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関連審決 審判1997-13996
関連ワード 考案 /  図面 /  自然法則 /  技術的思想の創作 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  明細書の記載要件 /  先願 /  先行技術 /  判決の拘束力 /  請求項 /  実施例 /  数値限定 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 434号 審決取消請求事件
原告 三浦工業株式会社
訴訟代理人弁理士 福島三雄
同 野中誠一
被告 株式会社ヒラカワガイダム
訴訟代理人弁理士 本田紘一
同 豊田正雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/21
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年審判第13996号事件について平成11年10月29日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実等)
1 本件実用新案登録及び本件考案の要旨 (1) 原告は、考案の名称を「角型多管式貫流ボイラー」とする実用新案登録第2507407号の考案(昭和63年10月28日出願、平成8年5月30日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
(2) 本件考案の要旨は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。
複数本の垂直水管1′を1列に整列配置するとともに、隣合う垂直水管1′同士をフィン状部材3で連結して水管壁9を形成し、該水管壁9を2枚対面させて配置し、該一対の水管壁9、9を構成する各垂直水管1′の上下端を上下のヘッダにそれぞれ連結し、前記一対の水管壁9、9の長手方向の一端部にバーナ2を設けるとともに、他端部に排ガス出口7を設け、前記一対の水管壁9、9と前記上下のヘッダとにより前記バーナ2からの燃焼ガスが実質上直線的に通過するガス通路8を形成し、該ガス通路8内に、前記燃焼ガスの流通を許容する間隔をもって、かつ当該ガス通路8のほぼ全域に亘って多数の垂直水管1を挿設し、該垂直水管1のうち前記水管壁9に対面する垂直水管1を前記水管壁9を構成する垂直水管1′に対して千鳥状に配置し、さらに前記ガス通路8内に挿設した多数の垂直水管1の上下端を前記上下のヘッダにそれぞれ連結することにより矩形状の缶体10を形成し、前記バーナ2と該バーナ2の直前に対面する垂直水管1との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定するとともに、各垂直水管1、1′の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定してなることを特徴とする角型多管式貫流ボイラー。
2 特許庁等における手続の経緯 (1) 被告は、平成9年8月21日、本件考案の実用新案登録について無効審判の請求をした。この請求の理由の要旨は、@本件考案は、前記1の(2)の本件考案の要旨に係る構成のうち、「前記バーナ2と該バーナ2の直前に対面する垂直水管1との距離を垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定する」という数値を限定する構成(以下「数値限定@」という。)を除くその余の構成が全て出願前周知慣用の技術的事項であり、このように本件考案の構成上の特徴がただ単に「数値限定」を付しただけにある場合には、その数値限定に臨界的意義がなければならず、その説明が明細書に記載されなければならないが、本件考案明細書にはその記載がないから、本件考案明細書及び図面は、実用新案法5条の規定に違反する(無効理由1)、A本件考案は、その出願前の出願であってその出願後に出願公開された特願昭63-227181号の願書に最初に添付された明細書又は図面(特公平4-70523号公報、甲第5号証、審判甲第3号証)に記載された発明(以下「先願発明」といい、その明細書又は図面を「先願明細書」という。)と実質的に同一であるので同法3条の2の規定により実用新案登録を受けることができない(無効理由2)、B本件考案は、公知刊行物(大阪ガス「ガスボイラーテクニカルレポートNo.15」、昭和63年10月27日発行、「多缶設置専用ガススチームユニットシステム」、審判甲第10号証)に記載されたもの、及び周知の技術的事項(審判甲第1、第2号証、第4ないし第9号証の刊行物等に示されるもの)から、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、同法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない(無効理由3)、というものである(乙第5号証(審判請求書))。
特許庁は、この無効審判の請求を平成9年審判第13996号事件として審理した結果、平成10年4月13日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。その理由の要旨は、「T」無効理由1につき、本件考案明細書及び図面の記載によれば、本件考案が、数値限定に係る事項、すなわち、数値限定@、及び、前記1の(2)の本件考案の要旨に係る構成中の「各垂直水管1、1′の相互の間隙を垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定してなる」という数値を限定する構成(以下「数値限定A」という。)に係る事項を有することについて、その技術的な意義が記載されており、実用新案登録の範囲の請求項1における数値限定@は、明細書考案の詳細な説明の欄に記載された実施例に限定して記載したものと解することができるから、本件考案明細書及び図面は、実用新案法5条の規定に違反するものであるとすることはできない、
「U」無効理由2につき、先願発明の先願明細書に記載された事項を認定した上で、先願明細書には、本件考案の構成要件である数値限定@の事項を有するものであるとの記載がされているとは認められず、本件考案は、この数値限定@の事項と、その余の構成要件とが相俟って、本件考案の目的を達成しようとするものであるから、本件考案先願発明とが同一であるということができず、同法3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとすることはできない、「V」無効理由3につき、審判甲第10号証及び審判甲第1、第2号証、第4ないし第9号証に記載された事項を認定した上で、これらの甲各号証には、いずれも本件考案の構成要件である数値限定@及びAの事項の記載が認められず、本件考案は、この数値限定@及びAの事項と、その余の構成要件とが相俟って、本件考案の目的を達成しようとするものであるから、本件考案が、審判甲第10号証の公知刊行物及び審判甲第1、第2号証、第4ないし第9号証の甲各号証に示される周知の技術的事項から、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるということはできず、同法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとすることはできない、というものである(甲第1号証(第1次審決書))。 (2) そこで、被告は、東京高等裁判所に第1次審決の取消しを求める訴えを提起し、平成10年(行ケ)第172号事件として審理され、同裁判所は、平成11年5月27日に、別紙1の判決書の写し(同判決書添付の別紙第1次審決書及び別紙図面を省略する、以下「第1次判決書」という。甲第2号証)のとおり、第1次審決を取り消す旨の判決(以下「第1次判決」という。)をし、同判決は確定した。
(3) 第1次判決は、「事実」欄に、原告(本訴被告)が第1次審決の取消事由につき、(1)審決の理由T(明細書の記載の適否)の判断の誤り、(2)審決の理由U(先願明細書記載の発明との対比)の判断の誤り、(3)審決の理由V(公知刊行物記載の技術的事項との対比)の判断の誤り、としてそれぞれ主張する内容と、それぞれに対する被告(本訴原告)の反論を判示した上で、「理由」欄の「第3」において、原告主張の審決取消事由の当否について、次のとおり判示するものである。
「本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが本件考案の登録出願前に公知であって、数値限定@及び数値限定Aのみを特徴とするものであることは、本件考案先願明細書記載の発明とを対比して、先願明細書又は図面には数値限定@が記載されていないとして本件考案新規性を肯定し、また、本件考案と公知刊行物記載の技術的事項とを対比して、公知刊行物には数値限定@及び数値限定Aが記載されていないとして本件考案進歩性を肯定した審決の説示からも明らかである。したがって、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(具体的には、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確にされなければならない旨の原告(本訴被告)の主張は、正当である。この点について、被告(本訴原告)は、実用新案登録願書の考案の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に記載すれば足りるのであって、本件考案数値限定@あるいは及び数値限定Aの根拠を学問的に明らかにするまでの必要はない旨主張する。しかしながら、本件において問われているのは、本件考案自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かであって、当業者が本件考案を実施できるか否かではないから、被告の上記主張は失当といわざるをえない。
そして、甲第2号証(本訴甲第4号証)によれば、本件明細書には、審決がその9頁15行ないし14頁10行において援用する記載が存在することが認められる。しかしながら、これらの記載が、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果を抽象的に述べているにすぎないことは明らかであって、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(すなわち、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)については何ら言及されていないといわざるをえない。
付言するならば、バーナとその直前に位置する垂直水管の距離(数値限定@)及び各垂直水管の間隙(数値限定A)は、缶体の大きさ、バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を総合考慮してこそ的確に決定できる、設計事項であると考えられる(本件明細書実施例の説明として記載されている「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」(5頁27行ないし29行)との記載は、数値限定@が単なる設計事項であることを明らかにしているものと解さざるをえない。)。したがって、本件考案について実用新案権を設定することは、
当業者に許される設計事項の相当の部分を実用新案権の権利範囲に取り込んでしまう結果となり、許されないものというべきである。現に、甲第5号証によれば、先願明細書には「バーナの特性によっては燃焼をより円滑に行わせるために、バーナヘッド近傍での収熱水管を一部分省いて空間を作るようにして、空気過剰燃焼、希薄燃焼や燃料過剰の還元燃焼を同一燃焼室断面内でローカルに生ぜしめてもよい。」(11頁8行ないし13行)と記載されていることが認められるが、ここに記載されている「バーナヘッド近傍での(中略)空間を作る」の構成が、数値限定@を満足することはいうまでもないところである。
技術的に考えても、公知の角型多管式貫流ボイラーについて、缶体の大きさ,バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を一切捨象して、単に、バーナとこれに対面する垂直水管との距離を「垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定」し、かつ、各垂直水管の間隙を「垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定」することにいかなる意味があるのか、理解することは困難である。とりわけ、数値限定@は、バーナとこれに対面する垂直水管との距離として、垂直水管の直径dの略3倍の距離から、無限に零に近い距離をクレームするものであるが、このクレームが極めて広いものであることは、本件考案実施例を図示している別紙図面の記載からも十分に窺うことができる。しかるに、本件明細書の記載は、得られる作用効果からみて、
a「垂直水管の直径dの略3倍」以下の距離と、「垂直水管の直径dの略3倍」を超える距離との間に有意の差異があることb「垂直水管の直径dの略3倍の距離」と、無限に零に近い距離とが等価でありうることについて、何ら明らかにするところがないのである。
以上のとおりであるから、原告(本訴被告)の無効審判請求を退けた審決の判断は、原告のその余の主張の当否を論ずるまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。」 (4) そこで、前記審判事件は、再び特許庁に係属することとなり、特許庁は、平成11年10月29日に「登録第2507407号実用新案の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」、あるいは「第2次審決」という。)をし、
その謄本は、平成11年12月2日に原告に送達された。
3 本件審決の理由 別紙2の審決書の理由の写し(以下「本件審決書」という。)のとおり、「T.本件実用新案登録第2507407号考案」として、本件考案の要旨を前記1の(2)のとおり認定し、「U.本件請求人の求めた審決と本件請求人の主張」として、被告(本件請求人)の無効理由の主張の骨子及び被告が提出した証拠関係(審判甲第1ないし第10号証)を摘示した。そして、「V.東京高等裁判所においてなされた審決取消の判決(平成10年(行ケ)第172号、平成11年5月27日判決言渡。)における説示」として、第1次判決書の「理由」欄中、「第3」の審決取消事由の当否についての判示部分(第1次判決書11頁1行ないし14頁13行。前記2の(3)において「 」内に引用した部分)を、数値限定@及びAの内容を注記したほか、そのまま掲記した上で、「W.当審における審理」として、
「上記の「V.東京高等裁判所においてなされた審決取消の判決における説示」のとおりであるから、本件考案は、先願明細書に記載された発明と同一のものであって、実用新案法3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないものであるといわざるを得ない。」と説示し、「X.結び」として、「したがって、本件考案の登録は、実用新案法第3条の2の規定に違反してされたものであり、同法第37条第1項の規定により、これを無効とすべきものとする。」と結論付けた。
原告主張の審決の取消事由の要点
1 取消事由1 第1次判決は、被告が主張した第1次審決の取消事由の(1)(無効理由1(実用新案法5条の規定違反による無効)に対する審決の理由T(明細書の記載の適否)の判断の誤り)について判断したにすぎない。したがって、それに続く第2次の審判手続における審判官に対する第1次判決の拘束力も、無効理由1についての取消事由(1)に係る事実認定と法律判断に限られる。しかるに、第2次審決では、第1次判決の判決理由で違法と指摘され、取消の判断を導いた認定を基礎として、取消事由(1)に関する無効理由1について判断するのではなく、取消事由の(2)に関する無効理由2(同法3条の2の規定による無効)を採用して、登録を無効とする審決をしており、一見して違法である。その理由は、以下のとおりである。
第1次審決は、無効理由1について、本件考案数値限定@の構成要件についての明細書の記載が、実用新案法5条に規定された明細書の記載要件に違反するものではないと判断し、次に、無効理由2について、先願発明には本件考案数値限定@の構成要件が存在しないので、その余の構成要件については検討することなく、
本件考案先願発明と同一であるということはできないとしたものである。なお、
無効理由3についても、同様に、被告(無効審判請求人)が提出した甲各号証には、本件考案数値限定@及びAの構成要件が存在せず、進歩性を肯定することができないと判断した。
第1次審決の取消訴訟において、被告は、取消事由(1)として、「明細書の記載の適否」、つまり、実用新案法5条に関し、大略「明細書において数値限定@あるいは数値限定Aの根拠が明確にされていなければならないのに、本件考案明細書考案の詳細な説明には、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠は何ら記載されていないと主張し、取消事由(2)として、「先願明細書記載の発明との対比」、
つまり、同法3条の2に関し、大略「本件考案先願明細書記載の発明は、実質的に同一の技術的思想であると主張し、取消事由(3)として、「公知刊行物記載の技術事項との対比」、つまり、同法3条2項に関して、大略「数値限定@及び数値限定Aは、根拠が不明の無意味なものであるから進歩性に関する審決の判断も誤りであると主張した。
そして、第1次判決は、取消事由についての判断において、「本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠が明確にされなければならない旨の原告の主張は、正当である。」(第1次判決書11頁9行ないし13行)と判示して、無効理由1に関する原告の主張の正当性を認めた上で、「甲第2号証によれば・・・記載が存在することが認められる。しかしながら、これらの記載が、・・・数値限定@あるいは数値限定Aの根拠については何ら言及されていないといわざるをえない。」(同12頁2行ないし9行)と判断し「・・・について、何ら明らかにするところがないのである。以上のとおりであるから、原告の無効審判請求を退けた審決の判断は、原告のその余の主張の当否を論ずるまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。」と結論付けている(同14頁10行ないし13行)。つまり、第1次判決は、上記の取消事由(1)、(2)、(3)のうち、取消事由(1)について判断したのであり、要するに、本件明細書には、数値限定@及びAの根拠が明確にされていないにもかかわらず、数値限定@及びAを意義あるものと採用した点において第1次審決は取消を免れないと判断したものである。
したがって、第1次判決の後続の審判手続の審判官に対する拘束力は、取消事由(1)(明細書の記載要件についての判断の誤り)に関して、第1次判決によって認定された事実及び法律判断を限度とする。しかるに、第2次審決は、拘束力の及ぶ範囲を誤認して、第1次判決の事実認定をそのまま理由付けとして、取消事由(1)については判断せず、唐突に取消事由(2)(先願発明との対比についての判断の誤り)を採用して審決した。すなわち、取消事由(1)は、実用新案法5条に関する問題であり、同法3条の2は、これと別の法律問題であって、第1次判決は、同問題については実際には何らの事実認定を行っていないにもかかわらず、第2次審決は、取消事由(2)によって審決をしており、審決取消判決の拘束力の範囲を超えて誤って認めたものであり、判例(最判平成4年4月28日)に反するし、取消事由(2)について、権利者である原告に何らの防御反論の機会も与えなかったという明らかに取消事由となる違法な瑕疵が存する。
2 取消事由2 仮に、第1次判決における取消事由(1)に関する事実認定及び法律判断が、取消事由(2)や取消事由(3)とも密接に関連しているとしても、実用新案法3条の2における同一性を問題とする取消事由(2)に関しては、第1次審決及び第1次判決において、積極的に認定判断していない数値限定@以外の構成要件の部分があるところ、この残余の部分を全く審理することなくなされた第2次審決は、判断遺脱の違法がある。その理由は、以下のとおりである。
審決取消訴訟では、審判で現実に審理判断された特許要件事項の存否を超えては審理の対象とすることができないとするのが判例(最判昭和51年3月10日)である。本件の場合には、第1次審決における審理判断は、先願明細書には数値限定@の記載がないとして、実用新案法3条の2の適用を否定したこと、あるいは、公知刊行物には数値限定@及びAの記載がないことを理由として、同法3条2項の適用を否定したことであり、審決取消訴訟の審理対象は、その適否に限られる。
そして、第1次判決は、前記のとおり「甲第2号証(本件考案明細書)には、
数値限定@あるいは数値限定Aの根拠については何ら言及されていない。」と判断して、明細書の記載不備に関する取消事由(1)を採用して第1次審決を取り消したのである。 したがって、仮に、判決における事実認定及び法律判断が、取消事由(2)や取消事由(3)とも密接に関連しているとしても、判決が実質的に判断し、積極的に認定した事項は、明細書の記載不備に関する認定だけであり、実用新案法3条の2については、何ら積極的、実質的な事実確定作業を行っていないのであるから、数値限定@以外の構成要件について、第1次判決は、後続の審判手続を拘束するものではない。
しかるに、後続の審判手続では、第1次判決に拘束される部分と、その他の部分を区別せず、原告に対して実用新案法3条の2の特許要件の存否に関し、ただ一度の反論の機会も与えず、かつ、本件考案の構成要件が先願発明のどの構成に該当するかの認定をすることもなく、同法3条の2を理由として、本件考案の実用新案登録が無効であるとの審決をしている。つまり、特許庁審判官は、同条の特許要件につき何も審理することなく、何も認定することなく第2次審決をしており、判断遺脱の違法がある。
被告の反論の要点
1 取消事由1に対して 原告は、第1次判決は、被告(第1次判決の原告)が主張した取消事由(1)(明細書の記載の適否の判断の誤り)について判断したのであるから、第2次審決も上記取消理由(1)に係るものでなければならないところ、第2次審決は、これと異なる取消事由(2)(先願明細書記載の発明との対比の判断の誤り)によって審決をしたものであり、取消判決に拘束される範囲を超えたものであって、違法である旨主張する。
しかしながら、一般に、出願に係る考案先行技術との差異が数値限定のみの場合に、当該考案が特許性を有するためには、その数値限定に「顕著な作用効果」、
いわゆる臨界的意義を持つことが要求されるのであって、仮に、先行技術との間に数値限定以外の構成要件に相違点が存在し、作用効果においても差異があれば、数値限定の臨界的な意義は、特許性有無の問題とはならない。
この観点から、第1次判決は、「本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが本件考案の登録出願前に公知であって、数値限定@及び数値限定Aのみを特徴とするものであることは、本件考案先願明細書記載の発明とを対比して、先願明細書又は図面には数値限定@が記載されていないとして本件考案新規性を肯定し、
また、本件考案と公知刊行物記載の技術的事項とを対比して、公知刊行物には数値限定@及び数値限定Aが記載されていないとして本件考案進歩性を肯定した審決の説示からも明らかである。したがって、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(具体的には、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確にされなければならない旨の原告の主張は、正当である。」(第1次判決書11頁1行ないし13行)と判示した上で、本件考案の効果について、
「甲第2号証によれば、本件明細書には、審決がその9頁15行ないし14頁10行において援用する記載が存在することが認められる。しかしながら、これらの記載が、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果を抽象的に述べているにすぎないことは明らかであって、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(すなわち、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)については何ら言及されていないといわざるをえない。」(同12頁2行ないし9行)と判示して、唯一の相違点の数値限定@及びAに、顕著な作用効果が認められないとして、 審決を取り消したものである。
このように、第1次判決は、明らかに新規性及び進歩性について審理しているのであり、原告が主張するように明細書又は図面の不備(取消事由(1))について判断したものではない。
2 取消事由2に対して 原告は、第2次審決は、第1次審決及び第1次判決において積極的に認定判断していない数値限定@以外の構成要件の部分を全く審理せずに審決されたものであり、判断遺脱の違法がある旨主張している。
しかしながら、第1次審決は、本件考案の全ての構成要件について先行技術と対比して、被告(無効審判請求人)が本件考案先行技術との相違点が数値限定@及びAのみであると主張した点については、これを認めたために、この唯一の相違点についての「顕著な作用効果」の有無が、その審決の取消訴訟における争点となったのである。
このことは、第1次判決が、「本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが・・・数値限定@及び数値限定Aのみを特徴とするものであることは、・・・本件考案進歩性を肯定した審決の説示からも明らかである。」(第1次判決書11頁1行ないし9行)と判示していることからも明らかである。
このように、第1次審決は、先行技術との比較検討の結果、本件考案数値限定@及びAのみを特徴とすることを認めた上で、その進歩性を肯定したものであり、
これを受け、第1次判決は、本件考案数値限定@及びAのみを特徴とすることを認めて、相違点である数値限定@及びAには臨界的意義がないことを理由として、
本件考案新規性及び進歩性を否定する判断をしたものであり、第2次審決は、この判決の拘束力に従ったものであるから、第2次審決には、原告主張の違法はない。
当裁判所の判断
1 実用新案登録の無効審判事件についての審決取消訴訟において、審決取消しの判決が確定したときは、その判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断について及ぶものである(最判平成4年4月28日民集46巻4号245頁参照)。
本件審決は、本件考案について、先願発明と同一であるから実用新案法3条の2の規定により登録を受けることができず、その実用新案登録は無効であると結論付けたものであるが、その理由として説示した内容は、前記第2の3に記載のとおりのものであり(別紙2の本件審決書の理由の写し参照)、第1次判決の判示内容をそのまま引用するだけであって、これに付加する説示は何らしていないのであるから、本件審決が、第1次判決の拘束力にしたがって、上記のとおり結論付けたことは明らかである。
そこで、第1次判決が第1次審決の取消しという主文を導いた事実認定及び法律判断の内容について、以下、検討する。
2 第1次判決の判示内容は、別紙1の第1次判決書に記載のとおりであり、これによると、同判決は、次のとおり判示している。
(1) 第1次判決は、「事実」欄の「第2 原告の主張」の「4 審決の取消事由」として、「審決は、本件考案の登録出願の願書の記載には不備がないと誤って判断したのみならず、本件考案先願明細書ないし公知刊行物記載の技術的事項との対比判断を誤った結果、原告の無効審判請求を退けたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。」(第1次判決書3頁19行、20行)と、
原告(本訴被告)の取消事由を総括して判示している。
その上で、第1次判決は、原告(本訴被告)の取消事由の具体的な主張を(1)、(2)、(3)に分けて記載し、「(1)審決の理由T(明細書の記載の適否)の判断の誤り」の主張として、「本件考案は、公知の角型多管貫流ボイラーにおいて、数値限定@とともに、数値限定Aのみを特徴とするものである。したがって、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において数値限定@あるいは数値限定Aの根拠が明確にされていなければならないことは当然である。しかるに、本件明細書考案の詳細な説明には、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠は何ら記載されていない。この点について、審決は、本件明細書の記載を引用(審決9頁15行ないし14頁10行)したうえ、それを審決14頁12行ないし15頁15行のとおり要約している。しかしながら、そこに要約されている事項は、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果であって、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠を明らかにするものではない。なお、審決は、本件明細書の「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある」(5頁27行ないし29行)との記載について、「何ら意味のない単なる例示的な数値の記載であると解することはできず」、数値限定@は「この実施例に限定して記載しているもの」と説示しているが、この説示は、まさしく、数値限定@が単なる設計事項にすぎないことを明らかにしたものにほかならない。」旨原告の主張(1)を整理して記載している(第1次判決書4頁5行ないし5頁15行)。
そして、第1次判決は、被告(本訴原告)の反論として、審決の理由T、U、Vの判断についての各主張を順次記載し、「1 審決の理由Tの判断について」としては、「原告は、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには明細書において数値限定@あるいは数値限定Aの根拠が明確にされていなければならないところ、本件明細書考案の詳細な説明には数値限定@あるいは数値限定Aの根拠は何ら記載されていない旨主張する。しかしながら、本件明細書の3頁18行ないし26行及び6頁22行ないし7頁14行には、本件考案が、数値限定@及び数値限定Aを採用したことによって、(他の要件と相俟って)燃焼を効果的にし、広い燃焼室を不要とし、有害排気物の発生を抑制するとの顕著な作用効果を奏することが明確に記載されている。そして、考案の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に記載すれば足りるのであって、本件考案数値限定@あるいは数値限定Aの根拠を学問的に明らかにするまでの必要はないから、原告の上記主張は失当である。」(第1次判決書7頁7行ないし8頁2行)などと被告の主張を整理して記載している。
(2) 第1次判決は、「理由」欄の「第3」として、「そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。」(第1次判決書10頁20行)とした上で、前記第2の2(3)の「 」内に掲記したとおりの判示をした。これを要約すると、第1次判決は、次のとおりの判示をしているものと認められる。
「本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが本件考案の登録出願前に公知であって、数値限定@及び数値限定Aのみを特徴とするものであることは、・・・明らかである。したがって、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるためには、明細書において、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(具体的には、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確にされなければならない旨の原告(本訴被告)の主張は、正当である。この点について、被告(本訴原告)は、実用新案登録願書の考案の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に記載すれば足りるのであって、本件考案数値限定@あるいは及び数値限定Aの根拠を学問的に明らかにするまでの必要はない旨主張する。しかしながら、本件において問われているのは、本件考案自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かであって、当業者が本件考案を実施できるか否かではないから、被告の上記主張は失当といわざるをえない。
そして、甲第2号証(本訴甲第4号証)によれば、本件明細書には、審決がその9頁15行ないし14頁10行において援用する記載(本判決注・第1次審決が無効理由1の実用新案法5条違反の主張の当否について説示している記載部分)が存在することが認められる。しかしながら、これらの記載が、本件考案ないしその実施例が奏する作用効果を抽象的に述べているにすぎないことは明らかであって、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(すなわち、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)については何ら言及されていないといわざるをえない。
付言するならば、バーナとその直前に位置する垂直水管の距離(数値限定@)及び各垂直水管の間隙(数値限定A)は、缶体の大きさ、バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を総合考慮してこそ的確に決定できる、設計事項であると考えられる(本件明細書実施例の説明として記載されている「バーナ2と、この直前に位置する第1の水管列Aとの間隙は、所定距離、例えば、垂直水管1の直径dの略3倍に等しいか、それ以下に設定してある。」(5頁27行ないし29行)との記載は、数値限定@が単なる設計事項であることを明らかにしているものと解さざるをえない。)。したがって、本件考案について実用新案権を設定することは、
当業者に許される設計事項の相当の部分を実用新案権の権利範囲に取り込んでしまう結果となり、許されないものというべきである。・・・。
技術的に考えても、公知の角型多管式貫流ボイラーについて、缶体の大きさ,バーナの性能、垂直水管の数等の具体的な諸条件を一切捨象して、単に、バーナとこれに対面する垂直水管との距離を「垂直水管の直径dの略3倍の長さに等しいかそれよりも小さく設定」し、かつ、各垂直水管の間隙を「垂直水管の直径dと略等しいかそれ以下に設定」することにいかなる意味があるのか、理解することは困難である。とりわけ、数値限定@は、バーナとこれに対面する垂直水管との距離として、垂直水管の直径dの略3倍の距離から、無限に零に近い距離をクレームするものであるが、このクレームが極めて広いものであることは、本件考案実施例を図示している別紙図面の記載からも十分に窺うことができる。しかるに、本件明細書の記載は、得られる作用効果からみて、
a「垂直水管の直径dの略3倍」以下の距離と、「垂直水管の直径dの略3倍」を超える距離との間に有意の差異があることb「垂直水管の直径dの略3倍の距離」と、無限に零に近い距離とが等価でありうることについて、何ら明らかにするところがないのである。
以上のとおりであるから、原告(本訴被告)の無効審判請求を退けた審決の判断は、原告のその余の主張の当否を論ずるまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。」 3 上記2の(1)、(2)に掲記した第1次判決書の「事実」欄における取消事由(1)(審決の理由T)に関する当事者の主張内容と「理由」欄における判示内容とを対比すれば、第1次判決は、原告(本訴被告)の審決の取消事由として総括した、「審決は、本件考案の登録出願の願書の記載には不備がないと誤って判断したのみならず、本件考案先願明細書ないし公知刊行物記載の技術的事項との対比判断を誤った結果、原告の無効審判請求を退けたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。」との主張のうち、前段の、明細書の記載の要件(実用新案法5条)違反の無効理由1に係る第1次「審決の理由T(明細書の記載の適否)の判断の誤り」とする取消事由(1)の主張について、上記2の(2)のとおりに判示したものであり、この取消事由(1)の主張が採用することができることから、「原告(本訴被告)の無効審判請求を退けた審決の判断は、原告のその余の主張の当否を論ずるまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。」旨判示して、その余の取消事由(2)及び(3)について判断するまでもなく、第1次審決の判断は誤りであり、違法であるとして、これを取り消す主文を導いたものであることが明らかである。
4 以上によれば、第1次判決の拘束力は、その審決取消しの主文を導くためにされた事実認定及び法律判断、すなわち、本件考案の実用新案登録について、明細書の記載の要件(実用新案法5条)違反の無効理由の当否に関して、本件考案が対象とする角型多管式貫流ボイラーが本件考案の登録出願前に公知であって、本件考案は、数値限定@及び数値限定Aのみを特徴とするものであること、このような場合、本件考案新規性ないし進歩性が肯定されるために、明細書において、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(具体的には、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)が明確に記載されていなければならないと解されること、本件明細書には、数値限定@あるいは数値限定Aの根拠(すなわち、数値限定@あるいは数値限定Aを採用することによってのみ得られる顕著な作用効果)については何ら言及されていないこと、したがって、本件考案明細書は、原告主張のとおりの不備があり、この実用新案法5条違反を無効理由とする原告(本訴被告)の無効審判請求を退けた審決の判断は誤りであり、違法であること、について及ぶものであることが明らかである。
5 本件審決は、上記1のとおり、第1次判決の判示する理由をそのまま審決の認定及び判断として掲記して、この判決の拘束力に従って本件考案を無効とする判断をしたものと認められるのであるが、その根拠となる法条については、本来は、
第1次判決が判示するところに従い、本件考案明細書には記載要件の不備があるとして、実用新案法5条の要件を満たしていないことを理由に無効とすべきところ、これと異なり、本件考案先願発明と同一であるとして同法3条の2の規定により登録を受けることができない旨誤って摘示したものである(これは、第1次判決が、原告(本訴被告)が主張する第1次審決の取消事由のいずれについて判断したものであるのか、その判決書の記載文言上からは必ずしも明確に特定していないようにも受け取られる判示をしたことによるものと推認される。)。
6 以上のとおり、本件審決は、第1次判決の拘束力に従って判断したものであるが、その適用法条について、実用新案法5条違反とすべきものを、同法3条の2違反であると誤って法令を適用したものと認められる。しかしながら、本件審決は、第1次判決の拘束力の及ぶ内容については、第1次判決の判示内容をそのまま審決の認定及び判断として審決書に掲記し、これに拘束されると判断したものであり、本件考案の実用新案登録を無効であるとすべき理由として説示する事実認定及び法律判断自体は、上記の適用法条の点を措いて、何ら誤りがないことは明らかであって、本件考案の実用新案登録を無効とすべき結論においても、誤りはないものと認められる。
すなわち、本件審決に上記の適用法条についての誤りがあるとしても、第1次判決の判示内容によれば、本件考案明細書の記載(考案の詳細な説明の記載)は、
平成2年法律第30号による改正前の実用新案法5条3項に違反するものとして、
本件実用新案登録を無効とすべきことが明らかであり、したがって、本件審決は、
その結論に影響を及ぼす違法があるとして、これを取り消すべきものであるとすることはできない(このように、無効審決が結論に至る事実認定及び法律判断において、法令の適用のみが誤っており、他には何ら誤りがないと認められる場合、当該審決を維持し、無効審決の取消請求を棄却したとしても、専門行政庁による慎重な審理判断を受けるべき利益ないし保証を何ら損なうものではないことが明らかであり、一方、これと逆に、適用法条を訂正させることだけを目的として無効審決を取り消して、再度の無効審判手続を要するものとすることは、当事者に対して無用の手続負担を強いてその利益を損なうものであり、かつ、公益にも反するものというべきであるから、そのように扱うことは相当ではないと解される。)。
7 結論 以上の次第で、原告の審決取消事由は理由がなく、本件審決を取り消すことはできない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史
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