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関連審決 異議1999-72707
関連ワード 考案 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の判断 /  きわめて容易 /  請求項 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 163号 実用新案登録取消決定取消請求事件
原告A
原告B
原告ら訴訟代理人 弁護士 吉武賢次、復代理人弁護士 宮嶋学
同 弁理士 橘谷英俊、佐藤泰和、吉本弘
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 関根洋之、渡部利行、小林信雄、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告らの請求
特許庁が平成11年異議第72707号事件について平成12年11月24日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1.特許庁における手続の経緯 原告らは、平成2年10月24日に名称を「ノン・インベイシブ血糖濃度の測定方法およびその装置」とする発明につき特許出願し(特願平2-286941号。
韓国出願に基づく優先権主張日1989年10月28日及び1990年7月24日)、これを平成9年8月18日に実用新案登録出願に変更し(実願平9-7317号。考案の名称「生体を損なわない血糖濃度測定装置」)、平成10年10月30日に実用新案の設定登録がされた(実用新案登録第2588468号)。
これに対して、実用新案登録異議申立てがあり(平成11年異議第72707号)、特許庁は、平成12年11月24日、「登録第2588468号の請求項1ないし5に係る実用新案登録を取り消す。」との決定をし、その謄本を同年12月25日、原告らに送達した。
2.本件考案の要旨 (各請求項考案をその請求項の番号に従い「本件考案1」、「本件考案2」等という。)【請求項1】電源スイッチを介して所定電圧を供給する電源と、この電源により所定波長の光を発生させる光源と、この光源からの光線を所定の平行光線に制御する光学系と、光学系を介して供給された光線を被測定部位に照射し反射されてきた光を集束させる集光部と、集光部が集束した光を検出する検出部と、検出部からの出力をアナログ信号からディジタル信号に変換した測定値を基準値と比較して演算処理して血糖値を算出する演算処理部と、を備えた生体を損なわない血糖濃度測定装置において、
少なくとも1つの発光素子より成り、かつ接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させる前記光源としてのレーザダイオードと、
前記電源からの出力に基づいて電圧の安定した出力を前記光源としてのレーザダイオードに供給するダイオード用の電源調節器と、
温度変化の影響を受け易い前記レーザダイオードの接合部に対して所定の割合で電流値を変化させるようにこのダイオードが封止されたチップの温度を制御する温度調節器と、
前記電源調節器を制御するために前記演算処理部より出力されるディジタル制御信号をアナログ制御信号に変換させるD/A変換器と、
前記レーザーダイオードから放出された光を測定目的に応じて分離・結合させて平行光線となるように光学的に調節する光学系と、
前記光学系により調節された光を被測定部位である被測定者の皮膚に照射すると共に、血管内の血液中の血糖分子の倍振動及び組み合わせ振動により散乱されて反射した光を集束する集光部と、
前記集光部により集束された光子を電気的なアナログ測定値信号に変換した後、この信号を増幅して出力する検出器と、
前記電気的なアナログ測定値をディジタル測定値に変換するA/D変換器と、前記基準値としての検定曲線を記憶するメモリと、変換された前記ディジタル測定値と前記メモリに記憶された検定曲線とを比較して血液中の血糖濃度を算出すると共に、前記D/A変換器を介して前記電源調節器に制御信号を出力してレーザダイオードの発光光線を制御する前記演算処理部としてのマイクロコンピュータと、
前記マイクロコンピュータにより演算・算出された血糖濃度を表示するディジタルディスプレイと、を具備すると共に、装置全体を携帯可能な寸法及び形状に小型化して形成したことを特徴とする生体を損なわない血糖濃度測定装置。
請求項2】前記レーザーダイオードから放射される電子輻射線の波長が1.4μm〜1.8μmであり、この波長の光が被測定者の皮膚を介して順次に血液に照射されることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項に記載の生体を損なわない血糖濃度測定装置。
請求項3】前記集光部は、直径が2.56cm以下のほぼ球形に形成された積分球より成り、かつ、全体の寸法が横150mm、縦75mm、及び高さ22mm以下に形成されたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項に記載の生体を損なわない血糖濃度測定装置。
請求項4】この血糖濃度測定装置の本体と、前記光学系,集光部及び検出部より成る測定部とを分離して構成すると共に、前記本体及び前記測定部分間を光ファイバにより接続したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項に記載の生体を損なわない血糖濃度測定装置。
請求項5】前記集光部により集束された前記光子を検出する検出部は、フォトダイオードを用いると共に前段増幅器を備えたゲルマニウム検出器より構成され、前記D/A変換器及びA/D変換器は、前記マイクコンピュータから分離されて同一基板上に実装され、かつ、前記電源としては4.5〜9Vの充電用バッテリより構成されていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項に記載の生体を損なわない血糖濃度測定装置。
3.決定の理由の要旨 決定は、別紙決定の理由写し(決定書という。)のとおり、本件考案1ないし本件考案5は、刊行物1ないし8に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものである、とした。
原告ら主張の決定取消事由
決定は、本件考案1と刊行物1(特開昭60-236631号公報。甲第3号証)記載の考案との相違点の判断を誤る(取消事由1、2)ことにより、本件考案1〜5の進歩性の判断を誤り、さらにこれとは別に、本件考案2の進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1.取消事由1(相違点(1)の判断の誤り) (1) 決定は、「本件考案の光源が、接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させるレーザダイオードであるのに対して、刊行物1記載の考案は、光源としてレーザー採用することを開示するのみである点。」(決定書8頁35〜38行)を、本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点(1)と認定し、「刊行物3(欧州特許公開第74428号公報、甲第5号証)には、生体を損なわない血糖濃度測定装置の光源としてレーザーダイオードを用いること、また、そのレーザーダイオードの強さは電源の電流によって制御されることが記載されている」(決定書9頁35〜37行)と認定した上で、「刊行物1記載の考案のレーザーを、接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させるレーザダイオードとすることは、当業者がきわめて容易になし得ることにすぎない。」(決定書9頁37行〜10頁1行)と判断した。
決定の認定は認めるが、相違点(1)の判断は誤りである。
(2) レーザダイオードは供給電流の変化に応じて、一般に、数nmの出力波長の変化を生じる。そのことは、刊行物5(「O plus E」1988年株式会社新技術コミュニケーションズ発行。甲第7号証)の90頁の図5、甲第11号証(「電子情報通信ハンドブック第1分冊」)985頁の図9(a)、及び甲第12号証(「光通信素子光学-発光・受光素子-」)の248頁図4.41(a)にみられるとおりである。なお、刊行物5の88頁表1には、半導体レーザーの波長可変範囲が、5〜50nmである旨記載されているが、これは外部共振器を使用した場合等の可変範囲であり、電流のみを変化させた場合の可変範囲は、前述のとおり数nmである。
本件考案1は、「少なくとも1つの発光素子より成り、かつ接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させる前記光源としてのレーザダイオード」を構成要件とするものであり、レーザダイオードは1つの場合と複数の場合があるが、いずれの場合でも、レーザダイオードは波長の異なる複数の光を発生させるものである。1つの場合、「異なる出力波長」とは、レーザダイオードであることから、数nmの波長差である。
また、本件明細書(甲第2号証)には、「光源として用いられるレーザダイオード5は1個でも良いが、通常、複数個、例えば30個程度で構成され、その全てが同一波長の光を放出するようにしても良いし、また、夫々が異なる波長の光を放出するようにしてもよい。」(段落【0016】)と、すなわち、複数のレーザダイオードの全てが同一波長の光を放出してもよい旨が記載されている。それぞれが異なる波長の光を放出するようにしてもよい旨の記載は、レーザダイオードが1つのときの関連から、各レーザダイオードに供給する電流の調節により、それぞれが異なる波長の光を放出する、との趣旨である。すなわち、レーザダイオードが複数の場合も、数nmの範囲で発光波長を変えられるように構成されているのである。 そして、この数nmという波長差は、制御の極めて困難な波長差であり、そのような制御困難な波長差に着目したことが本件考案1の特徴である。
(3) 刊行物1には、グルコースの測光検出装置について記載されている。この検出装置においては、測定に複数の測定信号波長λG1 〜λ G4 を用いており、λ G1=1575nm、λ G2 =1765nm、λ G3 =2100nm、λ G4 =2700nmである。このことから、測定波長のうち隣り合うもの同士の波長差は、190nm、335nm、600nmであり、複数の測定波長の光を単一のレーザダイオードで発生させることは不可能である。刊行物1記載の考案では、そのため、数100nmといった広い幅のある波長の光を発生させるハロゲンランプといった光源が使用されているのである。
刊行物1に接した当業者は、ハロゲン光源に代えて、レーザー装置を用いるに当っても、発光波長が数100nm離れた複数の発光素子を用いてこの検出方法等を構成することになり、相違点(1)に係る本件考案1の構成に至ることはない。
2.取消事由2(相違点(3)の判断の誤り) (1) 決定は、「本件考案は、温度変化の影響を受け易い前記レーザダイオードの接合部に対して所定の割合で電流値を変化させるようにこのダイオードが封止されたチップの温度を制御する温度調節器を備えるのに対して、刊行物1記載の考案においては光源にレーザを採用することを開示するのみであり、レーザダイオードチップの温度制御のための該構成を開示するものではない点」(決定書9頁9〜13行)を本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点(3)と認定し、「刊行物4(注.Technisches Messen tm,52.Jahrgang,Heft 9/1985,321〜326頁(甲第6号証)、以下でも「刊行物4」という。)に、半導体レーザの出力光の波長は動作温度に影響されやすく、従来から動作温度をレーザー動作中一定に維持するようにしていたことが記載されている」(決定書10頁22〜24行)と認定した上で、「刊行物1に記載の考案においてレーザーダイオードを採用するに際して、温度変化の影響を受け易いレーザダイオードの接合部に対して所定の割合で電流値を変化させるようにこのダイオードが封止されたチップの温度を制御する温度調節器を備えることは、当業者であれば普通に採用し得るものである。」(決定書10頁25〜29行)と判断した。
相違点(3)の認定は認めるが、判断は誤りである。
(2) レーザダイオード等の半導体装置一般において、特にパワー系の高電力型のものにおいてはチップの温度を制御することが行われているかもしれないが、
血糖濃度測定装置の光源としてのレーザダイオードの温度を制御する温度調節器は、刊行物4はもちろん他の刊行物にもその記載がなく、またそのことを示唆する記載もない。
本件考案1においては、供給電流によって数nm程度の波長変化を行わせるため、出力波長を、温度の影響を受けずに、供給する電流のみに可及的に正しく応答させる必要があり、温度調節を行うことの作用効果は、他の一般の半導体装置におけるよりもはるかに大きいのである。
したがって、本件考案1の相違点(3)に係る構成は、たとえ当業者といえども極めて容易に想到し得るものではない。
3.取消事由3(本件考案2の進歩性判断の誤り) 決定は、本件考案2について、「1.4μm〜1.8μmの光を順次に血液に照射して血糖濃度を測定することは、当業者が適宜なし得ることと認められる。」(決定書11頁29〜30行)と判断したが、誤りである。
本件考案2は本件考案1に従属するものであり、異なる出力波長の光(1.で述べたとおり、数nmの波長差である。)を発生させる光源としてのレーザダイオードを備える測定装置において、1.4μm〜1.8μmの波長の光が順次に照射されることを1つの特徴とするものである。しかし、数nmの波長差で1.4μm〜1.8μmの波長の光が順次に血液に照射される、という構成が刊行物1に記載がないことは明らかである。
したがって、本件考案2の「1.4μm〜1.8μmの光を順次に血液に照射」との構成が、刊行物1記載の考案から極めて容易になし得たものとは到底いえない。
被告の反論の要旨
1.取消事由1に対して (1) 決定で摘示(4頁〜5頁)したように、血糖濃度測定において異なる波長の光を用いることは刊行物1(特開昭60-236631号公報。甲第3号証)に記載されていることである。そして、レーザダイオードの出力波長を電流により同調し得ることは、刊行物5(「O Plus E」。甲第7号証)にみられるように、周知の事実であって、刊行物3(欧州特許公開第74428号公報。甲第5号証)には血糖濃度測定装置の光源として皮膚の表面から血管まで透過し得る波長の光を発生することのできるレーザダイオードを用いることが開示されているから、刊行物1記載の考案の光源として、電流により強さばかりでなく出力波長を変化させることのできるレーザダイオードを採用することは、当業者であれば極めて容易に想到し得ることである。
(2) 原告らは、「数nmという波長差は、極めて制御の困難な波長差であり、そのような制御困難な波長差に着目したことが本件考案1の特徴である」と主張する。しかし、本件考案1の構成は、「少なくとも1つの発光素子より成り」であるから、レーザダイオードは1つに限られない。そして、仮にレーザダイオードが1つの場合を考えても、レーザダイオードの波長可変範囲は5〜50nm程度(甲第7号証88頁表1)であり、2つの波長の光を発生する場合、それらの光の波長差は、数nmばかりでなく50nm程度になり得るから、発生する複数の光の波長差が数nmであるとは必ずしもいえない。
また、本件明細書(甲第2号証)には、【考案が解決しようとする課題】として、「本考案の目的は、血糖を測定する時に・・・手軽でかつ人体に悪影響を与えることなく血糖濃度を測定することのできる、生体を損なわない血糖濃度測定装置を提供することにある。」(段落【0005】)との記載、及び【考案の効果】として、「本考案によるノン・インベイシブ血糖濃度の測定装置によれば、・・・簡便なおかつ身体部位の変異などのような人体への有害さが無く、従来の使い捨て注射器が要らなくなり、測定補助器材による費用が殆どかからなくなる等の長所を有している。」(段落【0042】)との記載があるにとどまり、「数nmの波長差」及び「制御困難な波長差に着目」などに関しては本件明細書には記載がない。
さらに、光の照射による血糖濃度測定において、波長差がわずか数nmである複数の光を用いることの意味も不明である。
したがって、原告らの上記主張は、本件明細書の記載に基づかない主張であり、
失当である。
2.取消事由2に対して 用いられる光の波長が安定すれば測定が適正に行われるということは、光を用いた測定一般に対していい得ることであって、本件考案1に特有の作用効果を期待することができるなどとは到底いえない。また、温度の制御は、その必要がある装置の部位に対して行えばよいのであって、血糖濃度測定装置の光源としてのレーザダイオードなればこその構成手段であるなどとは到底いえない。
そして、レーザダイオードはその出力光の波長が動作温度の影響を受けやすくその温度を一定に維持する必要があることは、決定で説示したとおり、刊行物4(Technisches Messen tm,52.Jahrgang, Heft9/1985。甲第6号証)に記載されているから、レーザダイオードの温度を制御し得る温度調節器を備えるようにすることは、当業者であれば極めて容易に想到し得ることである。
原告らの主張は、本件考案1が、数nmの波長差の複数の光を用いることを前提とした主張であるが、その前提が誤りであることは、1.で述べたとおりである。
したがって、原告らの主張は当を得たものではなく、相違点(3)についての決定の判断に誤りはない。
3.取消事由3に対して 刊行物1には「光ビーム9を構成する各パルス成分は単一波長、すなわち前段のモノクロメータにより交互に取出された2つかまたはそれ以上の異なった波長である。換言すれば、光ビーム9を構成する各パルス成分は、波長1575nm、1765nm、2100nm、または2700nmを中心とする少なくとも1つの測定信号と、λG 波長の両側における狭い波長範囲かまたは広い基準範囲の少なくとも1つの基準信号で構成されている。」(8頁右下欄6行〜15行)と記載されており、1.4μm(=1400nm)〜1.8μm(=1800nm)の光が順次に血液に照射される、という構成は刊行物1に記載されている。
刊行物1で例示された複数の測定波長を、複数のレーザダイオードで発生させることができることは明らかであるから、隣り合う測定波長の差が数100nmであることは問題とならない。
したがって、本件考案2についての、決定の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1.本件明細書の記載事項 本件明細書(甲第2号証)には次の各記載が認められる。
【0001】【考案の属する技術分野】この考案は血糖濃度測定装置に係り、・・・採血等による生体の損傷を伴わずに、単に本装置の測定部分(Port)を血管の見える人体の適当な部分、例えば手首の内側に当てることにより、血糖濃度の測定を可能にした生体を損なわない血糖濃度測定装置に関する。
【0002】【従来の技術】通常、糖尿病等の患者は一日に2回ないし8回程度、
平均すると4回程度は注射器等により血液を採取し、その後、例えば酵素法(Enzymatic Method)を利用した携帯用血糖濃度測定機器により血液中の糖濃度を測定している。
【0003】・・・従来の測定機器を用いる検査及び測定は、機器の本体だけでも高価であるばかりでなく、注射器や検査紙等の測定補助器具の購入費用だけでも年間を通して計算すると多大な経費を要している。
【0005】【考案が解決しようとする課題】本考案の目的は、血糖を測定する時に注射器・試験紙等の器具を用いることなく血糖濃度測定用の装置の測定部を単に皮膚に当てることにより、手軽でかつ人体に悪影響を与えることなく血糖濃度を測定することのできる、生体を損なわない血糖濃度測定装置を提供することにある。
【0006】〜【0007】(両段落併せて、請求項1と実質同文)【0016】・・・電源の供給開始により次第に増加した電流が臨界電流(約20mA)を越えるとレーザダイオード5が発光する。・・・徐々に電流を上げて、予め定められた電流値に達したときに測定に必要な波長を有する光が放出されることになる。例えば、1.3〜1.9μmの範囲内の波長を有する光が用いられるが、
この中でも特に、1.4〜1.8μmの波長を有する光が主として有用である。光源として用いられるレーザーダイオード5は1個でも良いが、通常、複数個、例えば30個程度で構成され、その全てが同一波長の光を放出するようにしても良いし、また、夫々が異なる波長の光を放出するようにしても良い。
【0017】・・・ダイオードレーザの場合、励起電流によりpn接合部に温度変化が生じ電流増加に伴い所定の割合で発振周波数が低い方にシフトすることがある。温度調節器13は、レーザダイオード5の接合部分の温度変化に起因する上述のような影響を除去するために、接合部の温度の調節を行なうものである。この温度調節は、レーザダイオード5のチップの外部から電流変化に伴う温度変化を検出し、所望のチップ温度になるように熱源を作用させることにより行なわれる。
【0042】【考案の効果】以上詳細に説明したように、本考案によるノン・インベイシブ血糖濃度の測定装置によれば、注射針のような器具を使用して血液を採る必要もなく単に本装置の測定部分(port)を血管の見える人体の適当な部分、例えば手首の内側に当てることにより血糖濃度を測定できるようになっているため、簡便なおかつ身体部位の変異などのような人体への有害さが無く、従来の使い捨て注射器が要らなくなり、測定補助器材による費用が殆どかからなくなる等の長所を有している。
これらの記載によると、本件考案1〜5は、従来の血糖濃度測定装置が採血を前提とする装置であったため消耗品費用が嵩んでいたので、採血せずに測定することができる血糖濃度測定装置を提供することを目的としてなされた考案であり、血液中の血糖分子の倍振動及び組み合わせ振動により吸収散乱される光を検出することにより、血糖濃度を得るものであると認められる。
2.取消事由1について (1) 原告らは、「数nmという波長差は、極めて制御の困難な波長差であり、そのような制御困難な波長差に着目したことが本件考案1の特徴である」と主張するので、まず、本件考案1の「レーザダイオード」が数nmの波長差の複数の光を測定光として出力するものかどうか検討する。
ア. 甲第2号証によれば、本件明細書の【考案の詳細な説明】には、電流と出力波長の関係について、請求項1と実質同文記載の段落【0007】を除けば、「徐々に電流を上げて、予め定められた電流値に達したときに測定に必要な波長を有する光が放出されることになる。」(段落【0016】)、「ダイオードレーザの場合、励起電流によりpn接合部に温度変化が生じ電流増加に伴い所定の割合で発振周波数が低い方にシフトすることがある。」(段落【0017】)、「レーザダイオード5に安定した電圧と温度で電流を漸増的に印加して測定に必要な波長を放出するように制御する段階。」(段落【0030】)、及び「レーザダイオード5がレーザダイオード用電源調節器4の制御により測定に必要な波長の光を放射する段階。」(段落【0032】)との記載があり、これら以外に電流と出力波長の関係についての記載は見当たらない。
これらの記載中、段落【0017】の記載は、単に電流によって発振周波数、すなわち、レーザダイオードの波長が変化するという一般的現象を述べたにすぎず、
段落【0016】、段落【0030】及び段落【0032】の記載は、この一般的現象に基づき「測定に必要な波長」の光を放出するために、同波長に対応する電流値に制御することを述べたものにすぎない。すなわち、これらの記載からは、個々のレーザダイオードから「測定に必要な波長」を得るために、電流を制御することは把握されるものの、1つのレーザダイオードから、「測定に必要な波長」として異なる波長の複数の光を出力させることまでは把握することができない。
イ. また、本件明細書には、測定に必要な波長が複数であることが必須である旨の記載も存在しない。「レーザーダイオード5は1個でも良いが、通常、複数個、例えば30個程度で構成され、その全てが同一波長の光を放出するようにしても良いし、また、夫々が異なる波長の光を放出するようにしても良い。」(段落【0016】)との記載によれば、レーザーダイオードを複数個用いる場合に、測定に必要な波長が複数になる場合があることが理解できるのみであって、レーザーダイオードを複数個用いる場合でさえ、測定に必要な波長が単一であってもよいとされている。
ウ. 原告らが主張するとおり、刊行物5(「O plus E」1988年5月号昭和63年5月5日株式会社新技術コミュニケーションズ発行。甲第7号証)の90頁図5には、「AlGaAsレーザーの波数と電流の関係」が図示されているところ、縦軸である波数は11980cm-1〜12020cm-1の範囲とされており、「レーザーの波数(cm単位で表わした波長の逆数)」(90頁左欄26〜27行)との記載に照らし、これを波長で表現すれば831nm〜834nmとなり、波長可変範囲はわずか3nmと認めることができる。甲第11号証(電子情報通信学会編「電子情報通信ハンドブック」オーム社 1988)の985頁図9には「1.3μmDFB-DC-PBH-LDの注入電流-光出力特性と発振スペクトル」のグラフが、甲第12号証(「光通信素子工学」工学図書株式会社 平成3年4版)の248頁図4.41(a)には、横軸を電流、縦軸をピーク波長とした「縦モードのヒステリシスループ」のグラフが描かれており、これらグラフから読み取れる可変波長範囲は数nmと認められる。したがって、これら甲号各証によれば、レーザダイオードの電流を変化させた場合、その発振波長は数nmの範囲で変化するものと認めることができるから、1つのレーザダイオードから異なる測定波長を得るとした場合、その波長差は数nm以内とならざるを得ないことも認めることができる。
しかし、本件明細書には、「本考案では・・・1.4〜1.8μmの範囲の波長を有する電子輻射線を利用している。この電子輻射線を照射したときに皮膚を通過して血管に到達する電子輻射線は、血液の成分と相互作用し、血液の成分を成す分子の固有の特性等により吸収されて散乱・反射される。」(甲第2号証段落【0009】)との記載があり(「電子輻射線」は「赤外線」又は「光」の意味に解する。)、本件考案1の測定波長は、「血液の成分と相互作用し、血液の成分を成す分子の固有の特性等により吸収されて散乱・反射される」波長として選択されるものであるが、わずか数nm以内の波長差を有する2つの波長の光の特性が血液成分と格段に異なる相互作用をすると認めるに足りる証拠はなく、数nmの波長差の複数の測定光を用いることの技術的意義を理解することもできない。
エ. 以上を踏まえて、相違点(1)に係る本件考案1の構成、すなわち、
「接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させる前記光源としてのレーザダイオード」との構成について検討すると、同構成にいう「異なる出力波長の光」を、「測定に必要な異なる出力波長の光」と解することは極めて困難であり、「レーザダイオード」から出力される光(必ずしも、測定に用いる光ではない。)の波長が、「電源からの電流により異なる」という、「レーザダイオード」が一般的に有する性質を記述したにすぎないと解するのが自然かつ合理的である。したがって、冒頭に述べた原告らの主張は採用することができない。
(2) そうすると、相違点(1)に係る本件考案1の構成とは、測定に用いる光源が接合部を備えるレーザダイオードであることに尽きるというべきである。そして、「刊行物3には、生体を損なわない血糖濃度測定装置の光源としてレーザーダイオードを用いること・・・が記載されている」(決定書9頁35〜37行)ことは、原告らも認めるところである。
したがって、「刊行物1記載の考案のレーザーを、接合部を備えると共に前記電源からの電流により異なる出力波長の光を発生させるレーザダイオードとすることは、当業者がきわめて容易になし得ることにすぎない。」(決定書9頁37行〜10頁1行)との判断についても、誤りは認められない。
(3) 以上のとおりであるから、取消事由1には理由がない。
3.取消事由2について (1) 光を用いて測定を行う場合、測定結果が測定波長に依存する場合、測定波長を安定化することが好ましいことは自明といえる。そして、刊行物4(Techisches Messen tm,52. Jahrgang, Heft9/1985。甲第6号証)には「半導体レーザの波長に影響を及ぼす主たる要因として、注入電流と動作温度が挙げられる。」(訳文2頁7〜8行)との決定が摘記した記載があり、レーザダイオードの出力波長が動作温度に影響されやすいことは、当業者の技術常識と認めることができる。
そうすると、刊行物1記載の考案において、相違点(1)に係る構成、すなわち、測定用光源としてレーザダイオードを採用(それが容易であることは、1.で説示したとおりである。)した場合に、測定波長の安定化を図るため、レーザダイオードが封止されたチップの温度を制御し、チップ温度の安定化を図ることは、当業者が適宜採用する技術であるといわなければならない。
「刊行物1に記載の考案においてレーザーダイオードを採用するに際して、温度変化の影響を受け易いレーザダイオードの接合部に対して所定の割合で電流値を変化させるようにこのダイオードが封止されたチップの温度を制御する温度調節器を備えることは、当業者であれば普通に採用し得るものである。」(決定書10頁25〜29行)との決定の判断もこれと同旨と認められるから、その判断には誤りがない。
(2) 原告らは、「血糖濃度測定装置の光源としてのレーザダイオードの温度を制御する温度調節器は、刊行物4はもちろん他の刊行物にもその記載がなく」と主張するが、波長を安定させるという課題は、血糖濃度測定装置の光源に限った課題でないことは明らかであるから、失当な主張でしかない。
また原告らは、「本件考案1においては、供給電流によって数nm程度の波長変化を行わせる」ことを前提として、作用効果が顕著である旨主張するが、その前提が誤りであることは、1.で説示したとおりである。
(3) したがって、取消事由2にも理由がない。
4.取消事由3について (1) 刊行物1(甲第3号証)には、「グルコースの吸収スペクトルに特有な測定信号波長λGを含む少なくとも1つの測定スペクトル帯域と、グルコースを含むバックグラウンド組織において、グルコースの吸収が零、もしくは、無視し得る程度である特有な基準信号波長λRを含む少なくとも1つの基準スペクトル帯域とが含まれている・・・方法において、前記測定および基準スペクトル帯域がいづれも1000〜2700nmの近赤外線とし、前記測定信号波長λGを1575±15nm、1765±15nm、2100±15nm、2270±15nmのいづれかの波長に設定した」(1頁左下欄10行〜右下欄5行)との決定が摘記した記載があるから、「刊行物1には、測定に用いる光の波長のスペクトル帯域を1575±15nm又は1765±15nmとすることが記載されており、これは、請求項2の1.4μm〜1.8μmに含まれる」(決定書11頁23〜25行)との決定の認定に誤りがないことは明らかである。
(2) 刊行物1にはさらに、「光ビーム9を構成する各パルス成分は単一波長、すなわち前段のモノクロメータにより交互に取出された2つかまたはそれ以上の異なった波長である。換言すれば、光ビーム9を構成する各パルス成分は、波長1575nm、1765nm、2100nm、または2700nmを中心とする少なくとも1つの測定信号と、λG波長の両側における狭い波長範囲かまたは広い基準範囲の少なくとも1つの基準信号で構成されている。」(8頁右下欄6行〜15行)との記載があるとおり、刊行物1には複数の波長を用いて測定を行うことが明確に記載されており、この複数の波長を1.4μm〜1.8μmから選択することができない理由はない。
そして、刊行物1記載の考案における複数の波長は、1つのレーザダイオードでは実現不可能な程度に離隔した波長であることは、上記記載及び1.での説示から明らかである。他方、刊行物5(甲第7号証)には、レーザダイオードの波長同調範囲について、「さらに拡大するためには、1個の素子では限界があり、複数個の素子を使わざるを得ないだろう。」(93頁左欄3〜5行)との記載があることから、複数の波長を、複数のレーザダイオードによって実現することは、当業者の技術常識と認めることができる。したがって、刊行物1記載の考案において、複数の波長(1.4μm〜1.8μm)を得るに当たり、複数のレーザダイオードを用いることは、当業者にとって、自然かつ合理的な形態であり、これら複数の波長の照射を同時ではなく順次に行うことも自然なことというべきである。
そうすると、「レーザーダイオードから放射される電子輻射線の波長が1.4μm〜1.8μmであり、この波長の光が被測定者の皮膚を介して順次に血液に照射される」との、本件考案2の構成(ここでも「電子輻射線」は「赤外線」又は「光」の意味に解する。)をなすことは、本件考案1についての相違点(1)に係る構成(測定用の光源を接合部を備えるレーザダイオードとすること)に付加される構成としては、レーザーダイオードを発振波長が1.4μm〜1.8μmから選ばれた複数とすること、及び順次照射とすることのみであるが、これらが、刊行物1に記載されているか、記載されたことを実現する上での自明な選択肢であることは、上記説示のとおりであり、本件考案1に同構成を付加した本件考案2に進歩性がないことは明らかである。
(3) なお、決定は、「刊行物1に記載された上記波長の近傍においても、グルコースによる照射光の吸収が大きな差なく生じているものと認められるから、上記ピーク波長含む1.4μm〜1.8μmの光を順次に血液に照射して血糖濃度を測定することは、当業者が適宜なし得ることと認められる。」(決定書11頁27〜30行)と判断しており、この判断の理由付けの部分は首肯することができないが、本件考案2に進歩性がないとの結論においては誤りがない。
(4) 原告らは、取消事由3においても、数nmの波長差であることを前提とした主張をするが、その前提が誤りであることは1.で説示したとおりである。
(5) したがって、取消事由3にも理由がない。
5.結論 以上のとおり、原告ら主張の取消事由はすべて理由がなく、決定には取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告らの請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実
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