関連ワード | 技術的範囲 / 実施許諾 / 損害額 / 実施料相当額 / 消滅時効 / 考案 / 実施許諾(実施の許諾) / 通常実施権 / 独占的通常実施権 / 削除 / 請求の範囲 / 利益額 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
13年
(ワ)
7339号
損害賠償請求事件
|
---|---|
原告 株式会社ハイパックシステム 訴訟代理人弁護士 赤木明夫 被告 デンカポリマー株式会社 訴訟代理人弁護士 滝井朋子 |
|
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/24 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、金8263万6000円及びこれに対する平成13年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
被告は、原告に対し、金3億円及びこれに対する平成13年8月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
|
事案の概要
本件は、「包装用トレー」の考案の実用新案権者であった原告が被告に対し、被告が包装用トレーを製造、販売することにより原告の実用新案権(仮保護の権利を含む。)を侵害し原告に損害を与えたと主張して、損害賠償を請求した事案である。 1 争いのない事実等(証拠の掲記のないものは当事者間に争いがない。) (1) 原告代表者は、次の実用新案権を有していた(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)。本件実用新案権は、平成6年4月11日をもって存続期間満了により消滅した。 ア 考案の名称 包装用トレー イ 登録番号 第1712320号 ウ 出 願 日 昭和54年4月11日(実願昭54-48866号) エ 公 告 日 昭和62年4月17日(実公昭62-15155号) オ 登 録 日 昭和62年12月21日 カ 実用新案登録請求の範囲 「被包装物を盛付けしたトレーの上面にストレッチフィルムをオーバーラップして糊付面に接着させたのちトレーの周囲上縁の近傍でフィルムを切断して包装体を形成するために使用するトレーであって、平坦な底板と、上記底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、上記周壁の上部外側面全周に形成された略垂直な接着剤塗布面とを具備し、上記トレーの接着剤塗布面を、多数個のトレーを重ね合わせたとき、各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続した略垂直な面として柱状を呈する如く形成したことを特徴とする包装用トレー。」 (2) 原告代表者は、原告に対し、本件考案について独占的通常実施権を設定していた(甲3、弁論の全趣旨)。 (3) 原告、被告及び原告代表者が代表取締役を務める株式会社東製作所(以下「東製作所」という。)は、昭和60年5月、以下の内容の協定書を取り交わした(甲5、乙1。以下「本件協定」という。なお、本件でいう「本(ほん)しめじ」は、ブナシメジを含むものである。)。 ア 原告及び東製作所は、被告に対し、本件協定成立の日から被告の依頼する数量に対し遅延することなく生産し被告に対し安定供給することを確約する(第1条)。 イ 原告及び東製作所は、被告以外からの被告の類似品(本しめじノリ付トレー)の注文の生産に応じないこととする(第2条)。 ウ 被告は本しめじノリ付作業の生産は行わないものとする(第3条)。 エ 被告及び東製作所が業務状態の変動等の事情により被告の注文に応じがたい事情が発生したときには直ちにその旨を被告に報告するなど被告の販売に支障を生ぜしめぬよう協力する(第4条)。 (4) 被告が昭和62年4月17日から平成6年3月末日までの間に製造、販売した包装用トレーは、本件考案の技術的範囲に属するものであった。 被告の製造に係るトレーは、「ほんしめじ」と刻印された長野県経済事業農業協同組合連合会(以下「長野県経済連」という。)向けのものと、その刻印のない長野県経済連以外向けのもの(品番:GQ-45)がある(以下、長野県経済連向けのトレーを「ほんしめじ刻印トレー」、長野県経済連向け以外のトレーを「GQ-45」といい、それらを合わせて「被告トレー」という。また、被告トレーのうち、原告ないし東製作所が糊付け加工したトレーを「協定内トレー」といい、それ以外のトレーを「協定外トレー」という。)。 なお、「GQ-45」の主な納入先は、ホクト産業株式会社(以下「ホクト産業」という。)である。 2 争点 (1) 原告代表者は、被告に対し本件考案の実施を許諾していたか。 (2) 消滅時効 (3) 損害の発生及び額 (4) 過失相殺 |
|
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件考案の実施許諾)について 〔被告の主張〕 (1)ア 本件協定について (ア) 被告は、昭和53年以降、長野県産しめじの包装材(三角トレー及びその改良トレー)を供給し、長野ノバフォーム株式会社(以下「ノバフォーム」という。)がほぼ一手にこれを販売する態勢ができあがっていた。 しかし、しめじの包装にはできる限り密封した包装が望ましかったことから、昭和55年春、本件の糊付けトレーを用いることとし、被告、ノバフォーム及び原告の間で、被告がトレーを供給し、原告が糊付けをし、ノバフォームがこれを販売するという合意が成立した。 (イ) その後、しめじ包装の需要は急激に増加し、原告、被告及びノバフォーム三者の態勢は、主として糊付け能力が追いつかないために、ほとんど常に供給の滞りが生ずることとなった。 そこで、昭和60年5月、被告及びノバフォームが一部資金を負担して、原告が分担する作業のため、糊付け機械の補充をすることとなり、これを機会として、本件協定を締結することとなった。 本件協定の意義は、下記の@〜Bの点にある。 @ しめじ糊付けトレー用のトレーは被告が供給し、原告(側)が糊付けをし、相互にそれ以外のルートではこれを行わない。 A 既に成立していた被告を権利者とする三角トレー意匠権、権利未成立ではあるが出願中の本件実用新案権等、この共同事業に関係する権利については、権利化の際には相互に実施許諾する。 B 殊に原告(側)は納期遅れの生じない生産を確約し、これが困難な場合は直ちに被告に報告する。 イ 原告及び被告のその後のトレー製造の経緯について (ア) その後も、この糊付けトレーの需要は爆発的に急増したが、それに伴い糊付け遅滞により供給が追いつかない納期遅れと、主として糊の不具合によるクレームとが一層増加した。 昭和62年4月17日に本件実用新案は出願公告となったが、原告は、平成元年2月、被告とノバフォームに対し、従来の約束及び本件協定の約定と異なり、自らトレーの成型も糊付けも単独で行いたい旨の申入れをした(乙4の2・3)(なお、原告は、この申入れ以前の昭和60年ころから、既に被告に内密に本件協定に違反して自らトレーを成形し糊付けの上、ノバフォームを通じて販売していた。)。 原告がトレーの成形・糊付けを行いたいという申入れに対しては、結局三者の合意が成立しないまま、原告は平成元年9月からは公然とほしいままに従来の約束にも本件協定にも違反して、トレーの成形・糊付けをした製品「M-10」を販売した。 (イ) しかしながら、糊付けトレーの納期遅れ・供給不足が深刻な問題となり、糊付けトレーの製造販売は、日本ザンパック株式会社、株式会社コバヤシ(以下「コバヤシ」という。)などが参入し市場は乱戦となった。こうした状況の中、原告に対する糊付けの度重なる促進の申入れにもかかわらずその改善がなされなかったので、被告は、平成2年4月、やむにやまれず、糊付けのない協定外トレーをノバフォームに出荷し、同社がこれに糊付けして長野県経済連に供給した。 ウ 被告による協定外トレー製造の事実に関する原告代表者の認識について (ア) 原告代表者は、平成2年6月には、被告とノバフォームの協定外トレーの製造行為を知り、その証拠である糊付けトレーを大量に回収して保存していた(乙4の5)。 なお、被告は、平成2年7月4日、上記協定上のトレー事業と並んで自ら単独で製造し糊付けしたトレーの販売をなすことの了解を求めたが(乙4の6)、原告代表者は、この被告の申入れに対してはその諾否の態度を明確にせず、 他方において、自らトレー製造販売を継続していった。 (イ) さらに、原告は、平成5年7月ころ、150g用、200g用トレーに関し協定外で被告が糊付けした事実を把握した(乙4の10)。 原告が、被告による150g用、200g用の協定外トレー製造の事実を把握していたということは、被告が100g用の協定外トレーを製造しているであろうとの強い推測をしていたと解さざるを得ない。 (ウ) 原告は、昭和60年から、被告が成形した多数の「GQ-45」の糊付けをしていたが、平成4年からはその数が極端に少なくなり、平成5年、平成6年にはその数がゼロになっている。 他方、原告トレー「M-10」は、毎年極めて高い率で生産数が増加し、長野県産しめじの生産量も急増していたから、自己の製品「M-10」を販売していた原告代表者は、この事実を知悉していたものというべきである。 そうすると、被告が平成5年には協定内トレー(GQ-45)の糊付けの発注を止めてしまったのであるから、原告代表者は、遅くとも平成6年ころには、これに代わって被告が協定外の「GQ-45」(糊付け加工を原告に依頼しないもの)を販売しているであろうことは当然推測していたはずであり、現に知っていたと解される。 (エ) しかも、原告代表者は、平成8年7月、被告の副社長を呼び出して、上記(ウ)の事実を指摘し、ホクト産業も被告とならんで権利侵害をなしていることとなるので、損害賠償請求訴訟を起こすと述べていたのであるから、原告代表者が被告による協定外トレー製造の事実を認識していたことは明らかである。 原告代表者は、平成8年8月には、ノバフォームが被告製造の200g用、150g用、100g用糊付けトレーを販売していたことを認識していた(甲8の1、2、5)。 (2) 上記の事実経過に照らせば、以下のとおり、原告代表者は、被告に対し、 本件考案の実施を許諾した事実が認められる。 ア 原告代表者は、被告及びノバフォームと共にしめじ包装用トレー製造販売の事業を開始した時から、両名に対しこれが権利化した際の実施を許諾していたものである。本件協定には、ノバフォームは参加しなかったものの、原告被告二者の間で、上記実施許諾を再度確認したものである。 イ また、原告が、まず、昭和60年からは協定相手である被告に内密に、 そして、平成元年からは公然と、共同事業の約定及び本件協定に違反してトレー製造販売を行い、その後、被告が、平成2年から供給不足にたまりかねて同様にこの協定外のトレー製造をしたが、その直後に原告代表者がこれを知ってから後にも、 原告被告間には依然として協定に従った糊付けトレー製造の協力関係が継続しており、しかもこの数が、協定外で原告被告が製造販売した数よりもはるかに多く、この関係が両者の中心的関係であった。この事実は、原告被告間には、本件実用新案権の実施許諾合意を含む協定関係が継続していて、これと併行して協定外で糊付けトレーを各自製造販売することを相互に黙認していたと解されるべきである。したがって、この黙認部分についても、被告については本件実用新案権についての実施許諾が存在していた。 〔原告の主張〕 (1) 原告代表者は、被告に対し協定外のトレーについて、本件考案の実施を許諾したことはない。このことは、被告が、原告代表者に対し、平成2年4月〜7月に、「供給の安定化を確保する為、貴社より、実施権を譲り受け、当社でもノリ付けする件についても、御検討をお願いします。」との実施権がないことを前提とする内容の書簡を送付している(甲19の5)ことからも明らかである。 (2) 被告の主張に対し、次のとおり反論する。 ア 本件協定について (ア) 被告は、本件協定の意義として、被告がトレー成形を行わないことが含まれていると主張する。 原告は、昭和60年ころ、原告の生産能力が不足するようになり、被告に資金の一部(300万円)を負担してもらい糊付け設備を増設した。 被告としては、原告が、上記糊付け設備を利用して、他の同業メーカーのトレーの糊付けをすることは容認できないという意向があった。 原告としては、トレーの糊付けの発注が確実になされ、上記設備を稼働しなければならないから、被告が原告以外に糊付けの注文を出さないでもらいたいという意向があった。 こうした意向を確認する趣旨で、本件協定を締結したものであり、原告が独自にトレーを成形することを禁じているものではない。原告は、そのことを本件協定の条項に加える予定であったが、被告がその必要はないと言うので、同条項は削除された。 (イ) また、被告は、本件協定の意義として、トレー製造に係る共同事業に関係する権利については、権利化の際には、相互に実施許諾することが含まれていると主張するが、本件協定書のどこにもそのような記載はなく、全く事実に反する主張である。 ノバフォームは、原告に対し、平成2年から平成5年までの間に販売した150g用、200g用トレーの実施料を支払っており(甲14)、この事実は、被告が三者態勢と主張するノバフォームに実施権がなかったことを示すものである。 イ 原告及び被告のその後のトレー製造の経緯について 原告は、500ケース/日の糊付け能力を有しており、トレーの糊付けが遅滞した事実はない。 また、上記ア記載のとおり、本件協定では原告によるトレーの成形が禁じられてはいないから、原告による「M-10」の成形が本件協定に反することを前提とする被告の主張は理由がない。 ウ 被告による協定外トレー製造の事実に関する原告代表者の認識について (ア) 原告代表者が平成2年6月に被告に対して送付した書面(乙4の5)は、被告がしいたけトレーを回収しているとの記載がされているものであって、ほんしめじトレーに関するものではない。 (イ) 原告代表者は、平成5年7月ころ、被告が150g用及び200g用の協定外トレー(ノバフォームが糊付けするもの)を成形していた事実は知っていたが、100g用トレーについては全く知らなかった。 しかも、ノバフォームによる100g用トレーの糊付け加工については、 ノバフォーム自身が、平成8年8月1日付けの回答書において、不良品を再加工、 補充しただけであり、糊を付けたことがないと弁解している(甲8の5)。 (ウ) 被告は、従前原告が糊付けしていた「GQ-45」の数量が、平成4年からは極端に少なくなり、平成5年、平成6年にはその数がゼロになっているから、被告が協定外で「GQ-45」の糊付けをしていることを原告代表者が認識していたはずであると主張する。 しかし、原告代表者は、「GQ-45」はひらたけ用のトレーであると認識しており、「GQ-45」の糊付け数量が減少してきたことは、ひらたけの出荷が減少したことによるものと思っていたものであって、被告が協定外で「GQ-45」の糊付けをしていたことを認識していなかった。 したがって、原告による「GQ-45」の糊付け数量が減少したとしても、そのことから、原告代表者が、被告による協定外の糊付けの事実を認識したことにはならない。 (エ) 原告代表者が、平成8年7月に、被告の副社長と面談したのは、被告が被告製造のトレーに糊付け加工してホクト産業に販売していたのではないかと疑っていたことから、事実を確かめた上で、事実であるならば、被告あるいはホクト産業に対し法的措置を講じなければならないと考えて、被告に連絡したことによるものである。 しかし、副社長は、原告代表者が事実を確かめるべくいろいろ聞いたものの、被告が糊付けしている事実を否定し、結局、被告が糊付けしていることを確信できるような事実は何も聞き出すことができなかった。 (オ) 原告代表者が、被告による100g用の協定外トレーを製造販売していることを知ったのは、平成11年7月に、ノバフォームからほんしめじトレー販売実績表(甲7)がFAXで送られてきたことによるものであり、それ以前は知らなかった。 2 争点(2)(消滅時効の成否)について 〔被告の主張〕 協定外で、被告が糊付けトレーを製造販売するようになった平成2年4月以降は、本件考案の実施許諾がされていないと解すべきものであると仮定しても、本件実用新案権侵害は、その存続期間満了時である平成6年4月11日に終了している。 上記争点(1)〔被告の主張〕(1)ウ記載のとおり、原告代表者は、平成2年6月(遅くとも平成5年、百歩譲っても平成8年)には、被告が協定外トレーを製造販売していたことを知っていたのであるから、被告に対する損害賠償請求権は本件実用新案権の消滅時から3年後の平成9年4月10日の経過(遅くとも平成11年の満了)をもって時効消滅した(民法724条)。 被告は、本訴において、上記消滅時効を援用する。 〔原告の主張〕 被告の消滅時効の主張は争う。 上記争点(1)〔原告の主張〕(2)ウ記載のとおり、原告代表者が被告による協定外トレーの製造販売の事実を知ったのは平成11年7月であって、それまでは知らなかったから、消滅時効は完成していない。 3 争点(3)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 (1) 昭和62年4月17日から平成6年3月末日までの間の被告による協定外トレーの販売数量(1万個以下は切り捨て)は、下記のとおりである。 ア 長野県経済連のほんしめじ向け 3億0079万1970個 この数量は、「長野県ブナシメジの生産推移(各年1月〜12月までの県推定値)」(甲10)に記載の生産量(重量)を基に使用された100g用トレーの数量を算出し、この数量から、@原告の出荷伝票を基に集計した(甲11)、被告がトレーを製造し被告が糊付け加工したもの(協定内トレー)及び原告がトレーを成形したもの(M-10)の数量、A「しめじトレー取扱実績と平均販売単価について」と題する書面(甲13)を基に集計した信越農材株式会社(以下「信越農材」という。)製造に係るトレーの数量、B長野県経済連の大阪弁護士会会長に宛てた回答書(甲12)を基に集計したコバヤシの製造に係るトレーの数量、C「ほんしめじトレー販売実績表」と題するノバフォーム作成の書面(甲7)を基に集計した150g用及び200g用トレーの数量(各重量に応じて、1.5倍ないし2倍した数値)をそれぞれ差し引いて求めたものである。 イ 長野県経済連のひらたけ向け 5216万8917個 この数量は、「ほんしめじトレー販売実績表」と題するノバフォーム作成の書面(甲7)の「51号1960無地」の平成元年と平成2年の数量、平成3年〜平成6年の「GQ-45」の数量、及び昭和62年と昭和63年については平成元年と同じ数量とみなして求めたものである。 ウ 長野県経済連以外のほんしめじ向け 2億5324万個 この数量は、林野庁の作成に係る2001年版「林業統計要覧」(甲23)に記載されるブナシメジの全国生産量(重量)から、長野県及び三重県の生産量を差し引いて、これを100g用トレーの数量に換算して求めたものである。 エ 上記ア〜ウの合計 5億1538万個 (2) 実用新案法29条1項に基づく損害の算定 ア 原告のトレーの販売単価について (ア) 原告が、被告の侵害品に換えて、原告製造に係る「M-10」を、 長野県経済連に直接販売した場合の販売単価は、3.60円である。 (イ) また、原告が、長野県経済連の要請により、被告の侵害品に換えて、原告製造に係る「M-10」を、ノバフォームあるいは他の代理店を通じて長野県経済連に販売した場合の販売単価は、3.20円である。 イ 原告が、トレー1個当たりに要する原価は次のとおり1.661円である。 (ア) トレーの製造(合計:1.126円) 加工単価 0.146円 材料費 0.980円 (イ) その他経費(合計:0.40円) 梱包費 0.19円 運送代 0.21円 (ウ) 糊付け(合計:0.135円) 加工単価 0.105円 糊 代 0.030円 (エ) 上記(ア)〜(ウ)の合計は1.661円となる。 ウ 上記ア、イによれば、トレー1個当たりの原告の利益額は、1.939円(3.60円-1.661円)、あるいは1.539円(3.20円-1.661円)となる。 エ そうすると、被告の侵害行為によって原告が被った損害は、9億9932万円(1.939円×5億1538万枚)、あるいは7億9316万円(1.539円×5億1538万枚)と推定される(実用新案法29条1項)。 (3) 実用新案法29条2項に基づく損害の算定 ア 被告のトレーの製造原価((ア)〜(オ)の合計:1.566円) (ア) 外注加工費 0.22円 (イ) 原料シート代 0.93円 (ウ) 段ボール代 0.118円 (エ) クラフトテープ他 0.012円 (オ) 営業運賃 0.286円 イ 被告のトレーの糊付原価((ア)〜(カ)の合計:0.668円) (ア) 直接作業労務費 0.248円 (イ) 電力費 0.021円 (ウ) 糊代 0.267円 (エ) ポリ、クラフトテープ 0.043円 (オ) 移送運賃 0.018円 (カ) 保管荷役費 0.071円 ウ 被告の糊付けトレーの製造原価は、2.234円(1.566円+0.668円)となる。 被告の販売単価は、長野県経済連に対して3.60円、その他の販売先に対して3.90円程度であるから、被告が得る利益は、それぞれ1.366円(3.60円-2.234円)、1.666円(3.90円-2.234円)となる。 エ 被告は、協定外トレーの販売により少なくとも1個当たり1.36円の利益を得ており、これを5億1538万枚販売したことにより、合計7億0091万円の利益を得た。 よって、被告の侵害行為によって原告が被った損害は、7億0091万円と推定される(実用新案法29条2項)。 オ なお、被告が主張する利益額について、次のとおり反論する。 (ア) トレー成形に係る費用について a 直接作業労務費及び直接償却設備費を裏付ける証拠はない。 b 外注加工費は、算出の基礎となるショット数に誤りがある。 c 原料シート代は、原告提出の乙12の添付資料1.C-2を基に算出すると、トレー1枚当たりの原料シート重量は3.52gとなり、これを基に算出すべきである。 d 荷役費を裏付ける証拠はない。 e 営業費は算出過程に誤りがあり、また、原価を構成するとは思えない費目が多くある。 (イ) トレーの糊付け加工に係る費用について 直接償却設備費、容器ロスを裏付ける資料はない。 (4) 原告は、被告に対し、上記(2)記載の実用新案法29条1項に基づく損害額と、上記(3)記載の同条2項に基づく損害額(これらは選択的主張)の内金3億円を請求する。 (5) なお、原告が被った損害の算定に当たり、実施料相当額に基づく算定方法を採用することには、到底同意できない。 〔被告の主張〕 (1) 販売数量について 平成2年4月1日から平成6年4月11日までの間に被告が製造販売した協定外トレーの枚数は、次のとおりであり、その合計は、2億2790万4000枚である。 ア ほんしめじ刻印(糊なし・ノバフォーム向け) 1億5983万6000枚 イ GQ-45(糊なし・ノバフォーム向け) 776万8000枚 ウ GQ-45(糊付き・ノバフォーム向け) 204万1000枚 エ GQ-45(糊付き・一般向け) 5825万9000枚 オ 合計 2億2790万4000枚 (2) 実用新案法29条1項に基づく損害の算定について ア 原告が主張する単位数量当たりの利益額は否認する。 原告は、平成2年2月当時、自己の糊付代は0.76円であるが、これでは利益が出ず不十分であると強く主張し、同年8月にはこれを10銭値上げしなければ人件費さえも不足すると主張していた。 しかるに、原告は、本件訴訟に至ると、にわかに糊付け費用は0.135円で十分であると主張するが、この主張金額には全く証拠上の根拠がない。 こうした一事をとっても、原告が製造原価として主張する金額は、全く信頼性がないことが明らかである。 イ 29条1項ただし書の事情について 少なくとも平成4年に至るまでは、しめじの生産量に比してトレーの供給量は客観的に常に不足していたから、原告は、例えば「M-10」をもっと増産すればいくらでも販売可能な市場の状況であったと解される。しかし、被告が、原告に対して、常時「増産のお願い」をしてきたにもかかわらず、原告は、協定内トレーはもとより、「M-10」についても、遂にその生産量を大きく増加させて当時の客観的需要を満たす、ということは実現できなかったのである。 したがって、原告には、原告が現に製造販売した協定内トレー及び「M-10」トレー以上に、トレーを製造する能力はなかったというべきであり、実用新案法29条1項ただし書に該当する事情がある。 (3) 実用新案法29条2項に基づく損害の算定について 原告が主張する被告の利益額は否認する。被告が製造販売したトレーによって得た利益は、別紙「被告の利益額(被告主張)」のとおりであり、各協定外トレーによる被告の利益額の合計は以下のとおりである。 ア ほんしめじ刻印(糊なし・ノバフォーム向け) 2677万9000円 イ GQ-45(糊なし・ノバフォーム向け) 73万5000円 ウ GQ-45(糊付き・ノバフォーム向け) 53万3000円 エ GQ-45(糊付き・一般向け) -1693万円 オ 合計 1111万7000円(2677万9000円+73万5000円+53万3000-1693万円) 4 争点(4)(過失相殺)について 〔被告の主張〕 原告、被告及びノバフォームは、本件実用新案権の実施許諾を前提として、 しめじトレー製造販売の共同事業を行っていたこと、この共同事業に基づくトレーの供給不足を発端として、各当事者がこれとは別に協定外のトレーを製造販売するようになったが相互にこれを黙認していたこと、原告代表者は、縷々協定外トレーについて被告を非難し、平成8年には、協定外のトレーの存在を前提として損害賠償請求権を論じていたことからすると、仮に、本訴請求が理由ありとされる場合には、原告側の過失が大幅に斟酌されて過失相殺がされるべきである。 その過失相殺の割合は9割を超えるというべきである。 〔原告の主張〕 被告の過失相殺の主張は争う。 |
|
争点に対する判断
1 争点(1)(本件考案の実施許諾)について (1) 被告トレーが本件考案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがないから、被告による被告トレーの製造、販売行為は、本件実用新案権者であった原告代表者による実施許諾がなければ、本件実用新案権を侵害するものといえる。 (2) 被告は、原告代表者は、被告及びノバフォームと共にしめじ包装用トレー製造販売の事業を開始した時から、両人に対しこれが権利化した際の実施を許諾していたものであり、本件協定は、ノバフォームは参加しなかったものの、原告被告二者の間で、上記実施許諾を再度確認したものであると主張する。 ア 証拠(甲38の1、乙7、11、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、 次の事実が認められる。 (ア) 昭和47年ころから、長野県産のほんしめじの生産量は毎年大幅に増加し、ノバフォーム等の包装資材メーカーは、作業効率が良く、しかも気中菌糸の抑制が可能な包装資材を求めていた。 (イ) 被告は、昭和53年ころから、しめじの包装材(三角トレー及びその改良トレー)を供給し、ノバフォームがこれを長野県経済連に販売するようになった。 (ウ) 被告、ノバフォーム及び長野県経済連は、昭和54年9月、包装展で展示されていた原告の包装機械を見て本件考案を実施したトレーをほんしめじの包装に用いることを決めた。そして、原告と協力して技術改善した上、昭和55年ころから、被告がトレーを成形し、原告がトレーの糊付けを行い、それをノバフォームが長野県経済連に販売するという協同態勢の下に、トレーの製造販売を行うようになった。 (エ) その後、しめじトレーの需要が急激に増加してトレーの糊付け能力が不足するようになったことから、昭和60年5月、被告及びノバフォームが、原告の糊付け機械を補充するための資金の一部を負担することとなり、その際、原告、東製作所及び被告の三者間で、原告及び東製作所が被告の発注数量に対し遅延することなくトレーの糊付け加工を行うことや、被告がトレーの糊付け加工を行わないことなどを内容とする本件協定を締結した。 イ(ア) 前記認定事実によれば、昭和55年ころから被告がトレーを成形し、原告ないし東製作所がこれに糊付け加工をするという生産態勢が続いており、 本件協定は少なくともそうした生産態勢を前提とする内容であるから、被告が、この生産態勢に従って被告トレーを成形して販売する行為については、原告代表者は本件考案の(権利化後の)実施許諾をしていたものというべきであり、この点は原告も争っていない。 しかし、本件協定においては、被告はトレーの糊付け加工を行わないことが合意されているから、原告代表者は、被告あるいは被告の依頼した会社が糊付け加工を行う生産ルートによるトレー(協定外トレー)の製造については、本件協定を根拠として、本件考案の実施を許諾したとすることはできない。 (イ) また、原告代表者が、本件協定より以前の被告及びノバフォームと共にしめじ包装用トレー製造販売の事業を開始した時から、本件実用新案権が権利化した際の実施を許諾していたとの被告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。 かえって、被告は、平成2年7月4日、原告代表者に対し、「供給の安定化を確保する為、貴社(原告)より、実施権を譲り受け、当社でもノリ付けする件についても御検討をお願いします。」と、被告が本件考案の実施許諾を得ていないことを前提とする書面を送付していること(甲19の5)、しめじ包装用トレーの製造販売の協同態勢に参加していたノバフォームが、原告に対し、平成2年から平成5年までの間に販売した150g用及び200g用の協定外トレーについて実施料を支払っていること(甲14)、さらに、被告会社で本件包装用トレーの製造販売を担当していたAも、平成元年ないし平成2年ころ、被告がトレーを成形しノバフォームが糊付け加工をする行為が、本件実用新案権を侵害するとの認識を有していたこと(証人A)からすると、被告やノバフォームは、被告らが協定外トレーを製造販売する行為について、原告代表者から本件考案の実施許諾を得ていないと認識していたというべきである。 (3)ア 被告は、本件協定は原告がトレーの製造は行わないことが合意されており、まず、原告が本件協定に違反してトレー製造販売を行い、その後に、被告が供給不足を解消するために協定外トレーを製造するようになったと主張する。これに対し、原告は、本件協定においては、原告がトレーの製造を行わないことは合意されていないと主張する。 イ 本件協定では、「原告及び東製作所は、被告以外からの被告の類似品(本しめじノリ付トレー)の注文の生産に応じないこととする(第2条)」との合意がされているが、当時の生産態勢は、前記(2)ア記載のとおり、被告がトレーを成形し、原告及び東製作所がこれに糊付けをするというものであったから、上記第2条の合意は、こうした生産態勢を前提とし、原告及び東製作所は、被告以外からノリ付作業の受注を受けないことについての合意であると解することができる。 そして、本件協定において、原告及び東製作所がトレー製造することの可否に関する合意が含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。 なお、当時、トレー製造は被告が担当しており、原告がトレーを製造することは被告のトレー製造に関するシェアが奪われることになるから、被告はそうした事態を容認しなかったのではないかと推認されるが、本件協定締結時において、そうした事態を想定した合意を認めるに足りる証拠がない以上、本件協定に、 原告及び東製作所のトレー製造の可否に関する合意が含まれていたとすることはできない。 ウ したがって、原告がトレー製造をしたことが本件協定に違反する行為であることを前提とする被告の主張は理由がない。 仮に、原告がトレー製造をしたことが本件協定に違反するとしても、また、原告と被告との間で本件協定を遵守する生産態勢が崩れたことから、被告も、 本件協定に反しトレーの糊付け作業を行うようになったとしても、そのことが、直ちに、原告代表者が、被告による協定外トレーの製造、販売行為に関し、本件考案の実施を許諾したと認めるべき事情に結びつくものではない。 (4) さらに、被告は、@原告代表者は、平成2年6月には、被告とノバフォームの協定外トレーの製造行為を知り、その証拠である糊付けトレーを入手して、被告らに対しこれについての異議申立てをしたこと、A原告代表者は、平成5年7月ころ、150g用、200g用トレーに関し協定外で被告が糊付けした事実を把握したこと、B被告は、原告に対し昭和60年から「GQ-45」の糊付け加工を依頼していたが、平成5年にはこの依頼を止めてしまったこと、C原告代表者は平成8年7月に、被告の副社長を呼び出して、本件実用新案権侵害の事実を指摘したことなどを理由として、原告代表者は当時被告らによる協定外トレーの製造販売の事実を知っていたにもかかわらず、これを黙認していたと主張する。 ア 証拠(甲7、甲8の1〜5、甲14、甲19の4・5、乙4の5・6・10、乙8、10、11、証人A)によれば、次の事実が認められる。 (ア) 被告は、平成2年ころまでは、本件協定に従い、成形したトレーを原告に納入し、原告は、これに糊付け加工をして、ノバフォーム、ホクト産業等へ納入していた。 しかし、平成2年ころから、被告は、成形したトレーをすべて原告に納入するのではなく、自社ないし下請会社においてトレーに糊付け加工をして出荷したり、あるいは、成形したトレーをノバフォームに納入してノバフォームにおいて糊付け加工をするという本件協定に反する販売形態をも採るようになった。 これに伴って、平成4年からは、原告で糊付けする「GQ-45」は極端に減少し、平成5年にはこれがゼロになった。 (イ)a 原告代表者は、平成2年6月26日、被告に対し、「特に、当社がお預けしているしいたけトレイの金型を盗用して、貴社が某所で糊付けさせた製品を大量に回収し保存しておりますが、……」と記載した「ほんしめじトレイの増産の件」と題する書面(甲19の4、乙4の5)を送付した。 b これに対し、被告は、同年7月4日、原告代表者に対し「先日の書状で、過去に当社がノリ付したとの御指摘がありましたが、従来より御説明しております様に、その様な事実はございませんので、申し添えます。」と記載した書面(甲19の5、乙4の6)を送付した。なお、同書面には、トレー増産のための提案として「貴社より、実施権を譲り受け、ロイヤリティを支払った上、当社でノリ付けする。」との事項も記載されている。 (ウ)a 原告代表者は、平成5年7月15日、被告及びノバフォームに対し、「貴社は、『3社の分業という当初の申し合わせは現在も有効であると考えている』と申されますが、それならば150g、200gトレイを勝手に糊付けしていることをどう説明されるつもりでしょうか。」と記載した「糊付加工賃の値上げの件」と題する書面(乙4の10)を送付した。 b ノバフォームは、平成6年4月14日に、原告代表者に対し、平成2年から平成5年までの間に販売した150g用、200g用トレーについて、実施料を支払うための集計結果を伝えた(甲14)。 c 原告及び原告代表者は、本件実用新案権ないしその独占的通常実施権の侵害に基づき、平成6年にコバヤシを被告として損害賠償ないし不当利得返還を請求する訴訟(以下「別件コバヤシ訴訟」という。)を提起したが(甲3)、同訴訟に関して、平成8年7月12日、ノバフォームに対し、ノバフォームが糊付けしたほんしめじ用の100g用、150g用、200g用トレーの販売数量を教えて欲しいとの内容の書簡を送付した(甲8の1)ところ、ノバフォームは、同月17日、同販売数量は先般提出した資料のとおりであると回答した(甲8の2)。 d 原告代表者は、同月19日、別件コバヤシ訴訟においてその内容の計算におかしいところがあると指摘されているので、再確認されたいとの書簡をノバフォームに送付し(甲8の3)、同月31日に、同趣旨の催促の書簡を再度送付した(甲8の4)。 e これに対し、ノバフォームは、平成8年8月1日付けの回答書において、150g用、200g用トレーについては、先般提出した資料のとおりである旨を伝え、100g用トレーに関しては、「ほんしめじの茸が秋から冬に需要が集中する時期に、鈴木社長もご記憶の通り、貴社で塗布した糊付けトレーが、糊が強過ぎてブロッキングになったり、糊が薄かったり、トレーのミミが大き過ぎたりの不良品トレーが多発し、良品が不足する事態が度々発生し、当方より貴社に再三に渡り、この対応をお願いしましたが実現せず、総発売元としての供給責任が果たせなくなった為、やむを得ず、当社は非常事態と判断して、休日出勤と残業で、社員総出で不良品を再加工、補充をして玉切れをかろうじて防いで来たものです。」(100g用トレーの糊付けをしているとの記載はない。)と回答した(甲8の5)。 (エ) 原告代表者は、被告が被告トレー(GQ-45)に糊付けしてホクト産業に売っていたのではないかとの疑いを持ったことから、被告副社長に対し、 しめじ容器の実用新案権侵害について意見を伝えたい意向があるとの申入れをし、 平成8年7月8日に被告副社長と面談したが、その際、原告代表者の「被告は、千葉でしめじ容器の糊付けをしていると聞いているが……」との質問に対し、被告副社長は、被告による糊付けの事実を否定し、「全体の生産状況は把握していない。」と答えた。 (オ) 平成11年7月28日にノバフォームから原告代表者にFAXでノバフォームの販売数量の一覧表(甲7)が送付され、これにより、原告代表者は、 被告が100g用トレーを協定外で製造販売していた事実を把握した。 イ 以上の事実に基づき、原告代表者が被告による協定外トレーの製造販売の事実を知っていたにもかかわらず、これを黙認していたといえるかについて検討する。 (ア) 原告代表者が平成2年6月26日に送付した書面は、しいたけトレーに関するものであって、被告がしめじ用の協定外トレーを製造していたことを指摘するものではない。 しかも、前記(2)イ(イ)記載のとおり、被告は、原告代表者の書面に対する回答書において、トレー増産のための提案として「貴社より、実施権を譲り受け、ロイヤリティを支払った上、当社でノリ付けする。」との事項を記載していることからすると、被告は、しめじ用の協定外トレーを製造するに当たり、原告代表者に対し、本件考案の実施許諾が必要であることを認識しつつ、当時既に製造を開始していた協定外トレーの製造の事実を意図的に隠していたことがうかがわれる。 (イ) また、原告代表者が平成5年7月15日に送付した書面は、150g用及び200g用トレーに関するものであって、被告が100g用の協定外トレーを製造していたことを指摘するものではない。しかも、ノバフォームは、100g用トレーに関し、糊付けの不良品が発生したため、やむを得ずこの不良品を再加工、補充してトレーの供給不足をしのいだと伝え、100g用トレーの糊付け加工の事実をあえて秘すような返答をしている。また、その後に、上記のとおり、150g用及び200g用トレーについては、ノバフォームとの間で別途和解交渉が続けられており、100g用トレーについては協定外の製造を否定していたのであるから、原告代表者が150g用及び200g用トレーに関する糊付けの事実を把握していたとしても、そのことから、原告代表者が、100g用トレーの糊付けの事実を把握していたとすることはできない。 (ウ) 原告は、当初「GQ-45」の糊付け加工をしていたものであるが、平成4年からは、「GQ-45」の糊付け加工の依頼が極端に減少し、平成5年にはこれがゼロになったものである。一方で、被告は「GQ-45」を自社ないしノバフォームで糊付けしてホクト産業等に納入していたのであるから、原告が糊付けしていないにもかかわらず、「GQ-45」が流通したことになる。したがって、仮に、原告代表者が市場を確認すれば、本件協定に反して被告が糊付け加工を行ったのではないかと推測できるとも考えられる。 しかし、原告が本件訴訟において「GQ-45」をひらたけ包装用のトレーとして集計していたことからうかがわれるように、原告代表者は、本件訴訟で被告から「GQ-45」がほんしめじ包装用のものであることを指摘されるまでは、「GQ-45」はひらたけ包装用であると認識していたものと推認される。 (エ) さらに、平成8年7月8日に原告と被告副社長が面談した際には、 原告代表者が、被告はしめじ用トレーの糊付け加工をしているのではないかと問いただしたのに対し、被告副社長はこの事実を否定し、結局、原告代表者は、被告による糊付け加工の事実を確認できないまま終わったものである。 したがって、原告代表者が「GQ-45」をひらたけ包装用トレーであると誤解していたことに加え、原告代表者が被告に対し、協定外トレーの製造の事実を問いただしたにもかかわらず、被告は意図的にこれを否定したものであるから、このような状況の下で、原告代表者が被告による協定外トレーの製造を認識し、これを黙認したということは到底できない。 (オ) そうすると、原告代表者が被告による協定外トレーの製造販売の事実を認識し、これを黙認したことを前提として、原告代表者が被告による協定外トレーの製造について本件考案の実施を許諾していたとする被告の主張事実を認めることはできない。 2 争点(2)(消滅時効)について (1) 被告は、原告代表者が平成2年6月(遅くとも平成8年)には、被告が協定外トレーを製造販売していたことを知っていたとして、被告に対する損害賠償請求権は平成9年4月10日の経過(遅くとも平成11年の満了)をもって時効消滅(民法724条)したと主張する。 (2) しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間損害賠償請求権を行使しなかった場合に消滅時効が完成する(民法724条)ところ、前記1(4)記載のとおり、原告代表者が平成11年7月28日にノバフォームから販売数量の一覧表(甲7)の送付を受ける以前に、原告代表者が被告による本件実用新案権の侵害行為(協定外トレーの製造販売行為)を認識していた事実を認めるに足りる証拠はないから、被告による消滅時効の主張は理由がない。 3 争点(3)(損害の発生及び額)について (1) 販売数量について ア 原告は、昭和62年4月17日から平成6年3月末日までの間の被告による協定外トレーの製造販売行為について、本件実用新案権を侵害するとして損害賠償を請求するところ、乙9によれば、被告が保存されていた得意先別請求書を1枚1枚チェックして積算したところ、原告が対象とする期間内において被告が製造販売した協定外トレーの各年度毎(同年4月1日〜翌年3月31日)の枚数は、次のとおりであり、その合計は2億2354万7000枚であることが認められる。 このほかに、原告が対象とする期間内において、被告が協定外トレーを製造販売した事実を認めるに足りる証拠はない。 (ア) ほんしめじ刻印(糊なし・ノバフォーム向け) a 平成2年度 683万1000枚 b 平成3年度 2954万1000枚 c 平成4年度 5105万0000枚 d 平成5年度 6948万5000枚 e 合計 1億5690万7000枚 (イ) GQ-45(糊なし・ノバフォーム向け) a 平成2年度 251万0000枚 b 平成3年度 95万1000枚 c 平成4年度 194万5000枚 d 平成5年度 234万1000枚 e 合計 774万7000枚 (ウ) GQ-45(糊付き・ノバフォーム向け) a 平成2年度 71万5000枚 b 平成3年度 89万6000枚 c 平成4年度 36万7000枚 d 平成5年度 6万3000枚 e 合計 204万1000枚 (エ) GQ-45(糊付き・一般向け) a 平成2年度 885万6000枚 b 平成3年度 1311万4000枚 c 平成4年度 1663万9000枚 d 平成5年度 1824万3000枚 e 合計 5685万2000枚 イ 上記被告の算出結果は、林野庁作成の「特用林産関係資料」記載の長野県産ほんしめじの生産量(乙5)と、コバヤシ及び信越農材の製造に係るトレー、150g用、200g用の協定外トレー、原告の製造に係るトレー(M-10)、ほんしめじ刻印付き及び「GQ-45」の協定内トレー並びに上記(ア)のほんしめじ刻印付き協定外トレー(長野県経済連向け)による包装可能量を比較すると、概ね合致することが認められること(乙8)からも、適正なものということができる。 ウ(ア) なお、原告が「長野県経済連のほんしめじ向け」として集計したものは、長野県産しめじの重量(ただし、150g用及び200g用トレーの包装分を控除する。)を100g用トレーに包装したとして換算して、100g用トレーの数量を算出したものである。 しかし、この算出方法は、長野県産しめじのすべてが100g用、150g用及び200g用トレーに包装されて出荷され、他の包装形態(例えば木箱入り、段ボール入り)による出荷は全くないことを前提とするものであるが、こうした前提事実を認めるに足りる証拠はないから、長野県産しめじの重量から100g用トレーの数量を換算するという原告の算出方法が適正であると認めることはできない。 (イ) また、このことは、原告が「長野県経済連以外のほんしめじ向け」として集計したものについて、林野庁の作成に係る2001年版「林業統計要覧」(甲23)に記載されるブナシメジの生産重量から100g用トレーの数量に換算して求めるという原告の算定方法についても当てはまり、同算定方法も適正であると認めることはできない。 (ウ) さらに、原告が「長野県経済連のひらたけ向け」として集計したものは、「ほんじめじトレー販売実績表」と題するノバフォーム作成の書面の「51号1960無地」、「GQ-45」のトレーをひらたけ用のトレーと解して集計したものである。しかし、乙9及び弁論の全趣旨によれば、同トレーはほんしめじ用のトレーであることが認められるから、原告の主張は理由がない。 (2) 原告は、実用新案法29条1項に基づく請求と、同条2項に基づく請求を選択的に主張している。そこで、まず、同条2項に基づく請求について検討する。 ア 協定外トレーの販売価格について 弁論の全趣旨によれば、協定外トレーの販売価格は、前記(1)ア記載のとおり得意先別請求書を調査した結果、別紙「被告の利益額(被告主張)」の「売価」欄記載のとおりであると認められ、その他、これを覆すに足りる証拠はない。 イ 協定外トレーの製造販売に要した費用について (ア) 乙12によれば、被告がトレーの製造販売に要した費用は、以下のとおり認定すべき事項を除き、別紙「被告の利益額(被告主張)」記載のとおりであると認められ、その他、これを覆すに足りる証拠はない(なお、別紙「被告の利益額(被告主張)」記載の被告のトレーの製造原価のうち、同2の平成4年の欄中、段ボール代(0.118円)、クラフトテープ他(0.012円)及び営業運賃(営業倉庫から客先へ納入するための運賃)(0.286円)、同4の平成6年の欄中、糊付け原価のうち電力費(0.021円)、糊代(0.267円)、ポリ、クラフトテープ代(0.043円)、移送運賃(工場から営業倉庫へ納入するための運賃)(0.048円)及び保管・荷役費(0.071円)は、当事者間に争いがない。)。 (イ) 乙12の記載のとおり認定すべきでないと判断する事項は次のとおりである。 a トレー1枚当たりに要する原料シート重量について (a) 乙12中の平成10年1月の製造原価支払表《同添付資料1.@-2、同@-4》及び弁論の全趣旨によれば、トレー1枚当たりに要する原料シート重量は、4.10g(44.26トン÷(16万7898ショット×63枚)×0.98〔収率〕)となる。 (b) 乙12中の平成4年下期製造原価予算表《同添付資料1.@-1、 同C-1》によれば、原料シート重量は、3.95g(649.9トン÷(7万8200ケース×2100枚))となる。 (c) 乙12中のりん議書《同添付資料1.C-2》によれば、原料シートは10万2600mから製造可能なトレー枚数を、2870ケース(602万7000枚)と算出していること、原料シートの幅は1.04mでその重量は0.22s/uであることが記載されている。これによれば、原料シート重量は、3.89g(10万2600m×1.04m×0.22s/u÷602万6000枚)となる。 (d) 上記(a)は、製造原価支払表に基づくものであり、製造実績に基づく算出結果であると推認できるから、上記(b)の製造原価予算表に基づく算出結果や、上記(c)のりん議書における製造可能なトレー枚数の算出結果と比較して、より製造実績を適正に反映するものというべきであるから、上記(a)記載のとおり、原料シート重量は4.10gと認めるのが相当である。 (e) なお、乙12中には、トレーの縁に出っ張りが大きく残るために不良品として廃棄処分になる製品があり、その収率は当時80%以下であったとし(この収率は、上記a記載の収率98%に、さらに80%の収率を乗じる趣旨と解される。)、その根拠として提出するりん議書《同添付資料1.C-2》は、平成5年7月の1か月間の収率が75%であるとして、柏井産業株式会社(以下「柏井産業」という。)に対しその原反(原料シート)ロス分を補償をすることについてのりん議を求める旨の記載がある。しかし、同りん議書には「7月度しめじトレーの生産は、ユーザーの品質要求を充す為改良を加え、従来品に比しよりシャープな製品に仕上げましたが、その為収率が低下し別紙の通り75%となりました。」と記載されており、同記載内容からすると、ユーザーからなされた品質要求に応じて改良を加えたことによる一時的な収率低下について、柏井産業に対し補償をするものと解される。そして、この1か月間の補償金のほかに、収率低下に伴う補償をしたことを示す証拠がないから、同りん議書の記載内容をもって、本件トレーの収率が80%であったとする乙12の記載内容を採用することはできない。 (f) もっとも、トレー成形時の収率が上記a記載のとおり98%であり、この収率は別件コバヤシ訴訟においてコバヤシが自らの成形工程における成形ロスが3%であると主張していること(甲37)と比較して適正なものというべきであるから、この収率98%を考慮すると、トレー1枚当たりに要する原料シートの重量は、4.18g(4.10g÷0.98)となる。 (g) そうすると、トレー1枚当たりの原料シート代は、平成2年度は1.50円(360円/s×4.18g)、平成3年度は1.37円(330円/s×4.18g)、平成4年度は1.25円(300円/s×4.18g)、平成5年度は1.08円(260円/s×4.18g)となる(各年度のシート1s当たりの原料シート代は、乙12による。)。 b 電力費(別紙「被告の利益(被告主張)」4の電力費欄)について トレー1枚当たりに要する原料シートの重量が上記のとおり4.18gと認められることに応じて、電力費を計算する。 乙12によると、被告の社員が調査した平成8年の予算データでは、1トン当たり1448kwhが必要であり、佐倉工場の平均電力単価は13.27円/kwhであったから、トレー1枚当たりの電力費は0.080円(4.18g×1448kwh/トン×13.27円/kwh)となる。 c 容器ロスについて 乙12によれば、平成3年から平成5年までの被告の糊付け作業の収率について、平成7年当時にはロス率2%より高かったとしてそのロス率を5%と想定している。しかし、糊付け作業の際の容器ロスは、別件コバヤシ訴訟においてもコバヤシが費用として主張する項目には容器ロスは含まれていない上(甲37)、上記陳述部分のほかに何ら客観的な裏付けがないのであるから、この記載のみから5%の容器ロスに相当する経費がかかったことを認めることはできない。 (ウ) 原告は、上記のほか、被告の主張するトレーの製造原価のうち直接作業労務費、直接償却設備費、外注加工費、荷役費、営業費、トレーの糊付け原価のうち直接作業労務費、直接償却設備費について、これらの費用を裏付ける証拠はない、算出過程に争いがあるなどとして争うが、原告が損害賠償の対象とする被告の販売期間の終期は平成6年4月11日であり、その時点から現在までの間にかなりの年月が経過しており、被告の利益額を詳細に裏付ける資料を要求することは困難な側面がある上、乙12によれば、原告が争う上記費用について、被告の従業員が残された資料を基に算定したものであり、その費目及び額も合理性を欠くものということはできないから、原告の上記主張は、乙12に基づく認定を覆すには足りない。 ウ 以上によれば、原告が損害賠償の対象とする昭和62年4月17日から平成6年3月末日までの間に、被告が協定外トレーの製造販売行為によって得た利益は、別紙「被告の利益額(裁判所の認定)」の利益欄記載のとおりであり、その合計は次のとおり8263万6000円となる。 (ア) ほんしめじ刻印 7172万6000円 (イ) GQ-45(糊なし、ノバフォーム向け) 309万1000円 (ウ) GQ-45(糊付き、ノバフォーム向け) 119万4000円 (エ) GQ-45(糊付き、一般向け) 662万5000円 (オ) 合計 8263万6000円 (3) 次に、実用新案法29条1項に基づく請求について検討する。 ア 原告は、売値3.60円であれば1.939円/枚の利益、売値3.20円であれば1.539円/枚の利益を得たと主張する。 原告が主張する利益額は、53.8%〜48.0%に及ぶ高率なものであるが、甲3によれば、帝国データバンクサービスの推定調査が示す原告会社の平成3年9月期から平成5年9月期の平均売上高当期利益(税引後利益)率は1パーセント余であることが認められ、原告の主張する利益率と著しい格差がある。 この点について、原告が提出した平成4年及び平成5年における東製作所の試験研究費明細、同試験研究担当要員賃金明細表(甲42及び43の各1・2)には、東製作所が費やした試験研究費として平成4年には約1億0856万円を、平成5年には約1億2197万円を支出したとの記載があるが、これらの証拠は、いずれも東製作所の社員が作成したものであり、上記経費が原告のトレー製造に係るものではなく、もっぱら試験研究費に費やされたこと及びその支出金額を客観的に裏付ける資料は何ら出されていないから、上記証拠のみから、東製作所が年間1億円余の試験研究費を支出していることを認めることはできない。 イ さらに、乙4の3によれば、原告は、平成2年2月17日に被告及びノバフォームに対して送付した「ほんしめじトレイの増産について」と題する書面において、原告の糊付け経費が合計0.75円/枚であると記載していることが認められる。 原告は本訴において糊付け経費の合計が0.135円/枚であると主張するが、上記の乙4の3における0.75円/枚と比較すると著しい差異があり、原告は、この差異について合理的な説明をしていない。 ウ 原告は、その裏付けとなる資料について、原材料費等については伝票等が提出されているが、経費を大きく左右する人件費については、原告代表者作成の陳述書(甲16の1)のほか、「デンカトレー糊付け要員賃金明細(平成5年分)」と題する書面(甲44)が提出されているのみであり、同書面は原告社員の作成に係るもので、そこに記載された内容を客観的に裏付ける資料は提出されていない。また、トレー成形の人件費に関する裏付け資料も何ら提出されていない。 エ そうすると、原告提出の証拠によっては、原告の主張する単位数量当たりの利益額をそのまま認めることはできないといわざるを得ず、仮に原告がトレー製造によって一定に利益を上げていて、実用新案法29条1項に基づき、その単位数量当たりの利益額に協定外トレーの販売数を乗じた金額を損害として請求できるとしても、その額が上記実用新案法29条2項に基づいて推定された原告の損害額(8263万6000円)を上回ることを認めるには足りないものというべきである。 4 争点(4)(過失相殺)について (1) 被告は、原告、被告及びノバフォームは、本件実用新案権の実施許諾を前提として、トレー製造販売の共同事業を行っていたこと、この共同事業に基づくトレーの供給不足を発端として、各当事者がこれとは別に協定外のトレーを製造販売するようになったが相互にこれを黙認していたこと、原告代表者は、縷々協定外トレーについて被告を非難し、平成8年には、協定外のトレーの存在を前提として損害賠償請求権を論じていたことを理由に、過失相殺の主張をする。 (2) しかし、前記1(2)記載のとおり、原告、被告及びノバフォームによるトレー製造販売の共同事業においては、原告が糊付け加工を行うトレーの製造については原告代表者は本件考案の実施を許諾していたものの、原告代表者が協定外トレーの製造販売について本件考案の実施を許諾していた事実を認めるに足りる証拠はなく、また、前記1(4)記載のとおり、原告代表者が平成11年7月28日にノバフォームから販売数量の一覧表(甲7)の送付を受ける以前に、原告代表者が被告による本件実用新案権の侵害行為(協定外トレーの製造販売行為)を認識していた事実を認めるに足りる証拠もない。 さらに、前記1(4)ア(ウ)記載のとおり、原告代表者が平成8年に被告副社長に対し、被告が協定外トレーを製造しているのではないかと疑いを持ち、その事実について質問した際、同副社長はこれを否定したものであるから、原告が平成8年ころの時点で被告による協定外トレーの製造販売行為について損害賠償請求権を行使し得たとすることはできず、同損害賠償請求権を行使しなかったことに過失があったとすることはできない。 (3) よって、被告の過失相殺の主張は理由がない。 5 以上によれば、原告の被告に対する請求は、金8263万6000円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成13年8月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
---|---|
裁判官 | 阿多麻子 |
裁判官 | 前田郁勝 |