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事件 平成 15年 (ワ) 1117号 実用新案権侵害による損害賠償請求事件
原告A
被告 トヨタ自動車株式会社
同訴訟代理人弁護士 上谷清
同 宇井正一
同 笹本摂
同 山口健司
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 2003/07/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は原告に対し,100万円及びこれに対する平成15年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,自動車用変速機構についての実用新案権を有していた原告が,被告に対し,変速装置を搭載した後輪駆動車(ハイラックスサーフ)を製造販売する行為が侵害に当たると主張して,損害金の一部の支払を求めた事案である。
1 当事者間に争いのない事実等 (1) 原告の実用新案権 原告は,下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,請求項1を前提とする請求項3の考案,請求項1及び請求項3を前提とする請求項4の考案,並びに請求項1を前提とする請求項4の考案を併せて「本件各考案」という。)を有していた(甲2)。
実用新案登録番号 3012727号 考案の名称 自動車用変速機構 出願日 平成6年12月20日 登録日 平成7年4月12日 実用新案登録請求の範囲 別紙登録実用新案公報該当欄記載のとおり。
請求項1】 後輪駆動自動車において,エンジンと後輪駆動用連動機構との間に,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを介在させることに依って,当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成したことを特徴とする自動車用変速機構。
請求項3】 オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの何れか一方のシフトレバーをOFF位置に入れておいた場合のみ,エンジンの始動が許容化されるように構成した請求項1または請求項2に記載の自動車用変速機構。
請求項4】 何れか一方のミッションが作動している場合は,他のミッションはOFF以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した請求項1乃至請求項3の何れかに記載の自動車用変速機構。
(2) 構成要件の分説 実用新案登録出願に添附された本件各考案明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲を構成要件に分説すると,以下のとおりである(甲2)。
請求項1】 A 後輪駆動自動車において, B エンジンと後輪駆動用連動機構との間に,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを介在させることに依って, C 当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成した D ことを特徴とする自動車変速機構。
請求項3】 E オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの何れか一方のシフトレバーをOFF位置に入れておいた場合のみ,エンジンの始動が許容化されるように構成した F 請求項1または請求項2に記載の自動車用変速機構。
請求項4】 G 何れか一方のミッションが作動している場合は,他のミッションはOFF以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した H 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の自動車用変速機構。
(3) 被告自動車 被告は,別紙目録記載の各自動車(以下「被告自動車」という。)を製造し,販売している。被告自動車は,被告作成に係る新型車解説書(乙4の3)記載のとおりの構造,機能を有しているところ,同解説書によれば,その変速装置(以下「被告装置」という。)の構成は,以下のとおりである。
被告装置の主要部分は,オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分からなる。
上記オートマチックトランスミッション部分は,動力の伝達及びトルクの変換を行うトルクコンバーター部分と,遊星歯車を電子制御で操作し,エンジンからの回転を前進4段後進1段に変速するトランスミッション部分からなる。オートマチックトランスミッション部分の操作は,シフトレバーの切替えによって行われ,Dレンジを選択した場合,前進4段の範囲でギアの変更は自動的に行われる。
上記トランスファー部分は,遊星歯車を利用した副変速機と,後輪駆動と四輪駆動の切替えを行う分配機からなる。副変速機において,トランスミッション部分で変速された動力をそのまま駆動輪に伝達するハイレンジモードと,さらに変速を行って回転数を下げることにより,大きな駆動力を生じさせるローレンジモードの切替えが行われるが,この切替えは,シフトレバーとスイッチによって手動で行われる。
(4) 原告による警告 原告は,平成11年3月11日,被告に対し,平成10年7月2日付けの実用新案技術評価書を提示して,被告自動車の製造,販売は,本件実用新案権を侵害する可能性がある旨を警告した(甲3の1及び2,乙1,弁論の全趣旨)。
2 本件の主たる争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 構成要件B(請求項1)の充足性について (原告の主張) マニアルトランスミッションとは,一般的に,@変速ギアが存在し,A自動変速せず,Bシフト位置に手動で入れることができるものをいい,その作用,効果は,低速ギア選択に基づくタイヤの接地性の安定化を図ることができ,低速ギア選択に基づくエンジンブレーキの使用(ブレーキの過熱防止)ができ,山岳ドライブに適し,適切なギア選択を即時に行うことにより安全性を確保することができるというものである。
被告装置においては,前進4段,後進1段のギアを持つ変速機(オートマチックトランスミッション)とは別に,副変速機を備えているが,これは2種の変速ギアを有し,かつ副変速機自体には2種類のギア比を自動的に選択及び接続する機能を有しておらず,手動(L4L,H4Lのシフト位置に手動で操作)で所望のギア比に接続する構造を有している。
したがって,被告装置の副変速機は,構成要件Bの「マニアルトランスミッション」に当たる。
(被告の主張) 本件各考案は,マニアルトランスミッションによる走行とオートマチックトランスミッションによる走行の2態様の走行を「切り替え的に」可能とするものである(構成要件C)以上,そこにいう「マニアルトランスミッション」とは,それ独自でギア比の選択・決定を可能とするもの(通常のマニアルトランスミッション)であることが明らかである。
ところが,被告装置の副変速機は,手動でシフトレバーの切替えを行うものの,それ独自でギア比の選択・決定が可能なものではない。すなわち,被告装置においては,車両の走行中は常時オートマチックトランスミッションが作動し,かつ変速を行っているから,副変速機限りでギア比の選択・決定がされることはないし,オートマチックトランスミッションによる走行と,マニアルトランスミッションによる走行との2態様の走行の選択という作用効果も生じない。
したがって,被告装置の副変速機は,構成要件Bの「マニアルトランスミッション」を充足しない。
(2) 構成要件C(請求項1)の充足性について (原告の主張) 構成要件Cの「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図る」とは,エンジンの出力を駆動系に伝達する過程にオートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを設け,これを切替え的に接続するという意味である。
被告装置においては,トルクコンバーターを切離し可能な構造の変速機構とし,トルクコンバーターが組み込まれた状態のときは,トルコン車すなわちオートマチックトランスミッションとし,トルクコンバーターを切り離したときは,マニアルトランスミッションとなる構造の変速機構を有している。両トランスミッションの変速ギアは,同一のギアを使用する構造のものである。
すなわち,オートマチックトランスミッション使用のときは,エンジンと後輪駆動用連動機構の間に存在しているオートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションのうち,オートマチックトランスミッションを接続して,エンジンと駆動用連動機構と連結しオートマチックトランスミッション走行を行い,マニアルトランスミッション使用のときは,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションのうち,マニアルトランスミッションを接続してエンジンと駆動用連動機構とを連結してマニアルトランスミッション走行を行うものである。
したがって,被告装置は,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを設け,これを切り替えることができるように接続し,エンジンと後輪駆動用連動機構と連結する構成となっており,構成要件Cを充足する。
(被告の主張) 本件各考案の変速機構は,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの2つの変速機を備え,これを切替え的に接続して,エンジンとの連結を図る構成が採られている。そして,この構成から,オートマチックトランスミッションによる走行とマニアルトランスミッションによる走行の2態様の走行が選択的に可能であるとの作用効果が生じている。
ところが,被告装置は,オートマチックトランスミッションに直列的に連結する副変速機を備えており,オートマチックトランスミッションによる走行と副変速機による走行とを切り替えることはできない。すなわち,被告自動車においては,その走行中,オートマチックトランスミッションが常に自動変速の機能を果たしつつ動力を伝達しており,副変速機はオートマチックトランスミッションにより変速・伝達された動力をローレンジモードのときはさらにギア比を拡大して,若しくは,ハイレンジモードのときはそのまま後輪に伝達する構成である。つまり,駆動輪には,オートマチックトランスミッションによる変速を経たエンジン出力が常に伝達されるから,被告自動車の走行は常にオートマチックトランスミッションによる走行であり,マニアルトランスミッションによる走行のみを行うことはできない。
したがって,オートマチックトランスミッションと副変速機のいずれかの変速出力と駆動用連動機構との連結を切り替えるという構造を有しないから,被告装置は構成要件Cを充足しない。
(3) 構成要件E(請求項3)の充足性について (原告の主張) 被告装置は,ギアシフトを「2H・4H」に入れておいた場合,2速トランスミッション(副変速機)は,切離し状態にあり,誤動作を排除している構成であるから,この時,エンジン始動となる構成は,構成要件Eの「オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの何れか一方のシフトレバーをOFF位置に入れておいた場合のみ,エンジンの始動が許容化されるように構成した」を充足する。
(被告の主張) 被告装置においては,ギアシフトが「H」(ハイレンジ。ギア比1.00)の場合,副変速機は,オートマチックトランスミッションで変速された動力をそのまま駆動機構に伝達する構成になっているだけであって,副変速機がエンジンと「切り離し状態にある」といったものではなく,また,「誤動作を排除」するためにこのような構成が採用されているものでもない。
また,この時,エンジン始動となる構成は,構成要件Eに当たるとの主張も否認する。
(4) 構成要件G(請求項4)の充足性について (原告の主張) 構成要件Gの「何れか一方のミッションが作動している場合は,他のミッションはOFF以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した」とは,単に,選択されなかったトランスミッションが作動しないことを意味するのではなく,シフトレバーの操作によって誤りなく切り替えるように構成されていることを意味する。
そして,被告装置においては,オートマチックトランスミッションを利用したDレンジの走行の際にはマニアルトランスミッションはOFFの状態にあり,副変速機を利用したL4Lモード又はH4Lモードの走行の際にはオートマチックトランスミッションはOFFの状態にある。そして,この両者の走行状態は,シフトレバー類の操作によって誤りなく切り替え得るよう構成されているから,被告装置は,構成要件Gを充足する。
(被告の主張) 構成要件Gの構成は,オートマチックトランスミッションあるいはマニアルトランスミッションによる走行の最中に,他方のトランスミッションが駆動すること,つまり,「切り替え走行」に伴う誤動作を防止するためのものである。
ところが,被告装置においては,オートマチックトランスミッションが,常時自動変速・動力伝達の機能を果たしている構成であり,各トランスミッションの切替えを行わないから,誤作動防止の必要はなく,オートマチックトランスミッションによる走行中でも,副変速機のシフトレバーを自由に切り替えることが可能であり,また,副変速機のローレンジモードとハイレンジモードを切り替えるシフトレバーがいずれの位置にあっても,オートマチックトランスミッションのシフトレバーを自由に動かすことができる。
したがって,被告装置は構成要件Gを充足しない。
(5) 損害について (原告の主張) 被告自動車(平成7年12月1日以降販売が開始された全車種)の平均販売価格は400万円であり,過去3年間に限っても,その販売台数は5000台であるところ,実施料相当額は販売価格の1パーセントであるから,原告は,少なくとも2億円の損害を被っている。
よって,原告は被告に対し,その損害の一部である100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張) 否認する。
3年間の販売台数が5000台であることは争わないが,1台当たりの平均販売価格は300万円前後であり,実施料相当額1パーセントも,本件考案が自動車用変速機構に関するものであるから,車両全体の販売価格を基準とするのは過大である。
争点に対する判断
1 当裁判所は,被告装置は構成要件Cの「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図る」を充足しないと判断する。その理由は下記のとおりである。
(1) 構成要件の解釈手法 平成14年法律24号改正前の特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定し,同改正前の実用新案法26条もこれを準用している。これらの規定の趣旨に照らせば,実用新案登録請求の範囲に記載された文言の意味内容の解釈は,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された考案の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的,合理的に行われるべきである。
(2) 構成要件Cの「切り替え的に接続」の意味 そこで本件明細書を検討するに,本件各考案は,自動車用変速機構についての考案であるところ,「従来,自動車は,ギアシフトを手動的に行うマニアルトランスミッションを装備したものと,ギアシフトが自動的に行われるオートマチックトランスミッションを装備したものとに大別される」が,「オートマチックトランスミッションを装備した自動車の場合」,「山間部の走行に際しては,頻繁なるカーブ走行及び坂路走行等が伴うため,低ギヤ選択に基づくタイヤの接地性の安定化(略),低速ギア選択に基づくエンジンブレーキ使用(略)等,走行時に頻繁なるギアシフトを行うことが安全走行に直結し,また,このようなドライビングテクニックの多用に基づき,山間部ドライブの興趣性が著しく向上することとなる」し,「従って,上記した既存の自動車の場合,オートマチックトランスミッション装備の自動車にあっては,山間部走行時等細かいギアシフトの多用性を必要とするドライブに際して,これの不能性から運転上の不満が残り,また,マニアルトランスミッション装備の自動車にあっては停車発進が頻発する市街地での走行に際して,ギアシフトの煩雑性を感じることを余儀なくされた」ため,このような従来技術における課題を解決するために,マニアルトランスミッションとオートマチックトランスミッションとを,必要に応じて切替え的に接続してエンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成したものであると認められ,これに,構成要件Bが「エンジンと後輪駆動用連動機構との間に,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションを介在させる」ことを予定していることを併せ考慮すると,構成要件Cの「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して……連結を図る」とは,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションのいずれかを選択して,駆動輪への動力伝達を一方に切り替えた場合には,他方は動力の伝達路から物理的に切断されるまでは要しないものの,変速機としては作動しないことを意味すると解すべきである。
このことは,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄に,「マニアルトランスミッション8の作動中は,オートマチックトランスミッション7のシフトレバーS1をOFF位置に保っておく。これに依り,オートマチックトランスミッション7は切り離された状態となり,自動車はマニアルトランスミッション8による走行がなされる」し,逆に「オートマチックトランスミッション7の作動中は,マニアルトランスミッション8のシフトレバーS2をOFF位置に保っておく。これに依り,オートマチックトランスミッション7(マニアルトランスミッション8の誤記であることが明らかである。)は切り離された状態となり,自動車はオートマチックトランスミッション7による走行がなされる」と記載されていること,また,実施例の説明として,「両トランスミッションが同時に接続されることが無いように構成してある」,「当該両トランスミッションは,何れか一方だけが切り替え的に作動し(略),両者が同時に作動することが無いように構成してある」と記載されていること,逆に,本件明細書には,両トランスミッションが密接不可分の状態となって,同時にそれぞれが駆動輪に駆動力を伝達する変速機としての機能を発揮することを示唆するような記載が見当たらないことなどから明らかである(実施例の説明では,選択されていない方のトランスミッションは,変速ができないだけで駆動力の伝達は直結的にされるよう構成する旨の記載があるが,この場合も,選択されていないトランスミッションは,変速機として作動していない。)。
この点につき,証拠(原告作成に係る甲5,6)には,「切り替え的に接続する」の意味について,「何れか一方を物理的に切り離す事ではなく,「切り替え的に接続」と言う抽象的,概念的技術思想を有し,両変速機が,密接不可分状態となって「変速機構」を構成し,且つ各々の機器の個性を失う事なく,駆動系に伝達して走行可能とするものと考え」るべきで,上記の「切り替え的に接続」は「構造上の切り替え」を意味しない旨の意見(甲5)や,「テレビとビデオ」を「コードで接続した機構」あるいは「テレビの中にビデオを内蔵させた機器」において,ビデオを見る場合でも,「テレビの機能の殆どを作動させて」おり,「その両方の機器が作動して」いるが,表現としては「ビデオに切り替えてビデオを見ると言います」との意見が記載されているが,仮に原告のこれらの意見が,選択されていないトランスミッションも変速機として作動している場合についても「切り替え的に接続」の要件を満たすとの趣旨であるならば,前記の諸点に照らして,相当でないというべきである。
(3) 被告装置との対比 そこで,被告装置が,構成要件Cを充足するか否かについて判断するに,前記当事者間に争いのない事実等に証拠(乙2の2,3の2,4の2ないし4,5の2及び3,6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告装置の構成は以下のとおりと認められ,これに反する証拠はない。
ア 被告自動車は,駆動輪を後輪又は四輪に切り替えることができるいわゆるパートタイム4WD車である。これに搭載された変速装置である被告装置の主要部分は,オートマチックトランスミッション部分と,トランスファー部分からなる。オートマチックトランスミッション部分は,動力の伝達及びトルクの変換を行うトルクコンバーター部分と,遊星歯車を電子制御で操作し,エンジンからの回転を前進4段,後進1段に変速するトランスミッション部分からなる。オートマチックトランスミッション部分の操作はシフトレバーの切替えによって行われ,ギアの変更は自動的に行われる。トランスファー部分は,遊星歯車を利用した副変速機と,後輪駆動と四輪駆動の切替えを行う分配機からなる。
イ 副変速機においては,トランスミッション部分で変速された動力をそのまま駆動輪に伝達するハイレンジモードと,さらに変速を行って回転数を下げることにより,特に大きな駆動力を生じさせるローレンジモードの切替えが行われる。
副変速機及び分配機の操作は,専用のシフトレバーとスイッチによって行われ,ハイレンジモードとローレンジモードの切替えは,手動で行われる。
ウ オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分は直列的に配置され,エンジンから生じる動力は,オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分の両者を介して後輪駆動輪に伝達され,いずれか一方のみを介して動力が伝達されることはない。また,ハイレンジモードを選択した場合,変速はトランスミッション部分のみで行われ,副変速機は,トランスミッション部分から伝達された動力を,そのまま分配機を介して駆動輪に伝えるにすぎないが,ローレンジモードを選択した場合,トランスミッション部分で変速された動力について,副変速機によりさらに変速を行う。
以上の認定事実に照らせば,被告装置を全体として見ると,副変速機の作用はオートマチックトランスミッションの変速比の拡大にあり,副変速機のみが作動して,オートマチックトランスミッション部分が作動しないという状態は存在しない。このことは,新型車解説書(乙4の3)のシフト及びロックアップパターンの表において,例えば,トランスファーシフトポジション(副変速機のシフトレバーの位置)が「L4」(ローレンジ)の場合であっても,1速から3速までのオートマチックトランスミッションによる走行がなされる旨の記載があることからも明らかである。そうすると,仮に,原告主張のとおり,副変速機が,運転者の手動によって操作されるという点でマニアルトランスミッション(構成要件B)に当たると解しても,被告装置において,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションの何れか一方を切替え的に接続しているとはいえないから,被告装置が構成要件Cを充足しないことは明らかである。
2 以上のとおり,被告装置は請求項1の構成要件Cを充足しないところ,本件各考案は,いずれも請求項1を前提とし,その構成要件を内包しているから,被告装置が本件各考案技術的範囲に属しないことも明らかである。
3 よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 舟橋恭子
裁判官 平山馨
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