関連審決 |
無効2001-35198 |
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関連ワード | 考案 / 図面 / 補正 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 新規性(3条1項) / 削除 / 請求項 / 実施例 / 頒布 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
54号
審決取消請求事件
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原告 ダイワ精工株式会社 訴訟代理人弁護士 勝田裕子 同 弁理士 鈴江武彦、中村誠 被告 株式会社シマノ 訴訟代理人弁護士 村林隆一、松本司、岩坪哲、井上裕史 同 弁理士 小林茂雄、平井真以子 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/10 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35198号事件について平成13年12月18にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、考案の名称を「中通し釣竿」とする実用新案登録第2570549号(平成5年6月19日出願、実願平5-38208号、平成10年2月13日設定登録)の実用新案権者である。この実用新案登録について、被告から平成13年5月25日に無効審判の請求がされ、特許庁はこれを無効2001-35198号事件として審理し、同年12月18日、「実用新案登録第2570549号の請求項1乃至3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決をし、その謄本を同年12月28日、原告に送達した。 2 本件考案の要旨【請求項1】 穂先竿を保持する保持竿に振出継合した前記穂先竿の先端部外周に固定され、前記保持竿先端部内径より小径の外径を有した固定管と、 釣糸案内用の内径を有し、前記保持竿の先端部内径より大径の外径を有するトップガイドと、 該トップガイドと前記固定管とに形成されて、互いに螺合するねじ部と、を具備することを特徴とする中通し釣竿。 【請求項2】 前記トップガイドの外郭形状がその最大外径を有する位置まで前方に向かって殆ど縮小することの無い略ラッパの形状に形成されてなる請求項1記載の中通し釣竿。 【請求項3】 穂先竿を保持する保持竿に振出継合した前記穂先竿の先端部外周に固定され、前記保持竿先端部内周より小径の外径を有する固定管と、 前記保持竿の先端部内径よりも大径の外径を有するトップガイドと、 該トップガイドの内周に設けられ、該雌ねじ部の螺合する雄ねじ部とを具備し、 前記穂先竿はその先端が前記雄ねじ部の領域内にまで至るように前記固定管内に挿入されたことを特徴とする中通し釣竿。 (以下、請求項1ないし3の考案をまとめて「本件考案」という。) 3 審決の理由 審決の理由は、別紙審決の写しのとおりである。その要点は、次のとおり。 (1) 平成8年4月30日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)により、本件考案は、トップガイドについて、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「当初明細書」という。)に記載も示唆もされていない「長さ方向全長にわたって均一の外径をなすもの」、すなわち小径部がなくラッパ状にもなっていないものも含むものとなり、考案の構成に係る技術的事項が当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなったから、本件補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものであり、平成5年改正法による改正前の実用新案法9条1項により準用される特許法40条の規定により、その出願日は、手続補正書提出日である平成8年4月30日とみなされる。 (2) 本件考案は、その出願日とみなされる平成8年4月30日より前に頒布された甲第3号証(本件考案の公開公報である実開平7-1760号公報、審判甲第1号証)に記載された考案であるから、本件実用新案登録は平成5年改正法附則第4条第1項の規定によりなお効力を有する旧実用新案法3条1項の規定に該当し、無効とすべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本件補正が明細書の要旨を変更するものであるとの誤った認定をし(取消事由1)、その結果本件実用新案登録の出願日の認定を誤り(取消事由2)、甲第3号証(実開平7-1760号公報。審判甲第1号証)が本件考案の出願前に頒布された刊行物であるとの誤った認定をし(取消事由3)、甲第3号証記載の考案と本件考案とを対比することにより本件考案の新規性を否定したものであるから、 違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1:要旨変更の認定判断についての誤り (1)審決は、その理由の4.(2)「補正事項に関連する当初明細書の記載事項」においては、当初明細書の【従来の技術】の欄及び【考案が解決しようとする課題】の欄の記載を引用し、これらの記載が補正事項と関連する当初明細書の記載事項に含まれることを認定しながら、4.(3)「補正事項と当初明細書記載の技術的事項との対比」ではこれらの記載を補正事項との対比において検討していない。補正が要旨変更か否かを認定する際に考案の技術的課題も検討すべきことは当然で、これらの記載事項を検討することなく補正事項と当初明細書記載の技術的事項とを対比した審決には、審理の遺脱がある。 (2)出願当初の明細書に、考案の構成に基づく本来の機能に加えて、更に付加された構成に基づく機能が単に重畳的に加わる場合は、付加された構成は単純な付加限定にすぎず、このような関係の構成を有する構成に基づく本来のもの(本質的内容)と、特定の構成が付加されこれにより限定されたものとが併存して記載されていると解される。 また、特許庁の審査基準では、補正事項が一字一句当初明細書に記載されていなくても、当業者にとって当初明細書等の記載から自明な事項も明細書に記載された事項の範囲内であるとされている。 本件についてみると、当初明細書には、トップガイドに「小径部」、「大径部」を付加限定していない本来の考案(本件考案)とこれらを付加限定した考案(当初明細書の請求項1記載の考案)とが重畳的に記載されていると解され、「長さ方向全長にわたって均一の外径をなすトップガイド」も出願時の周知技術(甲第4〜第8号証)であるから、当初明細書等の記載からみて自明な事項ということができ、 当初明細書に示唆されているということができる。 当初明細書に記載された課題は、振出式の中通し釣竿では、径の大きなトップガイドを有すると(それが、長さ方向に均一であれ、大径部と小径部を有するものであれ)穂先竿が抜き取れないという問題を解決することであり、上記課題及び作用効果(穂先竿の抜き取り)との関連において、長さ方向に均一なトップガイドも大径部と小径部を有するトップガイドも区別する必要はない。したがって、径の大きなトップガイドを有する穂先竿に関し、長さ方向に均一のトップガイドは本件考案にとって自明な技術事項であり、当初明細書に示唆されているということができる。 (3)審決は、「仮に・・出願当初明細書にトップガイドに「小径部」、「大径部」を付加限定していない本来の考案(釣糸案内用の内径を有し、前記保持竿の先端部内径より大径の外形を有するトップガイド)が記載されていたとす」れば、 「「実用新案登録請求の範囲]、[課題を解決するための手段]、[作用]にはあえて付加限定した考案ではなく、本来の考案に直接対応する構成を記載するのが自然である」(審決7頁)と述べるが、これは[実用新案登録請求の範囲]に関してどのような補正も認められないというに等しく、明らかな誤りである。 審決は、また、当初明細書の実施例1及び2は小径部がなければ想定し難い(審決7頁)旨述べるが、一実施例の構成が小径部を必要とする構成であるとしても、 そのことを理由に出願当初の本件考案が小径部を必要とする考案であるということはできず、さらに、実施例2は小径部がなくても実現することができる。 (4)以上のとおりであるから、当初明細書の請求項から「小径部」に関する記載及び「ラッパ状」との記載を削除する補正は、当初明細書に記載された発明の範囲内で、当初明細書の発明の課題に対応させたにすぎず、要旨の変更ではない。 2 取消事由2:出願日認定の誤り 上述したように、本件補正は明細書又は図面の要旨を変更するものではないから、本件実用新案登録の出願日は、平成5年6月19日であり、前記手続補正書の提出日である平成8年4月30日とみなされるとした認定判断は明らかに誤りである。 3 取消事由3:甲第3号証の公知性についての認定の誤り 本件考案の出願日は、上記2のとおり平成5年6月19日であるから、甲第3号証(審判甲第1号証)は本件考案の出願後に頒布された刊行物であり、出願前頒布された刊行物には該当しない。従って、審決の認定は誤りがある。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1に対して (1)補正の基礎となる「明細書又は図面に記載した事項」が従来技術や考案が解決しようとする課題の欄を含めた明細書全体であることは原告主張のとおりであるとしても、本件考案の当初明細書の各欄には補正後の登録請求の範囲にかかる技術的事項は記載されてない。補正によって登録請求の範囲が当初明細書に記載外の技術的事項を含むことになれば、当該補正が明細書の記載又は図面に記載された事項の範囲を超えて登録請求の範囲を拡張又は変更するもの(要旨変更)に該当するのは明らかである。 (2)甲第4〜第8号証に記載された「長さ方向全長にわたって均一な外径をなすトップガイド」の構成は、それ自体が周知技術であろうとなかろうと、明らかに当初明細書等に記載されていない。原告が引用する審査基準にも「その発明の属する技術分野における周知慣用技術であっても、それが自明であるか否かはその発明の目的との関連において判断すべきものであるから、その全ての周知、慣用技術が自明な事項であるとはいえない。」と明記されているとおり、自明事項とは、当初明細書又は図面の記載上自明(記載されているに等しい)と評価されるものであって、当初明細書に記載外の技術的事項を「周知技術」の名のもとに登録請求の範囲に取り込む補正が許されるものではない。 (3)審決は、「当初明細書においては、[実用新案登録請求の範囲]、[課題を解決するための手段]、[作用]、[実施例]、[考案の効果]の記載において一貫してトップガイドを小径部と大径部からなり大径部はラッパ状に形成されたものとして記載しており、『長さ方向全長にわたって均一の外径をなすもの』を含みうるものであることを示唆する記載はない」(審決7頁3行〜7行)と明確に認定したうえで、この認定の妥当性を検証するために、仮に原告主張のようなもの(補正後の登録請求の範囲)が当初明細書の「本質的な考案」であるなら、【実用新案登録請求の範囲】あるいは【課題を解決するための手段】又は【作用】にそれに直接対応する構成を記載するのが自然であるという、経験則に適った論理を述べているにすぎない。 なお、本件考案の第2実施例は、「図3は本考案にかかる第2実施例を示し、・・・従って穂先竿10の収納時にトップガイド20’の大径部20B’を残した他部は保持竿12に収納できる。」というものであり(当初明細書の段落【0012】)、穂先竿収納時に、「大径部を残した他部」即ち「トップガイドの小径部」を保持竿に収納するように構成されていない原告準備書面(1)添付「参考図2」のもの(別紙参考図2参照)は、いずれにせよ当初明細書において想定されている考案の実施態様とは異なるものである。かつ、別紙参考図2のものは、トップガイド後端面の大部分が何物にも当接せず竿尻側に開放されたものであるから、小径部を有しないトップガイドではその後端面を「固定管の端面に当接させる構成は考え難い」とする審決の認定には、何らの誤りもない。 (4)審決の妥当性 本件補正後の登録請求の範囲には、文言上「長さ方向全長にわたって均一の外径をなすもの」、すなわち小径部がなくラッパ状にもなっていないトップガイドが含まれる。このトップガイド(別紙参考図2)が本件当初明細書に記載外の、新たなトップガイドの構成であることは明白である。 以上、原告が主張する原審決の取消事由はいずれも当を得ないものである。 2 取消事由2及び3に対して 本件補正は要旨変更に該当するから、出願日の認定に関する原審決の結論は正しく、そうすれば、本件実用新案の出願日は手続補正書の提出日となり、本件考案は甲第3号証(本件公開公報)に基づいて新規性ないし進歩性を阻却される。 よって、原審決の結論に誤りはなく、本件請求は棄却されるべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1:「要旨変更の認定判断についての誤り」について (1)本件補正の内容は、以下のとおりと認められる。 当初明細書の実用新案登録請求の範囲は、トップガイドについて、「保持竿の先端内径よりも小径の外径と穂先竿の先端内径よりも大径の内径とを有する小径部と、保持竿の先端内径より大径の外径を有し、ラッパ状に形成された大径部とを有したトップガイド」と規定していたが(甲第3号証)、平成8年4月30日の本件補正により実用新案登録請求の範囲のトップガイドについての記載は、「釣糸案内用の内径を有し、前記保持竿の先端部内径より大径の外径を有するトップガイド」(請求項1)とされ、「小径部」に関する記載及び「ラッパ状」についての記載が削除された(甲第2号証)。 その本件補正後の実用新案登録請求の範囲において、トップガイドは、「長さ方向全長にわたって均一の外径をなすもの」、すなわち小径部がなくラッパ状にもなっていないもの(別紙参考図2参照)も含むこととなった(争いがない。)。 (2)当初明細書(甲第3号証)の考案の詳細な説明欄の記載内容は、次のとおりである(引用部分に適宜下線を付加)。 @ まず、従来技術と考案の課題について、 「【従来の技術】釣竿の先端部に大径のトップガイドを固定した中通し釣竿が本出願人による特開平4-117232号公報に開示されている。」(段落【0002】)、「【考案が解決しようとする課題】・・・振出式継合釣竿の場合には、上記のような径の大きなトップガイドを有する穂先竿はそのトップガイドが穂先竿を保持する保持竿の先端内側に当って挿通不可能となり、該穂先竿が抜き取れず、該穂先竿等の手入れや修理が困難になる。依って本考案は、釣糸がスムーズに挿通できると共に保持竿から穂先竿が抜き取り、分解されて手入れや修理を容易にした中通し釣竿の提供を目的とする。」(段落【0003】、【0004】)、との記載があり、本件考案が振出式継合釣竿を前提とするものであることが明らかにされている。 A そして、これに続く【課題を解決するための手段】の欄には、 「穂先竿を保持する保持竿に振出継合した前記穂先竿の先端部外周に固定され、前記保持竿先端部内径より小径の外径を有した固定管と、前記保持竿の先端内径よりも小径の外径と前記穂先竿の先端内径よりも大径の内径とを有する小径部と、前記保持竿の先端部内径より大径の外径を有し、ラッパ状に形成された大径部とを有したトップガイドと、該トップガイドの小径部と前記固定管とに形成されて、互いに螺合するねじ部とを具備することを特徴とする中通し釣竿」が、目的(課題)を達成するために採用された構成として記載され(段落【0005】)、 B その採用された構成の作用について、【作用】の欄には、 「穂先竿の先端部外周に固定された固定管は保持竿先端部の内径よりも小径のため、該固定管は保持竿の中に収納でき、またトップガイドの小径部との間に互いに螺合するねじ部を形成しており、この小径部は保持竿先端の内径よりも小さな外径を有するため、トップガイドの小径部は固定管に螺着されたまま保持竿の中に収納できる。更にトップガイドはその小径部を介して穂先竿に肯定された固定管に対して着脱可能であるため、トップガイドを取り外した後に穂先竿を保持竿から抜き取り、分解することができる。またトップガイド小径部の内径が穂先竿先端内径よりも大きいので、釣糸がこの小径部の内周縁に接触しないと共に、トップガイドの大径部 は径が大きいため、釣糸の摺動抵抗が小さくなる。」(段落【0006】)と記載されている。 C さらに、これに続く実施例の説明では、本件考案の第1実施例及び第2実施例が図(【図2】、【図3】)を参照しつつ説明されているところ、両実施例は、いずれも、トップガイドに小径部20A(20A’)及び大径部20B(20B’)を備えるものとして説明され、穂先竿10を保持竿12に収納する時に、トップガイド20の大径部20Bは外径が保持竿先端の内径よりも大きいために保持竿12に引っ掛かるものの、残りの他部、すなわちトップガイドの小径部20A、20A’は、保持竿12に収納することができる旨説明されている(段落【0007】〜【0012】)。 D そして、【考案の効果】の欄には、トップガイドに関して、 「・・本考案によれば、トップガイドの小径部の内径が穂先竿の先端内径よりも大きいため、この小径部内周面に釣糸が接触せず釣糸がスムーズに挿通できるとともに、大径部は径が大きいために釣糸の摺動抵抗が小さくなる。」(段落【0013】)との記載がある。 (3)以上によれば、当初明細書においては、【実用新案登録請求の範囲】、 【課題を解決するための手段】、【作用】、【実施例】、【考案の効果】の記載を通じて一貫して、トップガイドが小径部とラッパ状に形成された大径部とからなるものとして説明されており、「大径部」と「小径部」を有しないもの、すなわち、 「長さ方向にわたって均一な外径をなすトップガイド」を示唆する記載は存在しないものと認められる。 (4)原告は、@振出式の中通し釣竿に径の大きなトップガイドがあると穂先竿が抜き取れない、という当初明細書に記載された課題は、トップガイドを固定管に対して着脱可能とし、螺合ねじ部を形成し、固定管の外径を保持竿先端内径より小径とすることによって解決されるのであり、課題及び作用効果との関係において、 トップガイドが「小径部とラッパ状の大径部を有する」構成か「長さ方向にわたって均一な外径をなす」構成かで区別する必要はないから、当初明細書には「小径部とラッパ状の大径部を有する」トップガイドの構成のみならず、「長さ方向にわたって均一な外径をなす」トップガイドの構成も自明なものとして示唆されているというべきである、A本件考案の出願当時には、トップガイドとして、「小径部とラッパ状の大径部を有する」ものも「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」ものも周知であったから、長さ方向に全長にわたって均一の外径をなすトップガイドは、本件明細書から自明の技術事項である、B【作用の欄】の「トップガイドの小径部は固着管に螺着されたまま保持竿の中に収納できる」との記載は、考案の課題との関連性を有しない記載であるから、上記記載を根拠として当初明細書に記載されたトップガイドが「小径部とラッパ状の大径部」という限定された構成のものであるとすることはできない、などと主張する。 しかしながら、当初明細書に記載された課題を解決する手段として、トップガイドを、「ラッパ状の大径部と小径部を有する」構成とすることも「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」構成とすることも可能であり、両者を区別する理由がない、というだけでは、後者の構成が当初明細書の記載から自明な事項であるとすることはできない。むしろ、当初明細書に、一貫して、小径部と大径部とを有するトップガイドのみが説明されていること、及び考案に係る構成が奏する作用を説明した記載中に、「トップガイドの小径部が、固着管に螺着されたまま保持竿の中に収納できる構成である」という、小径部の存在を前提とした記載があることからすれば、当初明細書が他のトップガイドの形状を備える釣竿を全く想定していないことは明らかであり、当初明細書の記載に接した当業者が当然に「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」トップガイドまで想起するということはできない。原告は、当初明細書の【作用】欄の記載が当初明細書に提示された考案の課題に対応するものとなっていないというが、そのことは、当初明細書に明示された構成に基づいて考案を理解しようとする当業者にとって、考案の作用についての記載が不十分であるとの感を抱かせるものではあっても、当初明細書中に全く開示も示唆もない「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」を当然に想起させるものとまでいうことはできない。 また、「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」トップガイドが出願当時周知であったというだけでは、それが当初明細書から自明であるということはできない。 原告の主張は採用することができない。 (5)原告は、また、審決は、補正事項と当初明細書記載の技術的事項とを対比するに当たり、当初明細書の従来技術の欄及び考案が解決しようとする課題の欄の記載を検討しておらず、判断に遺漏があると主張する。 しかしながら、審決は、当初明細書には、トップガイドとして「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」ものは記載も示唆もされていないと指摘する(審決6頁2行〜9行)のみならず、[実用新案登録請求の範囲]、[課題を解決するための手段]、[作用]、[実施例]、[考案の効果]の記載において一貫してトップガイドが小径部と大径部からなりラッパ状に形成されたものとして記載されていることから、本件考案の基本構成としてのトップガイドは「小径部を備えるラッパ状のもの」であると解釈せざるを得ないことと説示し(審決7頁3行〜9行)、さらに、「仮に、被請求人が主張するように出願当初明細書にトップガイドに「小径部」、「大径部」を付加限定していない本来の考案「釣糸案内用の内径を有し、前記保持竿の先端部内径より大径の外径を有するトップガイド」が記載されていたとする。そうするとまずもって・・・極めて不自然である。」(審決7頁10行〜31行)として、本件当初明細書の記載内容を理解する上で、当業者の観点からみて「長さ方向全長にわたって均一の外径をなすもの」を想定することが困難であることを指摘したうえで、「長さ方向全長にわたって均一の外径をなす」トップガイドという技術的事項は当初明細書に記載された事項を超えると判断しているのであるから、その判断及び理由付けに欠けるところはないというべきである。単に当初明細書の従来技術の欄及び考案が解決しようとする課題の欄の言及がないことをもって、審理に遺漏があるとする原告の主張は、採用することができない。 (6)以上のとおりであるから、本件補正により考案の構成に係る技術的事項が当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなったから、本件補正は当初明細書の要旨を変更するものである、とした審決の判断に誤りはない。 原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2、3について 1で判断したとおり、本件補正が要旨変更に当たるとした審決の判断に誤りはないから、審決のした出願日の認定は正当であり、また、審決が甲第3号証は本件考案の出願日前に頒布された刊行物であるとしたことにも誤りはない。 原告主張の取消事由2及び3は理由がない。 3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由1ないし3はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |