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関連審決 無効2000-40012
関連ワード 考案 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  先行技術 /  評価書 /  技術評価 /  請求項 /  容易に想到 /  公知技術 /  設計変更 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 356号 審決取消請求事件
原告 丸岡ファインテックス協同組合
原告 石川県織マーク工業協同組合
原告 小松絹耀織マーク協同組合
原告 株式会社オクムラ
原告 協栄細巾織物株式会社
原告 株式会社アートワークス・タナカ
原告 津田織マーク有限会社
原告 釣部織ネーム株式会社
原告A
原告 ウーブンナツク株式会社
原告 西田織マーク株式会社
原告 日栄ネーム株式会社
原告 有限会社花岡織マーク
原告 株式会社松川レピヤン
原告 ミナミ織ネーム株式会社
原告 有限会社森田織ネーム
原告 有限会社矢崎産業
原告 柳澤ウーベン・ラベル株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 亀井弘勝
同 稲岡耕作
同 川崎実夫
被告 日本ダム株式会社
被告訴訟代理人弁護士 野間督司
同 長谷川 敬一
同 近藤正昭
同 林一弘
同 松本裕美
訴訟代理人弁理士 神崎彰夫
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/12
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−40012号事件について平成12年8月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は,原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「合成繊維製の織ラベル」とする登録第3045863号の登録実用新案(平成9年3月5日出願。同年11月26日設定登録。以下,「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告らは,平成12年5月2日,本件登録実用新案の登録を請求項1ないし4のいずれに関しても無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを無効2000-40012号事件として審理し,その結果,同年8月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月28日にその謄本を原告らに送達した。
2 本件実用新案登録請求の範囲請求項1】 合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる織ラベル。(以下「本件考案1」という。) 【請求項2】 合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿ってオーバーロックミシンで縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込み,さらに横方向に1枚ずつに切断して中央部または両側部を折り曲げて,この際に四隅部において溶融カット部が露出しない織ラベル。(以下「本件考案2」という。) 【請求項3】 両側縁の縁縫いに用いる縫糸は,広幅織物と同組成で同系色のポリエステル繊維糸である請求項1または2記載の織ラベル。(以下「本件考案3」という。) 【請求項4】 合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる織リボン。(以下「本件考案4」という。) 3 審決の理由の要点 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件考案1ないし3の織ラベル及び本件考案4の織リボンについての「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる」との構成が,審判請求人(原告)が提出した特開平4-269785号(審判甲第1号証,本訴甲第3号証。以下「引用例」という。)を始めとする各刊行物に,記載も示唆もされていないから,本件考案1ないし4は,上記各刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案できたものではなく,これによりそれらについての本件登録実用新案の登録を無効とすることはできない,として,原告らが各請求項について主張した無効理由を,いずれも排斥したものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「〔1〕手続の経緯」,「〔2〕当事者の主張」,「〔3〕請求人適格について」(審決書4頁7行〜6頁16行)は認める。「〔4〕本件各考案進歩性について」のうち,「1.本件実用新案登録に係る考案」(審決書6頁18行〜7頁4行)は認める。「2.当審の判断」のうち,「甲第1号証には・・・認められる。」(7頁6行〜15行),「そして,・・・認められる。」(7頁21行〜23行),「(なお,甲第11号証・・・刊行物である。)」(7頁26行〜27行は認め,その余は争う。「〔5〕まとめ」は争う。
審決は,本件考案1ないし4のそれぞれと,引用例に記載された考案(以下「引用考案」という。)との相違点についての判断を誤った結果,これらのいずれについても,きわめて容易考案をすることができたものとは認められないとして,進歩性の判断を誤ったものであり,この判断の誤りが,各請求項についての結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,いずれの請求項についても,違法なものとして取り消されるべきである。
1 本件考案1及び4の進歩性についての判断の誤り 審決は,引用例に「広幅織物からヒートカットして製造する織ラベルの周囲をミシンで縁縫いすることが記載されている点は認められる。」(審決書7頁13行〜15行)としたものの,次いで,「しかしながら,「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる」織ラベル及び織リボンについては,甲第1号証(判決注・本訴甲第3号証)には記載も示唆もない。」(審決書7頁16行〜20行)と認定判断した。
しかしながら,審決が引用例(審判における甲第1号証)に記載も示唆もないとした事項のうち,「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて」との部分については,「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープ」が引用例に記載されていることが明らかであり,「「テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる」織ラベル及び織リボン」については,引用例に記載も示唆もないことは事実であるものの,そのことは,本件考案1及び4の進歩性を検討する上で意味を有することではない。
(1) 引用例(甲第3号証)には,「【従来の技術】繊維製品の商標や製造者名などを表示するために用いる織ラベルは,従来では細幅織機でテープ状に織り上げてから1枚ごとに寸断しているけれども,この方法では生産効率が低くてコストが高いという問題があった。このため,近年では実公昭61-8995号公報のように,レピア織機などの高速の広幅織機を用い,織り上げた合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットする方法が次第に盛んになっている。」(2頁【0002】)との記載があり,これによれば,本件考案1及び4の構成における「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて」中の「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープ」は,引用例に記載されていることが明らかである。
さらに,引用例には,「広幅織物からヒートカットして製造する織ラベルにおいて,イリテート現象が発生するのは使用上の重大な問題であり,織ラベル製造業者はアパレルメーカーなどの多数のユーザーからイリテート現象を早急に解消させることを強く要求されている。イリテート現象の発生防止策としては,現在において,織ラベルの周囲をミシンで縁縫いしたり,ラベル隅部を面取りした形状にヒートカットすることが提案されている。」(2頁【0005】)との記載があり,これによれば,広幅織物からヒートカットした織ラベルにおいて,イリテート現象が発生すること,このイリテート現象の発生を防止するため,織ラベル(一枚ごとにカットされた後のもの)の周囲をミシンで縁縫いすることも,引用例に記載されていることが明らかである。
(2) 本件考案1及び4における,ヒートカットされた(一枚ごとにカットされる前の)「テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる」という構成については,引用例に記載も示唆もないことは,前述のとおり事実である。しかしながら,このことは,本件考案1の進歩性を考える上で,意味を有するものではない。ヒートカットによるイリテート現象の発止を防止する必要があること,防止策として,織ラベル(一枚ごとにカットされた後のもの。)の周囲をミシンで縁縫いすることが公知であるならば,一枚ごとの織ラベルにカットする前のテープの両側縁をミシンで縁縫いする程度のことは,当業者としてきわめて容易に想到できるものであるというべきであるからである。
本件考案4は,本件考案1における「織ラベル」を「織リボン」としたにすぎないものであって,その他の構成要件は同じである。この両者の間には,前者が比較的短いものをいうのに対し,後者は比較的長いものをいうという相違があるにすぎないから,両者は,単なる用途上の違いがあるだけであって,実質的に同一の構成のものである。したがって,本件考案4についても,本件考案1についてと同じ理由により,その進歩性はないというべきである。
(3) なお,引用例を離れても考えても,本件考案1及び4に進歩性がないことは,明らかである。
広幅織物から細幅にカットされた長いテープの両側縁について,カット部分がほつれたり,そこから経糸が抜けたりすることを防ぐため,縫糸で縁かがりを行うことは,本件登録実用新案の登録出願よりも前から,当業者間では周知技術ないし慣用技術となっていた事項である(甲第5号証,第6号証の1,第7号証)。
したがって,このことからも,広幅織物からヒートカットされた細幅テープの両側縁に対して,オーバーロックミシン等を用いて縫糸で縁取りすることは,当業者であれば,きわめて容易に想到できるものであるというべきである。
甲第15ないし第27号証,第29ないし第31号証,第33ないし第36号証,検甲第1号証によれば,本件考案1は,その出願前に日本国内において公然に実施されていた考案に基づいてきわめて容易考案されたものということができるから,本件考案1及びこれと実質的に同一であるといえる本件考案4は,このことによっても進歩性が否定されるというべきである。
本件考案1及び4に進歩性がないことは,特開昭53-106247号公報(甲第8号証。以下「甲第8号証刊行物」という。),本件登録実用新案に関する技術評価書(甲第9ないし第11号証)及びその引用文献(甲第12ないし第14号証),実開昭55-172393号(甲第32号証)からも明らかである。
2 本件考案2及び3の進歩性についての判断の誤り (1) 本件考案2は,本件考案1の構成のうち,「縁縫い」を「オーバーロックミシンで」するものに限定し,かつ,本件考案1の構成に,「さらに横方向に1枚ずつに切断して中央部または両側部を折り曲げて,この際に四隅部において溶融カット部が露出しない」との構成を加えたものである。
特開昭57-192590号公報(甲第7号証。以下「甲第7号証刊行物」という。)には,両縁部がカットされた布状シートに対する縁取りが開示されており,その縁取りについては,「オーバーロックミシンもしくは飾りテープ縫着用ミシンを用い」(2頁右上欄7行〜9行)と記載されている。特開昭53-106247号公報(甲第8号証刊行物)には,上記趣旨の記載に加えて,「第3図は,この方法を実施するためのオーバーロックミシンの要部略示図で・・・」(2頁右下欄11行〜12行)と記載されている。これらの記載によれば,オーバーロックミシンによる縁かがりの構成は,本件出願前,既に当業者における周知技術となっていたものにすぎない。
本件考案2の「さらに横方向に1枚ずつに切断して中央部または両側部を折り曲げて,この際に四隅部において溶融カット部が露出しない」との構成要件は,ヒートカット後に縁縫いされた織テープを横方向に1枚ずつ切断すること,及び中央部又は両側部を折り曲げることである。引用例には,長尺の織テープから1枚ごとにカットして折り曲げる旨の記載(特に,請求項3の記載)があり,折り曲げによる仕上げについてのエンドホールドやセンターホールドのことについても記載(甲第3号証3欄25行〜第26行,4欄2行〜3行)があるから,上記構成要件についても引用例に記載されている。
したがって,本件考案2は,引用考案及び周知技術から当業者がきわめて容易に想到できたものであるというべきである。
(2) 本件考案3は,「両側縁の縁縫いに用いる縫糸は,広幅織物と同組成で同系色のポリエステル繊維糸である」として,本件考案1及び2の構成要件である「縫糸」を,「広幅織物と同組成で同系色のポリエステル繊維糸」に限定するものである。しかし,「広幅織物と同組成で同系色のポリエステル繊維糸」の構成については,平成3年以前に作成頒布されたカタログ(甲第6号証の1)に,織物と同系色の縫糸が用いられていることが示されており,また,一般的な技術水準に照らしても,縁かがり糸の材質や色の選択は,実施上の設計範囲内の単なる選択肢の一つでしかないから,その選択を根拠に考案進歩性を認めることはできない。
(3) 以上のとおりであるから,本件考案2及び3も,引用考案及び周知技術から当業者がきわめて容易に想到できたものであるというべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張の違法はない。
1 本件考案1及び4の進歩性についての判断の誤りについて (1) 引用例(甲第3号証)は,ヒートカットした織テープに関する資料であるものの,審決のいうとおりテープ両側縁を縁縫いしてからラベルに寸断するものではない。
そもそも,考案進歩性の判断は,基本的な点では発明のそれと同様であるものの,考案においては,発明のように「容易」か否か(特許法29条2項)ではなく,「きわめて容易」か否かによって判断するものと規定されている(実用新案法3条2項)。このように,実用新案においては,条文の文言上,あえて特許の場合と区別されているという点に留意すべきであり,考案における進歩性は,発明の進歩性の程度にまでは達していなくとも,公知技術に基づいて当業者が当然に考えつく程度である自明の範囲を超えていれば,進歩性があるものとして判断すべきである。
本件考案1及び4はこの意味での進歩性を備えている。
(2) 本件考案で採用したヒートカットの方法では,テープ両縁の糸抜け・ほつれなどの問題が発生しないことは,検乙第5〜8号証から明らかである。本件考案は,テープ両縁の糸抜け・ほつれを防止することを目的とするものではなく,ヒートカットによって発生する溶融突片によるかゆみ症状等の発生防止を課題とし,この課題を,テープ両側縁に沿って連続的に縁縫いし,溶融カット部を縫糸で包み込むことにより解決したものである。原告が挙げる周知技術に関する各証拠に記載されたものには,ヒートカットされた端部によるかゆみ症状等のイリテート現象の発生を防止するという課題がないから,この課題を解決するために,溶融カット部を縫糸で包み込むことは,周知技術でも慣用技術でもない。
(3) 原告らの提出する甲第5号証のカタログ(以下「甲第5号証刊行物」という。)の頒布時期については,証明がなく,甲第6号証の1のカタログ(以下「甲第6号証の1刊行物」という。)の頒布時期については,疑問がある。これらの刊行物に示された細幅テープは,検乙第9号証の細幅テープと同様に,ニードル織機やシャトル織機のような細幅織機で織成され,その織成と同時に両側縁に耳組織が形成されていく「織耳」であって,本質的に両側縁のほつれや糸抜けが発生しないから,その縁取りは単に飾り用である。したがって,甲第5号証刊行物及び甲第6号証の1刊行物は,本件考案進歩性を否定する刊行物となり得ない。
甲第8号証刊行物は,通常2枚以上のシート状物を溶断と同時にほつれ止めを行う縫合方法に関し,ミシンの縫い形成部の側部に通電加熱の突起体を配置して溶断直後にオーバーロック縫合するから,縫糸で溶断部を包み込むことは不可能である。したがって,甲第8号証刊行物記載の発明は,ほつれ防止を目的とするものであって,本件考案のような溶断部によるかゆみ症状の発生防止を課題とするものではない。また,同刊行物記載の経糸のポリエステル糸は1000デニール(長さ1m当たり約11g)という非常に太い糸であり(3頁左上欄4行〜5行),第3図が図示する加熱した棒状の突起体11が被縫合布13,14に対して直交配置された姿勢である態様では,太いポリエステル糸が直ちに溶融するように,ポリエステルの融点の260℃を超えて通常は350℃程度に加熱する必要があり,このような高温では,ポリエステル繊維の縫糸でオーバーロック縫合すると,その縫糸は加熱溶断部を包み込む際に溶けてしまう。このように,甲第8号証刊行物は,ノウハウがなければ実施できないという問題がある文献であるから,先行技術として引用することはできない。
甲第15,第16号証が示すものは,その製造時期については証明されていないし(その製造方法による矩形ワッペンが被告の調査では1枚も発見できなかったことからみて,最近になって製造された可能性がある。),白い不織布で裏張りされ全周囲を縫糸で縁取りされたワッペンであって,織ラベルではない。ワッペンでは,製造工程の中間で不織布の貼着段階が介在し,両端を折り曲げたり中央を折り曲げたりすることなく,平坦な状態で使用されるものであるから,本件考案1の織ラベルとは基本的構成が異なる。
その余の原告ら提出の資料も,いずれも本件考案1及び4の進歩性を否定する根拠とはなり得ない。
(4) 本件考案1は,その構成により,@両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込み,かゆみ症状の発生を防止すること,A包み込み作業の連続処理によって織ラベルなどを大量かつ安価に製造・販売することができること,B縁縫い後に一括して裁断することで,各ラベルに均質の縁飾りを施せることという顕著な作用効果を奏し,商業的にも現実に大成功をもたらしている。
この点からも,本件考案1が進歩性を有することは明らかである。
2 取消事由2(本件考案2及び3の進歩性についての判断の誤り)について 本件考案2における合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットした織テープの両側縁に沿って縁縫いすることを,オーバーロックミシンで行うことは,周知技術ではない。
甲第7号証刊行物に示されたものは,毛布や掛布団のような巨大な布状シートの縁取りをするもので,その目的は縁飾りであり,個別に形成したシートの四辺を縁縫いする点で,本件考案とは目的が異なる。甲第8号証刊行物に示されたものは,上記のとおり,ほつれ易い熱溶融性シートのほつれ防止を目的とし,本件考案のようなヒートカットによる溶断部のかゆみ症状の発生を防止するという課題がないものであり,また,開示された技術内容からみて,ノウハウがなければ実施できないという問題がある技術であるから,先行技術として引用することはできない。
当裁判所の判断
1 本件考案1及び4の進歩性についての判断の誤りについて (1) 甲第3号証によれば,引用例には,次の記載があることが認められる。
「本発明は,縫着した繊維製品の使用者にイリテート現象が発生しない合成繊維製の織ラベル及びその製造方法に関する。」(甲第3号証2頁【0001】) 「繊維製品の商標や製造者名などを表示するために用いる織ラベルは,従来では細幅織機でテープ状に織り上げてから1枚ごとに寸断しているけれども,この方法では生産効率が低くてコストが高いという問題があった。このため,近年では実公昭61-8995号公報のように,レピア織機などの高速の広幅織機を用い,織り上げた合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットする方法が次第に盛んになっている。」(同【0002】) 「前記の方法で個々の織ラベルを形成するには,テープ状にヒートカットした後に更に横方向に1枚ごとにヒートカットすることを要し,ヒートカットの際に織ラベルの合成繊維糸を溶融切断するため・・・得た角形の織ラベル1の周囲は矩形の繊維溶融変形部2で囲まれることになる。溶融変形部2は,特にポリエステル繊維製ラベルにおいて硬いガラス様を呈し,織ラベルをエンドホールドやセンターホールドした際に折れて突片3を生じる・・。折曲した際に突片3を生じたままの織ラベルを各種の繊維製品に縫着すると,該繊維製品が肌着であれば,突片3が使用者の肌に接触していわゆるイリテート(irritate)現象を発生させて不快感があり,更に皮膚を傷つけたり発疹を発症することがある。」(同【0003】〜【0004】) 「広幅織物からヒートカットして製造する織ラベルにおいて,イリテート現象が発生するのは使用上の重大な問題であり,織ラベル製造業者はアパレルメーカーなどの多数のユーザーからイリテート現象を早急に解消させることを強く要求されている。イリテート現象の発生防止策としては,現在において,織ラベルの周囲をミシンで縁縫いしたり,ラベル隅部を面取りした形状にヒートカットすることが提案されている。」(同【0005】) (2) 上記認定のとおり,引用例には,合成繊維製の広幅織機をテープ状にヒートカットした後に横方向にヒートカットして一枚ごとの織ラベルを製造すること,このようにして製造された織ラベルには,肌着などの繊維製品に縫着されるときに,ヒートカットされた端部が折れて突片を生じ,その突片が使用者の肌に接触し,いわゆるイリテート現象を発生させ,これにより,不快感や皮膚を傷つけたり発疹を発症させたりするという問題があること,イリテート現象の発生を防止するための方法として,織ラベルの周囲をミシンで縁縫いすることなどが提案されていることが記載されている。引用例に記載された,上記織ラベルの周囲をミシンで縁縫いする技術(引用考案)と本件考案1とを対比すると,本件考案1では,ヒートカットによる両側縁に沿って縁縫いし,その後で横方向に切断して一枚ごとの織ラベルとするものであるのに対し,引用考案では,テープ状にヒートカットした後に横方向にヒートカットして1枚ごとの織ラベルとし,その織ラベルの周囲を縁縫いするものである点においてのみ相違するものと認められる。審決が,引用例に,「広幅織物からヒートカットして製造する織ラベルの周囲をミシンで縁縫いすることが記載されている点は認められる。」(審決書7頁13行〜15行)としながら,「しかしながら,「合成繊維製の広幅織物をテープ状にヒートカットし,このヒートカットによって両側縁に溶融カット部が形成されている織テープにおいて,テープ両側縁に沿って縁縫いすることにより,両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込んでいる」織ラベル及び織リボンについては,甲第1号証(判決注・引用例)には記載も示唆もない。」(審決書7頁16行〜20行)としているのは,上記の趣旨であると認められる。
しかしながら,引用例中の,一枚ごとに製造された織ラベルの周囲を縁縫いする技術についての記載に接した当業者において,その縁縫い技術を,ヒートカットされたテープ状の織物について,当該織物が横方向に切断される前に,その両側縁に沿って適用することは,縁縫い技術を,テープ状の織物を横方向に切断する前に適用しようとすることを妨げる何らかの事情が存在したものと認められない限り,きわめて容易に想到できた事項であるというべきである。一般的にいって,最終的には行わなければならない個々の作業(引用考案に即していえば,一枚ごとに製造された織ラベルの両側縁の縁縫い)をどの段階で行うかは,特に不都合がない限り,状況に応じて適宜選択して行うものであることは,いうまでもないことであり,テープ状の織物についても,横方向に切断してから織ラベルの周囲(その中には当然,両側縁も含まれる。)を縁縫いするか,両側縁を縁縫いしてから横方向に切断するかは,状況に応じて行う設計変更というべき事項であるからである。ところが,上記事情が存在したことは,本件明細書を検討しても全くうかがうことができず(甲第2号証),その他,本件全証拠を検討しても認めることができないのである。
(3) 被告は,本件考案1がその構成により,@両側縁の溶融カット部を縫糸で包み込み,かゆみ症状の発生を防止すること,A包み込み作業の連続処理によって織ラベルなどを大量かつ安価に製造・販売することができること,B縁縫い後に一括して裁断することで,各ラベルに均質の縁飾りを施せることという顕著な作用効果を奏し,商業的にも現実に大成功をもたらしていると主張する。
しかし,上記作用効果は,本件考案1の構成を採用したことによる自明の作用効果にすぎないというべきである。商業的な成功については,仮にそれが事実であるとしても,そのことから直ちに本件考案1の進歩性を肯定することはできない。被告の主張は採用することができない。
(4) 本件考案4は,本件考案1の「織ラベル」を「織リボン」としたものであって,その他の構成要件は本件考案1と同じである。
審決は,上記(2)に記載したのと同じ理由で,本件考案進歩性を肯定した。しかし,上記審決の認定判断が誤りであることは,(2)で説示したとおりである。
(5) 被告は,考案進歩性については,実用新案法上,「きわめて容易考案をすることができた」か否かによって判断すべきものと規定されている(同法3条2項)のであるから,特許要件としての発明の進歩性の程度に達していなくとも,公知技術に基づいて当業者が当然に考えつく程度である自明の範囲を超えていれば進歩性があるものとして判断すべきである,と主張する。
実用新案登録の要件としての進歩性の判断基準が,「きわめて容易考案をすることができた」(実用新案法3条2項)か否かであり,特許要件としての進歩性の判断基準の「容易に発明をすることができた」(特許法29条2項)か否かとは異なることは,明らかである。しかしながら,本件考案1及び4が「きわめて容易考案をすることができた」といい得るものであることは,上記説示のとおりである。
被告の主張は採用することができない。
2 本件考案2及び3の進歩性についての判断の誤りについて (1) 本件考案2は,本件考案1において,@本件考案1における「縁縫い」を「オーバーロックミシンで」することに限定した上,これに,A溶融カット部を縫糸で包み込んだ後に,「さらに横方向に1枚ずつに切断して中央部または両側部を折り曲げて,この際に四隅部において溶融カット部が露出しない」ようにした,との構成を付加したものである。本件考案3は,本件考案1又は2において,「両側縁の縁縫いに用いる縫糸」を,「広幅織物と同組成で同系色のポリエステル繊維糸」に限定したものである。
(2) 審決は,本件考案2,3についても,1(2)に記載したのと同じ理由で,その進歩性を肯定した。しかし,上記審決の認定判断が誤りであることは,1(2)で説示したとおりである。
結論
以上述べたところによれば,本件考案1ないし4の進歩性を肯定した審決の認定判断は,いずれの考案についても,誤りであるというべきであり,この誤りが上記各考案についての審決の結論に影響を及ぼすことは,明らかであるから,審決は,請求項1ないし4のいずれについても,違法なものとして,取消しを免れない。そこで,原告らの本訴請求を認容し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久
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