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事件 平成 12年 (ワ) 13924号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社北典社
訴訟代理人弁護士 巻嶋健治
同 鈴木和夫
同 鈴木きほ
被告 株式会社エスト・ワン
被告A
被告両名訴訟代理人弁護士 小川憲久
同 竹田章治
同 池田 眞一郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/12/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社エスト・ワンは,別紙物件目録1記載の看板を使用し,又は貸し渡してはならない。
2 被告株式会社エスト・ワンは,その保管に係る別紙物件目録1記載の看板を廃棄せよ。
3 被告株式会社エスト・ワンは,原告に対し,1億3000万円及びうち7000万円に対する平成8年3月8日から,うち6000万円に対する平成12年7月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Aは,原告に対し,7050万円及びうち7000万円に対する平成8年3月8日から,うち50万円に対する平成12年7月16日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その4を被告株式会社エスト・ワンの負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。
7 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告の求めた裁判
1 被告株式会社エスト・ワンに対する請求 (1) 差止請求 (主位的請求) ア 被告株式会社エスト・ワンは,別紙物件目録1記載の看板を製造し,使用し,貸し渡し,又は販売してはならない。
イ 被告株式会社エスト・ワンは,その保管に係る別紙物件目録1記載の看板を廃棄せよ。
(予備的請求) ア 被告株式会社エスト・ワンは,別紙物件目録2記載の看板を製造し,使用し,貸し渡し,又は,販売してはならない。
イ 被告株式会社エスト・ワンは,その保管に係る別紙物件目録2記載の看板を廃棄せよ。
(2) 損害賠償請求 被告株式会社エスト・ワンは,原告に対し,1億4250万円及びうち7000万円に対する平成8年3月8日から,うち7250万円に対する平成12年7月15日(訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Aに対する請求 被告Aは,原告に対し,7300万円及びうち7000万円に対する平成8年3月8日から,うち300万円に対する平成12年7月16日(訴状送達の日の翌日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
事案の概要
1 訴えの要旨 (1) 被告株式会社エスト・ワンに対する訴え 原告は,平成8年3月に,訴外株式会社エスト(以下「訴外エスト」という。)に対し,東京地裁に,原告が有する後記実用新案権の侵害を理由として差止め及び損害賠償を求める訴訟(当庁平成8年(ワ)第3871号実用新案権侵害差止等請求事件)を提起したものであり,同訴訟において,同社に対する損害賠償金7000万円及び遅延損害金の支払請求を認容する確定判決(甲6。以下「前件判決」という。)を有する。
ア 前件判決において認容された請求金額と同額の請求 原告は,被告株式会社エスト・ワン(以下「被告エスト・ワン」という。)は訴外エストと実質的に同一の法人であるとして,@原告との関係において,同被告の法人格は否認されるべきであるから,前件判決の既判力が同被告に及ぶ,A仮に前件判決の既判力が及ばないとしても,被告エスト・ワンが,前件判決において認容された損害賠償債権の請求を拒むことは,訴訟上の信義則に著しく反するものとして許されない,Bさらに,上記@,Aの主張がいずれも容れられないとしても,被告エスト・ワンは訴外エストから営業の全部を承継した上,「エスト」と実質的に同一の商号である「エスト・ワン」を用いるものであるから,商法26条1項に基づき,いわゆる商号続用営業譲受人の責任を負うと主張して,被告エスト・ワンに対して,上記7000万円及び遅延損害金の支払(第1,1(2)参照)を求めている。
イ 実用新案権の侵害を理由とする差止め及び損害賠償請求 原告は,被告エスト・ワンが使用し,貸し渡す冠婚葬祭用木製看板は別紙物件目録1記載のとおりであるところ,同看板は,前件判決において上記実用新案権の技術的範囲に属するものと認定されたのであるから,訴外エストと実質的に同一の法人格である被告エスト・ワンが本件訴訟においてこの点を争うことは,訴訟上の信義則に著しく反するものとして許されないなどと主張して,上記実用新案権の侵害を理由として,同被告に対し,上記看板の製造・販売等の差止め及び廃棄(第1,1(1)(主位的請求)ア,イ参照)並びに損害賠償(同(2)参照)を求めている。
ウ 不正競争行為を理由とする差止め及び損害賠償請求 また,原告は,仮に被告エスト・ワンが本件訴訟において同被告が使用し,貸し渡す上記看板の実用新案権侵害の成否を争うことが許され,かつ,上記看板が同被告の主張するように別紙物件目録2記載のとおりであるならば,被告は「檜」でないスプルースを「檜」と表示していることになり,これは,看板の品質について誤認を生じさせる表示行為にあたると主張して,予備的に,不正競争防止法2条1項13号,3条ないし5条に基づき,上記看板の製造・販売等の差止め及び廃棄(第1,1(1)(予備的請求)ア,イ参照)並びに損害賠償(同(2)参照)を求めている。
エ 不法行為を理由とする損害賠償請求 さらに,原告は,被告エスト・ワンに対し,民法709条に基づき,弁護士費用相当額500万円の損害賠償(第1,1(2)参照)を求めている。
(2) 被告Aに対する訴え ア 清算人の責任を理由とする損害賠償請求 原告は,被告A(以下「被告A」という。)は,平成9年6月9日,上記訴外エストの解散に伴い清算人に就任したものであるところ,商法418条以下の清算手続を履行せず,また,前件判決の内容である損害賠償債務の存在を知りながら,訴外エストの営業を無償で被告エスト・ワンに譲渡し,よって,原告に対して前件判決において認容された請求権と同額の損害を与えたと主張して,被告Aに対し,商法430条,266条の3に基づき,同債務と同額の7000万円の支払(第1,2参照)を求めている。
イ 不法行為を理由とする損害賠償請求 また,原告は,被告Aに対し,民法709条に基づき,弁護士費用相当額300万円の損害賠償(第1,2参照)を求めている。
2 争いのない事実 (1) 原告は,冠婚葬祭用品の製造卸し,小売及び貸出し等を目的とする株式会社である。
他方,被告エスト・ワンは,冠婚葬祭用品の開発・販売,レンタル等を目的とする株式会社であり,被告Aは,訴外エストにおいて取締役(専務取締役),次いで清算人を務め,被告エスト・ワンにおいても,取締役(専務取締役)の職にある者である。
(2) 原告は,下記のとおりの実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。
登録番号 第2080271号 考案の名称 冠婚葬祭用木製看板 出願日 昭和61年2月24日 登録日 平成7年9月18日 (3) 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書」という。ただし,平成6年3月17日付け手続補正書による補正後のもの。本判決末尾添付の登録実用新案公報〔甲2〕及び訂正公報〔甲3〕参照。)の実用新案登録請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,この考案を「本件考案」という。)。
「檜の板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし,表示を行うべき表裏の両側に檜の木目模様が表れるようにした看板本体と,この看板本体の表裏の両側の表面に形成され,無色透明で上記木目模様が透視可能で,かつ,その表面に黒色水性インキによる表示,及び,上記黒色水性インキによる表示の水による除去を行え,表示の書換えを自在とする合成樹脂層とから構成した冠婚葬祭用木製看板。」 (4) 本件考案の構成要件を分説すると,以下のとおりである(以下,分説した各構成要件を,その符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A 檜の板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし, B 表示を行うべき表裏の両側に檜の木目模様が表れるようにした看板本体と, C この看板本体の表裏の両側の表面に形成され,無色透明で上記木目模様が透視可能で,かつ,その表面に黒色水性インキによる表示,及び,上記黒色水性インキによる表示の水による除去を行え,表示の書換えを自在とする合成樹脂層とから構成した D 冠婚葬祭用木製看板 (5) 被告エスト・ワンは,板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし,表示を行うべき表裏の両側に上記板材の木目模様が現れるようにした看板本体と,この看板本体の表裏の両側の表面に形成された,無色透明で上記木目模様が透視可能な合成樹脂層とから構成された冠婚葬祭用木製看板(以下「被告エスト・ワン看板」という。なお,同商品の構成が別紙物件目録1記載のとおりであるか,同目録2記載のとおりであるかについては,後記のとおり争いがある。)を使用し,貸し渡している。
(6) ところで,訴外エストは,平成4年6月10日に設立された冠婚葬祭用品の販売及びレンタル等を目的とする株式会社であるところ,同日ころから平成8年2月29日ころまでの間,板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし,表示を行うべき表裏の両側に上記板材の木目模様が現れるようにした看板本体と,この看板本体の表裏の両側の表面に形成された,無色透明で上記木目模様が透視可能な合成樹脂層とから構成された冠婚葬祭用木製看板(以下「訴外エスト看板」という。)を使用し,貸し渡していた。
そこで,原告は,平成8年3月1日,訴外エストを被告として,本件実用新案権に基づく実用新案権侵害差止等請求事件(当庁平成8年(ワ)第3871号。
以下「前件訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起した。
(7) ところが,訴外エストは,前件訴訟係属中の平成9年5月31日に,株主総会の決議に基づき解散し,同年6月9日,その旨の登記をした。また,上記解散に伴い,訴外エストの取締役(専務取締役)であった被告Aが,同日,清算人に就任した。
そして,平成10年4月30日,訴外エストは清算を結了し,同年5月25日,その旨の登記をした。
(8) 他方,被告エスト・ワンは,昭和62年1月17日に設立され,(あ)商号を「株式会社ベルコム・ビー・エム」,(い)本店所在地を「東京都台東区(以下略)」,(う)目的を「コンピューターのハードウェア・ソフトウェアの企画・製作及び販売」等,とする株式会社であったが,平成9年5月16日,(ア)商号を「株式会社エスト・ワン」,(イ)目的を「冠婚葬祭用品の開発並びに販売,冠婚葬祭に関する用品のレンタル」等に変更した上で,同月21日,その旨の登記をし,さらに,同月19日,(ウ)本店所在地を「横浜市北区(以下略)」に移転した上,同年6月10日,上記新本店所在地において,その旨の登記をした。
(9) 平成12年4月27日,東京地方裁判所は,前件訴訟につき,訴外エストに対する7000万円及びこれに対する平成8年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求を認容する判決(前記「前件判決」)をし,同判決は,同年5月16日の経過により確定した。
(10) 原告は,平成12年7月7日,被告エスト・ワン及び被告Aを相手として,本件訴訟を提起した。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 前件判決において認容された請求と同額の請求について ア 被告Aの本人尋問の結果,平成14年4月17日付け送付嘱託(株式会社みずほ銀行横浜支店長宛及び横浜地方法務局宛)を経て提出された甲20,21号証及びその他の書証によれば,@前記ベルコム・ビー・エムからエスト・ワンへの商号変更,本店所在地の移転等一連の手続(第2,2(8))は,前件訴訟で被告の立場にあった訴外エストを解散し(同(7)),エストの資産を含む営業的財産をエスト・ワンにそっくり引き継がせることを目的としたものであったこと,A営業所,建物付属設備,自動車,什器備品,預金債権,長期貸付金,売掛金債権及び電話加入権等,エスト解散時に存在した営業財産は,すべて被告エスト・ワンが無償で承継していること,B訴外エストの従業員24名のうち19名が被告エスト・ワンにそのまま勤務し,本店及び埼玉支店のいずれも,賃借人名義を形式的に変更したのみで継続使用されていること,C商品は訴外エストからそのまま引き継がれ,電話番号,ファクス番号も変更されていないこと,D被告エスト・ワンは,訴外エストが用いていた価格表をコピーして用いたほか,訴外エストが解散の約1年前である平成8年9月ころから組織の名称として用いていた「エスト総合センター」という名称をそのまま用いていたこと,Eまた,被告エスト・ワンは,平成9年7月10日付けで第一勧業銀行本牧支店に代表者,商号及び届印を変更する旨の変更届(甲21)を提出し,訴外エストの同支店の普通預金口座及び当座預金口座をそっくり引き継いでおり,しかも,これら口座においては,上記届出後,約1年以上にわたって,訴外エスト名義での入金や訴外エスト埼玉支店への支払がされていること,以上の各事実が認められる。
これらの事実に照らせば,被告エスト・ワンと訴外エストは実質的に同一の法人格というべきであり,本件において,法人格否認の法理が妥当することは明らかである。そうすると,原告と訴外エスト間の前件判決の既判力は,被告エスト・ワンに対しても及ぶと解すべきであるから,前件判決において認容された損害賠償請求権は,被告エスト・ワンに対しても認容されるべきである(なお,前記のとおり,原告は訴外エストに対する確定判決を有するものの,訴外エストは被告エスト・ワンとは形式上別の法人格であるため,改めて同被告に対する債務名義を得る必要がある。)。
イ 仮に前件判決の既判力が被告エスト・ワンに直接及ばないとしても,本件においては,上記ア@〜Eの各事実のほか,被告Aが訴外エストの取締役・清算人であると同時に,被告エスト・ワンの取締役でもあり,前件訴訟が係属していることを当初から知っていたから,被告エスト・ワンは,被告Aを通じて,前件訴訟に実質的に関与することが十分可能であったし,現に関与したという事情が存在する。
これらの事情の下では,本件訴訟において,被告エスト・ワンが,形式上訴外エストと形式上別の法人格であることを理由に,前件判決の内容となっている訴外エストの損害賠償債務を負担することを争うことは,訴訟上の信義則に著しく反し,到底許されないというべきである。
ウ さらに,仮に上記ア,イの主張が容れられず,被告エスト・ワンが訴外エストとは別法人であると認められるとしても,同被告は,訴外エストから営業の全部を承継した上,「エスト」と実質的に同一の商号である「エスト・ワン」を用いるものであるから,商法26条1項に基づき商号続用営業譲受人の責任を負う。
エ 以上により,原告は,被告エスト・ワンに対して,前件判決において認容された7000万円の損害賠償請求権と同額の金銭支払を請求することができる。
(2) 実用新案権の侵害を理由とする差止め及び損害賠償請求について ア 被告エスト・ワンが使用し,貸し渡す冠婚葬祭用木製看板(被告エスト・ワン看板)は別紙物件目録1記載のとおりであり,本件考案技術的範囲に属する。被告エスト・ワンが使用し,貸し渡す前記看板は,訴外エストが使用し,貸し渡していた看板(訴外エスト看板)と同一のものであるところ,訴外エスト看板は,前件判決において別紙物件目録1記載のとおりの構成であり,本件考案技術的範囲に属すると認定された。
上記(1)ア,イで述べたところに照らせば,被告エスト・ワンは,前件訴訟で被告の立場にあった訴外エストと実質的に同一の法人格を有するものであるから,同被告が,本件訴訟において,新たな証拠を提出し,被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録2記載のとおりであると主張して,前件判決の認定・判断を争うことは,訴訟上の信義則に著しく反するものとして許されないというべきである。
よって,原告は,被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録1記載のとおりであり,同商品が本件考案技術的範囲に属することを前提に,本件実用新案権の侵害を理由として,同看板の製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めることができる。
イ 仮に上記主張が容れられず,被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録2記載のとおりと認められるとしても,被告エスト・ワン看板は,やはり本件考案技術的範囲に属している。
すなわち,本件考案は,葬儀の式場等を表示する際に掲げる冠婚葬祭用木製看板の改良に関するものであるところ,表面の板材が「檜」とされているのは,檜が高品位に見え,葬儀等のしめやかな雰囲気を保つことができ,故人に対する敬意を表すことができることによるから,構成要件Aの「檜」は,当業者あるいはその関係者において檜と認識されれば足りるものであり,純粋な檜に限らず,檜と木目模様の形状,色彩等が酷似するスプルースも含まれると解すべきである。また,塩化ビニルフィルムが貼付されている点についても,上記目録記載の看板には,被告も認めるとおり,その板材の表面に合成樹脂層が形成されており,同層は,「看板本体の表裏の裏側に形成され,無色透明で上記木目模様が透視可能で,かつ,その表面に黒色水性インキによる表示,及び,上記黒色水性インキによる表示の水による除去を行え,表示の書換えを自在とする」(構成要件C)ものであるから,本件考案の「合成樹脂層」(前同)に該当し,同層の上にさらに上記フィルムが貼付されているからといって,上記看板が構成要件を充足しなくなるというものではない。
以上のとおり,被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録2記載のとおりであったとしても,同看板は本件考案の構成要件をすべて充足しており,その技術的範囲に属するものと認められる。
ウ さらに,仮に上記イの議論が成り立たないとしても,その場合には,被告エスト・ワンは「檜」でないもの(スプルース)を「檜」と表示していることになり,これは看板の品質について誤認を生じさせる表示行為にあたるから,不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に基づく責任を免れない。
エ 上記によれば,いずれにしても,原告は,被告エスト・ワンに対し,被告エスト・ワン看板の製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めることができる。
(3) 不法行為を理由とする損害賠償請求について 本件訴訟提起に至る経緯等に照らし,原告は,被告エスト・ワンに対し,民法709条に基づき,弁護士費用相当額500万円の損害賠償を求めることができる。
(4) 被告Aに対する損害賠償請求について 被告Aは,平成9年6月9日,訴外エストの解散に伴い清算人に就任したものであるところ,商法418条以下の法定の清算手続を何ら履行せず,また,前件判決の内容である損害賠償債権の存在を知りながら,事実上,訴外エストの営業を無償で被告エスト・ワンに譲渡し,原告に上記債権と同額の損害を与えた。よって,被告Aは,商法430条,266条の3及び民法709条に基づき,原告に対し,前件判決において認容された請求金額と同額の損害賠償及び弁護士費用相当額(300万円)の損害賠償をすべき義務がある。
被告Aは,訴外エストは解散当時既に無資力であったから,清算人である被告Aの行為と原告の損害との間に因果関係は存在しない旨主張する。しかし,解散会社に債務超過の疑いがあるときは,特別清算開始の申立てをすることが法律上清算人の義務であり(商法431条2項),清算人がかかる申立てをしないまま清算手続を結了させた場合には,解散会社に会社債権者に支払う資産が存在したとの推定が働くというべきである。したがって,訴外エストが無資力であったことを前提とする被告Aの上記主張は失当である。
加えて,被告Aは,訴外エストが解散したことを知った原告が清算人である同被告宛てに清算についての状況等を明らかにするよう求めた(甲10の1,2)のに対して,回答を拒絶した(甲11)ばかりか,清算人として当然なすべき商法419条,421条,427条1項の各手続を全く履践せず,法人税法104条に基づく清算確定申告すらしないまま,訴外エストの財産を被告エスト・ワンに承継させ,会社財産を不当に流出させた上で清算手続を結了した。商法421条所定の手続のような,会社債権者保護のために要求される重要かつ不可欠の手続を履践せずに清算手続を結了させることは,原告を含む会社債権者に対する重大な義務違反である。このように,被告Aは,清算人として会社債権者の利益保護のために行動すべき義務を何ら果たさず,逆に,訴外エストの財産を被告エスト・ワンに流出させて債権者の利益を損なったものである。上記の事情からすれば,被告Aが,訴外エストの会社債権者である原告に対し,訴外エストの無資力を主張することは,信義則に著しく反し,到底許されるものではない。
2 被告らの主張 (1) 前件判決において認容された請求金額と同額の請求について ア 被告エスト・ワンと訴外エストは,株主構成及び代表者が異なる全く別の株式会社であり,形式的にも実質的にも別個の存在である。
すなわち,被告エスト・ワンは,平成9年6月ころから,訴外エストと同種の営業を行っているが,これは,同被告が独自に営業活動を行った結果,既に廃業状態であった訴外エストが十分な営業活動をしなかったことと相まって,その得意先等を吸収し,もって商圏を事実上継承した結果にすぎない。たしかに営業開始当初同被告が訴外エストの銀行口座を一時使用したことはあったが,それは,訴外エストから引き継いだ取引先からの入金を停滞なく受け入れるため,便宜上使用しただけである。また,同被告は,訴外エストの車両,従業員,店舗,用品及び得意先等を事実上引き継いでいるものの,一部車両のリース料の支払を除き,すべて新規に契約を締結しており,訴外エスト名義の契約をそのまま引き継いだわけではない。
以上から分かるとおり,両者は,それぞれ実体を伴う別個の法人格を有する別会社である。そもそも,法人格否認の法理が妥当するのは,会社財産と株主個人の財産が混同されて法人格の形骸化が顕著といえるような場合についてであり,本件のように実体として存在する法人間において,同法理の適用があるとする原告の主張は,失当である。
仮に百歩譲って法人格否認の法理を認め得る事情があったとしても,「権利関係の公権的な確定及びその迅速確実な実現を図るために手続の明確,安定を重んずる訴訟手続ないし強制執行手続においては,その手続の性格上判決の既判力及び執行力の範囲を拡張することは許されない」と判示する判例(最高裁昭和50年(オ)第745号同53年9月14日第一小法廷判決・判例時報906号88頁)に照らし,前件判決の既判力は被告エスト・ワンに及ばないと解すべきである。
イ また,上述したとおり,被告エスト・ワンと訴外エストは全く別の法人格を有する別の権利主体であるから,同被告が前件判決の内容たる訴外エストの債務を負担するいわれはなく,同債務と同額の請求を拒み得ることは当然である。
原告は,被告エスト・ワンと訴外エストが実質的に同一の法人格を有することを前提に,同被告が上記債務と同額の請求を拒むことは,訴訟上の信義則に著しく反し,到底許されないというべきであると主張するが(前記(原告の主張)(1)イ),そもそも上記前提において誤っており,失当というべきである。
ウ さらに,原告は,仮に被告エスト・ワンが訴外エストと別の法人であるとしても,同被告は,訴外エストから営業の全部を承継した上,「エスト」と実質的に同一の商号である「エスト・ワン」を用いるものであるから,商法26条1項に基づき,商号続用営業譲受人の責任を負うと主張する(前記(原告の主張)(1)ウ)。
しかしながら,前記アにおいて述べたとおり,被告エスト・ワンが訴外エストと同種の営業を行っているのは,自由競争の範囲内で訴外エストの商圏を事実上継承した結果にすぎず,両者間で営業譲渡がされた事実はない。しかも,被告エスト・ワンの商号「エスト・ワン」は,訴外エストの商号「エスト」に「・ワン」が付加されて全く別物となっており,「商号の続用」(商法26条1項)に該当しないことは明らかである。さらに,原告が訴外エストに対して有する債権は,平成12年5月16日の経過により確定した前件判決に基づくものであるところ,被告エスト・ワンの営業開始は平成9年6月であるから,その時点で上記債権はそもそも存在せず,また,前件訴訟の経緯に照らし,原告が,被告エスト・ワンが訴外エストの商圏を継承した事実及び同被告が訴外エストの債務を引き受けない事実を知っていたことは明らかであるから,このような債権者に対してまで,商法26条は適用されないと解するのが相当である。
上記によれば,原告による商法26条1項(商号続用営業譲受人の責任)適用の主張は,その前提を欠いており,理由がないというべきである。
エ 以上から分かるとおり,被告エスト・ワンに対し,前件判決に基づき訴外エストが負担する債務と同額の金銭の支払を求める原告の請求には,理由がない。
(2) 実用新案権の侵害を理由とする差止め及び損害賠償請求について ア 原告は,被告エスト・ワンは,前件訴訟で被告の立場にあった訴外エストと実質的に同一の法人格を有するものであり,同被告が,本件訴訟において,前件判決の認定・判断を争うことは,訴訟上の信義則に著しく反するものとして許されない旨主張する(前記(原告の主張)(2)ア)。
たしかに前件判決は,法的には有効に確定した判決であるが,被告の立場にあった訴外エストが倒産状態で,訴訟活動を事実上放棄してしまったため,判決に至る審理において,本件実用新案権の内容が十分に検討されたとは言い難い。原告の立論は,それにもかかわらず,訴外エストとは別個の法人格を有する被告エスト・ワンに対し,訴外エストが十分に防御を尽くさなかった結果,前件訴訟で敗訴したのだから,その結果がどのように不合理であれ,本件訴訟において反論・反証することは許されないと言うに等しく,到底承伏しがたい。被告エスト・ワンにおいて,本件実用新案権の侵害の成否につき,的確に反論・反証することに何の障害もないはずであり,また,そのことによって,実体的真実が明らかになるというべきである。
イ 前記(1)アにおいて既に述べたとおり,被告エスト・ワンは,訴外エストとは全く別個の法人格を有する株式会社であるところ,同被告が使用し,貸し渡す看板(被告エスト・ワン看板)の構成は,別紙物件目録2記載のとおりである。
被告エスト・ワン看板の表面の板材には「檜」(構成要件A)ではなく,スプルースが使われており,この点で明らかに構成要件を充足しない。原告は,純粋な檜に限らず,檜と木目模様の形状,色彩等が酷似するスプルースも「檜」に含まれると主張するが,かかる解釈は文理に反する上に,出願経過に照らし,本件考案は,檜の木目模様を表すため,木製看板の表面材に本物の檜を用いた点に新規性が見出されて登録されたものと認められるから,原告のような拡大解釈は許されないというべきである。
また,同看板は,看板本体の表裏の表面に形成された無色透明な合成樹脂層に更に塩化ビニルフィルムを貼付した構成を有するところ,この合成樹脂層は,ニス,ラッカー,ウレタン等で形成された表面保護を目的とするもので,黒色水性インキによる表示及び水によるその除去(構成要件C参照)を目的とするものではない。また,上記塩化ビニールフィルムも,その都度貼付して剥離することを前提にしており,看板表面に固定されて繰り返し用いることは予定されていないから,看板本体の表面に「形成」(構成要件C)されたものとはいえない。したがって,これらは,いずれも「合成樹脂層」(構成要件C)に該当するものではない。
以上のとおり,被告エスト・ワンが使用し,貸し渡す冠婚葬祭用木製看板(被告エスト・ワン看板)は,本件考案の構成要件を充足せず,本件実用新案権の技術的範囲に属しないから,同被告は,本件実用新案権の侵害を理由とする責任を負わない。
ウ なお,原告は,仮に被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録2記載のとおりであり,その結果,同商品が本件考案技術的範囲に属さないとしても,その場合には,同被告は,「檜」でないもの(スプルース)を「檜」と表示していることになり,これは看板の品質について誤認を生じさせる表示行為に当たるから,不正競争行為(不正競争防止法2条1項13号)に基づく責任を負うと主張する(上記(原告の主張)(2)ウ)。
しかしながら,被告エスト・ワンは,そもそも,上記看板につき「檜看板」なる表示をしておらず,「白木看板」なる表示を用いているから,原告の上記主張には理由がない。かつて,同被告の使用する価格表に「檜看板」の表示があったことは事実であるが,葬祭業界においては,「檜看板」なる表現が,「布看板」に対して木製看板一般を指す慣用的な表現として用いられるので,それに従っただけのことである。かつての一時期,「檜表現」なる表現がされていたからといって,それが原告の何らかの権利を侵害したわけではないし,また,原告の営業上の利益を侵害するものともいえない。いずれにせよ,不正競争防止法違反を理由とする原告の主張に理由がないことは明らかである。
エ 上記のとおり,本件実用新案権の侵害ないし不正競争行為を根拠に,被告エスト・ワン看板の製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求める原告の請求には,理由がない。
(3) 不法行為を理由とする損害賠償請求について 上記(1),(2)で述べたところから分かるとおり,被告エスト・ワンの行為について,原告に対する不法行為が成立する余地はない。
よって,民法709条に基づき,弁護士費用相当額500万円の支払を求める原告の請求には,理由がない。
(4) 被告Aに対する損害賠償請求について さらに,原告は,訴外エストの清算人であった被告Aが,前件判決の内容たる損害賠償債務が存在することを知りながら,訴外エストの営業を無償で被告エスト・ワンに譲渡し,そのことによって,上記債務と同額の損害を原告に与えたと主張する(前記(原告の主張)(4))。
しかし,原告の上記主張は,事実の誤認または論理の飛躍に基づくもので,到底採用に値しない。
すなわち,そもそも被告Aが訴外エストの清算人になった経緯は,当時の代表者が平成9年ころには経営を事実上放棄した状態であったことから,取引先等に迷惑をかけないために,取締役であった同被告が形式的に清算人に就任したというものである。被告Aは,原告と訴外エストとの前件訴訟にほとんど関与していないから,同被告が前件判決の内容たる債務の存在を当然認識していたということはできない。当時,事実上廃業の状態にあった訴外エストが,資産と負債の適正な評価に基づく清算を行うべきであったとの議論は一応あり得るにしても,訴外エストの平成9年5月31日期における当期損失は2967万円,未処理損失は5億4383万円であって,債務超過は明らかであるから,仮に被告Aにおいて完全な清算業務を遂行していたとしても,前件判決の内容の債権は回収不能であった。訴外エストは,法形式上は普通清算をしているものの,その実体は事実上の倒産であって,債権者に対する配当原資はなかったのである。したがって,形式的に就任した清算人である被告Aの業務行為と原告の損害との間に,何の因果関係もないことは明白である。
当裁判所の判断
1 法人格否認の法理及びこれに基づく既判力の拡張について およそ,それぞれ別個の手続により設立され,登記を経た法人が,法律上別個の主体として扱われるべきことは当然である。しかしながら,法人格の付与は,実体をもって存在する団体について,これを独立した権利主体として扱うに値すると認められる場合に,法政策的な見地から法的技術に基づき行われる行為であるから,法人格が全くの形骸にすぎない場合や,法律の適用を回避するために濫用された場合においては,法人格付与の本来的な意義・目的に照らし,独立した法人格を認めることが許されない場合があると考えられる。そのような場合には,特定の当事者間の個々具体的な法律関係において,当該法人格を否認し,妥当な結論を導くことも許されるというべきである。
したがって,例えば,ある会社の負担する債務の支払を免れる意図の下に新会社が設立された場合など,法人格が濫用されたと認められる場合には,いわゆる法人格否認の法理により,旧会社の債権者は,新会社に対してその債権を行使することができ,新会社はこれを拒むことができないと解するのが相当である。
ただし,訴訟手続ないし強制執行手続においては,権利関係の公権的確定及びその迅速な実現のため,手続の明確・安定を重視すべきことにかんがみれば,判決の既判力及び執行力の範囲を安易に拡張することは許されないというべきである。したがって,上記の例において,債権者が旧会社に対して確定判決を得ているとしても,当該判決の既判力及び執行力の範囲を新会社にまで拡張することはできないと解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第877号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号511頁,最高裁昭和50年(オ)第745号同53年9月14日第一小法廷判決・判例時報906号88頁参照。)。
2 本件における事実関係 前記争いのない事実(第2,2)に,証拠(甲4ないし23,乙13,14,16ないし23及び被告A本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件においては,原告の訴外エストに対する前件訴訟の提起から,被告エスト・ワンに対する本件訴訟の提起に至るまでの経緯として,次の各事実が認められる。
(1) 被告エスト・ワンの前身である株式会社ベルコム・ビー・エムは,昭和62年1月17日,(あ)商号を「株式会社ベルコム・ビー・エム」,(い)本店所在地を「東京都台東区(以下略)」,(う)目的を「1.コンピューターのハードウェア・ソフトウェアの企画・製作及び販売,2.経営コンサルティング業務,3.特定労働者派遣業務,4.前各号に附帯関連する一切の業務」,(え)額面株式1株の金額を「5万円」,発行株式総数を「200株」,発行済み株式総数を「200株」,資本の額を「1000万円」とするとともに,(お)いわゆる株式譲渡制限を有する,株式会社として設立された。
(2) 他方,訴外エストは,平成4年6月10日,(ア)商号を「株式会社エスト」,(イ)本店所在地を「横浜市中区(以下略)」(ただし,平成8年10月1日に「横浜市港北区(以下略)」に移転。),(ウ)目的を,「1.企業宣伝用カタログ,価格表,ダイレクトメール等印刷物の企画,制作,2.教育用出版物の企画,制作並びに販売,3.コンピュータ及びその関連機器の利用に関するソフトウェアの開発並びに販売,4.各種イベントに関する企画,制作並びに運営,5.冠婚葬祭用品の開発並びに販売,6.冠婚葬祭に関する用品のレンタル,7.上記各号に付帯する一切の業務」,(エ)額面株式1株の金額を「5万円」,発行株式総数を「800株」,発行済み株式総数を「200株」,資本の額を「1000万円」とするとともに,(オ)いわゆる株式譲渡制限を有する,株式会社として設立された。
(3) 原告は,平成8年3月1日,訴外エストを被告として,本件実用新案権に基づく差止め及び損害賠償請求事件(前件訴訟)を東京地方裁判所に提起した。
前件訴訟においては,訴外エストが,板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし,表示を行うべき表裏の両側に上記板材の木目模様が現れるようにした看板本体と,この看板本体の表裏の両側の表面に形成された,無色透明で上記木目模様が透視可能な合成樹脂層とから構成された冠婚葬祭用木製看板(訴外エスト看板)について,平成4年6月10日から平成8年2月29日までの間,取引上用いていた価格表に「檜看板」又は「檜式次第」と表示した上で,これを使用し,また第三者に貸し渡していたことについては争いがなかった。
しかるところ,原告は,訴訟の対象として,@看板本体の板材に檜を用い,その表面に,黒色水性インキによる表示及び水によるその除去が可能な合成樹脂層を形成した冠婚葬祭用木製看板(以下,前件判決〔甲6〕における表示に従い「イ号物件1」という。),A看板本体の板材に檜を用い,その表面に,黒色水性インキによる表示及びその水による除去が可能な合成樹脂層を形成し,さらに同樹脂層の表面に,黒色水性インキによる表示及びその水による除去が可能な合成樹脂フィルムが剥離自在に貼付された冠婚葬祭用木製看板(前同様に「イ号物件2」という。),B看板本体の板材にベイトウヒ又はスプルースを用い,その表面に,黒色水性インキによる表示及び水によるその除去が可能な合成樹脂層を形成した冠婚葬祭用木製看板(前同様に「ロ号物件1」という。),及び,C看板本体の板材にベイトウヒ又はスプルースを用い,その表面に,黒色水性インキによる表示及びその水による除去が可能な合成樹脂層を形成し,さらに同樹脂層の表面に,黒色水性インキによる表示及びその水による除去が可能な合成樹脂フィルムが剥離自在に貼付された冠婚葬祭用木製看板(前同様に「ロ号物件2」という。)という4種類の看板を掲げた上で,訴外エストが製造・販売等するのは上記イ号物件1であるとし,同物件は本件考案技術的範囲に属すると主張して,本件実用新案権の侵害を理由に,同物件の製造・販売等の差止め及び損害賠償を求めた。
また,仮に訴外エスト看板が上記イ号物件2であるとしても,本件考案の「合成樹脂層」(構成要件C)は二重構造を排斥するものではなく,同物件における合成樹脂フィルムそれ自体が「合成樹脂層」に該当するから,同物件は本件考案技術的範囲に属すると主張して,本件実用新案権の侵害を理由に,同物件の製造・販売の差止め及び損害賠償を求めた。
さらに,原告は,仮に訴外エスト看板が上記ロ号物件1及び2の各物件であるとしても,本件考案における「檜」(構成要件A)には,純植物学的な檜に限らず,檜と木目模様の形状,色彩等が酷似するベイトウヒ又はスプルースも含まれ,また,ロ号物件2における合成樹脂フィルムそれ自体が「合成樹脂層」に該当するから,これら各物件はいずれも本件考案技術的範囲に属すると主張して,本件実用新案権の侵害を理由に,これら物件の製造・販売等の差止め及び損害賠償を求めた。
それとともに,仮にベイトウヒ又はスプルースが「檜」に該当しないとしても,その場合には,被告は,これら各物件につき価格表等に「檜看板」又は「檜式次第」と表示して,これを顧客である葬儀業者等に譲渡し,貸し渡しているから,この被告の行為は不正競争防止法2条1項13号(当時の条文では12号)所定の不正競争行為に該当すると主張して,予備的に,同法3条に基づき上記各物件の製造・販売等の差止め及び廃棄を,同法4条,5条に基づき損害賠償を求めた。
(4) これに対し,被告であった訴外エストは,訴外エスト看板は,表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用し,また,看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上にさらに合成樹脂フィルムを貼付したもの(上記ロ号物件2参照)であるとした上で,「檜の無垢材と同様に高品位に見え‥‥係る効果は,看板がいかに実物の檜に似たものであったとしても,模造物では醸し出すことができないものである。」との本件明細書の記載(補正後のもの。第3欄27行以下)などに照らし,本件考案においては,檜を用いることが不可欠の構成要件であるから,表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用した訴外エスト看板は,構成要件A及びBを充足しない。また,同商品において合成樹脂層の上にさらに合成樹脂フィルムを貼付したことの目的は,合成樹脂層の保護にあるのではなく,同フィルムの表面に黒色インキを表示し,かつ,その表示を水ではなく同フィルムの剥離によって除去し,看板本体を損なうことなく表示の書き換えを行うところにあり,現に同商品もそのように使用されているから,上記合成樹脂フィルムは「合成樹脂層」に該当せず,同商品は構成要件Cを充足しない。以上のように主張した。
また,不正競争行為を理由とする原告の請求に対しては,葬祭業界においては,「檜看板」という用語が「布製看板」に対応するものとして用いられており,一般に,ベイトウヒ又はスプルースを使用した看板も「檜看板」と呼称されている上に,訴外エストは,平成8年6月ころ以後は,納品書及び請求書に「白木看板」と表示しているから,いずれにせよ,原告主張に係る不正競争行為は成立しない旨を主張した。
(5) ところが,訴外エストは,前件訴訟係属中の平成9年5月31日,株主総会の決議に基づき解散し,同年6月9日,その旨の登記をした。
この解散当時,訴外エストは,本店所在地を「横浜市港北区(以下略)」とするほか,前記(2)記載のとおりの目的等を有し,「B」(以下,単に「B」ということがある。),「A」(被告A)及び「C」の3名を取締役,「B」を代表取締役とする株式会社であったが,上記解散に伴い,被告Aが清算人に就任し,平成9年6月9日,その旨の登記がされた。
(6) その一方で,前記ベルコム・ビー・エムは,上記訴外エストの解散に約2週間先立つ平成9年5月16日,(ア)商号を「株式会社ベルコム・ビー・エム」から「株式会社エスト・ワン」に,(イ)目的を,前記(1)記載の「コンピューターのハードウェア・ソフトウェアの企画・製作及び販売」等から,前記(2)記載の「冠婚葬祭用品の開発並びに販売」及び「冠婚葬祭に関する用品のレンタル」等に(すなわち,訴外エストの解散当時,その商業登記簿上記載されていた「目的」と全く同一の目的に。),それぞれ変更した上で,同月21日,その旨の登記をした。
また,ベルコム・ビー・エムにおいては,平成3年2月18日に,D,E,F,G,H及びIの6名が取締役に,そのうちD,E及びFの3名が共同代表取締役にそれぞれ就任し,いずれも平成5年3月31日に退任したところ,上記商号及び目的変更の登記と同時に,平成9年5月21日,上記6名の退任の登記がされた。それと同時に,同月16日付けでJ,A(被告A)及びKの3名が取締役に,そのうちJが代表取締役にそれぞれ就任した旨の登記もされた。
さらに,ベルコム・ビー・エムは,同月19日,(ウ)本店所在地を「東京都台東区(以下略)」から「横浜市北区(以下略)」に(すなわち,訴外エストの解散当時の本店所在地に),移転した上,前同年6月10日,上記新本店所在地において,その旨の登記をした。
(7) 上記(5),(6)各記載のとおり,訴外エストの解散とともに被告Aが清算人に就任し,それと入れ替わるようにして,平成5年ころから休眠会社であった前記ベルコム・ビー・エムが,商号をエスト・ワンに,目的を冠婚葬祭用品の開発,販売及びレンタル等にそれぞれ変更した上,訴外エストの本店所在地に本店を移した。これは,当時,訴外エストの代表者であり,経営者(オーナー)でもあった前記Bが,現在被告エスト・ワンの経営者(オーナー)である前記E(以下,単に「E」ということがある。)と相談した結果,訴外エストの営業を,ベルコム・ビー・エム改めエスト・ワンに,事実上そっくり承継させる旨を合意したからであった。
すなわち,訴外エストと被告エスト・ワンの間に,営業譲渡ないしそれに類する契約は存在しないものの,訴外エストが解散した翌日である平成9年6月1日には,訴外エストの営業が事実上被告エスト・ワンに承継されており,従業員24名のうち19名が被告エスト・ワンにそのまま雇用されるとともに,本店及び埼玉支店のいずれについても,賃借人名義をエスト・ワンに変更したのみで,保証金・敷金も含めてそのまま賃貸借関係が継続され,電話番号,ファクス番号も変更されていない。得意先,仕入先及び商品もそのまま引き継がれたほか,営業所,建物付属設備,自動車,什器備品,預金債権,長期貸付金,売掛金債権及び電話加入権等,エスト解散時に存在した営業的財産は,すべて被告エスト・ワンに無償で引き継がれた。被告エスト・ワンは,目的を変更して葬祭用品のレンタル等の業務を開始するにあたり,訴外エストが用いていた価格表(甲12)をコピーして用いた(甲4)ばかりか,平成9年7月10日付けで第一勧業銀行本牧支店に,代表者,商号及び届印を変更する旨の変更届(甲21)を提出することにより,訴外エストの同銀行同支店の普通預金口座及び当座預金口座を残高を含めてそっくり引き継いだ。しかも,これら口座においては,上記届出後も,1年以上にわたって,訴外エスト名義での入金や訴外エスト埼玉支店への支払がされていた。訴外エスト埼玉支店の用いていた第一勧業銀行川越支店の訴外エスト名義の口座も,被告エスト・ワンにおいて事実上引き継いでおり,同口座との間で,ファーム・バンキング上,同一名義の口座と同様の金銭のやりとりがされていた。なお,同銀行川越支店の上記口座も,後に,被告エスト・ワン名義に名義変更がされた。
(8) 被告Aは,平成4年の訴外エスト設立当初から,専ら財務担当の専務取締役として業務に携わっていたが,平成8年末ころには,訴外エストの業績が悪化し,同社のオーナーであり代表取締役の職にあったBが事実上経営を放棄した状態であったことから,平成9年の清算にあたっては,訴外エストの得意先を含む営業的財産をそのまま利用し,従業員の雇用等もできる限り継続するため,自らの意思で清算人に就任するとともに,前記(6)記載のとおり,被告エスト・ワンの取締役(専務取締役)に就任した。
なお,被告Aは,平成8年3月に前件訴訟が提起されたことは当初から知っていたが,訴訟の遂行に関与することはほとんどなく,Bの指示により,経営が悪化し,倒産に近い状態にあった訴外エストの経営の立て直し,及び,訴外エストから被告エスト・ワンへの営業の引き継ぎに専念していた。訴外エストが解散し,被告Aがその清算人に就任して,唯一訴外エストの代表権を持つ立場となった後も,前件訴訟の進行は専らBが担当し,同訴訟における訴外エストの訴訟代理人との対応もBが行っており,被告Aにおいてそれに異を唱えることもなかった。
(9) 原告は,平成9年10月6日付け内容証明郵便(甲10の1)をもって,被告Aに対し,同年5月31日付けで訴外エストが解散したこと及び同被告が清算人に就任したことが判明したが,上記解散は前件訴訟における不利益な結果を回避するための仮装行為であると疑わざるを得ないから,解散手続につき,商法418条所定の届出の有無,同法421条,422条所定の催告の有無,清算手続の進捗状況及び会社財産の状況を書面で明らかにするよう求めるとともに,前件訴訟で請求中の債権を排除して財産が分配されるなど違法な清算手続がとられた場合には,訴外エストが債務を弁済する義務を負うことはもちろん,清算人個人も損害賠償義務を負うことになる旨通知した。
これに対し,被告Aは,平成9年10月13日付け内容証明郵便(甲11)をもって,「当方では,事情の説明を受けておらずお答えの仕様がありません。」と回答した。
(10) 訴外エストは,平成10年4月30日に清算を結了し,同年5月25日,その旨の登記をした。
上記清算に際し,解散決議のあった平成9年5月31日現在で存在した現金141万円余,当座預金182万円余,普通預金1033万円余及び売掛金3800万円余は,買掛金1033万円余及び未払金590万円余等の支払に充てられたほか,前記(7)記載のとおり,残りはそのまま被告エスト・ワンに引き継がれた。
また,商品,貯蔵品,建物付属設備,車両,什器備品,電話加入権,保証金・敷金及び長期貸付金等も,前記(7)記載のとおり,無償で被告エスト・ワンに引き継がれた。さらに,上記解散決議の時点で約6億6511万円余あった流動負債については,借入金債務につき債権者から約40%の放棄を受けたほか,残りの約3億9000万円は,BとEの話し合いにより,新たに被告エスト・ワンのオーナー(筆頭株主)となるEが仮受金という形で引き受けることにより処理され,清算が結了した上記平成10年4月30日の時点では,負債はゼロになっていた。訴外エストの清算の実態は概ね以上のようなものであり,その清算手続においては,債権者に対する配当手続はされなかった。
(11) ところで,前件訴訟においては,被告である訴外エストの訴訟代理人としてL弁護士が,補佐人としてM弁理士がそれぞれ訴訟を遂行していたが,L弁護士及びM弁理士も,当初,訴外エストが解散したことを知らされていなかった。
平成12年2月14日の第20回弁論準備手続に,被告Aが清算人として呼び出され,訴外エストの全売上高に占める訴外エスト看板の売上の割合が約10パーセントであること及びその粗利益の率が75パーセントを下らないことは,いずれも認める旨等を陳述したが,その直後にL弁護士及びM弁理士から辞任の意思が表明され,同日,第15回口頭弁論期日が開かれて弁論が終結するとともに,判決言渡期日が指定された。
(12) 平成12年4月27日,東京地方裁判所は,原告の訴外エストに対する7000万円及びこれに対する平成8年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求を認容する判決(前件判決)をした。
同裁判所は,前件判決において,証拠に照らせば,訴外エスト看板は前記イ号物件1,すなわち,看板本体の板材に檜を用い,その表面に,黒色水性インキによる表示及び水によるその除去が可能な合成樹脂層を形成した冠婚葬祭用木製看板(なお,別紙物件目録1記載の本件看板も全く同様の構成である。)にほかならないと認定した上で,同物件は,本件考案技術的範囲に属するものと認定した。
また,仮に訴外エスト看板が前記イ号物件2であったとしても,同物件はやはり本件考案技術的範囲に属すると認定した。そして,差止請求については,訴外エストが解散したことで,解散後も同看板の使用,貸渡し等がされるおそれが認められないとして,訴外エストが同看板を使用し,貸し渡していたことに当事者間に争いのない期間(平成4年6月10日から平成8年2月29日まで)の損害賠償のみを認容した。ちなみに,その額について,前件判決は,特許法102条2項にいう「利益」とは,粗利益から売上額に比例して増減する,いわゆる変動経費を控除したものを意味するとした上で,証拠に基づき,上記期間の訴外エストの全売上高を15億6142万円余であると認定し,訴外エストの全売上高に占める訴外エスト看板の売上の割合が約10パーセントであり,その粗利益率が75パーセントを下らないとの前記争いのない事実(前記(11)),証拠及び弁論の全趣旨によって認められる変動経費は約40パーセントであるとの事実,さらには,実用新案法30条・特許法105条の3の趣旨を併せ考慮すれば,訴外エストが上記期間の使用及び貸渡しによって,7000万円の利益を得ており,原告は同額の損害を被ったものと認められる旨判示した。
そして,前件判決は,結論として,原告の請求のうち,損害賠償請求として7000万円及びこれに対する平成8年3月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を認容し,訴外エストに同額の金員の支払を命ずる判決(甲6)をした。
前件判決に対しては,原告及び被告である訴外エストの双方とも控訴せず,同判決は,同年5月16日の経過により確定した。
(13) 原告は,平成12年7月7日,被告エスト・ワン及び被告Aを相手として,本件訴訟を提起した。
本件訴訟において,原告は,前記第3,1記載のとおり,被告エスト・ワンに対して,前件判決において認容された請求金額と同額の金銭支払を請求できるとともに,本件実用新案権の侵害あるいは不正競争行為を理由にして,同被告が製造・販売等する本件看板の差止め及び損害賠償を請求できると主張している。また,被告Aに対しては,清算人の責任を定めた商法430条,266条の3等に基づき,損害賠償を請求できると主張している。
これに対し,被告らは,前記第3,2記載のとおり,被告エスト・ワンは訴外エストと全く別の法人であるから,前件判決の内容たる債務と同額の金銭支払を請求されるいわれはなく,また,同被告が現在使用し,貸し渡している看板(被告エスト・ワン看板)は別紙物件目録2記載の構成であり,同看板は本件考案技術的範囲に属しておらず,かつ,原告が主張する不正競争行為も成立しないと主張している。さらに,被告Aは,訴外エストの取引先や従業員に迷惑がかかることを回避するため,いわば善意で清算人に就任したものであり,しかも,訴外エストは債務超過の状態にあって,仮に厳密に清算手続を履行したとしても,債権者に配当する原資となるべき資産は存在しなかったから,清算人である被告Aの行為と原告が生じたと主張する損害の間には何の因果関係もないと主張して,被告Aの責任を否定している。
3 前件判決において認容された請求金額と同額の請求について ア 前項2で認定した事実関係によれば,被告エスト・ワンは,前件訴訟が係属しているさなかに,訴外エストのオーナーでありかつ代表者であったBと現在被告エスト・ワンのオーナーであるEとの合意に基づいて,前件訴訟で被告の立場にあった訴外エストの営業を承継させることを目的として,休眠会社であった前記ベルコム・ビー・エムの法人登記を利用して,実質上新たに設立された法人であるということができる。
すなわち,訴外エストは,前件訴訟の係属中に,訴訟代理人及び補佐人弁理士にも知らせないまま,株主総会の決議に基づき解散したが,その一方で,訴外エストと入れ替わるように,法人登記はされているものの,平成5年3月31日の取締役退任の後はその旨の登記もされないまま休眠状態であった株式会社ベルコム・ビー・エムについて,商号及び目的が変更され,本店所在地が訴外エストと同じ場所に移転された上,株式会社エスト・ワンとして,訴外エストと全く同じ業務内容が開始された。以上から分かるとおり,被告エスト・ワンは,いわば訴外エストの営業をそっくり移転する受け皿として,休眠会社であった株式会社ベルコム・ビー・エムの法人登記を利用して社会的実体を付与された株式会社ということができる。同被告の変更後の商号は,「エスト」に「・ワン」を付加しただけの「エスト・ワン」で,訴外エストからの継続性・連続性を想起させるものであり,商業登記簿に記載された事業目的は,7項目のすべてが訴外エストのそれと全く同一である。また,同被告は,従業員の構成,本店及び埼玉支店の電話番号,ファクス番号,賃貸借関係において訴外エストとほぼ同一であり,得意先,仕入先及び商品のほか,営業所,建物付属設備,自動車,什器備品,預金債権,長期貸付金,売掛金債権及び電話加入権等,エスト解散時に存在した営業的財産を,すべて無償で引き継いでいる。加えて,同被告は,平成9年7月10日付けの代表者,商号及び届印を変更する旨の届出により,訴外エストの第一勧業銀行本牧支店の普通預金口座及び当座預金口座を,残高を含めてそっくり引き継いでおり,これら口座においては,上記届出後も,1年以上にわたって,訴外エスト名義での入金や訴外エスト埼玉支店への支払がされていた。訴外エスト埼玉支店の用いていた第一勧業銀行川越支店の訴外エスト名義の口座も,被告エスト・ワンにおいて事実上引き継いでおり,同口座との間で,ファームバンキング上,同一名義の口座と同様の金銭のやりとりがされていた。なお,同銀行川越支店の上記口座も,後に,被告エスト・ワン名義に名義変更がされた(なお,被告Aは,上記のような口座の引き継ぎ及び訴外エスト名義での入金・出金につき,エスト・ワンという新会社の営業開始に際し,新たな口座を作りたい旨銀行に申し出たところ,変更届で足りるといわれ,上記のような変更届を提出したものであり,また,ファーム・バンキング上,「エスト」の旧表示を「エスト・ワン」に変更してくれと第一勧業銀行に対して再三申し入れたにもかかわらず,その変更が遅れたことに起因してエスト名義での入金・出金がされたものである旨供述するが〔被告Aの本人尋問調書12頁ないし16頁等〕,都市銀行における口座名義の通常の扱いに照らし,到底信用できる内容ではない。
また,仮に被告Aの上記供述の内容が事実であったとすれば,それはとりもなおさず,訴外エストの取引銀行であった第一勧業銀行においても,被告エスト・ワンが訴外エストと実質的に同一の法人格であり,単に商号ないし名称が変更したにすぎないとの認識であったことを裏付けるものであって,いずれにせよ,上記被告Aの供述が,前記認定を左右するものではない。)。
以上によれば,被告エスト・ワンは,形式上は訴外エストと別人格であるものの,その実体は,前件訴訟において訴外エストに不利な判決がされることが予想されたことから,当該判決に基づく強制執行を免れるとともに,原告を含めた債権者の追求を排除しながら訴外エストの営業を事実上承継することを目的として,休眠中であった別会社の法人登記を利用して法人としての実体を付与された存在であり,実質的には,訴外エストと同一の法人格を有するものというべきである。
上記によれば,被告エスト・ワンは,少なくとも原告との関係においては,訴外エストの原告に対する実用新案権侵害に基づく責任を回避するために,法人格が濫用された場合に当たるというべきであり,被告エスト・ワンに独立した法人格を認めることは,法人格付与の本来的な意義・目的に照らして容認されるものではない。
そうすると,本件においては,法人格否認の法理の適用により,原告は,被告エスト・ワンに対して,前件判決において認容された請求と同一の請求を行使することが許されるものと解するのが相当である。
イ しかるところ,前記2(3),(4)記載のとおり,前件訴訟において,原告は,イ号物件1,イ号物件2,ロ号物件1及びロ号物件2の4種類の冠婚葬祭用木製看板を訴訟の対象として掲げた上,訴外エストが製造・販売等するのは上記イ号物件1であるとし,同物件は本件考案技術的範囲に属すると主張して,本件実用新案権の侵害を理由に,同物件の製造・販売の差止め及び損害賠償を求めた。これに対し,被告であった訴外エストは,訴外エスト看板は,表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用し,また,看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上にさらに合成樹脂フィルムを貼付したもの(ロ号物件2参照)であるとした上で,同商品におけるベイトウヒ又はスプルースは「檜」(構成要件A)に該当せず,また,同商品における合成樹脂フィルムは「合成樹脂層」(同C)に該当しないから,同商品は本件考案技術的範囲には属しないと主張した。
前件判決は,原告及び訴外エストの上記各主張を踏まえ,証拠に基づき,訴外エスト看板はイ号物件1であると認定した上で,同物件は本件考案技術的範囲に属すると認めるとともに,証拠により認定した本件実用新案権の具体的な侵害行為及びその期間に基づき,特許法102条2項の「利益」の額(すなわち原告の損害額)を7000万円と認定し,7000万円及びこれに対する平成8年3月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で損害賠償請求を認容した(ただし,差止請求については,既に訴外エストが解散しており,今後同物件を使用・貸渡しするおそれはないことなどから,これを棄却した。)。
上記のとおり,前件判決は,当該訴訟における当事者の具体的な主張・立証に照らして,訴外エスト看板をイ号物件1であると認定し,それを前提に原告の差止め及び損害賠償の各請求について判断したものであり,当事者に対する攻撃・防御の機会の保障について,何ら欠けるところはなかったものと認められる。
ウ 他方,前記2(5)ないし(12)記載のとおり,被告エスト・ワンは,訴外エストの取締役・清算人であり,かつ,被告エスト・ワンの専務取締役であった被告Aを通じて,前件訴訟が係属していることを十分に認識していながら,前件訴訟を受継することなく,かえって前件訴訟の訴訟代理人であったL弁護士及び補佐人であったM弁理士にも訴外エスト解散の事実を告げず,前件訴訟の遂行を訴外エストの前代表者であるBに任せきりにし,また,前件判決の送達を受けた被告Aを介して前件判決の内容を知りながら,控訴することなく,前件判決を確定させたのものである。
エ 上記のような前件訴訟の審理経過及び被告エスト・ワンのこれに対する対応からすれば,本件訴訟において,被告エスト・ワンが,前件判決において認容された請求権の存否及びその金額について再び争うことは,実質的に訴訟の蒸返しであり,訴訟上の信義則(民事訴訟法2条参照)に反するものとして許されないというべきである。
したがって,本件において,原告は前件判決において認容された請求を被告エスト・ワンに対して行使する趣旨で,被告エスト・ワンに対してこれと同額の金員の支払を請求しているところ,被告エスト・ワンは,これを拒むことはできないと解するのが相当である。また,被告エスト・ワンは,形式上は訴外エストと別個の法人格であり,手続の明確・安定の見地から,訴外エストに対する前件判決の既判力・執行力を被告エスト・ワンに対してまで拡張することはできず,前件判決を債務名義として被告エスト・ワンに対する強制執行を行うことは許されないから,本件訴訟の提起によって改めて被告エスト・ワンに対する債務名義を取得する必要があり,同被告に対して上記金銭支払を求める法律上の利益も肯定される。
以上によれば,被告エスト・ワンに対し,前件判決において認容された請求と同額の7000万円及び平成8年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める原告の請求には,理由がある。
4 本件実用新案権の侵害を理由とする差止め及び損害賠償請求について ア 前記3において判示したとおり,被告エスト・ワンの法人格は,原告との関係において,濫用を目的に利用されたものとして否認されることを免れない。
そして,前記3において判示したような前件訴訟の審理経過及び被告エスト・ワンのこれに対する対応からすれば,本件訴訟において,被告エスト・ワンが,前件判決において本件実用新案権侵害の成否について認定判断された内容を再び争うことは,訴訟上の信義則に反するものとして許されないというべきである。
イ 前記のとおり,前件訴訟は,訴外エストが使用し,貸し渡していた看板(訴外エスト看板)はイ号物件1であると認定した上で,同物件は本件考案技術的範囲に属すると認め,本件実用新案権の侵害を認めた。
そして,本件においては,前記2(7)で認定したとおり,被告エスト・ワンは訴外エストの商品をそのまま引き継いだものであるところ,被告A自身が,本件訴訟における被告本人尋問において,エスト・ワンになってからの木製看板の作り方は,エストの時代のそれと全く同じであると述べている(同人の本人尋問調書18頁)から,現在被告エスト・ワンが使用し,貸し渡している冠婚葬祭用木製看板(被告エスト・ワン看板)は,訴外エスト看板と同様,前件訴訟における上記イ号物件1にほかならず,その構成は別紙物件目録1記載のとおりと認めるよりない。
本件訴訟において,被告エスト・ワンは,被告エスト・ワン看板の構成が別紙物件目録2記載のとおりであると主張して,本件実用新案権の侵害を争っているものであるが,上記のとおり,被告エスト・ワン看板が訴外エスト看板と同一の構成であることが証拠上認定される以上,被告エスト・ワン看板の構成について新たな証拠を提出するなどして争うことは,前件判決の訴外エスト看板の構成についての認定判断について争いを蒸し返すことと同様であり,訴訟上の信義則に反するものとして許されない。
したがって,被告エスト・ワン看板もまた本件実用考案技術的範囲に属し,これを使用し,貸し渡す行為は本件実用新案権を侵害することとなるから,原告は,同看板の使用,貸渡しの差止め及びこれを理由とする損害賠償を求めることができる。
ウ なお,本件においては,被告エスト・ワンが被告エスト・ワン看板を使用し,貸し渡していることについては争いはないから(前記第2,2(5)),同被告のこれらの行為につき差止めの必要性が存することは明らかであるが,他方,同被告が同看板を自ら製造し,販売していることを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件実用新案権の侵害を理由とする被告エスト・ワン看板の差止め及び廃棄請求については,主文第1,2項記載のとおり,同看板の使用又は貸渡しの禁止及び被告エスト・ワン保有に係る同看板の廃棄を求める限度で理由があると認められる。
エ また,本件において,被告エスト・ワンが被告エスト・ワン看板を使用し,貸し渡したのは,証拠上,平成9年6月1日から平成12年6月30日までの間であると認められるところ,既に述べたとおり,同被告は訴外エストの営業を事実上そのまま引き継いだものであるから,同被告による上記商品の使用及び貸渡しによって原告の生じた損害額については,訴外エストが訴外エスト看板を使用し,貸し渡した場合と同様に算定できるというべきである。しかるところ,前件判決は,平成4年6月10日から平成8年2月29日までの期間のイ号物件1(訴外エスト看板)の使用及び貸し渡しによる原告の損害額を7000万円と認定しているから,被告エスト・ワンによる平成9年6月1日から平成12年6月30日までの間の被告エスト・ワン看板の使用及び貸し渡しによって原告に生じた損害の額は,その期間に対応して,5800万円と認めるのが相当というべきである。
本件実用新案権の侵害を理由とする損害賠償請求については,上記の限度で理由があるものと認められる。
5 不法行為を理由とする損害賠償請求について さらに,前記2で認定した本件の経緯,本件訴訟遂行の難易度等を総合考慮すれば,民法709条に基づく弁護士費用相当額の損害賠償請求については,これを200万円の限度で認めるのが相当である。
6 被告エスト・ワンに対する請求についてのまとめ 上記によれば,原告の被告エスト・ワンに対する請求については,前件判決において認容された請求と同額の7000万円及び平成8年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払請求のほか,被告エスト・ワンによる本件実用新案権侵害を理由とする被告エスト・ワン看板の使用,貸渡しの差止め及び廃棄請求並びに上記4,5に記載した金員の合計6000万円(5800万円と200万円の合計額)及びこれに対する平成12年7月15日(被告エスト・ワンに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
7 被告Aに対する請求について ア 第4,2(8)ないし(11)で認定したとおり,本件においては,@被告Aは,平成4年の訴外エスト設立当初から,専ら財務担当の専務取締役として業務に携わっていたところ,訴外エストの業績悪化を原因として訴外エストのオーナーであり代表取締役であったBが事実上その経営を放棄したのに伴い,平成9年の清算に当たっては,訴外エストの営業をそのまま被告エスト・ワンに承継させ,その上で,引き継いだ営業的財産を利用してその経営を立て直すため,自らの意思で清算人に就任するとともに,被告エスト・ワンの専務取締役に就任したこと,A被告Aは,平成8年3月に前件訴訟が提起されたことは当初から知っていたが,訴訟の遂行に関与することはほとんどなく,Bの指示に従い,訴外エストの経営の立て直し,及び,訴外エストから被告エスト・ワンへの営業の事実上の引き継ぎに専念していたこと,B訴外エストが解散し,被告Aがその清算人に就任して,唯一訴外エストの代表権を持つ立場となった後も,前件訴訟を被告エスト・ワンに受継させることなく,かえって前件訴訟の訴訟代理人であったL弁護士及び補佐人であったM弁理士にも訴外エスト解散の事実を告げず,前件訴訟の遂行をBに任せきりにしたこと,C原告は,前件訴訟の係属中,平成9年10月6日付け内容証明郵便(甲10の1)をもって,被告Aに対し,訴外エストの解散は仮装行為であると疑わざるを得ないから,上記解散手続につき,商法418条所定の届出の有無,同法421条,422条所定の催告の有無,清算手続の進捗状況及び会社財産の状況を書面にて明らかにするよう求めるとともに,前件訴訟で請求中の債権を排除して財産が分配されるなど違法な清算手続がとられた場合には,訴外エストが債務を弁済する義務を負うことはもちろん,清算人個人も損害賠償義務を負うことになる旨通知したこと,Dこれに対し,被告Aは,平成9年10月13日付け内容証明郵便(甲11)をもって,「当方では,事情の説明を受けておらずお答えの仕様がありません。」と回答したこと,E訴外エストは,平成10年4月30日に清算を結了し,同年5月25日,その旨の登記をしたが,この清算に際しては,残金を含む銀行口座,商品,貯蔵品,建物付属設備,車両,什器備品,電話加入権,保証金・敷金及び長期貸付金等のすべてが,そのまま無償で被告エスト・ワンに引き継がれる一方で,商法所定の上記各手続は一切履行されず,債権者に対する配当手続もされなかったこと,Fこのような清算の結了後である平成12年2月14日,前件訴訟の第20回弁論準備手続に被告Aが清算人として呼び出され,訴外エストの全売上高に占める訴外エスト看板の売上の割合が約10パーセントであること及びその粗利益の率が75パーセントを下らないことは,いずれも認める旨等を陳述したが,その直後にL弁護士及びM弁理士から辞任の意思が表明され,同日,第15回口頭弁論期日が開かれて弁論が終結し,同年4月27日に前件判決が言い渡されたこと,G被告Aは,自ら前件判決の送達を受けて判決の内容を知りながら,控訴することなく,前件判決を確定させたこと,の各事実が認められる。
上記の事実関係の下においては,被告Aは,前件判決の内容となっている原告の損害賠償請求権の存在を知りながら,商法418条以下の法定の清算手続を何ら履行しないまま,訴外エストの営業を事実上無償で被告エスト・ワンに譲渡し,よって,原告が有する前件判決の内容たる債権の回収を不可能にし,原告に上記債務と同額の損害を与えたものというほかない。
イ 被告らは,訴外エストは解散当時既に無資力であったから,清算人である被告Aの行為と原告の損害との間に因果関係は存在しない旨主張する(第3,2(4))。
しかしながら,原告が指摘するとおり,解散会社に債務超過の疑いがあるときは,特別清算開始の申立てをすることが法律上清算人の義務であるから(商法431条2項),清算についての状況等を明らかにするよう原告から通知された(甲10の1,2)にもかかわらず,回答を事実上拒否した(甲11)上で,清算人として当然なすべき会社債権者保護のための手続(商法419条,421条,427条1項)をまったく履践せず,清算確定申告すらしないまま,訴外エストの財産を被告エスト・ワンに承継させ,もって会社財産を流出させた点において,清算人としての義務に違反したとのそしりは免れない。被告Aのこのような清算人としての義務に違反する行為の結果,原告は訴外エストから債権を回収する機会を失ったのであるから,被告Aの義務違反行為と原告の損害の間に因果関係が存在することは明らかである。また,被告らの主張するように被告Aが清算人としての義務を果たしていたとしても,原告において訴外エストから債権を回収することが全くできなかったことが,証拠上認められるわけでもない。
被告らの上記主張は,採用できない。
ウ 以上によれば,被告Aは,商法430条,266条の3及び民法709条に基づき,原告に対し,前件判決の内容となっている請求権と同額(7000万円)の損害を賠償すべき義務があるものと認められる。
エ また,民法709条に基づく弁護士費用相当額の損害賠償については,本件に表れたすべての事情に照らし,50万円の限度でこれを認めるのが相当である。
オ 以上によれば,原告の被告Aに対する損害賠償請求は,7000万円及びこれに対する平成8年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員,及び,50万円及びこれに対する平成12年7月16日(被告Aに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるものと認められる。
結論
以上によれば,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があるものと認められるから,その限度でこれを認容し,その余の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する(なお,仮執行宣言については,主文第3項に限り,これを付するのを相当と認める。)。
追加
(別紙)物件目録1下記のとおりの冠婚葬祭用木製看板(構成の説明)a檜の板材を表面に張り合わせた合板1を心材2の両側に取り付け中空体状とし,b表示を行うべき表裏の両側に檜の木目模様が表れるようにした看板本体4と,cこの看板本体4の表裏の両側の表面に形成され,無色透明で右木目模様が透視可能で,かつ,その表面に黒色水性インキによる表示,及び,この黒色水性インキによる表示の水による除去を行え,表示の書換えを自在とする合成樹脂層6とから構成したd冠婚葬祭用木製看板7(図面の説明)第1図全体斜視図第2図看板に脚台を取り付けた全体斜視図第3図一部を切り欠いた全体斜視図第4図看板の表面を示す部分拡大断面図(図面中の符号の説明)1合板2心材3表面4看板本体5黒色水性インキ6合成樹脂層7冠婚葬祭用木製看板8脚台(別紙)物件目録2下記のとおりの構成の冠婚葬祭用木製看板aスプルースの板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし,b看板本体の表裏の表面に形成された無色透明な合成樹脂層の上に更に塩化ビニールフィルムを貼付し,cその表面に油性ペイントによる表示をなし,当該表示は塩化ビニールフィルムの剥離によって除去し,看板本体を損なうことなく,表示の書き換えが行える,d冠婚葬祭用木製看板
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之
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