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関連審決 異議2000-74016
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  寄せ集め /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 469号 実用新案登録取消決定取消請求事件
原告 北辰工業株式会社
訴訟代理人弁理士 庄子幸男
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 相馬 多美子
同 麻野耕一
同 大野克人
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/26
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2000-74016号事件について平成13年8月31日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「粘性液体ダンパー」とする実用新案登録第2604241号考案(平成5年1月26日出願,平成12年2月18日設定登録,以下「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。
本件実用新案登録につき実用新案登録異議の申立てがされ,異議2000-74016号事件として特許庁に係属した。
原告は,平成13年5月15日付け訂正請求書により本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲等の訂正を請求(以下「本件訂正請求」という。)した。
特許庁は,同実用新案登録異議の申立てについて審理した上,同年8月31日,「訂正を認める。登録第2604241号の請求項1ないし2に係る実用新案登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年9月25日,原告に送達された。
2 本件訂正請求により訂正された本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載 【請求項1】内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって, 該密閉容器本体と蓋部は熱融着されており, 該蓋部に,熱可塑性樹脂からなり固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。
請求項2】該蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられている請求項1記載の粘性液体封入ダンパー。
(以下【請求項1】,【請求項2】に係る考案を「本件考案1」,「本件考案2」という。) 3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件考案1,2は,いずれも実願昭61-35755号(実開昭62-147747号)のマイクロフィルム(甲3,以下「刊行物1」という。)及び特開平4-34239号公報(甲4,以下「刊行物2」という。)記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり,拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものとして,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則9条7項に基づく特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)3条2項の規定により取り消されるべきものであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は,本件考案1と刊行物1記載の考案との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点についての判断を誤り(取消事由2),本件考案2の容易想到性の判断を誤った(取消事由3)ものであり,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件考案1と刊行物1記載の考案との一致点の認定の誤り) 本件決定は,「刊行物1(注,甲3)の考案の・・・『挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起』は,本件考案1の・・・『押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部』に相当し,両者は,『内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって,該蓋部に,固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。』の考案で一致」(決定謄本7頁対比)すると認定するが,誤りである。
刊行物1(甲3)のダンパーは,ゴム製であり,そのゴム製のダンパーを側壁に取り付けるには,ハウジング底部の中央に設けられた凸部32を側壁に形成された孔に差し込んで行うものである。この際,孔への差し込みは,ゴム製の凸部の弾性を利用して押し込まれるものであり,しかも,それだけではダンパーが回転するために,凸部の側方に回転防止用の突起を形成し,この二つの凸部によって孔への取り付けがされる。ところが,ゴム製の凸部の弾性を利用して孔に押し込んだダンパーは,孔に対して強固に固着することはあり得ず,外力を与えると簡単に離脱してしまうものである。この現象はダンパーがゴム製であることに起因するものであり,ダンパーの凸部がゴム製である限りにおいて,構造にかかわらず,強固な固着は望めない。これに対し,本件考案1のダンパーは,容器本体も蓋部も全体が熱可塑性樹脂によって構成され,当然蓋部に一体に形成される係合部も熱可塑性樹脂で形成されており,その係合部が,この熱可塑性樹脂で形成されているからこそ,固定部材の空所に押し込むだけで,強固に固着,すなわち「嵌着」することができるものである。「嵌着」とは,固定部材の空間に係合部をはめ込むだけで強固に固着できる形態を意味する当業者の技術用語であり,「嵌着」したものは,刊行物1のゴム製のダンパーのように,外力によって簡単に外れるようなものではない。したがって,刊行物1の「挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」の構成が,本件考案1の「押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部」に相当することを前提に,両者は,『内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって,該蓋部に,固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。』の考案で一致」(決定謄本7頁対比)するとした本件決定の一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点についての判断の誤り) 本件決定は,本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点として,「(1)本件考案1では、密閉容器の材料は熱可塑性樹脂製であって、本体と蓋部が熱融着して接合されるのに対して、刊行物1の考案ではゴム製であって、接合手段が記載されていない点」(以下「相違点(1)」という。)及び「(2)蓋部及び押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部の材料が、本件考案1では熱可塑性樹脂製であるのに対して、刊行物の1考案ではゴム製である点」(以下「相違点(2)」という。)(決定謄本7頁対比)を認定した上,これらの相違点について,刊行物1,2記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであると判断するが,誤りである。
本件考案1は,ダンパーを構成する容器本体及び蓋体が,共に熱可塑性樹脂で構成されていることばかりでなく,熱可塑性樹脂で形成される蓋部に係合部も一体に形成されていることが重要な特徴である。熱可塑性樹脂製の係合部を有することによって,固定部材とダンパーの固着が,簡単かつ確実なものになる。熱可塑性樹脂で形成される蓋体に,係合部を一体に形成することによって,ダンパーを固定部材の空所に押し込むだけで「嵌着」し,強固に固着できるようにするとの効果は,本件考案1に特有のものであり,刊行物1,2には,これを示唆する記載はない。本件考案1は,熱可塑性樹脂から成る係合部を蓋体に一体に形成したことによって,従来より,ダンパー組立時に多くの工程を要した問題点を,固定部材の空所にダンパーを押し込むだけで強固に「嵌着」し,組立時の固定部材とダンパーの固着を簡単かつ確実にすることができたものであり,その効果は顕著なものというべきである。
3 取消事由3(本件考案2の容易想到性の判断の誤り) 本件決定は,「本件考案2では,蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられている点で,刊行物1の考案からさらに相違するが,・・・刊行物2(4)には,第二体の蓋体48に攪拌部22と可撓部26とを設けた構成が記載されており,これらは本件考案(注,「本願考案」とあるのは誤記と認める。)2の凸部に相当する部材であり,刊行物1及び刊行物2に記載された考案は、粘性液体封入ダンパーで共通するものであるから、これらを寄せ集めることで、刊行物1の考案において、
蓋部の粘性液体接触面に凸部を設けた構成とすることは、きわめて容易に推考することができた」(決定謄本8頁第3段落)と判断するが誤りである。本件考案2は,本件考案1の従属考案であり,蓋部の粘性液体接触面に凸部が設けられているだけでなく,請求項1に規定された熱可塑性樹脂製の係合部が一体に形成されていることが必須の要件である。したがって,刊行物2の第2図に示された蓋体48が仮に凸部を形成した点で本件考案2と類似性が認められるとしても,上記2のとおり,本件考案1が,刊行物1に基づいてきわめて容易考案をすることができたものでない以上,蓋体の凸部の構成の類非だけを論ずることは無意味なことである。
被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件考案1と刊行物1記載の考案との一致点の認定の誤り)について 「嵌着」とは,特許,実用新案の明細書において慣用的に使用されている用語で,実願昭62-74804号(実開昭63-184513号)のマイクロフィルム(乙1),実公平2-32901号公報(乙2)及び実願昭63-100330号(実開平2-20894号)のマイクロフィルム(乙3)に見られるように,はめて取り付けることを意味し,原告主張のように強固に固着することを意味する用語ではない。本件考案1の請求項には,「押し込むだけで嵌着する係合部」について,具体的な構成の記載がなく,刊行物1記載の考案の「挿入されて取り付けられる中央部の凸部」は,「挿入されて取り付けられる」のであるから,本件考案1と同様に,他の固着部材を必要としない「押し込むだけで嵌着する係合部」に相当する。「押し込むだけで嵌着」する取り付け手段は,発明協会発行の「技術動向シリーズ 特許からみた機械要素便覧〔固着〕」(乙4)に見られるように周知慣用であり,刊行物1記載の考案の「挿入されて取り付けられる中央部の凸部」が,特に具体的な構成を特定しない本件考案1の「押し込むだけで嵌着する係合部」に相当するとした本件決定の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点についての判断の誤り)について (1) 刊行物2(甲4)には,容器本体と蓋体が硬質樹脂(熱可塑性樹脂)により形成され,両者が熱融着されたダンパーについて,イ.「(1)容器内部に突入するとともに自身の穴部に支持部材又は被支持部材の軸体を嵌入させる攪拌部と,該攪拌部を浮動状態に弾性支持する薄肉の可撓部とを備えた,全体として密閉の容器体を成す部材であって内部に高粘性流体が封入され,該攪拌部による該粘性流体の攪拌作用に基づいて,支持部材と被支持部材との間で振動吸収する粘性流体封入ダンパーにおいて,該ダンパーを,第一体と前記可撓部を含む第二体とに分割した上これを一体化した形態と成し,該第二体の可撓部をゴム材,軟質樹脂材等の軟質材料で形成するとともに,該可撓部の周囲の固着部を硬質樹脂材で形成する一方,少なくとも第二体の対応する固着部を硬質樹脂材で形成したことを特徴とする粘性流体封入ダンパー」(1頁2.特許請求の範囲),ロ.「(従来の技術)例えば車両等に搭載されるCDプレーヤ等においては,車体の振動がそのままCDプレーヤーに伝達されると音飛び等を生じることから,これを防止すべく,粘性液体封入ダンパーを介してCDプレーヤーを防振支持することが行われている。
ここで粘性液体封入ダンパーは,一般に密閉容器体を成していて内部に高粘性流体が封入され,その高粘性流体の流動抵抗に基づいて振動吸収するようになっている。ところで従来のこの種ダンパーは,第一体と第二体との分割形態とされ,内部に高粘性流体を封入する状態にそれら第一体と第二体とが互いに合わされて固着され,一体化されている。そしてその固着手段として,接着剤による方法が一般的に採用されている。その理由は次の通りである。即ちこの種ダンパーにあっては,可撓部において攪拌部を十分な浮動状態に支持できるように,かかる可撓部を含む第二体側を軟質材料(通常はゴム材)で形成することが行われており,そしてかかるゴム等の軟質材料の固着方法として,接着剤による方法が最も良好であるからである。(発明が解決しようとする課題)しかしながら,このように第一体と第二体とを接着剤を用いて固着する場合,それらの合せ面にオーバーフローした高粘性流体により,或いはその他の理由によって合せ面に付着した高粘性流体により,接着剤の接着反応が阻害され,これにより第一体と第二体とが接着剥離を起こす恐れのある問題があった」(2頁左上欄〜右上欄),ハ.「(作用及び発明の効果)このように本発明は,容器の構成体である第一体と第二体との互いの固着部を硬質樹脂材で形成し,それら硬質樹脂材同士を固着するようにしたものである。かかる本発明においては,第一体と第二体との固着手法として種々の方法を採用することができるが,特にかかる樹脂同士を一旦溶かして互いに固着する溶着手法(熱溶着或いは超音波溶着等)を用いることが可能となる。而してこのような溶着により第一体と第二体とを固着した場合,たとえそれらの合せ面に高粘性流体が付着したとしても,特に支障なくそれらを強固に固着することができる」(2頁左下欄〜右下欄),ニ.「(実施例)次に本発明の実施例図面に基づいて詳しく説明する。第1図において,10は密閉容器状を成す粘性流体封入ダンパーであって(図はダンパーを組立時の向きで表している),内部に高粘性流体12が封入されている。このダンパー10は,第一体14と第二体16との分割形態を成し,それらが互いに固着されて容器体,つまりダンパー10が構成されている。尚,この例では第一体14が蓋体として,また第二体16が容器本体として構成されている。第二体16は,また,ゴム製の第一部材18と,硬質樹脂(熱可塑性樹脂)製の第二部材20とから成っている。ゴム製の第一部材18は,その中央部において容器内方へと突入する攪拌部22を備えている。攪拌部22には,行止り穴形態の穴部24が設けられており,この穴部24に,支持部材又は被支持部材から延び出す軸体が嵌入されるようになっている。・・・この第二部材20は,基端部が外方に突出する鍔状部32とされ,この鍔状部32が,硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第一体14に固着されている。このダンパー10は,容器本体としての第二体16を第1図に示す向き,即ち開口が上側にくる向きに配して,その内部に高粘性流体12を充填し,しかる後蓋体としての第一体14を第二体16の上に乗せて固着することにより一体に組み付けることができる。ここで第一体14と第二体16とは,様々な手法により固着することができるが,それらを樹脂同士の固着により,例えば熱溶着或いは超音波溶着により固着した場合,次の種々利点が生ずる」(第3頁左上欄〜第3頁左下欄)との記載がある。
(2) 相違点(1)について 上記(1) のロには,第一体とゴム等の第二体との接着剤を用いての固着に問題があったこと,同ニ.には,熱可塑性樹脂同士を熱溶着或いは超音波溶着により固着することにより上記問題を解決したことが記載されおり,刊行物1記載の考案における「ダンパ装置」は,上記ロ.で指摘された問題のあるゴムのハウジングの上面部と底部である以上,ゴム同士の固着部の問題を解決するため,刊行物2に記載された熱可塑性樹脂同士の熱融着による構成を採用することは,きわめて容易に推考できる。
(3) 相違点(2)について 刊行物1記載の考案における「挿入されて取り付けられる中央部の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」は,ハウジングの底部と一体にゴムで形成されるが,ゴムの係合部(軟質)も熱可塑性樹脂の係合部(硬質)も周知であることは,発明協会発行の「技術動向シリーズ 特許からみた機械要素便覧〔固着〕」(乙4)に示されているとおりであり,刊行物2には,熱可塑性樹脂(硬質)の材料からなるダンパ装置が記載されており,刊行物1の考案におけるハウジングの底部を熱可塑性樹脂で形成し,本件考案1に係る係合部をも一体に熱可塑性樹脂で形成することが,示唆されている。
(4) したがって,本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点(1)及び同(2)について,刊行物1,2記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるとした本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件考案2の容易想到性の判断の誤り)について 本件考案2は,本件考案1を引用する考案であり,本件考案2に記載の凸部の形状が刊行物2に記載されている以上,本件考案2も刊行物に記載された考案からきわめて容易考案できたものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件考案1と刊行物1記載の考案との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,「嵌着」とは,固定部材の空間に係合部をはめ込むだけで強固に固着できる形態を意味する当業者の技術用語であり,「嵌着」したものは,刊行物1のゴム製のダンパーのように,外力によって簡単に外れるようなものではないから,刊行物1の「挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」の構成が,本件考案1の「押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部」に相当することを前提に,両者は,『内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって,該蓋部に,固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。』の考案で一致」(決定謄本7頁対比)するとした本件決定の一致点の認定は誤りであると主張する。
そこで,「嵌着」の語の意味について検討するに,実願昭62-74804号(実開昭63-184513号)のマイクロフィルム(乙1)には,車両用灯具など車体の外側に取り付けられる部品に配線を行うときに車体内の防水を行う目的で,車体の開口部に取り付けられるグロメットに関する技術について,「【従来の技術】従来この種のグロメット20の構造を示すものが第3図であり,このグロメット20は全体が一体にゴムなど弾性に富む部材を用いて形成され,周縁部に車体21の板厚と開口部の径にほぼ合致する摺割溝が設けられて嵌着部20aとされ,中心部に電線22を通過させるための適宜数の電線孔20bが設けられて電線保持部とされるもので,車体21に嵌着するときはこのグロメット20が形成された部材の弾性を利用して前記嵌着部20aを変形させて行うものである。【考案が解決しようとする問題点】しかしながら,前記した従来の構造のグロメットは,第一に取付作業のときに形成された部材がゴムなど極度に軟質であることで嵌着時の手応えに乏しく確認が困難で,この理由によりしばしば不完全な取付状態とされる作業上の問題点」(2頁第2段落〜3頁第1段落),「グロメット1は・・・樹脂部材で形成された嵌着部2とゴムなどの弾性に富む部材で形成された電線保持部3との二体に分割されて形成され,車体4に設けられた開口部4aに取付けられている」(4頁第2段落)との記載がある。上記記載によれば,従来の軟質ゴムによる「嵌着」は弱く,これを樹脂構造に変えることで強度を増し,クリック感などの手応えを増すとの内容を読み取ることができる。すなわち,上記記載においては,「嵌着」という用語は,「開口部にはまり合って取り付ける」との結合形態を表しているだけで,その結合状態の強弱には無関係に使用されていることが明らかであり,結合部の素材を変更したために結合状態は強くなったとしても,そのような「強い結合状態」のみを表現するために「嵌着」の語を用いているということはできない。
次に,実公平2-32901号公報(乙2)には,「嵌着」の語が,閉鎖部材23(ゴム製)の細径部23aが補助部材22の穴22bへの取付け,及び補助部材22(ゴム製)と閉鎖部材23(ゴム製)の中間の溝Aの支持母材10の保持穴10aへの取付けの2箇所において使用されている。そして,同公報では,上記記載に加え,袋体21の補助部材22の筒状部22a内への取付けに「装着」の語が,袋体22の補助部材22の穴22bへの取付けに「嵌装」の語が使用されている。そして,上記「嵌着」されている部材はいずれも原告が「結合力が弱い」とするゴム製であるから,強固な固定が意図された部分として「嵌着」の語を使用しているものと解することはできない。
また,実願昭63-100330号(実開平2-20894号)のマイクロフィルム(乙3)には,ディスク再生装置における振動を遮断するためのインシュレート装置について,「該インシュレータは弾性材で形成してあるため,前記取付孔へ膨拡部及び嵌合部を圧入した後に圧縮を解除すれば,膨拡部が膨張して再び元の形状に復帰し,前記嵌合部と取付孔の孔壁面とが密嵌して当該インシュレータが嵌着される。而して,前記メインシャーシの開口部へ一定に間隙を有し,且つ,インシュレータを介して取付シャーシを弾着できるので,外部からの振動を遮断して,ピックアップ送り機構部への伝導を防止することができる」(5頁)との記載があり,同記載においては,「嵌着」という用語は,「はめて取り付ける」意味で使用されているものと認められる。
以上検討したところによれば,「嵌着」は,一般に素材の弾性変形を利用して取付部を支持部材に挿入して取り付けるという状態をいうものと解され,特に取り付け強度が強固なもののみに対して用いられるということはできず,取付強度とは無関係に,上記のような取付構造ないし状態を意味するものとして使用されている語であるということができるから,「嵌着」が強固な固着状態のみを表現する用語として通常用いられているとの原告の主張は採用することができない。
(2) 次に,本件明細書において,「嵌着」の語がどのように使用されているかについて検討する。
本件明細書(甲5添付)には,「内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される熱可塑性樹脂製密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって,該密閉容器本体と蓋部は熱融着されており,該蓋部に,熱可塑性樹脂からなり固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー」(【請求項1】),「粘性液体封入ダンパーの蓋部に係合部を備えた装着部を設け,固定部材に前記係合部に対応する空間部を形成させておき,該係合部を該固定部材の空間部に押し込むだけで嵌着させることができ,ダンパーを簡単に固定することを可能としたものである。例えば,図2を用いて説明すると,装着部(2)は,固定部材(3)内の空間部(4)に嵌着される」(段落【0007】),「前記凸部(34)は,空間部内に形成された溝に沿って移動し,凹部(43)内に到着し,該凹部にて嵌着され(図4-b,c),前記粘性液体ダンパーが固定される」(段落【0008】),「粘性液体ダンパーの装着部が固定部材の空間部に嵌着され固定される」(段落【0009】),「 該粘性液体封入ダンパーを固定部材に固定する際にも,ダンパーに一体に形成されている係合部を備えた装着部を固定部材内に設けられた空間部に押し込むだけで嵌着させることができ,簡単な操作にて,強固に固定することができる」(【考案の効果】)との記載があり,これらの記載から,本件考案1が,「係合部を構成する素材の弾性変形を用いて固定部材に固定する際,その固定強度を強化する」との目的を持つものであることは看取することができるが,【考案の目的】欄に「簡単な方法で短時間に固着することができる粘性液体封入ダンパーを提供することを目的とする」(段落【0004】)とあるとおり,「嵌着」の語が,特に「強い強度での固定」を意図して用いられていると読み取ることはできない。他方,本件明細書には,結合強度の向上について,「【問題点を解決するための手段】本考案は,前記目的を達成するために提案されたものであり,粘性液体封入ダンパーの密閉容器を構成する素材として熱可塑性樹脂を採用することにより,振動吸収能に優れ,かつ成形性にも優れた粘性液体ダンパーが短時間で得られるという知見と,該ダンパーを爪などの係合部を備えた装着具を利用し,固定部材の係合部を押し込むだけで,簡単にしかも強固に粘性液体封入ダンパーを固定部材へ固定することができるという知見に基づくものである」(段落【0005】)との記載があり,接合強度の向上が,熱可塑性樹脂の採用によってもたらされたものであることを示唆している。さらに,本件明細書ではダンパーの固定方法について,「固定」「固着」の語も,「嵌着」と特に区別されることなく使用されていることが認められる。
以上から,本件実用新案登録請求の範囲において,「嵌着」は装着部2が弾性変形した上で固定部材3の空間部に挿入され,結合されるという装着態様を表すものであり,これを特に強固な固定状態をいうものと認めることはできない。
(3) したがって,「嵌着」の語が,特に強固な固定状態をいうものと認めることができないことは上記のとおりであるから,本件考案1と刊行物1記載の考案の取付構造ないし状態に着目して,刊行物1の「挿入されて取り付けられる中央の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」の構成が,本件考案1の「押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部」に相当することを前提に,両者は,『内部に粘性液体が封入された容器本体と蓋部とから構成される密閉容器から少なくとも構成された粘性液体封入ダンパーであって,該蓋部に,固定部材の空間に押し込むだけで嵌着する係合部を備えた装着部が一体に設けられていることを特徴とする粘性液体封入ダンパー。』の考案で一致」(決定謄本7頁対比)するとした本件決定の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点(1)について 刊行物2(甲4)には,被告主張のとおりの記載があり,特に,「第一体14が蓋体として、また第二体16が容器本体として構成されている。第二体16は、また、ゴム製の第一部材18と、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)製の第二部材20とから成っている」(3頁右上欄)、「この第二部材20は、基端部が外方に突出する鍔状部32とされ、この鍔状部32が、硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第一体14に固着されている。・・・蓋体としての第一体14を第二体16の上に乗せて固着することにより一体に組み付けることができる。ここで第一体14と第二体16とは,様々な手法により固着することができるが,それらを樹脂同士の固着により,例えば熱溶着或いは超音波溶着により固着した場合,次の種々利点が生ずる」(同頁左下欄)との記載に照らせば,粘性液体封入ダンパーの蓋体と本体とを樹脂同士の熱融着等の固着方法で結合させることが開示されていることが明らかである。そうすると,本件決定のいうとおり,「刊行物1の考案におけるゴム製のハウジングを熱可塑性樹脂の密閉容器とし,本体と蓋部が熱融着されたものとすることは,きわめて容易に推考できる」(決定謄本7頁下から第2段落)ということができる。
(2) 相違点(2)について 刊行物2(甲4)には,「この例では第一体14が蓋体として、また第二体16が容器本体として構成されている」(3頁右上欄),「第二部材20は,基端部が外方に突出する鍔状部32とされ,この鍔状部32が,硬質樹脂(熱可塑性樹脂)にて形成された第一体14に固着されている」(同頁左下欄)との記載があり,容器本体に対する蓋体を熱可塑性樹脂製とすることが開示されており、さらに、同一部材として一体に形成される部材を同一樹脂で構成することは、技術常識である。そして,刊行物1記載の考案における「挿入されて取り付けられる中央部の凸部と凸部の側方の回転防止用突起」は,ハウジングの底部と一体にゴムで形成されるが,ゴムの係合部(軟質)も熱可塑性樹脂の係合部(硬質)も周知であることは,発明協会発行の「技術動向シリーズ 特許からみた機械要素便覧〔固着〕」(乙4)に示されているとおりであるから,刊行物1記載の考案におけるゴムで形成された一体の部材を、熱可塑性樹脂製とすることは、刊行物2の記載からきわめて容易に推考できるということができる。
(3) 以上によれば,本件考案1と刊行物1記載の考案との相違点(1)及び同(2)について,刊行物1,2記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるとした本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件考案2の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件考案2は,本件考案1の従属考案であり,本件考案1が,刊行物1に基づいてきわめて容易考案をすることができたものでない以上,蓋体の凸部の構成の類非だけを論ずることは無意味なことであると主張する。しかし,本件考案1は,刊行物1,2記載の各考案に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであることは上記2のとおりであるから,原告の取消事由3の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男
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