関連審決 |
無効2000-35664 |
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関連ワード | 考案 / 組合せ / 設定登録 / 請求項 / 実施例 / 容易に想到 / 特定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
257号
審決取消請求事件
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原告 高砂電器産業株式会社 訴訟代理人弁理士 鈴木由充,稲岡耕作 被告 日本ゲームカード株式会社 訴訟代理人弁理士 河野登夫,河野英仁 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/04/17 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が無効2000-35664号事件について平成14年4月9日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が実用新案権者である本件実用新案登録第2578564号「プリペイドカード処理装置」は,平成3年1月16日に実願平3ー4732号として実用新案登録出願され,平成10年5月29日にその考案について実用新案の設定登録(請求項の数1)がされた。 被告は,平成12年12月8日,本件考案について本件無効審判の請求をし(無効2000-35664),原告は平成13年5月2日訂正請求をした。 平成14年4月9日,本件審判について,「訂正を認める。実用新案登録第2578564号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決があり,その謄本は同月19日原告に送達された。 2 本件考案の要旨(訂正請求に係るもの。A以下の符号は審決が付したもの) A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において, B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と, C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と, D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と, E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と, F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と, G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と, H.前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし,前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部と を備えて成るプリペイドカード処理装置。 3 審決の理由の要点 (1) 本件考案の出願当時の技術水準及び周知技術 (1)-1 パチンコ等の遊技機の近傍にカード発行機及びカード処理機を設置することは本件出願当時の技術常識である。 これは,例えば,特開昭63-122483号公報(審判甲第3号証),実開昭52-164976号公報(審判甲第4号証),特開昭63-294878号公報(審判甲第5号証),特開昭63-24968号公報(審判甲第6号証)から明らかである。 殊に,特開昭63-122483号公報(審判甲第3号証)にあっては,遊技機の管理装置として,遊技機(20)の近傍に,カード処理機(30)とカード発行機(40)と制御部(50)を備え,貨幣及び紙幣の使用によるカード(10)の発行,カード(10)の貨幣価値の読取りによる貸球,及びゲームが行われるものが開示されている。 (1)-2 パチンコ遊技システムにおいて,所定金額を満たす場合にカードを発行することは周知の技術的事項である。 これは,例えば,請求人(被告)が提出した特公昭49-235号公報(審判甲第11号証),特開昭52-80934号公報(審判甲第12号証),特開昭52-143131号公報(審判甲第13号証),特開昭53-19235号公報(審判甲第14号証),特開昭61-143085号公報(審判甲第15号証),特開昭62-60578号公報(審判甲第16号証)から明らかである。 (2) 対比・判断 (2)-1 本件考案と審判甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案とを対比すると,審判甲第2号証における「パチンコ機(1a,1b)」「カード挿入口(7)」及び「カード読取装置(11)」は,それぞれ本件考案における「ゲーム機」「カード投入口」及び「カード読取器」に相当し,また,審判甲第2号証における「カード(21)」及び「カード式球貸機構」は,カード(21)に情報書込部(22)を有して発行時の金額などが書き込まれて発行され,使用時などに読み取られるものであるから,本件考案における「プリペイドカード」及び「プリペイドカード処理装置」に相当するものと認められる。 したがって,両者は,以下のとおりの一致点及び相違点を有する。(段落符号A〜H'は,便宜付加した。)(一致点)「A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において, E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と, F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と, G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と, H'.前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部と を備えて成るプリペイドカード処理装置。」(相違点) プリペイドカード処理装置として, 本件考案にあっては, B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と, C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と, D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と,を備え, H'.制御部が,前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし,前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とするものである,のに対し, 審判甲第2号証にあっては,そのようなプリペイドカードの発行機構は備えておらず,そのための制御部を具備するものではない点。 (2)-2 相違点について,以下検討する。 審判甲第1号証の記載における「コイン投入口(102),紙幣挿入口(103)」「紙幣識別器(111)」「電子カード」「カード発行装置(113),カード発行口(107)」及び「制御装置(114)」は,それぞれ本件考案における「貨幣投入口」「貨幣処理部」「プリペイドカード」「カード発行部」及び「制御部」に対応させることができるから,この審判甲第1号証(特開昭63-168195号公報)には,プリペイドカードの発行機構と持ち玉の追加購入機構を備えた,近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備される追加購入装置(100)が開示されており,その構成として, B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と, C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と, D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と, H'.制御部が,前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とする,ものが記載されていると認められる。 そして,審判甲第2号証に記載された考案のカード式球貸機構(プリペイドカード処理装置)と審判甲第1号証に記載された追加購入装置(100)は,いずれも近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備する球あるいはメダルの貸機構であり,貸球(貸メタル)装置として共通する技術であり,また貨幣及び紙幣の使用によるカード(10)の発行とカード(10)の貨幣価値の読取りによる貸球及びゲームに係わる審判甲第3号証等に見られる技術常識ないし周知技術を参酌すると,当業者においては,審判甲第2号証に記載された考案のプリペイドカード処理装置に審判甲第1号証に記載された上記プリペイドカードの発行機構を併せ備えるようになすことに,格別な困難性を要するものとは認められない。さらに,制御部について,一の装置の制御部に複数の制御機能を持たせることは自明の技術的事項であり,本件考案におけるように,「貨幣」と「プリペイドカード」を一の装置として取り扱うように構成するに当たっては当該制御部に複数の制御機能(すなわち,「貨幣」と「プリペイドカード」に係わる制御機能)を併せて具備させることも当業者が当然考慮する技術的事項であり,また,本件考案における制御部が「投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし,」となす技術的意義は,単に一方を「動作可能とせず」,すなわち,一方を動作させないものの他方は動作可能とするとの,排他的・選択的な動作を行わせることの趣旨であって,審判甲第2号証と審判甲第1号証との組合せに際し,制御部を排他的・選択的な動作の組合せとして構成することができないなど,両者の組合せに技術的困難性があるものとは認められず,制御部の制御機能として当業者が適宜に定め得る設計上の事項と認められる。 してみると,本件考案の構成は,審判甲第2号証に記載された考案のプリペイドカード処理装置に審判甲第1号証に記載されたプリペイドカードの発行機構を付加させることにより,当業者が極めて容易になし得るものと認められる。 また,本件考案が奏する作用効果も,審判甲第2号証及び審判甲第1号証に記載された考案のものが奏し得るそれぞれの事項に基づいて予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。 (3) 審決のまとめ 以上のとおりであって,訂正された本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案は,審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められ,訂正された本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録は,実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(審判甲第2,審判甲第1号証記載内容の認定誤り) 審決は,本件考案と審判甲第2号証とを対比して一致点,相違点を認定し,審判甲第1号証の記載内容を認定しているが,そこには誤りがある。 (1) 審判甲第2号証との対比について 審判甲第2号証は,パチンコ機のカード式球貸機構に関するもので,そこには,カードの投入を受け付けて隣接する特定のパチンコ機へ球貸を行い球貸機能部が記載されているが,この球貸機能部は,カード発行機能を具備しておらず,貨幣の投入を受け付けるようにもなっていない。 審決は,審判甲第2号証記載の考案との一致点として,「H'.前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部」を備えた点を挙げる。 しかし,本件考案の構成H.は,「貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし,前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部」を備える,というものであって,本件考案の制御部の構成と審判甲第2号証記載の考案の制御部とは一致していない。 本件考案の構成H.は,制御部による制御機能をカード発行部を動作可能とする条件とデータ送信部を動作可能とする条件とから規定したもので,全体でひとつの制御機能を示している。 例えば,データ送信部を動作可能とする条件は,「プリペイドカードが投入されたときのみ」であり,その前提として「貨幣の投入に対してはデータ送信部は動作可能としない」のである。 これに対して,審判甲第2号証記載の考案の制御部は,そのような制御機能を有するものでないから,本件考案の制御部に相当する構成を備えていない。 (2) 審判甲第1号証の記載内容について 審判甲第1号証は,持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置に関するもので,そこには,貨幣の投入を受け付けて持ち玉数の追加購入と電子カードの発行とを選択的に実行するようにした追加購入装置が記載されている。 この追加購入装置は,電子カードの投入を受け付けるものではなく,電子カードはパチンコ遊技機において受け付けるようになっている。 審決は,本件考案と審判甲第2号証に記載された考案との相違点について,審判甲第1号証には,「H'.制御部が,前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とするもの」が記載されている,と認定する。 しかし,審判甲第1号証に記載された追加購入装置は,貨幣の投入に対して持ち玉数の追加購入と電子カードの発行との双方を実行可能としたものであり,貨幣の投入に対してカード発行部のみを動作可能としたものではない。 これに対して,本件考案の制御部は,貨幣の投入に対してデータ送信部は動作可能とせずカード発行部は動作可能としたものであるから,本件考案の制御部の構成と審判甲第1号証に記載された追加購入装置の制御部の構成とは一致していない。 したがって,本件考案の制御部と審判甲第2号証に記載された考案の制御部との相違点が審判甲第1号証に記載されているとした審決の認定は誤りである。 2 取消事由2(組合せ容易性についての判断の誤り) 審決は,審判甲第2号証記載のプリペイドカード処理装置に審判甲第1号証記載のプリペイドカード発行機構を併せ備えるようになすことに格別な困難性を要するものではない,と判断するが,誤りである。 (1) 審決は,審判甲第2号証に記載された考案のカード式球貸機構と審判甲第1号証に記載された追加購入装置は貸球(貸メダル)装置として共通する技術であり,審判甲第3号証等に見られる技術常識ないし周知技術を参酌すると,審判甲第2号証記載の考案のプリペイドカード処理装置に審判甲第1号証記載のプリペイドカード発行機能を併せ備えるようになすことに,当業者が格別な困難性を要するものとは認められない,と認定した。 しかし,審判甲第2号証は,従来の技術(硬貨を用いる球貸機)との関係において,単に「硬貨」の使用の不都合について記載しているだけであり(審判甲第2号証1頁右下欄15〜19行),そこに記載のカード式球貸機構は,硬貨の回収,保管などの現金管理に必要な複雑な構成を回避した技術であって,本質的に貨幣を扱わないプリペイドカード処理装置である。本来,硬貨であれ,紙幣であれ,それが投入される装置には,硬貨や紙幣を判別して回収し,保管する機構が必要である。 遊技機と遊技機との間の狭いスペースに設置される装置には,貨幣の保管スペースを確保できず,遊技機の裏面側に貨幣を回収し保管する機構を付設しなければならない。審判甲第2号証のプリペイドカード処理装置はかかる不具合を解消するものであり,貨幣を扱わないことを本質とするものである。 現金(硬貨及び紙幣)使用の不都合を解消する審判甲第2号証の装置に審判甲第1号証のものを組み合わせあるいは適用することには阻害要因があり,当業者でも極めて容易に想到し得ることではない。 (2) 本件考案は,本質的に貨幣を扱わないプリペイドカード処理装置に,貨幣を用いることを不可欠とするカード発行機能をあえて具備させたものであり,従来,当業者が組合せを思い付かなかった装置を考案したのであるから,その組合せには技術的困難性がある。 本件考案においても貨幣を用いるものであるから,貨幣を扱わない審判甲第2号証の装置と,貨幣を用いる審判甲第1号証の装置との組合せに阻害要因はないとする審決の判断は,結果を知ってから組合せの難易を判断したものである。 (3) 審決は,審判甲第3号証等に見られる技術常識ないし周知技術を参酌するとしているが,具体的に何を指すのか明らかでない。 審判甲第3号証には,貨幣を受け付けてカードを発行するカード貸機とカードによる球貸処理を行うカード処理機とを設置することが記載されているので,審決は,遊技機の近傍でカードの発行と球貸とが受けられるようにすることが技術常識であると認定しているようである。 しかし,カード貸機とカード処理機とは別個独立したものである。審判甲第3号証に示されていることが技術常識であるとするならば,カード貸機とカード処理機とを別個独立させることも技術常識である。 したがって,審判甲第3号証は,審判甲第2号証記載のプリペイドカード処理装置(カード式球貸機構)にプリペイドカードの発行機能を具備させることを動機付ける要素とはなり得ない。 3 取消事由3(制御部を本件考案のように構成することが当業者の適宜定め得る設計上の事項と判断した誤り) 審決は,審判甲第2号証と審判甲第1号証との組合せに際し,制御部を本件考案のように構成することは当業者が適宜定め得る設計上の事項であると判断しているが,誤りである。 (1) 審決は,制御部について,一の装置の制御部に複数の制御機能を持たせることは自明の技術的事項であること,「貨幣」と「プリペイドカード」を一の装置として取り扱うように構成するに当たっては制御部に「貨幣」と「プリペイドカード」に係わる制御機能を併せて具備させることは当業者が当然考慮する技術的事項であること,本件考案における制御部の構成の技術的意義は単に排他的・選択的な動作を行わせることの趣旨であることを理由に挙げ,審判甲第2号証と審判甲第1号証との組合せに際し,制御部を排他的・選択的な動作の組合せとして構成することができないなど,両者の組合せに技術的困難性があるものとは認められず,制御部の制御機能として当業者が適宜定め得る設計上の事項と認められる,と認定する。 しかし,審決のこの認定は,審判甲第2号証と審判甲第1号証との組合せに技術的困難性があるかどうかについて,実体的な面から具体的な検討も加えずに,制御部の制御機能は当業者が適宜定め得る設計上の事項であるとするものである。 (2) 本質的に貨幣を扱わないプリペイドカード処理装置に,貨幣を用いることを不可欠とするプリペイドカード発行機能を具備させることは,当業者でも極めて容易に想到し得ることではないから,審判甲第2号証と審判甲第1号証とを組み合わせること自体に困難性がある。 仮に,単に審判甲第2号証と審判甲第1号証とを組み合わせたとしても,本件考案のH.の構成を導き出すことはできず,本件考案の制御部には技術的困難性があり,制御部の制御機能は当業者が適宜定め得る設計上の事項ではない。 (3) 審判甲第1号証記載の追加購入装置は,貨幣の投入を受け付けて持ち玉数の追加購入と電子カードの発行とを選択的に実行する,というものである。 したがって,仮に審判甲第2号証と審判甲第1号証とを組み合わせたとしても,貨幣の投入に対してデータ送信部とカード発行部とが動作可能となり,データ送信部はプリペイドカードの投入と貨幣の投入との両者に対して動作可能となる,という構成のものになるはずである。常識的に考えると,貨幣の投入に対してデータ送信部を動作可能とするのであれば,わざわざプリペイドカードを発行する必要はないはずである。 このことを考慮すれば,貨幣の投入に対してデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし,プリペイドカードの投入に対してのみデータ送信部を動作可能とする,という本件考案の構成は,当業者が極めて容易に想到し得るものでない。 (4) 本件考案は,プリペイドカード処理装置にカード発行機能を具備させることに加えて,貨幣の投入に対してデータ送信は行わずにプリペイドカードを発行するのみとすることによって,プリペイドカードの発行枚数と売上金額とが対応するようにし,遊技場における経理の透明性を実現している。このような本件考案の効果は,審判甲第2号証及び審判甲第1号証から極めて容易に予測できるものではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(審判甲第2,審判甲第1号証記載内容の認定誤り)について (1) 原告は,審判甲第2号証記載の制御部と本件考案の制御部とは一致していないのに,審決は両者を一致すると誤認していると主張する。そして,その根拠として,本件考案の構成H.は,制御部による制御機能を,カード発行部を動作可能とする条件とデータ送信部を動作可能とする条件とから規定したもので,全体でひとつの制御機能を示していると述べる。 しかしながら,審決は,審判甲第2号証記載の考案と本件考案との相違点を認定するに際し,原告指摘の本件考案の制御機能を,本件考案の制御部が備えるのに対して,審判甲第2号証記載のものはこれを(原告指摘の本件考案の制御機能を)具備するものでないと認定しているのであって,本件考案のH.に係る制御部による制御機能を,カード発行部を動作可能とする条件とデータ送信部を動作可能とする条件を備えるものと認定しているものではない。原告の主張は,審決の説示を正解しないものにすぎず,理由がない。 (2) 原告は,審決では,審判甲第2号証記載の制御部が備えていない「本件考案の制御条件」を,審判甲第1号証記載の制御部が備えていないのにもかかわらず,これを備えるものと誤認していると主張する。 しかしながら,審決で審判甲第1号証記載の制御部が備えるとした構成は,「H'.制御部が,前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とする」もの,すなわちいわゆるプリペイドカード発行機能部にとどまる。 したがって,審判甲第1号証記載内容の認定に原告主張の誤りはなく,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(組合せ容易性についての判断の誤り)について (1) 原告は,現金(硬貨及び紙幣)使用の不都合を解消する審判甲第2号証の装置の構成に,審判甲第1号証の本質的に貨幣を扱わないプリペイドカード処理装置の構成を組み合わせあるいは適用するのには,阻害要因があると主張する。 審決は,審判甲第2号証記載のものと審判甲第1号証記載のものを組み合わせることが極めて容易である根拠として,両者が「いずれも近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備する球あるいはメダルの貸機構であり,貸球(貸メタル)装置として共通する技術」であることと,貨幣及び紙幣の使用によるカードの発行とカードの貨幣価値の読取りによる貸球及びゲームに係わる技術常識ないし周知技術(審判甲第3号証等に見られるもの)を挙げている。 そこで,これら審判甲第1号証に記載されているところ,あるいは審判甲第3号証に記載され又は示唆されている技術常識ないし周知技術について検討する。 (2) 審判甲第1号証(甲第4号証)記載の「持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置」は,持ち玉記録式パチンコ遊技システムでは,景品カウンタの付近に配置されたカード発行機で持ち玉記録式カードを購入することが通常であることから生じる問題点を解消するために,パチンコ遊技中に持ち玉が0になった場合に,パチンコ遊技機から離れることなく,持ち玉の追加購入を行うことができるようにすることを目的とするものである(【従来の技術】【発明が解決しようとする問題点】【問題点を解決するための手段】)。 そして,この追加購入金額を指定するための追加購入金額指定手段の対人操作部分は,その目的に対応して,持ち玉記録式パチンコ遊技機の近傍に(パチンコ遊技機に隣接して,又はパチンコ遊技機の外枠の切欠部に)設けられたパネル上に配置されるものとされている(特許請求の範囲記載)。よって,遊技者は,遊技中の遊技機近傍に設けられた追加購入装置を利用して,席から離れることなく持ち玉を追加購入可能となる。 さらに,審判甲第1号証には,「第5図は本発明の実施例に係る持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置100の斜視図である。追加購入装置100はその前面パネル101に,・・・更に所望により電子カードを発行するカード発行口107・・・が配設される。」(3頁右下欄〜4頁左上欄)との記載,あるいは,「本実施例では,追加購入装置100が電子カード20の新規発行機能をも有する例を示すが,追加購入装置100は基本的には持ち玉数の追加購入を行うためのものであり,追加購入された持ち玉数はパチンコ遊技機1に伝達され,当該パチンコ遊技機1に接続されている電子カード20の記憶部20bに書き込まれる。」(4頁右下欄)との記載があり,遊技機近傍で,貨幣を用いて持ち玉購入とする主たる機能に加えて,電子カード自体の購入機能をも備えることが記載されており,審決が認定するように,「プリペイドカード発行機能」を備えることが記載されている。 このように,審判甲第1号証には,遊技機近傍に貨幣投入することで持ち玉を購入する必要性の背景及びこれに応えるべく遊技機に「プリペイドカード発行機能」を備えることが記載されている。 (3) 審判甲第3号証(甲第6号証)記載の「遊技機の管理装置」には,従来の遊技機の管理装置が,ホストコンピュータを前提とする大がかりなシステム構成であったことで遊技場規模に合わせたシステム構成が構築し難い問題点を解消することが目的として記載されている(「従来の技術」「発明が解決しようとする問題点」)。 そして,「遊技媒体の数を記録したカードを発行するカード貸機と遊技経過を記録するカード処理機とを遊技機に対応してその近傍または遊技機に設置」(特許請求の範囲)すること,制御部を遊技機の近傍に配したカード貸機あるいはカード処理機に設けて,遊技の処理の大部分をこの制御部で行うこと(「発明の効果」)が記載されている。 審判甲第3号証にはまた,遊技場規模に合わせる上で,ホストコンピュータを要しないシステムを構築すること,制御部を配するに際して,遊技機近傍に配することも考慮されること,さらに,制御部を配するに当たって,遊技機の近傍に配するカード貸機に配するかあるいはカード処理機に配するかは,採用するシステムの要請で適宜決定されることであることが記載されている。 (4) 以上のとおり,審判甲第1号証あるいは審判甲第3号証に,その必要性が明記されている以上,遊技機近傍にカード発行機能を備える装置を配する必要性の認識は,当業者にとって技術常識に属することということができる。したがって,審判甲第2号証記載のプリペイドカード処理装置に審判甲第1号証記載のプリペイドカード発行機能を併せ備えるようにする着想自体に格別な困難性があるものとはいえない。取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(制御部を本件考案のように構成することが当業者の適宜定め得る設計上の事項と判断した誤り)について (1) 制御装置を構成するに際して,独立した機能を備える装置を容積効率向上,コスト低減あるいは制御情報の共有を図るべく,共通する制御要素を併合して一体化する程度のことは,どの技術分野においても通常設計に際し検討されていることであって,この一体化を契機にそれまで備えられていなかった新たな機能が加えられる場合でなければ,設計事項に位置付けられるべきものである。 審決が「制御部について,一の装置の制御部に複数の制御機能を持たせることは自明の技術的事項であり,本件考案におけるように「貨幣」と「プリペイドカード」を一の装置として取り扱うように構成するに当たっては当該制御部に複数の制御機能(すなわち,「貨幣」と「プリペイドカード」に係わる制御機能)を併せて具備させることも当業者が当然考慮する技術的事項であり」,「審判甲第2号証と審判甲第1号証との組合せに際し,制御部を排他的・選択的な動作の組合せとして構成することができないなど,両者の組合せに技術的困難性があるものとは認められず,制御部の制御機能として当業者が適宜に定め得る設計上の事項と認められる。」と判断したのは,当業者の技術常識を前提とする設計事項であるとするものであって,そこに誤りはない。 (2) 原告は,本件考案は,プリペイドカード処理装置にカード発行機能を具備させることに加えて,貨幣の投入に対してはデータ送信は行わずにプリペイドカードを発行するのみとすることによって,プリペイドカードの発行枚数と売上金額とが対応するようにし,遊技場における経理の透明性を実現し得る格別な作用効果を期待し得るものである,と主張する。 しかしながら,この作用効果は,プリペイドカード発行装置とプリペイドカード処理装置が独立して存在していた従来技術において既に達成されていたものであって,これら各装置を制御装置として一体化した際において,その必要性を考慮して残したものであって,格別の作用効果とはいえない。これは,単に,カードを使用することを構成とする審判甲第2号証記載の「パチンコ機のカード式球貸機構」に,プリペイドカード発行機能を与える際に,当業者であれば当然に想起し得た程度のものというべきである。 (3) したがって,取消事由3も理由がない。 |
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結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |