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関連審決 異議2000-73864
関連ワード 分割出願 /  考案 /  図面 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  請求項 /  転用 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 483号 実用新案登録取消決定取消請求事件
原告 九州日立マクセル株式会社
訴訟代理人弁理士 松尾 憲一郎
同 内野美洋
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 沼澤幸雄
同 野田直人
同 一色 由美子
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/01
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-73864号事件について平成14年8月6日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,考案の名称を「整水器」とする登録番号第2604052号の登録実用新案(平成4年12月28日に出願された実願平4-89421号の分割出願として,平成8年12月27日に出願(以下「本件出願」という。)。平成12年2月4日登録。以下「本件登録実用新案」という。請求項の数は5である。)の実用新案権者である。
本件登録実用新案の請求項1ないし5のすべてについて,登録異議の申立てがなされ,その申立ては,異議2000-73864号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,訂正後の全文訂正明細書を,願書に添付した図面と併せて「訂正明細書」という。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成14年8月6日に,「訂正を認める。登録第2604052号の請求項1ないし5に係る実用新案登録を取り消す。」との決定をし,同年8月29日にその謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲(本件訂正後) 「【請求項1】一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ水表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを配設し、該両表示ランプの間に、浄水が、選択された状態を示す浄水表示ランプを配設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表示する整水器において、上記アルカリ水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示部は浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すようにアルカリ水表示ランプを配列し、しかも、切替スイッチの状態を、上記表示ランプのいずれかの点灯により表示したことを特徴とする整水器。」(以下「本件訂正考案1」という。) 「【請求項2】一端側にアルカリ性生成水が選択された状態を示すアルカリ水表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを配設し、該両表示ランプの間に、浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを配設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表示する整水器において、上記酸性水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示部は浄水表示ランプ側から他端側にかけて酸性の度合いが徐々に大きくなることを示すように酸性表示ランプを配列し、しかも切替スイッチの状態を、上記表示ランプのいずれかの点灯により表示したことを特徴とする整水器。」(以下「本件訂正考案2」という。) 「【請求項3】一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ水表示ランプを、他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを配設し、該両表示ランプの間に、浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを配設した表示部を本体の一面上に備え、該表示部により切替スイッチの状態を表示する整水器において、上記アルカリ水表示ランプが複数個隣接してなり、該表示部は浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すようにアルカリ水表示ランプを配列し、また上記酸性水表示ランプも複数個隣接してなり、上記表示部は浄水表示ランプ側から他端側にかけて酸性の度合いが徐々に大きくなることを示すように酸性水表示ランプを配列し、しかも、切替スイッチの状態を、上記表示ランプのいずれかの点灯により表示したことを特徴とする整水器。」(以下「本件訂正考案3」という。) 「【請求項4】上記表示部の表示ランプは単一の切替スイッチにより切り替え可能としたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の整水器。」(以下「本件訂正考案4」という。) 「【請求項5】上記表示部の表示ランプにはそれぞれに対応した押しボタンが配設されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の整水器。」(以下「本件訂正考案5」という。本件訂正考案1ないし5をまとめて「本件訂正考案」ということがある。) 3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正考案1ないし5は,いずれも,「三洋電機株式会社製のアルカリイオン成水器「アルカリ生活HL-AL1」の商品カタログ(1992年6月現在の商品)」(異議手続における引用例1。本訴甲第2号証。以下「引用例」という。)記載の考案(以下「引用考案」という。)と周知・慣用手段とに基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができるから,実用新案法3条2項に該当し,実用新案登録を受けることができない,というものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件訂正考案1と引用考案との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「「一端側にアルカリ性の生成水が選択された状態を示すアルカリ水表示ランプを,他端側に酸性の生成水が選択された状態を示す酸性水表示ランプを配設し,該両表示ランプの間に,浄水が選択された状態を示す浄水表示ランプを配設した表示部を本体の一面上に備え,該表示部により切替スイッチの状態を表示する整水器」という点」 (相違点) 「本件訂正考案1では,「表示部」の複数のアルカリ水表示ランプを「浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように配列し,しかも,切替スイッチの状態を,上記表示ランプのいずれかの点灯により表示した」のに対し,公知考案(判決注・引用考案)では,複数のアルカリ水濃度表示ランプを「一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように配列し,しかも,調節スイッチの状態を,上記表示ランプの点灯により表示した」点 すなわち,上記相違点は,要するところ,本件訂正考案1では,アルカリ水濃度を表示する「複数のアルカリ水表示ランプ」を,切替スイッチで表示切替えが可能な「表示部」に設けたのに対し,上記公知考案(判決注・引用考案)では,該「複数のアルカリ水濃度表示ランプ」を,調節スイッチで表示切替え可能な「アルカリ水濃度表示部」として別個に設けた点と言い換えることができる。」
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件訂正考案1と引用考案との相違点についての判断を二つの点で誤ったものであり(取消事由1,2),これらの判断の誤りが,それぞれ,本件訂正考案1ないし5のいずれについても結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,上記各請求項のすべてにつき,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について (1) 決定は,「本件訂正考案1の上記相違点は,アルカリ水や浄水等その水質の把握の容易化やその水質の濃度(アルカリ水のpH濃度)の把握の容易化のために,酸性水,浄水,アルカリ水の度合い(濃度レベル)を示す各表示ランプを一つの「表示部」にまとめるに際し,その表示部を「浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように配列し」たいわゆる「レイアウト」がその特徴の一つであると云えるから,この表示部の「レイアウト」の観点から上記相違点を検討すると,pH濃度により,「酸性水,浄水,アルカリ水」を表示する場合,そのアルカリ水の度合いを「浄水側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように表示を配列」する「レイアウト」は,例えば上記引用例2(判決注・実公昭63-10868号公報。本訴甲第3号証。以下「周知例1」という。)にもみられるとおり,周知・慣用手段であり,またこの表示部の「レイアウト」が上記公知考案(判決注・引用考案)の「アルカリ水濃度表示部」でも採用されていることは前示したとおりである。してみると,本件訂正考案1の上記相違点のうち表示部の「レイアウト」の点は,pH濃度表示のいわば常套手段を採用して当業者が極めて容易に設計することができた程度のことと云うべきである。」(決定書8頁27行〜9頁3行)とするが,誤りである。
(2) 周知例1に示されている考案は,生成された水を採取して,採取した水に指示薬を滴下し,その発色状態を操作パネルに表示した比色パネルと比較して,該当する比色によってペーハー値を判断するものである。
周知例1に記載されているのは,単なる印刷物としての色見帯である。この色見帯の使用方法は,上記のとおり,あらかじめリトマス試験紙などを用いて試みたペーハー変色の度合いを色見帯の各種色彩と色合せして変色のペーハー度を照合確認するというものであり,そこには,「ランプ表示」及び「そのランプのいずれかの点灯による表示」という技術思想は含まれていない。このような色見帯の技術から,「表示ランプの配列」が周知・慣用であるということはできない。
もともと,色合せのために用いられる色見帯は,本件訂正考案1のように極性と濃度との双方を一個の点灯で知らせるランプ表示配列とは,技術分野も技術思想も全く異なる。
引用考案の2種類のランプ表示(極性用ランプ表示と濃度用ランプ表示)の技術に,ランプ表示とは全く無関係で,かつ潜在的にもランプ表示技術を包含していない周知例1の技術を適用して,本件訂正考案1の「いずれかが点灯するような表示ランプ配列」を考案することを,きわめて容易なことであるとすることはできない。
(3) 周知例1には,「中性」と記載されているのであって,「浄水」とは記載されていない(甲第3号証の第1図参照)。周知例1のように水のpH濃度を酸性,中性,アルカリ性の順に表示するレイアウトが周知・慣用手段であるとしても,本件訂正考案1におけるもののように,整水器で生成を行う水の種類である「酸性」「浄水」「アルカリ」と生成された水のPH濃度である「アルカリ1」〜「アルカリ4」とを一連に表示したレイアウトが,周知・慣用手段である,ということにはならない。
(4) 引用考案の各スイッチは,それぞれ,極性と濃度という2種類の異なったものを表すための切替えスイッチであるから,引用考案からは,各切替えスイッチのそれぞれの表示ランプの点灯によりそれぞれの切替えスイッチの状態を表示する,という思想しか出てこない。周知例1に示されるペーハー配置表示を引用考案転用することは困難である。
(5) 被告は,本件訂正考案1は,引用考案において,表題部1のアルカリの箇所に表示部2をそのまま配列して表示部を1か所にまとめただけのものであり,要するに,引用考案において二つある構成を一つにまとめただけである,と主張する。
しかし,表示部1と表示部2とを1か所にまとめること自体に困難性があるというべきである。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り) 決定は,本件訂正考案1について,「本件訂正考案1の上記相違点の他の特徴である「単一の切替スイッチ」について検討すると,この点のねらいは,本件明細書の「単一の切替スイッチにより切替可能とすると,操作性が向上するとともに,構成が簡略化されコスト的に有利である。」(本件公報段落【0037】)という記載によれば,その操作性の向上や構成の簡略化等にあると云えるところ,例えば上記引用例3(判決注・特開平4-3384192号公報。以下「周知例2」という。)及び8(判決注・特公平4-31754号公報。以下「周知例3」という。)にもみられるとおり,段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器に限らず各種分野で必要に応じて汎用されている周知・慣用手段であり,そしてこのような工夫をすれば操作性の向上や構成の簡略化等という効果を奏することも当業者に自明な事項である。以上の観点から,改めて上記公知考案(判決注・引用考案)の「切替スイッチ」や「調節スイッチ」についてみると,これら両スイッチも,その機能面や技術面からみれば共に段階的なレベルを表示する複数の表示ランプを切り替える「切替スイッチ」であることに変わりはないから,これら両スイッチをまとめて1個の切替スイッチとする技術上の障害はないと云うべきであり,本件明細書にも単一の切替えスイッチとするに際し技術上の障害があったとか等の記載又は示唆はない。そうすると,その操作性の向上や構成の簡略化等の観点から切替スイッチを1個とすることは前示したとおり汎用されている周知・慣用手段であるから,上記公知考案(判決注・引用考案)の「切替スイッチ」と「調節スイッチ」をまとめて1個の切替スイッチとする程度のことも例えば上記引用例3及び8(判決注・周知例2及び3)にもみられる周知・慣用手段を参考にすれば必要に応じて当業者が極めて容易に設計することができたことと云うべきである。」(決定書9頁4行〜26行),とするが,誤りである。
(1) 訂正明細書の段落【0013】,【0014】,【0029】,【0030】等に記載されている技術を見るならば,本件訂正考案1の表示形態の技術は,切替えスイッチ操作によりそれに対応した極性と濃度の電解処理水を得るということが前提とされているのであり,同考案が表示形態の改良に工夫を凝らしていることを理解することができる。例えば,段落【0029】には,「たとえば表示ランプL6を選択した場合は,吐出される水が中程度のアルカリ水になるように電解槽13に電圧が印加され電解作用を開始する。」と記載されており,【0034】には,「例えば表示ランプL1を選択した場合は,吐出しされる水が強い酸性水になるように電解槽13に電圧が印加される。具体的には電解方向が上記アルカリ水生成特の場合と反転し電解の強さも大きくする,」と記載されており,両スイッチを一つにまとめることにおける技術上の障害を解決するための具体的な構成が記載されているから,決定が「技術上の障害はないというべきであり」と判断したのは誤りである。
(2) 周知例2(甲第4号証)及び周知例3(甲第40号証)には,引用考案における調整スイッチに相当するスイッチが開示されているだけで,切替えスイッチに相当するものは開示されていない。
(3) そうすると,決定が「上記公知考案(判決注・引用考案)の「切替スイッチ」と「調整スイッチ」をまとめて1個の切替スイッチとする程度のことも例えば上記引用例3,8(判決注・周知例1,2)にもみられる周知・慣用手段を参考にすれば必要に応じて当業者が極めて容易に設計することができたことと云うべきである。」としたのは,誤りという以外にないことである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について (1) 本件訂正考案1の「表示部」は,引用考案の表示部1に表示部2をそのレイアウトのまま配列して二つの表示部を一つにまとめただけの設計的な変更にすぎないものである。本件訂正考案1は,表示する情報の内容自体は,引用考案のものと同一であって既に知られているものであり,その表示のレイアウトも,通常では考えられないようなものでも予想外の効果が得られるようなものでもない。本件訂正考案1は,「酸性水か浄水かアルカリ水か」といった水の性質の情報と,「アルカリ水のpH値がどの程度か」といったアルカリ濃度の情報とを表示するものであるから,引用考案の情報とその内容が共通するものである。また,前者の情報(水の性質の情報)は,後者の情報(アルカリ濃度の情報)と極めて強く関連しており,後者の情報は前者の情報をpH値でより細分化して表示しただけであるといい得る程度に類似したものであるから,後者の情報を表示すれば,前者の情報を表示する必要がないことも当業者にとって自明のことである。水の性質の情報とアルカリ濃度の情報とを一体として表示するようなレイアウトを採用することは,およそ,格別の工夫を要するようなことではない。
(2) 周知例1は,水のpH濃度の度合いを段階的に表示する場合に,「酸性」,「浄水」及び「アルカリ」の順序で配列するようなレイアウトが周知・慣用手段であることを示すためのものであり,色見帯の具体的な内容を示すためのものではない。
決定は,本件訂正考案1の進歩性の判断において,周知例1の色見帯それ自体の技術を適用しているわけではない。周知例1の色見帯でも採用されているように,水質に関する「情報」(酸性水・浄水・アルカリ1・アルカリ2・アルカリ3,又はpH値の情報)を配列する「レイアウト」が周知・慣用手段であることを理由に,本件訂正考案1の「表示部」の考案性を否定したのである。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り)について (1) 原告が指摘する訂正明細書の各段落には,二つのスイッチを一つにまとめる上での技術上の障害については,何ら記載されていない。
(2) 決定は,周知例1,2に引用考案の「切替スイッチ」に相当するスイッチが開示されていると認定しているわけではない。これらの周知例にみられる「段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を操作釦の操作で切り替えるように工夫した」周知の慣用技術を引用考案に適用して,「切替スイッチ」と「調節スイッチ」をまとめて1個の切替えスイッチとすることがきわめて容易なことであったと判断したのである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(レイアウトに関する相違点についての判断の誤り)について (1) 周知例1(甲第3号証)には,その第1図に,pH値測定用の指示薬の変色色調に対応する色見帯と,この色見帯に対応するpH値を付記した比色パネルを設けたアルカリ水製造装置の容器本体が記載されており,同図について,「11は容器本体1の前面中央部の操作パネル12上に設けた比色パネルであり,使用する指示薬のpH値に対する変色色調に対応して,例えばリトマス液の場合は赤,黄,黄緑,緑,青,紫の順に色見帯13,13a・・・・を円周上に配列せしめ,色見帯13,13a・・・・の外周位置には各色見帯13,13a・・・・に対応するpH値を付記せしめている。」(2欄16行〜23行)との記載がある。周知例1は,本件出願の原出願の日である平成4年12月28日より4年以上前である昭和63年3月に公開された実用新案公報であることから,アルカリ水製造装置においてpHを段階的に表示する方法として,酸性から中性を経てアルカリ性までの各段階を連続的に一つの配列として表示するレイアウトは,周知の事項であったということができる。
引用例(甲第2号証)に示された整水器(引用考案)においては,アルカリ,浄水,酸性の順に並ぶ水質の種類の表示部(表示部1)と,アルカリ濃度の強弱の表示部(表示部2)とが,互いに独立して設けられている。しかし,後者の表示は,前者の表示の中の「アルカリ」の程度をより詳細に表すものであることが明らかである。そうである以上,引用例に示された整水器(引用考案)において,水のpHの段階的表示方法として,周知例1にも記載されている,酸性からアルカリ性までの各段階を連続的に一つの配列として表示する周知のレイアウトに倣って,アルカリ,浄水,酸性の順に並ぶ水質の種類の表示部における「アルカリ」の部分に,アルカリ濃度の強弱の表示部を組み込むことによって2種類の表示部を一つにまとめ,「浄水表示ランプ側から一端側にかけてアルカリ性の度合いが徐々に大きくなることを示すように配列する」ようにすることは,当業者がきわめて容易になし得たことである,というべきである。
(2) 原告は,周知例1に記載されているのは色合せのための単なる印刷物としての色見帯であり,本件訂正考案1のように極性と濃度の双方を一個の点灯で知らせるランプ表示の技術とは技術分野も技術思想も全く異なるから,これを引用考案に適用して本件訂正考案1を考案することを,きわめて容易なことであるとすることはできない,と主張する。
しかしながら,決定は,周知例1に記載されている技術そのものを引用考案に適用する場合のことを問題にしているのではない。決定が周知例1を挙げたのは,上記「レイアウト」自体が周知・慣用の手段であるというための1例としてのことであり,この周知・慣用の手段を主引用例に記載された考案(引用考案)に適用することにより,本件訂正考案1の「レイアウト」にきわめて容易に到達できることを述べたものである(このことは,決定の説示自体から明らかである。)。周知例1に記載されたレイアウトが周知の事項であると認められることは,上記のとおりである。引用考案と上記周知のレイアウトとは,技術分野や技術思想において異なるところがあるとしても,水質に関する表示という機能の点では共通するものであるから,周知例1にも示されている周知の手段を引用考案に適用する動機付けは十分に存在するということができる。
原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は,周知例1のレイアウトには,「中性」と記載されており,「浄水」とは記載されていないから,本件訂正考案1のように整水器で生成を行う水の種類である「酸性」「浄水」「アルカリ」と,生成された水のPH濃度である「アルカリ1」〜「アルカリ4」とを一連に表示したレイアウトは,周知・慣用手段とはいえない,と主張する。
しかしながら,引用考案の水質の種類の表示部において,「浄水」は,「アルカリ」と「酸性」の中間に配置されており,その水質は,「アルカリ」と「酸性」の中間にあるもの,すなわち「中性」であると解することができる。引用考案における水質の種類の表示は,周知例1にも記載されている周知のレイアウトである,酸性から中性を経てアルカリ性に至るpHの段階的な表示と,酸性から中性を経てアルカリ性に至る状態が表示されているという限度では同じものであることが,明らかである。そうである以上,当業者は,周知例1にも記載されている周知のレイアウトに倣って引用考案の2種類の表示部を一つにまとめることにより,本件訂正考案1の構成にきわめて容易に到達することができた,というべきである。
原告の主張は,採用することができない。
(4) 原告は,引用考案の各スイッチは,それぞれ極性切替えと濃度切替えの2種類の異なった表示を表す切替えスイッチであるから,そこからは,各切替えスイッチのそれぞれの表示ランプの点灯によりそれぞれの切替えスイッチの状態を表示する,という思想しか出てこない,と主張する。
しかしながら,引用考案1に記載された各スイッチが2種類の異なった表示を表す切替スイッチであるとしても,そのことが,直ちに2種類の表示部を一つにまとめることに想到することができないとする根拠になるものではないことは,いうまでもないところである。
引用考案に周知例1にも記載されている周知の事項を適用することによって,2種類の表示部を一つにまとめるという思想に至ることはきわめて容易である,と解すべきであることは,上に説示したとおりである。
原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(単一の切替えスイッチに関する相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,決定が,引用考案の切替えスイッチと調節スイッチをまとめて1個の切替えスイッチとする技術上の障害はないというべきであると判断したのは,誤りであり,訂正明細書には技術上の障害を解決するための具体的な構成が記載されている,と主張する。
しかしながら,本件訂正考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載は前記(第2の2)のとおりであり,そこには,単一の切替えスイッチを採用すること自体は記載されているものの(請求項4),その採用に関して他には何らの記載もない。すなわち,仮に,単一の切替えスイッチを採用することに技術上の障害が伴うとしても,本件訂正考案は,その障害の克服の手段を提供するものではない。そうである以上,上記技術上の障害は,仮に存在するとしても,その存在のゆえに,切替えスイッチを単一にするという発想を持つこと自体が困難になる,ということに結び付かない限り,何ら,本件訂正考案に想到することの容易性に影響を及ぼすものではない。したがって,決定が,「例えば,上記引用例3及び8(判決注・周知例2及び3)にもみられるとおり,段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器に限らず各種分野で必要に応じて汎用されている周知・慣用手段であり,そしてこのような工夫をすれば操作性の向上や構成の簡略化等という効果を奏することも当業者に自明な事項である。」(審決書9頁8行〜13行)と認定判断しながら,上記技術上の障害の有無を問題にしたのは,本来,行う必要のないことであった,というべきである。決定の述べる周知・慣用手段及び当業者に自明な事項の下では,上記発想を持つこと自体はきわめて容易であることが明らかである,ということができるからである。
のみならず,上記の点を離れて,原告の上記主張自体に着目しても,原告の主張は失当である。原告が具体的に指摘する本件訂正明細書の箇所の,「たとえば表示ランプL6を選択した場合は,吐出される水が中程度のアルカリ水になるように電解槽13に電圧が印加され電解作用を開始する。」(段落【0029】),「例えば表示ランプL1を選択した場合は,吐出される水が強い酸性水になるように電解槽13に電圧が印加される。具体的には電解方向が上記アルカリ水生成時の場合と反転し電解の強さも大きくする,」(段落【0034】)との記載は,特定の表示ランプを選択した場合の作用ないし機能を記載したにすぎないものであり,単一の切替えスイッチとするための技術上の障害を解決するための具体的な構成が記載されているとは認められない。訂正明細書中には,他にも,切替スイッチの具体的な構成についての記載は見当たらない。
結局のところ,訂正明細書は,切替えスイッチと調節スイッチをまとめて1個の切替スイッチとすること自体には格別の技術上の障害はないこと,すなわち,このことは,具体的な構成を記載するまでもなく当業者が容易に実施をすることができるものであることを当然の前提として記載されていると解するのが相当である。決定の上記判断に誤りはない。
(2) 原告は,周知例2,3には,本件訂正考案1の切替えスイッチに相当するものは開示されていない,と主張する。
しかしながら,決定は,周知例2,3に本件訂正考案1の切替スイッチに相当するものが開示されている,とはしていない。
決定は,この点につき,「本件訂正考案1の上記相違点の他の特徴である「単一の切替スイッチ」について検討すると,この点のねらいは,本件明細書の「単一の切替スイッチにより切替可能とすると,操作性が向上するとともに,構成が簡略化されコスト的に有利である」(本件公報段落【0037】)という記載によれば,その操作性の向上や構成の簡略化等にあると云えるところ,例えば上記引用例3及び8(判決注・周知例2及び3)にもみられるとおり,段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫は,整水器に限らず,各種分野で必要に応じて汎用されている周知・慣用手段であり,そしてこのような工夫をすれば操作性の向上や構成の簡略化等という効果を奏することも当業者に自明な事項である。」(決定書9頁4行〜13行)と述べている。これによれば,決定は,周知例2,3に本件訂正考案1の「切替スイッチ」に相当するものが開示されていると認定したものではなく,決定が周知例2,3を挙げているのは,「段階的なレベルを表示する複数の「表示ランプ」を1個の操作釦の操作で切り替える工夫」が周知・慣用の手段であることの例としてであることが明らかであり,このような周知・慣用の手段の存在を前提として,引用考案の「切替スイッチ」と「調節スイッチ」という複数のスイッチを,操作性の向上や構成の簡略化を図るため,まとめて1個の切替スイッチとすることは必要に応じて当業者がきわめて容易に設計することができた,と判断したものである,と理解することができる。
原告の主張は,決定の正しい理解に立ったものではなく,採用することができない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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