元竿1bの端を並継ぎ合せするようにしてもよい。」(6頁1〜5行)と記載され、
B考案の効果として、「以上の如く、本考案は伸長機構を元竿と握り部との間に竿と一体的に設けたので、伸縮がきわめて容易である。」(6頁11〜13行)と記載され、
C第2図、第3図に元竿と握り部の連結構造が示されていることが認められる。
(2) これらの記載と第2図、第3図が図示するところによれば、引用例の第3図に示された実施例には、握り部(本件考案の「補助竿体」に相当)の基部に設けた部品8と元竿1b(本件考案の「手元側竿体」に相当)の振出合せ部6とが嵌合されて並継ぎ合わせられ、第2図において元竿の並継合せ部7として示された竿径を大きくした部分を、合わせ部ではなく、「がた防止手段」とした釣竿が開示されていると認められる(本件考案と対応させると、竿を縮めた状態における上記がた防止手段と筒状部7′との嵌合部分が、本件考案の「第2嵌合部」に、元竿1bの振出合せ部6と部品8との並継ぎ合わせ部分が本件考案の「第3嵌合部」にそれぞれ相当する。以下、〔 〕内は対応する本件考案の部位名称) そして、部品8と元竿1bの振出合せ部6との並継ぎ合せ部〔第3嵌合部〕が、
部品8に対して元竿1bの振出合せ部6をしっかりと嵌着させる機能を有するのに対し、がた防止手段と筒状部7′との嵌合部分〔第2嵌合部〕は、がたを防止する程度、すなわち音を立てて揺れ動くことがないという程度に嵌合されていれば足りるものであるから、上記並継ぎ合わせ部〔第3嵌合部〕の嵌合力が、がた防止手段と筒状部7′との嵌合部分〔第2嵌合部〕の嵌合力よりも強いことは、当業者にとって自明であるというべきである。
そうすると、引用例には、部品8と元竿1bの振出合せ部6との並継ぎ合せ部〔第3嵌合部〕の嵌合力を「がた防止手段」と筒状部7′との嵌合部分〔第2嵌合部〕の嵌合力よりも強くすることが実質的に記載されていると認められる。
(3) 引用例には、本件考案の「第2嵌合部」に相当する「がた防止手段と筒状部7′との嵌合部分」の長さ、同じく「第3嵌合部」に相当する「元竿1bの振出合わせ部6と部品8との並継ぎ合わせ部分」の長さについては、明示の記載がない。
しかしながら、可撓性のある材料から成る釣竿を圧入により嵌合する場合、その嵌合面に作用する嵌合力とは、圧入によって嵌合部分の内外面に発生した歪みに基づく応力であると考えられるから、その嵌合力を大きくするための1つの手段として、嵌合する接触面積を大きくすることは、当業者にとって自明ないし極めて自然な選択に属する技術的手段であると認められる。また、がた防止のための嵌合部は、嵌合長さが短くてよいことも当然のことであり(極端にいえば短い突起でも足りる)、その長さをどの程度にするかは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
してみると、引用例記載の考案において、本件発明の第3嵌合部に相当する「元竿1bの振出合わせ部6と部品8との並継ぎ合わせ部分」の嵌合長さを長くし、第2嵌合部に相当する「がた防止手段と筒状部7′との嵌合部分」の嵌合長さを短くし、結果として、前者の嵌合長さを後者の嵌合長さより長いものとすることは、各嵌合部分について当業者が極めて自然に選択する技術的手段の単純な組み合わせという程度のものであって、当業者が極めて容易に想到することができたものというべきである。
2 被告の主張について (1) 被告は、本件考案は、@寸法精度の出しやすい手元側竿体の内周面が嵌合する第3嵌合部の嵌合長さを長くし、寸法精度の出ない手元側竿体の外周面が嵌合する第2嵌合部の嵌合長さを短くすることにより、後退した補助竿体が、第2嵌合部と第3嵌合部とにより有効に保持されるという効果(第1の効果)、及び、A第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さより長くしたことにより、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態で補助竿体を手元側竿体に対し進出させる場合でも、手元側竿体の非套嵌部13を握って補助竿体をとっさに進出させることができ、釣竿の全体長さをいち速く長く調節することができるから、掛かり鮎を取り逃がすことなしに容易に取り込むことができるという効果(第2の効果)を奏するものであると主張する。
なるほど、甲第3号証によれば、本件訂正明細書(なお、別紙2本件考案図面参照)には、本件考案の効果について、次のとおり記載されており、これとほぼ同一内容の記載が段落【0007】【作用】及び段落【0015】【実施例】の項にもあることが認められる。
「【0017】(考案の効果)以上説明したごとく本考案にかかる釣り竿では、・・・手元側竿体1の外周に套嵌した前記補助竿体2を握って鮎釣りすることができて、しかも、掛かった鮎を囮鮎とともに取込む場合には、補助竿体2と手元側竿体1の非套嵌部13とを握って、前記補助竿体2を手元側竿体1に対し容易に進出させることができるのである。更に、以上のごとく後退した補助竿体2は、第2嵌合部8と第3嵌合部5とにより有効に保持できるのである。即ち、一般に、前記手元側竿体1を成形用芯金により成形する場合、その内周面は成形用芯金に接して成形されるから、前記芯金により内周面に寸法精度は容易に、また正確に出すことが出来るのに対し、外周面の寸法精度は出しにくいのである。然るに本考案では、以上の如く補助竿体2の後端部に寸法精度の出し易い手元側竿体1の内周面を利用し、この内周面に嵌合する第3嵌合部5を設けたから、この第3嵌合部5により、後退した補助竿体2を有効に保持できるのである。従って、前記第3嵌合部5の嵌合長さを長くすることにより、寸法精度の出ない手元側竿体1の外周面が嵌合する第2嵌合部8の嵌合長さを短くできるのである。このため、つまり、第2嵌合部8の嵌合長さを短くできるため、手元側竿体1の非套嵌部13を握って補助竿体2を進出させることができることと相俟って、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態で補助竿体2を手元側竿体1に対し進出させる場合でも、この補助竿体2を前記非套嵌部13を握って咄嗟に進出させることができ、釣竿の全体長さを逸速く長く調節できるから、掛かり鮎を取り逃がすことなく容易に取込むことができるのである。又、以上のように補助竿体2を進出させた場合、この補助竿体2の進出状態を前記第1嵌合部7により保持できるのである。」 しかしながら、上記記載によれば、手元側竿体の内周面では寸法精度が出しやすく、外周面では寸法精度が出ないという技術的事項は、本件考案の手元側竿体が、
成形用芯金により成形される場合を前提とし、その内周面が成形用芯金に接して成形されるから、内周面の寸法精度を正確に出すことができるのに対し、外周面では成形用芯金に接しないから寸法精度を出すことができないというものと解されるところ、本件実用新案登録請求の範囲には、手元側竿体を成形用芯金により成形する旨を限定する記載がないから、原告主張の第1の効果は、本件考案の構成から奏される効果についての主張であるとは認められない。
また、引用例には、「本考案は伸長機構を元竿と握り部との間に竿と一体的に設けたので、伸縮がきわめて容易である。」(6頁11〜13行)と記載されており、掛かった魚の負荷が釣竿に作用している状態で元竿と握り部とを伸縮させることは、当業者であれば当然に予想することができる使用法であると認められるから、原告主張の第2の効果についても、引用例第3図に記載の実施例の釣竿が、実質的に奏する効果というべきである。
したがって、本件考案が引用例記載の考案と格別に異なる効果を奏すると認めることはできない。
(2) 被告は、引用例には、第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力よりも大きく設定したことについて記載はなく、仮に、引用例記載の考案において、部品8と元竿1bの並継ぎ合わせ部〔第3嵌合部〕が、がた防止の嵌合力よりも強い合わせ部としての嵌合力を備えているとしても、本件考案では、嵌合力の調整のために嵌合長さを規定しているのではなく、釣竿に曲げモーメントが作用した際、嵌合部が固着状態となって竿を摺動させることができなくなることをできる限り避けるために「第3嵌合部の嵌合長さを、第2嵌合部の嵌合長さよりも長くした」構成(相違点(a)に係る構成)を採用しているものであって、引用例記載の考案とは目的、課題を異にしているから、当業者といえども引用例記載の考案から上記構成を容易に想到することはできないと主張する。
しかしながら、引用例の「第3図は第2図に於ける並継合せ部の別の例を示す。
この場合並継合せ部を合せ部と考えないで、一種のがた防止と考え、握り部1cの基部に並継用の部品8を固着し、該部品8に対し元竿1bの端を並継ぎ合せするようにしてもよい」(甲第4号証6頁1〜5行)との記載に基づいて、第3図が図示する実施例をみれば、上記記載で説明されている構成や作用効果は容易に理解することができるものであり、引用例には第3嵌合部の嵌合力を第2嵌合部の嵌合力より大きく設定したことが実質的に記載されていると認められることは前示のとおりである。
また、本件考案と引用例記載の考案とは目的、課題を異にしているから、当業者といえども引用例記載の考案から相違点(a)に係る構成を容易に想到することができない旨の被告主張は、以下の理由により、採用することができない。
ア 甲第3号証によれば、本件訂正明細書には、本件考案の効果について、前記(2)に引用したとおりの記載(段落【0017】)があることが認められる。
その中で、「第3嵌合部の嵌合長さを第2嵌合部の嵌合長さより長くした」構成の作用効果に関連して説明しているのは、「更に、以上のごとく後退した補助竿体2は、第2嵌合部8と第3嵌合部5とにより有効に保持できるのである。・・・」の部分であるところ、その内容は、要するに、@本件考案では、「寸法精度の出し易い」(すなわち寸法精度の良好な)第3嵌合部を設けたことにより、この第3嵌合部によって後退した補助竿体を有効に保持することができる(注、「後退」した状態とは手元側竿体の手元側を補助竿体内に収納して竿を縮めた状態、すなわち補助竿体を伸ばす前の状態を指す。)、Aしたがって、第3嵌合部の嵌合長さを長くすることにより、第2嵌合部の嵌合長さを短くすることができる、B第2嵌合部の嵌合長さが短いため、鮎が掛かって負荷が作用している状態でも、補助竿体をとっさに進出させることができる、というものである。「第3嵌合部の嵌合長さを第2嵌合部の嵌合長さより長くした」構成の作用効果に関連する説明は、前記引用箇所及び段落【0007】【0015】中のこれとほぼ同一内容の記載がすべてであり、これ以外には存在しない。
(ちなみに、第2嵌合部の嵌合長さを短くすることが「第3嵌合部5により後退した補助竿体を有効に保持できる」ことによって可能となった旨の説明に照らすと、
補助竿体を後退させた状態(伸ばす前の状態)における補助竿体の保持は、主として、「嵌合長さを長くした」第3嵌合部の嵌合によって実現され、第2嵌合部は補助竿体の保持について従たる機能しか期待されていないことが窺われる。) イ 審決は、「本件考案は、上記相違点(a)の構成を備えることにより、掛かった鮎の負荷によって補助竿体2の先端部の方に曲げ負荷が作用している状態でも補助竿体2を容易に進出できる等、明細書記載の効果を奏するものである」と認定し、被告も同旨の主張をする。
しかしながら、「補助竿体2の先端部の方に曲げ負荷が作用している状態でも補助竿体2を容易に進出できる」という効果は、本件訂正明細書中の「このため、つまり、第2嵌合部8の嵌合長さを短くできるため、・・・、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態で補助竿体2を手元側竿体1に対し進出させる場合でも、この補助竿体2を前記非套嵌部13を握って咄嗟に進出させることができ」という記載から明らかなとおり、「第2嵌合部8の嵌合長さを短く」したことの効果として説明されているものであって、「第3嵌合部の嵌合長さを第2嵌合部の嵌合長さよりも長くした」こと、すなわち、両者を比較したときの嵌合長さの大小関係がもたらす効果として記載されているものではない(なお、前掲段落【0017】には「・・・従って、前記第3嵌合部5の嵌合長さを長くすることにより、寸法精度の出ない手元側竿体1の外周面が嵌合する第2嵌合部8の嵌合長さを短くできるのである。」との記載があるが、これは、第2嵌合部8の嵌合長さを短くすることが可能となった理由ないし由縁を述べているものにすぎないものと認められる。)。
そうすると、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態でも補助竿体を容易に進出させることができるという本件訂正明細書記載の効果は、端的に、第2嵌合部の嵌合長さを「短く」したことによって得られるものと認められるのであって、第2嵌合部の嵌合長さと第3嵌合部の嵌合長さの相対関係に依存するものではないというべきである。
ウ そこで、以上を前提として検討するに、確かに、引用例には、釣竿に曲げモーメントが作用した際、嵌合部が固着状態となって竿を摺動することができなくなることを避ける旨の明示の記載はない。しかし、引用例記載の考案も釣竿であって、前示のとおり、部品8と元竿1bとの嵌合部〔第3嵌合部〕の嵌合力が、がた防止手段と筒状部7′との嵌合部〔第2嵌合部〕の嵌合力よりも強いことが自明である以上、引用例記載の考案も、釣竿に曲げモーメントが作用した際にも伸縮を容易に行い得るという作用効果を実質的に奏するものと認められる。
とりわけ、がた防止手段の長さを短くした場合(このようにすることが適宜設計事項であることは前示のとおりである。)、曲げモーメントが作用しても補助竿体を容易に進出させ得ることは明らかである。
してみると、本件考案について原告が主張する効果は、引用例記載のがた防止手段を設けた釣竿において、当業者が適宜採用し得る構成から当然予測される効果の範囲を超えるものとは認め難い。
エ なお、被告は、鮎が掛かった状態で補助竿体を進出させる際には、別紙2の本件考案図面のように、両方の手で補助竿体のA点とC点を支持していた状態から片方の手をC点から非套嵌部の位置D点に移動させて握ることになり、掛かった鮎によって第2嵌合部のC点に作用する曲げモメントは、片方の手をD点に移動することにより多少低下するものの、依然として大きな曲げモーメントが作用するから、嵌合部の摺動が困難になるのであって、本件考案では相違点(a)の構成により、第2嵌合部の嵌合長さを短くして、その摺動抵抗を減らすことにより、鮎が掛かって釣竿に負荷が作用している状態でも、補助竿体を手元側竿体に対してとっさに進出させることができるようにしていると主張し、また、本件考案で嵌合長さを規定しているのでは、釣竿に曲げモーメントが作用した際、嵌合部が固着状態となって竿を摺動し得なくなることをできる限り避けるためのものであるとも主張する。
しかし、被告の上記主張も、結局、第2嵌合部の嵌合長さを「短く」したことによる効果を主張しているものであって、引用例記載の考案において、がた防止手段と筒状部7′との嵌合長さを短くすることが当業者にとって極めて容易に想到し得る構成であり、かつ、その構成により、仮に引用例記載のものにおいてC点に相当する位置に曲げモーメントが作用したとしても、その状態で竿を容易に伸長させ得る(握り部を容易に進出させることができる)という効果が奏されることは、前記ウで認定したとおりである。
3 結論 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由2には理由があり、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史
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