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事件 平成 13年 (ワ) 14186号 実用新案権移転登録等請求事件
原告 有限会社西原製作所
訴訟代理人弁護士 永井均
被告甲合
訴訟代理人弁護士 鈴木 五十三
同 山本晋平
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/06/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,別紙実用新案権目録記載の実用新案権について,平成12年9月4日の譲渡を原因とする実用新案権移転登録手続をせよ。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,原告に対し,別紙実用新案権目録記載の実用新案権について,平成12年9月4日付け譲渡を原因とする実用新案権移転登録手続をせよ。
2 被告は,原告に対し,金122万円及びこれに対する平成13年8月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,別紙実用新案権目録記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)に係る明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1ないし4記載の各考案(甲2参照。以下,これらを総称して「本件考案」という。)を考案し,同実用新案権につき実用新案登録出願をした者であり,他方,被告は,原告から本件考案につき実用新案登録を受ける権利を譲り受け,現在,本件実用新案登録につき権利者として登録されている者である。
原告は,上記実用新案登録を受ける権利を譲渡した後,被告が原告との間で約束した金銭の支払を履行しなかったことなどから,原告被告間において,本件実用新案権を原告のもとに戻す旨の合意が成立し,平成12年9月4日付けで,被告から原告に対し,同実用新案権が譲渡されたと主張して,同実用新案権の移転登録手続を求めるとともに(前記第1の1),上記約定に係る金銭(後記のA覚書に基づく開発協力金)42万円及び弁護士費用相当の損害賠償金80万円の合計122万円の支払を求めている(同第1の2)。
1 前提となる事実(下記の各事実は,当事者間で争いがないか,あるいは,証拠番号を付した証拠等により認めることができる。) (1) 原告は,金属金型の製作,金属プレス加工を事業目的とする有限会社であり,他方,被告は,被服の企画・製造・販売,キャラクター商品の企画及び著作権,商標権,意匠権の管理業務等を目的とする訴外有限会社乙園(以下「MKC」という。)の代表取締役である。
(2) 被告は,かねてから「マコちゃん」というキャラクターを創案し,関連キャラクター商品を企画・販売するなどしてきたが(乙9の1ないし6,24ないし31),これらのキャラクター商品を利用した携帯電話のストラップを販売することを思いつき,平成10年6月24日,かねてから面識のあった訴外丙田(以下「丙田」という。)を専務取締役に迎え,MKCを設立した。
また,被告は,同月30日,「携帯機器用ストラップとそのアクセサリー」という名称の考案を実用新案登録出願し(乙2,22),同考案は,同年11月18日,設定登録された(登録第3056194号。以下「甲合考案@」という。)。なお,被告の着想を基にしたストラップ(商品名「マフユ・ストラップ」)は,キャラクターをかたどった連結部材をつなぐことによりいくつでも連結できるのが特徴であり,平成11年夏ころには,一定の商業的成功を収めていた。
(3) 一方,原告も,携帯電話のストラップの連結部材に関して,キャラクターを成形した本体部分の内部に雌型連結部材を納める工夫などを考えていたところ,平成11年8月ころ,MKCの専務である丙田と知り合った。このころ,連結部材部分をキャラクター本体内に収納するとともに,同部分を小型化し,キャラクターが目立つように改良したストラップ(商品名「マフユ・ストラップ2」)の商品化が課題となっていたこともあって,原告と丙田は,ストラップの改良・工夫やその製造・販売について意見を交換するようになった。また,原告は,同年11月ころには,丙田を通じて,被告とも知り合った。
(4) 原告は,平成11年10月13日,キャラクター本体内に収納された雌型連結部材に雄型連結部材を着脱可能とし,雄型連結部材の下方に,他のキャラクターに連結された細紐を留める紐留め部が同部材と一体的に形成されていることなどを特徴とする本件考案(出願番号「実願平11-8781」)。を実用新案登録出願した(甲5,19。)。
(5) 被告は,平成11年12月2日,携帯電話のストラップに関する関連考案を実用新案登録出願し,同考案は,平成12年3月22日,設定登録された(登録第306934号。以下「甲合考案A」という。)。
また,原告も,平成11年12月13日,やはり携帯電話のストラップに関する関連考案を実用新案登録出願し,同考案は,平成12年3月29日,設定登録された(登録第306920号。以下,本件考案と区別する意味で,「丁原考案A」という。)。
(6) 上記マフユ・ストラップ2を製造・販売するにあたり,本件考案の権利者を甲合考案@の権利者と同じにしておくことが便宜であったことなどから,原告は,被告に対し,平成12年2月1日付けで,別紙1の譲渡証書(甲4。以下「A譲渡証書」という。)を作成し,交付した。同証書においては,譲渡人を「有限会社西原製作所・代表者丁原」,譲受人を「甲合」とした上で,出願番号・実願平11-8781(上記(4)記載のとおり,本件考案の出願番号である。)の考案につき,「実用新案実用新案登録を受ける権利又は実用新案権を貴殿に譲渡したことに相違なく,その出願人名義変更又は移転登録申請を貴殿が単独で手続きすることについては,別途覚書の通りの内容で承諾致します。」と記載されている(なお,上記「別途覚書」が後記A覚書を指すものであることは,当事者間に争いがない。)。
また,原告は,被告に対し,平成12年3月1日付けで,別紙2の覚書(甲3。以下「A覚書」という。)を作成し,交付した。同覚書においては,原告とMKCは,マフユ・ストラップ2の開発・製造に関し,(ア)MKCは,同ストラップのプラスチックパーツの製造を原告に一任する一方で,原告は,MKC又はその指定する第3者からの発注のみに基づき,同ストラップを製造して納入すること,(イ)MKC又はその指定する第三者は,原告に対し,同ストラップの対価及び別途定める開発協力金を支払うこと,(ウ)原告は,実用新案・実願平11-10134(前記丁原考案Aの出願番号である。)の権利の独占的通常実施権を,MKC又はその指定する第三者に許諾すること,(エ)同覚書の有効期間は,平成12年3月1日から平成13年2月28日までとすることがそれぞれ定められ,さらに,(追記)と題された欄において,上記開発協力金は,同ストラップの販売個数1セット当たり2円とする旨定められている。
(7) 被告は,A譲渡証書及びA覚書に基づき,本件考案の実用新案登録出願手続を進め,平成12年4月26日,本件考案は,原告を考案者,被告を権利者として,設定登録された。
(8) 原告は,A覚書で定めた開発協力金が約束どおり支払われていないと考えていたこともあって,前同年8月ころ,被告に対し,自分が権利者になれば,訴外株式会社蝶理(以下「蝶理」という。)と新たな取引ができる可能性があるので,本件実用新案権を譲渡して欲しい旨申し入れた。被告は,譲渡の見返りにどのような経済的利益が得られるのかと尋ねたりしていたが,同年9月4日,別紙3の譲渡証書(甲6の1。以下「B譲渡証書」という。)及び別紙4の覚書(甲6の2。以下「B覚書」という。)を作成し,これらを原告に交付した(なお,これら2つの文書には,作成日付として,いずれも「平成12年(2000年)4月30日」と記載されているが,これらが同年9月4日に作成・交付されたことは,当事者間に争いがない。)。
B譲渡証書においては,譲渡人を「甲合」,譲受人を「有限会社西原製作所・代表者丁原」とした上で,登録番号・第3070160号(本件考案の登録番号である。)の実用新案権につき,「貴殿に譲渡したことに相違なく,その実用新案権移転登録申請を貴殿が単独で手続きすることについては,別途覚書の通りの内容で承諾致します。」と記載されている(なお,上記「別途覚書」が上記B覚書を指すものであることは,当事者間に争いがない。)。
また,B覚書においては,原告とMKCは,本件実用新案権に関する譲渡証書提出にあたり,(ア)原告が第三者に権利の実施許諾をする場合は,許諾料の50%をMKCに支払うこと,(イ)2000年(平成12年)3月1日に交わした覚書(すなわちA覚書)の内容に基づき,原告はMKCに対し,2002年(平成14年)6月1日に権利を再譲渡することが定められている。
(9) 原告は,平成12年9月7日,B譲渡証書及びB覚書を申請書に添付して,特許庁に対し,本件実用新案権の移転登録を申請した。ところが,B譲渡証書の譲渡人の名義が「甲合」個人になっているのに対し,B覚書の契約当事者の名義は「有限会社乙園・代表取締役社長甲合」となっており,書類上不備があることなどを理由に,同年10月16日付けで,原告の申請は却下された(甲14,23)。
原告は,さらに,同年10月及び同年12月にも移転登録を申請し,弁明書を提出するなどしたが,これらの申請はいずれも却下された。
(10) 他方,原告は,被告に対し,平成12年10月21日付け内容証明郵便(甲7の1)をもって,開発協力金の支払が約束どおりされていないので,A覚書に定めた契約を解除する旨通知した。
(11) 原告と丙田は,平成12年10月24日,訴外須藤商会代表取締役戊村省三の立会の下,会談した。原告は,この場で,丙田に対し,B譲渡証書から,譲渡の成否を他の契約にかからしめたような誤解を生じさせる「別途覚書の通りの内容で」という文言を削除した以外は同証書と同じ体裁の,別紙5の「譲渡証書」(以下「書き換え書面」という。)を交付し,被告が署名・押印した上,原告に交付してくれるよう求めた。
原告と丙田は,同月26日,前記戊村の立会の下,再度会談したが,原告が同月24日に要求した被告の署名・押印のある書き換え書面の交付は,結局なされなかった。
他方,この時,丙田は,別紙6の合意書(以下「C合意書」という。)を持参してきており,原告は,これに署名・押印した上,同合意書を丙田に交付した。同合意書においては,MKCと原告は,2000年3月1日付け及び2000年4月30日付けで締結された覚書(それぞれ,「A覚書」及び「B覚書」を指すことは,当事者間に争いがない。)に関して,前記戊村立会の下,(ア)2000年(平成12年)10月26日をもって,これら2つの覚書を解約すること,(イ)解約にあたって,何らの債権債務が存在しないことを確認する旨が定められている。
(12) その後も,原告は,被告に対し,前記書き換え書面に署名・押印することを求めたが(甲8の1,2),被告はこれに応じなかった。そこで,原告は,東京地方裁判所に本件実用新案権の処分禁止の仮処分を申し立て,平成13年5月15日付けで同仮処分の発令を得た上(甲11),同年7月6日付けで本訴を提起した。
なお,本訴請求のうち,前記第1の2記載の合計金122万円及び遅延損害金の支払を求める金銭請求については,平成14年3月26日付け準備書面(3)において,原告から訴えの取り下げがなされたが,被告がこれに同意しなかったため(第4回弁論準備手続調書),取下げの効力が生じないまま現在に至っている。
2 争点及び当事者の主張 本件においては,前記1で認定した事実関係を前提に,(1)B譲渡証書により,被告から原告に対して,本件実用新案権の譲渡があったと認められるか(争点(1)),(2)原告が主張するように,被告が原告に対して,何らかの金銭支払債務を負っていると認められるのか(争点(2)),が争点となっている。
当事者は,経緯を含めて,これら各争点につき以下のとおり主張している。
(原告の主張) ア 本件実用新案権の実用新案登録を受ける権利は,マフユ・ストラップ2が本件考案の実施品であることを前提に,被告が1セットにつき2円の開発協力金を支払う条件で,原告から被告に譲渡された(前記1(3),(4)及び(6)参照。)。しかるに,被告がその支払約束を履行しなかったため,上記実用新案登録を受ける権利の譲渡をなかったことにし,いわば権利を被告から原告に返すために,B譲渡証書及びB覚書が作成されたものである。
すなわち,当時,蝶理が甲合考案@の専用実施権を有していたところ,原告は,本件実用新案権を被告から取り戻した上で,蝶理に対し,マフユ・ストラップ2は本件考案の実施品であるから,同ストラップを製造・販売するつもりであるならば,甲合考案@ではなく,本件考案の実施料を払う必要がある旨説明するつもりでいた。そのことを知った被告が,本件実用新案権譲渡の対価として,原告が蝶理から得るであろう実施料の一部の支払を強く求めたため,その半分を被告に支払う条項をB覚書に入れることにした。これが,本件考案の実施料の50%を被告に支払う旨定めたB覚書の意味するところである(前記1(8)(ア)参照)。
被告も,以上述べたところを十分理解した上でB譲渡証書及びB覚書を作成・交付しており,そこには何らの瑕疵もない。これら書証に基づく移転登録申請が現在に至るまでうまくいっていないのは,手続上ないし書類上の不備によるものにすぎず(同(9)参照),被告はそのことを奇貨として,言を左右にし,書き換え書面交付を拒んでいるのである(同(11),(12)参照)。
イ 被告は,本件考案の実施品であるマフユ・ストラップ2を合計21万セット販売したものと推測される。したがって,原告に本来支払われるべき開発協力金は42万円(2円/セット×21万セット)である。これに弁護士費用相当の損害賠償金80万円を加えた合計122万円を,本訴において請求する。
被告は,開発協力金は約束どおりに支払われた旨主張するが,被告から受領したのは,原告自らプラスチック成形部品の組み立てを指導するなど,マフユ・ストラップ2の製造・開発に全面的に協力したことに対する労賃にすぎない。
ウ なお,被告は,マフユ・ストラップ2は本件考案ではなく甲合考案@及び丁原考案Aの実施品であるから,同ストラップが本件考案の実施品であることを前提に,開発協力金の支払を求める原告の請求はその前提を欠く旨主張する。
しかし,同ストラップが本件考案の実施品であることは,A覚書に明示はされていないものの,当事者間で当然の前提とされていた。同ストラップの部品製造と開発協力金に関する取り決めをした上(前記1(6)(ア),(イ)参照),当時出願中であった丁原考案Aの使用許諾について定めたのが同覚書の内容にほかならない。被告の上記主張は事実に反するものである。
エ また,被告は,いわゆる清算条項を定めた(前記1(11)(イ))C合意書の存在を根拠に,原告の請求には理由がない旨主張するかのようである。
しかしながら,本件においては,A譲渡証書とA覚書,及び,B譲渡証書とB覚書が,それぞれ一対になって扱われているところ,これらの書面の体裁を検討すれば分かるとおり,原告と被告の間における権利の譲渡の問題(A譲渡証書及びB譲渡証書)と,原告とMKCの間における権利の実施や金銭のやり取りの問題(A覚書及びB覚書)とは,常に区別されている。C合意書は,前記書き換え書面と一対になって,原告とMKCの関係をいったん清算するためのものであり,原告被告間における本件実用新案権の譲渡を定めたB譲渡証書の効力に何ら影響を及ぼすものではない。
(被告の主張) ア B譲渡証書が作成された当時,被告は,蝶理に対し,2000年(平成12年)6月1日までの期限で甲合考案@の専用実施権を設定していたが,原告が,蝶理に販売促進を働きかけるので,必ず再譲渡するから,一時的に自分に権利を譲渡してほしいと持ちかけてきたので,それを信じてB譲渡証書の作成に応じた。B譲渡証書が,実際には平成12年(2000年)9月4日に作成されたにもかかわらず,その日付を同年4月30日に遡らせてあるのも,また,B覚書に,原告はMKCに対して,2000年(なお,この日付は,後に原告によって「2002年」と無断訂正された。)6月1日に本件実用新案権を再譲渡する旨定めてあるのも,すべて,原告の持ちかけてきた話を前提に,上記専用実施権の期限満了前に,原告に権利を譲渡したことにする必要があったからである。
このように,原告が移転登録請求の根拠とするB譲渡証書は,B覚書で取り決めた内容に基づき,被告が有する本件実用新案権を実施許諾するための手段にすぎない。
イ ところが,原告は,B譲渡証書及びB覚書を入手するや,突然前記内容証明郵便(甲7の1。前記1(10))を送りつけるなどし,開発協力金の不払という虚偽の事実を主張し始めた。たまたま書類上の不備があったため,被告は権利の移転登録を免れたのである。
ウ そもそも,原告は,マフユ・ストラップ2が本件考案の実施品であることを前提に,開発協力金の不払を主張するが,同ストラップは,本件考案ではなく,甲合考案@及び丁原考案Aの実施品であるから,原告の上記主張はその前提を欠いている。MKCの指定する第三者である訴外山王(代表者は丙田である。)は,A覚書の約定(前記1(6)(イ))に従い,MKCが販売した同ストラップ17万8376セット分の対価を支払っている(乙3ないし5参照。)。また,原告に対してプラスチック部品の対価を支払うべき前記訴外須藤商会(前同(ア))も,その支払を怠ったことはない(乙5,6参照)。
エ 原告と被告は,2000年(平成12年)10月26日付けで,A覚書及びB覚書記載の各契約を解除し,原告被告間の債権債務を清算する旨のC合意書を取り交わしたのであるから,被告が原告に対して金銭支払義務を負うことなどないはずである。しかるに,原告は本訴を提起したものであって,原告の本訴請求は,実質的に同合意書に違反するというべきである。
原告は,原告と被告との関係と,原告とMKCとの関係は別個である旨主張するが(上記(原告の主張)欄エ参照。),C合意書は,作成名義こそMKCであるものの,実質的には被告個人との合意を含むものである。すなわち,本件実用新案権が被告個人に帰属することを前提に,被告がオーナーである会社で,かつ,原告と取引関係のあったMKCが合意の主体となって,原告との間の取引関係一切の解消を目的に合意を取り交わしたのが,C合意書である。
当裁判所の判断
1 争点(1)(B譲渡証書により,被告から原告に対して,本件実用新案権の譲渡があったと認められるか)について ア 前記第2の1「前提となる事実」(6)以下記載の各事実に証拠(甲3,4,6の1及び2,23,24)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件においては,@原告と被告が,平成12年2月1日付けでA譲渡証書を,同年3月1日付けでA覚書をそれぞれ作成したこと,AA譲渡証書は,その文言上,本件考案について実用新案登録を受ける権利が原告から被告に譲渡されたことを証するとともに,そのことを前提にして,原告が被告に対し,実用新案登録登録出願手続を被告が単独で行うことを承諾した書面と解すべきものであること,B現に,被告は,これらA譲渡証書及びA覚書に基づいて実用新案登録登録出願手続を進め,平成12年4月26日,被告を権利者として,本件実用新案権が設定登録されたこと,C経緯は別にして,同設定登録後,原告と被告が,B譲渡証書及びB覚書の作成について合意するに至り,平成12年9月4日に,被告の署名・押印を経てこれらの各文書が作成されたこと,Dこれら各文書は,覚書に記した許諾料の支払等に関する文言を除けば,A譲渡証書及びA覚書と体裁をほぼ同じくしており(別紙1ないし4各参照),とりわけ,A譲渡証書とB譲渡証書は,譲渡人と譲受人の各名義が原告と被告で入れ替わっているほか,A譲渡証書においては,「下記の考案に関する実用新案実用新案登録を受ける権利又は実用新案権を貴殿に譲渡したことに相違なく,その出願人名義変更又は移転登録申請を貴殿が単独で手続することについては,別途覚書の通りの内容で承諾いたします。」とした上で,当時出願中であった本件考案の出願番号が記されているのに対し,B譲渡証書においては,「下記の実用新案権を貴殿に譲渡したことに相違なく,その実用新案権移転登録申請を貴殿が単独で手続することについては,別途覚書の通りの内容で承諾いたします。」とした上で,本件考案の登録番号が記されており,ほとんど同じ体裁の文書となっていること,Eしかるに,B譲渡証書及びB覚書を添付した原告の移転登録申請は,書類上の不備を理由に,特許庁において受理されなかったこと,F本訴において,被告は,B譲渡証書を根拠とする原告の移転登録請求を拒んでいるが,B譲渡証書の成立自体は争っていないこと,以上の各事実が認められる。
以上によれば,原告被告間で取り交わされたB譲渡証書は,被告が原告に対し,本件実用新案権が被告から原告に譲渡されたことを証するとともに,そのことを前提にして,その移転登録手続を原告が単独ですることを承諾した書面と認めるのが相当である。被告は,蝶理に販売促進を働きかける便宜上権利を移転してくれないかと持ちかけてきた原告の話を信じ,B譲渡証書を作成したにすぎないなどと主張するが(前記第2の2(被告の主張)欄ア,イ),被告の主張は前記第2の1(前提となる事実)記載の各事情に照らし,容易に信用できない。この点に関しては,原告が主張するとおり(前記第2の2(原告の主張)欄ア参照),被告は,B譲渡証書及びB覚書に基づく原告の移転登録申請が,たまたま書類上の不備を理由に受理されなかったことを奇貨として,原告の移転登録請求を拒み続けているものというべきである。
イ なお,@C合意書においては,A覚書及びB覚書を解約するとともに何らの債権債務のないことが確認されているものであり,これにより,B譲渡証書による合意は解除されたのではないか,AB覚書には,2000年(平成12年)3月1日に原告及び被告が交わした覚え書きの内容に基づき,2002年(平成14年)6月1日に権利を再譲渡する旨の条項(前記1(8)(イ))が存在するから,同条項の存在等に照らせば,原告被告間において,権利のMKCないし被告への再譲渡が合意されているのではないか,という疑問の生じる余地がないわけではない。
そこで,念のために検討すると,A譲渡証書及びA覚書,B譲渡証書及びB覚書並びにC合意書を精査すれば,A譲渡証書及びB譲渡証書は,前記のとおり,権利の移転を前提に,それを証するとともに,権利の譲受人がその移転登録手続等を単独で行うことを承諾したと認められる体裁のものであること,その一方で,A覚書においては,2000年(平成12年)3月1日より2001年(平成13年)2月28日までの期間,専らマフユ・ストラップ2の製造対価及び開発協力金を支払うことが,B覚書においては,本件考案の許諾料の50%をMKCに支払うことのほか,約束の期限に権利を再譲渡することが,そして,C合意書においては,A覚書及びB覚書を原覚書と称した上で,原覚書を解約することのほか,これに伴って何らの債権債務が存在しないことを確認することが,それぞれ定められていることが認められる。以上によれば,原告と被告の間では,第三者との交渉の便宜及び権利から生じる経済的利益の分配のため,いわば便宜的に権利を譲渡してその帰属主体を変更する側面があったことは否定できないが(前記第2の1(6)及び(8)参照),それでも,権利の帰属の問題(A譲渡証書及びB譲渡証書)と権利から生じる経済的利益の帰属・分配の問題(A覚書,B覚書及びC合意書)は,明確に区別されて扱われていたものと認めることができる。したがって,原告とMKCとの間の債権債務関係の不存在を確認する条項を含むC合意書の存在を根拠に,B譲渡証書による譲渡が効力を失ったかのようにいう被告の主張(前記第2の2(被告の主張)欄エ参照)は失当であり,同合意書の存在が,B譲渡証書により譲渡の合意が有効に成立したことを認定する妨げになるものではない。また,仮に,B覚書における上記条項により,権利を再び訴外MKCないし被告に再譲渡する旨の合意の存在が認められるとしても,上記再譲渡の合意自体は,本件実用新案権の原告への譲渡の合意と両立し得るものであって,本訴における移転登録請求を妨げるものではない(なお,C合意書において,原覚書(すなわちA覚書及びB覚書)を解約する旨が記載されていることに照らせば,C合意書の作成に当たって,本件考案について実用新案登録を受ける権利の被告への譲渡(A譲渡証書)並びに本件実用新案権の原告への譲渡(B譲渡証書)及び原告からMKCないし被告への再譲渡(B覚書)のすべてについて原告被告間で合意解除し,実用新案登録を受ける権利を被告に譲渡する以前の状態に戻す趣旨で本件実用新案権を原告に譲渡する旨の合意が,原告と被告との間で成立したと認めることができるから,いずれにしても,被告は本件実用新案権について原告に対する移転登録の義務を負担するというべきである。)。
ウ 以上のとおり,本件実用新案権は,B譲渡証書により,被告から原告に有効に譲渡されたものと認められる。
2 争点(2)(被告が原告に対し,何らかの金銭支払債務を負っていると認められるか)について ア 前記第1の2記載のとおり,原告は,被告に対して,合計金122万円及び遅延損害金の支払を求めているものの,弁論における全主張及び本件で取り調べられた全証拠によっても,被告甲合個人が原告に対して債務を負っていることの主張もなければ,立証もない。また,本件訴訟は不法行為を理由とする損害賠償請求ではないから,弁護士費用相当の損害賠償請求を認める余地もない。
したがって,証拠等の具体的な検討に入るまでもなく,原告の上記請求は理由がないものというべきである。
イ なお,原告の上記請求は,被告のMKC取締役としての責任を問うものと解する余地がないではない。そこで,念のため,以下,MKCに対する請求に理由があるかについても検討する。
原告は,A覚書における開発協力金に関する定めを根拠に,被告甲合に金銭の支払を請求する理由がある旨主張する。
しかしながら,前項1イで子細に検討したとおり,原告とMKCの間の契約関係は,実用新案権等の権利の帰属それ自体と区別して,A覚書,B覚書及びC合意書によって取り決められていたと認められるところ,仮に,A覚書により成立した契約の解釈として,原告がMKCに対し,マフユ・ストラップ2の開発協力金名下に何らかの金銭支払を請求する権利を有していたとしても,C合意書において,A覚書及びB覚書を解約するばかりか,解約にあたって何らの債権債務も存在しないことが確認されていることに照らせば,上記請求権は放棄されたものというべきである。
以上のとおり,前記第1の2記載の請求が,被告のMKC取締役としての責任を問うものであったとしても,原告がMKCに対し何らの請求権をも有しないものである以上,被告に対する同請求には理由がない。
3 結論 以上によれば,原告の本訴請求のうち,被告に本件実用新案権の移転登録を求める請求(前記第1の1)は理由があるが,被告に金122万円及び遅延損害金の支払を求める請求(前同第1の2)は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之
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