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関連ワード 技術的範囲 /  禁反言 /  分割出願 /  実施料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  実施例 /  特段の事情 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 13321号 不当利得返還請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 濱岡計
補佐人弁理士 石川泰男
同 塩島利之
被告 日本電信電話株式会社
訴訟代理人弁護士 本間崇
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/08/28
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
(原告) 被告は,原告に対し,金1億2500万円及びこれに対する平成14年6月25日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
(被告) 1 主位的答弁 主文同旨 2 予備的答弁 請求棄却
事案の概要
原告は,原告が実用新案権の持分を有しており,テレホンカードを製造販売した被告の行為は,同実用新案権を使用した不当利得行為に該当すると主張して,被告に対し不当利得金の返還を求めた。
本訴は,実用新案権の仮保護の権利に基づく請求であり,平成8年2月21日(出願公告日)から平成11年9月5日(存続期間満了日)までに発生した不当利得金66億円余の一部である1億2500万円の返還請求であって,原告は,本訴請求は,後記記載の前訴請求の残部請求であると主張している。
1 前提となる事実(当事者間に争いはない。) (1) 原告の有していた実用新案権 原告がその持分(3分の1)を有していたと主張する実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)は,次のとおりである。
考案の名称 テレホンカード イ 出願日 昭和59年9月5日 (分割の表示 実願昭59-134611の分割) ウ 出願公告日 平成8年2月21日 エ 登録日 平成12年3月17日 オ 登録番号 第2150603号 カ 実用新案登録請求の範囲 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており,且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。
(2) 被告の行為 被告は,目の不自由な者でも電話機へ差し込む方向が確認できる凹み(切欠部)を設けたテレホンカード(以下「被告テレホンカード」という。)を製造,販売している。
被告テレホンカードには,カードの表裏及び差込み方向の確認をすることができる切欠部が存する。
(3) 関連請求の内容 ア 第1次訴訟(以下「前訴」という。) 原告及びOは,被告に対して,本件実用新案権及びその親出願の実用新案権に基づく不当利得返還請求訴訟(平成11年(ワ)24280号)を提起した。平成12年7月26日,当裁判所は原告らの請求を棄却し,平成13年4月17日,東京高等裁判所は控訴を棄却し(平成12年(ネ)第4209号),平成13年10月16日,最高裁判所は上告棄却及び受理しないとの決定をした(平成13年(オ)第1182号,同年(受)第1161号)。(裁判所に顕著な事実)。前訴において,原告らは,各実用新案権の出願日である昭和59年9月5日から10年間分の不当利得金合計570億円のうちの一部である125億円の支払を求めた。
イ 第2次訴訟 原告は,被告に対して,本件実用新案権の親出願に係る実用新案権に基づく不当利得返還請求訴訟(平成13年(ワ)27511号)を提起した。平成14年2月18日,当裁判所は原告の請求を棄却し,同判決は確定した(裁判所に顕著な事実)。第2次訴訟において,原告は,上記実用新案権の出願日である昭和59年9月5日から10年間分の不当利得金合計570億円のうちの一部である1億2500万円の支払を求めた。
2 争点 (1) 本訴請求は,金銭債権の明示的一部請求に対する請求棄却判決が確定した後の残部請求として,不適法なものか(本案前の抗弁)。
(被告の主張) 金銭債権の明示的一部請求を棄却する旨の判決が確定した後に,敗訴当事者が残部について請求することは,信義則違反ないし権利濫用の法理により不適法と解すべきである。本件について見てみると,@本訴請求は,本件実用新案権に基づく不当利得返還請求であって,同一の実用新案権に基づく数量的可分な金銭債権である不当利得返還請求について棄却された前訴の残部請求であること,A本訴請求は,前訴において審理判断され,排斥された,本件実用新案権の侵害の有無という争点について,再度の審理を求める蒸し返しの訴訟であること等の経緯に照らすならば,本訴請求は,信義則違反ないし権利濫用に当たると解すべきである。したがって,本件の訴えは不適法であって却下されるべきである。
(原告の反論) 前訴における原告の主張は,被告テレホンカードの短辺に形成された切欠部は,カードの端縁からカード本体の内方に凹んだ押形部であるということを根拠とするものである。
他方,本訴における原告の主張は,「押形部はテレホンカードの機能に影響を与えない任意の一に形成できる」との明細書の記載を根拠にして,「押形部」とは,カード本体の厚み方向に押圧したものであることを認め,この「押圧部」がカード短辺の外周縁に形成する底のある凹みであり,この「凹み」と「切り欠き」とは,作用効果が実質上同一であることを根拠とするものである。
このように,原告が本件実用新案権の侵害であると主張する理由が前訴と本訴とで異なる以上,本訴請求が,数量的一部請求を全部棄却する旨の判決が確定した後の残部請求に該当しても,不適法なものとはいえない。
(2) 被告テレホンカードは本件考案技術的範囲に属するか(請求原因)。
(原告の主張) 被告テレホンカードは,本件考案技術的範囲に属する。
本件考案に係るテレホンカードは,主として目の不自由な者が指で触れることにより,カードの裏表,差込み方向を認識できる「押形部からなる指示部」が形成されているものである。実用新案登録請求の範囲には,「押形部」は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると記載されているが,本件明細書には,「尚,かかる指示部2はカード本体1上に,テレホンカードの機能に影響を与えない位置に設けられている。」と記載されていることから明らかなとおり,本件明細書実施例の形成位置に限定されず,外周縁上に押形部が形成されていてもよいと解すべきである。そして,「押形部」のくぼみ方向は厚み方向と捉えるのが当業者からみて自然であることを考慮すると,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる押形部は,本件明細書実施例のものに加えて,外周縁に平面形状が半円をなすように厚さ方向にくぼんでいるくぼみを包含すると解すべきである。
他方,被告テレホンカードにおける「切欠部」は,カード本体の裏表及び差込み方向の検出という効果の観点から,本件考案における「押形部」と実質的な差はなく,両者は技術的思想上実質的に同一であり,被告テレホンカードは本件考案技術的範囲に属する。
(被告の反論) 被告テレホンカードは,「切欠部」からなる指示部を有し,本件考案の「押形部からなる指示部」を備えていないので,本件考案技術的範囲に属しない。
本件考案における「指示部」は「押形部」からなるものを意味するのに対し,被告テレホンカード中の「指示部」に相当する部分は「切欠部」であるから,両者は「指示部」の形状を異にする。本件考案における「押形部」の指示部は,カード本体の表裏(厚さ)方向に貫通しておらず底面を有するくぼみなので,例えばカード本体の表面にくぼみがあり,その裏面にはくぼみがないことから,手,指で「指示部」にふれることによりカード本体の表裏が確認できる。他方,「切欠部」及び「穴部」の指示部は,カード本体の表裏(厚さ)方向に貫通しているため,手,指で「指示部」に触れることによってはカード本体の表裏も差込み方向も確認できない。両者は,その有する機能が相違し,技術思想を異にする。
さらに,本件考案の親出願の出願当初明細書には,「指示部」の構成として「切欠部」「穴部」及び「押形部」の3つの構成が図面とともに記載されていた(乙1)が,その後,この中から「切欠部」及び「穴部」のものが親出願の出願人により除外されて,出願公告に至り,同公告後,本件実用新案権に係る分割出願がされた。よって,「切欠部」を本件考案の構成要件である「押形部」に含まれるような原告の主張は,包袋禁反言の法理に照らしても許されない。
(3) 不当利得の額はいくらか。
(原告の主張) 被告は,被告テレホンカードを,本件実用新案権の出願公告日である平成8年2月21日から存続期間満了日である平成11年9月5日までの約3年半の間,年間2億枚の割合で製造,販売しており,その売上高は年間平均約1900億円を超える。本件実用新案権の実施料相当額は,売上高の3パーセントが相当であるので,被告は少なくとも年間57億円を不当に利得しており,上記3年半分の不当利得額は約200億円である。そして,本件実用新案権に係る原告の持分は3分の1であるので,原告が請求し得る不当利得の額は約66億円となる。原告は,このうち,内金として金1億2500万円の支払を求める。
(被告の反論) 原告の主張は争う。
争点に対する判断
1 争点(1)(本訴請求は,金銭債権の明示的一部請求を棄却する旨の判決が確定した後の残部請求として,不適法なものか。)について (1) 前訴の内容は,以下のとおりである。
原告及びOは,被告に対して,本件実用新案権及びその親出願の実用新案権に基づく不当利得返還請求訴訟(平成11年(ワ)24280号)を提起した。平成12年7月26日,当裁判所は原告らの請求を棄却し,平成13年4月17日,東京高等裁判所は控訴を棄却し(平成12年(ネ)第4209号),平成13年10月16日,最高裁判所は上告棄却及び受理しないとの決定をした(平成13年(オ)第1182号,同年(受)第1161号,以上は裁判所に顕著な事実)。前訴において,原告らは,各実用新案権の出願日である昭和59年9月5日から10年間分の不当利得金合計570億円のうちの125億円の支払を求めた(当事者間に争いはない)。
これに対して,本訴の内容は,以下のとおりである。
本訴は,実用新案権の仮保護の権利に基づく請求であり,平成8年2月21日(出願公告日)から平成11年9月5日(存続期間満了日)までに発生した不当利得金約66億円余の一部である1億2500万円の返還請求であって,原告は,本訴請求は,後記記載の前訴請求の残部請求である旨主張している。
(2) ところで,「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第3小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。
数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,・・・判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である」(最高裁第2小法廷判決平成10年6月12日民集52巻4号1147頁参照)。
(3) 本件について検討する。
本訴は仮保護の権利に基づくものではあるが,仮保護の権利については特許権又は実用新案権の権利侵害に関する規定が準用され(平成6年法律第116号による改正前の特許法52条2項及び平成5年法律第26号による改正前の実用新案法12条2項),その請求権の内容,性質は,算定方法が異なるものの,特許権又は実用新案権に基づく不当利得請求権と実質的に同一であると解して差し支えないことに照らすと,本訴は,本件実用新案権に基づく不当利得金の一部請求をした前訴に対して,訴訟の対象を同一とし,請求期間のみを別異にした残部請求と解すべきである。
前訴において,原告らの本件実用新案権に基づく不当利得返還請求権としての数量的一部請求のすべてを棄却する旨の判決がされたことにより,本件実用新案権に基づく不当利得返還請求権について,当該債権が全く現存しないと判断されたものであるから,同判決が確定した後に原告が,実用新案権の仮保護の権利に基づいて,前訴と異なる期間に発生した不当利得金の支払を求めて訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった本件実用新案権に基づく不当利得返還請求及び主張を蒸し返すものに他ならないというべきである。したがって,本訴は,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないものと解される。そして,特段の事情とは,一部請求訴訟における審理の範囲が必ずしも債権全部に及ばなかったような事情がある場合をいうと解すべきところ,本件全証拠によるも,そのような特段の事情を認めることはできない。
以上によれば,本訴は,数量的一部請求を全部棄却する旨の判決が確定した後の残部請求であり,信義則に反して許されず,不適法として却下されるべきである。
2 結論 よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智