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関連審決 無効2000-35376
関連ワード 考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  先行技術 /  削除 /  実施例 /  容易に想到 /  特段の事情 /  置換 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 412号 審決取消請求事件
原告 全国農業協同組合連合会
訴訟代理人弁理士 綿貫隆夫
同 堀米和春
被告A
訴訟代理人弁理士 江原省吾
同 田中秀佳
同 白石吉之
同 城村邦彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/22
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2000−35376号事件について平成13年8月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「ストレツチフイルムによるトレー包装体」とする考案(以下「本件考案」という。)について,出願日を昭和54年4月4日として(前特許出願日援用),実用新案登録出願(実願昭59-161589号,以下「本件出願」という。)をし,平成2年11月14日,登録実用新案第1839235号として登録を受けた(以下「本件登録実用新案」という。)。
原告は,平成12年7月11日,本件登録実用新案の登録(以下「本件登録」という。)を無効にすることにつき審判の請求をした(以下「本件審判請求」という。)。特許庁は,これを無効2000-35376号事件として審理し,その結果,平成13年8月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月16日,その謄本を原告に送達した。
2 本件考案に係る実用新案登録請求の範囲(別紙図面1,2参照) 「平坦な底板と,底板の周囲から上方に拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたトレーと, 上記トレー内に置かれた被包装物と, 上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフイルムとからなり, 上記ストレッチフイルムは,その周縁を,トレーの接着剤塗布面に接着させた位置に接近した下側で,抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフイルムによるトレー包装体」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,原告が,本件考案の要旨は,実用新案登録請求の範囲中の「その状態で接着剤を一括して塗布された」との中間構造体の製造方法の要件を削除して認定すべきである,とした上で,この要件を削除した本件考案は,周知の技術事項を前提に甲第2号証(審判甲第1号証)及び第3号証(審判甲第2号証)の考案に基づき,あるいは甲第2号証,第3号証及び第6号証の1(審判甲第5号証の1)の考案に基づき,当業者がきわめて容易考案することができたものであるから,実用新案法3条2項に該当し,本件登録は無効となる,と主張したのに対し,「「その状態で接着剤を一括して塗布された」との文言は,このように一括塗布されて形成され得るトレーの形態を表現するのに特に必要なものとは言い難いが,当該トレーが接着剤を一括塗布されて形成され得る形態を有することを念のため規定したものと解すれば,この文言が存在してもしなくても,当該トレーの形態の解釈,ひいては本件考案のトレー包装体の形態の解釈自体に変わりはない」(審決書5頁31行目〜36行目)とした(したがって,この文言があることを,甲第2号証記載の考案との相違点ともしていない。)上で,後記相違点ア,ウ及びエに係る本件考案の構成にきわめて容易に想到することはできないとして,原告の上記主張を排斥するものである。
審決が,上記結論を導くに当たり,本件考案と実願昭51-13482号(実開昭52-104756号)のマイクロフィルム(甲第2号証,審判甲第1号証,以下「引用例1」という。別紙図面3参照)記載の考案(以下「引用考案1」という。)との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
・一致点 「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムとからなり,上記フィルムは,その周縁を,抵抗線により全周に亘って切断してある,フィルムによるトレー包装」 ・相違点 「本件考案では,トレーが,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されたものであるのに対し,引用考案では,トレーが接着剤塗布面を有さず,したがって,接着剤塗布面の形状についての言及もない点。」【相違点ア】 「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,本件考案では,ストレッチフィルムであるのに対し,引用考案では,熱可塑性合成樹脂フィルムである点。」【相違点イ】 「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,本件考案では,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するのに対し,引用考案では,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有する点。」【相違点ウ】 「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,本件考案では,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し,引用考案では,トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で行われる点。」【相違点エ】
原告の主張の要点
審決は,相違点ア,ウ及びエについての判断をすべて誤ったものであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 相違点アについての判断の誤り (1) 審決は, 「本件考案では,トレーが,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されたものであるのに対し,引用考案(判決注・引用考案1)では,トレーが接着剤塗布面を有さず,したがって,接着剤塗布面の形状についての言及もない点」(審決書12頁21行目〜25行目) を本件考案と引用考案1との相違点の一つ(相違点ア)と認定した上で, 「甲第3号証(判決注・「JIS工業用語大辞典 第4版」922頁・本訴甲第4号証),甲第4号証(判決注・東洋経済新報社発行「商品大辞典」1319〜1320頁・本訴甲第5号証)及び甲第6号証(判決注・実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフイルム・本訴甲第7号証(別紙図面7参照)。なお審決に「甲第6号証 実開昭53-45102号公報」(審決書3頁30行)とあるのは,誤記と認める。)の前記記載並びに甲第10号証(判決注・前掲「商品大辞典」659〜662頁・本訴甲第11号証)及び甲第11号証(判決注・日刊工業新聞社発行「マグローヒル科学技術用語大辞典第2版」1571頁,本訴甲第12号証)の記載から知られる前記技術的事項を勘案しても,甲第1号証(判決注・引用例1),甲第2号証(判決注・特公昭50-17915号公報・本訴甲第3号証。以下「引用例2」といい,そこに記載された考案を「引用考案2」という。別紙図面4,5参照)及び甲第5号証の1(判決注・米国特許第3482679号明細書,本訴甲第6号証の1。以下「引用例3」といい,そこに記載された考案を「引用考案3」という。別紙図面6参照)の記載に基づいて,当業者が相違点アをなす構成を想到することは到底できないのである。」(審決書14頁14行目〜17行目) と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(2) フィルムとトレーとの密着性を良好にする必要性があることは,引用考案1のようなフイルム包装技術に,常に内在している課題である。そこで,密着性を改良するために,引用例2記載の,リム終端のフランジ部16の外側表面に接着剤層を設けるという真空密着包装の技術を参考にして,引用考案1のトレーの外側上部表面に接着剤層を設ける程度のことは,当業者にとってきわめて容易な技術的事項にすぎない。
被告自身,本件登録実用新案に係る願書に添付された明細書(以下,同願書添付の図面と併せて「本件明細書」という。甲第8号証・甲第16号証は,同明細書の内容を明らかにする公報である。以下,この公報を「本件公報」という。)で,「次に,上記形態の包装体を得るための包装方法としては,1例として,本出願人の提案に係る実開昭52-104756号公報(判決注・引用例1に係る公報である。)に示す如き構成の方法を改良したものでよい。即ち・・・上記接着剤18の存在により,トレー15の周囲へのフイルム4の密着が完全となる。尚,フイルム4は軟化させているため,自己粘着性が生じ,トレー15の周囲への吸気作用による接着で皺の発生の全くない完全なシール性が得られるが,上記接着剤18により,一層完璧なシール性が保持される。」(甲第16号証2頁4欄25行目〜4頁7欄8行目)として,引用考案1のものに類似した包装方法を縷々説明した上で,本件考案では,接着剤を用いることにより,より完全なシール性が保持される,としているのであるから,これは,裏を返せば,引用考案1のシール性が必ずしも万全でないことを示唆しているといい得る。したがって,審決のいうように「甲第1号証(判決注・引用例1)記載の加熱軟化熱可塑性合成樹脂フイルムによる真空密着包装の技術と甲第2号証(判決注・引用例2)記載のフィルム包装の技術とは少しも結びつかない」(審決書13頁28行目〜30行目)などということはあり得ない。
被告は,引用考案1において用いられているフィルムは,厚く,そのため大きな密着力を有すると主張するが,フイルムの厚さと密着力は本来無関係である。それどころか,加熱軟化させたフイルムは冷却時に収縮し,その際の応力はフイルムが厚いほど大きいから,より大きな密着力がないと,剥がれやすくなるのに対し,フィルムが薄く容易に変形するものであれば,密着部への応力は小さく,逆に剥がれにくくなるはずである。被告の主張は,剥がれやすさという観点からは,技術的に矛盾している。
(3) 審決は,引用例3(甲第6号証の1)の2欄54行目〜58行目の「The cap or lid 14 is mounted in any suitable manner on the trays or baskets, i. e., by a layer of adhesive 86;see FIG.3, on the outer surface of the mounting portion of the peripheral rib or flange 28,」(判決注・"rib"は,"rim"の誤記と認める。)の記載を,「蓋14は適宜の方法でバスケット又はトレーに取り付けられる。すなわち,図3に示すように,蓋14は,接着剤層86を介して,バスケット又はトレーの周囲のリム(縁部)又はフランジ28の取り付け該当部分外側面に取り付けられる。」(審決書10頁18行目〜21行目),「蓋用ブランク32を,接着剤層を介して,トレーの周囲のリム(縁部)又はフランジ28の取り付け該当部分の外側面に取り付けて蓋付き包装体とするもの」(審決書13頁36行目〜38行目)と解した上で,「甲第5号証の1(判決注・本訴甲第6号証の1,引用例3)は,外側平坦面30を接着剤塗布面とすることを教えないばかりでなく,同号証記載のものでは,予め形成した特定形状の蓋用ブランクをトレーの所定位置に取り付けるものであることから見て,リム(縁部)又はフランジの外側平坦面30ではなく,蓋用ブランクの周縁該当部分を接着剤塗布面とする方がかえって好ましいものであると認められるから,たとえ,甲第5号証の3(請求人が作成した図面)から,当該トレーが,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各外側平坦面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されているものであることが理解されたとしても,結局,甲第1号証(判決注・本訴甲第2号証)記載の真空密着包装の技術と甲第5号証の1記載の農産物包装の技術とは,やはり少しも結び付かないのである。」(審決書13頁39行目〜14頁10行目)と判断した。
(4) 前記甲第6号証の1の記載中,「on the outer surface」の「on」は,その前の「by a layer of adhesive 86」を修飾するものであるから,引用考案3において,接着剤は,フランジ28の外側平坦面30に塗布されていると解すべきである。そうすると,前記記載は,「蓋14は適宜の方法,すなわち,図3に示すように,周縁部またはフランジ28の取り付け該当部分の外側面にあらかじめ塗布された接着剤層86を介して,バスケットまたはトレーに固定される。」と解釈されるべきである。
引用考案3の「バスケット又はトレー」は,審決が認定し,また,原告作成に係る甲第6号証の3の図面から明らかなように,「未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各外側平坦面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されているもの」(審決書11頁18〜20行)であるから,結局,トレーの外周外側面を接着剤塗布面としたトレーは,引用例2及び引用例3に示されているのである。そして,引用考案1において引用考案3のトレイの形状を採用することは,当業者にとってきわめて容易な技術的事項にすぎない。加えて,これによって,格別有利な作用効果を奏するものでもない。
(5) 被告は,引用考案3の「バスケット又はトレー」を積み重ねた図を作成し,乙第2号証として提出している。この乙第2号証では,原告作成の甲第6号証の3の図面におけるより,積み重ねた状態の各トレー間に生じる隙間が大きく描かれている。
しかし,引用例3の図5(FIG.5)から明らかなように,トレイ外面には縦方向に延びる凹溝が形成されており,この溝がトレイ内面に縦方向に延びるリブにはまり込むことになる。したがって,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する接着剤塗布面は,甲第6号証の3に示されているように,乙第2号証に図示されたところよりはより強い度合いで密着して積み重なるのである。
甲第17号証(本件登録実用新案の出願当初の添付図面)の第10図及び第11図では,接着剤塗布面がやや傾斜する場合や,積み重ねたときわずかな隙間 が生じる場合を示している。本件考案は,甲第17号証の第10図,第11図のような状態を含むものと解すべきであるから,引用例3にも,本件考案にいう,「未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈してほぼ垂直な面として柱状を呈する如く形成されたトレー」が開示されているのである。
2 相違点ウ及びエの判断の誤り (1) 審決は,相違点ウ及びエについて,「相違点アをなす構成である「トレーが,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成された」とする点が,・・・当業者がきわめて容易に想到し得るものでもない」(審決書14頁33行目〜39行目)ことを理由に,「相違点ウをなす構成である「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する。」とする点,及び,相違点エをなす構成である「オーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われる。」とする点も,甲第1号証ないし甲第4号証,甲第5号証の1,甲第6号証,甲第10号証及び甲第11号証のいずれにも記載されていないばかりでなく,これら各号証の記載から当業者がきわめて容易に想到し得るものでもない。」(審決書15頁6行目〜13行目)と判断している。
(2) 2で述べたとおり,引用例3には,本件考案のトレーと同一のトレーが開示されているのであるから,これを引用例1に適用して,相違点ウをなす構成である「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,トレーの塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する」との点は,当業者がきわめて容易に想到し得るものである。
(3) 審決は,引用考案1につき,「・・・この「被覆した状態にあるトレー包装体」における上フィルム25は,それがオーバーラップして被覆しているトレー30の周壁の外側面の上端部から下側の位置で,抵抗線17の発熱により全周にわたって熔断つまり切断される」(審決書7頁27行目〜30行目)と認定している。しかし,甲第2号証の4図からは,上フィルム25は,トレー30の周壁の外側面上部に所要の幅をもって密着され,この密着位置よりも下側の位置で熔断されているから,甲第2号証には,「・・・「被覆した状態にあるトレー包装体」における上フィルム25は,それがオーバーラップして被覆しているトレー30の周壁の外側面の上部への密着位置よりも下側の位置で,抵抗線17の発熱により全周にわたって熔断つまり切断される」ことが記載されていると解すべきである。
そうだとすると,引用考案1に同2や同3を適用して,相違点エをなす構成である「オーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われる」とすることも,当業者がきわめて容易に想到し得ることというべきである。
被告の主張の要点
1 相違点アの判断の誤りに対して (1) 引用例1(甲第2号証) 引用例1には,「トレー(30)を上周縁が少し突出した状態に夫々嵌置し」(甲第2号証5頁3行目〜4行目)との記載も,「包装フイルムとして通常使用されるオレフイン系フイルムの80〜150ミクロン厚のもの」(同号証6頁11行目〜13行目)との記載もある。引用考案1においては,トレーの突出した部分で80〜150ミクロン厚のオレフィン系フイルムを180°折り返して,(フィルムの熱成形による)トレーとの密着一体化をすること,及び真空包装であることから,フィルム密着幅はごくわずかでも強力な密着性がある。フィルム密着幅を殊更長く設定する必要性はなく(密着幅を必要以上に長くすると,かえってフイルムにしわが入って見苦しくなってしまう。),わざわざ接着剤を使用して密着性を更に向上させる必要性もない。引用考案1の考案者は被告であり,被告は,同考案1の包装形態を実際に水産物等の包装に採用してきた。そこでは,包丁を使用しなければ開封できないといわれるほど密着部分が強固であった。
原告は,引用考案1のフィルムとトレーとの密着性を接着剤で補強する必要があるとする証拠として,本件明細書の記載を引用する。しかし,本件考案は,「産業上の利用分野」の欄にも記載されているように,ストレッチフィルムによるトレー包装体に係るものであり,「ストレッチフィルム」といえば,あらゆる食品包装用フィルムの中で最も軟弱なフィルムである。本件考案では,この軟弱なストレッチフィルムを使用する関係で,いったんはトレーの上周縁に密着しても,力が加わると容易に変形するため,接着剤の存在なくしては密着性を保持し得ないのである。原告が主張する本件明細書の記載も,このことに基づく。他方,引用例1には,わざわざ接着剤を使用して密着性を向上させる必要性があることなど,全く記載がない。要するに,引用考案1と本件考案とでは,用いるフィルムの性質が全く異なるのである。
さらに,引用考案2の塗膜18は,「ポリアミド,ポリエステル可塑剤及び重合エステル油から成るもの」(甲第3号証6欄24行目〜25行目)であって,これらは感圧接着剤と呼ばれるものではない。この塗膜18は,接着剤となり得ない。
したがって,「甲第2号証(判決注・引用例2)記載の・・・包装体は甲第1号証(判決注・引用例1)記載のものとは包装形態が大きく異なり,・・・甲第1号証記載の加熱軟化熱可塑性合成樹脂フイルムによる真空密着包装の技術と甲第2号証記載のフイルム包装の技術とは少しも結びつかないのである。」(審決書13頁17〜30行)との審決の判断に誤りはない。
(2) 引用例3(甲第6号証の1) ア 引用例3の,「The cap or lid 14 is mounted in any suitable manner on the trays or baskets, i.e., by a layer of adhesive 86; see FIG. 3, on the outer surface of the mounting portion of the peripheral rib or flange 28.」(甲第6号証の1第2欄54行目〜58行目)の文中の「i.e.」は,「換言すれば」の意味であり,「in any suitable manner」を言い換えたのが「by a layer of adhesive 86」であり,「on the trays or baskets」を言い換えたものが「on the outer surface of the mounting portion of the peripheral rib or flange 28」である。「see FIG.3」(第3図を見よ)とあるが,第3図から判明するのは蓋がかぶさった組み合わせ状態であって,接着剤層86が外周に塗られた状態ではない。しかも,接着剤層86の番号は,FIG.4の蓋に関する折曲げ線78〜84の直後の番号付けであるから,図面の作成実務から判断して接着剤層86は蓋に付されるべきものと考えるべきである(トレーに関する番号は30番までで終わっている)。
仮に,接着剤層86がトレイの外側面平坦面30の全周にあらかじめ塗布されるとすると,三角形のノッチ64,65,66,68に隣接した4箇所で接着剤層86が外部に露出してしまうことになり,包装体の流通段階などで甚だ不都合なことが明らかである。この点からも,接着剤層86は,むしろ蓋又はキャップ14のフラップ70,72,74,76内面に塗布されると理解する方が合理的である。
したがって,引用考案3は,審決が認定したとおり,「蓋用ブランク32を,接着剤層を介して,トレーの周囲のリム(縁部)又はフランジ28の取り付け該当部分の外側面に取り付けて蓋付き包装体とするもの」(審決書13頁36行目〜38行目)であって,原告が主張するように,周縁部またはフランジ28の取り付け該当部分外側面にあらかじめ塗布された接着剤層86を介して,蓋14がバスケットまたはトレーに固定されるものではない。
イ 原告は,引用考案3のトレーを積み重ねた図を作成し,甲第6号証の3として提出した。しかし,引用例3には,トレーが嵌合式に積み重ねることが可能なものであるとする記載はない。嵌合式に積み重ねることが可能であると推測させるためには,図2の3-3線断面図(図3)に加えて,これと直交する方向の断面も不可欠である。そのような断面が図3と全く同様であるとする証拠もない。
引用例3記載のトレーが嵌合式に積み重ねることが可能なものであるとしても,このトレーの形態を本件考案のものと同じとすることはできない。甲第6号証の3の図面は,上側のトレーの左端フランジ上端内側角部が右方向に若干ずれているから,フランジ28の外側面ができるだけ連続するように意図的に作図したものである。引用例3の図3においては,側壁断面の内側に更に1本の実線が描かれている。これは,トレーの内面に縦方向に延びるリブが形成されている証左である。同リブについては,トレー外面にリブと整合する位置に凹部が存する場合には,積み重ねの障害にならないかもしれない。しかし,図3には,トレー内側面の上端部付近に水平方向の実線が描かれており,これはトレー内面の縦方向凸リブの上端を通り,トレー内周面を一周し,環状段部を形成するものであるから,トレーを重ねた場合にはこの段部の厚さ分上側トレーが下側トレーから離間し,このためトレーのフランジ間の上下隙間が大きく開くこととなり,甲第6号証の3のような積み重ね状態にはならないのである。
被告においても引用例3の図3に基づいてトレーを重ねた状態の図面をあえて作成してみたところ,甲第6号証の3よりも,トレーのフランジ間の上下隙間が大きく開くことが確認された。接着剤塗布面が全く連続しないことは,甲第6号証の3でも,如実に示されている。
引用例3のトレーと,本件考案のトレーとが同一形態であるということは到底できない。
ウ したがって,「甲第1号証(判決注・引用例1)記載の真空密着包装の技術と甲第5号証の1(判決注・引用例3)記載の農産物包装の技術とは,やはり少しも結びつかないのである。」(審決書14頁8行目〜10行目)との審決の判断に誤りはない。
(3) 以上のとおりであるから,「甲第1号証,甲第2号証及び甲第5号証の1の記載に基づいて,当業者が相違点アをなす構成を想到することは到底できないのである。」(審決書14頁16行目〜17行目)との審決の判断にも誤りはない。
2 相違点ウ及びエの判断の誤りに対して 原告の主張は,相違点アについての審決の判断の誤りを前提として,相違点ウ及びエについての判断が誤っているというものである。しかし,相違点アについての判断に誤りがないことは1で述べたとおりであるから,原告の主張は成り立ち得ない。
原告は,本件考案の構成中の,トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムがトレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する,との点は,引用考案3のトレーを,引用考案1のトレーと置換することで,当業者がきわめて容易に想到し得ると主張する。しかし,引用例1及び引用例3のいずれにも,さらには引用例2にも,トレーの周壁の上部外側面全周に,接着剤塗布面を形成することは記載されていない。
引用考案3のトレーと,本件考案のトレーとが全く同一であるとする証拠はない。引用考案1には,接着剤塗布面がない。引用考案2は接着剤塗布面を有するものの,引用例2には,抵抗線による切断が示されていない。
当裁判所の判断
1 本件考案の内容 (1) 本件登録実用新案登録請求の範囲の記載 第2の2記載のとおりである。
(2) 本件明細書考案の詳細な説明の記載事項 〔産業上の利用分野〕この考案はストレツチフイルムによるトレー包装体に関するものである。
〔従来の技術〕・・・トレー全体をフイルムで包み込み,特に,トレーの裏側においてフイルムを二重・三重に重ね合せてフイルムの自己粘着性を利用ししながら,この重ね合わせ部分でフイルムをシールする・・・ 〔考案が解決しようとする課題〕 (a) ・・・従来の包装形態では本来の必要量の3〜4倍のフイルムを必要としている。
(b) ・・・トレー裏側でシールした場合,どうしても不規則な皺が発生し,水分の多い被包装物ではトレー裏側まで水がまわり,その皺の部分から汁が滲出してきて,ひどい場合,そのシールがバラける。
(c) フイルムをトレー裏側で重ね合わせてシールする為,せつかく透明のトレーを使用しても裏側から被包装物を透視しにくい。
(d) ・・・フイルムをトレー開口部に皺なく展張することが,なかなかむづかしく,・・・ (甲第8号証及び甲第16号証・本件公報1頁1欄18行目〜2欄27行目) 〔課題を解決するための手段〕(実用新案登録請求の範囲とほぼ同文) 〔実施例〕・・・第10図A,B,C又は第11図A,B,Cに示す様に,未包装のトレーを多数個を積み重さねた状態で,接着剤塗布面15cが上下方向に亘って連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するように形成し,この状態でロール又はスプレー等で,接着剤18を均一な厚さで塗布させることができるように形成する(2頁4欄9行目〜15行目)。
・・・上記形態の包装体を得るための包装方法としては,1例として,本出願人の提案に係る実開昭52-104756号公報(判決注・引用例1)に示す如き構成の方法を改良したものでよい(2頁4欄25行目〜28行目)。
・・・包装作業に当り,フイルム4をロール等から適当長さに切断してフイルム挟持枠6,7に挟持せしめ,加熱板1に密着させて加熱軟化させておく。そしてトレー15に被包装物19を盛付けして切断枠14に嵌め込み,載置台8上に載置する。(第1図参照) 次にフイルム挟持枠6,7を下降させ,加熱軟化したフイルム4をトレー15上にオーバーラツプさせ,続いて吸気室11に吸気を発生せしめてフイルム4をトレー15の周囲及び切断枠14の周囲に密着させる。・・・各吸気孔9,17からの吸気作用で,フイルム4は第3図に示す様に密着する。・・・ 次に,切断枠14の周囲の抵抗線16に通電し,フイルム4を熔断させる。これにより,フイルム4はトレー15の周囲に沿って切断される(3頁6欄5行目〜25行目)。
・・・トレー15の周囲への吸気作用による接着で皺の発生の全くない完全なシール性が得られるが,上記接着剤18により,一層完璧なシール性が保持される(4頁7欄5行目〜8行目)。
考案の効果〕・・・フイルムの使用量を減少させ,かつ,皺のない美しい状態でトレーの周囲にフイルムの周縁を粘着させることができ,接着剤の存在で完全なシールが確保され,汁等が滲出することがなく・・・(4頁7欄22行目〜8欄2行目) (3) 本件明細書のこれらの記載によると,本件考案は,@フィルム使用量の減少,A皺の発生の防止,B透視性の確保を目的とした「ストレツチフイルムによるトレー包装体」であり,従来のトレー裏側でのフィルムの重ね合わせによる粘着に換え,トレー側面でのトレーとフィルムの接着を採用することで@Aの課題解決を達成したものである,と認められる。
ただし,これらの課題は,既に,原告が考案した引用考案1で相当程度まで解決されている(甲第2号証)。本件考案は,さらに,シール性の向上を図るため,トレーとフイルムの密着のために接着剤を使用することとし,その接着剤塗布を容易ならしめるため,「未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され」との形状を採用したトレー包装体である,ということになる。
2 相違点アについての判断の誤り (1) 審決は,本件考案と引用考案1との相違点の一つ(相違点ア)として,「本件考案では,トレーが,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されたものであるのに対し,引用考案(判決注・引用考案1)では,トレーが接着剤塗布面を有さず,したがって,接着剤塗布面の形状についての言及もない点。」(審決書12頁21行目〜25行目)を認定した。
この相違点アに係る本件考案の構成は,トレー周壁の上部外側面の一部に,外側面を一周する形で接着剤塗布面が形成されているという構成(以下「本件接着剤塗布面構成」という。),及び,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,上部外側面の一部が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されているとの構成(以下「本件形状構成」という。)という二つの構成とからなっている。そして,上記本件形状構成における「上部外側面の一部」が,本件接着剤塗布面構成における「接着剤塗布面」をなし,これに接着剤が塗布されているのが,本件考案である。
本件において,本件接着剤塗布面構成の容易想到性が本件形状構成の容易想到性を前提とするものであったり,逆に,本件形状構成の容易想到性が本件接着剤塗布面構成の容易想到性を前提とするなど,これらを切り離して把握することが許されないとする特段の事情があるとは認められないから,これら各構成がそれぞれ容易想到であるかどうかをまず検討する。
(2) 本件接着剤塗布面構成の容易想到性について ア 引用例1(甲第2号証)には,「現在,肉,魚,加工品及び雑貨等の包装においては,トレーと熱可塑性合成樹脂フイルムとを用いて次の2通りの包装が行われている。」(1頁14行目〜16行目),「各トレー(30)及び被包装物(29)上の加熱軟化した上フイルム(25)はそれらに凹凸形状通りに押付けられ延伸して密着被覆される。・・・上フイルム(25)は抵抗線(17)上に全周に亘り確実に接触する。・・・抵抗線(17)に通電させて発熱させると,この熱により・・・上フイルム(25)が・・・全周に亘り確実に熔断される。」(5頁6行目〜17行目)との各記載があり,これら記載と第4図図示とによれば,引用考案1は,肉,魚,加工品及び雑貨等のトレー包装体であって,フィルムは延伸性を有し,そのためトレー及び被包装物の形態に合わせた形状に延伸され,フィルムとトレーの上部側面とが密着した包装体であると認められる。そして,この包装体を形成するに当たって,フィルムとトレーに要求される条件は,フィルムには延伸性があり,フィルムとトレー側面の密着性が良いことであり,これ以外に必要とされる条件は見当たらない。前者の条件を満たすため,引用考案1においては,フイルムとして熱可塑性合成樹脂フイルムを用い,これを加熱することを採用しているものと認めることができる。
イ 引用例2(甲第3号証)には,以下の記載がある。
「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態に於ける独特の性質を使用する事に起因して製品包装の改良にはかなりの進歩が為されて来ている。」(1頁2欄13行目〜15行目), 「第1及び2図は本発明の一部たる底部材11,ボローニヤソーセージ又は類似のものの如き薄切肉の重なり12である製品,及び該製品を囲んで底部材と密封された可撓透明フイルム13から成る円板型包装10を示している。第2及び3図に明瞭に示される如く,底部材11には上に製品12の受けられる平らな中心部14がある。周緑方向に連続しかつ上向きに突出しているリム15が中心部14と一体に形成されて,中心部14及び製品12のすぐ外方において該製品を囲んで延びている。・・・リム15の終端は外方かつ下方に傾斜して中心部14よりも下方に延びて,円周方向に連続した截頭円錐形のフランジ部16を形成している。」(2頁4欄14行目〜29行目) 「此のフイルムは例えばそれを包装の製品及び底部材に吸引して密着させる真空が包装内に作られる任意の適当な既知の包装形成抽気技法を使用する事に依るなどして製品12の露出表面を覆うて該表面の形にぴつちりと倣うように完全に密着して潰されて即ち吸引されている。」(3頁5欄5行目〜11行目) 「過冷ポリ塩化ビニリデンフイルム13はポリ塩化ビニル底部材11と十分に密着し得る性質を有し熱封に頼る事なしに気密密封を作るものである。此の点に関しては包装10は熱を加えられずに常温で成形され得従つて該包装は感熱材料を包装するのに又感熱包装形成材料の使用を可能にするのに適当なものである。然しフイルム13と底部材11との間に作られる密封を改良する為にフランジ部分16の外側表面は好ましくはその上に可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤の薄い基本的には顕微鏡的塗膜18を有するべきである。」(3頁5欄42行目〜6欄9行目) 「フイルムと底部材との界面塗膜18に依つて形成される特殊密封は強力密封を作るものである。」(3頁6欄37行目〜38行目) 「リム15に沿うて塗膜18の内側に生ずる如き過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムとポリ塩化ビニル底部材との直接密着のみに依つて作られる密封の強さを決定せんと試みられた時には剥取り強度の読みは全然得られなかつたのである。然し,塗膜18の内側に作られる密封はそれにも拘らず気密密封であつて包装10の品質を維持するのに大変役立つものである。」(3頁6欄43行目〜4頁7欄7行目) 引用例2のこれらの記載と第1図及び第2図の図示とによれば,引用考案2は,ボローニヤソーセージ等の包装体であって,同引用例には,同包装体につき,周縁にリムを有する底部材の中心部に被包装材料(製品)を載置し,過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムの即時変形可能性又は可伸性を利用して,同フィルムを底部材及び製品の表面に倣った形状に変形させ,同時に同フィルムと底部材の密着性を利用して包装体を形成すること,及び,同フィルムと底部材の密着性のみでは,剥取り強度が不十分であるため,底部材のリム終端部であるフランジ部に「可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤」を塗布しておくことにより,剥取り強度の点でも問題のない強力な密封を得ることが記載されているものと認めることができる。
ウ 引用例2の上記認定の記載によれば,上記「感熱材料」とは,熱を加えることが品質に悪影響を及ぼす材料のことであり,引用考案2では,このような材料の包装のために,常温で延伸性のある過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムを採用すると同時に,同フィルムを採用した場合には底部材との密封性に問題が残ることから,フィルム密着すべき底部材のフランジ部に「可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤」の塗膜を形成したものと認めることができる。
引用考案1においても,トレーに収納される被包装材料は,「肉,魚,加工品及び雑貨等」とされており,ここに例示された材料中「肉」及び「魚」が,引用例2にいう「感熱材料」に相当し得ることは明らかである。そして,このような「感熱材料」に,前記アで説示したように,フィルムの延伸性を確保するために加熱を用いる引用考案1を適用することは,不適当であること,あるいは,少なくとも,他に方法があれば避けるべきであることが明らかであるから,加熱せずに,延伸性及びトレー側面との密着性を確保できるのであれば,引用考案1を出発点としつつ,これの中の加熱を要する要素の代わりに加熱を要しない要素を有する包装手段を採用することは,当業者であれば当然試みることということができる。
加熱を用いない包装手段が引用例2に記載されており,それは,フランジ16の外側表面に感圧接着剤等の薄い塗膜を設ける,というのものであるから,引用考案1において,感熱材料を包装する場合に,フイルムとして引用例2記載の過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムを採用することとし,これに伴い,密封性,すなわち,フイルムとトレーの密着性を改良するため,接着剤を用い,これをトレー外側側面の一部に塗布する構成を採用することは,当業者がきわめて容易に想到できることというべきである。
したがって,「甲第1号証記載の加熱軟化熱可塑性合成樹脂フイルムによる真空密着包装の技術(判決注・引用考案1)と甲第2号証記載のフイルム包装の技術(判決注・引用考案2)とは少しも結びつかないのである。」(審決書13頁28〜30行)との審決の判断は誤りであり,本件接着剤塗布面構成は引用考案1に引用考案2を適用することにより,当業者がきわめて容易に想到し得た構成というべきである。
エ 審決は,「甲第2号証(判決注・引用例2)記載のフイルム包装は,・・・これによる包装体は甲第1号証(判決注・引用例1)記載のものとは包装形態が大きく異なり」(審決書13頁17〜23行)と認定している。
引用例2にいう「即時変形可能性」又は「可伸性」が,引用例1にいう「延伸性」と同義であることは明らかである。引用考案2の「底部材」は,引用考案1の「トレー」と同一形状であるとまではいえないものの,被包装材料を収納又は載置する部材である点においてこれと同じであること,及び,引用考案2の「リム」の上向き突出量を大きくした場合には,形状面からみても,引用考案2の「底部材」と引用考案1の「トレー」との間で区別することが困難となるものであることから,引用考案2の底部フランジ部は,引用考案1のトレー側面に相当するものと認めることができる。
そうすると,フィルムと底部材フランジ部(引用考案1の「トレー側面」に相当する。)の密着性が良いこと,フイルムには延伸性があることが条件とされている点において,引用考案2と引用考案1との間に格別差異はない。そうすると,引用考案1と引用考案2とは,それらの包装に必要とされる条件が一致し,かつ包装形態が類似するというべきである。審決の上記認定は,誤っている。
オ 被告は,引用考案2の塗膜は接着剤ではないと主張する。しかし,引用例2に例示されたものが仮に接着剤に当たらないとしても,引用例2には「感圧接着剤の如き・・・顕微鏡的塗膜18」(甲第3号証6欄8〜9行)との明確な記載があり,塗膜材料を,例示されたものに限定解釈する必要はない。原告の主張は採用できない。
被告は,本件考案のフイルムと,引用考案1のフイルムの相違を挙げて,引用考案1において接着剤を使用する必要性はないと主張する。引用考案1のフイルムをそのまま用いるとすれば,接着剤を使用する必要性はないかもしれない。しかし,それでは,「感熱材料」の包装上不都合であることは前示のとおりである。そして,「感熱材料」を包装するため,使用するフイルムを引用例2記載のものに変更した場合(変更することがきわめて容易に想到することのできることであることは,前記ウの説示のとおりである。)には,接着剤を使用することに技術的意義があるのである。被告のこの主張も失当である。
(3) 本件形状構成の容易想到性について ア 実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム(甲第7号証,審判甲第6号証,以下「甲7刊行物」という。)には,以下の記載がある。
(ア) 「本考案は,・・・併せて,フイルム包着が機械による自働作業で行われるので,積合わされている容器を一枚々々剥していく機械作業能力を大きく向上させて,フイルム包装作業全体を効率化するためのスタツキング防止を果たすようにすることを目的としてなしたものであり・・・」(3頁6行目〜17行目) (イ) 「一方,上記耳部10は第5図に示す如く,容器複数枚を積合わせた際,丸い耳部同志が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果たし,積合わせた容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり,スタツキング防止を完遂する。
尚,第6図は,従来公知の容器側を示したもので,このように折り返し線が形成してあるのみでは,この縁同志が嵌り合つてしまつて積合わせた容器が密着してしまつて剥し難くなつてしまい,スタツキングを生じ包装作業能率を著しく悪くするのである。」(6頁3行目〜13行目) イ 甲7刊行物の上記アの記載からは,同刊行物に係る実用新案の出願当時(昭和51年9月21日),同刊行物6図(別紙図面7参照)のような形態のトレーを積み重ねた際,それ同士が密着して分離しにくくなるという技術課題があり,これが周知であったことは明らかであるというべきである。
この技術課題を解決するためには,要するに,積み重ねたとき,トレー同士が密着しないようにすればよいことは自明であり,そのための方法として,トレーの周辺に耳部を設け,積み重ねた状態で,上のトレーの耳部の下部が,直下のトレーの耳部の上部に接触して積み重なるようにすることは,当業者にとってきわめて容易に想到できることであるというべきである(甲第7刊行物では,「容器上周縁に外下側に巻き込んだ形態の耳部」を形成したことが,まず容器の強度を増し,かつフィルム装着の際,これを傷つけることを防止できるとして,その進歩性を強調し,併せてスタッキングを防止できるとしているのであって,「耳部」,すなわち,トレーという容器の取手となり得る部分を形成すること自体を,新規性あるいは進歩性の根拠としているものではない。)。
そして,この耳部を,トレーを積み重ねた際離間せずに連続するようにすること,耳部の一面を底面に対して垂直な面とし,かつ平面にすること(すなわち,連続した耳部が,略垂直な面となり柱状となるようにすること)は,トレーに設けられる耳部の形態の最も基本的なものの一つと認められるから,結局,トレーの形状として,耳部を設け,トレーを積み重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を採用することも,当業者であれば当然することというべきである。
ウ イで述べたところに,甲7刊行物に係る実用新案の出願の時期(昭和51年9月21日)と本件出願の時期(昭和54年4月4日)との間隔を併せて考慮すると,遅くとも,本件出願当時には,トレイの形状として,耳部を設け,トレーを積み重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状,すなわち,本件形状構成の形状を採用することは,周知慣用の技術となっていたものと認めることができる。
エ 引用例1に図示されるトレーについても,製造過程ないし搬送の過程で積み重ねられる場合が当然想定され,その際,このトレーが,スタッキングを生じるおそれのある形状であることは明らかである。そこで,当業者が,甲7刊行物にも記載されている上記周知の技術課題から,引用考案1のトレーの形状についてもスタッキングのおそれがあることを認識することはきわめて容易であり,かつ,これを防止するために,周知の形状である本件形状構成の形状,すなわち,耳部を設け,その形状を,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するようなものにすることも,きわめて容易に想到し得ることというべきである。
オ 原告は,本件審判手続においても本訴においても,甲7刊行物に記載された「容器上周縁に外下側に巻き込んだ形態」の耳部は,現実には製作不能なものであり,先行技術になり得ないとの主張をしている。
しかし,前記説示のとおり,甲7刊行物から読み取ることができると認定されたのは,同刊行物に係る実用新案の出願当時,トレーのスタッキング防止という技術課題があることは周知の技術事項であったこと,「耳部」を設けること自体は,とりたてて新規なものと考えられてはいなかったこと,である。甲7刊行物に記載された形状自体の実現が可能か否かは,問題とされていない。上記形状自体の実現が可能か否かによって,上記認定が左右されることもあり得ない。
引用考案1において,本件形状構成を採用することも,当業者であればきわめて容易に想到できたものというべきである。
(4) 以上のとおり,引用考案1は,本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成の,いずれも採用し得るものであり,かつ,これらは,互いに排斥し合うものでも,一つを前提にのみ他方を採用し得るというものでもないから,甲7刊行物から認定できる周知の技術事項を同時に勘案しつつ,引用考案1及び引用考案2に接するとき,本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を同時に採用することは,当業者であればきわめて容易に想到することである。
そして,本件接着剤塗布面構成と本件形状構成を同時に採用するとき,接着面として,トレー外側面のうち,底面と垂直をなす平坦面を選択することは,作業の容易性や接着強度の確保等を考慮するときは,むしろ,当然のことといい得る範囲の事項である。すなわち,前記周知技術事項を前提に,引用考案1,同2に接した当業者が,そこから本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を読み取り,これらを組み合せて,相違点アに係る本件考案の構成を想到することは,きわめて容易であるというべきである。
原告は,本件審判手続及び本訴において,甲7刊行物自体を引用例として挙げることはしていないものの,本件形状構成は周知の技術的事項であると主張して,その例を示すものとして,具体的に,甲7刊行物を挙げている(甲第18号証11頁7行目〜15行目,13頁27行目〜30行目,甲第19号証9頁19行目〜21行目)。
これに対し,審決は,「甲第3号証,甲第4号証及び甲第6号証(判決注・甲第7号証)の前記記載並びに甲第10号証及び甲第11号証の記載から知られる前記技術的事項を勘案しても,甲第1号証(判決注・引用例1),甲第2号証(判決注・引用例2)及び甲第5号証の1(判決注・引用例3)の記載に基づいて,当業者が相違点アをなす構成を想到することは到底できないのである。」(審決書14頁14行目〜17行目)とした。審決の上記判断は,誤りという以外にない。
3 相違点ウ及びエの判断の誤りについて (1) 審決は,「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムが,本件考案では,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するのに対し,引用考案では,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有する点。」(審決書12頁29〜32行),及び「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,本件考案では,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し,引用考案では,トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で行われる点。」(審決書12頁33〜36行)をそれぞれ相違点ウ及び相違点エと認定した上で,「相違点アをなす構成・・・が,・・・当業者がきわめて容易に想到し得るものでもないのであるから,・・・相違点ウをなす構成である「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムが,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する」とする点及び相違点エをなす構成である「オーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われる」とする点も,・・・当業者がきわめて容易に想到し得るものでもない。」(審決書14頁33行〜15頁13行)と判断した。
しかしながら,相違点アに係る本件考案の構成が想到容易であることは,前記2で説示したとおりであるから,審決の上記判断は前提において既に誤っている。念のために,相違点ウ及びエの構成が想到容易であるかどうか検討する。
(2) 2で説示したとおり,本件出願当時既に周知であった事項を前提に,引用考案1に引用考案2を適用することにより,「トレーが,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面を有し」との構成に至ることは,当業者にとってきわめて容易であり,同構成を有するトレーをフイルムで包装した場合に,相違点ウに係る「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムが,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有する」との構成に至ることは必然である。
また,引用例1に,「上フイルム(25)は抵抗線(17)上に全周に亘り確実に接触する。・・・抵抗線(17)に通電させて発熱させると,この熱により・・・上フイルム(25)が・・・全周に亘り確実に熔断される。」(甲第2号証5頁11〜17行)との記載があることは前記2(2)アで説示したとおりであり,この記載と引用例1第4図によれば,引用考案1においては,フィルムとトレーの密着部に接近した下側で,フィルム周縁が抵抗線により全周にわたって切断されていると認めることができる。そうであれば,引用考案1に引用考案2を適用することにより,本件接着剤塗布面構成に至った場合には,フィルムとトレーの密着部が「トレーの接着剤塗布面」となり,接着位置に接近した下側で,フイルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が行われざるを得ないのであるから,相違点エに係る構成に至ることも必然である。
すなわち,相違点ウ及び相違点エは,相違点アとは別途独立した相違点として検討しなければならない相違点ですらないというべきである。
(3) このように,相違点ウ及び相違点エについての審決の判断も誤りである。
4 審決が本件考案進歩性を認めたのは,相違点ア,ウ及びエに係る本件考案の構成が,当業者にとってきわめて容易に想到できるものではなかった,との判断を根拠にしてのことである。ところが,上記各相違点についての審決の判断がいずれも誤っていることは上述のとおりであるから,審決は,違法として取消しを免れない。
5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,理由がある。そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久
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