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関連審決 審判1999-35693
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の認定 /  きわめて容易 /  先行技術 /  訂正の請求 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 463号 審決取消請求事件
原告 櫻護謨株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 河井将次
同 坪井淳
被告 帝國纎維株式会社
訴訟代理人弁理士 小川信一
同 斎下和彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/22
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が平成11年審判第35693号事件について平成12年10月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「保形ホース」とする実用新案登録第2513156号(平成3年2月22日出願(以下「本件出願」という。),平成8年7月9日設定登録(以下「本件登録」という。),以下「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。請求項の数は1である。)の実用新案権者である。
原告は,平成11年11月25日,本件登録を無効にすることにつき審判を請求し,特許庁は,これを,平成11年審判第35693号事件として審理したた。被告は,この審理の過程で,願書に添付された明細書(以下,願書に添付された図面と併せて「本件明細書」という。)の訂正の請求をした。特許庁は,平成12年10月13日に「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を平成12年11月8日に原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(訂正後のもの) 「剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて製織されたジャケットの内面に内張層をライニングすることにより構成される保形ホースにおいて,上記ジャケットとして綾織物を用い,該綾織物において複数本のモノフィラメント製緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成した保形ホース。」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件考案は,実願昭63-9066号(実開平1-113685号)のマイクロフィルム(甲第3号証,審判甲第1号証の1,以下,「引用例」という。)に比較例2として記載されている考案(以下「引用考案1」という。単に,「比較例2」ということもある。)であるとすることも,引用例の実用新案登録請求の範囲に記載された考案(以下「引用考案2」という。)であるとすることもできず,これらの考案並びに「織物組織 改訂版」(実教出版株式会社 昭和44年2月25日発行・甲第4号証,審判甲第2号証)及び「消防機器便覧」(東京消防機器研究会消防機器便覧編集局 昭和51年5月14日発行・甲第17号証,審判甲第3号証)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものであるとすることもできない,として,原告主張の無効事由をすべて排斥するものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本件考案と引用考案1及び同2との一致点・相違点は,次のとおりである。
引用考案1 (一致点) 「緯糸を用いて製織されたジャケットの内面に内張層をライニングすることにより構成される保形ホースにおいて,上記ジャケットとして綾織物を用い,該綾織物において複数本のモノフィラメント製緯糸の間を経糸が橋架けした綾目を有する保形ホース」(審決書7頁6行目〜9行目))である点 (相違点) 「本件の請求項1に係る考案(判決注・本件考案)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて綾織物とし,該綾織物において複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成してしている(判決注・原文ママ)のに対し,甲第1号証(判決注・甲第1号証の1の誤記と認める。)に記載された考案1(判決注・引用考案1)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント糸と,ポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・「糸条」の誤記と認める。)とを用いて綾織物としている点,また該綾織物のいずれの面がジャケットの内面になっているのか明らかでない点。」(審決書7頁11行目〜17行目) 引用考案2 「甲第1号証の1に記載された考案2(判決注・引用考案2)は,緯糸として,種類,直径の異なる表緯糸と裏緯糸を使用することを必須の要件とし,表緯糸と裏緯糸を交互に配置し,表緯糸と経糸とでよこ斜紋織組織(判決注・斜文織組織の誤記と認める。)で表組織を形成し,裏緯糸と経糸とでたて斜紋織組織(判決注・斜文織組織の誤記と認める。)を形成してホースのジャケットとしたものであり,本件の請求項1に係る考案の1種類の緯糸である剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて綾織物形成したホースのジャケットとは,その織物構造が相違している。すなわち,甲第1号証に記載された考案2は,その第1図に示されるように,直径の大きい表緯糸を表側に,直径の小さい裏緯糸を表緯糸とはずらした裏側に配置し,経糸は,表側では,直径の小さい裏緯糸,直径の大きい表緯糸,直径の小さい裏緯糸の間を橋架けし,裏側では,直径の大きい表緯糸,直径の小さい裏緯糸,直径の大きい表緯糸の間を橋架けするような綾目となっており,本件の請求項1に係る考案のように,複数本の剛性を有するモノフィラメント製緯糸の間を経糸が橋掛けした綾目とは,相違する」(審決書8頁34行目〜9頁8行目)
原告主張の取消事由の要点
審決は,引用考案1の認定の誤り,その結果,同考案と本件考案との間の一致点・相違点の認定を誤って,両考案間に実質的相違点があると認定し(取消事由1),仮にそうでないとしても,両考案の相違点についての認定判断を誤った(取消事由2)。これらは,それぞれ,審決の結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用考案1の認定の誤りに基づく相違点の誤認) (1) 織物組織について ア 審決は,引用考案1を,「直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・糸条の誤記と認める。)とを使用したよこ糸を用いて織成されたジャケットの内面に合成樹脂製のライニングを形成したホースにおいて,ジャケットとして1/2斜紋織組織(判決注・斜文織組織の誤記と認める。)を用いたホース」(審決書5頁16行目〜20行目)と認定した上,本件考案の織物組織と引用考案1の織物組織とは,よこ糸の構成が相違し,織物組織を異にすると認定している。
イ 引用考案1は,引用例の実施例,比較例1を参酌すれば,「よこ糸として直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸条を一つにしたものをよこ糸として使用し,1/2斜文織の筒状ジャケットで,その内面に合成樹脂がライニングされた保形ホース」と解されるものである。ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸を一体として打ち込んでおり,交互にあるいは別々のところに打ち込んでいるのではない。
すなわち,引用例では,実施例1及び実施例2について,表よこ糸及び裏よこ糸を交互打込みすることが明示されており,比較例1についても,「よこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条とを使用し,ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸とを同時に10cm間に38本打込んだ。」(11頁1行目〜5行目)と記載されている。引用例のこのような記載状況の下で,比較例2(引用考案1)だけが特段の理由もなく,よこ糸の打込み本数,打込み方法を特定していないとみることは極めて不自然であるから,比較例2に関する,「よこ糸として,比較例1と同様の糸条を使用し」(11頁12行目〜13行目)との記載は,比較例1のよこ糸の打込み方法まで引用したものと解すべきである。比較例2も同時打込みであって,交互打込みでないことは明らかである。
もっとも,この点は,審決も,「比較例1及び比較例2の記載からみて,ナイロンブリッスルと,ポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状とを1つのよこ糸としてたて糸に打ち込むものといえる」(審決書6頁37行目〜39行目)と認めているところである。
ウ このように,引用考案1においても,モノフィラメントとポリエステル長繊維糸を同時に打ち込んでいるから,同考案の織物組織は,本件考案の織物組織と異なるものではない。
「織物組織」とは,「繊維」(東京電機大学出版局 1988年12月20日発行・甲第6号証,以下「甲6文献」という。),「一般織物試験方法 JIS L 1096-1979」(昭和54年3月1日制定 日本規格協会発行・甲第5号証,以下「甲5文献」という。)から明らかなように,織物のたて糸とよこ糸との上下浮沈の交錯状態をいうものである。引用例が挙げる比較例2の織物組織は1/2綾織組織,本件考案の織物組織はよこ糸の間をたて糸が橋架けした綾目を有する1/2綾織組織であって,両者において,織物組織は同じである。
審決は,引用考案1は,本件考案と相違して,綾織物のよこ糸に,種類の異なる剛性を有するモノフィラメント糸とポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸条とを用いているから,織物組織を異にしているとするが,織物組織は織物のたて糸とよこ糸の上下浮沈の交錯状態をいうものであるから,よこ糸の種類の相違によって織物組織が相違するということはあり得ない。審決は,織物組織について,繊維学の基本を誤って判断したものであり,審決の認定は明らかに誤りである。
エ 被告は,乙第5号証を提出して,本件考案の綾織物と引用考案1の織物組織が相違するとした審決の判断は正当であるとしている。
しかし,甲5文献「6.試験方法 6.1組織」及び甲6文献「5・2・2の織物組織の表示」の記載から明らかなように,織物の組織図は,たて糸とよこ糸の組合わせ状態を示すための図であって,織物を構成するたて糸とよこ糸の組合わせ状態を示すものである。乙第5号証の2枚目上段の図面に示す織物の組織図を,甲5文献及び甲第6文献に従って示すと,乙第5号証2枚目の下段の図にはならず,同号証の1枚目下段の図になるものである。
したがって,本件考案の綾織物は,引用考案1の綾織物と,織物組織が同一である。
(2) 「橋架け綾目」がホースの内面になることについて ア 審決は,引用考案1について,引用例には,「複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目を保形ホースのジャケットの内面側になるように構成した点は何ら記載されていない。」としている。
しかし,引用例には,比較例2(引用考案1)において,「このたて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した」(11頁13行目〜16行目)と明確に記載されている。筒状のホースジャケットで,内面といえば,ホースの内側,すなわち表面の反対側の裏側を指すことは当業者の常識である。また,1/2斜文織は,よこ糸が表の面に多く現れ,その裏側は,たて糸が多く現れるものである。引用考案1は,この1/2斜文織の裏側,すなわち,たて糸が多く現れている側,換言すると「緯糸の間を経糸が橋架けした綾目」の側にライニングを形成したものであるから,ホースの内面になるのがジャケットのどちらの側であるかにおいて,本件考案と異なるところはないことが明らかである。
イ このことは,引用例の実施例1及び実施例2の記載を参酌することにより,より明らかである。
実施例1には,「たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本寄合わせた糸条を2本引揃え,これを152本使用した。
また,表よこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルを使用し,裏よこ糸として1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条を使用した。この表よこ糸及び裏よこ糸を交互にそれぞれ10cm間に38本打込んだ。
前記たて糸と,表よこ糸及び裏よこ糸とを,図面に示す横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)により,筒状に織成してジャケットとし,そのジャケットの内面に厚さ0.4mmの合成樹脂のライニングを形成して,ホースを得た。」(甲第3号証9頁13行目〜10頁6行目)と記載され,この状態は,第1図として図示されている。これらの記載及び図示によれば,実施例1のジャケットでは,合成樹脂のライニングが行われている「裏よこ糸」の側を「裏」とし,その反対側の「表よこ糸」側を「表」といっていることが明らかである。
表組織は「1/2斜文織組織」であることも,10頁1行目ないし3行目の「図面に示す横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)」から明らかである。実施例2についても同様である。
以上のように,引用例の実施例1,実施例2においては,織物の裏面を「ジャケットの内面」として,これに合成樹脂のライニングが行われていることが明らかである。
これを前提にしてみるときは,比較例2(引用考案1)でいうライニングを形成する「その内面」とは,1/2綾織物の裏面のことであることがより明らかとなるのである。
ウ そもそも,ジャケットのいずれの面が内面となっているか不明では,保形ホースそのものが特定できない。1/2綾織組織のライニング側を綾目とする保形ホースと,反対に非綾目側をライニングした保形ホースは,その内面の蛇腹形状が大きく異なって,その圧力損失も大きく相違することは当然である。引用例では,比較例2(引用考案1)の保形ホースを得て,その圧力損失試験,最小曲げ半径試験をして,その値を求めているのであるから,前提として,どの面にライニングしているかを決めていることは明らかである。
審決がいうように,比較例2(引用考案1)が,綾織物のいずれの面がジャケットの内面になっているか明らかでない,などということはあり得ない。
エ 被告は,乙1号証(消防機器便覧,東京消防機器研究会/東京法令出版株式会社,昭和59年7月15日発行 第4052頁。以下「乙1文献」という。)を挙げて,ホースを綾織にする場合,「たて糸が表2:裏1」とすることが常識であるといっている。しかし,これは「ゴム引きホース」についてのことであって,本件考案の保形ホースに適用されるものではない。ゴム引きホースから,保形ホースが除外されていることは,自治省令(甲第15号証:消防用ホースの技術上の規格を定める省令(平成12年9月14日改正自治省令第44号))から明らかである。本件出願時(平成3年2月22日),昭和62年3月改正自治省令第7号(甲第18号証)には,保形ホースに関する規定は存在しなかったが,保形ホースそのものは,自治省令第34条(基準の特例)によって型式承認されていた(甲第9号証の1:型式試験申請書(昭和63年11月9日,申請者,櫻護謨株式会社),第9号証の2:型式承認について(自治大臣坂野重信,消防許第83号,平成元年3月10日)参照)ため,既に製造されて市場で広く販売されていた(甲第9号証の3:消防・防災機器総合カタログ(桜ホース株式会社))。このように,本件出願当時,自治省令第2条で規定されている消防用ゴム引きホースには,保形ホースが含まれていなかったことが明らかであるとはいえ,保形ホースそのものは,特例承認製品とされ,既に製造されて市場で広く販売されていたのであり,その後,保形ホースの普及に伴って,保形ホースが特例承認製品から外され,一般の「消防用保形ホース」として自治省令第2条に規定されるようになり,消防用ゴム引きホースは,消防用保形ホースを除く,と規定されたのである。
(3) 引用考案1がよこ糸同時打込みの1/2斜文織のものであることは,引用例の試験結果を示す表,甲第16号証(試験成績書・社団法人日本船舶品質管理協会船舶艤装品研究所,平成13年7月30日発行),甲第23号証(試験成績書・SR-DL-D02070,櫻護謨株式会社,平成14年4月11日発行)及び甲第27号証(試験成績書・社団法人日本船舶品質管理協会,船舶艤装品研究所,平成14年5月17日発行)に示された,織物組織と圧力損失との関係からも明らかである。
審決は,引用考案1の認定を誤り,その結果,本件考案と引用考案1との一致点・相違点の認定において,一致点とすべきものを相違点とする誤りを犯している。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,本件考案と引用考案1とを対比して,「本件の請求項1に係る考案(判決注・本件考案)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて綾織物とし,該綾織物において複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成しているのに対し,甲第1号証(判決注・甲第1号証の1の誤記と認める。)に記載された考案1(判決注・引用考案1)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント糸と,ポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・「糸条」の誤記と認める。)とを用いて綾織物としている点,また該綾織物のいずれの面がジャケットの内面になっているのか明らかでない点」(甲第1号証7頁11行目〜17行目)で相違するとした上,これらの点につき,「甲第1号証の1(判決注・引用例)に記載された考案1(判決注・引用考案1)は,保形ホースのジャケットを織成する綾織物の緯糸として,種類の異なる,剛性を有するモノフィラメント糸とポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・糸条の誤記と認める。)とを用いることを必須の要件としており,甲第1号証(判決注・甲第1号証の1の誤記と認める。)に記載された考案1の緯糸を剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することについては,甲第1号証の1に何ら記載がなく,また,それを示唆するものもない」(審決書8頁5行目〜10行目)として,これを前提に,本件考案進歩性を肯定している。しかし,審決のこの認定判断は誤りである。
(2) 「複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目を保形ホースのジャケットの内面側にする」ことが,引用例に記載されていることは,1で述べたとおりである。
(3) 「緯糸を剛性を有するモノフィラメントのみで構成すること」は,当業者がきわめて容易に推考し得ることであった。
保形ホースにおいて,よこ糸を,剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することは,引用例に,先行技術(甲第26号証:特開昭59-106787号公報)として開示されている。したがって,よこ糸を剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することは,引用例に記載され,少なくとも示唆されていることは明らかであり,これにつき記載も示唆もされていないとした審決の判断が誤っていることは明らかである。
さらに,よこ糸をモノフィラメント糸のみで構成した保形ホースは,本件出願当時既に市場に出回っていたから(甲第9号証の1ないし3),保形ホースにおいてよこ糸を剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することは,本件出願時既に当業者にとって技術常識であった。
(4) 審決は,本件考案は,上記した構成により,引用例の記載事項からは予測することができない作用効果,即ち「ホース内面に蛇腹形状が発生しないようにする」(本件明細書【0014】),「放水時の水圧の損失が小さく,例えば消火の際の加圧送水装置などの負荷が小さい。」(本件明細書【0034】)などを有しているとしている。しかし,引用考案1の保形ホースにあっても,ホース内面に蛇腹形状が現れないために,作用効果において実質的に本件考案と同一である。
(5) 被告は,引用考案1は,本件考案と目的,構成,効果が相違すると主張しているが,その主張は,引用考案1を引用考案2の実施例1及び実施例2(二重織組織)と対比しているものであり,理由がないことが明らかである。
(6) 以上のとおりであるから,引用例に接した当業者が,本件考案の構成に想到することは,きわめて容易であるというべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用考案1の認定の誤りに基づく相違点の誤認)に対して (1) 引用例には,比較例2につき,「たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本撚合せた糸条を2本引揃えて151本使用した。またよこ糸として,比較例1と同様の糸条を使用し,このたて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した。」(11頁10行目〜16行目)とだけ記載されており,比較例1のよこ糸としては,「直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条とを使用し」と記載されているだけである。結局,引用考案1は次の構成から成るものである。
「たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本撚合わせた糸条を2本引揃えて151本使用した。またよこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸条とを使用し,このたて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した。」 この引用考案1の構成を,本件考案との関係で示すと, ア 使用よこ糸はナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸の2種の繊維からなる。
イ 経糸の橋架け綾目がジャケットの内面に位置することに関しては,引用例に一切記載がなく,その点の構成がどのようになっているかは不明である。
という2点において相違するものということになる。
(2) 織物組織の相違について ア 上記のとおり,本件考案で使用するよこ糸が,モノフィラメントだけからなるのに対して,引用考案1は,ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸の2種類の繊維を使用しているから,両者は明らかに使用するよこ糸が相違する。
のみならず,引用考案1は,2種類のよこ糸を交互に打ち込んでおり,織物組織においても異なるものである。
イ 原告は,引用考案1のよこ糸も実質的に1種類のフィラメントから構成されているとし,同考案が使用している2種類のよこ糸は同時に打ち込むことによって実質的に1本から成るとの主張をしている。
しかし,引用考案1について記述している引用例の第2頁〜第3頁の「従来技術」の説明では,従来のこの種のホースについて,次のように明記している。
「従来の技術 従来この種のホースとしては,特公昭51-38087号公報に記載されたものが知られている。このものは,天然又は合成繊維のたて糸に,針金又は剛直な線状体と天然又は合成繊維の糸条とをよこ糸として交互に織込んで,筒状に織成してジャケットとなし,当該ジャケットの内面又は内外両面にゴム又は合成繊維よりなる気密性のライニングを形成したものであって,軽く且つ柔軟で,リールに巻回したまま通水することのできる優れたホースである。
考案が解決しようとする問題点 しかしながらこの種のホースにおいては,ジャケットのよこ糸として針金又は合成樹脂の剛直な線状体と合成繊維糸とを交互に織込んでいるため,内面の凹凸が激しく,圧力損失が大きいという問題があった。」 ウ 引用例の上記記載は,従来の方法では,剛直な線状体(例えばナイロンブリッスル)と合成繊維(例えばポリエステル長繊維糸)とをよこ糸として使用する場合は,これらを交互に織り込んでいること,この方法では,交互織込みのためにホースの内面の凹凸が激しく,圧力損失が大きくなることを明言するものである。引用考案1も,同じ従来技術であり,しかも同じよこ糸を使用しているから,2種のよこ糸(ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸から成る。)を,上記の「従来技術」として記載されているよこ糸と同じく交互に織り込んだもの,と解釈するのが当然である。同時打込みと解する余地は全くない。
このように,引用考案1が,2種のよこ糸を使用し,かつ,それらを交互に打ち込んで別々の2種の緯糸として使用したものである以上,同考案と本件考案とは,使用するよこ糸が明らかに相違し,かつ,織物の組織も異なる,という以外にないのである。
エ 仮に,引用考案1において,2種のよこ糸を同時に打ち込んでいるとしても,やはり,同考案の織物の組織は,本件考案のそれと異なる。
上記のように理解された引用考案1のホースに相当するホースについての検甲第4号証の断面写真(乙第4号証)をみると,ほぼ円形状の大きい断面を呈しているのがナイロンブリッスルであり,そのナイロンブリッスルの一部外周面に接するように配置され,無視できない大きさの変形体が,ポリエステル長繊維糸を示している。そのポリエステル長繊維糸の変形体の厚みは,実測では約0.6mm〜0.9mmに分布していて,ナイロンブリッスルの直径(1.4mm)の約0.4〜0.6倍という無視できない大きさになっている。これらの写真を見て明らかなのは,いずれの断面写真も,ほぼ円形状の大きいナイロンブリッスルの周面に添って無視できない大きさのポリエステル長繊維糸の変形体が接しており,しかもこれらの二つの糸条は,それぞれが独立の糸条形態を維持して並んでいることである。ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸という異質の二つの材料が互いに対等に存在していることは明白である。すなわち,ナイロッブリッスルだけのものに比べて,よこ糸そのものが別異の二種類の糸条体が並んでいるという異なった外観を呈しているのである。
「繊維工学[W]布の製造・性能及び物性」(社団法人 日本繊維機械学会 昭和63年12月20日発行,甲第8号証)が,織物組織は「経糸と緯糸の組合わせ」であるというのであるから,「経糸と緯糸の組合せ」という構成のうちの一つの要素を構成する緯糸が上述のごとく明らかに相違すれば,当然に緯糸を要件の一つとする織物は,組織として相違することになることが明らかである。
審決が両者の織物組織が相違するとした判断は正当である。
オ 原告は,審決が引用考案1の綾織物は,本件考案のそれと緯糸の構成が相違し,両者の綾織物は織物の組織を異にする,と判断した点は誤りであると主張する。
しかし,両者の綾織物の組織が異なるとする審決の判断が正当であることは,乙第5号証を見ても明らかである。乙第5号証には,本件考案についての織物表面図と織物組織図を示し,さらに引用考案1のよこ糸(ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸)を同時に打ち込んだと仮定した場合の織物表面図と織物組織図を示している。両者の綾織物の組織が相違することは一目瞭然である。
(3) 「橋架け綾目が内面」とならないことについて 本件考案は,「ホースのジャケットとして使用する綾織物において,複数本のモノフィラメント製緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成した」ことによって,ホースの内面に蛇腹形状が現れないようにし,放水時の水圧損失を小さくした点を,特徴の一つとしている。
他方,引用考案1は,「橋架け綾目が内面」の構成については全く配慮していない。引用例には,引用考案1につき,「筒状に織成したジャケットの内面にライニングを形成する」との記載があるだけであって,そこでは,ジャケットのどちらの面を内面としたかということについては一切言及されていないのである。
そうである以上,引用考案1は,本件考案の構成のうちの「橋架け綾目が内面」という構成の具備をも欠くというべきであるから,この点においても本件考案と明らかに相違するということができる。
乙1文献の第4052頁には,「ホースにふつう使用されている綾織り(10.27図)の組織では,たて糸が表2:裏1の割合で現れるようになっていて,・・・」と記載されており,ホースのジャケットを綾織り組織とした場合は本件考案とは逆の構成を採用すると明記している。このような文献に,「橋架け綾目は外面」として使用するとはっきりと記述している以上,引用考案1における「ジャケットのどちらの面を内面とするか」について明らかにされていない場合においては,当然のことながら,従来知られている方法を採用するものと解するのが自然である。したがって,引用考案1は「橋架け綾目が外面」という構成を採用するものというべきであり,結局,本件考案の「橋架け綾目が内面」という要件を欠いているということができる。
この点を一致点としなかった審決の判断に,何ら誤りはない。
(4) 効果の対比 本件考案の〔考案の効果〕の項には, 「本考案の保形ホースは,ホースの内面に蛇腹形状が現れないため,放水時の水圧の損失が小さく,例えば消火の際の加圧送水装置などの負荷が小さい。」(甲第2号証の2 6頁9行目〜10行目) と明記され,放水時の水圧の損失を小さくすることが,その効果とされている。
これに対し,引用考案1は,引用例において,単に,引用考案2(実施例1及び同2)が圧力損失を小さくするという効果を奏することを強調するために,比較対象となる従来技術の例として示されたものにすぎず,その目的・効果について積極的な記載はない。しかし,引用考案1は,引用考案2(実施例1及び同2)に比べて圧力損失が大きいことが引用例の12頁の表で示されているから,明らかに圧力損失が大きいという効果を奏し,本件考案とは全く相違する効果を奏する考案であるということができる。
効果の点においても引用考案1は本件考案と明らかに相違する。
(5) 本件考案と引用考案1との総合対比 以上のとおり,本件考案と引用考案1との相違点の認定に関し,審決に何ら誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して 原告は,本件考案は,少なくとも引用考案1から当業者がきわめて容易考案することができるものである,と主張している。
本件考案が引用考案1に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものであると主張するためには,まず,引用例のどこかに本件考案を創出しようとするための動機づけとなる記載がなければならない。引用例の記載事項中に本件考案を創出しようとする動機づけとなる事項の記載,又は動機づけを誘引する何らかの客観的な記載がなければ,本件考案を創出しようとする動機自体が生じ得ない。そして,その動機自体がないときには,本件考案きわめて容易に創出されるはずはないのである。
引用例中の引用考案1に関する記載を見ても,前述のとおり,どこにも本件考案を創出するための動機づけとなるべき記載はない。このように,本件考案進歩性を論ずる場合の第一歩として求められる動機づけとなるものが,引用例の記載中にないのであるから,もともと,本件考案きわめて容易に創出し得たものであるか否かをそれ以上に検討する余地はないというべきである。
しかも,本件考案が,前記のとおり,引用考案1とはその構成において明らかに相違し,効果の点でも明らかに相違するものである以上,本件考案が当業者によってきわめて容易考案をすることができたとする論理構成を構築することは,全く不可能であるというほかない。
当裁判所の判断
1 本件考案の概要等 (1) 本件考案の概要は次のとおりである。
(実用新案登録請求の範囲) 「【請求項1】剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて製織されたジャケットの内面に内張層をライニングすることにより構成される保形ホースにおいて,上記ジャケットとして綾織物を用い,該綾織物において複数本のモノフィラメント製緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成したことを特徴とする保形ホース。」(甲第2号証の2 1頁4行目〜8行目) (考案の解決しようとする課題) 「【0009】 本考案は,内張層を厚くしたり多層構造にすることなしに,保形ホース内面の蛇腹形状の発生を抑制することにより,放水時の水圧の損失を防止し,消防用ホースとしての消化能力の向上を図ろうとするものである。」(甲第2号証の2 2頁11行目〜14行目) (課題を解決するための手段) 「【0011】 上記本考案の保形ホースは,ジャケットの組織を,従来広く用いられている,経糸と緯糸が1本ずつ交互に上下に交差している平織組織に代えて,経糸と緯糸がおのおの3本以上からなり,経糸の浮きが1本ないし複数本ずつ斜めにずれており,織物の表面に斜めのうねり状の線(綾目)がある綾織組織とするものである。
【0012】 従来の消防用ホースのなかには,ジャケットとして,綾織物を用いたものがある。しかし,これはあくまでホースの柔軟性を発現するために用いられ,綾織物の綾目がホース外面になるようにしたものである。
【0013】 これに対して,本考案の保形ホースは,綾織物の綾目がジャケットの内面になるように構成し,ジャケットの内面に内張層をライニングするものである。
【0014】このように構成することにより,断面が円形で,その径が比較的大きく,しかも剛性を有するモノフィラメント製緯糸の複数本の間を,経糸により橋掛けし,この上に,内張層をライニングすることにより,ホースの内面に蛇腹形状が発生しないようにするものである。」(甲第2号証の2 2頁17行目〜3頁10行目) (2) 本件考案が以上のようなものであることからすれば,本件考案の重要な構成は, ア ジャケットとして綾織物を用いること, イ 剛性を有するモノフィラメント製よこ糸を用いていること, ウ 上記綾織物において複数本のモノフィラメント製緯糸(よこ糸)の間を経糸(たて糸)が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成していること, というべきである。
2 引用考案1の内容 原告は,審決は,引用考案1の認定を誤り,その結果,本件考案と引用考案1との一致点・相違点の認定を誤ったものであると主張する。まず,引用考案1がどのようなものであるかについて検討する。
(1) 引用例には,比較例2(引用考案1)に関して,次のような記載がある。
実施例考案実施例として,次の構成により内径28mmのホースを製作した。
実施例1 たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本寄り合わせた糸条を2本引揃え,これを152本使用した。
また表よこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルを使用し,裏よこ糸として1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条を使用した。この表よこ糸及び裏よこ糸を交互にそれぞれ10cm間に38本打込んだ。
前記たて糸と,表よこ糸及び裏よこ糸とを,図面に示す横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)により,筒状に織成してジャケットとし,そのジャケットの内面に厚さ0.4mmの合成樹脂のライニングを形成して,ホースを得た。
実施例2 たて糸及び表よこ糸としては,前記実施例1におけると同様の糸を使用し,裏よこ糸として直径約0.8mmのナイロンブリッスルを使用した。そしてたて糸に対して表よこ糸及び裏よこ糸を交互にそれぞれ10cm間に38本打込み,図面に示す横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)により,筒状に織成してジャケットとし,そのジャケットの内面に厚さ0.4mmの合成樹脂のライニングを形成して,ホースを得た。
比較例1 たて糸として20番手のポリエステル紡績糸を6本撚合わせた糸条を2本引揃えて152本使用した。またよこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条とを使用し,ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸とを同時に10cm間に38本打込んだ。
前記たて糸とよこ糸とを平織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した。
比較例2 たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本撚合せた糸条を2本引揃えて151本使用した。またよこ糸として,比較例1と同様の糸条を使用し,このたて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した。
性能試験 以上の実施例及び比較例のホースについて,次の性能試験を行った。
圧力損失試験 長さ10mのホースの一端に内径10mmの放水ノズルを取付け,他端から200l/minの水を送水したときの,送水側と吐水側との圧力差を測定した。
最小曲げ半径 長さ約1mのホースを,手で折曲げてループを作り,キンクを起こす限界の曲げ半径を測定した。
試験結果 以上の試験の結果は,次頁の表に示す通りであった。
表圧力損失(kg/cm 2) 曲げ半径(mm)実施例1 1.1 80実施例2 1.1 120比較例1 2.1 400比較例2 1.9 380 (甲第3号証9頁9行目〜12頁17行目) 上記のとおり,引用例においては,実施例1及び実施例2は横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)であり,これに対して,比較例はいずれも一重組織であって,比較例1が平織組織,比較例2が1/2斜文織組織であるとされており,実施例及び比較例のホースについて,性能試験を行ったところ,圧力損失は,実施例1及び実施例2が小さく,次に比較例2が小さく,最も大きいのが比較例1であったことが示されている。
(2) よこ糸の打込み方法について 引用考案1におけるよこ糸の打込み方法について原・被告間に争いがある。しかしながら,審決は,この点について,「甲第1号証の1(判決注・引用例)に記載された考案1(判決注・引用考案1)の「1/2斜文織組織」が,「綾織物」を構成していることは,甲第2号証の記載からみても,当業者にとって明らかなことである。また,甲第1号証の1の「1/2斜文織組織」は,甲第1号証の1に記載された比較例1及び比較例2の記載からみて,ナイロンブリッスルと,ポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・糸条の誤記と認める。)とを1つのよこ糸としてたて糸に打ち込むものといえるから,その織物の一方の面は,2つのよこ糸の間をたて糸が橋架けした綾目となっていることは,甲第1号証の1に従来技術として例示され,また,請求人により提出された参考文献1(特公昭51-38087号公報)(判決注・甲第14号証を指す。)の記載を参酌するまでもなく,当業者にとって明らかなことである(なお,この点についての被請求人の主張は認められない)。」(審決書6頁34行目〜7頁5行目)と認定し,これを前提に論を進めて結論に至っているものであるから,審決の認定判断の誤りを理由にその取消しが求められている本訴において,この点についての被告の主張を採用する余地はないと解するのが相当である。
念のために,この点について検討してみると,以下のとおりである。
ア 上記のとおり,比較例1には,よこ糸について「直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維を3本撚合せた糸条とを使用し,」と記載され,打ち込み方法について「ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸とを同時に10cm間に38本打ち込んだ」と記載されている。これに対し,比較例2に関しては,よこ糸について,「比較例1と同様の糸条を使用し」とのみ記載され,それ以上の説明はないから,文言上,比較例2に関しては,打ち込み方法についての記載はないと解する余地もある。しかし,実施例1,実施例2及び比較例1に関しては打ち込み方法の記載があって,これらが特定されていることからは,比較例2のみ打ち込み方法の特定がないのは不自然である。のみならず,そもそも,実際に製品を製作して性能試験をする以上,比較例2のみ打込み方法が特定されていないなどということは本来あり得ないことというべきである。比較例2において,打ち込み方法が特定されていないと解すべきではない。
そこで,どのような打ち込み方法が記載されていると解すべきであるか検討する。引用例では,そこで出願対象とされている考案(引用考案2)の作用として,「ジャケット1の表よこ糸3と裏よこ糸4とが交互に配置され,且つこれらとたて糸5とがよこ二重織組織で織成されているため,裏よこ糸4が表よこ糸3よりも比較的裏寄りに位置することとなり,しかもこの裏よこ糸4は柔軟な合成繊維糸又は細い針金若しくは合成樹脂の線状体よりなるので,当該裏よこ糸4が表よこ糸3の裏面よりの隙間を埋めるような状態となる。
・・・したがって,ジャケットの裏面は極めて平坦となり・・・」(7頁13行目〜8頁13行目)と述べ,その作用効果を生み出す要素の一部として,二種類のよこ糸を採用し,これを交互に配置すること,かつよこ二重織組織を採用することを挙げている。そして,これと対比する比較例1として,2種類のよこ糸を用いる点は共通しつつ,「異なるよこ糸を同時に打ち込む」,「平織組織」のものを挙げている。そうすると,比較例2としても,2種類のよこ糸を用いることを共通点としつつ,よこ糸の打込み方法と織組織を引用考案2と異にするもの,すなわち,「異なるよこ糸を同時に打ち込む」,「1/2斜文織」のものを採用していると解すべきである。
イ 被告は,引用例の第2頁〜第3頁の「従来技術」の説明では,従来のこの種のホースについて,従来剛直な線状体(例えばナイロンブリッスル)と合成繊維(例えばポリエステル長繊維糸)とをよこ糸として使用する場合は交互に織り込むと明記し,交互織込みのためにホースの内面の凹凸が激しく,圧力損失が大きくなると明言しているところから,引用考案1も同じ従来技術であり,しかも同じよこ糸を使用しているから,引用考案1は2種のよこ糸を交互に織込んだものと解釈するのが当然であり,同時打込みと解する余地は全くない,と主張している。
しかし,引用例の中に,従来技術の一つとして,交互打込みのものが開示されていることは,引用考案1が交互打込みのものであることを当然に基礎付けるものではない。引用例の実施例以下の記載で,上記「従来技術」により製造された保形ホースを,同号証の考案との比較対象とするべきことは,何ら記載されていないのである。
引用例で従来技術として挙げられているのは,特公昭51-38087号公報であり,この特許公報(甲第14号証)で実施例として挙げられているのは,2種のよこ糸を交互に打ち込んだ平織組織と,同時に打ち込んだ(厳密には,合成繊維等のよこ糸を打ち込み,再度同一箇所に針金を打ち込む)2/1斜文織組織である。これによると,「交互打込み」という語は,「別々の」場所に2種のよこ糸を打ち込むことのみを意味するものとはされていないことになる。2種のよこ糸を「別々の」場所に打つ交互打込みのみが,引用例の成立当時,保形ホースの従来技術であったとは,必ずしも認められないのである。
(3) ジャケットのいずれの面がホースの内面になるかについて ア 比較例2(引用考案1)についての引用例の「たて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その内面に0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した」との記載は,引用例の,実施例1についての「前記たて糸と,表よこ糸及び裏よこ糸とを,図面に示す横二重織組織(表組織1/2斜文織組織,裏組織2/1斜文織組織)により,筒状に織成してジャケットとし,そのジャケットの内面に厚さ0.4mmの合成樹脂のライニングを形成して,ホースを得た」との記載と第1図とを参酌すれば,同考案は,1/2斜文織組織の裏面にライニングを形成したものであることを示すことが,明らかである。すなわち,横二重織組織である実施例においては,1/2斜文織組織を「表組織」としてこれを基準としつつ,その裏側(すなわち,たて糸が2本のよこ糸の上に浮かび,1本のよこ糸の下に沈むことを繰り返す面)をホースの内面として,それにライニングを施す,としているものであるから,比較例2についての記載も,1/2斜文織を基準として,その裏側をホースの内面とし,それにライニングを施したもの,と解するのが合理的な読み方というべきである。
イ これに対して被告は,乙1文献(「改訂新版 消防機器便覧」)を挙げて,比較例2(引用考案1)のように「ジャケットのどちらの面を内面とするか」について記載がない場合には,従来知られている,「橋架け綾目は外面」を採用するものと解するのが自然である,と主張している。
同文献(昭和59年7月15日発行)は,「日本のホース規格では,合成ゴム以外の各種合成樹脂を内張り材に用いたものも,「ゴム引きホース」と言う呼称になっている。」(4051頁右欄24行目〜26行目)として,「ゴム引きホース」が何を指すかについて,公的な規格により決めることを前提としつつ,「現在日本で使用されているホースとしては,全合繊ジャケット(特にポリエステル繊維)のゴム引きホースが圧倒的に多い。・・・ホースにふつう使用されている綾織(10.27図)の組織では,たて糸が表2:裏1の割合で現われるようになつていて・・・」 と述べている。これらの記載から,乙1文献は,公的規格におけるゴム引きホースの一般的な構造について述べたものと解すべきである。
他方,本件出願日(平成3年2月22日)の約1年後に改正された自治省令では,その2条で, 「一 消防用ホース 消防用ゴム引きホース,消防用麻ホース,消防用濡れホース及び消防用保形ホースをいう。
二 消防用ゴム引きホース ジャケットにゴム又は合成樹脂の内張りを施した消防用ホース(消防用濡れホース及び消防用保形ホースを除く。)・・・ 五 消防用保形ホース ホースの断面が常時円形に保たれる消防用ホースをいう。」 としており,明確に,消防用ゴム引きホースの中には,消防用ゴム保形ホースは含まれないとしている。
消防用保形ホースを定義した上記自治省令は,確かに本件出願後のものである。しかし,昭和62年3月改正の自治省令では,そもそも消防用保形ホースそのものが,自治省令の中に規定されていなかった。
したがって,少なくとも,消防用保形ホースが,消防用ゴム引きホースの中に含まれると,一般に理解されていたと理解することについては,大きな疑問が残るのである。
(甲第15号証,第18号証,乙第2号証) ウ もっとも,甲第20号証中の「消防用ホースの特例基準(案)」(62.12.05 消火装置課)には,「(適用範囲)第1 この技術上の規格は,消防用ゴム引きホースのうち,ループ状に巻き取るものであり,かつ巻き取り状態で円形状の通水断面積を保持するものに適用する。」との記載があり,また甲第21号証の「基準の特例承認について」(消防許第40号 昭和63年2月3日 自治大臣)には,「第1条 この基準は,消防用ゴム引きホースのうち,消防法施行令第11条第3項第2号に規定する2号消火栓又は第12条第2項第8号に規定する補助散水栓のホースリール式に用いられる消防用ホースで,円筒形状等のホース収納装置に巻き取って収納するものであり,かつ,収納状態でジャケットにより円形状の通水断面積を保持する呼称25のもの(以下「ジャケット保形ホース」という。)に適用する。」との記載があり,これらは,消防用保形ホースが,消防用ゴム引きホースの中に含まれる,と考えられていたことを裏付ける余地のあるものである。
しかし,これらは,消防用ホースの特例基準の案及び承認された特例基準であるにすぎず,しかも,前記認定のとおり,結局,自治省令では,消防用保形ホースは,消防用ゴム引きホースの中に含まれないとされているのである。また,このような特例基準が定められたこと自体,消防用保形ホースが,従来からあった消防用ゴム引きホースとは異なる構造を有するものと理解されていた証左でもある。
甲第20号証及び同第21号証の上記記載をもってしても,消防用保形ホースが,消防用ゴム引きホースと構造等が同じになるとの理解が一般的であったと認めることはできないのである。
エ 以上のとおりであるから,乙1文献に示されている「ゴム引きホースにおいて橋架け綾目は外面とする」ことが常識であったとしても,この常識を保形ホースに適用し,その結果,引用例の記載についての 前記自然な解釈を覆すに足りるほど,「保形ホース」が「ゴム引きホース」に含まれるとの理解が一般的であったと認めることはできない。
この点に関する被告の反論は,採用することができない。
(4) 以上のとおりであるから,引用考案1は,「たて糸として,20番手のポリエステル紡績糸を6本撚合せた糸条を2本引揃えて151本使用し,よこ糸として直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸条とを使用し,ナイロンブリッスルとポリエステル長繊維糸とを同時に10cm間に38本打ち込んで,たて糸とよこ糸とを1/2斜文織組織により筒状に織成してジャケットとし,その裏面を内面とし,これに0.4mmの合成樹脂のライニングを形成した保形ホース」であるものと認められる。
3 一致点・相違点の認定について 審決は,本件考案と引用考案1とを対比して,「本件の請求項1に係る考案(判決注・本件考案)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント製緯糸を用いて綾織物とし,該綾織物において複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成しているのに対し,甲第1号証(判決注・甲第1号証の1の誤記と認める。)に記載された考案1(判決注・引用考案1)は,緯糸に剛性を有するモノフィラメント糸と,ポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状とを用いて綾織物としている点,また該綾織物のいずれの面がジャケットの内面になっているのか明らかでない点」(甲第1号証7頁11行目〜17行目)で相違するとしている。
引用考案1が,1/2斜文織組織により筒状に織成したジャケットの内面に合成樹脂のライニングを形成した保形ホースであり,1/2斜文織組織の裏面が内面となっていることは,前記認定のとおりであるから,「綾織物のいずれの面がジャケットの内面になっているのか明らかでない」との認定は誤っており,「綾織物において複数本の緯糸の間を経糸が橋架けした綾目がジャケットの内面になるように構成している」点は相違点ではなく一致点である。審決の上記認定のうち,この点に関する部分は,引用考案1の認定を誤ったことに基づく誤りである。
原告は,審決が,本件考案の織物組織と引用考案1の織物組織とは,よこ糸の構成が相違し,織物組織を異にすると認定している点について,本件考案の織物組織は,引用考案1の織物組織と相違するものではないから誤りであると主張している。しかし,審決は,本件考案と引用考案1とでは,「緯糸の構成が相違しており,両者の綾織物は織物の組織を異にする」(審決書8頁11行目〜12行目)と認定しているものであり,前記「織物組織を異にする」との認定は,単に緯糸が相違することを意味しているにすぎないものと解するのが相当である。したがって,この点について,審決に誤りがあるということはできない。
4 相違点についての認定判断(進歩性の判断)の適否について (1) 原告は,審決が,相違点についての認定判断において,引用考案1の綾織物のよこ糸を剛性を有するモノフィラメントのみで構成したものとすることは,引用例に記載も示唆もないとしているのは,誤りである,と主張している。
審決は「甲第1号証の1(判決注・引用例)に記載された考案1(判決注・引用考案1)は,保形ホースのジャケットを織成する綾織物の緯糸として,種類の異なる,剛性を有するモノフィラメント糸とポリエステル長繊維糸を3本撚合わせた糸状(判決注・糸条の誤記と認める。)とを用いることを必須の要件としており,甲第1号証(判決注・甲第1号証の1の誤記と認める。)に記載された考案1の緯糸を剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することについては,甲第1号証の1に何ら記載がなく,また,それを示唆するものもない」(審決書8頁5行目〜10行目)と判断している。
(2) 引用例の比較例1及び比較例2(引用考案1)において,よこ糸として,直径約1.4mmのナイロンブリッスルと,1500dのポリエステル長繊維を3本撚合せた糸条を用いているのは,実施例1において,表よこ糸として直径約1.4mmのナイロンブリッスルを使用し,裏よこ糸として1500dのポリエステル長繊維糸を3本撚合せた糸条を使用して横二重織組織とした保形ホースが製作されていることから,これに対する比較例として,同じよこ糸を用いた,一重組織の平織組織,1/2斜文織組織の保形ホースを製作して,性能を比較する試験を行うためであると考えることができ,2種類のよこ糸を用いることが,一般的であったからであるとは必ずしも認められない。
むしろ,保形ホースにおいて,よこ糸を剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することは,引用例に先行技術として挙げられている甲第26号証(特開昭59-106787号公報)に開示されており,これに,甲第9号証の1ないし3(昭和63年11月9日付型式申請書,平成元年3月10日付「型式承認について」と題する書面,平成元年8月18日発行「消防・防災機器総合カタログ」)を加えることにより,本件出願前に周知であったと認められるから,引用考案1のよこ糸を,剛性を有するモノフィラメント糸のみで構成することは,当業者にとってきわめて容易に想到できる事項であったものと解することができる。
(3) 被告は,検甲第4号証のホース(引用考案1のホースに相当する。)の断面写真を乙第4号証として提出し,ポリエステル長繊維糸の変形体の厚みは,実測では約0.6mm〜0.9mmに分布していて,ナイロンブリッスルの直径(1.4mm)の約0.4〜0.6倍という無視できない大きさになっており,異質の二つの材料が互いに対等に存在していることが明らかであるから,ナイロンブリッスル単独のものとは別異のものである,と主張している。
しかし,引用考案1において,よこ糸としてナイロンブリッスルとポリエステル長繊維を3本撚合せた糸条を用いると,ナイロンブリッスル単独のものとは別異のものになるとしても,そのことが,引用考案1のよこ糸を,従来周知である,剛性を有するモノフィラメント糸のみの構成とすることを妨げる要因となるとは認められない。被告の主張は採用できない。
なお,原告の提出した甲第25号証(検甲第4号証の保形ホース断面の顕微鏡写真)の(A)及び(B)を参酌すれば,ナイロンブリッスル単独の場合と,これにポリエステル長繊維糸を同時に打込んだ場合とでは,よこ糸の厚さが0.2mm程度太くなるが,実質的に差異がないものと認められるのである。
(4) 被告は,引用考案1は,本件考案と目的,構成,効果が相違する,引用考案1は,引用考案2の実施例に対する比較例(従来例)として示されているだけであって,その目的,効果に関する積極的な記載はどこにもなく,むしろ,実施例1及び実施例2のホースに比べて圧力損失が約2倍も多く,圧力損失が大きいという効果を奏することが記載されているなどとして,引用例には引用考案1から,本件考案を創出する動機付けとなる記載は全くないから,引用考案1から,当業者が本件考案きわめて容易考案をすることできるとはいえない,と主張する。
本件考案には,「内張層を厚くしたり多層構造にすることなしに,保形ホース内面の蛇腹形状の発生を抑制することにより,放水時の水圧の損失を防止し,消防用ホースとしての消火能力の向上を図ろうとする」(甲第12号証【0009】欄)ものであり,これに関して,引用例には,「考案が解決しようとする問題点 しかしながらこの種のホースにおいては,ジャケットのよこ糸として針金又は合成樹脂の剛直な線状体と合成繊維系とを交互に織込んでいるため,内面の凹凸が激しく,圧力損失が大きいという問題があった。またこの問題の解決のためのものとして,特開昭59-106787号公報に記載されたものがある。」(甲第3号証3頁3行目〜11行目),「本考案はかかる事情に鑑みなされたものであって,ホースの内面の凹凸が小さく,しかもジャケットの肉厚が薄く,且つ柔軟で小さな曲率半径で巻回することのできるホースを提供することを目的とするものである。」(甲第3号証4頁7行目〜11行目)と記載されている。上記引用された特開昭59-106787号公報(甲第26号証)にも,「本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって,前記公知のホースのジャケット1をそのまゝ利用して,内面の凹凸の少ないライニングを施し,圧力損失が小さく消防用リールホースとして好適なホースを提供せんとするものである。」(甲第26号証2頁右上欄9行目〜13行目)と記載されている。このように,本件考案の課題は,引用例に十分に開示されているのである。
(5) 引用考案1(比較例2)は,実施例1及び同2よりは,織物構造がより単純であり,さらに,そのよこ糸をモノフィラメントのみにすれば,もっと単純になるから,その他の構造・寸法等が同じであれば,製造コスト上有利になることは疑いようがない。そうすると,引用例で課題として追求されている消防用保形ホースとしての性能を意識しつつも実用上耐えられる範囲でできるだけ単純なものを得ようとして,そこに比較例として挙げられている引用考案1を採用することにした上,これを更によこ糸としてモノフィラメントのみを用いる構成(すなわち,本件考案の構成)のものとすることは,当業者にとってきわめて容易であるというべきである。消防用保形ホースとしての性能(とりわけ圧力損失)が相対的に劣ることになるからといって,そのことのみをもって,当然に容易想到性の阻害要因があることになると解することはできない。
5 以上のとおり,審決は引用考案1の認定を誤り,その結果,一致点・相違点の認定を誤り,さらに相違点についての認定判断(進歩性の判断)をも誤ったものであって,これらの誤りが審決の結論に及ぼすことは明らかである。
6 結論 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,理由があり,審決にはこれを取り消すべき誤りがある。そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
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