関連審決 |
無効2002-35215 無効2004-80144 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ1104特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的範囲 / 出願経過 / 禁反言 / 意識的除外 / 実施許諾 / 損害額 / 考案 / 図面 / 構造 / 補正 / 進歩性(3条2項) / 新規性(3条1項) / きわめて容易 / 拒絶理由 / 実施許諾(実施の許諾) / 削除 / 請求項 / 実施例 / 容易に想到 / 公知技術 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
25867号
実用新案権侵害差止等請求事件
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原告 ヒロセ電機株式会社 訴訟代理人弁護士 田中 伸一郎 同 竹内麻子 訴訟復代理人弁護士 佐竹勝一 補佐人弁理士 今城俊夫 被告 日本航空電子工業株式会社 訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本 和徳 同 七字賢彦 同 鈴木英之 同 大友良浩 同 隈部泰正 同 戸谷 由布子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/09/29 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,別紙物件目録記載の各製品を,製造し,使用し,販売し,販売のために展示し,販売の申出をし,又は輸入してはならない。 2 被告は,原告に対し,金3億8300万円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
主文と同旨 |
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事案の概要
本件は,フレキシブル基板用電気コネクタに関する後記の本件実用新案権,本件特許権3及び4を有する原告が,被告が別紙物件目録記載の各製品(以下,それぞれ「イ号物件」,「ロ号物件」,「ハ号物件」という。)を製造販売等する行為が,本件実用新案権及び本件特許権3を侵害し,イ号物件を製造販売等する行為が本件特許権4を侵害すると主張して,被告に対し,本件実用新案権,本件特許権3及び4に基づいて,イ号ないしハ号物件の製造販売等の差止め並びに本件実用新案権,本件特許権3及び4侵害による損害賠償及び不当利得返還を求めている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,該当箇所末尾に証拠を掲げた。) (1) 当事者 ア 原告は,各種電気機械器具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 イ 被告は,電気,電子その他物理並びに化学機器,部品,機材等の設計,製造,販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の権利 ア 原告は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している(甲1,2)。 a) 登録番号 第2580074号 b) 考案の名称 フレキシブル基板用電気コネクタ c) 出願日 平成5年4月2日 d) 登録日 平成10年6月19日 なお,本件実用新案権に係る考案は,出願過程において,特許庁審査官から,平成9年7月1日付けで,「平成9年5月9日付け手続補正書,実用新案登録請求の範囲請求項1の『回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応する接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されている』の記載は不明瞭である。特に,『ハウジングの対応溝に保持されている』は何がどのように保持されているか不明である。」との拒絶理由通知を受けた(以下「本件拒絶理由通知」という。)。 そこで,原告は,同年5月9日の補正(以下「補正A」という。)に加えて,同年8月25日にも補正(以下「補正B」という。)を行ったが,同年11月11日,補正却下決定がされた。原告は,さらに,平成10年3月26日,手続補正を行い(以下「補正C」という。),同補正が受理され,本件実用新案権は成立した(乙15ないし17)。 e) 請求項の記載 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件考案明細書」という。本判決末尾添付の実用新案登録公報〔以下「本件考案公報」という。〕参照。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の考案を「本件考案1」と,請求項2記載の考案を「本件考案2」といい,両考案を総称して,「本件各考案」という。)。 「【請求項1】上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接触子と,該ハウジングに保持された部材に形成され上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部と,上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を上記回動支持部により回動自在に支持され,上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧突部を有する蓋状の加圧部材を備えるフレキシブル基板用電気コネクタにおいて,回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」 「【請求項2】上記加圧突部は,上記加圧部材が開放位置にあるときには回動支持部の回動中心と接触子の接触部とを結ぶ線よりも外方にあり,加圧部材が所定位置まで回動したときには上記線を越えるように位置づけられていることとする請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ」 f) 構成要件 @ 本件考案1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件1-@」のように表記する。)。 構成要件1-@ 上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接 触子と, 構成要件1-A 該ハウジングに保持された部材に形成され上記開口部に臨む位置に 設けられた回動支持部と, 構成要件1-Ba 上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位 置との間を上記回動支持部により回動自在に支持され, b 上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキ シブル基板を接触子に対して圧する加圧突部を有する蓋状の加圧部 材を備えるフレキシブル基板用電気コネクタにおいて, 構成要件1-Ca 回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と 対応せる位置で複数に分割され, b それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの 対応保持溝に保持されていることを特徴とする 構成要件1-D フレキシブル基板用電気コネクタ。 A 本件考案2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件2-@」のように表記する。) 構成要件2-@ 上記加圧突部は,上記加圧部材が開放位置にあるときには回動支持 部の回動中心と接触子の接触部とを結ぶ線よりも外方にあり, 構成要件2-A 加圧部材が所定位置まで回動したときには上記線を越えるように位 置づけられていることとする 構成要件2-B 請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ。 イ 原告は,次の特許権(以下「本件特許権3」という。)を有している(甲3,4)。 a) 登録番号 第2692055号 b) 発明の名称 フレキシブル基板用電気コネクタ c) 出願日 平成5年11月18日 d) 登録日 平成9年9月5日 e) 請求項の記載 本件特許権3に係る明細書(以下「本件特許3明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔以下「本件特許3公報」という。〕参照。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発明を「本件特許発明3」という。)。 「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され,該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に,側方から上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し,加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて,ハウジングは,上記フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部の位置よりも奥部に,該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」 f) 構成要件 本件特許発明3を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件3-@」のように表記する。)。 構成要件3-@ 側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの 該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し, 構成要件3-A ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨 む位置に回動支持部を備え, 構成要件3-B 上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置と の間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され, 構成要件3-C 該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に,側方から上記開口部 に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対し て圧する加圧部を有し, 構成要件3-D 加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部 により形成されるものにおいて, 構成要件3-E ハウジングは,上記フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部 の位置よりも奥部に,該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接 せしめる状態で支持するための支持部を有し, 構成要件3-F 加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,該支持部と接触子の弾 性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材 の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようにな っていることを特徴とする 構成要件3-G フレキシブル基板用電気コネクタ。 ウ 原告は,次の特許権(以下「本件特許権4」という。また,本件実用新案権,本件特許権3及び本件特許権4を総称して,「本件各権利」という。)を有している(甲5,6)。 a) 登録番号 第2814447号 b) 発明の名称 フレキシブル基板用電気コネクタ c) 出願日 平成6年2月3日 d) 登録日 平成10年8月14日 e) 請求項の記載 本件特許権4に係る明細書(以下「本件特許4明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔以下「本件特許4公報」という。〕参照。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発明を「本件特許発明4」という。)。 「隣接せる二辺の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記接触子の配列方向にて上記開口部の両端側位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した閉位置と該接触子から離反した開位置との間で加圧部材が上記回動支持部により回動自在となるように支持され,該加圧部材は上記所定閉位置に向け閉方向の回動により,上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する突部により形成される加圧部を有するものにおいて,加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行くように設けられていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」 f) 構成要件 本件特許発明4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件4-@」のように表記する。)。 構成要件4-@ 隣接せる二辺の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性 接触部が配列された複数の接触子を有し, 構成要件4-A ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記接触子の配 列方向にて上記開口部の両端側位置に回動支持部を備え, 構成要件4-B 上記接触子に近接した閉位置と該接触子から離反した開位置との間で 加圧部材が上記回動支持部により回動自在となるように支持され, 構成要件4-C 該加圧部材は上記所定閉位置に向け閉方向の回動により,上記開口部 に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対し て圧する突部により形成される加圧部を有するものにおいて, 構成要件4-D 加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動し た際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し, 構成要件4-E 上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部 材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行くように設けら れていることを特徴とする 構成要件4-F フレキシブル基板用電気コネクタ。 (3) 被告の製造販売する製品について 被告は,別紙物件目録記載の各物件(以下,イ号物件ないしハ号物件を総称して,「被告各物件」という。)を,イ号物件については遅くとも平成7年から,ロ号物件については平成10年から,ハ号物件については平成13年から,製造,販売している。被告各物件の平成9年9月5日以降平成16年10月までの売上げは,別紙「イ,ロ,ハ号物件売上額(97.9〜04.10)」記載のとおりである。 (4) 対比について 被告各物件が,それぞれ本件各権利の以下の構成要件を充足することについては,当事者間に争いはない。 ア イ号物件 a) 本件考案1 構成要件1-@,同1-Bb,同1-D b) 本件考案2 構成要件2-@,同2-A c) 本件特許発明3 構成要件3-@,同3-C,同3-G d) 本件特許発明4 構成要件4-@,同4-BないしD,同4-F イ ロ号物件 a) 本件考案1 構成要件1-@,同1-Bb,同1-D b) 本件考案2 構成要件2-@,同2-A c) 本件特許発明3 構成要件3-@,同3-C,同3-G ウ ハ号物件 a) 本件考案1 構成要件1-@,同1-Bb,同1-D b) 本件特許発明3 構成要件3-@,同3-C,同3-G 2 争点 (1) 被告各物件の具体的構成(争点1) (2) 被告各物件は,本件各考案の技術的範囲に属するか(争点2)。 ア 被告各物件は,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」(構成要件1-A)を充足するか(争点2-1)。 イ 被告各物件は,「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件1-Ba)を充足するか(争点2-2)。 ウ 被告各物件は,「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」(構成要件1-Ca)を充足するか(争点2-3)。 エ 被告各物件は,「(回動支持部は,)ハウジングの対応保持溝に保持され」(構成要件1-Cb)を充足するか(争点2-4)。 オ ハ号物件に特有の構成は,本件考案1の構成要件1-A,1-Ba及び1-Cbを充足するか(争点2-5)。 カ ハ号物件に特有の構成は,本件考案2の構成要件2-@,2-A及び2-Bを充足するか(争点2-6)。 (3) 被告各物件は,本件特許発明3の技術的範囲に属するか(争点3)。 ア 被告各物件は,「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」(構成要件3-A)を充足するか(争点3-1)。 イ 被告各物件は,「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件3-B)を充足するか(争点3-2)。 ウ 被告各物件は,「加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成される」(構成要件3-D)を充足するか(争点3-3)。 エ 被告各物件は,「該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し」(構成要件3-E)を充足するか(争点3-4)。 オ 被告各物件は,「該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して」(構成要件3-F)を充足するか(争点3-5)。 カ ハ号物件に特有の構成は,本件特許発明3の構成要件3-A,3-Bを充足するか(争点3-6)。 (4) イ号物件は,本件特許発明4の技術的範囲に属するか(争点4)。 ア イ号物件は,「開口部の両端側位置に回動支持部を備え」(構成要件4-A)を充足するか(争点4-1)。 イ イ号物件は,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)を充足するか(争点4-2)。 (5) 本件特許発明4は無効理由を有するか(争点5)。 (6) 損害(争点6) |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告各物件の具体的構成)について (原告の主張) (1) 被告各物件の具体的構成は,別紙物件説明図のとおりである(原告が訴状で主張した別紙物件説明図について,被告が主張した用語の訂正を認め,また,被告が別紙図面訂正目録において主張する訂正のうち,次の(2)アのとおり訂正を認め,訂正したものである。)。 (2)ア 被告が別紙図面訂正目録において主張する別紙物件説明図に対する訂正のうち,(1)【図イ3】のB加圧部材上部の形状の修正,(2)【図イ3の2】のA右端下部端子を修正(削除),(4)【図ハ3の2】の@接触子[3]の形状の修正及びC加圧部材の形状の修正(【図ハ3】〜【図ハ7】も同様とする。)については,いずれも被告各物件の形状を正確に図面化する趣旨によるものであり,その訂正を認める。 イ 被告が別紙図面訂正目録において主張する訂正のうち,@フレキシブル基板の挿入位置,A接触子収納部の高さ,B【図イ8】及び【図イ9】(イ号物件の軸部9の構造等)の修正については,いずれも認めることができない。 証拠(検乙1ないし13)から明らかなように,被告各物件は非常に小さく,フレキシブル基板が奥まで挿入されないと,フレキシブル基板用電気コネクタにおいて絶対的に必要な接触子との結合が非常に不安定になる。したがって,作業者は,当然にフレキシブル基板を最奥まで挿入するのであるから,被告による上記訂正は,通常ありえない状態を前提としており,被告各物件の具体的構成とはいえない。フレキシブル基板が最奥まで挿入された場合には,基板先端は接触子ではなく,テーパ部に接するから,被告による上記訂正は,この点についても相当ではない。 ウ 被告の別紙図面訂正目録のうち,【図イ8】及び【図イ9】の訂正についても認めることができない。イ号物件においては,争点4-2において述べるとおり,過剰な回転をした場合,軸部9が上方に移動すると共に,保持部2も縦方向に持ち上がる構造を有している。したがって,イ号物件において,過剰の回転をした場合,軸部9が破損することを前提とする被告の上記訂正は,相当ではない。 (被告の主張) (1) 被告各物件の具体的構成は,別紙物件説明図各記載のものを別紙図面訂正目録各記載の各図面に訂正したものである。 (2) 被告各物件においては,フレキシブル基板の先端部は,弾性接触部とハウジングの奥部の壁面との間(接触有効長内)に位置すればよく,テーパ部1B上にフレキシブル基板の先端が載置される必要はない。そのため,テーパ部1Bは,保持状態においてはフレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持しない。したがって,被告各物件におけるフレキシブル基板の挿入位置及び接触子収納部の高さは,別紙図面訂正目録記載の各図面のとおりに訂正されるべきである。 (3) フレキシブル基板用電気コネクタは,フレキシブル基板に弾性があり,しかも,フレキシブル基板挿入後,加圧部材を回動させるため,フレキシブル基板を挿入した手を離すと,ハウジングの最奥まで挿入していた場合でも若干戻ってしまうことがある。フレキシブル基板を常にハウジングの最奥まで挿入することは,実装上,困難である。だからこそ,フレキシブル基板の挿入位置を確認するための特許,実用新案が種々出願されているのである。被告各物件は,フレキシブル基板を最奥まで挿入しなくても,安定してフレキシブル基板を支えることができるというメリットを有するものである。 (4) イ号物件においては,争点4-2において述べるとおり,加圧部材を開放位置からさらに過剰に回転することはそもそも設計上想定しておらず,無理に回転させると軸部9Aが破壊されてしまうことになる。すなわち,イ号物件の剛性は,計算上,加圧部材の上面がハウジング上面に接するような回転に軸部9Aが耐えられるような設計とはなっていないのである。したがって,【図イ8】及び【図イ9】についても,別紙図面訂正目録記載の各図面のとおりに訂正されるべきである。 2 争点2(被告各物件は,本件各考案の技術的範囲に属するか。)について (1) 争点2-1(被告各物件は,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」(構成要件1-A)を充足するか。)について (原告の主張) アa) 「開口」とは,外に向って口が開いていることであるから,本件考案1の「開口部」とは,そのような形状を有する部分を意味する。 構成要件1-@は,「上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接触子と」とされ,本件考案明細書には,「上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接触子……を備える……フレキシブル基板用電気コネクタ……。」(【0008】)と記載されており,接触部4Aが配列されたその位置関係は,本件考案明細書図3において例示されているとおりであるから,開口部とは,接触部4Aの上方,すなわち接触部4Aが配列されている空間を含む空間を意味するというべきである。 また,「開口部」とは,本件考案明細書実施例において,「ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている」(【0015】)と記載されていることから,開放位置から所定位置の間を回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている空間を含む空間でもある。 以上からすると,本件考案1の「開口部」とは,別紙開口部図面の【図面A】の赤で着色した空間であり,ハウジングの上方が開口した部位で,接触部4Aの上方と加圧部材7の所定位置への回動によりふさがれる部分を含む空間であるというべきである。 b) 被告が,「ハウジング内部の横方向に開口している部分」であるとして,開口部から除外すると主張する部分も,その余の部分と一体となり,外に向って開いている形状を有しているから,当該部分を開口部から除く理由はない。被告が指摘する本件考案明細書等の各記載は,いずれも,主として,開口部の形状ではなく,開いている方向を述べているだけであり,「開口部」を被告の主張するように限定する理由とはならない。 イa) 「開口部に臨む位置」とは,「開口部に向い対する」,「開口部を見おろす」,あるいは「開口部を目の前にする」位置(講談社「新大辞典」参照),すなわち,その空間と別の空間との境界付近に存在することを意味し,いずれか一方の空間内に存するか否かを厳密に限定するものではない。したがって,回動支持部5が開口部内に存在していても,「開口部に臨む位置」に相当するというべきである。 b) 本件各考案の要旨ないし効果は,回動支持部5が接触子と一体に形成され,接触部4Aからの反力を加圧部材を介してハウジングの上部ではなく別部材の回動支持部5が受け止め,吸収するという点にある。そのためには,回動支持部5が開口部との境界付近に存すればよく,その空間の一部を構成するか否かは無関係である。 被告は,コネクタに関する従来技術の変遷の経緯からすると,回動支持部の位置は本件考案明細書図8における凸弯曲面と同じ位置になくてはならないと主張する。しかし,回動支持部は,蓋のように回転して開口部が開閉され,フレキシブル基板を挿入保持するための回転軸を支持するものである以上,開口部に向い対する位置に存しなくてはならないというべきであるとしても,それ以上の限定は不要である。 c) 被告各物件においても,回動支持部5に該当する回動案内部5が,接触子と一体に形成されて,接触部4Aの反力を受け止め吸収するために,開口部に向い対する位置に設けられていることに変わりない。したがって,被告各物件は,いずれも「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」(構成要件1-A)の構成を充足する。 (被告の主張) アa) 構成要件1-@及び同Aは,「上方に開口せるハウジングの開口部に……上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」と定めており,「上記開口部」とは,「上方に開口せる」空間であることが【請求項1】に明示されている。 また,本件考案明細書においては,上記「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」については,【0005】【考案が解決しようとする課題】欄に,実用新案登録請求の範囲と同様の記載が存するのみである。 本件考案明細書の上記各記載と同明細書図1の記載も合わせ考慮すると,ハウジング1の上方に開口する開口部は,別紙開口部図面の【図面C】の赤で着色した空間であり,回動支持部5の右端の外側及び接触フィンガー部4上部の上側の空間を意味するというべきである。 原告は,「開口部」とは,別紙開口部図面の【図面A】の赤で着色した空間であり,ハウジングの上方が開口した部位で,接触部4Aの上方と加圧部材7の所定位置への回動によりふさがれる部分を含む空間であると主張する。しかし,原告が「開口部」と主張する空間のうち,ハウジング内部の横方向に開口している部分は除外されるべきである。 b) 本件各権利の対象である無挿抜力コネクタに関する技術は,いわゆるスライド方式から,被告各物件が採用している蓋開閉方式へと発展した。同方式は,当該蓋によって閉じられるように上方向に開口を設け,その蓋の開閉のための回転軸はハウジングのフレキシブル基板挿入方向手前ないし奥にある。本件考案明細書の記載によると,本件各考案は,従来技術(特公平3-51257号公報。以下,同公報により開示された構成のコネクタを,「公知コネクタ」という。乙1)において,加圧部材が回動する際,回動案内面となる凸弯曲面が加圧部材から強い力を受け,曲げを生じるという課題や,コネクタ側面に係止爪部,係止段部を設けて加圧部材とハウジングを係止していたため,コネクタの構造が複雑かつ大型化するという課題が生じることから,かかる問題を解決するため,回動支持部での強度を向上し,さらには,係止爪部,係止段部を不要とし,構造及び操作の簡単なフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的として,公知コネクタにおいて回転軸として機能する凸弯曲面を,接触子の先端部に設けた回動支持部に代替させ,かつ,その回動支持部をハウジングの保持溝によって回動軸線方向の変位が阻止されるように保持する構造を採用した点に,考案の特徴があるというべきである。 以上によると,本件各考案は,公知コネクタの回動軸に相当する凸弯曲面の代替として,「開口部に臨む位置」に回動支持部を設けたのであるから,公知コネクタの回動軸が設けられた位置が,「開口部に臨む位置」に相当すると解さざるを得ない。 また,本件考案明細書には,回動支持部5は,「該保持溝1Aにて回動軸線方向の変位が阻止されるように保持され,該保持溝1Aから突出する回動支持部5の周縁が櫛歯状に配列されて軸状をなす」(【0015】)と記載されているから,本件考案1の「回動支持部」は,その周縁を除き保持溝1Aに保持されていることになる。そして,該保持溝1Aから突出する回動支持部5の周縁が櫛歯状に配列されて軸状をなす部分は,あたかも同心の同半径の1本の軸のごとく機能するようになっていることも合わせ考慮すると,回動支持部の位置は,保持溝の先端部分,すなわち,ハウジングの開口を形成する端部であると解さざるを得ない。 c) 「臨む」は,「@目の前にする。面する。……『湖に臨む部屋』A場合・機会などに向かい合う。……『試験に臨む』Bその場所に行く。(中略)『祝典に臨む』C治者として被治者に対する。D身分の高い人が自らその場に行く。」(広辞苑 第5版)という意味を有する。「開口部に臨む位置」とは,@の「湖に臨む部屋」と同類型の表現であり,「開口部に面する」との意味で用いられているのであるから,開口部が含まれる位置と解することはできないことは明らかである。 原告は,開口部内も「上記開口部に臨む位置」であると主張するが,回動支持部の位置が特定できなくなってしまう解釈は相当ではない。 d) 以上によれば,本件考案1の回動支持部5は,ハウジングの開口部に面する位置に存しているから,「開口部に臨む位置」とは,開口部に面する位置であって,開口部そのもの(開口部内に存するもの)は除外されているというべきである。 イa) イ号物件における開口部は,弾性接触部(接触部)4Aの凸部(フレキシブル基板Fと接する部分)から上方に伸ばした垂線の左側の空間部分を意味するというべきであって,回動支持部に相当する回動案内部5は,開口部内に位置しており,ハウジングの「開口部に臨む位置」に存しない。 b) ロ号物件における開口部も,イ号物件と同様であり,ロ号物件の回動案内部5も,同様に,開口部内に位置しており,「開口部に臨む位置」に存しない。 c) ハ号物件における開口部は,ハウジング上部片左端に引いた垂線の左側空間部分を意味するというべきであるから,ハ号物件の回動案内部5も,同様に,開口部内に位置しており,「開口部に臨む位置」に存しない。 d) したがって,被告各物件は,構成要件1-Aの構成を充足しない。 (2) 争点2-2(被告各物件は,「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件1-Ba)を充足するか。)について (原告の主張) アa) 本件各考案における「回動支持部により回動自在に支持され」とは,実用新案登録請求の範囲において,「終始支持され」と規定されていない以上,加圧部材が回動する際に発生する接触部からの反力を受け,これを回動支持部で支持する必要のある時点で回動支持部が支持することにある。すなわち,加圧部材は,「所定位置」と「開放位置」との間を回動,つまり正逆方向の円運動を自在に行っているものであり,その回動において接触部からの反力を受けたときには,回動支持部がそれに抗してこれを支持し,その回動がなされることを意味するというべきである。 b) 被告は,構成要件1-Baについて,@所定位置と開放位置のいかなる位置に回動させても,加圧部材が回動支持部によって支持されていなければならない,Aほかの軸を設けることなく加圧部材の回動を支持していると主張する。しかし,本件各考案は,加圧部材の回動案内を行う回動支持部を金属製の接触子の一部として成型することにより,回動支持部での強度を向上し,もって「回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮」させて,加圧部材がフレキシブル基板を押圧することにより発生する弾性接触部からの反力に対向し,耐えるものとした点に,その技術的意義を有する。他方で,加圧部材がフレキシブル基板を押圧していない場合には,回動支持部が支持する対象となる強い力が発生しておらず,これに対向する支持は必要ではないから,加圧部材が回動支持部により終始回動自在に支持される必要はなく,本件考案明細書の記載にもそのような限定はない。したがって,被告の上記主張は理由がない。 イ 被告が指摘する無効審判事件(無効2002-35215。以下「本件無効審判事件」という。)における原告の主張は,構成要件1-Baの「回動支持部」の解釈に影響を及ぼすものではない。確かに,本件無効審判事件において,特開平1-315976号公報(乙10。本件無効審判事件における甲1。以下「乙10公報」という。)の端子630の第2U字型部分648が,本件考案1の「回動支持部」に相当するかが争点となった。しかし,乙10公報は,本件各考案のように回動自在の加圧部材によりフレキシブル基板を押圧保持するものではなく,通常閉じられた挿入口をカムを用いた大きな力で一時的に開けて基板を挿入,保持するものであり,全く技術思想が異なるものであるため,同公報の第2U字型部分と本件考案1における回動支持部とはその構造及び作用効果において異なるものであった。平成14年12月22日の口頭審理における原告の「『回動支持部』とは,当該回動支持部のみによって,加圧部材の回動を支持するものをいい,ほかの軸を設けなければ加圧部材の回動を支持できなかったり,そのもののみで加圧部材の回動を支持しているといえないものは該当しない」(乙18)との回答は,このような構成の相違を前提としており,本件考案1における「回動支持」について,ほかの軸を設けなくても加圧部材の回動を支持しているという意味に限定する理由とはならないことは明らかである。 ウ 被告は,イ号物件が本件各考案の技術的範囲に属するとする主張と,本件特許発明4に属するとする主張は矛盾する,と主張する。しかし,本件各考案は,加圧部材が「所定位置」(本件特許発明4の「閉位置」)から「開放位置」(本件特許発明4の「加圧部材がハウジングの前縁部に当接する前の位置」)に移動した場合を想定した考案である。これに対し,本件特許発明4は,加圧部材が「開放位置」からさらに開方向に回動した場合を想定した発明であるから,本件各考案と本件特許発明4は,想定している場面が異なっている。すなわち,イ号物件においては,所定位置と開放位置との間では加圧部材が回動支持部により支持されているが(本件各考案が想定する場面),開放位置を超えて加圧部材が回動した場合には,加圧部材の被案内部が回動案内部から外れる(本件特許発明4が想定する場面)構造を有しているのである。 したがって,原告が,イ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属すると主張することと,イ号物件が本件各考案の技術的範囲に属すると主張することに,何ら矛盾はない。 エ 被告各物件においては,加圧部材7が,回動案内部5の周りを自在に回動する関係にある上,回動案内部5は加圧部材7の回動が不規則にならないように案内するとともに,加圧部材7が,フレキシブル基板Fの上面を押し下げることにより,フレキシブル基板から受ける反力により上昇しようとするのを回動案内部5により受け止め,当該反力を吸収させているから,加圧部材7と回動案内部5は本件考案1における「加圧部材7が上記回動支持部5により回動自在に支持され」ている関係に該当する。 したがって,被告各物件は,「回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件1-Ba)との構造を充足する。 (被告の主張) アa) 構成要件1-Baを充足するためには,加圧部材が,「接触子に近接 した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」との間を「回動支持部により」「回動自在に支持され」ていることが必要である。ここに,「回動」とは,正逆方向に円運動をすることであり(日刊工業新聞社・特許技術用語集15頁),「自在」とは,束縛もなく自由であること(同61頁),束縛も支障もなく,こころのままであること,思いのままのことであり(広辞苑第5版1161頁),「支持」とは,「支え持つこと」(前記特許技術用語集61頁),「ささえること」,「ささえて持ちこたえること」である(広辞苑1162頁)から,「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」との間において「支持」され,かつ,「回動自在に支持」されているとは,「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」のいかなる位置に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって,支持されている必要がある。 b) 本件考案明細書には,「回動支持部により回動自在に支持」に関し,次のように記載されている。 「上記加圧部材の回動案内を行なう回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,すなわち接触子の一部として作られており,この接触子が複数平行にハウジングによって保持されているために,丁度金属製の軸のごとく機能する。したがって,特に軸を設けなくとも,上記複数の接触子の一部たる回動支持部により,回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮する。」(本件考案公報【0010】) 「上記ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている。該加圧部材7は,図1に示されるごとく,その長手方向の両端部に切欠溝8,8が形成されていて,該切欠溝8,8により両端のアーム部9,9と加圧部10とに区分されている。両アーム部9には上記加圧部材7の長手方向に突出する軸部9Aがそれぞれ設けられており,該軸部9Aは上記ハウジング1の半円状の軸支部2Aとほぼ同じ半径で形成されている。また,上記加圧部材7の加圧部8の一面には,上記軸部9Aがハウジング1の軸支部2Aに収められた際,一連の接触子3の回動支持部5と係合する円弧部を有する回動溝部11が形成されている。したがって,上記一連の板状の接触子3が上記保持溝1Aに挿入されると,回動支持部5は,該保持溝1Aにて回動軸線方向の変位が阻止されるように保持され,該保持溝1Aから突出する回動支持部5の周縁が櫛歯状に配列されて軸状をなし,ここで上記加圧部材7の回動溝部11が回動支持される(図2参照)。その結果,回動力は金属製の上記回動支持部5により支持されその強度はきわめて高くなる。」(【0015】) c) 原告は,本件無効審判事件の第1回口頭審理において,本件各考案にいう「回動支持部」とは,当該回動支持部のみによって,加圧部材の回動を支持するものをいい,ほかの軸を設けなければ加圧部材の回動を支持できなかったり,そのもののみで加圧部材の回動を支持しているといえないものは該当しないと主張した(乙18)。 d) 以上によると,本件考案1における「回動支持部」とは,@加圧部材を「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」のいかなる位置に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって支持されているといえるもので,さらに,Aそのもののみで(ほかの軸を設けなくても),加圧部材の回動を支持しているといえなければならないというべきである。 イa) イ号物件の加圧部材7は,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,イ号物件の回動案内部5は加圧部材7を回動自在に支持していない。また,イ号物件の回動案内部5は,加圧部材7を「所定位置から離反した開放位置に回動」させた場合には,加圧部材7を,「支持」するどころか,「接触」すらしない。すなわち,原告自身が提出したイ号物件の断面図写真(甲11の2写真3)によっても明らかなとおり,回動案内部5は,そのもののみで(ほかの軸を設けなくても),加圧部材7の回動を支持しているとはいえないのである。加圧部材7を支持しているのは,軸支部2Aであるというべきである。 しかも,加圧部材は,「回動支持部によって」,「接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間」を「回動自在に支持され」ていなければならないから,突部12が,フレキシブル基板Fを押圧する過程に移行した状態でのみ,「支持」があればよいと解することもできない。むしろ,このような解釈は,本件無効審判事件における原告の主張とも反するものである。 b) ロ号物件の加圧部材7は,同様に,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,ロ号物件の回動案内部5は加圧部材7を回動自在に支持していない。また,ロ号物件の回動案内部5は,加圧部材7を「所定位置から離反した開放位置に回動」させた場合には,加圧部材7を,「支持」するどころか,「接触」すらしない。そこで,ロ号物件の回動案内部5は,加圧部材7の回動を支持しているとはいえない。 c) ハ号物件の加圧部材7は,同様に,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,ハ号物件の回動案内部5は加圧部材7を回動自在に支持していない。そこで,ハ号物件の回動案内部5は,加圧部材7を回動自在に支持しているとはいえない。 d) 以上より,被告各物件は,本件考案1の構成要件1-Baの構成を充足しない。 e) なお,原告は,イ号物件が本件考案1のみならず本件特許発明4の技術的範囲にも属すると主張する。しかし,本件特許4明細書には,「C本実施例において,作業者によって加圧部材7へのこの回動モーメントが上記当接の後にも維持されると,上記前縁部1Dを支点として保持部2を上方に撓ませるモーメントを軸部9にもたらし,図5のように該軸部が上方に変位する。したがって,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる。」(【0023】)と記載されているのであり,かかる構成は,本件各考案における,「上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を(蓋状の)加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」る構成と両立し得ないものである。 したがって,そもそも「イ号物件が本件各考案の技術的範囲に属するという主張」と「イ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属するという主張」とは,矛盾しているものというべきである。 (3) 争点2-3(被告各物件は,「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」(構成要件1-Ca)を充足するか。)について (原告の主張) ア 構成要件1-Caにおける「回動支持部は該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」とは,回動支持部を回動軸線方向で見たとき,複数枚の同部は,各接触子と対応する位置で,各接触子が分割されると同様に分割されていることを意味するのであって,その意義は,一義的に明白である。 だからこそ,回動支持部の分割単位と,接触子の分割単位とは対応しており,「回動支持部はそれぞれが対応せる接触子と一体に形成され」ているのである(構成要件1-Cb参照)。 構成要件1-Caの意味内容が不明であるとの被告の後記主張は,本件考案明細書の各記載に基づかない独自の主張というほかない。 イ 被告各物件の回動案内部は,各接触子と対応する位置において,各接触子が分割されると同様に分割されているのであるから,被告各物件は,構成要件1-Caの構造を充足する。 (被告の主張) ア 構成要件1-Caの「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」との構成要件における「複数に分割」との構成について,本件考案明細書に関連する記載は全くなく,その意味内容は不明である。したがって, 本件考案明細書の実用新案登録請求の範囲の記載からは,本件考案1の技術的範囲を明確に画することはできない。以上によると,被告各物件は,構成要件1-Caの構成を充足しないというべきである。 イa) 仮に,「複数に分割」について,何らかの意味を見い出すとすれば,本件考案1においては,複数の接触子が存在しているのであるから(構成要件1-@),「回動支持部」が「複数に分割」されているとは,個別(一枚)の接触子に設けられた個別の回動支持部が,それぞれ「複数に分割」されていることを意味すると解するほかはない。 b) 仮に,「複数に分割」の意味内容を,上記のとおりに解するならば,被告各物件の個別の回動案内部は,いずれもそれぞれ複数に分割はなされていないから,いずれにしても,構成要件1-Caの構成を充足しない。 (4) 争点2-4(被告各物件は,「(回動支持部は,)ハウジングの対応保持溝に保持され」(構成要件1-Cb)を充足するか。)について (原告の主張) ア 本件考案1の「保持溝」は,「接触子を収容保持する」(本件考案明細書【0013】)ものである。そして,それぞれの回動支持部は,「対応せる接触子と一体に形成され」ているものであるから,「回動支持部がハウジングの対応保持溝に保持される」とは,接触子が保持溝に収容されることにより,接触子と一体に形成された回動支持部が保持溝に保持されることを意味するのである。 被告各物件の回動案内部5は,ハウジング1の接触子収納部1Aに接触子3を介して保持されているのであり,被告各物件は,「ハウジングの対応保持溝に保持され」(構成要件1-Cb)の構成を充足する。 イ 被告は,後記のとおり,補正Bが願書に最初に添付された明細書の要旨を実質的に変更するものとして却下された以上,補正Bの内容は,本件考案1の技術的範囲から意識的に除外されたと主張する。しかし,被告の主張は,次に述べるとおり,理由がない。 a) 原告が,本件実用新案権成立の過程において請求項1にした各補正の概要は,次のとおりである(下線部が補正に係る部分である。)。 @ 補正A【請求項1】上方に開口せるハウジングの該開口部に接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され,該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し,回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されていることとする フレキシブル基板用電気コネクタ。 A 補正B【請求項1】上方に開口せるハウジングの該開口部に接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され,該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し,回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向間隔をもって配列された上記接触子の一部分が対応する対応保持溝によって回動軸線方向での変位が規制されるように保持されていることとする フレキシブル基板用電気コネクタ。 B 補正C【請求項1】上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接触子と,該ハウジングに保持された部材に形成され上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部と, 上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を上記回動支持部により回動自在に支持され,上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧突部を有する蓋状の加圧部材を備えるフレキシブル基板用電気コネクタにおいて,回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。 b) 補正Cは,実質上,補正Aに再度の補正を加えるものである。本件実用新案権においては,補正Cにより,実用新案登録請求の範囲が特定されたのであり,原告が本件訴訟において,補正Cを前提として主張することは,当然に許されるものである。 補正Bの却下決定は,単に同補正の内容が出願当初の明細書に記載されていないというもので,意識的除外とは無関係であり,補正Cにおいて補正Aから除外されていない事項については,いわゆる意識的除外は成立しない。 補正Bは,実用新案登録請求の範囲の記載を補正するものであり,同補正が却下されても,それは本件考案1の構成が,補正のとおりとされなかったことを意味するにすぎない。ある構成要件について,さらに限定を加えようとした補正が却下されたとしても,それは限定が許されなかったにすぎないのである。 したがって,原告が,本件訴訟において,補正Cにおいて除外されていない事項に基づいて主張することも,当然に許されるものである。 c) 本件実用新案権の審査において,担当審査官は,原告が補正Bの補正書提出後,「ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え」とすると,従来例が存するハウジングが回動支持部を備える場合まで含まれるものと解釈する余地があると指摘した。そこで,原告は,補正Aの「ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え」との記載から「ハウジングもしくは」を削除し,「該ハウジングに保持された部材に形成され上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」との記載に変更した補正Cの補正書を改めて提出することとしたのである。その結果として,担当審査官は,補正Bについて,明細書の要旨を変更するものであるとして補正却下したのである。当該却下は,再度の補正のための形式的,便宜的なものにすぎず,審査官は便宜上上記の理由を付したものにすぎない。結局のところ,明細書の要旨変更との理由は,審査官の本意ではなく,請求項の記載から他の実施例とされていた考案を包含するような記載を除けば査定されることは明らかであったから,審査官自体,合理的理由がある却下理由とは考えていなかったものと推測される。もちろん,原告としても,あえて争う必要がなかったので,不服申立てをしなかったにすぎない。このことは,平成10年1月9日付けの面接記録(乙17)において,補正A及び同Bについて,「請求項の記載に他の実施例とされていた考案を包含するような記載があったため,補正却下となった旨審査官より説明」と記載されていることからも,明らかである。 本件考案1は,補正C(補正Aにおいても同じ。)により,「回動支持部は,……それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されている。」とされたのであるが,この補正によって,被告が主張するように,回動支持部が保持溝内に設けられているものに限定解釈する必要性はない。回動支持部が保持溝により「保持」されていれば足りるのであって,保持溝内に設けられている必要はない。 d) 以上によれば,本件考案1においては,回動支持部がハウジングの保持溝に保持されることが要求されているだけであり,回動支持部が,これと一体に形成された接触子を介して保持溝に保持される場合でも,このような保持により回動支持部のハウジングからの離脱を阻止される以上,本件考案1の技術的範囲に属するものというべきである。 (被告の主張) アa) 原告は,本件拒絶理由通知に対し,補正Bにより,請求項1を前記のとおり補正しようとした。 特許庁担当審査官は,平成9年11月11日,「補正後の実用新案登録請求の範囲に記載された『回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向間隔をもって配列された上記接触子の一部分が対応する対応保持溝によって回動軸線方向での変位が規制されるように保持されている』は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず,かつ,同明細書又は図面の記載からみて自明のこととも認められないので,この補正は,明細書の要旨を変更するものと認める。したがって,この補正は特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」として,補正Bを却下した。 本件考案1は,以上の審査官とのやりとり及び補正Cを経て成立したものであるから,構成要件1-Cbの「ハウジングの対応保持溝に保持されている」の解釈においては,願書に最初に添付された明細書の要旨を実質的に変更することになるような解釈,すなわち,却下された補正の内容と同一である「上記接触子の一部分が対応する対応保持溝によって回動軸線方向での変位が規制されるように保持されている」という解釈は,権利化の過程において意識的に除外されたものであり,原告が本件訴訟において主張することは許されない。 b) 以上によれば,本件考案1の構成要件1-Cbにおける「ハウジングの対応保持溝に保持されている」とは,回動支持部の全部が,ハウジングの対応保持溝に収容されて保持されていることを意味するというべきである。 そして,保持とは,「たもちつづけること。手放さずに持っていること。」(広辞苑第5版2454頁)を意味すること,本件考案1の技術的意義は,回動支持部の強度を向上することであることを考慮すると,回動支持部が,対応保持溝に嵌合して持たれた状態になっていることを要すると解すべきである。 イ 本件考案明細書によると,本件各考案は,「加圧部材52の回動の際,回動案内面となる凸弯曲面54には加圧部材52から強い力を受け,該凸弯曲面54が紙面に直角方向に長く延びているときには曲げを生ずることもある。」(本件考案公報【0006】)という技術的課題の解決のために,「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されている」(同【請求項1】)構成を採用し,さらに,「……回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,即ち接触子の一部として作られており,この接触子が複数平行にハウジングによって保持されているため,金属製の軸のごとく機能する。……回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮する。」(同【0010】)ものとされているのである。そこで,本件各考案の作用効果からしても,構成要件1-Cbにおける「ハウジングの対応保持溝に保持されている」とは,回動支持部の全部がその周縁部を除き,ハウジングの対応保持溝に収容されて保持されていることを意味していると解さざるを得ない。 ウ 被告各物件における回動案内部は,ハウジングに設けられた接触子収納部1Aに保持されていないから,構成要件1-Cbの構成を充足しない。 (5) 争点2-5(ハ号物件に特有の構成は,本件考案1の構成要件1-A,1-Ba及び1-Cbを充足するか。)について (被告の主張) ア ハ号物件に特有の構成は,次のとおりである。 a) 接触子の連結部から上方側に延びる腕に形成された凹状の弾性軸受部(回動中心5A)は,ハウジングの開口部から前方に大きく突出・張出し,連結部及び連結部から下方側に延びる弾性接触部と連動して首ふり弾性変形するようになっている。 b) 接触子は,固定部がハウジングの対応保持溝に圧入され固定されているのみで,首ふり基底部,連結部,連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕,連結部から下方側に延びる弾性接触部を有する腕は,いずれもハウジングの対応保持溝に保持されていない。 c) 加圧部材を回動するための軸部は,加圧部材のスリットを端部でふさぐように1本のカム状の軸を形成しており,カムの回転に伴って,連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕,連結部から下方側に延びる弾性接触部を有する腕を上下方向に弾性的に押し広げるようになっている。 d) 加圧部材を回動するための軸は,加圧部材の先端に1本のカム状の軸として設けられており,凹状の弾性軸受部が形成された上方側に延びる腕の先端部は,加圧部材のスリットを貫通するように構成され,加圧部材の回動のための軸部となっていない。さらに,凹状の弾性軸受部の先端はフック状になっている。 イ ハ号物件に特有の上記構成からすると,同物件の技術思想(作用効果)は,ハウジングの開口部に突出・張出した接触子(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)の上部にハウジングがなく,上下方向に弾性変形する(上方に押し広げられる)ように構成することによって,種々の板厚のフレキシブル基板に対応すると共に,コネクタを小型化・低背化することができる点にある。 また,首ふり基底部を中心として首ふりを行い,連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕と連結部から下方側に延びる弾性接触部を有する腕が連動して首ふり弾性変形することができるため,フレキシブル基板の水平方向に変位(例えば波うったような変形)があっても,フレキシブル基板を押圧する接触子が個々に首ふり弾性変形してこれに対応することができ,フレキシブル基板との接触信頼性を向上することができる。 そのほか,加圧部材の先端部にカム状軸部を設け,フック状にした凹状の弾性軸受部の先端と係合させることにより,加圧部材がどのような位置にあってもハウジングから外れないようにすることができる。 このような構成は,被告が開発した技術思想であり,特許第3023442号(乙29),特許第3579827号(乙30),特許第3278742号(乙31)として成立している。さらに,加圧部材側にカム構造を有する軸を設け,接触子側にこれを受ける軸受部を設けて,加圧部材の回動に伴い相対する接触子を上下方向に押し広げるような弾性変形をさせる構成は,このほかに,特開平1-315976号公報(乙10),特開昭56-41678号公報(乙32)にも開示されている。 ウ 本件各考案は,従来のコネクタの技術的課題,すなわち,加圧部材の回動の際,回動案内面となる凸弯曲面には加圧部材から強い力を受け,凸弯曲面が紙面に直角方向に長く延びているときには曲げを生ずることもあるため,これを解決するために考案されたものである。 つまり,本件各考案では,回動支持部を金属からなる接触子に一体形成することによって,加圧部材からの強い圧力を受けてもハウジングが上下方向に変形しないようにすることを目指したものであり,その剛性確保のために,回動支持部は開口部に臨む位置というハウジングの端部(従来技術の凸弯曲面が形成される端部)に設けられ,かつ,その回動支持部は,ハウジングの対応保持溝に保持されて,変位が阻止される構成を有するのである。 本件各考案の技術思想は,回動支持部を固定片として上下方向・水平方向のいずれにも変位を規制しようとする思想であるのに対し,ハ号物件は,ハウジングの開口部に突出・張出した接触子(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する回動案内部5)及び連結部から下方側に延びる弾性接触子を有する腕並びに連結部が,ハウジングの対応保持溝に保持されることなく,接触子(腕)が上下方向に弾性変形し,かつ,首ふり弾性変形するように構成することを主眼とする思想であって,両者は全く異なる技術思想に基づくものである。 エ ハ号物件は,次のとおり,本件考案1の技術的範囲に属しない。 a) ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した接触子(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)に設けられた凹状の弾性軸受部は,上下方向及び水平方向に変位を規制されることなく,上下方向の弾性変形及び首ふり弾性変形をするように構成されていて,本件考案1の構成要件1-Cbの「ハウジングの対応保持溝に保持されている」との構成を充足しない。 b) ハ号物件の回動案内部5(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)は,ハウジングに保持されていないから,当該腕部材に形成された弾性軸受部は,本件考案1の構成要件1-Aの「ハウジングに保持された部材に形成され……た回動支持部」との構成を充足しない。 c) ハ号物件の回動案内部5(連絡部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)は,ハウジングの開口部に突出し,張出しているため,前記接触子の先端側に設けられた凹状の弾性軸受部は,本件考案1の構成要件1-Aの「上記(ハウジングの)開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」との構成を充足しない。 d) ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した回動案内部5(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)に設けられた凹状の弾性軸受部は,加圧部材に設けられたカム状軸部と係合しており,加圧部材が開位置から閉位置に向かって回動することに伴うカム状軸部の回動に追随して上下方向に弾性変形するようになっており,このようなカム構造を有するカム状軸の回転によって上下に押し広げられる凹状の弾性軸受部を備えた加圧部材は,本件考案1の構成要件1-Baの「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」との構成を充足しない。 (原告の主張) ア 構成要件1-Cbにおける回動支持部が「ハウジングの対応保持溝に保持されている」とは,回動支持部が接触子と一体に形成され,その一体に形成されたものがハウジングの対応保持溝に保持されていれば足り,回動支持部自体が直接に保持溝にある必要はない。 本件考案明細書の,「……加圧部材52の回動の際,回動案内面となる凸弯曲面54には加圧部材52から強い力を受け,該凸弯曲面54が紙面に直角方向に長く延びているときには曲げを生ずることもある。」(本件考案公報【0006】)「本考案はかかる問題を解決し,回動支持部での強度を向上……することを目的とする。」(同【0007】)との記載は,その文言から明らかなように,上下方向の変位が全く存在しないと説明しているのではなく,従来,ハウジングの一部として構成されていた弯曲面54において生じた曲げの問題について,本件各考案が金属製の接触子と一体に形成した回動支持部とすることにより強度を向上して解決するものであることを説明しているにすぎない。本件各考案においては,回動支持部を金属で構成される接触子と一体として構成することにより,従来技術の課題を解決したものである。すなわち,金属で構成される接触子が対応保持溝に保持されており,回動支持部がそれと一体に形成されることで,回動の際に若干の上下方向の変位はあるとしても,「丁度金属製の軸のごとく機能(し)……回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮する。」のである(同【0010)】)。 そして,ハ号物件の回動案内部5は,接触子3と一体に形成され,この接触子3がハウジング1の接触子収容部1Aに保持されているのである。 したがって,ハ号物件が構成要件1-Cbの「ハウジングの対応保持溝に保持されている」との構成を充足していることは明白である。 イ 構成要件1-Aにおける回動支持部が「ハウジングに保持された部材に形成され」ているとは,ハウジングに保持され,ハウジングとは別の部材である接触子と一体に回動支持部が形成されているという意味であり,回動支持部自体がハウジングの対応保持溝に保持されている必要はない。「ハウジングに保持された部材」は,「接触子」と同義である。 ハ号物件の回動案内部5は,ハウジングに保持され,ハウジングとは別部材である接触子3と一体に形成されている。したがって,ハ号物件の弯曲部5が,「ハウジングに保持された部材に形成され」(構成要件1-A)との構成を充足していることは明白である。 ウ 構成要件1-Aにおける「開口部に臨む位置」については,争点2-1において述べたとおりである。ハ号物件の回動案内部5は,この開口を形成するハウジングにおける弾性接触部側を見下ろす辺りの位置に存することは明確である。 被告は,本件各考案は,加圧部材からの強い反力を受けてもハウジングが上下方向に変形しないようにすることを目指したものであるとして,回動支持部はハウジングの端部(従来技術の凸弯曲面が形成される端部)に設けられなければならないなどと主張する。しかし,本件各考案は,ハウジングが上下方向に変形しないようにすることを目指したものではなく,回動支持部が,回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮させることを目指したものである。回動支持部は,弾性接触部からの反力を受け,その力に十分対向する位置に存することを要するが,それ以上,従来技術における凸弯曲面54(本件考案明細書図8及び9参照)と全く同一の位置に存し,変位が阻止される構成になっていることは,実用新案登録請求の範囲の文言上はもとより,同明細書の記載からも要求されていない。 エ 構成要件1-Baにおける「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」とは,回動支持部が,加圧部材の回動を阻害せず,同部材の回動において接触部からの反力を受けたときにその力に対向し,同回動を案内し,支持することを意味する。被告が主張するように,ハ号物件においては,加圧部材のカム状軸の回転によって,回動支持部に該当する凹状の弾性軸受部が上下に押し広げられるという若干の変位が存在したとしても,ハ号物件の弾性軸受部が加圧部材の回動を支持していることに変わりはないのである。ハ号物件の弾性軸受部と加圧部材が構成要件1-Baを充足することは明らかである。 (6) 争点2-6(ハ号物件に特有の構成は,本件考案2の構成要件2-@,2-A及び2-Bを充足するか。)について (原告の主張) ア ハ号物件の突部12及び回動案内部5は,本件考案2の突部12及び回動支持部5に相当する。ハ号物件の上記突部12は,加圧部材7が開放位置にあるときには,回動案内部5の回動中心5Aと接触子の接触部4Aとを結ぶ線よりも外側にあり,加圧部材7が所定位置まで回動したときには,上記線を越えるように位置付けられている。したがって,ハ号物件は,本件考案2の構成要件2-@及び同2-Aをいずれも充足する。 前記争いのない事実及び争点2-1ないし2-5において述べたとおり,ハ号物件は,本件考案1の技術的範囲に属するものであるから,本件考案2の技術的範囲にも含まれるというべきである。 イ 被告は,構成要件2-@は,回動支持部が軸中心を有することを前提としているが,ハ号物件の弾性軸受部は軸ではなく,軸中心を有しないから,同構成要件を充足しないと主張するが,構成要件2-@は,「回動中心」と定めているのであって,軸中心を有することを定めたものではない。ハ号物件においても,加圧部材は回転運動をしており,その回転の中心は存在する。そして,その回転運動は,加圧部材と凹状の弾性軸受部との接点を支点として行われるのであって,その「回動中心」が同弾性軸受部に存することは明白である。被告の主張に理由はない。 (被告の主張) ア 構成要件2-@は,「加圧突部は,上記加圧部材が開放位置にあるときには回動支持部の回動中心と接触子の接触部とを結ぶ線よりも外方にあり」と規定し,構成要件2-Aも「加圧部材が所定位置まで回動したときには上記線を越えるように」と規定しており,いずれも回動支持部が軸中心を有することを前提にしている。これに対し,ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した接触子(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)に設けられた凹状の弾性軸受部は,軸ではないから軸中心を有しない。したがって,ハ号物件は,構成要件2-@,2-Aの構成を充足しない。 イ 本件考案2の構成要件2-Bは,「請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ」と規定している。ハ号物件が本件考案1の構成要件を充足していないことは上記のとおり明らかであるから,ハ号物件は,いずれにしても本件考案2の技術的範囲に属しない。 3 争点3(被告各物件は,本件特許発明3の技術的範囲に属するか。)について (1) 争点3-1(被告各物件は,「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」(構成要件3-A)を充足するか。)について (原告の主張) ア 本件特許発明3の構成要件3-Aにおける「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」の意義については,争点2-1(構成要件1-A)において述べたと同様の理由により,「開口部」とは,別紙開口部図面の【図面B】の赤で着色した空間であり,ハウジングの上方が開口した部位で,接触部4Aと加圧部材7の所定位置への回動によりふさがれる部分を含む空間であるというべきである。 また,回動支持部5が開口部内に存しているとしても,争点2-1(構成要件1-A)において述べたと同様の理由により,「開口部に臨む位置」に該当するというべきである。 イ 被告各物件においても,回動支持部5に該当する回動案内部5が,接触子と一体に形成されて,接触部(4A)の反力を受け止め,吸収するために,開口部に臨む位置に設けられている。したがって,被告各物件は,いずれも「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」(構成要件3-A)の構成を充足する。 (被告の主張) ア 争点2-1において述べたとおり,構成要件3-Aにおける「開口部」とは,別紙開口部図面の【図面D】の赤で着色した空間であり,上方に開口している空間,すなわち,側壁とハウジング上壁前縁部で囲まれ上方向に開放された空間をいい,ハウジング内部の横方向に開口している部分は当然除かれるべきである。 イa) イ号物件における開口部は,争点2-1において述べたとおり,弾性接触部(接触部)4Aの凸部(フレキシブル基板Fと接する部分)から上方に伸ばした垂線の左側の空間部分を意味するというべきであるから,回動支持部に該当する回動案内部5は,開口部内に位置しており,ハウジングの「開口部に臨む位置」に存しない。 b) ロ号物件における開口部も,イ号物件と同様の空間を意味するから,ロ号物件における回動案内部5も,同様に,開口部内に位置しており,「開口部に臨む位置」に存しない。 c) ハ号物件における開口部は,ハウジング上部片左端に引いた垂線の左側空間部分を意味するというべきであるから,ハ号物件の回動案内部5も,同様に,開口部内に位置しており,「開口部に臨む位置」に存しない。 (2) 争点3-2(被告各物件は,「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件3-B)を充足するか。)について (原告の主張) ア 本件特許発明3の構成要件3-Bにおける「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」とは,争点2-2において述べたのと同様の理由により,加圧部材が回動する際に発生する接触部からの反力を受け,これを回動支持部で支持する必要のある時点で回動支持部が支持すること,すなわち,加圧部材は,「所定位置」と「開放位置」との間を回動しており,その回動において接触部からの反力を受けたときには,回動支持部がそれに抗し回動がなされることを意味するというべきである。 イ 被告各物件においては,加圧部材7が,回動案内部5の周りを自在に回動する関係にある上,回動案内部5は加圧部材7の回動が不規則にならないように案内するとともに,加圧部材7が,フレキシブル基板Fの上面を押し下げることにより,フレキシブル基板から受ける反力により上昇しようとするのを回動案内部5により受け止め,当該反力を吸収させている。したがって,被告各物件の加圧部材7と回動案内部5は本件特許発明3における「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件3-B)との構成を充足する。 ウ 被告は,イ号物件が本件特許発明3の技術的範囲に属するとする主張と,本件特許発明4の技術的範囲に属するとする主張とは矛盾する,と主張する。 しかし,本件特許発明3は,加圧部材が「所定位置」(本件特許発明4の「閉位置」)から「開放位置」(本件特許発明4の「加圧部材がハウジングの前縁部に当接する前の位置」)に移動した場合を想定した発明である。これに対し,本件特許発明4は,加圧部材が「開放位置」からさらに開方向に回動した場合を想定した発明であるから,本件特許発明3と本件特許発明4は,想定している場面が異なっている。すなわち,イ号物件においては,所定位置と開放位置との間では加圧部材が回動支持部により支持されているが(本件特許発明3が想定する場面),開放位置を超えて加圧部材が回動した場合には,加圧部材の被案内部が回動案内部から外れる構造(本件特許発明4が想定する場面)を有しているのである。 したがって,原告が,イ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属すると主張することと,イ号物件が本件特許発明3の技術的範囲に属すると主張することに,何ら矛盾はない。 (被告の主張) ア 争点2-2において述べた理由に加えて,本件特許3明細書には,「上記ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている。該加圧部材7は加圧部10を有し,その両端部には,加圧部材7の長手方向に突出する軸部9がそれぞれ設けられており,該軸部9は上記ハウジング1の半円状の軸支部2Aとほぼ同じ半径で形成されている。また,上記加圧部材7の加圧部8の一面には,上記軸部9がハウジング1の軸支部2Aに収められた際,一連の接触子3の回動支持部5と係合する円弧部を有する回動溝部11が形成されている。したがって,上記一連の板状の接触子3が上記保持溝1Aに挿入されると,回動支持部5は,櫛歯状に配列されて軸状をなし,ここで上記加圧部材7の回動溝部11が回動支持される。その結果,回動力は金属製の上記回動支持部5により支持されその強度がきわめて高くなる。」(【0018】)と記載されていることを合わせ考慮すると,本件特許発明3の構成要件3-Bにおける「回動支持部」とは,@加圧部材を「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」のいかなる位置に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって,支持されているといえるものであり,さらに,Aそのもののみで(ほかの軸を設けなくても),加圧部材の回動を支持しているといえなければならないというべきである。 イa) 争点2-2において述べたとおり,イ号物件の加圧部材7は,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,イ号物件の回動案内部は加圧部材を回動自在に支持していない。また,イ号物件の回動案内部5は,加圧部材を「所定位置から離反した開放位置に回動」させた場合には,加圧部材を「支持」するどころか,「接触」すらしない。すなわち,原告自身が提出したイ号物件の断面図写真(甲11の2写真3)によっても明らかなとおり,回動案内部5は,そのもののみで(ほかの軸を設けなくても),加圧部材7の回動を支持しているとはいえないのである。 b) 同様に,ロ号物件の加圧部材7は,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,ロ号物件の回動案内部5は,加圧部材7を回動自在に支持していない。 c) 同様に,ハ号物件の加圧部材7は,その両側端に軸部9Aを有し,当該軸部がハウジングの回動支持部(軸支部)2Aと係合して,フレキシブル基板を挿入する場合を含め,いずれの状況においても,加圧部材7を支えているのであるから,ハ号物件の回動案内部5は加圧部材7を回動自在に支持していない。 d) 以上より,被告各物件は,本件特許発明3の構成要件3-Bの構成を充足しない。 (3) 争点3-3(被告各物件は,「加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成される」(構成要件3-D)との構成を充足するか。)について (原告の主張) ア 本件特許発明3の構成要件3-Dにおける「二つの隣接面が連絡する」とは,「回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する」ということであり,移行部(突部12)において隣接し,かつ回動軸線からの距離が異なる二つの面が交叉・連絡する部分を意味する。 本件特許3明細書には,移行部の実施例として,加圧角部12ないし加圧突部12が記載されており,「上記加圧角部12のフレキシブル基板Fへの加圧力は,当然のことながら,該加圧角部12が回動支持部5の中心5Aの垂線上に到達したときに最大値をとる」(本件特許3公報【0022】)とも記載されている。このように,同明細書には,構成要件3-Dについて,詳細な記載があり,同構成要件の意味内容は,同明細書の記載から明確である。同構成要件の意味内容が不明であるとの被告の主張は理由がない。 イa) 構成要件3-Dにおける回動軸線とは,回動支持部5の中心5Aを通る回動軸線を意味し,イ号物件及びロ号物件においては,回動案内部5の回動中心5Aを通る回動軸線が該当する。 構成要件3-Dにおける「隣接面」とは,加圧部材7の回動において,フレキシブル基板F側に位置し,互いに角度をもって突部12に連なる二つの面であって,イ号物件及びロ号物件においては,別紙物件説明図の【図イ3】及び【図ロ3】中の拡大図に示すとおり,突部12に連なる二つの面であって,隣接面S1,隣接面S2と符号が付された二つの面をいう。 本件特許発明3においても,イ号物件及びロ号物件においても,回動軸線から距離(d1 b) ハ号物件においては,回動案内部5の湾曲面が加圧部材に当接する回動中心5Aを通る回動軸線が本件特許発明3における回動軸線に該当し,図ハ3の拡大図に示すとおり,突部12に連なる二つの面であって,隣接面S1,隣接面S2と符号が付された二つの面が,「隣接面」に該当する。 ハ号物件においても,回動軸線から距離(d1 (被告の主張) ア 構成要件3-Dにおける「二つの隣接面が連絡する」に関しては,本件特許3明細書には,特段の説明がなく,「二つの隣接面が連絡する」という構成の意味内容は不明である。 イ 構成要件3-Dにおける「移行部」に関しては,本件特許3明細書には,次の記載がある。 「……該加圧部材は,回動軸線からの距離が長い方の面が接触子に近づくように回動し,加圧部の移行部がフレキシブル基板の一方の面に近接し当接するようになる。」(本件特許3公報【0012】) 「上記加圧部材7は上記回動溝部11の背部に,回動軸線からの距離が異なる二つの隣接平坦面の移行部により加圧角部12が形成されており」,「……上記移行部を形成する隣接せる二つの面は平坦面に限らず,曲面であってもよい。また,移行部が角部となっていなくとも丸味を有していてもよい。」(同公報【0019】) ウ 上記の記載によれば,加圧角部12は移行部により形成されていることになり,移行部とは,加圧角部12にほかならないと解さざるを得ない。しかし,移行部をこのように解しても,「二つの隣接面が連絡する移行部」の意味内容は依然として不明というほかない。 構成要件3-Dにおける「二つの隣接面が連絡する移行部」の意味内容が不明である以上,本件特許発明3の技術的範囲を画することはできず,被告各物件がその技術的範囲に属するとはいえない。 (4) 争点3-4(被告各物件は,「該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し」(構成要件3-E)を充足するか。)について (原告の主張) ア 被告各物件においては,製造時においてフレキシブル基板の先端が最奥部まで挿入されており,テーパ部に載置されていることは明白である(甲8ないし10,甲12)。 被告各物件において,フレキシブル基板の先端が最奥部まで挿入されると,その先端がテーパ部に載置されることは,被告各物件の断面写真(甲17)から明らかである。特に,ハウジング面の断面写真(甲17・写真1-2,写真2-2,写真3-2)は,テーパ部が断面に現れているので,テーパ部の上面にフレキシブル基板の先端下面が載置されていることが明確に示されている。 被告各物件のコネクタは非常に小さいものである(各被告製品の弾性接触部からハウジングの奥〔フレキシブル基板が突き当たる部分〕までの距離は,イ号物件が約1.6o,ロ号物件が約1.3o,ハ号物件が約1oである。)。したがって,フレキシブル基板の接続位置の微妙な違いによる電気接続の不安定という欠陥を生じさせないためにも,上記約1.6oないし約1oの中の特定の範囲の部分において接続位置を定めることは作業上無理である。被告は,欠陥防止のために,被告各物件の製造時,フレキシブル基板の先端が最奥部に至るように,取扱い説明書によって指示しているのである(甲8,9)。 イ 被告各物件が,本件特許発明3の構成要件3-Eを充足するか否かは,被告各物件の具体的構成を前提として客観的に定められるべきである。被告がテーパ部を設けた目的や,被告各物件がフレキシブル基板の先端がテーパ部に載置されなくとも使用可能か否かとは無関係である。被告各物件の構成が,客観的に本件特許発明3の技術的範囲に属する以上,被告が指摘する各事情を考慮する必要はない。 以上からすれば,被告各物件におけるテーパ部1Bは,構成要件3-Eの支持部1Bに該当し,被告各物件は,構成要件3-Eの構成を充足する。 ウ 被告は,被告各物件において,フレキシブル基板に弾性があるため,フレキシブル基板挿入後,手を離すと,ハウジングの最奥まで挿入していた場合でも若干戻ってしまうことがあり,常に,フレキシブル基板をハウジングの最奥まで挿入することは,実装上,困難であると主張する。しかし,フレキシブル基板が戻ってしまうように挿入したとき,その戻りが上記約1.6oないし約1oの範囲内に収まるとは限られないから,それでは電気接続の不良が生じるおそれは解消しない。したがって,フレキシブル基板を最奥部に強く押し付けるような作業は,通常行われるはずがない。誤った作業により,例外的にフレキシブル基板Fの先端がテーパ部1Bに載置されないことがあり得るとしても,通常,載置されている以上,被告各物件が構成要件3-Eの構成を充足するものであることは当然である。 また,イ号物件にフレキシブル基板を挿入し,加圧部材を開放位置から所定位置まで回動する様子を撮影した写真(甲15)からも明らかなように,一方の手によってフレキシブル基板の先端が最奥部に至るように挿入し,その状態を保ちつつ,他方の手によって加圧部材を所定位置まで回動すれば,フレキシブル基板が戻ることもなく作業を行うことができるのであるから,大量生産において,迅速かつ正確な作業をする上では,特別に指示がない限り,自然とこのような動作によって作業がなされることは明らかである。 (被告の主張) ア 本件特許3明細書において,構成要件3-Eの「支持部」について,次のような記載がある。 「先端が支持部に到達すると,該フレキシブル基板は上記支持部によりその厚み方向に加圧部材側へ寄せられる。」(本件特許3公報【0012】)上記ハウジング1の保持溝1Aには,上記接触子3が圧入された際,接触フィンガー部よりも若干上方位置に支持面をもつ支持部1Bを有し,該支持部1Bにてフレキシブル基板の先端部を受け止めると共に上方にもち上げるように支持する。」(同公報【0017】) イ 本件特許3明細書の上記記載と図3を合わせ考慮すると,構成要件3-Eの「支持部」は,フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するものである必要がある。 しかし,被告各物件においては,フレキシブル基板の先端部は,弾性接触部とハウジングの奥部の壁面との間(接触有効長内)に位置すればよく,テーパ部1B上にフレキシブル基板の先端が載置される必要はない。そのため,テーパ部1Bは,保持状態においてはフレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持しない。 被告各物件におけるテーパ部1Bは,ハウジングの強度を向上するための設計上の必要に基づき形成されているものであって,ハウジングの最奥部においてわずかに接触子の上端から顔をのぞかせる程度のものである。テーパ部1Bは,フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための部材ではないことは,イ号物件の断面写真(乙19)によっても明らかである。 以上によると,被告各物件には「支持部」はなく,構成要件3-Eの構成を充足しない。 (5) 争点3-5(被告各物件は,「該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して」(構成要件3-F)を充足するか。)について (原告の主張) ア 本件特許発明3の趣旨は,「加圧部材を一旦所定位置まで回動すれば,フレキシブル基板の結線が不用意に外れることがなくなり,信頼性が向上する点にある(本件特許3公報【0026】参照)。すなわち,構成要件3-Fにおける「二支点」とは,支点が少なくとも二つ存在するという意味であり,その二つの支点の間(「二支点間」)に「移行部」が存在し,かつ「フレキシブル基板を上面側から加圧するようになっている」ことを意味するというべきであるから,「支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して……加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになって」いれば,本件特許発明3の技術的範囲に属することになる。 力学的観点からしても,奥方に「支持部」,手前に「弾性接触部」があり,その間で「移行部」がフレキシブル基板を上面側から加圧していれば,フレキシブル基板の下面側では,支持部と弾性接触部が支持している関係になることは明らかである。 イ 被告は,被告各物件において,フレキシブル基板の先端がテーパ部の奥部まで到達しておらず,かつ,フレキシブル基板の下面先端部がテーパ部上面にまで達していないことを前提として,被告各物件のフレキシブル基板挟持の原理は,本件特許発明3の採用する原理とは異なると主張する。しかし,前記のとおり,被告各物件の通常の使用状態においては,フレキシブル基板Fの先端は奥部まで到達しているし,フレキシブル基板Fの先端部下面とテーパ部1Bの上面とは接触しているのであるから,その前提自体に誤りがある。被告各物件において,フレキシブル基板Fをハウジングの最奥まで挿入することは,争点3-4において詳述したとおり,被告自身が発行している取扱い説明書(甲8,9)においても明示されており,通常の取扱いであることは業界の常識である。仮に,被告各物件において,従来技術のフレキシブル基板の挟持原理が採用されていたとしても,通常の取扱いにしたがって,被告各物件においてフレキシブル基板Fの下面先端部がテーパ部1B上面に載置され,フレキシブル基板Fの下側でテーパ部1Bが接触子3の弾性接触部4Aと二支点を構成し,加圧部材7の移行部12がその二支点間でフレキシブル基板Fを上面から押しているのである。 そして,被告各物件においては,移行部がテーパ部1Bと弾性接触部4Aの二支点間でフレキシブル基板Fを上面側から加圧していることから,加圧部材を一旦所定位置まで回動すれば,フレキシブル基板Fは不用意に外れることがない。したがって,被告各物件は,本件特許発明3の作用効果を奏しているということができる。 以上によれば,被告各物件は,本件特許発明3の構成要件3-Fの構成を充足する。 (被告の主張) ア 構成要件3-Fは,「フレキシブル基板の下面側で二支点を形成して」と規定する。しかし,フレキシブル基板が支持されるハウジング奥部に設けられる支持部1Bは,接触子収納部1Aを挟むように構成されているから,フレキシブル基板Fの各導体部とその両側の絶縁部は,フレキシブル基板Fの下面で接触部4Aと接触子収納部1Aを挟むように設けられた二つの支持部1Bの三点で支持されていることになる。構成要件3-Fの,「フレキシブル基板の下面側で二支点を形成する」との文言は,意味不明というべきである。したがって,本件特許3明細書の記載からは,同発明の技術的範囲を明確に画することはできず,被告各物件は,同発明の技術的範囲に属するとはいえない。 イ 本件特許3明細書における実施例に関する記載などからすると,加圧部材の移行部が,開位置から回動を開始し,フレキシブル基板に最初に当接する当接開始点は,接触子3の弾性接触部とハウジングの支持部の二支点の間に位置し,その後,所定位置まで回動せしめたときにおいても,その移行部が当該二支点の間に位置すること想定しているというべきである。 ウ 被告各物件は,争点3-4において述べたとおり,「支持部」に相当する部分を有さない。被告各物件において,フレキシブル基板Fは,加圧部材を閉位置まで回動したときには,加圧部材の隣接面S2と弾性接触部4A間でのみ狭持されているのであって,本件特許発明3とは異なる原理によってフレキシブル基板Fを狭持しているのである。 すなわち,被告各物件において,加圧部材を加圧し,回動が完了する位置において,弾性接触部と回動案内部間にフレキシブル基板Fの上面と加圧部材の隣接面S2が接した状態で狭持される。 被告各物件のフレキシブル基板狭持構造は,被告が開発したコネクタにおけるフレキシブル基板の狭持構造である特公平4-33671号公報(本件特許3明細書で従来技術として引用されている。)に開示されている方法である。その意味で,被告各物件は,本件特許3明細書における「発明が解決しようとする課題」において指摘された技術的課題をそのまま有するものであって,フレキシブル基板を安定して支持するに当たって,本件特許発明3のような「支持部」を必要としない。そのため,同発明のような「支持部」を常に必要とする方式のように,ハウジングの奥部にある「支持部」による支持が必要不可欠ではなく,フレキシブル基板を常にハウジング奥部まで挿入しなければ,安定した支持ができないわけではない。換言すれば,フレキシブル基板を常にハウジング奥部まで挿入しなければ,安定した支持が得られないという点は,本件特許発明3のデメリットといえるのである。被告各物件のようなフレキシブル基板用電気コネクタにおいては,争点1,同3-4で述べたとおり,フレキシブル基板の弾性から,常に,フレキシブル基板をハウジングの最奥まで挿入することは,実装上,困難である。だからこそ,フレキシブル基板の挿入位置を確認するための特許,実用新案が種々出願されているのである。被告各物件は,フレキシブル基板を最奥まで挿入しなくても,安定してフレキシブル基板を支えることができるというメリットを有するものである。 エ 被告各物件は,弾性接触部が回動中心よりハウジング奥側にあるため,加圧力を除去しても,弾性接触部からの支持力により加圧部材は閉じる方向のモーメントを受けて加圧時と同じ状態でフレキシブル基板を保持する。このように,被告各物件のハウジング奥部のテーパ部はフレキシブル基板の狭持保持には何ら寄与しない構成要素である。 オ 被告各物件のフレキシブル基板狭持構造によると,加圧力を除去した場合,加圧時と同じ状態,すなわち,弾性接触部と回動案内部間に,フレキシブル基板Fの上面と加圧部材の隣接面S2が接した状態で狭持されるから,加圧部材のフレキシブル基板Fへの押圧力は,隣接面S2を介して与えられるのであって,突部12は,フレキシブル基板Fを上面側から加圧しない。 カ 以上によると,被告各物件は,@テーパ部と接触子の弾性接触部は,フレキシブル基板Fの下面側で二支点を形成せず,Aハウジング奥部のテーパ部はフレキシブル基板Fの狭持保持には何ら寄与しない構成要素であり,B加圧部材の突部はフレキシブル基板Fを上面側から加圧しないから,仮に突部12が移行部に相当したとしても,構成要件3-Fの構成を充足しない。 (6) 争点3-6(ハ号物件に特有の構成は,構成要件3-A,3-Bを充足するか。)について (被告の主張) ア ハ号物件は,争点2-5において述べたように,特有の構成を備えている。 イ ハ号物件の回動案内部5(連絡部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)は,ハウジングの開口部に突出し,張出しているため,回動案内部5の先端側に設けられた凹状の弾性軸受部は,本件特許発明3の構成要件3-Aの「上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え」との構成を充足しない。 ウ ハ号物件のハウジングの開口部に突出し・張出した回動案内部5(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)に設けられた凹状の弾性軸受部は,加圧部材に設けられたカム状軸部と係合しており,加圧部材が開位置から閉位置に向かって回動することに伴うカム状軸部の回動に追随して上下方向に弾性変形するようになっており,このようなカム構造を有するカム状軸の回転によって上下に押し広げられる凹状の弾性軸受部は,本件特許発明3の構成要件3-Bの「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」との構成を充足しない。 (原告の主張) ア 構成要件3-Aにおける「開口部に臨む位置」については,争点2-1において述べたとおりである。ハ号物件の回動案内部は,この開口を形成する空間(弾性接触部側)を見下ろす位置に存することは明確である。 イ 構成要件3-Bにおける「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」とは,回動支持部が,加圧部材の回動を阻害せず,同部材の回動において接触部からの反力を受けたときにその力に対向し,同回動を案内し,支持することを意味する。被告が主張するように,ハ号物件においては,加圧部材のカム状軸の回転によって,回動支持部に該当する凹状の弾性軸受部が上下に押し広げられるという若干の変位が存在したとしても,ハ号物件の弾性軸受部が加圧部材の回動を支持していることに変わりはないのである。ハ号物件の弾性軸受部と加圧部材が構成要件3-Bを充足することは明らかである。 4 争点4(イ号物件は,本件特許発明4の技術的範囲に属するか。)について (1) 争点4-1(イ号物件は,「開口部の両端側位置に回動支持部を備え」(構成要件4-A)を充足するか。)について (原告の主張) イ号物件は,ハウジング1若しくは該ハウジングに保持された部材が,接触子3の配列方向において開口部の両端側位置に回動支持部2Aを備えているから,構成要件4-Aの構成を充足する。 被告は,ハウジングと一体成形された保持部2の内側部分は開口部の外であると主張するが,保持部の内側部分も開口部の中にあることはイ号物件の形状からして明白である。 (被告の主張) イ号物件の加圧部材の軸部9Aは,ハウジングの開口部の外方に位置する軸部取付部の外側面に形成されている。ハウジングの開口部は,加圧部材が取り付けられると,軸部取付部の内側側面が位置する面で終了している。イ号物件の保持部2は,その加圧部材の更に外側に位置するように形成されている。したがって,イ号物件においては,ハウジングに保持された加圧部材が接触子の配列方向において上記開口部の両側端位置に回動支持部を備えていない。 以上によると,イ号物件は,構成要件4-Aの構成を充足しない。 (2) 争点4-2(イ号物件は,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)を充足するか。)について (原告の主張) ア 構成要件4-Eにおける「上記当接部は該当接部とハウジングとの当該領域が開方向へ加圧部材の回動角の増大に伴い,上記回動軸線位置から離れて行くように設けられている」とは,加圧部材の当接部とハウジングとの当接領域が,加圧部材の開放角度の増大に伴い,回動支持部の中心を結ぶ軸線の位置から外側に離れて行くようになっていることを意味する。そして,構成要件4-Eにおいては,「上記回動軸線位置」は加圧部材の閉位置からハウジングに当接するまでの間の回動時の軸線の位置をいい,その位置は変わらない。 イ イ号物件においては,加圧部材の閉位置からハウジングに当接するまでの間,一直線を構成する回動支持部(軸支部)2Aと回動案内部の回動中心5Aを結ぶ軸線が「上記回動軸線位置」に相当する。そして,加圧部材7の加圧部材の斜面7Aとハウジング1との当接領域は,ハウジング1の前縁部1Dにおいて当接した後,作業者によって加圧部材7への回動モーメントが維持されると,上記前縁部1Dを支点として保持部2を上方に撓ませるモーメントを軸部9にもたらし,該軸部9が上方に変位し,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ,上方に持ち上がる(別紙物件説明図【図イ3】,【図イ8】参照)。さらに開方向に回動させると,加圧部材7の当接面たる加圧部材の斜面7Aがハウジング1の上面部1Cと接面するようになる(【図イ8】参照)。さらに力を加えて開方向に回動させると,前縁部1Dから接面した斜面7Aの後部を支点として前部が持ち上がる。したがって,イ号物件においては,当接領域は加圧部材7の開方向への回動角の増大にしたがって,前記の軸線の位置から離れているのであるから,イ号物件は,構成要件4-Eの構成を充足するというべきである。 ウ 実際,イ号物件の加圧部材の斜面をハウジングの上面1Cに接するように回動させても,イ号物件の加圧部材の軸部9Aに損傷は生じない(甲11の1ないし3,甲8,9,16,検甲1ないし3)。すなわち,これらの写真等からすると,イ号物件の加圧部材の斜面7Aは開方向に回動し,ハウジング1の上面部の前縁部に当接した状態となり,その後上面部の全体が当接し更に回動させようとすると今度は前縁部が浮き上がり,上面部の後ろ側の部分のみが当接された状態となる(甲11の1,検甲3)が,上面部の後ろ側の部分のみが当接された状態においても,加圧部材の軸部が,片持ち梁の保持部を上方に持ち上げた状態を維持していることから,軸部に損傷がないことが確認できるのである。また,当該状態に複数回至ったとしても,開放位置まで復元し,加圧部材を所定位置まで回動した場合,問題なくフレキシブル基板を接続することができるのであるから,当該状態に至っても軸部が損傷しないことは明確である(甲16参照)。さらに,イ号物件の取扱説明書(甲8)においては,ロ号・ハ号物件の取扱説明書等(甲9,10)とは異なり,所定位置よりも更に開方向に加圧部材を回動するような無理な力を加えてはならない旨の注意事項が記載されていないことからすると,イ号物件は,そのような開方向への動きを考慮した上で設計されているというべきである。加圧部材の斜面がハウジング上面に接するような回転には,軸部9Aは耐えられる設計とはなっていないとの被告の主張は,明らかにイ号物件の具体的構成に基づかない主張である。そもそも,フレキシブル基板用電気コネクタにおいて,片持ち梁の構造を採用する以上,過剰の回転をさせないという設計上の思想があるならば,それを阻止するための構造が設けられているはずであって,そのような構造が設計上予定されていないとする被告の主張は失当である。 エ イ号物件において,加圧部材の斜面7Aは,開方向に回動していくと,ハウジング1の上面部1Cの前縁部に一旦当接した後に上面部1C全体に当接する。そして,更に力が加えられると,前縁部の方から上面部から持ちあがろうとする力が働く。この動きがまさに,「該当接部とハウジングとの当該領域が開方向へ加圧部材の回動角の増大に伴い,上記回動軸線位置から離れていく」ものである。 加圧部材の開方向への回転角の増大が生じても,加圧部材のハウジング上面との当接部は最初の当接位置から変わらず,開方向への回転角の増大に伴って回動軸が変位しているから,当接部と回動軸線との距離は遠ざからないとする被告の主張は,単なる一瞬の動きだけを指摘するもので,全体としての動きを無視しており,理由がない。 被告は,イ号物件が過剰に回転すると破壊されてしまう証拠として,乙23を提出するが,加圧部材がハウジングの上面に当接した状態(甲5 図5の状態)を超えるように非常に強く押圧すれば,加圧部材が外れることは当然であるから,通常の用法とは異なる使用態様を前提とした乙23は証拠価値に乏しいものである。 (被告の主張) ア 本件特許4明細書の記載(本件特許4公報【0006】,【0007】,【0011】,【0014】,【0023】)からすると,構成要件4-Eにおける「上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行くように設けられている」とは,加圧部材が閉位置から開位置方向に回転し,最初の当接位置であるハウジング前縁部に当接後,さらに過分の開方向への回動により加圧部材がハウジング上壁面と次に当接する位置まで回転すると,当接部の軸線(回動中心)からの距離が,回動中心から離れる方向に増加するように加圧部材が設けられていることを意味しているというべきである。 イ イ号物件は,加圧部材を開位置にした場合,更にその位置から開く方向に回動することは設計上想定されていない。ハウジングの両側部にある回動支持部は,ハウジングに加圧部材を組み立てる際,回動支持部を外側(横方向)に押し広げるために,片持ち梁方式となっているが,縦方向への剛性は横方向のそれに比較してかなり高くなっている。片持ち梁的に構成しているのは,加圧部材のハウジングへの組み込みを容易にするためにすぎず,フレキシブル基板挿入の際,加圧部材は開位置でハウジングの前縁部と当接する位置まで開いていれば十分であり,フレキシブル基板実装上,それ以上の開方向回転は不要であるから,加圧部材の斜面7Aがハウジングの上面部1C全体に当接することも,また,それからさらなる回転を行うことも想定されていない。加圧部材を当接した位置から更に無理に当接部を中心として回転すると,加圧部材に形成された軸部は時としてその根元より破壊されてしまう。イ号物件は,本件特許4明細書記載の従来例と同様,L>T(本件特許4公報【0006】の記載参照)の状態にあり,これ以上無理に回転することはそもそも設計上想定していない。原告は,イ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属する証拠として,検証物(検甲1ないし3)を提出するが,これらはいずれもその構造に不自然な部分が多々ある上,軸部の形状がどのようになっているのか外部から確認できないため,軸部9Aが破壊されているか否かが明らかになるものではない。 また,イ号物件の剛性は,計算上,加圧部材の上面がハウジング上面に接するような回転に軸部9Aが耐えられるような設計とはなっていない。 ウ イ号物件の加圧部材の上面7Aがハウジング上面に接するまでの間は,仮に原告が主張するように回動軸が変位するとした場合でも,加圧部材の開方向への回転角の増大が生じても,加圧部材のハウジング上面との当接部は最初の当接位置から変わらない。他方,加圧部材の開方向への回転角の増大に伴って回動軸が変位する以上は,当接部と回動軸線との距離は遠ざからない。実際,イ号物件において,加圧部材を当接開始時点から開方向へ回動させていくにしたがって,次第に,当接部(領域)の位置は,回動軸線から離れるどころか,近づいており,さらに過剰に回転すると破壊されてしまうのである(乙23参照)。 以上によると,イ号物件は,構成要件4-Eの構成を充足しないというべきである。 5 争点5(本件特許発明4は無効理由を有するか。)について (被告の主張) (1) 記載不備について ア 本件特許発明4の構成要件のうち「加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れていくように設けられている」(構成要件4-D,同4-E)については,本件特許4明細書の詳細な説明に関係する記載がなく,また,同明細書の発明の詳細な説明には,同発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載がされていないから,特許法第36条(特許法等の一部を改正する法律[平成6年法律第116条]附則6条2項の規定により,なお従前の例によるとされる,同法律による改正前の特許法36条。以下「旧特許法」という。)5項1号,同4項に規定する要件を満たしておらず,同発明は,旧特許法第123条第1項第3号に該当し,無効とすべきものである。 イ 本件特許発明4は,「加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れていくように設けられている」ことを特徴とし,「加圧部材を開位置にもたらす際に,加圧部材とハウジングとの当接領域の位置が回動軸線から離れるようになっているので,加圧部材を適度に回動せしめんとするトルクは次第に小さくなり,回動支持部を損傷するということがなくなる。」(本件特許4公報【0026】参照)という効果を奏するとされている。 同明細書には,そのほか,次のとおりの記載がある。 「【作用】かかる構成の本発明にあっては,フレキシブル基板をコネクタの開口部に挿入する際に,加圧部材は開位置に向けて回動され,所定の開位置にて当接部がハウジングと当接し,過度の回動(回転)を阻止する反力をハウジングから受ける。」(同【0010】) 「上記当接部がハウジングと当接開始時点を過ぎても作業者により加圧部材に回動トルクが加えられると,本発明では上記当接部のハウジングとの当接領域が回動軸線から離れるように移動する。したがって,該力は上記反力の作用点からの距離をモーメントの腕の長さとしてトルクを生ずるので,過度の回動を与える力が加圧部材に作用しても,当接前に比し該腕の長さが短くなる結果,該トルクも小さくなり,加圧部材の回動支持部を破壊してしまうことがなくなる。」(同【0011】) 「B次に,上記フレキシブル基板Fを交換のため又は上記@において新規フレキシブル基板の挿入に備えて開口部を開放するためには,図4のごとく加圧部材7を上方に回動する。該加圧部材7は回動被案内部11及び両端の軸部9にて回動案内され,斜面7Aがハウジング1の前縁部1Dに当接する。この時点で加圧部材7に依然として回動モーメントが作用している場合,このモーメントの腕の長さは上記当接の瞬間までは図4のごとく,前縁部1Dから加圧部材7の先端までの距離Lで長いものであり,したがって上記モーメントも大きい。」(同【0022】) 「C本実施例において,作業者によって加圧部材7へのこの回動モーメントが上記当接の後にも維持されると,上記前縁部1Dを支点として保持部2を上方に撓ませるモーメントを軸部9にもたらし,図5のように該軸部9が上方に変位する。したがって,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる。その結果,この時点で上記加圧部材7に作用するモーメントの腕の長さLは,図5のごとく,上記斜面7Aの端部から加圧部材7の先端までの距離となり,きわめて短くなる。このことは,加圧部材7をさらに回動させんとするモーメントがきわめて小さくなり,軸部9の負担荷重が軽減し該軸部9が破壊されることがなくなることを意味する。」(同【0023】) 「本実施例では,加圧部材7がハウジング1の前縁部1Dに当接した後,斜面7Aの全面がハウジングの上面に接面するようになっていたが,それに限定されず,例えば,図6のごとくハウジング上面の一部に突起1Eを形成し,図7のごとく回動した後に図8に示すように斜面7Aの一部が上記突起1Eに当たるようにしてもよい。あるいは,加圧部材7に斜面7Aを形成せずに,図9のごとく回動被案内部11に連続する溝部7Bを形成することにより角部7Cを設け,図10のごとくの回動の後に,図11のように上記角部7Cがハウジング1の上面部に当たるようにしてもよい。図8あるいは図11のいずれの場合にも,突起1Eあるいは角部7Cの位置から加圧部材7の先端位置までの距離Lはきわめて小さくなり,加圧部材7を過度に回動せんとするモーメントも小さくなることは,図5に示した実施例の場合と同様である。」(同【0024】) 「さらに,本実施例では,加圧部材7はハウジング1の前縁部1Dと当接後に,軸部9を支持する回動支持部2Aが保持部2の撓み変形により移動するとともに回動被案内部11が回動案内部5から外れるようにしたが,これに限定されることなく,軸部の位置が移動しなくとも,ハウジングの上面部が上記前縁部に引きつづき上記加圧部材の異なる部位と次々と当接し,その当接領域が上記軸部から離れて行く複数の平面あるいはこれらをつなげた曲面としてもよい。」(同【0025】) 「【発明の効果】 本発明は,以上説明したごとく,加圧部材を開位置にもたらす際に,加圧部材とハウジングとの当接領域の位置が回動軸線から離れるようになっているので,加圧部材を過度に回動せしめんとするトルクは次第に小さくなり,回動支持部を損傷するということがなくなる。また,加圧部材の初期のハウジングとの当接時に回動のためのトルクを受けて支持部が弾性変形するようにすれば,上記当接位置の移動を大きくすることができ,その効果も著しい。」(同【0026】) ウ 以上によると,本件特許発明4は,その特許請求の範囲の記載のように,「上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」ものであるから,加圧部材の回動角の増大に伴い,「当接部とハウジングとの当接領域(すなわち当接部)の位置」と「回動軸線」との距離が増大することが規定されていることになる。 エ 本件特許4明細書の上記各記載によれば,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れていくように設けられている」構造として,以下の二つの構造が記載されている。 @ 加圧部材7はハウジング1の前縁部1Dと当接後に,軸部9を支持する回動支持部2Aが保持部2の撓み変形により移動するとともに回動被案内部11が回動案内部5から外れるようにした構造(以下「実施例1」という。)。 A 軸部の位置が移動しなくとも,ハウジングの上面部が上記前縁部に引きつづき上記加圧部材の異なる部位と次々と当接し,その当接領域が上記軸部から離れて行く複数の平面あるいはこれらをつなげた曲面とした構造(以下「実施例2」という。)。 上記実施例1の構造(加圧部材が保持部の撓み変形により移動する構造)においては,加圧部材の回動角の増大があると,当接部とハウジングとの当接領域(すなわち当接部)の位置は回動軸線に近づく方向に順次変化するとともに,フランジ状の保持部の弾性変形に伴って回動軸線自体もハウジングの当接領域に順次近づいていくから,当接部と回動軸位置との距離は回動角の増大に伴って減少してしまう。したがって,同実施例では,「当接部が加圧部材の回動角の増大に伴って次第に回動軸線位置から離れていくように設けられ」ているとはいえず,請求項1の特許請求の範囲の記載と一致しない。 また,本件特許4明細書の上記【0025】には,上記実施例2の構造(軸部の位置が移動せず,加圧部材の表面が複数の平面あるいはこれらをつなげた曲面とした構造)によって,「上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」ようにするために,加圧部材が回動支持部によりどのように回動自在に支持されるのかについて,具体的な構造が全く示されていない。 したがって,本件特許4明細書は,本件特許発明4について,当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載がなされていないといわざるを得ない。 オ 本件特許4明細書には,【発明の効果】として,「加圧部材を開位置にもたらす際に,加圧部材とハウジングとの当接領域の位置が回動軸線から離れるようになっているので,加圧部材を過度に回動せしめんとするトルクは次第に小さくなり,回動支持部を損傷するということがなくなる。」(同【0026】)と記載されている。しかし,フランジ状の保持部2は加圧部材の回動角の増大に伴って弾性変形量が増大し,回動支持部により支持されている加圧部材の軸部9は保持部2の弾性変形量に対応した反力P1を受けることになる。すなわち軸部9の回動支持部からの反力P1は加圧部材の回動角の増大に伴って増大することになる。一方,「当接開始点を過ぎても……,本発明では上記当接部のハウジングとの当接領域が回動軸線から離れるように移動する」(同【0011】)とも記載されており,加圧部材の回動角の増大に伴ってLが小さくなるとしているし,回動軸線位置から加圧部材のもう一方の端部までの距離“T+L”は一定であるから,Lが小さくなればTは大きくなるものである。しかし,加圧部材を回動するトルクMは,M=P1×T=P2×Lで示されるが,P1及びTは加圧部材の回動角の増大に伴いそれぞれ大きくなるから,トルクMも同様に加圧部材の回動角の増大に伴い大きくなることは明らかであって,上記【0011】における「トルクが小さくなる」という記載は意味不明である。 カ 以上によると,本件特許発明4の請求項1の「加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れていくように設けられている」(構成要件4-D,同4-E)については,本件特許4明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく,また,同明細書発明の詳細な説明には,本件特許発明4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから,同特許権は無効とすべきものである。 (2) 新規性の欠如について ア 本件特許発明4は,その出願前の公知技術である実願平2-104454号(実開平4-61883号)のマイクロフィルム(乙24。本件特許4明細書において従来技術として記載されているもの。以下,「引用例」といい,同公報に記載された考案を,「引用考案」という。)と同一の発明であり,特許法第29条1項の規定に該当し,特許を受けることができないものである。 イ 引用例には,次の記載がある。 「第1図に示すように,この考案のフラット・ケーブル用コネクタ10は絶縁体製のハウジング本体12と可動側壁部14とを具備する。ハウジング本体12は長手方向に伸長する固定側壁部16と,その長手方向の両端において一体に構成したフランジ部18と,固定側壁部16と中空部20を介して両フランジ部18間に伸長する基底部22とから成っている。固定側壁部16の中空部20側の側面,すなわち内面は直立壁に形成してあって,この中空部20に,一定の間隔をとって複数個のコンタクトの端子24が配列してある。 可動側壁部14は,これを第2図に示すように,固定側壁部16に対して開放した位置にし,可動側壁部14と固定側壁部16との間の中空部20の一部にフラット・ケーブルFを挿入して,可動側壁部14を,第3図に示すように,回動して閉塞位置にすることによって,ケーブルF中の導体をコンタクトの端子24に圧着する。 そのために,可動側壁部14の両端は外方に突出する軸部26にしてあり,ハウジング本体12の両端のフランジ部18に形成した軸受部28に嵌装するようにしてある。 また,可動側壁部14を的確に回動支持するために,可動側壁部14の一方の側面を軸部26に連続する円弧状側面30に形成し,基底部22の中空部20に対向する面を円弧状の凹面32に形成してある。 前に述べた可動側壁部14の回動によってケーブルFをコンタクトの端子Fに圧着するために,第3図に示すように,可動側壁部14の内面にはケーブル・ロック用突起34が形成してある。」 「この考案のフラット・ケーブル用コネクタ10は以上に詳述した通りの構成であって,その説明から自明のように,ハウジング本体12の固定側壁部16について,可動側壁部14を開放した位置にし,フラット・ケーブルFの接続側の端部を固定側壁部16のコンタクトの端子24に沿って,中空部20内に挿入する。」 「次に,可動側壁部14を回動して固定側壁部16に押しつける。その操作によって,可動側壁部14のケーブル・ロック用突起34が挿入されているフラット・ケーブルFの表面に接し,これをコンタクトの端子24に押しつける。」 ウ 引用例の上記各記載に,引用例記載の各図において開示された技術内容を総合すると,引用例には,以下の引用考案が記載されているといえる。 「隣接せる二辺の部分で連通して開口せるハウジング本体12の該開口部にコンタクトの端子24が配列された複数のコンタクトを有すること,ハウジング本体12に保持された可動側壁部14が上記コンタクトの端子24の配列方向にて上記開口部の両端側位置に軸部26を備えていること,上記コンタクトの端子24に近接した閉位置と該コンタクトの端子24から離反した開位置との間で可動側壁部14が上記軸部26により回動自在となるように支持されていること,該可動側壁部14は上記所定閉位置に向け閉方向の回動により,上記開口部に挿入されて上記コネクタの端子上に配されたフラット・ケーブルをコネクタの端子24に対して圧する突部により形成されるケーブルロック用突起34を有すること,可動側壁部14は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジング本体12と当接する当接部1,当接部2,当接部3を上記ケーブルロック用突起34と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジング本体との当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置との距離が増大するように設けられていることを特徴とするフラット・ケーブル用電気コネクタ。」 エ 引用考案における「コンタクトの端子」,「コンタクト」,「可動側壁部」,「フランジ部」,「フラット・ケーブル」,「ケーブル・ロック用突起」は,それぞれ本件特許発明4の「弾性接触部」,「接触子」,「加圧部材」,「回動支持部」,「フレキシブル基板」,「加圧部」に相当する。また,引用例第2図には,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」構造が開示されている。したがって,引用考案と本件特許発明4は,以下の点で一致し,相違点はない。 「隣接せる二辺の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記接触子の配列方向にて上記開口部の両端側位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した閉位置と該接触子から離反した開位置との間で加圧部材が上記回動支持部により回動自在となるように支持され,該加圧部材は上記所定閉位置に向け閉方向の回動により,上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する突部により形成される加圧部を有するものにおいて,加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行くように設けられていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」 オ 以上によると,本件特許発明4は,引用考案と同一であって,新規性を欠くものであって,特許法29条1項に基づき特許することができないものである。 (3) 進歩性の欠如について ア 実公平4-33671号公報(乙25。以下「33671号公報」といい,同公報に係る考案を,「33671号公報の考案」という。)には,次の記載がある。 「次に,このケーブル用コネクタの組立て作業について第4図乃至第7図をも用いて説明する。先ず,インシュレータ53にコンタクト51を圧入固定する。また操作子55をインシュレータ53の上方から両側端部71の間に挿入する。その際,ロータ55aの軸75は,インシュレータ53の両側壁面71の上部を互いに広げる向きに変形させながら軸穴77に嵌め込まれる。」 イ 前記のとおり,本件特許発明4は,引用考案と同一であるというべきであるが,仮に,引用例には,フランジ部18が弾性変形することが記載されていないと解したとしても,33671号公報には,引用考案におけるフランジ部に相当するインシュレータの両側壁面が弾性変形することが記載されており,引用考案におけるフランジ部を弾性変形するように構成することは当業者にきわめて容易なことであるから,本件特許発明4は,引用考案及び33671号公報の考案に基づき当業者が容易に発明することができたものである。 したがって,本件特許発明4は,進歩性を欠き,特許法29条2項に基づき特許することができないものである。 (4) 以上のとおり,本件特許権4は無効理由が存在するから,特許法104条の3により,本件特許権4に基づく権利行使は許されない。 (原告の主張) (1) 記載不備について ア 本件特許4明細書において実施例として説明されている片持ち梁を構造上有するコネクタ(被告主張の実施例1)が,本件特許発明4の実施態様であるから,同明細書には,本件特許発明4が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることは明白である。 被告の主張は,いわゆる片持ち梁を構造上有するコネクタは構成要件4-Eを充足しないという前提に立つものである。しかし,争点4-2において詳述したとおり,被告の主張は本件特許4明細書の記載に基づくものではなく,失当である。 イ 被告が主張する実施例2(「軸部の位置が移動しなくとも,ハウジングの上面部が上記前縁部に引きつづき上記加圧部材の異なる部位と次々と当接し,その当接領域が上記軸部から離れて行く複数の平面あるいはこれらをつなげた曲面としてもよい。」という記載に基づく実施態様)についても,「固定された回動軸線との関係で加圧部材をどのように回動させるのかが不明である」ものではなく,本件特許4明細書の記載によれば,当業者が実施することに問題はない。 ウ 被告は,本件特許4明細書の上記【0011】項の記載は意味不明であるとも主張する。しかし,過度の回動を与える力が及ぼすトルクは腕の長さが短くなければ小さくなることは当然のことであり,当該記載はそれを説明しているにすぎない。すなわち,加圧部材の回動角の増大によって当接領域を移動すると,支点が移動し,作用点(軸部)にかかる力が小さくなり,軸部及びハウジングの破壊を回避できることを説明しているものである。この記載の意味は当業者であれば明確である。被告は,明確な文意を意図的にねじ曲げて,「トルク」の意味を,作用点である軸部にかかる力ではなく,不自然な別の意味に解釈することにより意味不明であると主張しているにすぎない。 エ 以上によると,本件特許4明細書の各記載は,旧特許法36条5項1号等に違反するものではなく,同法第123条1項3号記載の無効理由は存しない。 (2) 新規性又は進歩性の欠如について ア 本件特許発明4は,引用考案と同一ではない。引用考案に開示されたコネクタは,可動側壁部14の回転により,ハウジング本体に順次に接触していくものではなく,当該コネクタは「加圧部材を当接開始時点から開方向へ回動させていくにしたがって,次第に,当接部(領域)の位置が回動軸線位置から離れていく」という構成要件4-Eの構成を有さず,「……過度の回動を与える力が加圧部材に作用しても,当接前に比し該腕の長さが短くなる結果,該トルクも小さくなり,加圧部材の回動支持部を破壊してしまうことがなくなる」という記載(本件特許4公報【0011】)及び効果欄の同様の記載(同【0026】)により開示された作用効果を奏しないのである。しかも,引用例には,これらに関する記載は存しないし,引用考案におけるフランジ部18の形状からすると,本件特許発明4と同様の作用を実現することは不可能というほかない。 イ 引用考案から本件特許発明4の構成に想到するためには,単に引用例記載のコネクタにおいてフランジ部18を弾性変形させる構成とするだけでは足りず,可動側壁部14の特定部位がハウジング本体と当接するまで変形するように構成することも必要であるが,被告はその旨の主張をしていない。しかも,前記のとおり,当該可動側壁部14の部位が,ハウジング本体と当接するまで変形するような構成にすることは,引用例のコネクタのフランジ部18の構成上,およそ不可能であり,33671号公報の具体的な記載内容を見るまでもなく,当業者がきわめて容易になし得ることではない。さらに,33671号公報には,「次に,このケーブル用コネクタの組立て作業について……説明する。……その際,ロータ55aの軸75は,インシュレータ53の両側壁面71の上部を互いに広げる向きに変形させながら軸穴77に嵌め込まれる。」と記載されており,同公報記載のコネクタは,組立て作業の際,コネクタのインシュレータ(本件特許発明4の「ハウジング」に相当)の左右両端の側壁を押し広げるものであるから,33671号公報の記載は,可動式の蓋の過剰回動の問題とはおよそ無関係である。したがって,同公報の記載がインシュレーターの両側壁面について弾性変形を記載しているものであるとしても,可動式の蓋である可動側壁部14の過剰回動の問題を解決するためにフランジ部18に適用しようとすることは,当業者がきわめて容易に想到できることではない。 ウ 以上によると,引用例及び33671号公報に基づき,本件特許発明4に新規性・進歩性がないとの被告の主張に理由がないことは明らかである。 6 争点6(損害)について (原告の主張) (1)ア 被告は,被告各物件を,以下の各時期より,業として,製造,販売,輸入等している。 a) イ号物件 遅くとも平成7年 b) ロ号物件 平成10年4月 c) ハ号物件 平成13年4月 イ 被告各物件は,原告の有する以下の各権利を侵害するものである。 a) 本件実用新案権(登録日 平成10年6月19日) 被告各物件 b) 本件特許権3(登録日 平成9年9月5日) 被告各物件 c) 本件特許権4(登録日 平成10年8月14日) イ号物件 ウ 登録が最も早い本件特許発明3の登録日(平成9年9月5日)あるいは製造販売開始時期のいずれか遅い方から,本件訴訟提起に至るまでの被告各物件の年度別売り上げ額は,別紙「イ,ロ,ハ号物件売上額(97.9〜04.10)」記載の各金額を下らない。 (2)ア 本件各考案,本件特許発明3及び同4は,いずれもフレキシブル基板用電気コネクタ市場におけるパイオニア的考案及び発明であり,原告の本件各権利に係る実施品の利益率は少なくとも30パーセントは下らないことから,原告は自己実施を原則とし,第三者への実施許諾は基本的に行っていない。 フレキシブル基板用電気コネクタは,基板実装設計の自由度を大きく取れることと,機器の小型化,薄型化に対応しやすいなどの理由により近年広く使用されており,市場で人気を博したことから,マスコミにも取り上げられ,原告の開発等の成果により,近年のフレキシブル基板用電気コネクタ市場において原告製品のシェアは約20パーセントを占め,同コネクタのうち端子間のピッチが0.5oの製品の市場においては,原告製品のシェアは約46パーセントを占めている。 イ 平成15年3月ころの原告の売上高営業利益率は30パーセントである。原告は,「連結売上高経常利益率30パーセント,3年以内に発売した新製品の比率30パーセント,損益分岐点比率50パーセント」の目標を掲げ,景気の影響を受けることはあるものの,ほぼ目標に近い実績を上げており,利益率30パーセントを確保できない製品からは手を引くという独自の営業政策により,平成15年3月期の全国上場企業を対象とした調査において,原告の連結売上高経常利益率は第6位,一人当たりの営業利益率は第6位と,高利益率を達成している。 原告が本件各権利の実施品として開発,製造,販売しているFH12シリーズ等のフレキシブル基板用電気コネクタの利益率は,コネクタの平均利益率と比較して1.2から1.4倍程度と高い。 したがって,原告の実施品の営業利益率は少なくとも30パーセントは下らないものである。 ウ 被告の収益構成は,「コネクタ68,航空・宇宙用電子機器13,システム機器18,光デバイス他1」であるところ,平成15年には,光デバイスなどは伸びないが,ノートPCや液晶,携帯電話向け中心にコネクター販売が1割強増え,営業利益は84億円に増し,純利益も増えており,その後も好採算のコネクタが堅調であると会社報において指摘されているとおり,被告の不振部門を被告各物件の製造,販売により補っていることは明らかである。被告における平成15年度のコネクタ事業の営業利益率は15.3パーセント,平成16年度の利益率は13.2パーセントである。そして,コネクタの中でもフレキシブル基板(FPC)用コネクタの利益率はコネクタの平均利益率と比較して1.2から1.3倍程度と高いことから,被告製品の利益率は少なくとも約17パーセントを下らない。 エ 以上により,本件各権利の価値等,原告の営業政策,被告の得た利益などを考慮すれば,本件各権利が第三者に実施許諾がなされる場合,その実施料率は10パーセントは下らない。 (3) 以上のとおり,原告は,被告が,被告各物件を販売することにより,本件訴え提起の3年前の日から平成15年10月末日までに,少なくとも被告各物件の販売額に同実施料率10パーセントを乗じた金額の損害を被り,また平成9年9月5日以降本件訴訟提起3年前の日本での売上げについては,被告は同実施料率を売上額に乗じた金額の利得を得,原告は同額の損失を被った。これらの金額を合計すると,6億8202万6100円を下らない。 したがって,原告は,被告に対し,被告による本件各考案,本件特許発明3及び同4の実施行為について,不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得として,少なくとも金6億8202万6100円の支払を請求する権利を有する。 原告は被告に対し,金6億8202万6100円のうち,金3億8300万円の支払を求める。 (被告の主張) (1) 被告各物件の平成9年9月5日以降平成16年10月までの売上げが,別紙「イ,ロ,ハ号物件売上額(97.9〜04.10)」記載のとおりであることは認め,その余の原告の主張は否認ないし争う。 (2) 被告の利益率は,別紙被告利益率目録記載のとおりである。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(被告各物件の具体的構成)について (1) 訴状添付の別紙物件説明図で特定された本件各物件の具体的構成については,被告から一部の用語の訂正と別紙図面訂正目録記載のとおり訂正すべきであるとの主張があり,これらの訂正については,用語の訂正については原告においても異存がなく,また,別紙図面訂正目録中,(1)【図イ3】のB加圧部材上部の形状の修正,(2)【図イ3の2】のA右端下部端子を修正(削除),(4)【図ハ3の2】の@接触子[3]の形状の修正及びC加圧部材の形状の修正(【図ハ3】〜【図ハ7】も同様とする。)については,形状を正確に表現するものとして,原告においても異存がないところであるから,訴状添付の別紙物件説明図をこの限りにおいて修正し,これを本判決に別紙物件説明図として添付する。これに対し,別紙図面訂正目録によるその余の訂正,すなわち,@フレキシブル基板の挿入位置,A接触子収納部の高さ,B【図イ8】及び【図イ9】(イ号物件の軸部9の構造等)の修正については,当事者間に争いがある。しかし,被告が主張するこれらの訂正は,次に述べるとおり,いずれも理由がない。 以上によれば,被告各物件は,別紙物件説明図のとおり特定されるべきである(【図イ8】及び【図イ9】については,争点4-2において述べるとおりである。)。 (2) 被告は,@フレキシブル基板の挿入位置について,被告各物件のフレキシブル基板先端部は,ハウジングの最奥部まで挿入される必要はなく,弾性接触部とハウジングの奥部の壁面との間(接触有効長内)に位置すればよく,この場合,テーパ部1B上にフレキシブル基板の先端が載置されることはないとし,接触有効長の長さは,約1.6oであると主張する(被告提出の陳述書〔乙22〕参照)。しかし,被告各物件は,いずれも断面の長さが1pに満たない非常に小さな製品である(検乙1ないし13)。フレキシブル基板用電気コネクタは,挿入したフレキシブル基板と接触子が電気的に接触する機能を備えることが求められている製品であるから,フレキシブル基板が接触子と電気的に安定的に接触することが技術的に要求されているものである(甲12,乙9)。だからこそ,被告自身,本件訴訟提起前に作成されたイ号物件及びハ号物件の取扱い説明書(甲8,9)において,「FPC(判決注 フレキシブル基板)をコネクタの奥まで差し込んで下さい。」と記載しているのみならず,各説明書の図面においては,フレキシブル基板が最奥部まで挿入された状態を図示しているものである。非常に小型の被告各物件において,手作業により挿入されるフレキシブル基板の先端を,目視できないコネクタ内において,1.6oの接触有効長内にとどめることが困難であることは明らかである。 また,フレキシブル基板が最奥部まで挿入されないとすると,同基板が斜めに挿入されることも生じやすくなり,このことによる電気的接触の不安定さを防止する観点からも,同基板を最奥部まで挿入しないことは不合理である(甲12参照)。 以上によると,被告が主張する別紙図面訂正目録による訂正のうち,@フレキシブル基板の挿入位置及び@の訂正に伴うA接触子収納部の高さの訂正は,いずれも被告各物件の構成を的確に特定するものと認めることはできない。そして,証拠(甲17)によると,被告各物件において,フレキシブル基板の先端が最奥部まで挿入されると,別紙物件説明図記載のとおり,その先端がテーパ部1B上に載置されていることが認められるのであるから,この点に関する被告各物件の構成を別紙物件説明図のとおり特定することが的確であることは明らかである。 (3) 後記争点4-2において認定するとおり,イ号物件は,加圧部材を開放位置からさらに開方向に回動させた場合,軸部9が上方に移動すると共に,保持部2も縦方向に持ち上がる構造を有しているものと認められるから,別紙図面訂正目録【図イ8】及び【図イ9】による被告の訂正もまた,相当ではない。 2 争点2(被告各物件は,本件各考案の技術的範囲に属するか。 )について 本件考案明細書によれば,本件考案1が解決しようとする課題,目的,作用,効果は次のとおりである。 本件考案明細書の考案の詳細な説明においては,【考案が解決しようとする課題】として,「……加圧部材52の回動の際,回動案内面となる凸弯曲面54には加圧部材52から強い力を受け,該凸弯曲面54が紙面に直角方向に長く延びているときには曲げを生ずることもある。」(【0006】),「本考案はかかる問題を解決し,回動支持部での強度を向上し,さらには,係止爪部そして係止段部を不要とし,構造及び操作の簡単なフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的とする。」(【0007】)との記載があり,【作用】として,「かかる構成になる本考案の電気コネクタにあっては,開放位置にある加圧部材と接触子との間にフレキシブル基板が挿入され,加圧部材が所定位置まで回動される。」(【0009】),「……上記加圧部材の回動案内を行なう回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,すなわち接触子の一部として作られており,この接触子が複数平行にハウジングによって保持されているために,丁度金属製の軸のごとく機能する。したがって,特に軸を設けなくとも,上記複数の接触子の一部たる回動支持部により,回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮する。」(【0010】)との記載がある。また,【課題を解決するための手段】として【請求項1】と同趣旨の記載があり,【実施例】として,「図において,符号1は,絶縁材料から成るハウジングであり,右半分が上方に向け開口している。該ハウジング1は図1及び図2に見られるように,その長手方向にて上記開口部の両端位置に上方に延出するフランジ状の保持部2を有しており,該保持部2の奥側の端面に半円状の軸支部2Aが形成されている。また,上記ハウジング1は,両端の保持部2,2間に上記長手方向の複数位置に等ピッチで接触子3を収容保持する保持溝1Aが形成されている。」(【0013】),「上記各接触子3は板状金属材を打ち抜いて作られており,図3にも見られるように,U字状をなす接触フィンガー部4と,腕状部の先端に設けられた略円形をなす回動支持部5と,両部4,5を一体に連結する連結部6とから成っている。上記接触フィンガー部4の先端には突起状に接触部4Aが形成され上記回動支持部5と対向して位置している。該回動支持部5の中心と上記ハウジング1の軸支部2Aの中心とは同一直線上に位置している。」(【0014】),「上記ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている。該加圧部材7は,図1に示されるごとく,その長手方向の両端部に切欠溝8,8が形成されていて,該切欠溝8,8により両端のアーム部9,9と加圧部10とに区分されている。両アーム部9には上記加圧部材7の長手方向に突出する軸部9Aがそれぞれ設けられており,該軸部9Aは上記ハウジング1の半円状の軸支部2Aとほぼ同じ半径で形成されている。また,上記加圧部材7の加圧部8の一面には,上記軸部9Aがハウジング1の軸支部2Aに収められた際,一連の接触子3の回動支持部5と係合する円弧部を有する回動溝部11が形成されている。 したがって,上記一連の板状の接触子3が上記保持溝1Aに挿入されると,回動支持部5は,該保持溝1Aにて回動軸線方向の変位が阻止されるように保持され,該保持溝1Aから突出する回動支持部5の周縁が櫛歯状に配列されて軸状をなし,ここで上記加圧部材7の回動溝部11が回動支持される(図2参照)。その結果,回動力は金属製の上記回動支持部5により支持されその強度はきわめて高くなる。」(【0015】)との記載があり,【考案の効果】について,「……回動支持部が接触子と一体的に形成されているので,加圧部材の回動案内時における強度がきわめて向上する。」(【0024】)との記載がある(甲1)。 本件考案明細書の上記記載によれば,本件考案1は,フレキシブル基板用電気コネクタにおいて,回動支持部での強度を向上し,さらには,係止爪部そして係止段部を不要とし,構造及び操作の簡単なフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的とし,そのために,回動支持部を,各回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割し,そのそれぞれが対応する接触子と一体に形成し,ハウジングの対応保持溝に保持するとの構成により,加圧部材の回動案内時においてこれを支持する回動支持部の強度を向上したものである。 (1) 争点2-1(被告各物件は,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」(構成要件1-A)を充足するか。)について ア 本件考案明細書の「実用新案登録請求の範囲」(【請求項1】)には,「上方に開口せるハウジングの開口部に接触部が配列された複数の接触子と」との記載がある。この記載によれば,本件考案1の「ハウジングの開口部」は,上方に開口するものであり,「接触部が配列された」ものであること,すなわち,接触部の上方の空間を含むものであることが認められる。 イ 本件考案明細書の考案の詳細な説明においては,「開口部」に関して,【従来の技術】において「この公知のコネクタは,添付図面の図8及び図9に示されているように,ハウジング51が右半部で上方に開口しており,該開口部に蓋状の加圧部材52が回動可能に支持されている。該加圧部材52は前縁に形成された凹弯曲面53が上記ハウジング51の開口部の凸弯曲面と係合して……いる。」(【0002】),「該接触子55の一端側55Aは……先端が上記開口にて加圧部材52方向に指向しており……」(【0003】),【実施例】として,「図において,符号1は,絶縁材料から成るハウジングであり,右半分が上方に向け開口している。該ハウジング1は図1及び図2に見られるように,その長手方向にて上記開口部の両端位置に上方に延出するフランジ状の保持部2を有しており,該保持部2の奥側の端面に半円状の軸支部2Aが形成されている……」(【0013】),「上記ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている。……」(【0015】)との記載がある(甲1)。 ウ 上記の本件考案明細書の「開口部」に関する各記載及び本件考案明細書の前記の各記載並びに本件考案公報の図1ないし図5からすれば,本件考案1の「ハウジングの開口部」とは,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,加圧部材が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもあるということができる(ただし,本件考案明細書においては,「開口部」をこれ以上に厳密に定義する記載はない。)。 そして,「臨む」という語は,「@目の前にする。面する。……「湖に臨む部屋。」A場合・機会などに向かい合う。Bその場所に行く。……」(広辞苑第5版),などの意味を有する用語であり,上記@の意味では,「のぞむ。高いところから,下を見おろす。……臨は,高い所から下を見おろすこと,「臨淵」。」(角川・漢和中辞典902頁)という語義を有する用語であること,並びに,本件考案1における「回動支持部」とは,本件考案明細書の前記各記載及び本件考案公報の前記各図面から明らかなように,フレキシブル基板の上部において回動する加圧部材の回動溝部を支持しながら,加圧部材の回動を支える部材であり,フレキシブル基板の上部の加圧部材における回動溝部に対応する位置に設置されればよいのであるから,回動支持部は,いわば,フレキシブル基板が挿入される空間を上方から見下ろす位置に設置されるものであると解するべきである。したがって,構成要件1-Aの「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」とは,ハウジングの開口部すなわちハウジングと保持部に囲まれたフレキシブル基板を挿入するための前記空間を上方から見下ろす位置に回動支持部が設けられることを意味するものであると解するのが相当である。すなわち,ハウジングの開口部とは,ハウジングと保持部に囲まれたフレキシブル基板を挿入するための空間であるから,これをハウジングの奥部からみれば,斜め上方に開口する空間であり,回動支持部は,上記のとおり,フレキシブル基板を押圧狭持するための加圧部材の回動を支持するため,加圧部材の回動溝部に対応する位置に設けられるべきものであるから,本件考案1では,これをフレキシブル基板を挿入するための空間を目の前にする位置(上方から見下ろす位置)という意味で,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」と規定したものと解される。 エ 被告は,@「ハウジングの開口部」とは「上方に開口せる」空間であることが【請求項1】に明示されているから,側壁とハウジング上壁前縁部で囲まれ,上方向に開放された空間,すなわち,別紙開口部図面【図面C】のとおり,回動支持部5の右端の外側及び接触フィンガー部4の上方の空間を意味するというべきである,A本件各考案は,公知コネクタの回動軸に相当する凸弯曲面の代替として,「開口部に臨む位置」に回動支持部を設けたのであるから,公知コネクタの回動軸が設けられた位置が,「開口部に臨む位置」に相当するなどと主張する。 しかし,本件考案明細書においては,「ハウジングの開口部」が,被告が上記【図面C】で主張するような空間であると定義する記載はない。むしろ,本件考案明細書の前記各記載と本件考案公報の各図面を参酌すれば,「ハウジングの開口部」とは,上記のとおり,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,フレキシブル基板の上方に位置し,回動しながら同基板を押圧狭持する加圧部材の回動を支持する回動支持部が,当該空間を目の前にする位置(見下ろす位置)に設けられるものであると解すべきことは前記のとおりである(この意味では,ハウジングの開口部は,原告が主張する別紙開口図面【図面A】とも異なるものである。)。すなわち,本件考案1における「ハウジングの開口部」は,上方に開口されたものであるとしても,フレキシブル基板を挿入するために上方に開口されたものであればよく,被告が主張するような形状で開口するものである必要性はないのである。なお,公知コネクタは,本件考案の従来例として記載されたにすぎないものであるから,公知コネクタの回動軸が設けられた位置を,本件考案1の「開口部に臨む位置」と解する必然性がないことも明らかである。被告の上記主張はいずれも採用し得ない。 オ 被告各物件における回動案内部5は,本件考案1の「回動支持部」に相当する。そして,被告各物件のハウジングの開口部は,別紙物件説明書図イ2・3,同図ロ2・3,同図ハ2・3記載のとおり,ハウジング1と両端の保持部2に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり(弾性接触部4Aの上方の空間でもある),加圧部材7が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもある。また,ハウジング1の開口部すなわちフレキシブル基板を挿入するためのハウジング1と保持部2に囲まれた前記空間(ハウジングの奥部からみれば,斜め上方に開口する空間)を上方から見下ろす位置に回動案内部5が設けられているのであるから,被告各物件の回動案内部5は,「上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」との構成要件を充足するものと認められる。 (2) 争点2-2(被告各物件は,「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件1-Ba)を充足するか。)について ア 争点2-1において述べた本件考案明細書の各記載を総合すると,「回動支持部」(構成要件1-A)とは,金属で作られている接触子と一体に形成され,この接触子が複数平行に設置されて,そのそれぞれがハウジングによって保持されているために,この「回動支持部」がちょうど金属製の軸のように機能するものであって,当該回動支持部の「回動支持」とは,加圧部材の「回動案内の際の力に十分対向する強度を発揮する。」こと,すなわち,加圧部材が回動する際に発生する接触部からの反力を受けるもの(【0010】参照)と認められる。 イ 被告各物件は,別紙物件説明図の各記載及び弁論の全趣旨によれば,@回動案内部5が,金属製の接触子3と一体のものであり,A接触子3が複数平行に設置されて,そのそれぞれがハウジング1に保持され,B加圧部材7は,開放位置から所定位置へ回動案内部5の回動中心5Aを中心に回動しており,C加圧部材が所定位置にあるときはフレキシブル基板Fの下面は接触子3の弾性接触子4Aに直接当接し,上面は回動案内部5の下面に加圧部材を介して当接している構造を有しているものである。そして,上記各構造からすると,回動案内部5は,加圧部材7の回動が不規則にならないように案内すると共に,加圧部材7が,フレキシブル基板Fの上面を押し下げることにより,フレキシブル基板から受ける反力により上昇しようとするのを回動案内部5により受け止め,当該反力を吸収させる作用を有するものというべきであるから,被告各物件における回動案内部5は,加圧部材が回動する際に発生する接触部からの反力を受けるものであるというべきである。 以上によると,被告各物件は,本件考案1の「(加圧部材が)回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件1-Ba)との構成を充足するものと認められる。 ウ 被告は,加圧部材が「回動支持部により回動自在に支持され」とは,加圧部材を,「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」のいかなる位置に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって支持されている必要があるのに対し,被告各物件における回動案内部5は,加圧部材を「所定位置から離反した開放位置に回動」させた場合には,回動案内部5と加圧部材は,「支持」どころか,「接触」すらしない,と主張する。しかし,本件考案明細書の前記記載によれば,本件考案1における加圧部材が「回動支持部により回動自在に支持され」とは,加圧部材が「接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を」回動する際に,「回動支持部により回動自在に支持され」るものであることは,請求項1から明らかである。すなわち,本件考案1は,加圧部材がフレキシブル基板を押圧している間に,接触部からの反力を受け止めるために,接触子と一体に形成された回動支持部が加圧部材を回動支持するものであるから,その「該所定位置から離反した開放位置」とは,フレキシブル基板を挿入する直前ないし同基板を挿入した直後で押圧する前の加圧部材の位置(加圧部材がハウジングの前縁部に当接する位置)であり,その後,加圧部材が同基板を押圧しながら「接触子に近接した所定位置」に回動するまでの間,接触部からの反力を回動支持部により受け止め,回動自在に支持されていれば足りるのであり,加圧部材が上記開放位置(ハウジングの前縁部と当接する位置)からさらに接触子とは逆方向に回動する場合のことを想定して規定しているものではないことは,本件考案明細書の前記記載及びその図1ないし図5から明らかである。被告は,加圧部材を「所定位置から離反した開放位置」(ハウジングの前縁部に当接した位置)からさらに接触子とは逆方向に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって支持されている必要がある,と主張するものであり,この主張に理由がないことは明らかである。 被告は,原告が,本件無効審判事件の第1回口頭審理において,本件各考案にいう「回動支持部」とは,当該回動支持部のみによって,加圧部材の回動を支持するものをいうと主張しており,回動支持部は,そのもののみで,加圧部材の回動を支持しているといえなければならないというべきである,と主張する。しかし,本件無効審判事件の第1回口頭審理における原告の主張は,同事件における甲1号証(乙10公報)の「U字型部分が回動支持部といえるか。」という争点について,「甲1号証においては,端子のU字型部分のみで回動を支持していない。また,支持される部材がそもそも異なっており,本件で言う回動支持部に当たらない。」というものにすぎず(甲7,乙18参照),同主張が,本件考案1の「回動支持」の意味を限定する趣旨のものということはできない。 被告は,イ号物件が本件各考案の技術的範囲に属するという主張とイ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属するという主張は矛盾する(本件特許4明細書では,「作業者によって加圧部材7へのこの回動モーメントが上記当接の後にも維持されると……該軸部が上方に変位する。したがって,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる。」と記載されているのであり,かかる構成は,本件考案1の構成要件1-Bと矛盾する。)と主張する。 しかし,本件各考案は,加圧部材がフレキシブル基板を押圧している間に,接触部からの反力を受け止めるために,接触子と一体に形成された回動支持部が加圧部材を回動支持するものであるから,その「該所定位置から離反した開放位置」とは,フレキシブル基板を挿入する直前ないし同基板を挿入した直後で押圧する前の加圧部材の位置(本件特許発明4における,加圧部材がハウジングの前縁部に当接する位置)であり,その後,加圧部材が同基板を押圧しながら「接触子に近接した所定位置」に回動するまでの間,接触部からの反力を回動支持部により受け止め,回動自在に支持されていれば足りるのであり,加圧部材が上記開放位置すなわち本件特許発明4における加圧部材がハウジングの前縁部と当接する位置からさらに接触子とは逆方向に回動する場合のことを想定して規定しているものではないことは,本件考案明細書の前記記載及びその図1ないし図5並びに本件特許4明細書の記載とその図3ないし図5から明らかである。被告の上記各主張はいずれも理由がない。 (3) 争点2-3(被告各物件は,「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」(構成要件1-Ca)を充足するか。)について ア 本件考案明細書の考案の詳細な説明における「上記回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,すなわち接触子の一部として作られており,この接触子が複数平行にハウジングによって保持されているために,丁度金属製の軸のごとく機能する。」(【0010】)との記載と同明細書【図1】及び【図2】からすれば,本件考案1の「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」とは,各接触子と一体に形成された回動支持部が回動軸線方向で見たとき,各回動支持部が,各接触子と対応する位置で,各接触子が分割されて複数存在すると同様に分割されて複数存在することを意味することは明らかである。被告の上記構成要件は,意味不明であるとの主張,及び,「回動支持部」が「複数に分割」されているとは,個別(一枚)の接触子に設けられた個別の回動支持部が,それぞれ「複数に分割」されていることを意味するとの主張は採用し得ない。 イ 被告各物件の各回動案内部は,各接触子と一体に形成されているものであり,各接触子と対応する位置において,各接触子が分割されると同様に分割されているのであるから,被告各物件は,「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され」(構成要件1-Ca)の構成を充足することは明らかである。 (4) 争点2-4(被告各物件は,「(回動支持部は,)ハウジングの対応保持溝に保持され」(構成要件1-Cb)を充足するか。)について ア 本件考案明細書の考案の詳細な説明においては,回動支持部について,「……上記加圧部材の回動案内を行なう回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,すなわち接触子の一部として作られており,この接触子が複数平行にハウジングによって保持されているために,丁度金属製の軸のごとく機能する。」(【0010】)と記載されている。また,同明細書【図1】ないし【図3】の各図示内容からすると,@回動支持部5は,接触子3と一体に形成されており,A接触子3は,ハウジング1の保持溝1A内に配置されているものであることが明らかである。すなわち,本件考案明細書には,回動支持部がハウジングの対応保持溝に保持される構成として,回動支持部が接触子と一体に形成され,かつ,当該接触子がハウジングの保持溝に保持される構造が記載されているのであり,このことからすれば,本件考案1の「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されている」とは,回動支持部が,それぞれ対応する接触子と一体に形成され,かつ,当該接触子がハウジングの保持溝に保持されることにより,回動支持部が,直接的ではないものの,ハウジングの保持溝に保持されるとの構造を含むものと認められる。 イ 被告は,本件実用新案権の出願過程において補正Bが却下されたことなどからすると,本件考案1の「回動支持部は,……ハウジングの対応保持溝に保持され」との構成は,回動支持部の全部が,ハウジングの対応保持溝に収容されて保持されていることを意味すると主張する。しかし,本件考案1は,補正Aにより ,【請求項1】の下線の部分が,「上方に開口せるハウジングの該開口部に接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され,該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し,回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向における各接触子と対応せる位置で複数に分割され,それぞれが上記対応せる接触子と一体に形成され,ハウジングの対応保持溝に保持されていることとするフレキシブル基板用電気コネクタ。」と補正され,次に,補正Bが却下された後に,補正Cにより「ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え,」との部分から,「ハウジングもしくは」との語が削除されたにすぎず,構成要件1-Cbについては補正Cによる補正も限定もないのであるから,本件考案1の出願過程を参酌しても,構成要件1-Cbを限定解釈すべき理由はない。また,補正Bについては,却下された補正であるから,出願経過禁反言が働く余地はないというべきであるし,補正Bが要旨変更であるとする却下理由についても,特許庁審査官の当該時点における一見解であるから,これをもって出願人の見解ないし意見の表明と見ることはできず,これを出願経過禁反言の資料とすることは相当ではない。なお,念のため,補正Bの内容についてみても,本件考案1の構成要件1-Cの部分を「回動支持部は,該回動支持部の回動軸線方向間隔をもって配列された上記接触子の一部分が対応する対応保持溝によって回動軸線方向での変位が規制されるように保持されていることとするフレキシブル基板用電気コネクタ。」と補正しようとしたものであり,接触子の一部が対応する保持溝により保持され,これにより回動支持部が保持されることを除外するような補正でないことは明らかであるから,被告の主張はこの点からも理由がないものである。 ウ 別紙物件説明図によると,被告各物件の各回動案内部5は,対応する接触子3と一体に形成され,各接触子3がハウジング1の接触子収納部1Aに保持されることにより,ハウジング1の接触子収納部1Aに対応する接触子3を介して保持されているものと認められる。よって,被告各物件は,「ハウジングの対応保持溝に保持され」(構成要件1-Cb)の構成を充足する。 (5) 争点2-5(ハ号物件に特有の構成は,本件考案1の構成要件1-A,1-Ba及び1-Cbを充足するか。)について ア 被告は,ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した回動案内部5(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)に設けられた凹状の弾性軸受部は,上下方向及び水平方向に変位を規制されることなく,上下方向の弾性変形及び首ふり弾性変形をするように構成されていて,本件考案1の構成要件1-Cbの「(回動支持部は)ハウジングの対応保持溝に保持されている」との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件考案1は,本件考案明細書の「フレキシブル基板が接触子の弾性による反力を受けても,該反力によって上記加圧部材が原位置たる開放位置に戻されることがない。……上記加圧部材の回動案内を行なう回動支持部は,金属で作られている接触子と一体に成形され,……この接触子が複数平行にハウジングに保持されているために,丁度金属製の軸のごとく機能する。」(甲1【0010】)との記載から明らかなように,金属で構成される接触子が対応保持溝に保持され,かつ,回動支持部が接触子と一体に成形されることによって,押圧部材が回動してフレキシブル基盤を押圧する際に受ける反力に十分対向しうる強度を回動支持部が発揮するという技術的特徴を有しているものである。そして,本件考案明細書の,「……加圧部材52の回動の際,回動案内面となる凸弯曲面54には加圧部材52から強い力を受け,該凸弯曲面54が紙面に直角方向に長く延びているときには曲げを生ずることもある。」(同【0006】)「本考案はかかる問題を解決し,回動支持部での強度を向上……することを目的とする。」(同【0007】)との記載から明らかなように,本件考案1においては,上記構成により回動支持部の強度を向上したものであって,回動支持部の上下方向の変位が全く存在しなくなることをその要件とするものではない。したがって,本件考案1の構成要件1-Cbの回動支持部は,金属製の接触子と一体に成形され,接触子がハウジングの対応保持溝に保持されることによって回動支持部が対応保持溝により保持されることがその構成として必要であるものの,回動支持部の強度が従来のものに比べ向上していれば足りるのであり,上下方向に変動し得るものを包含しないものではない。 そして,別紙物件説明図によれば,ハ号物件の回動案内部5は,接触子3と一体に形成され,この接触子3がハウジング1の接触子収納部1Aに保持されているものと認められるから,ハ号物件は本件考案1の構成要件1-Cbの回動支持部は「ハウジングの対応保持溝に保持されている」との構成を充足するものである。 イ 被告は,ハ号物件の回動案内部5(連結部から上方側に延びる弾性軸受部を有する腕)は,ハウジングに保持されていないから,当該腕部材に形成された弾性軸受部は,本件考案1の構成要件1-Aの「ハウジングに保持された部材に形成され……た回動支持部」との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件考案1の構成要件1-Aにおける回動支持部が「ハウジングに保持された部材に形成され」ているとは,回動支持部がハウジングに保持された部材である接触子と一体に形成されているという意味であり,回動支持部自体がハウジングの対応保持溝に保持されている必要はないことは前記のとおりである。 別紙物件説明図によれば,ハ号物件の回動案内部5は,ハウジングの接触子収納部1Aに保持されている接触子3と一体に形成されているのであるから,ハ号物件の回動案内部5が,「ハウジングに保持された部材に形成され」(構成要件1-A)との構成を充足していることは明らかである。 ウ 被告は,ハ号物件の回動案内部5が,ハウジングの開口部に突出し,張り出しているため,前記接触子の先端側に設けられた凹状の弾性軸受部(回動案内部5)は,本件考案1の構成要件1-Aの「上記(ハウジングの)開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件考案1の「ハウジングの開口部」とは,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,加圧部材が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもあり,加圧部材の回動を支持する回動支持部の目の前にあり,いわば,回動支持部が上方から見下ろす空間であると解すべきことは前記のとおりであり,ハ号物件においても,回動案内部5及び弾性軸受部は,ハウジングの前方に突出し,張出しているとしても,フレキシブル基板を挿入するための空間(ハウジングの奥部からみれば斜め上方の空間)を上方から見下ろしているものと認められることは,イ号,ロ号物件と同様である。換言すれば,ハ号物件の回動案内部5及び弾性軸受部は,フレキシブル基板を挿入するための空間であるハウジングの開口部を目の前にした位置に設けられていると認められるのであり,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」の構成を充足するものである。 エ 被告は,ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した回動案内部5に設けられた凹状の弾性軸受部は,加圧部材に設けられたカム状軸部と係合しており,加圧部材が開位置から閉位置に向かって回動することに伴うカム状軸部の回動に追随して上下方向に弾性変形するようになっており,このようなカム構造を有するカム状軸の回転によって上下に押し広げられる凹状の弾性軸受部を備えた加圧部材は,本件考案1の構成要件1-Baの「回動支持部により回動自在に支持され」る加圧部材との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件考案1の構成要件1-Baにおける「回動支持部により回動自在に支持され」る加圧部材とは,回動支持部が,加圧部材の回動において接触部からの反力を受けたときにその力に対向し,加圧部材を支持しながらその回動を案内することを意味するのである。被告が主張するように,ハ号物件においては,加圧部材のカム状軸の回転によって,回動支持部に該当する凹状の弾性軸受部が上下に押し広げられることにより若干の変位が存在するとしても,ハ号物件の弾性軸受部が加圧部材の回動を支持していることに変わりはないのであるから,加圧部材を回動自在に支持しているハ号物件の弾性軸受部が,構成要件1-Baを充足することは明らかである。 オ 被告は,ハ号物件は,ハウジングの開口部に突出・張出した回動案内部5に形成された凹状の弾性軸受部がハウジングの開口部から前方に大きく突出・張出し,連結部及び連結部から下方側に延びる弾性接触部と連動して首ふり弾性変形するようになっているため,種々の板厚のフレキシブル基板に対応すると共に,コネクタを小型化・低背化することができるという技術的特徴を有しているのに対し,本件考案1は,回動支持部を金属からなる接触子に一体形成することによって,加圧部材からの強い圧力を受けてもハウジングが変形しないようにするため,回動支持部を開口部に臨む位置に設け,かつ,その回動支持部は,ハウジングの対応保持溝に保持され,変位が阻止される構成を有しているのであるから,技術思想が異なる,と主張する。 しかし,ハ号物件が,被告が主張するように回動案内部5を弾性化するという新たな技術思想を有しているとしても,同物件の構成が本件考案1の各構成要件を充足し,本件考案1の技術的特徴を備えること(回動案内部5が本件各考案における強度性を向上したものであることなど)は前記のとおりであるから,ハ号物件が本件考案1の技術的範囲に属することを否定することはできない。 (6) 争点2-6(ハ号物件に特有の構成は,本件考案2の構成要件2-@及び2-Aを充足するか。)について ア 別紙物件説明図によれば,ハ号物件の突部12及び回動案内部5は,本件考案2の加圧突部12及び回動支持部5に相当し,上記突部12は,加圧部材7が開放位置にあるときには,回動案内部5の回動中心5Aと接触子の接触部4Aとを結ぶ線よりも外側にあり,加圧部材7が所定位置まで回動したときには,上記線よりも内側にあり,上記線を越えるように位置付けられているものと認められるから,本件考案の構成要件2-@及び2-Aを充足する。 イ 被告は,本件考案2の構成要件2-@は,「加圧突部は,上記加圧部材が開放位置にあるときには回動支持部の回動中心と接触子の接触部とを結ぶ線よりも外方にあり」と規定し,構成要件2-Aも「加圧部材が所定位置まで回動したときには上記線を越えるように」と規定しており,いずれも回動支持部が軸中心を有することを前提にしているのに対し,ハ号物件のハウジングの開口部に突出・張出した回動案内部5に設けられた凹状の弾性軸受部は,軸ではないから軸中心を有しないため,ハ号物件は,構成要件2-@,2-Aの構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件考案2の構成要件2-@は,「回動中心」と定めているのであって,軸中心を有することを定めたものではない。ハ号物件においても,加圧部材は回転運動をしており,その回転の中心は存在する。そして,その回転運動は,加圧部材と凹状の弾性軸受部との接点を支点として行われるのであって,その「回動中心」が弾性軸受部に存することは明らかである。被告の上記主張は理由がない。 ウ 被告は,本件考案2の構成要件2-Bは,「請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ」と規定しており,ハ号物件が本件考案1の構成要件を充足してないことは前記のとおり明らかであるから,ハ号物件は,本件考案2の技術的範囲に属しない,と主張する。しかし,ハ号物件は,本件考案1の技術的範囲に属するものであるから,被告の上記主張も理由がない。 (7) まとめ 以上によれば,被告各物件は,いずれも本件考案1及び本件考案2のすべての構成要件を充足するものと認められるから(被告各物件が前記に認定した以外の構成要件を充足することは前記のとおり当事者間に争いがない。),いずれも本件考案1及び本件考案2の技術的範囲に属するものと認められる。 3 争点3(被告各物件は,本件特許発明3の技術的範囲に属するか。)について 本件特許3明細書によれば,本件特許発明3が解決しようとする課題,目的,作用,効果は次のとおりである。 本件特許3明細書の発明の詳細な説明においては,【発明が解決しようとする課題】として,「……公知のコネクタにあっては,フレキシブル基板Fは図8に見られるごとく一方の面で接触子55と一点にて圧接し,また,加圧部材52が少しでも開く傾向にあるときは他方の面で加圧部材52の二つの平坦面52B,52Cが移行部として成す角部で接触する。すなわち,一面で一箇所だけ,換言すれば,両面で二点接触している。したがって,両面側からフレキシブル基板を保持し,適性な接触を得るためには,上記二点がフレキシブル基板の長手方向(挿入方向)にて近接していなければならない。」(【0006】),「かかるコネクタを設計する場合,フレキシブル基板Fの厚みにより上記距離d1,d2が定まるが,その厚みの如何にかかわらず該フレキシブル基板の挿入を可能とするには,d2とd1との差(d2-d1)は常に一定値に確保されねばならない。一方,コネクタを小型化するにはd2を小さくせねばならないが,このd2をあまりに小さくすると,d1がさらに小さくなり強度上の問題を生じてくる。また,d2及びd1を所定距離差を保つようにして小さくすると,当然上記平坦面52B,52Cが成す角部は軸線52Aの位置に近づくこととなり,加圧部材52に対し上記時計方向のモーメントの値がきわめて小さくなり,加圧部材の保持が難しくなる。……」(【0007】),【目的】として「本発明は,かかる公知の電気コネクタが有していた問題を解決し,コネクタの小型化を図るとともに,各部材の寸法・位置の誤差のバラツキ等の接触信頼性への影響を小さく抑制でき,また,加圧部材の撓みが極力生じないフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的とする。」(【0009】)との記載があり,【課題を解決するための手段】として,【請求項1】と同趣旨の記載があり,【作用】として,「かかる構成になる本発明の電気コネクタにあっては,先ず,加圧部材は二つの面のうち回動軸線からの距離が短い方の面が接触子と対向するように回動して位置し,該開放位置にある加圧部材と接触子との間にフレキシブル基板が挿入される。挿入の中途位置にあっては,フレキシブル基板はほぼ直線的に延びているが,先端が支持部に到達すると,該フレキシブル基板は上記支持部によりその厚み方向に加圧部材側へ寄せられる。」(【0011】),「次に,加圧部材を所定位置まで回動する。すると,該加圧部材は,回動軸線からの距離が長い方の面が接触子に近づくように回動し,加圧部の移行部がフレキシブル基板の一方の面に近接し当接するようになる。この当接開始時点で,フレキシブル基板は他方の面において,該フレキシブル基板の挿入方向で上記加圧部との当接位置の両側に位置する接触子及び支持部の二支点により支えられる。上記加圧部材をさらに回動して所定位置にもたらすと,上記加圧部は上記二支点(接触子及び支持部)の間でフレキシブル基板の一方の面を押圧する。かくして,フレキシブル基板は上記他方の面が所定の接触圧をもって接触子と接触する。この接触に際して,フレキシブル基板は上記他方の面が二支点で支えられて,その中間位置で加圧部により押圧される構成をとるために,二支点間距離が大きくなり,上記角部を形成する二つの平坦面の軸線からの距離差を小さくすることができるので,コネクタが小型化される。又上記撓み変位と接触圧の関係がもたらす剛性は比較的小さくなり,位置あるいは寸法の精度のバラツキによる接触信頼性の変動は小さい。」(【0012】)との各記載がある(甲3)。 本件特許3明細書の上記記載によれば,本件特許発明3は,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,支持部と弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して,加圧部材の移行部が二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するとの構成を取ることにより,加圧部材を一旦所定位置まで回動すれば,フレキシブル基板の結線が不用意に外れることがなくなり,また,かかる外れを防止するためのロック機構をコネクタの側部等に設ける必要もなくなり,コネクタの構造が簡単化されると共に小型化を図ることができることを特徴とするものと認められる。 (1) 争点3-1(被告各物件は,「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」(構成要件3-A)を充足するか。)について ア 本件特許3明細書の「特許請求の範囲」【請求項1】の記載によれば,「ハウジングの開口部」は,「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せる」ものであり,「弾性接触部が配列され」たものである。 イ 本件特許3明細書の発明の詳細な説明における「開口部」に関する記載としては,【従来の技術】において「この公知のコネクタは,添付図面の図8及び図9に示されているように,ハウジング51が左半部で上方に開口しており,該開口部に蓋状の加圧部材52が……回動可能に支持されている。該加圧部材52は……凸弯曲面53が上記ハウジング51の開口部の凹湾曲面と係合して……いる。」【0002】,「該接触子55の一端側55Aは……先端が上記開口にて加圧部材52方向に指向しており……」【0003】との記載があり,【課題を解決するための手段】の項に【請求項1】と同趣旨の記載があるほかは,【実施例】として「図において,符号1は,絶縁材料から成るハウジングであり,右半分が上方に向け開口している。該ハウジング1は図1及び図2に見られるように,その長手方向にて上記開口部の両端位置に上方に延出するフランジ状の保持部2を有しており,該保持部2の奥側の端面に半円状凹部をなす軸支部2Aが形成されている。……」(【0015】),「上記ハウジング1の開口部には,回動自在に蓋状の加圧部材7が設けられている。……」(【0018】)との記載があるのみである(甲3)。 上記の本件特許3明細書の記載及び本件特許3公報の図1ないし図6を総合するならば,本件特許発明3における「ハウジングの開口部」とは,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,加圧部材が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもあるということができる(ただし,本件特許3明細書においては,「開口部」をこれ以上に厳密に定義する記載はない。)。 そして,「臨む」という語は,争点2-1において述べたとおり,「@目の前にする。面する。(「湖に臨む部屋。」)A場合・機会などに向かい合う。 Bその場所に行く。……」(広辞苑第5版)などの意味を有する用語であり,上記@の意味では,「のぞむ。高いところから,下を見おろす。……臨は,高い所から下を見おろすこと,「臨淵」。」(角川・漢和中辞典902頁)という語義を有する用語であること,並びに,本件特許発明3における「回動支持部」とは,本件特許3明細書の前記各記載及び本件特許3公報の前記各図面から明らかなように,ハウジングの上部において回動する加圧部材の回動溝部を支持しながら,加圧部材の回動を支える部材であり,フレキシブル基板の上部の加圧部材における回動溝部に設置されればよいのであるから,回動支持部は,いわば,フレキシブル基板が挿入される空間を上方から見下ろす位置に設置されるものであると解すべきである。したがって,構成要件3-Aの「開口部に臨む位置に回動支持部を備え」とは,ハウジングの開口部すなわちハウジングと保持部に囲まれたフレキシブル基板を挿入するための前記空間を上方から見下ろす位置に回動支持部が設けられたことを意味するものであると解するのが相当である。すなわち,ハウジングの開口部とは,ハウジングと保持部に囲まれたフレキシブル基板を挿入するための空間であるから,これをハウジングの奥部からみれば,斜め上方に開口する空間であり,回動支持部は,上記のとおり,フレキシブル基板を押圧狭持するための加圧部材の回動を支持するため,加圧部材の回動溝部に対応する位置に設けられるべきものであるから,本件特許発明3では,これをフレキシブル基板を挿入するための空間を目の前にする位置(上方から見下ろす位置)という意味で,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」と規定したものと解される。 ウ 被告は,争点2-1において述べたとおり,構成要件3-Aにおける「開口部」とは,別紙開口部図面の【図面D】の赤で着色した空間である,と主張する。しかし,本件特許3明細書においては,「ハウジングの開口部」が,被告が上記【図面D】で主張するような空間であると定義する記載はない。むしろ,本件特許3明細書の前記各記載と本件特許3公報の各図面を参酌すれば,「ハウジングの開口部」とは,上記のとおり,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,フレキシブル基板の上方に位置し,回動しながら同基板を押圧狭持する加圧部材の回動を支持する回動支持部が,当該空間を目の前にする位置(見下ろす位置)に設けられるものであると解すべきことは前記のとおりである(この意味では,ハウジングの開口部は,原告が主張する別紙開口部図面【図面B】とも異なるものである。)。すなわち,本件特許発明3における「ハウジングの開口部」は,上方に開口されたものであるとしても,フレキシブル基板を挿入するために上方に開口されたものであればよく,被告が主張するような形状で開口するものである必要性はないのである。被告の上記主張は採用し得ない。 エ 被告各物件における回動案内部5は,本件特許発明3の「回動支持部」に相当する。そして,被告各物件のハウジングの開口部は,別紙物件説明書図イ2・図イ3,同図ロ2・図ロ3及び同図ハ2・3記載のとおり,ハウジング1と両端の保持部2に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり(弾性接触部4Aの上方の空間でもある),加圧部材7が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもある。また,ハウジング1の開口部すなわちフレキシブル基板を挿入するためのハウジング1と保持部2に囲まれた前記空間(ハウジングの奥部からみれば,斜め上方に開口する空間)を上方から見下ろす位置に回動案内部5が設けられているのであるから,被告各物件の回動案内部5は,「上記開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」との構成要件を充足するものと認められる。 (2) 争点3-2(被告各物件は,「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」(構成要件3-B)を充足するか。)について ア 本件特許3明細書には,「上記加圧部材7の加圧部8の一面には,上記軸部9がハウジング1の軸支部2Aに収められた際,一連の接触子3の回動支持部5と係合する円弧部を有する回動溝部11が形成されている。したがって,上記一連の板状の接触子3が上記保持溝1Aに挿入されると,回動支持部5は,櫛歯状に配列されて軸状をなし,ここで上記加圧部材7の回動溝部11が回動支持される。 その結果,回動力は金属製の上記回動支持部5により支持されその強度がきわめて高くなる。」(甲3【0018】)との記載がある。この記載からすれば,構成要件3-B「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」とは,加圧部材の回動において接触部からの反力を受けたときには,回動支持部がそれに対向し,加圧部材の回動を支持することを意味するものと認められる。 イ 被告各物件は,別紙物件説明図の各記載からすると,@回動案内部5は,接触子3と一体のものであり,A接触子3は複数平行にハウジング1に保持され,B加圧部材7は,開放位置から所定位置へ回動案内部5に支持されて回動しており,C加圧部材が所定位置にあるときはフレキシブル基板Fの下面は接触子3の弾性接触子4Aに直接当接し,上面は回動案内部5の下面に加圧部材を介して当接している構造を有しているものである。そして,上記各構造からすると,回動案内部5は,加圧部材7の回動が不規則にならないように案内すると共に,加圧部材7が,フレキシブル基板Fの上面を押し下げることにより,フレキシブル基板から受ける反力により上昇しようとするのを回動案内部5により受け止め,当該反力を吸収させる作用を有するものというべきであるから,被告各物件における回動案内部5は,加圧部材が回動する際に発生する接触部からの反力を受けるものであるというべきである。 以上によると,被告各物件は,「回動支持部により回動自在に支持され」る構成を充足するものと認められる。 ウ 被告は,加圧部材が「回動支持部により回動自在に支持され」とは,加圧部材を,「接触子に近接した所定位置」と「所定位置から離反した開放位置」のいかなる位置に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって支持されている必要があるのに対し,被告各物件における回動案内部5は,加圧部材を「所定位置から離反した開放位置に回動」させた場合には,回動案内部5と加圧部材は,「支持」どころか,「接触」すらしない,と主張する。しかし,本件特許3明細書の前記記載によれば,本件特許発明3における加圧部材が「回動支持部により回動自在に支持され」とは,加圧部材が「接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を」回動する際に,「回動支持部により回動自在に支持され」るものであることは,請求項1から明らかである。すなわち,本件特許発明3は,加圧部材がフレキシブル基板を押圧している間に,接触部からの反力を受け止めるために,接触子と一体に形成された回動支持部が加圧部材を回動支持するものであるから,その「該所定位置から離反した開放位置」とは,フレキシブル基板を挿入する直前ないし同基板を挿入した直後で押圧する前の加圧部材の位置(加圧部材がハウジングの前縁部に当接する位置)であり,その後,加圧部材が同基板を押圧しながら「接触子に近接した所定位置」に回動するまでの間,接触部からの反力を回動支持部により受け止め,回動自在に支持されていれば足りるのであり,加圧部材が上記開放位置(ハウジングの前縁部と当接する位置)からさらに接触子とは逆方向に回動する場合のことを想定して規定しているものではないことは,本件特許3明細書の前記記載及び本件特許3公報の図1ないし図6から明らかである。被告は,加圧部材を「所定位置から離反した開放位置」(ハウジングの前縁部に当接した位置)からさらに接触子とは逆方向に回動させても,加圧部材が「回動支持部」によって支持されている必要がある,と主張するものであり,この主張に理由がないことは明らかである。 被告は,イ号物件が本件特許発明3の技術的範囲に属するという主張とイ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属するという主張は矛盾する(本件特許4明細書では,「作業者によって加圧部材7へのこの回動モーメントが上記当接の後にも維持されると……該軸部が上方に変位する。したがって,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる。」と記載されているのであり,かかる構成は,本件特許発明3の構成要件3-Bと矛盾する。)と主張する。 しかし,本件特許発明3は,加圧部材がフレキシブル基板を押圧している間に,接触部からの反力を受け止めるために,接触子と一体に形成された回動支持部が加圧部材を回動支持するものであるから,その「該所定位置から離反した開放位置」とは,フレキシブル基板を挿入する直前ないし同基板を挿入した直後で押圧する前の加圧部材の位置(本件特許発明4における,加圧部材がハウジングの前縁部に当接する位置)であり,その後,加圧部材が同基板を押圧しながら「接触子に近接した所定位置」に回動するまでの間,接触部からの反力を回動支持部により受け止め,回動自在に支持されていれば足りるのであり,加圧部材が上記開放位置すなわち本件特許発明4における加圧部材がハウジングの前縁部と当接する位置からさらに接触子とは逆方向に回動する場合のことを想定して規定しているものではないことは,本件特許3明細書の前記記載及び本件特許3公報の図1ないし図6並びに本件特許4明細書の記載と本件特許4公報の図3ないし図5から明らかである。被告の上記各主張はいずれも理由がない。 (3) 争点3-3(被告各物件は,「加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成される」(構成要件3-D)を充足するか。)について ア 本件特許3明細書の「特許請求の範囲」【請求項1】の記載によれば,「加圧部は」,「回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成される」ものである。 また,本件特許3明細書の発明の詳細な説明においては,【作用】として,「かかる構成になる本発明の電気コネクタにあっては,先ず,加圧部材は二つの面のうち回動軸線からの距離が短い方の面が接触子と対向するように回動して位置し,該開放位置にある加圧部材と接触子との間にフレキシブル基板が挿入される。……」(甲3【0011】),「次に,加圧部材を所定位置まで回動する。すると,該加圧部材は,回動軸線からの距離が長い方の面が接触子に近づくように回動し,加圧部の移行部がフレキシブル基板の一方の面に近接し当接するようになる。……」(同【0012】)との記載があり,【実施例】として,「上記加圧部材7は上記回動溝部11の背部に,回動軸線からの距離が異なる二つの隣接平坦面の移行部により加圧角部12が形成されており,該加圧部材7がその軸部9及び回動溝部11にて下方に回動した際に,上記ハウジング1の支持部1B及び接触子3の接触部4Aの二支点にて支持されているフレキシブル基板Fをこの二支点間で上方から加圧するように上記加圧角部12の位置及び寸法が定められている。なお,上記移行部を形成する隣接せる二つの面は平坦面に限らず,曲面であってもよい。 また,移行部が角部となっていなくとも丸味を有していてもよい。」(同【0019】),「上記加圧角部12のフレキシブル基板Fへの加圧力は,当然のことながら,該加圧角部12が回動支持部5の中心5Aの垂線上に到達したときに最大値をとる。」(同【0022】)との記載がある。 これらの記載と,本件特許3公報【図3】ないし【図6】の各図示内容を合わせ考慮すると,加圧部材は,距離が短い隣接面がフレキシブル基板に対向する位置にあるときは加圧しないが,距離が長い隣接面がフレキシブル基板に対向する位置にあるときは,「移行部」に相当する突部12により加圧するものであるから,構成要件3-Dにおける「回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部」とは,回動支持部5の中心5Aを通る回動軸線からの距離が短い隣接面と距離が長い隣接面とが互いに角度をもって突部12(加圧角部12あるいは加圧突部12)に連なっていることを規定しており,すなわち,回動軸線からの距離が異なる二つの面が交叉・連絡する移行部(加圧角部12あるいは加圧突部12)が,「二つの隣接面が連絡する移行部」すなわち「加圧部」であると認められる。 イ 被告は,構成要件3-Dの「二つの隣接面が連絡する」及び「二つの隣接面が連絡する移行部」の意味が不明であると主張する。しかし,両者の意味は,上記のとおり明確であり,被告の主張は採用し得ない。 ウ 構成要件3-Dにおける「回動軸線」とは,上記のとおり,回動支持部5の中心5Aを通る回動軸線を意味するものであるから,イ号物件及びロ号物件においては,回動案内部の回動中心5Aを通る回動軸線がこれに該当し,ハ号物件においては,回動案内部5の湾曲面が加圧部材に当接する回動中心5Aを通る回動軸線がこれに該当する。 構成要件3-Dにおける「回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面」とは,上記のとおりであるから,イ号物件及びロ号物件においては,別紙物件説明図の【図イ3】及び【図ロ3】中の拡大図に示すとおり,回動軸線から距離(d1 (4) 争点3-4(被告各物件は,「該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し」(構成要件3-E)を充足するか。)について ア 本件特許3明細書の「特許請求の範囲」【請求項1】の記載によれば,「支持部」は,「フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部の位置よりも奥部に」位置し,「加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっている」ものである。 この【請求項1】の記載及び本件特許3明細書の発明の詳細な説明の【0012】の記載から明らかなように,本件特許発明3は,フレキシブル基板を下面から弾性接触子と支持部の二支点で支持するとともに,当該二支点間において,上面から移行部が加圧して保持するというものであり,構成要件3-E及び同Fの「支持部」の技術的意義は,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,接触子の弾性接触子と共にフレキシブル基板の下面側で二支点を形成することにあるというべきである。 イ 別紙物件説明図【図イ7】,【図ロ7】,【図ハ7】によると,被告各物件において,@ハウジング1は,フレキシブル基板Fの挿入方向にて弾性接触部4Aの位置よりも奥部にテーパ部1Bを有していること,A加圧部材7を所定位置とした状態におけるフレキシブル基板Fは,下面において弾性接触部4Aとテーパ部1Bとの二支点で支持されており,上面において,前記二支点間の位置で突部12に加圧されていることが認められる。また,被告各物件における「弾性接触部4A」,「突部12」が,本件特許発明3の「弾性接触子」,「移行部」に相当することは明らかである。 以上によると,被告各物件においては,フレキシブル基板Fを弾性接触部4Aとテーパ部1Bの二支点で支持すると共に,当該二支点間において突部12が加圧して保持する構造を有するから,被告各物件の「テーパ部1B」は,本件特許発明3の構成要件3-E「該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部」に相当すると認められる。 ウ 被告は,被告各物件においては,フレキシブル基板の先端部は,弾性接触部とハウジングの奥部の壁面との間(接触有効長内)に位置すればよく,テーパ部1Bは,保持状態においてはフレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持しないなどと主張する。しかし,争点1において述べたとおり,被告のこの主張は,被告各物件の具体的構成に反する主張であって,採用することができない。 (5) 争点3-5(被告各物件は,「該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して」(構成要件3-F)を充足するか。)について ア 本件特許発明3は,争点3-4において認定したとおり,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,フレキシブル基板を下面から弾性接触部と支持部の二支点で支持するとともに,当該二支点間において,上面から,移行部が加圧して保持するというものであり,支持部は,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,接触子の弾性接触部と共にフレキシブル基板の下面側で二支点を形成するものである。 イ 被告各物件においては,争点3-4において認定したとおり,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,フレキシブル基板Fを弾性接触部4Aとテーパ部1Bの二支点で支持すると共に,当該二支点間において突部12が加圧して保持する構造を有するから,被告各物件は,「フレキシブル基板の下面側で二支点を形成して」(構成要件3-F)の構成を充足するものと認められる。 ウ 被告は,構成要件3-Fの「フレキシブル基板の下面側で二支点を形成する」との文言は,意味不明というべきである,と主張する。しかし,本件特許3明細書の各記載によると,「フレキシブル基板の下面側で二支点を形成する」との文言は,前記のとおりの意味を有するものと認められ,これを意味不明なものということはできない。 被告は,構成要件3-Fにおいては,加圧部材の移行部が,開放位置から回動を開始し,フレキシブル基板に最初に当接する当接開始点は,接触子3の弾性接触部とハウジングの支持部の二支点の間に位置し,その後,所定位置まで回動せしめたときにおいても,その移行部が当該二支点の間に位置すること想定しているというべきである,と主張する。しかし,本件特許3明細書の実施例において,フレキシブル基板に最初に当接する当接開始点が,接触子3の弾性接触部とハウジングの支持部の二支点の間に位置し,その後,所定位置まで回動せしめたときにおいても,その移行部が当該二支点の間に位置するとの構成が記載されているものの(甲3【0012】),【請求項1】は,単に,「加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっている」と規定しているだけであり,加圧部材の移行部の当接開始点における位置については何も規定していない。被告の上記主張は,本件特許発明3の実施例についての記載にすぎないものを本件特許発明3の構成要件とすることを求めるものであり,採用することはできない。 被告は,被告各物件は,争点3-4において述べたとおり,本件特許発明3の「支持部」に相当する構成を備えておらず,本件特許発明3とは異なる原理によってフレキシブル基板Fを狭持している,と主張する。しかし,被告各物件が,「支持部」に相当する「テーパ部1B」を有することは,争点3-4において認定したとおりであり,被告の上記主張は採用し得ない。 被告は,被告各物件においては,弾性接触部が回動中心よりハウジング奥側にあるため,加圧力を除去しても,弾性接触部からの支持力により加圧部材は閉じる方向のモーメントを受けて加圧時と同じ状態でフレキシブル基板Fを保持するため,ハウジング奥部のテーパ部はフレキシブル基板Fの狭持保持には何ら寄与しない構成要素である,と主張する。しかし,被告各物件においては,「支持部」に相当する「テーパ部1B」が,加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに,接触子の弾性接触部4Aと共にフレキシブル基板Fの下面側で二支点を形成するものであるから,被告各物件の「テーパ部1B」が,フレキシブル基板の挟持・保持に何ら寄与していないものということはできない。 被告は,被告各物件の加圧部材のフレキシブル基板Fへの押圧力は,隣接面S2を介して与えられるのであって,突部12は,フレキシブル基板を上面側から加圧しない,と主張する。しかし,被告各物件における突部12は,隣接面S2に連設された部分であるから,フレキシブル基板への押圧力が,隣設面S2を介して与えられる場合には,突部12を介しても与えられているものというべきである。 被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (6) 争点3-6(ハ号物件に特有の構成は,構成要件3-A,3-Bを充足するか。)について ア 被告は,ハ号物件の回動案内部5が,ハウジングの開口部に突出し,張出しているため,回動案内部5の先端側に設けられた凹状の弾性軸受部は,本件特許発明3の構成要件3-Aの「上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え」との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件特許発明3の「ハウジングの開口部」とは,ハウジングと両端の保持部に囲まれた,フレキシブル基板を挿入するための空間であり,加圧部材が所定位置まで回動してフレキシブル基板を押圧狭持することによりふさがれる空間でもあり,加圧部材の回動を支持する回動支持部の目の前にあり,いわば,回動支持部が上方から見下ろす空間であると解すべきことは前記のとおりであり,ハ号物件においても,回動案内部5及び弾性軸受部は,ハウジングの前方に突出,張出しているとしても,フレキシブル基板を挿入するための空間(ハウジングの奥部からみれば斜め上方の空間)を上方から見下ろしているものと認められることは,イ号,ロ号物件と同様である。換言すれば,ハ号物件の回動案内部5及び弾性軸受部は,フレキシブル基板を挿入するための空間であるハウジングの開口部を目の前にした位置に設けられていると認められるのであり,「開口部に臨む位置に設けられた回動支持部」の構成を充足するものである。 イ 被告は,ハ号物件のハウジングの開口部に突出し,張出した回動案内部5に設けられた凹状の弾性軸受部は,加圧部材に設けられたカム状軸部と係合しており,加圧部材が開位置から閉位置に向かって回動することに伴うカム状軸部の回動に追随して上下方向に弾性変形するようになっており,このようなカム構造を有するカム状軸の回転によって上下に押し広げられる凹状の弾性軸受部は,本件特許発明3の構成要件3-Bの「加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され」との構成を充足しない,と主張する。 しかし,本件特許発明3の構成要件3-Bにおける「加圧部材が回動支持部により回動自在に支持され」とは,回動支持部が,加圧部材の回動において接触部からの反力を受けたときにその力に対向し,加圧部材を支持しながらその回動を案内することを意味するのである。被告が主張するように,ハ号物件においては,加圧部材のカム状軸の回転によって,回動支持部に該当する凹状の弾性軸受部が上下に押し広げられることにより若干の変位が存在するとしても,ハ号物件の弾性軸受部が加圧部材の回動を支持していることに変わりはないのであるから,加圧部材を回動自在に支持しているハ号物件の弾性軸受部が,構成要件3-Bを充足することは明らかである。 (7) まとめ 以上によれば,被告各物件は,いずれも本件特許発明3のすべての構成要件を充足するものと認められるから(被告各物件が前記に認定した以外の構成要件を充足することは前記のとおり当事者間に争いがない。),いずれも本件特許発明3の技術的範囲に属するものと認められる。 4 争点4(イ号物件は,本件特許発明4の技術的範囲に属するか。)について (1) 争点4-1(イ号物件は,「開口部の両端側位置に回動支持部を備え」(構成要件4-A)を充足するか。)について ア 本件特許4明細書の「特許請求の範囲」【請求項1】においては,「開口部」については,「隣接せる二辺の部分で連通して開口」するもので,「弾性接触部が配列された」ものであり(構成要件4-@),また,「ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記接触子の配列方向にて上記開口部の両端側位置に回動支持部を備え,」(構成要件4-A),さらに,「上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板」(構成要件4-C)との記載がある。 また,本件特許4明細書の【実施例】として「図において,符号1は,絶縁材料から成るハウジングであり,左半分が上方に向け開口している。該ハウジング1図1及び図2に見られるように,その長手方向にて上記開口部の両端位置の上部にフランジ状の保持部2を有しており,該保持部2の奥側の端面に半円状凹部をなす回動支持部2Aが形成されている。上記保持部2はその下部にて溝部2Bが深く形成され片持ち梁状をなしていて,上記回動支持部2Aに上向きの力が作用したときに,該回動支持部2Aの中心が若干上方に移動するように,弾性変形可能となっている。」(甲5【0014】)との記載がある。 以上の本件特許4明細書の各記載によれば,本件特許発明4の「開口部の両端側位置に回動支持部を備え」(構成要件4-A)における「開口部」とは,ハウジング1と保持部2に囲まれた,上方が開口した空間であり,また,弾性接触部が配列され,フレキシブル基板を挿入するためのものであること,及び,その保持部2の奥の内側には,加圧部の軸部9が挿入される凹状の回動支持部2Aが形成されていることが認められる(この回動支持部2Aは,「上記接触子に近接した閉位置と該接触子から離反した開位置との間で加圧部材が上記回動支持部により回動自在となるように支持され,」(構成要件4-B)るものである。)。 イ 別紙物件説明図記載のイ号物件の具体的構成からすると,同物件には,ハウジング1と保持部2に囲まれた,上方が開口した空間であり,また,弾性接触部が配列され,フレキシブル基板を挿入するためのものである開口部が存在すること,及び,その保持部2の奥の内側には,加圧部の軸部9Aが挿入される凹状の回動支持部2Aが形成されていることが認められる。この保持部2の内側が「開口部の両端側位置に」当たることは明らかであるから,イ号物件は,「開口部の両端側位置に回動支持部を備え」(構成要件4-A)との構成を充足することは明らかである。 被告は,イ号物件のハウジングの開口部は,加圧部材が取り付けられると,軸部取付部の内側側面が位置する面で終了しており,保持部2は,その加圧部材の更に外側に位置するように形成されているから,回動支持部2Aは,「開口部の両側端位置に」備えられていないと主張する。しかし,イ号物件の回動支持部2Aが開口部の両端側位置に設けられていることは前記のとおりである。被告の主張によれば,本件特許発明4の実施例における「回動支持部2A」も,「開口部の両側端位置に」備えられていないことになるのであり,その主張は採用することができない。 (2) 争点4-2(イ号物件は,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)を充足するか。)について ア 本件特許4明細書の「特許請求の範囲」の【請求項1】の記載によれば,「加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有し,上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行くように設けられている」ものと規定されている。 イ また,本件特許4明細書の発明の詳細な説明においては,【発明が解決しようとする課題】として,「……しかしながら,作業者によっては,上記所定の開位置に達した後にもトルクを加えることがある。その場合には,図13において,上記反力が作用する当接部分51Aの位置から距離Lを腕の長さとしてトルクが加圧部材に加わることとなる。この距離Lは,開放のためのトルクを十分に得るように通常L>Tに設定されているために,過度に回動させんとするトルクも大きなものとなる。」(【0006】),「その結果,軸線52Aの両端における軸部53Aあるいはハウジングの支持部を破壊してしまい,加圧部材がハウジングから外れてしまうという不具合があった。コネクタが小型化するとその(不具合)の傾向は大きくなる。」(【0007】),「本発明は,かかる従来のフレキシブル基板用電気コネクタが有していた問題を解決し,開放が所定位置までなされて加圧部材がハウジングと当接して反力を受けるときに,加圧部材を過度に回動させんとするトルクを抑制するフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的とする。」(【0008】)との記載があり,【作用】として,「かかる構成の本発明にあっては,フレキシブル基板をコネクタの開口部に挿入する際に,加圧部材は開位置に向けて回動され,所定の開位置にて当接部がハウジングと当接し,過度の回動(開放)を阻止する反力をハウジングから受ける。」(【0010】),「上記当接部がハウジングと当接開始時点を過ぎても作業者により加圧部材に回動トルクが加えられると,本発明では上記当接部のハウジングとの当接領域が回動軸線から離れるように移動する。したがって,該力は上記反力の作用点からの距離をモーメントの腕の長さとしてトルクを生ずるので,過度の回動を与える力が加圧部材に作用しても,当接前に比し該腕の長さが短くなる結果,該トルクも小さくなり,加圧部材の回動支持部を破壊してしまうことがなくなる。」(【0011】)との記載がある。また,【実施例】として,「図において,符号1は,絶縁材料から成るハウジングであり,左半分が上方に向け開口している。該ハウジング1は図1及び図2に見られるように,その長手方向にて上記開口部の両端位置の上部にフランジ状の保持部2を有しており,該保持部2の奥側の端面に半円状凹部をなす回動支持部2Aが形成されている。上記保持部2はその下部にて溝部2Bが深く形成され片持ち梁状をなしていて,上記回動支持部2Aに上向きの力が作用したときに,該回動支持部2Aの中心が若干上方に移動するように,弾性変形可能となっている。」(【0014】),「上記加圧部材7の上面は,上記回動被案内部11から連続して斜面7Aが延びていて,該加圧部材7が開方向に回動した際に,その回動角が図4に示されるごとく90°以上となるようにして上記斜面7Aが当接面としてハウジング1の前縁部1Dに当接するようになっている。」(【0017】),「B次に,上記フレキシブル基板Fを交換のため又は上記@において新規フレキシブル基板の挿入に備えて開口部を開放するためには,図4のごとく加圧部材7を上方に回動する。該加圧部材7は回動被案内部11及び両端の軸部9にて回動案内され,斜面7Aがハウジング1の前縁部1Dに当接する。この時点で加圧部材7に依然として回動モーメントが作用している場合,このモーメントの腕の長さは上記当接の瞬間までは図4のごとく,前縁部1Dから加圧部材7の先端までの距離Lで長いものであり,したがって上記モーメントも大きい。」(【0022】),「C本実施例において,作業者によって加圧部材7へのこの回動モーメントが上記当接の後にも維持されると,上記前縁部1Dを支点として保持部2を上方に撓ませるモーメントを軸部9にもたらし,図5のように該軸部9が上方に変位する。したがって,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる。その結果,この時点で上記加圧部材7に作用するモーメントの腕の長さLは,図5のごとく,上記斜面7Aの端部から加圧部材7の先端までの距離となり,きわめて短くなる。このことは,加圧部材7をさらに回動させんとするモーメントがきわめて小さくなり,軸部9の負担荷重が軽減し該軸部9が破壊されることがなくなることを意味する。」(【0023】)との記載があり,【発明の効果】として,「本発明は,以上説明したごとく,加圧部材を開位置にもたらす際に,加圧部材とハウジングとの当接領域の位置が回動軸線から離れるようになっているので,加圧部材を過度に回動せしめんとするトルクは次第に小さくなり,回動支持部を損傷するということがなくなる。また,加圧部材の初期のハウジングとの当接時に回動のためのトルクを受けて支持部が弾性変形するようにすれば,上記当接位置の移動を大きくすることができ,その効果も著しい。」(【0026】)との記載がある。また,同明細書【図5】には,加圧部材7の斜面7Aが,ハウジング1の上面部1Cに当接しているものとして図示されている(甲5)。 ウ 以上によると,構成要件4-Eの「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」とは,加圧部材の「開放が所定位置までなされて加圧部材がハウジングと当接して反力を受けるときに,加圧部材を過度に回動させんとするトルクを抑制するフレキシブル基板用電気コネクタを提供することを目的」として,「当接部のハウジングとの当接領域が回動軸線から離れるように移動」し,「軸部9が上方に変位することにより,加圧部材7の回動被案内部11は回動案内部5から外れ上方にもち上がり,加圧部材7の当接面たる斜面7Aがハウジング1の上面と接面するようになる」構成,すなわち,加圧部材が所定位置から開放位置に回動する際,当接領域が,加圧部材の開放角度の増大に伴い,回動支持部の中心を結ぶ軸線の位置から外側に離れて行くようになっていることを意味し,それは,加圧部材を開方向に所定角以上回動した際に,ハウジングと当接する当接部を加圧部材の加圧部と反対側の面に設けることにより実現しているものというべきである。 エ 証拠(甲8,9,甲11の1ないし3,甲16,検甲1ないし3,検乙1,2,11)及び別紙物件目録(【図イ8】及び【図イ9】を除く。)に図示されているイ号物件の具体的構成を総合すると,イ号物件においては,加圧部材の閉位置からハウジングに当接するまでの間,一つの直線を構成する回動支持部(軸支部)2Aと回動案内部の回動中心5Aを結ぶ軸線が「上記回動軸線位置」に相当するものであること,及び,加圧部材7の斜面7Aとハウジング1との当接領域は,ハウジング1の前縁部1Dにおいて当接した後,更に開方向に回動させると,加圧部材7の当接面である加圧部材の斜面7Aがハウジング1の上面部1Cと接面するようになり,更に力を加えて開方向に回動させると,前縁部1Dから接面した加圧部材の斜面7Aの後部を支点として前部が持ち上がるため,当接領域は加圧部材7の開方向への回動角の増大に従って,前記の軸線の位置から離れていくことが認められる。したがって,イ号物件は,別紙物件説明図記載【図イ8】及び【図イ9】に図示された構成を備えており,また,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)との構成を充足するものと認められる。 オ 被告は,@イ号物件は,加圧部材を開位置にした場合,更にその位置から開く方向に回動することは設計上想定されていない,Aイ号物件の加圧部材の斜面7Aがハウジング上面に接するまでの間は,仮に原告が主張するように回動軸が変位するとした場合であっても,加圧部材の開方向への回転角の増大が生じても,加圧部材のハウジング上面との当接部は最初の当接位置から変わらず,他方,加圧部材の開方向への回転角の増大に伴って回動軸が変位する以上は,当接部と回動軸線との距離は遠ざからないなどと主張する。しかし,前記各証拠によると,イ号物件においては,実際,開位置から更に開く方向に回動するのであるから,当該回動が設計上想定されていないものであるとはいえない。また,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」ことの技術的意義は,前記のとおり,加圧部材を開方向に所定角以上回動した際に,ハウジングと当接する当接部を加圧部材の加圧部と反対側の面に設けることにより実現しているものというべきであるから,イ号物件が上記認定のとおりの構造と作用を有している以上,同構成要件を充足することは明らかである。したがって,被告の主張はいずれも採用できない。 5 争点5(本件特許発明4は無効理由を有するか。)について (1) 記載要件不備について ア 争点4-2において述べたとおり,本件特許発明4の特許請求の範囲の記載及び本件特許4明細書の各記載を総合すれば,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)とは,当接領域が,加圧部材の開放角度の増大に伴い,回動支持部の中心を結ぶ軸線の位置から外側に離れて行くようになっていることを意味し,それは,加圧部材を開方向に所定角以上回動した際に,ハウジングと当接する当接部を加圧部材の加圧部と反対側の面に設けることにより実現しているものというべきである。 イ 本件特許4明細書実施例における図6ないし8には,本件特許発明4の実施例において,加圧部材7の回動角を増大していくと,最初に加圧部材の斜面7Aがハウジング1の前縁部1Dのみと当接し,次に加圧部材の斜面7Aがハウジング1の突起1Eに当接する状態となることが図示されていると認められる。そして,当該当接状態は,結果として回動軸線からみて前縁部1Dより遠い位置でも当接していることになるから,当接部が回動軸線位置から離れた位置であることが図示されているものと認められる。 ウ 同様に,本件特許4明細書実施例における図9ないし11には,本件特許発明4の実施例において,加圧部材7の回動角を増大していくと,最初に斜面7Bがハウジング1の前縁部1Dのみと当接し,次に7Cがハウジングの1Cに当接する状態となることが図示されている。そして,当該当接状態は,結果として回動軸線からみて前縁部1Dより遠い位置でも当接していることになるから,当接部が回動軸線位置から離れた位置であることが図示されているものと認められる。 エ 以上によると,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」(構成要件4-E)については,本件特許4明細書の詳細な説明に明確に記載され,また,同明細書の発明の詳細な説明には,同発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。 被告は,@本件特許4明細書の実施例は,それぞれ,実施例1については,当接部が加圧部材の回動角の増大に伴って次第に回動軸線位置から離れていくように設けられているとはいえず,請求項1の特許請求の範囲の記載と一致しなかったり,実施例2については,「上記当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」ようにするために,加圧部材が回動支持部によりどのように回動自在に支持されるのかについて,具体的な構造が全く示されていない,A同明細書の前記【0011】の記載は意味不明であるなどと主張する。しかし,実施例1についての被告の主張は,本件特許4明細書の実施例における図4に図示された状態から,加圧部材を開方向への回転角を増大するようにしていき,図5に図示された状態に至る前までの状態における,当接部と回動軸線との距離を前提とするものである。すなわち,被告は,回動の過程における一時点における状態を前提として,本件特許4明細書の記載と,本件特許発明4の特許請求の範囲が矛盾すると主張するものであって,相当ではない。また,実施例2についての被告の主張は,仮に本件特許4明細書の各記載からは,回動支持部の具体的構造が不明確であったとしても,その一事をもって本件特許発明4の技術内容が不明瞭といえるものではない。本件特許4明細書の各記載を総合すれば,一定程度加撓性を有する部材により加圧部材を形成するなどにより,当業者が同明細書の前記【0025】に記載された技術事項を実現することができるものというべきである。さらに,同明細書の前記【0011】の記載が意味不明であるとの被告主張は,作用点である軸部にかかる力を意味すると解される「トルク」について,独自の見解を前提とするものであり,相当ではない。したがって,被告の主張は採用できない。 (2) 新規性・進歩性の主張について ア 本件特許権4の出願前の公知技術である引用例(乙24)には,以下の記載がある。 [産業上の利用分野]「この考案はフラット・ケーブル用コネクタ,より詳細にはプリント基板にFPCケーブルを接続するのに使用するフラット・ケーブル用コネクタに関する。」 [考案の構成]「……第1図に示すように,この考案のフラット・ケーブル用コネクタ10は絶縁体製のハウジング本体12と可動側壁部14とを具備する。ハウジング本体12は長手方向に伸長する固定側壁部16と,その長手方向の両端において一体に構成したフランジ部18と,固定側壁部16と中空部20を介して両フランジ部18間に伸長する基底部22とから成っている。固定側壁部16の中空部20側の側面,すなわち内面は直立壁に形成してあって,この中空部20に,一定の間隔をとって複数個のコンタクトの端子24が配列してある。 可動側壁部14は,これを第2図に示すように,固定側壁部16に対して開放した位置にし,可動側壁部14と固定側壁部16との間の中空部20の一部にフラット・ケーブルFを挿入して,可動側壁部14を,第3図に示すように,回動して閉塞位置にすることによって,ケーブルF中の導体をコンタクトの端子24に圧着する。 そのために,可動側壁部14の両端は外方に突出する軸部26にしてあり,ハウジング本体12の両端のフランジ部18に形成した軸受部28に嵌装するようにしてある。」 また,引用例図2及び図3には,@可動側壁部14は,閉塞位置方向の回動によりケーブルFをコンタクトの端子24に対して圧する突部により形成される加圧部を有していること,A可動側壁部の回動角を増大していくと,当該可動側壁部の加圧部との反対側の面は,基底部22の上端に当接するものであることが図示されている。 イ 33671号公報(乙25)には,以下の記載がある。 (実用新案登録請求の範囲)「ケーブルに接触するための接触部を有したコンタクト,該コンタクトを保持したインシュレータ,及び上記ケーブルを上記接触部に押付けるための操作子とを含むケーブルコネクタにおいて,上位操作子は上記接触部に局面が対向した状態で上記インシュレータにモーメント軸より回動可能に保持されたロータと,該ロータの周面の一部に備えられた操作部と,上記ロータの周面の他部に備えられ,上記ケーブルを上記接触部に向けて押圧する作用部とを有し,上記モーメント軸は上記作用部を上記接触部に押圧した状態において該接触部より反力を受けて上記作用部が上記接触部に向けて押圧される方向のモーメントを有する位置にあることを特徴とするケーブル用コネクタ」 [実施例]「……先ず,インシュレータ53にコンタクト51を圧入固定する。また操作子55をインシュレータ53の上方から両側壁部71の間に挿入する。その際,ロータ55aの軸75は,インシュレータ53の両側側壁71の上部を互いに広げる向きに変形させながら軸穴77に嵌め込まれる。」(第5欄17ないし23行) 「操作部55bをインシュレータ53の外側に回転させると,……ケーブル押圧面79が傾斜して溝部56の上部が大きく開口し,ケーブルを上部から容易に挿入できるようになる。操作部55bがインシュレータ53の切欠け部69の水平面に当たると,ロータ55aの回動は阻止される。」(第5欄第24ないし30行) ウ 本件特許発明4と引用考案との一致点は,次のとおりである。 引用考案の,「ハウジング本体12」,「フランジ部18」,「可動側壁部14」,「フラット・ケーブルF」,「コンタクト」,「コンタクトの端子24」は,それぞれ本件特許発明4の「ハウジング1」,「回動支持部」,「加圧部材」,「フレキシブル基板」,「接触子」,「接触部材」に相当する。したがって,引用考案と本件特許発明4とは,「隣接せる二辺の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し,ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記接触子の配列方向にて上記開口部の両端側位置に回動支持部を備え,上記接触子に近接した閉位置と該接触子から離反した開位置との間で加圧部材が上記回動支持部により回動自在となるように支持され,該加圧部材は上記所定閉位置に向け,閉方向の回動により,上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する突部により形成される加圧部を有するものにおいて,加圧部材は上記閉位置から離反するように開方向に所定角以上回動した際にハウジングと当接する当接部を上記加圧部と反対側の面に有しているフレキシブル基板用電気コネクタ。」という点で一致する。 エ 本件特許発明4と,引用考案は,本件特許発明4において,該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い回動軸線位置から離れているように設けられているのに対し,引用考案は,当該構成を有しない点で相違する。 オ 33671号公報の考案は,前記のとおり,組立て作業の際,コネクタのインシュレータ(本件特許発明4の「ハウジング」に相当する。)の左右両端の側壁を押し広げる形式のコネクタに関する考案であり,可動式の蓋の過剰回動の技術的課題を解決することを目的とした本件特許発明4とは技術思想が異なるものであり,33671号公報の考案においては,「該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い回動軸線位置から離れているように設けられている」という構造を有しておらず,同公報には,このような構成を示唆する記載も存しない。 以上によれば,本件特許発明4は,引用考案と同一の発明であると認めることはできず,また,引用考案と33671号公報の考案を組み合わせることにより当業者が本件特許発明4に容易に想到するものと認めることはできない。 被告は,引用例第2図には,「当接部は該当接部とハウジングとの当接領域が開方向への加圧部材の回動角の増大に伴い上記回動軸線位置から離れて行く」構造が開示されているなどと主張するが,引用例のその他の各記載を総合すると,同図は,単に可動側壁部14を,ハウジング本体12に対して最大限開口した状態を図示しているものにすぎず,それ以上に,回動軸の増大に伴って,ハウジングとの当接領域が回動軸線位置から離れて行く構造についての記載も示唆もないというべきであるから,被告の主張は採用できない。 (3) 訂正請求について ア 本件特許発明についての無効審判請求事件(無効2004-80144号)の平成17年4月18日の第1回口頭審理手続において,特許庁審判長は,本件特許発明4は,「回動支持部の構成が明瞭に記載されていないため,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が不明確である。なお,請求項1には,回動支持部が弾性変形するとともに,加圧部材の回動被案内部が接触子の回動案内部から外れる点の規定及び回動角の増大範囲が過剰回動範囲を含むものである規定が記載されていない。また,通常のコネクタは,『回動支持部が弾性変形する』ような構成を有しているとはいえない。」として,特許法36条5項2号の要件を満たさない旨の無効理由通知をした(乙33)。原告は,これに対し,平成17年5月17日,訂正請求書(甲22)及び意見書(甲23)を提出した。 イ 同無効理由通知に記載された無効理由は,本件訴訟における被告の主張とは異なるものである。当裁判所は,同無効理由通知及び原告による訂正請求について慎重に検討したところ,同訂正請求は認められ,その場合,上記無効理由通知に指摘されている無効理由が解消される蓋然性が高いものと考える。そして,訂正後の特許請求の範囲の請求項1を前提としても,イ号物件が本件特許発明4の技術的範囲に属するという結論は左右されないものと思料する。 6 争点6(損害)について (1) 被告各物件の売上額 本件実用新案権は平成10年6月19日に,本件特許権3は平成9年9月5日に,本件特許権4は平成10年8月14日に,それぞれ登録されている。イ号物件については,本件特許権3の登録日(平成9年9月5日)以前から,ロ号物件については,本件特許権3の登録日の後の平成10年4月から,ハ号物件については,本件実用新案権の登録日(平成10年6月19日)の後の平成13年4月から,それぞれ製造販売が開始され,平成16年10月までの被告各物件の売上額合計等が,別紙「イ,ロ,ハ号物件売上額(97.9〜04.10)」記載のとおりであることは,当事者間に争いがない。 (2) 本件各権利の実施料率について ア フレキシブル基板用電気コネクタは,基板実装設計の自由度を大きく取ることができ,機器の小型化,薄型化に対応しやすいなどの理由により,近年広く使用されている(甲33)。原告の平成15年3月ころの売上高営業利益率は,デジタル家電や高機能携帯電話向けコネクタの高需要により,30パーセントであった(甲24)。原告は,「連結売上高経常利益率30パーセント,3年以内に発売した新製品の比率30パーセント,損益分岐点比率50パーセント」の目標を掲げ,景気の影響を受けることはあるものの,ほぼ目標に近い実績を上げており,利益率30パーセントを確保できない製品からは手を引くという独自の営業政策により,平成15年3月期の全国上場企業を対象とした調査において,原告の連結売上高経常利益率は第6位,一人当たりの営業利益率は第6位である(甲26〜29)。 イ いわゆる会社情報文献(日経会社情報 2003 V 夏号 甲24)において,被告の収益構成は,「コネクタ68,航空・宇宙用電子機器13,システム機器18,光デバイス他1」であると紹介され,「平成15年には,光デバイスなどは伸びないが,ノートPCや液晶,携帯電話向け中心にコネクターの販売が1割強増え,営業利益は84億円に増し,純利益も増えており,その後も好採算のコネクタが堅調である」と紹介されている。また,被告は,平成15年度決算におけるコネクタ事業の営業利益率は15.3パーセント,平成16年度決算におけるコネクタ事業の利益率は13.2パーセントであると発表している(甲19,30)。したがって,被告は,被告各物件の属するコネクタ事業において,少なくとも10パーセント以上の収益を挙げているものと認められる。 ウ 本件各権利の技術的意義,原告及び被告の経営状況,フレキシブル基板用コネクタ市場の状況,コネクタ事業の利益率(特に原告のコネクタ部門の利益率が極めて高いこと)などを総合考慮すると,本件各考案,本件特許発明3及び本件特許発明4のいずれもが第三者に実施許諾された場合の実施料率は,少なくとも10パーセント,本件各考案及び本件特許発明3のいずれもが第三者に実施許諾された場合の実施料率は,少なくとも7パーセント,本件特許発明3が第三者に実施許諾された場合の実施料率は,少なくとも2パーセントを,それぞれ下らないというべきである。なお,被告は,被告の利益率は,別紙被告利益率目録記載のとおりであると主張するが,これを裏付けるに足りる証拠は提出されておらず,同目録記載の各利益率は,被告自らが決算及び会社説明会用として作成した資料(甲19,30)の各記載とも相違するものであるから,被告の主張は採用できない。 (3) 原告の損害額及び被告の不当利得額合計について ア イ号物件について 前記のとおり,イ号物件は,本件各考案及び本件特許発明3及び4の,各技術的範囲に属するものである。 a) 平成9年9月5日(本件特許権3登録日)から平成10年6月18日(本件実用新案権登録日の前日)まで。 上記期間においては,イ号物件は本件特許権3のみを侵害しているものであるから,被告の不当利得額は,当該期間中のイ号物件売上合計の2%相当額である518万4359円(@円単位未満四捨五入,A1年を365日とする日割り計算,B平成9年9月5日から平成10年3月31日までの売上については,平成9年9月1日から平成10年3月31日までの売上小計額に基づいて212日を基準とする日割り計算により算出した。なお,以下の各計算についても同様とする。)と認められる。 (計算式){(1億5957万8000円×208÷212)+(4億7427万3000円×79÷365)}×2%=518万4359円 b) 平成10年6月19日(本件実用新案権登録日)から平成10年8月13日(本件特許権4登録日の前日)まで。 上記期間においては,イ号物件は本件特許権3及び本件実用新案権をそれぞれ侵害しているものであるから,被告の不当利得額は,当該期間中のイ号物件売上合計の7%相当額である509万3562円と認められる。 (計算式)4億7427万3000円×(56÷365)×7%=509万3562円 c) 平成10年8月14日(本件特許権4登録日)以降。 上記期間においては,イ号物件は本件各権利をいずれも侵害しているものであるから,被告の不当利得額ないし原告の損害額合計は,当該期間中のイ号物件売上合計の10%相当額である3億1252万4856円と認められる。 (計算式){(4億7427万3000円×230÷365)+28億2639万2000円}×10%=3億1252万4896円 d) 合計 3億2280万2817円 イ ロ号物件について 前記のとおりロ号物件は,本件各考案及び本件特許発明3の,各技術的範囲に属するものである。 a) 平成9年9月5日(本件特許権3登録日)から平成10年6月18日(本件実用新案権登録日の前日)まで。 上記期間においては,ロ号物件は本件特許権3のみを侵害しているものであるから,被告の不当利得額は,当該期間中のロ号物件売上合計の2%相当額である58万4327円と認められる。 (計算式){(13万7000円×208÷212)+(1億3436万6000円×79÷365)}×2%=58万4327円 b) 平成10年6月19日(本件実用新案権登録日)以降について。 上記期間においては,ロ号物件は本件特許権3及び本件実用新案権をそれぞれ侵害しているものであるから,被告の不当利得額ないし原告の損害額合計は,当該期間中のロ号物件売上合計の7%相当額である2億3184万3783円と認められる。 (計算式) {(1億3436万6000円×286÷365)+32億0677万円}7%=2億3184万3783円 c) 合計 2億3242万8110円 ウ ハ号物件について 前記のとおり,ハ号物件は,本件各考案及び本件特許発明3の,各技術的範囲に属するものである。また,ハ号物件は,平成13年4月から製造販売が開始されたものである。したがって,ハ号物件は本件特許権3及び本件実用新案権をそれぞれ侵害しているものであるから,原告の損害額合計は,ハ号物件の売上合計の7%相当額である131万2150円と認められる。 (計算式)1874万5000円×7%=131万2150円 エ 総計 上記の各合計額を総計すると,当該期間における原告の損害及び被告の不当利得額総計は,少なくとも5億5654万3077円を下らないものと認められる。 本件訴訟において,原告は,被告に対し,上記損害金及び不当利得金の合計額のうち金3億8300万円の支払を求めるものである。 |
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結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担については,民訴法61条を,仮執行の宣言については同法259条を適用し,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂隆一 |
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裁判官 | 荒井章光 |
裁判官 | 吉川泉 |