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関連審決 無効2001-35107
関連ワード 考案 /  組合せ /  設定登録 /  きわめて容易 /  容易に想到 /  特定 /  明細書 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 146号 審決取消請求事件
原告 株式会社富士通ゼネラル
訴訟代理人弁護士 小岩井 雅行
同 弁理士 大原拓也
同 熊谷浩明
被告 三洋電機株式会社
訴訟代理人弁護士 野上 邦五郎
同 冨永博之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2001−35107号事件について平成14年2月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,下記ア記載の実用新案登録(以下「本件実用新案登録」といい,その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者,原告は,本件実用新案登録の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 実用新案登録第2067710号「空気調和機の制御装置」 実用新案登録出願 昭和60年9月25日 設定登録 平成7年7月6日 イ 平成13年3月16日 無効審判請求(無効2001-35107号) 平成14年2月13日 無効審判請求を不成立とする旨の審決 同 年2月25日 原告への審決謄本送達 2 本件考案の要旨 冷房運転または暖房運転が行えると共に,運転開始時に前記冷房運転または前記暖房運転を自動的に選択し,運転開始時の室温に基づいて設定温度を自動的に設定する自動運転が行え,この自動運転と,前記冷房運転と,前記暖房運転とから所望の運転を選択できるように成した空気調和機において,この空気調和機の制御装置には自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を上げる単一のUPスイッチと,自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を下げる単一のDOWNスイッチとを備えたことを特徴とする空気調和機の制御装置。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件考案が,昭和58年9月被告作成の「暖冷兼用エアコン総合カタログ ’83・9 ASB-0603」(審判・本訴とも甲1),電波新聞社発行の昭和60年9月6日付け電波新聞中の「三洋,61年度向け第一弾」と題する冷暖房エアコンの紹介記事(審判・本訴とも甲2)記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたとはいえず,請求人(原告)の主張及び証拠方法によっては,本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,甲2記載の考案の認定を誤った結果,本件考案と甲1記載の考案の相違点についての判断を誤った(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,本件考案と甲1記載の考案との相違点として,本件考案は,「自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を上げる単一のUPスイッチと,自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を下げる単一のDOWNスイッチとを備えた」のに対し,甲1記載の考案は,「冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を上げる単一のUPスイッチと,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を下げる単一のDOWNスイッチ」である点を認定(審決謄本4頁【相違点】欄)の上,当該相違点について,甲2には,@ その記載の「一発指令の自動運転」の制御内容,A「一発指令設定温度」の具体的内容,B 設定温度の調整・操作方法等が明らかにされていないとして,上記相違点に係る本件考案の構成を甲2の記載から当業者がきわめて容易に想到し得たものとはいえないと判断する(同5頁第7段落以下)が,誤りである。
(2) 甲2記載の考案に係る審決の上記@〜Bの認定には,以下の誤りがある。
ア 審決は,甲2に記載された「一発指令の自動運転」の制御内容に関し(上記(1)@参照),「どのような制御をするものか記載されておらず,本件考案のように,自動運転スイッチを押すだけで,『運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時の室温に基づいて設定温度を自動的に設定する』制御を行うものなのか明らかでない」(決定謄本5頁第7段落)と認定するが,甲1において,「一発指令の自動運転」という用語は,ボタンを押すだけで,インバータエアコンが自動運転するとの意味で使用され,本件出願前に公知の被告作成に係るエアコンのカタログ(甲6〜8)においても,これと同じ意味で使用されている。しかも,甲2には,「一発指令の自動運転」に関し,「操作は運転ボタンを押すだけで運転モードの選択から温度,風速までマイコンが選んでムダのない快適な運転を自動的に行う」(本文3段目)と記載されているから,甲2に記載された「一発指令の自動運転」が,上記各カタログで用いた意味と同じ意味に使用されていることは明らかである。なお,「自動運転」が,「運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時に室温に基づいて設定温度を自動的に設定する」制御を行うことであることは,当業者にとって常識であり周知の事項である。したがって,甲2に記載された「一発指令の自動運転」とは,本件考案と同様,自動運転スイッチを押すだけで,「運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時に室温に基づいて設定温度を自動的に設定する」制御を行うものであることは当業者にとって明らかである。
イ また,審決は,甲2に記載された「一発指令設定温度」の具体的内容に関し(上記(1)A参照),「『一発指令設定温度に対してプラスマイナス2℃の範囲で調整できる』との記載があるものの,『一発指令設定温度』がどのようなものなのか記載されておらず,本件考案のように,『運転開始時の室温に基づいて設定温度を自動的に設定する』ものなのか明らかでない」(審決謄本5頁第8段落)と認定するが,「一発指令」という言葉は,運転開始時に,冷房,冷房・除湿,暖房運転の各モードや,温度,風速等が自動的に設定されることを意味するのであるから,これを考慮すれば,甲2記載の「一発指令設定温度」とは,運転ボタンを押して運転が開始された時点でコンピュータに自動的に設定された温度を指すことは明らかである。
ウ さらに,審決は,甲2に記載されたエアコンの設定温度の調整・操作方法等に関し(上記(1)B参照),「暖房運転,冷房運転の設定温度を手動で設定できるのかどうか記載されておらず,また,設定温度をどのようなスイッチで操作するか示されておらず,冷房運転,暖房運転の温度設定スイッチと自動運転の温度設定スイッチを共通化することも示されていない」(審決謄本5頁第9段落)と認定するが,甲2に記載されたインバータエアコンは,機種名が「SAP-KV23G1」とされており,甲1に記載されたインバータエアコンである「SAP-KV」シリーズの後継機種であると推定されるから,当業者から見れば,甲1に記載されたインバータエアコンと同様,暖房運転,冷房運転の設定温度を手動で設定できるとともに,リモコンに設けられた温度設定ボタン(UP/DOWNスイッチ)により設定温度を変更できるであろうと考えるのは当然である。
(3) 上記のとおり,甲2に記載された「一発指令設定温度」とは,運転開始時の室温に基づいて自動的に設定される温度であることは明らかであるから,甲2の「一発指令設定温度に対してプラスマイナス二度Cの範囲で調整できる」との記載は,自動運転モードの場合に,上記設定温度を,プラスマイナス2℃の範囲で調整できる機能を有することを示すものである。他方,甲1に記載されたインバータエアコンは,冷房運転,暖房運転及び自動運転の各モードを有し,冷房運転,暖房運転のモード時において,温度の上昇ないし下降の設定指示は,赤外線によって本体に制御信号を送信するリモコンの温度設定ボタン(UP/DOWNスイッチ)で行っている。そして,自動運転のモードは,あくまで冷房運転,暖房運転のモードを自動的に切り替えているにすぎないのであるから,リモコンのUP/DOWNスイッチを押せば,自動運転モード時においても,設定温度の変更が生ずるはずであるところ,甲1のインバータエアコンでは,自動運転モードのときは,本体のマイクロコンピュータのソフトウェアにより,リモコンのUP/DOWN信号を無視するように指示するものであり,そのため温度の設定が変化しないのである。したがって,甲1のインバータエアコンにおいて,ハードウェア的には,冷房運転,暖房運転又は自動運転の際の温度設定を上げる単一のUPスイッチと,冷房運転,暖房運転又は自動運転の際の温度設定を下げる単一のDOWNスイッチとを備えているから,自動運転のモード時に何らかの形で温度設定を変更しようとする場合は,UP/DOWNスイッチにより,温度設定の変更を行うのは当然のことである。すなわち,甲1記載のインバータリモコンは,ハードウェア的には,冷房運転,暖房運転の温度設定スイッチと自動運転の温度設定スイッチを共通化されているのであるから,当業者が甲2の記載を見て,自動運転時においても設定温度を変更しようと考える場合,甲1のインバータエアコンの本体側のソフトウェアを変更すれば,自動運転時においても設定温度を変更できることが理解できる。そして,このようなソフトウエアの変更を行うことで,前記相違点に係る構成である「この空気調和機の制御装置には自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を上げる単一のUPスイッチと,自動運転の際の温度設定値,冷房運転または暖房運転の際の温度設定値を下げる単一のDOWNスイッチとを備えた」ものとすることができる。
以上のとおり,甲1,2記載の各考案を組み合わせて,本件考案に至ることは,当業者のきわめて容易に推考できたことである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,甲2記載のエアコンが甲1記載のエアコンの後継機種であることを理由に,甲2のリモコンにも,甲1のものと同様の温度設定ボタンが付いていると主張するが,甲2記載のエアコンの機種名は「SAP-KV23G1」であり,甲1記載エアコンの機種名は「SAP-KV23B1」であるから,明らかに別の機種であり,しかもその記載に係るエアコンの外観は,下部の吹出部,表示部及びリモコンにおいて大きく相違しており,両者が同一の構成であると認める根拠はない。また,甲2には「一発指令設定温度に対してプラスマイナス二度Cの範囲で調整できる“お好み温度メモリー”」との記載があるだけであるから,甲1のものと甲2のものを組み合わせても,自動運転の設定温度をプラスマイナス2℃の範囲で調整するのは「お好み温度メモリー」ということになる。ところが,この「お好み温度メモリー」がどのようなものか,その内容が全く明らかにされていないのであるから,その操作方法も不明といわざるを得ない。
(2) また,甲2には,冷房運転,暖房運転の温度設定スイッチと自動運転の温度調整スイッチを共通化することが示されていない。すなわち,甲2に記載されている「お好み温度メモリー」がどのようなものか全く分からない以上,その調整スイッチと,甲1のリモコンに付いている冷暖房運転時の「設定温度UP,DOWNスイッチ」のように具体的に特定されているものとを一緒にして共通化するなどということはあり得ず,このようなことを当業者がきわめて容易に推考し得たとは到底考えられない。なお,甲1のリモコンの設定温度スイッチは,冷房運転,暖房運転の際に設定温度を決めるものであり,具体的には,暖房時16〜26℃,冷房時21〜31℃の範囲でセットするものである(4枚目右欄左下の「コンピューター・一発指令」の図の下の青文字表記)から,暖冷房時において設定温度帯が異なり,その設定温度の範囲はプラスマイナス15℃くらいの大きいものである。これに対して,甲2に記載されているものは,プラスマイナス2℃の範囲で設定温度を微調整するものであり,その機能が異なるから,これらのものを一緒にして共通化することは通常考え難い。
(3) さらに,本件考案は,空気調和機の自動運転の際の温度設定値を上下させるUP/DOWNスイッチと,冷房運転又は暖房運転の際の温度設定値を上下させるスイッチとを単一のスイッチとすることにより,本件明細書(甲14)にあるとおり,「UPスイッチ,DOWNスイッチは自動運転時と冷房運転時や暖房運転時とでスイッチの共通化が図られており,自動運転,冷房運転,暖房運転によらず利用者が好みに応じて設定温度を上下させたいと思ったときにはこのUPスイッチ,DOWNスイッチを操作すればよく,温度設定に関して操作の一貫性が保たれ,空気調和機の操作を熟知していない利用者や初めての利用者でも容易に最適な温度設定が行なえる」(6欄10行目以下)という格別の作用効果を奏するものである。
(4) 原告は,甲1記載のインバータエアコンは,ハードウェア的には,冷房運転,暖房運転の温度設定スイッチと自動運転の温度設定スイッチが共有化されているのであるから,本体側のソフトウェアを変更することで,相違点に係る本件考案の構成を得ることができると主張するが,甲1には,原告の当該主張を根拠付ける記載はないし,仮に,甲1のエアコンの構成が原告の主張するとおりであるとしても,本件考案の容易想到性を基礎付けるものではない。すなわち,甲1のものは,冷房運転,暖房運転では,「温度設定スイッチ」で温度設定されるものであり,自動運転の場合には「温度設定」をする必要がない以上,ハードウェア的に「温度設定スイッチ」が作動するとしても,本体のソフトウェアによって,当該設定温度は無視されることとなる。これに対し,甲2のものは自動運転時には温度設定は自動的にされて,その設定された温度を「調整する」というものである。そして,その調整手段として「お好み温度メモリー」が用いられていると記載されており,温度調整を「温度設定スイッチ」で行うという記載は一切なく,冷房運転,暖房運転の設定温度を上下させることの記載もないのであるから,甲2の「お好み温度メモリー」が「温度設定スイッチ」であると考えることがきわめて容易であるとはいえない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 甲2記載の考案の認定について 原告は,甲2には,@「一発指令の自動運転」の制御内容,A「一発指令設定温度」の具体的内容,B 設定温度の調整・操作方法等が明らかにされていないとした審決の認定の誤りを主張するので,順次検討する。
ア 甲2には,「三洋電機は五日,新製品六機種を中心に合計十一機種の六十一年度向け冷暖房エアコンを今月下旬から順次発売すると発表した。・・・インバーターエアコンの新機種『リニアインバーター』=SAP-KV23GI(二十八万九千円)は誰でも使える簡単操作,健康への配慮,経済性などをポイントに開発した“やさしいエアコン”で,一発指令の自動運転,温度センサーリモコン,お好み温度メモリーなど多彩な機能を装備している。・・・操作は運転ボタンを押すだけで運転モードの選択から温度,風速までマイコンが選んでムダのない快適な運転を自動的に行う。・・・一発指令設定温度に対してプラスマイナス二度Cの範囲で調整できる“お好み温度メモリー”や,生活に合わせて使いわけられる『入』『切』同時セット可能な十二時間タイマー,パワーの上限を二〇・十七・十五Aに切替えられる“パワーセレクトスイッチ”などを装備している」(下線は本判決による注記である。)との記載が認められる。
イ まず,上記記載にある「一発指令の自動運転」及び「一発指令設定温度」の意義について検討するに,「操作は運転ボタンを押すだけで運転モードの選択から温度,風速までマイコンが選んでムダのない快適な運転を自動的に行う」との記載部分が,「一発指令の自動運転」に対応した説明であると理解されるから,当該記載自体から見ても,「一発指令の自動運転」が,運転ボタンを押すだけで,運転モードの選択(冷房運転か暖房運転かなどの選択)や温度設定を自動的に制御するものであることは,当然に理解,把握し得るものというべきである。そして,このような制御を行うものにおいて,当該設定温度を運転開始時の室内温度に基づいて定めることは,本件出願前に当業者において周知の技術事項にすぎなかったというべきであり,このことは,本件明細書(甲14)の「従来の技術」欄の「一般に,室温の自動設定機能を有する空気調和機としては,特公昭60-3135号公報に記載されているようなものがあった。この公報には,室内温度を検出する室温検出手段と,運転開始時にこの室温検出手段から出力される室温信号で運転設定温度を自動的に変える温度設定手段を備えたものが記載されており,空気調和機の運転開始時の室内温度に基づいて,運転設定温度を定めて運転を開始することができ,温度設定のわずらわしさがなくなるものであった」(2欄)との記載に徴して明らかである。
加えて,甲1には,(a)「コンピューター・一発指令の自動運転だから,操作は『ボタン』をポン!と押すだけ。春夏秋冬,『運転ボタン』を押すだけで,お部屋の寒さ暑さの違いをセンサーがすばやくキャッチ。コンピューターが身体にやさしい健康的な『適温』・・・を選んで,キメ細かく自動運転します。『暖房』『冷房』『冷房・除湿』の運転コースの選定,その日に合わせた『温度』『湿度』『風速』の調節といった面倒な操作は,すべてコンピューターまかせ。あなたは運転ボタンを押すだけです。もちろん,あなたの好みに合わせた暖房・冷房・の切り替えや,温度,風速の設定もできます」(4頁左下)との記載,(b)「コンピューター・一発指令」の制御の図解(同頁左下)において,おおむね,運転開始時の室温が21℃以上のときには冷房コースが選択され,その時の室温が31℃以上であれば適温が28℃,室温が29〜31℃未満であれば適温が27℃,室温が27〜29℃未満であれば適温が26℃にそれぞれ設定されて自動運転が行なわれること,運転開始時の室温が21℃未満のときには暖房コースが選択され,その時の室温が15〜21℃未満であれば適温が22℃,室温が15℃未満であれば適温が20℃にそれぞれ設定されて自動運転が行われるという内容が示されていること,(c) 同図下の「温度調節を『手動』で行う場合,暖房時16〜26℃,冷房時21〜31℃の範囲でセットできます」との記載,(d) 3頁下部のエアコン用リモコンの外観斜視図において,「運転/停止」,「自動入・切」,「温度設定」等の各種スイッチ(ボタン)が備えられており,このうち温度設定スイッチは,温度設定値を上げるためのものであることが明らかな三角形のボタン(UPスイッチ)と,温度設定値を下げるためのものであることが明らかな逆三角形のボタン(DOWNスイッチ)との二つだけであることが図示されていることが認められ,被告作成のエアコンカタログ等(甲6〜8,17,いずれも本件出願前の発行に係るもの。)にもこれと同趣旨の記載及び図示がある。
以上を総合すれば,被告製のエアコンにおいて,「一発指令の自動運転」の用語は,自動運転スイッチを押すだけで,「運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時に室温に基づいて設定温度を自動的に設定する」制御を行うことを意味するものと理解することができる。そして,甲2の新聞記事の記載上も,これと別異に解すべき根拠がないばかりか,明らかにこれに沿う内容の明示の説明記載も認められることは上記のとおりである。また,甲2に記載されている「一発指令設定温度」の用語が,上記「一発指令の自動運転」を受けていることは明らかであるから,文字どおり,「一発指令の自動運転」に係る「設定温度」,すなわち,「運転開始時の室温に基づいて設定温度を自動的に設定」した当該設定温度を意味することは明らかというべきである。
以上のとおり,甲2に記載された「一発指令の自動運転」の制御内容及び「一発指令設定温度」の具体的内容は,当業者の理解,把握し得るものというべきであるから,これが明らかでないとした審決の認定は誤りである。
ウ 進んで,甲2のエアコンの設定温度の調整・操作方法等に係る開示について検討するに,「一発指令設定温度に対してプラスマイナス二度Cの範囲で調整できる“お好み温度メモリー”・・・を装備している」との上記記載に照らせば,甲2に記載されたエアコンは,自動運転の際の温度設定値をプラスマイナス2℃の範囲で調整できるものにほかならず,そうであれば,その調整を行うための何らかの操作手段を当然備えているものと認められる。被告は,その調整手段として「お好み温度メモリー」が用いられると主張するが,昭和57年9月10日技術評論社発行「最新機電用語辞典」(甲16)に「メモリ」は「記憶装置」と同義であり(422頁),「記憶装置」の語義として「コンピュータの構成部分のひとつ,プログラムの実行に直接利用される内部記憶装置と,大容量の情報をためて必要な時に取出すことができるようにした外部記憶装置とがある」(96頁)とあるとおり,「メモリー」の用語が,一般に記憶装置を意味するものであって,操作手段を意味するものでないことは明らかであるから,調整の対象となる「お好み温度メモリー」を操作する手段が別途装備されているものと認められることは上記のとおりである。
もっとも,甲2には,その操作手段がどのようなものであるかを特定するだけの記載はなく,甲1記載の考案のUP/DOWNスイッチとの共通化についても明らかにされていないことは,被告の主張するとおりである。そこで,以下,甲2に開示されている考案が上記の限度であることを前提に,本件考案の容易想到性について検討する。
(2) 甲1,2記載の考案に基づく容易想到性について ア 甲1には,審決の認定する(審決謄本4頁第3段落)とおり,「冷房運転または暖房運転が行えると共に,運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時の室温に基づいて設定温度を自動的に設定する自動運転が行え,この自動運転と,前記冷房運転と,前記暖房運転とから所望の運転を選択できるように成したエアコンにおいて,このエアコンの制御装置には,冷房運転または暖房運転の際の温度設定を上げる単一のスイッチと,冷房運転または暖房運転の際の温度設定を下げる単一のスイッチとを備えたことを特徴とするエアコンの制御装置。」が記載されているものと認められ,このこと自体,当事者双方とも,その主張の前提とするところである。
他方,甲2には,自動運転スイッチを押すだけで,「運転開始時に前記冷房運転または暖房運転を自動的に選択し,運転開始時に室温に基づいて設定温度を自動的に設定する」制御を行うとともに,自動運転の際の温度設定値を調整するための操作手段を備えたエアコンが実質的に記載されていると認められることは,上記のとおりである。
イ 甲1,2記載の各考案は,ともに冷暖房運転の可能なインバータエアコンという同一の技術分野に属するばかりでなく,甲1,2の記載から明らかなとおり,自動運転機能を備えること,リモコン操作を想定していること,主として個人消費者をユーザとして想定していることなどの特徴に至るまで共通にするものであるから,その組合せを阻害するような要因は見当たらない。そこで,甲2に記載された上記構成を甲1記載の考案に適用しようとした場合,自動運転の際の設定温度を調整するための操作手段と,甲1記載の発明が備えている「冷房運転または暖房運転の際の温度設定を上げる単一のスイッチ」及び「冷房運転または暖房運転の際の温度設定を下げる単一のスイッチ」との関係がどのようになるか,一義的に明らかであるとはいえないものの,一般に,温度設定値の調整のための操作手段として,温度設定値を上げるUPスイッチと温度を下げるDOWNスイッチを用いること及びこのようなUP/DOWNスイッチを各種の運転モードにおいて共通化することは,本件出願前において当業者に周知の慣用手段にすぎないことは明らかである。このことは,例えば,「暖房時16〜26℃,冷房時21〜31℃」の範囲の温度設定値を想定している甲1記載の考案(上記(1)イ(c)の記載参照)において,その温度設定値の1℃ごとに対応した16個の指定温度ボタンを並べることなく,UP/DOWNスイッチで操作する構成としていること,当該UP/DOWNスイッチは,冷房運転時と暖房運転時とで温度設定値の範囲が異なるにもかかわらず,両者の運転モードに共通して使用するものとして共通化されていることにも示されているとおりであるし,また,通常大きさの制約を受けざるを得ないリモコンにおいて,その操作上の使い勝手の良さが自明の技術的課題であることからすれば,当業者が当然にその採用を考慮すべき自明の事項であるということもできる。
ウ 以上の認定判断を総合すれば,自動運転の際の温度設定値を調整するための操作手段を備える甲2記載の考案を甲1記載の考案と組み合わせるに当たり,当業者に自明の上記事項を考慮して,自動運転の際の温度設定値を調整するための操作手段を「UP/DOWNスイッチ」とするとともに,当該「UP/DOWNスイッチ」を,甲1記載の考案が備えている「冷房運転または暖房運転の際の温度設定を上げる単一のスイッチ」(UPスイッチ)及び「冷房運転または暖房運転の際の温度設定を下げる単一のスイッチ」(DOWNスイッチ)と共通化して,単一のUPスイッチ及び単一のDOWNスイッチを備えるように構成することに格別の困難性は認められず,当業者のきわめて容易に想到し得たことというべきである。
被告は,甲1記載の考案における冷房運転,暖房運転時における設定温度の決定と,甲2記載の考案における自動運転時の設定温度の微調整とは機能が異なる旨主張するが,自動運転であっても,冷房運転又は暖房運転が行われていることに変わりはないのであるから,それぞれの温度設定値の変更ないし調整が,技術的に全く異なる機能であるとはいえず,温度調整の範囲の幅に違いはあるとしても,上記認定判断を左右するものではない。
また,被告は,本件考案の格別の作用効果を主張するが,前述のとおり,温度設定値の調整のための操作手段として,温度設定値を上げるUPスイッチと温度を下げるDOWNスイッチを用いること及びこのようなUP/DOWNスイッチを各種の運転モードにおいて共通化することが,当業者に周知の事項にすぎない以上,これら周知技術及び甲2の記載に基づいて,当業者の当然に予想し得る効果にすぎないというべきである。その他被告の主張するところは,上記認定判断に照らして採用することができない。
(3) したがって,審決は,甲2記載の考案の認定を誤るとともに,この誤りに起因して,本件考案の容易想到性に係る判断を誤ったというべきである。
2 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由があり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利
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