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事件 平成 13年 (ネ) 2410号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(1審原告) 長谷川電機工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 北方貞男
同 辰巳和男
同補佐人弁理士 田中秀佳
被控訴人(1審被告) マルチ計測器株式会社
被控訴人(1審被告) 株式会社ムサシインテック
同2名訴訟代理人弁護士 高橋譲二
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2002/05/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審で拡張した請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用(拡張した請求に関する部分を含む。)は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人マルチ計測器株式会社は,別紙イ号物件目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)を製造し,譲渡し,譲渡目的の展示をしてはならない。
(3) 被控訴人マルチ計測器株式会社は,その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を破棄せよ。
(4) 被控訴人マルチ計測器株式会社は,控訴人に対し,1172万6500円及び内500万円に対する平成12年6月20日から,内566万6500円に対する平成13年10月6日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) (4)の予備的請求 被控訴人マルチ計測器株式会社は,控訴人に対し,213万3300円及びこれに対する平成13年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(後記第2の2のとおり,予備的請求ではないと考える。) (6) 被控訴人株式会社ムサシインテックは,別紙ロ号物件目録記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を製造し,譲渡し,譲渡目的の展示をしてはならない。
(7) 被控訴人株式会社ムサシインテックは,その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
(8) 被控訴人株式会社ムサシインテックは,控訴人に対し,820万6200円及び内350万円に対する平成12年6月21日から,内396万6200円に対する平成13年10月6日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9) (8)の予備的請求 被控訴人株式会社ムサシインテックは,控訴人に対し,111万9930円及びこれに対する平成13年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(後記第2の2のとおり,予備的請求ではないと考える。) (10) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(11) 仮執行宣言 2 被控訴人ら 主文と同旨 (以下,控訴人を「原告」,被控訴人マルチ計測器株式会社を「被告マルチ計測器」,被控訴人株式会社ムサシインテックを「被告ムサシインテック」という。)
事案の概要
1 請求及び原判決の結論等 (1) 原告は,原審イ号物件が本件考案技術的範囲に属するとして,本件実用新案権に基づき,被告マルチ計測器に対し,原審イ号物件(LV-1)の製造,譲渡,譲渡のための展示の差止め及び同物件の廃棄を求め,被告ムサシインテックに対し,原審イ号物件(MHT-6)の譲渡,譲渡目的のための展示の差止め及び同物件の廃棄を求めるとともに,被告マルチ計測器に対し金500万円及びこれに対する遅延損害金,被告ムサシインテックに対し金350万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めた。
なお,原告は,当審において,原審イ号物件(LV-1)をイ号物件,原審イ号物件(MHT-6)をロ号物件と表示し,これに伴い,原審イ号物件目録をイ号物件目録及びロ号物件目録のとおり訂正した(これらは,いずれも訴えの変更ではなく,イ号物件及びロ号物件の表示の訂正にすぎない。)。
(2) 原審は,原審イ号物件が本件考案技術的範囲に属するとは認められないとし,原告の請求をいずれも棄却した。
(3) 原告は,これを不服として,控訴を提起するとともに,被告ムサシインテックに対しては,ロ号物件の製造の差止を,被告両名に対しては,損害賠償の支払をそれぞれ前記第1の1のとおり拡張して求めた(原告は,被告両名に対する損害賠償請求の予備的請求として,本件考案実施料相当額の損害賠償請求をするが,訴訟物は同じ損害賠償請求であり,損害額についての予備的主張をしたにすぎないと考える。)。
2 争いのない事実等(証拠の引用のない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 本件実用新案権 原告は,次の実用新案権を有している。
登録番号 第2535841号 考案の名称 検電器 出願日 昭和63年3月9日(実願昭63-31761) 登録日 平成9年2月21日 実用新案登録請求の範囲 原判決別紙実用新案登録公報(甲1)該当欄記載のとおり (2) 本件考案は,次の構成要件に分説することができる。
A 被検知電路と電気的に結合される検知先端部を有し, B この検知先端部からの入力電圧に基づいて被検知電路が充電されているか否か,及び,低圧又は高圧のいずれで充電されているかを低圧及び高圧検出回路により検出し, C 上記検知先端部を,抵抗値が数十KΩ〜1MΩを有し,被検知電路の短絡を防止する抵抗体物質で構成したことを特徴とする D 検電器 (3) 被告マルチ計測器は,イ号物件を製造,販売し,被告ムサシインテックは,ロ号物件を製造,販売している(別紙イ号物件目録,同ロ号物件目録中の各2(3)については争いがある。)。
(4) イ号物件,ロ号物件は,いずれも,「被覆電線や裸端子などの被検知電路に接触させたときに,これと電気的に結合される検知先端部を有する」「検電器」であり,本件考案の構成要件A及びDを充足する。
3 争 点 (1) イ号物件,ロ号物件は本件考案技術的範囲に属するか。
ア イ号物件,ロ号物件の構成 イ 構成要件B該当性 (ア) 構成要件Bにいう「高圧」,「低圧」の意義 (イ) イ号物件,ロ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか。
ウ 構成要件C該当性 イ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値は数十KΩ〜1MΩの範囲にあるか。
(2) 本件実用新案権には明らかな無効原因が存在するか。
(3) 損害額 4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加,訂正等するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
【原判決の訂正等】 (1) 上記引用部分(第3の3を除く。)中「イ号物件」とあるのを「イ号物件,ロ号物件」と読み替える。
(2) 原判決イ号物件目録を別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録に改める。
(3) 同5頁7〜8行目の「定圧交流」を「低圧交流」と改める。
(4) 同7頁6行目の「600Vから」を「600Vを超え」と,同25行目の「電気工事」を「電気と工事」と各改める。
(5) 同10頁10行目の「1MΩ程度」の次に「以上」を加える。
(6) 同11頁12行目の「イ号物件」の次に「及びロ号物件合計」を加える。
(7) 原判決「事実及び理由」中の「第3 当事者の主張」3を後記【当審における原告の主張】(4),【当審における被告らの主張】(4)のとおり,改める。
【当審における原告の主張】 (1) 構成要件Bにいう「高圧」,「低圧」の意義 被告らの当審主張(1)は争う。
(2) イ号物件,ロ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか。
ア 検漏電回路について 漏電とは電路,その他の電気用品の絶縁が悪く,電流が他に漏れている状態であり,例えば電気機器の充電部と外部の機器ケースとの間との絶縁が劣化した場合において,電流が機器ケースに漏れることをいう。
この機器ケースが接地されていない場合において,@ まず,絶縁劣化がないときは,検電器をこれに接触させると,別紙見取図左側のように,充電部と検電器間の浮遊静電容量(C)を経て充電部のAC電圧Eが検電器に印加されることになるところ,Cのインピーダンス(1/ωC)の値が大きいため,Cに加わる電圧E1と検電器インピーダンスZ1に加わる電圧E2に分圧されてE2の電圧が低くなり,検漏電検出回路が動作せず,したがってLランプは点灯しない。A しかし,充電部とこれらとの間の絶縁が劣化しているときには,抵抗Rの値が低くなるため,検電器をこれらに接触させると,別紙見取図右側のように,Rに加わる電圧E1が小となり,検電器インピーダンスZ1に加わる電圧E2との分圧比E1/E2が小さくなり,E2が比較的高くなるので,検漏電検出回路が動作し,したがってLランプが点灯する。B なお,検電器を持つ検査員の人体の対地インピーダンスZ2の値はほとんどZ1と変わらないので,検電器の把持部と人体間に流れる電流の値はAを妨げないが,検知者が絶縁靴を履くなどした場合には,Z2の値が大となり,Z1とZ2の直列インピーダンスが大となり,検電部の把持部と人体間に流れる電流の値が小となり,Aの場合で一般的にはLランプが点灯すべき場合であっても,この場合にはLランプは点灯しない。
被告らは,上述の現象について,検漏電ランプは人体抵抗値の違いによって動作したりしなかったりすると主張するが,そのこと自体は,初歩の電気理論から導かれる当然の帰結であり,なんら特別の事柄ではない。
結局,絶縁劣化により漏電している場合には,充電部自身が持つ電位(交流電源電圧E)は,漏電箇所である例えば機器ケース表面との電位差(電圧E1)とEからE1を控除した電圧E2に分圧されるが,機器ケース表面の電位(E2)が高圧であれば,Lランプが点灯するのであり,検漏電回路は,電圧(高圧)を検知する回路であり,イ号物件,ロ号物件は,ともに入力電圧の低圧,高圧に応じて検電ランプ,Lランプという2種類のランプの点灯を使い分けている(検出している。)から,本件考案の「低圧及び高圧検出回路」を有しているということができる。
イ 感電防止について 被告らは,電圧が一定であっても,抵抗値の大小(検知者の衣類などによって変わる。)によって電流値が変化するから,電流検出回路には一定の電圧が入力されているか否かを検出する機能はないと主張するが,検電器のインピーダンスと他のインピーダンス(検知者の衣類などによって変わる。)を混ぜて判断することは誤りである。
実際に検電作業を行うに際しては,検電器自体のインピーダンス以外の抵抗を含むインピーダンスが必ず随伴するものであり,検出機能は検電器自体のインピーダンスによって判断すべきであるが,一方,検電器のインピーダンスは約20MΩであるので,それ以外のインピーダンスといえる絶縁劣化の抵抗R0.1〜0.2MΩが直列に接続されても,検電器自体のインピーダンスが高いので,それ以外のインピーダンス(R)は無視して差し支えなく,結局,漏電電流は,常に,検電器自体のインピーダンスに大きく影響を受けるので,絶縁劣化の抵抗Rに影響を受ける電流を検出するとはいえず,検電器インピーダンスの分圧電圧E2に基づいた電圧を検出していると解すべきである。
検電器自体のインピーダンスは,絶縁劣化の抵抗Rや人体の抵抗に比し,極めて高いので,電路電圧の変化がなくても人体に流れる電流の大小を検出することができるというためには,オームの法則上,検電器自体のインピーダンスを変化させる以外に方法はない。
(3) イ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値 ア 本件考案の検知先端部は,短絡防止のため,抵抗体物質で構成されている。したがって,検知先端部の抵抗値の測定は,検電器を検知者が通常使用する状況に即して考える必要があり,そのためには,イ号物件,ロ号物件の検知部の導電性ゴムの露出している部分の幅(縦又は横)の中に,被検知電路と他の充電部が収まるようにして,検電器をこれらに接触させ,しかも,表面に付けるだけというよりも,ある程度の力でそれらに押しつけるというのが普通であると考えられるから,単に導電性ゴムの表面抵抗ではなく,両方の電路が導電性ゴムを押し下げることによってできる二つの凹み間の抵抗値を測定すべきである。
このようにしてイ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値を測定した結果,19KΩが最低値であった(甲3)。
イ 被告らは,測定結果についての報告書(乙26)について,同報告書は,SRIS2301(「規格試験方法」)を根拠としていると主張するが,同報告書は,同規格試験方法に準ずる試験方法とはいえず,信用できない。
(4) 損害額 ア 被告マルチ計測器 被告マルチ計測器は,平成11年1月から平成13年8月までの間に,イ号物件の製造,販売により次の利益を上げ,原告に次のとおりの損害を与えた。
(ア) 主位的主張 a 被告マルチ計測器は,上記期間中,イ号物件を2万1333個(平成11年1月〜平成12年3月の15か月間の実施料数1万個を15で除し,これに請求期間の32か月を乗じた数値)を製造,販売したが,同被告が受けた1個当たり500円の利益の額を乗ずると,同被告が受けた利益の合計は1066万6500円となる。
b 弁護士費用 被告マルチ計測器に対する請求に関する訴訟の提起,遂行に要した弁護士費用は106万円を下らない。
c 合計 1172万6500円 (イ) 予備的主張(実施料相当額) 被告マルチ計測器は,上記期間中,イ号物件を2万1333個を製造,販売したが,その1個当たりの実施料相当額は,販売単価2000円の5%に相当する100円を下らず,その合計は,213万3300円となる。
イ 被告ムサシインテック 被告ムサシインテックは,平成11年1月から平成13年8月までの間にロ号物件の販売により次の利益を上げ,原告に次のとおりの損害を与えた。
(ア) 主位的主張 a 被告ムサシインテックは,上記期間中,ロ号物件を1万0666個(平成11年1月〜平成12年3月の15か月間の実施料数5000個を15で除し,これに請求期間の32か月を乗じた数値)を販売したが,同被告が受けた1個当たり700円の利益の額を乗ずると,同被告が受けた利益の合計は746万6200円となる。
b 弁護士費用 被告ムサシインテックに対する請求に関する訴訟の提起,遂行に要した弁護士費用は,74万円を下らない。
c 合計 820万6200円 (イ) 予備的主張(実施料相当額) 被告ムサシインテックは,上記期間中,ロ号物件を1万0666個を販売したが,その1個当たりの実施料相当額は,販売単価2100円の5%に相当する105円を下らず,その合計は,111万9930円となる。
【当審における被告らの主張】 (1) 構成要件Bにいう「高圧」,「低圧」の意義 わが国の電路電圧に関しては,低圧の意義が600V,高圧の意義が600V超7000V以下であることが一義的に明らかであり,その他の電圧数値が定められることはなく,また,単に相対的な意味で解されるという余地は全くない。
特に,検電器は,高圧用,低圧用に厳密に区別され,もし,この区別を誤ることがあれば,検知者の感電,機器の破損,火事や停電といった事故も考えられる。それにもかかわらず,本件明細書中に特に電圧を数値で特定して低圧,高圧の範囲を明示しなかったのは,上記のとおり,その意義が一義的だからである。
(2) イ号物件,ロ号物件には「低圧及び高圧検出回路」が存在するか。
ア 原告の当審主張(2)アについて 原告は,イ号物件,ロ号物件の動作について,なんら特別の事柄ではないというが,従来の検電器は,検電器インピーダンスが数百MΩと高いために,充電部と機器ケース表面間の静電容量から算定されるインピーダンスより遙かに大きく,触れても危険でないにもかかわらず,ケース表面に接触すると検電器が動作することが多かった。これに対し,イ号物件,ロ号物件は,検漏電回路を加え,検電器内部インピーダンスを約20MΩとしたため,AC100V電路では検漏電回路に流れる電流が所定値以上の時にLランプが点灯するとしたことで,従来の検電器にはない機能が付加された。
上記機能により,電路電圧がAC200Vであっても絶縁の良い30〜50MΩではLランプは点灯せず,AC100Vであっても絶縁が悪く1〜2MΩ以下のときはLランプは点灯する。すなわち,検漏電回路は電路電圧の数値に依存せず,あくまでも機器の絶縁抵抗の大きさにより検漏電器に流れる電流の大きさに依存して動作する電流動作型である。
イ 原告の当審主張(2)イについて イ号物件,ロ号物件の検漏電回路のインピーダンスを約20MΩと従来の低圧検電器や高圧検電器に比べ約10分の1にすることにより,機器の絶縁状態の大きさによって検漏電器に流れる電流が変化するようにしたものであり,原告の主張は誤りである。
(3) イ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値 乙26によっても,イ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値は,数十KΩ〜1MΩの範囲内にないことがいえる。乙26に示された実験方法は日本ゴム協会標準規格SRIS2301の電流ー電圧法に従って,中立的な立場にある機関によって測定されたものである上,この測定方法は国の内外で広く用いられているのであるから,その測定結果は信頼できる。
原告提出の甲3,16,36に見られる測定方法では,何故に100gないし200gの加圧をする必要があるか不明であるなど,そのとられた測定方法,条件に合理性があるのか疑問である。
(4) 損害額 損害額についての原告の当審主張は争う。
争点に対する判断
当裁判所も,原告の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次に記載するとおりである。
1 争点(1)ア(イ号物件,ロ号物件の構成)について (1) イ号物件について 前記争いのない事実等及び証拠(甲4の1・2,検甲1〜4,乙7,12,乙13の1・2,乙25),弁論の全趣旨を総合すれば,イ号物件は,別紙イ号物件目録図1の本体部分を手で持ち,導電性ゴムからなる検知先端部を被覆電線や裸端子を被うフレーム部分に接触させたときに,人体に流れる電流を検出して,被検知電路がAC600V以下の交流電圧で充電されていることを検出する使用電圧範囲がAC0V〜600Vの検電器であること,イ号物件を構成する回路は同図2及び2-2記載のとおりであり,コンデンサC1から抵抗R1に至る回路(以下「検電回路」という。)と,コンデンサC1から抵抗R17に至る回路(原告が「高圧検出回路」,被告が「電流検出回路」と主張するもの,以下「検漏電回路」という。)という2種類の回路を有していることが認められる。
(2) ロ号物件について ロ号物件も,別紙ロ号物件目録記載のとおり,上記同様の2種類の回路を有していることが認められる。
2 争点(1)イ(ア)(構成要件Bにいう「低圧」,「高圧」の意義)について 原告は,本件考案の構成要件Bにいう「低圧」,「高圧」が,特定の電圧値の範囲を意味するものと解することはできないと主張し,これに対し,被告らは,本件考案の「低圧」,「高圧」は交流(AC)に関するものであるが,交流における「低圧」とは600V以下を,「高圧」とは600Vを超え7000V以下をいうと反論する。前記1のとおり,イ号物件,ロ号物件は,いずれも,使用電圧範囲がAC0V〜600Vであるから,被告らの主張によると,イ号物件,ロ号物件はいずれも,構成要件B中「低圧又は高圧のいずれで充電されているかを低圧及び高圧検出回路により検出し,」を充足しないことになるが,原告の主張によると,イ号物件,ロ号物件の使用電圧がAC0V〜600Vであることを理由に,構成要件B該当性を否定することはできないこととなる。
そこで検討するに,当裁判所も,本件考案の構成要件Bにいう「低圧」,「高圧」が,特定の電圧値の範囲を意味するものと解することはできず,2種類の電圧のうち相対的に低い電圧,高い電圧という意味と解するしかないと考える。
その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1(2)アに記載のとおりであるから,これを引用する。
【原判決の訂正】 原判決14頁16行目の「記載もない。」を「記載は,せいぜい,二つの異なる一定の範囲の電圧において,被検電電路が充電されているか否かを検出することが目的とされていることが窺える程度であって,それ以上,具体的な記載はない。」と改める。
【当審で付加された主張に対する補足説明】 (1) 被告らは,高圧,低圧が単に相対的な意味で解されるという余地は全くなく,検電器の高圧用,低圧用の区別を誤ると危険であると主張するが,二つの異なる範囲の電圧の被検知電路の充電の有無を検出することができることに本件考案の効果を認めることができる以上,「低圧」,「高圧」を相対的な意味に定義し,本件考案請求の範囲特定することは許されるというべきである。
なお,審判書(甲19)によると,本件考案にかかる無効審判において,本件考案は,引用例である実願昭58-98686と相違するとされたが,その相違点は,二つの回路を有するか否かという点にあったと認められ,同回路の電圧が特定されているか否かという点にあったとは認められない。
また,本件考案にかかる手続補正書(甲21)において,「その目的とするところは,被検知電路が低圧又は高圧のいずれであっても充電可能とし,その検電時で」と補正がなされていることが認められるが,このことにより,低圧検電用又は高圧検電用として兼用でき,汎用性が向上するとの作用効果を認めることができるのであって,この作用効果のために,高圧,低圧の数値を具体的に限定する必要があるとは考えられない。
もちろん,本件考案の実施品においては,兼用される低圧検電用と高圧検電用の電圧の範囲が具体的に特定されることになるが,どの範囲で特定するかは,消費者の需要などを考慮して定められることになり(その結果,被告らの主張する数値をもって,低圧用,高圧用を振り分けることも十分あり得る。),別途,消費者に周知させる手段が講じられるであろう。その際,誤った対象の被検知電路に検電器を使用することが危険であることを否定できないが,このような危険の防止については,上述した周知を徹底させる方法がとられるべきであるものの,上記「低圧」,「高圧」の定義についての考え方を左右するものではない。
(2) なお,被告らは,当審においても,低圧を600V以下,高圧を600Vを超え7000V以下である旨明記された文献などがあるとして,乙30〜41,44,45を提出するが,これらの文献などの存在によって,通常,被告らが主張する数値により低圧と高圧とを分類することが多いことは容易に認定できるものの,上記認定を左右するには至らないというべきである。
3 争点(1)イ(イ)(イ号物件,ロ号物件に「低圧及び高圧検出回路」が存在するか)について 当裁判所も,イ号物件,ロ号物件に,本件考案の構成要件Bにいう「低圧及び高圧検出回路」が存在すると認めることはできないと判断する。
その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1(2)イに記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,原告は,原審において,イ号物件及びロ号物件を一括してイ号物件と表示していたところ,両者は,前記1のとおり,商品名を異にするだけで,同じ回路を有すると認められるので,本件争点については,イ号物件について判断する。
【原判決の訂正】 原判決17頁15行目の「イ号物件については、」から同頁18行目の「提出されていない。」までを「イ号物件については,200V以上の電圧を印加させた場合,絶縁劣化抵抗値や絶縁靴の着用の有無,土台などによる条件にかかわらず,必ず検漏電ランプ(Lランプ)が動作することを示す実験結果等は提出されていない。」と改める。
【当審で付加された主張に対する補足説明】 (1) 原告の当審主張(2)アについて 原告は,絶縁劣化により漏電している場合には,充電部自身が持つ電位は,漏電箇所である例えば機器ケース表面間の電位差(電圧E1)と電圧E2に分圧されるが,機器ケース表面の電位(E2)が高圧であれば,Lランプが点灯するのであるから,検漏電回路は,電圧(高圧)を検知する回路であると主張し,甲23ないし26,30,37,42を提出する。
たしかに,甲26によると,イ号物件を使用して,先端検知部に加わる電圧を変化させながら,検漏電回路が動作する値を測定したところ,検知者が通常の靴を履いている場合,104Vで動作したのに対し,絶縁靴を履いている場合でも,108Vで動作したこと,さらに,イ号物件のクリップでアースに落とすと(すなわち,検知者の人体のインピーダンスをゼロに近づける。),90Vで動作することが認められる。これによると,イ号物件の検知先端部分に加わる電圧が,100V程度で,検漏電回路が動作することが窺える。
しかし,漏電の有無を検知しようとして,充電部を覆う機器ケースの表面にイ号物件の先端検知部を接触させる場合において,同先端検知部に加わる電圧が100Vのときに検漏電回路が動作したからといって,本件考案の構成要件Bの「被検知電路が充電されているか否か,及び,低圧又は高圧のいずれで充電されているかを低圧及び高圧検出路により検出し」というところの「被検知電路」の電圧を検知していることにはならないというべきである。
すなわち,本件明細書によると,本件考案にかかる検電器は,被検知電路を充電可能の状態で,充電されているか否か,及び,低圧又は高圧のいずれで充電されているかを検知するものであって,被検知電路を機器ケース表面としてこれを検知するものでないから,被検知電路と機器ケース表面との間の絶縁が良好な場合にも,不良の場合にも,予め定めた低圧,高圧の電圧の区分に従い,低圧検電回路又は高圧検電回路が動作する必要がある。
イ号物件の場合,検漏電回路は,電気機器の充電部(被検知電路)に一定の電圧がかかっていることを前提に,低圧検電回路により充電されているか否かを検知するとともに(その場合は,上記充電部の電位を検知することになる。),外部の機器ケースに触れた場合,危険かどうかを調べるためのものである上(乙12,13,弁論の全趣旨),乙48によると,被検知電路(充電部)と機器ケース表面との間の絶縁状態によって,被検知電路の電圧が100Vであっても検漏電回路が動作し(Lランプが点灯し),被検知電路の電圧が200Vを超える場合であっても検漏電回路が動作しない(Lランプが点灯しない)場合があることが認められる。
したがって,その余の甲号証を検討するまでもなく,当審で付加された原告の上記主張を採用することはできない。
なお,原告は,「イ号物件の検電回路の内部インピーダンスは100MΩ以上,検漏電回路のそれは20MΩであるが,これらは,並列に接続されていて分離することができないから,検電器としての内部インピーダンスは約20MΩで一定である。そして,検電路と検漏電路は,各々の内部インピーダンスから分圧して,各回路の検出動作を行っている。被告らは,検電回路の動作は,同回路の内部インピーダンスが100MΩ以上なので,絶縁劣化抵抗が直列に入ってもほとんど影響を受けずに対象電圧を検出できるとしているが,それは誤りである。」と主張する。たしかに,甲24,46によると,イ号物件では,検電回路(内部インピーダンス100MΩ以上)と検漏電回路(内部インピーダンス20MΩ)が並列に接続されていることが窺えるが,原告自身が自認するように,イ号物件では,所期の値で動作するように,検電回路の場合には,動作電圧を検漏電回路の動作電圧に比し,低く設定していることが推測される。しかし,検電回路は,内部インピーダンスが高いため,被検知電路と機器ケースの表面との間の絶縁劣化抵抗の影響をほとんど受けず,一方,検漏電回路は,内部インピーダンスが低いため,上記絶縁劣化抵抗が直列に入る以上その影響を受けることには変わりない。したがって,被検知電路の電圧が一定であっても,絶縁劣化抵抗の高い場合は,検電回路のみが動作し,検漏電回路は動作せず,一方,絶縁劣化抵抗の低い場合は,検電回路と検漏電回路の双方が動作すると考えられ,上述の判断を左右するものではないというべきである。
(2) 原告の当審主張(2)イについて 原告は,被告らが,検電器のインピーダンスと他のインピーダンス(検知者の衣類などによって変わる。)を混ぜて判断することを非難し,漏電電流は,検電器自体のインピーダンスに大きく影響を受けるので,絶縁劣化の抵抗Rに影響を受ける電流を検出するとはいえず,検電器インピーダンスの分圧電圧E2に基づいた電圧を検出していると解すべきであり,検電器自体のインピーダンスは,絶縁劣化の抵抗Rや人体の抵抗に比し,極めて高いので,電路電圧の変化がなくても人体に流れる電流の大小を検出することができるというためには,オームの法則上,検電器自体のインピーダンスを変化させる以外に方法はないと主張し,甲41を提出する。
たしかに,検知者の人体を流れる電流を正確に計測するためには,原告が主張するように,検電器自体のインピーダンスを最小にする必要があるというべきであるが,イ号物件の検漏電回路は,検知者の人体を流れる電流を正確に測定することが目的ではなく,検知者が機器のケースに触れても安全か否かを判断するための装置であり(甲4の1・2,甲33の1・2,弁論の全趣旨),そのために,検漏電回路を含むイ号物件のインピーダンスを通常の検電器より低くし,機器の絶縁抵抗のレベルに合わせたと認めることができ,機器の絶縁抵抗の大きさや検知者が絶縁靴を履いているか否かという条件も含めた上で,検知者の人体に流れる電流が所定値を超えるか否かを判断するようにしたものであるから,原告の主張を採用することはできない。
4 争点(1)ウ(構成要件C該当性)について 当裁判所も,イ号物件,ロ号物件の検知先端部の抵抗値が数十KΩ〜1MΩの範囲内にあると認めることができないと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1(3)に記載のとおりであるから,これを引用する。
【原判決の訂正】 原判決19頁21〜22行目の「抵抗値」から同22行目の「不明であり、」までを削る。
【当審で付加された主張に対する補足説明】 本件考案の検知先端部は,短絡防止のため,抵抗体物質で構成されている。したがって,検知先端部の抵抗値の測定は,検電器を検知者が通常使用する状況に即して考える必要があり,そのためには,イ号物件,ロ号物件の検知部の導電性ゴムの露出している部分の幅(縦又は横)の中に,被検知電路と他の充電部が収まるようにして,検電器をこれらに接触させ,しかも,表面に付けるだけというよりも,ある程度の力でそれらに押しつけるというのが普通であると考えられるから,単に導電性ゴムの表面抵抗ではなく,両方の電路が導電性ゴムを押し下げることによってできる二つの凹み間の抵抗となると考えられる。
たしかに,本件考案の検電器の使用方法は,原告が主張するような状況において使用する面を有すると考えられ,また,イ号物件やロ号物件も同様の使用方法をすることが考えられるが(弁論の全趣旨),検電器を被検知電路に押しつける力については,その平均値を求めることは困難であり,その平均値を認めるに足る証拠もない(特に,被検知電路に対しては,ある程度の力をもって検電器の検知先端部を接触させる可能性を否定できないが,短絡が想定される他の充電部に対しても,被検知電路に対するのと同じ力で,検知先端部を接触させることが通常であるとはいえない。)。しかも,本件明細書には,その測定条件が示されていないことを考えると,検知先端部の抵抗値の測定方法を上記の方法をとる必要があるとは限らず,一般的に抵抗値測定方法として広く承認されていると認められる日本ゴム協会標準規格SRIS2301の電流ー電圧法(乙26)に従った測定方法を不当ということはできないと考える。
これによると,甲3,16だけでなく,当審で提出された甲36,39,41,42,44についても,直ちにこれをもって正当な測定値の証拠として採用することはできないというべきである。
結論
以上によると,イ号物件は,本件考案の構成要件B,Cを充足していると認めることができず,本件考案技術的範囲に属するとはいえない。したがって,イ号物件と構成を同じくするロ号物件も同様,本件考案技術的範囲に属するとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がなく,これを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴を棄却した上,当審で追加された部分の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成14年3月25日)
追加
イ号物件目録1商品名VOLTAGEDETECTORLV-1MAX.AC600VMULTI(以上,検電器に表示)MULTILV-1MAX.AC600V50/60Hz共用感電チェック付検電器(以上,説明用台紙に表示)2イ号物件の説明(1)外形図面原判決添付別紙図1のとおり(2)検出回路図面原判決添付別紙図2及びその原図に相当する図2-2(3)使用方法上記図1の本体部分を手で持ち,抵抗値の高い検知部を被検知電路に裸線または被覆の上から接触させて,低圧又は高圧交流電圧を検知する。
ロ号物件目録1商品名7200低圧検電器MAX.AC600VMHT-6(以上,検電器に表示)VOLTAGEDETECTORMODEL低圧検電器MHT-6感電チェック機能付音響発光式低圧検電器MAX.50/60Hz共用(以上,説明用台紙に表示)2ロ号物件の説明(1)外形図面原判決添付別紙図1のとおり(2)検出回路図面原判決添付別紙図2及びその原図に相当する図2-2(3)使用方法上記図1の本体部分を手で持ち,抵抗値の高い検知部を被検知電路に裸線または被覆の上から接触させて,低圧又は高圧交流電圧を検知する。
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 山田陽三
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