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関連ワード 技術的範囲 /  出願経過 /  禁反言 /  分割出願 /  実施料相当額 /  考案 /  図面 /  補正 /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  削除 /  実施例 /  本質的部分 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 23687号 不当利得返還請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 真木吉夫
被告 株式会社エヌ・ティ・ティ・テレカ
訴訟代理人弁護士 本間崇
補佐人弁理士 蟹田昌之
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/01/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成14年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,テレホンカードを製造販売する被告の行為は,原告が有していた実用新案権の技術的範囲に属する製品を製造販売する行為であり,不当利得行為に当たるとして,不当利得金の返還を求めた事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告の有していた実用新案権 原告は,以下のとおりの実用新案権(以下,「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)の持分3分の1を有していた。なお,本件考案は,実願昭59-134611号(以下「本件原出願」といい,原出願に係る考案を「原考案」という。)から,分割出願(以下「本件出願」という。)されたものである。
考案の名称 テレホンカード イ 出願日 昭和59年9月5日 ウ 出願公告日 平成8年2月21日 エ 登録日 平成12年3月17日 オ 登録番号 第2150603号 カ 実用新案登録請求の範囲 本件考案に係る明細書(以下「本件明細書」という。別紙「実用新案公報」参照)の「実用新案登録請求の範囲」の記載のとおりである。
電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており,且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。
(2) 本件考案の構成要件 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて, B このカード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり, C 該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共に D カード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており, E 且つ,該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる位置に配置されている F ことを特徴とするテレホンカード。 (3) 被告の行為 被告は,業として,別紙被告物件目録記載のテレホンカード(以下「被告物件」という。)を製造,販売している。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足するか。
(原告の主張) 被告物件における「半月状の切り込み」は,本件考案の構成要件Cにおける「該指示部」に当たる。したがって,被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足する。
本件考案本質的部分は,本件明細書の「考案が解決しようとする問題点」及び「作用」「考案の効果」欄記載のとおり,目の不自由な者に対する配慮から,テレホンカードに指示部を設け,目の不自由な者が手,指などで触れることにより差し込む方向を知ることを可能とした点にある。
被告物件における「半月状の切り込み」は,本件考案の上記本質的部分をいずれも備えているから,本件考案の構成要件Cにおける「該指示部」に当たる。
指示部が「カードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向へのくぼみ」形状であるか,「カードの平面からみて中心方向への切り込み」形状であるかは,本質的部分に影響がないから,被告物件は本件考案技術的範囲に含まれる。
なお,被告は,本件考案の解釈に関し,本件原出願の出願経緯を主張するが,本件考案(分割出願)は,本件原出願とは全く別個独立の新たな出願によるものであり,本件原出願に生じた手続上の効果をそのまま継承するものではないから,本件原出願の出願経緯は,本件考案とは関係がない。
(被告の反論) 被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足せず,本件考案技術的範囲に属さない。
ア 本件考案における「指示部」の解釈 本件考案の実用新案登録請求の範囲によれば,「指示部」とは,カード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための「押形部」からなる。この「押形部」は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいることを特徴としており,本件明細書の【実施例】中の説明「【0008】図面において,・・・2はカード本体1の一部に設けられた差込み方向の指示部であり,この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。この指示部は,図1に示す如くカード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんで形成されている。」(4欄1行〜6行)及び図1から明らかなように,底面を有する「厚さ方向にくぼんでいるくぼみ」を意味する。したがって,本件考案の「指示部」には,切り込みは含まれない。
また,本件出願前の本件原出願は,その出願当初明細書に,指示部として「切欠部」,「穴部」,「押形部」の3つの構成が図面とともに記載されていたが,その後,このうち「切欠部」及び「穴部」の構成については,図面を含めすべての記載が本件原出願の出願人により削除され,出願公告に至り,その後,本件考案分割出願がされた。
このような経緯からすれば,「切欠部」及び「穴部」の構成が,本件原出願の公告後に分割出願した本件考案の「指示部」に含まれる余地はないし,その旨の原告の主張は,包袋禁反言の法理からも許されないというべきである。
イ 被告物件との対比 被告物件には,「切り込み」があるが,「切り込み」は,本件原出願に当初記載され,その後削除された「切欠部」に相当するものであり,「押形部」とは相違する。
したがって,被告物件の「切り込み」は,本件考案の「指示部」に当たらない。
(2) 不当利得の額はいくらか。
(原告の主張) 被告は,被告物件を,本件実用新案権の出願公告日である平成8年2月21日から存続期間満了日である平成11年9月5日までの約3年半の間,年間2億枚以上の割合で製造,販売しており,その売上高は年間平均約1900億円を超える。
本件実用新案権の実施料相当額は,売上高の5パーセントが相当である。
原告の本件実用新案権の持分は3分の1であるので,被告の上記期間における不当利得額のうち,原告が請求し得る金額は約117億円となる。
原告は,このうち,内金として金1億円の支払を求める。
(被告の反論) 争う。
当裁判所の判断
1 被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足するか。
(1) 「該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」の意義 本件考案の【実用新案登録請求の範囲】の構成要件Cに係る部分は,「該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共に」と記載されている。
本件考案は,本件原出願が公告された後に,本件原出願を親出願として,分割出願されたものである。そこで,本件考案の「指示部」の意義を解釈するに際し,本件原出願及び本件出願の経緯を検討する。
ア 本件原出願及び本件出願の経緯 証拠(乙1ないし21)及び弁論の全趣旨によれば,本件原出願及び本件出願の経緯について,以下の事実が認められる。
(ア) 本件原出願の経緯 a 原考案は,昭和59年9月5日,実用新案登録出願された。
考案の出願当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄には,「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部,穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され,「考案の詳細な説明」欄の[実施例]において,指示部の構成として,切欠部を形成する例(カードを平面方向からみて中心方向にくぼんでいる形状)が第1図に,穴部を形成する例(カード本体を貫通している形状)が第2図に,押形部を形成する例(テレホンカードを側面からみて上下面から厚み方向に凹凸状にくぼんでいる形状)が第3図に,それぞれ示されていた。
b 上記出願に対して,平成2年8月8日付けで,以下のとおりの拒絶理由通知が発せられた。すなわち,「この出願の考案は,その出願前国内において頒布された下記の刊行物に記載された考案に基いて,その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,きわめて容易考案をすることができたものと認められるから,実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。」とされ,引用例として,「実願昭56-48368号(実開昭57-161131号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム」が示された。
この引用例の「実用新案登録請求の範囲」欄には,「表面に磁気記録欄を有するカードの特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切除部を形成してなる磁気カード」と記載され,「考案の詳細な説明」欄には,「磁気カード1は,矩形状をなし,・・・上記磁気カード1の特定された一部には切除部3が切離可能に設けられている。」と記載され,実施例において,切除部をカードの下端一隅に三角形状に設けた例が第1図及び第2図に,下端一隅に四角形状に設けた例が第3図に,さらに磁気カードの下方部において一側方に片寄った位置に円形状に形成した例が第4図に,それぞれ示されている。
c 本件原出願の出願人は,平成2年11月13日,「意見書に代える手続補正書」を提出し,その中で明細書を全文訂正し,図面中,第1図,第2図を削除し,第3図とあるのを第1図と訂正した。その結果,訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載は,「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」とされ,また,「考案の詳細な説明」欄において,第1図,第2図に関する記載が削除された。
d 本件原出願は,平成3年4月2日付けで,拒絶査定を受けた。なお,この拒絶査定謄本の備考欄で,「方向の指示のための表示を行う事は磁気カードの分野では従来周知の技術である(特開昭55-43669号公報参照)」と指摘された。
e これに対して,本件原出願の出願人は,平成3年5月23日付け審判請求書を提出し,拒絶査定の取消を求めた。本件原出願の出願人は,その理由として,「本願考案は,・・・特に,『カードの差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード』を必須の要件としております。これに対し,上述の拒絶理由通知書において引用された実開昭57-161131号および拒絶査定謄本において引用された上述の特開昭55-43669号公報のいずれにも本願考案の上述の必須要件,とりわけ,押形部について開示しておりません。・・・又,本願考案の指示部は押形部から成っております。これは上述の引用例の切除部や矢印と違って,目の悪い人でも差込方向を容易に感知できるという利点を有します。」と述べた。
f 本件原出願については,平成5年6月24日,実用新案登録出願公告がされた。
g なお,これに対しては,実用新案登録異議申立がされたが,本件原出願の出願人は,平成6年5月24日付けで,手続補正書及び実用新案登録異議答弁書を提出し,特許庁は,同年11月21日,上記異議申立てにつき,「本件登録異議の申立ては,理由がないものとする。」との決定をした。
また,特許庁は,同日,原考案につき,拒絶査定を取り消し,実用新案登録をすべきものとする審決をした。
h 原考案は,上述のとおりの手続を経て,平成7年4月20日,実用新案登録された。
(イ) 本件出願の経緯 a 本件原出願を親出願として,平成6年5月24日,本件考案に係る分割出願(本件出願)がされた(実願平6-5675号)。
平成8年2月21日,本件考案に係る出願公告がされた(実公平8-5827号)。その「実用新案登録請求の範囲」は,前記争いのない事実1(1)カ記載のとおりである。
b 上記出願公告後,実用新案登録異議申立がされ,平成9年12月25日,同申立について「異議理由あり」とする異議決定がされ,同日,本件出願に対する拒絶査定がされた。次いで,この拒絶査定に対する不服の審判が請求され(審判平10-2419号),平成11年10月14日付けで,本件出願に対する拒絶理由通知がされた。同通知の中で,拒絶理由の1つとして,本件考案の実用新案登録請求の範囲の「該指示部は,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」が,いかなる構成を意味するのか不明瞭であり,実用新案法第5条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないことが指摘された。
c 本件考案の出願人である原告他2名は,平成11年10月28日,上記拒絶理由通知に対する手続補正書及び意見書を提出した。
上記意見書には,「『カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる』の文言中の『内方向』の意は,図1に示すような平面図におけるカード本体の内方向,つまり平面的なカードの中心方向を意味する場合と,テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合とが考えられます。このため,上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合を明瞭にするために手続補正書で図2及び図3を補充し,平面的なカードの中心方向を意味する場合を明瞭にするために図4乃至図6を補充致しました。」との記載がある。
また,手続補正書において,図面につき図3ないし図6を追加し,指示部として「穴」(図3),「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4),「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し,考案の詳細な説明につき,段落【0007】の【問題点を解決するための手段】欄,段落【0008】の【作用】欄,段落【0014】の【考案の効果】欄に各記載の「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をした。なお,「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)の例は,平成11年12月6日付手続補正書で削除された。
d 上記各手続補正に対して,特許庁は,平成12年1月26日付けで,補正の却下の決定をし,その理由として,本件考案における「押形部」は「材料に押し型によって圧力を加えて成形した形状部」を意味し,「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる指示部」の形状に穴形状及び切欠形状を含むものとする補正は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものであるから許されない旨を指摘した。
e 特許庁は,同日,拒絶査定に対する不服の審判事件について「原査定を取り消す。本願の考案は,実用新案登録すべきものとする。」との審決をした。
イ 「該指示部」の意義についての判断 (ア) 結論 上記認定した本件原出願及び本件出願の経緯に照らすと,本件考案の構成要件Cにおける「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ「該指示部」の意義は,「テレホンカードを側面からみて上下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼんだ形状を有する指示部」に限定され,「カードを平面方向からみて中心方向にくぼんだ形状を形成した切欠部」や「カード本体に貫通して形成した穴部」を含まないものと解する。
(イ) 理由 a 本件考案は,本件原出願に係る当初明細書及び図面補正され,出願公告がされた後に,本件原出願から分割出願されたものである。このように本件原出願に係る当初明細書又は図面分割出願前に補正され,出願公告されている場合には,分割出願に係る考案は,本件原出願に係る当初明細書又は図面及び補正後の公告明細書又は図面の双方に記載されている考案であることを要するものというべきである。したがって,分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」を確定する場合においても,原出願の過程を考慮して解釈すべきことは当然である。特に,原出願に係る当初明細書及び図面から,出願人が,補正によって,意識的に,一部を削除した場合には,分割出願に当たって,既に削除した事項に含まれる考案を拡張することは許されないので,分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」の確定に当たっても,右の趣旨に沿った解釈をすべきことになる。
b 原考案の当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄には,「切欠部,穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され,「考案の詳細な説明」欄には,実施例として,切欠部のある例が第1図に,穴部のある例が第2図に,押形部のある例が第3図に,それぞれ示されていた。ところが,本件原出願の出願人は,引用例を指摘した拒絶理由通知を受け,拒絶理由を回避するために,明細書の全文を訂正し,「実用新案請求の請求の範囲」欄から,「切欠部」「穴部」の記載を削除して,「押形部」の記載のみを残し,「考案の詳細な説明」欄から第1図,第2図及びそれらに関する一切の記載を削除し,第3図に関する記載のみを残した。そして,本件原出願は,上記補正がされたことにより,上記実用新案登録請求の範囲の記載のとおり,実用新案登録出願公告がされた。
上記出願経過によれば,「切欠部,穴部からなる表裏並びに差込方向の指示部」は,原考案の出願公告前に補正により削除されたものであり,前記判示のとおり,出願公告後の本件出願に当たって,一旦削除した事項を拡張することは許されない以上,本件考案に係る「実用新案登録請求の範囲」も,上記の趣旨に沿って,上記削除した事項を除外して解釈すべきことになる。そうすると,本件考案の構成要件Cにおける「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ「該指示部」には,「切欠部」及び「穴部」を含む余地はない。
c なお,前記認定のとおり,原告を含む本件出願の出願人は,平成11年10月28日付けの手続補正書において,図面の図3〜図6を追加して,指示部として「穴」(図3),「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4),「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し,「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をしたところ,当該手続補正は,平成12年1月26日付の補正の却下の決定により,「実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものである。」として却下されているが,この却下決定の趣旨も,前記解釈と合致するものといえる。
(2) 被告物件との対比 被告物件は,表裏ともに一様に平坦で,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,1つあるいは2つの半月状の「切り込み」を備えているテレホンカードであるところ(争いがない),この「切り込み」は,カード本体から辺の一部が切り離されたことにより,カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成される形状を有している(甲4,弁論の全趣旨)。
他方,前記のとおり,本件考案の構成要件Cにおける「該指示部」は,「テレホンカードを側面から見て上下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼんだ形状を有する指示部」を指し,カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成される被告物件の「切り込み」に相当する切欠部を設けるものを含まない。
したがって,被告物件は,本件考案の構成要件Cを充足しない。 2 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。よって主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 大寄麻代