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関連ワード 消滅時効 /  考案 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  先行技術 /  削除 /  頒布 /  特定 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 21051号 損害賠償請求事件
原告X
被告国代表者法務大臣 森山真弓
被告指定代理人 千葉俊之
同 田中均弥
同 小林進
同 佐藤一行
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/07/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は,原告に対し,7万8200円を支払え。
事案の概要
本件において,原告は,原告の2つの実用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第103974号及び昭和61年実用新案登録願第192393号)につき,@特許庁審査官が,拒絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を見つけたにもかかわらず,再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をした,A特許庁側の不誠実な対応により,審判請求の機会を奪われたなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,7万8200円(実用新案登録出願料7100円及び出願審査請求料3万2000円の各2件分)の支払を求めている。
1 争いのない事実 (1) 原告は,昭和61年7月7日に,名称を「歯ブラシ」とする考案につき実用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第103974号。以下「本件A出願」という。)をし,同年12月16日に,名称を「歯ブラシ用キャップ」とする考案につき実用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第192393号。以下「本件B出願」といい,本件A出願及び本件B出願を併せて「本件各出願」という。)をした。
(2) 本件各出願については,特許庁審査官乙(以下「乙審査官」という。)が審査をし,平成元年4月24日付けで,それぞれ拒絶理由を通知(同年5月30日発送)したところ,原告から同年7月19日付けでそれぞれ意見書及び手続補正書が提出された。
(3) これを受けて,乙審査官は,本件各出願について再度審査をしたが,前記各意見書及び各手続補正書によっても拒絶理由は解消されていないと判断し,本件A出願については平成2年4月17日付けで拒絶査定(以下「本件A拒絶査定」という。)をし,本件B出願については同年5月7日付けで拒絶査定(以下「本件B拒絶査定」といい,本件A拒絶査定と併せて「本件各拒絶査定」という。)をした。
本件各拒絶査定の謄本は,いずれも同年6月19日に原告あてに発送され,翌20日に送達された。
(4) 原告は,上記各謄本の送達があった日(平成2年6月20日)から30日以内に審判の請求をしなかったので,本件各拒絶査定はいずれも確定した。
当事者の主張
1 原告 (1) 本件A拒絶査定に係る「拒絶査定の謄本」(甲2)は,その備考欄に,同査定に先立つ「拒絶理由通知書」(甲1)に記載されたのと全く異なる拒絶理由を掲げている上に,根拠となる刊行物を示さず,あいまいな表現で拒絶している。
また,本件B拒絶査定に係る「拒絶査定の謄本」(甲4)は,その備考欄に,同査定に先立つ「拒絶理由通知書」(甲3)に引用されたのと別の刊行物を引用して,拒絶している。
すなわち,乙審査官は,本件各出願のいずれについても,拒絶理由通知書に記載した拒絶理由と異なる新たな拒絶理由を見つけたものであるが,それにもかかわらず,再度の拒絶理由通知をすることなく,直ちに拒絶査定としている。上記各行為は,出願人である原告の意見陳述等の機会を失わせるものであり,裁判例(東京高等裁判所平成2年(行ケ)第228号同4年5月26日第6民事部判決)に照らし,違法というべきである。
(2) 乙審査官が発した拒絶理由通知書や拒絶査定の謄本には,出願人である原告の名前を間違えた訂正の跡があったり(甲3),定型文言の「意見書及び手続補正書」の「手続補正書」の部分が一度削除された上,手書きで書き足してあったりした(甲4)ので,原告は,本件各拒絶査定についても,審査手順上のミスがあるのではないかと考えた。そこで,平成2年6月24日付け「〈拒絶査定の謄本についての質問〉」と題する書面(甲5)を送付し,上記拒絶査定に関する疑問点を質した。審査料金を支払っている以上,審査上の疑問を質すことは,出願人の正当な権利であり,特許庁は,これに対して誠実に答える義務があったというべきである。さらに,同書面には,特許庁側のミスに起因して審判請求費用4万4000円の出費を余儀なくされるのは納得いかないので,上記疑問が解消されるまでは,たとえ査定に不服があったとしても,審判請求することはできない旨を明記しておいた。
ところが,特許庁は,審判請求ができる期間を過ぎてから,平成2年8月7日付けのはがき(甲6)を郵送してきた。このはがきには,電話で説明したいので連絡いただきたい旨の記載があるが,この程度の内容ならば,上記書面を受け取って直ちに返事できたはずである。
しかるに,特許庁はそれをせず,そのことによって,上記のとおり,審判請求のできる期間が徒過してしまったのだから,原告は,特許庁の不誠実な対応により,審判請求の機会を奪われたことになる。これは,故意にしろ,過失にしろ,公務員による違法な行為というべきである。
(3) 原告が本件各拒絶査定の謄本を受け取ったのは,平成2年6月20日のことであるが,この時点では,各拒絶査定があった事実を知っただけで,「損害及び加害者を知った」とはいえない。その後の原告と特許庁のやり取りにおいても,特許庁が違法な行為のあった事実を認めなかったので,被害者である原告としては,「損害及び加害者を知った」とはいえない状況であった。
原告が,損害賠償請求権を行使できるほどの現実的認識を持ったのは,平成14年5月23日に,文献(甲10はその抜粋。)により,前掲東京高等裁判所平成2年(行ケ)第228号同4年5月26日第6民事部判決の存在を知った時であり,この日が消滅時効の起算日になると解すべきである。したがって,消滅時効はまだ完成していない。
2 被告 (1) 原告は,乙審査官が,本件各出願につき,いずれも新たな拒絶理由を発見したことを前提に,本件各拒絶査定が違法である旨を主張するが,原告の上記主張は,そもそもその前提において誤っている。
すなわち,本件各出願に係る考案は,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)の下においては,同法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであったことから,本件各拒絶査定がされたのであり,そのことは,各拒絶理由通知書(甲1,3)及び各拒絶査定謄本(甲2,4)にその旨明示されていることに照らし,明らかである。しかるところ,上記各拒絶査定謄本の備考欄の記載は,いずれも,本件各出願時における技術常識を明らかにし,これら各出願に係る考案が既に周知技術になっていることを分かりやすく説明することによって,これら各考案きわめて容易考案できたものであることを具体的に説示したものであって,先に通知された各拒絶理由を変更したものでもなければ,新たな拒絶理由を追加したものでもない。したがって,乙審査官が新たな拒絶理由を発見したことを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,失当というべきである。
なお,特許庁の実務における上記の扱いは,判例においても支持されており,例えば,東京高等裁判所平成2年(行ケ)第186号同3年10月31日第18民事部判決(乙1)は,審決において周知例が付加されたとしても,「周知例は単に本願考案の技術的意義を把握するため,出願前における技術常識を明らかにしたにすぎないものであるから,これが新たな拒絶理由に当たるものではない」と判示しているし,また,東京高等裁判所平成3年(行ケ)第49号同4年3月25日第13民事部判決(乙2)は,審決が,一定の技術的事項を出願前周知であると認定した上,参照例として特定の刊行物を挙げたことにつき,「それらの事項が周知であることについて単に参考までに示したにすぎない」から,「前記周知技術の提示あるいは該周知技術の参照例の提示については,実用新案法第41条で準用する特許法第159条2項に基づく拒絶理由を通知し,意見陳述の機会を与える必要は認められない」と判示している。
ちなみに,原告は,東京高等裁判所平成2年(行ケ)第228号同4年5月26日第6民事部判決を引用し,自らの主張を根拠付けようとしているが,同判決は,審判官が査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に,再度拒絶理由を通知することを要するか否かは,出願人の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるかどうかにより判断すべき旨判示したものであって,拒絶査定の備考欄に示した内容が新たな拒絶理由に該当するかどうかを判断した事例ではない。したがって,本件とは事案を異にしており,この点においても,原告の主張は失当というべきである。
(2) 審査官の処分である拒絶査定については,審査過程において出願人に意見書等を提出する機会を与えることにより,その適正化が図られているが(旧実用新案法13条,特許法50条),そのようにして行われた最終処分であっても,万が一過誤がある場合には,これを是正しなければならないことはいうまでもない。そこで,旧実用新案法は,このような場合の救済措置として,拒絶査定を受けた者は,その査定に不服があるときは,査定の謄本の送達があった日から30日以内に審判を請求することができるとしている(旧実用新案法35条)。そして,審判請求に係る手続については,3人又は5人の審判官の合議体によって民事訴訟手続に準じた審理がされ,最終的な審決がされるものであり(旧実用新案法41条,特許法136条,157条),審決に対して不服であれば,さらに,その取消を求めて東京高等裁判所に訴えを提起することもできる(旧実用新案法47条)。
本件においても,原告は,本件各出願についてそれぞれ拒絶査定を受けたのであるから,審判を請求して再度審査の見直しを求めることができたものである。しかるに,本件各拒絶査定の謄本の送達があった日から30日以内に,原告が審判を請求した事実はなく,特許庁が原告の審判請求を妨げた事実もない。
すなわち,原告は,自らの判断により審判を請求せず,本件各拒絶査定を確定させたものであって,特許庁側の不誠実な対応により審判請求の機会を奪われた旨の原告の主張は,失当である。
(3) 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間で時効消滅するところ(国家賠償法4条,民法724条),「損害を‥‥‥知った」というためには,損害の程度や数額を正確・具体的に知ることまでは必要なく,違法な行為によって損害の発生した事実を知ることで足りると解されている。そして,違法な行為の認識についても,加害行為が,因果関係,責任能力,過失,違法性等あらゆる点で不法行為を成立させるに十分なものであるとの認識まで必要とは解されておらず,一般に,加害行為が違法と評価される可能性があることの認識で足りると解されている。なぜなら,不法行為の成否は,最終的には訴訟によって公権的に確定されるものであり,消滅時効は当該訴訟の時間的限界にかかわるものであるところ,違法な行為の認識につき,仮に当該行為があらゆる点で不法行為を成立させるに十分なものであるとの認識まで必要であるとの見解に立つならば,訴訟が確定するまで違法な行為であるとの認識を持ち得ないことになり,消滅時効の制度が事実上無意味になるからである。
これを本件についてみると,原告主張に係る加害行為は,審査官が新たな拒絶理由を発見したにもかかわらず,拒絶理由を通知しないまま拒絶査定をした行為であるから,被告の公務員である審査官がかかる行為をしたことを認識できれば,その時点で損害発生の蓋然性が高く,当該公務員の行為が違法と評価される可能性があることを認識するのは容易だったということができる。そして,甲5号証によれば,原告が,遅くとも平成2年6月24日までに,被告の公務員である審査官の行為が違法と評価される可能性があるとともに,かかる行為により自らに損害が生じた旨の認識を有していたことは明らかである。
したがって,原告は,この時点で「損害及び加害者を知った」(民法724条)ということができ,この時点をもって消滅時効の起算点と解するのが相当である。よって,本訴提起(平成14年6月20日付け)の時点で,原告主張に係る損害賠償請求権は,すでに時効により消滅していたことが明らかである。被告は,上記消滅時効を援用する。
当裁判所の判断
1 旧実用新案法の下での実用新案登録出願手続においては,出願人は,審査過程において意見書等を提出する機会を与えられているほか(旧実用新案法13条,特許法50条),拒絶査定に不服がある場合には,査定の謄本の送達があった日から30日以内に審判を請求することにより,その是正を求めることができるものとされている(旧実用新案法35条)。そして,審判手続においては,3人又は5人の審判官の合議体による民事訴訟手続に準じた審理を経て審決がされるものであり(旧実用新案法41条,特許法136条,157条),審決に対して不服であれば,さらに,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起することもできる(旧実用新案法47条)。
旧実用新案法の下での実用新案登録出願手続において,このように,出願人に,拒絶査定に対して民事訴訟類似の手続によりその判断を争う手続が設けられている点に照らせば,審査手続における判断の誤りや手続の過誤については,本来同法の定める不服申立手続により救済を求めるべきものであるから,単に拒絶査定に上記不服申立手続により是正されるべき瑕疵が存在するというだけでは,直ちに国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったということはできない。
そこで,本件において原告の主張する違法行為のうち,特許庁審査官が,拒絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を見つけたにもかかわらず,再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をしたという点について,単に不服申立手続による救済の対象とするのみでは足りず,国家賠償法1条1項の規定にいう違法行為と評価すべき事情が存在するかどうかについて,検討する。
2 本件各出願及び本件各拒絶査定に関し,原告が本訴を提起するに至るまでの経緯を認定すると,前記争いのない事実と証拠(甲1〜9)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
(1) 原告は,昭和61年7月7日に,名称を「歯ブラシ」とする考案につき実用新案登録出願(本件A出願)をし,同年12月16日に,名称を「歯ブラシ用キャップ」とする考案につき実用新案登録出願(本件B出願)をした。
(2) 本件各出願については,乙審査官が審査をし,平成元年4月24日付けで,それぞれ拒絶理由を通知(同年5月30日発送)した。
本件A出願に対する拒絶理由通知書(甲1。以下「A拒絶理由通知書」という。なお,同通知書の写しを本判決末尾に別紙1として添付した。)には,同出願に係る考案は,出願前に国内で頒布された@実公昭7-15205号公報,A実開昭58-14732号公報及びB実開昭58-55630号公報に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨が記載されている。そして,上記@公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,「(突出した点)」と記載され,上記A及びBの各公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,「(カットの点)」と記載されている。
また,本件B出願に対する拒絶理由通知書(甲3。以下「B拒絶理由通知書」という。なお,同通知書の写しを本判決末尾に別紙2として添付した。)には,同出願に係る考案は,出願前に国内で頒布されたC実開昭49-97069号公報,D実開昭58-139936号公報及びE実公昭38-206号公報に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨が記載されている。そして,上記C〜Eの各公報の公報番号が記載された下には,手書きで,「上記のものもフタを有している。」と記載されている。
(3) 上記の各拒絶理由通知に対し,原告は,平成元年7月19日付けで,それぞれ意見書及び手続補正書を提出した。
(4) これを受けて,乙審査官は,本件各出願について再度審査をしたが,前記各意見書及び各手続補正書によっても拒絶理由は解消されていないと判断し,本件A出願については平成2年4月17日付けで,本件B出願については同年5月7日付けで,それぞれ拒絶査定をした(本件A拒絶査定及び本件B拒絶査定)。
(5) 上記各拒絶査定の謄本は,いずれも同年6月19日に原告あてに発送され,翌20日に送達された。
本件A拒絶査定に係る拒絶査定の謄本(甲2。以下「A拒絶査定謄本」という。なお,同謄本の写しを本判決末尾に別紙3として添付した。)によれば,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせず,本件A出願は,A拒絶理由通知書記載の理由によって拒絶すべきものとされている。そして,同謄本の備考欄には,「歯ぐき等を痛めないように,本願考案のように弾性材のクッションの上に毛を配設することは,ごく普通になされている。」と記載されている。
また,本件B拒絶査定に係る拒絶査定の謄本(甲4。以下「B拒絶査定謄本」という。なお,同謄本の写しを本判決末尾に別紙4として添付した。)によれば,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせず,本件B出願は,B拒絶理由通知書記載の理由によって拒絶すべきものとされている。そして,同謄本の備考欄には,「ブラシが内側へ補正させるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知であり(例えば,実公昭55-5060号公報,実開昭47-20471号公報,実開昭57-154331号公報参照)本願考案は,先に示した引用例に上記周知の技術を適用することによってきわめて容易になしうるものと認められる。」と記載されている。
(6) 原告は,上記各拒絶査定謄本の送達を受けて,平成2年6月24日付け「<拒絶査定の謄本についての質問>」と題する書面(甲5。以下「本件質問書」という。)を特許庁あてに送付した。
原告は,本件質問書において,A拒絶査定謄本の備考欄における前記「歯ぐき等を痛めないように,本願考案のように弾性材のクッション上に毛を配設することは,ごく普通になされている。」との記載につき,「これは何を引用して『…ごく普通になされている。』と断定されたのでしょうか?もっと具体的に,公知,公用,刊行物などを示して頂かないと理解のしようがありません。」,「更に,備考の欄で述べている内容は,拒絶理由になった『突出した点』及び『カットの点』とは全く別の内容です。意見書や手続補正書は拒絶理由に対して行うものですから,拒絶理由とは別の理由を根拠に拒絶されてしまっては納得がいきません。もし,私の提出した意見書及び手続補正書に対して根拠が見いだせないというのなら,この備考の欄に拒絶理由(突出した点,カットの点)に対する審査官の意見を出願人が理解できるように具体的に述べるべきではないでしょうか?」と述べている。
また,原告は,同質問書において,B拒絶査定謄本の備考欄における前記「ブラシが内側へ補正させるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知であり」との記載につき,これは,B拒絶理由通知書における前記「上記のものもフタを有している。」との記載とは,全く異なる内容のものであるとした上で,B拒絶査定謄本は,これを理由のひとつとして,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせないとしているが,「こういう事をするなら,なぜ初めから拒絶理由通知書の段階で,引用文献とともに拒絶理由の一つとして指摘しなかったのか…?もしこれが成されていれば,私は意見書及び手続補正書を提出する時に,この引用文献に対して意見が言えたはずです。」と述べている。
そして,上記に引き続き,原告は,「これらは明らかに審査官側のミスではないでしょうか?」,「もし審査官のミスで意見書及び手続補正書が認められず,審判請求の段階で認められた場合,この審判請求にかかった手数料は返金されるのでしょうか?又,今回のような場合は,たとえ認められなかったとしても,本来は拒絶理由に対する意見書の段階で方が付いた事柄ですから,審判請求は不必要だった事になります。この場合も手数料は返金されるのでしょうか?更に,審査や審判が正当に行われているかを監査する機関はあるのでしょうか?」,「これらの疑問が解消されるまでは,たとえ査定に不服があったとしても審判請求をすることはできません。」などと述べている。
(7) 原告は,A拒絶査定謄本及びB拒絶査定謄本の送達があった日(平成2年6月20日)から30日以内に審判の請求をしなかった。よって,本件各拒絶査定はいずれも確定した。
(8) その後,特許庁は,本件質問書に対し,同庁審査第3部応用機器審査長丙名で平成2年8月7日付けのはがき(甲6)及び同年9月付けの書簡(甲7)を,さらに,同部応用機器審査長丁名で平成3年1月21日付けの書簡(甲8)を,それぞれ原告に送付した。
上記はがきには,「御質問の件について」と題した上,「手紙ではなかなか説明しにくいので電話で説明したいと思いますので御連絡下さい。」と記載されている。
上記平成2年9月付け書簡においては,制度上,拒絶査定の内容に不服がある場合には,審判請求を行うべきものであるので,本件質問書のような質問に対しては,拒絶査定を行った審判官は,自ら原則として対応できない運用になっている旨の前置きがされた上,@周知慣用の技術については,文献の引用等を省略する場合のあること,及び,A拒絶理由書において審査官が付するコメントは,審査官が引用例のどこに重点を置いて引用したか等を示すにすぎず,引用例としては,あくまでそこに開示された技術全体が引用されたものであることが,本件各出願の内容に即して詳細に説明されている。すなわち,上記@の点については,特許庁審査官は,拒絶理由の開示に伴い先行技術を提示することがあるが,特に例示するまでもなく,よく知られ,広く用いられている技術(周知慣用技術)については,文献の提示やコメントを省略することもあるところ,A拒絶理由通知書においても,周知慣用技術に関する文献の提示等が省略され,それ以外の拒絶理由通知が記載されたが,A拒絶査定謄本の段階では,手続補正書記載に係る補正を経たとしても,周知慣用技術との抵触を免れない旨審査官が判断し,その趣旨を備考欄に記載したにすぎない旨の説明がされている。また,上記Aの点については,拒絶理由通知書において審査官がコメントを付することは,審査官が引用例のどこに重点を置いて引用したか,特許性の判断根拠はどこにあるかなどを出願人に分かりやすく伝え,意思疎通を図り,もって行政処分を円滑に行えるようにとの配慮から行われている運用であり,A拒絶理由通知書及びB拒絶理由通知書における括弧書きのコメント(前記各備考欄の記載)も,引用例のどこに重点を置いて審査官が引用したかを示すものにすぎず,引用刊行物としてはあくまで刊行物全体が引用されたものであって,例えば,B拒絶理由通知書には,確かに「上記のものもフタを有している。」とのコメント(備考欄の記載)があるが,同通知書で引用された実公昭38-206号公報には,歯ブラシの屈曲を矯正するための内向き突起部を設けた側壁よりなる蓋付キャップが開示されており,引用例としては,当該技術的事項全体が引用されたものである旨の説明がされている。
上記平成3年1月21日付け書簡においては,本件各出願につき,それぞれの出願の内容,拒絶理由通知書,拒絶査定,意見書及び手続補正書を詳細に検討したが,審査官の判断や拒絶理由通知書及び拒絶査定に過誤があるとは認められない旨,及び,拒絶理由通知書及び拒絶査定の謄本に書き損じの訂正のあることは原告指摘のとおりであるが,単なる誤記を訂正したものであり,審査官は上記出願の内容,意見書,手続補正書を十分吟味した上で拒絶理由通知書及び拒絶査定を起案しており,それらの内容に不備はない旨が記載されている。
(9) 平成14年に至り,原告は,平成14年4月23日付け通知書(甲9)を特許庁長官あてに送付した。同通知書には,本件各出願の審査において,不法行為があったので,それに対する謝罪及び損害賠償等を求める旨記載されている。
また,原告は,同年5月23日,国を相手方として,東京簡易裁判所に調停を申し立て,この調停が同年6月19日に調停不成立で終了すると,同年6月20日付けをもって,東京簡易裁判所に本件訴訟を提起した(なお,同年9月3日,東京簡易裁判所は,本件を東京地方裁判所に移送する旨の決定をしたことから,その後,本件訴訟は当庁に係属している。)。
3(1) 本件A出願に関する拒絶理由について 前記2(2),(5)において認定したところによれば,A拒絶理由通知書においては,本件A出願に係る考案は,@実公昭7-15205号公報,A実開昭58-14732号公報及びB実開昭58-55630号公報に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定により,実用新案登録を受けることができないものとされており,それとともに,上記@公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,「(突出した点)」と記載され,また,上記A,Bの各公報の公報番号が記載された右横には,やはり手書きで,「(カットの点)」と記載されている。
A拒絶査定謄本には,なるほど,その備考欄には,「歯ぐき等を痛めないように,本願考案のように弾性材のクッションの上に毛を配設することは,ごく普通になされている。」との記載があるが,同謄本には,本文において,本件A出願は,A拒絶理由通知書記載の理由によって,拒絶すべきものと認める旨が明記されている。そして,本件における各証拠及び弁論の全趣旨によれば,歯ぐき等を痛めないように弾性剤のクッションの上で歯ブラシの毛を配設することは周知慣用の技術であると認められることに照らせば,特許庁審査官は,A拒絶理由通知書に記載された拒絶理由に基づき,本件A拒絶査定をしたものと認められ,原告が主張するように,A拒絶査定謄本の備考欄に記載された拒絶理由に基づき拒絶査定をしたものとは認められない。
上記によれば,原告が主張するように,特許庁審査官が,A拒絶理由通知書に記載されておらず,かつ,A拒絶査定謄本に初めて記載された拒絶理由(すなわち,上記備考欄記載に係る拒絶理由。)に基づき,本件A拒絶査定をしたと認めることはできない。したがって,この点に関する乙審査官の行為の違法性をいう原告の主張は,理由がない。
(2) 本件B出願に関する拒絶理由について 前記2(2),(5)において認定したところによれば,B拒絶理由通知書においては,本件B出願に係る考案は,C実開昭49-97069号公報,D実開昭58-139936号公報及びE実公昭38-206号公報に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定により,登録を受けることができないものとされており,それととともに,上記C〜Eの各公報の公報番号が記載された下には,手書きで,「上記のものもフタを有している。」と記載されている。
B拒絶査定謄本には,なるほど,その備考欄には,「ブラシが内側へ補正させるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知であり(例えば,実公昭55-5060号公報,実開昭47-20471号公報,実開昭57-154331号公報参照)本願考案は,先に示した引用例に上記周知の技術を適用することによってきわめて容易になしうるものと認められる。」との記載があるが,同謄本には,本文において,本件B出願は,B拒絶理由通知書記載の理由によって,拒絶すべきものと認める旨が明記されている。そして,本件における各証拠及び弁論の全趣旨によれば,ブラシが内側へ補正されるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知慣用の技術であると認められることに照らせば,特許庁審査官は,B拒絶理由通知書に記載された拒絶理由に基づき,本件B拒絶査定をしたものと認められ,原告が主張するように,B拒絶査定謄本の備考欄に記載された拒絶理由に基づき拒絶査定をしたものとは認められない。
上記によれば,原告が主張するように,特許庁審査官が,B拒絶理由通知書に記載されておらず,かつ,B拒絶査定謄本に初めて記載された拒絶理由(すなわち,上記備考欄記載に係る拒絶理由。)に基づき,本件B拒絶査定をしたと認めることはできない。したがって,この点に関する乙審査官の行為の違法性をいう原告の主張も,理由がない。
4 上記によれば,本件において原告の主張する違法行為のうち,特許庁審査官が,拒絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を見つけたにもかかわらず,再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をしたという点は,いずれもその前提を欠くものであり,理由がない。
5 また,原告は,本件質問書(甲5)を送付し,本件各拒絶査定に関する疑問点を質すとともに,特許庁側のミスに起因して審判請求費用の出費を余儀なくされるのは納得いかないので,疑問が解消されるまでは,たとえ査定に不服があったとしても,審判請求することはできない旨を通知したにもかかわらず,特許庁は,審判請求のできる期間が徒過した後に,前記平成2年8月7日付けはがき(甲6)を郵送してきたものであり,このような特許庁の不誠実な対応により,原告の審判請求の機会を奪われたと主張している。
たしかに,特許庁が本件質問書に初めて応答したのは,本件各拒絶査定に対して不服を申し立てる審判の申立期間(A拒絶査定謄本及びB拒絶査定謄本が原告に送達された日から30日以内)の経過後であるが,そもそも,本件質問書をもって,本件各拒絶査定に関する疑問が解消されるまでは審判請求しない旨を一方的に通知したからといって,特許庁が上記審判申立期間内に原告の疑問に答えるべき法律上の根拠が発生するということはできないから,上記の点をとらえて,被告の公務員による不法行為の成立をいう原告の主張は,失当というほかない。
また,本件各拒絶理由通知から本件各拒絶査定の謄本送達に至るまでの経緯に,違法と評価される要素が存在しないことは,既に判示したところから明らかであり,その後の本件質問書に対する特許庁の応答(前記2(8)))及び原告とのやり取りを仔細に検討しても,違法行為をうかがわせる事情は見当たらない。その他,本件における全証拠に照らしても,特許庁が故意又は過失により原告の審判請求を妨げたことをうかがわせる事情は何ら認められない。
上記によれば,原告は,自らの判断により本件各拒絶査定につき審判請求をしないまま不服申立期間を経過したものであって,特許庁の違法行為により審判請求の機会を奪われた旨の原告の主張は,理由がない。
6 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 青木孝之
裁判官 村越啓悦
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