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関連審決 無効2000-35660
関連ワード 考案 /  図面 /  補正 /  請求項 /  実施例 /  特段の事情 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 37号 審決取消請求事件
原告 美和ロック株式会社
訴訟代理人弁護士 熊谷秀紀
訴訟代理人弁理士 宮口聡
同 飯田岳雄
被告 株式会社ゴール
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
同 井上裕史
訴訟代理人弁理士 玉利 冨二郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2000-35660号事件について平成13年12月7日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「扉錠」とする登録第1928926号の実用新案(昭和58年11月9日出願(以下「本件出願」という。),平成4年9月9日実用新案登録(以下「本件実用新案登録」という。)。以下「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告は,平成12年12月7日,本件実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,この請求を無効2000-35660号事件として審理し,その結果,平成13年12月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を同年12月19日に原告に送達した。審決は,実用新案権者である被告が提出した答弁書副本を,審判手続終結前に請求人である原告に送達することなく,なされた。
2 実用新案登録請求の範囲(別紙図面A参照。なお,符号AないしFは,審決におけると同様,便宜上付したものであり,以下,それぞれの構成要件を,審決におけると同様,「構成要件A」,「構成要件B」などという。) A 本施錠用の受孔32を形成した受部材30と,用心錠用の係合孔41を形成した規制部材35と,2段階に突出できる錠杆3を出没自在に嵌装した錠ケース1とを備え, B 前記錠杆3の最小突出時にはその係止部3aを規制部材35の用心錠用の係合孔41に係合して扉の一定角度の開放を可能とし,錠杆3の最大突出時には受部材30の本施錠用の受孔32に係合して本施錠されるようにした扉錠において, C 前記受部材30は,扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設するとともに,前面には規制部材35収納用の収納凹部31を,下部には錠杆3の係止部3a係合用の前記受孔32を形成し, D 規制部材35は,上端部を枢支するとともに下端部に前記係合孔41を形成し, E 錠ケース1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋設してなることを特徴とする, F 扉錠。
3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,請求人(原告)が「本件考案の構成要件(E)は,客観的な文理解釈上,一義的に,「屋外から見て,扉の正面側の前部から後部に向けて埋設してなる」という意味であり,また,本件考案の構成要件(C)は,「前記受部材は,屋外から見て,扉枠の正面側の前部から後部に向かって埋設するとともに」という意味である。」(審決書2頁第4段落)と主張したのに対し,次のとおり,判断した。
「本件考案の受部材30は扉枠ロに埋設され,該受部材30に扉イに埋設された錠ケースから2段階に突出できる錠杆3の係止部3aが,その最大突出時に係合する受孔32が形成されるものであること及び本件考案は開き扉の扉錠であることは,本件考案の構成要件(A)及び(B)の記載に照らして明らかである。 また,実用新案登録請求の範囲には,受部材30に形成された本施錠用の受孔32に対して錠杆がどの方向から出没してその係止部3aが受孔32に係合するのかについて規定するところはないが,本件考案が属する技術分野である開き扉の扉錠において,扉枠に埋設された受部材の露出した面に形成された(錠杆の)受孔に,扉に埋設された錠ケースから出没する錠杆を係合させるのに,特段の事情がない限り,錠杆を受孔に対して直線状に出没させて扉錠として機能させること,すなわち,受孔が形成される受部材の面と錠ケースの錠杆が突出する扉の面とを相対向させること,つまりは,扉枠の扉と相対向する面に受部材の受孔が露出するように埋設されることは本件考案の出願時の技術水準として当業者の認識するところである。このことと,本件明細書に添付された図面の第11図(規制部材及び受部材の正面図)及び第10図(規制部材及び受部材の縦断面図)に示されている受部材30に形成された受孔32と錠杆3及び係止部3aとの係合態様から,本件考案の構成要件C中の「前面」との用語,すなわち,受部材30の前面は,扉に埋設された錠ケースから出没する錠杆に対向して露出する面を意味すると解するのが相当である。」(審決書3頁第3,第4段落) 「本件考案が属する技術分野である開き扉の扉錠は,不法侵入者の侵入を防止するために設けられるものであるから,扉錠の扉あるいは扉枠に対する取付けは堅固で,また,外部からの不法な操作を防止できるものでなければならず,このため少なくとも錠杆の受孔を備える受部材は扉枠から外部に露出されて埋設されるべきではないことは当業者が技術常識として理解できることであり,このことは本件考案の用心錠用機能を備えた扉錠においても変わるところはないのである。しかしながら,本件考案の構成要件Cにおいて「扉枠ロの正面側」を屋外から見て扉枠の正面側とすると,受部材30は屋外から見た扉枠の正面側角部に形成した凹部に露出して設けられことになる。となると,前示した扉錠本来の機能が達成できないことになる。 このように,本件考案の構成要件Cの「扉枠ロの正面側」を請求人が主張するように「屋外から見て,扉枠の正面側」と解するのは,当業者の技術常識とする扉錠の機能,本件考案の目的の観点から見て,技術的に合理的な解釈ということはできず,むしろ,本件明細書等に接した当業者であれば,構成要件Cの「扉枠ロの正面側」は扉枠の扉と相対向する面を正面側と解するのが自然というべきである。 また,このことは本件考案の構成要件Eの解釈についても同様である。
そして,実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件(A)乃至(E)は,本件考案が解決しようとする課題(2欄19行乃至3欄19行)を達成する上において,必要かつ十分な構成要件といえるから,かかる記載をもって本件明細書の実用新案登録請求の範囲には,,考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項が記載されていないとの原告の主張は採用することができない。」(審決書4頁第2〜第5段落)
原告主張の審決取消事由の要点
審決が,本件出願の願書に添附した明細書(以下,添付した図面と併せて「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲には,考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項が記載されていないとの原告の主張は採用することができない,と認定判断したのは誤りである(取消事由1)。また,審判長が,本件無効審判の手続において,実用新案権者である被告が提出した答弁書の副本を,審判手続終結前に,請求人である原告に送達しなかったことは,本件登録実用新案について適用される平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。同法律26号附則4条1項参照。)41条により準用される平成5年法律第26号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)134条2項に反する(取消事由2)。これらの誤りが,それぞれ,結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は,取消しを免れない。
1 取消事由1(実用新案登録請求の範囲の記載不備についての判断の誤り) (1) 審決は,構成要件Cの「受部材30は,扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設する」及び構成要件Eの「錠ケース1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋設してなる」の意義を検討するに当たり,錠ケース1あるいは受部材30の前後方向の判断をしていない。
別紙図面Bの第1図及び第2図に示す錠ケース1のフロント板1a,背板1b,外側板1c(扉に装着したとき外側になる側板)及び内側板1dのうち,いずれを前方と解するかによって,扉イの正面側の意義が異なってくる。ところが,審決では,フロント板1aを手前にし,背板1bを先に埋設する,という態様しか検討していない。別紙図面Bの第3図に示すように,扉イの自由側端縁2に錠箱収納孔3を形成し,錠ケースの背板1bを先にして収納することは,通常行われている方法である。しかし,別紙図面Bの第4図に示すように,扉イの外面の自由側端縁部に錠ケース1を収納できる凹陥部4を形成しておき,錠ケース1の内側板1dを先にして錠ケース1を扉イに埋設し,外側板5を扉厚方向に重合するようにして凹陥部4を覆えば,錠ケース1を扉イの外面側の前部から後部に向けて埋設したことになるから,審決がいう「本件考案の目的の観点から見て,技術的に合理的な解釈」をしても,扉イの外面が扉イの正面側となる。
別紙図面Bの第5図に示すように,ダブテイル(dove-tail)係合が可能な蓋板6を扉の外面に沿ってスライドするようにして凹陥部4を閉塞しても,同様に,扉イの外面が扉イの正面側となる。また,別紙図面Bの第4図及び第5図において,扉の板厚方向において面対称な位置に凹陥部4を設ければ,同様に,錠ケース1を室内側に埋設することができ,この場合,扉イの内面が扉イの正面側となる。
別紙図面Bの第6図に示すように受部材30を設置すれば,扉枠ロの扉と相対向する面(閉扉時に扉の自由側端縁と対向する内側面)が扉枠ロの正面側となる。しかし,別紙図面Bの第7図に示すように受部材30を設置すれば,扉枠ロの外面を扉枠ロの正面側とすることもできるのである(別紙図面Bの第7図に示すものは,実際に製造販売されている。)。また,上記と同様にして,扉枠ロの内面を扉枠ロの正面側とすることもできるのである。
(2) 本件考案の扉イ及び扉枠ロの正面側がどの方向から見た正面側なのかは,上記のとおり,本件明細書の実用新案登録請求の範囲によってはもちろん,考案の詳細な説明及び図面を参照することによっても,一義的に確定することができない。審決は,「扉枠ロの正面側」とは閉扉時に扉と相対向する面であり,「扉イの正面側」とは閉扉時に扉枠と相対向する面である,と認定し,この認定に基づいて,「実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件(A)乃至(E)は,本件考案が解決しようとする課題を達成する上において,必要かつ充分な構成要件といえる」と判断したものである。審決の上記認定判断は,明らかに誤っている。本件実用新案登録について適用される旧実用新案法5条5項2号は,実用新案登録請求の範囲の記載は,「実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること」と規定しており,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は,同規定に反するものである。
2 取消事由2(旧特許法134条2項違反) 旧実用新案法41条により準用される旧特許法134条2項は,被請求人から答弁書を受理したときにはその副本を請求人に送達しなければならないと規定している。
しかしながら,本件においては,答弁書の副本は,審決と同時に請求人である原告に送達されたため,原告は,答弁書に対する弁駁書を提出する機会を奪われた。
審判におけるこの手続違背は重大であるから,審決は取り消されるべきである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(実用新案登録請求の範囲の記載不備についての判断の誤り)について (1) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲における「扉枠ロの正面側」及び「扉イの正面側」が,どの方向から見た正面側であるかは,本件明細書考案の詳細な説明,図面の簡単な説明,第1図,第2図,第4図,第11図及び出願時の技術水準から明確に理解することができる。
(2) 本件明細書の第1図には,閉扉状態において扉イと扉枠ロとが相対していることが鎖線で描かれており,その上で,扉イに,錠ケース1がフロント9を前面として右方向に埋設してあること,及び,扉枠ロに,規制部材35が組み込まれた受部材30が収納凹部31側を前面として左方向に埋設されていることが図示されている。そして,第1図は,縦断した側面図であるから,「扉枠ロの正面」が錠ケースを取り付けた状態の第1図の扉に相対向する面(受部材の面)をいうことは,自明のことである。しかも,第1図には右から左方向に示したU-U線矢視符号が記載され,このU-U線矢視方向から見た図が第2図であって,この第2図は第11図と同一方向から見た図であるから,この第2図は,第11図(正面図)の表現に倣えば,「第1図のU-U線方向から見た正面図」ということができるものである。したがって,第1図と第2図を参照するだけでも,「扉枠ロの正面」とは扉に相対向する面(又は受部材の面)のことであることが,明白である。
本件明細書の第4図は,錠ケースの開蓋状態側面図であり,錠ケースの蓋を取った状態の側面図である。この第4図と第1図とを検討すると,「扉イの正面」とは扉枠と相対向する面を意味することは,上述の解釈から明白である。
本件明細書の第11図(正面図)及び第10図(縦断面図)に示されている受部材30に形成された受孔32と錠杆3及び係止部3aとの係合態様からすれば,本件考案の構成要件C中の受部材30の「前面」とは,扉に埋設された錠ケースから出没する錠杆3に対向して露出する面である。このことは,本件明細書の第2図及び第1図からも明らかである。また,本件明細書の「受部材30の前面には後述の規制部材35を収納する収納凹部31が形成され」(甲第3号証3頁5欄18行〜20行)との記載と第1図とを見れば,受部材30の「前面」は上記と同様に解され,このことからも,「扉枠ロの正面側」とは扉と相対向する面であることが明らかである。
(3) 本件考案の構成要件E中の「扉イの正面側」の意味についても,上記(2)で述べたところから,閉扉時に扉枠ロと対向する面であることが明らかである。
2 取消事由2(旧特許法134条2項違反)について 審判手続上の誤りが,審決を違法とする理由となり得るのは,その誤りが審決の結論に影響を及ぼす場合に限られる。審決は,原告の弁駁を聞くまでもなく,本件審判請求に理由がないと判断したものであって,審判終結時に答弁書の副本を請求人に送達しなかったとの手続違背は,審決の結論に影響を及ぼすことはないのであるから,審決を違法とする理由とはなり得ない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(実用新案登録請求の範囲の記載不備についての判断の誤り)について 原告は,本件考案の構成要件Cにおける「扉枠ロの正面側」及び構成要件Eにおける「扉イの正面側」がどの方向から見た正面側なのか,本件明細書によっては,一義的に確定することができない,「扉枠ロの正面側」とは閉扉時に扉と相対向する面であり,「扉イの正面側」とは閉扉時に扉枠と相対向する面である,との審決の認定判断は誤りである,と主張する。
(1) 本件考案の構成要件Cは,「前記受部材30は,扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設するとともに,前面には規制部材35収納用の収納凹部31を,下部には錠杆3の係止部3a係合用の前記受孔32を形成し,」と規定されている。本件明細書の第1図(「縦断側面図」と表現されている。)及び第11図(「正面図」と表現されている。)(甲第3号証8欄22行〜30行)を参照すれば,この構成要件Cが,閉扉時に扉と対向する面が扉枠の正面側であり,その正面側の前部から後部にかけて受部材30が埋設され,その前面には規制部材35を収納する収納凹部31が形成され,その前面下部には,錠杆3の係止部3aを係合するための受孔32が形成される,との構成を規定していることは,実用新案登録請求の範囲の記載自体から,一義的に明りょうに理解することができる。
本件考案の構成要件Eは,「錠ケース1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋設してなることを特徴とする,」と規定されている。これと本件考案の構成要件Aの「2段階に突出できる錠杆3を出没自在に嵌装した錠ケース1」及び構成要件Bの「前記錠杆3の最小突出時にはその係止部3aを規制部材35の用心錠用の係合孔41に係合して扉の一定角度の開放を可能とし,錠杆3の最大突出時には受部材30の本施錠用の受孔32に係合して本施錠されるようにした扉錠」との構成,並びに,本件明細書の第1図(「縦断側面図」と表現されている。),第4図(「錠ケースの閉蓋状態側面図」と表現されている。)及び第11図(「正面図」と表現されている。)(甲第3号証8欄22行〜30行)を参照すれば,この構成要件Eが,構成要件A及びBと併せて,閉扉時に扉枠と対向する面を扉の正面として,その正面側の前部から後部にかけて錠ケース1が埋設され,錠杆3が2段階に突出して,規制部材35の用心錠用の係合孔41と係合して扉の一定角度の開放を可能にし,また,受部材30の本施錠用の受孔32に係合して本施錠させる,との構成を規定していることは,実用新案登録請求の範囲の記載自体から,一義的に明りょうに理解することができる。
本件考案の構成要件C及びEにおける「扉枠ロの正面側」及び「扉イの正面側」についての上記の解釈は,本件明細書考案の詳細な説明の欄の次の各記載ともよく合致する。
「〔実施例〕 この考案の一実施例を第1図ないし第9図に基づいて以下に説明する。
1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋め込んだ錠ケースで,この錠ケース1内には室内側に設けたサムターン(図示せず)または室内側に設けたシリンダー2の回動操作により最大,最小の二段階に突出するように錠杆3が嵌装されており,該錠杆3の先端には係止部3aが形成されている。」(甲第3号証3欄39行〜4欄3行。下線付加。), 「30は扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋め込んだ受部材で,この受部材30の前面には後述の規制部材35を収納する収納凹部31が形成され,該収納凹部31の一部には閉扉時に錠杆3を最大に突出させたとき錠杆3の係止部3aが嵌入して本施錠される受孔32が形成されている。33は裏蓋,34はビスである。」(5欄17行〜23行。下線付加。) 「〔考案の効果〕 この考案によれば,(1)本施錠用の受孔を形成した受部材は扉枠の正面側の前部から後部に向けて埋設する とともに,規制部材の係合孔に係入される錠杆を出没自在とした錠ケースは扉の正面側の前部から後部に向けて埋設し,受部材も錠ケースも共に彫込型としているから,1つの扉錠に内装した錠杆の段階的な突出操作により用心機能と本施錠機能とを選択使用できるだけでなく,外開き扉は勿論のこと,内開き扉にも用心錠として使用できる。」(8欄4行〜13行。下線付加。) このように,本件明細書の側面図である第1図及び第4図,並びに,正面図である第11図を参照しながら,実用新案登録請求の範囲に記載されている技術内容を理解すれば,閉扉時に扉イと対向する面が,扉枠ロの正面であって,この扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて受部材が埋め込まれ,その受部材の前面には規制部材35を収納する収納凹部31が形成されていること,及び,閉扉時に扉枠ロと対向する面が扉イの正面であって,この扉イの正面側の前部から後部に向けて錠ケース1が埋め込まれ,室内側に設けたシリンダー2の回動操作等により最大,最小の二段階に突出するように錠杆3が嵌装されており,この錠杆3の先端に形成されている係止部3aが,規制部材35の係合孔41あるいは受部材の受孔32と係合することが,一義的に明りょうに理解することができるのである。
(2) 原告は,審決は,構成要件Cの「受部材30は,扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設する」及び構成要件Eの「錠ケース1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋設してなる」の意義を検討するに当たり,錠ケース1あるいは受部材30の前後方向の判断をしていないとして,別紙図面Bにおいて,錠ケース及び受部材の扉及び扉枠への埋設方法について,種々の態様を挙げている。
しかしながら,本件明細書の上記記載及び上記各図面の図示からすれば,本件考案における扉及び扉枠の各「正面側の前部から後部に向けて」がどの方向のものであるかは,本件明細書自体から,上記のとおり明確なのであるから,本件明細書の前記記載事項と矛盾する内容を一部に包含することが明らかな別紙図面Bの記載内容を本件明細書の解釈において参酌すべき必要はない。原告の主張は主張自体失当である。
2 取消事由2(旧特許法134条2項違反)について 本件の審判の手続において,答弁書副本が原告に送達されたのは,審決書謄本の送達と同時である(甲第5号証)。平成5年法律第26号附則4条1項により,本件実用新案登録について適用される旧実用新案法41条の規定により準用される旧特許法134条2項が,「審判長は,前項の答弁書を受理したときは,その副本を請求人に送達しなければならない。」と規定しているところからすれば,審判長は,審判手続終結前に答弁書副本を請求人に送達すべきであったと解することができ,審決に至る過程に,旧実用新案法41条及び旧特許法134条2項が定めていた手続への違背があったことは明らかである。
しかし,旧特許法134条2項が,請求人に答弁書副本を送達すべきことを規定したのは,どのような場合でも必ず請求人に再反論,再立証の機会を保障する趣旨である,とまでは解することができない。無効審判における請求の理由と被請求人から提出された答弁書の内容からみて,答弁書副本を事前に請求人に送達し,再反論をさせる必要が明らかにないと認められる場合には,審理終結後に審決書謄本と同時に答弁書副本を送達したとの手続上の瑕疵は,審決の結論に実質的な影響を及ぼさないものとして,審決を取り消すべき違法な事由とまではいえないと解すべきである。
本件無効審判請求の請求の理由は,前記のとおり,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載における,「扉枠ロの正面側」及び「扉イの正面側」とは,いずれも,屋外から見た,扉及び扉枠の正面側の意味であり,それによると,本件明細書の実用新案登録請求の範囲には,考案の詳細な説明に記載した考案に欠くことができない事項が記載されていないことになる,というものである。そして,本件においては,本件考案の「扉枠ロの正面側」とは,扉枠の扉と相対向する面側を意味し,「扉イの正面側」とは,扉の扉枠と相対向する面側を意味していることが,本件明細書の記載自体から明らかであることは前記認定のとおりである。本件無効審判の請求の理由は,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が不備であるというものであるから,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が不備であるかどうかは,基本的に本件明細書自体により決定されるべき事柄である。本件無効審判の請求の理由の当否は,答弁書に対する審判請求人の弁駁を聞くまでもなく,本件明細書自体から十分に判断することができる事柄であることは,上述したところから明らかである(なお,仮に,請求人である原告に弁駁書の提出の機会が与えられたとしても,弁駁書における原告の主張は,本訴における原告の主張と,ほぼ同様の主張になると推認することができ,この主張が,本件明細書の記載不備の問題について影響を与えたり,審決の結論に影響を及ぼすことがないことは明らかである。)。なお,実用新案法38条2項によれば,無効審判の請求書の補正は,その要旨を変更するものであってはならないのであるから,請求人が答弁書をみて,無効審判の請求の理由を他の理由に補正することもできない。したがって,本件無効審判においては,原告が主張する上記手続違背は,この点からも,審決の結論に影響を与えるものではない,ということができる。
以上によれば,本件無効審判においては,審判手続終結前に,請求人に答弁書副本を送達しなかったとの手続違背はあるものの,この手続違背は,審決の結論に実質的影響を及ぼさない場合であると認められるのであるから,審決を取り消すべき違法なものということはできない。原告の上記主張は,採用することができない。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由には理由がないことが明らかであり,その他,審決にこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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