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関連審決 審判1998-35147
関連ワード 考案 /  考案の要旨認定 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の認定 /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  新規事項の追加(新規事項を追加) /  きわめて容易 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  特段の事情 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 263号 審決取消請求事件
原告 極東産機株式会社
訴訟代理人弁護士 小池豊,櫻井彰人,弁理士 岡崎謙秀,西澤利夫
被告 ヤヨイ化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男,弁理士 佐藤正年,佐藤年哉,宮田英毅
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第35147号事件について平成11年6月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文同旨
事案の概要
本件は,原告が被告の有する後記本件登録考案について無効審判の請求をし,これに対し,被告が訂正請求をしたところ,特許庁が本件訂正請求を認めた上,無効審判の請求は成り立たない旨の審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件実用新案権(本件登録考案) 実用新案権者 ヤヨイ化学工業株式会社(被告) 考案の名称 「自動壁紙糊付機」 登録出願日 平成4年5月14日 設定登録日 平成9年2月13日 登録番号 第2534772号 (1-2) 本件手続 無効審判請求日 平成10年4月7日(平成10年審判第35147号) 訂正請求日 平成10年7月21日(本件訂正) 審決日 平成11年6月23日 審決の結論 「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日 平成11年7月14日(原告に対し) (2) 本件考案の要旨 (2-1) 本件訂正前の考案の要旨(下記のものを「訂正前考案」という。) 「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ,糊桶内の糊を糊付けロールにより前記壁装材の裏面に連続的に転写塗布する自動壁紙糊付機において,入側ピンチロールの下側ロールを,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」 (2-2) 本件訂正後の考案の要旨(下記のものを「訂正後考案」という。下線部分が訂正部分。) 「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部に内蔵 された 糊桶内の糊を糊付けロールにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において,下側ピンチロール とドクターロール は互いに 回転方向 が逆になるものであり ,前記下側 ピンチロール とドクターロール は互いの 間隔 が手指 の太さより 狭い位置 に設置 してあり ,しかも 両ロール 間は内側 に向かう 回転方向 となっており ,前記糊付 けロール が,フレーム 側板 に軸受 され ,前記下側 ピンチロール を,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」 (3) 審決の理由 本件審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。
要するに,(@)本件訂正請求は,実用新案登録請求の範囲減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,新規事項を含むものではなく,願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内において行われたものであって,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張したり変更したりするものではない,また,(A)訂正後考案は,審判甲第1号証(実公昭62-40701号公報,本訴甲6)及び審判甲第2号証(実公昭59-25507号公報,本訴甲7)に記載された考案を単に組み合わせたものではないし,また,審判甲第2号証には,本件考案の課題や目的に関する認識がないのであるから,訂正後考案は,審判甲第1及び第2号証に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとは認められない,さらに,(B)審判甲第3号証(極東産機株式会社発行「総合カタログ,インテリア業務用,NO.3」,本訴甲4)及び審判甲第4号証(極東産機株式会社作成「フルチョイス糊付機MB-U型,βマックス2の取扱説明書」,本訴甲5)に示されるβ-MAX2という糊付機は,訂正後考案と同一ではないし,また,本件考案の課題や目的に関する認識が全くないのであるから,訂正後考案は,β-MAX2という糊付機の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとすることはできない,よって,(C)本件訂正請求は認めることができる,そして,(D)訂正後考案に係る実用新案登録を無効にすることはできない,というものである。
2 争点(審決取消事由) ・訂正後考案の独立登録要件についての判断の誤り(取消事由1) ・独立登録要件のうち新規性に関する認定判断の誤り(取消事由1-1) ・独立登録要件のうち進歩性に関する認定判断の誤り(取消事由1-2) ・訂正事項(ロ)(ニ)の訂正を認めた判断の誤り(取消事由2) 3 原告の主張(審決取消事由)の要点 (1) 取消事由1(訂正後考案の独立登録要件についての判断の誤り。この取消事由1は,後記のとおり,取消事由1-1(新規性に関する認定判断の誤り)と取消事由1-2(進歩性に関する認定判断の誤り)に分けられる。) 審決は,「…甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,甲第3〜4号証を総合したところで,それらには,本件考案の課題や目的でいうところの,モータによって各ロールを回転させながら洗浄する際に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険がないようにするという認識はないものであり,このことは平成11年2月9日に特許庁審判廷において行われた証拠調べにおける証人AおよびBの証言とも一致するものであり,また,そのβ-MAX2という糊付機では,送リ出シローラーは本体側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝に係止されている点で訂正後の本件発明(注:「考案」の誤記と認められる。)と相違している。
してみると,甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機は,訂正後の本件考案と同一ではないし,また,β-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,そのβ-MAX2という糊付機に関しては,本件考案の課題や目的に関する認識が全くないのであるから,訂正後の本件考案は,そのβ-MAX2という糊付機の考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない。」というものである。上記は,訂正後考案とβ-MAX2の考案を対比の上,訂正後考案新規性及び進歩性を肯定したものであり,以下のとおり,そのいずれもが誤っている。
(1-1) 取消事由1-1(新規性に関する認定判断の誤り) (1-1-1) 訂正後考案の構成は,実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されたβ-MAX2の考案の構成と同一であり,新規性を欠如するものである。したがって,訂正後考案は,独立登録要件を欠くものであり,これに反する審決の判断は誤っている。
なお,β-MAX2は,本件考案の出願前,原告において製造販売され公知となっていたものである。原告は本件考案の出願(平成4年5月14日)前である昭和58年から壁紙糊付機β-MAX2を製造販売した。このことは昭和63年9月1日発行の当該装置のカタログ(甲4),昭和58年6月発行の当該装置の取扱説明書(甲5)から明らかである。
(1-1-2) 審決は,上記のとおり,訂正後考案とβ-MAX2の考案の構成上の相違点として,「β-MAX2という糊付機では,送リ出シローラーは本体側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝に係止されている点で訂正後の本件発明(注:「考案」の誤記と認められる。)と相違している。」と認定している。
しかしながら,β-MAX2においては,糊付機本体を軽量化するために,フレーム側板の高さを低くし,側板に取付板(係止部材)を突設してこの取付板に送り出しローラーを係止するU字溝を設けたものである。そして,訂正後考案のように,フレーム側板に軸支のためのU字溝を設けるか,本体軽量化のため,上記のように取付板に軸支のためのU字溝を設けるかは,当業者が必要に応じて容易に選択変更できる単なる設計事項であり,両者に実質的な差異は存しない。よって,新規性,進歩性の根拠となるものではない。
(1-1-3) 上記のほか,訂正後考案の構成とβ-MAX2の構成を対比しても,実質的な相違点は存在しない。
(ア) β-MAX2の構成 (a) モータにより連動して回転駆動される複数のローラーによりクロス原反(訂正後考案の「シート状壁装材」)を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部に内蔵された糊箱(訂正後考案の「糊桶」)内の糊を糊付ローラーにより前記クロス原反の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機である。
(b)@ 送り出しローラー(訂正後考案の「下側ピンチロール」)とドクターローラー(訂正後考案の「ドクターロール」)は互いに回転方向が逆になるものであり, A 前記送り出しローラーとドクターローラーは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり, B しかも両ローラー間は内側に向かう回転方向となっており, (c) 前記糊付ローラーがフレーム側板に軸受され, (d) 前記送り出しローラーを,フレーム側板に設けられU字穴によって軸受している。
(イ) 訂正後考案の構成要件 訂正後の本件考案は,次のように構成要件に区分される。
(a) モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部に内蔵された糊桶内の糊を糊付けロールにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において, (b)@ 下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり, A 前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり, B しかも,両ロール間は内側に向かう回転方向となっており, (c) 前記糊付けロールがフレーム側板に軸受され, (d) 前記下側ピンチロールを,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受したこと (e) を特徴とする自動壁紙糊付機。
(ウ) 訂正後考案とβ-MAX2の対比 (a) 訂正後考案の構成要件(a)との対比 β-MAX2は,モータにより連動して回転駆動される複数のローラー,すなわち送り出しローラー,ドクターローラー,糊付ローラー,押えローラー,ナラシローラーによりクロス原反(本件考案の「シート状壁装材」)を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部に内蔵された糊箱内の糊を糊付ローラーにより前記クロス原反の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機である。
なお,β-MAX2は,手動式にも切り替えることができるが,本件考案との対比にあたっていささかの影響も及ぼさない。
以上のとおりであるから,β-MAX2の構成は,上記構成要件(a)と同一である。
(b-1) 訂正後考案の構成要件(b)@との対比 β-MAX2における送り出しローラーは,訂正前考案の下側ピンチロールに該当するが,この送り出しローラーは,ドクターローラーと回転方向が逆になっている。
よって,β-MAX2の構成は,上記構成要件(b)@と同一である。
(b-2) 訂正後考案の構成要件(b)Aとの対比 前記送り出しローラーとドクターローラーの間隔は,約4.5〜約4.6oであり,手指の太さより狭い位置に設置してある。
よって,β-MAX2の構成は,上記構成要件(b)Aと同一である。
(b-3) 訂正後考案の構成要件(b)Bとの対比 β-MAX2の送り出しローラーとドクターローラーの回転方向は内側に向かうものであるから,上記構成要件(b)Bと同一である。
(c) 訂正後考案の構成要件(c)との対比 β-MAX2の糊付ローラーは,フレーム側板に軸受されているから,上記構成要件(c)と同一である。
(d) 訂正後考案の構成要件(d)との対比 β-MAX2の送り出しローラー(本件考案の「下側ピンチロール」)は,フレーム側板に設けられたU字溝に軸受されている。U字溝はフレーム本体に一体となって取り付けられた鋼材に設けられており,フレーム本体の一部を構成するものである。よって,β-MAX2の構成は,上記構成要件(d)と同一である。
(e) 訂正後考案の構成要件(e)との対比 β-MAX2は,訂正後考案の構成要件をすべて具備した自動壁紙糊付機であるから,上記構成要件(e)とも同一である。
(f) なお,前記のとおり,審決は,訂正後考案の構成要件(d)の点で相違していると認定したものであるが,この認定が誤りであることは前記のとおりである。
(1-1-4) 被告は,以下のAないしDの4点において,訂正後考案の構成とβ-MAX2の構成とが相違していると主張する。
A β-MAX2の糊桶は本体部と一体になっていること B β-MAX2は手動と自動の切り替え型の壁紙糊付機であること C β-MAX2は,糊付ローラーが(糊桶の側壁を兼ねた)フレーム側板に着脱自在に取り付けられていること D β-MAX2の送り出しローラー(下側ピンチロール)の軸受の態様がフレーム側板に別部材として取り付けられた係止部材の小さなU字溝(半円切欠部)であること しかしながら,上記AないしDは,以下のとおり,いずれも訂正後考案との対比において相違点となるものではない。
(ア) 糊桶について(A) 訂正後考案の糊桶は,実用新案登録請求の範囲に記載されているとおり,「本体部に内蔵された」ものであり,β-MAX2のように,糊桶が本体部と一体になって設けられていれば,「内蔵」にほかならず,両者は同一である。
被告も,「『内蔵』の辞書的意義は『内部に収蔵すること』である(広辞苑第4版)。したがって,辞書的意義からは,糊桶が本体から取り出せる場合と,本体から取り出すことができない場合の両者が含まれる。」(第11準備書面10頁)と主張している。ところが,被告は,当業界における通常の用語法なる概念を持ち出し,訂正後考案の構成は,糊桶が本体とは別体を構成し取り外すことができるものであると主張する。
しかし,糊付機の業界において,糊桶別体型のものを慣用的に内蔵型と呼び習わされていたことはないし,辞書における定義を離れて,訂正後考案の糊桶は本体と別体であるという被告の主張は,明らかに失当である。また,本件明細書の段落【0009】,図1及び図3の記載によれば,本件明細書には,糊桶が本体から取り出せる構成のものとしては記載されておらず,糊桶が本体と一体となっている形態のものが記載されていると理解すべきである。糊桶に関する被告の主張は,明細書の記載内容を離れたものである。訂正後考案において,「本体部に内蔵された糊桶」を「糊桶が本体部から取り出せる」ものに限定解釈すべき理由は全く存せず,また,訂正後考案において,「本体部に内蔵された糊桶」は,その構成自体極めて明りょうであって,これを限定解釈すべき理由はない。
(イ) 手動と自動の切替えについて(B) β-MAX2は,自動壁紙糊付機のほかに手動に切り替えることができる機能を有していても,モータにより連動して回転駆動される複数のローラーによりクロス原反を所定の経路に沿って移動させるものであり,訂正後考案と同一であることに変わりはない。
(ウ) 糊付けロールの軸受について(C) 訂正後考案の実用新案登録請求の範囲には,「前記糊付けロールが,フレーム側板に軸受され」とだけ記載されている。糊付けロールの軸受の形態としては,糊付けロールを糊桶のフレーム側板に軸受するものと,本体フレームに軸受するものがあり,実用新案登録請求の範囲に記載されたフレーム側板は,上記2態様を包含するものである。そして実用新案登録請求の範囲に記載された上記構成は,その構成自体極めて明りょうであって,これを,糊付けロールが本体フレーム側板に軸受されるものと限定解釈すべき理由は存しない。
訂正後考案において,図3によると,フレーム側板は,糊桶のフレーム側板を指しており,本体フレーム側板と解することはできない。また,β-MAX2の糊桶がフレーム側板を兼ねようと,糊付ローラーがフレーム側板に軸受されていることに変わりはない。
(エ) 下側ピンチロールの軸受について(D) β-MAX2において,送り出しローラー(訂正後考案の「下側ピンチロール」)は,フレーム側板に設けられたU字溝に軸受されており,U字溝は,フレーム側板と一体となって取り付けられた鋼材に設けられ,フレーム側板の一部を構成するものである。したがって,β-MAX2の構成は,「フレーム側板に設けられたU字穴によって軸受した」との訂正後考案の構成要件と同一である。
(1-2) 取消事由1-2(進歩性に関する認定判断の誤り) 訂正後考案は,前記β-MAX2の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり,進歩性を欠如するものである。したがって,訂正後考案は,独立登録要件を欠くものであり,これに反する審決の判断は誤っている。
(1-2-1) 審決は,「β-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送り出しローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,甲第3号証〜甲第4号証を総合したところで,それらには,本件考案の課題や目的でいうところの,モータによって各ロールを回転させながら洗浄する際に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険がないようにするという認識はない…」とした上,「β-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送り出しローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,そのβ-MAX2という糊付機に関しては,本件考案の課題や目的に関する認識が全くないのであるから,訂正後の本件考案は,そのβ-MAX2という糊付機の考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない。」と判断する。
(1-2-2) しかし,審決は,本件考案とβ-MAX2の構成の対比を全く行うことなく,本件考案の要旨外の事項である上記洗浄方法にのみ相違点を求めて容易性の判断を行ったものである。また,審決は,専ら,β-MAX2には,本件考案の課題や目的に関する認識がないと,ただ漠然と認識の有無のみをもって,訂正後考案には進歩性があると誤った判断をしたものである。
本件考案の洗浄方法は,下側ピンチロールを取り外して安全に洗浄できるというものであり,この点においてβ-MAX2と何ら相違せず,またβ-MAX2はローラーを取り外さずに,ローラーを回転させながら洗浄することも行われており,この点においても相違点は全くないのである。
すなわち,β-MAX2においては,送り出しローラー(下側ピンチロール)をU字穴から取り外せば,危険なローラー間隔をなくし,糊付ローラーとドクターローラーの洗浄を安全に行うことができるものであり,さらに,被告が認めているように,送り出しローラー(下側ピンチロール)とドクターローラーとの間に手指などが挟まれれば,送り出しローラー(下側ピンチロール)が浮き上がり,手指が巻き込まれるのを防止できる効果も有しているものであり,β-MAX2は,訂正後案の明細書(甲3)段落【0005】【0006】及び【0008】に記載された危険性をすべて解決できるものである。
(1-2-3) 被告は,危険性に対する認識が,β-MAX2の取扱説明書に記載されていないことを理由として,β-MAX2においては,危険性の認識はないとるる主張するが,上記のとおり,危険性を回避するという指摘が存在しなくても,β-MAX2は危険性を回避できる構成を備えたものであるから,それで十分であり,β-MAX2において危険性の認識がないことを進歩性の根拠とする主張は,明らかに失当である。
(2) 取消事由2(訂正事項(ロ)(ニ)の訂正を認めた判断の誤り) (2-1) 訂正事項(ロ)は,実用新案登録請求の範囲減縮を目的として,訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲の「入側ピンチロールの下側ロール」を「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり,前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり,しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており,前記糊付けロールが,フレーム側板に軸受され,前記下側ピンチロール」と訂正する,というものである。
訂正事項(ニ)は,明りょうでない記載の釈明を目的として,訂正前明細書の段落【0007】の「入側ピンチロールの下側ロール」を「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり,前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり,しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており,前記糊付けロールが,フレーム側板に軸受され,前記下側ピンチロール」と訂正する,というものである。
(2-2) 審決は,訂正事項(ロ)が実用新案登録請求の範囲減縮するものであると認定判断する。
しかし,その理由が全く示されておらず,理由不備の違法があるほか,訂正事項(ロ)は,訂正前の本件明細書に訂正前考案に係る事項として全く記載されていない事項を実用新案登録請求の範囲記載の構成に付加するものであるから,実用新案登録請求の範囲減縮するものとはいえず,審決には誤りがある。
(2-3) 審決は,訂正事項(ニ)が実用新案登録請求の範囲減縮に伴って生じた明りょうでない記載を釈明するものであると認定判断する。
しかし,訂正事項(ニ)は,訂正前の本件明細書には全く記載されていない事項を付加するものであるから,明りょうでない記載の釈明に該当するものとはいえず,審決には誤りがある。
(2-4) 審決は,訂正事項(ロ)及び(ニ)が願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであると認定判断する。
しかし,審決は,新規事項の追加禁止をいう法の適用を誤ったものであり,違法である。
(2-5) 審決は,訂正事項(ロ)及び(ニ)の訂正が実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるという請求人(原告)の主張には理由がないと判断する。
しかし,訂正事項(ロ)及び(ニ)のように構成を付加することは,訂正前の考案全般を通じての技術課題として記載されたものとは異なる作用効果を奏するものであるから,これらの訂正は,実用新案登録請求の範囲を変更するものであり,審決には誤りがある。
4 被告の主張の要点 (1) 取消事由1-1(訂正後考案の独立登録要件のうち新規性に関する認定判断の誤り)に対して (1-1) β-MAX2の構成は,次のように解すべきである。
(a) モータにより連動して回転駆動される複数のローラーによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部と一体 となった 糊桶内の糊を糊付ローラーにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する手動と自動 の切り替え型の壁紙糊付機であって, (b)@ 送り出しローラー(訂正後考案の「下側ピンチロール」)とドクターローラーは互いに回転方向が逆になるものであり, A 前記送り出しローラー(下側ピンチロール)とドクターローラーは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり, B しかも両ローラー間は内側に向かう回転方向となっており, (c) 糊付ローラーが,(糊桶の側壁 を兼ねた )フレーム 側板 に着脱自在 に軸受され, (d) 前記送り出しローラー(下側ピンチロール)を,フレーム側板 に別部材 として取り付けられた 係止部材 の比較的小 さな U字溝 (半円切欠部 )によって軸受したこと (e) を特徴とする手動と自動 の切り替え型の壁紙糊付機。
(1-2) 訂正後考案の構成とβ-MAX2の構成との対比 両者は,次のAないしDの4点で相違している。
A 訂正後考案においては糊桶が内蔵されており,本体から着脱が可能であるのに対して,β-MAX2は糊桶が本体と一体であって,本体から着脱できない。
B 訂正後考案は自動(専用)型の糊付機に関する考案であるのに対して,β-MAX2は手動型として使用することもできるし,自動型として使用することもできる手動・自動切替型の糊付機である。
C 訂正後考案においては,「糊付けロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に固定された状態で軸受されている構成であるのに対して,β-MAX2においては,「糊付ローラー」が糊桶の側板に直接に着脱可能に軸受されている。
D 訂正後考案においては,「下側ピンチロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴に軸受されている構成であるのに対して,β-MAX2においては,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)が糊桶の壁面(フレーム側板)の上部に付加された部材の半円切欠部(浅いU字穴)で軸受されている。
(1-2-1) 訂正後考案においては糊桶が内蔵されており,本体から着脱が可能であるのに対して,β-MAX2は糊桶が本体と一体であって,本体から着脱可能ではないという点について(A) 訂正後考案請求項1の「本体部に内蔵された糊桶」との記載は,糊桶が本体部の内部に収納(収蔵)され取り出しができることを意味するものである。
「内蔵」の辞書的意義は「内部に収蔵すること」である(広辞苑第4版)。したがって,辞書的意義からは,糊桶が本体から取り出せる場合と,本体から取り出すことができない場合の両者が含まれる。
しかしながら,訂正後考案は,壁紙の糊付機に関する考案であり,本件考案の出願時において,糊桶と本体の関係については,糊桶が本体から取り外せるか,取り外せないかであり,取り外せない構成については,一般的に本体と糊桶が一体を構成しているという意味で「一体型(糊桶本体一体型)」と呼び習わされており,糊桶が本体とは別体を構成し取り外すことができる構成のものは,「内蔵型(糊桶内蔵型)」と呼び習わされていたことに照らすと,訂正後考案においては,「本体部に内蔵された糊桶」は,辞書的意義にとどまらず,「糊桶が本体から取り出せる」と限定的に理解される。
実際に,本件出願の前から現在に至るまで,糊桶が本体とは別体を構成する場合(糊桶が本体と一体の場合を除くという意味)に,糊桶が本体に(辞書的意義において)「収蔵」されている糊付機で,糊桶が着脱できない機種は存在しない。
したがって,当業界における通常の用語法に従えば,訂正後考案における糊桶は,本体との関係において「内蔵」型と表現されるのであり,一方,β-MAX2における糊桶は,本体との関係において「一体」型と表現されるものである。
「内蔵」型においては,上記のとおり,糊桶は本体から取り出せるものであるから,本体とは別体を構成する。これに対して,「一体」型においては糊桶を取り出すことは予定されていないから,糊桶は本体と別体を構成する必要はなく,通常は,糊桶の壁面の一部が本体部の一部を構成する(そのため「一体」型と表現される。)。
β-MAX2においては,糊桶の壁面の一部が本体部の一部を構成しているから,まさしく「一体」型であり,この点で訂正後考案とβ-MAX2は相違する。
(1-2-2) 訂正後考案は自動(専用)型の糊付機に関する考案であるのに対して,β-MAX2は手動型として使用することもできるし,自動型として使用することもできる手動・自動切替型の糊付機であるという点について(B) 訂正後考案が自動(専用)型の糊付機に関する考案であることは,明細書の記載から明らかであるし,β-MAX2が手動・自動切替型の糊付機であることは,その取扱説明書(甲5)及びカタログ(甲4)からも明らかである。
切替型の糊付機が自動専用型の糊付機とは異なること,及び切替型の特性(特徴)がその他の構成と関連することにより,その技術が訂正後考案と相違することとなる。
β-MAX2における「送り出しローラー」(下側ピンチロール)の着脱機構(構成)は,手動と自動を切り替えて使用するために案出された構成であり,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)を着脱することができるという構成とすることによって,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)を取り付けたときは自動で使用できるようにし,取り外したときは手動で使用できるようにしているのである。
「送り出しローラー」(下側ピンチロール)が取り付けられているときは自動でしか使用できないということになるのであり,取り外しできない構成の場合は,その糊付機は自動専用型ということになる。つまり,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)があれば自動型であり,なければ手動型であるということになる。
したがって,手動型か自動型か切替型かの相違は,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)を糊付機の構成要素とするか,着脱可能な構成にするかを決するメルクマールであり,製造者の製造目的・意図を明らかにし,当該製品の構成を理解する上で,重要な構成上の相違点である。
(1-2-3) 訂正後考案においては,「糊付けロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に固定された状態で軸受されている構成であるのに対して,β-MAX2においては,「糊付ローラー」が糊桶の側板に直接に着脱可能に軸受されているという点について(C) β-MAX2においては,糊桶が本体と一体をなす,つまり,糊桶の壁面の一部が本体の一部を構成する結果,「糊付ローラー」は糊桶の側板に軸受されていることになる。
β-MAX2においては,「糊付ローラー」が糊桶の側板に軸受されているので,糊桶を洗浄するためには,糊桶は本体と一体に構成されていることにより,巨大なローラーである「糊付ローラー」を取り外して洗浄するほかない。つまり,β-MAX2において,「糊付ローラー」を着脱可能とする構成は必須の構成なのである。
過去の糊付機の開発経緯においても,糊桶本体一体型で「糊付けロール」が固定型の糊付機が存在しないことに照らしても,糊桶の洗浄が必要な糊付機において,糊桶本体一体型の構成の糊付機においては,「糊付けロール」を着脱可能とすることは必須の構成である。
一方,訂正後考案は,自動専用型であるから,本件出願時の自動専用型においては,標準的構成が「糊付けロール」が固定型で糊桶が着脱型の構成であったので,それを因習しているものである。
訂正後考案請求項1の「糊付けロールがフレーム側板に軸受され」との記載における「フレーム側板」は,糊桶が内蔵されている本体部のフレーム側板を意味するから,訂正後考案においては,「糊付けロール」は糊桶とは別体の本体フレーム側板に軸受されているのであり,糊桶の洗浄のために「糊付けロール」を取り外す必要はないことになる。
訂正後考案は,出願時,自動専用型の糊付機としてはロール(糊付けロール,下側ピンチロールを含む。)が固定型のものが一般的であるところ,わざわざ新たに「下側ピンチロール」を移動又は着脱可能とするために長穴又はU字穴で軸受する構成としたのであって,「下側ピンチロール」の軸受について「長穴又はU字穴で軸受」と規定しているのに対して,「糊付けロール」については,単に「フレーム側板に軸受され」と記載されているにすぎないから,一般的な自動専用型の糊付機の一般的な構成である固定型と解するのが通常であり,「糊付けロール」について着脱可能であると解釈するのは失当である。
被告としては,本件の訂正時に,「糊付けロールが,フレーム側板に軸受され」という構成を付加した訂正を行い,その構成により,「糊付けロール」が取り付けられた状態でモータ駆動で洗浄が行われる場合に,巻き込み事故が生ずるという問題点を指摘しているのであって,このような構成の糊付機であるからこその巻き込み事故という危険性の認識と,その回避手段を提供しているのである。
したがって,「糊付けロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に軸受されている構成であるか,「糊付ローラー」が糊桶の側板に着脱可能に軸受されている構成であるかは,訂正後考案の技術思想とβ-MAX2における技術思想を比較する上で,重要な構成上の相違点である。
(1-2-4) 訂正後考案においては,「下側ピンチロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴に軸受されている構成であるのに対して,β-MAX2においては,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)が糊桶の壁面(フレーム側板)の上部に付加された部材の半円切欠部(浅いU字穴)で軸受されているとの点について(D) β-MAX2における軸受部材が本体とは別部材であることは原告も認めているが,別部材が付加されていることについてその理由を明確にしない。
β-MAX2が別部材を付加して,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)を軸受していることは,β-MAX2の技術思想,開発経過を如実に示すものである。
β-MAX2は,糊桶本体一体型でロール着脱型の基本構成を備えているが,「糊桶本体一体型でロール着脱型」はそもそも手動型糊付機の一般的な構成である。ただし,手動型にはピンチロール(下側ピンチロール)は存在しない。したがって,手動型の糊付機を基本として自動型に変更するには,まず,ピンチロールを付加しなければならない。β-MAX2において,ピンチローラー(送り出しローラー)の取り付け部材が本体とは別部材とされていることは,まさに,β-MAX2が手動型を基本構成とする糊付機を変更して自動型との切替型としたという開発の経過を示すものである。
また,β-MAX2において,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)が半円切欠部(浅いU字穴)で軸受されていることは,手動型を自動型としても使用することができるようにするために,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)を取り付けることができるようにしたという切替型の開発経過を示すものである。
さらに,β-MAX2は糊桶本体一体型であるから,フレーム側板(つまり,糊桶の側板)に各ローラーが着脱自在に軸受されているのであり,別部材はフレーム側板を兼ねた糊桶側板の上部に設けられている。この点で糊桶とは別体のフレーム側板に軸受する訂正後考案とは異なる。
(2) 取消事由1-2(訂正後考案の独立登録要件のうち進歩性に関する認定判断の誤り)に対して (2-1) 訂正後考案は,ロールの洗浄時に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険のない,安全に洗浄することのできる自動壁紙糊付機を得ることを目的とする。
訂正後考案の出願時には,自動専用型の基本構成は,糊桶内蔵型でロール固定型であった。自動専用型で糊桶内蔵型の場合には,糊桶を本体から取り外すことができ,糊桶の洗浄のためにロールを取り外す必要がないので,糊桶の洗浄の目的で下側ピンチロールを取り外す必要はない。また,下側ピンチロール自体は,糊に直接触れないので,下側ピンチロールを洗浄するために下側ピンチロールを着脱可能な構成とする必要もない。逆に,ロールを着脱可能な構成とすることは,ロールの固定精度を低下させ,さらには,部品点数の増加などの問題が生ずる。
それにもかかわらず,訂正後考案があえて下側ピンチロールを着脱可能な構成としたのは,指の挟み込み事故の危険防止という,作業者にとって極めて有用な目的に基づく新たな考案なのである。
少なくとも本件出願前には,糊桶内蔵型でロール固定型の自動専用型糊付機において,指の挟み込み事故という問題点と,その危険性の回避という目的に関しては,全く認識されていなかったし,それを示唆するものも存在しなかった。
(2-2) β-MAX2では,「送り出しローラー」(下側ピンチロール)は,フレーム側板に別部材として取り付けられた係止部材の比較的小さなU字溝(半円切欠部)によって軸受されているので,着脱可能ではある。
しかし,送り出しローラー(下側ピンチロール)は,糊で汚れないので,基本的には洗浄の必要性がなく,また,洗浄するローラーは,糊が付着している糊付ローラーとドクターローラー等であるが,送り出しローラー(下側ピンチロール)を取り付けたまま洗浄すれば,洗浄水などが飛散して,送り出しローラーが汚れてしまい,一度濡らしてしまうと湿ってしまい,乾くまでに時間がかかるという難点もある。そこで,β-MAX2において,糊付ローラーやドクターローラーを洗浄する際に,モータを作動させながら洗浄することがあったとしても,その際には,送り出しローラー(下側ピンチロール)は取り外して洗浄することになる。そのような洗浄方法の場合には,送り出しローラーが存在しないので,送り出しローラーとドクターローラーとの間の危険な間隔自体が存在しないことになる。
仮に,無理矢理送り出しローラーを取り付けた状態で洗浄したとしても,β-MAX2においては,送り出しローラーは約10oほど浮き上がれば軸受から外れてしまうので,送り出しローラーとドクターローラーとの間の巻き込み事故は発生しない。
したがって,β-MAX2においては,ドクターローラーと送り出しローラー間の巻き込み事故の危険性の認識はなく,その解決手段としての具体的方策は何ら示唆されていない。
(2-3) 以上のように,訂正後考案における目的の重要性にかんがみれば,訂正後考案が,β-MAX2に基づいて極めて容易に創作できたものではなく,進歩性を有する考案であるとした審決の認定には,何らの誤りも存在しない。
(3) 取消事由2(訂正事項(ロ)(ニ)の訂正を認めた判断の誤り)に対して (3-1) 訂正事項(ロ)は,構成要件を限定する事項を付加する記載であるから,構成要件の直列付加(又は上位概念から下位概念への変更)に該当するものであり,実用新案登録請求の範囲減縮するものであるとした審決に誤りはない。また,審決の認定判断に理由不備の違法は存しない。
(3-2) 本件考案は,従来技術の改良であって,訂正事項(ニ)は,訂正後考案が当然に備える構成であり,各構成要件を明確にする意義もあるから,明りょうでない記載の釈明に該当するといい得るものであり,審決に誤りはない。
(3-3) 本件考案が従来技術の改良であり,従来技術における課題を解決するための技術的手段を提供するものであるから,訂正事項(ロ)(ニ)は,何ら新規な事項を付加するものではなく,願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであるとした審決の判断に誤りはない。
(3-4) 訂正前の明細書には,「ロールの洗浄をモータによる回転と共に安全に行うことができる」との記載があり,訂正事項(ロ)(ニ)とともに,いずれも洗浄時の安全性に着目した構成である。よって,訂正事項(ロ)(ニ)は,訂正前考案の目的に何ら反するものではなく,また異なる目的に合致するものでもないので,実用新案登録請求の範囲を拡張変更するものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1-1(訂正後考案の独立登録要件のうち新規性に関する認定判断の誤り)について (1) 証拠(甲4,5,8-5-1,8-5-2,14-1,14-3,21)及び弁論の全趣旨によれば,原告の製造販売に係る糊付機であるβ-MAX2の考案が,本件考案の登録出願日(平成4年5月14日)の前に日本国内において公然実施をされたものであることが認められる。
(2) 訂正後考案の独立登録要件のうち新規性に関する審決の認定判断の検討 (2-1) 審決は,次のように説示する。
「…甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,甲第3〜4号証を総合したところで,それらには,本件考案の課題や目的でいうところの,モータによって各ロールを回転させながら洗浄する際に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険がないようにするという認識はないものであり,このことは平成11年2月9日に特許庁審判廷において行われた証拠調べにおける証人AおよびBの証言とも一致するものであり,また,そのβ-MAX2という糊付機では,送リ出シローラーは本体側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝に係止されている点で訂正後の本件発明(注:「考案」の誤記と認められる。)と相違している。
してみると,甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機は,訂正後の本件考案と同一ではないし,また,β-MAX2という糊付機では,ナラシローラー,糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり,そのβ-MAX2という糊付機に関しては,本件考案の課題や目的に関する認識が全くないのであるから,訂正後の本件考案は,そのβ-MAX2という糊付機の考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない。」 (2-2) これによれば,審決は,訂正後考案とβ-MAX2との構成上の相違点として,「β-MAX2という糊付機では,送リ出シローラーは本体側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝に係止されている点」(被告主張に係る相違点Dと同じである。)のみを認定していることが明らかである。
なお,訂正後考案に関する全文訂正明細書(甲3に添付)によれば,訂正後考案は,「ロールの洗浄時に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険のない,安全に洗浄することのできる自動壁紙糊付機を得ることを目的とする。」(【0006】)ものであり,訂正後考案の構成により,「フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって下側ピンチロールを軸受したから,洗浄に際して下側ピンチロールを上方に移動させたり,または取り外したりすることができ,従って安全に洗浄ができる効果がある。」(【0022】)とされている。したがって,下側ピンチロールの軸受に関する構成が,訂正後考案の構成の中でも極めて重要な位置を占めるものであると認められるところ,審決は,この点を相違点として認定したものである。
また,糊付機の構成要素につき,訂正後考案においては「○○ロール」,β-MAX2においては「○○ローラー」と異なる呼称がされているが,両者間において,この呼称を理由とする技術的意義の違いは認められない。
(2-3) 上記相違点に関する審決の認定を検討する。
証拠(甲3ないし5,21)及び弁論の全趣旨によれば,訂正後考案の構成が「下側ピンチロールを,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受した」ものであるのに対し,β-MAX2の構成は,「送り出しローラー(下側ピンチロールに相当)がフレーム側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝(穴)に係止(軸受)されている」ものであることが認められる。
そして,上記証拠及び弁論の全趣旨によれば,β-MAX2においては,糊付機を軽量化するために,フレーム側板の高さを全体的に低く抑え,そのため送り出しローラー(下側ピンチロール)を係止するための係止部材(取付板)をフレーム側板に突設し,この取付板に軸受のためのU字溝(穴)を設けたものであることが認められる。そして,軽量化ということ以外に,上記係止部材(取付板)に軸受をするという構成を採ることによってもたらされる糊付機の機能として,特段のものが存在することをうかがわせる証拠はない。
一般に,ある構成部材を設計するに際して,一部材として構成するか,複数の部材を組み合わせたものとして構成するかは,設計事項に属するものと理解されるところ,上記認定事実によれば,下側ピンチロール又は送り出しローラーの軸受のためのU字溝(穴)が,直接フレーム側板に設けられているか,フレーム側板に取り付けられた取付板に設けられているかという差異であって,この差異によって糊付機の機能として特段のものが存在することをうかがわせる証拠はないのであるから,両者の差異は,単なる設計事項の範囲に属すべきものと認められる。なお,両者のU字溝(穴)の深さについて,図面上(甲2,甲5など)からは若干の違いがあるかのようにもみえるが,訂正後考案の全文訂正明細書(甲3に添付)でU字穴の深さについて特定されているわけではなく,これも設計事項の域を出ないものと認められる。
その余の点も含め,上記両者は,実質的に同一の構成であると認められるのであり,この点を相違点であると認定した審決には,誤りがあるというべきである。そして,審決は,その余の構成についての一致点及び相違点の認定判断をすることなく,直ちに訂正後考案新規性を肯定しているので,上記の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
(3) 当審においては,原被告双方とも,訂正後考案の構成とβ-MAX2の構成との相違点に関し,審決が審理判断しなかった点についても,相違点か否かをめぐって主張立証を尽くした経緯にかんがみ,これらの点に関する裁判所の判断を示すこととする。
(3-1) 被告は,訂正後考案の構成とβ-MAX2の構成との相違点として,前記のとおり,AないしDの4点を主張する。
そのうち,Dは,審決が相違点として採り上げた点であり,既に検討したとおりであるので,以下においては,AないしCの点について検討する。
(3-2) 糊桶の内蔵の点について(A) 被告は,相違点Aとして,訂正後考案においては糊桶が内蔵されており,本体から着脱が可能であるのに対して,β-MAX2においては糊桶が本体と一体であって,本体から着脱が不可能である点を挙げる。
検討するに,考案の要旨の認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,その記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書考案の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書考案の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものと解するのが相当である(最高裁第2小法廷判決平成3年3月8日・民集45巻3号123頁参照)。
そこで,訂正後考案の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載(甲3に添付の全文訂正明細書)をみると,「本体部に内蔵された糊桶内の…」となっている。この「内蔵」との語義は,「内部に収蔵すること」(広辞苑第4版)とされており(辞書的意義という限度で被告も認める。),「内蔵」という語が「着脱可能」又は「収蔵する本体から取り出せる」との意味を含むものとは解されない。したがって,実用新案登録請求の範囲の記載によれば,「本体の内部に収蔵された糊桶」ということにとどまり,それ以上の限定をする記載は存在せず,糊桶が着脱可能か否かを特定するものではないというべきである。以上は,一義的に明確に理解することができるものであり,この理解を前提とすることによって,実用新案登録請求の範囲の理解に矛盾等が生じることもない。したがって,被告主張のように,訂正後考案において,「糊桶が本体から着脱が可能である(本体から取り出せる)」との解釈をすることは,実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないものであって,許されない。
なお,念のため,上記全文訂正明細書考案の詳細な説明欄を参酌しても,「糊桶が本体から着脱が可能である(本体から取り出せる)」旨の記載は存在しないのであって,上記被告主張の解釈が許されないことは一層明白である。
被告は,訂正後考案の全文訂正明細書(甲3に添付)の段落【0009】,【0010】,【0003】,【0005】の記載から,糊桶と本体部とが別体であるとも主張する。しかし,【0009】,【0010】は一実施例の説明,【0003】,【0005】は従来例の説明にすぎない上,糊桶と本体部とが別体であるとしても,別体であることから直ちに着脱可能ということにはならない。
そして,被告は,当業界における通常の用語法に従えば,訂正後考案における糊桶は,本体との関係において「内蔵」型と表現され,「内蔵」型とは,糊桶が本体から取り出せるものであることを意味すると主張する。しかし,「内蔵」という語に「着脱可能」という意味を込めるという,通常の用語法から逸脱した用法をすることが,当業者の間で確立し,業界において被告主張のように一義的に理解されていることを認め得るような証拠はない。また,「内蔵型」と称することで,当然に,糊桶が本体から着脱可能な構成を意味するものと,当業者において一義的に理解されていることを認めるべき証拠もない。そもそも,考案の要旨認定は,前判示のとおりされるべきであり,これにより何ら問題なく一義的に理解可能なのであるから,被告の主張は,到底採用することができない。
そうすると,被告が主張する相違点Aの点は,実質的な相違点であるとは認められない。
(3-3) 自動(専用)型か手動・自動切替型かという点について(B) 被告は,相違点Bとして,訂正後考案は自動(専用)型の糊付機に関する考案であるのに対して,β-MAX2は手動型として使用することもできるし,自動型として使用することもできる手動・自動切替型の糊付機であるという点を挙げる。
検討するに,訂正後考案の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載(甲3に添付の全文訂正明細書)をみると,「自動壁紙糊付機」となっており,自動「専用」型である旨の記載はなく(念のため,考案の詳細な説明欄をみても同様である。),被告の主張は前提を欠く。また,β-MAX2が手動・自動切替型の糊付機であることは認められるが,いずれにしても,β-MAX2が「自動壁紙糊付機」として使用し得ることに変わりはない。
したがって,被告が主張する相違点Bの点は,実質的な相違点であるとは認められない。
(3-4) 糊付けロールの軸受態様の点について(C) 被告は,相違点Cとして,訂正後考案においては,「糊付けロール」が糊桶とは別体の本体フレーム側板に固定された状態で軸受されている構成であるのに対して,β-MAX2においては,「糊付ローラー」が糊桶の側板に直接に着脱可能に軸受されているという点を挙げる。
検討するに,訂正後考案の実用新案登録請求の範囲請求項1の記載(甲3に添付の全文訂正明細書)をみると,「糊付けロールが,フレーム側板に軸受され」となっているだけであり,被告主張のように「固定された状態で」軸受されている旨の記載はない。なお,「軸受」とは,「機械などで,固定部と回転部との間にあって回転部を支える装置」(広辞苑第5版)という意味である上,上記明細書に「糊付けロールが,フレーム側板に軸受され」という以上の限定を加える記載はないので,糊付けロールが固定された状態か着脱可能かは,特定されていないものというほかない。また,「フレーム側板」に軸受されているとの記載が,直ちに糊付けロールが固定されていることを意味することにはならない。被告の主張は前提を欠く。
被告は,実用新案登録請求の範囲の記載において,「下側ピンチロール」の軸受について「長穴又はU字穴で軸受」と規定しているのに対して,「糊付けロール」については,単に「フレーム側板に軸受され」と記載されているにすぎないから,一般的な自動専用型の糊付機の一般的な構成である固定型と解するのが通常である旨主張する。しかし,「下側ピンチロール」の軸受については,特に,「長穴又はU字穴で軸受」と記載されたからこそ,下側ピンチロールは,上方への移動ないしは着脱が可能との限定が加わったものと解釈し得るのであり,「糊付けロール」については,上記のとおり,特に限定する記載は何ら存在しないのであるから,着脱については特に限定がないと解するのが相当である。
(3-5) 最後に,被告は,糊付機の開発経緯などを説いた上,上記各相違点を相互に関連付けて構成されたものであるとの趣旨の主張をしているので,この観点からも検討しておく。
糊付機の開発経緯などに関する被告の主張の当否はしばらくおくとしても,訂正後考案の全文訂正明細書においては,糊桶の「内蔵」といっても本体から糊桶を取り外せるか否かは特定し得ず,「自動壁紙糊付機」といっても自動専用であるか否かは特定し得ず,「糊付けロールが,フレーム板に軸受され」ているといってもそれがフレーム板に固定されているか否かは特定し得ないことは,前判示のとおりである。これに加えて,同明細書を検討しても,「自動専用型の糊付機,糊桶が本体部から着脱可能,糊付けロールがフレーム板に固定」というように,これらの事項が相互に必然的に関連付けられたものとして構成されていることを示す記載は見いだせない。
よって,被告が相違点として主張する各要素について,全体的観点から改めて検討しても,被告の主張は採用の限りではないというほかない。
2 以上によれば,訂正後考案について,β-MAX2との対比において,独立登録要件としての新規性を肯定した審決の認定判断は誤りである。この誤りは,本件訂正を認めた審決の結論に影響を及ぼし,ひいては,本件訂正が適法であることを前提に,訂正後考案について登録無効事由を検討し,登録無効審判の請求は成り立たないとした審決の結論にも,影響を及ぼすものである。
よって,原告主張の取消事由1-1(訂正後考案の独立登録要件のうち新規性に関する認定判断の誤り)は理由があるので,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。
追加
【別紙】審決の理由平成10年審判第35147号事件号事件,平成11年6月23日付け審決(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.本件の経緯本件実用新案登録第2534772号は、平成4年5月14日に出願し、平成9年2月13日に設定登録されたものであって、その後本件審判事件において平成10年7月21日に訂正請求がなされたものである。
なお、本件実用新案登録については、平成10年3月25日に明細書の訂正を求める審判請求(審判平10-39021号)がなされたが、その審判請求については平成10年11月6日にその請求は成り立たないとする審決がなされその審決は既に確定している。
2.平成10年7月21日付の訂正請求の要旨(イ)実用新案登録請求の範囲減縮を目的として、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「移動させつつ、」と「糊桶内」の間に「本体部に内蔵された」を挿入する。
(ロ)実用新案登録請求の範囲減縮を目的として、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の「入側ピンチロールの下側ロール」を「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており、前記糊付けロールが、フレーム側板に軸受され、前記下側ピンチロールと」と訂正する。
(ハ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0007]の「移動させつつ、」と「糊桶内」の間に「本体部に内蔵された」を挿入する。
(ニ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0007]の「入側ピンチロールの下側ロール」を「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており、前記糊付けロールが、フレーム側板に軸受され、前記下側ピンチロール」と訂正する。
(ホ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0008]の「下側ロール回転伝達ギア」と「を孤立させて」の間に「としての駆動系ギア」を挿入する。
(ヘ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0010]の「壁装材すなわちクロスはクロスロール7に巻かれておりまた、本体部21には内部の糊桶23上で開閉可能な本体上部構体35が後面側で下部構造体にヒンジ接続されていて、クロス7は本体上部構体35と下部構造体との間に通されている。」を「壁装材すなわちクロスはクロスロール7に巻かれておりまた、本体部21には、
内部の糊桶23上で開閉可能な本体の上部構体35が、その後面側で本体の下部構体にヒンジ接続されていて、クロス7は本体の上部構体35と下部構体との間に通されている。」と訂正する。
(ト)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0011]の「本体部21」を「本体部21の下部構体」と訂正する。
(チ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0011]の「均しロール28は」と「フレーム側板37」の間に「、下部構体の」を挿入する。
(リ)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の段落[0013]の「本体部21」を「本体部21の下部構体」と訂正する。
3.請求人の主張請求人は、甲第1〜5号証を提出し、また、証人A、CおよびBの証人尋問を申請して、次のような主旨の主張をしている。
(3-1)本件考案は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1〜2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。(関連証拠方法;甲第1〜2号証)(3-2)本件考案は、本件考案の出願前に公然実施されたものである甲第3〜4号証に示されたフルチョイス糊付機βMAX2に係る考案と同一であるか、もしくは、それに基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから、本件考案は、実用新案法第3条第1項第2号に該当し実用新案登録を受けることができないものであるか、もしくは、同条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。(関連証拠方法;甲第3〜5号証、証人A、CおよびB)(3-3)訂正後の本件考案の「糊桶を本体部に内蔵する」という訂正事項は、訂正前の実用新案登録請求の範囲には記載されていない事項であって、そのような事項を構成要件として付加した訂正後の本件発明は、訂正前の本件考案によって達成する目的とは異なる新たな目的を達成するものであるから、そのような訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものである。
(3-4)「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており」という訂正事項は、願書に添付した明細書に記載されていない事項であり、新規事項を追加するものである。
(3-5)「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており」という訂正事項を構成要件とする訂正後の本件考案は、訂正前の本件考案と異なる新規な目的、効果を奏するものであるから、そのような訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものである。
(3-6)「前記糊付けロールが、フレーム側板に軸受され」という訂正事項は、
この種の自動糊付機において必須かつ周知の手段であって、そのような周知手段を単に付加する訂正は、実用新案法第39条第1項(正しくは、実用新案法附則平成5年法律第26号第4条第1項でなおその効力を有するとして同条第2項において「表」で読み替えて適用される旧実用新案法第40条第2項)の各号に掲げる事項を目的とするものではない。
4.訂正の適否4-1.訂正の目的4-1-1.上記(イ)の訂正について上記(イ)の訂正は、糊桶が本体部に内蔵されたものであることを規定したものであるから、実用新案登録請求の範囲減縮するものである。
4-1-2.上記(ロ)の訂正について上記(ロ)の訂正は、下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっていること、および、糊付ロールが、フレーム側板に軸受されれていることを規定したものであるから、実用新案登録請求の範囲減縮するものである。
そして、請求人は、上記(3-6)の主張をしているが、一般にこの種の自動糊付機において、糊付けロールがフレーム側板に軸受されることが必須でかつ周知の手段であるとしても、上記(ロ)の訂正における「糊付けロールが、フレーム側板に軸受され」という事項は、本件考案の自動壁紙糊付機においても、糊付けロールがフレーム側板に軸受されるということを明確に規定しているものであるから、上記の訂正は、実用新案登録請求の範囲減縮するものであり、また、「周知手段を単に付加する訂正は、実用新案法第39条第1項の各号に掲げる事項を目的とするものではない」という請求人の主張は、そもそも、それ自体合理性がないものであるから、上記(3-6)の主張は理由がない。
4-1-3.上記(ハ)および(ニ)の訂正について上記(ハ)および(ニ)の訂正は、上記(イ)および(ロ)の訂正に伴って、
[課題を解決するための手段]の欄の記載を訂正された実用新案登録請求の範囲に合わせるものであるから、実用新案登録請求の範囲減縮に伴って生じた不明瞭な記載を釈明するものである。
4-1-4.上記(ホ)〜(リ)の訂正について上記(ホ)〜(リ)の訂正は、考案の詳細な説明の中のそれに対応する記載をより正確に表現し直しただけのものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。
4-2.新規事項4-2-1.上記(イ)および(ハ)の訂正について上記(イ)および(ハ)の訂正事項は、本件明細書の段落[0009]の「図1は本考案の自動壁紙糊付機の一実施例の構成を示した説明図で、壁紙糊付機20は、脚部24で支えられた糊桶23内蔵の本体部21と、・・・」という記載に根拠があるものであるから、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものである。
4-2-2.上記(ロ)および(ニ)の訂正について上記(ロ)および(ニ)の訂正における「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており」という事項は、本件明細書の段落[0005]、
[0006]および[0007]の考案が解決しようとする課題、考案の目的および課題を解決するための手段の記載の流れからみて、段落[0005]の「この場合、上側の各ロール9,10,11をフレーム板の上半部と共にヒンジ接続により開いて、下側の各ロール6,7,8,10’を露出させ、洗浄のためにモータを駆動させ、各ロール6,7,8,10’を回転状態にすると、下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いに回転方向が逆になる。均しローラ8は糊付ロール8から充分な距離がある位置に設置してあるが、下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール7,10’間は内側へ向かう回転方向となっているので、モータによってロール6,7,10’を回転させながら洗浄をする際に、スポンジ、雑巾、手指等がロール7,10’間に巻き込まれてしまう危険があった。」という記載の、「下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いに回転方向が逆になる」、「下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり」および「しかも両ロール7,10’間は内側へ向かう回転方向となっている」という構成は、本件考案においても当然踏襲していることは明らかであるから、前記事項は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、「前記糊付けロールが、フレーム側板に軸受され」という事項は、本件明細書の段落[0020]や[0022]等に記載されているから、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、請求人は上記(3-4)の主張をしているが、上述のとおりであるから、上記(3-4)の主張は理由がない。
4-2-3.上記(ホ)〜(リ)の訂正について上記(ホ)〜(リ)の訂正は、その内容からみて、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであることは明らかである。
4-3.拡張変更4-3-1.上記(イ)および(ハ)の訂正について上記(イ)および(ハ)の訂正は、その内容からみて、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張したり変更したりするものでないことは明らかである。
そして、請求人は、上記(3-3)の主張をしているが、「糊桶を本体部に内蔵する」という事項を本件考案の構成要件として付加したところで、糊桶を本体から取り外して独自に洗浄できるという効果を奏する程度であって、「ロールの洗浄時に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険のない、安全に洗浄することができる自動壁紙糊付機を得る(本件明細書の段落[0006]を参照。)という本件考案の本来の目的を逸脱するような新たな目的が生じるわけではないから、訂正後の考案も訂正前の考案も目的においては軌を一にするものであり、「訂正後の本件考案は、訂正前の本件考案によって達成する目的とは異なる新たな目的を達成するものであるから、そのような訂正は、実用新案登録請求の範囲を変更するものである」という請求人の主張は採用することができない。
4-3-2.上記(ロ)および(ニ)の訂正について上記(ロ)および(ニ)の訂正は、その内容からみて、実用新案登録請求の範囲を拡張したり変更したりするものでないことは明らかである。
そして、請求人は、上記(3-5)の主張をしているが、本件明細書の段落[0005]、[0006]および[0007]の記載の流れからみて、上記(ロ)および(ニ)の訂正における「下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており」という事項を本件考案の構成要件として付加したところで、「ロールの洗浄時に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険のない、安全に洗浄することができる自動壁紙糊付機を得る(本件明細書の段落[0006]を参照。)という本件考案の本来の目的と異なる新たな目的や新たな効果が生じるわけではないから、「前記事項を構成要件とする訂正後の本件考案は、訂正前の本件考案と異なる新規な目的、効果を奏するものであるから、そのような訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものである」という請求人の主張は理由がない。
4-3-3.上記(ホ)〜(リ)の訂正について上記(ホ)〜(リ)の訂正は、その内容からみて、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張したり変更したりするものでないことは明らかである。
4-4.独立登録要件訂正後の本件考案は次のとおりである。
「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装材を所定の経路に沿って移動させつつ、本体部に内蔵された糊桶内の糊を糊付ロールにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において、下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり、前記下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており、前記糊付けロールが、フレーム側板に軸受され、前記下側ピンチロールを、フレーム側板に設けられらた長穴又はU字穴によって軸受したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」そこで、訂正後の本件考案の独立登録要件について上記(3-1)および(3-2)の主張に沿って検討する。
4-4-1.上記(3-1)の主張に関して甲第1号証(実公昭62-40701号公報)には、「糊付ローラおよびこの糊付ローラ上面に壁紙を圧接するための案内手段をそれぞれ備えた糊箱を支持台上に取付けた壁紙糊付機において、上記糊箱を支持台上の左右のブラケット間に前後揺動自在にピンで連結し、かつ上記のブラケットに上記糊箱を前下がりおよび後下がりの傾斜状に固定するための固定具を設けたことを特徴とする壁紙糊付機。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されているものの、甲第1号証には、下側送りローラ13Aを、フレーム側板に設けた長穴又はU字穴によって軸受することは記載されていないし、また、その壁紙糊付機は、モータによりローラを回転駆動させるタイプの自動壁紙糊付機であるのかどうか不明であり、さらに、下側送りローラ13Aとドクターローラ12の間隔が手指の太さより狭いものかどうかも不明である。
甲第2号証(実公昭59-25507号公報)には、「糊付ローラおよびドクターローラを備えた糊箱上に、上記糊付ローラの壁紙進行方向後方に位置する送出しローラと前方に位置する押さえローラとをそれぞれ回転自在に支架した上部枠を着脱自在に設け、かつ上記糊箱の左右の側板の後部にレバーを前後揺動自在に取付け、この左右のレバーの上端間に測長ローラを回転自在に支架して該測長ローラを上記送出しローラの後面にスプリングの弾力によって圧接させるようにしたことを特徴とする壁紙糊付機。」(実用新案登録請求の範囲第1項)が記載されており、
また、その第2欄32行から第3欄5行には、「以下にこの考案実施例図面によって説明する。糊箱1は、幅方向に長い長方形状に形成されると共に、下面に抹畳み自在の支脚(図示されていない)を備えており、その左右の側板1a、1a間に、前後方向(矢印P方向を前方とする)の中央に位置する糊付きローラ2および該糊付ローラ2の後面に接するドクターローラ3がそれぞれ回転自在に支架される。なお、1bおよび1cは、それぞれ糊付ローラ2の軸受2aおよびドクターローラ3の軸受3aが取り付けるための係止溝である。」と記載されており、その第2図や第3図を参照すると、その係止溝1b、1cは、U字形であることが明瞭に示されており、係止溝がU字形であることから、それらの係止溝1b、1cと軸受け2a、3aによって支架される糊付ローラ2およびドクターローラ3は、上方から取り外し可能であることが窺い知れるものの、その係止溝1b、1cは、それぞれ糊付ローラ2の軸受2aおよびドクターローラ3の軸受3aを取り付けるためのものにすぎず、また、その壁紙糊付機は、モータによりローラを回転駆動させるタイプの自動壁紙糊付機であるのか不明であり、しかも、糊箱の左右の側板の後部にレバーを前後揺動自在に取付け、その左右のレバーの上端間に測長ローラを回転自在に支架して、測長ローラを送出しローラの後面にスプリングの弾力によって圧接させるようにしているもので、その測長ローラは、本件考案でいう下側ピンチロールに相当するものではなく、その壁紙糊付機は、本件考案でいうところの下側ピンチロールというものを備えていない。
そして、甲第2号証には、本件明細書の段落[0005]の[糊付け作業が終了した際に次回の作業のために、糊桶3及び壁装材の下側に位置する各ロール6、
7、8、10’等に付着した糊をきれいに洗浄する必要がある。この場合、上側の各ロール9,10,11をフレーム板の上半部と共にヒンジ接続により開いて、下側の各ロール6,7,8,10’を露出させ、洗浄のためモータを駆動させ、各ロール6,7,8,10’を回転状態にすると、下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いに回転方向が逆になる。均しローラ8は糊付ロール8から充分な距離がある位置に設置してあるが、下側ピンチロール10’とドクターロール7は互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置してあり、しかも両ロール7,10’間は内側へ向かう回転方向となっているので、モータによってロール6,7,10’を回転させながら洗浄をする際に、スポンジ、雑巾、手指等がロール7,10’間に巻き込まれてしまう危険があった。」および段落[0006]の「本考案は、ロールの洗浄時に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれれる危険のない、安全に洗浄することのできる自動壁紙糊付機を得ることを目的とする。」という本件考案の課題や目的に関する記述もない。
そして、もともと手先の器用さが要求される壁紙糊付職人が、自動壁紙糊付機をモータを駆動させて洗浄する際に、雑巾だけならまだしも、手指が下側ピンチロールとドクターロールとの間に巻き込まれるという事故に見舞われれば、指を負傷したり、最悪の場合は指を失うことになり、その職を続けることができない事態になりかねないから、自動壁紙糊付機において、その構造を工夫してそのような危険を予め取り除こうとする本件考案の目的は、充分意義のあることと認められる。
してみると、甲第2号証から糊付ローラ2やドクターローラ3がU字形の係止溝によって上方から取り外し可能であることが窺い知れるとしても、訂正後の本件考案は、下側ピンチロールをフレーム側板に設けた長穴またはU字穴によって軸受したものであるから、訂正後の本件考案は、甲第1号証および甲第2号証に記載された考案を単に組み合わせたものではないし、また、甲第2号証には、U字形の係止溝が示されているとしても、本件考案の課題や目的に関する認識がないのであるから、訂正後の本件考案は、甲第1号証および甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとは認められない。
4-4-2.上記(3-2)の主張に関して甲第3号証は、極東産機株式会社が発行した「総合カタログ、インテリア業務用、No.3、p.23」で、それが本件考案の出願前に頒布されたことは、甲第3号証の奥付の昭和63年9月11日発行という記載や甲第5号証(昭和63年8月1日付の「室内装飾新聞」)から分かるものであり、それには、ベータマックスUという自動と手動兼用の糊付機についてが記載されており、その第23頁左下から中下には、「掃除のしやすさは手動糊付機並み-従来の自動糊付機のネックとなっていた掃除のしにくさは、手動糊付機と同じくローラー類を取り外すことにより解消されました。自動、手動ワンタッチ切換レバー、いざという時役立つ新機能…現場で作業中の停電。どうしても今日中に仕上げないとダメなのに自動糊付機しかない。手動の機械も欲しい…こんな経験、恐らく貴方もあるでしょう。ベータマックスU型があれば通常は自動(家庭用100V)で。現場で電気が使えない、停電した-自動車のバッテリー(DC12V)から、もしくは手動で。これ一台あればもう自動・手動と2台の機械を持歩く必要はありません。」と記載されその記事の上に糊付機の写真が示されている。
甲第3号証は、製造元である極東産機株式会社が作製したフルチョイス糊付機MB-U型、βマックス2の取扱説明書で、その第6図(第8頁)には、その糊付機のローラー配置が示されており、また、その第14図(第14頁)には、その糊付機のローラー支持構造が示されていて、第14図には、糊付ローラおよびナラシローラが本体側板に設けられた上部の角を斜めに大きく欠いてあるU字溝に係止され、矢印のように上方にはずれること、および、送リ出シローラーが比較的小さな浅いU字溝を有し本体側板に別部材として取り付けられた係止部材に係止され、矢印のように上方にはずれることが示されており、第6図のローラー配置からみて、
第14図では、図面上ドクターローラーが省略されていて、それは、糊付ローラーの右下側で、送リ出シローラーの左下側にあると解されるものの、第14図の左に「糊の掃除・機械の手入れ」として「糊の掃除は第14図の様に糊抜キ蓋を外して本体の残った糊を抜いて下さい。糊切(2)、ナラシローラー糊切り(1)糊付ローラー、送り出シローラーの順序で、本体より外して下さい。・・・注)各部品をセットする場合、外した逆の順序で行って下さい。・・・」と記載されていることからして、甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機では、ナラシローラー、糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり、甲第3〜4号証を総合したところで、それらには、本件考案の課題や目的でいうところの、モータによって各ロールを回転させながら洗浄する際に下側ピンチロールとドクターロールとの間に雑巾や手指が巻き込まれる危険がないようにするという認識はないものであり、このことは平成11年2月9日に特許庁審判廷において行われた証拠調べにおける証人AおよびBの証言とも一致するものであり、
また、そのβ-MAX2という糊付機では、送リ出シローラーは本体側板に別部材として取り付けられた係止部材の浅いU字溝に係止されている点で訂正後の本件発明と相違している。
してみると、甲第3〜4号証に示されるβ-MAX2という糊付機は、訂正後の本件考案と同一ではないし、また、β-MAX2という糊付機では、ナラシローラー、糊付ローラーおよび送リ出シローラーをすべてはずしてから洗浄を行うものであり、そのβ-MAX2という糊付機に関しては、本件考案の課題や目的に関する認識が全くないのであるから、訂正後の本件考案は、そのβ-MAX2という糊付機の考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない。
また、甲第1〜5号証および証人AおよびBの証言を総合しても、訂正後の本件考案がその出願の際独立して実用新案登録を受けることができないとする理由を発見しない。
4-5.訂正の認否上記4-1,4-2,4-3および4-4で述べたように、上記訂正は実用新案法附則平成5年法律第26号第4条第1項でなおその効力を有するとして同条第2項において「表」で読み替えて適用される旧実用新案法第40条第2項および第39条第2項、第3項の規定にそれぞれ適合するものである。
したがって、上記訂正は認める。
5.上記(3-1)および(3-2)の主張について上記(3-1)および(3-2)の主張は、訂正前の本件考案についてなされた主張であって、上記4-4の独立登録要件の項で既に検討したところであるし、また、上記4-5で述べたように本件実用新案登録については上記訂正を認めたから、上記(3-1)および(3-2)の主張については、もはや審及する必要がない。
6.結び以上のとおりであるから、審判請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、訂正後の本件考案に係る実用新案登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成11年6月23日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利