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関連審決 異議1997-71896
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  引用考案の認定 /  一致点の認定 /  新規事項の追加(新規事項を追加) /  きわめて容易 /  減縮 /  実施例 /  転用 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 298号 実用新案権取消決定取消請求事件
原告 ミツミ電機株式会社
訴訟代理人弁理士 伊東忠彦
同 湯原忠男
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 川名幹夫
同 小林信雄
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成9年異議第71896号事件について平成10年7月24日にした取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,考案の名称を「バッテリによる給電回路」とする実用新案登録第2514540号(平成4年1月30日出願。平成8年8月2日登録。以下「本件登録実用新案」といい,本件登録実用新案に係る考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
本件登録実用新案についてAが実用新案登録異議の申立てをし,特許庁は,この申立てを平成9年異議第71896号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成9年10月31日に実用新案登録請求の範囲の記載の訂正を請求した(以下「本件訂正」という。)。特許庁は,上記事件について,平成10年7月24日に,本件訂正は認められないとした上で,「実用新案登録第2514540号の実用新案登録を取り消す。」との決定をし,同年8月24日にその謄本を原告に送達した。
2 決定の理由の要点 別紙決定書の理由の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正請求は,認められない,本件考案は,特開昭59-146324号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができた,というものである。
3 本件登録実用新案に係る登録請求の範囲 (1) 登録時の実用新案登録請求の範囲 「記録及び/又は再生装置が作動状態のときに動作する第1の回路と,該記録及び/又は再生装置が待機状態のときと上記作動状態のいずれの場合も動作する第2の回路とに夫々電源電圧を供給するバッテリと, 該バッテリからの電源電圧を供給又は遮断する電源スイッチと, 該電源スイッチのオンにより該バッテリからの電源電圧が前記第2の回路と共に印加されるスイッチ回路と, 前記記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたときのみ該スイッチ回路を通して該バッテリからの電源電圧を前記第1の回路に印加するように該スイッチ回路をスイッチング制御する制御回路と よりなることを特徴とするバッテリによる給電回路。」 (2) 本件訂正請求に係る実用新案登録請求の範囲(下線部が訂正請求に係る個所である。これにより特定される考案を,以下「訂正考案」という。) 「少なくとも ディスク のモータ 駆動回路及 びモータ 駆動回路 を制御 する サーボ回路 を有し,かつ ,ディスク 記録及び/又は再生装置が作動状態のときに動作する第1の回路と,該ディスク記録及び/又は再生装置が待機状態のときと上記作動状態のいずれの場合も動作する第2の回路とに夫々電源電圧を供給するバッテリと, 該バッテリからの電源電圧を供給又は遮断する電源スイッチと, 該電源スイッチのオンにより該バッテリからの電源電圧が前記第2の回路と共に印加されるスイッチ回路と, 前記ディスク記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたときのみ該スイッチ回路を通して該バッテリからの電源電圧を前記第1の回路に印加するように該スイッチ回路をスイッチング制御する制御回路と, 該制御回路 に対する 該作動指令 を入力 する キー 入力回路 とを 有し, 前記第 1の回路及 び前記第 2の回路 により ディスク 記録及 び/又は再生 が行われ ,かつ ,前記制御回路 の制御 により ディスク 記録及 び/又は再生 が制御 されること を特徴とするディスク 記録及 び/又は再生装置 のバッテリによる給電回路。」(以下「訂正考案」という。)
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由のうち,(1)手続の経緯(2頁2行〜9行)は認め,その余は争う。
決定は,訂正の適否についての判断を誤った結果,考案の認定を誤り(取消事由1),仮に訂正の適否についての判断に誤りがないとしても,引用考案の認定を誤った結果,本件考案と引用考案との一致点の認定を誤り(取消事由2),本件考案と引用考案との相違点を看過した(取消事由3)ものであり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして,取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り) (1) 本件訂正請求は,実用新案登録請求の範囲減縮を目的として,「記録及び/又は再生装置」を「ディスク記録及び/又は再生装置」とする訂正を含むものである。
決定は,「「記録及び/又は再生装置」には「ディスク記録及び/又は再生装置」に限らず,テープ記録及び/又は再生装置等も含まれる。また,登録査定時の明細書には「記録及び/又は再生装置」の一例として「CD-ROM再生装置」が記載されているが,「CD-ROM再生装置」は記録機能を有しないから,「ディスク記録及び/又は再生装置」は「CD-ROM再生装置」の上位概念ではない。さらに,「CD-ROM再生装置」の上位概念としてはディスク再生装置に限らず,光ディスク再生装置等の上位概念が存在し,登録査定時の明細書の「記録及び/又は再生装置」及び「CD-ROM再生装置」のいずれの記載からも,訂正後の「ディスク記録及び/又は再生装置」を直接的かつ一義的に導き出すことはできない。」(2頁15行〜3頁10行)とした上,上記訂正は認められないとした。しかし,この認定判断は,誤りである。
本件登録実用新案に係る願書に添付した明細書及び図面(以下,これらをまとめて「本件明細書図面」という。明細書のみをいうときは「本件明細書」という。本件明細書図面の内容は,願書に最初に添付したものにおけるのと同じである。)を示す実用新案公報(甲第2号証)の【従来の技術】の項には,「図3は従来のバッテリによる給電回路の一例の構成図を示す。同図は,記録及び/又は再生装置の一例としてのCD-ROM再生装置内の各回路に電源電圧を供給する給電回路を示す。」(段落【0002】)と記載され,【実施例】の項には,「図2は本考案の一実施例の構成図を示す。同図は記録及び/又は再生装置の一例としてのCD-ROM再生装置内の各回路に電源電圧を供給する給電回路を示す。」(段落【0011】)と記載されている。上記明細書中の説明は,「記録及び/又は再生装置」の一例としてのCD-ROM再生装置及び「記録及び/又は再生装置のバッテリによる給電回路」の実施例としてのCD-ROM再生装置を説明しているものである。そして,CD-ROMがディスクであることを考慮すれば,登録査定時の明細書の「記録及び/又は再生装置」は,ディスクを含めた「記録及び/又は再生装置」に係るものと解すべきである。
(2) 本件考案は,本件明細書考案の名称及び産業上の利用分野の記載からも明らかなように,「記録及び/又は再生装置のバッテリによる給電回路」に係る考案であり,同じく,考案が解決しようとする課題及び考案の効果の記載からも明らかなように,モータ駆動回路等の待機時の電力消費を低減することをその技術内容とするものであり,このような技術は,記録装置にも,再生装置にも,又は記録・再生装置にも全く同じように適用が可能であることは自明である。したがって,本件考案のような場合は,再生装置の実施例は,単に,再生装置の実施例であるにとどまらず,同時に,記録装置の実施例にも,記録・再生装置の実施例にもなり得るものである。
本件出願時において,CD-WO,CD-MO等により,コンパクトディスクタイプの光ディスク記録及び/又は再生装置の存在は,周知の事項である。中島平太郎・小川博司共著「図解コンパクトディスク読本(改訂2版)」昭和63年4月25日第2版第1刷,平成5年12月30日第2版第7刷,株式会社オーム社発行,258頁〜260頁(以下「甲第7号証刊行物」という。)には,「9・6 記録可能なCD」の項目の説明として,「CDと同質の音響ステレオ信号を「記録・再生」できるシステムです。現在,まだ,この種の商品は存在しておりませんが,技術の進歩のテンポからみれば,近い将来に実現可能と考えられます。」と記載され,その記載に続いて,「記録,再生する方式のCD」が紹介されている。したがって,本件明細書図面は,コンパクトディスクタイプの光ディスク記録,再生方式が,出願時において,既に周知であることを前提に理解されるべきである。
光ディスクの代表例であるCD-ROM再生装置が「記録及び/又は再生装置」の一例として,さらに,「記録及び/又は再生装置」の実施例と記載してあれば,当然の帰結として,「記録及び/又は再生装置」には,「光ディスク記録及び/又は再生装置」が記載されているものと解すべきである。
(3) したがって,決定が,本件訂正を認めなかったのは誤りであり,この誤りが,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り) (1) 一致点の認定の誤り-1 ア 決定は,刊行物1(甲第5号証)に「マイクロコンピュータ装置が作動状態のときに動作する中央演算処理装置5」(決定書4頁20行〜5頁1行)が記載されている,との誤った認定をした結果,本件考案と引用考案とは,「装置が作動状態のときに動作する第1の回路」(決定書6頁12行〜13行)を有する点で一致する,として,両考案一致点の認定を誤ったものであり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
刊行物1には,マイクロコンピュータ装置の作動状態について,明確な記述はないものの,マイクロコンピュータ装置のメインスイッチ2が手動により投入されたときに,全体のマイクロコンピュータ装置は動作を開始し,スイッチ回路4がメモリ11の出力によりオンされ,大出力電流モードの電源回路3からの電流が,中央演算処理装置5及びリード・オンリ・メモリ6に通電された状態が作動状態であると解される。
刊行物1には,「スイッチ回路(4)がオンして第2図(e)のようにCPU(5)やROM(6)へ通電が開始される。しかし,CPU(5)のリセット端子に印加されているNORゲート(14)の出力(d)は論理レベル“0”のままなので,即ち,CPU(5)がリセットされたままなので,CPU(5)は,まだ動作を開始していない。・・・CPU(5)のリセットが解除され,CPU(5)が動作を開始して第3図のフローチャートで示す動作を行う。」(甲第5号証4頁左上欄6行〜16行)と記載されており,スイッチ回路4がオンし,マイクロコンピュータ装置が作動状態になっても,第2図(c)におけるtの期間,CPU5はリセットされており,動作を開始しない。
したがって,決定の,刊行物1に,マイクロコンピュータ「装置が作動状態のときに動作する中央演算処理装置5」が記載されている,との上記認定は,誤りである。
イ 被告は,マイクロコンピュータ装置が作動状態にあるとは,電源電圧が中央演算処理装置5とリードオンリメモリ6とに供給され,中央演算処理装置5とリードオンリメモリ6とが何らかの処理を実行できる状態ないし実行している状態にあることである,と主張する。
しかしながら,本件考案における作動状態とは,実用新案登録請求の範囲の,「ディスク記録及び/又は再生装置が作動状態のとき」又は「ディスク記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたとき」との記載(甲第2号証1欄)から明らかなように,装置全体が作動している状態のことである。引用考案においては,本件考案におけるスイッチ13に相当するスイッチ回路4がオンしても,直ちに,第1の回路及び第2の回路のすべての回路が動作して,マイクロコンピュータ装置が,本件考案でいう作動状態となるというわけではない。したがって,本件考案と引用考案とでは,作動指令を受けた後に装置全体が動作するまでの期間に,大幅な違いが存在する。
ウ 被告は,刊行物1の4頁左上欄6行ないし16行の記載(「スイッチ回路(4)がオンして第2図(e)のようにCPU(5)やROM(6)へ通電が開始される。しかし,CPU(5)のリセット端子に印加されているNORゲート(14)の出力(d)は論理レベル“0”のままなので,即ち,CPU(5)がリセットされたままなので,CPU(5)は,まだ動作を開始していない。単安定マルチバイブレータ(13)の出力が一定時間t後に論理レベル“1”→“0”に反転すると,(b)=“0”で(c)=“0”となるので,(d)=“1”となり,CPU(5)のリセットが解除され,CPU(5)が動作を開始して第3図のフローチャートで示す動作を行う。」)によれば,CPUは,tの期間は第3図のフローチャートで示す処理を開始しないとしているにすぎず,CPUは,上記期間中も,上記刊行物の第2図(d)の信号レベルを監視し,システムが安定になった時点で,第3図のフローチャートの処理を開始するようにしており,このような監視機能は,コンピュータが正常な動作をする上で基本的機能であるから,このような監視機能を果たしている状態も,動作している状態に当たる旨主張する。
しかし,刊行物1の記載からすれば,CPU5は,CPU5のリセット端子に印加されるリセット信号(NORゲート14の出力d)によって,動作を開始したり,動作を停止したりするものである。したがって,CPU5のリセット期間は,CPU5の本来の処理を実行することができず,動作をしている状態ではない。そもそも,刊行物1には,その第2図(d)の信号レベルを監視し,システムが安定になった時点で,第3図のフローチャートの処理を開始するようにしている,という点に関しては,直接の記載もこれを示唆する記載もない。かえって,刊行物1の「CPU(5)の電源電圧が降下する前に,リセット信号でCPU(5)の動作を停止させるので,システム動作が安定確実となる。」(甲第5号証4頁左下欄11行〜13行)との記載からすれば,電源電圧が降下する前に,リセット信号がCPU5のリセット端子に印加されて,CPU5の動作を停止させることによりシステム動作が安定確実となるものであり,CPU5が第2図(d)の信号レベルを監視し,システムが安定になった時点で,CPU5の動作を停止させるものではない。また,CPU5の動作の開始に関しても,同じく,単安定マルチバイブレータ13の出力が一定時間t後に論理レベル“1”から“0”に反転した結果,CPU5のリセット端子に印加されているリセット信号dが“1”となり,CPU5のリセットが解除されてCPU5が動作を開始するものであり,CPU5が,刊行物1の第2図(d)の信号レベルを監視し,システムが安定になった時点で,第3図のフローチャートの処理を開始するようにしている,ものではない。
(2) 一致点の認定の誤り-2 ア 決定は,引用考案は,「マイクロコンピュータ装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路4を通して電池1からの電源電圧を中央演算処理装置5およびリードオンリメモリ6に印加するようにスイッチ回路4をスイッチング制御する」(決定書5頁9行〜13行)ものである,と認定した。しかし,この認定は誤りであり,決定は,この誤りを犯した結果,本件考案と引用考案とは,「装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路を通してバッテリからの電源電圧を第1の回路に印加するようにスイッチ回路をスイッチング制御する」(決定書6頁19行〜7頁2行)ものである点で一致する,として,両考案一致点の認定を誤った。この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
刊行物1の記載によれば,引用考案において,スイッチ回路4がオンするのは,@「キーボード(8)の何れかのキーが操作され」(甲第5号証3頁左下欄7行〜8行)たとき,AORゲート10の入力に「キー入力検知回路(9)出力の他に周辺機器からの割込み信号(19)が供給」(同頁右下欄7行〜9行)されたとき,B「メインスイッチ(2)をオンした際には,自動的に割込み信号(19)が発生してメモリ(11)をセットするか,またはメモリ(11)自身が復電を検知して自動的にセットされる」(同欄10行〜13行)とき,であると解される。
Bの場合は,メインスイッチ2をオンすると,自動的にスイッチ回路4がオンされる場合であり,この場合は,作動指令を受けたときには当たらないというべきであるから,引用考案を,「マイクロコンピュータ装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路4を通して電池1からの電源電圧を中央演算処理装置5およびリードオンリメモリ6に印加するようにスイッチ回路4をスイッチング制御する」ものであると解することはできない。
イ 被告は,引用考案においては,メインスイッチ2をオンすると,割込信号が発生するので,この場合にも,作動指令を受けたときに当たる旨主張する。
しかし,本件考案の第1の回路は,待機状態では,動作しなくてもよい回路である。そこで,本件考案においては,第1の回路に対して,待機状態では,電源の供給を行わず,作動指令を受けたときのみ,第1の回路に電源を供給するようにすることによって,待受け時における消費電力の大きい第1の回路の電源消費を低減し,電源の電力消費を低減している。これに対し,引用考案の上記Bの場合は,メインスイッチ2がオンすると,自動的に,スイッチ回路4がオンし,装置全体に電源を供給し,待機状態で動作する必要のない回路にも電源を供給するもので,電力消費を低減することにはならない。
3 取消事由3(相違点の看過) (1) 相違点の看過-1 ア 本件考案における制御回路は,第1の回路及び第2の回路とは,別個独立に設けられている(甲第2号証の図1参照)。これに対し,引用考案においては,制御回路が「中央演算処理装置5」,「キーボード8」,「キー入力検知回路9」,「OR回路10」,「D型フリップフロップ11」及び「アドレスデコーダ12」から構成され,第1の回路が,「中央演算処理装置5」及び「リード・オンリ・メモリ6」から構成されていて,制御回路の一部である「中央演算処理装置5」が,第1の回路と重複している。このため,引用考案における制御回路の中央演算処理装置は,第1の回路の電源が導通されないと動作しないのに対し,本件考案の制御回路は,第1の回路又は第2の回路への電源の供給の有無に関係なく,制御を行うことができる。
決定は,本件考案と引用考案との上記相違点を看過しており,これが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
イ 被告は,引用考案の中央演算処理装置5は,スイッチ回路4のオフの動作(初期化処理の後,CPUオフ処理を実行し,メモリ11にオフのデータを書き込み,その結果,メモリ11の出力は“0”から“1”へ変化し,スイッチ回路4をオフするように動作する。)を担っており,スイッチ回路のオンの動作は担っていないから,スイッチ回路4のオンに関しては,制御回路と第1の回路とが重複するものではない,と主張する。
しかしながら,刊行物1には「CPU(5)はN-MOS型のもので,データバス(15),アドレスバス(16)及びコントロールバス(17)により,メモリや周辺機器とデータの授受を行ってシステム全体を制御する。」(甲第5号証3頁右上欄13行〜16行),「(8)はキーボードで,アドレスバス(16)によりスキャンされてその結果はデータバス(15)を介してCPU(5)へ伝送されて,CPU(5)でキー操作が検出される。」(同頁左下欄4行〜7行)との記載があり,これらの記載によれば,中央演算処理装置5は,キーボード8を含むシステム全体を制御するものであり,キーボード8は,中央演算処理装置5の制御の下にある。キーボード8は,中央演算処理装置5から出力されるデータバス15,アドレスバス16及びコントロールバス17により,中央演算処理装置5の制御の下に,キーボードからの信号を出力するものであり,キー入力があると,中央演算処理装置5の制御の下に,キーボードからの信号が,OR回路10を介して,メモリ11をセットし,スイッチ回路4をオンとする。このように,中央演算処理装置5は,スイッチ回路4のオンの動作を担っているから,スイッチ回路4のオンの動作に関しても,制御回路と第1の回路とは重複する。電源の消費を低減する技術においては,電源のオンだけの制御を行い,電源のオフの制御を行わない制御回路は,考えられないことから,オンオフ機能を有する制御回路として考えるべきである。
中央演算処理装置5はスイッチ4のオン動作に関係しないとの被告の主張は失当である。
(2) 相違点の看過-2 本件考案における制御回路は,電源に関する制御並びに第1の回路及び第2の回路の制御を行う主体であるのに対し,引用考案における制御回路は,制御回路の一部である「中央演算処理装置5」が,制御回路の一部である「キーボード8」,「キー入力検知回路9」,「OR回路10」,「D型フリップフロップ11」によって制御される,被制御対象とされている。
このように,引用考案における制御回路は,自身の制御回路を制御する複雑な構成であり,そのままでは,他の装置に転用しにくいのに対し,本件考案の制御回路は,記録及び/又は再生装置の制御と第1の回路及び第2の回路への電源供給の制御を行うもので,制御回路の構成として単純であり,汎用性,柔軟性を保持しうる。
決定は,本件考案と引用考案との上記相違点を看過しており,これが決定の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
(3) 相違点の看過-3 本件考案の制御回路は,「中央演算処理装置17」と「キー入力回路18」から構成され,一般的な制御回路で構成することができる(甲第2号証の図2参照)。これに対し,引用考案における制御回路は,「中央演算処理装置5」,「キーボード8」,「キー入力検知回路9」,「OR回路10」,「D型フリップフロップ11」及び「アドレスデコーダ12」を有し,構成要素が多く,特別な制御回路である。
決定は,本件考案と引用考案との上記相違点を看過しており,これが決定の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
被告の反論
決定の認定判断は,いずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について 願書に添付した明細書又は図面の訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない(平成6年法律第116号附則9条によって準用される特許法120条の4第3項により,さらに準用される特許法126条2項)。
「記録及び/又は再生装置」を「ディスク記録及び/又は再生装置」とする本件訂正は,本件考案の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項から直接的かつ一義的に導き出すことができないから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないというべきである。
本件訂正は認められないとした,決定の判断に誤りはない。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について (1) 一致点の認定の誤り-1について ア 引用考案は,スイッチ回路4がオンし,中央演算処理装置5とリードオンリメモリ6に電源電圧が供給されると,中央演算処理装置5は,初めに初期化処理ができる状態におかれ,所定の時間(t)後に初期化処理を実行し,その後所定の処理,例えばキー入力データの認知等を行うものであって,マイクロコンピュータ装置が作動状態にあるとは,このような,電源電圧が中央演算処理装置5とリードオンリメモリ6とに供給され,何らかの処理を実行できる状態ないし実行している状態にある,ということである。
刊行物1(甲第5号証)に,「マイクロコンピュータ装置が作動状態のとき動作する中央演算処理装置5及びリードオンリメモリ6」が記載されている,とした決定の認定及びこれに基づく一致点の認定に誤りはない。
イ 原告は,刊行物1の第2図(c)におけるtの期間,引用発明のCPU5はリセットされており,動作を開始していないと主張する。しかし,刊行物1の4頁左上欄6行ないし16行の記載(「スイッチ回路(4)がオンして第2図(e)のようにCPU(5)やROM(6)へ通電が開始される。しかし,CPU(5)のリセット端子に印加されているNORゲート(14)の出力(d)は論理レベル“0”のままなので,即ち,CPU(5)がリセットされたままなので,CPU(5)は,まだ動作を開始していない。単安定マルチバイブレータ(13)の出力が一定時間t後に論理レベル“1”→“0”に反転すると,(b)=“0”で(c)=“0”となるので,(d)=“1”となり,CPU(5)のリセットが解除され,CPU(5)が動作を開始して第3図のフローチャートで示す動作を行う。」)によれば,CPUは,上記tの期間は第3図のフローチャートで示す処理を開始しないとしているだけで,この間も,CPUは,刊行物1の第2図(d)の信号のレベルを監視し,システムが安定になった時点で,第3図のフローチャートの処理を開始するようにしており,このような監視機能は,コンピュータが正常な動作をする上での基本的機能であるから,CPUは,この間も動作しているということができる。
(2) 一致点の認定の誤り-2について 引用考案においては,キーボード8のいずれかのキーが操作された場合,キー入力検知回路9出力のほかに周辺機器からの割込み信号19が供給された場合,あるいは,メインスイッチ2をオンし自動的に割り込み信号19が発生した場合のいずれかの場合においてスイッチ回路4がオンし,マイクロコンピュータ装置は作動状態におかれるものであって,上記いずれの場合も,マイクロコンピュータを作動する作動指令が印加された場合に当たるということができる。
刊行物1に「マイクロコンピュータ装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路4を通して電池1からの電源電圧を中央演算処理装置5及びリードオンリメモリ6に印加するようにスイッチ回路4をスイッチング制御する」ことが記載されているとした決定の認定及びこれに基づく一致点の認定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点の看過)について (1) 相違点の看過-1について ア 原告は,本件考案における制御回路は,第1の回路及び第2の回路とは別個独立に設けられたものである旨主張する。しかし,原告の主張は本件考案の構成要件に基づかないものであって,失当である。
イ 本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば,本件考案の制御回路は,記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路を通してバッテリからの電源電圧を第1の回路に印加するようにスイッチ回路をスイッチング制御する,というにとどまるものであり,スイッチ回路のオフの制御は,本件考案の構成要件には含まれていない。引用考案において,CPU5は,初期化処理等の後,CPUオフ処理を実行し,メモリ11にオフのデータを書き込み,その結果,メモリ11の出力は“0”から“1”へ変化し,スイッチ回路4はオフになる。このようにCPU5は,スイッチ回路4のオフ動作のみを担っており,オンの動作は担っていない。スイッチ回路4のオンについては,制御回路と第1の回路とは重複しない。この点において,本件考案と引用考案との間に実質的な差異はなく,決定がこの点を相違点としなかったことに誤りはない。
(2) 相違点の看過-2について 原告は,引用考案の制御回路は,その一部が制御回路によって制御される複雑な構造であるのに対し,本件考案の制御回路は,記録及び/又は再生装置の制御と第1の回路及び第2の回路への電源供給の制御を行う主体であり,制御回路の構成として単純であり,汎用性,柔軟性を保持しうる点において,相違する旨主張する。しかし,本件考案における制御回路は,構成要件上,記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたときのみスイッチ回路を通してバッテリからの電源電圧を第1の回路に印加するようにスイッチ回路をスイッチング制御するものであるとされているにすぎず,第1の回路及び第2の回路の制御を行うものとはされていない。原告の上記主張は,本件考案の構成要件に基づかないものであり,失当である。
(3) 相違点の看過-3について 原告は,引用考案の制御回路は,構成要素が多く,特別な制御回路であるのに対し,本件考案における制御回路は,本件実用新案登録公報(甲第2号証)の図2に示されるように,中央演算処理装置17とキー入力回路18から構成される一般的な制御回路であり,両者は構成が異なる旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,本件考案の構成要件に基づかないものであり,失当である。
当裁判所の判断
1 本件考案の概要 甲第2号証によれば,本件考案の概要は次のとおりであると認められる。
(1) 技術分野 本件考案は,記録及び/又は再生装置のバッテリによる給電回路に関するものである。
(2) 考案の課題(目的) 従来の給電回路では,記録及び/又は再生装置が再生等を行う前の待機状態においてもすべての回路に電源電圧を供給していたため,バッテリの電力消費が大きく,このためバッテリの寿命が短いという問題があった。本件考案は,待機状態でのバッテリの電力消費を低減し,バッテリの寿命を長くすることを課題(目的)とする。
(3) 課題を解決するための手段 本件考案は,上記課題を解決するため,前記実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用した。すなわち,本件考案は,@記録及び/又は再生装置が作動状態のときのみに動作する「第1の回路」,A記録及び/又は再生装置が待機状態のときと,作動状態のときの,いずれの場合にも動作する「第2の回路」,B第1の回路及び第2の回路のそれぞれに電源電圧を供給する「バッテリ」,Cバッテリからの電源電圧を供給又は遮断する「電源スイッチ」,D電源スイッチのオンによりバッテリからの電源電圧が第2の回路とともに印加される「スイッチ回路」,E記録及び/又は再生装置が作動指令を受けたときのみ,スイッチ回路を通してバッテリからの電源電圧を第1の回路に印加するようにスイッチ回路をスイッチング制御する「制御回路」によって構成されている。
(4) 作用効果 本件考案は,記録及び/又は再生装置が作動指令を受けない場合は,制御回路がバッテリからの電源電圧が印加されるスイッチ回路をオフとするため,待機状態で動作する必要のない第1の回路には電源電圧が供給されず,第2の回路にだけ電源電圧が供給されることによって,待機状態でのバッテリの電力消費を低減することができ,バッテリの寿命を伸ばすことができる,との作用効果を奏する。
2 取消事由1(訂正の適否についての判断の誤り)について (1) 本件訂正の中で,決定が採り上げて検討の対象としたのは,本件考案の実用新案登録請求の範囲の「記録及び/又は再生装置」との記載を,実用新案登録請求の範囲減縮を目的として,「ディスク記録及び/又は再生装置」とするものである。
本件登録実用新案は,平成4年1月30日に出願され,平成6年法律第116号の附則9条1項により出願公告を経ることなく登録されたものである。本件登録実用新案については,同附則9条2項により,平成6年法律第116号による改正後の特許法第5章の規定(いわゆる付与後異議申立ての規定)が適用されるから,同改正後の特許法120条の4第3項によって準用される同法126条2項により,本件登録実用新案の明細書又は図面の訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
同項は,願書に添付した明細書にも図面にも記載されていない事項を,訂正によって,追加することを禁止するものである(いわゆる新規事項の追加の禁止)。ある訂正が許されるか否かは,訂正請求に係る事項が願書に添付した明細書又は図面に記載されているとみることができるか否かに懸かることになる。そして,訂正請求に係る事項が願書に添付した明細書又は図面に記載されているとみることができるか否かは,訂正請求に係る事項と願書に添付した明細書又は図面に記載された事項との技術的事項としての対比によって決められるべき事柄であることは,明らかであるから,この判断に当たっては,単に,訂正請求に係る事項を示す語句と明細書の語句とを比較するだけではなく,訂正請求に係る事項,並びに,願書に添付した明細書又は図面に記載された技術的事項についても検討を加えた上で,訂正によって,願書に添付した明細書又は図面に記載されているとはみることができない技術的事項が付加されることになるか否かを,検討すべきである。
決定は,本件訂正につき,「「記録及び/又は再生装置」には,「ディスク記録及び/又は再生装置」に限らず,テープ記録及び/又は再生装置等も含まれる。また,登録査定時の明細書には「記録及び/又は再生装置」の一例として,「CD-ROM再生装置」が記載されているが,「CD-ROM再生装置」は記録機能を有しないから,「ディスク記録及び/又は再生装置」は「CD-ROM再生装置」の上位概念ではない。さらに,「CD-ROM再生装置」の上位概念としてはディスク再生装置に限らず,光ディスク再生装置等の上位概念が存在し,登録査定時の明細書の「記録及び/又は再生装置」及び「CD-ROM再生装置」のいずれの記載からも,訂正後の「ディスク記録及び/又は再生装置」を直接的かつ一義的に導き出すことはできない。」(決定書2頁15行〜3頁10行)との理由により,本件訂正は認められない,とした。
しかしながら,まず,本件登録実用新案の願書に添付した明細書の「記録及び/又は再生装置」には,「ディスク記録及び/又は再生装置」が,「テープ記録及び/又は再生装置」等とともに,概念上含まれることは明らかである。加えて,前記認定によれば,本件考案は,「記録及び/又は再生装置」が作動指令を受けたときのみに,スイッチ回路を通してバッテリからの電源電圧を第1の回路に印加するようにスイッチ回路をスイッチング制御する制御回路を設けることにより,再生等を行う前の待機時において,バッテリの電力消費を低減し,バッテリの寿命を長くすることを目的とする考案であり,その技術的事項の内容は,「記録及び/又は再生装置」が「ディスク記録及び/又は再生装置」であっても,「テープ記録及び/又は再生装置」であっても,それら相互の相違に無関係に,また,どのような「ディスク記録及び/又は再生装置」であっても,どのような「ディスク記録及び/又は再生装置」等であっても,適用が可能な汎用性のあるものであることが極めて明らかである。このような本件考案の技術的事項の内容に照らすと,上記訂正によって,実用新案登録請求の範囲を「記録及び/又は再生装置」から「ディスク記録及び/又は再生装置」と減縮する変更をしても,願書に添付した明細書にも図面にも記載されていない技術的事項を変更することになるものではないことは明白というべきであるから,同訂正は,新規な事項を付け加えることにはならないと解するのが相当である。同訂正についての決定の判断は,訂正請求に係る事項につき,単にそれを示す語句と明細書の語句とを比較しただけで,それと願書に添付した明細書又は図面に記載された技術的事項との関係の検討をしないままになされたものというべきであり,決定が,同訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるとはいえないとして,それを根拠に本件訂正請求を斥けたのは,誤りであって,本件訂正については,改めて,その要件の有無を判断する必要がある。
(2) 以上によれば,決定には,根拠にできないものを根拠として本件訂正を斥けた誤りがあり,その誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかというべきである(以上に述べた本件考案の技術的事項の内容に照らすと,本件考案についての決定の判断は,訂正考案にそのまま当てはまる見込みが極めて大きいので,決定を取り消したとしても,特許庁が,訂正考案についての判断において,本件考案についての判断に用いられたのと同一の公知事実に基づいて,同一の判断をするに至るであろうことが当然に予想され,このような場合に,本件考案についての決定の認定判断に触れないままに,決定をいったん取り消さなければならないとするのは,不合理であるようにもみえる。しかしながら,裁判所が,訂正に関し,上記訂正事項がいわゆる新規事項の追加の禁止に反するか以外の点についての特許庁の判断を待つことなく,本件考案についての決定の認定判断を訂正考案についてのものであると仮定して,判断することはできないというべきである。)。
3 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,決定は,違法なものとして,取り消されるべきであることが明らかである。
よって,審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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