関連ワード | 技術的範囲 / 権利濫用(権利の濫用) / 考案 / 図面 / 構造 / 補正 / 進歩性(3条2項) / 新規性(3条1項) / 公然実施 / 拒絶理由 / 通常実施権 / 削除 / 実施例 / 公知技術 / 設計変更 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(ネ)
5254号
実用新案権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人(原告) 株式会社多賀製作所 訴訟代理人弁護士 高橋 敬一郎 補佐人弁理士 吉田芳春 被控訴人(被告) 日特エンジニアリング株式会社 訴訟代理人弁護士 田倉整 補佐人弁理士 後藤政喜 同 松田嘉夫 同 飯田雅昭 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/09/10 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 原判決を取り消す。 被控訴人は,原判決別紙第1物件目録記載の自動巻線処理装置の製造,販売,貸与,使用及び販売・貸与の申し出を行ってはならない。 被控訴人は,自ら占有する前項記載の自動巻線処理装置を廃棄せよ。 被控訴人は,控訴人に対し,金7345万円及びこれに対する平成12年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文同旨 |
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事案の概要
本件は,自動巻線処理装置の実用新案権(登録番号第1985611号,本件実用新案権,この考案が本件考案)を有する控訴人が,原判決添付の別紙第1物件目録記載の装置(被告装置)を製造・販売する被控訴人に対し,被告装置が本件実用新案権の技術的範囲に属しており,被告装置の製造・販売は本件実用新案権を侵害すると主張して,本件実用新案権に基づき,前記第1の1と同旨の裁判を求めた事案である。 原判決は,本件考案の実用新案登録出願(昭和62年8月31日)前に,被控訴人が製造し,松下電工株式会社(以下「松下電工」という。)瀬戸工場に納入した装置(被告先行装置)は,本件考案の技術的範囲に属するので,被控訴人は先使用による通常実施権を有すること,また,上記被告先行装置の製造・納入により,本件考案は,その実用新案登録出願前に公然実施されていたものであり,本件考案には,明白な無効事由が存在するから,これに基づく請求は権利の濫用として許されないことを理由として,控訴人の請求を棄却する旨の判決をした。これに対して,控訴人が本件控訴を提起したものである。 「事案の概要」は,次の1,2のとおり当審における当事者の主張の要点を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」(ただし,原判決3頁15行〜24行及び4頁1行〜4行を除く。)のとおりであるから,これを引用する。なお,本判決においても原判決の用法に従い,「被告装置」,「本件実用新案権」,「本件明細書」,「本件公報」,「本件考案」,「被告先行装置」,「構成要件A@」などの各語を用いる。 1 当審における控訴人の主張(控訴理由)の要点 (1) 抗弁において対象とすべき被控訴人の先行実施製品の認定の誤り 原判決における被告先行装置(原判決別紙第2物件目録記載の自動巻線処理装置)は,乙第3号証に基づいて特定されているが,乙第3号証記載の装置は,被控訴人の先行装置としての実施品ではない。 ア 原判決は,「本件考案の実用新案登録出願前に被告が被告先行装置(別紙第2物件目録記載の自動巻線処理装置)を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがない。」旨の事実整理をし(原判決4頁1行〜4行),その前提で理由説示をしているが(原判決13頁16行〜17行,14頁6行〜7行),控訴人はこの事実を争ったものであり,原判決は誤っている。 なお,控訴人は,乙第5〜7号証によって特定される装置が先行実施品であると主張をしたが,この主張が原判決から欠落しており(原判決4頁18頁以下の(原告の主張)欄の記載は争う。),この主張に対する判断も示されていない。 イ 乙第3号証によって特定される被告先行装置(別紙第2物件目録記載の自動巻線処理装置)は,実施形跡がない。すなわち,被控訴人が松下電工瀬戸工場に納入し,稼働しているものは,乙第5〜7号証に示されたものである。乙第5号証では,松下電工工場長が「装置の構成は納入当時のままであり,現在も稼働中である」と陳述し,乙第6号証の管理記録,乙第7号証の公証人の記録と松下電工の課長の陳述によれば,乙第7号証の写真に示す構成が納入されており,これが被控訴人の先行実施品に該当することは明白である。 なお,乙第5〜7号証の装置と乙第3号証の装置(被告先行装置)とは,構成で相違している。すなわち,後者は,2機のパーツフィーダと2機のキャリア挿入装置が図示され(乙3),J型コイル及びC型コイル(C-30型コイルとC-50型コイルは兼用)の3種コイル専用の自動装填装置を備えている。これに対して,前者は,J型コイルと推認される1機のパーツフィーダと1機のキャリア挿入装置が撮影され(乙7),J型コイル専用の自動装填装置として実施したと認められるのである。 (2) 本件考案の技術的範囲の解釈の誤り 原判決は,自動装填装置と自動巻線装置の両者を連結して一体の着脱自在のユニットとし,1個のコンベアを備える構成としたものであっても本件考案の技術的範囲に含まれるなどと判示するものであって,これらは,本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が明瞭であるにもかかわらず,この記載を無視した上,請求の範囲の記載に包含されていない一実施例(第1図の実施例)の記載のみに依拠して技術的範囲を曲解するものであって,技術的範囲の解釈の基本原則を逸脱するものである。 ア 本件考案の構成要件を分説すると,次のとおりである(原判決3頁4行〜14行に記載のとおりで争いがない。なお,以下,原判決と同様に,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A@」ないし単に「A@」のように表記する。)。 A@ キャリアにボビンを自動装填する自動装填ユニットと, A ボビンに巻線を施す自動巻線ユニットと, B ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや絶縁チェック,更にコイル搬出等を行う複数の処理ユニットと, C キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え, B@ 前記各ユニットは着脱自在に配設され, A 各コンベアはキャリアを授受できるように各ユニット間においてその高さを揃えたこと C を特徴とする自動巻線処理装置。 本件考案における「ユニット」とは,構成要件A@の自動装填ユニット,AA自動巻線ユニット,AB複数の処理ユニットを含む概念であり,「処理ユニット」とは,ABの複数の処理ユニットであって,その1番目の処理ユニットAB1と複数番目の処理ユニットABNをいう。 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば,A@自動装填ユニットと,AA自動巻線ユニットと,AB複数の処理ユニットとがいわゆる「と書き」で表現され,それぞれ独立の構成要件として記載されている。巻線処理ラインは,ボビンをキャリアに自動装填した後に巻線を施すことが必要であるから,自動装填ユニットと自動巻線ユニットの存在が必須である。自動装填ユニットと自動巻線ユニットは,コイルの種類や形状等に応じてボビン外形が相違する上に巻線構造も種々存在するので,これらの要請に対応するために,それぞれ独立したユニットに構成されているのである。 ACの「キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え」という構成要件における「各ユニット」は,A@,AA,ABを前提として「各ユニット」と記載されているので,自動装填ユニットA@,自動巻線ユニットAA,複数の処理ユニットABを指すことが文言上極めて明瞭に示されている。A@,AAのみを除外する余地は皆無である。しかも,A@,AA,ABの「ユニット」とACの「各ユニット」が同一用語と認められる。ABのみが「各ユニット」であるとする解釈は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めるという基本原則から逸脱している。ACにおいて,「キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアを備え」と記載されているので,コンベアは,前記各ユニットにそれぞれ備えられることが必須である。なお,本件で補正する前の出願当初には,ACに対応する構成要件として,「各ユニットにはボビンが装填されるキャリアを各ユニット相互間において受け渡すためのコンベアをそれぞれ設けた」と記載されており,各ユニットにコンベアを設ける構成を明瞭に記載していた。ACのように補正されても,各ユニットにコンベアを備えることは否定されず,簡明に記載されているのである。被控訴人は,補正によって,「それぞれ」の文言が削除された点を取り上げて反論するが,コンベアがそれぞれに備えられることが文理上明白であるから,「それぞれ」の有無に左右されるわけではない。 構成要件B@では,「前記各ユニットは着脱自在に配設され」と記載されている。この各ユニットは,前記のとおり,A@,AA,ABを指すものと解釈され,A@,AAのみを除外する余地は皆無である。ABのみを「各ユニット」と解釈し,B@の記載にA@とAAが一体化しているものを包含するものと解釈するのは,前記解釈の基本原則を逸脱する。なお,補正前の当初の出願においては,B@に対応するものは,「上記各ユニットを脱着自在に連結すると共に」とされており,出願当初から,上記のように各ユニットが脱着自在とする構成を明瞭に記載していたのであり,上記各ユニットの独立性は明らかである。補正後も各ユニットの個別ないし独立性は引き継がれている。 構成要件BAの「各ユニット」についても,文理上,A@,AAのみを除外する余地は皆無である。 イ 原判決の誤りを具体的に指摘すると以下のとおりである。 (ア) 原判決は,「本件考案における自動巻線装置が,@コンベアを備えた複数のユニットを備えること,Aユニットが着脱自在に配設されていること」と認定するが(原判決9頁20行〜22行),@の点は,構成要件ACの「各ユニットに設けたコンベア」との文言に反するし,この「各」を無視した認定は,BAの記載とも矛盾し,Aの点も構成要件B@の記載から「前記各」の構成要素を脱落させており,誤っている。 また,「(なかでも,ボビンを自動装填する装置とボビンに巻線を施す自動巻線装置とを,それぞれ独立して着脱自在の別個の単体として構成し,それぞれに独自にコンベアを備えるものに限られるのか)という点は,文言上は必ずしも明らかでない。」とするが(原判決9頁下から2行〜10頁2行),構成要件BAに各ユニット間の各コンベアが明確に記載されているほか,実用新案登録請求の範囲の文言上,自動装填ユニットと自動巻線ユニットのそれぞれが独立して別個の単体として構成されていることは極めて明瞭である。また,自動装填装置は,コイルの種類に応じて交換しなければならないものであり,自動巻線装置は,コイルの種類の大部分で流用することができるものであるから,両者は,着脱自在な単体としてユニット化されなければならないことは自明であって,原判決はこの点を看過している。 (イ) 原判決は,10頁3行〜24行において,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の「考案が解決しようとする問題点」,「考案の効果」の記載を参酌しているが,実用新案登録請求の範囲の記載から明瞭なのであるから,これを無視することは前記基本原則に反する。 なお,上記の欄に「処理ユニット」について記載があるが,構成要件ABの処理ユニットに着目して言及しているにすぎない箇所である。「着脱自在なユニット」としては,構成要件A@の自動装填ユニットとAAの自動巻線ユニットと,ABの複数の処理ユニットとが必須要件であることは,上記の本件考案の効果の記載から明らかである。考案の詳細な説明欄の処理ユニットの記載箇所のみを根拠として本件考案の実用新案登録請求の範囲の明瞭な記載を無視して判断することはできない。なお,原判決3頁15行〜24行の本件考案の作用効果に関する記載も争う。 (ウ) 原判決は,「本件考案の効果を達成するためには,・・・装置のそれぞれが必ず個別に独立した着脱自在の単位体として構成されなければならないというわけではなく,・・・必ず生産ライン上で隣り合う場所に位置することが予定されている複数の装置については,個別に着脱することが想定されないから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することが当然に予定されているものと解するのが相当である。」と判示する(原判決11頁2行〜8行)。 しかし,本件考案特有の効果を達成するためには,装置のそれぞれが個別に独立した単位体(ユニット)として構成されていることが必要であって,原判決は,本件考案の特徴を無視している。また,隣り合う場所に位置することが予定されていたとしても,個別に着脱することが想定されないと判断することは当を得ていない。また,自動装填ユニットと自動巻線ユニットが隣り合っているので,一つの単位体として構成することができると断じることは,本件考案の構成要件でA@とAAが別個の構成要件として記載されていることを無視するものである。 (エ) 原判決は,「(コイルに施す異なる種類の操作と処理ユニットの関係については,実用新案登録請求の範囲に何ら記載されていないのであるから,この点は,明細書の他の部分の記載に照らして判断するのが相当であり,前記のように解するべきである。)」という(原判決11頁8行〜11行)。 しかし,これは誤りである。すなわち,本件考案の実用新案登録請求の範囲には,コイルに施す異なる種類の操作としては,A@キャリアへのボビンの自動装填と,AAボビンに巻線を施すことと,AB巻線が施されたコイルに例示としてテーピング,絶縁チェック,コイル搬出等の複数処理を操作することが記載されており,このように異なる種類の操作A@,AA,ABが順に記載され,各ユニットが着脱自在に配設され,各ユニットに設けられたコンベアでキャリアを受け渡すのであるから,上記の順に操作することが明らかであり,実用新案登録請求の範囲に記載されているのである。 (オ) 原判決は,「自動装填装置と自動巻線装置についても,一般にその間に何らかの作業を行うことは予定されていないものであるから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することも,本件考案において,想定されている」旨を判示する(原判決11頁13行〜16行)。 しかし,隣り合うことが予定される自動装填ユニットと自動巻線ユニットは,一般にその間に何らかの作業を行うことは予定されていないと断じ得ないばかりか,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの単位体として構成するとの判断にも無理がある。 すなわち,コイルの種類に応じてボビンや端子の形状,寸法あるいは位置関係がそれぞれ相違する。自動装填装置である以上は,これらコイルの相違に対応して必然的に交換される。よって,自動装填装置がコイルの種類に応じて対応し得るように着脱自在な単体としてユニット化されなければならないことは自明であって,交換の必要性があることは,技術的にも明らかである。これに対し,自動巻線装置は,線径や移動ストロークあるいはスピンドルのピッチなどが近似する範囲では,スプール台に線材が巻回されたリールを変えることなど,同一の自動巻線装置を大部分は流用することができるものである。原判決はこのことを看過している。 その上,自動装填装置と自動巻線装置との間には必要に応じた各種作業が予定されているのである。例えば,自動装填装置と自動巻線装置との間にボビンの胴部へテーピングするためのテーピングユニットを追加しなければならない場合(イグニッションコイルの一次コイル),自動装填装置と自動巻線装置との間に,端子を曲げ成形する端子曲げユニットを追加しなければならない場合,巻線処理スピードの向上や異線種の巻線などに対応するために,上記両装置の間に1又は複数の自動巻線ユニットを追加しなければならない場合などがある。原判決は,自動装填装置と自動巻線装置の間において,コイルの種類に応じた多数の作業が行われていることを看過している。 (カ) 原判決は,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の本件考案の実施例,特に第1図に基づく説示をした上(原判決11頁17行〜末行),「A@〜Bの「ユニット」はいずれもコイルに対する1種類の作業に対応する装置をいうが,AC及びB@における「各ユニット」については,いずれも,「各ユニットが必ず単独で」ということまでを意味するものではなく,「各ユニットが,それぞれ単独で,あるいは隣接するユニットと共に(共通のコンベアを備えるか,あるいは一体として着脱自在となっている)」ということを意味しているものと解するのが相当である。」と判断している(原判決12頁13行〜19行)。 しかし,A@,AA,ABにそれぞれユニットが記載され,構成要件ACに各ユニットにコンベアが備えられと記載され,構成要件B@に各ユニットの着脱性が記載され,構成要件BAに各ユニット間の「各コンベア」が明確に記載されているので,これらの文言上からもA@,AAの独自性は明らかである。本件考案の構成要件の記載が明瞭であるにもかかわらず,必ずしも明らかでないとした上,当初から本件考案に包含されていない一実施例に依拠し,重要な要旨である「ユニット」,「各ユニット」などの概念を勝手に変更していることは明らかである。 本件考案は,本件出願当初から,本件明細書の第5図を中心とする実施例に依拠して記載されているのであり,出願当初から第1図を中心とする実施例には依拠して記載されてはいない。特許庁の審査において,拒絶理由通知がされたのを受け,控訴人は,手続補正書及び意見書を提出し,登録されたという経緯があるが,意見書では,第1図の実施例を除外する明確な主張がされている。この審査経緯から,第1図を中心とする実施例は,特許庁の審査において除外されていたことは明らかである。ちなみに,意見書では,第5図に基づく一実施例としてではなく,本件考案の構成として記載されている。第5図に依拠するものとして,明確かつ客観的に記載されている。原審での主張においては,第5図の実施例に示す構成に依拠することを主張してあり,確かに,第1図を中心とする実施例には依拠して記載されていないとの主張はしていないが,「第1図の実施例に包含されていないユニットA@とAAとが別のコンベアにより連結されている本件考案の構成要素ACに依拠する」と主張しており,第1図の実施例に包含されないと主張していることと同じ意味である。 (3) 乙第5〜7号証に基づく被控訴人製品の構成と本件考案の内容との対比 前記(1)のとおり,抗弁において対象とすべき被控訴人の先行実施製品は,乙第5〜7号証によって特定される装置であるべきである。この製品は,次のような構成であり,本件考案とは異なっている。 すなわち,J型専用の1機の装填装置部分とJ型専用に調整された巻線装置部分とを一体に搭載したJ型装填巻線ラインユニットと,J型専用にボビン受け治具及びテープその他専用部品がセットされているJ型テーピングユニットと,J型専用にストロークや先端アタッチメントがセットされているJ型フラックス装置部分と,同様にセットされているJ型半田装置部分と,同様にセットされているJ型レアショート装置部分とを一体に搭載した半田関連装置を備え,これにJ型専用に先端アタッチメントをセットした排出装置部分を一体に搭載したJ型複数処理ラインユニットと,から構成されている。 J型装填巻線ラインユニットは,J型専用の1機のパーツフィーダからなる装填装置部分と,J型専用に調整された巻線装置部分とが分離不可分になっていた。あくまでもJ型の専用の自動装填と自動巻線の連続ラインを構成するものとして実施されていたことは明らかである。仮に,J型装填巻線ラインユニットをトランス用ボビン自動巻線処理ラインに交換しようとしても,採用し得ないことが明白であり,本件考案とは異なることが明らかである。 また,J型専用にストロークや先端アタッチメントがセットされることで,J型フラックス装置部分と,J型半田装置部分と,J型レアショート装置部分とが一体に搭載した半田関連装置を備え,これに続いて同様にセットした排出装置部分を一体に搭載することで複数の処理ラインユニットが一体不可分に構成されている。この場合にも,J型複数処理ラインユニットをトランス用ボビン自動巻線処理ラインに交換しようとしても,トランスボビン用搬出ユニットと交換することができず,採用し得ないことが明白であり,本件考案とは異なることが明らかである。 (4) 被告先行装置の構成と本件考案の内容との対比 原判決は,(1)のとおり,先使用の検討対象を誤っているが,原判決が対象とした被告先行装置についてみても,本件考案とは異なっている(原判決4頁19行〜5頁19行の主張に付加する)。 ア 被告先行装置の構成 対象コイルは,J型,C-30型,C-50型の3種類のみを対象としている。 ボビンも対象コイルと同じ3種類のものである。搬送パレットは,J型ボビン専用キャリアとC-30型及びC-50型兼用キャリアの2種類でパレット交換するもので,3種専用に設計されている。巻線治具は,J型ボビン専用治具とC-30型及びC-50型兼用治具の2種類で巻線機治具交換をするもので,3種専用に設計されている。 自動装填装置部分は,J型専用のホッパーフィーダー,ボウルフィーダー,直進フィーダー,キャリア挿入装置と,C-30型及びC-50型兼用のホッパーフィーダー,ボウルフィーダー,直進フィーダーと,C-30型,C-50型兼用キャリア挿入装置とで設計されている。要するに,自動装填装置は,J型ボビンとC型ボビンの2機のパーツフィーダーと2機のキャリア挿入装置とが装備され,J型ボビン,C-30型ボビン,C-50型ボビンに使用される3種コイル専用機である。そして,乙第3号証の左部分に図示されている自動装填装置のうち,J型ボビンは右側の小型部分が使用され,C-30型ボビンとC-50型ボビンは左側の大型部分が兼用されるものと推認される。 自動巻線装置部分は,J型用線材とC-30型及びC-50型用線材の2種類のポリウレタン電線が用いられ,ボビン台は,2種類の線材ごとに専用の8連ボビン台を設置している。自動巻線装置部分は,J型ボビン,C-30型ボビン,C-50型ボビンの3種コイル専用型の巻線機として設計されている。 自動装填装置と自動巻線装置とは,1つのコンベアで一体となってライン化されている3種コイル専用型であって,かつ,入れ換えを要しない1ライン式の自動装填巻線ラインとして構成されている。 J型,C-30型,C-50型の3種類のテープが用いられ,テーピングユニットは,3種類のテープと,3種類のテーピングピッカーが図示されており,3種類のテープ以外には使用することができない装備となっている。そして,自動装填巻線ラインに接続して入れ換えを不要として1ラインを構成するものである。 松下電工は,設計当初から3種コイル専用型の巻線処理ラインを1ラインで交換を要せずに巻線処理ができるように設計依頼しているものと認められるので,コイルの種類に応じて交換しようという技術的思想は皆無である。そして,設計変更によって,実際には,乙第5〜7号証の先行実施品が実施されているが,1種専用機であるから,コイルの種類に応じて交換しようという技術的思想はない。 以上のとおり,先行装置は,J型コイル,C-30型コイル,C-50型コイルの3種類のみを巻線処理の対象品種として設計された3種コイル専用型の1ライン式の自動巻線処理装置である。 特に,自動装填装置と自動巻線装置とが1つのコンベアで一体となって3種コイル専用型の自動装填巻線ラインを構成し,テーピングユニットも3種コイル専用の3種装備を備えているから,3種コイル以外には使用することができないばかりか,自動装填巻線ラインとテーピングユニットとを交換する必要性もなく,交換し得る技術的思想も全くみられない。 要するに,被告先行装置は,3種コイル専用の自動装填巻線ラインユニットと,3種コイル専用のテーピングユニットと,3種コイル専用の多数作業(6作業)処理ラインとから構成されているばかりか,入れ換えを不要とした1ライン式である。なお,輸送と据付け設置等のために3つのパーツに分割したにすぎないと推認される。 イ 被告先行装置と本件考案の対比 (ア) 被告先行装置は,自動装填装置と自動巻線装置とが1つのコンベアで一体化されてライン構成され,着脱自在にユニット化されておらず,原判決の「ボビン供給ユニットを有する」との認定は誤っている。先行装置は,本件考案の構成要件A@を欠如している。生産ラインの冒頭部分に配置されることが予定される自動装填装置が単独で着脱自在に配設することができない以上,コイルの種類に対応して交換することができず,本件考案の技術的思想とは相違する通常の生産ラインを示すにすぎない。 (イ) 原判決は,「巻線ユニットを備えている」と認定するが,被告先行装置の自動巻線装置は,3種コイル専用型で入れ換えを要しない1ライン式の自動装填巻線ラインである。被告先行装置は,構成要件AAを欠如している。 (ウ) 原判決は,「テーピングユニットを・・設けている」と認定するが,テーピングユニットは,3種コイル専用型で装備され,自動巻線ラインに付属して入れ換え不要な1ラインを構成するものである。被告先行装置は,テーピングユニットにおいて,構成要件ABを欠如している。 また,原判決は,「フラックス装置,半田装置,レアショート装置,不良排出装置,排出ピッカー装置及び排出コンベアを備えた半田ユニットを設けている」とするが,半田ユニットと称するものは,フラックスないし排出コンベアまでの6作業からなる一連の処理ラインとなるのであり,原判決は,何らの根拠も示さずに上記多数処理ラインを単に半田ユニットと言い換えているにすぎない。被告先行装置は,半田ユニットと称するものが実は多数処理ラインであるから,構成要件ABを欠如している。 (エ) 自動装填巻線ラインと半田ユニットと称する多数作業処理ラインは,ユニット化されておらず,高さそろえの前提として各ユニット間に各コンベアを備えていない。被告先行装置は,構成要件BAも欠如する。 (オ) 被告先行装置の自動装填装置と自動巻線装置は互いに着脱不可能な自動装填巻線ラインである。半田ユニットと称するものは,一連の多数処理ラインである。よって,被告先行装置は,自動装填巻線ラインと多数処理ラインであるから,構成要件のA@,A,B,C,B@,Aを欠如している。 (カ) 以上のとおり,原判決は,本件考案と被告先行装置との対比を誤っているのであり,先使用の抗弁を認めた原判決の判断は誤っている。 同様のことは,実用新案登録無効の抗弁に関する判断についてもいえるのであり(原判決14頁4行〜11行),被告先行装置は,本件考案の技術的範囲に属しておらず,被告先行装置は,本件考案の実用新案登録請求の範囲外である第1図の実施例に係わるものであって,しかも,1種類(含むとしても3種類)のコイル専用型の1ライン式の自動巻線処理装置であるから,本件考案の請求の範囲の記載とは無関係である。よって,無効理由は何ら存在せず,権利の濫用にも該当しない。 2 被控訴人の反論の要点 (1) 抗弁において対象とすべき被控訴人の先行実施製品の認定の誤りをいう主張に対し 本件巻線装置について,本件考案の構成要件に該当する部分については何ら変更はなく,両装置が実質的に同じであることは明白であり,乙第3号証と乙第5〜7号証との間には矛盾する部分は何もない。乙第3号証に示された装置にはパーツフィーダーが2機備えられているのに対して,乙第5〜7号証の装置では1機が備えられている点が両装置の外形的な相違であるが,その相違が構成要件に影響を及ぼさないことは明らかである。納入後に変更がされて上記の相違が生じたとしても,同一性が失われるものではなく,原判決の認定に誤りはない。 (2) 本件考案の技術的範囲の解釈の誤りをいう主張に対し ア 控訴人の主張は,本件考案は,当初から第1図の実施例に依拠して記載されていないとの不当な論理を前提とするものであり,前提そのものが誤っている。 仮に,本件考案の出願人が,本件考案が出願当初から第1図の実施例に基づいて記載されていないと認識していたとすれば,第1図に記載されたものについて,本件考案の公告公報(甲2)において,「以下に,本考案に係る自動巻線処理装置の一実施例を図面に基づき説明する。第1図において・・・」と記載し,あるいは「第1図は本考案に係る自動巻線処理装置の構成図」というような記載を行うはずがない。むしろ,第1図に記載された実施例が本件考案の技術的範囲外のものであるとするならば,審査過程で出願人により自主的に又は審査官の指令により第1図に係る実施例の記載を削除する手続補正がされたはずであり,実際に出願後の審査請求時あるいは拒絶理由通知時など前記の削除を行う機会が幾度もあったにもかかわらず出願人がそのような手続補正を行っていないことからすれば,前記控訴人の主張は,虚偽であると考えるほかない。 控訴人は,本件出願の審査過程において,意見書を提出し,第1図の実施例を除外する明確な主張がされていると主張するが,実際には,それを客観的に把握し得る程度にまで明確に記載されてはいない。また,そもそも控訴人は,第一審の訴訟手続において,「出願当初から第1図を中心とする実施例には依拠して記載されていない」というような主張は一切行っていない。構成要件ACに相当する部分の補正前の記載は,「各ユニットには,・・・コンベアをそれぞれ設けたこと」と読み取れるが,補正により「それぞれ」という文言が削除され,むしろ,第1図の実施例が本件考案の技術的範囲に含まれることが明瞭になるように補正されたことが推認し得るのである。 イ 本件明細書中の「考案が解決しようとする問題点」「実施例」「考案の効果」の各記載によれば,本件考案の自動巻線処理装置が想定している着脱自在なユニットとは,処理ユニットが対象となっていることは明白であり,また,本件考案の構成要件B@「前記各ユニットは着脱自在に配設され」における「各ユニット」とは,「各ユニットはそれぞれ単独で,あるいは隣接するユニットと共に」と解釈するのが,本件考案の技術的思想からいって自然である。 (3) 被告先行装置と本件考案との対比について 被告先行装置は,本件考案と実質的に同一であり,被控訴人は,先行装置を本件実用新案登録出願前に公然実施した。よって,実用新案法3条1項1号に該当する。また,本件考案は,公知技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものであって,同法3条2項に規定された考案に該当する。 控訴人は,乙第3号証に係る装置が本件考案の技術的範囲に属しないかのような主張をしているが,詭弁というほかない。 本件考案に係る自動巻線処理措置は,ある特定のコイルを巻線処理することを目的として,いくつかのユニットを組み合わせることができるように構成されていることが特徴であり,結果的に組み合わされた複数のユニットないし処理ユニットにより製造されるコイルは,前記目的に応じた限られた種類のものとなるのがむしろ普通であるからである。事後的に前記目的外の他種類のコイルの製造が必要となったときに任意のユニットないし処理ユニットに入れ換えることが可能な構成となっていれば,それは本件考案の構成要件を満足しているといえるのである。つまり,乙第3号証に記載された装置がたまたま3種類のコイルのみを製造することしかできないと仮定しても,装置の特定のユニットを入れ換えることで他の種類のコイルを製造し得る構成となっている限りは,本件考案の技術的範囲に属するのである。 この点からも控訴人の主張は失当というほかない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり,訂正,付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」(ただし,原判決10頁下から2行〜11頁16行までの部分及び11頁17行の「現に,」の文言を除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決中,訂正するものは次のとおりである。すなわち,原判決13頁16行〜17行の「本件考案の実用新案登録出願前に被告が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがないので,」とあるのを,「本件考案の実用新案登録出願前に,被控訴人が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは,本件証拠により認めることができるので,」と,原判決14頁6行〜7行の「本件考案の実用新案登録出願前に,被告が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがないから,」とあるのを,「本件考案の実用新案登録出願前に,被控訴人が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは,本件証拠により認めることができるので,」とそれぞれ訂正する(証拠による認定の詳細は,後記の1の判示参照)。 当審における控訴人の主張に対する判断として付加するものは,以下のとおりである。 1 抗弁において対象とすべき被控訴人の先行実施製品について 控訴人は,原判決における被告先行装置(原判決別紙第2物件目録記載の自動巻線処理装置)は乙第3号証に基づいて特定されているが,乙第3号証記載の装置は被控訴人の先行装置としての実施品ではない旨を主張するので,まず,この点について判断する。 なお,控訴人は,「本件考案の実用新案登録出願前に被告が被告先行装置を製造し,松下電工瀬戸工場に納入したことは当事者間に争いがない。」旨の原判決の判示につき,この事実を争ったものである旨を主張するところ,原審記録によると,控訴人は,理由を付すことなく単に「不知」と答弁したにすぎず,主張全体からみれば,上記の事実を明らかに争わないものと扱われてもやむを得なかったところであるが,控訴人は,当審で明確にこの事実を争うので,原判決4頁1行〜4行を本判決に引用することなく,この点も含め,以下において証拠に基づく判断をすることとする(以下の判断をもとに,原判決の理由中の説示である原判決13頁16行〜17行,14頁6行〜7行について,前記のとおり訂正した。)。 (1) 原判決添付の別紙第2物件目録には,乙第3号証の図面が添付されている。 これは,本件抗弁の主張責任を負担する被控訴人が,原審の第6回弁論準備期日において,「先使用の抗弁及び公知無効の抗弁は,被告が松下電工瀬戸工場に納入した製品(乙第3号証参照)に基づき主張する。準備書面(被告第三)の「仮想クレーム」は,上記の製品の構成を本件考案と対比するため,抽象化したものである。」と陳述し,乙第3号証に基づく構成をもって,抗弁における被告の先行実施品の主張とするものと特定したためである。 そして,本件証拠を検討すると,昭和61年11月10日にNT-880FFの装置に関する乙第3号証の図面が被控訴人によって作成され,松下電工に承認願いがされたこと(乙3),同年12月24日には,この図面の内容を踏まえ装置の詳細が記載された「見積仕様書」(NT-880FFの装置)が作成され,そのころ,松下電工の承認がされたこと(乙4),NT-880FFの装置は,昭和62年4月以前に被控訴人から松下電工瀬戸工場に納入され,稼動していること(乙5,乙7),松下電工における経理情報システムによると,ELコイル巻線加工機を昭和62年4月に取得したものとして管理していること(乙6の1,2),NT-880FFの装置に関する被控訴人作成の見積金額が3750万円(乙1),同装置に関する松下電工の注文書金額も3750万円(乙2)であるが,松下電工の上記経理システムではやや高めの3964万円余の取得金額として管理されていること(乙6の1),上記乙第1〜4号証は,松下電工が保管するもので(乙9),他に図面,見積書,注文書などは提出されていないことが認められる。これらの事実によれば,乙第3号証記載の被告先行装置は,昭和62年4月ころまでに,被控訴人によって製造され,これが松下電工瀬戸工場に納入され,稼動したことを認めることができる。 (2) もっとも,控訴人が主張するように,乙第7号証によれば,平成12年6月14日に実施された公証人による確認,見分の時点で松下電工瀬戸工場において稼動していた装置においては,J型コイル用と推認される1機のパーツフィーダと1機のキャリア挿入装置があり,J型コイル専用の自動装填装置となっているが,乙第3号証には,2機のパーツフィーダと2機のキャリア挿入装置が図示され,J型コイル及びC-30型とC-50型コイル(兼用)の3種コイル専用の自動装填装置を備えており,この点で両者に違いがあるところ,乙第7号証によれば,松下電工の課長は,「装置の構成は納入当時のままであり,現在も稼働中である。」と陳述し,乙第5号証においても,同瀬戸工場長が「巻線機は,納入当時の構成のまま現在も稼働中である」旨の書面を作成していることが認められる。他方,納入までの間に,見積書,注文書,図面,見積仕様書が乙第3号証のものから乙第7号証にみられる装置に簡略化するように変更された形跡はないこと,乙第7号証添付の写真(26)によれば,巻線ユニットの制御盤には,J型とC-30,C-50型との品種切換スイッチが存在すること,同写真(5),(6),(25)によれば,自動装填装置において,J型コイル用と推認される1機のパーツフィーダと1機のキャリア挿入装置の横のスペース(乙第3号証ではC-30型とC-50型兼用の装置が存在するはずのスペース)には何もなく,そこにはボルトの挿入孔とみられる孔がいくつか残っていることなどが認められる。 これらの事実に照らしてみると,乙第5,7号証などに関して控訴人の指摘する点を考慮しても,乙第3号証に記載された装置が昭和62年4月ころまでに納入されたものと認められるとの前記認定を覆すには足りないというほかない。上記課長及び工場長の陳述等も,基本的な構成が当初納入されたものから変わっていない趣旨であるとも理解され,この認定と必ずしも相容れないものではない(乙3と乙7との相違の原因は必ずしも明確ではないが,上記状況に照らせば,乙3の装置が納入された後に,C-30型,C-50型兼用のパーツが取り外された可能性が想定される。なお,本件抗弁の成否においては,被控訴人の先行実施する製品の考案としての構成が問題となるところ,それを抽出したものが別紙第2物件目録の「二 本件装置の構成の概要」であって,乙第7号証にみられる装置もこの構成の限りでは本質的な差異はないものと認められ,仮に,納入当初から装置が乙第7号証にみられる状態であったとしても,別紙第2物件目録における図面の引用が適切か否かという余地はあるものの,本件の結論を左右するに足りるものとはいい難い。)。 2 本件考案の構成について (1) 本件考案の登録請求の範囲の記載は前記のとおりであるところ,当裁判所は,登録請求の範囲には控訴人主張の限定のあることを認めるべき記載はなく,考案の詳細な説明を参酌しても,控訴人主張のような限定があるものと解釈することはできず,自動装填装置と自動巻線装置を連結して一体の着脱自在のユニットとし,1個の共通のコンベアを備える構成のものも本件考案の登録請求の範囲の構成を充足するものと判断する。 以下,その理由について,控訴人の主張を検討しつつ説示する。 (2) 控訴人は,本件明細書における実用新案登録請求の範囲の記載から,A@自動装填ユニットと,AA自動巻線ユニットと,AB複数の処理ユニットとがそれぞれ独立の構成要件であること,ACの「キャリアを受け渡すために各ユニットに設けたコンベアとを備え」という構成要件における「各ユニット」も,A@,AA,ABの各ユニットを指すので,コンベアは,前記各ユニットにそれぞれ備えられることが必須であること,構成要件B@の「前記各ユニットは着脱自在に配設され」という構成要件における「各ユニット」は,A@,AA,ABを指すものと解釈され,これら各ユニットが着脱自在とする構成であること,構成要件BAの「各ユニット」についても,A@,AA,AB指すものであることが,いずれも文言上極めて明瞭に示されていると主張する(前記第2,1(2)ア)。そして,原判決が,「(なかでも,ボビンを自動装填する装置とボビンに巻線を施す自動巻線装置とを,それぞれ独立して着脱自在の別個の単体として構成し,それぞれに独自にコンベアを備えるものに限られるのか)という点は,文言上は必ずしも明らかでない。」とし(原判決9頁下から2行〜10頁2行),10頁3行〜24行において,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の「考案が解決しようとする問題点」,「考案の効果」の記載を参酌している点に対し,実用新案登録請求の範囲の記載から明瞭なのであるから,これを無視することは解釈の基本原則に反すると主張する(前記第2,1(2)イ(ア)後段及び(イ)前段)。 検討するに,考案の構成を確定するには,まず登録請求の範囲の記載に基づくべきものであり,そこから一義的に読み取れない場合には,考案の詳細な説明を参酌すべきことになる。本件考案の登録請求の範囲の記載によれば,被控訴人が主張するように,本件考案の自動巻線処理装置が想定している着脱自在なユニットとは,処理ユニットであり,構成要件B@「前記各ユニットは着脱自在に配設され」などとしてみられる「各ユニット」とは,「各ユニットはそれぞれ単独で,あるいは隣接するユニットと共に」とする解釈も十分に成り立ち,登録請求の範囲の記載からみて,被控訴人主張の解釈による構成態様も本件考案の構成(技術的思想)に含まれると解する余地もあるものと認められるのであって,控訴人が主張するような構成に一義的に限定され,それ以外のものは一切本件考案の構成を充足しないものと断定することができるものか否かについては,疑義がある。よって,本件は「考案の詳細な説明」の欄をも参酌して本件考案の構成を確定するのが相当であると解される。この点に関する原判決の上記判示は相当であり,控訴人の主張は採用の限りではない。 なお,控訴人は,原判決9頁20行〜22行の説示についても誤りであると主張するが(前記第2,1(2)イ(ア)前段),上記説示は,原判決が本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から確実に読み取れる範囲のものを説示したものであると解され,前記認定判断したところに照らせば,控訴人の主張は直ちに採用することはできない。 また,控訴人は,自動装填装置は,コイルの種類に応じて交換しなければならないものであり,自動巻線装置は,コイルの種類の大部分で流用できるものであるから,両者は,着脱自在な単体としてユニット化されなければならないことは自明であるとも主張するが,この主張内容は実用新案登録請求の範囲に記載されていない事項を前提とするものであり,仮に,この主張が,記載の有無にかかわらず,装置の性質から両ユニットが着脱自在な単体とされなければならないことが自明であるとの趣旨であるならば,本件明細書自体において,自動装填ユニットと自動巻線ユニットとが一体として連結され,独立して着脱自在とされてはおらず,コンベアも両者で1個の共通のものとなっている形態のものが,まさに本件考案の実施例として記載されていることと矛盾するものであり,到底採用することができるものではない(本件考案が上記実施例に依拠しているか否かという点については,後記(5)参照)。 (3) 控訴人は,原判決の「本件考案の効果を達成するためには,・・・装置のそれぞれが必ず個別に独立した着脱自在の単位体として構成されなければならないというわけではなく,・・・必ず生産ライン上で隣り合う場所に位置することが予定されている複数の装置については,個別に着脱することが想定されないから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することが当然に予定されているものと解するのが相当である。」との説示(原判決11頁2行〜8行)を非難し(前記第2,1(2)イ(ウ)),また,「自動装填装置と自動巻線装置についても,一般にその間に何らかの作業を行うことは予定されていないものであるから,これらをまとめて共通のコンベアを備えた一つの着脱自在の単位体として構成することも,本件考案において,想定されている」との説示(原判決11頁13行〜16行)を非難する(前記第2,1(2)イ(オ))。 本判決は,前記のとおり,上記の非難の対象となっている説示を含む原判決10頁下から2行〜11頁16行までの部分につき,結論に直接影響しない説示であるので引用しなかった。控訴人の主張は,引用されない部分に対する非難に帰し,その意味で採用の限りではない。 なお,所論にかんがみ若干の補足説明を加えておく。 確かに,控訴人の主張するとおり,ユニットが隣り合う場所に位置することが予定されていたとしても,個別に着脱することが想定されないとまで言い切ることができるのか,自動装填装置と自動巻線装置の間において,一般にその間に何らかの作業を行うことが予定されていないと断じることができるのか,コイルの種類が変わる場合に自動巻線装置は流用し,自動装填装置のみを取り換える必要が生じる場合があるのではないかなどという疑問の余地もあり得るところである。しかし,後にも説示するとおり,本件明細書の「実施例」の項において,自動装填ユニットと自動巻線ユニットとが一体として連結され,独立して着脱自在とされてはおらず,コンベアも両者で1個の共通のものとなっている実施例が詳細に記載されていること,本件明細書の「考案が解決しようとする問題点」では,「この種のコイルは,使用目的や使用条件などにより数多くの種類があり,・・コイルの種類によって処理装置も異なる場合が多く,・・コイルの種類を変える度毎に,全装置を入れ変えるのでは,大変な労力が強いられる・・・多くの時間を必要とし・・・装置の使用率も悪いといった問題があった。そこで,本考案は,上記事情に鑑み,製作すべきコイルの種類に応じて装置の必要とする処理ユニットのみを入れ変え,又補充し・・・自由自在に処理ユニットを連結し得る自動巻線装置を提供せんとするものである。」とされ,「考案の効果」の項では,「製作すべきコイルの種類に応じて装置の必要とする処理ユニットのみを自由に入れ換え,又補充でき」とされるなど,コイルの種類に応じて「処理ユニットのみ」を入れ換えることで対応すると明確に記載されており,自動装填装置の入れ換えについては特段の記載がないことなどからすると,本件考案においては,自動装填装置と自動巻線装置が一体化された構成をも含むが,それでも支障はないとされているのではないかと推認せざるを得ない。これらの事情に照らせば,控訴人が指摘する点は,本件結論を左右するほどのものとは認められない。 (4) 控訴人は,原判決の「(コイルに施す異なる種類の操作と処理ユニットの関係については,実用新案登録請求の範囲に何ら記載されていないのであるから,この点は,明細書の他の部分の記載に照らして判断するのが相当であり,前記のように解するべきである。)」との判示(原判決11頁8行〜11行)を非難する(前記第2,1(2)イ(エ))。 しかし,複数の処理ユニットとは,自動装填,自動巻線以外のテーピング,絶縁チェック,搬送などの処理を行うユニットを指すとみられるところ,原判決の上記判示部分は,当該処理ユニットのそれぞれがどのような処理を含むのかは,実用新案登録請求の範囲に記載がないので,これについては明細書の他の部分の記載に照らして判断するのが相当であるとの趣旨をいうものと解され,それ自体は相当である。控訴人の主張は,原判決の正確な理解に基づかない非難であると思われるが,いずれにしても採用の限りではない。 (5) 控訴人は,原判決が「A@〜Bの「ユニット」はいずれもコイルに対する1種類の作業に対応する装置をいうが,AC及びB@における「各ユニット」については,いずれも,「各ユニットが必ず単独で」ということまでを意味するものではなく,「各ユニットが,それぞれ単独で,あるいは隣接するユニットと共に(共通のコンベアを備えるか,あるいは一体として着脱自在となっている)」ということを意味しているものと解するのが相当である。」(原判決12頁13行〜19行)と判断した点についても非難する(前記第2,1(2)イ(カ))。 そこで,前に判断したところに従い,本件考案の構成(技術的思想)につき,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄の記載をも参酌しつつ検討する。 本件明細書における「考案の詳細な説明」中の「考案が解決しようとする問題点」,「考案の効果」,「実施例」の記載内容として,前判示(原判決10頁3行〜24行及び11頁17行〜末行を引用)のことを指摘し得る。そのうち,「考案が解決しようとする問題点」の記載(原判決10頁3行〜14行)をみると,専ら「処理ユニット」の入れ換え又は補充と「処理ユニット」の自由自在な連結がいわれ,自動装填ユニットや自動巻線のユニットについては何ら言及されていない。すなわち,本件考案の目的というべき上記記載には「処理ユニット」の点しか言及がない。また,「考案の効果」の記載(原判決10頁14行〜24行)をみても,専ら「処理ユニット」のみを自由に入れ換え又は補充できること,「処理ユニット」を自由自在に連結し得ること,個別の「処理ユニット」を任意に入れ換えることができることがいわれ,自動装填ユニットや自動巻線のユニットについては何ら言及されていないのである。さらに,「実施例」の記載をみると,第1図を引用しつつ説明される実施例では,自動装填ユニットと自動巻線ユニットとが一体として連結され,独立して着脱自在とされてはおらず,コンベアも両者で1個の共通のものとなっており,各種の処理ユニットが着脱自在とされているものである。 これらによれば,上記の原判決の説示を含む,原判決12頁1行〜19行の説示は,相当であって,是認し得るものである。 この点に関し,控訴人は,「本件考案は,本件出願当初から,本件明細書の第5図を中心とする実施例に依拠して記載されているのであり,出願当初から第1図を中心とする実施例には依拠して記載されてはいない。第1図を中心とする実施例は,特許庁の審査において除外されていたことは明らかである。」などと主張する。 しかし,第1図を引用しての実施例は,「実施例」の項の冒頭に「本考案に係る自動巻線処理装置の一実施例」(本件公報3欄25行〜26行)と明記された上で説明され,この実施例は,「実施例」の項のほとんどのスペースを割いて詳細に説明がされていること,特許庁の審査を経た後も第1図に基づく実施例の説明の記載は削除されることなく,維持されたまま現在に至っていること,前記のとおり,第1図による「実施例」のみならず,「考案が解決しようとする問題点」,「考案の効果」にも,「処理ユニット」の入れ換え又は補充のみが記載されていることなどに照らせば,これらの記載が誤記であるとか訂正漏れであるということはできず,出願当初から第1図を中心とする実施例には依拠して記載されてはいない旨の控訴人の主張は,到底採用することができるものではないし,その実施例が特許庁の審査の過程で除外された旨の主張もこれを認めるに足りる証拠はない。 また,控訴人は,上記の「処理ユニット」に関する記載について,「構成要件ABの処理ユニットに着目して言及しているにすぎない箇所である。」とも主張するが(前記第2,1(2)イ(イ)後段),前認定のとおり,「考案が解決しようとする問題点」においても,「考案の効果」においても,専ら「処理ユニット」のみを自由に入れ換え又は補充できることがうたわれ,自動装填や自動巻線のユニットについては何ら言及されておらず,各ユニット全体に関する記載はないことが認められる上,その他各記載の状況に照らしても,控訴人の主張は採用の限りではない。 3 乙第5〜7号証に基づく被控訴人製品の構成と本件考案の内容との対比について 控訴人は,本件抗弁での検討対象は乙第5〜7号証に基づく被控訴人製品であるべきであると主張し,この主張を前提として,同製品と本件考案との対比をし,同製品が本件考案の構成を充足しない旨を主張する(前記第2,1(3))。 しかし,前記1で判示したところによれば,控訴人の主張は前提を欠くものであり,採用することができない。 4 被告先行装置の構成と本件考案の内容との対比について 当裁判所も,前判示(原判決を引用。このうち,対比部分は,原判決12頁20行〜13頁14行)のとおり,被告先行装置は,本件考案の構成を充足するものと判断する(なお,原判決の一部を訂正したことは既に説示したとおりである。)。 控訴人の主張は,要するに,被告先行装置の構成は,本件考案の構成要件のA@〜C,B@,Aをいずれも欠如するから,先使用の抗弁を認め,明白な無効事由があるとした原判決の認定判断は誤りであるというものであるが,以下に控訴人の当審における主張につき,判断しておく。 (1) 控訴人は,主たる理由のひとつとして,被告先行装置の自動装填装置と自動巻線装置が一体化されており,着脱自在にユニット化されておらず,両者のコンベアも1つの一体となったものとなっていることを挙げている。 しかし,この主張は,本件考案の構成についての控訴人の主張(前記第2,1(2)参照)を前提とするものであって,その控訴人の主張が採用することができないことは,既に説示したとおりである(前記第3,2参照)。よって,上記主張もまた採用することができないものといわざるを得ない。 (2) 控訴人は,原判決が「フラックス装置,半田装置,レアショート装置,不良排出装置,排出ピッカー装置及び排出コンベアを備えた半田ユニットを設けている」とした点につき,半田ユニットと称するものは,フラックスないし排出コンベアまでの6作業からなる一連の処理ラインとなるのであり,被告先行装置の半田ユニットと称するものは,実は多数処理ラインであるから,構成要件ABを欠如している旨を主張する。 本件明細書の実用新案登録請求の範囲をみると,「ボビンに巻線が施されたコイルにテーピングや絶縁チェック,更にコイルの搬送等を行う複数の処理ユニットと」と記載されているのみであり(AB),そこで,「考案の詳細な説明」をみると,実施例において,半田処理ユニット,自動テーピングユニット,検査ユニット,自動溶接ユニット,端子曲げユニットなども処置ユニットの例として記載されており,また,チェック装置を備えた接着剤塗布ユニットも処理ユニットの例に挙げられていることが認められる。これらの記載を勘案すると,「複数の処理ユニット」とは,自動装填,自動巻線という作業以外の,「テーピング」,「絶縁チェック」,「搬送」などの巻線処理に付随する任意の処理を行うユニットを意味し,当該「処理ユニット」の各々がどのような処理を含む,又は含む必要があるのか,ということは特定されないものと認められる。そこで,被告先行装置についてみると,まず,テーピングを施すテーピング装置に独自のコンベアが設けられたもので,1つのユニットを構成しているものと認められ,さらに,フラックス装置,半田装置,レアショート装置,排出措置などに共用で1つのコンベアが設けられたものとなっており,これで1つのユニット(半田ユニット)を構成しているものといって差し支えないものと認められる。これら2つのユニットは,本件考案の「複数の処理ユニット」に対応するものと認められ,構成要件ABに欠けるところはないものと認められる。 (3) 控訴人は,次のようにも主張する。すなわち,松下電工は,設計当初から3種コイル専用型の巻線処理ラインを1ラインで交換を要せずに巻線処理ができるように設計依頼しているものと認められるので,被告先行装置にコイルの種類に応じて交換しようという技術的思想は皆無である。要するに,被告先行装置は,3種コイル専用の自動装填巻線ラインユニットと,3種コイル専用のテーピングユニットと,3種コイル専用の多数作業(6作業)処理ラインとから構成されているばかりか,入れ換えを不要とした1ライン式である。3種コイル以外には使用することができないばかりか,自動装填巻線ラインとテーピングユニットとを交換する必要性もなく,交換し得る技術的思想も全くみられない。輸送と据付け設置等のために3つのパーツに分割したにすぎないと推認される。 しかし,前認定のとおり,被告先行装置は,自動装填装置と自動巻線装置とが一体とされ共用で1つのコンベアを備え,テーピングユニットと半田ユニット(前記(2)参照)が,それぞれ独立し独自のコンベアを有し,各コンベアの高さが揃えられているのであって,これら3つがそれぞれ必要に応じて着脱可能な構成となっているものと認められ,この被告先行装置の構成と本件考案の構成との対比は,前判示のとおりである。被告先行装置の構成がこのようなものとなっている以上,これが個々の顧客の下で具体的にどのような意図,思想で設置,使用されるかは,被告先行装置の構成が本件考案の構成を充足するとの認定を覆すものとは認められない。よって,控訴人の上記主張も採用の限りではない。 (4) 以上のとおり,本件考案と被告先行装置との対比に関する原判決の認定判断は誤りであって先使用の抗弁を認めた判断は誤っているとの趣旨の控訴人の主張は,採用することができないものであり,その他,控訴人の主張を精査しても,結論を覆すべきものは見当たらない。 同様のことは,実用新案登録無効の抗弁に関する原判決の判断に対する控訴人の主張についてもいえるのであり,この点に関する控訴人の前記主張も採用することができない。 5 結論 以上によれば,控訴人の請求を棄却すべきものとした原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |