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関連審決 無効2001-35042
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の認定 /  きわめて容易 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 528号 審決取消請求事件
原告 日本スピンドル製造株式会社
訴訟代理人弁護士 露木脩二
同 弁理士 森治
被告 株式会社キンキ
訴訟代理人弁理士 角田嘉宏
同 高石郷
同 西谷俊男
同 古川安航
同 幅慶司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2001−35042号事件について平成13年10月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,下記ア記載の実用新案登録(以下「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者,原告は,本件実用新案登録の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 登録第2131780号実用新案「シュレッダー用切断刃」 登録出願 平成3年6月14日 設定登録 平成8年8月12日 イ 平成13年 1月31日 無効審判請求(無効2001-35042号) 同 年 5月11日 被告による明細書の訂正請求(この訂正請求に係る訂正を以下「本件訂正」という。) 同 年10月12日 本件訂正を認め,無効審判請求を不成立とする旨の審決 同 年10月25日 原告への審決謄本送達 2 本件訂正により訂正された明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲に記載された考案(以下「本件考案」という。)の要旨 シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し,この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し,しかもこの刃先部分を周方向に分割して一つの爪を含む略鉤状の刃先片を周方向に複数個接合連接することによって形成し,各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし,かつ,各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に,該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したシュレッダーにおいて,前記取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片の端部に設けた段部と係合する一方,切断刃の両側に密着してスペーサを配装し,このスペーサの外径を取付台外径より大きくとって該スペーサに該取付台の側面をほぼ覆うようなはみ出し部分を形成し,このスペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の位置決め挟持固定を行うようにしたことを特徴とするシュレッダー用切断刃。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件明細書の記載が,実用新案法5条4項〜6項に規定する要件を満たしていないということはできず(無効理由1関係),また,本件考案が,実公昭57-31953号公報(審判甲1・本訴甲6,以下「刊行物1」という。),欧州特許出願公開第0401620号明細書(1990年)(審判甲2・本訴甲7の1,以下「刊行物2」という。),実願昭49-73388号(実開昭51-2776号)のマイクロフィルム(審判甲3・本訴甲8,以下「刊行物3」という。)及び実願昭54-13533号(実開昭55-115346号)のマイクロフィルム(審判甲6・本訴甲11,以下「刊行物4」という。)記載の各考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることもできない(無効理由2関係)から,請求人(原告)の主張する理由によっては本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本件明細書の記載不備に係る判断を誤り(取消事由1),また,本件考案の「各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし」た構成(以下「構成A」という。)が刊行物2記載の考案との相違点であるとの誤った認定をするとともに,その容易想到性の判断を誤り(取消事由2),本件考案の「取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片の端部に設けた段部と係合する」構成(以下「構成B」という。)に係る容易想到性の判断を誤った(取消事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(明細書の記載不備に係る判断の誤り) (1) 本件明細書(甲3添付)の記載によれば,本件考案は,実用新案登録請求の範囲に規定する「切断刃の両側に密着してスペーサを配装し,このスペーサの外径を取付台外径より大きくとって該スペーサに該取付台の側面をほぼ覆うようなはみ出し部分を形成し,このスペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の位置決め挟持固定を行うようにした」構成により,「各刃先片13aは・・・長時間の使用にもガタを生じることがなく,その引き込み及び破断機能に支障を来さない」(段落【0021】),「摩耗した刃先13部分を交換する際には,単に,締結用のボルト16を取り外して刃先片13aを取付台14から取り外せばよく,従来のようにケーシングや軸受をばらした後軸から切断刃全体を引き抜くような作業は不要で・・・刃先片13aの取付台14への装着も簡単に行える。通常,かかるシュレッダーには相当数の切断刃が備わっているので,本案を採用した場合,交換作業が大幅に省力化される」(段落【0022】)との作用効果を奏するものとされる。
しかし,このように取付台の外形より大きく形成したスペーサを刃先片の両側に密着することにより,各刃先片の幅方向の挟持固定を行うようにすると,摩耗した刃先片のみを交換しようとしても,通常数十sの重さの刃先片に,刃先片とスペーサの接触面に作用する摩擦力が加わることになり,刃先片のみを取付台から外すことはできず,仮にこれを外すことができても,そのまま取付台に再度取り付けることはできない。
(2) したがって,本件明細書には,本件考案によっては奏することのできない作用効果が記載されていることになるから,本件明細書には,当業者が容易に本件考案の実施をすることができる程度にその考案の目的,構成及び効果が記載されているとはいえず,平成6年法律第116号による改正前の実用新案法5条4項に違反する。また,本件考案はまとまりのある一つの技術的思想としてとらえることができないから,同条5項2号の要件も満たしていないというべきである。
本件明細書の記載が,これらの要件を満たしていないとすることはできないとした審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(構成Aに係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,刊行物1〜4記載の各考案は,いずれも「各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし」た点(構成A)を備えていないとして,これを本件考案との相違点として認定する(審決謄本の理由【8】1(1)項(ロ),(2)項(イ),(3)項(イ),(4)項(ハ)参照)とともに,構成Aを採用することは当業者がきわめて容易に想到し得たものでないと判断する(同【8】2(1)項)が,誤りである。
(2) 刊行物4(甲11)には,「図示実施例のものは,座面6に設けられた嵌合部としてキー溝8を有しており,破砕刃10をキー9を介して当該キー溝8に嵌合させている」(明細書4頁13行目以下)と記載されているように,キー溝8を除くと,破砕刃10と座面6との接合境界面は平面とされているものであるから,刊行物4記載の考案は,本件考案の構成Aを実質的に備えているということができる。そうでないとしても,このキー溝8や,刊行物1記載の考案の凹凸嵌合は,刃先片の幅方向の位置決めを行うためのものであるところ,刃先片を取付台に装着する場合に,このような機能は必要がないのであるから,各刃先片と取付台との接合境界面を平面とすることは,当業者がきわめて容易にし得る設計上の事項にすぎないというべきである。
3 取消事由3(構成Bに係る容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は,本件考案と刊行物1〜4記載の各考案との相違点である「取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片の端部に設けた段部と係合する」構成(構成B)につき,構成Bを採用することは当業者がきわめて容易に想到し得たものではないと判断する(審決謄本の理由【8】2(2)項)が,誤りである。
(2) 取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片に設けた段部と段状歯部とを係合することは,刊行物2(甲7の1)に実質的に記載されているところ,段状歯部(固定歯71,94)と係合する刃先片(保護キャップ69,95)の位置を,本件考案のように端部とするか,刊行物2記載の考案のように中間部とするかは,二者択一の単なる設計上の事項にすぎない。したがって,刊行物2記載の考案の段状歯部(固定歯71,94)と刃先片(保護キャップ69,95)の係合位置を,本件考案の構成Bにおけるように端部とすることに格別の困難性を見いだすことはできず,当業者がきわめて容易に想到し得る程度の事項にすぎない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(明細書の記載不備に係る判断の誤り)について 本件考案は,刃先部分を取付台に接離可能に構成することを大前提とするものであるから,刃先片の両側のスペーサのはみ出し部分は,「幅方向の位置がズレないように」「長時間の使用にもガタを生じることがない」程度に密着し挟持固定するものであり,スペーサと刃先片との間に大きな摩擦力が生じる程度の挟持力で密着し挟持固定するものでないことは明白である。したがって,刃先片を取付台から外したり,再度取り付けることができないとの原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(構成Aに係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について 本件考案は,刃先片と取付台との接合境界面を平面として,この取付台の平面とスペーサのはみ出し部分とによって凹部を形成し,この凹部に刃先片を設けてその位置決め挟持固定する技術的思想のものである。これに対し,刊行物1(甲6)記載の考案及び刊行物4(甲11)記載の考案は,キー溝8を形成したり,凹凸嵌合によって,刃先片の幅方向の位置決めを行う技術的思想に基づくものであって,実質的にも刃先片と取付台との接合境界面を平面とすることについての記載はない。したがって,各刃先片と取付台との接合境界面を平面とすることが,きわめて容易にし得る設計上の事項にすぎないとする原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(構成Bに係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件考案が,刃先片に段部を設け,取付台にはこの段部に係合する段状歯部を設けた点に関しては,刊行物2(甲7の1)記載の考案も同様の作用効果を奏するものであるが,本件考案が,当該段部を端部に設けることとしたことには,以下の技術的意義がある。
ア 本件考案は,刃先片の製作,加工が容易である。
刊行物2記載の考案は,保護キャップ(刃先片)の中間部分にポケットを設ける構造であるため,複雑な構造となり,ポケット内面の機械加工が困難となり,精度のよい機械加工もできない。そうなれば,ポケット内面と固定歯との隙間も均一でないため,これが刃先片の取付精度に悪影響を与え,ポケットに固定歯を嵌入しても保護キャップの位置が高い精度で定まらず,刃先先端と対向軸のスペーサ外面との接近時における間隔にバラツキが生じ,破砕機能を著しく低下させる原因になる。これに対して,本件考案では,刃先片の端部に段部を設けることにより,段部が外側に表出しているのでシンプルな構造となって,加工精度も高くなる。
イ 本件考案は,刃先片の取り付け及び取り外し(交換)が容易である。
刊行物2記載の考案では,刃先片の中間に固定歯が嵌入しているため,上方向にしか刃先片を取り外すことはできない。また,取り付けの際も上方向からポケットに固定歯が嵌合するように配慮しながら取り付ける必要があり,取り付け及び取り外しが容易といえず,迅速な交換作業に支障を来すこととなる。これに対して,本件考案では,刃先片の一つを取り外した後は,その隣の刃先片は上方向に取付台から取り外すことができると共に,取付台の平面に沿ってスライドさせながら段状歯部の反対方向に取り外すこともできる。すなわち,取付面を基準として90°の方向(範囲)から刃先片を着脱可能である。一つの刃先片を取り外すことにより隣の刃先片の取り外し方向の自由度が大きくなることは,刃先片端部に段部を設けて隣りの刃先片と接合連接させていることによって生じる本件考案の技術的意義である。
ウ 本件考案では,各刃先片の取付精度が簡単に出せる。
刊行物2記載の考案では,前述したように,固定歯をポケット内に嵌入するため,必然的に両者の間には隙間を生ずることとなる一方,ポケット内面の加工精度を確保しにくいことからポケットと固定歯との隙間も均一でなくなり,これが刃先片の取付精度に悪影響を与え,刃先先端と対向軸のスペーサ外周面との接近時における間隔にバラツキを生じ,破砕機能を著しく低下させる原因となる。これに対して,端部に段部を設ける本件考案の簡単な構成では,容易に各刃先片の取付台への取付精度が確保できる。すなわち,刃先片端部の段部取付台の段状歯部に押し付けて係合させるだけで,刃先片の位置を,簡単に,高い精度で定めることが可能となる。その結果,刃先先端と対向軸のスペーサ外周面との微小な隙間を精度よく確保することができ,良好な破砕性能を常に維持できる。
エ 本件考案では,端部に段部を設けたので,段部での受圧面積が大きくとれる。
刊行物2記載の考案では,ポケット72に固定歯が嵌入しているので,固定歯における受圧面積は必然的に小さくならざるを得ない。本件考案では,破砕時の負荷荷重を受けるための受圧面積を端部の段部全体で大きくとれる。
オ 取付ボルトの強度への影響が異なる。
破砕時には刃先片の爪部に大きな衝撃力(負荷荷重)が作用するところ,刊行物1記載の考案のように段部のない場合は,破砕時に発生する刃先片への負荷荷重は,当該ボルトヘの剪断力として支配的に作用するため,当該ボルトとしては強度の劣る使い方となる。なお,一般的に,鋼材質は引張強度に比較して剪断強度が大きく劣ることは技術常識である。この場合,刃先片の厚みの制約内でボルトの径を大きくする必要がある。刊行物2記載の考案では,負荷荷重を固定歯94で受け持つことになる。これに対し,本件考案では,刃先片端部に段部を設けてこれに取付台の段状歯部が係合している構成であるから,当該ボルトヘの剪断力は刃先片端部の段部に係合した段状歯部で支持する一方,当該ボルトヘは段部を回転中心とする引張力が支配的に作用することになり,刃先片端部の段部の存在は当該ボルトにとってより強度のある使い方となる。このため,ボルト径を小さくできるので,刃先片の厚みの制約を受けない。
(2) 以上のような構成Bの技術的意義に照らせば,段状歯部と係合する刃先片の位置を,本件考案のように端部とするか,刊行物2記載の考案のように中間部とするかが,二者択一の単なる設計上の事項にすぎないということは到底できず,原告の主張は理由がない。
(3) 本件考案の実施品は,米国で特許を取得したほか,平成9年7月28日,第27回機械工業デザイン賞において日本商工会議所会頭賞を獲得した優秀な技術として評価されており,商業的成功を収めている。この点も,本件考案進歩性の判断において考慮されるべきである。
当裁判所の判断
1 以下,無効理由2(進歩性の欠如)に係る取消事由2,3について,本件考案と刊行物4記載の考案との対比を中心として検討する。なお,審決は,本件考案と刊行物4記載の考案との相違点として,構成Aの有無を相違点(ハ)として,構成Bの有無を相違点(ニ)として認定しているので,以下,取消事由2,3の検討は,上記各相違点についての判断の誤りという観点から見る。
2 取消事由2(構成Aに係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は,本件考案の構成A,すなわち,「各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし」た点は,刊行物4記載の考案が実質的に備えるものであり,そうでないとしても,各刃先片と取付台との接合境界面を平面とすることは,当業者がきわめて容易にし得る設計上の事項にすぎない旨主張する。
(2) 刊行物4(甲11)には,破砕刃10を回転刃基体5の外周に定着させた剪断破砕機が記載されているところ,破砕刃10と回転刃基体5の外周面に削成された座面6との接合態様については,「図示実施例のものは,座面6に設けられた嵌合部としてキー溝8を有しており,破砕刃10をキー9を介して当該キー溝8に嵌合させているが,破砕刃10自体にキー9に相当する突条を一体的に形成して該突条とキー溝8とを嵌合させるようにしてもよい。また,座面6に設ける嵌合部はキー溝8に限定されるものではなく,破砕刃10が回転軸2の軸方向に移動するのを阻止できるような当接面を有するものであれば足りる」(4頁13行目以下)と説明されていることが認められる。ここで,キー溝を形成する以外の接合態様にも言及はされているものの,座面6に「嵌合部」を設けることを前提とする記載と解されるものであるから,本件考案の構成Aのように,刃先片(破砕刃10)と取付台(座面6)との接合境界面を平面とすることが実質的に記載されているとまでは認められない。
しかし,刊行物4の上記記載によれば,キー溝8又はこれに代わる嵌合部を形成する目的が,専ら破砕刃10の軸方向への移動を阻止することにあることは明らかであり,かつ,そのような機能を確保することができる限り,他の構成に代替可能なものであることが示唆されていると解される。そして,軸方向への移動を阻止する他の構成が確保されている限り,刃先片と取付台の接合境界面を平面として,当該平面同士を衝合して固定すること自体は,嵌合構造を採用する以上に単純な固定構造として周知慣用の技術にすぎない。
このことを踏まえて考えた場合,刊行物2(甲7の1)記載の発明においては,ロータ円板66と分離リング5とが交互に配置され,かつ,ロータ円板66が保護キャップ69の脚部69aの位置する領域においては,分離リング5の直径Dよりもロータ円板66の半径dが小さくなっている実施例が開示されている(訳文2頁7行目以下,図24,25)のであるから,「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成」を備えるものであることは明らかである。そうすると,当業者であれば,この構成が有する機能が明示的に説明されているか否かにかかわらず,当該客観的な構成自体から,保護キャップの幅方向(軸方向)への移動を阻止するように挟持固定する機能を有することを明らかに理解,把握し得るというべきである。そして,刊行物2記載の発明において,保護キャップの幅方向への移動を阻止する固定構造として,図25に図示されるような嵌合構造を備えるものではあるが,そのことのゆえに,分離リング5による挟持固定が保護キャップの幅方向への移動を阻止する機能を有することが否定されるものではなく,むしろ,この機能を担うための選択可能な構成が示されていると解すべきである。
以上によれば,刊行物4記載のキー溝8その他の嵌合部に代えて,刊行物2に記載された刃先片(保護キャップ)をスペーサ(分離リング)で挟む構成を採用することに何らの困難性はないというべきである。
(3) したがって,刊行物4記載の破砕刃10と座面6との接合境界面を,本件考案の構成Aのように平面とすることは,当業者のきわめて容易に想到し得たことというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(構成Bに係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 刊行物4記載の考案が本件考案の構成B(「取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片の端部に設けた段部と係合する」構成)を備えないことは争いがないところ,刊行物2記載の考案に基づいて,これをきわめて容易に想到することができたかどうかを検討する。
(2) 刊行物2(甲7の1)の図24,27,28,31の図示及び関連記載によれば,刊行物2記載の考案において,取付台に相当するロータ円板は,その外周面に,段状歯部に相当する固定歯を突出形成し,この固定歯は,刃先片に相当する保護キャップの中央部に形成されたポケットに嵌入するように形成されていることが認められる。なお,刊行物2記載の考案の「固定歯94」が本件考案の「段状歯部」に相当するとの審決の認定(審決謄本の理由【8】1(2)項)に争いはない。そうすると,刃先片(保護キャップ69)の段部が,端部に形成されているか,中央部のポケットとして形成されているかの違いは別として,刊行物2には,取付台の外周に段状歯部を突出形成して各刃先片に設けた段部と係合する構成が開示されていることは明らかというべきである。刊行物2記載の考案の固定歯は,取付台の全幅にわたって形成されているものではないが,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載において,本件考案の「段状歯部」が取付台の全幅にわたって形成されていることを規定するものでない以上,これを「段状歯部」に相当するものと認めるに妨げはない。
他方,刊行物4(甲11)には,刃先片(破砕刃10)の端部が,取付台(回転刃基体5)外周にバックアップ面7を有する歯部に係合する構成が記載されていることが明らかである。しかも,このような係合構造を採用したことによって,「破砕刃10に作用する衝撃力はバックアップ面7によって受止められ・・・破砕刃10に繰返し作用する苛酷な衝撃力のもとにおいても破砕刃10が接線方向・・・にずれる虞はまったくない」(4頁2行目以下。5頁1行目以下も同旨。)ことが記載されているところ,この作用は,刊行物2記載の考案の固定歯が「切断力を担う」(訳文1頁末行)とされていることと同趣旨に理解されるものである。そうすると,刊行物2記載の上記構成を刊行物4記載の考案に適用するに当たって,刊行物4記載の考案におけるような刃先片の端部を取付台の段状歯部と係合するように構成することは,当業者のきわめて容易に想到し得たことというべきである。
(3) この点について,被告は,構成Bの技術的意義に照らして,段状歯部と係合する刃先片の位置を,本件考案のように端部とするか,刊行物2記載の考案のように中間部とするかが単なる設計上の事項にすぎないということはできない旨主張するが,採用の限りでないことは,以下のとおりである。
ア 被告の上記主張中,刃先片の製作,加工が容易であるとの点(前記第4の3(1)ア)及び各刃先片の取付精度が簡単に出せるとの点(同ウ)は,刊行物2の保護キャップに設けられたポケット構造のものとの対比に基づく主張と解されるものであるが,本件明細書に何らその裏付けとなる記載がないばかりでなく,刊行物4(甲11)には,刊行物2記載の考案におけるようなポケット構造を採ることなく,加工の容易な係合構造を採用し得ることが開示されているのであるから,上記の点は,当業者の当然に予測し得るものにすぎないというべきである。
イ 次に,刃先片の取り付け及び取り外し(交換)が容易であるとの点(同イ)については,本件考案実施例(願書添付図面に図示のもの)において,刃先片が取付台の接合境界面の接線上を移動することができる態様を備えていることを前提とするものと解されるところ,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載において,このような接線上の移動が可能か否かについては,何ら規定するところがないというべきであるから,上記主張は,実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないものとして,採用することができないし,仮に,被告主張の技術的意義を肯定し得るとしても,刊行物4(甲11)記載の考案から当業者の予測可能なものにすぎない。
ウ また,段部での受圧面積が大きくとれるとの点(同エ)についても,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ないばかりでなく,刊行物4(甲11)に開示されている,刃先片(破砕刃)の端部に段部が係合する構成が有する技術的意義と異なるところはないというべきである。
エ そして,取付ボルトの強度への影響が異なるとの点(同オ)については,刊行物4(甲11)の上記(2)で引用した記載から明らかなように,刊行物4に明示的に開示されている技術的意義であって,やはり上記判断を左右するものとはいえない。
(4) また,被告は,本件考案の商業的成功等についても主張するが,機械工業デザインとしての優秀性が評価されているとしても,考案進歩性とは次元が異なる問題というべきであるし,商業的成功だけから本件考案の顕著な作用効果を肯定することもできないから,この点の被告の主張は採用し得ない。
(5) したがって,刊行物4,2記載の各考案に基づいて,本件考案の構成Bのように構成することは,当業者のきわめて容易に想到し得たものというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。
4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由2,3は理由がある。そして,本件考案と刊行物4記載の考案とは,以上に検討した点以外にも,審決の認定する相違点(イ),(ロ),(ホ)(審決謄本17頁)が存在するが,当該相違点に係る構成は,刊行物1〜3に開示されているものであって,これを,同一の技術分野に関するものと認められる刊行物4記載の考案に適用することを妨げるべき事情も見当たらないから,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利