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関連審決 審判1999-35705
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  補正 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  公然実施 /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 86号 審決取消請求事件
原告 ヤマトプロテック株式会社
訴訟代理人弁護士 上原健嗣,上原理子,弁理士 鈴江孝一,鈴江正二
被告 株式会社初田製作所
訴訟代理人弁護士 和田 徹,弁理士 清原義博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が平成11年審判第35705号事件について平成13年1月18日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記本件考案の実用新案権者である原告が,被告の請求した無効審判請求事件において特許庁が本件実用新案登録を無効とする審決をしたため,その取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件考案 実用新案権者 ヤマトプロテック株式会社(原告) 考案の名称 「消火設備の側壁型泡ヘッド」 出願日 平成4年11月9日(実願平4-77074) 設定登録日 平成10年7月10日 実用新案登録番号 第2149865号 (1-2) 本件手続 無効審判請求日 平成11年11月30日(平成11年審判第35705号) 審決日 平成13年1月18日 審決の結論 「登録第2149865号の実用新案登録を無効とする。」 審決謄本送達日 平成13年2月5日(原告に対し) (2) 本件考案の要旨(平成8年10月28日提出の手続補正書(甲3)による補正後の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に係るもの)「消火液を噴射するノズル部を備えたヘッド本体に背壁面が垂設され,上記ノズル部より噴射された消火液が上記背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターの上面に衝突して上記背壁面の前方半周域に放射されるように構成された消火設備の側壁型泡ヘッドにおいて,上記デフレクターに上記ノズル部より噴射された消火液を下方に向けて通過させる複数のスリットがそれらの先端を上記デフレクターの外周縁部に開放させる状態に形成されていると共に,このデフレクターの上面を上記ノズル部の直下位置から外端部に向けて上記ノズル部の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように,水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成していることを特徴とする消火設備の側壁型泡ヘッド。」 (3) 審決の理由 本件審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。要するに,本件実用新案登録に係る考案は,その出願前に日本国内において公然実施をされた考案(被告が昭和50年10月に認定番号を取得した型式HFH-75とするフォームヘッド),及びその出願前に日本国内において頒布された刊行物(平成4年7月20日に頒布された実願平2-128261号(実開平4-83264号)のマイクロフィルム,審判甲8,本訴甲4-7)に記載された考案に基づいて,当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるので,本件登録は,実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであるから,同法37条1項1号(平成5年法律第26号によって改正される前)の規定に該当し,無効とすべきものである,というものである。 2 争点(審決取消事由) a 本件考案と本件出願前に公然実施された考案(被告が昭和50年10月に認定番号を取得した型式HFH-75とするフォームヘッドに係る考案,以下「HFH-75」という。)との一致点の認定の誤り b 審決が認定した相違点に関する判断の誤り (1) 原告の主張の要点 (1-1) 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1-1-1) 審決は,本件考案とHFH-75との一致点につき,「消火液を噴射するノズル部を備えたヘッド本体と,上記ノズル部より噴射された消火液が板状のデフレクターの上面に衝突して放射されるように構成された消火設備の泡ヘッドにおいて,上記デフレクターに上記ノズル部より噴射された消火液を下方に向けて通過させる複数のスリットがそれらの先端を上記デフレクターの外周縁部に開放させる状態に形成されていると共に,このデフレクターの上面を上記ノズル部の直下位置から外端部に向けて上記ノズル部の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように,水平面に対して所定の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成している消火設備の泡ヘッドで一致し,」と認定した。
しかし,HFH-75は,ジェッターを噴出した原液(消火液)が,胴体の上部の空気孔より吸い込んだ空気と混合して,コーンにより胴体本体内で発泡し,その発泡した泡が胴体下端部及びコーンで構成される間隙から噴射されるのであり,また,発泡された泡が上記間隙からデフレクターに噴射される。したがって,HFH-75は,本件考案のように,ノズル部から消火液が噴射されるものではなく,また,消火液がノズル部からデフレクターに噴射されるものでもない。
よって,審決が,「消火液を噴射するノズル部を備えた」(この部分を受けた「上記ノズル部の直下位置から外端部に向けて上記ノズル部の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように,水平面に対して所定の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成している」との記載も同じ。)との点,「ノズル部より噴射された消火液が板状のデフレクターの上面に衝突」との点,及び「消火液を下方に向けて通過させる複数のスリット」との点で,両者が一致すると認定したことは誤りである。
(1-1-2) HFH-75に関する「フォームヘッドの明細書」(甲4-4,以下「HFH-75明細書」という。)においては,「発泡および放射機構の簡略な説明」として,「ジェッターを噴出した原液は空気孔より吸込んだ空気と混合し,コーンにより本体内で攪拌され発泡する。発泡した泡はデフレクターにより拡散放射される。さらにこの時第2の空気孔より吸込まれた空気と混合しデフレクター網により発泡が促進される。」との記載がある。
HFH-75の型式認定申請書(乙1-1〜6)及び型式変更認定申請書(乙2-1〜10)に記載された事項及び寸法によれば,HFH-75の泡を噴射する間隙(胴体下端部及びコーンで構成される)の開口面積は,消火液(原液)を噴射するノズル部(ジェッターに形成される)の開口面積の約4倍となっている。したがって,HFH-75は,ノズル部から噴出した消火液を胴体内で空気と混合攪拌して約4倍に発泡し,その発泡させた泡を上記間隙から噴射させて板状のデフレクターの上面に衝突させる構成としているもので,本件考案のように,ノズル部から噴射させた消火液を板状のデフレクターの上面に衝突させる構成にしているものではない。
なお,HFH-75の「胴体下端部及びコーンで構成される間隙」は,胴体内で発泡した泡を放出するための環状の開放口であり,消火液(原液)を噴出するノズル部ではない。HFH-75において本件考案のノズル部に相当する構成は,ジェッターであって上記間隙ではない。
(1-1-3) 消火設備の分野においては,「消防設備がマスターできる消防設備アタック講座〔下巻〕」(高木任之著,昭和61年12月20日,全国加除法令出版株式会社発行,甲11)及び「改訂消防用設備のしくみとはたらき(消火設備編)」(平成12年3月,財団法人消防科学総合センター発行,甲12)に示されるように,「泡」といえば空気を吸引して泡水溶液を混合攪拌し発泡(泡化)させたものをいい,「・・液」といえば発泡させる前の泡水溶液のことをいうのであって(甲11,12では「泡水溶液」,本件考案では「消火液」といっている。),これらの用語は,明確に区別して使用されている。発泡(泡化)したものを「・・液」ということはないし,空気を吸引し混合攪拌して泡化したものを「・・液」ということもない。
本件考案請求項1記載の「消火液」も,当然,発泡(泡化)させる前の液状態の消火液のことを意味するものであり,当該分野の当業者もそのように理解するのであり,空気を吸引し混合攪拌して発泡(泡化)させたものを含むと解釈される余地は当該分野においては全くない。本件考案明細書(甲2,3)における発明の詳細な説明欄においても,「消火液」と「消火泡」はきちんと区別して記載している。
側壁型泡ヘッドにおいてノズル部から噴出される消火液は,泡水溶液であり,被告(甲4-7,13の記載)も他の当業者もすべてその認識であり,泡状のものを含む液の概念ではない。
なお,特開2001-46543号公報(乙3)では,メインスクリーン5を通過した第1段階の発泡を「泡状消火液B」と記載しているが,これは第1段階の発泡を単に「消火液」と記載したのでは当業者に「液体そのもの」と認識されてしまい,単に「発泡」と記載したのでは第2段階の発泡と表現的に区別できないから,発泡途上にあることを考慮し,「泡状消火液B」という新たな造語を記載したにすぎない。また,特許第3073918号公報(乙4)には,「消火液を泡にして放射するためのネット4」と記載しているにもかかわらず,ネット4から放射された後のものを依然として「消火液の放射,消火液がとどく」と記載している。しかし,本来,後者は,「消火液を泡にした放射,消火液を泡にしたものがとどく」と記載すべきところ,正確さを欠いて記載したものにすぎない。よって,これらの記載をもって消火液の概念を解釈することは失当である。
(1-1-4) 原告は,被告の製造販売に係る全域型泡ヘッドHFH-35N(型式認定日は昭和56年7月29日,HFH-75と同一構造を有する。)と,被告の製造販売に係る側壁型泡ヘッドHFH-20Pを使用して試験を行った。その結果,「試験報告書」(甲20)のとおり,側壁型泡ヘッドHFH-20Pの場合は,泡ヘッド本体の噴出口(ノズル)からデフレクターに向けて噴射されるものは,「液(泡水溶液)の状態」であるのに対し,全域型泡ヘッドHFH-35Nの場合は,泡ヘッド本体の噴出口(胴体下端部及びコーンで構成される隙間)からデフレクターに向けて噴射されるものは,「全体的に泡の状態」であることが確認され,両者に相違があることが明らかになった。
(1-2) 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1-2-1) 審決は,本件考案とHFH-75の相違点2として,「前者(注:本件考案)のデフレクターの上面は,水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されているのに対して,後者(注:HFH-75)が,水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されている点。」と認定した。審決は,その上で,相違点2についての検討として,「前者の『5〜15°』について,格別の臨界的効果が存在することを示す証拠は認められない。そうしてみると,前者の『水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ』ことと,後者の『水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ』こととに格別の差異があるとは認められない。」と判断した。しかし,この相違点の判断は,誤りである。
(1-2-2) 格別顕著な臨界的効果については,本件考案明細書(甲3)の段落【0023】に記載しているが,これを具体的に示すと,財団法人日本消防設備安全センターの試験基準に準拠して行った原告の実験報告書(甲10)のとおりである。すなわち,本件考案のように,デフレクターの上面をノズル部の直下位置から水平面に対して5°以上の上り傾斜面に形成すれば,側壁型泡ヘッドの放射位置から車両天井面の中心まで消火泡を確実にゆきわたらせることができ,一方,傾斜角度を20°とすると,車両天井面の中心での消火泡の量が減少に転じる傾向になり,20°以上とすると,消火泡が上方に上がり過ぎて天井に多量にぶつかることになり,予定どおりの放射ができないのである。
本件考案は,「側壁型泡ヘッドのノズル部の直下位置からデフレクターの上面を5〜15°の上り傾斜面に形成」することで,はじめて,火災対象物である車両天井面や床面の全体に消火泡を予定どおり安全確実に到達させ,確実にゆきわたらせることが可能となったものであり,格別の臨界的効果を有するものである。審決はこの点を誤認したまま本件考案を無効としたものである。
(1-2-3) 傾斜角度の格別の差異の点については,本件考案の側壁型泡ヘッドとHFH-75のフォームヘッドとは,放射機構の仕組みが大きく相違するものであり,放射機構の仕組みが異なれば全く異なった放射性能になるのであるから,単に両者の傾斜角度をとらえて判断するのは,誤りである。
HFH-75は,ノズル部から噴射する泡水溶液を4倍に発泡させてデフレクターに向けて噴射するので,噴射する圧力及び速度はかなり低下する。しかも,「泡」は,「液」より粘性が非常に高く,泡の内部は空間であるから,デフレクターに衝突させた際,噴射圧力が吸収され,放射エネルギーもかなり減殺される。したがって,HFH-75のように「泡」をデフレクターに噴射するものは,「液」を噴射するものに比べて,飛ばないのである。被告の実験結果(甲7-3)によっても,HFH-75は,デフレクターの位置よりも上方に向かって飛び出し,同位置の上方約20pに達するとされているのであるから,より飛ぶ「液噴射」の場合は,なおさら消火泡が天井パネルに多量にぶつかり,車両の天井面の全体に確実に消火泡を到達させることが不可能になることは明らかである。したがって,側壁型泡ヘッドのように,より飛ぶ「液」の噴射に適用するに際しては,当然,HFH-75より飛ばない構成とすることが普通である。よって,側壁型ヘッドにHFH-75の「10°」の傾斜角度を適用することは基本的に不可能である。
両者に格別の差異がないとした審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張の要点 (2-1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (2-1-1) HFH-75においては,消火液と空気の混合攪拌が本件考案よりもやや早く胴体内において開始されるというだけのことであり,消火液がデフレクターに噴射されることに変わりはない。HFH-75においては,デフレクターを支持するため胴体内に吊り下げられたコーン(直径11o,甲4-4の図面参照)と,胴体(内径21o,同図面参照)との間にノズルに相当する幅10oの間隙が存在し,同間隙には網等の障害物が何ら設置されていないのであるから,消火液の大部分が未発泡のままデフレクターに噴射されることは,経験則上明らかである。
HFH-75明細書(甲4-4)には,「第2の空気孔より吸込まれた空気と混合しデフレクター網により発泡が促進される。」との記載があり,HFH-75では,デフレクターに衝突する泡に未発泡の消火液が多く含まれているからこそ,上記のような構造とされているのである。デフレクターに衝突する泡に未発泡の消火液が多く含まれているのであるから,結局のところ,消火液がデフレクターに衝突することに変わりはなく,審決の認定に誤りはない。
そもそも,HFH-75,本件考案などの泡ヘッドにおいては,発泡網を通過してヘッド本体から噴射されるのは,発泡した消火泡だけでなく,未発泡の消火液も含まれるのである。
(2-1-2) 一般的な用語例として,「泡」とは「液体が空気を含んでまるくふくれたもの。」(広辞苑第5版,乙5)である。「液」と「泡」との限界基準を求めるとすれば,「液体が気体を抱き込んでいるか否か」でということになる。
原告の「試験報告書」(甲20)によれば,側壁型泡ヘッド(HFH-20P)のノズルから噴出される物が,空気を抱き込んでいる状態であることは明白であり,上記のことから,「泡」であるというべきである。
(2-1-3) 甲第11,12号証の記載からは,単に「泡水溶液」という記載が「泡状のものを含まない液」を意味していることが読み取れるのみであって,「消火液」という記載が「泡状のものを含まない液」を意味しているとは到底読み取れない。原告は,上記の「泡水溶液」という記載から語尾の「液」の部分のみを取り出すことによって,あたかも「泡水溶液」だけでなく「消火液」との記載までもが「泡状のものを含まない液」を意味しているかのごとく錯覚させようとしているが,「泡水溶液」と「消火液」とは単に語尾において共通するだけの全く別異の記載なのであるから,「泡水溶液」という記載が「泡状のものを含まない液」を意味しているからといって,「消火液」という記載が「泡状のものを含まない消火液」を意味しているといえないことは明らかである。
本件明細書(甲3)中の「消火液」との記載が「泡状のものを含まない消火液」に限定して解釈されるべき根拠は何ら存在しない。さらに,特開2001-46543号公報(乙3)には,「混合液Kは,メインスクリーン5の網目により空気と混合され泡状消火液Bとなってデフレクター2aに衝突する。」との記載があるように,空気を混合して泡化したものを「泡状消火液」と表現しており,特許第3073918号公報(乙4)には,「図5に示すような立体放射パターンにより消火液の放射を行う」,「車両の幅方向で対向する消火泡ヘッド1の下側まで消火液がとどく。」,「隣接した消火泡ヘッド1の下側まで消火液がとどく。」との記載があるように,発泡させた消火液をも含む概念で単に「消火液」という記載がなされている。
(2-1-4) 以上のように,本件考案の「消火液」が「泡状のものを含まない消火液」に限定して解釈されるべき根拠は何ら存在せず,審決の一致点の認定に誤りはない。
(2-2) 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (2-2-1) 原告は,デフレクターの角度が0°及び20°の場合の実験報告書(甲10)を提出するが,審決のいう臨界的効果が存在することを示す証拠とはいえない。そして,原告も認めるとおりHFH-75のデフレクターは約10°の上り傾斜面を形成しており,本件考案の「5〜15°」に含まれるから,本件考案が約10°以外の特定の角度に臨界的効果を有するものでない以上,審決の「『5〜15°』について,格別の臨界的効果が存在することを示す証拠は認められない。」との判断に誤りはない。
(2-2-2) 仮に,HFH-75において,デフレクターに衝突する消火液の全量が泡であったとしても,HFH-75がデフレクターの上面を上り傾斜面に形成している構成を具備している以上,「消火液の噴出エネルギーを失わせることなく少し上向きに案内させて遠方にまで飛び出させ,前方への放射距離を十分に大きくすることができる」(甲2段落【0023】)という,本件考案同一の作用効果を奏するものである。
したがって,「前者(注:本件考案)は,後者(注:HFH-75)及び甲第8号証(注:本訴甲4-7)に記載のものに基づいて,当業者がきわめて容易に想到することができたものと認められる」との審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 甲第11,12号証及び乙第7号証の記載内容 (1-1) 「消防設備がマスターできる消防設備アタック講座〔下巻〕」(高木任之著,昭和61年12月20日,全国加除法令出版株式会社発行,甲11)には,次のような記載がある。
・「泡には膨脹比というものがある。泡水溶液(泡消火薬剤と水との混合液)の体積が,泡になった場合に何倍になるかの比率をいうのである。この膨脹比が20以下のものを低発泡といい…」(175頁) ・「…低発泡の泡は,…泡ヘッドを通じて放射される。泡ヘッドは,泡水溶液を泡とするための重要な役割を持っている。泡水溶液が泡となるためには,相当量の空気を必要とするため,各泡ヘッドには,空気の取入口が設けてある…」(176頁) ・「泡ヘッドには,次の2種類がある…(1)フォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッド (2)フォーム・ヘッド」(176頁) ・「フォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッドは,図からも判るように,デフレクターが設けられていて,そこへ泡が当って散布する…」(176頁) ・「フォーム・ヘッドは,放射口がメッシュ状(網状)になっていて,泡水溶液は,そのメッシュに当って泡を発生させる。」(176頁) ・上記のほか,第383図として,ほぼ中間部に空気取入口を有するフォーム・ヘッドが図示されている(176頁)。
上記の記載及び図示によれば,泡ヘッドとは,泡水溶液に相当量の空気を混合させて泡とするものであること,メッシュを有しないフォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッドでは,デフレクターに泡が当たること,一方,メッシュを有するフォームヘッドでは,泡水溶液が網状のメッシュに当って泡を発生させる,つまり,メッシュに当たるのは泡水溶液であること,したがって,メッシュに当たる前のデフレクターに当たるのは泡水溶液であることをいうものと認められる。
(1-2) 「改訂消防用設備のしくみとはたらき(消火設備編)」(平成12年3月,財団法人消防科学総合センター発行,甲12)には,次のような記載がある。
・「(イ)泡ヘッド方式 この方式は,発泡倍率6〜8倍程度の泡を,フォームヘッドまたはフォームウォータースプリンクラーヘッドを用いて噴霧状に広範囲に上部から散布するもので,いわば泡のスプリンクラー方式である(図3.7.10及び図3.7.11)。泡ヘッドの機構は,まず加圧された泡水溶液がノズルを通過するとそこで減圧域を生じエダクターの作用により,空気口から空気を吸引して混合し泡となる。泡は,デフレクタと金網により床面へ均一に散布される。」(219頁) ・上記のほか,図3.7.10として,泡水溶液が供給されるノズル,デフレクタ,スクリーン及びほぼ中間部に空気口を有するフォームヘッドが図示され,図3.7.11として,泡水溶液が供給されるノズル,デフレクタ及び空気口を有するフォームウォータースプリンクラーヘッドが図示されている(219頁)。
以上の記載及び図示によれば,フォームヘッド及びフォームウォータースプリンクラーヘッドのいずれにおいても,デフレクタに当たるのは泡であることをいうものと認められる。
(1-3) 「消防設備技術基準早わかり第9版」(平成14年1月,株式会社オーム社発行,乙7)には,次のような記載がある。
・「(1) フォームヘッド 泡だけを放射する泡専用のヘッドで空気吸入口をもち,ヘッド内に空気を吸い込んで泡水溶液の放射のときに泡を形成するものである(第2図参照)。」(349頁) ・「(2) フォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッド 泡を放射する性能と開放型のスプリンクラーヘッドの性能を有しているもので空気吸入口をもち,ヘッド内に空気を吸い込んで泡水溶液の放射のときに泡を形成させデフレクターで散布する。…(第3図参照)。」(349頁) ・上記のほか,第2図としてフォームヘッドの例が,第3図として,フォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッドの例が図示されている(349頁)。
以上の記載及び図示によれば,フォームヘッド及びフォーム・ウォーター・スプリンクラーヘッドのいずれにおいても,デフレクターに当たる前である泡水溶液が放射されたときに泡が形成されることをいうものと認められる。
(2) 上記(1)によれば,フォームウォータースプリンクラーヘッドのデフレクターに当たるものは,甲第11,12号証及び乙第7号証のいずれもが「泡」であるとするが,一方,フォームヘッドにおいて,デフレクターに当たるものについては,甲第11号証では「泡水溶液」であると,甲第12号証及び乙第7号証では「泡」であるとの趣旨で記載されている。
そこで,上記第383図(甲11の176頁),図3.7.10(甲12の219頁)及び第2図(乙7の349頁)の各図示に照らして,甲第11,12号証及び乙第7号証記載の各フォームヘッドが基本的に異なった構造をしていると理解しなければならない理由はなく,甲第11号証の第383図においても,断面図が示されてはいないもののノズルから泡水溶液が噴射され,それが空気取入口から取り込まれた空気と混合するものであると認められる。そして,前記の甲第12号証における「加圧された泡水溶液がノズルを通過するとそこで減圧域を生じエダクターの作用により,空気口から空気を吸引して混合して泡となる」との記載,及び乙第7号証の「…空気吸入口をもち,ヘッド内に空気を吸い込んで泡水溶液の放射のときに泡を形成する」との記載によれば,「泡水溶液」がデフレクターに当たる旨の記載がある甲第11号証のフォームヘッドの場合も含め,ノズルから噴射された泡水溶液がデフレクターに当たるまでの間に全く泡化しないということはあり得ず,噴射前後の加圧・減圧の状況,ノズルの構造,空気取入口の大小・位置などによって,空気との混合度合い等に応じて泡化の度合いが異なるとしても,泡水溶液の一部が泡化した状態にあるとみることができる。
そうすると,フォームヘッドにおいては,ノズルから噴射された泡水溶液の一部が泡となり,泡と泡水溶液の混合状態のものがデフレクター及びメッシュ(甲12では「スクリーン」と記載。なお,乙7の本文には記載がないものの第2図によれば同じ構成のものを有することが明らかである。)に当たり,最終的に泡として散布されるものであるといえる。
そして,本件全証拠によっても,泡と泡水溶液が混合状態にある場合において,どのようなものを「泡」又は「液」というのか,明確な基準を示すものは見当たらない(例えば,泡の比率を基準として,一定以上のものを「泡」,それ以下のものを「液」ということなどが想定されなくはないが,そのような基準を示すものは本件証拠上見当たらない。)。
結局,甲第11,12号証及び乙第7号証にもみられるように,泡と泡水溶液の混合状態のものについては,「液」と称する場合と「泡」と称する場合があり得るのであり,いずれの用語,表現を用いていようと,実態が「泡と泡水溶液の混合状態」である点において異なるものとはいえない。
(3) ところで,本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1には,甲第11号証記載の「メッシュ」(甲12の「スクリーン」も同旨)に相当する構成が記載されていないが,デフレクターに衝突するものが「消火液」と記載されている上,本件実施例において「スクリーン」が設けられている。したがって,本件考案は,上記各書証記載の「フォームヘッド」の一種であると理解される(本件明細書及び図面の上記記載に照らし,本件考案が「フォームウォータースプリンクラーヘッド」であるとは理解し難い。)。
また,実願平2-128261号(実開平4-83264号)のマイクロフィルム(甲4-7,審決甲8)には,「従来の消火用泡ヘッドでは,…円形状に放射する必要がない場合でも円形状に放射することによって,消火液の無駄使いになり」(3頁),及び「消火液は隔板によって片側にのみ分散される」(4頁)との記載があり,この考案が側壁型泡ヘッドであることが認められる(なお,本件明細書(甲3)の段落【0003】でも上記考案が側壁型泡ヘッドであると記載されている。)。
そして,側壁型泡ヘッドとは,フォームヘッドに隔板(本件考案の「背壁面」に相当するものと認める。)を設け,泡の放射方向を制限したものであって,泡水溶液を泡にするメカニズムにおいて,甲第11,12号証及び乙第7号証記載のフォームヘッドと異ならないものと認めることができる。
(4) 本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1においては,「ノズル部より噴射された消火液が上記背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターの上面に衝突して…」と記載され,ノズルから噴射されるもの,デフレクターに衝突するもの,いずれも「消火液」であると称されている。しかし,前記のとおり,ノズルを通過するのは,泡水溶液(泡消火薬剤と水との混合液)であるが,ノズルを通過するとそこで減圧域を生じ,空気を吸引して泡水溶液の一部が泡となり,デフレクターに衝突する際には,泡と泡水溶液の混合状態となっているのであり,本件明細書では,甲第11号証と同様に,泡と泡水溶液の混合状態となっているものも含めて(消火)「液」と称したものというべきである。
なお,原告は,「消火液」とは発泡させる前の液状態のものを意味し,発泡させたものを含むと解釈される余地は当該分野においては全くない旨主張する。しかし,上記のような実態にあることが認められる上,用語の問題としてみても,被告の主張するように,特許第3073918号公報(乙4)の段落【0026】において,「図5に示すような立体放射パターンにより消火液の放射を行う」,【0033】において,「車両の幅方向で対向する消火泡ヘッド1の下側まで消火液がとどく。」,「隣接した消火泡ヘッド1の下側まで消火液がとどく。」との記載があり,「消火液」という言葉が泡となったものをも含む広い意味でも用いられることがあることがうかがえる。この点に関し,原告は,「消火液を泡にしたもの」などと記載すべきところ,正確さを欠いて記載したものにすぎないと反論する。しかし,本件明細書(甲3)の段落【0011】においても,「また,消火液の残部はデフレクターの上面に衝突して横方向に方向転換した後,デフレクターの上面に形成された上り傾斜面に沿って少し上向きに案内されて勢いを失うことなく十分遠方にまで飛び出した後,放物線を描いて床面に落下する。」と記載されており,「床面に落下する」の主語は,「消火液の残部」であると理解されるが,その実態は泡化したものが大半を占める。したがって,本件明細書においても,泡状態のものものも含む広い意味で「消火液」という言葉を用いている例がみられるのであって,原告の主張は採用の限りではない。
(5) 他方,HFH-75明細書(甲4-4)には,「ジェッターを噴出した原液は空気孔より吸込んだ空気と混合し,コーンにより本体内で攪拌され発泡する。
発泡した泡はデフレクターにより拡散放射される。さらにこの時第2の空気孔より吸込まれた空気と混合しデフレクター網により発泡が促進される」との記載があり,ここではデフレクターに衝突するものが「泡」とされている。この「泡」が消火に用いられるものとして十分に発泡した泡であるとすれば,それを網(スクリーン,メッシュ)に衝突させれば,泡の勢いがそがれ,放射面積が小さくなることは当業者ならずとも十分予測できることである。したがって,HFH-75明細書では,甲第12号証及び乙第7号証と同様に,デフレクターに衝突する泡と泡水溶液の混合状態のものを「泡」と称したものであり,また,かなりの部分が泡水溶液の状態で残存しているものと解するのが合理的である(なお,原告の実験結果(甲20)をみると,HFH-75と同一構造の被告製品であるとされるHFH-35Nにおけるデフレクターに当たる前の発泡倍率は,放射圧力3Kg/cm2の下において2.5倍であるが,「フォームヘッド(界面)試験結果記録表」(甲4-4)によれば,HFH-75の網(スクリーン,メッシュ)を通過後の発泡倍率は,放射圧力5.5Kg/cm2の下において7.3〜8.6倍,放射圧力2.5Kg/cm2の下において8.5〜9.7倍となっており,これを対比すれば,デフレクター衝突時の発泡が不十分であることがうがかえる。)。
(6) 以上によれば,デフレクターの上面に衝突するものとして,HFH-75明細書においては「泡」と記載され,本件明細書(甲3)においては「消火液」と記載されているが,いずれも泡と泡水溶液の混合状態であるものを,異なる表現を採ったにすぎないというべきであり,表現形態の相違が構成の相違に該当しないことは明らかである。
よって,審決におけるHFH-75に係る考案の認定及び本件考案とHFH-75に係る考案との一致点の認定には,原告主張の誤りはない(ちなみに,審決は,本件考案が,HFH-75に係る考案及び甲4-7(審決甲8)に記載の考案に基づいて,当業者が極めて容易に想到することができたものであると判断したものであるところ,甲4-7では,実用新案登録請求の範囲(1)において,「消火液をデフレクターで分散して…」と記載されるなど,本件考案と同じく,デフレクターに衝突するのは「消火液」であるとするものである。)。
(7) なお,原告の実験(甲20)においては,HFH-35NとHFH-20Pの発泡の度合いに相違があることがうかがえる(甲20,22によっても,HFH-20Pから噴射されるものに,泡が混合していないとは認められない。)。しかし,本件考案における「消火液」が泡と泡水溶液の混合状態であることは前判示のとおりであり,本件考案がその混合の度合い,したがって,デフレクター衝突時の発泡の度合いがどの程度であるのかを規定するものでないことは,本件明細書の記載から明らかである。そうであれば,HFH-35NがHFH-75と同一品であり,かつ,HFH-20Pが本件考案の実施品に相当するものであると仮定しても,本件考案特定実施例とHFH-75とが,デフレクター衝突時の発泡度合いが異なることを意味するにとどまり,これをもって本件考案とHFH-75の発泡度合いが異なることまで実証できたものとはいえない。
(8) また,原告は,本件考案のノズルに相当するHFH-75の構成が,審決の認定する「胴体下端部及びコーンで構成される間隙」ではなく,「ジェッター」であると主張する。確かに,HFH-75の「ジェッター」は消火液を噴射するものであるから,「ジェッター」が「ノズル」に相当するとの主張には首肯し得るものがある。しかし,「胴体下端部及びコーンで構成される間隙」からも消火液が噴射される以上,審決の認定が誤りであるとまでは断じ得ないし,原告主張のとおりであるとすれば,HFH-75が消火液を噴射するノズルを備えている点で本件考案と一致することには疑いの余地がなく,他方,デフレクターに衝突するものにおいて,本件考案とHFH-75の相違がないことは前判示のとおりであるから,原告の上記主張は,審決の結論に影響を及ぼさない瑕疵をいうものである。
(9) 以上のとおりであるから,原告の取消事由1の主張には理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 審決は,「前者(注:本件考案)のデフレクターの上面は,水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されているのに対して,後者(注:HFH-75)が,水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されている点」を本件考案とHFH-75の相違点2と認定した上で,「前者の『水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ』ことと,後者の『水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ』こととに格別の差異があるとは認められない。」と判断した。
上記審決の認定(当事者間に争いがない)から明らかなように,HFH-75のデフレクター上面の傾斜角度(約10°)は本件考案の傾斜角度(5〜15°)の範囲内である。
(2) 本件明細書には,「本考案によれば,デフレクターの上面をノズル部の軸線から遠ざかるほど上位となるように,水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成したことにより,ノズル部から噴射される消火液をそれの噴出エネルギーを失わせることなく少し上向きに案内させて遠方にまで飛び出させ,前方への放射距離を十分に大きくすることができる。」(甲3段落【0023】)との記載がある。
本件考案において,デフレクター上面を水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成したことの技術的意義は,上記のとおりであって,この技術的意義が,側壁型泡ヘッドであるか,全域型泡ヘッドであるかによって相違しないことは明らかであり,デフレクターに衝突するものが本件考案とHFH-75において相違しないことは,前記1で判示したとおりである。
そうすると,HFH-75において,HFH-75のデフレクター上面の傾斜角度を約10°としたことの技術的意義も,上記の本件考案と同様であるというべきであって,このような場合,HFH-75の傾斜角度が本件考案の範囲内であるからには,傾斜角度については相違点がないことが明らかである。審決の「格別の差異があるとは認められない。」との判断もこれと同旨と解され,その判断に誤りはない。
(3) 原告は,デフレクターに衝突するものの相違を主張するが,本件考案とHFH-75において,デフレクターに衝突するものが異ならないことは,前記1に判示したとおりであるから,原告の主張は前提を欠く。
原告は,臨界的意義も主張するが,相違点2が実質的に相違点といえない以上,その主張は,採用することができない。
(4) よって,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 結論 以上のとおり,原告の審決取消事由の主張はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】審決の理由平成11年審判第35705号,平成13年1月18日付け審決(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語及び誤記の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.手続の経緯実用新案登録第2149865号(平成4年11月9日出願、平成7年12月13日出願公告、平成10年7月10日設定登録。以下、「本件登録」という。)の請求項1に係る考案に対する無効審判事件の手続の経緯は、以下のとおりである。
審判請求平成11年11月30日答弁書平成12年3月28日弁駁書平成12年6月16日審尋(請求人宛)平成12年8月1日回答書(請求人)平成12年9月29日上申書(被請求人)平成12年12月18日2.本件考案本件登録の請求項1に係る考案は、登録時の明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲請求項1に記載されたとおりの次のものと認められる。
「【請求項1】消火液を噴射するノズル部を備えたヘッド本体に背壁面が垂設され、上記ノズル部より噴射された消火液が上記背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターの上面に衝突して上記背壁面の前方半周域に放射されるように構成された消火設備の側壁型泡ヘッドにおいて、
上記デフレクターに上記ノズル部より噴射された消火液を下方に向けて通過させる複数のスリットがそれらの先端を上記デフレクターの外周縁部に開放させる状態に形成されていると共に、このデフレクターの上面を上記ノズル部の直下位置から外端部に向けて上記ノズル部の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように、水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成していることを特徴とする消火設備の側壁型泡ヘッド。」3.当事者の主張(1)請求人の主張請求人は、甲第1号証乃至甲第16号証を提出して、次の点を主張する。
(a)本件登録は、請求項1に係る考案が実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであるから、実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。
(b)本件登録は、実用新案法第5条第5項第2号に規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してされたものであるから、実用新案法第37条第1項第3号の規定により無効とされるべきものである。
(2)被請求人の主張これに対して、被請求人は、乙第1号証及び乙第5号証を提出して、次のとおり反論する。
(a)請求項1に係る考案は、実用新案法第3条第2項に違反するものでない。
(b)実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案法第5条第5項第2号に規定する要件を満たしている。
4.当審の判断まず第1に、請求人の前記3.(1)(b)の主張について検討する。
請求人は、実用新案登録請求の範囲に、「スクリーン」が構成要件として記載されていないから、実用新案登録請求の範囲には、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項が記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件登録の登録時の明細書には、従来の技術として実開平4-83264号公報(甲第8号証参照)を挙げ、請求項1に係る考案が同公報に記載の技術を前提として創作されたものであることが示され、同公報には、スクリーンに相当する「発泡用網」を備えた側壁型泡ヘッドに係る考案が記載されていること、並びに、実施例としてスクリーンを備えた側壁型泡ヘッドが記載されていること、からみて、本件登録の実用新案登録請求の範囲請求項1に係る考案の「側壁型泡ヘッド」がスクリーンを備えるものであることが明らかである。
したがって、実用新案登録を受けようとする考案が、実用新案登録請求の範囲に記載された事項に基づいて明確に把握できるから、実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項が記載されていると認められる。
よって、請求人の主張は採用できない。
次に、請求人の前記3.(1)(a)の主張について検討する。
(1)消火設備認定業務委員会の承認印の印影及び同委員会長の委員長印の印影のある甲第5号証によれば、請求人は、昭和50年10月に、型式HFH-75とするフォームヘッドについて、型式認定試験の結果、消火設備認定業務委員会より、認定番号「221T018」を取得しており、その承認にあたって提出された「フォームヘッドの明細書」、「フォームヘッド(界面)試験成績記録表」及び「フォームヘッド型式認定試験成績記録表」には、フォームヘッドの全高が94±5mm、最大径70±1.5mmであること、標準放射圧力2.5kg/cm2、上限放射圧力5.5kg/cm2、下限放射圧力2.5kg/cm2での仕様であることが記載され、さらに、「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-051」には、「デフレクター断面詳細」に、デフレクター厚み2.8、直径39とするデフレクターがその周囲に所定の間隙によって形成された切起片を有すること、請求人が型式HFH-75とするフォームヘッドの製造者であることを示す銘板が「銘板詳細」に記載されていると認められる。
また、消火設備認定業務委員会の承認印の印影及び同委員会長の委員長印の印影のある甲第10号証によれば、請求人は、昭和51年7月に、昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75について、型式変更試験の結果、新たに、認定番号「221T018-1」を取得したこと、新たに認定番号を取得したHFH-75は、フォームヘッドの全高、最大径、デフレクターの厚み、直径、標準放射圧力、
上限放射圧力、下限放射圧力、及びデフレクターが周囲に所定の間隙によって形成された切起片を有することに関して、昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75と一致し、銘板については、その変更承認にあたって提出された「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-051-1」の「銘板詳細」に、請求人が型式HFH-75とするフォームヘッドの製造者であり、製造年月として「1976」が記載されていると認められる。
(2)一方、熊本市西部環境工場の工場長が作成した甲第6号証によれば、同場において、型式HFH-75とする請求人製のフォームヘッドが昭和60年11月11日から設置、使用されていたこと、その構造明細として、請求人が作成し、同工場長印の印影がある「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-051-2」、及び同「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-05106-1」には、同工場に設置、使用されたフォームヘッドが全高92±3mm、最大径70±0.5mmであること、フォームヘッドが、厚みが2.8±0.2、直径38±0.1とするデフレクターの周囲に15°±30′毎に、間隙1.2±0.05の切起片を有することが記載されており、また、「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-051-2」には、「ヘッド全長94±5→92±3に変更」との記載があり、「名称フォームヘッド、型式HFH-75、図番F-05106-1」には、「2.8ヲ除ク寸法ハスベテ加工前ノ寸法ヲ示ス」との記載があると認められる。
(3)前記(1)、(2)からみて、請求人が昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75と、熊本県西部環境工場に設置、使用されていたフォームヘッドとは、フォームヘッドの型式、その全高及び最大径の寸法、デフレクターの厚み、
直径の寸法がほぼ等しく、また、デフレクターの周囲に所定の間隙によって形成された切起片を有することで一致しているから、請求人が昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75は、遅くとも、昭和60年11月11日までに製造され、熊本県西部環境工場に販売されていたと認められる。
そして、このことは、甲第4号証及び甲第7号証において写真で示されたフォームヘッドに、請求人を型式HFH-75・認定番号221T018-1・製造年月1976.7とするフォームヘッドの製造者とする銘板が貼布され、同工場内に設置されていた状況と符合するから、甲第4号証及び甲第7号証の写真で示されたフォームヘッドは、請求人が昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75のフォームヘッドであると認められる。
(4)また、昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75に関して、甲第5号証、甲第6号証、及び甲第10号証、並びに、同HFH-75の切起片の形状について、請求人の「水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成」(審判請求書第4頁25〜26行)するとの主張と、同主張に対して被請求人が特に反論していないことからみて、同HFH-75に係る考案は、次のとおりのものと認められる。
消火液を噴射する胴体下端部及びコーンで構成される間隙を備えた胴体にコーンが垂設され、上記胴体下端部及びコーンで構成される間隙より噴射された消火液が上記コーンの下端部に設けられた板状のデフレクターの上面に衝突して上記コーンの全周域に放射されるように構成された消火設備のフォームヘッドにおいて、
上記デフレクターに上記胴体下端部及びコーンで構成される間隙より噴射された消火液を下方に向けて通過させる複数のスリットがそれらの先端を上記デフレクターの外周縁部に開放させる状態に形成されていると共に、このデフレクターの上面を上記胴体下端部及びコーンで構成される間隙の直下位置から外端部に向けて上記胴体下端部及びコーンで構成される間隙の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように、水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成している消火設備のフォームヘッド。
(5)そして、前記(1)乃至(4)を総合してみると、昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75に係る前記(4)の考案は、本件登録の出願前の昭和60年11月11日までに日本国内において公然実施をされた考案であると認められる。
(6)また、本件登録の出願前の平成4年7月20日に頒布された実願平2-128261号(実開平4-83264号)のマイクロフィルム(甲第8号証)には、
「消火用泡ヘッド」(考案の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある。
(a)「この考案はかかる問題点を解消するためになされたもので、取り付け位置よりも片側の半円形状の放射を可能にすることにより消火対象物に対して十分な消火効果が得られて合理的な消火が行える消火用泡ヘッドを得ることを目的とする」(第3頁10〜14行)(b)「上記目的を達成するために、この考案に係る消火用泡ヘッドは、ヘッド本体のほぼ中心付近で縦割りした片側の半円形状にのみ泡放射するようにしたものである」(第3頁16〜19行)(c)「この考案においては、ヘッド本体のノズル孔から放出された消火液は隔板によって片側にのみ分散されるので、発泡用網によって液泡となって半円形状に放射される」(第4頁1〜4行)(d)実施例として、「(13)はヘッド本体(1)の下部にビス(14)により取り付けたL字状の隔板で、ヘッド本体(1)のほぼ中心付近に垂下する垂下板部(13a)を有している。(15)は隔板(13)の垂下板部(13a)に一体的に形成したデフレクタ取付板、(16)は半円形状のデフレクタで、半円錐状のナット(17)とビス(18)とによってデフレクタ取付板(15)に取り付けられている。
消火液は液通路(2A)を通過中、ガイド(12)により攪拌されると共に緩い回転流となってノズル孔(3a)から放出される。放出された消火液はナット(17)の半円錐形状の作用と、隔板(13)の垂下板部(13a)の作用とによって片側の半円形状範囲内においてデフレクタ(16)に衝突し、空気吸込口(5)からの空気と混合してデフレクタ(16)によって片側に分散され、発泡用網(6)によって第3図に示すように半円形状の液泡となって放射される。」(第4頁14行〜第5頁12行)そして、前記(a)乃至(d)の記載からみて、甲第8号証には、次の考案が記載されていると認められる。
消火液を噴射するノズル孔を備えたヘッド本体に隔板の垂下板部が垂設され、上記ノズル孔より噴射された消火液が上記隔板の垂下板部の下端部に設けられた板状のデフレクターの上面に衝突して上記隔板の垂下板部の前方半周域に放射されるように構成された消火設備の側壁型泡ヘッド。
(6)対比・判断そこで、請求項1に係る考案(前者)と昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75に係る前記(4)の考案(後者)とを対比すると、後者の「フォームヘッド」と前者の「側壁型泡ヘッド」とは、泡ヘッドであることで共通し、後者の「胴体」は前者の「ヘッド本体」に相当し、後者の「胴体下端部及びコーンで構成される間隙」は、ノズル部といえるから、両者は、
消火液を噴射するノズル部を備えたヘッド本体と、上記ノズル部より噴射された消火液が板状のデフレクターの上面に衝突して放射されるように構成された消火設備の泡ヘッドにおいて、
上記デフレクターに上記ノズル部より噴射された消火液を下方に向けて通過させる複数のスリットがそれらの先端を上記デフレクターの外周縁部に開放させる状態に形成されていると共に、このデフレクターの上面を上記ノズル部の直下位置から外端部に向けて上記ノズル部の軸線から遠ざかる位置ほど上位となるように、水平面に対して所定の傾斜角度をもつ上り傾斜面に形成している消火設備の泡ヘッド、
で一致し、次の点で相違する。
【相違点1】前者は、側壁型泡ヘッドであって、ヘッド本体に垂設された背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターによって、背壁面の前方半周域に泡が放射されるのに対して、後者の泡ヘッドが、ヘッド本体に垂設されたコーンの下端部に設けられた板状のデフレクターによって、コーンの全周域に泡が放射される点。
【相違点2】前者のデフレクターの上面は、水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されているのに対して、後者が、水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されている点。
そこで、相違点について検討する。
【相違点1】甲第8号証に記載のものの「ノズル孔」は前者の「ノズル部」に相当し、甲第8号証に記載のものの「隔板の垂下板部」は前者の「背壁面」に相当するから、甲第8号証には、側壁型泡ヘッドであって、ヘッド本体に垂設された背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターによって、背壁面の前方半周域に放射されることが記載されていると認められる。
そして、後者と甲第8号証に記載のものとは、消火液を噴射するノズル部より噴射された消火液が板状のデフレクターの上面に衝突して放射されるように構成された消火設備の泡ヘッドであることで技術的に共通するものである。また、後者と甲第8号証に記載のものとを組み合わし得ないとする格別の事情は認められない。
そうしてみると、後者に甲第8号証に記載のものを適用し、後者において、「側壁型泡ヘッドであって、ヘッド本体に垂設された背壁面の下端部に設けられた板状のデフレクターによって、背壁面の前方半周域に泡が放射される」とすることは、当業者がきわめて容易に想到できたものと認められる。
【相違点2】後者の「水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ上り傾斜面として形成されている」という構成は、ノズル部より垂直下に噴射した後者の消化液が、板状のデフレクターに衝突し方向を変えて放射されることに照らせば、その構成自体、当然に、消火泡がデフレクターの位置よりも上方に向かって飛び出し、その後、放物線を描いて落下するという作用を有するものと認められる。
また、前者の「5〜15°」について、格別の臨界的効果が存在することを示す証拠は認められない。
そうしてみると、前者の「水平面に対して5〜15°の傾斜角度をもつ」ことと、後者の「水平面に対して約10°の傾斜角度をもつ」こととに格別の差異があるとは認められない。
被請求人は、請求人が昭和50年10月に認定番号を取得したHFH-75のデフレクターは、コーンと胴体の間に設けられたコーンピンによる消化液の分流による放射むらを解消し、均一に散布できるためのものである旨(答弁書第8頁13〜28行)主張するが、甲第5号証、甲第10号証、乙第2号証によれば、3本の直径1.2mmのコーンピンが120°間隔に配置されることに対し、その仕様の「標準放射圧力及び放射量」が「2.5kg/cm275l/min」であることからして、コーンピンが放射むらを生じるほど影響するとは認められない。
したがって、前者は、後者及び甲第8号証に記載のものに基づいて、当業者がきわめて容易に想到することができたものと認められる。
(7)むすび以上のとおりであるから、本件登録の請求項1に係る考案は、その出願前に日本国内において公然実施をされた考案、及びその出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるので、本件登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第37条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、同法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成13年1月18日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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